JP4363163B2 - 腐食電位センサ - Google Patents

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Description

本発明は、腐食電位センサに係り、特に、原子炉の冷却水中に暴露される炭素鋼、鉄基合金あるいはニッケル基合金などの金属材料が腐食する環境下で、ステンレスやニッケル基合金の応力腐食割れの水質条件の指標となる腐食電位を測定するに好適な腐食電位センサに関する。
原子力発電所において、ステンレス鋼およびニッケル基合金などは構造材料と呼ばれ、原子炉機器を構成する。これらの構造材料は、特定の条件の下では、応力腐食割れ(SCC)の感受性を示す。このため、SCCの防止策が、原子炉の健全性を維持するために適用されている。また、近年では、原子炉の設備利用率の向上と、長寿命化のような経済性向上の観点からもSCCの予防策が適用されている。
SCC防止策には、材料の耐食性向上、応力の改善、あるいは腐食環境の緩和を目的としたものが適用されている。沸騰水型原子炉(BWR)での、構造材料が曝されている原子炉冷却水(炉水)の腐食環境の改善に基づくSCC対策の1つとして、水素注入が国内外で広く行われている(特許文献1参照)。炉水中には、原子炉圧力容器内(炉内)で水の放射線分解により生成されて、腐食の原因となる酸素や過酸化水素が存在し、これらが腐食環境を形成している。そこで、このような腐食を防止するために、給水を通じて炉水に水素を添加し、水素を酸素や過酸化水素と反応させて水に戻す水素注入法が採用されている。水素注入法を用いると、酸素および過酸化水素濃度が低下する結果、構造材料の腐食電位(ECP)が低下し、SCCが緩和される。
さらに水素注入時の腐食電位低下を促進する技術が提案されており(特許文献2参照)、この技術は、白金族貴金属元素が有する水素の電気化学反応への触媒作用を利用して、水素注入時に腐食電位を大きく低下させる方法である。
これらの従来技術では、構造材料の腐食電位を精度良く知る必要がある。そこで、炉内あるいは炉外配管に腐食電位センサを設置し、構造材料の腐食電位を測定することが行われている。炉内あるいは炉外の配管に設置された腐食電位センサは、使用条件下で腐食電位測定の基準となる一定の電位(基準電位)を発生する。このため、腐食電位センサは、基準電極あるいは参照電極とも呼ばれている。
構造材料の腐食電位を測定するに際しては、構造材料が炉水の温度、酸素濃度、過酸化水素濃度、および炉水流速の条件の下で有する電位と、腐食電位センサの有する基準電位との電位差をエレクトロメータを用いて測定することができる。この種の測定に用いられる腐食電位はどのような電極を基準にして得た値かを示すようになっており、標準水素電極が基準として広く用いられている。この場合、各温度で0Vの基準とし、vs SHE(versus Standard Hydrogen Electrode)をVの後につけるようになっている。
例えば、図1に、BWRで水素注入を実施したときの給水中水素濃度に対する、サンプリング系で測定した溶存酸素濃度の変化とECPの変化を測定した結果を示す。図1から、給水水素濃度が上昇すると、溶存酸素濃度が低下し、それに追従してECPが低下する様子がわかる。したがってECPを精度良く得るには、腐食電位センサが不可欠であり、原子炉の運転条件で使用可能であることが求められている。
腐食電位センサの第1の従来技術としては、銀塩化銀を用いた腐食電位センサあるいは白金を用いた腐食電位センサが知られている(非特許文献1参照)。
銀塩化銀型腐食電位センサは、銀塩化銀(AgCl)の平衡反応
Figure 0004363163
の際に生じる電位を基準として利用するものである。
この場合、センサの出力は、塩素イオン濃度に依存するので、この腐食電位センサの内部には一定濃度の塩化カリウム(KCl)の水溶液あるいはKClを過剰に入れて過剰にするか、あるいはAgClがわずかに溶解したときのClイオン濃度で一定の電位を保つことができる。
一方、白金型腐食電位センサは、白金(Pt)上で生じる
Figure 0004363163
の平衡反応の電位を利用するものである。このセンサの出力は、水のPhと水素濃度に依存するので、電位を確保するために、炉水のpHと水素濃度を知ることが必要となる。BWRでは、pHはサンプリング系出口の室温値がほぼ7前後の中性であり、水素濃度を測定すれば、よく知られているネルンストの式から、その濃度での電位が分かる。例えば、280℃で50ppb程度のとき、−500mVvsSHE程度の値を持つ。
電位センサの第2の従来技術としては、酸素イオン伝導体と金属ボディの内部に金属と金属の酸化物を用いたものが知られている(特許文献3参照)。
また腐食電位センサの第3の従来技術としては、酸素イオン伝導体と金属ボディの内部に酸化銀を含むものが知られている(特許文献4参照)。
イオン導体の中に、金属と金属酸化物を入れた腐食電位センサは、センサ内の空間中の気相を(I)、触媒相(II)、イオン導電体を(III)、炉水の相を(IV)とすると、
Figure 0004363163
で平衡反応が記述され、炉水のpHと、センサ内の酸素分圧で電位が決定されることになる。すでに述べたように、BWRのpHはほぼ中性付近で一定なので、センサ内の酸素分圧を一定にすれば、電位が一定になり、腐食電位センサとして機能する。上記(化3)式は、この腐食電位センサがpHを測定できることを意味している。
特許2687780号 特開平4−223299号公報 特開2000−46790号公報 特開2000−65785号公報 Proceedings of International Symposium on Plant Aging and Life Prediction of Corrodible Structures,May 15−18,1995,Sapporo Japan,p413 JSCE−NACE(1995)
従来技術による腐食電位センサでは以下のような課題があった。具体的には、銀塩化銀型腐食電位センサでは、センサの電位発生部における溶液内反応を利用しており、炉水とセンサ内の溶液部分が液絡によって結合されている。そのために、炉水に長期に浸漬していると、炉水に溶液が流出したり、あるいは炉水中の成分が溶液内に混入したりする。この結果、基準電位の値が変化し、長期間使用することができない。
一方、白金型腐食電位センサでは、白金上での水素の電極反応を利用するために、炉水中酸素および過酸化水素の濃度が高いと、別の電気化学反応に伴う電位の影響を受けて、センサとして機能しなくなる。この場合、図1で示したように、給水水素濃度が十分高く、溶存酸素濃度が低下した条件でしか使用できなかった。また水素を注入していないときの腐食電位が白金型腐食電位センサでは知ることができず、水素注入時の腐食電位の低下量を評価するには、他の型の腐食電位センサを併用することが余儀なくされる。
また、イオン導電体の内部に電気化学システム(金属と金属酸化物の粉末、あるいは酸化銀)を有する腐食電位センサでは、一定の電位を発生するには内部の酸素分圧を一定にする必要があり、また酸素イオン伝導体は通常、中空のセラミックスで作られるので、構造が複雑な上、衝撃に弱く、製造管理が困難である。
本発明の課題は、構造が簡単なものでも広い水質条件で長期の使用を可能にすることにある。
前記課題を解決するために、本発明は、金属の電極と、該電極が露出する表面に被覆膜を設けてなり、前記被覆膜は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、またはダイヤモンドのうち少なくとも一つの物質で構成され、前記被覆膜は、溶射、メッキ、気相成長、または高温酸化のうちいずれかで形成されてなるものである。
このような構成を採用することにより、センサ内に溶液相を持たず、水素が十分存在することを必要とせず、しかも、金属表面での酸化反応の電位を使うために、電気化学システムをイオン伝導体に内包する必要がない。
本発明によれば、構造の簡素化を図ることができるとともに、広い水質条件で長期の使用が可能になる。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に係る腐食電位センサの具体的構成を説明するに先立って、腐食電位センサの原理を以下に示す。
本発明に係る腐食電位センサでは、金属が腐食しているときの電位を利用することとしている。つまり、ある金属の腐食電位が環境に依存せずに一定となるような系を作り、その腐食電位を既知として、基準電極として使用するものである。その電位を基準として、他の金属の腐食電位を測定する。電気化学的には、純粋な平衡反応系とは言えないので、(化1)式〜(化学3)式に示したセンサの原理とは異なっている。
具体的には、図2(a)に示すように、金属の分極曲線は、次の平衡反応
Figure 0004363163
に対応する金属の酸化還元電位付近において、微小な電位の変化に対して、急激に電流が立ち上がる活性態領域、それに続く電位の増大に対してほとんど電流が変化しない不働態領域、および再び電位の上昇とともに電流が増大する過不働態領域とに模式的に表すことができる。ここで、Mは金属、Mn+は金属のn価の陽イオン、neはn個の電子を表す。
そこで、図2(b)に示すように、金属上でのカソード反応(ここでは、酸素の還元反応を例示した。)に伴うカソード電流が小さく、活性態領域内で金属の分極曲線と交点を持つようにすれば、腐食電位はその金属の酸化還元電位とほぼ一致する。ここで、カソード電流が大きいと、図2に示すように、腐食電位は酸素濃度に依存して高低が変化することになる。活性態領域での立ち上がりが急激な特性を持つ金属ほど、またカソード反応が不活性な金属ほど、本発明に係る腐食電位センサに適している。
次に、実験結果について説明する。始めに、構造材料として用いられる304ステンレス鋼(SUS304)のECPを酸素と過酸化水素を混合した様々な環境で、BWR条件を模擬して280℃、8MPaで測定した。この測定結果を、しばしば行われている、次で定義される実効酸素濃度で整理し、その結果を図3に示す。
[実効酸素濃度]=[酸素]+1/2[過酸化水素]
ここで、括弧はモルで表した濃度を意味する。SUS304のECPは実効酸素濃度の値に依存して上昇するとともに、同一の実効酸素濃度であっても、酸素と過酸化水素の比率が違うために、異なる値を示した。当然のように、通常、腐食環境下では、金属は、このように、様々の水質に応じて腐食電位が異なるため、そのままの状態では腐食電位センサに用いることができない。
そこで、次に、金属ジルコニウムのワイヤについて同様の測定をしたところ、ジルコニウムのワイヤは、300ppb以下の実効酸素濃度で−750mVvsSHEの値を示した。これは、高温水中で自然に生成されるジルコニアの皮膜により酸素の反応が抑制されて、ジルコニウムの分極曲線の活性態領域で酸素のカソード反応との交点を持つためと考えられる。このような特性を有する金属を用いれば、金属そのものを腐食電位センサに使用することができる。
しかし、さらに酸素濃度を高めたところ、電位が上昇する挙動が見られた。これらは、ジルコニウムの表面に生成する酸化ジルコニウムの皮膜の影響と考えた。高温水中で自然にジルコニウム金属上に生成する酸化ジルコニウム皮膜は、厚みがある程度成長すると割れて、細かな亀裂が入るため、緻密でない。細かな亀裂を通じて酸素が進入し、ジルコニウムの不働態領域で腐食電位を形成して、電位が上昇すると推定された。ジルコニムワイヤを取り出して観察したところ、白い酸化物が表面に生成した。この腐食した酸化物は脆くなっており、やはりジルコニウムもそのままでは長期的な腐食電位センサに使用することはできないと判断した。ただし、金属ジルコニウムのように、比較的広い水質範囲で腐食電位が変わらず、且つ安定であるように、金属表面を変化させれば、様々な金属が腐食電位センサになり得ることが期待された。
そこで、次のような実験を行った。SUS304の表面にジルコニア(酸化ジリコニウム)を厚さ200μm、空隙率10%でプラズマ溶射により被覆し、そのときの電位を測定した。ここで、もしジルコニアの被覆によって酸素の拡散が制御できれば、SUS304の電位は、先に示したような酸素濃度依存性を示さずにSUS304の酸化還元電位付近(−600〜−500mVvsSHE)の値を示すはずであり、電位の上昇する酸素濃度から酸素の拡散速度が求められる。
予想通り、SUS304の電位は300ppb以下の実効酸素濃度で−550mVvsSHE程度の値を示した。SUS304の分極曲線が変わらないと仮定して、酸素濃度と電位との関係からカソード電流の減少量を求めた。その結果、表面の被覆層(被覆膜)によって酸素の拡散速度が1/1000に低下したと評価された。この時、ジルコニアで被覆したSUS304のECPの挙動を全ての実効酸素濃度範囲で説明することができた。
表面に溶射したジルコニアは酸素イオン(O )導電体として作用する可能性があったが、280℃でのジルコニア内での酸素イオンの拡散速度は、この低下値よりもさらにオーダーで4桁程度低い値であるので、酸素濃度依存性を説明することはできない。したがって、この溶射に伴う被覆層は、酸素イオン伝導体として機能するのではなく、酸素そのものの拡散を被覆層の有する10%の空隙を通じてのみ生ずるように制限する機能を果たしていることが明らかとなった。すなわち、酸素拡散量の低下によりカソード反応が律速され、SUS304の活性態付近で電位が形成されて、−550mVvsSHE程度の電位になることが分かった。
ここで、空隙率をP、厚みをT(μm)とすると、この実験に使用した溶射による被覆膜内の拡散係数Dは、D=(2P/D)D’で表すことができる。ここで、D’は水中での酸素の拡散係数(cm/s),Pは空隙率10%であれば、P=0.1で表される。拡散層の厚みは、溶射膜の厚さとすることができる。
また、過酸化水素条件に浸漬した結果、この被覆膜では、過酸化水素の寄与はほとんど見られなかった。これは、被覆膜内を拡散する間に、熱分解していると推定される。したがって、被覆膜内は酸素のみが拡散すると考えてよいことが分かった。
そこで、ジルコニア溶射膜の機能が明らかとなったので、金属ジルコニウム上にジルコニアを被覆して腐食電位センサを構成することとした。この腐食電位センサの模式図を図4に示す。図4において、金属上に酸素の拡散を減少させる被覆膜を形成すると、被覆膜内の拡散速度は酸素が水の中を進むよりも遅いので、酸素の拡散速度が1/1000になる。金属と被覆膜界面での金属の酸化反応に伴う電子を消費するのに必要なカソード反応量が、通常の自己酸化皮膜のみの場合よりもさらに低下する。そのため、高酸素濃度まで安定してジルコニウムの酸化還元電位付近に電位を発生させることができる。図3では、ジルコニウムの純金属のみでは1ppbを超えると、ECPが上昇するが、金属ジルコニウム上にジルコニアによる被覆を施すと、ECPの上昇が抑制でき、図の実線で示すように、10ppb以上でも安定した電位を示す。その結果、BWRの運転環境では、酸素濃度は高くても炉心で数ppbレベルであるので、ほぼ全領域で腐食電位を測定することができる。また、BWR模擬条件で腐食を加速するために、酸素32ppbなどの条件で材料試験を行う場合でも、長期間安定して腐食電位を測定することができる。
さらに、ジルコニウム自身の酸化によって、ジルコニアを生成するのではないので、ジルコニアの成長に伴う皮膜の割れや剥離は伴わない。そのため、ジルコニウム上のジルコニア厚さを十分に確保することができる。よって、下地のジルコニウムの腐食速度が非常に低下するので、腐食電位センサとしての寿命が十分確保できる。これによって、被覆膜とジルコニウムの境界で成長した酸化ジルコニウムによるブレークアウェイと呼ばれる皮膜の割れの発生も抑制され、腐食電位センサとしての寿命が延びることになる。少なくとも、原子炉の1運転サイクルが、海外のように、18ヶ月であっても、対応できることが期待される。このような、金属表面上の被覆膜は、ジルコニアのみでなく、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム、酸化珪素(シリカ)およびダイヤモンドでも形成できる。温度は250℃程度までで、放射線が存在せず、炉水が炉内に戻らなければ、四フッ化エチレン樹脂膜でも達成できる。金属表面への皮膜は、溶射だけでなく、ポーラスで不活性な特性を持つようにメッキ、化学気相成長(CVD)、プラズマなどの物理気相成長(PVD)、あるいはスパッタリングや放電コートにより金属をつけた後に高温で酸化して不活性化したものでもよい。電極材料はジルコニウムを例示したが、チタン、ニオブ、ステンレス、あるいはハステロイ(登録商標)などの金属を用いてよい。腐食が少なく活性態の立ち上がりの急激な金属が好適である。
(実施例1)
次に、本発明の第1実施例を図5にしたがって説明する。本実施例における腐食電位センサは、基準電位を発生する電極に、金属ジルコニウムを棒状に加工したジルコニウム電極1を用いている。ジルコニウム電極1は、酸化ジルコニウム(ジルコニア)を用いて円筒状に形成されたジルコニア絶縁体2によって保持されているとともに、ジルコニア絶縁体2の中心部に形成された貫通孔内に挿入されている。ジルコニウム電極1の一端側はセラミック−金属ロウ付けによる膜3aによってジルコニア絶縁体2の下端面に固定されている。なお、溶解した金属ジルコニウムをジルコニアの中に鋳込んでもよい。また、ねじ込んで固定してもよい。そのときは水が浸入しないように水封する必要がある。
ジルコニア電極1の他端側は、ジルコニア絶縁体2の上端面に露出されて面位置合せされている。そしてジルコニア電極1を含むジルコニア絶縁体2の上端面には、酸素拡散を減少するための被覆膜4がジルコニア溶射によって形成されている。この被覆膜4をジルコニア溶射で形成するに先立って、ジルコニウム電極1とジルコニア絶縁体2の上端面は、被覆膜4の付着が強固になるように、ブラスト処理により粗く仕上げられ、脱脂、洗浄が行われる。ジルコニア溶射による被覆膜4は、ここでは、空隙率10%で厚さ200μmで実施した。ジルコニア電極1に被覆膜4が形成された部分が基準電位を生起するようになっている。
ジルコニア絶縁体2は、円筒状のセンサ胴5によって保持されており、センサ胴5内には鉱物絶縁ケーブル6が挿入されている。鉱物絶縁ケーブル6は外筒管6aと心線6bで構成されており、外筒管6aがセンサ胴5の下端面に溶接によって固定されており、心線6bがジルコニウム電極1の下端面にスポット溶接によって固着されている。なお、センサ胴5は、コバールなどの低熱膨張金属で構成されている。また心線6bはジルコニウム電極1にスポット溶接されるため、ジルコニウム電極1は外部に対して電気的な導通が確保されることになる。すなわち、ジルコニウム電極1で生じた基準電位が心線6bを介して外部の計測系に取り出される構造となっている。
なお、円筒状のセンサ胴5の開口部からジルコニア絶縁体2を挿入する際に、鉱物絶縁ケーブル6の心線6bとジルコニウム電極1との接続部(スポット溶接による接続部)が外れないように注意する。これらがセンサ胴5の開口部から挿入されたあとは、心線6bとセンサ胴5の電気的絶縁が確保されているか否かをテスタなどを用いて確認する。このとき絶縁不良があるときには、挿入しなおす。絶縁が十分に確保されているときには、ジルコニア絶縁体2をセンサ胴5に対してセラミック−金属ロウ付けで固定する。ジルコニア絶縁体2の下端面をジルコニア電極1に固定する際に、セラミック−金属ロウ付けの代わりに、センサ胴5をカシメて接合することもできる。その際、ジルコニア絶縁体2とセンサ胴5との間に金などの柔らかい金属や樹脂を挟むと水の浸入を防ぐことができる。
本実施例によれば、ジルコニウム電極1の酸化に伴う電位を基準電位に用い、ジルコニウム電極1の表面の一部に、水中に溶存する酸素のジルコニウム電極1上への拡散量を減少させるための被覆膜4をジルコニア溶射によって形成するようにしたため、センサ内に溶液相を持たずに、水素が十分存在することを必要とせず、また、金属表面での酸化反応の電位を使うため、電気化学システムをイオン伝導体に内包する必要がない。そのため、広い水質条件で長期の使用が可能であり、構造の簡素化を図ることができるとともに、製造しやすいセンサを実現することができる。
また被覆膜4としては、酸化ジルコニウムの他に、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、ダイヤモンドなどのいずれか1つの物質で構成することができる。これらの物質を用いて被覆膜4を形成しても、ジルコニウム電極1の酸化速度を十分に低下することができるので、広い水質条件で長期の使用が可能になる。さらにジルコニウム電極1の表面の酸化速度が低下することで、ジルコニウム電極1の酸化による劣化を遅らせることができ、腐食電位センサの長寿命化を図ることができる。
(実施例2)
次に、本発明の第2実施例を図6にしたがって説明する。本実施例においては、基準電位を発生する電極として、金属ジルコニウムを板状に加工したジルコニウム電極1が用いられており、ジルコニウム電極1を保持する絶縁体にはジルコニアを用いて板状に形成されたジルコニア絶縁体2が用いられている。
本実施例における腐食電位センサを構成するに際しては、板状に形成されたセンサ胴5の上部にジルコニア絶縁体2を設置し、ジルコニア絶縁体2をセンサ胴5にセラミック−金属ロウ付けによって固定する。なお、センサ胴5はコバールなどの低熱膨張金属で構成されている。センサ胴5上には鉱物絶縁ケーブル6の外筒管6aが溶接によって固定される。鉱物絶縁ケーブル6は外筒管6aと心線6bで構成されており、外筒管6aをセンサ胴5上に固定した際には、心線6bとセンサ胴5との電気的絶縁が確保されているか否かをテスタなどを用いて確認する。
次に、ジルコニウム電極1を、板状に形成されたジルコニア絶縁体2の上に設置する。板状のジルコニウム電極1と板状のジルコニア絶縁体2との間に、鉱物絶縁ケーブル6の心線6bを挟み込み、心線6bをジルコニウム電極1にスポット溶接によって固着し、ジルコニウム電極1の電気的な導通を確保する。すなわち、ジルコニウム電極1で生じた基準電位が心線6bを介して外部の計測系に取り出される構造になっている。ジルコニウム電極1はジルコニア絶縁体2の上面にセラミック−金属ロウ付けによって固定される。なお、セラミック−金属ロウ付けの代わりに、金属ジルコニウムを蒸着などによって形成することもできる。
ジルコニウム電極1を含む、ジルコニア絶縁体2の上面には、酸素拡散を減少するための被覆膜4をジルコニア溶射によって形成する。このジルコニア溶射による被覆膜4の形成に先立って、ジルコニウム電極1を含むジルコニア絶縁体2の上面は、被覆膜4の付着が強固になるように、ブラスト処理により粗く仕上げられ、脱脂、洗浄が行われる。
ジルコニア溶射による被覆膜4は、ここでは、空隙率10%で、厚さ200μmで実施した。このジルコニア溶射は心線6上にも施され、心線6aが直接炉水に接しないようにする。被覆膜4によって被覆されたジルコニウム電極1が基準電位を生起する。このような板状の腐食電位センサを用いると、狭隘な部位での腐食電位が測定できる。
本実施例によれば、ジルコニウム電極1の酸化に伴う電位を基準電位に用い、ジルコニウム電極1の表面の一部に、水中に溶存する酸素のジルコニウム電極1上への拡散量を減少させるための被覆膜4をジルコニア溶射によって形成するようにしたため、センサ内に溶液相を持たずに、水素が十分存在することを必要とせず、また、金属表面での酸化反応の電位を使うため、電気化学システムをイオン伝導体に内包する必要がない。そのため、広い水質条件で長期の使用が可能であり、構造の簡素化を図ることができるとともに、製造しやすいセンサを実現することができる。
(実施例3)
次に、本発明の第3実施例を図7にしたがって説明する。本実施例における腐食電位センサは、基準電位を発生する基準電極に、金属ジルコニウムを棒状に加工したジルコニウム電極1が用いられている。なお、本実施例では、ジルコニウム電極1を保持する絶縁体は用いられていない。
本実施例における腐食電位センサを構成するに際しては、棒状に形成されたジルコニウム電極1の下端面に鉱物絶縁ケーブル6の心線6bがスポット溶接されて互いに接続され、ジルコニウム電極1の電気的な導通が確保される。すなわち、ジルコニウム電極1で生じた基準電位が心線6bを介して外部の計測系に取り出される構造になっている。そしてジルコニウム電極1と心線6bを含む、広範囲の部分に、酸素拡散を減少するためのジルコニア溶射が実施され、このジルコニア溶射によって被覆膜4が形成されている。
ジルコニウム電極1と心線6bの周囲にジルコニア溶射に伴う被覆膜4を形成するに先立って、ジルコニウム電極1と心線6bの表面は、被覆膜4の付着が強固になるように、ブラスト処理により粗く仕上げられ、脱脂、洗浄が行われる。ジルコニア溶射による被覆膜4は、ここでは、空隙率10%で厚さ200μmで実施した。ジルコニウム電極1に被覆膜4が形成されると、この部分が基準電位を生起する。この構造により、非常に小さな腐食電位センサを提供することができる。
本実施例によれば、ジルコニウム電極1の酸化に伴う電位を基準電位に用い、ジルコニウム電極1の表面に、水中に溶存する酸素のジルコニウム電極1上への拡散量を減少させるための被覆膜4をジルコニア溶射によって形成するようにしたため、センサ内に溶液相を持たずに、水素が十分存在することを必要とせず、また、金属表面での酸化反応の電位を使うため、電気化学システムをイオン伝導体に内包する必要がない。そのため、広い水質条件で長期の使用が可能であり、構造の簡素化を図ることができるとともに、製造しやすいセンサを実現することができる。
(実施例4)
次に、本発明の第4実施例を図8にしたがって説明する。本実施例は、前記各実施例に適用できるものであって、前記いずれかの実施例によって腐食電位センサを構成したあと、センサ胴5あるいは鉱物絶縁ケーブル6に電気的な導通を持たないように、被覆膜4上に、白金皮膜による薄膜28を蒸着などにより形成する。被覆膜4上に形成した薄膜28としては、白金の他に、ロジウム、あるいはパラジウムなどの白金族貴金属を用いることができ、被覆膜4上に薄膜28を形成することで、ジルコニウム電極1と炉水の電気的な導通を遮ることなく、炉水の酸素と水素との反応の触媒として薄膜28が作用することになる。それゆえ、ジルコニウム電極1に形成した被覆膜4内に進入する酸素の量をより減少させることができる。
本実施例によれば、前記各実施例と同様な効果を奏することができるとともに、ジルコニウム電極1に形成した被覆膜4内に進入する酸素の量をより減少させることができる。
(実施例5)
次に、本発明の第5実施例を図9にしたがって説明する。本実施例は、本発明に係る腐食電位センサをBWRに適用したものであり、図9は水素注入装置を備えたBWRの一時冷却系の系統図である。図9において、BWRの一次冷却系は復水系9、給水系10、原子炉圧力容器11、再循環系12、主蒸気系13、タービン14、復水器15および炉浄化系16などから構成されており、復水器15にはオフガス系17が接続されている。
炉水の腐食電位を測定するために、再循環系12、ボトムドレン19、炉浄化系16および炉心23に本発明に係る腐食電位センサ18b、18c、18d、18aがそれぞれ設置されている。一方、ECP以外の炉水の水質を測定するための水質測定装置20a、20bは、ボトムドレン19のサンプリング配管22および炉浄化系16のサンプリング配管21にそれぞれ接続されている。
上記構成によるBWRプラントにおいては、原子炉の炉心23で炉水が沸騰して生成された蒸気は、主蒸気系13を通ってタービン14を駆動し、発電機に接続されたタービン14の駆動により電力が発生する。タービン14を出た蒸気は復水器15で凝縮され、この凝縮水が復水として復水系9に供給される。この復水は、給水系9から原子炉圧力容器11に戻る。炉水は、再循環ポンプ24によって再循環系12を循環するようになっている。
蒸気にならなかった大部分の炉水は、原子炉圧力容器11の上部で蒸気と分離され、炉心23の周囲のダウンカマ25を通って原子炉圧力容器11の下方に流れる。この炉水は、再循環系12に流入し、再循環ポンプ24によって再び炉心23に戻される。蒸気の生成により減少した炉水の分量は、給水の供給により補充される。
炉水の水質は、サンプリング配管21、22から採取した炉水を減圧および冷却して、水質測定装置20b、20aによりオンラインで測定される。
給水系に水素を注入するに際しては、水素注入装置26を用いて給水に水素を添加し、炉水の水質変化を水質測定装置20b、20aによりオンラインで測定する。このとき、腐食電位センサ18a、18b、18c、18dを用いて、水素注入時におけるECPの変化を測定する。炉心23に設置した腐食電位センサ18aの検出値により、炉心23内あるいはその近傍の構造材料の置かれた腐食環境がそれぞれ把握される。また再循環系12に設置した腐食電位センサ18bの検出値により、再循環配管内の腐食環境が把握され、ボトムドレン19に設置した腐食電位センサ18cの検出値により、原子炉圧力容器11下部領域の腐食環境が把握され、炉浄化系16に設置された腐食電位センサ18dの検出値により再循環系12とボトムドレン19の混合した炉水の腐食環境が把握される。この結果、各部位でのECPが目標となる値に低下するように、給水に注入する水素の量が設定される。そして注入した水素の余剰分はオフガス系17で酸素と混合したあと、触媒で処理される。
BWRの炉内の腐食環境は、炉内の領域によって異なるため、SCCから守りたい部位の近くに腐食電位センサを設置することにより、各部位の腐食電位をより正確に測定することができ、各部位の腐食電位環境を精度良く、把握することができる。すなわち、炉浄化系、ボトムドレン、再循環系はそれぞれBWRのことなる領域の炉水が流れており、腐食電位も異なる挙動を示す。再循環系はダウンカマ領域下流の水が流れる。ボトムドレンは、下部プレナム内の水、特に、圧力容器の底部の水を代表する。炉浄化系は再循環系とボトムドレンの水が、プラントの設計条件で決まる一定の比で混合された水が流れる。またセンサを炉内に設置する場合は、中性子計装管を利用して、下部プレナムや炉心領域での電位が測定できる。
したがって、構造が簡単で寸法が小さくできるセンサであって、原子炉の様々な水質条件の下で長期の使用が可能なセンサを用いることで、原子炉構造材料の応力腐食割れの対策の効果を精度良く評価することができるようになり、原子炉の健全性および信頼性の向上に寄与することができる。
また電極に用いる金属としては、ジルコニウムのほかにチタン、ニオブ、ステンレスおよびハステロイ(登録商標)の中から選ばれた金属を用いることができる。これらの金属は、本来表面が酸化されると腐食速度が低下し、表面での酸素の反応が遅く、酸化還元電位での活性態での電流の立ち上がりが急なため、基準電位の変動が少ない腐食電位センサを提供できる。
また電極を支持する絶縁体としては、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、ダイヤモンドの中から選ばれた物質を用いることができる。これらの物質は、高温水中でも化学的に不活性であり、酸素の拡散を制限する被覆膜を構成するのに好適であり、また電極の金属への被覆も安定しているために、酸素の拡散を抑制する機能を長期にわたって有した被覆膜を有する腐食電位センサを提供することができる。
水素注入時の炉水溶存酸素濃度および腐食電位の給水水素濃度依存性について沸騰水原子炉で実測したときの実測値を説明するための図である。 金属の分極曲線の模式図である。 SUS303、ジルコニウム、ジルコニア被覆SUS304およびジルコニア被覆ジルコニウムの腐食電位の実効酸素濃度依存性を説明するための図である。 本発明の原理を説明するための模式図である。 本発明の第1実施例を示す腐食電位センサの縦断面図である。 本発明の第2実施例を示す腐食電位センサの分解斜視図である。 本発明の第3実施例を示す腐食電位センサの縦断面図である。 本発明の第4実施形態を示す腐食電位センサの要部断面構成図である。 本発明の第4実施例を示す図であって、腐食電位センサを原子炉システムに適用したときのBWRの一次冷却系の系統図である。
符号の説明
1 ジルコニウム電極
2 ジルコニア絶縁体
4 被覆膜
5 センサ胴
6 鉱物絶縁ケーブル
6a 外筒管
6b 心線

Claims (5)

  1. 金属の電極と、該電極が露出する表面に被覆膜を設けてなり、前記被覆膜は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、またはダイヤモンドのうち少なくとも一つの物質で構成され、前記被覆膜は、溶射、メッキ、気相成長、または高温酸化のうちいずれかで形成されてなる腐食電位センサ。
  2. 請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、前記電極は、ジルコニウム、チタン、ニオブ、ステンレス、またはハステロイ(登録商標)のうちいずれかの金属で構成されてなることを特徴とする腐食電位センサ。
  3. 請求項1に記載の腐食電位センサにおいて、前記被覆膜上には、白金、ロジウム、またはパラジウムのうちいずれかの金属による薄膜が形成されてなることを特徴とする腐食電位センサ。
  4. 金属の電極と、該電極が露出する表面に設けられる被覆膜と、前記電極を支持する絶縁体と、前記電極と前記絶縁体を収納するセンサ胴と、前記電極に接続されたケーブルとを備え、前記被覆膜は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、またはダイヤモンドのうち少なくとも一つの物質で構成され、前記被覆膜は、溶射、メッキ、気相成長、または高温酸化のうちいずれかで形成されてなる腐食電位センサ。
  5. 請求項に記載の腐食電位センサにおいて、前記絶縁体は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、またはダイヤモンドのうちいずれかの物質で構成されてなることを特徴とする腐食電位センサ。
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