JP4366522B2 - 発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平1−225178号公報
【特許文献2】
米国特許公報第5789768号
【特許文献3】
特許第3333219号公報
【0003】
(AlxGa1−x)yIn1−yP混晶(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1(以下、AlGaInP混晶、あるいは単にAlGaInPとも記載する)により発光層部が形成された発光素子は、薄いAlGaInP活性層を、それよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を採用することにより、高輝度の素子を実現できる。また、近年では、InxGayAl1−x−yN(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)を用いて同様のダブルへテロ構造を形成した青色発光素子も実用化されている。
【0004】
例えば、AlGaInP発光素子を例に取れば、n型GaAs基板上にヘテロエピタキシャル成長させる形にて、n型GaAsバッファ層、n型AlGaInPクラッド層、AlGaInP活性層、p型AlGaInPクラッド層をこの順序にて積層し、ダブルへテロ構造をなす発光層部を形成する。発光層部への通電は、素子表面に形成された金属電極を介して行なわれる。ここで、金属電極は遮光体として作用するため、例えば発光層部主表面の中央部のみを覆う形で形成され、その周囲の電極非形成領域から光を取り出すようにする。
【0005】
この場合、金属電極の面積をなるべく小さくしたほうが、電極の周囲に形成される光漏出領域の面積を大きくできるので、光取出し効率を向上させる観点において有利である。従来、電極形状の工夫により、素子内に効果的に電流を拡げて光取出量を増加させる試みがなされているが、この場合も電極面積の増大はいずれにしろ避けがたく、光漏出面積の減少により却って光取出量が制限されるジレンマに陥っている。また、クラッド層のドーパントのキャリア濃度ひいては導電率は、活性層内でのキャリアの発光再結合を最適化するために多少低めに抑えられており、面内方向には電流が広がりにくい傾向がある。これは、電極被覆領域に電流密度が集中し、光漏出領域における実質的な光取出量が低下してしまうことにつながる。そこで、クラッド層と電極との間に、キャリア濃度(ドーパント濃度)を高めた低抵抗率の電流拡散層を形成する方法が、特許文献2にて採用されている。電流拡散層は、有機金属気相成長法(MetalOrganic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE法)や、液相エピタキシャル成長法(Liquid Phase Epitaxy:LPE法)により形成される。しかし、十分な電流拡散効果を得るには電流拡散層の成長厚さを相当厚く(例えば50μm程度)形成しなければならず、製造コストの増加は免れない。
【0006】
そこで、化合物半導体よりなる電流拡散層に代えて、あるいは電流拡散層と共に酸化物透明電極層(例えば、ITO(Indium Tin Oxide)透明電極層)を、発光層部表面を覆うように形成する提案が、特許文献1、特許文献2あるいは特許文献3に開示されている。酸化物透明電極層は導電率が金属並に高いため、厚さが小さくとも十分な電流拡散効果が得られ、電流拡散層の厚さの削減あるいは省略が可能となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、電流拡散層を厚く形成した発光素子は、電流拡散層の成長にコストがかかる反面、素子の全体厚さが増大することから、素子の周側面からの光取出量を増やすことができ、外部量子効率が向上する利点があった。しかし、高導電率の酸化物透明電極層を設けた発光素子は、その目的からして必然的に電流拡散層の厚さが縮小されるため、発光素子全体の厚さも大幅に減少する。その結果、素子の周側面からの光取出量が減少し、外部量子効率の低下が避け難くなる欠点がある。
【0008】
特許文献3においては、発光層部の最表面にフロスト処理による凹凸を形成し、その凹凸面を酸化物透明電極層で覆うことにより、光取出し効率の向上を図る提案がなされている。しかし、この提案の構造では、酸化物透明電極層の接触抵抗を減ずるためのコンタクト層が省略されており、接触抵抗の増加により素子の順方向電圧が大幅に高くなる欠点がある。
【0009】
本発明の課題は、酸化物透明電極層の使用により素子厚さが減じられているにもかかわらず、外部量子効率を十分に高めることが可能であり、ひいては従来型の酸化物透明電極層の使用した素子よりも発光輝度を大幅に高めることができる発光素子を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
本発明は、発光層部を有した化合物半導体層と、該化合物半導体層の主表面を覆うように形成された、発光層部に発光駆動電圧を印加するための酸化物透明電極層とを有し、発光層部からの光を、酸化物透明電極層を透過させる形で取り出すようにした発光素子において、上記の課題を解決するために、その第一の構成は、
化合物半導体層と酸化物透明電極層との間に、酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層が、該酸化物透明電極層に接するように配置され、酸化物透明電極層の接合界面において、コンタクト層の形成領域と非形成領域とが混在するとともに、
化合物半導体層の最表面は、コンタクト層の非形成領域の少なくとも一部が、残余の領域よりも発光層部側に引っ込んで位置する凹状面とされ、
発光層部が透明導電性基板の第一主表面側に配置される一方、該透明導電性基板の第二主表面が裏面電極を兼ねた反射金属層により覆われてなることを特徴とする。
【0011】
酸化物透明電極層は、例えばITOにて構成できる。ITOは、酸化スズをドープした酸化インジウム膜であり、酸化スズの含有量を1〜9質量%とすることで、電極層の抵抗率を5×10−4Ω・cm以下の十分低い値とすることができる。なお、ITO電極層以外では、ZnO電極層が高導電率であり、本発明に採用可能である。また、酸化アンチモンをドープした酸化スズ(いわゆるネサ)、Cd2SnO4、Zn2SnO4、ZnSnO3、MgIn2O4、酸化イットリウム(Y)をドープしたCdSb2O6、酸化スズをドープしたGaInO3なども酸化物透明電極層の材質として使用することができる。これらの酸化物透明電極材料は可視光に対して良好な透過性を有し(つまり、透明であり)、発光層部への電圧印加用電極として用いる場合、光の取出しを妨げない利点がある。また、該酸化物透明電極層上に形成されるボンディングパッドを介して素子駆動用の電圧を印加したとき、電流を面内に広げて発光を均一化し高効率化する役割も担う。
【0012】
このような酸化物透明電極層は、発光層部や電流拡散層をなす化合物半導体層と直接接合しようとしたとき、良好なオーミック接合が必ずしも形成されず、接触抵抗に基づく直列抵抗増大により発光効率が低下することがある。したがって、発光層部と酸化物透明電極層との間には、該酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層を、該酸化物透明電極層に接するように配置する必要がある。このようなコンタクト層は後述する化合物半導体により形成することができるが、AuやAgを主成分とする金属層とすることも可能である。
【0013】
他方、化合物半導体を用いた発光素子は、発光層部に注入されたキャリアの発光再結合に基づく面発光型の素子であり、発光層部からの光放出形態は、層を面内方向に細分してそれぞれを点光源に置き換えて考えると理解が容易である。この場合、各点光源からは3次元な全ての方向に発光光束が放出されると考えられ、素子最表面に形成された酸化物透明電極層へは、面内方向において該点光源から離れた領域ほど、発光光束は低角度で入射する。酸化物透明電極層と化合物半導体層との界面に全反射臨界角以下で入射した発光光束は、該界面で反射されて化合物半導体層側に戻されるので、酸化物透明電極層を通過して外部へ取り出すことができない。酸化物透明電極層を採用した発光素子は、前述の通り、発光層部を含む化合物半導体層の全厚さが減じられて素子周側面からの光取出量が少なくならざるを得ないから、酸化物透明電極層に覆われた化合物半導体層の最表面領域が平坦であると、界面にて全反射される光束も増え、素子全体の光取出し効率は大きく損なわれてしまう。
【0014】
そこで、本発明の発光素子においては、化合物半導体層の最表面に、酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層の形成領域と非形成領域とを混在させ、該化合物半導体層の最表面において、コンタクト層の非形成領域の少なくとも一部を、残余の領域よりも発光層部側に引っ込んで位置する凹状面とした。コンタクト層の形成領域は、凹状面から見れば相対的に突出した凸状部をなす。そして、酸化物透明電極層内を拡散した電流は、これら凸状部の頂面を選ぶ形で分散形成された各コンタクト層を経て発光層部に供給されるから、凸状部直下の各発光層部は、酸化物透明電極層により並列接続された、いわば独立した要素発光素子を形成し、コンタクト層を経て集中供給される電流により、それぞれ高輝度にて発光する。つまり、該要素発光素子の形成により、発光層部を従来の発光素子よりも効率的に活用できる。
【0015】
該効果は、化合物半導体層の最表面に凸状部を分散形成し、コンタクト層も該凸状部に対応して分散形成し、酸化物透明電極層により、それらコンタクト層を面内方向に電気的に連結した構造を採用したとき、さらに高められる。この場合、コンタクト層は化合物半導体にて形成してもよいし、金属で形成することもできる。コンタクト層を金属で構成する場合、凸状部の頂部に該金属よりなるコンタクト層を選択的に形成することになる。化合物半導体よりなるコンタクト層の場合は、下地をなす化合物半導体層上にエピタキシャル成長する必要があり、成長面の平坦性が要求されるが、金属コンタクト層の場合は、コンタクト層を形成する凸部頂部が必ずしも平坦でなくとも、蒸着やスパッタリングにより容易に形成できる利点がある。
【0016】
また、本発明の発光素子によると、発光層部からの光束の起点から遠く離れた位置にて界面に入射する光も、凹状部の存在により実質的な入射角が大きくなり、界面にて全反射される発光光束を大幅に減ずることができる。つまり、個々の要素発光素子にてそれぞれ発生した強い発光光束が、凸状部の周囲をなす凹状部の表面から、それぞれ全反射を抑制されつつ酸化物透明電極層を経て効率よく外部に放出されるので、全体として非常に高輝度な発光素子が実現することとなる。また、酸化物透明電極層の使用により素子厚さが減じられているにもかかわらず、酸化物透明電極層を用いた発光素子の発光輝度を飛躍的に向上させることができる。さらに、素子厚さ減少により素子周側面からの放射光が減ずる代わりに、酸化物透明電極層が形成された素子主表面側への放射光が増加するので、該素子主表面側に光束が集中した明るい光が得やすくなる利点も生ずる。
【0017】
酸化物透明電極層は、公知の気相成膜法、例えば化学蒸着法(chemical vapor deposition:CVD)あるいはスパッタリングや真空蒸着などの物理蒸着法(physical vapor deposition:PVD)、あるいは分子線エピタキシャル成長法(molecular beam epitaxy:MBE)にて形成することができる。例えば、ITO層やZnO電極層は高周波スパッタリング又は真空蒸着により製造でき、また、ネサ膜はCVD法により製造できる。また、これら気相成長法に代えて、ゾル−ゲル法など他の方法を用いて形成してもよい。
【0018】
化合物半導体層の最表面は、パターンエッチングにより、エッチング領域に対応する凹状部と、非エッチング領域に対応した凸状部とを混在させたパターンエッチング面とすることができ、コンタクト層は、凸状部の頂面に選択的に形成することができる。この構造によると、フォトリソグラフィー等を用いて選択エッチングすることにより、光取出に好都合な凹凸形態を自由に得ることができ、凸状部の頂面を非エッチング領域として残すことで、個々の凸状部にコンタクト層を確実に形成することができ、ひいては、凸状部の一つ一つを前述した要素発光素子としてもれなく有効活用することができる。なお、特許文献3の発光素子においては、発光層部の最表面にフロスト処理による凹凸が形成されるが、この凹凸形成のためのフロスト処理エッチングは、発光層部最表面の全面に施されるので、発光層部に予めコンタクト層を形成しておいたとしても上記エッチングにより大半が失われることになる。従って、残留するコンタクト層があっても、偶発的なものが残るだけであるから、凸状部の頂面に選択的に形成できることにはならない。
【0019】
上記のパターンエッチング面をなす凹状部と凸状部とによる一次粗さプロファイルには、さらに、該一次粗さプロファイルよりも微細な二次粗さプロファイルを、異方性エッチングによるフロスト処理面として重畳させることもできる。フロスト処理面は、最表面領域をなす化合物半導体層を、適当なエッチャントを用いて異方性エッチングすることにより得られ、微小な凹凸がランダムに形成されていることから、界面にて全反射される発光光束を減ずる効果が高い。これにより、フロスト処理面特有の発光光束の全反射防止効果と、パターンエッチング面によるそれよりマクロな凹状部及び凸状部による光取り出し効率向上効果とが複合して、さらに高輝度の発光素子が実現できる。
【0020】
次に、酸化物透明電極層の最表面が平坦であると、該酸化物透明電極層の最表面での全反射により外部に取り出せなくなる発光光束が増加することになる。そこで、パターンエッチング面をなす凹状部と凸状部とを形成する場合、酸化物透明電極層の最表面は、該凹状部と凸状部とに倣うプロファイルにて起伏させることが、光取出効率をさらに高める上で望ましい。
【0021】
酸化物透明電極層との接合抵抗を減ずるためのコンタクト層は、前述の通り化合物半導体にても形成できる。結晶欠陥の少ない高品質のコンタクト層を形成するには、該コンタクト層を化合物半導体層上にエピタキシャル成長することが望ましい。この場合、化合物半導体層の最表面に凹凸状部を形成しつつも、コンタクト層のエピタキシャル成長を結晶欠陥などの不具合を発生させることなく実施するには、化合物半導体層の最表面の、コンタクト層の形成領域に対応した部分を、発光層部の厚さ方向と直交するコンタクト形成平坦面とし、該コンタクト形成平坦面に化合物半導体よりなるコンタクト層をエピタキシャル成長することが望ましい。
【0022】
コンタクト形成平坦面と、これよりも引っ込んだ凹状部とを形成するには、例えば鏡面研磨された基板を用いてエピタキシャル成長された平坦な化合物半導体層を用い、その平坦な層表面をフォトレジスト層により部分的に覆って選択エッチングすることにより(フォトリソグラフィー工程)、フォトレジスト層に覆われていない領域がエッチング領域となって凹状部を形成することができる。他方、フォトレジスト層に覆われた非エッチング領域は平坦な層表面がそのまま残留し、凸状部の頂面をなすコンタクト形成平坦面となる。
【0023】
凹状面を形成するためのエッチングは、周知のメサエッチングにて行なうことができる。この場合、それらコンタクト形成平坦面の背景をなす形で凹状部を、湾曲形態の断面形状を有するものとして形成できる。湾曲形態の凹状部を形成することで光取出し効率をさらに高めることができる。具体的には、化合物半導体層の最表面にコンタクト形成平坦面を、残余の領域を背景とする形で島状に分散形成することができ、残余の領域がコンタクト形成平坦面よりも引っ込んで位置するとともに、コンタクト層の周囲において少なくとも湾曲断面形態の凹状面とすることができる。このようにすると、分散形成されたコンタクト形成平坦面の一つ一つが、湾曲形態の凹状面に囲まれた凸状部となり、それら凸状部がレンズ機能を兼ねる要素発光素子となるので、発光輝度をより高めることが可能となる。なお、凹状面のコンタクト層周囲領域以外の部分をなす一部が平坦面となっていてもよい。他方、これとは逆の形態、すなわち、化合物半導体層の最表面に凹状面を、コンタクト形成平坦面をなす残余の領域を背景とする形で島状に分散形成することもできる。この形態は、化合物半導体層の最表面のうち、背景をなすコンタクト形成平坦面を、フォトレジスト層にて一様に覆い、凹状面とすべき領域は島状に露出させてメサエッチングを行なうことにより、一つ一つの凹状面の内面を、ディンプル状に滑らかに仕上げることができ、良好な形状の凹状面を得るための条件設定も容易である。
【0024】
次に、酸化物透明電極層上には、金属製のボンディングパッドを配置することができ、該ボンディングパッドに通電用の電極ワイヤが接合することができる。この場合、化合物半導体層の最表面の、ボンディングパッドの直下領域を、(凹状部や凸状部が形成されない)平坦に形成することが望ましい。これにより、酸化物透明電極層のボンディングパッドの形成領域も平坦化し、ボンディングパッドとの密着性も良好となる。また、そのボンディングパッドの表面も平滑化するので、該ボンディングパッドに電極ワイヤを、画像処理を用いて自動ボンディングする際に、面荒れによる画像の誤検出が軽減され、ひいてはワイヤボンディング工程での能率向上や、歩留まり改善にも寄与する。
【0025】
なお、コンタクト層を酸化物透明電極層の素子側への接合面全面を被覆するように形成すると、ワイヤ接合用のボンディングパッドの直下領域でも酸化物透明電極層の接触抵抗が改善される結果、駆動電流ひいては発光が該領域に集中しやすくなり、発生した光の多くがボンディングパッドにより遮蔽されて光取出効率の低下を招く場合がある。そこで、ボンディングパッドの直下領域には、コンタクト層が形成しない構成とすることができる。このように構成すると、ボンディングパッドの直下領域において酸化物透明電極層の接触抵抗が増大する。その結果、酸化物透明電極層内の発光素子の駆動電流は、ボンディングパッドの直下領域を迂回してその外側に流れる成分が大きくなり、光取出効率を大幅に高めることができる。
【0026】
次に、本発明の発光素子の第二の構成は、
発光層部を有した化合物半導体層と、該化合物半導体層の主表面を覆うように形成された、発光層部に発光駆動電圧を印加するための酸化物透明電極層とを有し、発光層部からの光を、酸化物透明電極層を透過させる形で取り出すようにした発光素子において、
化合物半導体層と酸化物透明電極層との間に、酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層が、該酸化物透明電極層に接するように配置され、酸化物透明電極層の接合界面において、コンタクト層の形成領域と非形成領域とが混在するとともに、
化合物半導体層の最表面の、コンタクト層の形成領域が、発光層部の厚さ方向と直交するコンタクト形成平坦面とされ、該コンタクト形成平坦面に化合物半導体よりなるコンタクト層がエピタキシャル成長されてなり、
コンタクト層の非形成領域の少なくとも一部が、コンタクト形成平坦面よりも粗面化された面粗し領域とされてなることを特徴とする。
【0027】
上記発光素子の構造によると、酸化物透明電極層の接合界面において、コンタクト層の形成領域と非形成領域とが混在しており、酸化物透明電極層内を拡散した電流は、部分的に形成されたコンタクト層を経て発光層部に供給されるから、コンタクト層直下部とその周囲をなす各発光層部は、酸化物透明電極層により並列接続された、いわば独立した要素発光素子を形成し、コンタクト層を経て集中供給される電流により、それぞれ高輝度にて発光する。つまり、該要素発光素子の形成により、発光層部を従来の発光素子よりも効率的に活用できる。該効果は、化合物半導体層の最表面にコンタクト形成平坦面を複数分散形成し、各コンタクト形成平坦面にコンタクト層を形成したとき、さらに高められる。
【0028】
また、個々の要素発光素子にてそれぞれ発生した発光光束は、コンタクト層の周囲をなす面粗し領域の表面から、それぞれ全反射を抑制されつつ酸化物透明電極層を経て効率よく外部に放出されるので、全体として非常に高輝度な発光素子が実現することとなる。また、酸化物透明電極層の使用により素子厚さが減じられているにもかかわらず、酸化物透明電極層を用いた発光素子の発光輝度を飛躍的に向上させることができる。さらに、素子厚さ減少により素子周側面からの放射光が減ずる代わりに、酸化物透明電極層が形成された素子主表面側への放射光が増加するので、該素子主表面側に光束が集中した明るい光が得やすくなる利点も生ずる。
【0029】
また、本発明の発光素子の第三は、
発光層部を有した化合物半導体層と、該化合物半導体層の主表面を覆うように形成された、発光層部に発光駆動電圧を印加するための酸化物透明電極層とを有し、発光層部からの光を、酸化物透明電極層を透過させる形で取り出すようにした発光素子において、
化合物半導体層の主表面は、パターンエッチングにより、エッチング領域に対応する凹状部と、非エッチング領域に対応した凸状部とを混在させたパターンエッチング面とされてなることを特徴とする。
【0030】
この構成によると、酸化物透明電極層との境界をなす化合物半導体層の主表面が、パターンエッチングにより大きく起伏しているので、該主表面を平坦に構成する従来の発光素子の比較して、光取出し効率が大幅に向上し、発光強度を高めることができる。なお、パターンエッチング面をなす凹状部と凸状部とを形成する場合、酸化物透明電極層の最表面は、該凹状部と凸状部とに倣うプロファイルにて起伏させることが、光取出効率をさらに高める上で望ましい。
【0031】
さらに、パターンエッチング面をなす凹状部と凸状部とによる一次粗さプロファイルに、さらに、該一次粗さプロファイルよりも微細な二次粗さプロファイルを、異方性エッチングによるフロスト処理面として重畳させることもできる。パターンエッチング面による光分散効果と、フロスト処理面による光分散効果とが相乗的に作用して、取出し効率効果をさらに高めることができる。
【0032】
次に、本発明の発光素子は、第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序にて積層されたダブルへテロ構造を有する化合物半導体よりなる発光層部を有し、第二導電型クラッド層の主表面を覆う酸化物透明電極層を介して発光層部に発光駆動電圧を印加するようにしたものとして構成することができる。この場合、酸化物透明電極層上に金属製のボンディングパッドが配置され、該ボンディングパッドに通電用の電極ワイヤが接合され、酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるための化合物半導体よりなるコンタクト層が、該酸化物透明電極層に接するように配置される。
【0033】
電極ワイヤのボンディングパッドへの接合は、超音波溶接や、これにさらに熱を付加するサーモソニックボンディングにより行なうことができる。この際、ボンディングパッド直下の化合物半導体層には、超音波や加熱(さらには加圧)による衝撃応力が集中し、転位などの結晶欠陥が損傷として導入される。その損傷領域が発光層部の活性層に及んだ場合、次のような不具合を招く。
▲1▼発光輝度の直接的な低下。結晶欠陥による非発光遷移過程の増加が原因として考えられる。
▲2▼素子ライフの低下。転位の形成された発光層に通電を継続すると、転位に電流が集中して転位の増殖が起こりやすくなり、発光輝度の経時的な劣化を引き起こす。
【0034】
そこで、発光層部が第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序にて積層されたダブルへテロ構造を有する化合物半導体よりなるものとされ、酸化物透明電極層上に金属製のボンディングパッドが配置され、該ボンディングパッドに通電用の電極ワイヤが接合される構成においては、化合物半導体層の最表面を含む、活性層とコンタクト層との間に位置する部分が、第二導電型クラッド層を含む厚さ0.6μm以上10μm未満のボンディング側半導体層とすることが望ましい。ボンディング側半導体層の厚さが0.6μm未満になると、接合による損傷の影響が活性層に及びやすくなり、発光強度や素子ライフの低下につながる。他方、その厚さが10μm以上になると、層成長に長時間を要し、原料も多く必要になることから、製造能率の低下とコストの増大を招きやすくなる。
【0035】
また、ボンディング側半導体層は、ドーパント濃度を過度に高くしすぎると、次のような問題を生じやすくなる場合がある。すなわち、発光素子は、通電を継続するに伴い発光輝度が次第に低下する。例えば、一定電流により素子への通電を開始した直後に測定した発光輝度を初期輝度とし、積算通電時間の経過に従い減少する発光輝度を追跡したとき、発光輝度が予め定められた限界輝度に到達する時間、あるいは評価通電時間を一定値(例えば1000時間)に固定したときの、初期輝度に対する評価通電時間経過後の輝度の比(以下、これを素子ライフと称する)は、素子寿命を評価するための一定の尺度となりえる。
【0036】
電流拡散層を有する発光素子は、通電初期段階においては、クラッド層内のドーパント濃度は適正な値を保持されているが、通電を継続すると、電流拡散層内の高濃度のドーパント原子の、クラッド層および活性層内への拡散が、電気的な要因により促される。その過剰なドーパント濃度およびドーパント原子の拡散促進に伴って格子欠陥等が形成されると、活性層内またはP型クラッド層と活性層との界面には、非発光再結合中心となる電気的な準位が形成される。その結果、発光再結合確率が下がり、強度低下を引き起こす。すなわち、発光輝度の経時的な劣化が進みやすくなり、素子ライフが低下することにつながる。
【0037】
そこで、ボンディング側半導体層は、ドーパント濃度を4×1016/cm3以上1×1018/cm3未満に設定することが望ましい。ボンディング側半導体層のドーパント濃度が4×1016/cm3未満では素子の直列抵抗が増大し、素子の順方向電圧の上昇を招く。また、1×1018/cm3以上になると、活性層内でのキャリアの発光再結合が進みにくくなり、発光効率の低下を招く。
【0038】
ボンディング側半導体層は、第二導電型クラッド層と、該第二導電型クラッド層の酸化物透明電極層側に接して配置され、該第二導電型クラッド層よりも低いドーパント濃度の化合物半導体よりなるクッション層とを有するものとして構成できる。このようなクッション層を配置することにより、接合時に損傷領域が仮に生じても、その大半はクッション層内部に留まるので、活性層にその影響が及びにくくなり、発光強度や素子ライフの劣化をより効果的に抑制できる。
※第二クラッド層を厚くした構成(後述)があるので、「構成できる」としました。
【0039】
また、クッション層は、これと接する第二導電型クラッド層よりも低いドーパント濃度を有しているので、クッション層から第二導電型クラッド層内へのドーパント原子の流入が抑制され、素子ライフの大幅な向上を図ることができる。また、成長時にドーパントが第二導電型クラッド層に拡散する不具合も生じにくい。
【0040】
クッション層は、発光層部からの光をなるべく吸収しない材質にて構成することが、光取出し効率を向上させる上で望ましい。そのためには、クッション層をなす化合物半導体として、発光層部の活性層よりもバンドギャップの大きいものを使用することが有効である。AlGaInPにて発光層部を構成する場合、クッション層の具体的な材質として、AlGaAs、GaP、GaAsP、AlGaAsPを例示できる。また、クッション層を薄く形成すると、光吸収抑制の観点において有利に作用する。クッション層の厚さは、具体的には0.1μm以上5μm以下に調整することが望ましい。クッション層の厚さが0.1μm未満では、ボンディング側半導体層の全厚が不足しやすくなり、電極ワイヤ接合時の影響が発光層部へ及びやすくなる。また、クッション層の厚さが5μmを超えると、ドーパント濃度が低く抑えられているために層厚方向の抵抗率が増し、素子の直列抵抗増大による発光効率低下につながる。また、厚いクッション層を成長させるには長時間を要し、原料も多く必要になることから、製造能率の低下とコストの増大を招きやすい。クッション層の厚さは0.5μm以上3μm以下とすることがより望ましい。
【0041】
一方、ボンディング側半導体層は、厚さが0.6μm以上10μm未満の第二導電型クラッド層よりなるものとして構成してもよい。つまり、第二導電型クラッド層を必要十分な厚さとすることで、損傷領域が活性層に及ぶことが防止可能である。また、同一材質のクラッド層の成長厚さを増大させるだけであるから、製造も容易である。この場合、第一導電型クラッド層は、ワイヤ接合に伴う損傷の影響を考慮する必要がないので、第二導電型クラッド層よりも薄く形成することが、製造コスト削減の観点において望ましい。
※第二クラッド層を厚くした構成の記載です。以下、「ボンディング側半導体層」にて統一します。
【0042】
次に、コンタクト層は、具体的には、Alを含有せず、かつバンドギャップエネルギーが比較的小さい(例えば1.42eV未満)化合物半導体からなるものを好適に採用することができる。このようなコンタクト層を用いることにより、良好なオーミックコンタクトが得られ、また、Al成分酸化による抵抗増加も生じにくい。
【0043】
酸化物透明電極層がITO電極層の場合、コンタクト層は、例えばInGaAs層やGaAs層を使用することができる。該コンタクト層は、(少なくとも)ITO電極層との接合界面において、InxGa1−xAs(0<x≦1)となっていることにより、接触抵抗低減効果を特に高めることができる。(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)により発光層を形成する場合、GaAs層をITO電極層と接するように形成し、その後、熱処理を行なうことにより、ITO電極層からGaAs層にInを拡散させて、Inを含有したGaAsよりなるコンタクト層となすことができる。この場合、コンタクト層の厚さ方向におけるIn濃度分布は、ITO電極層から厚さ方向に遠ざかるにつれ連続的に減少するものとなる。また、コンタクト層は、ITO電極層との接合界面において、必ずInxGa1−xAsよりなるものとなる。
【0044】
コンタクト層はInGaAsを直接エピタキシャル成長する方法を採用してもよいのであるが、上記の方法を採用すると、次のような利点がある。すなわち、ボンディング側半導体層のこれと接する部分が、AlGaAs、GaPあるいはAlGaInPにて構成されている場合、GaAs層はこれらの化合物半導体と格子整合が極めて容易であり、InGaAsを直接エピタキシャル成長する場合と比較して、均質で連続性のよい膜を形成できる。
【0045】
そして、そのGaAs層上にITO電極層を形成した後、熱処理することにより、ITO電極層からGaAs層にInを拡散させてコンタクト層とする。このように熱処理して得られるInを含有したGaAsよりなるコンタクト層は、In含有量が過剰とならず、ボンディング側半導体層との格子不整合による、発光強度低下などの品質劣化を効果的に防止することができる。
【0046】
コンタクト層の厚さ方向におけるIn濃度分布は、図11の▲1▼に示すように、ITO電極層から厚さ方向に遠ざかるにつれ連続的に減少するものとなるようにする(つまり、ボンディング側半導体層側にてIn濃度が小さくなるように、In濃度分布に傾斜をつける)ことが望ましい。こうした構造は、熱処理により、ITO側からコンタクト層側へInを拡散させることにより形成される。発光層部をAlGaInPにより形成し、ボンディング側半導体層をこれと格子整合する化合物半導体で構成する場合、コンタクト層のIn濃度分布がボンディング側半導体層で小さくなっていれば、ボンディング側半導体層部との格子定数差が接近し、発光層部とコンタクト層との格子整合性をより高めることができる。熱処理温度が過度に高くなったり、あるいは熱処理時間が長大化すると、ITO電極層からのIn拡散が過度に進行して、図11の▲3▼に示すように、コンタクト層内のIn濃度分布が厚さ方向にほぼ一定の高い値を示すようになり、上記の効果は得られなくなる(なお、熱処理温度が過度に低くなったり、あるいは熱処理時間が過度に短時間化すると、図11の▲2▼に示すように、コンタクト層内のIn濃度が不足することにつながる)。
【0047】
この場合、図11において、コンタクト層の、ITO電極層との境界位置におけるIn濃度をCAとし、これと反対側の境界近傍におけるIn濃度をCBとしたとき、CB/CAが0.8以下となるように調整することが望ましく、該形態のIn濃度分布が得られるように、前述の熱処理を行なうことが望ましい。CB/CAが0.8を超えると、In濃度分布傾斜によるボンディング側半導体層との格子整合性改善効果が十分に得られなくなる。なお、コンタクト層の厚さ方向の組成分布(InあるいはGa濃度分布)は、層を厚さ方向に徐々にエッチングしながら、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)、オージェ電子分光分析(Auger Electron Spectroscopy)、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)などの周知の表面分析方法により測定することができる。
【0048】
コンタクト層のITO電極層との境界近傍におけるIn濃度は、InとGaとの合計濃度に対するInの原子比にて、0.1以上0.6以下とされることが望ましく、上記の熱処理もこのようなIn濃度が得られるように行なうことが望ましい。上記定義によるIn濃度が0.1未満になると、コンタクト層の接触抵抗低減効果が不十分となり、0.6を超えるとコンタクト層と発光層部との格子不整合による、発光強度低下などの品質劣化が甚だしくなる。なお、コンタクト層のITO電極層との境界近傍におけるIn濃度が、InとGaとの合計濃度に対するInの原子比にて、例えば前述の望ましい値(0.1以上0.6以下)を確保できるのであれば、コンタクト層の、ITO電極層に面しているのと反対側の境界近傍でのIn濃度CBがゼロとなっていること、つまり、図12に示すように、コンタクト層のITO電極層側にInGaAs層が形成され、反対側の部分がGaAs層となる構造となっていても差し支えない。
【0049】
ITOは、前述の通り酸化スズをドープした酸化インジウム膜であり、ITO電極層をGaAs層上に形成し、さらにこれを適正な温度範囲にて熱処理することにより、上記望ましいIn濃度を有したコンタクト層を容易に形成できる。また、この熱処理により、ITO電極層の電気抵抗率をさらに低減できる。この熱処理は、コンタクト層内のIn濃度が過剰とならないよう、なるべく低温で短時間にて行なうことが望ましい。
【0050】
上記In拡散の熱処理は、600℃以上750℃以下にて行なうことが望ましい。熱処理温度が750℃を超えるとGaAs層へのInの拡散速度が大きくなりすぎ、コンタクト層中のIn濃度が過剰となりやすくなる。また、In濃度が飽和して、コンタクト層の厚さ方向に傾斜したIn濃度分布も得にくくなる。いずれも、コンタクト層とボンディング側半導体層との格子整合が悪化することにつながる。また、GaAs層へのInの拡散が過度に進みすぎると、コンタクト層との接触部付近にてITO電極層のInが枯渇し、電極の電気抵抗値の上昇が避けがたくなる。さらに、熱処理温度が750℃を超えて高温になりすぎると、ITOの酸素がGaAs層へ拡散して酸化が促進され、素子の直列抵抗が上昇しやすくなる。いずれも適正な電圧で発光素子を駆動できなくなる不具合につながる。また、熱処理温度が極端に高くなると、ITO電極層の導電率がかえって損なわれる場合がある。他方、熱処理温度が600℃未満になると、GaAs層へのInの拡散速度が小さくなりすぎ、接触抵抗を十分に低下させたコンタクト層を得るのに非常な長時間を要するようになるので、製造能率の低下が甚だしくなる。
【0051】
また、熱処理時間は、5秒以上120秒以下の短時間に設定することが望ましい。熱処理時間が120秒より長くなると、特に、熱処理温度が上限値に近い場合、GaAs層へのInの拡散量が過剰となりやすくなる(ただし、熱処理温度を低めに留める場合は、これよりも長い熱処理時間(例えば300秒程度まで)を採用することも可能である)。他方、熱処理時間が5秒未満になると、GaAs層へのInの拡散量が不足し、接触抵抗を十分に低下させたコンタクト層が得にくくなる。
【0052】
コンタクト層とボンディング側半導体層との接触抵抗は、発光素子の通電を長時間継続しても低い値に安定的に維持されること、つまり、接触抵抗の経時的な増大が生じにくくなっていることが重要である。接触抵抗の低減を図る一つの方法としては、コンタクト層にボンディング側半導体層と同じ導電型のドーパントを添加することが有効である。この場合、コンタクト層へのドーパント添加量が高くなるほど、接触抵抗をより低くすることができる。なお、コンタクト層からボンディング側半導体層へドーパント拡散が比較的生じやすくなっている場合には、コンタクト層のドーパント添加量がボンディング側半導体層よりも過度に高くなっていると、発光通電時においてコンタクト層からボンディング側半導体層へのドーパント拡散が電気的に促進されやすくなることがあり、コンタクト層のドーパント量が次第に枯渇する場合がある。すると、発光通電を継続するに伴いコンタクト層の接触抵抗が経時的に増加し、素子ライフの低下を招くことにつながる。
【0053】
このような不具合を抑制するには、コンタクト層中のドーパント濃度をボンディング側半導体層よりも高く設定しつつ、コンタクト層を構成する半導体として、これと接するボンディング側半導体層よりもバンドギャップエネルギーが小さいものを使用することが望ましい。コンタクト層側のバンドギャップエネルギーをボンディング側半導体層よりも小さく設定することにより、コンタクト層中のドーパント濃度をある程度高くしても、ボンディング側半導体層へのドーパント原子の拡散が生じにくくなり、コンタクト層の接触抵抗が経時的に増加することを効果的に抑制することができる。
【0054】
例えば、酸化物透明電極層がITO電極層の場合、コンタクト層は、少なくともITO電極層との接合界面において、InxGa1−xAs(0<x≦1)となっているものを使用することが望ましい。この場合、ボンディング側半導体層との接合側においてコンタクト層はInxGa1−xAs(0≦x≦1)とすることができ、ボンディング側半導体層は、これよりもバンドギャップエネルギーの大きい半導体として、例えばAlyGa1−yAs(0<y≦1)により構成することができる。ボンディング側半導体層は、この他、コンタクト層よりもバンドギャップエネルギーが高くなるように混晶比が調整されたGaInP層、AlGaInP層、GaP層、GaAsP層あるいはAlGaAsP層により構成することも可能である。
【0055】
また、コンタクト層のドーパント濃度自体を下げることにより、ボンディング側半導体層への拡散を抑制する方法も可能である。この場合、コンタクト層のドーパント濃度は、ボンディング側半導体層と同じか又はそれよりも低いことが望ましい。また、コンタクト層は、低ドーピングであっても酸化物透明電極層とのコンタクト抵抗が十分低くなり、かつ、ボンディング側半導体層との接触抵抗も同様に低くなっていることが必要であり、具体的には、ボンディング側半導体層との間に極端に高いヘテロ接合障壁が形成されないものを使用することが望ましい。例えば、コンタクト層を、ITO層側からInを拡散させたGaAsにて構成する場合、ボンディング側半導体層を、InAs混晶比yが比較的小さいInyGa1−yAs(例えば、0≦y≦0.2)にて構成する組合せを例示できる。
【0056】
次に、コンタクト層は、中間層を介してボンディング側半導体層と結合することもできる。該中間層は、これと接するボンディング側半導体層とコンタクト層との中間のバンドギャップエネルギーを有する化合物半導体により構成される。ボンディング側半導体層とコンタクト層とのバンド端不連続値が大きい場合は、図13に示すように、接合によるバンドの曲がりにより、形成されるヘテロ障壁の高さΔEが大きくなり、コンタクト抵抗の増大につながる。そこで、図14に示すように、コンタクト層とボンディング側半導体層との間に、それらコンタクト層とボンディング側半導体層との中間のバンドギャップエネルギーを有する中間層を挿入すると、コンタクト層と中間層、及び中間層とボンディング側半導体層とのそれぞれはバンド端不連続値が小さくなるので、各々形成される障壁高さΔEも小さくなる。その結果、直列抵抗が軽減されて、低い駆動電圧にて十分に高い発光強度を達成することが可能となる。
【0057】
ボンディング側半導体層が、該中間層と接する領域までAlGaInPよりなる第二導電型クラッド層となっている場合は、コンタクト層との中間のバンドギャップエネルギーを有する中間層として、具体的には、AlGaAs層、GaInP層及びAlGaInP層(バンドギャップエネルギーがクラッド層より小さくなるように組成調整されたもの)の少なくとも一つを含むものを好適に採用することができ、例えばAlGaAs層を含むものとして形成することができる。他方、該中間層と同様の組成のクッション層が設けられる場合は、中間層の役割をこのクッション層に委ねることで、中間層を特に設けず、コンタクト層をクッション層に接するように配置する構成も十分採用可能である。
【0058】
発光層部は、導電性基板の第一主表面側に配置することができる。この場合、該導電性基板と発光層部との間に、発光層部からの発光光束を酸化物透明電極層側に反射する反射層を形成することができる。発光層部から酸化物透明電極層を経て直接放射される発光光束に、反射層で反射された発光光束を重畳させることができ、光取出し効率をさらに高めることができる。この反射層は、金属反射層(例えばAuやAgを主成分とするもの)とすることもできるし、特開平7−66455号公報に開示されているような、屈折率の相違する半導体膜を複数積層することにより、ブラッグ反射を利用して光を反射させるDBR層(Distributed Bragg Reflector:導電性基板上にエピタキシャル成長することにより形成できる)を使用してもよい。
【0059】
また、本発明の発光素子において導電性基板を透明導電性基板で構成する場合、発光層部は、該透明導電性基板の第一主表面側に配置することもできる。この場合、該透明導電性基板の第二主表面が裏面電極を兼ねた反射金属層により覆うことができる。これにより、発光層部から酸化物透明電極層を経て直接放射される発光光束に、裏面の金属反射層で反射された発光光束を重畳させることができ、光取出し効率をさらに高めることができる。この場合、透明導電性基板の第二主表面に複数の凸状部を分散形成し、それら凸状部に倣う形で、該第二主表面を裏面電極を兼ねた反射金属層により覆うことができる。凸状部に倣う形で形成された反射金属層は、発光層部からの発光光束に対し凹面鏡状の集光面として機能するので、より高輝度の発光素子を実現することができる。
【0060】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施形態である発光素子100を示す概念図である。発光素子100は、発光層部24を有した化合物半導体層61と、該化合物半導体層61の主表面を覆うように形成された、発光層部24に発光駆動電圧を印加するための酸化物透明電極層30とを有し、発光層部24からの光を、酸化物透明電極層30を透過させる形で取り出すようにしたものである。具体的には、透明導電性基板であるn型GaP単結晶基板(以下、単に「基板」ともいう)7の第一主表面7a上に、AlGaInPよりなる発光層部24を配置し、該発光層部24を覆うように、p型のクッション層20と、酸化物透明電極層としてのITO電極層30とをこの順序で形成してある。ITO電極層30のほぼ中央部には、Au等にて構成されたボンディングパッド9が配置され、ここにAu等で構成された電極ワイヤ47が接合されている。他方、基板7の他方の主表面側には、Au−Ge−Ni合金等の金属からなる裏面電極層15が全面に形成されている。
【0061】
化合物半導体層61の、ITO電極層30に覆われた最表面領域は、発光層部24からの光を、ITO電極層30との境界面での全反射を抑制しつつ、該ITO電極層30内に導く凹凸面とされている。該凹凸面は、フォトリソグラフィーを用いたパターンエッチングにより、エッチング領域に対応する凹状部10と、非エッチング領域に対応した凸状部11とを混在させたパターンエッチング面として形成されている。本実施形態では、後述のメサエッチング法により、凹状部10の内面(あるいは凸状部11の外面)が下に凸な湾曲面となっている。なお、図25に示すように、凹状部10の内面のうち、凸状部11の周囲領域のみ湾曲面状とし、それ以外の部分を平坦に形成することもできる。また、ITO電極層30の最表面は、該凹状部10と凸状部11とに倣うプロファイルにて起伏している。
【0062】
化合物半導体層61とITO電極層30との間には、ITO電極層30の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層31が形成されている。該コンタクト層31は、ITO電極層30と接し、かつ凸状部11の頂面に選択的に形成されている。図3に示すように、ITO電極層30内を拡散した電流は、凸状部11の頂面を選ぶ形で分散形成された各コンタクト層31を経て発光層部24に供給される。凸状部11の直下の各発光層部24は、ITO電極層30により並列接続された、いわば独立した要素発光素子を形成する。本実施形態では、化合物半導体層61の最表面領域に凸状部11が図2に示すように分散形成され、コンタクト層31も該凸状部11に対応して分散形成されている。そして、それらコンタクト層31、ひいては凸状部11に対応した要素発光素子は、ITO電極層30により面内方向に電気的に連結される。
【0063】
なお、コンタクト層31の形成領域に対応した部分を、発光層部の厚さ方向Jと直交するコンタクト形成平坦面11aとし、該コンタクト形成平坦面11aにコンタクト層31がエピタキシャル成長されている。また、コンタクト形成平坦面11aの背景をなす形で凹状部10が、湾曲形態の断面形状を有するものとして形成されている。
【0064】
発光層部24は、各々(AlxGa1−x)yIn1−yP混晶とされるとともに、第一導電型クラッド層4、第二導電型クラッド層6、及び第一導電型クラッド層4と第二導電型クラッド層6との間に位置する活性層5からなるダブルへテロ構造とされている。具体的には、ノンドープ(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦0.55,0.45≦y≦0.55)混晶からなる活性層5を、p型(AlxGa1−x)yIn1−yPクラッド層6とn型(AlxGa1−x)yIn1−yPクラッド層4とにより挟んだ構造となっている。図1の発光素子100では、クッション層20側にp型AlGaInPクラッド層6(p型ドーパントはZn:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)が配置されており、裏面電極層15側にn型AlGaInPクラッド層4(n型ドーパントはSi)が配置されている。なお、当業者には自明のことであるが、ここでいう「ノンドープ」とは、「ドーパントの積極添加を行なわない」との意味であり、通常の製造工程上、不可避的に混入するドーパント成分の含有(例えば1013〜1016/cm3程度を上限とする)をも排除するものではない。
【0065】
p型AlGaInPクラッド層6は、p型キャリア濃度(多数キャリア濃度)は、5×1016/cm3以上1×1018/cm3未満、望ましくは、1×1017/cm3以上7×1017/cm3以下である。また、クッション層20は、本実施形態ではZnをp型ドーパントとして添加したAlGaAs層(例えばAlxGa1−xAsにおいて、x=0.7程度)よりなり、p型ドーパント濃度は、4×1016/cm3以上9×1017/cm3以下、望ましくは9×1016/cm3以上6×1017/cm3以下の範囲内で、p型AlGaInPクラッド層6よりも小さく設定されている。該クッション層20の厚さt2は0.1μm以上5μm以下、望ましくは0.5μm以上3μm以下である。
【0066】
p型AlGaInPクラッド層6とクッション層20とはボンディング側半導体層60を構成し、ITO電極層30により電流拡散効果が十分に確保されていることから、ボンディング側半導体層60の厚さt1(つまり、p型AlGaInPクラッド層6とクッション層20との合計厚さ)は0.6μm以上10μm未満と小さく抑えられている。また、発光素子100の全厚さ(基板7+発光層部24+ボンディング側半導体層60+ITO電極層30)は、80μm以上400μm未満である。他方、発光層部24の主表面の正方形換算における一辺の寸法Lは、例えば200μm以上、照明用の高輝度面発光素子を構成する場合は400μm以上(上限は、例えば40mm)であり、このような大形チップの場合、ITO電極層20の厚さは400nm以上(上限は、例えば3μm)とすることで、シート抵抗が十分に低減されて電流拡散効果が高められ、素子の順方向電圧を大幅に下げることができる。また、ボンディングパッド9によるITO電極層30の被覆面積率は0.1%以上10%以下である。
【0067】
発光素子100の発光層部24を面内方向に細分してそれぞれを点光源に置き換えて考えると、図4及び図5に示すように、各点光源からは全ての方向に3次元に発光光束が放出される。素子最表面に形成されたITO電極層30へは、面内方向において該点光源から離れた領域ほど、発光光束は低角度で入射する。図5に示すように、ITO電極層30と化合物半導体層61との界面に全反射臨界角以下で入射した発光光束は、該界面で反射されて化合物半導体層61側に戻されるので、ITO電極層30を通過して外部へ取り出すことができない。発光素子100は、前述の通り、電流拡散能の高いITO電極層30を採用しているため、化合物半導体層61の全厚さが減じられて素子周側面からの光取出量が少ない。従って、ITO電極層30に覆われた化合物半導体層61の最表面領域が図5のように平坦であると、界面にて全反射される発光光束が増え、素子全体の光取出し効率は大きく損なわる。
【0068】
しかし、本実施形態の発光素子100は、図4に示すように、化合物半導体層61の最表面領域が凸状部11及び凹状部10により起伏しているため、発光層部24からの発光光束の起点から遠く離れた位置にて界面に入射する光も、凹状部10の表面が傾斜ないし屈曲していることから実質的な入射角が大きくなり、界面にて全反射される発光光束が大幅に減少する。その結果、ITO電極層30を経て取り出される発光光束が顕著に増大し、素子厚さが減じられているにもかかわらず発光素子の光取出し効率を大幅に向上させることができる。
【0069】
以下、図1の発光素子100の製造方法について説明する。
まず、図6の工程Aに示すように、GaAs単結晶基板23の第一主表面に、n型GaAsバッファ層2を、次いで後にコンタクト層となるGaAs層31”、AlGaAsよりなるクッション層20、そして発光層部24として、p型AlGaInPクラッド層6、ノンドープAlGaInPよりなる活性層5及びn型AlGaInPクラッド層4をこの順序にエピタキシャル成長させる。これら各層のエピタキシャル成長は、公知の有機金属気相エピタキシャル成長(MetalOrganic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法により行なうことができる。Al、Ga、In、P及びAsの各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用できる;
・Al源ガス;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など;
・Ga源ガス;トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など;
・In源ガス;トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など。
・P源ガス;ターシャルブチルホスフィン(TBP)、ホスフィン(PH3)など。
・As源ガス;ターシャルブチルアルシン(TBA)、アルシン(AsH3)など。
【0070】
また、ドーパントガスとしては、以下のようなものを使用できる;
(p型ドーパント)
・Mg源:ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)など。
・Zn源:ジメチル亜鉛(DMZn)、ジエチル亜鉛(DEZn)など。
(n型ドーパント)
・Si源:モノシランなどのシリコン水素化物など。
【0071】
上記各層の成長は、原料ガスの切り替えにより、同一の気相成長装置内で連続的に行なうことができる。また、各層のドーパント濃度は、原料ガスに対するドーパントガスの供給比率により、所望の値に調整することができる。
【0072】
次に、図6の工程Bに示すように、最上層のn型AlGaInPクラッド層4上に、透明導電性酸化物層(例えばITO層)7cを形成し、その上に透明導電性基板としてのn型GaP単結晶基板7を熱処理により貼り合わせ、次いで図7の工程1に示すように、成長用に用いたGaAs単結晶基板23とGaAsバッファ層2とを剥離する。
【0073】
次に、工程2に示すように、剥離により露出したGaAs層31”の全面をフォトレジスト層40で覆い、凸状部11(図1参照)を形成するためのマスクを介して露光・現像することにより、非エッチング領域となすべき部分にのみフォトレジスト層40’が残るように、これをパターニングする。そして、工程3に示すように、フォトレジスト層40’に覆われていない領域をエッチング領域として、GaAs層31”をアンモニア/過酸化水素水溶液よりなるエッチング液により除去する(残ったGaAs層は符号「31’」にて表す)。次に、工程4に示すように、AlGaAsよりなるクッション層20を、硫酸/過酸化水素水溶液、ブロムメタノールあるいはリン酸/過酸化水素水溶液よりなるエッチング液によりメサエッチングして凹状部10を形成する。フォトレジスト層40’に覆われていた非エッチング領域は、コンタクト形成平坦面が形成された凸状部11となる。その後、フォトレジスト層40’を除去する。
【0074】
そして、工程5に示すように、エッチングにより凹状部10と凸状部11とが分散形成されたクッション層20を覆うように、公知の高周波スパッタリング法により、ITO電極層30を、凹状部10と凸状部11とに追従した起伏形態に形成する。このとき、前述のGaAs層31’もITO電極層30に覆われる。
【0075】
この状態で基板を炉の中に配置して、例えば窒素雰囲気中あるいはAr等の不活性ガス雰囲気中にて、600℃以上750℃以下(例えば700℃)の低温で、5秒以上120秒以下(例えば30秒)の短時間の熱処理を施す。これにより、ITO電極層20からGaAs層31’にInが拡散し、コンタクト層31(図1)が得られる。該熱処理によりコンタクト層31は、図11▲1▼において、ITO電極層との境界近傍におけるIn濃度CAが、InとGaとの合計濃度に対するInの原子比にて、0.1以上0.6以下となる。また、In濃度は、ITO電極層20から厚さ方向に遠ざかるにつれ連続的に減少するものとなり、ITO電極層20との境界近傍におけるIn濃度をCAとし、これと反対側の境界位置におけるIn濃度をCBとしたとき、CB/CAが0.8以下となるように調整される。該コンタクト層31は、これと接するボンディング側半導体層部分、すなわち、クッション層20がAlGaAsにて構成されることも考慮し、接触抵抗を低減するために、p型ドーパント濃度が高く(例えば1×1019/cm3程度)設定されている。
【0076】
次に、基板7の第二主表面7bに真空蒸着法により裏面電極層15を形成する。そして、ITO電極層30上に、各発光素子チップに対応する領域毎にボンディングパッド9を配置し、適当な温度で電極定着用のベーキングを施すことにより、図8の工程7に示す発光素子ウェーハ50が得られる。該発光素子ウェーハ50は、各発光素子チップ領域を分離するために工程8に示すようにハーフダイシングされ、さらにダイシング面の加工歪をメサエッチングにより除去した後、工程9に示すように、スクライビングにより発光素子チップ51に分離される。そして、工程10に示すように、裏面電極層15(図3参照)をAgペースト等の導電性ペーストを用いて支持体を兼ねた端子電極9aに固着する一方、ボンディングパッド9に電極ワイヤ47を接合(ボンディング)し、工程11に示すように樹脂モールド52を形成することにより発光素子100が得られる。
【0077】
各々Auよりなるボンディングパッド9に電極ワイヤ47を接合する場合、例えば、超音波溶接(あるいはサーモソニックボンディング)が用いられる。この超音波溶接の衝撃応力は、ITO電極層30を経てボンディングパッド9の直下のボンディング側半導体層60に及び、結晶欠陥等の損傷領域DMを形成する。例えば、図10に示すように、ITO電極層30の直下に発光層部24が形成されていると、その損傷領域DMが発光層部24の奥深く、例えば活性層5にまで及び、発光輝度や素子ライフの低下など、特性不良につながる。しかし、本実施形態の発光素子においては、図9に示すように、クッション層20が介在しているため、損傷領域DMがクッション層20内に留まり、その影響が発光層部24の奥深くに及びにくいので、その分、発光輝度が損なわれる心配がない。
【0078】
また、このクッション層20は、p型ドーパント濃度が4×1016/cm3以上9×1017/cm3以下の範囲内で、p型AlGaInPクラッド層6よりも小さく設定されている。これにより、発光通電を継続したときに、クッション層20からp型AlGaInPクラッド層6へのp型ドーパントの拡散の、電気的促進が生じにくくなり、素子ライフが向上する。p型AlGaInPクラッド層6のp型ドーパント濃度は、5×1016/cm3以上1×1018/cm3未満であり、ボンディング側半導体層60全体で見た場合、4×1016/cm3以上1×1018/cm3未満の範囲に収まっている。
【0079】
また、図3に示すクッション層20は、ドーパント濃度が低いのでシート抵抗は多少大きいが、その上に導電率が非常に大きいITO電極層30が形成されているので、該ITO電極層30内にて電流を十分に拡げることができる。そして、クッション層20は、p型ドーパント濃度を前述の範囲に調整することで、層厚方向の導電性は十分に確保されているから、結果として発光層部24への均一な通電が可能となり、発光効率を高めることができる。
【0080】
以下、本発明の発光素子の種々の変形例について説明する。図16の発光素子300は、前述のメサエッチングにより凹状部10と凸状部11とを形成し、該凹状部11にさらにフロスト処理を施した例である。フロスト処理面25は、一様かつランダムな粗さプロファイルを有し、図7の工程5において、弗酸(化合物半導体層61の最表面領域がAlGaAsの場合:GaPの場合は塩酸)等のフロスト処理液を使用し、凸状部10の表面を異方性エッチングすることにより形成できる。この構成においては、凹状部10と凸状部11(頂面がコンタクト形成平坦面11aとされる)とによるパターンエッチング面が一次粗さプロファイルをなし、その凹状部10の表面に、フロスト処理により一次粗さプロファイルよりも微細な二次粗さプロファイル25が重畳される。なお、凹状部10と凸状部11とからなる一次粗さプロファイルは、凸状部11の平均間隔が3μm以上50μm以下とされ、凹状部10の底と凸状部11の頂との隔たりの平均値にて表す凸状部高さが3μm以上50μm以下とされる。平均間隔が3μm未満及び高さが3μm未満の凸状部は、選択エッチングによるパターンニングが困難となる場合がある。また、平均間隔が50μmを超える、または高さが50μmを超える凸状部は、光取り出し効率の改善効果が飽和する上、エッチングにより化合物半導体が無駄に失われることにつながり不経済である。
【0081】
フロスト処理面は微小な凹凸がランダムに形成されていることから、図15に示すように、局所的に見れば発光層部24の面内方向に対し、種々の角度をもった傾斜面が微細に入り組んで形成されているので、発光光束が界面にて全反射される確率は非常に低くなる。該微小な凹凸の粗さは、例えばJIS:B0601に準拠した方法により測定された算術平均粗さにて0.01μm以上1μm以下の範囲のものとされる。
【0082】
なお、化合物半導体層の最表面に形成される凹凸が、フロスト処理による0.01μm以上1μm以下程度の算術平均粗さRaを有したものである場合、ITO電極層(酸化物透明電極層:厚さ、例えば300nm以上)にて覆うと凹状部が埋まり、化合物半導体層の最表面の形状に倣う凹凸プロファイルがITO電極層の表面に形成されなくなることがある。この場合、ITO電極層の最表面にて全反射により発光層部へ戻る発光光束が増大して、光取出し効率が損なわれる場合がある。しかしながら、凸状部の平均間隔が3μm以上、凹状部10の底と凸状部11の頂との隔たりの平均値にて表す高さが3μm以上の凸状部がパターンエッチングにて形成されている場合は、相当厚いITO電極層を形成しても、ITO電極層の表面形状が凸状部のプロファイルに倣うものとなり、光取出し効率を向上させることができる。
【0083】
次に、図1の発光素子100においては、ボンディングパッド9は、発光層部24からの光の大部分を遮蔽する。従って、発光層部24においてボンディングパッド9の直下領域、つまり光取り出し量が少ない第一領域に通電電流が集中しないこと、むしろ、ボンディングパッド9の周囲の光取り出し量が多い第二領域に通電電流がなるべく多く分配されることが、光取出効率を高める上で望ましい。そこで、図17の発光素子400においては、コンタクト層31は、ボンディングパッド9の直下領域をなす光取り出し量が少ない第一領域には形成されず、その周囲の光取り出し量が多い第二領域にのみ選択的に形成されている。ボンディングパッド9の直下領域においてコンタクト層31を作為的に非形成とすることで、この領域ではITO電極層30の接触抵抗が高くなり電流が流れにくくなる。その結果、ITO電極層30を介して発光層部24に通電される電流は、光取り出し量が少ない第一領域を迂回して光取り出し量が多い第二領域に優先的に分配され、光取出効率を高めることができる。なお、ボンディングパッド9の直下領域において、クッション層20の最表面は、凹状部や凸状部が形成されない平坦な形状とされている。これにより、ITO電極層30とボンディングパッド9との密着性が向上し、また、ボンディングパッド9の表面も平滑化するので、電極ワイヤ47を画像処理を用いて自動ボンディングする際に、面荒れによる画像の誤検出が軽減される利益が得られる。
【0084】
図18は、図17の発光素子400の製造工程を示している。図7の工程2までは、図1の発光素子100と全く同じ工程が採用される。そして、図18の工程11に示すように、フォトレジスト層40に、ボンディングパッド9の直下領域となるエッチングウィンドウ40wを露光・現像により形成する。そして、工程12において、該エッチングウィンドウ40w内のGaAs層31”をエッチングにより除去する。次に、工程13では、エッチングウィンドウ40wの内側を塞ぐフォトレジスト層42と、凸状部11を形成するための非エッチング領域形成用のフォトレジスト層41とを、露光・現像によりパターンニングした形で形成する。そして、工程14に示すように、フォトレジスト層41の周囲のGaAs層31”をエッチングし、さらに工程15に示すように、クッション層20をメサエッチングして凹状部10を形成する。また、工程16に示すようにITO電極層30を形成すれば、以下の工程は図1の発光素子100と同じである。
【0085】
また、図19の発光素子500は、透明導電性基板であるGaP単結晶基板7の第二主表面7bに、複数の凸状部16を分散形成し、それら凸状部16に倣う形で、該第二主表面7bを、裏面電極を兼ねた反射金属層15により覆った例である。凸状部16に倣う形で形成された反射金属層15は、基板側から見たとき、発光層部24からの発光光束に対し凹面鏡状の受光面17を形成するから、反射光を光取り出し面内に集中させることができる。
【0086】
図20及び図21に示す発光素子600においては、クッション層(化合物半導体層)20の最表面に湾曲断面形態の凹状面10cを、コンタクト形成平坦面11rをなす残余の領域を背景とする形で島状に分散形成している。この形態は、クッション層20の最表面のうち、背景をなすコンタクト形成平坦面11rを、フォトレジスト層にて一様に覆い、凹状面10cとすべき領域は島状に露出させてメサエッチングすることにより形成できる。なお、凹状面10cの底面が一部平坦になっていてもよい。また、図21において、コンタクト層31は、凹状面10cの背景をなすコンタクト形成平坦面11rの一部、具体的には、複数の凹状面10cに取り囲まれた位置に選択的に形成されているが、これ以外の形成形態としてもよいことはもちろんであり、例えばコンタクト形成平坦面11rの全面にコンタクト層31を形成することも可能である。
【0087】
また、上記の実施の形態では、コンタクト層を化合物半導体にて構成していたが、図24に示すように、金属コンタクト層131を形成することもできる。図24においては、クッション層20の表面に形成された凸状部20bの頂部に、金属コンタクト層131を選択的に形成している。金属コンタクト層131は蒸着やスパッタリングにより形成でき、また、クッション層20上にエピタキシャル成長する必要はないから、凸状部20bの頂面は特に平坦になっていなくともよい。金属コンタクト層131の材質としては、Au単体及び/又はAuを主体とする合金を採用することができ、例えばAuGe合金を使用することができる。
【0088】
図22の発光素子700においては、GaP単結晶基板7に代えて、不透明な導電性基板であるn型Si単結晶基板107が使用されており、AgあるいはAuを主成分とする金属反射層107mがSi単結晶基板107の第一主表面107a上に形成され、さらにその上に発光層部24が形成されている。裏面電極層15は、Si単結晶基板107の第二主表面107bの全面に形成される。この構造によると、発光層部24からの発光光束は金属反射層107mにて反射され、発光層部24からITO電極層30側へ直接向かう発光光束に重畳されるので、光取り出し効率が高められる。
【0089】
また、図23の発光素子800においては、不透明な導電性基板であるn型GaAs単結晶基板207が使用されており、AlGaAs/GaAs多層膜よりなるDBR反射層207dがGaAs単結晶基板207の第一主表面207a上に形成され、さらにその上に発光層部24が形成されている。裏面電極層15は、GaAs単結晶基板207の第二主表面207bの全面に形成される。この構造によると、発光層部24からの発光光束はDBR反射層207mにて反射され、発光層部24からITO電極層30側へ直接向かう発光光束に重畳される。反射光の入射角依存性は、図23の金属反射層の方が小さいので有利であるが、DBR反射層207dは、発光層部24とともに、GaAs単結晶基板207上に一貫してエピタキシャル成長することにより形成できるので、製造工程が簡略化される利点がある。
【0090】
以上の実施形態では、発光層部24の各層をAlGaInP混晶にて形成していたが、該各層(p型クラッド層6、活性層5及びn型クラッド層4)をAlGaInN混晶により形成することもできる。また、ITO電極層30を形成する光取出面側にp型クラッド層6が位置しているが、発光層部24の積層順を逆転させ、光取出面側にn型クラッド層4を位置させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の発光素子の第一実施形態を示す断面模式図。
【図2】同じく平面模式図。
【図3】図1の発光素子の要部を示す拡大模式図。
【図4】図1の発光素子の作用説明図。
【図5】比較例の発光素子の欠点を示す説明図。
【図6】図1の発光素子の、製造工程の一例を示す説明図。
【図7】図6に続く説明図。
【図8】図7に続く説明図。
【図9】クッション層の作用説明図。
【図10】クッション層がない場合の問題点を説明する図。
【図11】コンタクト層内のIn濃度分布の一例を模式的に示す図。
【図12】コンタクト層内のIn濃度分布の別例を模式的に示す図。
【図13】中間層を形成しない場合の、コンタクト層のバンド構造の例を示す模式図。
【図14】中間層を形成する場合の、コンタクト層のバンド構造の例を示す模式図。
【図15】フロスト処理面を形成した場合の発光素子の作用説明図。
【図16】本発明の発光素子の第三実施形態を示す断面模式図。
【図17】本発明の発光素子の第四実施形態を示す断面模式図。
【図18】図17の発光素子の製造工程説明図。
【図19】本発明の発光素子の第五実施形態を示す断面模式図。
【図20】本発明の発光素子の第六実施形態を示す断面模式図。
【図21】同じく平面模式図。
【図22】本発明の発光素子の第七実施形態を示す断面模式図。
【図23】本発明の発光素子の第八実施形態を示す断面模式図。
【図24】コンタクト層を金属にて構成した例を示す断面模式図。
【図25】凹状部の底面が平坦に形成される例を示す断面模式図。
【符号の説明】
4 n型クラッド層(第一導電型クラッド層)
5 活性層
6 p型クラッド層(第二導電型クラッド層)
9 ボンディングパッド
10 凹状部
11 凸状部
11a,11r コンタクト形成平坦面11r
24 発光層部
25 面粗し領域
20 クッション層
30 ITO電極層
31 コンタクト層
60 ボンディング側半導体層
61 化合物半導体層
100,200,300,400,500,600,700,800 発光素子
Claims (16)
- 発光層部を有した化合物半導体層と、該化合物半導体層の主表面を覆うように形成された、前記発光層部に発光駆動電圧を印加するための酸化物透明電極層とを有し、前記発光層部からの光を、前記酸化物透明電極層を透過させる形で取り出すようにした発光素子において、
前記化合物半導体層と前記酸化物透明電極層との間に、前記酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層が、該酸化物透明電極層に接するように配置され、前記酸化物透明電極層の接合界面において、前記コンタクト層の形成領域と非形成領域とが混在するとともに、
前記化合物半導体層の最表面は、前記コンタクト層の非形成領域の少なくとも一部が、残余の領域よりも前記発光層部側に引っ込んで位置する凹状面とされ、
前記発光層部が透明導電性基板の第一主表面側に配置される一方、該透明導電性基板の第二主表面が裏面電極を兼ねた反射金属層により覆われてなることを特徴とする発光素子。 - 前記化合物半導体層の前記最表面に凸状部が分散形成されてなり、前記コンタクト層も該凸状部に対応して分散形成されてなり、前記酸化物透明電極層により、それら前記コンタクト層が面内方向に電気的に連結されてなることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
- 前記コンタクト層が金属にて構成され、前記凸状部の頂部に該金属よりなるコンタクト層が選択的に形成されてなることを特徴とする請求項2記載の発光素子。
- 前記化合物半導体層の最表面は、パターンエッチングにより、エッチング領域に対応する凹状部と、非エッチング領域に対応した凸状部とを混在させたパターンエッチング面とされ、前記コンタクト層は、前記凸状部の頂面に選択的に形成されてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の発光素子。
- 前記パターンエッチング面をなす凹状部と凸状部とによる一次粗さプロファイルに、さらに、該一次粗さプロファイルよりも微細な二次粗さプロファイルを、異方性エッチングによるフロスト処理面として重畳させたことを特徴とする請求項4記載の発光素子。
- 前記酸化物透明電極層の最表面は、前記パターンエッチング面をなす前記凹状部と前記凸状部とに倣うプロファイルにて起伏していることを特徴とする請求項4又は5に記載の発光素子。
- 前記化合物半導体層の前記最表面の、前記コンタクト層の形成領域が、前記発光層部の厚さ方向と直交するコンタクト形成平坦面とされ、該コンタクト層形成平坦面に化合物半導体よりなるコンタクト層がエピタキシャル成長されてなることを特徴とする請求項2、4、5及び6のいずれか1項に記載の発光素子。
- 前記化合物半導体層の前記最表面に前記コンタクト形成平坦面が、残余の領域を背景とする形で島状に分散形成されてなり、前記残余の領域が、前記コンタクト形成平坦面よりも引っ込んで位置するとともに、前記コンタクト層の周囲において少なくとも湾曲断面形態の凹状面とされてなる請求項7記載の発光素子。
- 前記化合物半導体層の前記最表面に凹状面が、前記コンタクト形成平坦面をなす残余の領域を背景とする形で島状に分散形成されてなる請求項7記載の発光素子。
- 前記酸化物透明電極層上に金属製のボンディングパッドが配置され、該ボンディングパッドに通電用の電極ワイヤが接合されてなり、
前記化合物半導体層の前記最表面の、前記ボンディングパッドの直下領域が平坦に形成されてなり、かつ該直下領域に前記コンタクト層が形成されていないことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の発光素子。 - 発光層部を有した化合物半導体層と、該化合物半導体層の主表面を覆うように形成された、前記発光層部に発光駆動電圧を印加するための酸化物透明電極層とを有し、前記発光層部からの光を、前記酸化物透明電極層を透過させる形で取り出すようにした発光素子において、
前記化合物半導体層と前記酸化物透明電極層との間に、前記酸化物透明電極層の接合抵抗を減ずるためのコンタクト層が、該酸化物透明電極層に接するように配置され、前記酸化物透明電極層の接合界面において、前記コンタクト層の形成領域と非形成領域とが混在するとともに、
前記化合物半導体層の前記最表面の、前記コンタクト層の形成領域が、前記発光層部の厚さ方向と直交するコンタクト形成平坦面とされ、該コンタクト形成平坦面に化合物半導体よりなるコンタクト層がエピタキシャル成長されてなり、
前記コンタクト層の非形成領域の少なくとも一部が、前記コンタクト形成平坦面よりも粗面化された面粗し領域とされてなることを特徴とする発光素子。 - 前記化合物半導体層の前記最表面に前記コンタクト形成平坦面が複数分散形成され、各コンタクト形成平坦面に前記コンタクト層が形成されてなることを特徴とする請求項11記載の発光素子。
- 前記発光層部は、第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序にて積層されたダブルへテロ構造を有する化合物半導体よりなるものであり、
前記酸化物透明電極層上に金属製のボンディングパッドが配置され、該ボンディングパッドに通電用の電極ワイヤが接合されてなり、
前記化合物半導体層の前記最表面を含む、前記活性層と前記コンタクト層との間に位置する部分が、前記第二導電型クラッド層を含む厚さ0.6μm以上10μm未満のボンディング側半導体層とされてなる請求項1ないし12のいずれか1項に記載の発光素子。 - 前記ボンディング側半導体層は、前記第二導電型クラッド層と、該第二導電型クラッド層の前記酸化物透明電極層側に接して配置され、該第二導電型クラッド層よりも低いドーパント濃度の化合物半導体よりなるクッション層とを有することを特徴とする請求項13記載の発光素子。
- 前記発光層部が導電性基板の第一主表面側に配置されるとともに、該導電性基板の前記第一主表面と前記発光層部との間に、前記発光層部からの発光光束を前記酸化物透明電極層側に反射する反射層が形成されてなることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の発光素子。
- 前記透明導電性基板の第二主表面に複数の凸状部が分散形成され、それら凸状部に倣う形で前記第二主表面が前記反射金属層により覆われてなることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の発光素子。
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