JP4402282B2 - 可燃性ガスセンサ素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、可燃性ガスセンサ素子の製造方法に関し、更に詳しくは、被毒物質が吸着した場合でも安定した出力が得られる可燃性ガスセンサ素子の製造方法に関するものである。本発明で製造される可燃性ガスセンサ素子は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中の可燃性ガスの濃度測定用のセンサ等に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
近年、排気ガス規制の強化に伴い、リーンバーン(ディーゼル、ガソリン)エンジン排気ガス中の可燃性ガス成分を直接検知し、エンジンの制御や触媒能力の監視を行う試みが検討され、その為の各種センサが検討されている。
このような可燃性ガス成分を検知する技術としては、特表平8−510840号公報に、酸素イオン伝導体を用い、表面に形成した基準電極と検知電極間の起電力に基づいて可燃性ガス成分の濃度を検出するセンサが開示されている。このセンサにおいては、検知電極を構成する材料として金等の貴金属が用いられている。一般に貴金属は被毒物質の吸着によって触媒活性が劣化されやすく、例えば貴金属を用いた検知電極を備えるセンサを用いた場合、硫黄成分やリン成分を含むディーゼルエンジンの排気ガス中の可燃性ガス濃度を測定した場合は、これら被毒物質の吸着が原因で出力が大きく変動する。このように、被毒物質の影響を受けやすい検知電極において、安定した出力が得られる可燃性ガスセンサ素子が求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、被毒物質が吸着した場合でも安定した出力が得られる可燃性ガスセンサ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、被毒物質が吸着した場合でも安定した出力が得られる可燃性ガスセンサ素子の製造方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によって製造される可燃性ガスセンサ素子は、酸素イオン伝導性固体電解質体と、該固体電解質体の表面に形成される基準電極及び検知電極と、該検知電極の表面に形成される電極保護層と、を備える可燃性ガスセンサ素子において、該検知電極及び該電極保護層のうちの少なくとも該電極保護層に被毒物質を吸着させたことを特徴とする。
そして、本発明の可燃性ガスセンサ素子の製造方法は、酸素イオン伝導性固体電解質体の表面に基準電極及び検知電極を形成する工程(A)と、該検知電極の表面に電極保護層を形成する工程(B)と、該検知電極及び該電極保護層のうちの少なくとも該電極保護層に被毒物質を吸着させる工程(C)とを備えることを特徴とする。
【0005】
上記「酸素イオン伝導性固体電解質体」は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体であれば特に限定されず、各種の固体電解質体を用いることができる。この酸素イオン伝導性固体電解質体としては、ジルコニア系固体電解質体(イットリア安定化ジルコニア焼結体等)、BaCeO3系固体電解質体〔Ba(Ce,Gd)O3系焼結体等〕、LaGaO3系固体電解質体〔(La,Sr)(Ga,Mg)O3系焼結体等〕等を用いることができる。また、この酸素イオン伝導性固体電解質体の形状も特に限定されず、有底円筒型、板型(長方形型、円盤型等)、薄膜型等を適宜選択して用いることができる。
【0006】
上記「基準電極」は、被検知ガス中の測定目的成分ガスと接触した場合に検知電極よりも高い電位を示す電極である。基準電極を構成する成分は特に限定されず、例えば、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh等を用いることができる。これらのうち、耐食性の高いPt、Au、Agが好ましく用いられる。上記基準電極は、上記酸素イオン伝導性固体電解質体の表面に形成されていればよく、同一面上でも異なる面上(例えば表面と裏面、外面と内面等)でもよい。また、上記基準電極の厚さは、0.5〜3μmとすることができる。
【0007】
上記「検知電極」は、排気ガス等の被検知ガスと接触する電極である。上記検知電極を構成する成分は特に限定されず、例えば、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh等を用いることができる。これらのうち、耐食性の高いPt、Au、Agが好ましく用いられる。上記検知電極は、上記酸素イオン伝導性固体電解質体の表面に形成されていればよく、同一面上でも異なる面上(例えば表面と裏面、外面と内面等)でもよい。また、上記成分を含むものであれば、2層以上に積層形成された検知電極とすることもできる。上記検知電極の厚さは、好ましくは2〜50μm、より好ましくは5〜15μm、更に好ましくは8〜12μmである。2μm未満では上記酸素イオン伝導性固体電解質体との密着性が低下する傾向にあり、50μmを超えると被検知ガスが三相界面に達することが困難となり、感度が低下する傾向がありいずれも好ましくない。
【0008】
上記基準電極及び上記検知電極の形成方法としては特に限定されないが、メッキ、ペースト塗布、ペースト印刷等の方法が挙げられる。メッキによる方法では、電解メッキ、無電解メッキのいずれでもよく、ペースト塗布あるいはペースト印刷による方法では、例えば平均粒径が0.1〜22μm(好ましくは0.3〜1.5μm、より好ましくは0.4〜1μm)の貴金属粉末を含有するペーストを所定の位置に塗布し、温度1000〜1500℃(好ましくは1000〜1100℃)で焼成することにより得られる。これらの方法によって得られた電極は、緻密性の向上等の目的のために大気雰囲気において更に高温処理等を施してもよい。
【0009】
上記「電極保護層」は、上記酸素イオン伝導性固体電解質体の一部を覆い亀裂等の発生を防止すると同時に、検知電極を覆い外気等の環境から保護することができる。この電極保護層は、温度900℃において固体電解質体と比較して100倍以上の絶縁性を有することが好ましい。更に、94%以上の相対密度を有する程度の気密性を備えることが好ましい。上記電極保護層を構成する成分は特に限定されないが、一般式R2MO4(但し、R:Al,Fe、M:Mg,Fe,Zn,Mn)で表されるスピネルや、アルミナ等多孔質セラミックス等を用いることができる。これらのうちでスピネルMgAl2O4が好ましく用いられる。上記電極保護層の厚さは、好ましくは100〜300μm、より好ましくは160〜240μm、更に好ましくは180〜220μmである。100μm未満では電極保護層としての効果が小さくなり、300μmを超えると被検知ガスが三相界面に達することが困難となり、感度が低下する傾向がありいずれも好ましくない。
【0010】
上記電極保護層の形成方法としては特に限定されず、例えば、プラズマ溶射法や、絶縁性のペーストをスクリーン印刷等により印刷し、乾燥させた後、他の部材とともに一体に焼成する方法等によって形成することができる。このうち、プラズマ溶射法により形成することが好ましい。
【0011】
上記被毒物質としては、上記検知電極及び上記電極保護層のうちの少なくとも電極保護層に吸着させることができ、更に本発明の可燃性ガスセンサ素子を備えるガスセンサの出力を安定化させることができるものであれば特に限定されない。また、液体でも気体でもよい。上記被毒物質の例としては、硫酸、亜硫酸ガス等の無機系硫黄化合物、チオール、ジチオール、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、ヒドロポリスルフィド等の有機硫黄化合物や、リン酸、三酸化リン、五酸化リン等のリン化合物が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を混合して用いることもできる。但し、液体と気体を混合して用いることは好ましくない。
【0012】
本発明の可燃性ガスセンサ素子の製造方法において、上記検知電極及び上記電極保護層のうちの少なくとも上記電極保護層に上記被毒物質を吸着させる工程(C)において、上記被毒物質を吸着させる方法としては、上記被毒物質が液体の場合、特に限定されないが、上記電極保護層が形成された上記検知電極の部分を液体に浸漬させる方法、上記電極保護層表面から塗布する方法等がある。この場合、吸着させる温度や雰囲気も特に限定されないが、好ましくは低真空において行うことが好ましい。上記被毒物質の処理の後、乾燥工程によって、上記被毒物質を吸着させたものを得ることができる。また、上記被毒物質が気体の場合においても、吸着させる方法は特に限定されず、一定濃度の気体が充満する容器に静置する方法等がある。この場合、吸着させる温度、上記被毒物質の濃度も特に限定されない。
【0013】
上記被毒物質として、硫黄化合物である硫酸水溶液を用いる場合、硫酸水溶液の濃度は、好ましくは0.01〜0.5N、より好ましくは0.01〜0.25N、更に好ましくは0.1〜0.25Nとすることができる。硫酸水溶液の濃度が上記範囲にあれば、低濃度の可燃性ガスの出力が大きくなり、可燃性ガスセンサとしての性能が向上する。
【0014】
本発明の製造方法によって製造される可燃性ガスセンサ素子を用いたガスセンサによって検知することのできる被検知ガスは、使用する検知電極の材料種により異なるが、主に、炭化水素ガスである。この炭化水素としては、飽和炭化水素、二重結合あるいは三重結合を有する不飽和炭化水素等である。この不飽和炭化水素の例としては、(1)プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等のアルケン、(2)ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ベンゾピレン等のような芳香族系炭化水素、(3)ブタジエン等のジエン、(4)アセチレン、プロピン等のアルキン等が挙げられる。これらは直鎖のものでも分岐するものでもよい。また、被検知ガスは、他のガス成分、例えば、水素、一酸化炭素、更には、二酸化炭素、窒素、酸素、水蒸気、ヘリウム等を含んでもよい。上記被検知ガスを検知する濃度は、0〜4000ppm程度とすることができる。
【0015】
本発明の製造方法によって製造される可燃性ガスセンサ素子を用いたガスセンサは、例えば、上記酸素イオン伝導性固体電解質体と、上記基準電極及び上記検知電極の少なくとも一対の電極と、上記固体電解質体を加熱するヒーター素子等の加熱手段を備え、該検知電極が上記固体電解質体の表面に形成されたものとすることができ、上記固体電解質体の抵抗が一定となるように加熱手段を制御して、上記基準電極と上記検知電極との起電力を測定し可燃性ガス濃度と対応させるものである。また、ヒーター素子等の加熱手段を用いた場合、使用温度を好ましくは350〜750℃(より好ましくは450〜650℃、更に好ましくは500〜600℃)とすることでより良好な出力を得ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
製造例(可燃性ガスセンサー素子の製造)
4.5モル%のY2O3を含有するイットリア安定化ジルコニア(以下、単にYSZ)の粉末をゴム型に充填し、有底円筒型に加圧成形し、得られた成形体の外表面に検知電極リード線となるペーストを用いて厚さが10μmとなるように印刷し、これを1460℃、1時間焼成して、検知電極リード線が配設された有底円筒型の固体電解質体を得た。次いで、この固体電解質体の内表面に基準電極として、厚さが1μmとなるように白金メッキを施した。
その後、固体電解質体の上記検知電極リード線が配設されている外表面に、円筒内のヒーター発熱部に対応する位置に、有機金化合物ペースト(商品名;「METALLO-ORGANIC GOLD PASTE A-4615)」、エヌ・イー・ケムキャット社製)を厚さが1μmとなるように塗布して大気中880℃で10分間焼成して第1電極層を形成した。次いで、この第1電極層の上に、ジルコニアがコーティングされた金粉末(金粉末全体の0.17質量%がジルコニア)のぺ一ストを塗布し1000℃で5時間加熱処理を施し第2電極層を形成し、検知電極とした。その後、この検知電極の表面にスピネルMgAl2O4をプラズマ溶射して電極保護層を形成して、図1に示すような可燃性ガスセンサ素子1を製造した。
【0017】
図1において、可燃性ガスセンサ素子1は、有底円筒型の固体電解質体2の外表面に形成された第1電極層3a及び第1電極層3aの上に形成された第2電極層3bからなる検知電極3と、更に検知電極表面上に形成された電極保護層4と、固体電解質体2の内表面に形成された基準電極5とを備える。
【0018】
実施例1(可燃性ガスセンサの評価)
上記可燃性ガスセンサ素子の外側電極部(検知電極及び電極保護層)を0.1N硫酸水溶液中に浸漬させ、そのままの状態で20℃で10分間真空(1×10-3Torr)中で保持し、大気中に取り出した後、乾燥させた。この可燃性ガスセンサ素子にヒーターの温度を制御するコントローラーと、基準電極及び検知電極との起電力を測定するためのエレクトロメーターとを配設して可燃性ガスセンサを作製し、下記の試験に供した。
可燃性ガスセンサを600℃に加熱及び保持し、酸素ガス7%、炭酸ガス10%、水蒸気10%、及びバランスガスとして窒素ガスからなるベースガスに濃度を0,100,300,500ppmCとしたプロペンガスを加えたモデルガスを温度300℃、流量15L/分で流し、検知して、その出力(mV)を調べた。これを5回連続して測定した。その平均値を表1に示した。
次に、ディーゼルエンジンを100時間作動させ、この可燃性ガスセンサを排気ガスに曝した後、上記と同様にモデルガスを流し、検知して、その出力測定を5回行った。その平均値を表1に示した。また、図2に濃度既知のモデルガスに対する出力を示した。
【0019】
【表1】
【0020】
比較例1
上記可燃性ガスセンサ素子の外側電極部に何も処理しなかった以外は、実施例1と同様にして測定した。出力の平均値を表1に示し、図3に濃度既知のモデルガスに対する出力を示した。
【0021】
実施例2(可燃性ガスセンサの初期安定性試験)
実施例1で製造した可燃性ガスセンサの初期安定性の経時変化を見るために、製造してから2、3及び4日目におけるモデルガスの出力を上記と同様にして5回測定した。その平均値を表2に示した。また、図4に濃度既知のモデルガスに対する出力を示した。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例3(硫酸水溶液の濃度による影響を調べる試験)
製造例で製造した可燃性ガスセンサ素子の外側電極部を硫酸水溶液中に浸漬する際に、硫酸水溶液の濃度を0.01,0.05,0.1(実施例1),0.25,0.5,1Nとした以外は実施例1と同様にしてモデルガスを3回測定した。プロペン濃度が500ppmCのときの出力の平均値Aと、図3における未処理の場合のプロペン濃度が500ppmCのときの出力の平均値Bとの比A/Bを感度比として図5に示す。
【0024】
3.実施例の効果
表1から、比較例1では、ディーゼルエンジンの排気ガスに曝すことにより、プロペン濃度が100ppmCのとき、34mVであった出力が64mVと約2倍に変動した。300及び500ppmCでは図3に示すように、約30mV高い出力を示した。一方、実施例1では、図2に示すように、ディーゼルエンジンの排気ガスに100時間曝しても、大きな変動がなく、耐久性のあることが分かった。
次に、実施例2の初期安定性試験において、図4に示すように、可燃性ガスセンサを製造後、放置しておいても、劣化等による出力変動は見られなかった。
また、実施例3の被毒物質として用いた硫酸の濃度の影響を調べる試験において、図5に示すように、被毒物質を用いない未処理のものに比べて、硫酸水溶液濃度が1N未満であれば高い感度が得られることが分かった。
【0025】
尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の実施例とすることができる。例えば、電極保護層を二層構成とし、下層のみに被毒物質を吸着させたものとしてもよいし、あるいは上層のみに被毒物質を吸着させたものとしてもよい。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、可燃性ガスセンサ素子の検知電極及び電極保護層のうちの少なくとも電極保護層に被毒物質が吸着していることにより、検知する可燃性ガスに含まれる硫黄成分やリン成分等の被毒物質の影響を受けることなく検知ガスの安定した出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた可燃性ガスセンサ素子の説明断面図である。
【図2】実施例1で得られた可燃性ガスセンサ素子の耐久性を示すグラフである。
【図3】比較例1で得られた未処理の可燃性ガスセンサ素子の出力変動を示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた可燃性ガスセンサ素子の初期安定性を示すグラフである。
【図5】実施例3で得られた可燃性ガスセンサ素子の硫酸水溶液濃度による感度変化の影響を示すグラフである。
【符号の説明】
1;可燃性ガスセンサ素子、2;固体電解質体、3;検知電極、3a;第1電極層、3b;第2電極層、4;電極保護層、5;基準電極。
Claims (3)
- 酸素イオン伝導性固体電解質体の表面に基準電極及び検知電極を形成する工程(A)と、該検知電極の表面に電極保護層を形成する工程(B)と、該検知電極及び該電極保護層のうちの少なくとも該電極保護層に被毒物質を吸着させる工程(C)とを備えることを特徴とする可燃性ガスセンサ素子の製造方法。
- 上記工程(C)において、被毒物質が硫黄化合物である請求項1記載の可燃性ガスセンサ素子の製造方法。
- 上記工程(C)が、上記検知電極及び上記電極保護層のうちの少なくとも該電極保護層を硫酸水溶液に浸漬した後、乾燥する工程である請求項1又は2に記載の可燃性ガスセンサ素子の製造方法。
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