しかしながら、防音性を高めるためには、扉をできるだけ気密に構成するのが望ましいのに対し、換気のためには通気性を確保するように構成しなければならず、防音と通気の両方の機能を有する扉を構成するのは困難であるという問題を生じていた。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、防音性及び通気性の両方を確保することが可能な遮音扉構造を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る遮音扉構造は請求項1に記載したように、矩形状枠体の構面内に該矩形状枠体の短手方向と平行な横材が複数配置された矩形状フレームと該矩形状フレームの正面及び背面にそれぞれ気密に接合された一対の面板とからなり前記矩形状枠体及び前記面板で囲まれた扉内空間が前記各横材によって複数の分割空間に区画されてなる遮音扉を扉枠内に設置した遮音扉構造において、
前記複数の分割空間のうち、前記各横材を介して隣接する分割空間が互いに連通するように該各横材に所定の貫通孔をそれぞれ形成するとともに、前記矩形状枠体のうち、建込み姿勢にて上部に位置する上枠材に上部貫通孔を形成して前記分割空間のうち、最上段の分割空間を外部に連通させ、前記矩形状枠体のうち、建込み姿勢にて下部に位置する下枠材に下部貫通孔を形成して前記分割空間のうち、最下段の分割空間を外部に連通させ、前記遮音扉を閉じた状態にて、前記上部貫通孔が居室の外側に拡がる非居室空間に連通し居室内空間には非連通となるとともに前記下部貫通孔が前記非居室空間に非連通となり前記居室内空間に連通するように、前記遮音扉と前記扉枠との隙間のうち、該遮音扉の上縁側及び側方縁部側であって前記居室側に第1のシール部材を配置するとともに、前記遮音扉と床面との隙間のうち、前記遮音扉の下縁側であって前記非居室空間側に第2のシール部材を配置したものである。
また、本発明に係る遮音扉構造は、前記遮音扉の開き側側方縁部の下端近傍と前記床面との隙間を塞ぐ塞ぎブロックを前記床面に設置したものである。
また、本発明に係る遮音扉構造は、前記各分割空間に前記面板と非平行にかつ建込み状態にて鉛直になるように所定の仕切板を配置して前記各分割空間の空気層の厚みを前記矩形状枠体の短手方向に沿って変化させたものである。
また、本発明に係る遮音扉構造は、前記仕切板を中央で折曲げ形成された折曲げ板で構成し、該折曲げ板の両側方縁部を前記矩形状枠体の内方両側面にそれぞれ接合するとともに、前記折曲げ板の折曲げ位置における山側突出部を前記面板の内面に接合したものである。
また、本発明に係る遮音扉構造は、前記各折曲げ板をその折曲げ側が前記矩形状枠体の長手方向に沿って交互になるように前記分割空間にそれぞれ配置したものである。
居室内空間から居室の外側に拡がる非居室空間へ音が伝播する場合、一般的には居室内空間で発生した音が扉を透過する場合と扉枠との隙間から漏れる場合とがあるが、かかる従来技術においては、居室の換気を確保することはできても、扉枠との隙間が発生していることによって、居室内での発生音を遮音することができず、非居室空間に音が伝播するのを避けることは困難である。
それに対し、本発明に係る遮音扉構造においては、扉枠との隙間を気密に構成するとともに扉内空間に空気が流れる流路を新規に構成することにより、換気を確保しながら、以下のように居室内空間の発生音を減衰させる。
すなわち、本発明に係る遮音扉構造においては、居室内空間で発生した音が扉内空間を伝播して非居室空間へ伝わる際、まず、下部貫通孔を介して最下段の分割空間に音が入り、次いで、横材に設けられた貫通孔を通過して隣接する分割空間に音が入る。以下、貫通孔と分割空間とを交互に音が伝播していき、最後に上部貫通孔から非居室空間へと音が出ていく。
かかる過程において、遮音扉内に入った音は、断面積が大きい分割空間と、断面積が小さい貫通孔とを交互に伝播していくこととなるため、かかる断面積の変化によって生じる音の反射や、貫通孔を通過する際に生じる摩擦等によって音のエネルギーが減衰する。すなわち、遮音扉内を音が伝播していく際には、空洞型消音器と同様の効果を得ることができ、居室内空間で発生した音は、扉内空間を伝播する際に減衰されて非居室空間へ伝わることとなり、防音性を確保することが可能となる。
なお、非居室空間で発生した音が扉内空間を伝播して居室内空間へ伝わる際も、音が伝播していく方向が逆になるだけで、上述した居室内空間で発生した音が非居室空間へ伝わる場合と同様の作用効果を奏することとなる。
一方、非居室空間の空気は、上部貫通孔から最上段の分割空間に入り、横材に設けられた貫通孔と分割空間とを交互に通過しながら、下部貫通孔から居室内空間へと出ていく。
このように、遮音扉内には鉛直に抜ける空気の流路が形成されているため、非居室空間から居室内空間への通気性も確保することが可能となる。
なお、居室内空間から非居室空間への通気性も同時に確保されることは言うまでもない。
貫通孔は、互いに隣接する2つの分割空間を連通させることができるのであれば、どのような構成であるかは問わないが、音を減衰させることができるよう、分割空間の断面積に対する貫通孔の断面積の比率を適宜設定する。
上部貫通孔及び下部貫通孔についても同様であり、分割空間と外部とを連通させることができるのであれば、どのような構成であるかは問わないが、音を減衰させることができるよう、分割空間の断面積に対する上部貫通孔及び下部貫通孔の断面積の比率を適宜設定する。
ここで、各分割空間に面板と非平行にかつ建込み状態にて鉛直になるように所定の仕切板を配置して各分割空間の空気層の厚みを矩形状枠体の短手方向に沿って変化させた場合においては、各面板と仕切板との間に形成される空気層の厚みが均一でなくなるため、二重壁に起因する共振作用によって特定の周波数の音が通過しやすくなるという透過損失の問題を解消し、遮音扉の防音性を向上させることが可能となる。
なお、仕切板が建込み状態にて鉛直になるように配置されているので、各分割空間の相互連通、ひいては鉛直に抜ける空気の流路は上述したようにそのまま維持される。したがって、通気性が阻害される懸念はない。
仕切板は、各分割空間に面板と非平行にかつ建込み状態にて鉛直になるように配置して各分割空間の空気層の厚みを矩形状枠体の短手方向に沿って変化させることができるのであれば、どのように構成するかは任意であり、例えば、矩形状の平板で構成することが考えられるが、ここで、仕切板を中央で折曲げ形成された折曲げ板で構成し、該折曲げ板の両側方縁部を矩形状枠体の内方両側面にそれぞれ接合するとともに、折曲げ板の折曲げ位置における山側突出部を面板の内面に接合してもかまわない。
このようにすると、各折曲げ板を分割空間に取り付ける際の作業性が向上する。すなわち、遮音扉を製造する際は、まず、一方の面板を矩形状フレームに接合し、次いで、仕切板を取り付け、次に、他方の面板を接合することとなるが、仕切板を折曲げ板で構成してあるため、折曲げ板を取り付ける際、矩形状フレーム内に折曲げ板を置くだけで、面板と非平行となるように安定して配置することができ、容易に折曲げ板を取り付けることが可能となる。
ここで、各折曲げ板をその折曲げ側が全て正面側となるように、又は全て背面側となるように配置してもかまわないが、各折曲げ板をその折曲げ側が矩形状枠体の長手方向に沿って交互になるように複数の分割空間にそれぞれ配置するようにしてもかまわない。
このようにすれば、遮音扉を対称構造とすることが可能となり、遮音扉の反りを未然に防止することができる。
また、本発明に係る遮音扉構造においては、請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の遮音扉を扉枠内に設置し、遮音扉を閉じた状態にて、上部貫通孔が居室の外側に拡がる非居室空間に連通し居室内空間には非連通となるとともに下部貫通孔が非居室空間に非連通となり居室内空間に連通するように、遮音扉と扉枠との隙間のうち、該遮音扉の上縁側及び側方縁部側であって居室側に第1のシール部材を配置するとともに、遮音扉と床面との隙間のうち、遮音扉の下縁側であって非居室空間側に第2のシール部材を配置してある。
そのため、遮音扉と扉枠との隙間を介した音の漏洩が未然に防止されるとともに、上述した上部貫通孔、貫通孔及び下部貫通孔における連通は、第1のシール部材及び第2のシール部材によって何ら阻害されず、居室の換気は上述した通り、十分に確保される。
第1のシール部材は、遮音扉を閉じた状態にて、上部貫通孔が居室の外側に拡がる非居室空間に連通し居室内空間には非連通となるように、遮音扉と扉枠との隙間に配置することができるのであれば、どのように構成するかは任意である。
第2のシール部材は、遮音扉を閉じた状態にて、下部貫通孔が非居室空間に非連通となり居室内空間に連通するように、遮音扉と床面との隙間に配置することができるのであれば、どのように構成するかは任意である。例えば、ピンチブロック株式会社から市販されている下框気密装置を使用することが可能である。
ここで、遮音扉の開き側側方縁部の下端近傍と床面との隙間を塞ぐ塞ぎブロックを床面に設置した場合においては、気密性を確保することが難しい遮音扉の開き側側方縁部の下端近傍の隙間を確実に塞ぎ、より防音性を向上させることが可能となる。
以下、本発明に係る遮音扉及び遮音扉構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
図1及び図2は、本実施形態に係る遮音扉1を示した図であり、図1は斜視図、図2(a)は鉛直断面図、(b)は(a)のA―A線に沿う断面図、(c)は(a)のB―B線に沿う断面図である。これらの図に示すように、本実施形態に係る遮音扉1は、矩形状枠体2及び該矩形状枠体の構面内に配置された複数の横材4からなる矩形状フレーム15と、該矩形状フレームに気密に接合された一対の面板3a,3bとで概ね構成してあり、面板3aは矩形状フレーム15の正面に、面板3bは矩形状フレーム15の背面にそれぞれ接合してある。
一対の面板3a,3bは、矩形状の中質繊維板(MDF)5と、該中質繊維板の内面側、すなわち矩形状フレーム15に接合される側に接着された制振ゴム6とでそれぞれ構成してある。
矩形状枠体2は、建込み姿勢にて上部に位置する上枠材7と、下部に位置する下枠材8と、両側方に位置する一対の縦枠材9,9とを全体が矩形状となるように各端を互いに接合してなる。なお、一対の縦枠材9,9の外方側面には、仕上げ材10をそれぞれ取り付けてある。
横材4は、矩形状枠体2の短手方向、すなわち上枠材7及び下枠材8と平行になるように所定間隔で配置するとともに、その両端を縦枠材9,9に接合してあり、矩形状枠体2と各面板3a,3bとで囲まれた扉内空間を複数の分割空間21に区画している。また、各横材4には、矩形状枠体2の長手方向、すなわち縦枠材9と平行になるように貫通孔11をそれぞれ形成してあり、該貫通孔を介して複数の分割空間21を連続的に連通させるようになっている。
矩形状枠体2の上枠材7には、縦枠材9と平行になるように上部貫通孔12を形成してあり、分割空間21のうち、最上段の分割空間21を外部に連通させるようになっているとともに、矩形状枠体2の下枠材8にも、縦枠材9と平行になるように下部貫通孔13を形成してあり、分割空間21のうち、最下段の分割空間21を外部に連通させるようになっている。
貫通孔11、上部貫通孔12及び下部貫通孔13は、円筒形状に形成してあり、各横材4、上枠材7及び下枠材8に等間隔で複数設けてある。
各分割空間21には、建込み状態にて鉛直になるように仕切板としての折曲げ板14a,14bを配置してあるとともに、面板3a,3bと非平行に配置することにより、各分割空間21の空気層の厚みを矩形状枠体2の短手方向に沿って変化させてある。
折曲げ板14aは、図2(b)に示すように、断面がくの字状となるように中央で折曲げ形成して構成してあり、該折曲げ板の両側方縁部を矩形状枠体2の各縦枠材9の内方側面であって背面側の面板3b近傍にそれぞれ接合するとともに、折曲げ板14aの折曲げ位置における山側突出部を正面側の面板3aの内面に接合してある。
折曲げ板14bは、図2(c)に示すように、折曲げ板14aとほぼ同様、断面がくの字状となるように中央で折曲げ形成して構成してあり、該折曲げ板の両側方縁部を矩形状枠体2の各縦枠材9の内方側面であって正面側の面板3a近傍にそれぞれ接合するとともに、折曲げ板14bの折曲げ位置における山側突出部を背面側の面板3bの内面に接合してある。
ここで、各折曲げ板14a,14bは図2(a)でよくわかるように、それらの折曲げ側が矩形状枠体2の長手方向に沿って交互になるように各分割空間21にそれぞれ配置してある。
なお、各折曲げ板14a,14bによって各分割空間21は正面側空間22と背面側空間23とに仕切られることとなるが、折曲げ板14a,14bが建込み状態にて鉛直になるように配置されているため、折曲げ板14a,14bが分割空間21,21同士の連通を阻害するものではなく、隣接する分割空間21,21は、貫通孔11を介した相互連通が維持される。
図3は、遮音扉1を居室であるトイレの扉として用いた場合における遮音扉構造31を示した図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のC―C線に沿う断面図、(c)は(a)のD―D線に沿う断面図である。同図に示すように、本実施形態に係る遮音扉構造31は、遮音扉1をトイレの扉として扉枠32内に設置してなり、遮音扉1の正面側はトイレの外側に拡がる非居室空間である廊下側、遮音扉1の背面側は居室内空間であるトイレ側となっている。
遮音扉1と扉枠32との隙間のうち、遮音扉1の上縁側及び両側方縁部側には、遮音扉1を閉じた状態にて、上部貫通孔12が廊下に連通しトイレには非連通となるよう、第1のシール部材33をトイレ側に配置してある。なお、第1のシール部材33は、例えば扉枠32の内面に接着することによって取り付ければよい。
第1のシール部材33は、遮音扉1を閉じた状態において隙間を塞いで気密となるように、例えば市販のドアパッキンから適宜選択して用いればよい。
一方、遮音扉1と床面36との隙間のうち、遮音扉1の下縁側には、下部貫通孔13が廊下に非連通となりトイレに連通するよう、第2のシール部材34を廊下側に配置してある。
第2のシール部材34は、ピンチブロック株式会社から市販されている下框気密装置を使用することが可能であり、該下框気密装置は、ゴム体を昇降自在に構成することによって、遮音扉1と床面36との隙間を塞ぐことができるようになっており、昇降ストロークを限度としてさまざまな大きさの隙間に対応可能である。
ここで、遮音扉1の開き側側方縁部、すなわち遮音扉1の吊り元とは反対側の下端近傍の床面36には塞ぎブロック35を設置してあり、遮音扉1を閉じた状態にて、該遮音扉の開き側側方縁部と床面36との隙間を塞ぐようになっている。
塞ぎブロック35は、発砲ウレタンや発泡ゴムを隙間の大きさに合わせて角柱状に形成して構成してある。
本実施形態に係る遮音扉1を製造する際は、まず、正面側の面板3aを構成する中質繊維板5の内面に制振ゴム6を接着剤で貼着する。一方、貫通孔11を形成した横材4を、上部貫通孔12及び下部貫通孔13を形成した矩形状枠体2に接合して矩形状フレーム15を製造しておく。
次に、正面側の面板3aの内面に矩形状フレーム15を気密に接合する。
次に、仕切板である折曲げ板14a,14bをそれぞれ取り付ける。このとき、仕切板を折曲げ板14a,14bで構成してあるため、該折曲げ板を矩形状フレーム15内に置くだけで面板3aと非平行となるように安定して配置することができる。
次に、背面側の面板3bを構成する中質繊維板5の内面に制振ゴム6を接着剤で貼着しておき、矩形状フレーム15の背面側に配置して、該矩形状フレームと気密に接合する。
本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31においては、遮音扉1と扉枠32との隙間を気密に構成するとともに扉内空間に空気が流れる流路を設けることにより、換気を確保しながら、以下のようにトイレで発生した音を減衰させる。
すなわち、トイレで発生した音が扉内空間を伝播して廊下へ伝わる際、まず、下部貫通孔13を介して最下段の分割空間21に音が入り、次いで、横材4に設けられた貫通孔11を通過して隣接する分割空間21に音が入る。以下、貫通孔11と分割空間21とを交互に音が伝播していき、最後に上部貫通孔12から廊下へと音が出ていく。
かかる過程において、遮音扉1内に入った音は、断面積が大きい分割空間21と、断面積が小さい貫通孔11とを交互に伝播していくこととなるため、かかる断面積の変化によって生じる音の反射や、貫通孔11を通過する際に生じる摩擦等によって音のエネルギーが減衰する。
加えて、分割空間21を伝播する際、制振ゴム6の内面側で音が多重反射しながら遮音扉1の下方から上方へと音が伝播していくことにより、該制振ゴムによる減衰作用も生じる。かかる制振ゴムによる減衰作用は、扉内空間を音がほぼ直交方向に透過する従来のフラッシュ扉ではあり得ない作用効果である。したがって、制振ゴムの厚み、ゴムの種類等の仕様を適宜選択することにより、遮音扉1の遮音性能を所望の性能に設定することも可能となる。
なお、廊下で発生した音が扉内空間を伝播してトイレへ伝わる際も、音が伝播していく方向が逆になるだけで、上述したトイレで発生した音が廊下へ伝わる場合と同様の作用を奏することとなる。
一方、トイレに設けられた換気扇等の機械換気装置を作動させることによって、トイレ内が廊下に比べて負圧となる。そのため、廊下の空気は、上部貫通孔12から最上段の分割空間21に入り、横材4に設けられた貫通孔11と分割空間21とを交互に通過しながら、下部貫通孔13からトイレへと出ていき、かくして、トイレ内は、廊下側から屋外へと流れる空気によって換気されることとなる。
なお、トイレ内での発生音が廊下に伝播する方向と換気の方向とは逆方向となるが音の伝播速度が換気の流れ速度よりも圧倒的に大きいため、上述した方向の違いは何ら問題とならない。
また、本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31においては、各面板3a,3bと折曲げ板14a,14bとの間に形成される空気層の厚みが均一でなくなるため、二重壁に起因する共振作用によって特定の周波数の音が通過しやすくなるという透過損失の問題が解消される。
すなわち、フラッシュ扉のような面板が向かい合った従来構造の扉は、内部の空気層が空気バネとして作用するため、面板の間隔に依存した固有周波数で面板が大きく振動する。
このような従来構造に対し、本実施形態では、上述した折曲げ板14a,14bによって空気層の厚みが短手方向に変化し、かくして特定の固有振動数で共振するといった事態が未然に回避される。
なお、折曲げ板14a,14bは、建込み状態にて鉛直になるように配置されているので、各分割空間21の相互連通、ひいては鉛直に抜ける空気の流路は上述したようにそのまま維持される。したがって、通気性が阻害される懸念はない。
また、トイレ内の音が遮音扉1を廊下側へと透過する際、通常のフラッシュ扉であれば、気密状態となっている、言い換えれば空気の圧縮膨張が拘束された扉内空間を透過することとなるため、かかる圧縮膨張の拘束が空気バネとなって共振作用を避けることができなかったが、本実施形態においては、上部貫通孔12及び下部貫通孔13を設けたことにより、扉内空間は、空気の圧縮膨張を許容することとなり、空気バネによる共振作用が低下し、上述した折曲げ板14a,14bの作用とも相まって、遮音扉1の透過損失は大幅に増加する。
ここで、遮音扉1の廊下側の面板3aの面外剛性をトイレ側の面板3bの面外剛性よりも高く設定しておけば、トイレ内の音が遮音扉1を透過する際、面板3aの面外振動による二次放射を抑制することが可能となり、遮音扉1の透過損失をさらに増加させることが可能となる。ちなみに、上述した折曲げ板14a,14bによって遮音扉1全体の剛性が向上しているため、該遮音扉が反るおそれはない。
以上説明したように、本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31によれば、矩形状枠体2のうち上枠材7及び下枠材8にそれぞれ上部貫通孔12及び下部貫通孔13を形成するとともに、各横材4にそれぞれ貫通孔11を形成することにより該貫通孔を介して複数の分割空間21を連続的に連通させたので、遮音扉1内を音が伝播していく際には、空洞型消音器と同様の効果を得ることができ、トイレで発生した音は、扉内空間を伝播する際に減衰されて廊下へ伝わることとなり、防音性を確保することが可能となる。一方、遮音扉1内には鉛直に抜ける空気の流路が形成されているため、廊下からトイレへの通気性も確保することが可能となる。
したがって、本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31によれば、トイレ内で発生する音に対する防音性を高めつつトイレ内の換気も可能となり、トイレ用遮音扉としてきわめて優れた作用効果を奏する。
また、本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31によれば、各分割空間21に仕切板として折曲げ板14a,14bを配置して各分割空間21の空気層の厚みを矩形状枠体2の短手方向に沿って変化させたので、各面板3a,3bと折曲げ板14a,14bとの間に形成される空気層の厚みが均一でなくなり、二重壁に起因する共振作用によって特定の周波数の音が通過しやすくなるという透過損失の問題を解消し、遮音扉1の防音性を向上させることが可能となる。
また、本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31によれば、仕切板を折り曲げ板14a,14bで構成したので、該折曲げ板を取り付ける際に矩形状フレーム15内に折曲げ板14a,14bを置くだけで、面板3a,3bと非平行となるように安定して配置することができ、各折曲げ板14a,14bを取り付ける際の作業性が向上する。
また、本実施形態に係る遮音扉1及び遮音扉構造31によれば、各折曲げ板14a,14bをその折曲げ側が矩形状枠体2の長手方向に沿って交互になるように分割空間21にそれぞれ配置するようにしたので、遮音扉1を鉛直面に対して対称構造とすることが可能となり、遮音扉1の反りを未然に防止することができる。
また、本実施形態に係る遮音扉構造31によれば、遮音扉1を扉枠32内に設置し、遮音扉1を閉じた状態にて、上部貫通孔12が廊下に連通しトイレには非連通になるとともに、下部貫通孔13が廊下に非連通となりトイレに連通するように、第1のシール部材33及び第2のシール部材34を配置したので、遮音扉1と扉枠32との隙間を介した音の漏洩を未然に防止することができるとともに、上述した上部貫通孔12、貫通孔11及び下部貫通孔13における連通は、第1のシール部材33及び第2のシール部材34によって何ら阻害されず、トイレの換気を十分に行うことが可能となる。
また、本実施形態に係る遮音扉構造31によれば、遮音扉1の開き側側方縁部の下端近傍と床面36との隙間を塞ぐ塞ぎブロック35を床面36に設置したので、気密性を確保することが難しい遮音扉1の開き側側方縁部の下端近傍の隙間を確実に塞ぎ、より防音性を向上させることが可能となる。
本実施形態では、各折曲げ板14a,14bを、その折曲げ側が矩形状枠体2の長手方向に沿って交互になるように分割空間21にそれぞれ配置したが、これに変えて、遮音扉の反りがほとんど生じない場合などは、各折曲げ板の折曲げ側が全て正面側の面板に接合されるように、又は全て背面側の面板に接合されるように配置してもかまわない。
また、本実施形態では、仕切板を折曲げ板14a,14bで構成したが、仕切板は、各分割空間に面板と非平行にかつ建込み状態にて鉛直になるように配置して各分割空間の空気層の厚みを矩形状枠体の短手方向に沿って変化させることができるのであれば、どのように構成するかは任意であり、例えば、断面がW字状となるように折り曲げて構成してもかまわないし、折り曲げずに矩形状の平板で構成してもかまわない。
また、本実施形態では、仕切板である折曲げ板14a,14bを設置することによって二重壁に起因する共振作用による透過損失の問題を解消するように構成したが、かかる共振作用による影響が十分小さい場合や許容できる場合などは、仕切板を省略してもかまわない。
また、本実施形態では、遮音扉1の開き側側方縁部の下端近傍と床面との隙間を塞ぐ塞ぎブロック35を床面に設置するように構成したが、これに加えて、遮音扉の吊り元側側方縁部の下端近傍と床面との隙間を塞ぐ塞ぎブロックを床面に設置するようにしてもかまわないし、かかる隙間が生じない場合などは塞ぎブロックを全て省略してもかまわない。
また、本実施形態では、居室がトイレである場合を想定して説明したが、居室がトイレに限定されるものでないことは言うまでもない。
本実施形態に係る折曲げ板14a,14bの効果を実験により確認したので、以下かかる実験について説明する。
試験用に用いた遮音扉は、本実施形態に係る折曲げ板を用いた試験用扉Aと、該試験用扉Aから該折曲げ板を取り除いてなる試験用扉Bの2種類である。
試験用扉A,Bは、矩形状フレームと、該矩形状フレームの正面及び背面にそれぞれ気密に接合された一対の面板とからなる。
各面板は厚さ3mmの中質繊維板の内面に厚さ2mmの制振ゴムを貼着してそれぞれ構成してあるとともに、矩形状フレームは厚さ24mmの木材で構成してあり、試験用扉A,Bの厚さはそれぞれ34mmとなっている。
矩形状フレームは、592×1982mmの矩形状枠体の構面内に、該矩形状枠体の短手方向と平行となるように6本の横材を等間隔で配置してあり、矩形状枠体及び面板で囲まれた扉内空間が各横材によって7個の分割空間に区画されている。
矩形状枠体の上枠材及び下枠材には、直径16mmの上部貫通孔及び下部貫通孔をそれぞれ23個等間隔で形成してあるとともに、各横材にも、直径16mmの貫通孔をそれぞれ23個等間隔で形成してある。
ここで、試験用扉Aには、各分割空間に厚さ3mmの中質繊維板で構成された折曲げ板を建込み状態にて鉛直になるようにそれぞれ配置してあるが、各折曲げ板をその折曲げ側が矩形状枠体の長手方向に沿って交互になるように配置してある。
かかる試験用扉A,Bを、トイレを想定した910×1820×2450mmの居室の短手方向の壁に設けられた扉枠内に設置することとなるが、上述した実施形態と同様、試験用扉A,Bを閉じた状態にて、上部貫通孔が居室の外側に拡がる外部空間に連通し居室側には非連通となるとともに下部貫通孔が居室の外側に拡がる外部空間に非連通となり居室側に連通するように、試験用扉A,Bと扉枠との隙間のうち、該試験用扉の上縁側及び側方縁部側であって居室側に第1のシール部材を配置するとともに、試験用扉A,Bと床面との隙間のうち、試験用扉A,Bの下縁側であって外部空間側に第2のシール部材を配置してある。また、試験用扉A,Bの開き側側方縁部の下端近傍と床面との隙間を塞ぐ塞ぎブロックを床面に設置してある。
次に、実験方法について説明する。まず、図4に示すように、試験用扉A又はBが取り付けられた居室41内に、音源であるスピーカ42及び音源側のマイクロフォン43を設置するとともに、居室41外であって試験用扉A又はB近傍にも受音側のマイクロフォン44を設置しておく。
なお、スピーカ42は居室41の奥側のコーナーに向かって45度方向で、斜め上向きとなるように設置する。また、音源側のマイクロフォン43は、居室41内に均一に5個設置するとともに、受音側のマイクロフォン44は、試験用扉A又はBから250mm離れた位置に均一に5個設置する。
次に、スピーカ42から様々な周波数の音を発生させ、居室41内に設置した音源側のマイクロフォン43及び居室41外に設置した受音側のマイクロフォン44でそれぞれ音圧レベルを測定する。なお、発生させる音の周波数は、125,250,500,1K,2K,4K(Hz)とした。
次に、各マイクロフォン43,44の測定結果から音源側である居室41内と受音側である居室41外との間の音圧レベル差(dB)を求める。なお、測定は、JIS A 1417:2000 建築物の空気遮断性能の測定方法 付属書2(規定)特定場所間音圧レベル差の測定方法に準じて行った。
図5は、かかる測定から得られた居室41内と居室41外との間の音圧レベル差を示したグラフで、(a)は試験用扉Bの測定結果であり、(b)は試験用扉Aの測定結果である。同図(a)に示すように、折曲げ板を省略した試験用扉Bでは、周波数250Hzにおける内外音圧レベル差が13dBと他の周波数の時に比べて低下しており、二重壁に起因する共振作用をおこしていると考えられる。このため、扉の防音性能の指標である遮音等級がD−15と低くなってしまう。
一方、同図(b)に示すように、折曲げ板を配置した試験用扉Aでは、周波数250Hzにおける内外音圧レベル差が20dBとなっており、試験用扉Bで生じていた250Hz近傍での防音性能の低下が試験用扉Aでは改善されている。そのため、遮音等級D−25を得ることができ、折曲げ板を配置することによって、より優れた防音性能を有する扉となることがわかる。
次に、試験用扉Aの通気性を確認すべく、所定の通過風量に対する圧力損失を測定する実験を行った。図6は、通過風量(m3/h)と圧力損失(mmH2O)との関係を示した図であり、●が試験用扉A、▲が標準的な扉の測定結果である。なお、標準的な扉は、5mmのアンダーカットが形成されるように取り付けてあり、扉の周囲の隙間を介して通気を行うようになっている。
同図に示すように、標準的な扉では、通過風量の増加に対する圧力損失の増加が小さいのに対し、試験用扉Aでは、通過風量の増加に対する圧力損失の増加が大きく、通過風量が少ないうちは標準的な扉より圧力損失が小さいが、通過風量が多くなると標準的な扉より圧力損失が大きくなっている。ここで、試験用扉Aの測定結果と標準的な扉の測定結果との交点αは21.49m3/hであるが、トイレの換気に必要となるのは20m3/h程度であるため、試験用扉Aは、トイレ用の扉として使用するのに十分な通気性を有しているといえる。