水晶振動子を用いた水晶発振器は、周波数安定度は他の発振器に比べてより勝れているが、近年の移動体無線の基準発振器として使用する場合は、水晶振動子の温度特性に起因する発振周波数の変動が問題となる。この問題を解決するために、水晶振動子の温度特性を補償する、いわゆる温度補償型発振器が広く用いられている。水晶振動子の温度補償方式には、直接補償方式と間接補償方式がある。このうち、間接補償方式の温度補償型水晶発振器は、温度補償範囲の拡大が可能であり、また、近年の集積回路技術の発展に伴い、部品点数の削減と性能の向上が可能であるという利点を有する。
間接補償方式の温度補償型水晶発振器は、なんらかの回路を用いて温度補償信号を発生し、その信号で可変容量回路などを制御して、ATカット水晶振動子の温度補償を行うものである。その温度補償信号を発生する回路として、以前はディスクリート部品で構成する抵抗回路網などが採用されていたが、最近では半導体集積回路が使用されることが多くなってきている。
そして、その温度補償信号は電圧信号として発生することがほとんどである。そのため、可変容量回路には、電圧制御型の回路が採用されることが多い。また、携帯電話機に搭載する温度補償型水晶発振器の駆動電圧は、5Vから3Vに移行し、さらなる低電圧化が要求されている。これに伴って、可変容量回路に印加される信号の電圧幅は次第に狭まってきている。
そこで、間接補償方式の温度補償型水晶発振器において温度補償範囲を拡大するためには、狭い電圧範囲で容量変化率が大きい可変容量回路が必要である。また、温度補償と、外部信号によって発振周波数を制御する外部周波数制御との相互干渉を排除するために、温度補償信号と外部周波数制御信号とを合成し、この合成信号によって可変容量回路を制御するという方式も提案されている。
このような提案も、可変容量回路の容量変化率が大きく、少しの電圧変化によって水晶発振回路の発振周波数を大幅に変化させることができることが前提となっている。このようなことから、間接補償方式の温度補償型水晶発振器においては、可変容量回路がとくに重要な構成要素となっている。可変容量回路は、少なくとも1つの可変容量素子を使用して構成される。本出願人は、先に、可変容量素子としてMIS(金属−絶縁膜−半導体)型可変容量コンデンサを用いた間接補償方式による温度補償型水晶発振器について出願している(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
図10は、特許文献1に開示された温度補償型水晶発振器の概略構成を示すブロック図である。図10に示す温度補償型水晶発振器では、温度センサー11は、ATカット水晶振動子21、オシレータ22、帰還抵抗23および抵抗素子24よりなるオシレータ回路の温度を検出して、温度に依存した電圧の信号を出力する。温度に対する温度センサー11の出力電圧の関係は、1次関数に近似される。以下、1次関数に近似される関係を近似1次関数と呼ぶ。2次関数および3次関数についても同様に、各関数に近似される関係をそれぞれ近似2次関数および近似3次関数と呼ぶ。
温度センサー11の出力信号は、第1の近似2次関数発生回路13および第2の近似2次関数発生回路14に供給される。第1の近似2次関数発生回路13は、PチャネルMOSトランジスタ(以下、PMOSトランジスタとする)よりなるソース接地アンプで構成されており、そのPMOSトランジスタのゲート電極に温度センサー11の出力電圧が印加される。第2の近似2次関数発生回路14は、NチャネルMOSトランジスタ(以下、NMOSトランジスタとする)よりなるソース接地アンプで構成されており、そのNMOSトランジスタのゲート電極に温度センサー11の出力電圧が印加される。
1次関数補正回路15は、複数のパターンの温度傾斜を有する近似1次関数を発生し、ATカット水晶振動子21の温度特性に最も近い近似1次関数に基づく信号を選択する。加算回路17は、第1の近似2次関数発生回路13、第2の近似2次関数発生回路14および1次関数補正回路15のそれぞれで発生した信号を合成して出力する。温度に対する加算回路17の出力電圧の関係は、第1の近似2次関数発生回路13で発生した近似2次関数の一部と第2の近似2次関数発生回路14で発生した近似2次関数の一部とを合成した近似3次関数と、1次関数補正回路15で発生した近似1次関数とを合成した関数となる。
レギュレータ回路12は、外部から供給される電源電圧の変動を抑制し、第1の近似2次関数発生回路13、第2の近似2次関数発生回路14および1次関数補正回路15に基準電圧を供給する。一方、周波数調整回路16は、外部から入力された周波数調整用の電圧に基づいて、温度補償型水晶発振器の発振周波数の調整および標準周波数合わせを行うための直流バイアス信号を発生する。
ATカット水晶振動子21には、固定コンデンサ26aと第1のMIS型可変容量コンデンサ27aと第2のMIS型可変容量コンデンサ27bと固定コンデンサ26bとが直列に接続されてなる直列接続体が、並列に接続されている。第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの接続ノードは、固定コンデンサ26cを介して交流的に接地されている。
前記加算回路17の出力信号は、バイアス抵抗28a,28bを介して第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの各ゲート電極に供給される。また、周波数調整回路16の出力信号は、バイアス抵抗28cを介して第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの各ウェル電極に供給される。それによって、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの両極に印加される電圧が温度変化に対して近似3次関数的に変化し、ATカット水晶振動子21の3次関数的な温度特性が打ち消され、温度変化に対して安定した周波数の発振信号が出力用バッファ回路25を介して出力される。
図11は、特許文献2に開示された温度補償型水晶発振器の概略構成を示すブロック図である。図11に示す温度補償型水晶発振器では、ATカット水晶振動子21として、15〜45℃付近での周波数に温度による変化がない、いわゆるフラット水晶と呼ばれる水晶振動子を用いている。また、第1の近似2次関数発生回路13および第2の近似2次関数発生回路14は、ともにNMOSトランジスタよりなるソース接地アンプで構成されている。
そして、第1の近似2次関数発生回路13の出力信号は、第1の加算回路18において1次関数補正回路15の出力信号と合成されて、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの各ゲート電極に供給される。一方、第2の近似2次関数発生回路14の出力信号は、第2の加算回路19において周波数調整回路16の出力信号と合成されて、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの各ウェル電極に供給される。
第1の加算回路18の出力電圧は、15℃よりも低温側の温度域において温度が下がるにつれて近似2次関数的に下がる。一方、第2の加算回路19の出力電圧は、45℃よりも高温側の温度域において温度が上がるにつれて近似2次関数的に下がる。従って、低温域では、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bのゲート電極の電位がウェル電極の電位よりも低くなり、高温域ではその逆になる。つまり、15℃よりも低温域および45℃よりも高温域において、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの両極に印加される電圧が温度変化に対して近似3次関数的に変化し、ATカットのフラット水晶振動子21の温度特性が打ち消される。
ところで、特許文献2には、フラット水晶の温度特性に、全温度範囲にわたって一定の勾配が付加された温度特性を有する一般的なATカット水晶振動子の場合についても記載されている。この場合には、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ27a,27bの各ゲート電極に供給される信号、または各ウェル電極に供給される信号に、勾配補正信号を付加すれば、温度補償を実現することができるとしている。
国際公開第02/19514号パンフレット(第1図)
特開平11−88052号公報(図3、図12)
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる温度補償型水晶発振器の好適な実施の形態を詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる温度補償型水晶発振器の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、温度補償型水晶発振器は、ATカット水晶振動子51に、例えばCMOSインバータ回路よりなるオシレータ52と帰還抵抗53とが並列に接続され、かつオシレータ52の出力端子とATカット水晶振動子51との間に抵抗素子54が接続されたオシレータ回路を有する。このオシレータ回路は、出力用バッファ回路55を介して出力端子50に接続されている。
そして、固定コンデンサ56aと可変容量素子である例えば第1のMIS型可変容量コンデンサ57aと固定コンデンサ56cとを直列に接続してなる直列接続体が、オシレータ52の入力側と接地点との間に接続されている。第1のMIS型可変容量コンデンサ57aは、固定コンデンサ56aによりオシレータ回路の直流成分から切り離されているとともに、固定コンデンサ56cにより接地点の直流成分から切り離されている。
また、固定コンデンサ56bと可変容量素子である例えば第2のMIS型可変容量コンデンサ57bと固定コンデンサ56dとを直列に接続してなる直列接続体が、オシレータ52の出力側と接地点との間に接続されている。第2のMIS型可変容量コンデンサ57bは、固定コンデンサ56bによりオシレータ回路の直流成分から切り離されているとともに、固定コンデンサ56dにより接地点の直流成分から切り離されている。
第1のMIS型可変容量コンデンサ57aおよび第2のMIS型可変容量コンデンサ57bの各容量は、後述するように、それぞれのゲート電極に印加する電位Vgとウェル電極に印加する電位Vwとの電位差(Vg−Vw)に依存する。本実施の形態では、第1のMIS型可変容量コンデンサ57aのゲート電極は、バイアス抵抗58aを介して、高温側補正関数発生回路33に接続されている。第1のMIS型可変容量コンデンサ57aのウェル電極は、バイアス抵抗58cを介して、低温側補正関数発生回路34に接続されている。
同様に、第2のMIS型可変容量コンデンサ57bのゲート電極およびウェル電極は、それぞれバイアス抵抗58bおよびバイアス抵抗58dを介して、高温側補正関数発生回路33および低温側補正関数発生回路34に接続されている。高温側補正関数発生回路33を制御する信号と、低温側補正関数発生回路34を制御する信号は、対称な関係を有するアナログ電位である。これについては、後述する。
また、温度補償型水晶発振器は、温度センサー31、周波数調整回路36、1次関数補正回路35、第1のレギュレータ回路32、第2のレギュレータ回路42、反転回路40、第1のインピーダンス変換回路38、第2のインピーダンス変換回路39、前記高温側補正関数発生回路33および前記低温側補正関数発生回路34を備えている。
温度センサー31は、ATカット水晶振動子51、オシレータ52、帰還抵抗53および抵抗素子54よりなるオシレータ回路の温度を検出し、その検出した温度に依存する電圧の信号(以下、温度検出信号S1とする)を発生する。温度センサー31は、例えば複数の異種抵抗素子が直列に接続された構成となっており、抵抗分割により温度検出信号S1を発生する。温度に対する温度センサー31の出力電圧の関係は、近似1次関数で表される。温度検出信号S1は、反転回路40、第2のレギュレータ回路42および第2のインピーダンス変換回路39に供給される。
反転回路40は、温度検出信号S1を、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性の偏曲点を中心にして反転し、その偏曲点を中心として温度検出信号S1と対称な信号(以下、反転信号S2とする)を発生する。反転回路40は、例えば反転増幅器により構成される。反転信号S2は、第1のレギュレータ回路32および第1のインピーダンス変換回路38に供給される。
周波数調整回路36は、外部から入力された周波数調整用の電圧に基づいて、温度補償型水晶発振器の発振周波数の調整および標準周波数合わせを行うための直流バイアス信号(以下、周波数調整信号S3とする)を発生する。周波数調整信号S3は、第1のインピーダンス変換回路38および第2のインピーダンス変換回路39に供給される。周波数調整回路36としては、従来と同様の構成のものを用いることができる。
第1のインピーダンス変換回路38は、反転信号S2と周波数調整信号S3を合成する。第1のインピーダンス変換回路38で合成された信号(以下、低温側ドレイン信号S4とする)は、低温側補正関数発生回路34に供給される。第2のインピーダンス変換回路39は、温度検出信号S1と周波数調整信号S3を合成する。第2のインピーダンス変換回路39で合成された信号(以下、高温側ドレイン信号S5とする)は、高温側補正関数発生回路33に供給される。第1のインピーダンス変換回路38および第2のインピーダンス変換回路39としては、一般的に知られているインピーダンス変換回路を用いることができる。
第1のレギュレータ回路32は、反転信号S2に基づいて、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性を補正するための電源となる制御信号(以下、高温側ソース信号S6とする)を発生する。高温側ソース信号S6の電位は、温度変化に対して正の係数を有する。すなわち、温度が高くなるのに伴って、高温側ソース信号S6の電位は高くなる。高温側ソース信号S6は、高温側補正関数発生回路33に供給される。第1のレギュレータ回路32としては、一般的な電圧発生回路を用いることができる。
第2のレギュレータ回路42は、温度検出信号S1に基づいて、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性を補正するための電源となる制御信号(以下、低温側ソース信号S7とする)を発生する。低温側ソース信号S7の電位は、温度変化に対して負の係数を有し、従って、温度が低くなるのに伴って高くなる。そして、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性の偏曲点となる温度(以下、偏曲点温度とする)では、低温側ソース信号S7の電位は、高温側ソース信号S6の電位に等しい。低温側ソース信号S7は、低温側補正関数発生回路34に供給される。第2のレギュレータ回路42としては、一般的な電圧発生回路を用いることができる。
1次関数補正回路35は、ATカット水晶振動子51の1次の温度特性に一致させるためのバイアス電位を有する信号(以下、ゲート信号S8とする)を発生する。ゲート信号S8は、高温側補正関数発生回路33および低温側補正関数発生回路34に供給される。1次関数補正回路35は、例えば複数の異種抵抗素子が直列に接続された構成となっており、抵抗分割によりゲート信号S8を発生する。
高温側補正関数発生回路33は、抵抗素子331、PMOSトランジスタ(以下、高温側PMOSトランジスタとする)332および定電流源333を備えている。抵抗素子331は、高温側PMOSトランジスタ332のソース電極と第1のレギュレータ回路32との間に接続されている。定電流源333は、高温側PMOSトランジスタ332のドレイン電極と第2のインピーダンス変換回路39との間に接続されている。定電流源333は、高温側PMOSトランジスタ332で制御される電流を電圧に変換するものであり、例えば抵抗素子で構成されていてもよい。高温側PMOSトランジスタ332のゲート電極は、1次関数補正回路35に接続されている。
従って、高温側PMOSトランジスタ332のソース電位およびバルク電位は、高温側ソース信号S6により制御される。また、高温側PMOSトランジスタ332のドレイン電位は、高温側ドレイン信号S5により制御される。高温側PMOSトランジスタ332のゲート電位は、ゲート信号S8により、ATカット水晶振動子51の1次の温度特性に一致するようなバイアス電位に調整される。高温側PMOSトランジスタ332のドレイン電位は、周波数の補正信号S9として、バイアス抵抗58a,58bを介して第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極に印加される。
また、低温側補正関数発生回路34は、抵抗素子341、PMOSトランジスタ(以下、低温側PMOSトランジスタとする)342および定電流源343を備えており、高温側補正関数発生回路33と同じ構成となっている。抵抗素子341は、低温側PMOSトランジスタ342のソース電極と第2のレギュレータ回路42との間に接続されている。定電流源343は、低温側PMOSトランジスタ342のドレイン電極と第1のインピーダンス変換回路38との間に接続されている。定電流源343は、低温側PMOSトランジスタ342で制御される電流を電圧に変換する。定電流源343は、例えば抵抗素子で構成されていてもよい。低温側PMOSトランジスタ342のゲート電極は、1次関数補正回路35に接続されている。
従って、低温側PMOSトランジスタ342のソース電位およびバルク電位は、低温側ソース信号S7により制御される。また、低温側PMOSトランジスタ342のドレイン電位は、低温側ドレイン信号S4により制御される。低温側PMOSトランジスタ342のゲート電位は、ゲート信号S8により、ATカット水晶振動子51の1次の温度特性に一致するようなバイアス電位に調整される。低温側PMOSトランジスタ342のドレイン電位は、周波数の補正信号S10として、バイアス抵抗58c,58dを介して第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのウェル電極に印加される。
ここで、抵抗素子331,341の両端に発生する電圧は、高温側および低温側の各PMOSトランジスタ332,342のそれぞれのゲート電極とソース電極との間の電圧、すなわちゲート電圧に対して逆の極性で印加される。従って、抵抗素子331,341は、それぞれ高温側および低温側の各PMOSトランジスタ332,342のドレイン電流を減少させる作用を有する。この作用は、高温側および低温側の各PMOSトランジスタ332,342のドレイン電流(ソース電流も同じ)が増えるほど顕著になるので、高温側および低温側の各PMOSトランジスタ332,342のドレイン電流に対して一種の負帰還的作用を及ぼし、温度に対する高温側および低温側の各PMOSトランジスタ332,342のドレイン電流の直線性を改善するだけでなく、その製造ばらつきの影響も抑制する効果がある。
図2は、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの一例の概略を示す断面図である。図2に示すMIS型可変容量コンデンサは、MOS(金属−酸化物−半導体)型可変容量コンデンサ60であり、P型半導体基板61の表面層にN型ウェル領域62を形成し、そのウェル領域62の表面上にゲート酸化膜63を介してゲート電極64を形成した構成となっている。ウェル領域62の電位は、ウェル領域62に設けられた高不純物濃度のN型ソース・ドレイン領域65より与えられる。図2において、符号66は、素子分離用のLOCOS酸化膜である。
MOS型可変容量コンデンサ60において、ゲート電極64の電位が正側に変異していく過程で、ウェル領域62は蓄積状態から空乏状態となり、やがて表面反転層が形成された状態となる。蓄積状態から表面反転層が形成されるまでの間、MOS型可変容量コンデンサ60の容量が変化する。その際、ゲート電極64の電位が高周波で制御されると、発生−再結合プロセスでは、小数キャリアが表面反転層に十分に供給されないため、一定の極小値に保たれ、図3に示すようなC−Vカーブ67を示す。実施の形態では、このC−Vカーブ67において、容量Cが変化する領域を利用する。なお、図3において、縦軸は、MOS型可変容量コンデンサ60の容量Cであり、横軸は、MOS型可変容量コンデンサ60のゲート電極電位Vgとウェル電極電位Vwとの差である、いわゆるゲート電圧である。
次に、実施の形態1にかかる温度補償型発振器の作用とともに、ATカット水晶振動子の温度補償方法について説明する。低温側PMOSトランジスタ342のソース、ドレインおよびゲートには、温度検出信号S1に基づいて生成された低温側ソース信号S7、反転信号S2と周波数調整信号S3とを合成した低温側ドレイン信号S4、およびゲート信号S8がそれぞれ供給される。それによって、低温側PMOSトランジスタ342のドレイン電位は、温度に対して近似2次関数的に変化する。つまり、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのウェル電極電位Vwと温度との関係は、近似2次関数で表される。
一方、高温側PMOSトランジスタ332のソース、ドレインおよびゲートには、反転信号S2に基づいて生成された高温側ソース信号S6、温度検出信号S1と周波数調整信号S3とを合成した高温側ドレイン信号S5、およびゲート信号S8がそれぞれ供給される。従って、高温側PMOSトランジスタ332のドレイン電位は、温度に対して近似2次関数的に変化する。つまり、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgと温度との関係も、近似2次関数で表される。
そして、上述したように、反転信号S2は、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性の偏曲点を中心にして、温度検出信号S1を反転した信号であるから、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgとウェル電極電位Vwは、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性の偏曲点を中心にして反転した関係となる。従って、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量を決めるゲート電圧、すなわちゲート電極電位Vgとウェル電極電位Vwとの電位差(Vg−Vw)は、図4〜図6に示すように、温度に対して近似3次関数で表されることになる。
図4には、ATカット水晶振動子51の温度特性の1次成分の係数、すなわち温度勾配が正である場合のゲート電圧(Vg−Vw)の温度特性を示す曲線71が示されている。図5には、温度勾配がゼロである場合のゲート電圧(Vg−Vw)の温度特性を示す曲線72が示されている。図6には、温度勾配が負である場合のゲート電圧(Vg−Vw)の温度特性を示す曲線73が示されている。
図4〜図6のいずれにおいても、ゲート電極電位Vgは、係数が負である固定勾配75を有する。一方、ウェル電極電位Vwは、係数が正である固定勾配74を有する。係数が負である固定勾配75は、高温側ドレイン信号S5により生じる。係数が正である固定勾配74は、係数が負である固定勾配75を、ATカット水晶振動子51の3次関数で表される温度特性の偏曲点を中心にして反転したものであり、低温側ドレイン信号S4により生じる。
そして、ゲート電極電位Vgを示す曲線77とウェル電極電位Vwを示す曲線76は、偏曲点温度で交差する。これは、上述したように、偏曲点温度において、低温側ソース信号S7の電位と高温側ソース信号S6の電位が等しいからである。これによって、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電圧(Vg−Vw)が大きくても小さくても、偏曲点温度での第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量値は変動しない。
第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量は、図3に示すC−Vカーブ67の容量Cが変化する領域において、印加されるゲート電圧(Vg−Vw)が高くなるのに伴って増大する。従って、温度勾配が正またはゼロである場合には、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量は、高温になると大きくなり、低温になると小さくなる。温度勾配が負である場合には、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量は、高温になると一旦小さくなってから大きくなり、低温になると一旦大きくなってから小さくなる。
図1に示す構成において、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量が大きくなると、ATカット水晶振動子51の発振周波数を下げるような作用が生じる。逆に、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量が小さくなると、ATカット水晶振動子51の発振周波数を上げるような作用が生じる。従って、温度勾配が正またはゼロである場合には、温度の上昇に対してATカット水晶振動子51の発振周波数を下げるような作用が生じ、温度の下降に対してATカット水晶振動子51の発振周波数を上げるような作用が生じる。
温度勾配が負である場合には、温度の上昇に対してATカット水晶振動子51の発振周波数を一旦上げた後に下げるような作用が生じ、温度の下降に対してATカット水晶振動子51の発振周波数を一旦下げた後に上げるような作用が生じる。これらの作用は、ATカット水晶振動子51の発振周波数の3次関数的な温度特性を打ち消すものである。従って、本実施の形態によって、ATカット水晶振動子51の発振周波数の3次関数的な温度特性を打ち消すことができる。
次に、ATカット水晶振動子51の温度特性の1次成分を補正する方法の原理について説明する。図7に、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgとウェル電極電位Vwとの関係を示す。図7の各図において、縦軸および横軸は、それぞれ電位および温度である。
また、符号81および符号82は、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgおよびウェル電極電位Vwをそれぞれ示す曲線であり、符号83および符号84を付した各矢印は、それぞれゲート電極電位Vgを示す曲線81およびウェル電極電位Vwを示す曲線82の非線形スプラインの開始点を示している。符号85は、ウェル電極電位Vwを示す曲線82の極性を反転した電位、すなわち−Vwを示す曲線である。符号86は、ATカット水晶振動子51の温度特性の1次補正分(温度勾配)を示す直線である。
図7(a)、(b)および(c)は、ATカット水晶振動子51の温度特性の1次成分の係数、すなわち温度勾配がそれぞれ正の場合、ゼロの場合および負の場合である。また、図7(a)、(b)および(c)において、左側の各図は、ゲート電極電位Vgを示す曲線81とウェル電極電位Vwを示す曲線82を、判別しやすいように、別々の温度−電位軸に表したものである。そして、右側の各図は、ゲート電極電位Vgを示す曲線81とウェル電極電位Vwの反転電位−Vwを示す曲線85を同一の温度−電位軸に表したものである。
図7(a)に示すように、温度勾配が正である場合には、ゲート電極電位Vgを示す曲線の非線形スプラインの開始点83とウェル電極電位Vwを示す曲線の非線形スプラインの開始点84とが近づく向き(矢印87で示す)に、ゲート電極電位Vgを示す曲線81とウェル電極電位Vwを示す曲線82を温度軸方向に対称に移動させたスプラインが生成されるようにする。逆に、図7(c)に示すように、温度勾配が負である場合には、ゲート電極電位Vgを示す曲線81とウェル電極電位Vwを示す曲線82を、それらの非線形スプラインの開始点83,84が遠ざかる向き(矢印88で示す)に対称に移動させたスプラインが生成されるようにする。図7(b)に示すように、温度勾配がゼロである場合には、ゲート電極電位Vgを示す曲線81とウェル電極電位Vwを示す曲線82は移動させなくてよい。
そして、偏曲点温度においてゲート電極電位Vgを示す曲線81およびウェル電極電位Vwの反転電位−Vwを示す曲線85に接する接線が、ATカット水晶振動子の温度特性の1次補正分を示す直線86となる。このように、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgおよびウェル電極電位Vwの非線形スプラインの開始点83,84と、3次関数の偏曲点との相対関係により、ATカット水晶振動子51の温度特性の1次成分を補正することができる。
次に、ATカット水晶振動子51の標準周波数を調整する方法の原理について説明する。図8に、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgとウェル電極電位Vwとの関係を示す。図7と同様に、図8の各図において、縦軸および横軸は、それぞれ電位および温度である。また、符号91および符号92は、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgおよびウェル電極電位Vwをそれぞれ示す曲線である。符号93は、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電圧(Vg−Vw)を示す曲線である。
周波数調整等により第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bの容量値を変える場合には、ゲート電極電位Vgを示す曲線91とウェル電極電位Vwを示す曲線92を電位軸方向に移動させたスプラインが生成されるようにする。例えば、図8(b)に示すように、ゲート電極電位Vgを示す曲線91を、矢印95で示すように低電位側に移動させたスプラインと、ウェル電極電位Vwを示す曲線92を、矢印96で示すように高電位側に移動させたスプラインを生成させる。この場合には、ゲート電圧(Vg−Vw)を示す曲線93は、図8(a)に示す曲線93よりも低電位側へ移動する。従って、Vg−Vw=0となる基準線94から見て、容量値が全体的に低くなる。
一方、例えば、図8(c)に示すように、ゲート電極電位Vgを示す曲線91を、矢印97で示すように高電位側に移動させたスプラインと、ウェル電極電位Vwを示す曲線92を、矢印98で示すように低電位側に移動させたスプラインを生成させる。この場合には、ゲート電圧(Vg−Vw)を示す曲線93は、図8(a)に示す曲線93よりも高電位側へ移動する。つまり、Vg−Vw=0となる基準線94から見て、容量値が全体的に高くなる。このようにして、ATカット水晶振動子51の標準周波数を調整することができる。
実施の形態2.
図9は、本発明の実施の形態2にかかる温度補償型水晶発振器の概略構成を示すブロック図である。図9に示すように、実施の形態2は、実施の形態1において、低温側PMOSトランジスタ342のゲート電位を、温度センサー31から出力される温度検出信号S1により制御することと、高温側PMOSトランジスタ332のゲート電位を、反転回路40から出力される反転信号S2により制御することと、低温側PMOSトランジスタ342および高温側PMOSトランジスタ332の各ソース電位および各バルク電位を、ATカット水晶振動子51の温度特性の3次関数を補正するための補正量を調整するレギュレータ回路32の出力信号(ソース信号S6)により制御するようにしたものである。
図4〜図6に示す係数が正である固定勾配74は、温度センサー31から低温側PMOSトランジスタ342のゲート電極に入力する温度検出信号S1により生じる。係数が負である固定勾配75は、反転回路40から高温側PMOSトランジスタ332のゲート電極に入力する反転信号S2により生じる。実施の形態2では、実施の形態1で設けられていた1次関数補正回路35は、設けられていない。その他の構成および作用等は、実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
以上説明したように、実施の形態にかかる温度補償型水晶発振器によれば、高温側補正関数発生回路33と低温側補正関数発生回路34が同じ回路構成であり、また、高温側補正関数発生回路33への入力信号と低温側補正関数発生回路34への入力信号が偏曲点温度を中心にして対称であるので、全温度域にわたって線形領域を含まない3次関数的な温度特性を有するATカット水晶振動子51の高温側および低温側の両方の温度特性を完全に補償することができる。また、高温側補正関数発生回路33と低温側補正関数発生回路34の構成が同じであることによって、高温側補正関数発生回路33および低温側補正関数発生回路34の温度補正を同様に行うことができる。
さらに、高温側補正関数発生回路33および低温側補正関数発生回路34で発生した2つの信号を合成してできる近似3次関数的な信号の偏曲点が、ATカット水晶振動子51の3次関数的な温度特性の偏曲点に一致する。また、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgからウェル電極電位Vwを減ずるだけでATカット水晶振動子51の温度特性の1次成分を補正することができる。従って、煩雑な調整を行わなくても、全温度域にわたって線形領域を含まない3次関数的な温度特性を有するATカット水晶振動子51の温度特性を補償することができる。
また、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極電位Vgおよびウェル電極電位Vwのスプライン形状や補正量を変えても、偏曲点温度におけるゲート電極電位Vgとウェル電極電位Vwとの電位差は変化しない。従って、煩雑な調整を行わなくても、ATカット水晶振動子51の温度特性を補償することができる。また、3次関数を補正するDCバイアスの電位幅を減らすことができる。また、従来必要であった、複数パターンの温度傾斜を有する近似1次関数を発生する回路が不要となり、回路構成が簡略化される。
以上において、本発明は、上述した各実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、可変容量素子として、半導体基板にnウェルを形成し、さらにそのnウェルの中にpウェルを形成することによって、バルク側の電位を任意に設定することができるようにしたバリキャップダイオードを用いることもできる。また、高温側PMOSトランジスタ332および低温側PMOSトランジスタ342に代えて、NMOSトランジスタを用いて高温側補正関数発生回路33および低温側補正関数発生回路34を構成することもできる。その場合には、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのゲート電極に、低温側補正関数発生回路34のNMOSトランジスタのドレイン電位を印加し、第1および第2のMIS型可変容量コンデンサ57a,57bのウェル電極に、高温側補正関数発生回路33のNMOSトランジスタのドレイン電位を印加するようにすればよい。