本発明は、管材の液圧バルジ加工又はハイドロフォーミングと呼ばれる塑性加工方法に関するものである。
管素材の長手方向の中間部を張出し変形させて中空部材を製造する方法として、従来から液圧バルジ加工又はチューブ・ハイドロフォーミングと呼ばれる塑性加工法が知られている。ここで、図10は、従来の前記塑性加工法で使用する金型(一片)の斜視図であり、図11は、従来の前記塑性加工法を示す説明図であり、図12は、成形後の中空部材を示す斜視図である。
この従来方法では、例えば、図10に示すような成形金型10が使用される。この成形金型10は、一般に2分割されており(図ではその一片のみを示している)、成形金型10の付き合わされる表面には、成形したい中空部材の外形をなしたキャビティ11が形成されている。このキャビティ11に、図11に示す管素材12をセットし、液圧供給口13を備えた一対の軸押しシリンダ14,14をそれらの端面が管素材12の両端部に接触するように成形金型10の内部にセットする。その後、成形金型10を図示しない他方の成形金型と組み合わせて閉じ、管素材12の内部に液体圧をくわえ、また、管素材12の両端部を軸押しシリンダ14で軸押しすることにより、管素材12を成形金型10のキャビティ11の形状に沿った張出部15a,15aを備える中空部材15に塑性加工することができる。
このチューブ・ハイドロフォーミングによって管素材12から中空部材15を成形加工する際には、成形品である中空部材15が期待されている機能を果たすべく外観を有するように管素材12を変形させる必要がある。そのため、チューブ・ハイドロフォーミングに関する従来の発明の多くは、成形加工中の管素材12に生じる破裂や座屈を防ぐ手段を提供することを目的としている。
ハイドロフォーミングでは、管素材12が所用の張出し形状に変形する前に破裂すると加工の目的を達成できない。また、管素材12を大きく張出し変形させる目的で行われる管素材12の端面からの軸押しが、管素材12を座屈させて管壁を折り曲げるように働くと、成形品の中空部材の外観は、成形金型10のキャビティ11の形状に沿った形状にはならない。そこで、管素材12への液圧と軸押しの加え方に関する発明が既になされており、例えば、特開2000−24362号公報(特許文献1参照)には、軸押し量の増加分に対する液体圧の増加分を、軸押しの初期には低く、中期には高く、終期には再び低く変化させることで所用の効果が得られることが記載されている。
またハイドロフォーミングにおける成形パラメーターには液体圧と軸押しの他に、被加工材の材料特性、成形温度、金型と被加工材の間に生じる摩擦などもある。摩擦に関わる発明には、例えば、特開2002−301521号公報(特許文献2)や特開2001−150049号公報(特許文献3)があり、成形金型に潤滑性及び耐摩耗性を有する材料により潤滑剤層を形成すること(特許文献2参照)、潤滑液体の供給孔を成形金型に付与すること(特許文献3参照)が記載されている。
特許文献2に記載の発明は、管素材の表面に潤滑剤層を形成する従来技術の問題点を解決するものである。管素材の表面に予め潤滑剤層を形成してハイドロフォーミングを行う場合、数多くの管素材の表面に潤滑剤層を形成する必要があるが、成形金型の表面に潤滑剤層を形成すれば成形金型一式への作業で済むため、作業工程を削減することができ、成形品を安価に作製できるとして、当該発明の効果が記載されている。また、成形金型の長寿命化についても記載されている。潤滑剤層は、成形金型のキャビティ全面に形成することが実施の形態に記載されている。したがって、特許文献2に記載の発明には、後述する特許文献3に記載された発明のような摩擦分布を積極的に発生させる仕組みは記載されていない。
特許文献3に記載の発明は、成形金型のキャビティに潤滑液体の供給孔を設けて、該供給孔から部位によって異なる摩擦分布を発生させるように潤滑液体を供給することを特徴としている。したがって、特許文献3に記載の発明には、潤滑液体供給機構が必須であり、管素材の成形加工中に潤滑液体供給機構を必ず作動させなければならないことが予想され、管素材の成形加工中に潤滑液体供給機構を作動させない場合又は作動できない場合には、潤滑液体の供給孔に管素材がめり込み、所用の中空部材を成形できなくなってしまうおそれがある。
特開2000−24362号公報
特開2002−301521号公報
特開2001−150049号公報
本発明の課題は、成形金型のキャビティと管素材との間に働く摩擦力を制御可能とすることであり、これによって所用の形状・肉厚分布を有する中空部材を成形可能とすることである。
本発明では、成形金型のキャビティと管素材との間に働く摩擦力を、キャビティ若しくは管素材の表面に被膜を形成すること、又はキャビティと管素材との間に薄膜を挟むことによって制御し、課題を解決する。
本発明のハイドロフォーミング加工方法は、成形金型のキャビティ内に管素材を配置し、該管素材の内面に液体圧をかけながら該管素材の端面を軸押しして中空部材を成形するハイドロフォーミング加工方法であって、前記キャビティと前記管素材との間に所定の摩擦分布を発生させる型抜き薄膜を部分選択的に該管素材表面に貼付し又は巻いて、前記ハイドロフォーミング加工を施すことを特徴とする。
本発明のハイドロフォーミング加工方法において、前記型抜き薄膜を貼付し又は巻いて行うハイドロフォーミング加工を繰り返し行った後、その結果に基づいて、前記キャビティと前記管素材との間に所定の摩擦分布を発生させる被膜を部分選択的に該キャビティ表面に形成し、その後、該被膜を形成してなる成形金型を用いて管素材をハイドロフォーミング加工する。
本発明のハイドロフォーミング加工方法において、前記被膜は、前記管素材との摩擦係数が異なる複数の被膜により構成されている。
また、本発明のハイドロフォーミング加工方法によれば、成形加工中に管素材と接触し、所定の摩擦分布で管素材の材料流れを制御することが可能なため、管素材から成形される中空部材に求められる成形形状を満足させることのみならず、中空部材の肉厚分布を制御することができ、管素材に加える液体圧と軸押しを工夫することのみでは成形することのできない形状の中空部材を成形することができるという効果を奏する。ここで、事前に薄膜を挟んでハイドロフォーミング加工方法を行う場合、薄膜の型抜きは、被膜の形成に比べて容易であるため、成形金型のキャビティにおける被膜形成部位を決定する際に、試行錯誤的に型抜き形状の異なる薄膜を管素材に貼付して成形を行うことで、効果的な被膜形成部位を推定することができる。
さらに、キャビティと管素材との間に薄膜を挟む場合には、上述の効果に加えて、常に新しい薄膜を使用して成形を実施することが容易であるため、被膜の場合に生じる可能性がある被膜の摩耗、剥離等の問題を避けることができる、薄膜の型抜き形状を容易に変えて成形を実施することができるため、中空部材の成形形状の自由度を高めることができるという効果を奏する。
以下、ハイドロフォーミング用成形金型について、図1〜図5を参照しつつ具体的な実施形態を説明する。
図1は、ハイドロフォーミング用成形金型の第一実施形態を示す図であり、金型の一片のみを示した斜視図である。本図に示す第一実施形態では、金型1のキャビティ2の一部に管素材との接触により生ずる摩擦力を制御するための被膜形成部3が設けられている。具体的には、キャビティ2の管素材配置部2aの両端から張出部2bの両端まで連続した被膜が所定の幅で形成されている。
被膜形成部3の素材は、被膜がキャビティ2から剥離しにくい素材であることが基本的であるが、好ましくは、被膜形成部3と管素材との間に生じる摩擦力が、被膜不形成部4と管素材との間に生じる摩擦力と異なる素材であることが効果的である。例えば、クロム、ニッケル燐、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、DLC(Diamond−like Carbon)、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化チタン、炭化バナジウム、炭化タングステン等の素材を採用すれば、離型性及び耐剥離性に優れるとともに摩擦力の低い被膜を形成することができる。ここでは、被膜形成部3の摩擦力が被膜不形成部4よりも低くなるような素材を選定して被膜を形成する場合を想定している。
このように被膜形成部3を形成することによって、管素材配置部2aにおける管素材の材料の流動性を向上させることができ、張出部2bへの材料供給を良くすることができる。また、管素材とキャビティ2との接触面圧の高い管素材配置部2aの両端部や管素材配置部2aと張出部2bとの境界部において、局部的な高い摩擦力により局部的に変形が集中して不整変形が生ずることを抑制することもできる。したがって、成形加工中の管素材に生じる破裂や座屈を防ぐことができるとともに、成形加工後の中空部材の肉厚を均一にすることができ、成形加工後の中空部材の張出部をより高くすることができる。
なお、被膜不形成部4と管素材との間に生じる摩擦力が十分に小さい場合には、被膜形成部3には逆に潤滑性能の低い(すなわち、摩擦力が高い)素材を用いればよい。このように被膜の素材を選定することによっても、被膜形成部3に生じる摩擦力と被膜不形成部4に生じる摩擦力との間に差を付すことができるので、上述したような効果を発揮させることができる。
また、被膜形成部3の幅は、成形中の管素材とキャビティ2との接触面圧及び接触面積、管素材の移動速度等を考慮して、キャビティ2と管素材との間に生じる摩擦の分布が目的の形状や肉厚の成形に有効に働くように決定することが効果的である。図1では、幅が一定の場合を示したが、部位によって幅を変化させてもよい。例えば、成形後の中空部材の開口部にネジを切ろうとする場合には、管素材配置部2aの両端部の肉厚が厚くなった方が好ましいため、被膜形成部3の幅を狭くすればよいし、中空部材の開口部で別の管素材と突合せ溶接をしようとする場合には、肉厚の変化が少ない方が好ましいため、被膜形成部3の幅を広くすればよい。このように、被膜形成部3の幅を変化させることによって、被膜形成部3と被膜不形成部4の面積比率を変化させることができ、所望の摩擦分布を得ることができる。
また、被膜形成部3の被膜の厚さは、被膜がキャビティ2から剥離しにくい厚みが基本的であるが、好ましくは、被膜形成部3と被膜不形成部4との段差を極力小さくするように薄くすることが効果的である。
さらに、被膜不形成部4に、被膜形成部3とは異なる摩擦係数の被膜を形成してもよい。このように複数の被膜を形成することによって、管素材に生じる摩擦力の差を制御する選択肢を広げることができる。
図2は、ハイドロフォーミング用成形金型の第二実施形態を示す図であり、金型の一片のみを示した斜視図である。本図に示す第二実施形態も第一実施形態と同様に、金型1のキャビティ2の一部に管素材との接触により生ずる摩擦力を制御するための被膜形成部3を設けている。具体的には、キャビティ2の管素材配置部2aのみに連続した被膜が所定の幅で形成されている。被膜形成部3の素材、幅、厚さ等については、第一実施形態の場合と同様であるので説明を省略する。
かかる第二実施形態の金型1は、管素材配置部2aのみに被膜が形成されているため、第一実施形態の金型に比して、成形加工後の中空部材の張出部の高さよりも、中空部材の肉厚の均一性が優先されるような場合に用いられる。
図3は、ハイドロフォーミング用成形金型の第三実施形態を示す図であり、金型の一片のみを示した斜視図である。本図に示す第三実施形態も第一実施形態と同様に、金型1のキャビティ2の一部に管素材との接触により生ずる摩擦力を制御するための被膜形成部3を設けている。具体的には、キャビティ2の管素材配置部2aの軸を含み、かつ、張出部2bの軸に垂直な平面で切断したときの、片側全面(図では上側半分)に被膜が形成されている。被膜形成部3の素材、幅、厚さ等については、第一実施形態の場合と同様であるので説明を省略する。
かかる第三実施形態の金型1は、キャビティ2の片側のみに被膜が形成されているため、中空部材の上側の張出部を下側の張出部よりも高くしたいような場合に用いられる。
次に、本発明のハイドロフォーミング加工方法の第一の方法について図4を用いて説明する。なお、図4において(A)〜(D)は各工程を示す。本発明のハイドロフォーミング加工方法の第一の方法は、上述した第一実施形態〜第三実施形態に示した金型1を使用する方法であり、以下の工程で中空部材を成形する。
(1)図4(A)に示すように、金型1に被膜形成部3を成形する。このとき、例えば、第一〜第三実施形態に示した被膜形成部3のうち、どれを採用するかは、管素材とキャビティとの接触面圧及び接触面積、管素材の移動速度等を考慮して定める。また、被膜形成部3及び被膜不形成部4の面積比率や被膜の素材等の条件は、中空部材の寸法や使用条件等から選定される。ここでは第一実施形態の金型1を採用した。
(2)図4(B)に示すように、管素材5を金型1のキャビティ2にセットする。
(3)図4(C)に示すように、軸押しシリンダ6を金型1にセットし、図示しない他方の金型と組み合わせて閉じ、軸押しシリンダ6の端部を管素材5の端部に接触させ、管素材5に液体圧と軸押しを加える。液体圧は図示しない液体圧発生装置からの液体を軸押しシリンダ6に設けられた液体流路7を通じて管素材5の内部に導入して加える。軸押しは、図示しない軸押し力発生装置で軸押しシリンダ6を管素材5が圧縮される方向に押すことによって管素材に加える。
(4)所定の液体圧と軸押しを管素材に加えると管素材5はキャビティ2の形状に沿って塑性変形し、最終的に金型1及び軸押しシリンダ6を取り外すと、図4(D)に示すような中空部材8を得ることができる。
かかる本発明のハイドロフォーミング加工方法によれば、金型1のキャビティ2に第一実施形態〜第三実施形態で説明したような被膜を形成したことにより、キャビティ2と管素材5との摩擦力を任意に制御することができ、所定の摩擦分布を得ることができるため、所望の形状及び肉厚分布を有する中空部材を容易に成形することができる。
続いて、本発明のハイドロフォーミング加工方法の第二の方法について図5を参照して説明する。図5において、(A)は薄膜の型抜き形状を示し、(B)は薄膜を管素材に貼付した状態を示す斜視図である。なお、第一の方法と(2)〜(5)の工程は同じであるので、その説明を省略する。
本発明のハイドロフォーミング加工方法の第二の方法は、成形金型のキャビティと管素材5との間に所定の摩擦分布を発生させる薄膜9を挟んでからハイドロフォーミング加工を施すものである。図5に示すように、キャビティに直接被膜を形成するのではなく、別個に所定形状の薄膜9を形成しておき、その薄膜9を管素材5に貼付することによって、金型(キャビティ)と管素材5との摩擦力を制御し、所望の摩擦分布を得るものである。
薄膜9の型抜き形状は、第一実施形態の被膜形成部3の幅と同様な考え方で決定すればよい。薄膜9の厚さは、薄膜9を巻いた管素材5がキャビティに納まる厚みが基本的であるが、好ましくは、極力薄くすることが効果的である。薄膜9の素材は、薄膜9が管素材5の変形に追従して伸びる素材であることが基本的であるが、好ましくは、薄膜9を挟んだキャビティと管素材5との間に生じる摩擦力が、薄膜9を挟まないキャビティと管素材5との間に生じる摩擦力と異なる素材であることが効果的である。例えば、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)等の素材を採用すれば、離型性に優れるとともに摩擦力の低い被膜を形成することができる。その他に薄膜9の低摩擦の素材として、ポリアミド、ポリエチレン、アラミド等を使用してもよい。また、成形金型と管素材5との間に生じる摩擦が十分に小さい場合には、薄膜9には逆に潤滑性能の低い(すなわち、摩擦力が高い)素材を用いればよい。例えば、高摩擦の素材には、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル等が考えられる。
なお、複数の摩擦係数の異なる薄膜を用意して管素材の全面をそれらの薄膜で覆うようにしてもよいし、薄膜を塗布したり吹付けたりすることによって管素材に直接的に薄膜を形成するようにしてもよいし、成形金型に第一実施形態〜第三実施形態で説明したような被膜形成部を有する金型を用いてもよい。
かかるハイドロフォーミング加工方法においても、第一の方法と同様に、キャビティと管素材との摩擦力を任意に制御することができ、所定の摩擦分布を得ることができるため、所望の形状及び肉厚分布を有する中空部材を容易に成形することができる。
また、薄膜9の型抜きは、被膜の形成に比べて容易であるため、第一実施形態〜第三実施形態で説明したような成形金型のキャビティにおける被膜形成部位を決定する際に、試行錯誤的に型抜き形状の異なる薄膜9を管素材5に貼付して成形を行うことで、効果的な被膜形成部位を推定することもできる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、張出部が管素材の中心軸上にない場合や、上側と下側とで張出部の位置や形状が異なる場合にも適用できることは勿論であり、寧ろそのような場合に、被膜形成部や薄膜の形状、面積比率、素材等を工夫することによって摩擦分布を任意に変化させることができ、本発明の効果がより発揮されるものと考えられる。また、上述した実施形態では配管用継手を想定しているが、自動車用構造部材(エンジンクレードル等)や自転車用フレーム継手(ハンガーラック)等の軽量構造部材にも適用できることは勿論である。
管素材を図6に示すような十字継手形状の中空部材61に成形する場合の実施例について説明する。
管素材として継目無銅管の焼なまし材を用いた。また、管素材の形状は、初期外径8mm、肉厚1mm、長さ68mmであり、これを外径8mmの十字継手形状に成形した。管素材に加える液体圧は86MPa、管素材の両端部から加える軸押しは14mmとした。また、金型のキャビティにおける被膜形成の有無に関わらず、キャビティには潤滑剤としてペースト状の二硫化モリブデンを全面に塗布している。
かかる中空部材61の成形を行う際に必要な成形力(軸押し力)は、キャビティ全面にPTFE系の被膜を形成した成形金型(以下、「被膜形成金型」という)を用いる場合とキャビティに被膜を全く形成しない成形金型(以下、「被膜不形成金型」という)を用いる場合とでは異なっており、被膜形成金型を用いた場合の軸押し力は12kN、被膜不形成金型の軸押し力は32kNであった。このように被膜不形成金型の軸押し力の方が被膜形成金型よりも大きいのは、金型の被膜と管素材とが接触することによって生じる摩擦力が、金型の素材と管素材とが接触することによって生じる摩擦力よりも小さいためである。なお、被膜形成金型と被膜不形成金型とは被膜の有無以外については同じ条件・形状の金型である。
また、上記被膜形成金型と被膜不形成金型とを用いて中空部材61を成形したところ、出来上がった寸法が異なる結果となった。図6に示す枝管頂点間距離aについて計測したところ、被膜形成金型を用いた場合は29mmであり、被膜不形成金型を用いた場合は24mmであった。枝管頂点間距離aが被膜形成金型を用いた場合の方が長いのは、金型の被膜と管素材とが接触することによって生じる摩擦力が、金型の素材と管素材とが接触することによって生じる摩擦力よりも小さいためである。
また、上述した実施例は、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率が10:0のときの軸押し力が12kN、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率が0:10のときの軸押し力が32kNであることを意味している。ここで、被膜形成部と被膜不形成部とを管素材の長手方向に交互に分布するように形成し、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率を7:3として成形をおこなったところ、軸押し力は15kNとなり、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率が10:0の場合よりも大きくなった。このように、被膜形成部において管素材に働く摩擦力が、被膜不形成部において管素材に働く摩擦力に比べて小さい場合、被膜形成部の面積比率を大きくすると、軸押し力が小さくなり、被膜不形成部の面積比率を大きくすると、軸押し力が大きくなることがわかる。
さらに、成形された中空部材61の寸法についても、上述した軸押し力と同様に、金型のキャビティにおける被膜形成部と被膜不形成部の面積比率を変えることによって変えることができる。上述の実施例では、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率が10:0のときの枝管頂点間距離aは29mm、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率が0:10のときの枝管頂点間距離aは24mmであったが、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率を7:3とした場合には、枝管頂点間距離aは27mmとなり、被膜形成部と被膜不形成部の面積比率が10:0の場合よりも小さくなった。
さらに、十字継手形状の中空部材61を作製するにあたり、図1に示す第一実施形態の金型を用いた場合と、図2に示す第二実施形態の金型を用いた場合とでは、成形後の中空部材10の寸法が異なったものとなった。いずれの場合にも被膜形成部と被膜不形成部の面積比率を1:1として同じ比率にして成形を行ったが、第一実施形態を用いた場合の枝管頂点間距離aは25mmであり、第二実施形態を用いた場合の枝管頂点間距離aは27mmであった。なお、このときの軸押し力は、第一実施形態の金型を用いた場合は19kN、第二実施形態の金型を用いた場合は16kNであった。
また、十字継手形状の中空部材61を作製するにあたり、図3に示す第三実施形態の金型を用いたところ、成形後の中空部材61の枝管高さb,cは異なったものとなった。ここでも被膜形成部と被膜不形成部の面積比率は1:1とした。被膜形成部と接触することで成形された枝管の高さbは10mmとなるが、被膜不形成部と接触することで成形された枝管の高さcは8mmであった。このように枝管高さb,cが異なる中空部材は、管素材に加える液体圧と軸押しを工夫することでは成形できない。なお、このときの軸押し力は22kNであった。
上述した実施例において、被膜の代わりに、型抜きされた厚さ0.03mmのPTFE薄膜を管素材との間に挟んだ場合にもほぼ同様の結果が得られた。
次に、図7に示すようなT字継手形状の中空部材71の成形を行う場合の実施例を示す。
管素材として継目無銅管の焼なまし材を用いた。また、管素材の形状は、初期外径8mm、肉厚1mm、長さ68mmであり、これを外径8mmのT字継手形状に成形した。管素材に加える液体圧は86MPa、管素材の両端部から加える軸押しは20mmとした。また、成形金型のキャビティにおける被膜形成の有無に関わらず、キャビティには潤滑剤としてペースト状の二硫化モリブデンを全面に塗布している。
キャビティ全面にPTFE系の被膜を形成した被膜形成金型を用いる場合とキャビティに被膜を全く形成しない被膜不形成金型を用いる場合とでは中空部材71の成形寸法や肉厚分布が異なっていた。
図8は、成形したT字継手形状の中空部材71の断面図であり、(A)は被膜形成金型により成形したもの、(B)は被膜不形成金型により成形したものを示している。
図8(A)に示す被膜形成金型を用いた場合の枝管高さdは12mmであり、図8(B)に示す被膜不形成金型を用いた場合の枝管高さdは9mmであり、被膜形成金型を用いた場合の方が高く形成できた。また、図8(A)に示すように、被膜形成金型を用いた場合には、中空部材71の成形中に中空部材71の両端部から加える軸押しは、中空部材71の下部中央部(破線囲み部)の肉厚を増加させる傾向が強い。一方、図8(B)に示すように、被膜不形成金型を用いた場合には、中空部材71の両端部から加える軸押しは、中空部材71の両端部近傍(破線囲み部)の肉厚を増加させる傾向が強い。これは管素材の摩擦力のために軸押し力が中空部材71の中央部まで届かず、中空部材71の両端部の変形に費やされてしまうためである。また、被膜形成金型を用いた場合に、管素材にさらに大きな軸押し力を加えて高い枝管高さを得ようとすると、中空部材71の下部中央部の肉厚が単調に増加せずに、管壁が中空部材71の内側に折り曲がってしまい、所用の外観形状の中空部材71を成形できなくなってしまう。一方、被膜不形成金型を用いた場合には、軸押し力を大きくしても、管壁が中空部材71の内側に折り曲がることはない。
図9は、キャビティ上部に被膜を形成し、キャビティ下部には被膜を全く形成していない金型の一片を示す斜視図である。具体的には、金型91のキャビティ92の管素材配置部92aの軸を含み、かつ、張出部92bの軸に垂直な平面で切断したときの、片側全面(図では上側半分)に被膜形成部93が形成されている。したがって、管素材配置部92aの下側半分は被膜不形成部94となっている。
かかる金型を用いて図7に示すようなT字継手形状の中空部材71を成形する場合、中空部材の上部は図8(A)示す中空部材71の上部のように成形され、中空部材の下部は図8(B)に示す中空部材71の下部のように成形される。この場合に成形された中空部材の枝管高さdは11mmとなり、被膜形成金型(成形金型のキャビティ全面に被膜を形成したもの)の場合よりも若干低くなった。しかしながら、中空部材の下部の肉厚分布は図8(B)に示す中空部材71の下部のようになるため、管素材に加える軸押し量をさらに大きくして中空部材71を成形する場合には、中空部材71の下部中央部に管壁のめり込みが生じず、外観上問題のない中空部材71を成形することができる。
ハイドロフォーミング用成形金型の第一実施形態を示す図であり、金型の一片のみを示した斜視図である。
ハイドロフォーミング用成形金型の第二実施形態を示す図であり、金型の一片のみを示した斜視図である。
ハイドロフォーミング用成形金型の第三実施形態を示す図であり、金型の一片のみを示した斜視図である。
本発明のハイドロフォーミング加工方法の第一の方法に関する説明図であり、(A)〜(D)は各工程を示したものである。
本発明のハイドロフォーミング加工方法の第二の方法に関する説明図であり、(A)は薄膜の型抜き形状を示し、(B)は薄膜を管素材に貼付した状態を示す斜視図である。
実施例1で成形される十字継手形状の中空部材を示す斜視図である。
実施例2で成形されるT字継手形状の中空部材を示す斜視図である。
実施例2で成形したT字継手形状の中空部材の断面図であり、(A)は被膜形成金型により成形したもの、(B)は被膜不形成金型により成形したものを示している。
実施例2で用いた金型の一片を示す斜視図である。
従来の塑性加工法で使用する金型(一片)の斜視図である。
従来の塑性加工法を示す説明図である。
成形後の中空部材を示す斜視図である。
符号の説明
1,10,91 金型
2,11,92 キャビティ
3,93 被膜形成部
4,94 被膜不形成部
5,12 管素材
6,14 軸押しシリンダ
7 液体流路
8,15,61,71 中空部材
9 薄膜
13 液圧供給口