JP4383682B2 - 仮撚加工糸の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はナイロン、ポリエステル等の合成繊維糸条の仮撚加工方法における改善に関するものである。さらに詳しくは、加工において断糸の発生を抑え、安定的に仮撚加工糸を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から糸条に延伸及び仮撚加工を行う際には、上流と下流に位置する糸条を供給する糸条送り装置の間で、加熱装置により糸条を加熱し、仮撚装置にて糸条に撚りを与えながら延伸させている。ここで、加熱装置としては、高温の加熱体により走行中の糸条を非接触で加熱することができる高温非接触式が用いられる。しかし、この非接触式加熱装置においては、800m/min以上の高速で加工を行う場合、加熱装置内を走行している糸条は、仮撚装置、糸送り装置等の回転体等の振動の影響を受けて、振動を生じ、加熱斑及び張力変動が発生するため、良好な品質の糸条が得られない。さらに、ひどい場合には、それらの回転体の振動に共振することにより、糸条の振動は大きくなって加工自体が困難になるという問題がある。
【0003】
このような問題を改善するため、従来、加熱装置内に糸条の振動を規制するための案内ガイドが、ある間隔にて配置されている。確かにこのような案内ガイドを配置することにより、糸条の振動を抑制することができ、加工糸の品質は向上するもののまだ不十分である。そのため、特開平6−158463号公報には、さらに加熱装置中の加熱体を上下段に2分割し、上段ヒータの温度を400℃以上800℃以下、熱処理時間を0.01秒以上0.04秒以下、下段ヒータの温度を320℃以下、熱処理時間を0.03秒以上0.08秒以下で加工を行うことにより、糸条の振動を抑え、安定的に良好な品質の仮撚加工糸を製造する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、この方法においては、所要の品質を有する仮撚加工糸を得るためには、上段温度を比較的高い温度に設定しなければならず、加工中の断糸が多発しやすいという問題がある。すなわち、加熱装置内の比較的上流の位置では糸条は延伸過程にあり、この過程においては加熱装置内の比較的下流の延伸後に比べ、糸条の直径が大きいため撚りの数も比較的少ない。そのため、糸条を構成する個々の単糸間の集束が悪く、単糸間の距離が離れ、糸条がばらけた状態にあり、所要の加工糸物性を得るための加熱温度では、加熱装置内で加熱された案内ガイドと接触する単糸は急激に加熱昇温され、一気に溶融温度まで上昇する。また、単糸間の集束が十分に行われていない領域では、案内ガイドと接触する単糸と接触しない単糸間で張力差を生じる。即ち、各単糸に平均的に張力が働かず、案内ガイドと接触する単糸に集中的に張力が働くため、該単糸は損傷を受け、断糸する。このような現象が多発するため、走行糸条の断糸が生じ、加工が困難になるという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の従来技術の有する問題に鑑みなされたもので、その目的は、加熱装置内の上流で見られる糸条のダメージを低減し、加工中の断糸を抑えることができる仮撚加工糸の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1は糸条送り装置、走行糸条を非接触状態にて加熱し、かつ、該走行糸条の走行路に複数の案内ガイドを設置した加熱装置、撚り遡及を止める撚止装置、冷却装置、仮撚装置を備えた仮撚加工機を用いて糸条を仮撚加工するに際し、前記加熱装置内において、走行糸条が下記の(1)及び(2)式を同時に満たす領域では、走行糸条を案内ガイドに接触させないことを特徴とする仮撚加工糸の製造方法である。
(1) Y≦1500
(2) Tf≧Tg
式中、Yは糸条1m当たりの撚り数(回/m)、Tfは走行糸条の平均温度(℃)、Tgは糸条を構成する合成樹脂のガラス転移点(℃)を示す。次にその2は前記加熱装置内において、走行糸条が下記(3)及び(4)式を同時に満たす領域では、走行糸条を案内ガイドに接触させない上記第1記載の仮撚加工糸の製造方法である。
(3)Y≦2000
(4)Tf≧Tg−10
その3は、前記(1)及び(2)式を同時に満たす領域、又は、前記(3)及び(4)式を同時に満たす領域、並びに、該領域の前後30mmを含む領域で、前記走行糸条を案内ガイドに接触させない上記第1または第2のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法である。その4は前記加熱装置内において、走行糸条を案内ガイドに接触させない領域を除いて、案内ガイドが20mm〜110mmのピッチで配置されている加熱装置を用いる上記第1〜第3のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法である。その5は、前記加熱装置内において、加熱体が上流側から下流側に1:2〜1:5の長さ比率に2分されている加熱装置を用いる上記第1〜第4のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法である。その6は前記走行糸条がポリエステルである上記第1〜第5のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法である。さらに、その7は加工速度が800m/min以上1200m/min以下である上記第1〜第6のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法である。
【0007】
なお、加熱装置内の走行糸条の撚り数については、加工中において、加熱装置上下部にて、走行糸条を同時に掴み取ることによりサンプルとし、該サンプルを10cm間隔で解撚器により撚り数を測定し、1m当たりの撚り数を算出した。また、加熱装置内の走行糸条温度については、下記の式を元に、数値計算により求めた。
dT/dX=πDh(T−Ta)/WCp
ここで、dTは走行糸条がdX(m)の距離だけ進んだ時の温度上昇(℃)、πは円周率、Dは加工糸条を単一糸と見なしたときの直径(m)、hは空気と糸条の熱伝達率(W/(m2・K))、Tは走行糸条温度(℃)、Taは雰囲気温度(℃)、Wは加工速度における単位時間当たりの糸条通過量(Kg/sec)、Cpは走行糸条の比熱(J/(Kg・K))をそれぞれ表す。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら、その作用と共に詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明を実施するために使用される仮撚加工機を図示した模式図である。該図において、1は加工原糸、aは糸条、2は第1糸条送り装置であり、加工原糸1から取り出した糸条aは第1糸条送り装置2を介して送られる。ここで、第1糸条送り装置2は一対のローラーが接触しているニップローラー方式の他に、ローラーにベルトを接触させたエプロンローラー方式等が適宜選択でき、糸条を安定的に送ることができるものであれば、ここに例示した以外のものを用いてもよい。また、3は撚止装置、4は第1加熱装置(加熱装置)、5は冷却装置、6は仮撚装置をそれぞれ示し、仮撚装置6はスピンドル式、摩擦ディスク式、摩擦ベルト式等の公知のものが適宜選択できる。7は第2糸条送り装置、8は第2加熱装置、9は第3糸条送り装置、10は巻取装置をそれぞれ示す。ここで、糸条aは第1糸条送り装置2と第2糸条送り装置7の間にて所要の倍率に延伸されるとともに、仮撚装置6により、撚止装置3の間で糸条aに撚りが付加され、撚り形態が熱固定される。この際、糸条aの経路としては、第1糸条送り装置2から撚止装置3を介し、第1加熱装置4の加熱空間に入る。次に、第1加熱装置4を出た糸条aは冷却装置5にて冷却され、仮撚装置6を出た後、解撚され、第2糸条送り装置7から第2加熱装置8へ送られ、次に第3糸条送り装置9から巻取装置10にて所定の製品形状に巻き取られる。なお、第2加熱装置8は加工糸の捲縮率を調整するため、必要に応じて使用されるが、本発明においては特に必要なものではない。また、第2糸条送り装置7及び第3糸条送り装置9は第1糸条送り装置2と同様に、一対のローラーが接触しているニップローラー方式以外に、ローラーにベルトを接触させたエプロンローラー方式等が適宜選択できる。
【0010】
次に、本発明の仮撚加工糸の製造方法について、図2を用いて説明する。図2は図1における第1加熱装置4について、断面を施した拡大図である。図2において、11は案内ガイド、12は加熱体を示し、該加熱体12にはシーズヒータ(図示せず)が埋め込まれており、該シーズヒータで温度制御を行う。なお、図2では加熱体12が上流側と下流側に2分割されているが、本発明では、加熱体12は必ずしも分割されている必要はなく、一体であってもさしつかえない。また、案内ガイド11は、糸条aの走行通路が曲率を有するように配置することで糸条aの揺れを防止している。該案内ガイド11の材質としては、耐熱性等を考慮し、セラミックス、金属製のものが適宜選択できる。さらに、図2において、Bは走行糸条の平均温度Tf(℃)が、糸条を構成する合成樹脂のガラス転移点Tg(℃)となる位置、Cは走行糸条の撚り数が1500(回/m)となる位置を示し、BからCに至る領域については、案内ガイド11を配置していない。
【0011】
すなわち、本発明では複数の案内ガイドを設置した第1加熱装置4内の下記(1)及び(2)式を同時に満たす領域で、走行糸条を案内ガイドに接触させないことが必要である。
(1)Y≦1500
(2)Tf≧Tg
また、第1加熱装置4内の下記(3)及び(4)式を同時に満たす領域で、走行糸条を案内ガイドに接触させないことが好ましい。
(3)Y≦2000
(4)Tf≧Tg−10
第1加熱装置4内においては、仮撚装置6にて施撚されつつ、第1糸条送り装置2と第二糸条送り装置7との間で延伸されるため、糸条は走行方向にその太さを減少していく。ここで、糸条の撚り数は、糸条の太さとは逆に増加していき、延伸が終了する時点で最終の撚り数に達する。そのため、延伸終了までの比較的撚り数が少ない領域については、糸条を構成する個々の単糸同士の集束が悪いため、単糸間の距離が離れ、糸条がばらけた状態にある。その結果、該糸条と案内ガイド11との接触面積が大きくなり、接触抵抗の上昇を招き、案内ガイド11と接触している単糸が損傷を受け、容易に切断する。そこで、検討を重ねた結果、糸条1m当たりの撚り数Y(回/m)が1500(好ましくは2000)以下の領域については、案内ガイド11を配置しないことが重要であることを見出した。また、同時に走行糸条の平均温度Tf(℃)が糸条を構成する合成樹脂のガラス転移点Tg(好ましくはTg−10)(℃)以上となる領域について、案内ガイド11を配置しないことが肝要である。すなわち、走行糸条の平均温度Tf(℃)が糸条を構成する合成樹脂のガラス転移点Tgを超えると、走行糸条が案内ガイド11に接触する際に、容易に変形を生じ、損傷を受けることになる。
【0012】
ここで、走行糸条の撚り数Y及び平均温度Tfは加工中において、ばらつきを生じるため、前記(1)及び(2)式を同時に満たす領域、又は、(3)及び(4)式を同時に満たす領域、並びに該領域の前後30mmを含む領域で、走行糸条を案内ガイドに接触させないことが望ましい。
【0013】
また、前記加熱装置内において、走行糸条を案内ガイドに接触させない領域を除いて、案内ガイド11を20mm〜110mmの範囲の配置間隔で配置することが好ましい。すなわち、110mmを超えると、糸揺れが大きくなるため品質に問題が生じる。また、20mmより小さいと案内ガイド11の数が多くなり、走行糸条との接触機会が多くなるため、断糸が増えるばかりでなく、経済的でない。
【0014】
さらに、第1加熱装置4内の加熱体12は走行糸条を適切に加熱し、良好な品質の加工糸を得るため、上流側と下流側に1:2〜1:5の比率で分割されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明によれば、仮撚加工の加工速度は800m/min〜1200m/minとすることができる。すなわち、800m/min未満では生産性が低く、加工中の断糸を抑えることができても経済的なメリットがにくく、1200m/minを超えると糸条aは仮撚装置6、第1糸条送り装置2、第2糸条送り装置7の振動に共振することにより、加工が困難になる。
【0016】
【実施例】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0017】
[実施例1]
丸断面の総繊度143デシテックス単糸繊度36フィラメント、ガラス転移点Tgが70℃であるポリエステルマルチフィラメント未延伸糸を図1に示すような延伸仮撚装置により、下記に示す条件で加工後の総繊度が84デシテックスになるように(延伸倍率=1.78)、1000m/分の高速仮撚加工を行った。
【0018】
全長が1mである第1加熱装置を上流側から下流側に1:2.65に分割し、上流側分割ヒータの温度を470℃、下流側分割ヒータの温度を320℃に設定した。さらに、案内ガイドを表1に示す領域に配置する加熱装置を用いた。
【0019】
[比較例1]
第1加熱装置内において案内ガイドを糸条入側から糸条出側まで配置し、それ以外は実施例1と同じ原糸、延伸仮撚装置、温度、速度で仮撚加工を行った。
【0020】
操業性の結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
Figure 0004383682
【0022】
表1より明らかなように、実施例1では、安定した操業が可能であり、得られた仮撚加工糸の品位も良好であった。一方、比較例1では、操業中に糸切れが多発して長時間の安定した加工は不可能であった。
【0023】
【発明の効果】
以上のように、本発明により、加熱装置内において、糸条の平均温度と糸条の撚り数により限定される領域で走行糸条を案内ガイドに接触させないことにより、糸条を構成する単糸の損傷を防ぎ、加工中の断糸を発生させることなく、安定的に仮撚加工糸の製造を行うことができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するために使用される仮撚加工機を例示した模式図である。
【図2】図1の第1加熱装置を拡大した断面図である。
【符号の説明】
1 加工原糸
2 第1糸条送り装置
3 撚止装置
4 第1加熱装置
5 冷却装置
6 仮撚装置
7 第2糸条送り装置
8 第2加熱装置
9 第3糸条送り装置
10 巻取装置
11 案内ガイド
12 加熱体
13 断熱材
a 糸条

Claims (7)

  1. 糸条送り装置、走行糸条を非接触状態にて加熱し、かつ、該走行糸条の走行路に複数の案内ガイドを設置した加熱装置、撚り遡及を止める撚止装置、冷却装置、仮撚装置を備えた仮撚加工機を用いて糸条を仮撚加工するに際し、前記加熱装置内において、走行糸条が下記の(1)及び(2)式を同時に満たす領域では、走行糸条を案内ガイドに接触させないことを特徴とする仮撚加工糸の製造方法。
    (1)Y≦1500
    (2)Tf≧Tg
    式中、Yは糸条1m当たりの撚り数(回/m)、Tfは走行糸条の平均温度(℃)、Tgは糸条を構成する合成樹脂のガラス転移点(℃)を示す。
  2. 前記加熱装置内において、走行糸条が下記(3)及び(4)式を同時に満たす領域では、走行糸条を案内ガイドに接触させない請求項1記載の仮撚加工糸の製造方法。
    (3)Y≦2000
    (4)Tf≧Tg−10
  3. 前記(1)及び(2)式を同時に満たす領域、又は、前記(3)及び(4)式を同時に満たす領域、並びに、該領域の前後30mmを含む領域で、前記走行糸条を案内ガイドに接触させない請求項1または請求項2のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法。
  4. 前記加熱装置内において、走行糸条を案内ガイドに接触させない領域を除いて、案内ガイドが20mm〜110mmのピッチで配置されている加熱装置を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法。
  5. 前記加熱装置内において、加熱体が上流側から下流側に1:2〜1:5の長さ比率に2分されている加熱装置を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法。
  6. 前記走行糸条がポリエステルである請求項1〜5のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法。
  7. 加工速度が800m/min以上1200m/min以下である請求項1〜6のいずれかに記載の仮撚加工糸の製造方法。
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