JP4392180B2 - エンジン - Google Patents
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Description
本発明は、シリンダ内面とピストン頂部とで規定される燃焼室と、前記燃焼室に吸気される混合気が流通する吸気路と、前記吸気路に燃料を供給して混合気を形成する燃料供給部とを備えたエンジンに関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンは、一般的に、燃焼室において燃料を点火プラグにより火花点火して燃焼させる火花点火式エンジンと、燃焼室において燃料を高圧縮して自己着火させて燃焼させる圧縮着火式エンジンとに大別することができる。
【0003】
このようなエンジンの燃焼室から排出される排ガス中には、窒素酸化物(以下、「NOx」と記載する。)、一酸化炭素(以下、「CO」と記載する。)、及び、未燃炭化水素(以下、「THC」と記載する。)などが含まれる。
【0004】
排ガス中のNOxは、燃焼室に形成される混合気の当量比が高い高エンジン負荷域のように、燃焼室における燃焼温度が高くなるときに増加する傾向があり、一方、排ガス中のCOやTHCは、燃焼室に形成される混合気の当量比が低い低エンジン負荷域のように、燃焼室における燃焼温度が低くなるときに増加する傾向がある。
即ち、上記排ガス中の上記NOx濃度と、上記CO濃度及びTHC濃度とは、トレードオフの関係にあるといえ、これら排ガス性状を改善するためには、燃焼室における燃焼状態を適切なものに制御する必要がある。
【0005】
上記圧縮着火式エンジンとして、ディーゼルエンジンのように圧縮空気中に燃料を噴射するのではなく、火花点火式エンジンのように空気と燃料との混合気を燃焼室に供給し、その混合気を高圧縮し混合気の発火点まで昇温させて、自己着火燃焼させるように構成された予混合圧縮着火エンジンがある。特に、燃料が天然ガス等の気体燃料のエンジンを構成する場合、ディーゼルエンジンとして構成して気体燃料を高圧で噴射することが困難であるため、予混合圧縮着火エンジンとして構成して混合気を圧縮着火して燃焼させるほうが容易である。
【0006】
上記予混合圧縮着火エンジンでは、予混合気を圧縮して自己着火させるため、その自己着火タイミングを直接調整することはできず、起動からの経過時間、エンジン負荷、混合気の当量比等の変化により、自己着火タイミング等が変化し、安定した運転状態を維持できなくなることがある。即ち、予混合圧縮着火エンジンにおいて、混合気の当量比を増加させて高エンジン負荷域で運転すると、自己着火タイミングや燃焼速度が早くなって、ノッキング発生が懸念され、逆に、混合気の当量比を低下させて低エンジン負荷域で運転すると、自己着火タイミングや燃焼速度が遅くなって、失火発生が懸念される。
よって、予混合圧縮着火エンジンにおいて、上記のようなノッキングや失火等の異常燃焼の発生を抑制して、広いエンジン負荷域で運転するために、燃焼室における燃焼状態が適切なものとなるように、自己着火タイミングを制御する必要がある。
【0007】
そこで、エンジンの燃焼状態を適切なものとし、更に、予混合圧縮着火エンジンの自己着火タイミングを適切なものとするための手法として、吸気路に燃料の濃淡分布を形成させ、その混合気を上記濃淡分布がある程度維持された状態で燃焼室に吸気し、その濃淡分布を有する混合気を燃焼させることで、燃焼室において均質混合された混合気を燃焼させる場合よりも、エンジンの燃焼室における燃焼速度及び燃焼温度が低減し、また、予混合圧縮着火エンジンの混合気の自己着火タイミングが遅角化されるということを利用して、上記濃淡分布の状態を調整して、燃焼室における燃焼状態を適切なものに制御する手法がある(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【0008】
上記特許文献1では、吸気路に複数の個所から燃料を供給することで、吸気路に燃料の濃淡分布を形成させ、更に、その供給された燃料が衝突する柱状体の位置を変化させ、又は、デューティー比の変更を伴って間欠的に燃料を供給することで、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を変更可能に構成されている。
【0009】
上記特許文献2では、複数の燃料供給部、又は、複数の吸気路を利用して、吸気路において形成された混合気が、燃焼室に吸気されるまでの時間を変更することで、混合気における燃料の拡散状態を変化させて、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を変化させることができる。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−044985号公報
【特許文献2】
特開2001−90540号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許文献1及び上記特許文献2に記載されている従来のエンジンでは、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を調整するために、非常に複雑な構成を採用する必要があり、高コスト化を招くことが懸念される。
【0012】
従って、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布状態を調整可能に構成して、更に、その濃淡分布状態の調整により、燃焼室における燃焼状態を適切なものに維持することができるエンジンを実現することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するための本発明に係るエンジンの第一特徴構成は、シリンダ内面とピストン頂部とで規定される燃焼室と、前記燃焼室に吸気される混合気が流通する吸気路と、前記吸気路に燃料を供給して混合気を形成する燃料供給部とを備えたエンジンであって、
前記燃料供給部が、前記吸気路の次の吸気行程において前記燃焼室に吸気される混合気が存在する吸気領域におけるガス流通方向に沿った一部に、前記吸気領域における他部よりも燃料が濃い濃部を、前記吸気路の吸気弁が閉状態である時に形成するように前記吸気路に燃料を供給するものであると共に、
前記吸気領域における前記濃部の前記ガス流通方向に沿った位置を調整可能な調整機構を備え、
前記吸気路においてガス流通方向に沿って摺動可能な筒状体と、前記筒状体を前記吸気路に沿って摺動させるアクチュエータとを備えて、前記調整機構が構成されている点にある。
【0015】
即ち、上記特徴構成によれば、上記燃料供給部により、前記吸気路の吸気弁が閉状態である時に、吸気路に燃料を供給することで、吸気路の吸気弁直前であり上記のように次の吸気行程において燃焼室に吸気される混合気が存在する上記吸気領域において、ガス流通方向に沿った一部に燃料が濃い濃部を有する濃淡分布を形成することができる。
そして、上記調整機構により、その濃部の吸気領域におけるガス流通方向に沿った位置を調整することにより、その濃部が吸気行程において燃焼室に吸気されるタイミングを調整することができる。
【0016】
また、吸気行程において、ピストンの下降速度は、中間位置(90°ATDC)を最高として変化するので、そのピストンの下降により吸気路から燃焼室に吸気される混合気の流れ(以下、「新気流」と呼ぶ。)の強度は、上記ピストンの下降速度の変化に応じて変化する。
よって、上記のように調整機構により、吸気行程において濃部が燃焼室に吸気されるタイミングを変化させることで、濃部が燃焼室に吸気される時点における新気流の強度を変化させることができるので、混合気における濃部の拡散状態を変化させることができ、結果、燃焼室において形成される混合気の濃淡分布の状態を変化させることができる。
【0017】
従って、吸気領域における濃部の位置をガス流通方向に沿って調整するというような簡単な構成で、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布状態を調整可能なエンジンを実現することができ、例えば、吸気領域における濃部の位置を、新気流が弱い吸気行程のできるだけ遅い時期にその濃部が燃焼室に吸気されるような位置に調整することで、燃焼室において混合気を濃部の拡散が抑制された状態で成層燃焼させ、低NOx化を図ることができる。
【0018】
本発明に係るエンジンの第二特徴構成は、上記第一特徴構成に加えて、前記燃料供給部が、前記吸気路におけるガス流通状態に応じて前記吸気路への燃料供給量が変化するように構成されている点にある。
【0019】
即ち、上記特徴構成によれば、上記燃料供給部を、例えば、吸気路におけるガスの流れを利用して吸気路に燃料を誘引するように構成したり、ガス流通方向に対向して吸気路に一定圧力で燃料を供給するように構成して、吸気路におけるガス流通状態に応じて吸気路への燃料供給量が変化するように構成することで、燃料供給部から吸気路への燃料供給量は、吸気路において発生するガスの脈動により、エンジンのサイクル周期で周期的に変化することになる。
従って、吸気路には、1サイクル中(即ち、吸気行程中)に燃焼室に吸気される混合気の量に相当する間隔で、燃料が濃い濃部とその濃部よりも燃料が薄い淡部とが、ガス流通方向に沿って発現することになり、上記燃料供給部を、その濃部及び淡部が燃焼室に到達するまで維持されるような位置に配置することで、次の吸気行程において燃焼室に吸気される混合気が存在する吸気領域に、1つの上記濃部を存在させることができる。
【0020】
本発明に係るエンジンの第三特徴構成は、上記第一乃至第二特徴構成に加えて、前記調整機構が、前記燃料供給部の前記吸気路への燃料供給位置を、前記ガス流通方向に沿って調整することで、前記吸気領域における前記濃部の前記ガス流通方向に沿った位置を調整するように構成されている点にある。
【0021】
即ち、上記特徴構成によれば、上記燃料供給部が、例えば、上記第二特徴構成のように、吸気路に燃料を供給して吸気領域に少なくとも1つの濃部を存在させることができるものである場合において、上記調整機構により、その燃料供給部の位置を、少なくとも1サイクル中に燃焼室に吸気される混合気の量に相当する間隔幅の範囲内において、ガス流通方向に沿って調整するという簡単な構成で、吸気領域における濃部の位置を、ガス流通方向に沿って調整することができる。
【0022】
本発明に係るエンジンの第四特徴構成は、上記第一乃至第三特徴構成に加えて、運転状態に基づいて、前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御する制御手段を備えた点にある。
【0023】
即ち、上記特徴構成によれば、上記制御手段により、エンジンの運転状態に基づいて、上記調整機構により吸気領域における濃部の位置を制御することで、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を、燃焼室における燃焼状態が適正なものとなる状態に維持することができる。
【0024】
本発明に係るエンジンの第五特徴構成は、上記第四特徴構成に加えて、前記制御手段が、前記運転状態としての前記燃焼室から排出される排ガス性状に基づいて、前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御するように構成されている点にある。
【0025】
上記特徴構成によれば、上記制御手段は、排ガス中のNOx、CO、又はTHCの濃度等の排ガス性状に基づいて、前記調整機構により吸気領域における濃部の位置を制御することで、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を、上記排ガス性状が適正なものとなる状態に維持することができる。
【0026】
即ち、上記制御手段は、排ガス中のNOx濃度が増加したときには、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流が弱い吸気行程のできるだけ遅い時期にその濃部が燃焼室に吸気されるような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が抑制された状態で成層燃焼させて低NOx化を図り、一方、排ガス中のCO又はTHC濃度が増加したときには、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流が強い吸気行程の略中間の時期にその濃部が燃焼室に存在するような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が促進された状態で均質混合燃焼させて低CO化又は低THC化を図ることができる。
【0027】
また、エンジンにおいて、図7に示すように、燃焼室に形成される混合気の当量比φが例えば1付近等の理論当量比に近い場合(例えば、aとb)には、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態、即ち混合状態を、燃料の拡散が抑制された不均質状態とするほど、燃焼室における燃焼速度及び燃焼温度が低減し、燃焼室から排出される排ガス中のNOx濃度は小さくなることは一般的に知られている。
しかし、本発明者らは、当量比φが例えば理論当量比よりも大幅に小さい場合(例えば、c)には、上記の当量比が理論当量比に近い場合と同様に、混合気の混合状態を充分な不均質状態にすれば、排ガス中のNOx濃度は小さくなるが、混合気の混合状態を、燃料の拡散が充分に促進された均質状態としても、全体的に当量比が小さいことにより、燃焼室における燃焼速度及び燃焼温度が低減し、NOx濃度が小さくなるという知見を得た。
【0028】
よって、燃焼室に形成される混合気の当量比が比較的小さく燃料が希薄状態で燃焼するエンジンにおいては、上記制御手段は、排ガス中のNOx濃度が増加したときには、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流が強い吸気行程の略中間の時期にその濃部が燃焼室に存在するような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が充分に促進された状態で均質混合燃焼させて、低NOx化を図ることができる。
【0029】
本発明に係るエンジンの第六特徴構成は、上記第四乃至第五特徴構成に加えて、前記燃焼室で圧縮された混合気が自己着火するように構成されており、
前記制御手段が、前記運転状態としての前記燃焼室における自己着火タイミングに基づいて前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御するように構成されている点にある。
【0030】
本発明に係るエンジンが所謂予混合圧縮着火エンジンとして構成されている場合において、上記特徴構成によれば、上記制御手段は、燃焼室における自己着火タイミングに基づいて、前記調整機構により吸気領域における濃部の位置を制御することで、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を、上記自己着火タイミングが適正なものとなる状態に維持することができる。
【0031】
即ち、予混合圧縮着火エンジンにおいて、上記制御手段は、例えばノッキングの発生を検出することにより、自己着火タイミングが早すぎると判断したときには、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流弱い吸気行程のできるだけ遅い時期にその濃部が燃焼室に吸気されるような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が抑制された状態で自己着火させて、自己着火タイミングの遅角化により上記ノッキングを回避し、一方、例えば失火の発生を検出することにより、自己着火タイミングが遅すぎると判断したときには、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流が強い吸気行程の略中間の時期にその濃部が燃焼室に存在するような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が促進された状態で自己着火させて、自己着火タイミングの進角化により上記失火を回避することができる。
【0032】
本発明に係るエンジンの第七特徴構成は、上記第四乃至第六特徴構成に加えて、前記制御手段が、前記運転状態としてのエンジン負荷に基づいて前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御するように構成されている点にある。
【0033】
本発明に係るエンジンが、エンジン負荷の変更が可能に構成されている場合において、上記特徴構成によれば、上記制御手段は、エンジン負荷に基づいて、前記調整機構により吸気領域における濃部の位置を制御することで、燃焼室に形成される混合気の濃淡分布の状態を、上記エンジン負荷に合った適正なものに維持することができる。
【0034】
即ち、上記制御手段は、低エンジン負荷域においては、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流が弱い吸気行程のできるだけ遅い時期にその濃部が燃焼室に吸気されるような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が抑制された状態で成層燃焼させて高効率且つ低NOx化を図り、一方、高エンジン負荷域においては、吸気領域における濃部の位置を、上記新気流が強い吸気行程の略中間の時期にその濃部が燃焼室に存在するような位置に移行させて、燃焼室において混合気を濃部の拡散が促進された状態で均質混合燃焼させて低CO化又は低THC化を図ることができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
本発明に係るエンジンの実施形態を、図1〜図6に基づいて説明する。
【0036】
エンジン100には、シリンダ3の内面とピストン2の頂面とで規定される燃焼室1と、燃焼室1に吸気弁7を介して接続された吸気路12と、燃焼室1に排気弁8を介して接続された排気路13とが設けられている。
【0037】
ピストン2は連結棒4に揺動自在に連結されており、ピストン2の往復動は連結棒4によって1つのクランク軸5の回転運動として得られ、このような構成は通常のエンジンと変わるところが無い。
【0038】
吸気路12を流通する空気Aは、適宜過給機等により過給された後に、ノズル21(燃料供給部の一例)により天然ガス系都市ガスの燃料Gが供給されて混合気Mとなり、その混合気Mが燃焼室1に吸気される。
【0039】
そして、エンジン100は、燃焼室1に吸気された混合気Mを、ピストン2の上昇により圧縮して発火点まで昇温させることで、自己着火させて燃焼させる所謂予混合圧縮着火エンジン、又は、燃焼室1に吸気された混合気Mを、ピストン2の上昇により圧縮した後に、点火プラグ(図示せず。)により火花点火して燃焼させる所謂火花点火式エンジンとして構成されている。
【0040】
エンジン100には、コンピュータからなるエンジン・コントロール・ユニット(以下、ECUと呼ぶ)50が設けられ、ECU50には、運転状態としての、排ガス性状、エンジン負荷、及び、エンジン100が予混合圧縮着火エンジンであった場合において燃焼室1における自己着火タイミング等に関する情報が入力される。
【0041】
詳しくは、上記排ガス性状に関する情報として、排ガス中のNOx濃度、CO濃度、及び、THC濃度等に関する情報がECU50に入力される。また、これらの濃度は、排気路13に設けられる計測装置(図示せず。)により計測可能である。また、上記NOx濃度と、上記CO濃度及びTHC濃度との間にはトレードオフの関係にあることから、何れか一方の濃度のみを計測して、その濃度から他方の濃度を推測しても構わない。
【0042】
また、上記エンジン負荷に関する情報として、スロットル開度や燃料Gの供給量、クランク軸5の回転トルクや回転数、燃焼室1に形成された混合気Mの当量比を認識可能な排ガス中の酸素濃度等に関する情報がECU50に入力され、ECU50はそれらの信号からエンジン負荷を認識する。
【0043】
上記自己着火タイミングに関する情報として、圧力センサ(図示せず。)により計測された燃焼室1の圧力に関する情報がECU50に入力され、ECU50は、その燃焼室1の圧力の変化状態を確認し、最も圧力上昇率が高いタイミングを、自己着火タイミングとして認識する。
また、上記自己着火タイミングに関する情報として、ノッキングセンサ(図示せず。)の検出信号をECU50に入力しても構わない。即ち、ECU50は、ノッキングが発生したときには、自己着火タイミングが適正なタイミングよりも早すぎることを認識することができる。
【0044】
燃料供給部としてのノズル21は、燃料Gが一定圧力で内部に供給され、そのノズル21には、吸気路12における空気A及び混合気Mの流通方向(以下、「ガス流通方向」と呼ぶ。)に直交して開口する開口部21aが形成されている。よって、ノズル21は、開口部21aから、吸気路12のガス流通方向に直交して、一定圧力で燃料Gを供給するように構成されている。
【0045】
また、吸気路12を流通する空気Aの流通状態は、吸気弁7の開閉動作に伴って、サイクル周期で周期的に変動する。即ち、吸気路12において、吸気弁7が開状態となる吸気行程においては、空気Aが燃焼室1に吸い込まれて圧力が低下し、それ以外の行程においては、空気Aが吸い込まれずに圧力が低下しないという、脈動が発生する。
【0046】
よって、ノズル21の開口部21a付近の圧力は、上記吸気路12における空気Aの脈動と同期して変化し、具体的には、最も空気Aの流速が大きい吸気行程の中期において、上記開口部21a付近の圧力が最も低下することになる。
【0047】
そして、上記ノズル21から吸気路12への燃料Gの供給量は、上記のような空気Aの脈動により、サイクル周期で周期的に変化することになり、特に、吸気弁7が閉状態となり吸気路における空気の流れが停止した瞬間には、燃料Gの流れにおける慣性により、空気Aに対して多くの燃料Gが供給されることになる。よって、吸気路12には、吸気行程中に燃焼室1に吸気される混合気Mの量に相当する間隔で、燃料Gが他の部分よりも濃い濃部Rが、ガス流通方向に沿って発現することになり、更に、吸気路12の次の吸気行程において燃焼室1に吸気される混合気Mが存在する吸気領域IAには、1つの濃部Rが存在することになる。
【0048】
更に、エンジン100は、上記ノズル21による吸気路12への燃料Gの供給位置、即ち、ノズル21の開口部21aの位置を、吸気路12のガス流通方向に沿って調整可能な調整機構24を有する。
【0049】
即ち、上記調整機構24は、ノズル21が貫通状態で固設され、吸気路12においてガス流通方向に沿って摺動可能な筒状体22と、ECU50からの指令に従って、上記ノズル21を筒状体22と一体で上記吸気路12のガス流通方向に沿って移動させるアクチュエータ23とによって構成されている。
また、吸気路12を形成する吸気管と上記筒状体22との間は、外気の吸気路12への浸入を抑制するために、適宜メカニカルシールやOリング等によりシール構造としても構わない。
【0050】
そして、上記のように構成された調整機構24は、サイクル周期で周期的に供給量を変動させて吸気路12に燃料Gを供給するノズル21の位置を、吸気路12のガス流通方向に沿って調整することで、吸気領域IAにおける濃部Rの位置を、吸気路12のガス流通方向に沿って調整することができ、更に、このように吸気領域IAにおける濃部Rの位置を調整し、その濃部Rが吸気行程において燃焼室1に吸気されるタイミングを調整することができる。
【0051】
そして、吸気行程において、燃焼室1に発生する新気流の強さが、中間付近のタイミングを最高として変化することを利用して、上記調整機構24により、上記のように濃部Rが燃焼室1に吸気されるタイミングを変化させることで、燃焼室1に吸気された混合気Mにおける濃部Rの拡散状態を変化させることができ、燃焼室1において形成される混合気Mの濃淡分布の状態を変化させることができる。
【0052】
具体的には、図1に示すように、調整機構24により、吸気領域IAにおけるガス流通方向に沿った濃部Rの位置を、吸気領域IAの略中間位置付近やそれよりも前端側となるように調整することで、図2に示すように、その濃部Rは、新気流が強くなる吸気行程の中間時期(例えば、90°ATDC)には燃焼室1に吸気されていることになるので、燃焼室1における濃部Rの拡散が促進され、図3に示すように、吸気行程の終了時期(例えば、180°ATDC)には、燃焼室1において燃料Gが均質に混合された混合状態の混合気Mが形成されることになる。
【0053】
一方、図4に示すように、調整機構24により、吸気領域IAにおけるガス流通方向に沿った濃部Rの位置を、吸気領域IAの後端側に近い位置となるように調整することで、図5に示すように、その濃部Rは、新気流が強くなる吸気行程の中間時期(例えば、90°ATDC)においては未だ燃焼室1に吸気せず、図6に示すように、新気流が弱くなる吸気行程の終了時期(例えば、180°ATDC)よりも少し前の時期に吸気されることになるので、燃焼室1における濃部Rの拡散が抑制されて、燃焼室1において燃料Gの濃淡分布を有するように成層化された混合状態の混合気Mが形成されることになる。
【0054】
そして、エンジン100のECU50は、運転状態としての、排ガス性状、自己着火タイミング、及び、エンジン負荷等に基づいて、上記調整機構24を働かせて、図1〜3に示すように、燃焼室1において均質な混合気Mを形成して燃焼させる均質混合燃焼と、図4〜6に示すように、燃焼室1において濃淡分布を有する成層化された混合気Mを形成して燃焼させる成層燃焼とを切り換える、又は、上記均質混合燃焼と上記成層燃焼との間で燃焼状態を調整するように、吸気領域IAにおける濃部Rの位置を制御するように構成されている。
【0055】
即ち、ECU50は、入力された排ガス性状に関する情報から、排ガス中のNOx濃度が所定濃度よりも増加したと判断したときには、例えば、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記成層燃焼を行うための位置に近づけるように制御して、低NOx化を図り、一方、入力された排ガス性状に関する情報から、排ガス中のCO又はTHC濃度が所定濃度よりも増加したと判断したときには、例えば、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記均質混合燃焼を行うための位置に近づけるように制御して、低CO化又は低THC化を図ることができる。
【0056】
また、ECU50は、混合気Mの当量比が例えば理論当量比よりも大幅に小さい場合に、排ガス中のNOx濃度が所定濃度よりも増加したと判断したときには、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記均質混合燃焼を行うための位置に近づけるように制御することでも、低NOx化を図ることができる。
【0057】
また、ECU50は、入力されたエンジン負荷に関する情報から、エンジン負荷が所定負荷よりも増加したと判断したとき、即ち、高エンジン負荷域においては、例えば、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記均質混合燃焼を行うための位置に近づけるように制御して、混合気Mの当量比の増加によるCO及びTHCの増加を抑制し、入力されたエンジン負荷に関する情報から、エンジン負荷が所定負荷よりも減少したと判断したとき、即ち、低エンジン負荷域においては、例えば、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記成層燃焼を行うための位置に近づけるように制御して、高効率且つ低NOx化を図ることができる。
【0058】
また、エンジン100が、燃焼室1において混合気Mを圧縮して自己着火させる予混合圧縮着火エンジンとして構成されている場合は、ECU50は、入力された自己着火タイミングに関する情報から、自己着火タイミングが適正なタイミングよりも遅角していると判断したときには、例えば、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記均質混合燃焼を行うための位置に近づけるように制御して、自己着火タイミングを進角化させ、入力された自己着火タイミングに関する情報から、自己着火タイミングが適正なタイミングよりも進角していると判断したときには、例えば、上記調整機構24により、濃部Rの位置を、上記成層燃焼を行うための位置に近づけるように制御して、上記自己着火タイミングを遅角化させることにより、自己着火タイミングを適正なタイミングに維持して、ノッキング及び失火を回避した安定運転を維持することができる。
【0059】
尚、均質混合燃焼と成層燃焼とを切り換えるための判断基準は、上述したものに限らず、別の判断基準を採用しても構わない。
【0060】
〔別実施の形態〕
次に、本発明の別の実施の形態を説明する。
上記実施の形態においては、吸気路12に燃料Gを供給して吸気領域IAに濃部Rを存在させるための燃料供給部を、吸気路12のガス流通方向に直交して一定圧力で燃料Gを供給するノズル21で構成したが、別に、吸気路におけるガスの流れを利用して吸気路に燃料を誘引するベンチュリーミキサや、吸気路12のガス流通方向に対向して一定圧力で燃料Gを供給するノズルでも、吸気路におけるガス流通状態に応じて吸気路への燃料供給量が変化する燃料供給部を構成することができる。
また、上記のようなノズル21やベンチュリミキサのような燃料供給部では、吸気路の負圧が最も大きくなる吸気行程中期において、空気に供給する燃料の割合が最も多くなる場合があり、そのときに吸気路に形成される濃部Rを、吸気領域IAに存在させても構わない。
また、上記燃料供給部としては、ノズルやベンチュリーミキサ等以外のものでも、吸気路におけるガス流通状態に応じて吸気路への燃料供給量が変化するように構成されているものであれば、吸気領域には1つの濃部を発現させることができる。
【0061】
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジンの吸気行程初期(0°ATDC)における状態を示す概略図
【図2】エンジンの吸気行程中期(90°ATDC)における状態を示す概略図
【図3】エンジンの吸気行程後期(180°ATDC)における状態を示す概略図
【図4】エンジンの吸気行程初期(0°ATDC)における状態を示す概略図
【図5】エンジンの吸気行程中期(90°ATDC)における状態を示す概略図
【図6】エンジンの吸気行程後期(180°ATDC)における状態を示す概略図
【図7】混合気の混合状態とNOx濃度との関係を示すグラフ図
【符号の説明】
1:燃焼室
2:ピストン
3:シリンダ
4:連結棒
5:クランク軸
7:吸気弁
8:排気弁
12:吸気路
13:排気路
21:ノズル(燃料供給部)
21a:開口部
22:筒状体
23:アクチュエータ
24:調整機構
50:エンジン・コントロール・ユニット(ECU)
100:エンジン
A:空気
M:混合気
IA:吸気領域
R:濃部
Claims (7)
- シリンダ内面とピストン頂部とで規定される燃焼室と、前記燃焼室に吸気される混合気が流通する吸気路と、前記吸気路に燃料を供給して混合気を形成する燃料供給部とを備えたエンジンであって、
前記燃料供給部が、前記吸気路の次の吸気行程において前記燃焼室に吸気される混合気が存在する吸気領域におけるガス流通方向に沿った一部に、前記吸気領域における他部よりも燃料が濃い濃部を、前記吸気路の吸気弁が閉状態である時に形成するように前記吸気路に燃料を供給するものであると共に、
前記吸気領域における前記濃部の前記ガス流通方向に沿った位置を調整可能な調整機構を備え、
前記吸気路においてガス流通方向に沿って摺動可能な筒状体と、前記筒状体を前記吸気路に沿って摺動させるアクチュエータとを備えて、前記調整機構が構成されているエンジン。 - 前記燃料供給部が、前記吸気路におけるガス流通状態に応じて前記吸気路への燃料供給量が変化するように構成されている請求項1に記載のエンジン。
- 前記調整機構が、前記燃料供給部の前記吸気路への燃料供給位置を、前記ガス流通方向に沿って調整することで、前記吸気領域における前記濃部の前記ガス流通方向に沿った位置を調整するように構成されている請求項1又は2に記載のエンジン。
- 運転状態に基づいて、前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御する制御手段を備えた請求項1から3の何れか1項に記載のエンジン。
- 前記制御手段が、前記運転状態としての前記燃焼室から排出される排ガス性状に基づいて、前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御するように構成されている請求項4に記載のエンジン。
- 前記燃焼室で圧縮された混合気が自己着火するように構成されており、
前記制御手段が、前記運転状態としての前記燃焼室における自己着火タイミングに基づいて前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御するように構成されている請求項4又は5に記載のエンジン。 - 前記制御手段が、前記運転状態としてのエンジン負荷に基づいて前記調整機構を働かせて、前記吸気領域における前記濃部の位置を制御するように構成されている請求項4から6の何れか1項に記載のエンジン。
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