JP4401498B2 - 結晶性アルミノケイ酸塩及び炭化水素油の流動接触分解触媒 - Google Patents

結晶性アルミノケイ酸塩及び炭化水素油の流動接触分解触媒 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の単位格子寸法と29Si−MASNMRスペクトルにおいて特徴的なピークを示す結晶性アルミノケイ酸塩と、これを用いた炭化水素油の流動接触分解触媒に関する。
【0002】
【技術背景】
一般に、石油精製においてオクタン価の高い接触分解ガソリンや灯・軽油に相当するLCO留分を収率よく製造することは重要な課題であり、そのために、原油の常圧蒸留あるいは減圧蒸留で得られる軽油留分や常圧蒸留残油及び減圧蒸留残油を、XもしくはYゼオライトあるいはUSYゼオライト(超安定Yゼオライト)のような安定化ゼオライトを主たる活性成分とし、これと無機酸化物マトリックス成分とを混合して得られる触媒を用いて接触分解する方法が採用されている。
【0003】
上記を目的とした触媒については、既に多くの技術が提案されており、例えば安定化Yゼオライトに関しては、米国特許第3,293,192号、第3,402,996号に開示されている。
しかし、安定化Yゼオライトを含有する触媒を用いて炭化水素油の接触分解を行う場合、LCO留分の収率が低くなる。
この問題を解決するために、マトリックスにシリカ−アルミナ、γ−アルミナ等を使用することでマトリックスにも活性を持たせる技術も提案されているが、この方法では、好ましくない生成物である水素及びコークの生成量が増加する。
【0004】
【発明の目的】
本発明は、水素及びコークの生成量を抑制しつつ、灯・軽油に相当するLCO留分の収率を向上し得る流動接触分解触媒と、この触媒を製造するのに適した結晶性アルミノケイ酸塩を提供することを目的とする。
【0005】
【発明の概要】
上記目的を達成するために、本発明の結晶性アルミノケイ酸塩は、実質的にケイ素、アルミニウム、アルカリ金属、酸素、水素で構成される結晶性アルミノケイ酸塩であって、
(A)Yゼオライトの主要なX線回折パターンを有し、
(B)単位格子寸法が24.55Å以下、
(C)アルカリ金属含有量が酸化物換算で0.1〜5.0質量%、
(D)29Si−MASNMRスペクトルにおいて、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークのガウス関数解析での面積比が10%以上
であることを特徴とする。
また、本発明の炭化水素油の流動接触分解触媒は、この結晶性アルミノケイ酸塩と無機マトリックスとの混合物を含んでなることを特徴とし、この触媒は、希土類金属、アルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種を、この触媒基準で、酸化物として0.01〜10質量%含有してなることが好ましい。
【0006】
本発明の結晶性アルミノケイ酸塩は、上記の特性を有し、(A)のYゼオライトの主要なX線回折パターンは、代表例として表1のような値を有する。すなわち、最も強い強度が実測された格子面間隔(d)は14.1±0.2Å、5.61±0.1Å、3.72±0.1Åである。
【0007】
【表1】
Figure 0004401498
【0008】
(B)の単位格子寸法は約24.55Å以下であり、好ましくは約24.50〜24.35Åである。
単位格子寸法の測定は、ASTM D−3942/85に準拠して行い、X線回折のピークを用いて計算することができる。
この値が大きすぎると、結晶性アルミノケイ酸塩の水熱安定性が低くなり、炭化水素油の流動接触分解触媒に使用した場合に、分解活性の低下を招く。
【0009】
(C)のアルカリ金属含有量は酸化物換算で約0.1〜5.0質量%、好ましくは約0.1〜3.0質量%あるいは約0.2〜5.0質量%、より好ましくは約0.2〜3.0質量%である。
アルカリ金属含有量が多すぎると、炭化水素油の流動接触分解触媒に使用した場合に、分解活性が低下するばかりか、原料油、特に重質原料油中に多量に含まれるニッケル、バナジウム等の付着による活性劣化を引き起こし易くなる。
逆に、アルカリ金属の含有量が少なすぎると、結晶性アルミノケイ酸塩の水熱安定性が低下するため、炭化水素油の流動接触分解触媒に使用した場合に、活性劣化を引き起こし易くなる。
これは、アルカリ金属が一定量存在すると、熱処理の際に脱アルミが進み難くなり、安定したゼオライトが得られることにあると推測される。
【0010】
(D)の29Si−MAS(Magic Angle Spinning)NMRスペクトルにおける全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比(以下、単に「ピーク面積比」あるいは「面積比」と記すこともある)は、ガウス関数解析で10%以上である。
このピーク面積比が10%未満の結晶性アルミノケイ酸塩を炭化水素油の流動接触分解触媒に用いると、好ましい生成物であるガソリン及びLCO留分の収率が低下する。詳細な理由は明らかではないが、結晶性アルミノケイ酸塩中のAlの分布と、これに伴う酸点の分布が不適当になり、所望の活性及び選択性が得られなくなるためと考えられる。
【0011】
本発明の結晶性アルミノケイ酸塩に代表されるYゼオライトは、29Si−MASNMRスペクトルにおいて、一般には次の4つのピークを示す。
(1)Si(0Al):酸素を介してAlと全く結合していないSiのピーク・・・・約−107ppm
(2)Si(1Al):酸素を介して1個のAlと結合しているSiのピーク・・・・約−102ppm
(3)Si(2Al):酸素を介して2個のAlと結合しているSiのピーク・・・・約−95ppm
(4)Si(3Al):酸素を介して3個のAlと結合しているSiのピーク・・・・約−90ppm
【0012】
本発明におけるピーク面積比は、次のようにして求めることができる。
先ず、29Si−MASNMRスペクトルのベースラインを補正する。
次いで、各ピークを、4個のガウス関数に分離する。このとき、4個のガウス関数の総和が元スペクトルにできるだけ近くなるように、関数の値を変化させる。変化させる方法は、非線形最小2乗法に基づく。
この分離で得られる4個のガウス関数の各々の面積強度を計算する。ガウス関数の面積強度は、関数の半値幅とピーク高さより、下記の式で求めることができる。
S=(wI/2)・(π/log2)1/2
S:面積強度
w:半値幅
I:ピーク高さ
この計算で得られるSi(2Al)ピークの面積強度と、4個のピークの面積強度の総和との比率を計算することで、ピーク面積比を求められる。
【0013】
また、本発明の結晶性アルミノケイ酸塩は、化学組成分析によるバルクのSiO/Alモル比が約5〜15、好ましくは5〜12が適している。
本発明の結晶性アルミノケイ酸塩は、Yゼオライトあるいは安定化Yゼオライトの公知の方法により製造することができる。例えば、(1)適当なシリカ源及びアルミナ源から直接水熱合成してYゼオライトあるいは安定化Yゼオライトを製造する方法、(2)Yゼオライトを化学薬品で処理して安定化Yゼオライトを製造する方法、(3)Yゼオライトを水蒸気で処理して安定化Yゼオライトを製造する方法、(4)Yゼオライトを高温で処理して安定化Yゼオライトを製造する方法、(5)上記(1)〜(4)の方法で製造したYゼオライトあるいは安定化Yゼオライトに更に上記(2)〜(4)のいずれか1種類以上の処理を施す方法等を挙げることができる。
本発明の結晶性アルミノケイ酸塩は、(3)の方法で製造した安定化Yゼオライトに(2)の化学薬品処理を施し、更に(4)の高温処理を施して製造することが好ましく、(2)の化学薬品処理はアルカリ水溶液を用いることがより好ましい。
【0014】
本発明の炭化水素油の流動接触分解触媒は、以上の結晶性アルミノケイ酸塩と無機酸化物マトリックスとの混合物を含むものである。
無機酸化物マトリックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、ボリア、マグネシア、ジルコニア、チタニア、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、チタニア−アルミナ、チタニア−シリカ、チタニア−ジルコニア、アルミナ−ジルコニア等、これらの混合物、あるいはモンモリロナイト、カオリン、ハロイサイト、ベントナイト、アタバルガイト、ボーキサイト等の少なくとも1種の粘土鉱物が挙げられる。
【0015】
本発明の炭化水素油の流動接触分解触媒は、通常の方法で製造することができ、基本的には、適当な無機酸化物マトリックス、例えばシリカ−アルミナヒドロゲル、シリカゾル、アルミナゾル等の水性スラリーを用い、それに結晶性アルミノケイ酸塩を加え、よく混合攪拌した後、噴霧乾燥し、触媒微粒子として得ることができる。
この場合、流動接触分解触媒中の結晶性アルミノケイ酸塩が5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%、無機酸化物マトリックスが約40〜95質量%、好ましくは50〜90質量%の割合になるようにする。結晶性アルミノケイ酸塩が少なすぎると、炭化水素油の流動接触分解触媒としての所望の分解活性を得ることができず、多すぎると、触媒の強度が低下し、触媒の破壊、飛散、生成物中への混入等、装置運転に支障をきたす。
【0016】
また、本発明の触媒は、希土類金属、アルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種類を、触媒基準で、酸化物として0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜7質量%含むものが好適である。
希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム等が使用され、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等が使用され、これらは単独あるいは混合物で使用される。
これら希土類金属、アルカリ土類金属の含有量が少なすぎると、好ましくない生成物である水素及びコークの発生量が増加する。多すぎても、水素及びコークの発生量はそれほど抑制されないばかりか、却って生成するガソリンのオクタン価が低下する。
【0017】
希土類金属、アルカリ土類金属の触媒への含有形態としては、結晶性アルミノケイ酸塩をこれらの金属でイオン交換したものであってもよいし、あるいは結晶性アルミノケイ酸塩にこれらの金属を担持したもの、結晶性アルミノ珪酸塩と無機マトリックスとの混合物を有する触媒をこれらの金属でイオン交換したもの、この触媒にこれらの金属を担持したものであってもよい。好ましくは、結晶性アルミノ珪酸塩と無機酸化物の混合物を有する触媒を、上記の金属でイオン交換したものである。
【0018】
本発明の結晶性アルミノケイ酸塩又は触媒に、これらの金属をイオン交換あるいは担持するには、従来公知の方法で行えばよい。例えば、希土類金属、アルカリ土類金属の塩の1種以上を含有する水溶液を、乾燥状態にある結晶性アルミノケイ酸塩又は触媒に含浸するか、あるいはこれらの水溶液中に結晶性アルミノケイ酸塩又は触媒を浸漬し、必要に応じて加熱すればよい。
【0019】
本発明の触媒を使用した炭化水素油の接触分解は、公知の接触分解法により行うことができる。
商業規模での接触分解は、通常、クラッキング反応器と触媒再生器からなる接触分解装置に触媒を循環させる。再生器からでてくる加熱された再生触媒は、分解される炭化水素油と混合されてクラッキング反応器中を上向の方向に導かれながら、炭化水素油を分解する。その結果、一般に「コーク」と呼ばれる炭素質が触媒上に析出することにより失活した触媒は、分解生成物から分離され、ストリッピング後再生器に移される。再生器に移された失活した触媒は、表面に析出したコークが空気で燃焼されて再生され、再び反応器に循環される。一方、分解生成物は、ドライガス、LPG留分、ガソリン留分、及び例えば軽質サイクル油(LCO)、重質サイクル油(HCO)、及びスラリー油のような1種又は2種以上の重質留分に分離される。もちろん、これらの重質留分を反応器に再循環させて分解反応をより進めることもできる。
【0020】
運転条件は、圧力が常圧〜5kg/cm、好ましくは常圧〜3kg/cm、反応温度が400℃〜600℃、好ましくは450℃〜550℃、触媒/炭化水素油の重量比が2〜20、好ましくは5〜15である。
【0021】
【実施例】
実施例1
(結晶性アルミノケイ酸塩の調製)
SiO/Alモル比が4.6、アルカリ金属(ナトリウム及びカリウム)含有量が酸化物換算で5.9質量%、単位格子寸法が24.61Åの安定化Yゼオライトを、10倍量の0.25mol/lのKOH水溶液(pH=12.2)中、60℃で1時間処理した後、温水洗浄し、次いで10倍量の5mass%の(NHSO水溶液で、60℃で15分間、2回洗浄した。これを電気炉で空気雰囲気、常圧下、800℃で10分間焼成して結晶性アルミノケイ酸塩Z−1を得た。
結晶性アルミノケイ酸塩Z−1をXRD測定により分析したところ、図1中符号aで示すYゼオライトの主要なX線回折パターンを示した。単位格子寸法は24.49Åであり、アルカリ金属(ナトリウム及びカリウム)含有量は酸化物換算で2.0質量%であり、SiO/Alモル比は5.3であった。
【0022】
29Si−MASNMRの測定)
結晶性アルミノケイ酸塩Z−1を29Si−MASNMRにより分析した。分析は、3.5kHzのMAS状態で、NMRスペクトルを測定し、結果を図2に示す。
また、スペクトルのガウス関数解析を行ったところ、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比は、13.6%であった。
【0023】
上記の分析装置にはCMX−400(日本電子社製)を用い、試料をジルコニアローターに充填し、常温で29Si−MASNMRを測定した。測定条件は、共鳴周波数79.49MHz、π/2パルス、積算回数200、MAS速度3.5kHzであり、繰り返し時間はシングルパルス法で5sとした。なお、Si化学シフトの二次基準には(CHSi(CHSONa(DDS)を用い、そのピーク位置を(CHSi(TMS)より1.5ppmとした。
【0024】
(触媒Aの調製)
結晶性アルミノケイ酸塩Z−1を触媒中の含有量が32質量%になるように、またカオリンを触媒中の含有量が48重量%になるように、それぞれシリカゾルに加え、この混合スラリーをよく攪拌した後、スプレードライヤーで噴霧乾燥し、微粒化した。
得られた微粒子を60℃に加熱した15倍量の5mass%の(NHSO水溶液で15分間、2回洗浄し、次いで10倍量の0.1N硝酸ランタン水溶液中に、60℃で15分間浸漬してイオン交換し、濾過、水洗、乾燥して触媒微粒子Aを得た。
触媒Aのランタン含有量は、触媒A基準で酸化物換算で2.0質量%であった。
【0025】
比較例1
Z−1の代わりに、その製造の原料として用いた安定化Yゼオライトを用いる以外は、実施例1と同様の方法で触媒微粒子Bを得た。
この安定化YゼオライトをXRD測定により分析したところ、図1中符号bで示すYゼオライトの主要なX線回折パターンを示し、単位格子寸法が24.61Åであった。
また、この安定化Yゼオライトにつき、実施例1と同様の条件で29Si−MASNMR測定を行った結果、図3に示すスペクトルが得られた。スペクトルのガウス関数解析を行ったところ、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比は、21.8%であった。
触媒Bのランタン含有量は、触媒B基準で酸化物換算で2.2質量%であった。
【0026】
比較例2
Z−1の代わりに、SiO/Alモル比が6.9、アルカリ金属(ナトリウム及びカリウム)含有量が酸化物換算で1.3質量%、単位格子寸法が24.59Åの安定化Yゼオライトを用いる以外は、実施例1と同様の方法で触媒微粒子Cを得た。
この安定化YゼオライトをXRD測定により分析したところ、図1中符号cで示すYゼオライトの主要なX線回折パターンを示し、単位格子寸法が24.59Åであった。
また、実施例1と同様の条件で29Si−MASNMR測定を行った結果、図4に示すスペクトルが得られた。スペクトルのガウス関数解析を行ったところ、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比は13.5%であった。
触媒Cのランタン含有量は、触媒C基準で酸化物換算で2.2質量%であった。
【0027】
比較例3
Z−1の代わりに、比較例2で用いた安定化Yゼオライトを電気炉で空気雰囲気、常圧下、800℃で10分間焼成して得た結晶性アルミノケイ酸塩Z−2(アルカリ金属《ナトリウム及びカリウム》含有量が酸化物換算で1.1質量%)を用いる以外は、実施例1と同様の方法で触媒微粒子Dを得た。
Z−2をXRD測定により分析したところ、図1中符号dで示すYゼオライトの主要なX線回折パターンを示し、単位格子寸法が24.45Åであった。
実施例1と同様の条件で29Si−MASNMR測定を行った結果、図5に示すスペクトルが得られた。スペクトルのガウス関数解析を行ったところ、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比は0.0%であった。
触媒Dのランタン含有量は、触媒D基準で酸化物換算で1.9質量%であった。
【0028】
実施例2、比較例4〜6
(マイクロ活性試験)
ASTM基準の固定床のマイクロ活性試験(Micro Activity Test)装置を使用して、同一炭化水素油、同一反応条件で触媒A、B、C、Dの接触分解特性を試験した。
試験に先立ち、各供試触媒は、模擬平衡化のため、Ni及びVをそれぞれ1000及び2000質量ppm担持した後、800℃で6時間、100%スチーム雰囲気下で処理した。
分解対象の炭化水素油としては減圧蒸留軽油を用い、試験条件は下記の通りとした。なお、マイクロ活性試験は固定床の試験装置で行うものであり、好ましい条件は本文中に記載した商業規模での接触分解とは必ずしも一致しない。
【0029】
試験条件:反応温度;500℃
触媒/炭化水素油質量比;2.3、3.0、3.8
試験時間;75秒
【0030】
得られた結果を、転化率60%を基準にして比較した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
Figure 0004401498
【0032】
表2から明らかなように、触媒Aは、触媒B、C、Dに比べて、ガソリンや灯・軽油に相当するLCOの収率が高く、重質留分(HCO)の収率が低く、しかも水素及びコークの収率も増加しておらず、分解反応で得られたガソリンのオクタン価(RON)も低下していない。
すなわち、本発明の結晶性アルミノケイ酸塩を含有する流動接触分解触媒を使用して炭化水素油の接触分解を行うと、水素及びコーク生成量を抑制し、しかも灯・軽油に相当するLCO収率が高いという良好な性能を示すことが判る。
【0033】
比較例7
実施例1で得た結晶性アルミノケイ酸塩Z−1を、さらに10倍量の5mass%の(NHSO水溶液で、60℃で15分間、2回洗浄して結晶性アルミノケイ酸塩Z−3を得た。
Z−3を用いる以外は、実施例1と同様の方法で触媒微粒子Eを得た。
Z−3をXRD測定により分析したところ、Yゼオライトの主要なX線回折パターンを示し、単位格子寸法が24.50Åであった。
Z−3のアルカリ金属含有量は酸化物換算で0.09質量%であり、Z−3について実施例1と同様の条件で29Si−MASNMR測定を行った結果、図6に示すようなスペクトルが得られた。スペクトルのガウス関数解析を行ったところ、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比は、10.7%であった。
触媒Eのランタン含有量は、触媒E基準で酸化物換算で1.8質量%であった。
【0034】
比較例8
実施例1で得た結晶性アルミノケイ酸塩Z−1を、さらに10倍量の5massのNaSO水溶液で、60℃で1時間処理して結晶性アルミノケイ酸塩Z−4を得た。
Z−4を用いる以外は、実施例1と同様の方法で触媒微粒子Fを得た。
Z−4をXRD測定により分析したところ、Yゼオライトの主要なX線回折パターンを示し、単位格子寸法が24.48Åであった。
Z−4のアルカリ金属含有量は酸化物換算で5.9質量%であり、Z−4について実施例1と同様の条件で29Si−MASNMR測定を行った結果、図7に示すようなスペクトルが得られた。スペクトルのガウス関数解析を行ったところ、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークの面積比は、10.6%であった。
触媒Fのランタン含有量は、触媒F基準で酸化物換算で1.8質量%であった。
【0035】
実施例3、比較例9〜10
(マイクロ活性試験)
実施例2、比較例4〜6と同じマイクロ活性試験装置を使用して、同一炭化水素油、同一反応条件で触媒A、E、Fの接触分解における水熱安定性及び耐メタル性を評価した。
水熱安定性及び耐メタル性の評価は、各供試触媒を模擬平衡化処理するときの条件を変えて行った。
標準条件は、スチーム処理条件を100%スチーム雰囲気下800℃で6時間とし、Ni及びV担持量を各々1000質量ppm及び2000質量ppmとした。水熱安定性評価試験は、この標準条件において、スチーム処理温度のみを750℃にして行い、耐メタル性評価試験は、この標準条件において、Ni担持量及びV担持量のみを各々0質量ppm及び0質量ppmとして行った。
分解対象の炭化水素油としては減圧蒸留軽油を用い、試験条件は下記の通りとした。
【0036】
試験条件:反応温度:500℃
触媒/炭化水素油重量比:3.0
試験時間:75秒
【0037】
得られた結果から、模擬平衡化処理条件の変化による転化率及び各留分の収率の変化を比較した。
結果を表3及び図8に示す。
【0038】
【表3の1】
Figure 0004401498
【0039】
【表3の2】
Figure 0004401498
【0040】
【表3の3】
Figure 0004401498
【0041】
表3から明らかなように、触媒Aは、触媒E、Fに比べて、標準条件での転化率が高く、無用なHCO留分の収率が低い。また、図8から明らかなように、触媒Aは、触媒E、Fと比較すると、スチーム処理温度が高くなったり、Ni,Vの被毒を受けたりしても、転化率が低下し難い。
すなわち、本発明の結晶性アルミノケイ酸塩を含有する流動接触分解触媒は、スチーム処理温度が過酷になったり、NiやVの被毒を受けたりしても、転化率が低下し難いため、標準的な条件で模擬平衡化処理をした後の転化率が高いという良好な性能を示すことが判る。
【0042】
【発明の効果】
本発明の結晶性アルミノケイ酸塩を含有する流動接触分解触媒を用いて炭化水素油の接触分解を行うことにより、好ましくない水素及びコークの生成量を抑制しつつ、灯・軽油に相当するLCO留分を高い収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1及び比較例3における結晶性アルミノケイ酸塩と、比較例1及び2における安定化Yゼオライトの銅K−α線でのX線回折パターンである。
【図2】本発明の実施例1における結晶性アルミノケイ酸塩の29Si−MASNMRスペクトルである。
【図3】比較例1における結晶性アルミノケイ酸塩の29Si−MASNMRスペクトルである。
【図4】比較例2における結晶性アルミノケイ酸塩の29Si−MASNMRスペクトルである。
【図5】比較例3における結晶性アルミノケイ酸塩の29Si−MASNMRスペクトルである。
【図6】比較例7における結晶性アルミノケイ酸塩の29Si−MASNMRスペクトルである。
【図7】比較例8における結晶性アルミノケイ酸塩の29Si−MASNMRスペクトルである。
【図8】実施例3、比較例9〜10で得られた結果を示す図で、模擬平衡化処理条件の変化による転化率及び各留分の収率の変化を比較して示している。

Claims (3)

  1. 実質的にケイ素、アルミニウム、アルカリ金属、酸素、水素で構成される結晶性アルミノケイ酸塩であって、(A)Yゼオライトの主要なX線回折パターンを有し、(B)単位格子寸法が24.55Å以下、(C)アルカリ金属含有量が酸化物換算で0.1〜5.0質量%、(D)29Si−MASNMRスペクトルにおいて、全ピーク面積の合計に対するSi(2Al)ピークのガウス関数解析での面積比が10%以上、であることを特徴とする結晶性アルミノケイ酸塩。
  2. 請求項1記載の結晶性アルミノケイ酸塩と無機マトリックスとの混合物を含んでなることを特徴とする炭化水素油の流動接触分解触媒。
  3. 希土類金属、アルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種を、酸化物として0.01〜10質量%含有してなることを特徴とする請求項2記載の流動接触分解触媒。
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