JP4370868B2 - 酸化物焼結体及びスパッタリングターゲット、酸化物透明電極膜の製造方法 - Google Patents

酸化物焼結体及びスパッタリングターゲット、酸化物透明電極膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、低抵抗透明導電膜を直流スパッタリング法で製造する際に利用される酸化物焼結体、それを用いたスパッタリングターゲット、およびそれを用いた透明導電膜の製造方法に関し、特に、赤外線領域の透過特性の良好な低抵抗透明導電膜を作製するために用いるスパッタリング及びイオンプレーティング成膜に用いられる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットに関する。
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有する。透明導電膜は、太陽電池や液晶表示素子、その他各種受光素子の電極などに利用されている他、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなどのための各種の防曇用の透明発熱体としても利用されている。
透明導電膜には、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)や、アルミニウムやガリウムをドーパントとして含む酸化亜鉛(ZnO)や、錫をドーパントとして含む酸化インジウム(In23)などが広範に利用されている。特に、錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜、すなわちIn23−Sn系膜は、ITO(Indium tin oxide)膜と称され、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、これまで良く用いられてきた。
低抵抗透明導電膜は、太陽電池、液晶、有機エレクトロルミネッセンスおよび無機エレクトロルミネッセンスなどの表示素子や、タッチパネルなどの電極に好適に用いられる。
これらの透明導電膜の製造方法として、スパッタリング法が良く用いられている。スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料の成膜の際や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的に広範に利用されている。
スパッタリング法では、目的の膜の成分となる原料を、スパッタリングターゲットとして用いる。この方法では、一般に真空装置を用い、一旦高真空にした後、アルゴン等の希ガスを導入し、約10Pa以下のガス圧のもとで、基板を陽極とし、スパッタリングターゲットを陰極とし、これらの間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のスパッタリングターゲットに衝突させ、これによってはじきとばされるターゲット成分の粒子を、基板上に堆積させて膜を形成する。
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いるものは高周波スパッタリング法といい、直流プラズマを用いるものは直流スパッタリング法という。
一般に、直流スパッタリング法は、高周波スパッタリング法と比べて成膜速度が速く、電源設備が安価であり、成膜操作が簡単であるなどの理由で、工業的に広範に利用されている。しかし、直流スパッタリング法では、導電性ターゲットを用いる必要があるのに対し、高周波スパッタリング法では、絶縁性ターゲットでも成膜することが可能である。
スパッタリングの成膜速度は、ターゲット物質の化学結合と密接な関係がある。スパッタリングは、運動エネルギーをもったアルゴン陽イオンがターゲット表面に衝突して、ターゲット表面の物質がエネルギーを受け取って弾き出される現象であり、ターゲット物質のイオン間結合もしくは原子間結合が弱いほど、スパッタリングによって飛び出す確率は増加する。
透明導電膜を用いる太陽電池をみると、太陽電池はp型とn型の半導体を積層したものであり、半導体の種類によって大別される。最も多く使用されている太陽電池は、安全で資源量の豊富なシリコンを用いたものである。さらに、シリコンを用いた太陽電池の中でも、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンの3種類がある。また、化合物薄膜太陽電池とよばれるCuInSe2、GaAs、CdTeなどの化合物半導体を用いた太陽電池も開発が行われている。
何れのタイプの太陽電池でも、光が当たる表側の電極には透明導電膜が不可欠であり、ITO膜や、アルミニウムやガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)膜が利用されてきた。これらの透明導電膜に要求される特性は、低抵抗であることと、太陽光の透過率が高いことである。
本発明者らは、特願2003−324825号において、チタンを含む酸化インジウム薄膜が、太陽電池の透明電極に有用であることを明らかにした。該薄膜は、低抵抗で、可視光領域に光透過性能が優れているだけでなく、前記ITO膜や酸化亜鉛系膜と比べて、赤外光領域も光透過性能に優れている。このような透明導電膜を太陽電池の表側電極に用いると、赤外光エネルギーも有効に利用することができる。このチタン添加酸化インジウム薄膜は、直流スパッタリング法で製造することができ、工業上広範に利用されている技術を利用でき、優れている。
しかし、生産性や製造コスト低減化を考慮すると、高い直流電力投入による高速成膜を行う場合、チタン添加酸化インジウム薄膜を製造するためのスパッタリングターゲットは、高い直流電力の投入でアーキングが生じてしまい、高速成膜が不可能であることがわかってきた。成膜時にアーキングが発生すると、パーティクルの発生原因となり、製品歩留まり低下の要因となる。さらに、持続的にアーキングが生じれば、膜の形成そのものが阻害されてしまう。
また、スパッタリングターゲットは、スパッタリングで使用していくと、次第に掘られたような状態になるが、使い切る直前までスパッタリング特性が一定で利用できる方が、材料コストを考えると有用である。しかし、これまでのチタン添加酸化インジウム薄膜を製造するためのスパッタリングターゲットは、投入電力の積算値が増加していくと、スパッタリングターゲットのスパッタ表面に、ノジュール(ターゲット表面の黒色突起物を言う)が発生して、アーキングが発生したり、成膜速度が低下する等の問題が生じる。
このように、高直流電力投入可能で、最後まで安定して直流スパッタリングが実施できる焼結体ターゲットは、実在しなかった。
アーキングの発生規模が小さいスパッタリングターゲットについては、アーキング抑制機能付きの電源を用いて回避することができる。アーキング抑制法として、DCパルシング法(ターゲットに印加する負電圧を周期的に停止して、その間に低い正電圧を印加してターゲット上のチャージングを中和する方法)を用いる方法と、アーク遮断回路(アーキング発生の際の放電電流の増加を検出して完全なアーキングに成長する前に電力供給を停止して、ターゲットに流れる電流が十分に低下したところで電力供給を再開するような回路)を装備する方法があった(透明導電膜の技術、オーム社、p.193〜195参照)。これらの方法は、基本的には直流放電を利用したスパッタリングであるため、直流スパッタリング法に含まれるが、これらの機能を持つ電源は非常に高価であるため、設備コストを増加させてしまうという欠点がある。また、これらの機能を持つ電源を用いたとしても、アーキングを完全に抑制できるわけではなかった。
スパッタリング法によるチタンを添加した酸化インジウム膜は、従来から知られている。例えば、最も古いものでは、J.L.Vossenの記した文献(RCA Review、1971年32巻、p.289〜296)がある。この文献は、RFスパッタリングによるITO膜の特性の記述が中心であるが、スズ以外の不純物として、TiO2を20モル%添加したIn23膜の作製例が記されている。
しかし、この組成は、Tiの添加量が多く、その存在形態が不明であり、さらに、膜の電気抵抗率は7.5×10-1Ωcmと記されていて、著しく高い。使用したスパッタリングターゲットの比抵抗や、表面粗さおよび密度に関する記載もない。
また、特開昭59−204625号公報には、酸化チタンを2〜15質量%含む酸化インジウムターゲットから、スパッタリング法でポリエチレンテレフタレートフィルム上に、チタンを含む酸化インジウム膜を製造する方法が記されている。しかし、チタンの添加量が多く、その存在形態が不明であり、酸化物焼結体の比抵抗や、表面粗さおよび密度に関する記載は一切なく、高速成膜と、ノジュールの発生と、および、長時間、安定したスパッタリングの記載は無い。
特願2003−324825号 特開昭59−204625号公報 透明導電膜の技術、オーム社、p.82、p.193〜195 J.L.Vossen著、RCA Review、1971年32巻、p.289〜296
本発明の目的は、前記事情に鑑み、可視光領域だけでなく赤外線領域においても透過性に優れ、しかも、低抵抗値を有する酸化物透明電極膜を製造するための焼結体ターゲットであり、アーキング抑制機能のない電源を用いた直流スパッタリング成膜で、高電力投入でもアーキングが発生しにくく、従って、高速成膜が可能で、また長時間電力を投入してもアーキングが発生することのないチタン添加酸化インジウム系焼結体ターゲットを提供することである。
本発明のチタン添加酸化インジウム系酸化物焼結体は、主として酸化インジウムからなり、チタンを含み、チタンの含有量がTi/In原子数比で0.003〜0.019であり、不純物としてスズの含有量がSn/In原子数比で0.0025以下であり、チタンが固溶した酸化インジウムのビックスバイト型構造の結晶相のみを主相とするか、あるいは、チタンが固溶した酸化インジウムのビックスバイト型構造の結晶相とチタン酸インジウム化合物の結晶相が混在している状態を主相としており、粉末X線回折測定で、酸化チタン結晶相が検出されず、比抵抗が1×10 -2 Ωcm以下である。
本発明のチタン添加酸化インジウム系酸化物焼結体は、平均粒径が1μm以下の酸化インジウム粉末と酸化チタン粉末を原料とし、湿式ボールミルによる混合、冷間静水圧プレスによる成型、及びスズで汚染されていない焼結炉内に酸素を導入した雰囲気中での焼結をした後、アニール処理を施すことにより作製される。
らに、相対密度が95%以上であることが望ましい。
さらに、スパッタリングを行う側の表面の表面粗さRmaxが3.0μm以下であることが望ましい。
本発明のスパッタリングターゲットは、前記酸化物焼結体を冷却用金属板に貼り合わせる。前記スパッタリングターゲットは、比抵抗が1×10-3Ωcm以下あるいは、比抵抗が5.5×10-4Ωcm以下の透明導電膜であって、透明導電膜自体の、波長1000〜1400nmにおける赤外光平均透過率が60%以上である透明導電膜の製造に用いられる。
本発明の酸化物透明電極膜の製造方法では、該スパッタリングターゲットを用いて、直流スパッタリング法で成膜する。
本発明の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いると、従来より高速成膜が可能となる。さらに、可視光領域だけでなく赤外線領域においても透過性に優れ、しかも、低抵抗値を有する酸化物透明電極膜を製造することができ、アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流スパッタリング成膜で、高電力投入してもアーキングが発生しにくく、従って、高速成膜が可能で、長時間電力を投入してもアーキングが発生することなく、工業的に有用なスパッタリング法で酸化物透明電極膜を製造することができる。
従って、高効率の太陽電池を低コストで作製することができるため、本発明は工業的価値が極めて高い。
本発明の焼結体ターゲットは、実質的にインジウムとチタンと酸素で構成されている。該焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングで膜を作製すると、酸化インジウム膜中の、原子価が3価であるインジウム位置の一部を、原子価が4価のチタンが、不純物イオンとして占有し、これによってキャリア電子を放出して、膜の導電率が増加する。一般に、酸化インジウムのようなn型半導体にスズなどの不純物イオンが増加すると、キャリア電子数は増加するが、不純物イオン散乱によってキャリア電子の移動度が減少する傾向がある。
しかし、本発明者らの実験によると、スパッタリング法などで作製した添加物のない多結晶の酸化インジウム膜のホール効果測定による移動度は、20〜30cm2/Vsecであり、添加物のない酸化インジウム単結晶の移動度(約120cm2/Vsec)と比べると低い移動度であるが、チタンを不純物イオンとして酸化インジウム膜に添加すると、移動度も大幅に増加させる(70〜90cm2/Vsec)ことができることが明らかとなった。従って、酸化インジウム膜にチタン元素を含ませると、キャリア電子の移動度を比較的高い状態で、キャリア電子数を増加させることができる。しかし、一般に、キャリア電子数の著しい増加は、キャリア電子による赤外線の反射と吸収を増大させ、赤外線透過率の著しい減少を伴う(透明導電膜の技術、オーム社、p.55〜57参照)。例えば、ITO膜の場合、錫の添加によりキャリア電子数が増加して、導電率は増大するが、赤外線透過率の著しい減少がみられる。また、錫の添加量を赤外線透過率が悪化しない程度に抑制すると、キャリア数が小さいため、導電率が低下する傾向にある。
本発明者らの実験によると、チタンを不純物イオンとして酸化インジウム膜に添加すると、キャリア電子の大幅な増加を伴わずに、移動度を増大させることが可能であり、低抵抗で、赤外線透過率の高い透明導電膜を実現できることが明らかとなった。本発明の酸化物焼結体は、このような特徴の透明導電膜を製造するための材料として用いられるものであり、酸化インジウムの焼結体にチタン元素を含ませる主な理由は、ここにある。
実用的な低抵抗膜を作製するためには、酸化インジウムの焼結体中のチタン元素はTi/In原子数比で0.003以上0.019以下の量だけ含有させるのが好ましい。0.003未満では、チタン添加による膜のキャリア電子の数と移動度の増大に効果がないため低抵抗膜が得られず、0.120を超えると、られる膜のキャリア電子の移動度が著しく減少して導電率が下がる。また、その組成範囲の中でも、Ti/In原子数比が0.003〜0.019の範囲であると、より低抵抗で、赤外線透過率のより高い透明導電膜を、安定して得ることができる。
また、赤外線透過率が高くて低抵抗の透明導電膜をより安定して製造するためには、酸化物焼結体中の不純物として含まれるスズ元素が、Sn/In原子数比で0.0025以下であることが好ましく、さらに、実質的にスズ元素を含まない方がより好ましい。焼結体中の不純物のスズ元素が、Sn/In原子数比で0.0025より多くなると、膜中に取り込まれたスズによるキャリア電子の生成による赤外線吸収の影響が顕著になるため、赤外線透過率が減少しやすくなる。このような場合でも、スパッタ中の酸素量を増加させることによってキャリア電子の生成が抑制され、赤外線透過率を増加させることができるが、スパッタ中の酸素量を増加しすぎると中性不純物散乱による移動度の減少により比抵抗が増加してしまうため、低抵抗で赤外線高透過性の膜を得るためのスパッタガス中の酸素混合量の精密な調整が必要となる。焼結体中の不純物のスズ元素が、Sn/In原子数比で0.0025以下であれば、膜中に取り込まれた不純物スズ元素によるキャリア発生の影響も少なく、幅広いスパッタガス中酸素混合量の範囲において、低抵抗で赤外線高透過性の膜が安定に得ることができる。
また、本発明の一形態では、酸化物焼結体の比抵抗を規定する。直流スパッタリング時の成膜速度が、スパッタリングターゲットの酸化物焼結体の比抵抗に依存するからである。インジウムとチタンを含む酸化物焼結体の場合、比抵抗が1×10-2Ωcm以下であると、速い成膜速度が実現する。比抵抗が高い場合、窒素などの非酸化性の雰囲気下で加熱することによって還元処理すると、酸化物焼結体の比抵抗を下げることができる。
また、本発明者らは、主として酸化インジウムからなり、チタンを含む酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに使用し、直流スパッタリング法で成膜しようとすると、アーキングの発生は、焼結体中のチタンの存在形態に大きく依存し、特に、酸化チタン結晶相が存在すると、アーキングが多発することを見出した。酸化チタン結晶相が存在せず、ビックスバイト結晶相のみを主相とするか、あるいは、酸化チタン結晶相が存在せず、チタンが固溶した酸化インジウムのビックスバイト型構造の結晶相とチタン酸インジウム化合物の結晶相が混在している状態を主相としている酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いる場合は、アーキングは発生しないことを見出した。さらに、酸化チタン結晶相が存在せず、ビックスバイト結晶相のみで構成された酸化物焼結体、もしくは、酸化チタン結晶相が存在せず、ビックスバイト結晶相とチタン酸インジウム化合物の結晶相とで構成されている酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いる場合は、さらに安定してスパッタリングが行えるので好適である。
これらは、アーキングの要因となる酸化チタン結晶相は高抵抗相であり、ビックスバイト結晶相とチタン酸インジウム化合物の結晶相は、導電相であるからと考えられる。また、酸化物焼結体中に酸化チタン結晶相が存在すると、前述の窒素などの非酸化性の雰囲気下で行う加熱還元処理でも、効果的に比抵抗を下げることが難しいということも、原因として考えられる。
チタン酸インジウム化合物の結晶相の生成の有無は、酸化物焼結体中のチタン含有量に依存する。チタン含有量が少ないと、チタン酸インジウム化合物の結晶相が生成せず、ビックスバイト結晶相のみになり、また、チタン含有量が多くなると、チタン酸インジウム化合物の結晶相が生成され、チタン含有量と共に多くなる。
しかし、チタン酸インジウム化合物の結晶相の生成の有無は、酸化物焼結体中のチタン含有量だけでなく、酸化物焼結体の製造条件、例えば原料粉末の粒径、混合条件および焼成条件にも、大きく依存することが本発明者らの実験で明らかとなっている。
また、アーキングの原因となる酸化チタン結晶相の生成の有無は、酸化物焼結体の製造条件、例えば、原料粉末の粒径、混合条件および焼成条件にも、大きく依存することが、本発明者らの実験で明らかとなっている。
これらの酸化物焼結体の製造条件を最適化することによって、酸化チタン結晶相の生成を抑制することができることが明らかとなった。
また、本発明者らの実験によると、同様の比抵抗で、チタンとインジウムを含む酸化物焼結体でも、絶縁性あるいは高抵抗の酸化物である酸化チタン結晶相が存在せず、ビックスバイト相のみで構成されているか、もしくは、ビックスバイト相とチタン酸インジウム化合物の結晶相で構成されている酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いる方が、酸化チタンが検出された酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いる場合より、同一条件でスパッタリング成膜した成膜速度は、明らかに速いという結果が得られている。これは、酸化チタン結晶相のスパッタリングレートが、比較的遅いためであり、このため、酸化チタン結晶相が酸化物焼結体中に含まれていると、その存在する割合に応じて、スパッタリングレートが遅くなるからである。
ここで、ビックスバイト(bixbyite)型構造とは、酸化インジウム(In23)の結晶構造であり、希土類酸化物C型とも呼ばれる(透明導電膜の技術、オーム社、p.82参照)。In23は、ビックスバイト型構造の他に、コランダム型構造もとることがある。チタンなどの陽イオンは、ビックスバイト型構造の酸化インジウムのインジウム位置を置換し、固溶体を形成する。
また、チタン酸インジウム化合物とは、例えば、パイロクロア型構造のIn2Ti27-x(x≧0)化合物やJCPDSカードの30−640に記載されているIn2TiO5化合物の存在が知られているが、それ以外のチタン−インジウム−酸素で構成された化合物でもよい。また、これらの化合物の化学量論組成から、組成ずれが多少、生じていても、他のイオン(例えば、正4価以上の陽イオン)が一部で置換されていても、かまわない。本発明者らの実験において、チタン酸インジウム化合物の結晶相は、酸化チタン結晶相と比べて抵抗値が低く、高直流電力を投入しても、アーキング発生の要因にならず、また、成膜速度低下の要因にもならないという結果が得られている。
また、本発明者らの実験によると、ノジュール(ターゲット表面の黒色突起物)の発生量が少なく、アーキングの発生や成膜速度の低下といった問題が生じないスパッタリングターゲットは、相対密度が95%以上であり、さらに好ましくは、スパッタ面の表面粗さRmaxが、3.0μm以下である。
ここで、酸化物焼結体の相対密度は、水を用いたアルキメデス法によって測定した焼結体密度と、空孔を全く含まない場合の理論密度をもとに、(焼結体密度/理論密度)×100(%)の式から算出した値である。ここで、相対密度を算出する際に用いた各組成における理論密度は、酸化物焼結体中のインジウムは全てビックスバイト型の酸化インジウム相として存在し、酸化インジウム相に酸素欠損がなく、酸化物焼結体中に存在するチタンが全て正規のインジウム位置に置換したときのビックスバイト型構造の単位胞の質量(M)を求め、粉末X線回折法で求めた格子定数から算出されるビックスバイト型構造の単位胞の体積(V)からM/Vで算出する。
ここで、表面粗さRmaxとは、(1)基準長さだけ抜き取った断面曲線の平均線に平行で、(2)この断面曲線に接し、(3)この断面曲線全体を挟む二直線の間隔の値である。基準長さは、JIS規格に基づいて、Rmaxの値によって6種類の値が決められている。例えば、Rmaxが0.8〜6.3μmでは規準長さは0.8mmであり、Rmaxが6.3〜25μmでは規準長さは2.5mmである。また、平均線とは、抜き取った断面曲線において被測定面の幾何学的形状をもつ線(直線または曲線)で、かつその線から該断面曲線までの偏差の二乗和が最小になるように設定した線である。本発明で規定したRmaxは、上記の条件で10箇所測定して求めた平均値である。
本発明に係わる透明導電性薄膜作製用の酸化物焼結体では、相対密度が95%より低くなると、長時間スパッタリングを実施した際に、エロージョン近傍にノジュール(ターゲット表面の黒色突起物を言う)が発生して、成膜中にアーキングが起きやすくなる。このような状態で成膜すると、低抵抗の膜は得られない。本発明者らの実験によって、ノジュールの生じやすさは、酸化物焼結体の相対密度とスパッタ面の表面粗さに関連があることがわかった。本発明の酸化物焼結体では、相対密度を95%以上にし、さらに好ましくは、スパッタ面の表面粗さRmaxを3.0μm以下にする。これにより、長時間スパッタリングを実施した場合のノジュールおよびアーキングの抑制に効果的である。
この理由は、次のように説明できる。相対密度が低い(90〜95%)場合には、スパッタリングによって表面から元素あるいは粒子が弾き飛ばされて、外観としては削り取られたような状態となるが、この時、スパッタリングターゲット中に存在していた空孔が表面に出て、この空孔が、表面で凹部を形成する。表面の凹部では、スパッタリングされた元素あるいは粒子が、凹部の壁に付着して堆積し、成長して突起物が形成される。また、ターゲット表面が粗い場合は、このような凹部が、表面にすでにできている状態であり、この場合でも、前述と同様の機構で、突起物が形成される。スパッタリングターゲットの相対密度が低いほど、あるいは、表面粗さが大きいほど、表面の凹部が多く形成されるため、突起物が多く形成される。これが、ターゲット表面に形成される前述の黒色突起物である。この突起物が成長すると、放電中にプラズマが集中し、アーキングの発生および成膜速度の低下が始まって、膜特性の悪化につながる。
また、本発明者らは、種々の相対密度と表面粗さをもつチタン添加酸化インジウム系焼結体をスパッタリングターゲットに用い、ガス圧、成膜ガスの種類、ターゲット−基板間距離および放電パワーを一定にして、連続スパッタリング実験および評価試験を実施した。この実験および試験によると、ターゲット表面の黒色突起物の発生量や、アーキングの発生および成膜速度の低下が始まる積算投入電力は、スパッタリングターゲットの相対密度と表面粗さに大きく依存する。すなわち、相対密度が高く、表面粗さが小さいほど、黒色突起物の発生量は少なく、アーキングの発生および成膜速度の低下が始まる積算投入電力値は大きかった。
従って、本発明の酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いれば、可視光領域だけでなく赤外線領域の光透過性能が良好で、しかも、低抵抗の透明導電膜を、直流スパッタリング法を用いて、従来の技術よりも高速に基板上に製造することができる。また、長時間のスパッタリングを実施しても、スパッタリング特性の変化がなく、スパッタリングターゲットを掘りきるまで安定して使用することができるため、製造コストを大幅に削減できる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する.
[1.酸化チタン結晶相−成膜速度]
参考例1)
平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のTiO2粉末を、原料粉末とした。In23粉末とTiO2粉末を99.420.58の割合(質量比)で調合し、水とともに樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。
造粒物を、冷間静水圧プレスで3ton/cm2の圧力をかけて、成形した。
次に、成形体を次のように焼結した。炉内容積0.1m3当たり5リットル/分の割合で、焼結炉内の大気に酸素を導入する雰囲気で、1450℃で20時間焼結した。この際、1℃/分で昇温し、焼結後の冷却の際は酸素導入を止め、1000℃までを10℃/分で降温した。
得られた焼結体の端材を粉砕し、粉末X線回折測定を実施したところ、Ti/In原子数比が0.01の酸化物焼結体は、ビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶相に起因する回折ピークのみが観察された。EPMAによるこの焼結体の局所分析から、TiO2やTiOなどの酸化チタンの相は存在せず、また、酸化インジウム相にはチタンが固溶していることがわかった。
得られた酸化物焼結体を、直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタ面をカップ砥石で磨いた。酸化物焼結体のスパッタ面に対し、四探針法で比抵抗を測定したところ、1.0kΩcmであった。この加工した酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタリングターゲットを得た。
アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置の非磁性体ターゲット用カソードに、スパッタリングターゲットを取り付け、スパッタリングターゲットの対向位置にガラス基板を配置した。ガラス基板上で、スパッタリングターゲットの中心の直上部の一部を、フェルトペンでマークした。そして、ターゲット−基板間距離を60mmとし、純Arガスを導入し、O2ガスを4%だけ混合させ、ガス圧を0.5Paとし、直流160Wで直流プラズマを発生させ、基板をスパッタリングターゲットに対して静止対向のまま、基板加熱せずに、30分間スパッタリングを実施した。
成膜後、フェルトペンのマークと、その上に堆積した膜とを、アセトンで取り除き、生じた段差、即ち膜厚を表面粗さ計で測定した。膜厚/成膜時間から、成膜速度を算出した。
また、膜の電気的、光学的特性を調べるためフェルトペンでマークせず、基板温度を300℃に加熱して、前述の方法で、定まった成膜速度に応じて、約300nmの膜厚の透明導電膜を作製し、膜の表面抵抗を四端針法で測定して、比抵抗を算出したところ、5.0×10-4Ωcmであった。さらに、光学特性を分光光度計(日立製作所社製)で測定し、基板を含めた膜の透過率(T1)と基板のみの透過率(T2)から、膜自体の透過率を(T1/T2)×100(%)とすると、波長1000〜1400nmの、膜自体の赤外光平均透過率は85%と高かった。
参考例2〜8)
参考例1と同様にして、Ti/In原子数比が0.003、0.008、0.015、0.019、0.051、0.102、0.119の酸化物焼結体を作製したところ、Ti/In原子数比が0.003、0.008、0.015、0.019ではビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶相に起因するX線回折ピークのみが観察され、他はチタンが固溶したビックスバイト型構造の酸化インジウム相と、JCPDSカードの30−640記載のチタン酸インジウムIn2TiO5相に起因するX線回折ピークが観察されたが、全ての酸化物焼結体において、TiO2やTiOなどの酸化チタンに起因したX線回折ピークは観察されなかった。
さらに、得られた酸化物焼結体から参考例1と同様の処理でスパッタリングターゲットを作製して、測定した。
その結果、膜の比抵抗は何れも1×10-3Ωcm以下であり、可視光領域だけでなく赤外光領域においても光透過率が良好な低抵抗透明導電膜であった。
特にTi/In原子数比が0.003〜0.019の酸化物焼結体(参考例2、3)からなるスパッタリングターゲットから作製した膜厚200nmの膜は、波長1000〜1400nmの、膜自体の赤外光平均透過率を参考例1と同様に測定すると85%以上と高く、比抵抗も1.9〜5.5×10-4Ωcmと低かった。
表1に、参考例1〜の酸化物焼結体のTi/In原子数比と比抵抗、及び酸化物焼結体から作製したターゲットを用いたときの成膜速度の測定結果を示す。
(比較例1〜8)
平均粒径が3〜5μmのTiO2粉末を用いたことと、原料粉末の湿式ボールミル混合を5時間と短くしたこと以外は、参考例1〜8と同じ条件でインジウムとチタンを含む比較例1〜8の酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体には、粉末X線回折測定、透過型電子顕微鏡による観察、電子線回折測定およびEPMAによる局所分析から、TiO2相が含まれていることがわかり、しかも、これらの酸化物焼結体の比抵抗は、13k〜35kΩcmであることから、本発明とは異なる酸化物焼結体であることを確認した。
参考例1〜8と同様の方法で、酸化物焼結体を研磨加工し、無酸素銅製のバッキングプレート上にボンディングした。
さらに、参考例1〜8と同じ条件で、スパッタリング成膜を実施し、同様の方法で成膜速度の測定と、膜の比抵抗と光学特性を測定した。
表2に、比較例1〜8の酸化物焼結体のTi/In原子数比と比抵抗、及び酸化物焼結体から作製したターゲットを用いたときの成膜速度の測定結果を示す。
<得られた薄膜の特性>
比較例1〜8の酸化物焼結体から得られた膜は、参考例1〜8の同じ組成の酸化物焼結体から得られた膜と比べて、比抵抗値は20〜30%程高いものの、何れも1×10-3Ωcm以下であり、可視光領域および赤外光領域において光透過率が良好な低抵抗透明導電膜であった。
しかし、表1と表2の成膜速度を比較すると、ビックスバイト相とチタン酸インジウム化合物の結晶相で形成された本発明による酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いた方(表1)が、酸化チタン結晶相を含む酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いる場合(表2)より、成膜速度が著しく速く、生産性を考慮すると、本発明が有用であることがわかる。
[2.還元処理(酸化チタン存在しない場合)−比抵抗]
実施例25〜29、33〜37、参考例9〜24、30〜32、38〜40
次に、参考例1〜8で作製し、チタンが固溶したビックスバイト型構造の酸化インジウム相で構成されるか、或いは、チタンが固溶したビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶相とチタン酸インジウム化合物の結晶相で構成されたインジウムとチタンを含む酸化物焼結体を、真空中で加熱し、還元化処理を施して、比抵抗を制御した。アニール処理温度を700℃として、アニール時間を1〜10時間の範囲内で振ることによって、種々の比抵抗値の酸化物焼結体が得られた。参考例9〜16は、アニール時間を1時間とし、参考例17〜24は、アニール時間を2時間とし、実施例25〜29、参考例30〜32は、アニール時間を5時間とし、実施例33〜37、参考例38〜40は、アニール時間を10時間とした。
酸化物焼結体を構成している結晶相は、アニール処理によって変化していないことを、粉末X線回折測定で確認した。アニール処理後の酸化物焼結体を、参考例1〜8と同様の方法で研磨加工し、無酸素銅製バッキングプレート上にボンディングしてスパッタリングターゲットを作製した。このスパッタリングターゲットを用いて、参考例1〜8と同様の条件で直流スパッタリングを行い、成膜速度を測定した。
測定結果を、表3に示す。
表3から、アニールすることにより成膜速度が増加し、酸化物焼結体の比抵抗が低いほど成膜速度が増加することがわかる。また、酸化物焼結体の比抵抗を1×10-2Ωcm以下にすると(実施例25〜29、33〜37、参考例30〜32、38〜40)、より高速の成膜が可能となる。
<得られた薄膜の特性>
参考例9〜24、30〜32、38〜40、実施例25〜29、33〜37の酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットから得られた膜は、比抵抗が1×10-3Ωcm以下であり、可視光領域および赤外光領域において光透過率が良好な低抵抗透明導電膜であった。特に、Ti/In原子数比が0.003〜0.019の焼結体ターゲット(参考例9〜13、17〜21、実施例25〜29、33〜3)から作製した膜厚500nmの膜で、1000〜1400nmの膜自体の赤外光平均透過率を実施例1と同様に測定すると60%以上と高く、比抵抗も1.9〜5.5×10-4Ωcmと低かった。
これらの膜を太陽電池の透明電極として利用する時には、膜の比抵抗が低いだけでなく、波長1000〜1400nmの赤外域の高透過性も有用となる。得られる膜の波長1000〜1400nmの赤外域での高透過性は、ターゲットのTi/In原子数比の他に、不純物として含まれているSn量にも左右されることが以下の実験で確認された。
上述の参考例9〜24、30〜32、38〜40、実施例25〜29、33〜37の酸化物焼結体のSn/In原子数比は、ICP発光分光法で定量したところ0.0001未満であった。したがって、不純物Snは実質的に含まれていないと言える。一方、Sn成分で汚染された焼結炉内で成形体を焼結したことを除き、参考例5と同様にして酸化物焼結体を得て、実施例29と同様にして還元処理を行った。得られた酸化物焼結体について、ICP発光分光法による定量、および四探針法による比抵抗の測定を行ったところ、Ti/In原子数比はいずれも0.019で、焼結体比抵抗はいずれも約3×10-3Ωcmと共通であったが、Sn/In原子数比は、0.001、0.0025、0.008、0.011、0.015と5種類の酸化物焼結体が得られた。この5種類の酸化物焼結体からスパッタリングターゲットを作製し、膜厚500nmの透明導電膜を同一の条件にてスパッタリング法で作製し、参考例1と同じ方法で測定した、波長1000〜1400nmの、膜自体の赤外線平均透過率と比較した。膜自体の波長1000〜1400nmの赤外光平均透過率は、焼結体中のSn/In原子数比の増加と共に減少した。Sn/In原子数比が0.011以上の焼結体から作製した膜は、赤外線平均透過率の減少が大きく、参考例1と同じ方法で測定した、波長1000〜1400nmの赤外線平均透過率は55%以下と低かったが、スパッタリング中の酸素量を増やすことによって赤外線平均透過率の良好な膜が得られた。なお、Sn/In原子数比が0.0025以下であれば、スパッタリング中の酸素量が幅広い範囲において安定して赤外線平均透過率の膜を得ることができ、膜の安定製造に、より有用であることがわかった。
[3.還元処理(酸化チタン存在する場合)−比抵抗]
参考例41〜56)
次に、酸化チタン結晶相を含むインジウムとチタンを含む酸化物焼結体を、比較例1〜8と同じ製造条件で製造した後、真空中でアニール処理を施して、比抵抗を制御した。アニール処理温度を700℃として、アニール時間を2〜5時間の範囲内で振ることによって、種々の比抵抗値の酸化物焼結体が得られた。
参考例41〜48は、アニール時間を2時間とし、参考例49〜56は、アニール時間を5時間とした。
酸化物焼結体を構成している結晶相は、アニール処理によって変化していないことを、換言すると酸化チタン結晶相が存在することを、粉末X線回折測定で確認した。アニール処理後の酸化物焼結体を、参考例1〜8と同様の方法で研磨加工し、無酸素銅製バッキングプレート上にボンディングしてスパッタリングターゲットを作製した。このスパッタリングターゲットを用いて、参考例1〜8と同様の条件で直流スパッタリングを行い、成膜速度を測定した。
測定結果を、表4に示す。
<得られた薄膜の特性>
参考例41〜56のスパッタリングターゲットから得られた膜は、比抵抗が1×10-3Ωcm以下であり、可視光領域および赤外光領域において光透過率が良好な低抵抗透明導電膜であった。
酸化チタン結晶相を含むインジウムとチタンの酸化物焼結体では、真空中のアニールによる低抵抗化は、数十Ωcmが限界であった。
なお、前述の成膜実験では、直流160W投入での成膜速度の比較を示したが、直流投入電力を300W、500Wと増加させたスパッタリング成膜でも、傾向は同じであった。また、高周波スパッタリングによる成膜でも、傾向は全く同じであり、本発明で規定した比抵抗を有する酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットが、実用的な成膜速度を有することが示された。
[4.スパッタリングガス中の酸素混合量]
参考例57〜59、実施例60〜61、比較例9)
次に、スパッタリング時のスパッタリングガス中の酸素混合量を変えたときに、膜の比抵抗と焼結体ターゲットの比抵抗との関係を調べた。参考例1〜24、30〜32、38〜42、実施例25〜29、33〜37に用いた直流マグネトロンスパッタリング装置の非磁性体ターゲット用カソードに、前述のスパッタリングターゲット(上記参考例3、13、21、実施例29、37、および比較例3の種々の比抵抗の焼結体ターゲット)を取り付けた。ガラス基板を、ターゲット−基板間距離を60mmとして配置し、純Arガスを導入し、O2ガスを0〜15%の範囲で混合させ、ガス圧を0.5Paとし、直流160Wで直流プラズマを発生させ、ガラス基板をターゲットに対して静止対向のまま、ガラス基板を300℃に加熱して、10分間、スパッタリングを実施した。O2ガス混合量を、0〜15%の範囲で1%づつ振って、ガラス基板上に透明導電膜を作製し、膜の比抵抗のO2ガス混合量依存性を調べた。
膜の比抵抗はO2ガス混合量に依存し、O2ガス混合量を増加していくと、作製された膜の比抵抗は低下し、あるO2ガス混合量にて膜比抵抗は最小値を示し、さらにO2 ガス混合量を増加すると膜比抵抗は増大する傾向を示した。
Ti/Inの原子数比が0.019の組成の参考例5、13、21、実施例29、37、および比較例3の種々の比抵抗の焼結体ターゲットを用いて、この条件で、膜の比抵抗のO2ガス混合量依存性を調べた。膜の比抵抗の最小値(ρmin)と、その時のO2ガス混合量、および最小の比抵抗から10%以内に増加した膜比抵抗(即ち1.1ρmin)の得られるO2ガス混合量を、実験にて求めた。
測定結果を、表5に示す。
<得られた薄膜の特性>
表5に示したように、酸化物焼結体の比抵抗が本発明の範囲内で低いほど、得られる膜の比抵抗は低くなる。また低抵抗の膜の得られるスパッタリングガス中の酸素混合量の範囲も広いため、低抵抗の膜を再現性良く得られ、生産性の面では都合がよいことがわかる。
酸化物焼結体のTi/In原子数比が、0.003、0.008、0.015、0.051、0.102、0.119の場合でも、全く同様の傾向がみられ、酸化物焼結体の比抵抗が低いほど、膜の比抵抗は低く、低抵抗の膜の得られる酸素混合用の範囲が広かった。
[5.焼結体密度およびスパッタ面表面粗さと、アーキングおよびノジュールの関係]
参考例62〜66、比較例10〜17)
Ti/In原子数比が0.019として、原料粉末のボールミルによる粉砕混合時間と、焼成温度および焼成時間を変えて、種々の相対密度の酸化物焼結体を参考例3と同様にして得て、スパッタ面の研磨加工に用いるカップ砥石の種類を変えてスパッタ面表面粗さRmaxを変えたスパッタリングターゲットを得た。表面粗さRmaxは、前述のJIS規格に基づいて定められた値であり、スパッタ面の10箇所を測定して、その平均値を採用した。
直流マグネトロンスパッタリング装置の非磁性体ターゲット用カソードに、Ti/In原子数比が0.019の焼結体ターゲットを取り付けた。そして、直流プラズマを発生させて、連続スパッタリングを開始してからアーキングが発生し始めるまでの積算投入パワー、およびアーキングが発生し始めた時のエロージョンの最深深さ(スパッタ面の反対面からの距離)を測定するため、ターゲット−基板間距離を70mmとし、純度99.9999質量%のArガスに、O2ガスを5%だけ導入し、ガス圧を0.5Paとし、DC500Wでスパッタリングを実施し、アーキングの発生状況を観察した。その際のDC電源には、アーキング抑制機能が装備されていない通常のDC電源を用いた。また、成膜の初期と終了期において、(1)成膜速度、(2)膜の比抵抗、(3)膜の可視光平均透過率特性(波長:400〜800nm)を測定した(成膜速度試験・膜特性試験)。
測定結果を、表6に示す。
<成膜速度、得られた薄膜の特性>
参考例62〜66のスパッタリングターゲットは、積算投入電力が増加して連続スパッタリング終了時点になっても、アーキングが発生せず、黒色突起物が表面に発生していなかった。そのため、このスパッタリングターゲットを最後まで使い切ることができた。前述の(1)〜(3)の特性のいずれについても、積算投入パワーが増大しても、成膜初期の頃と比べてほとんど変化がなく、望ましい低抵抗値(3×10-4Ωcm以下)、および高い平均可視光透過率(85%以上)を有していた。
これに対して、比較例10〜17のスパッタリングターゲットを用いた同一条件のアーキング試験結果では、いずれも積算投入電力が増加するとアーキングが発生し、黒色突起物が大量に発生していた。そのため、これらのスパッタリングターゲットをそのまま継続して使うことは難しかった。
例えば、TiO2相を含む焼結体ターゲットの直流スパッタリング(アーキング抑制機能のない直流電源を使用)では、500Wを超えるとアーキングが発生し始めた。アーキングの発生量は、酸化物焼結体の比抵抗が高いほど多かった。アーキングが発生した後のスパッタ表面を、SEMによる観察およびEPMAによる分析を行ったところ、TiO2相からアーク痕が走っており、アーキングがTiO2相に起因することがわかった。
表6から明らかなように、スパッタリングターゲットのスパッタ表面の表面粗さRmaxが3.0μmより大きいと、長時間のスパッタリングでアーキングが発生してしまう。それに対して、スパッタ表面のRmaxが3.0μm以下だと、長時間のスパッタリングでアーキングが発生せず、厚みが5mmのスパッタリングターゲットを最後まで使用することができた。
アーキングの発生は、スパッタ表面のRmaxだけでなく、相対密度にも関係がある。スパッタ表面のRmaxが3.0μm以下であるだけでなく、相対密度が95%以上のターゲットであると、長時間のスパッタリングでもアーキングが発生しにくいことがわかった。
アーキングが多発し始めたときには、ターゲットエロージョン近傍にはノジュールが大量に発生しており、作製した膜の比抵抗と可視光透過率は、アーキングが発生していない時に作製した膜と比べて大幅に悪化していた。比較例10〜17のスパッタリングターゲットを用いて作製された膜では、膜の比抵抗、及び光透過率がスパッタリングの積算投入電力に依存して低下する傾向にあり、特に、アーキングが発生した場合は、膜の比抵抗、透過特性は極端に悪化した。
本発明により、酸化物焼結体の相対密度が95%以上で、スパッタ面の表面粗さRmaxが3.0μm以下のスパッタリングターゲットを用いれば、アーキングを発生させることなく、スパッタリングターゲットを最後まで使用することができる。また、本発明のスパッタリングターゲットを用いた場合、膜の比抵抗や可視光領域の光透過率が最後まで一定で良好のままであった。
表6は、Ti/In原子数比が0.019の焼結体ターゲットについて測定した結果であるが、Ti/In原子数比が0.003、0.008、0.010、0.015、0.051、0.102、0.119の組成の焼結体ターゲットを用いても、全く同様の結果が得られ、本発明で規定したスパッタリングターゲットのスパッタ面の表面粗さと、スパッタリングターゲットの相対密度が重要な項目であることがわかった。

Claims (7)

  1. 主として酸化インジウムからなり、チタンを含む酸化物焼結体において、チタンの含有量がTi/In原子数比で0.003〜0.019であり、不純物としてスズの含有量がSn/In原子数比で0.0025以下であり、チタンが固溶した酸化インジウムのビックスバイト型構造の結晶相のみを主相とするか、あるいは、チタンが固溶した酸化インジウムのビックスバイト型構造の結晶相とチタン酸インジウム化合物の結晶相が混在している状態を主相としており、粉末X線回折測定で、酸化チタン結晶相が検出されず、比抵抗が1×10 -2 Ωcm以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
  2. 平均粒径が1μm以下の酸化インジウム粉末と酸化チタン粉末を原料とし、湿式ボールミルによる混合、冷間静水圧プレスによる成型、及びスズで汚染されていない焼結炉内に酸素を導入した雰囲気中での焼結をした後、アニール処理を施すことにより作製されたことを特徴とする請求項に記載の酸化物焼結体。
  3. 相対密度が95%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
  4. スパッタリングを行う側の表面の表面粗さRmaxが3.0μm以下であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の酸化物焼結体。
  5. 請求項1からのいずれかに記載の酸化物焼結体を冷却用金属板に貼り合わせたことを特徴とするスパッタリングターゲット。
  6. 比抵抗が5.5×10-4Ωcm以下であり、透明導電膜自体の、波長1000〜1400nmにおける赤外光平均透過率が60%以上である透明導電膜の製造に用いられることを特徴とする請求項に記載のスパッタリングターゲット。
  7. 請求項5または6に記載のスパッタリングターゲットを用いて、直流スパッタリング法で成膜することを特徴とした酸化物透明電極膜の製造方法。
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