JP4356851B2 - 船舶用アルミニウムダイカスト材料 - Google Patents

船舶用アルミニウムダイカスト材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は海水に対する耐腐食性並びに機械的強度が要求される船舶機器、特に船外機、船内機等の推進器、水ジェットポンプ等船底の一部を構成する部材に供するアルミニウムダイカスト材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
軽量化を目的として船舶機器にアルミニウムダイカスト材料を採用する動向にある。アルミニウムダイカスト材料は、JIS H 5302(1990)「アルミニウム合金ダイカスト」で、ADC1(Cu:1.0重量%以下)、ADC3(Cu:0.6重量%以下)、ADC5(Cu:0.2重量%以下)、ADC6(Cu:0.1重量%以下)、ADC10,10Z(Cu:2〜4重量%)、ADC12,12Z(Cu:1.5〜3.5重量%)、及びADC14(Cu:4〜5重量%)が規定されている。
【0003】
成分中のCuは錆発生の主要因となるため、海水に対する耐腐食性を考慮すると、0.6重量%以下にする必要があり、ADC3(Cu:0.6重量%以下)、ADC5(Cu:0.2重量%以下)、ADC6(Cu:0.1重量%以下)がその条件をクリアしていると言える。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ダイカストであるから鋳造時の流動性も重要であり、この流動性は成分中のSiによって決まり、ADC3(Si:9〜10重量%)、ADC5(Si:0.3重量%以下)、ADC6(Si:1.0重量%以下)の3種を検討すると、流動性はADC5<ADC6<ADC3の順となり、ADC5及びADC6は流動性の点で難がある。
【0005】
ADC3は流動性、耐腐食性ともに良好であるが、ADC12に比べると機械的強度はやや低い。
そこで、本発明の目的は、流動性、耐腐食性、機械強度の全てをクリアし得る新しいアルミニウムダイカスト材料を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1の船舶用アルミニウムダイカスト材料は、Cu(銅):0.15重量%以下、Si(けい素):10.0〜11.5重量%、Mg(マグネシウム):1.0〜2.5重量%、Zn(亜鉛):0.15重量%以下、Fe(鉄):0.7〜0.9重量%、Mn(マンガン):0.4〜0.6重量%、Ni(ニッケル):0.1重量%以下、Sn(すず):0.1重量%以下、Al(アルミニウム):残部を成分とすることを特徴とする。
【0007】
図1はCuの割合を変化させたときに海水に対する耐食性が如何に変化するかを調べたグラフであり、横軸はCuの含有量、縦軸は腐食幅を示し、横軸で0.6重量%の位置からカーブが上昇するため、この0.6重量%以下にCuを抑えることが必要となる。さらに、横軸の0.15重量%以下で腐食幅がごく小さくなる。このことから、海水における耐腐食性上、Cuは0.6重量%以下にする必要があり、少ないほどよいので、本発明ではCuは0.15重量%以下にする。
【0008】
鋳造時の流動性上、Siは多いほどよく、流動性良好といわれているADC3(Si:9〜10重量%)と同等以上の流動性を確保するために、本発明ではSiを10重量%以上とする。しかし、Siは11.5重量%を超えると初晶シリコンが発生し、脆くなり強度低下を招く。そこで、Siは10.0〜11.5重量%とする。
【0009】
ところで、上述の通りCuを微量にしたため、強度向上は図れなくなった。これを補うためにMgを適量添加する。
図2は本発明の船舶用アルミニウムダイカスト材料を対象にMg添加量と引張り強度との関係を示すグラフであり、横軸はMg添加量(重量%)、縦軸は引張り強度を示し、Mg添加量の増加と共に引張り強度が増加すると認められる。
【0010】
なお、多数のサンプルに基づいて引張り試験を施すので、得られた引張り強度データはばらつく。そこで、引張り強度データを「帯」で示した。
また、710℃で溶解し、鋳造した後、金型から取り出した380℃のサンプルを大気で自然冷却したのちに、引張り試験を実施したものを「放冷」として示し、710℃で溶解し、鋳造した後、金型から取り出した380℃のサンプルを80℃の水で急冷したのちに、引張り試験を実施したものを「水冷」として示した。
水冷は鋼の焼入れ、放冷は鋼の焼ならしに相当する。
【0011】
後述するが、ADC3の引張り強度は245N/mm2であり、これ以上の引張り強度を本発明品では確保したい。245N/mm2の横線▲1▼をグラフに記入すると、水冷材であれば、Mgが1.0重量%以上であればこの要求を満たすことが分かった。そこで、Mgは1.0重量%以上とする。
また、Mgは2.5重量%を超えると溶解したアルミニウム(溶湯)の粘度が高くなり、湯の流動性が低下する。
そこで、Mgは1.0〜2.5重量%とする。
【0012】
ZnはAlの耐食性を低下させるため、好ましくは含まないものとするが、製造コストが嵩むため、0.15重量%以下とする。
【0013】
Feが0.7重量%未満であると、アルム溶湯と金型材料表面との間に焼付きが発生し、金型への影響及び円滑な連続鋳造ができなくなる。また、Feは0.9重量%を超えると脆くなり機械的性質を低下させる。
そこで、Feは0.7〜0.9重量%とする。
【0014】
上記鉄化合物の影響を防止するために、Mnを加えるとAl−Mn(Fe)−Siの板状金属間化合物になり、Feの影響を抑え、靱性及び衝撃性低下を防ぐことができる。
このとき、Mnが0.4重量%未満であると上記効果が薄くなり、又、0.6重量%を超えるとMn結晶が晶出し、機械的性質が低下する。
そこで、Mnは0.4〜0.6重量%とする。
【0015】
NiはAlの耐食性を著しく低下させるため、好ましくは含まないものとするが、製造コストが嵩むので含有率を極端に下げることは好ましくない。耐食性と製造コストとを考慮して、Niは0.1重量%以下とする。
【0016】
Snも同様にAlの耐食性を著しく低下させるため、好ましくは含まないものとするが、製造コストが嵩むので含有率を極端に下げることは好ましくない。耐食性と製造コストとを考慮して、Snは0.1重量%以下とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図3は本発明の材料を適用した船外機の斜視図であり、船外機10は、下から上へギヤケース11、エクステンションケース12、アンダカバー13、エンジンカバー15を組んだものであり、エンジンカバー15内の図示せぬエンジン、バーチカルシャフト及びギヤセットを介してスクリュー16を回転する構造体であり、特に海水に漬かるギヤケース11及びエクステンションケース12を、本発明の船舶用アルミニウムダイカスト材料で構成する構造体であり、この構造体は取付ブラケット17を介して図示せぬ船尾に取付けられるが、特に海水に漬かるギヤケース11及びエクステンションケース12に塗装を施す。
【0018】
この様に、本発明の船舶用アルミニウムダイカスト材料は、海水に対する耐腐食性並びに機械的強度が要求される船舶機器、特に船外機、船内機等の推進器、水ジェットポンプ等船底の一部を構成する部材に供することが望ましい。
【0019】
【実施例】
本発明に係る実施例を次に説明する。
表1に実施例と比較例の成分を示す。
【0020】
【表1】
Figure 0004356851
【0021】
実施例は、Cu:0.15重量%以下、Si:10.0〜11.5重量%、Mg:1.0〜2.5重量%、Zn:0.15重量%以下、Fe:0.7〜0.9重量%、Mn:0.4〜0.6重量%、Ni:0.1重量%以下、Sn:0.1重量%以下、Al:残部を成分とすることを特徴とする船舶用アルミニウムダイカスト材料である。
【0022】
比較例は、JIS H 5302(1990)「アルミニウム合金ダイカスト」で規定する、ADC3である。
即ち、Cuについては比較例が0.6重量%以下であるのに対し、実施例は0.15重量%以下と1/4程度に含有量を低減し、Mgについては比較例が0.4〜0.6重量%であるのに対し、実施例は1.0〜2.5重量%と2〜4倍程度に含有量を増加したことを特徴とする。
【0023】
表2は機械的性質の対比表である。
【0024】
【表2】
Figure 0004356851
【0025】
アルミニウム合金ダイカストとして広く採用されている比較例(ADC3)では、引張り強度が245N/mm2、耐力が119N/mm2、伸びが6.1%であるのに対し、実施例では、引張り強度が289N/mm2、耐力が132N/mm2、伸びが7%であり、何れも実施例は比較例を超えた機械的性質を備えていると言える。
【0026】
耐腐食性に関しては、前記の表1に示した通りに、Cuについては比較例が0.6重量%以下であるのに対し、実施例は0.15重量%以下であって、Cuの含有量を低減するほど耐腐食性の向上が図れるから、実施例は比較例よりも格段に高い耐腐食性を備えていることは明らかである。
【0027】
流動性に関しては、前記の表1に示した通りに、Siについては比較例が0.9〜10.0重量%であるのに対し、実施例は1.0〜11.5重量%であって、Siの含有量を増すほど流動性の向上が図れるから、実施例は比較例と同等以上の流動性を備えているになる。
【0028】
従って、本発明の船舶用アルミニウムダイカスト材料は、ダイカスト法における流動性、海水に対する耐腐食性、船舶機器にとしての機械強度の全てにわたって満足し得る性能を有している。
なお、本発明の材料で製造した製品に、塗装を施し、ベーキング処理を施せば、硬度を上げることができる。
【0029】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1の船舶用アルミニウムダイカスト材料は、腐食因子であるCuを0.15重量%以下に低減したので海水に対する十分な耐腐食性を備え、鋳造流動性因子であるSiを10.0〜11.5重量%まで高めたので十分な流動性を備え、機械的強度因子であるMgを1.0〜2.5重量%まで高めたので十分な機械的性質を備える。従って本発明品は、流動性、耐腐食性及び機械的強度の全てが要求される船舶用アルミニウムダイカスト材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Cuの割合を変化させたときに海水に対する耐食性が如何に変化するかを調べたグラフ
【図2】本発明の船舶用アルミニウムダイカスト材料を対象にMg添加量と引張り強度との関係を示すグラフ
【図3】本発明の材料を適用した船外機の斜視図
【符号の説明】
10…船外機。

Claims (1)

  1. Cu:0.15重量%以下、Si:10.0〜11.5重量%、Mg:1.0〜2.5重量%、Zn:0.15重量%以下、Fe:0.7〜0.9重量%、Mn:0.4〜0.6重量%、Ni:0.1重量%以下、Sn:0.1重量%以下、Al:残部を成分とすることを特徴とする船舶用アルミニウムダイカスト材料。
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