JP4374696B2 - インク組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,インク組成物に関し,特に,本発明は,着色樹脂粒子分散型水性ジェットインク組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録用インクは大別すると油性インクと水性インクがあるが,油性インクは臭気・毒性の点で問題があり,水性インクが主流となりつつある。
しかしながら,従来の水性インクの多くは着色剤として水溶性染料を用いているため耐水性や耐光性が悪いという欠点を有していた。また,染料が分子レベルで溶解しているため,オフィスで一般に使用されているコピー用紙などのいわゆる普通紙に印刷すると髭状のフェザリングと呼ばれるブリードを生じて著しい印刷品質の低下を招いていた。
【0003】
上記欠点を改良するためにいわゆる水性の顔料インクが過去に様々に提案されており,例えばバインダー兼分散剤として水溶性樹脂を用いてカ−ボンブラックや有機顔料を分散させた樹脂溶解型のインクやポリマーラテックスあるいはマイクロカプセルとして着色剤を内包する樹脂分散型のインクが各種提案されている。
ジェットプリンター用水性顔料インクとしては,なるべく微粒子径に分散された着色剤粒子が求められており,具体的な樹脂溶解型の水性インクの例として,特許第2512861号公報では,(1)顔料とポリマー分散剤とを2−ロールミリング装置に充填し;(2)摩砕して顔料とポリマー分散剤との分散体を得;そして(3)この顔料分散体を水性キャリア媒体中に分散させる工程からなる,改良された特性を有する水性の顔料入りインクジェット用インクの調整方法が,特開平3−153775号公報では,a)顔料とカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂とを含有する固体顔料調合物b)水で希釈可能な有機溶媒c)湿潤剤d)水を含有するインクジェット印刷用水性インク組成物が提案されている。
しかしながら,これらの技術は顔料の微粒子化には有効なものの,溶解している分散剤樹脂の影響で,インクの水分蒸発に伴いノズル付近のインク粘度上昇による異常吐出や,最悪ノズル目詰まりを生じ易く,印刷物の耐水性が著しく劣っていた。
【0004】
樹脂分散型の水性インクは,インクの水分蒸発に伴う粘度上昇は比較的少なく,また耐水性に優れるという利点がある。具体的には,特開昭58−45272号公報では染料を含有したウレタンポリマーラテックスを含むインク組成物,特開昭62−95366号公報では水不溶性有機溶媒中にポリマーと油性染料を溶解し,さらに表面活性剤を含む水溶液と混合して乳化させた後に溶媒を蒸発してポリマー粒子中に内包された染料を含むインクが提案され,特開昭62−254833号公報ではカプセル化時の有機溶媒と水との間の界面張力を10ダイン以下にすることによる着色剤水性懸濁液の製造法が提案され,特開平1−170672号公報では同様にマクロカプセル化した色素を含有する記録液等が提案されているが,それらで得られた着色樹脂分散物の分散安定性は必ずしも十分ではなく,またカプセル化時に使用する界面活性剤の影響で泡立ちが大きく,インクジェットの吐出特性が必ずしも十分ではなかった。
【0005】
特開平3−240586号公報では分散媒中に分散している粒子表面が,分散媒に膨潤する樹脂により被覆されていることを特徴とする画像形成材料が提案されているが,室温付近でゾル−ゲルの相転移が起きやすく,また粒子の分散安定性も必ずしも良くなく吐出異常を起こしやすかった。
【0006】
特開平5−247370号公報では顔料及び樹脂を含む画像記録用着色組成物において,顔料が,分散媒に対して実質的に不溶性であり且つ極性基を有する硬化重合体の薄膜で被覆された顔料であることを特徴とする画像記録用着色組成物が提案されているが,本発明では顔料自体に自己分散性および記録紙に対する固着能力が不足しているために,分散剤及び固着剤としての樹脂が必須となり,そのため硬化重合体で被覆されていない顔料と比較して分散安定性は優れているものの,インクジェットとしての吐出安定性が不足し,耐水性が劣るという欠点は改善されなかった。
【0007】
また,特開平2−255875号公報には,顔料,水溶性樹脂,水溶性有機溶剤及び水を含むインクジェット記録用水性インクにおいて,水溶性樹脂が顔料の表面に比較的弱い力で固着した「樹脂吸着顔料粒子」が水性媒体中に分散し,その水性媒体中に,更に,顔料に吸着せず前記インク中に水溶性樹脂が2重量%以下となる様に溶解したものが記載されている。
【0008】
上記した様な,水溶性樹脂を顔料表面に吸着させる方法では,顔料表面と吸着樹脂との固着程度が依然不十分であり,こうして得られる「樹脂吸着顔料粒子」の水性媒体中でのより高度の分散安定性は期待できない。
【0009】
上記課題を解決するために,特開平10−292143号公報では顔料を皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセルを水性媒体中に含むインクにおいて,皮膜形成性樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が0.01〜2質量%とした着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクが提案されているが,合成樹脂の分子量が高いと着色剤の内包効果が高いが,インクの浸透性を高めるためにインクに樹脂溶解力の高い有機溶剤を多量に併用すると,インク中に多量の樹脂が溶解し,溶解した樹脂によってインクの不吐出を生じやすい欠点を有しており,特に低湿度の環境下で最後のインクの吐出から次の吐出再開までの時間間隔が長いと水分等の揮発成分の蒸発に伴いノズル目詰まりを生じやすかった。一方,皮膜形成性樹脂の分子量が低いと溶解樹脂によるインクの不吐出は小さいものの,着色剤の内包効果が小さく,分散安定性が前記水溶性樹脂を顔料表面に吸着させる従来の一般的な顔料分散方法のレベルに下がる危険があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は,樹脂分散型水性インクの特長である優れた印刷品質性・耐水性・耐光性等の特性を低下させることなく,有機溶剤を多く含むようなインク組成にあっても微粒子径で分散安定性に優れ,かつインクジェット吐出特性に優れたインク組成物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は,上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂(A)によって顔料粒子が被覆された着色樹脂粒子水性分散体からなるインク組成物において,皮膜形成性樹脂(A)が高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)から構成されることにより,前記従来技術にない優れた分散安定性と低湿環境下でも安定したインクジェット特性を示すインク組成物が得られることを見いだした。
【0012】
すなわち本発明は,少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂(A)によって顔料粒子が被覆された着色樹脂粒子水性分散体からなるインク組成物において,皮膜形成性樹脂(A)が高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)からなり,高分子量樹脂(a)の重量平均分子量をMwa,低分子量樹脂(b)の重量平均分子量をMwbとしたとき,
1.5≦(Mwa/Mwb),かつ,1000≦Mwb
であることを特徴とするインク組成物を提供するものである。
【0013】
少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂(A)を高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)で構成することにより,高分子量樹脂(a)が優先的に顔料表面を被覆し,高分子量樹脂(a)の未被覆部分,あるいは被覆部分の周囲を低分子量樹脂(b)で厚く被覆させることができると考えられる。その結果,低分子量樹脂(b)単独の場合と比較して分散は安定化し,インク中に多量の有機溶剤が使用されていても,顔料表面から溶出する皮膜形成性樹脂(A)の成分は,高分子量樹脂(a)に比較して低分子量樹脂(b)の溶出量が多いものの,高分子量樹脂(a)は依然顔料表面を強固に被覆しているため,分散安定性とインクの吐出安定性を両立することが可能となるのである。
【0014】
このため,高分子量樹脂(a)の重量平均分子量をMwa,低分子量樹脂(b)の重量平均分子量をMwbとしたとき,
1.5≦(Mwa/Mwb),かつ,1000≦Mwb
なる関係であることが好ましいが,高分子量樹脂(a)の重量平均分子量Mwaとしては3万〜10万,低分子量樹脂(b)の重量平均分子量としては1千〜2万の範囲が特に好ましいのである。
【0015】
皮膜形成性樹脂(A)の高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)の混合比率としては,組み合わせる溶剤の種類や量に合わせて,1:4〜4:1の範囲の場合に上記効果が認められ,より好ましくは2:1〜1:2の範囲である。
顔料と被膜形成性樹脂(A)の比率は顔料の被覆効率に影響し,顔料に合わせて1:3〜3:1の範囲が好ましく,より好ましくは,1:2〜2:1の範囲である。
【0016】
皮膜形成性樹脂(A)を構成する高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)はいずれも,酸基はカルボキシル基からなり,酸価が50〜180で,インクのpHが7.5〜9.5の範囲,より好ましくは8.0〜9.0の範囲に調整されることにより,本発明のインク組成物はより優れた分散安定性とインク吐出安定性を示す。この様な樹脂は,例えば前記特定酸価の樹脂の酸価の全て又は一部を中和することにより得ることが出来る。
【0017】
酸価が50未満の場合は着色樹脂粒子の表面親水性が乏しく,分散安定性が不充分となり易く,酸価が180を越える場合には樹脂の親水性が著しく高まり,皮膜形成性樹脂(A)による顔料の被覆が不十分となり易く,着色樹脂粒子同士の凝集やインクジェットプリンターのノズル目詰まりを生じやすくなるために不適当である。
尚,酸価とは,樹脂1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い,mg・KOH/gで表す(以下,単位は略記する)。
【0018】
本発明において好ましい皮膜形成性樹脂(A)は,皮膜を形成する樹脂であれば,天然樹脂でも合成樹脂でも特に限定されずに用いることができるが,例えばスチレン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。より好ましい樹脂として,例えばスチレン,置換スチレン,(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと,(メタ)アクリル酸との共重合体が挙げられる。
高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)が,少なくともスチレン又は置換スチレンと(メタ)アクリル酸からなる共重合体は,得られる着色樹脂粒子がより微粒子で分散安定性に優れるので,特に好ましい。
(メタ)アクリル酸は,アクリル酸とメタアクリル酸の総称であり,本発明ではいずれか一方が必須であればよいが,より好適な皮膜形成性樹脂は,アクリル酸およびメタアクリル酸の両方に由来する構造を有しているものである。
【0019】
インクのpHを好ましいpH範囲に調整するには,前述の樹脂を中和,即ち塩基を加えればよい。
塩基(本発明では,塩基性化合物という場合がある)としては,例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物,アンモニア,トリエチルアミン,モルホリン等の塩基性物質の他,トリエタノールアミン,ジエタノールアミン,N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能であり,皮膜形成性樹脂(A)が分解しない程度の高温で容易に揮発する,揮発性塩基を採用するのがより好ましい。
【0020】
しかしながら,より高酸価の樹脂をより強い塩基を用いて中和を行うと,インク中での皮膜形成性樹脂(A)の溶解度がより高まることから,塩基の強さや使用量(中和率)を調節することが好ましい。
アルコールアミン,特にトリエタノールアミンは弱塩基で水溶性樹脂成分の発生が少なく,インクジェット記録用水性インクの調製には,最適な塩基である。
【0021】
本発明においては,皮膜形成性樹脂の酸基に対する中和率が200モル%相当量以下,好ましくは,100モル%相当量以下,30モル%以上,好ましくは40モル%以上とする。高分子量樹脂(a)及び低分子量樹脂(b)ともスチレン成分が多いほど低中和率で着色樹脂粒子の微粒子化が可能で,スチレン成分が少ないほど微粒子化させるために中和率を高める必要がある。好ましいスチレンモノマー比率は30モル%〜90モル%である。
この時中和率が高いほど着色樹脂粒子からの樹脂溶解が増加する傾向があり,モノマー組成に合わせて最適中和率を求めることが好ましい。
【0022】
本発明のインク組成物を着色樹脂粒子分散型水性ジェットインクとして用いる場合,使用する顔料は特に限定されるものではなく,公知慣用のものがいずれも使用できる。
顔料としては,例えばカーボンブラック,チタンブラック,チタンホワイト,硫化亜鉛,ベンガラ等の無機顔料や,フタロシアニン顔料,モノアゾ系,ジスアゾ系等のアゾ顔料,フタロシアニン顔料,キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。
【0023】
カラー画像形成,特にフルカラー画像形成を行うには,用いる顔料の色調はシアン色(青色),マゼンタ色(赤色),イエロー色の3色の組合せが最低限必要であり,好ましくは黒色を組み合わせた4色のインクによる画像形成や,前記3色あるいは4色に加えて更に補色関係にある色を加えて画像形成することが出来る。
【0024】
シアン色顔料としては,色調及び耐候性の点からフタロシアニン顔料であることが好ましい。フタロシアニン顔料としては,具体的には無金属フタロシアニン,銅フタロシアニンあるいはクロル化銅フタロシアニン,その他各種金属フタロシアニン等が挙げられる。これらのなかでも銅フタロシアニンが好ましく,特に他のカラー顔料と組み合わせた時の色調及び分散性の点でC.I.ピグメントブルー15:3または15:4がより好ましい。
【0025】
マゼンタ色顔料としては,色調及び耐候性の点からキナクリドン顔料であることが好ましい。キナクリドン顔料としては,具体的にはジメチルキナクリドン,ジクロルキナクリドン等が挙げられる。これらのなかでも,特に他のカラー顔料と組み合わせた時の色調及び分散性の点でC.I.ピグメントレッド122が好ましい。
【0026】
イエロー色顔料としては,色調及び耐候性の点からベンズイミダゾロン顔料であることが好ましい。ベンズイミダゾロン顔料としては,具体的にはC.I.ピグメントイエロー120,C.I.ピグメントイエロー151,C.I.ピグメントイエロー154,C.I.ピグメントイエロー156,C.I.ピグメントイエロー175が挙げられる。
黒色顔料としては,特に制限はないが色調及び耐候性の点からカーボンブラックが好ましい。
【0027】
かかる顔料の使用量は,本発明における効果を達成すれば特に規定されないが,最終的に得られるインク中で,通常0.5〜20質量%となるような量となる様に調製するが好ましい。
【0028】
インクには,必要に応じて,乾燥防止剤や浸透剤として有機溶剤を含ませることが出来る。
乾燥防止剤は,インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり,通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては,従来知られている公知慣用のものがいずれも使用できるが,例えばエチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール類等がある。グリセリンが乾燥防止剤の場合に,最も優れた乾燥防止効果を示す。
【0029】
浸透剤は記録媒体へのインクの浸透や記録媒体上でのドット径の調整を行うものであり,浸透剤としては,例えばエタノール,イソプロピルアルコール等の低級アルコール,エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0030】
有機溶剤の添加量は,インク中,乾燥防止剤として用いる場合は1〜80質量%,浸透剤として用いる場合は0.01〜10質量%とするのが好適である。
有機溶剤は,皮膜形成性樹脂(A)の種類や濃度,或いは水性媒体中での当該有機溶剤濃度等の組合せによっては,顔料に被覆している樹脂を溶解し吐出特性を悪くする場合があるが,本発明によって大幅に吐出特性が向上する。
【0031】
本発明のインク組成物を用いて着色樹脂粒子分散型水性ジェットインクとする具体的な方法として,以下の方法が好ましい。この方法によれば,皮膜形成性樹脂(A)を構成する高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)を効果的に顔料表面に被覆することが可能となる。但し,本発明はこの方法に限定されるものではない。
(I)酸価を有する皮膜形成性樹脂(A)に少なくとも着色剤を分散して固形着色コンパウンドを得る樹脂着色工程。
(II)少なくとも,水,皮膜形成性樹脂(A)を溶解する有機溶媒,塩基,前記樹脂着色工程で得られた固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも樹脂の一部が溶解している着色剤懸濁液を得る懸濁工程。
(III)前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液中の着色剤表面に溶解樹脂成分を沈着させる再沈殿工程。
【0032】
この方法は,具体的には,例えば次の〈1〉〜〈5〉をこの順に行うことが出来る。
〈1〉酸価を有する皮膜形成性樹脂(A)に,着色剤を分散して固形着色コンパウンドを得る。(混練工程)
この工程は,例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて,溶液や加熱溶融された状態で,着色剤を当該樹脂に均一に分散させ,最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。この時,高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)は事前に均一混合するか,混練時に顔料と共に混合しても良い。
【0033】
特に当該樹脂への顔料の微分散が必要な場合には,顔料を分散する手段として,従来知られている分散方法のうち,高せん断力のかかる状態が形成される分散手段,具体的にはバンバリーミキサーや2本ロールを用いて高せん断力下で分散を行うことが好ましい。この時,低分子量樹脂(b)単独では高いせん断力をかけられず,顔料の分散が出来ない場合があるが,高分子量樹脂(a)を併用することにより,高せん断力下での分散が容易になるというメリットもある。
【0034】
〈2〉少なくとも,水,当該樹脂を溶解する有機溶剤,塩基,前記固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも当該樹脂の一部が溶解している着色剤懸濁液を得る。(懸濁工程)
当該樹脂を溶解する有機溶剤は当該樹脂に対して良溶媒として機能するものであり,当該樹脂に対して適宜選択することが出来,例えばアセトン,ジメチルケトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶剤,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤,クロロホルム,塩化メチレン等の塩素系溶剤,ベンゼン,トルエン等の芳香族系溶剤,酢酸エチルエステル等のエステル系溶剤,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤,アミド類等樹脂を溶解させるものであれば使用可能である。
【0035】
本工程に用いられる分散媒は,主体は皮膜形成性樹脂(A)に対しては貧溶媒として機能する水であり,インクジェット記録用水性インクとして用いるため,イオン交換水以上の純度を有することが好ましい。
本工程では,水及び有機溶剤の混合液が均一であることが好ましく,均一でない場合は,必要に応じて,界面活性剤を用いるか,あるいは機械的にO/W型に乳化させるか,助溶剤を併用して均一化させて用いることが好ましい。
当該樹脂を溶解する有機溶剤と水と塩基のみで,分散安定性に優れた着色剤懸濁液を得難い場合には,それらに,当該樹脂を溶解しない親水性有機溶剤を,助溶剤として一部併用してより良い乳化安定性を持たせる様にしてもよい。尚,当該樹脂を溶解する有機溶剤及び助溶剤は,いずれも1種又は2種以上を併用してもよい。
【0036】
当該樹脂が,例えばスチレン,置換スチレン,(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと,(メタ)アクリル酸との共重合体の場合には,メチルエチルケトン等のケトン系溶剤を主として,助溶剤としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種類以上の組合せが良い。
かかる水と有機溶剤の比率は,本発明における効果を達成すれば特に規定されないが,水/有機溶剤の重量比が10/1〜1/1となるような量が好ましい。
【0037】
この工程により,固形着色コンパウンド表面から,着色剤を包含する酸価を有する皮膜形成性樹脂(A)が,有機溶剤と塩基の助けを借りて,自己乳化し,少なくとも樹脂の一部が溶解している着色剤懸濁液が得られる。
この工程により,固形着色コンパウンドの表面に存在する,酸価を有する皮膜形成性樹脂(A)は,塩基により,徐々に,その酸価の少なくとも一部又は全部が中和され,当該コンパウンドの固体形状から,混合物は懸濁状態となる。
懸濁液を得るための撹拌方法としては,公知慣用の手法がいずれも採用でき,例えば1軸のプロペラ型の撹拌翼の他,目的に応じた形状の撹拌翼や撹拌容器を用いて,容易に懸濁可能である。
【0038】
懸濁液を得るに当たって,大きなせん断力が働かない単なる混合撹拌では微粒子化しない場合や,着色剤が比較的凝集しやすい場合には,更に高せん断力を与えて微粒子の安定化を行っても良い。この場合の分散機として公知慣用のものが使用可能であるが,例えば高圧ホモジナイザーや,商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが,着色剤の再凝集が少なく好ましい。
【0039】
〈3〉着色剤懸濁液中に溶解している皮膜形成性樹脂(A)の成分を,着色剤表面に沈着させる。(再沈殿工程)
こうすることにより,顔料懸濁液中に溶解している皮膜形成性樹脂(A)の成分を,顔料表面に沈着させて着色樹脂粒子を得る。
例えば,コンパウンドとして,〈2〉の懸濁工程で,比較的小粒径に分散した着色剤懸濁液が得られる場合には,次いで直ちに〈3〉の再沈殿工程を行うことが出来る。一方,コンパウンドとして,着色剤として有機顔料を用いて得た固形着色コンパウンドを用いる場合やカーボンブラック等の無機顔料を用いた固形着色コンパウンドを用いる場合には,〈2〉の懸濁工程と〈3〉の再沈殿工程との間に,前者コンパウンドから得る懸濁液をより分散安定性を増すためや,後者コンパウンドから得る着色剤懸濁液中の着色剤粒子をより小粒径化するために,高せん断力下に当該懸濁液をさらして分散する工程を設けることが好ましい。
【0040】
本工程は,前記懸濁工程で得られた着色剤懸濁液中の着色剤表面に,当該懸濁液中に存在する溶解樹脂成分を沈着させる工程である。本工程の「再沈殿」とは,着色剤或いは当該溶解樹脂が着色剤表面に吸着した半カプセル状態の粒子を,懸濁液の液媒体から分離沈降させることを意味するものではない。従って,この工程で得られるものは,固形成分と液体成分とが明らかに分離した単なる混合物ではなく,当該溶解樹脂を着色剤表面に吸着した着色剤が懸濁液の液媒体に安定的に分散した,着色樹脂粒子水性分散液である。
【0041】
この懸濁工程の着色剤懸濁液中の着色剤表面への溶解樹脂の沈着は,例えば,(i)少なくとも一部,当該皮膜形成性樹脂(A)が溶解している着色剤懸濁液に,当該樹脂に対して貧溶媒として機能する水性媒体を加えて行うか,(ii)着色剤懸濁液から有機溶剤を除去して行うか,さらには(i)と(ii)を組み合わせることによって容易に行うことが出来る。
しかしながら,着色剤懸濁液に,当該樹脂に対して貧溶媒として機能する水性媒体を加えて行う方法が,凝集物も少なく好ましい。再沈殿は懸濁液を緩く撹拌しながら水性媒体を滴下することによって,凝集物の発生を防止しながら着色剤表面に樹脂を確実に沈着(再沈殿)させることが可能となる。
また得られた分散液の乾燥を防止するために,乾燥防止剤を水性媒体中に前もって存在させておくか,再沈殿後に添加することが好ましい。
【0042】
この様にして,上記〈1〉混練工程〈2〉懸濁工程〈3〉再沈殿工程によって,所望の粒子径の着色樹脂粒子が得られるが,通常その平均粒子径範囲は,0.01以上〜1μm未満である。
【0043】
〈4〉再沈殿工程で得られた着色樹脂粒子分散液からの低沸点有機溶剤の除去及び/または濃縮(脱溶剤工程)
再沈殿工程で得られた着色樹脂粒子水分散液はそのまま用いることもできるが,共存している有機溶剤の影響で着色樹脂粒子が膨潤状態にある場合が多いため,保存安定性をより向上させるためや,より火災や公害に対する安全性を高めるために,脱溶剤を行うことが好ましい。
こうして得られた分散液は,通常,顔料が皮膜形成性樹脂(A)で被覆された着色樹脂粒子と,分散媒のみから実質的になる。分散液中の着色樹脂粒子の含有率は,それと分散媒の合計に対して,通常,10〜40質量%とする。勿論,これまでの工程で各種添加剤を含めた場合には,分散液中にはそれも含まれる。
【0044】
〈5〉インク工程
前記〈4〉工程によって得られる,水以外の液媒体を全く含まないか,或いはほとんど含まない,サブミクロンオーダーの着色樹脂粒子水性分散液は,そのままでも基本的にインクジェット記録用水性インクとして用いることが出来る。
得られた分散液は,更に,分散安定性,吐出特性を考慮してインクの調整を行うことが好ましい。
インクの調整は,例えば,前記乾燥防止剤や浸透性有機溶剤の添加,濃度調整・粘度調整の他,pH調整剤,分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤,防腐剤,キレート剤,可塑剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤等を必要に応じて添加することができる。
また,被記録媒体がガラス・金属・フィルムの様な不浸透性以外のもの(浸透性被記録媒体)の場合には,吐出安定性に影響を及ぼさない程度に,皮膜形成性樹脂とは異なる,他の水溶性樹脂も添加することもできる。
また,粗大粒子によるノズル目詰まり等を回避するために,通常は,〈4〉の脱溶剤工程後に遠心分離やフィルターろ過により粗大粒子を除去するか,〈5〉のインク工程でインク調整後に所望の粒径のフィルターで濾過する。
【0045】
本発明の着色樹脂粒子分散型水性ジェットインクは,例えばピエゾ方式やオンデマンド方式等の公知慣用のインクジェット記録方式のプリンターに採用することが出来る。また,同インクは,公知慣用の被記録材料,例えば紙,樹脂コート紙,インクジェット記録用専用紙,ガラス,金属,フィルム,陶磁器等に画像を形成する際に使用することが出来る。
本発明の着色樹脂粒子分散型水性ジェットインクは,透明性,発色性,分散安定性に優れており,インクジェット記録以外に,他のインク一般,塗料,カラーフィルターへの応用が可能である。
【0046】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚,以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。尚,実施例等において,着色樹脂粒子の粒子径は,マイクロトラック粒度分析計(リーズ アンド ノースラップ社製)を用いて,インクを水で100倍に希釈した液を測定サンプルとした。
【0047】
(実施例1)
カ−ボンブラック42部とスチレン−アクリル酸−メタクリル酸樹脂(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13;酸価160)の分子量5万の高分子樹脂(a)と同じモノマー比率の分子量7千の低分子量樹脂(b)の各21部の二本ロール混練物を,水250部,グリセリン22部,トリエタノールアミン13部(樹脂酸基の80モル%相当量),メチルエチルケトン76部,イソプロピルアルコール76部の混合溶液に入れ,室温で3時間撹拌し着色剤懸濁液を得た。
得られた懸濁液に撹拌しながら,グリセリン38部と水435部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し,黒色着色樹脂粒子水分散液を得た。得られた液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールと水の一部を留去し,最終の黒色着色樹脂粒子水分散液を得た。
この水分散物を45部,グリセリン14部プロピレングリコールプロピルエーテル7部,プロピレングリコールブチルエーテル1部,水33部を混合撹拌し,0.5μmフィルターを用いてろ過を行い,インクジェット記録用水性インクとした。
【0048】
得られた水性インク中の着色樹脂粒子は103nmの平均粒子径を有しており,凝集物もなく安定な分散を示し,室温で相対湿度20%の環境下でピエゾ式インクジェットプリンターを用いた印字は,連続したインクの吐出は安定しており,印刷を一時停止し,キャッピングをしない状態で30分放置後再吐出しても書き出しから安定した吐出が可能であった。
得られた印刷物は滲みもなく高い黒色度を示し,しかも耐水耐光性に優れていた。
【0049】
(比較例1)
実施例1の分子量5万の高分子樹脂(a)を分子量7千の低分子量樹脂(b)に替えて,合計42部の低分子量樹脂(b)を用いて二本ロール混練を試みたが,混練物の粘度が低く顔料の微分散を行うことが出来なかった。
【0050】
(比較例2)
実施例1の分子量7千の低分子量樹脂(b)に替えて,分子量5万の高分子量樹脂(a)のみで,トリエタノールアミンの最適中和率(樹脂の酸基の50モル%相当量)で同様にしてインクを得た。
得られた水性インク中の着色樹脂粒子は99nmの平均粒子径を有しており,凝集物もなく安定な分散を示し,室温で相対湿度20%の環境下でピエゾ式インクジェットプリンターを用いた印字は,連続したインクの吐出では安定していたが,印刷を一時停止し,キャッピングをしない状態で30分放置後再吐出したところ,ノズル詰まりのため吐出が不可能であった。
【0051】
【発明の効果】
本発明の着色樹脂粒子水性分散体からなるインク組成物は,インク組成に係わらず,極めて分散安定性に優れており,例えばインクジェット記録用水性インクに適用すると,樹脂分散型水性インクの特長である優れた印刷品質性・耐水性・耐光性等の特性を低下させることなく,分散安定性に優れ,かつノズル目詰まりもなく,安定したインクジェット吐出特性を可能にする。
Claims (6)
- 少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂(A)によって顔料粒子が被覆された着色樹脂粒子水性分散体からなるインク組成物において,皮膜形成性樹脂(A)が高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)からなり,高分子量樹脂(a)の重量平均分子量をMwa,低分子量樹脂(b)の重量平均分子量をMwbとしたとき,
1.5≦(Mwa/Mwb),かつ,1000≦Mwb
であることを特徴とするインク組成物。 - 高分子量樹脂(a)の重量平均分子量Mwaが3万〜10万,低分子量樹脂(b)の重量平均分子量Mwbが1千〜2万であることを特徴とする請求項1記載のインク組成物。
- 高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)のいずれもが,少なくともスチレン又は置換スチレンと(メタ)アクリル酸からなる共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載のインク組成物。
- 高分子量樹脂(a)と低分子量樹脂(b)の混合比率が1:4〜4:1であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のインク組成物。
- 顔料と皮膜形成性樹脂(A)の比率が1:3〜3:1であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のインク組成物。
- 皮膜形成性樹脂(A)の酸基がカルボキシル基からなり,酸価が50〜180で,インクのpHが7.5〜9.5であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のインク組成物。
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