JP4350301B2 - 可溶性mhc複合体とその利用法 - Google Patents
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Description
(発明の背景)
1. 発明の技術分野
本発明は、主要組織適合複合体(MHC)分子の新規な複合体、およびかかる複合体を発現ならびに使用する方法に関する。たとえば、一つの局面において、本発明は修飾されたクラスIIβ2鎖を含むMHCクラスII分子に関する。もう一つの局面においては、本発明は共有結合により連結された免疫グロブリン定常領域を含むMHCクラスIおよびII複合体に関する。さらにもう一つの局面においては、本発明はポリスペシフィック(polyspecific)なMHC複合体、ならびにMHC複合体を発現し精製する方法に関する。本発明のMHC複合体は、生体外および生体内でのT細胞の活性を調節する能力に関してペプチドをスクリーニングすることを含む種々の適用に有用である。
【0002】
2. 背景
抗原特異的なT細胞の応答は、抗原ペプチドによって引き起こされる。ペプチドは一般に、外来抗原に対して同定および応答するための免疫系機構の一部として、MHCの結合の溝(binding groove)に結合する。結合した抗原ペプチドは、T細胞受容体と相互作用し、免疫応答を調節する。抗原ペプチドは、非共有結合的手段によって多形のアミノ酸残基からなる特別の「結合ポケット(binding pockets)」に結合される。
【0003】
天然に生じるMHCクラスII分子は、αおよびβ鎖からなるヘテロ二量体の糖タンパク質である。これらの分子のα1およびβ1ドメインは、一緒に折りたたまれ、ペプチド結合の溝を形成する。抗原ペプチドは、当該ペプチド上のアンカーアミノ酸と、α1およびβ1ドメインとの間の相互作用を介してMHC分子と結合する。インフルエンザウイルスペプチドに結合したヒトのクラスII HLA−DR1複合体の結晶学的分析は、結合したペプチドのNおよびC末端が結合の溝の外に伸び、このペプチドのC末端がβ鎖のN末端に近づくようにされることを示している。たとえば、J. Brown等、Nature, 364 : 33(1993); L. Stern等、Nature, 368 : 215(1994)参照。MHCクラスIおよびクラスII分子は異なるドメイン構成を有する。たとえば、A. Rudensky等、Nature, 353 : 622(1991)参照。またMHC分子についての議論は、米国特許第5,284,935;5,260,422;5,194,425;5,130,297;WO92/18150;WO93/10220;およびWO96/04314を参照のこと。
【0004】
特に、J. Brown等、前出は、MHCクラスIIβ2鎖が、MHCクラスII複合体の正しい折りたたみに決定的な役割を果たすことを報告した。
【0005】
αおよびβ鎖の膜貫通ドメインは、MHC分子の集合および/または細胞内輸送において重要な役割を果たす。たとえば、このTMドメインにおけるアミノ酸の変化の結果として、不完全なMHC分子を生じることがある。MHCのαおよびβ鎖の膜貫通ならびに細胞質ドメインが開示されている。P. Cosson等、Science, 258 : 659(1992);W. Wade等、Immunology, 32 : 433(1995);H. Kozono等、Nature, 369 : 151(1994)、およびJ. Brown等、前出参照。
【0006】
抗原ペプチドと複合体を形成したMHC分子は、いくつかの異なる機構により、選択的な免疫抑制を誘導することができる。たとえば、J. Guery等、Critical Reviews in Immunology, 13(3/4): 195(1993))参照。
【0007】
さらに明確には、もし抗原提示細胞も補助刺激シグナルを伝えるのであれば、抗原提示細胞(APC)上のペプチド-MHC複合体は、MHCに結合したペプチドに特異的なT細胞系のクローン増殖を誘導することになることが報告されている。一つの提案されたアプローチは、T細胞の活性化にこの必要性を利用しており、補助刺激シグナルの不在下における、MHC分子に結合された抗原ペプチドとの相互作用によるT細胞の発育阻害を報告している。M. Nicolle等、J. Clin. Invest, 93 : 1361 - 1369 (1994);およびS. Sharma等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88 : 11465 - 11469(1991)参照。
【0008】
もう一つの提案されたアプローチは、結合ペプチドをもつMHC分子を用いたT細胞の発育阻害を含む。当該結合ペプチドは、T細胞受容体(TCR)に対するアンタゴニストかまたは部分アゴニストでよい。 B. Evavold等、Immunology Today, 14 (12) : 602 - 609(1993)参照。
【0009】
特異的なT細胞の応答の原因となる残基を調査するべく、TCRに結合した抗原ペプチドの修飾が試みられてきた。抗原ペプチドのかかる「活性化する」アミノ酸を決定することで、TCRアゴニストまたはアンタゴニストとしての役割を潜在的に演ずることのできるアミノ酸配列についての洞察が与えられる。Evavold, B. 等、前出参照。
【0010】
また、新規なワクチンが、MHC分子に結合した種々の抗原ペプチドの性質の決定に基いて開発されるだろうということも推測されてきた。R. Chicz等、Immunology Today, 15 (4) :155 - 160 (1994)参照。
【0011】
先の研究は、MHCクラスIIのヘテロ二量体分子が外来性のペプチドに結合することができることを示した。しかしながら、MHCクラスII鎖はしばしば解離する。分散した状態では、MHCクラスII鎖は提示のペプチド(presenting peptide)の結合には適さないかもしれない。Sern, L. J.およびD. C. Wiley, Cell 68 : 465 (1992) ; Scheirle, A. B. 等、J. Immunol. 149 : 1994 (1992) ; Kozano H.等、Nature 369 : 151 (1994)参照。
【0012】
完全に可溶性かつ機能性のMHC複合体を得るべく、いくつかの試みが行なわれてきた。たとえば、一つのアプローチにおいてはMHC複合体は、生化学的技術を用いて細胞から単離されているが、それはタンパク質分解酵素、塩類、および/または界面活性剤等の苛酷な薬剤との接触を含むものである。これらの薬剤は、しばしば透析または結合反応により除去されねばならない。たとえば、J. M. Turner等、J. Biol. Chem. 252 : 7555 (1977) ; T. A. Springer等、PNAS (USA) 73 : 2481 (1976)参照のこと。
【0013】
しかしながらこのような方法はしばしば、かなりの量の完全に可溶性かつ機能性のMHC複合体を単離するためには適さない。
【0014】
T細胞の活性を変えることができる非常に有用なMHCクラスIおよびクラスII複合体と、当該複合体を作成する方法とは、1995年7月31日に提出された、公表されたPCT出願番号WO96/04314に開示されている。開示されたMHC複合体は、一般に特定のペプチドリガンドに結合する。
【0015】
(発明の概要)
本発明は、完全に可溶性かつ機能性の新規なMHCクラスIおよびクラスII複合体に関し、たとえば空の単鎖MHCクラスII複合体(empty single chain MHC class II complexes)、装填された単鎖MHCクラスII複合体(loaded single chain MHC class II complexes)、単鎖MHCクラスIIペプチド融合複合体(single chain MHC class II peptide fusion complexes)、ポリスペシフィックな単鎖MHCクラスII複合体(空か、装填されたか、または融合されたペプチドを含んでいる)に関し、またかかる複合体の効用に関する。
【0016】
一般的に言って、発明者らは免疫グロブリンL鎖の定常領域をMHC複合体に融合することにより、MHC複合体の可溶性の発現を促進することができることを発見した。発明者等はまた、完全なクラスIIβ鎖の欠失を含め、MHCクラスII複合体のクラスIIβ鎖を修飾することにより、MHC複合体の可溶性の発現を促進することができることを発見した。
【0017】
筆者らは先に、公表されたPCT出願番号WO96/04314、および1996年1月31日に提出された、公表されたPCT出願番号WO97/28191において、非常に有用な単鎖(「sc−」)MHCクラスIおよびクラスII複合体を開示したが、その開示は各々本文に参考文献として完全に取り入れられている。開示されたsc−MHCクラスIおよびクラスII複合体は、組換えにより融合された提示のペプチド をもつsc−MHC分子(sc−MHCペプチド融合分子)、空のsc−MHC分子(empty sc-MHC molecule)(組換えにより融合された提示のペプチド がない)、および装填されたsc−MHC複合体(非共有結合により結合された提示のペプチド を含む)を含む。
【0018】
発明者らは、免疫グロブリンL鎖定常領域(すなわちIg-CL)を融合すること、および/またはクラスIIsc−MHC分子内のβ2鎖を修飾することにより、先に開示されたsc−MHCクラスIおよびクラスII分子の可溶性の発現を促進することが可能であることを発見した。Ig-CLの融合は、Ig-CL鎖または適当なそのフラグメントを、sc−MHCクラスIまたはクラスII複合体に付加することを含む。クラスIIβ2鎖の修飾は、完全なクラスIIβ2鎖の欠失を含め、クラスIIβ2鎖についてのアミノ酸の欠失、置換、または付加を含む。Ig-CLの融合およびクラスIIβ2鎖の修飾は、sc−MHC分子の可溶性の発現を亢進し、かつsc−MHC分子の特異的な結合活性にかなり強い影響を与えることはなかった。
【0019】
本発明はさらに、新規なポリスペシフィックなMHC複合体を提供する。当該複合体は概して、一つまたはそれより多いsc−MHCクラスIまたはクラスII分子、一つまたはそれより多いリガンド結合分子、一つまたはそれより多い連結分子、および一つまたはそれより多い任意のエフェクター分子を含む。本文において用いたように、「リガンド結合分子」という用語は、免疫グロブリン、免疫グロブリン由来の単鎖分子、および受容体リガンドを含む。当該複合体のsc−MHCおよびリガンド結合分子部分は、所望の標的構造を特異的に結合するべく、また一つのMHC複合体に潜在性の多数の結合特異性を提供するべく選択される。完全に機能性のポリスペシフィックなMHC複合体の可溶性の発現は、もし所望であれば、以下に詳細に議論されるIg-CLの融合および/またはクラスIIβ2鎖の修飾により、種々のタイプの細胞において促進されることが可能である。
【0020】
本文においては、「本発明のMHC複合体」という用語または関連する用語は、本文において、および公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191において開示されたsc−MHCクラスIおよびクラスII分子を示すべく用いられており、このsc−MHC分子は本文に提供されているように、修飾されたクラスIIβ2鎖および/または融合されたIg-CL鎖フラグメントまたは適当なIg-CL鎖フラグメントを含む。この用語はまた、修飾されたクラスIIβ2鎖および/または融合されたIg-CL鎖あるいはIg-CL鎖フラグメントをもつかもたずに提供された、ポリスペシフィックなMHC複合体を包含することも意味する。
【0021】
本発明のMHC複合体には生体外および生体内における多数の効用がある。
【0022】
たとえば、本発明のMHC複合体は、ペプチド等の種々のリガンドを検出および分析するべく使用することができる。特に、MHCクラスII複合体は病原性の性質を用いたT細胞の検出等の診断目的のために提供されるべく使用されてよい。加えてMHC複合体は、機能、細胞、および分子の分析において、またX線結晶学、核磁気共鳴映像法、コンピューターフラフィックディスプレイなどのコンピューター技術を含む構造解析において用いることが可能である。意義深いことには、MHC複合体の単鎖の型ならびに亢進された可溶性の発現は、データの収集および分析のいくつかの点を単純化にすることことが予想される。MHC複合体はまたスクリーンにおいて、TCRおよび/またはMHCアゴニストおよびアンタゴニスト、特に天然に生じるTCRとMHC複合体の間の相互作用を阻害する低分子を同定および単離するべく用いてもよい。さらに、種々の機知の技術を用いて、本発明のMHC複合体と、TCRまたはMHC複合体に特異的な抗体との間の相互作用を潜在的に阻止する低分子をスクリーンすることが可能である。
【0023】
本発明のMHC複合体には生体内における意義深い効用がある。たとえば、免疫に関連した異常症または病気に関係するような病原性の抗原提示細胞(APC)と競合するため;あるいは、たとえばヒト等の哺乳類を、APCの表面上に生じかつ他の分子が病原性または他の有害な機能を行なうべく実行させるかまたは助ける、細胞外領域等のMHC構造に対して免疫するために、この複合体を用いることができる。特に本発明のMHCクラスII複合体を用い、以下に述べるような既知の免疫学的方法により抗体を立ち上げてもよい。抗体は、たとえば所望の抗原を認識する特異的なAPCを阻害するかまたは数を減じることにより、生体内において免疫応答を変えるべく設計された治療用の戦略に用いることの可能な方法によって産生された。特に、MHCエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体を選択して、免疫異常症または疾患あるいは他の病理に関係する限定されたAPCのサブセットまたは集団が標的とされ、かつ好ましくは除去されるようにすることができる。以下にさらに完全に述べるように、APCまたはそれに結合する抗体は修飾されないことが可能であり、あるいはもし所望であれば薬物、毒素、放射性核種、または酵素等の他の薬剤に共有結合により連結されてもよい。
【0024】
さらに、本発明のMHC複合体は、生体内において所望の標的構造を発現しているT細胞等の免疫細胞をスクリーンするべく用いることができる。いくつかの環境において、細胞受容体糖タンパク質、リポタンパク質、脂質、糖脂質、および炭水化物等の標的構造を発現している選択されたT細胞を取得および増殖することが有用となってきた。意義深いことに、本発明の一つのポリスペシフィックなMHC複合体は、多数の標的構造を発現している細胞を選択するべく使用することができる。
【0025】
本文に使用されているように、「提示のペプチド(presenting peptide)」という用語は、T細胞を増殖するべく培養することと、本発明のMHC複合体をもつT細胞を(融合されたかまたは非共有結合により結合されたペプチドと)接触させること、および次いで当該複合体がT細胞のさらなる発生を阻害するかどうかを評価すること、の連続した工程を含む分析法を含んでいる以下に開示された分析法により決定されるような、T細胞の増殖を誘導するべく、阻害するべく、あるいはT細胞の発生を不活性化するべく、T細胞受容体の活性を調節することができるペプチドをさす。
【0026】
本文に用いられた「空の(empty)」という用語は、共有結合または非共有結合により結合された提示のペプチド を欠く本発明のMHC複合体をさす。代表的な空のMHC複合体は、ポリペプチドの複合体よりもむしろ単一のポリペプチド鎖からなる空のクラスIIMHC複合体を含む。もう一つの例示的な空のMHC複合体は、融合されたポリペプチドを含んでいる一つまたはそれより多いsc−MHCクラスII分子を含んでいる空のポリスペシフィックなクラスIIMHC複合体である。空のMHC複合体は、特異的にペプチドを結合することができるペプチド結合の溝または裂溝を含む。
【0027】
本文に用いられた「装填された(loaded)」という用語は、MHC複合体のペプチド結合の溝または裂溝に非共有結合により結合された提示のペプチド を含む本発明の空のMHC複合体をさす。非共有結合は、提示のペプチド と空のMHC複合体のペプチド結合の溝または裂溝との間の安定な水素結合により適合されている。非共有結合はインヴィトロまたはインヴィヴォにおいて行なうことができる。装填されたsc−MHC複合体の実例は、ポリペプチドの複合体よりもむしろ、単一のポリペプチド鎖からなる装填されたsc−MHCクラスII複合体である。
【0028】
本発明のMHC複合体は有意な利益を提供する。たとえば、前文に示したように、提供された修飾されたクラスIIβ2鎖および/またはIg-CL鎖は、当該複合体の可溶性の発現を促進する。したがって、MHC複合体の産生ならびに利用にはポジティブに強い影響が与えられる。さらに、所望の提示のペプチド (装填されたか、または共有結合により連結された)を含んでいるMHC複合体に関しては、実地に先立ち、抗原提示細胞からの装填されたMHC分子の精製が必要とされる。かかる装填されたペプチドは一般的に堅く結合しており、興味のペプチドを用いて効果的に交換することはできなそうもなかった。対照的に、MHC複合体は単一の抗原ペプチドを含むことが可能であり、発現している細胞からかなりの量を容易に単離することができた。T細胞受容体との相互作用の分析は、かかるMHC複合体の使用により促進されるであろう。さらに、ペプチド中の少数(約4ないし6)のアミノ酸だけが特定のMHC分子への結合に重要である、という事実のおかげで、幅広い種類のペプチドをT細胞との相互作用に提示することが可能である。すなわち、T細胞の提示のため、異なるペプチドのライブラリーをMHC複合体に連結することができる。
【0029】
本発明のMHC複合体は、さらなる利益を提供する。たとえば、ポリスペシフィックなMHC複合体は、一つより多くの標的構造と特異的に結合することができ、それにより一つの複合体を用いて多数の標的構造を発現している細胞を検出するための手段が提供される。ポリスペシフィックなMHC複合体は複数の結合部位を含むことができるため、結合の強さが亢進されることが可能である。さらに、多くのポリスペシフィックなMHC複合体の適度な大きさ(たとえば約50ないし70kDaより小さいもの)はそれらを、細胞の映像化および、薬物、毒素、または放射性核種等の所望の低分子の細胞への送達のような種々の適用について、全抗体よりも潜在的にさらに有用なものにする。
【0030】
本発明のポリスペシフィックなMHC複合体は、さらなる効用ならびに利益を有する。たとえば、本発明によれば、ポリスペシフックなMHC複合体の単鎖部分を、温度、濃度、緩衝条件などの調節された条件下に、インヴィトロにおいて結合することができる。特に、多鎖のポリスペシフィックなMHC複合体の単鎖を、新規なホモまたはヘテロ二量体のポリスペシフィックなMHC複合体を産生するべく結合することができる。産生された複合体は、もし所望であれば、以下に特別に提供されているような標準的な技術の一つまたは組み合わせにより精製されることが可能である。別法として、ポリスペシフィックなMHC複合体の単鎖はインシトゥ、すなわち培養細胞内において結合され、それらの細胞から以下に述べたように精製されてもよい。
【0031】
本発明のMHC複合体はまたさらなる利益を提供する。たとえば、空のクラスIおよびクラスIIMHC複合体を、天然に生じるTCRによって認識されるペプチドを同定するためのスクリーンに用いることができる。MHC複合体の付加的な利益は、免疫応答の抑制のための方法(たとえば、自己免疫疾患またはアレルギー等の免疫異常症をもつ個体の治療)、および所望の免疫応答の誘導のための方法、たとえば哺乳類が免疫無防備状態であるかまたはそれらしい場合、たとえばウイルス感染(たとえばAIDSにおけるように)または化学療法(たとえば癌を治療するための放射線療法)により免疫系が抑制される場合、およびHLAの型別および生体内の画像診断法等の診断法における使用を含む。MHCペプチド融合複合体をコードしているDNA構築物の直接投与もまた期待されている。
【0032】
本発明の空のMHC分子は特別な利益を提供する。たとえば、空のsc−MHCまたはポリスペシフィックなクラスII分子は、種々の適当な提示のペプチド と容易に結合し、装填されたMHC分子を形成することができる。本発明の空のMHC分子を便利に装填する能力は、各々の提示のペプチド についてT細胞受容体を活性調節する能力を評価するための、多くの提示のペプチド のスクリーニングを可能にする。
【0033】
本発明のポリスペシフィックなMHC複合体は、一般的に一つまたはそれより多いsc−MHCクラスIまたはクラスII分子(同じかまたは異なる)を含んでおり、約2ないし5個までのかかる分子を含む。本発明によれば、sc−MHC分子は修飾されたβ2クラスII鎖および/または融合されたIg-CL鎖または適当なIg-CL鎖のフラグメントを、当該複合体の可溶性の発現を促進するべく含むことができる。代表的なポリスペシフィックなMHC複合体は、時に修飾されたβ2クラスII鎖を含んでいる一つのsc−MHCクラスII分子を含んでいる、クラスII複合体を含む。さらに、一つまたはそれより多い既知のクラスのsc−MHC分子(IAd、DR1、DR2、DP、IE、QP、その他)を含んでいるキメラ状のポリスペシフィックなMHC複合体もまた本発明の範囲内にある。
【0034】
好ましいsc−MHC分子(クラスIおよびクラスII)の構造は、公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に完全に開示されている。
【0035】
簡単に言えば、先に開示されたsc−MHCクラスIおよびクラスII分子は空か、装填されてよく、あるいは融合または装填された所望の提示のペプチド を含んでもよい。たとえば、sc−MHCクラスII分子はMHCαまたはβ鎖に共有結合により連結された提示のペプチド を含むことができる。典型的には、提示のペプチド はペプチドリンカーを介してαまたはβ鎖のN末端に連結される。sc−MHC分子は一般的に切り縮められる(特に、膜貫通部分のすべてを含まない)か、または所望であればいくつかの例では「完全長」でよく、かつ膜貫通部分かまたはその部分と、細胞質ドメインかまたはその部分とを含んでもい。sc−MHC分子はまた、この分野では時に「蝶番」部分と呼ばれる膜貫通ドメインに隣接するものを含んでもよい。Kabat, G. A.等、下文参照。
【0036】
完全に可溶性のMHC複合体を取得することが望まれる場合には、sc−MHCクラスII分子は一般に、膜貫通部分の全ては含まないが、もし当該単鎖分子が完全に機能性かつ可溶性であれば、その適当なフラグメント(たとえば1ないし5アミノ酸)が含まれることが可能である。好ましいsc−MHCクラスII分子は、以下に提供されるβ2クラスIIの修飾および/またはIgCL鎖またはIgCL鎖フラグメントの融合を含むこととなる。MHC複合体の可溶性を亢進しかつ精製を促進することが望ましい例においては、以下に開示されるような適当なタンパク質のタグがMHC複合体に付加されてもよい。
【0037】
PCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されたように、融合された提示のペプチド を含んでいるsc−MHC分子は、一般的にまたMHC鎖と提示のペプチド との間に置かれたたわみ性のあるリンカー配列を含む。リンカー配列は好ましくは、MHCの結合の溝に対して提示のペプチド が効果的に位置されるようにし、提示のペプチド がT細胞受容体の活性を、T細胞の増殖を誘導するべく、あるいはT細胞の発生を阻害または不活性化するべく調節することができるようにする。T細胞の活性化は、以下に述べたものを含めた種々のインヴィトロおよびインヴィヴォの分析法により測定することができる。代表的な分析法は、T細胞を増殖させるべく培養することと、T細胞をMHCペプチド融合複合体と接触させること、およびさらにMHC複合体がT細胞のさらなる増殖を阻害するかどうかを評価すること、の連続した工程を含むインヴィトロの分析法である。
【0038】
PCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191にさらに開示されているように、ペプチド融合物を含んでいるsc−MHC分子に関しては、MHCαおよびβ鎖サブユニットは単鎖の融合タンパク質として連結されており、提示のペプチド は典型的には融合タンパク質のβ鎖に連結されている。かかる連結された単鎖複合体は数多くの利益を提供することが可能である。特に、この複合体を単一分子に還元する場合、当該分子の産生量ならびに安定性は概して亢進される。このことは、活性のある形では効果的に産生されないかもしれない可溶性分子にとっては、特に重要である可能性がある。以下にさらに完全に議論されるように、sc−MHC分子の産生量は、以下に議論されるクラスIIβ2鎖の修飾および/またはIgCL鎖またはIg−CL鎖フラグメントの融合によりさらに増進される。
【0039】
以下にさらに詳細に議論されるように、本発明のMHC複合体は、種々のクラスI(H-2またはHLA)またはクラスII(IA、IE、DR、DQ、またはDP)MHC分子を含むことが可能なsc−MHC分子を含む。代表的なMHC鎖はアレルギーまたは自己免疫反応等の免疫応答に関係しているものを含む。他の例はPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されている。
【0040】
特筆したように、発明者らは驚くべきことに、クラスIIβ2鎖が修飾され、特に完全に欠失される場合、本発明のMHCクラスII複合体が亢進された可溶性の発現を呈し、また特異的な結合が可能であることを発見した。クラスIIβ2鎖は、たとえば既知のDNA配列のIA、IE、DR、DQ、またはDPでよい。
【0041】
本発明の代表的な態様においては、本発明のMHC複合体は、sc−MHCクラスII分子を含み、それにおいてβ2クラスII鎖の少なくとも一つのアミノ酸が欠失されている。欠失されたアミノ酸は、隣接するかまたは隣接しなくてもよく、基本的には完全長のβ2クラスII鎖まででよい。
【0042】
他の代表的な態様においては、MHC複合体はクラスIIβ2鎖における一つまたはそれより多いアミノ酸の付加または置換を含む。特に期待されるのは、クラスIIβ2鎖におけるアミノ酸の置換であって、それらはシステイン残基間の架橋結合を最少化するかまたは除去する。置換は隣接するかまたは隣接しなくてもよく、基本的には完全長のクラスIIβ2鎖までが可能である。
【0043】
前文に議論したように、発明者らはまたsc−MHC複合体へのIG-CL鎖の融合が当該複合体の可溶性の発現を亢進することを発見した。したがって、一つの代表的な態様においては、本発明のMHC複合体はIg-CL鎖に融合されたsc−MHC分子を含む。Ig-CL鎖は、適切なペプチドリンカー配列を介して直接または間接的に単鎖のMHC複合体βまたはα鎖に融合されることが可能である。
【0044】
Ig-CL鎖は、既知のDNA配列の、κまたはλ型の免疫グロブリンL鎖定常領域から取得することができる。κ型のIg-CL鎖は本文においてしばしば「Cκ鎖」と呼ばれ、一方λ型のIg-CL鎖は本文においてしばしば「Cλ鎖」と呼ばれる。
【0045】
さらに提供される本発明のMHC複合体は、所望のsc−MHC分子に融合されたIg-CL鎖フラグメントを含む。当該フラグメントは所望の完全長のCκまたはCλ鎖の、一つまたほそれより多いアミノ酸の欠失を含むことができる。一つまたほそれより多いアミノ酸の欠失は、隣接するかまたは隣接しなくてもよく、基本的には完全長のCκまたはCλ鎖までが可能である。
【0046】
本発明はさらに、少なくとも一つのアミノ酸が置換されている融合されたIg-CL鎖を含んでいる本発明のMHC複合体を提供する。置換は隣接するかまたは隣接しなくてもよく、基本的には完全長のCκまたはCλ鎖までが可能である。Ig-CL鎖はまた、一つまたはそれより多い所望のアミノ酸の付加を含んでもよい。
【0047】
前文に述べたように、Ig-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントに融合された本発明のMHC複合体は、所望であれば、可溶性の発現を亢進するべく修飾されたクラスIIβ2鎖も含むことができる。
【0048】
本発明はしたがって、MHC複合体の可溶性の発現を促進し、かつ当該複合体の特異的な結合活性を維持するクラスIIβ2鎖の修飾および/またはIg-CL鎖(または適当なフラグメント)の融合を含むことが可能な、種々のクラスIIMHC複合体を提供する。
【0049】
本発明はまたポリスペシフィックなMHC複合体を特色とする。ポリスペシフックな複合体は一般的にもう一つのsc−MHCクラスIまたはクラスII分子、一つまたはそれより多いリガンド結合分子、および一つまたはそれより多い任意のエフェクター分子を含む。当該複合体はさらに、共有結合によるかまたは非共有結合により連結された一つまたはそれより多い連結分子を含む。各成分の順序は、各成分がその意図された機能を提供する限り重要ではない。
【0050】
さらに明確には、一つの態様においては、ポリスペシフィックなMHC複合体は当該連結分子により連結された多数の鎖を含む。たとえば、一つの鎖は第一の連結分子および任意のエフェクター分子に融合したsc−MHCクラスII分子を含むことができる。当該第一の連結分子は共有結合または非共有結合により第二の連結分子に連結され、それはさらにリガンド結合分子および任意のエフェクター分子に連結されてもよい。第一および第二の連結分子は共有結合または非供給結合(たとえば水素結合)により連結される。
【0051】
本発明のもう一つの態様においては、ポリスペシフィックなMHC複合体は単鎖からなる。たとえば、この鎖はリガンド結合分子および任意のエフェクター分子に共有結合により連結されたsc−MHCクラスII分子を含むことができる。したがって、「ポリスペシフィック」という用語は、潜在的に多数の結合特異性を含んでいる一つのMHC複合体からなる単および複鎖の分子をさす。
【0052】
本文において本発明のポリスペシフィックなMHC複合体に関して用いられている「連結分子」という用語は、共有結合(たとえば、ジスルフィド結合による)かまたは水素結合により非共有結合的に、他のタンパク質またはポリペプチドと特異的に結合しかつ特異的な結合対を形成することができるタンパク質またはポリペプチドをさす。典型的には当該連結分子により特異的に結合された分子は、時に本文においては第二の連結分子をさすが、当該第二の連結分子は前記(第一の)連結分子と同じかまたは異なっている。代表的は連結分子は免疫グロブリン定常鎖(HまたはL)か、またはそれらの適当なフラグメント、ならびに下文にさらに完全に述べられるような高次コイルおよびヘリックス・ターン・ヘリックスモチーフを含む。特に、Ig-CL鎖鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントは一つのタイプの連結分子である。
【0053】
本文において用いられている「エフェクター分子」という用語は、抗体(ポリクローナル、モノクローナル、またはキメラ)と特異的に結合することができるエピトープを含んでいる、本発明のポリスペシフィックなMHC分子をさす。典型的には、当該抗体はモノクローナル抗体であろう。この用語はまた細胞毒素、薬物、放射性核種、あるいは周知のmyc、6xHIS、またはEEタグ等のタンパク質「タグ」を含むことを意味する。代表的なタグは、公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されている。以下の開示からさらに明らかなように、ある場合には連結分子は、本文において提供されたようにエフェクター分子(たとえば、Ig-CL鎖またはフラグメント)であってもよい。
【0054】
ポリスペシフィックな複合体のサブユニットは、時に所望の適当なペプチドリンカーを介して、別のサブユニットに連結されることが可能である。「サブユニット」という用語により、たとえばsc−MHC分子、リガンド結合分子、またはエフェクター分からなるポリスペシフィックなMHC複合体の単位部分が意味される。当該サブユニットは一般的に、意図された用途に合わせて選択される連続した順序で互いに連結される。サブユニット間の亢進されたたわみ性を提供するべく、適当なペプチドリンカーを用いて所望のサブユニットに間隔をあけることができる。代表的なペプチドリンカー配列と、当該ペプチドリンカー配列の機能性を検査するための分析法とは、以下に述べられている。
【0055】
本発明はまた、本発明のMHC複合体をコード化している配列を含んでいる核酸セグメント(RNA、mRNA、cDNA、またはゲノムDNA)に関係する。種々のsc−MHCクラスIおよびクラスII複合体をコード化しているDNAセグメントの取得法は、公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されている。
【0056】
簡単に言えば、興味のsc−MHCクラスIおよびクラスII分子をコード化している核酸を、一般に市販されているMHC鎖配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅を含む種々の供給源から取得することが可能である。本発明によれば、当該核酸セグメントは、完全に可溶性かつ機能性の複合体の発現を促進する、β2クラスII鎖の修飾および/または融合されたIg-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントを含んでもよい。ほとんどの例において当該核酸セグメントは、所望の細胞、典型的には真核または原核細胞においてMHC複合体を発現することができるDNAベクター(すなわち、DNA発現ベクター)に挿入される。当該核酸セグメントは、細胞におけるMHC複合体の発現を増加させるべく、プロモーター、リーダーおよび/または任意のエンハンサー配列などの操作可能に連結された調節要素を含むかまたはそれに融合されることが可能である。別法として、当該核酸セグメントは、もし所望であれば既知の方法にしたがって、無細胞翻訳系における使用のために最適化されてもよい。
【0057】
以下の議論からさらに明らかになるように、いくつかの場合には、核酸セグメントまたはそれを運んでいるDNAベクターは、本発明のMHC複合体の一部のみをコード化することとなる。たとえば、提供されたいくつかのポリスペシフィックなMHC複合体は、一つまたはそれより多いDNAベクターから発現されることが可能な多鎖分子である。一つのDNAベクターによってコード化された発現された単鎖は、もう一つの発現された単鎖と生体外またはインシトゥ(すなわち細胞内)において、複合体を形成するべく結合されることが可能である。たとえば、ポリスペシフィックなMHC複合体は、多数の核酸セグメントまたはそれを運んでいるDNAベクターを適切な細胞に導入し、この複合体を発現させることにより作成することが可能である。ポリスペシフィックなMHC複合体は次に、翻訳、プロセッシング、および集合経路を経て細胞内に集合される。別法として、当該複合体の単鎖が別々に採取され、調整された条件下に、たとえば透析反応によりインヴィトロに結合されてもよい。
【0058】
一般的に、本発明による核酸セグメントは、天然に生じるMHC調整要素の発生を最少化するべく作成される。「調整要素」という用語により、所望のタンパク質の転写、翻訳、および/またはプロセッシングに影響する既知の核酸配列が意味される。ほとんどの例においてタンパク質の発現は、プロモーター、任意のエンハンサー要素、およびリーダー配列を含む核酸セグメントに操作可能に連結された、あらかじめ決定された転写調節要素により駆動されることとなる。本発明の一つの局面によれば、Ig-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントは、当該核酸フラグメントに連結されており、また時には、たとえばmRNAのスプライシングを行なうことが可能な細胞においてMHC複合体が発現される場合には、Ig-CL鎖からのイントロンおよびエクソンを含むこととなる。原核細胞においてMHC複合体を発現することが望ましい場合には、イントロンは除去されることが可能である。下文にさらに完全に議論されるように、種々のIg-CL鎖またはそれらの適当なフラグメントは、可溶性の発現を促進するべくMHC複合体に融合されることが可能である。
【0059】
本発明はまた、完全に可溶性かつ機能性のMHC複合体の相当な量を取得する方法も提供する。概してこの方法は、適切な細胞においてMHC複合体を発現させることと、当該細胞を培養することと、さらに実質的に純粋なMHC複合体を取得するべく、当該複合体をそれらから精製すること(もし所望であれば)を含む。始めの方で特に言及したように、いくつかのポリスペシフィックな複合体の場合には、所望の複合体の産生を促進するべく、インヴィトロまたはインシトゥにおいてMHCの単鎖を結合することが望ましいであろう。この方法は、所望のMHC複合体を、ローラーボトル、スピナー(spinner)フラスコ、組織培養プレート、バイオリアクター、発酵槽を含む種々の実施(implementation)から大量に(すなわち、少なくともミリグラムの量で)発現および精製するべく用いることができる。意義深いことには、本発明の単離ならびに精製法は、提供されたクラスIIβ2鎖の修飾および/またはIg-CL鎖フラグメントの融合によりポジティブに強く影響される。
【0060】
本発明のMHC複合体を単離ならびに精製するための本方法は非常に有効である。たとえば、所望の結合活性または潜在的な多数の結合活性(たとえば、インビトロまたはインヴィヴォにおけるT細胞の免疫活性または所望の免疫細胞への特異的な結合の抑制)を示しているMHC複合体に関しては、当該MHC複合体を発現ならびに精製する方法をもつことは非常に有用である。少なくともミリグラム量の所望のMHC複合体を製造することができる方法をもつことが特に有用であり、たとえば、MHC複合体を医薬用、研究用、家庭用、または商業用の使用に適したキットの成分として作成することが可能である。さらに、構造解析を単純化するためとともに、もし所望であればさらなる精製および/または検査のために利用できる大量のMHC複合体をもつことは有用である。
【0061】
本発明の精製法は一般的に、所望のMHC複合体を、天然にそれに伴う細胞成分から精製するべく調整することができるクロマトグラフによるアプローチを含む。典型的には、このアプローチはMHC複合体のサブユニットの特異的な結合を含む。意義深いことには、本文に開示されたポリスペシフィックなMHC複合体を精製するため、一つまたはそれより多いsc−MHC分子、リガンド結合分子、連結分子、エフェクター分子、および融合されたIg-CL鎖またはIg-CL鎖フラグメントを選択するべく設計されたクロマトグラフによるアプローチを含むいくつかの戦略を用いることができる。
【0062】
本発明はまた、T細胞の発生を誘導するペプチド、ならびにMHCアンタゴニストまたは部分アゴニスト等の、天然に生じるMHC複合体に拮抗することができるペプチドを含む、天然に生じるMHC複合体によって認識されるペプチドを、インヴィトロでスクリーンすることを特色とする。
【0063】
本発明はまた、哺乳類、特にヒトにおける免疫応答を抑制する方法であって、たとえば、sc−MHCクラスIIペプチド融合複合体、装填されたsc−MHCクラスII複合体のポリスペシフィックなクラスIIペプチド融合物、装填されたポリスペシフィックなクラスIIペプチド融合物、複合体、その他の、本発明のMHC複合体の有効量を哺乳類に投与することを含む方法を提供する。本発明の方法は、多発性硬化症、インシュリン依存性糖尿病、またはリュウマチ性関節炎等の自己免疫疾患に苦しんでいるかまたは感受性の哺乳類か、あるいは慢性アレルギーのある患者または臓器または皮膚移植手術等の移植手術を受けている患者のような、望ましくない免疫応答に感受性の哺乳類の治療を含む。
【0064】
ある免疫応答は、一つまたは代替の戦略の組み合わせにより、本発明にしたがって抑制されてもよい。特に、アネルギーまたはT細胞のアポトーシスは、補助刺激シグナルなしに、あるいはほとんどなしに、一つまたはそれより多い有効量の本発明のMHC複合体の投与により誘導されてもよい。典型的には、MHC複合体は完全長のMHC分子の生来の膜貫通ドメインまたはその部分を含まない。
【0065】
また、本発明のMHC複合体をコード化する有効量のDNAセグメント(またはそれを運んでいるベクター)の投与を含む、哺乳類における免疫応答を抑制すする方法も提供される。初めの方で特に言及したように、多数の鎖を含んでいる本発明のポリスペシフィックなMHC複合体をコード化しているDNAセグメントを用いることが望ましい場合には、各々の鎖をコード化している二つまたはそれより多い有効量のDNA配列を投与することはしばしば有用となるであろう。典型的には、当該コード化されたタンパク質の生体内または生体外での同時発現および集合が、ポリスペシフィックなMHC複合体を形成する。ある状況においては、MHC複合体をコード化している一つまたはそれより多いDNA配列を、たとえば、CD80またはCD86等の適当なT細胞刺激因子をコード化している遺伝子と一緒に投与することもまた望ましい。本文に使用されたように、「T細胞同時刺激因子」という用語は、補助刺激性のシグナルを、それによって一つまたはそれより多いMHC融合複合体の存在下にT細胞の増殖を活性化するべく提供することの可能なペプチドをさす。T細胞増殖のかかる活性化は、本文において開示された分析法により測定されることができる。
【0066】
さらに、放射核種(たとえば、125I、32P、または99Tc)または他の検出可能なタグを含むべく修飾されたMHC複合体を含め、本発明のMHC複合体を用いたHLA型判定および生体内での画像診断法を含む診断法が提供される。
【0067】
本発明はまた本文において開示されたMHC複合体の使用により、T細胞等の免疫細胞を検出ならびに精製する方法も含む。それゆえ、MHC複合体に特異的に結合するT細胞などの細胞は、実質的に純粋なT細胞の集団の調製には十分である既知の方法(たとえば、フローサイトメトリー、イムノパニング)にしたがわない細胞から、実質的に分離されることが可能である。かかるT細胞は、たとえば免疫無防備状態の患者の免疫系の再構築、および望ましくない免疫反応と結び付いている提示のペプチド を検出するための生体外のスクリーン等の、いくつかの臨床ならびに研究用の背景において有用である。
発明の詳細な説明
【0068】
前文に議論したように、本発明は完全に可溶性かつ機能性である新規なMHC複合体を提供する。当該MHC複合体は、融合されたIg-CL鎖またはフラグメントおよび/または修飾されたクラスIIβ2鎖を含んでいるsc−MHCクラスIおよびクラスII複合体を含む。Ig-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントをMHC複合体に融合することにより、および/またはクラスIIβ2鎖を修飾することにより、MHC複合体の可溶性の発現を有意に亢進することが可能であることが発見されている。前文に述べたように、本発明のポリスペシフィックなMHC複合体は、もし所望であれば可溶性の発現を促進するべく、修飾されたクラスIIβ2鎖および/またはIg-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントを含むことが可能である。
【0069】
一般に、本発明のMHC複合体の調製は、たとえば、オリゴヌクレオチドプライマーに指示される座位特異的突然変異、ポリメラーゼ増幅連鎖反応(PCR)、プラスミドDNAの調製、制限酵素によるDNAの切断、DNAの連結、mRNAの単離、適当な細胞へのDNAの導入、細胞の培養、および発現されたMHC複合体の単離ならびに精製を含む通常の組換えの工程を含む。全般的に、Sambrook等、Molecular Cloning: A Loboratory Manual.(第2版(1989);Ausubel等、Current Protocols in Molecular Bioloby,ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons)、ニューヨーク(1989)参照のこと。この方法は、空または装填されたMHC複合体、たとえば、空または装填されたポリスペシフィックなMHC複合体、部分的に空かまたは装填されたsc−MHCクラスII分子、および融合された提示のペプチド を含んでいるMHC複合体、を含んでいる本文に開示されたMHC複合体の作成のために適している。融合された提示のペプチド 、ペプチドリンカー、その他を含むsc−MHCペプチド融合複合体の調製に関する以下の議論は、公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されている。全般的にこの議論が、空または装填された複合体を含めた本発明のMHC複合体の作成ならびに使用に適用可能であることが認識されよう。下文から、空または装填されたMHC複合体複合体を調製するためには、融合された提示のペプチド をコード化しているDNA配列は、空または装填された分子をコード化している核酸構築物に含まれないことが理解されよう。
【0070】
所望のMHCタンパク質をコード化しているDNA(すなわち、へテロ二量体MHC分子)は、たとえば以下の実施例1において開示されている細胞系を含むいくつかの供給源のいずれからも取得することができる。MHCタンパク質をコード化しているDNAの他の供給源は、たとえばヒトのリンパ芽球系細胞が知られている。一旦単離されれば、MHCタンパク質をコード化している遺伝子は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはこの技術に周知の他の方法により増幅されることが可能である。MHCタンパク質遺伝子を増幅するための適当なPCRプライマーは、PCR産物に制限部位を加えてもよい。PCR産物はまた、好ましくはリンカー配列、またはかかる配列の連結のための制限酵素部位をコード化している配列を含む。適切なプライマー、PCR条件、および発現ベクターの構築技術は、たとえば以下の実施例ならびに図に開示されている。
【0071】
リンカー配列は、好ましくは提示のペプチド をMHC分子の結合の溝に効果的に配置することができるペプチドをコード化している核酸配列である。本文に用いたように、「提示のペプチド はMHC分子の結合の溝に効果的に配置される」または「T細胞の活性を調節することができるMHC融合複合体」という句、あるいは他の同様な句は、以下に開示される分析法によって測定されるように、T細胞の増殖を誘導するべく、またはT細胞の発生を阻害または不活性化するべく、提示のペプチド 融合複合体がT細胞受容体の活性を調節することが可能であるように配置されることを意味する。一つの代表的は分析法は、T細胞を増殖するべく培養すること、および当該T細胞を本発明のMHC複合体と接触させること、および次いで当該複合体がT細胞のさらなる発生を阻害するかどうかを評価することを含む。
【0072】
一般的に、sc−MHCペプチド融合複合体は、共有結合により連結されたペプチドリンカー配列により隔てられている。たとえば、sc−MHCクラスII分子は一般的に、適当な単鎖リンカー配列を介してMHCクラスIIα1、α2鎖に連結されたMHCクラスIIβ1、β2鎖分子を含む。前文に述べたように、クラスIIβ2鎖はしばしば以下に提供されるように修飾される。単鎖リンカー配列はしたがって、当該連結されたMHC複合体を、活性型、すなわちMHC分子がT細胞の活性を調節することができる形に折りたたまることができるようにする。かかる効果的な単鎖リンカー配列は、経験的に容易に決定される。したがって、たとえばαおよびβ鎖が一つのリンカー配列によって連結している単鎖MHC複合体をコードしているDNA構築物は、クローン化および発現され、さらに当該単鎖MHC複合体は、以下に開示される分析法によって測定されるように、T細胞の増殖を誘導するべく、またはT細胞の発生を阻害するべく、当該複合体がT細胞受容体の活性を調節することができるかどうかを決定するべく検査される。
【0073】
単鎖リンカーは、好ましくはたわみ性(flexibility)を提供するため、グリシン、アラニン、およびセリンなどの小さい側鎖をもつアミノ酸を主として含む。好ましくはリンカー配列の約80または90パーセントまたはそれより多くがグリシン、アラニン、またはセリン残基を、特にグリシンおよびセリン残基を含む。一般に、当該リンカー配列はたわみ性を阻害することも可能なプロリン残基を含まない。sc−MHCクラスII分子を、共有結合により連結されたペプチドと共に含むMHC融合複合体用には、リンカー配列がMHC分子のβ鎖に適切に連結されているが、もし所望であれば当該リンカーペプチド配列がMHC分子のα鎖に結合されることも可能である。代表的なペプチドリンカー配列は、約7ないし20アミノ酸、好ましくは約8ないし16アミノ酸、さらに好ましくは約8ないし12アミノ酸を含む。リンカー配列は一般にたわみ性があり、提示のペプチド を望ましくない単一の構造に保持しないようにする。提示のペプチド をMHCクラスIIβ2鎖分子に共有結合により連結するためには、リンカーのアミノ酸配列はMHCクラスIIβ鎖のN末端残基から提示のペプチド のC末端残基へ、約30オングストロームにわたることが可能である。たとえば公表された該PCT出願の第1Aおよび1B図参照のこと。β+ペプチド鎖がα鎖と共に発現される場合、連結された提示のペプチド は、公開された該PCT出願の第1C図に全体的に描かれているような、機能性のMHC分子に帰着するべく、α1およびβ1結合の溝の中に折りたたまれるはずである。一つの適切なリンカー配列は、たとえばMHCクラスIIタンパク質のβ1ドメインの最初のアミノ酸に連結されたASGGGGSGGG(SEQ ID NO:35)(すなわち、Ala Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly)である。抗体の可変領域を一緒に結合するべく首尾よく用いることができる多数のたわみ性のあるリンカーのデザインを含め、異なるリンカー配列を用いることも可能である(すなわち、M. Whitlow等、Methods : A Companion to Methods in Enzymology, 2 : 97 - 105(1991))。単鎖リンカー配列の適切な大きさおよび配列もまた、通常のコンピューター技術により決定されることが可能である。
【0074】
他の適切なリンカー配列は経験的に同定されてもよい。たとえば、リンカー配列を含むMHC融合複合体をコードしているDNA構築物は、クローン化され発現されることが可能であり、さらに当該融合複合体は、以下に開示される分析法によって測定されるように、T細胞の増殖を誘導するべく、またはT細胞の発生を阻害するべく、T細胞受容体の活性を調節することができるかどうかを決定するべく検査される。リンカー配列の適切な大きさおよび配列もまた、MHC複合体の予測される大きさならびに形状に基づき、通常のコンピューターモデリング技術によって決定されることが可能である。
【0075】
ほとんどの例では、リンカー配列およびMHCタンパク質をコードしている融合された核酸配列を含んでいるDNA構築物には制限部位が設計されており、興味の提示のペプチド (たとえば抗原性の、あるいはアンタゴニストの提示のペプチド)をコード化している基本的にはいかなるヌクレオチド配列も、当該構築物に結合されるようにする。たとえば、以下の実施例において例示された一つの系では、種々の提示のペプチド のMHC分子のβ鎖遺伝子への挿入を促進するべく、適切な制限部位(たとえば、AflIIおよびNheI部位)が、リーダー配列の最後とリンカーの最初との間に含まれている。たとえば、公開された該PCT出願の第3図、ならびに以下の実施例を参照のこと。リーダー配列の代表的なヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、公表されたPCT出願番号W096/04314の第18Aおよび18B図に描かれている。また、以下の実施例および公表されたPCT出願番号W097/28191を参照のこと。
【0076】
MHC融合複合体の提示のペプチド 成分は、前文に議論したようにT細胞の活性を調節することができるはずである。一つのクラスIIMHC分子を含むMHC融合複合体用には、当該提示のペプチド は通常約4ないし35アミノ酸、さらに好ましくは約6ないし約30アミノ酸、またさらに好ましくは約8ないし約25アミノ酸を有する。クラスIMHC分子を含むMHC融合複合体用には、好ましくは提示のペプチド は約4ないし25アミノ酸、さらに好ましくは約6ないし約20アミノ酸、なおさらに好ましくは約6ないし約15アミノ酸、より一層好ましくは約8ないし約10アミノ酸を有する。クラスIおよびクラスIIMHC分子は、異なるペプチド配列に向けた優先的な結合を示す。最近、MHCアレル特異なペプチドモチーフを定義するアンカー残基が、クラスII結合ペプチドにおいて同定された(F. Sinigaglia等、Curr. Opin. in Immun., 6: 52 - 56(1994))。たとえば、ヒトのクラスIIHLA-DRI分子においては、芳香族アミノ酸(たとえば、Tyr、Phe、またはTrp)が通常当該ペプチドのアミノ末端付近(位置1)に、疎水性残基(たとえば、MetまたはLeu)が位置4に、また小さいアミノ酸(たとえば、AlaまたはGly)が位置6に見い出される。他のMHC分子は異なるモチーフを有しており、たとえばクラスII分子については、Sinigaglia、前出参照;クラスI分子については(K. Parker等、J. Immunol., 152 : 163 - 175(1994)参照)。好ましい提示のペプチド は、最適なMHCの結合を促進するため、所望のMHC結合モチーフを含む。したがって、たとえばヒトのクラスIIHLA-DRI分子においては、芳香族アミノ酸(たとえば、Tyr、Phe、またはTrp)は好ましくは提示のペプチド のアミノ末端付近(位置1)に、疎水性残基(たとえば、MetまたはLeu)が提示のペプチド の位置4に、また小さいアミノ酸(たとえば、AlaまたはGly)が提示のペプチド の位置6に位置する。本発明の免疫抑制法(たとえば、自己免疫病またはアレルギーを治療するため、あるいは望ましくないT細胞の応答を抑制するための)については、当該提示のペプチド は好ましくは、標的とされた疾患においてT細胞の活性化の原因となることが知られているかまたは予測されるペプチドと同じかまたは相応するもの(たとえば、少なくとも約80または90%より多くが共有の配列)であってよい。したがって、たとえばMPBペプチド80-105は、多発性硬化症の患者から単離されたMPBに特異的なT細胞の30%より多くによって認識され(E. Meinl等、J. Clin. Invest., 92 : 2633 - 2643(1993)参照)、また本文に開示されたような免疫抑制のための適用に用いられるMHC融合複合体において、提示のペプチド として適するものとなるはずである。以下の実施例3を参照のこと。さらに、特定の提示のペプチド 、すなわち抗原性かまたはアンタゴニスト、または部分アゴニストの活性は、下文に開示されたインヴィヴォでの分析法を含め、本文に開示された方法により経験的に容易に測定されることができる。
【0077】
前文ならびに前記PCT出願番号W096/04314およびWO97/28191において議論したように、単鎖のMHC融合複合体が好ましい、すなわち、αおよびβ鎖とペプチドとが非共有結合による相互作用を通して会合しているネイティブなへテロ三量体のクラスII/ペプチド複合体等の多鎖の凝集物であるよりも、単一のポリペプチドからなる融合タンパク質が好ましい。単鎖MHCクラスII複合体の場合には、αおよびβ鎖サブユニットは単鎖融合タンパク質として、提示のペプチド と共に、好ましくは鎖融合タンパク質のβ鎖に連結される。代表的なsc−MHCクラスII融合複合体は図1、図17A及び図17Bに描かれている。このましくは、リンカー配列はαおよびβ鎖を連結するべく用いられる。MHC分子のドメインを連結するべく用いられるかかるリンカー配列は、本文においては時に「単鎖リンカー配列」と呼ばれ、それにより前文に議論した、提示のペプチド とMHC分子との間に挿入されかつ共有結合により連結しているリンカー配列から区別される。かかるリンカー配列の実例は以下の図1に示されている。
【0078】
好ましくは単鎖MHCクラスII複合体は、β2ドメインのカルボキシル末端とα1ドメインのアミノ末端との間に連結されるが、他の位置を介して多数のMHC複合体ドメインが連結されてもよい。
【0079】
本文に提供された当該複合体のMHC分子は、アミノ酸配列において、天然に生じたMHC分子、たとえばヒト(クラスIおよびクラスII)、マウス、または他の齧歯類、または他の哺乳類のMHC分子とぴったり一致する。好ましくは、当該融合複合体のMHC分子の少なくとも約70%のアミノ酸は、前文に述べたような天然に生じたMHC分子のアミノ酸配列と同じとなり、さらに好ましくは、融合複合体のMHC分子の少なくとも約90%のアミノ酸が天然に生じたMHC分子のアミノ酸配列と同じとなり、なおさらに好ましくは、融合複合体のMHC分子の少なくとも約98%のアミノ酸が天然に生じたMHC分子のアミノ酸配列と同じとなる。
【0080】
本発明の空のMHC複合体、特に空の単鎖MHC分子は、提示のペプチド が当該分子に共有結合によって連結されていないこと以外は、前文に述べた適当な方法のいずれかによって作成されることが可能である。たとえばPCT出願番号WO97/28191および以下の実施例1ないし3に開示されたように、OVA提示のペプチド をコード化しているオリゴヌクレオチドを、リンカーβ1-β2遺伝子フラグメントに接合する工程は省略されることが可能である。もう一つの例においては、提示のペプチド は本発明の、すでに共有結合により連結された提示のペプチド をもつMHC分子から、標準的な組換えDNAの操作を用いて除外されることが可能である。たとえば、sc-IAd/OVA提示のペプチド をコード化しているDNAは、適当な制限酵素(たとえば、AflIIおよびNheI)を用いて除去されることが可能である。
【0081】
前文に議論したように、発明者らはクラスIIβ2鎖を修飾することにより、種々のsc−MHC複合体の可溶性の発現を促進することができることを発見した。特に、発明者らはβ2クラスII鎖がMHC複合体の特異的な結合に必ずしも必要ないことを見い出した。初めの方で特に言及したように、本発明にしたがって修飾されたクラスIIβ2鎖は、DNA配列が知られているIA、IE、DR、DQ、またはDP鎖のいずれかでよい。クラスIIβ2鎖用のDNA配列は、種々の供給源から取得することができる、たとえば、Kabat, E. A. 等、(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest(第5版)アメリカ合衆国公衆衛生局、国立衛生研究所;この開示は参考文献に取り入れられている。
【0082】
特に、ヒトクラスIIβ1およびβ2鎖ドメインは、典型的には位置1ないし94および位置95ないし188のアミノ酸に各々相当しており、位置1は成熟したクラスIIβ鎖のN末端アミノ酸に相当する。当該位置は、特有のクラスII分子に依存して1ないし5アミノ酸の間で変化してもよい。代表的なクラスIIβ2鎖の欠失は、β2ドメインの始まりの位置95からβ2ドメインの終わりの位置188までのアミノ酸の欠失を含む。以下の実施例3参照のこと。別法として、一つまたはそれより多い隣接するかまたは隣接しないアミノ酸が、位置95と188との間から、クラスIIβ2鎖の完全長まで欠失されることが可能である。
【0083】
さらに明確には、クラスIIβ2IAd鎖は、IAd/OVA323-229MHC分子のヌクレオチド452ないし734に及ぶDNA配列によりコード化されている(図1およびSEQ ID NO:24参照)。IAd/OVA
β2鎖は、アミノ酸150ないし243に及ぶ(SEQ ID NO:25)。クラスIIIAdまたはDRβ2鎖を含んでいる単鎖MHC複合体分子の作成に関する開示については、以下の実施例1および3も参照のこと。
【0084】
前文に特に言及したように、本発明の一つの態様においては、MHCクラスII複合体は、欠失されたβ2クラスII鎖の欠失をもって提供される。β2クラスII鎖は、少なくとも1アミノ酸、好ましくは5、10、25、50、60、70、80、または90アミノ酸に及び、またさらに好ましくはクラスIIβ2鎖の基本的にはすべてのアミノ酸に及ぶことが可能である。もう一つの態様においては、MHC複合体は、基本的にクラスIIβ2鎖全体の欠失までの、一つまたはそれより多い隣接していないアミノ酸の欠失を含んでいる、修飾されたβ2クラスII鎖を含むことができる。
【0085】
好ましい隣接していない欠失は、少なくとも2アミノ酸、好ましくは少なくとも5ないし10、またはクラスIIβ2鎖のさらに多くのアミノ酸に及ぶことが可能である。
【0086】
本発明のもう一つの例示となる態様においては、MHCクラスII複合体は、β2クラスII鎖の修飾を含むことが可能であり、その中で一つまたはそれより多いアミノ酸が他のアミノ酸で置換される。クラスIIβ2鎖の好ましい置換は、保存性または非保存性でよく、その中で当該鎖の少なくとも一つのアミノ酸、好ましくは当該鎖の少なくとも2、5、10、25、50、60、70、80、90、またはそれより多いアミノ酸が保存性または非保存性のアミノ酸で置換される。それゆえ、フェニルアラニンで置換されたチロシンアミノ酸は保存性のアミノ酸置換の実例となり、一方アラニンで置き換えられたアルギニンは非保存性のアミノ酸置換を代表することとなる。好ましくは、保存性または非保存性のアミノ酸置換は、親水性または中性のアミノ酸である。特に、β2クラスII鎖における一つまたはそれより多いシステイン残基は、非システイン残基により置換され、したがって、架橋結合のためのポテンシャルが実質的に減じられるかまたは除去される。好ましくは、少なくとも一つの、またさらに好ましくはすべてのシステイン残基は、実質的に非システイン残基で置換される。システイン残基がセリンによって置換されている代表的なクラスIIβ2鎖を開示している、以下の実施例3を参照のこと。
【0087】
クラスIIβ2鎖の他の修飾は、本発明の範囲内にある。たとえば、クラスIIβ2鎖は、クラスIIβ2ドメインの位置95と最後の位置188との間に、一つまたはそれより多いアミノ酸を添加するべく修飾されることが可能である。さらに詳細には、β2鎖は一つまたはそれより多くの、好ましくは中性または親水性の残基の付加を含むべく修飾されることが可能である。好ましくは、当該修飾されたクラスIIβ2鎖は、少なくとも一つの中性または親水性のアミノ酸、さらに好ましくは、2、5、10、15、または20のアミノ酸を、約25ないし30アミノ酸まで含むことができる。この態様においては、付加されるアミノ酸残基の数を、クラスIIβ2鎖の長さ程度に抑えることが通常は望ましいであろう。したがって、ほとんどの例においては、当該鎖に付加された各々のアミノ酸について等しいかまたははほぼ等しい数のクラスIIβ2鎖残基が除去されることが望ましい。ある場合には、リンカー配列および/またはβ1鎖配列等のβ2クラスII鎖に隣接する付加的な配列を除去することが、提示のペプチド の結合とMHC分子との間の特異的な結合に否定的に強く影響することなく、可溶性をさらに改善することができる。かかる構築物は、本文に述べられた方法にしたがって、容易に作成され、検査されることが可能である。
【0088】
本発明によりクラスIIβ2鎖の修飾は、クラスIIβ2鎖をコード化しているあらかじめ増幅されたDNA配列からの一つまたはそれより多いアミノ酸をコードしている核酸を切除するための制限酵素またはPCRプライマーの使用を含め、種々の標準的な組換え技術により達成されることができる。かかる欠失の好ましい作成法は、突然変異誘発性のDNAオリゴヌクレオチドプライマーを用いたオリゴヌクレオチドプライマーに指示される部位特異的突然変異誘発および、あらかじめ決定されたβ2鎖の部位を増幅するためのPCRとを含む。
【0089】
前文に議論したように、本発明のMHC複合体はたとえば、当該複合体のC末端に連結された、共有結合により連結されたIg-CL鎖を含むことができる。一つの態様においては、MHC複合体は融合された哺乳類のIg-CL鎖、好ましくは完全長のマウスまたはヒトIg-CL鎖(CκまたはCλ)を含む。マウスまたはヒトIg-CL鎖の核酸ならびにタンパク質配列が開示されている。たとえば、Fundamental Immunology、(1993)第3版、W. Paul編、Rsen. 出版社、ニューヨーク;およびKabat, E. A.前出参照。
【0090】
Ig-CL鎖という用語により、一つまたはそれより多いアミノ酸の置換または付加により、開示された完全長の配列から変化した免疫グロブリンL鎖定常領域もまた意味される。開示されたIg-CL鎖に対し、一つのアミノ酸がその鎖の一端または両端に、たとえば通常の組換え法により付加されることが可能である。さらに、組換え技術を用いて、当該鎖の一つまたは一つより多い明示されたアミノ酸を、もし所望であれば好ましくは中性または親水性のアミノ酸により置換してもよい。この置換は保存性でよく、あるいは所望であれば非保存性でもよい。一般に、アミノ酸の付加は約1ないし30の中性または親水性のアミノ酸、好ましくは約2、5、10、20、または25の間のかかるアミノ酸を含むこととなる。Ig-CL鎖において別のアミノ酸に置換されるアミノ酸は、典型的には保存性または非保存性のアミノ酸の置換となるであろう。Ig-CL鎖フラグメントについて下文に指摘されるように、融合されたIg-CL鎖を含んでいる本発明のMHC分子は完全に可溶性かつ機能性となるであろう。
【0091】
いくつかの例においては、マウスまたはヒトCκ鎖フラグメント等の適当なIg-CL鎖フラグメントを、本文に開示されたMHC複合体に融合することが望ましいだろう。「適当なIg-CL鎖フラグメント」という句によって、所望のMHC複合体に融合された場合に、下文に定義されるような完全に可溶性かつ機能性の複合体を形成する、完全長のIg-CLλまたはκ配列の部分が意味される。当該Ig-CL鎖フラグメント(CκおよびCλ両型)は、標準的な組換え法により作成されてよく、隣接性または非隣接性の完全長の配列の欠失でもよい。たとえば、適当なIg-CL鎖フラグメントは、興味のマウスまたはヒトCκまたはCλ鎖フラグメントのPCR増幅と、それに続くPCR産物の、MHC複合体をコード化しているDNAセグメントまたはベクターへの連結とにより作成されてよい。当該PCR産物は、制限酵素切断部位を含むべく所望のように操作されることが可能である。Ig-CL鎖フラグメントを作成するための特に好ましい方法は、突然変異誘発性DNAプライマーと、あらかじめ決定されたβ2鎖部位を増幅するためのPCRとを用いたオリゴヌクレオチドに指示される部位特異的突然変異誘発である。一般的に、適当なマウスまたはヒトのCκ鎖フラグメントは約80から130までの間のアミノ酸、好ましくは約90から120までの間のアミノ酸、さらに好ましくは約100から110までの間のアミノ酸の長さがある。PCR増幅に適したマウスまたはヒトのCκ鎖のDNAを含んでいる細胞は、この分野では周知である。以下の実施例を参照のこと。
【0092】
前文に議論したクラスIIβ2鎖の修飾、Ig-CL鎖、およびIg-CL鎖フラグメントの融合は、特異的にリガンドを結合するための、本発明のMHC複合体の能力に有意な強い影響を与えない。すなわち、クラスIIβ2鎖を修飾することおよび/またはIg-CL鎖またはIg-CL鎖フラグメントをMHC複合体に融合することにより、MHC複合体による特異的な結合は、完全長のクラスIIβ2鎖を含みかつ融合されたIg-CL鎖またはフラグメントを欠いているsc−MHC複合体などの適当な対照に比較した場合、約30%を越えてまでは減じられず、好ましくは10%を越えず、さらに好ましくは5%を越えず、あるいはそれより少ない。代表的な結合分析法は以下の実施例に開示されており、標準的なウェスタン法ならびにT細胞刺激分析法を含む。
【0093】
前文に述べたように、本発明のMHC複合体は完全に可溶性かつ機能性である。「完全に機能性」という用語または類似した用語により、当該融合されたタンパク質が、クラスIIβ2鎖の修飾および/または融合されたIg-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントの存在下に、特異的にリガンドを結合することが意味される。かかる特異的な結合を検出するための分析法は、本文に開示されている。
【0094】
「完全に可溶性」という用語または類似した用語により、当該融合されたタンパク質が、低い遠心力G(たとえば、標準的な遠心分離において毎分約30,000回転より低い)の下で水溶性緩衝液、たとえば細胞培地から容易に沈降されないことが意味される。さらに、もし融合されたタンパク質が、低濃度の陰イオンまたは非イオン界面活性剤の存在下または非存在下に、約5ないし37℃より高い温度において、また中性またはそれに近いpHにおいて、水溶液中に残っていれば、MHC複合体は可溶性である。このような条件下では、可溶性のタンパク質はしばしば低い沈降価、たとえば約10ないし50より小さいスベドベリ単位を有する。本文において言及された水溶液は、典型的にはpHを、約5ないし9の範囲内に、またはイオン強度を約2mMと500mMの間の範囲内に落ち着かせるための緩衝化合物を有する。時にはプロテアーゼインヒビターまたは穏やかな非イオン界面活性剤が添加される。さらに、もし所望であれば、ウシ血清アルブミン(BSA)等の担体タンパク質が数mg/mlまで添加されてもよい。代表的な水溶性緩衝液は、標準的はリン酸緩衝化生理食塩水、トリス緩衝化生理食塩水、または他の周知の緩衝液および細胞培地製剤を含む。
本発明はまた単鎖および多鎖のポリスペシフィックなMHCクラスIおよびクラスII複合体に関する。当該多鎖のポリスペシフィックな複合体は以下の一般式(I):
【0095】
【化3】
【0096】
(式中、
a) Aは一つまたはそれより多いsc−MHCクラスIまたはクラスII分子であり、
b) B1、B2は各々無関係に一つまたはそれより多い同じかまたは異なる連結分子であり、
c) C1、C2は各々無関係に一つまたはそれより多い多い同じかまたは異なるエフェクター分子、あるいは-Hであり;さらに
d) Dは上記のように定義されたAと同じかまたは異なる一つまたはそれより多いsc−MHCクラスIまたはクラスII分子であるか、またはDは一つまたはそれより多いリガンド結合分子である)
によって表される。
【0097】
さらに、以下の一般式:A−B1−C1、B1−A−C1、およびA−C1−B1
(式中、A、B1、C1は、当該ポリスペシフィックなクラスIまたはクラスII複合体がA−C1−B1で表される時、C1は−Hではないと仮定されるなら、上記のように定義される)で表される単鎖のポリスペシフィックなMHCクラスIまたはクラスII複合体が提供される。
【0098】
前文に提供された式の各々について、一本線は共有結合(たとえば、ペプチド結合)を表すのに対し、二本線は一つまたはそれより多い共有結合、たとえば、免疫グロブリンH鎖を連結しているようなジスルフィド結合を表す;または当該二本線は水素結合を表す。括弧は、その括弧に入れられた分子(すなわち、サブユニット)の連続した配置における可動性を示す。すなわち、当該サブユニットの順番は、各々のサブユニットがその意図された機能を果たす限り重要ではない。
【0099】
前文において特に言及したように、ポリスペシフィックなMHC複合体を代表して示された各々の式において、サブユニットA、B1、B2、C1、C2、およびDは、それぞれ無関係に一つまたは複数の分子を表す。当該サブユニットが複数の分子を表している場合、各分子は典型的には同じ型の分子に結合されることなる(たとえば、別のsc−MHCクラスII分子に組換えにより結合されたsc−MHCクラスII分子)。さらに、かかる連結された分子の数は、一般的に約2ないし10、好ましくは約2ないし5の間であり、さらに好ましくはかかる分子2個であり、また最も好ましくはかかる分子1個である。sc−MHCクラスII分子は各々無関係に、共有結合により連結された提示のペプチド を含むことができ、あるいははその代りにsc−MHCクラスII分子は空であって本文に述べた方法により、適当な提示のペプチド が装填されることが可能である。各サブユニットまたは、サブユニットを含んでいる複数の分子は、所望のようにたわみ性を亢進するべく、適当なペプチドリンカーによって間隔を置かれてもよい。
【0100】
本発明によれば、クラスIIβ2鎖を含んでいるこれらのポリスペシフィックなMHC複合体の、β2クラスII鎖を修飾することがしばしば望ましくなるだろう。別法として、あるいは付加的に、Ig-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントを、当該ポリスペシフィックなMHC複合体に融合してもよい。たとえば、提供されたポリスペシフィックなMHC複合体に関しては、上記の式中のB1またはB2は、各々Ig-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメント、たとえば、マウスまたはヒトのCκ鎖フラグメント、を表すことができる。この態様においては、多鎖のポリスペシフィックなMHC分子は、CH 1 または適当なそのフラグメント等の、適当なH鎖定常ドメインを含んでよく、当該複合体が特異的な結合対を形成することができるようにする。
【0101】
本発明のポリスペシフィックなMHC複合体は、全体または部分的に免疫グロブリンから由来した、一つまたはそれより多い連結分子を含むことができる。当該複合体が一つより多い連結分子を含む場合(たとえば、多鎖のポリスペシフィックな分子)当該連結分子は同じかまたは異なるクラス(IgG、IgA、IgM、IgD、またはIgEクラス)でよい。したがって、キメラ状のポリスペシフィックなMHC複合体は本発明の範囲内にある。たとえば、連結分子は免疫グロブリンL鎖(κまたはλ型)でよく、あるいは連結分子は前文に示したようなH鎖定常領域またはフラグメントでもよい。代表的な連結分子対はしたがって、CL(κまたはλ型)、CH1;CH2CH2;またはCH3CH3鎖;または、本文に述べた分析法によって測定されるような特異的な結合対を形成することの可能なそれらの適当なフラグメントを含む。他の適当な連結分子の例は、特異的な結合対を形成することの可能なヘリックス・ターン・ヘリックスおよび高次コイルのタンパク質結合モチーフを含む。
【0102】
当該免疫グロブリン連結分子は、動物(たとえば、マウスまたはラット等の齧歯類)か、またはヒト由来でよく、あるいはキメラまたは人化されてもよい(たとえば、Morrison等、PNAS 81, 6851 (1984);Jones等、Nature 321, 522 (1986)参照のこと)。代表的な連結分子は、以下に開示されるような抗イディオタイプ抗体、ならびに、たとえば、リンスコッツ・ディレクトリー(Linscott’s Directory)(カリフォルニア州、94941、ミル・バリ(Mill Valley)、40グレン・ドライブ)に開示されたような、またアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)メリーランド州、20852、ロックビル、12301 パークローン・ドライブによる、市販の抗イディオタイプ抗体により、特異的に結合することができるものを含む。
【0103】
本発明のポリスペシフィックなMHC複合体の代表的な例は、図24Aに示した二重特異性複合体である。この態様においては、二重特異性MHC複合体は、二つのsc−MHCクラスIIペプチド複合体と、特異的な結合対を形成する二つのIg-CL鎖連結分子とを含む。当該二つのsc−MHCクラスIIペプチド複合体は、同じかまたは異なってもよいが、ある例では当該二重特異性MHC複合体の結合強度を亢進するため、それらは同一であることが好ましい。
【0104】
もう一つの代表的な例が図24Bに示されている。この態様においては、当該二重特異性複合体はsc−MHCクラスII複合体と、sc-Fv抗体(しばしば「単鎖抗体」と呼ばれる)を含む。当該二重特異性複合体はさらに、Ig-CL鎖および、特異的な結合対を形成するIgGCH1連結分子を含む。sc−MHCクラスIIペプチド複合体およびsc-Fv抗体は、同じかまたは異なる分子、たとえば、T細胞受容体またはT細胞上の他の分子と結合することができる。
【0105】
本発明による二重特異性複合体は、一つまたはいくつかのリガンド結合分子を含むことができる。当該リガンド結合分子は、図24Bに示されているような単鎖抗体でよく、またはそのフラグメントか、あるいは抗原を特異的に結合することができる免疫グロブリン可変領域(たとえばFv)でもよい。かかる抗原結合性免疫グロブリンフラグメントまたは可変領域は周知である。たとえば、Brookhaven Protein Data Bank (Brookhaven Protein Data Base,ブルックヘイブン・ナショナル・ラボラトリー、化学部、アプトン、ニューショーク(1973);Kabat等、前出、に開示されたタンパク質配列を参照のこと。
【0106】
本発明のポリスペシフィックな複合体に包含するための単鎖抗体は、いくつかの周知の方法により作成することができる。一般的には、Pastan, IおよびFitzgerald D., (1991) Science 254 : 1173;Webber等、Molecular Immunol. (1995), 32 : 249;および、単鎖抗体の作成ならびに使用に関する開示については、公開されたPCT出願番号WO96/05228およびWO97/28191参照のこと。代表的な単鎖抗体は、糖タンパク質およびリポタンパク質等の細胞表面の標的を特異的に結合することができるものである。特定の糖タンパク質は、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40、CD45、CTLA4、およびFasを含むがこれに制限されない。これらの分子を結合する単鎖抗体の産生ならびに特徴づけに関する開示については、Gilliland L. K.等、(1996)Tissue Antigens 47 : 1参照のこと。
【0107】
他の例示となる態様においては、上記の式Iに示したようなリガンド結合分子Dは、受容体リガンドであることが可能であり、当該リガンドは当該複合体を細胞受容体の結合パートナーへつなぐことができる。代表的な受容体リガンドはFasLを含む。
【0108】
融合された単鎖抗体を含んでいるポリスペシフィックなMHC複合体を作成するための別法としては、ある場合には所望の抗体(またはその抗原結合フラグメント)、たとえば、本発明のMHC複合体に対するモノクローナル抗体を結合することが有用となるであろう。かかるアプローチは、たとえば、所望の抗体の可変領域をコード化しているDNA配列が未知である場合には有用となる可能性がある。典型的には、この結合はmeans G.E.およびFeeney, R. E.(1974)Cemical Modification of Proteins,ホウルデン・デイ(Holden-Day)に全般的に述べられているような標準的なタンパク質結合反応を含む。またS.S. Wong(1991)Chemistry of Protein Conjugation and Crosslinking, CRC出版も参照のこと。代表的なモノクローナル抗体は、CD28、CTLA4、またはFASを特異的に結合するものを含む。
【0109】
先に述べたように、本発明はまた非免疫グロブリン連結分子を含むポリスペシフィックなMHC複合体を特徴とする。たとえば、第一および第二の連結分子はタンパク質(またはポリペプチド)でよく、それはたとえば、ヘリックス・ターン・ヘリックスまたはロイシンジッパーモチーフ等のタンパク質-タンパク質結合モチーフを含む(または、モチーフからなる)。このような結合モチーフの多くの例が記述されている(たとえば、Horberg等、(1993)Science262 : 1401;Kamtekar等、(1993)Science 262 : 1680;Harris等、J. Mol. Biol.(1996)236 : 1356参照)。かかるタンパク質-タンパク質結合モチーフは、一般に特異的な結合対を形成し、たとえば、fos、jun、その他のような、たとえば転写因子中にしばしば見られる。以下の実施例14は好ましい非免疫グロブリン連結分子を開示する。
【0110】
さらに、本発明のポリスペシフィックなMHC複合体は、いくつかの周知な方法において、意図された使用に合わせるべく修飾されることが可能であることが理解されよう。たとえば、当該複合体は既知の方法にしたがってジスルフィドにより安定化されることが可能である(たとえば、公表されたPCT出願番号WO/29350参照)。
【0111】
本発明のMHC分子の分子量は、当該分子が可溶性かあるいは完全長(膜結合を含んでいる)か、および/またはIg-CL鎖または適当なフラグメントがMHC分子への融合のために選択されるかどうか、を含めたいくつかのパラメーターに依存して変わることとなる。可溶性のMHCクラスII融合複合体は、一般的に約45kDaより大きい分子量をもつこととなり、また膜貫通および細胞質ドメインのない成熟したαおよびβ鎖は、各々約20kDaより大きく、さらに典型的には約21と約26kDaの間の分子量をもつこととなる。典型的には、膜貫通および細胞質ドメインのない成熟した単鎖MHCクラスII分子は、約48ないし約50kDaの分子量を有することとなる。完全長の(膜に結合した)分子については、成熟したαおよびβ鎖は一般に約25kDaより大きく、好ましくは約26と約30kDaの間の分子量をもつこととなる。典型的には、一つの(αまたはβ鎖に連結された)膜貫通または膜アンカードメインをもつ成熟した単鎖MHCクラスII融合分子は、約49kDaより大きく、好ましくは約50と約52kDaの間の分子量をもつであろう。前文に述べたすべての分子量は、SDS−PAGEゲル電気泳動により得られる。
【0112】
多価のsc−MHC複合体は、多くの適用にとって望ましい。MHC抗原ペプチド複合体の結合価は、当該複合体のT細胞受容体に対する効果に影響する。たとえば、3DT52.5T細胞ハイブリドーマの活性化は、多価にされたMHC抗原分子を必要とする。一価の、可溶性MHC複合体は、このT細胞を活性化することはできない(J. McClusky等、J. Immumology, 141 : 1451 - 1455(1988))。望ましい多価のMHC複合体は、免疫グロブリン、たとえば、IgG、IgM、またはFab’2に連結されたものを含む。化学的に架橋結合されたMHC融合複合体(たとえばデンドリマーに架橋結合されている)もまた適切な多価の種類である。たとえば、MHC複合体は一般的にCysまたはHis等の化学的に反応性のある側鎖をもつアミノ酸残基をコード化している配列を含むことにより、修飾されることが可能である。化学的に反応性のある側鎖をもつかかるアミノ酸は、MHC融合複合体の様々な位置に、好ましくは当該提示のペプチド および当該MHC融合複合体の結合ドメインから遠位に配置されてよい。たとえば、当該提示のペプチド から遠位にあるMHC分子のβ鎖のC末端は、かかる反応性のアミノ酸を適切に含んでよい。適切な側鎖を用いて、多価のMHC複合体を生じるべく、二つまたはそれより多いMHC複合体を適切なデンドリマー粒子に化学的に連結することが可能である。デンドリマーは合成化学ポリマーであって、多数の異なる官能基のいずれか一つをその表面にもつことができる[D. Tomalia, Aldrichimica Acta, 26 : 91 : 101(1993)]。本発明にしたがって用いるための代表的なデンドリマーは、たとえばE9スターバースト(starburst)ポリアミンデンドリマーおよびE9コンバースト(comburst)ポリアミンデンドリマーを含むが、それらはシステイン残基を連結することができる。
【0113】
本発明のMHC複合体をコード化しているDNAセグメントは、いくつかの組換え技術により、適当なDNAベクターに挿入されることが可能である。融合された提示のペプチド を含んでいるそれらの複合体用には、当該提示のペプチド をコードしているDNAを、天然の供給源からDNAを単離することにより、あるいは既知の合成法、たとえばリン酸トリエステル法により、取得することができる。たとえば、Oligonucleotide Synthesis, IRL出版(M. Gait等、1984)参照。合成オリゴヌクレオチドもまた市販の自動化されたオリゴヌクレオチド合成装置を用いて作成されてよい。MHC複合体をコードしているヌクレオチド配列は、提示のペプチド をコードしているDNA配列に直接連結されてよく、あるいはさらに典型的には、前文に議論したようなリンカー配列をコードしているDNA配列が、当該MHC分子をコードしている配列と当該提示のペプチド をコードしている配列との間に置かれ、かつ適当なリガーゼを用いて連結されてもよい。
【0114】
他のヌクレオチド配列もまた当該DNAセグメントに含まれることが可能である。たとえば、当該MHC複合体をコードしている配列の発現を調節するプロモーター配列か、またはMHC複合体を細胞表面または細胞培地に向けるリーダー配列が、当該構築物に含まれるか、あるいは当該構築物が挿入される発現ベクターに存在してもよい。代表的なプロモーターは、免疫グロブリンまたは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター等のウイルスプロモーターを含む。以下の実施例を参照のこと。強力な翻訳開始配列もまた、翻訳開始の効率を亢進するべく当該構築物に含まれることができる。好ましい開始配列は、コザックコンセンサス配列(CCACCATG)(SEQ ID NO:1)である。
【0115】
好ましくは、DNA構築物に含まれるリーダー配列は、効果的に配置された制限部位を含み、もし所望であれば、興味の提示のペプチド をコード化しているオリゴヌクレオチドを当該MHC複合体に結合することが可能である。都合のよいことには、当該制限部位は、本文において時に連結配列と呼ばれる、たとえば約2ないし10コドン長の、リーダー配列の3-末端に取り込まれることが可能であり、すなわち提示のペプチド のコード領域の前に配置される。代表的な制限部位はAflII部位であるが、他の切断部位もまた提示のペプチド のコード領域の前に取り込まれることが可能である。前文に議論したように、かかる制限部位を、典型的にはリンカーをコードしている配列の初めに配置された第二の制限部位と組み合わせて使用することは、MHC複合体用のDNA構築物への、広く多種類の提示のペプチド をコードしている配列の、迅速かつ簡単な挿入を可能にする。代表的なリーダー配列は、強力な翻訳開始部位と、さらにそれらのmRNAの3’-末端にキャップ部位を含む。たとえば、リーダー配列はクラスIMHC分子のα1ドメインに結合されてよく、あるいはリーダー配列はクラスIIMHC分子のβ1ドメインに結合されてもよい。好ましいリーダー配列は、当該MHC融合複合体の分泌性の発現を提供する。
【0116】
特別のsc−MHCクラスII構築物は、順に:β鎖リーダー/提示のペプチド /リンカー配列/β1-Δβ2鎖/単鎖リンカー配列/α1-α2鎖;β鎖リーダー/提示のペプチド /リンカー配列/β1-Δβ2鎖/単鎖リンカー配列/α1-α2鎖/Ig-CL鎖;およびβ鎖リーダー/提示のペプチド /リンカー配列/β1-β2鎖/単鎖リンカー配列/α1-α2鎖/Ig-CL鎖、をコード化している連結されたヌクレオチド配列において、当該Δ(デルタ)記号がβ2クラスII鎖の前文に記したような修飾、好ましくはβ2クラスII鎖の基本的には完全なβ2鎖までの欠失を意味している、配列を含む。sc−MHCクラスII構築物のさらなる例は、Ig-CL鎖が適当なIg-CL鎖フラグメントに置換されていることを除く、今述べた当該連結されたヌクレオチド配列である。MHCDNA構築物は、細菌、バキュロウイルス-昆虫細胞、および本文に開示された特別な発現系を含め、哺乳類の発現系に適切に導入される。次いでMHC複合体は発現され、もし実質的に純粋なMHC複合体を取得することが望ましい場合には精製される。
【0117】
前文に特に言及したように、本発明のMHC複合体は、完全に可溶性かつ機能性の分子の発現を促進するため、クラスIIβ2鎖の修飾および/またはIg-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントの融合を含んでいる複合体を含む。しかしながら、もし所望であれば、当該MHC複合体は細胞膜、たとえば、免疫細胞膜の一部として提供されることが可能である。MHC複合体の膜結合型の作成ならびに使用法は、公表されたPCT出願第96/04314号にに開示されている。
【0118】
本発明の一つのMHC複合体の両方の鎖を発現する一つの発現ベクターを構築すること、すなわち一つのMHC融合複合体のαおよびβ両鎖をコードする配列が、たとえ単鎖分子ではなくとも、各々が一つの発現ベクターに連結されるようにすること、が望ましいかもしれない。かかる発現ベクターは、MHC複合体の各々の鎖に別々のベクターが用いられる場合よりも、特にベクターが導入された細胞の選別が難しい場合には、より良い結果を提供するかもしれない。また、MHC複合体(たとえば、ポリスペシフィックなMHC複合体)の両方の鎖、ならびに他の因子、特にB7またはB7-2等のT細胞補助刺激因子をコードする一つの発現ベクターを構築すること、すなわちMHC複合体の両鎖をコードする配列と、補助刺激因子をコードする配列とが各々一つの発現ベクターに連結され、単一の形質転換の手法を可能にすることも望ましいかもしれない。また、このアプローチにより、二回またはそれより多く形質転換またはトランスフェクトされた細胞の潜在的に困難な選択が避けられることとなる。
【0119】
本発明のポリスペシフィックなMHC複合体をコード化しているDNAベクターを説明する例としては、当該DNAベクターは適当な連結分子をコード化しているDNAセグメントを含むことができ、当該DNAセグメントはたとえば、組換えにより融合された提示のペプチド を含んでいる一つのsc−MHCクラスII分子をコード化している、もう一つのDNAセグメントの5’または3’末端に組換えにより融合されている。当該DNA配列は、もし所望であればエフェクター分子をコード化している配列に任意に融合されてもよい。好ましい連結分子は、免疫グロブリンL鎖またはH鎖の定常領域に由来し、それらはもう一つの免疫グロブリンL鎖またはH鎖の定常領域と特異的に結合することができ、またSDS-PAGEゲル電気泳動で測定された約20と30kDaの間の分子量を有する。
【0120】
本発明のポリスペシフィックなMHC複合体は、一つまたは組み合わせた戦略により産生されることが可能である。説明のための例としては、二重特異性MHC複合体は、適切な細胞において:1)A−B1−C1鎖をコード化しているDNA発現ベクター、および2)前文に定義されたようなD−B2−C2鎖をコード化しているDNA分子、を同時発現することにより調製することができる。連結分子が、全体または部分的に免疫グロブリンから由来している例では、免疫グロブリンHおよびL鎖をコード化しているDNA発現ベクターの適当な作成ならびに使用法を用いることができる(たとえば、Near等Mol. Immunol. 30, 4, 369(1993); Near等Mol. Immunol. 27, 901(1990)参照)。別法として、当該二重特異性MHC複合体は、各々の単鎖をコード化しているDNAセグメントを含んでいる一つのDNAベクターによりコード化されてもよい。
【0121】
また前文に述べたように、本発明のMHC複合体は、研究用、臨床用、および商業用の使用を含む種々の適用に適したキットの形で提供されることが可能である。たとえば、かかるキットは、所望の細胞表面分子を含んでいる細胞等の興味の構造を検出するべく、本発明にしたがって使用されてよい。特に興味深いのは、所望のTCRまたは、他の受容体、糖タンパク質、リポタンパク質等の他の細胞表面分子を含んでいるT細胞などの免疫細胞か、あるいはタグまたは、たとえばモノクローナル抗体のような抗体を用いて標識された細胞である。一般的に当該キットは、一つの所望の結合特異性か、または本文に開示されたポリスペシフィックなMHC複合体の場合には一つより多い所望の結合特異性を特色とする、本発明の一つまたはそれより多いMHC複合体を含むこととなる。たとえば一つまたはそれより多いMHC複合体を患者に投与するため、あるいは生体試料におけるMHC複合体と所望の標的構造との間の特異的な結合を行なうために、通常、適当な水溶性緩衝剤が補給される。もし所望であれば、当該キットは一つまたはそれより多い検出可能に標識されたMHC複合体を、結合しない形状でか、または所望の固形支持体上に固定化されて含むことができる。別法として、当該キットは、本文に述べた検出可能な標識により当該複合体を標識するための、使用説明書を含んでもよい。
【0122】
PCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されたように、本発明のMHC複合体を発現するために、多くの戦略を用いることができる。たとえば、前文に述べたMHC遺伝子融合構築物は、当該構築物の挿入とそれに続く連結のためにベクターに切り口を作るべく、制限酵素を使用することによる等の、既知の方法により適当なベクターに取り込まれることが可能である。当該遺伝子構築物を含んでいるベクターは、次いで当該MHC複合体の発現のため、適当な宿主内に導入される。全般的には、Sambrook等、前出を参照のこと。適当なベクターの選択は、クローニングプロトコールに関係する因子に基づき、経験的に行なわれてよい。たとえば、当該ベクターは用いられている宿主に適合性であり、また当該宿主に適切なレプリコンを有するべきである。さらに、当該ベクターは発現されるべきMHC複合体をコードしているDNA配列を収容することが可能でなければならない。
【0123】
可溶性のMHC融合複合体を調製するための一つの好ましいプロトコールにおいては、提示のペプチド およびMHC分子(クラスII)のβ1-β2鎖をコード化しているDNA配列は、当該提示のペプチド のC末端がβ1ドメインの最初のアミノ酸に、好ましくは前記β1ドメインの前記最初のアミノ酸がたわみ性のあるリンカー配列によって結合されるべく配置されている。かかる構築物は以下の図17に描かれている。クラスIMHC分子用には、提示のペプチド をコード化しているDNA配列は、好ましくは当該MHC分子のαドメインに、好ましくは当該提示のペプチド が当該α鎖のN末端に連結されるように結合される。前文に議論したように、好ましくは制限部位はリーダー配列とリンカーの最初との間に設計され、興味の提示のペプチド (すなわち抗原性またはアンタゴニスト)をコード化している基本的にはいかなるオリゴヌクレオチドも当該β鎖遺伝子に結合できるようにする。
【0124】
先に議論したように、可溶性の発現を亢進するため、β2鎖クラスII鎖は修飾されてよく、および/またはIg-CL鎖またはフラグメントが当該MHC複合体に融合されてよい。発現されたMHC融合複合体は、既知の方法により単離精製されることが可能である。たとえば、一つの特別な方法においては、培地は遠心分離され、次いで上清がアフィニティーまたはイムノアフィニティークロマトグラフィー、たとえばプロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィーか、または連結されたMHCまたはその免疫グロブリン領域等の、発現された融合複合体と結合するモノクローナル抗体の使用を含むイムノアフィニティープロトコールにより精製される。たとえば、ヒトHLA-DR1配列を含んでいるMHC融合複合体は、モノクローナル抗体L243-セファロースカラム上での、一般に知られかつ開示された方法によるアフィニティークロマトグラフィーによって精製されることが可能である、たとえばHarlow, E等、Antibodies, A Laboratory Manual(1988)参照。L243モノクローナル抗体は、適切に折りたたまれたHLA-DR1分子の高次構造エピトープに特異的であり(J. Gorga等、J. Biol. Chem., 262 : 16087 - 16094)、したがって生物学的に活性のあるMHC融合複合体の精製に好ましいとされる。当該MHC複合体はまた精製において助けとなる配列を含んでもよい。たとえば実施例7および6xHisおよびEEタグの使用を開示している以下の図17Aを参照のこと。
【0125】
単鎖MHC複合体は、前文およびPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191、ならびに、実施例1ないし8を含む以下の実施例に議論されたように調製されることが可能である。たとえば、所望のMHCタンパク質をコードするDNAを、適当な細胞系から取得することができ、かつ単離された遺伝子をPCRまたは他の手段により増幅することが可能である。MHCクラスII分子の場合には、α1-α2遺伝子フラグメントを一つのベクターにクローン化することが可能であり、続いてβ1-β2ドメインについての遺伝子フラグメントクローニングを、間に置かれた単鎖リンカー配列と共にクローニングする。次にこの一つのベクターは適当な宿主において発現され、当該単鎖分子が採取され、もし所望であれば精製される。実施例1ないし8を含んでいる以下の実施例を参照。また、単鎖抗体の調製について議論しており、その方法が本発明の単鎖MHC融合複合体に全般的に使用可能である、Ladner等の米国特許第5,260,203号も参照のこと。
【0126】
代表的な調製法においては、MHCクラスII分子のαおよびβ鎖のコード領域は、B細胞系または他のMHC分子の供給源から、PCRにより特に当該コード領域を単離することにより取得される。単鎖のβ-α融合MHC融合分子をコード化している配列は、β鎖遺伝子の、膜を貫通して広がるドメインをコードしている配列を、前文に議論した単鎖連結配列を用いて置換することにより構築されることが可能であり、それによりβ鎖遺伝子が、成熟したα鎖(特に当該α鎖遺伝子の最初のコドン)に連結される。当該α鎖遺伝子は、当該単鎖融合複合体の膜結合性の発現のためには、その膜貫通領域を適当に含んでよく、あるいは当該α鎖遺伝子は、当該単鎖MHC融合複合体の可溶性の発現のためには、細胞外領域の最後において切り縮められてもよい。提示のペプチド 用の適当な制限部位およびリンカーは、好ましくはβ鎖リーダーとβ鎖の最初のコドンとの間に導入される。前文に提供したように、可溶性の発現を促進するため、クラスIIβ2鎖は欠失されることが可能であり、その場合にはβ1鎖は単鎖リンカーに連結されることとなる。別法として、あるいは付加的に、結果として生じた構築物は、適当なIg-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントを当該分子に、好ましくはβ鎖をコード化している末端に融合することにより、さらに修飾されてもよい。したがって、基本的にはいかなる提示のペプチド のコード領域も、創られた制限部位にオリゴヌクレオチドとして導入されることが可能である。次いで当該構築物は、本文に開示された特異的なプロモーターを含め、適宜哺乳類または細菌プロモーターの支配下に置かれる。認識されるように、Ig-CL鎖または適当なIg-CL鎖フラグメントの融合は、所望のIg-CL鎖またはフラグメントをコード化している適当なベクターに連結することによって完成される。たとえば、Near等、前出および適当なベクターの議論については以下の実施例を参照のこと。
【0127】
前文に述べたように、本発明のMHC複合体は種々のエフェクター分子を含むことができる。適切なエフェクター分子は、MHC複合体に所望の生物学的、化学的、または物理学的性質を与えるものを含む。さらに明確には、エフェクター分子はたとえば、ジフテリア毒素(DT)、志賀毒素、アブリン、コレラ毒素、リシン、サポニン、シュードモナス外毒素(PE)、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、またはゲロニン等の、たとえば植物または細菌起源の細胞毒素であってよい。かかる毒素の生物学的に活性のあるフラグメントはこの分野において周知であり、またたとえばDTA鎖およびリシンA鎖を含む。さらに、当該毒素はたとえば、ホスホリパーゼ酵素(たとえば、ホスホリパーゼC)等の細胞表面において活性をもつ薬剤であってよい。もう一つの例としては、当該エフェクター分子はたとえば、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキセート、アドリアマイシン、ブレオマイシン、またはシスプラスチン等の化学療法薬であってよく、あるいはさらに、当該エフェクター分子はたとえば、ヨウ素131、イットリウム90、レニウム188、またはビスマス212等の放射核種でもよい。たとえば、各参考文献が本文に取り入れられている、Moskaug等、J. Biol. Chem. 264, 15709(1989);Pastan, I.等、Cell 47, 641, 1986;Pastan等、Recombinant Toxins as Novel Therapeutic Agents, Ann. Rev. Biochem. 61, 331,(1992);「ChimericToxins」OlsneおよびPhil, Phermac. Ther., 25 : 355 (1982);公表されたPCT出願番号WO94/29350;公表されたPCT出願番号WO94/04689;および米国特許第5,620,939号を参照のこと。
【0128】
適当なエフェクターのさらなる例は、タンパク質タグであって、それは6xHIS等の、生理学的pHにおいて電荷を帯びているポリペプチドである。この例においては、もし所望であれば当該MHC複合体を精製するための適当な合成マトリックスは、たとえば、Ni−セファロース等の、たとえば、市販の金属−セファロースか、または他の約pH6ないし9において6xHISと結合することができる適当なマトリックスであってもよい。当該EEエピトープおよびmycエピトープは適当なタンパク質タグのさらなる例であり、このエピトープは一つまたはそれより多い市販のモノクローナル抗体により、特異的に結合されることが可能である。一般に、一つの抗体、好ましくは市販のモノクローナル抗体にによって特異的に結合されることが可能な広く多様なエピトープは、本発明のMHC複合体のタグとして役立つことが可能である。
【0129】
本発明のいくつかの態様においては、MHC複合体、たとえば、トロンビンまたはヘビ毒プロテアーゼ等の、化学的またはプロテアーゼ切断部位にタンパク質タグを融合し、当該タグ(または当該タグに融合された他のMHCサブユニット)が調節された様式で除去されるようにすることが有用であるかもしれない。
【0130】
前述のことから、いくつかの場合にはタンパク質タグ等のエフェクター分子もまた連結分子であることが理解されよう。エフェクター分子はたとえば、SPDP、カルボジミド(carbodimide)等のヘテロ二機能タンパク質により、当該MHC複合体に連結されてもよい。MeanyおよびFeeney、前出;Wong、前出参照。
【0131】
いくつかの適用には、本発明のMHC複合体を非組換えにより修飾することが有用かもしれない。たとえば、このことは所望の薬剤を結合することにより成し遂げられるが、しばしばこのような薬剤はもし所望であれば当該複合体に組換えにより融合されることが可能である。たとえば、当該MHC複合体は、前文に述べたものに加えて、薬物、酵素、ホルモン、たとえば放射核種などを結合することが可能なキレート剤等の、種々の薬剤、ならびに病気の診断および治療に有用な他のタンパク質およびポリペプチドを含むことができる。診断用の目的には、当該MHC複合体は標識されるかまたは標識されなくてもよい。たとえば、放射核種、蛍光(fluors)、酵素、酵素基質、酵素コファクター、酵素阻害剤、ハプテン等のリガンド、その他のような広く多様な標識が適切に用いられてもよい。
【0132】
前文に述べたように、ある場合には融合されたペプチドリンカー配列を含むことで、本発明のMHC複合体のサブユニットを柔軟に配置することが望ましいかもしれない。いくつかの適当なペプチドリンカーおよびその検査法が記述されており、当該複合体を用いた使用に容易に適用される。さらに、ある場合には、当該MHC複合体に融合されたペプチドリンカーに、ある薬剤を周知の技術によって添加することが有用であるかもしれない。有用な薬剤の例は、たとえば、色素または蛍光(fluor);酵素(たとえば、βガラクトシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ等;これらの酵素は光度計測により検出可能な標識を形成することができる)等の光度計測により測定可能な標識を含む。適当な光度計測により検出可能な標識の議論については、全般的に米国特許第5,434,051号を参照。別法として、当該薬剤を本文に開示したポリスペシフィックなMHC複合体に、ペプチドリンカーを含まない他の多様な手段により連結してもよく、そのような手段のいくつかが下文に開示されている。
【0133】
さらに、本発明のMHC複合体は、もし所望であれば、たとえば、炭水化物または脂肪酸の添加により、翻訳後修飾されることが可能である。たとえば、当該MHC複合体は糖鎖付加により修飾されることが可能である。タンパク質上の糖鎖付加部位はこの技術において周知であり、典型的にはN結合型(アスパラギン結合型)またはO結合型(セリンまたはトレオニン結合型)のいずれかである。かかる糖鎖付加部位は、MHC複合体のタンパク質配列の検査により容易に同定されることが可能である。MHC複合体は、たとえばSDS-PAGEゲル電気泳動により立証されるように、適当な真核細胞によって糖鎖付加されることが可能である。SDS-PAGEゲル電気泳動および他の関連する方法を、たとえば酵素的消化等の通常の生化学的技術と結びつけ、本発明のMHC複合体に結合した炭水化物を検出することができる。好ましい消化酵素の例は、たとえば、ニューイングランド・バイオラブズ(New England Biolabs)(マサチューセッツ州ビバリー)より取得可能なたとえば、エンドグリコシダーゼ、およびエキソヌクレアーゼを含み、当該製造業者の指示にしたがって使用される。したがって、本発明のMHC複合体は、炭水化物基、特にオリゴ糖基の存在について容易に分析されることが可能である。
【0134】
いくつかの例では、実質的に純粋な本発明のMHC複合体を、糖鎖が付加された形状で取得することが有用かもしれない。特に、かかる糖鎖付加されたMHC複合体は、治療薬として投与される場合、いくつかの背景において、より少ないインヴィヴォでの分解を示すことで、循環半減期が亢進されてもよい(たとえば、Goto, M.等、Bio/Technology 6 : 67(1988)参照)。ゆえに、本発明の方法は大量の実質的に純粋な糖鎖付加されたMHC複合体の取得によく適合する。
本発明のMHC複合体は、所望であれば一つまたは組み合わせた技術により精製されることが可能である。MHC複合体の代表的な産生法は、当該複合体の発現可能な細胞における発現を含む。たとえば、MHC複合体は、当該MHC複合体を昆虫細胞たとえば、バキュロウイルスを主成分とするタンパク質発現系において発現することにより取得することができる。以下の実施例5を参照。適切な昆虫細胞は、たとえばスポドプテラ・フレウギペルダ(Spodoptera freugiperda)(たとえば、SF9細胞)またはトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)に由来する細胞等の、バキュロウイルスに感染されることが可能なものを含む。(たとえば、Ausubel等、Current Protocols in Molecular Biology,ジョン・ウィリー&サンズ、ニューヨーク、1989;SummerおよびSmith, A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Cell Culture Procedures:Texas Agricultural Experimental Station Bulletin第1555号、テキサス州カレッジ・ステーション(1988);D. R. O’Reilly等、Baculovirus Expression Vectors : A Laboratory Manual, W. H. Freeman 商会、ニューヨーク(1992)参照。適切な昆虫細胞はまた、好ましくは外来タンパク質を大量に、たとえば、スピナーフラスコ、ローラーボトル、多数の組織培養プレート、バイオリアクター、または発酵槽において産生することができる。
【0135】
昆虫細胞における本発明のMHC複合体の発現に加えて、哺乳類細胞等の他の真核細胞を当該MHC複合体を産生するべく用いることができる。たとえば、以下の実施例6を参照。一般にこの方法ほ、当該MHC複合体をコード化している適当な哺乳類発現ベクターを哺乳類細胞に導入することと、さらに当該細胞を当該MHC複合体の産生を支持する条件下に培養することを含む。適当な哺乳類細胞はまた、好ましくは外来タンパク質を大量に、たとえば、スピナーフラスコ、ローラーボトル、多数の組織培養プレート、バイオリアクター、または発酵槽において産生することができるものである。
【0136】
本文に用いられているような「ベクター」という用語(「発現ベクター」を含む)は、宿主細胞に取り込まれ、結果として興味の核酸が発現することが可能な、興味の核酸配列を意味する。ベクターはたとえば、直鎖の核酸配列、プラスミド、コスミド、ファージミド、および染色体外DNAを含んでよい。明確には、当該ベクターは組換えDNAであってよい。また本文に用いられているような「発現」または「遺伝子発現」という用語は、当該DNAの転写ならびにRNA転写物の翻訳を含め、興味の核酸配列のタンパク質産物の産生をさすことを意味する。
【0137】
本発明のMHC複合体を発現するための他の適切な細胞は、たとえば、大腸菌、枯草菌等の原核生物;および他の動物細胞および酵母菌株、たとえば、パン酵母(S. cerevisiae)および分裂酵母(S. pombe)等の他の真核生物を含む。哺乳類細胞はしばしば好ましく、たとえば、J558、NSO、COS、CV-1、SP2-O、CHO、HeLa、p3-X63Ag8、またはミエローマ細胞である。以下の実施例4ないし6を参照。
【0138】
本文に開示された特別な細胞に加え、他の細胞について、当該MHC複合体を発現する能力を検査することができる。一般に、ほとんどすべての植物、昆虫、哺乳類、細菌、真菌、または酵母細胞について、本文に開示したMHC複合体を、好ましくは多量に、発現する能力に関して調べることができる。
【0139】
たとえば、ある細胞を本発明のMHC複合体の発現用に検査する一つの方法は以下のとおりである。タンパク質の発現実験が行なわれ、それにより好ましくは適当なベクター内の、興味のMHC複合体をコード化しているDNA配列が、たとえば形質転換またはトランスフェクションにより当該細胞に導入される。興味のMHC複合体をコード化している当該DNA配列を導入した後、宿主細胞を当該MHC複合体の産生に好都合な条件下に培養する。次に、タンパク質の発現をたとえば,ELISA、ウェスタン法、またはSDS-PAGEゲル電気泳動によりモニターし、当該細胞が、細胞内または細胞培地に、あらかじめ定められた適切な分子量を示しているMHC分子を発現しているかどうかを測定する。一般に適切な細胞は、ELISAまたはSDS-PAGEゲル電気泳動により測定されるように、毎日約1ng/1x106細胞から1000ng/1x106細胞までの間、あるいはそれより多くを産生することが可能であろう。
【0140】
ある例では、本発明のMHC複合体を適切な真核細胞において、一過性に発現することが望ましいかもしれない。たとえば、当該真核細胞が昆虫または哺乳類細胞である場合、適当なDNA発現ベクターにより、当該MHC複合体を一過性に発現することが有用であるかもしれない。
【0141】
本文に開示された当該MHC複合体の発現のための適当なベクターの選択は、表示( list )組織適合性に関係する因子に基づき、経験的に行なわれることが可能である。たとえば、当該ベクターは、使用されている宿主に適するべきであり、また宿主に適したレプリコンを有するべきである。さらに、当該ベクターは当該MHC複合体をコードしているDNA配列を収容することが可能でなければならない。特に本発明のポリスペシフィックなMHC複合体に関しては、当該ベクターは当該ポリスペシフィックな複合体の一部分、たとえば、その半分、または別のあらかじめ選択された所望の部分をコード化してもよい。
【0142】
さらに明確には、細菌における複製に適するベクターは、一般的にたとえば、(i)大腸菌において機能性であり、たとえばPBR322、好ましくは周知のpUC19ベクターに由来する複製起点;(ii)選択可能な抗生物質抵抗性遺伝子、たとえば、アンピシリンおよび/またはネオマイシン抵抗性遺伝子;(iii)転写終結領域、たとえば、大腸菌trpオペロンの終結領域;(iv)転写プロモーター、たとえば、phoA、tac、tac-lac、lacZ、lacuv3、T7、またはT3プロモーター;(v)リーダー配列、たとえば、pelBまたはompAリーダー;(vi)興味の当該MHC複合体をコードしているDNAセグメント、および(vii)転写ターミネーター、たとえば大腸菌リボソームRNA遺伝子座からのT1T2配列、を含む。先に述べたように、当該MHC複合体は、基本的には全鎖の欠失などの、修飾されたクラスIIβ2鎖を含むか、または当該MHC複合体はマウスまたはヒトのCκフラグメント等の融合されたIg-CL鎖を含むこととなる。
【0143】
本発明のMHC複合体の可溶性の発現を、特定の誘導条件により細菌において促進することが可能であることが発見されている。「誘導条件」という用語により、必須栄養素(たとえば、アミノ酸または、リン酸塩などの無機塩)が培地から欠失され、それによって当該MHC複合体をコード化している配列に操作可能に連結された、特別のプロモーターの発現が誘導される培地条件が意味される。したがって、細菌での発現用のMHC複合体をコード化しているベクターまたはセグメントが、このような誘導条件下に発現を最大化するべく構成されていることが望ましい。当該誘導条件下に培養されることが可能な宿主細胞の特別な例は、以下の実施例において提供される細菌を含む。
【0144】
たとえば、以下に述べるphoAプロモーターは、細菌においてリン酸塩が欠失された誘導条件下に当該MHC複合体を発現するための特に好ましいエレメントの例である。以下の実施例4参照。強力な翻訳開始配列もまた、翻訳効率を亢進するべく当該構築物に含まれることが可能である。一般的にphoAプロモーターの誘導は、培地中のリン酸塩が使い尽くされるとすばやく開始される。
【0145】
MHC複合体をコード化しているDNAベクターは、引き伸ばした増殖期間にわたり宿主細胞を誘導することにより、細菌において発現されることが可能である。何ら特別な理論に束縛されるべく願望することもなく、約2ないし8時間、好ましくは約4ないし6時間におよぶ誘導が、当該MHC複合体の発現を亢進するらしいことが発見された。たとえば、一つのDNAベクターは所望のMHC複合体をコード化している配列に操作可能に連結されたphoAプロモーター(強力な)を含むべく作成された。以下の実施例3および4参照。宿主細胞は続いて当該DNAベクターを用いて形質転換され、さらに宿主細胞培地中のリン酸塩が数時間、一般的には約2ないし10時間、さらに典型的には4ないし6時間にわたり培地から欠失された。培地のリン酸塩が欠失されると、強力なphoAプロモーターが誘導され、可溶性および完全に機能性のMHC複合体の量が有意に増加することが発見された。
【0146】
付加的なDNAベクターを、真核細胞においてMHC複合体を発現するべく設計することが可能である。代表的なDNAベクターは、好ましくは細菌性宿主における複製用に構成され、適切な量のDNAベクターが取得できるようにする。たとえば、DNAベクターは一般に(i)大腸菌において機能性である複製起点;(ii)選択可能な抵抗性遺伝子;(iii)サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター等の強力なウイルスプロモーター、および任意にエンハンサーエレメント、(iii)所望のMHC複合体をコード化しているDNAセグメント(iv)成長ホルモンポリアデニル化配列、たとえばウシ成長ホルモン(bgh)ポリA配列、および(v)ウイルスポリアデニル化配列(たとえばSV40ポリA配列)に融合された抗生物質抵抗性遺伝子(たとえばネオマイシン)に連結されたシミアンウイルス40(SV40)等の強力なウイルスプロモーター等の、選択的な真核生物のマーカーをコード化しているDNA、を含むことができる。適当なDNAベクターの例は、以下の実施例6に開示されている。先に述べたように、当該MHC複合体はしばしば修飾されたクラスIIβ2鎖、好ましくは基本的には全鎖の欠失を含み、および/または当該MHC複合体は、マウスまたはヒトのCκフラグメント等の、融合されたIg-CL鎖または、適当なIg-CL鎖フラグメントを含む。
【0147】
所望の哺乳類細胞において用いるための本発明のDNAベクターは、通常の技術にしたがって、一つまたは種々の他の哺乳類細胞における可溶性の発現を最適化するべく修飾されることが可能である。たとえば、前文に述べたネオマイシン抵抗性遺伝子をコード化している真核生物のマーカーは、たとえば、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子をコード化しているDNAによって置き換えられることが可能であり、TK-(TK欠損)哺乳類細胞における当該sc−MHC融合タンパク質の発現が促進される。当該DNAベクターはこの技術において周知の他の方法(たとえば、プロモーターの交換、抗生物質抵抗性遺伝子、免疫グロブリンを用いたCMVプロモーターの置換、SV40、アデノウイルスまたはパピローマウイルスのプロモーター等)で、所望の哺乳類細胞におけるMHC複合体の発現を最適化するべく修飾されることが可能である。別法として、sc−MHCタンパク質をコード化しているDNA配列は、酵母または昆虫細胞における発現に適した周知のベクターに挿入されてもよい。Ausubel等、前出参照。
【0148】
本発明のMHC複合体を哺乳類細胞において発現するための付加的なDNA発現ベクターは、pEE13またはpCDNA-3ベクターに由来するDNAベクターを含み、たとえばSCE1では、MHC複合体が適当なサイトメガロウイルスプロモーターの下流に置かれている。公表された当該PCT出願、および以下の実施例6を参照のこと。他の既知の発現ベクターは、当該MHC複合体を発現するべく、本発明にしたがって使用されてよい(たとえば、Ausubel等、前出、およびSambrook等、前出参照)。
【0149】
種々の標準的な方法を用いて、所望のMHC複合体をコード化しているDNAセグメント、またはそれを運んでいるベクターを、所望の細胞に導入することができる。たとえば、当該DNAまたはDNAベクターは、適切な細胞に、たとえば、リン酸カルシム法、またはDEAEデキストランを介するトランスフェクションまたは形質転換、ウイルスまたはファージ感染(当該MHC複合体をコード化している組換えウイルス)、電気穿孔、リポソームを介する移入、または通常の技術によるバイオリスティック(biolistic)トランスファー等の、許容されるいかなる経路によっても導入されることが可能である(Cockett等、Bio/Technology 8 : 662 (1990);Ausubel等、前出;およびSambrook等、前出参照)。次いで当該細胞は、たとえばマイクロキャリヤーまたは中空糸培養系、懸濁系、ローラーボトル、スピナーフラスコ、バイオリアクターまたは発酵槽に関連した培養系等の、それによって選択された培養系が培地、大気、および温度の最適な条件下に維持されるような、当該MHC複合体の発現を支持する条件下に培養される。もし所望であれば、当該培養条件は所望のMHC複合体の大量の産生用に最適化されてもよい。以下の実施例4ないし6参照。
【0150】
ある場合には、MHC複合体をコード化しているベクター(選択可能なマーカーを含んでいる)を含む真核細胞を、当該ベクターを染色体へ組込む結果となる条件下に繁殖させることが望ましいかもしれない。当該マーカーの選択により取得された細胞系は、当該MHC複合体を構成性に発現する能力に関して特に有用である。
【0151】
本発明のMHC複合体は、種々のクラスIまたはクラスIIMHC分子を含むことができる。たとえば、図1に例示した可溶性のsc−MHCクラスIIペプチド融合分子については、IAdβ1-β2およびIAdα1-α2クラスII分子は、無関係に他のクラスI(H-2またはHLA)またはクラスII(IA、IE、DR、DQ、またはDP)分子に置換されてよい。別法として、IAdβ1-β2およびIAdα1-α2クラスII分子は、無関係にクラスIまたはクラスII分子の提示のペプチド 結合部位によって置換されてもよい。たとえば、図17は、IAd(図3)またはDR2(図17B)の鎖を含んでいるsc−MHCクラスII分子を示している。一般的に、クラスIまたはクラスII分子は既知のDNA配列のものとなるため、当該分子(またはその提示のペプチド 結合部分)は、本文に開示された組換えDNA技術により当該MHC複合体の一部として作成されることが可能である。
【0152】
さらに明確には、本発明のMHCクラスIまたはII分子は、多発性硬化症(MS)に関係するHLA-DR2(DRB1*1501);各々リウマチ性関節炎(RA)に関係するHLA-DR4、HLA-DQ8、およびHLA-DQ7;インシュリン依存性糖尿病(IDDM)に関係するHLA-Q8(DQB1*0302);セリアック病に関係するHLA-DQw2;SJL/Jマウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎に関係するIAsドメイン;NODマウスにおける自発性糖尿病に関係するIAg7;DBA/1マウスにおけるコラーゲン誘導性関節炎に関係するIAq;またはそれらのペプチド結合部分、等のアレルギーまたは自己免疫に関係したMHC分子を含む。以下の実施例3を参照のこと。
【0153】
クラスIおよびクラスIIMHC分子の提示のペプチド 結合部分は、当該提示のペプチド を検出可能な分子(たとえば125I、131I、3Hまたはビオチン)を用いて標識することと、当該クラスIまたはクラスIIMHC分子フラグメントを、当該標識された提示のペプチド に、当該提示のペプチド を完全長の対応するMHC分子に装填するために十分な条件下に接触させることにより、容易に同定されることが可能である。一般に、クラスIまたはクラスIIMHC分子の提示のペプチド 結合部分は、同等かまたは関連する装填条件下での当該完全長の対応するMHC分子に比較した場合、当該標識された提示のペプチド の少なくとも約50%(モルパーセント)、より好ましくは60%、70%、80%、90%またはそれより多くを結合することとなる。いくつかのMHC分子のいくつかの提示のペプチド 結合部部もまた報告されている。
【0154】
一般的に、提示のペプチド を空のMHC分子に装填する方法は、精製されたMHC分子を、約20ないし50倍のモル過剰の提示のペプチド と共に、高められた温度、たとえば約37℃において、約20ないし60の間の時間をかけてインキュベーションすることを含むこととなる。このような装填反応の最適pHは、当該MHC分子内の特定のMHCクラスII分子と、用いた当該提示のペプチド とに依存して変化してよいが、しかし一般的には提示のペプチド を装填するための最適pHは約pH4.5ないしpH7の間であろう。このような方法は、事実上どの提示のペプチド を当該MHCクラスII複合体に装填するためにも容易に適用することができる。以下の実施例8参照。またStern, L. J.等、1992 Cell 68 : 465;Sette, A. S.等、1992 , J. Immunol. 148 : 844も参照のこと。
【0155】
また当該装填時のpHは、適当な検出可能な分子を用いて提示のペプチド を標識することと、当該標識された提示のペプチド をMHC複合体に接触させること、および次いで所望のpHまたはpH範囲における装填を、たとえばHPLCゲルろ過膜ろ過、免疫吸着法、またはスピン限外ろ過によりモニタリングすることにより、一つの提示のペプチド と一つのMHC複合体の対のために最適化されることが可能である。特定のpHまたはpH範囲において装填を見せるMHC複合体は、標準的な分離技術により、未装填の標識されたペプチドから分離されることが可能である。一般に、特定の提示のペプチド をクラスIIMHC複合体に装填するために適したpHまたはpH範囲は、少なくとも約50%(モルパーセント)、より好ましくは60%、70%、80%、90%またはそれより多くの当該クラスIIMHC複合体が当該ペプチドによって結合される結果となるpHまたはpH範囲である。
【0156】
種々の提示のペプチド がMHC複合体に装填されるかまたは共有結合により連結される(たとえば組換えにより融合される)ことが可能である。たとえば、OVA(323-339)およびHSV-1gD(246-261)提示のペプチド は、可溶性のsc-IAdMHCクラスII分子に融合または装填されることができる(たとえば以下の実施例1および3参照)。他の適当な提示のペプチド は、たとえば、イエダニアレルゲンDERpI等の、たとえば、昆虫アレルギー由来のペプチド等の、アレルギーに関係するペプチド;たとえばネコアレルゲンFeldI等の家畜動物アレルゲン;たとえば、ブタクサアレルゲンAmb aIおよびAmb aV等の植物アレルゲン;およびニューロン鞘タンパク質を含む。たとえば、以下の実施例3は、アミノ酸84ないし102の、免疫優性なMBPエピトープを提供する。他の興味の潜在的な提示のペプチド はプロテオリピドタンパク質(それぞれMSに関係する、たとえばアミノ酸30ないし49の免疫優性エピトープ、およびアミノ酸180ないし199の免疫優性エピトープ;)、RAに関係するII型コラーゲン等の構造タンパク質に由来するペプチド;およびIDDMに関係するグルタミン酸デカルボキシラーゼおよびインスリン等の酵素およびペプチドホルモンに由来するペプチドを含む。
【0157】
MHC複合体の代表的な提示のペプチド は、約4ないし35アミノ酸、好ましくは約6ないし30アミノ酸、さらに好ましくは約8ないし25を有することとなる。好ましくは、かかる提示のペプチド は既知の配列のDNAにコード化されるが、かかるペプチドのDNA配列はこの技術に周知の技術により容易に決定されることが可能である。他の適当な提示のペプチド は、アレルギー、自己免疫疾患、あるいはアレルギーと自己免疫疾患の両方に関係すると考えられているものを含む。かかるペプチドは、以下に開示されているT細胞分析法ならびに公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191にしたがって、T細胞の活性を調節する能力について、容易に検査されることが可能である。
【0158】
先に述べたように、本発明のMHC複合体は種々の方法で精製されることができる。たとえば、実質的に純粋なMHC複合体は一般に少なくとも90ないし95%の均一性であることが好ましく、製薬、臨床、および研究用の適用には少なくとも98ないし99%の均一性が最も好ましい。一旦部分的に、もしくはある標品においては所望のように均一に精製されるのであれば、当該MHC複合体は、治療用の適用には実質的に不純物がないようにされるべきである。
【0159】
本文に開示されたsc-クラスIIMHC分子およびポリスペシフィックなMHC分子には、種々の他の精製法が適している。たとえば、EE等、または他のこの分野では周知のmyc等のタグを、興味のsc-クラスIIMHC分子またはポリスペシフィックなMHC分子に融合し、「タグされた」複合体を作成することができる。かかる「タグされた」複合体は、金属セファロース支持体を用いたクロマトグラフィーか、または他の、当該タグを特異的に結合し、間接的に、結合されたMHCと結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、好ましくはモノクローナル抗体フラグメントを含んでいる、他のクロマトグラフィー用支持体等の、いくつかの既知のイムノアフィニティー法により精製されることが可能である。さらに他の既知のタンパク質精製法、たとえば免疫沈降法を用いて「タグされた」分子を精製することができる。かかる方法の実例は、以下の実施例7に述べられている。
【0160】
ほとんどの場合、本発明のMHC複合体はT細胞等の免疫細胞の活性を修飾することが可能となる。典型的には、ペプチド特異的なT細胞の応答(たとえば、サイトカイン分泌)を活性化するべく、所望のMHC複合体との結合(装填または組換えによる)のために適当な提示のペプチド が選ばれる。別法として、当該提示のペプチド はT細胞の活性を、たとえばアポトーシスを誘導することにより、ペプチドに特異的なT細胞において抑制するべく、本文に開示された方法にしたがって選択されてもよい。本文に開示された当該MHC複合体の生物活性を検出するためのいくつかの検定法が以下に述べられている。以下の実施例2、9ないし13参照。
【0161】
さらに特別には、本発明のMHC複合体は、アポトーシス、アネルギー、サイトカイン放出、免疫抑制、および免疫細胞誘導等の、種々の免疫系の応答を調節することを含め、数多くの治療用ならびに関連した適用に有用である。特に興味深いことは、T細胞に直接または間接的に衝撃を与える免疫系の応答である。たとえば、融合された(共有結合により連結された)か、または非共有結合により装填された提示のペプチド を運んでいるMHC複合体は、免疫反応性T細胞を抑制する能力について、Igクラスのスイッチングの阻害を検出するためのスクリーニング法を開示している実施例11に例示された方法にしたがって、またインヴィヴォにおけるT細胞増殖の抑制について検査されることが可能である。このような方法は、免疫反応性T細胞をインヴィヴォにおいて抑制する能力について、本発明のほとんどのMHC複合体を検査するべく、容易に適用される。
【0162】
ある治療用の適用には、当該提示のペプチド に連結された本発明の所望のMHC分子をコード化しているDNA発現ベクターを、当該MHC融合複合体のインヴィヴォでの発現のために投与してもよい。かかるアプローチは、典型的には組換えタンパク質の調製に関連したコストのかかる精製の工程を避け、また通常の技術に関連した抗原の取り込みおよびプロセシングの複雑さを避ける。以下の実施例12を参照のこと。
【0163】
本発明はまた、T細胞の発生を誘導することができるペプチド、ならびにT細胞受容体と拮抗することができるペプチド、すなわちT細胞受容体(TcR)アンタゴニストまたは部分アゴニストを含めた、T細胞受容体に認識されるペプチドのインヴィトロでの同定法も含む。
【0164】
免疫応答の抑制のためのもう一つの方法は、提示のペプチド すなわちT細胞アンタゴニストまたは部分アゴニスト、を含む本文に開示した一つまたはそれより多いポリスペシフィックなMHC複合体の有効量の投与に手段を講じる。
【0165】
もしAPCもまた補助刺激シグナルを伝えるのであれば、APCの表面上のペプチド-MHC複合体のみが、当該MHC結合ペプチドに特異的な反応性のT細胞系のクローン増殖を誘導することが示されている。APCによって伝えられる補助刺激シグナルがない場合には、このような反応性のTH細胞はアネルギーの状態に誘導されると信じられている。APCから単離された可溶性のヘテロ三量体ペプチド/MHCクラスII複合体は、TH細胞の免疫応答を抑制することが示されている(Sharma, S. D.等、1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 : 11465 - 11469;Nicolle, M. W., 1994, J. Clin. Invest. 93 : 1361 - 1369)。
【0166】
提示のペプチド すなわちT細胞受容体アンタゴニストまたは部分アゴニスト、を含んでいる本文に開示されたMHC複合体は、補助刺激シグナルを欠く可溶性の複合体として投与されることが可能である。
【0167】
さらに、CD4a受容体への結合を変える修飾されたクラスIIβ2ドメインを含んでいる本文に開示したMHC複合体もまた、T細胞をアレルギー状態に誘導するべく作用することができる。
【0168】
別法として、本発明のMHC複合体の投与は、「完全長」のMHC融合複合体、すなわち、膜貫通部分および提示のペプチド を、当該MHC分子に共有結合により連結されたアンタゴニストまたは部分アゴニストと共に含んでいる、一つまたはそれより多い完全長のMHCタンパク質を含む複合体をコード化しているDNAベクターを含んでいる、有効量のDNA配列の形態をとることができる。
【0169】
前記PCT出願番号WO96/04314に開示されたように、sc−MHCクラスIおよびII分子を用いてペプチドを検出ならびに特徴づけすることができる。たとえば、本発明は以下のようにT細胞の特徴づけされていないエピトープをマップするべく用いられることが可能な方法を含む:ランダムなペプチドのライブラリーまたは選択されたペプチドをコード化している配列を、sc−MHC複合体をコード化しているDNA配列と、任意にリンカーをコードしているDNA配列とを含んでいる、前文に定義されたような本発明の発現ベクターシステムの、提示のペプチド の位置にクローン化することが可能である。適切には、適当なcDNAの制限フラグメント、またはゲノムDNAライブラリー(Sambrook等、前出、Ausubel等、前出参照)が、当該発現ベクターに挿入される配列の供給源として用いられるか、または別法として、既知の配列の合成オリゴヌクレオチド等の選択されたオリゴヌクレオチドが、挿入された配列として用いられる。哺乳類細胞および前文に定義された他の適当な宿主は、遺伝子融合物、すなわち付加的なペプチドをコードしている配列に連結されたMHC分子をコードしている配列、を用いて形質転換またはトランスフェクトされる。形質転換物を適当な条件下に培養し、以下に開示される検定法により測定されるT細胞クローンと反応する興味の融合複合体の発現について細胞をスクリーンする。次いで反応性のクローンが拾い上げられることが可能であり、ベクターが単離される。当該DNAインサートの配列分析は、クローン化されたペプチドのどれがT細胞クローンにより認識されるエピトープに相当するかを明らかにするだろう。空のsc−MHC分子は、組換え法による当該ペプチドの付加よりもむしろ、当該ペプチドが空の分子に装填されること以外は同じ方法で使用されることが可能である。本文に開示されたポリスペシフィックなMHC複合体の関連する用途は、いくつかのポリスペシフィックなMHC複合体について、一つより多い適当なベクターが用いられ、当該ベクターが当該ポリスペシフィックなMHC複合体の適当な部分をコード化する、という条件つきで本発明の範囲内にある。
【0170】
sc−MHC分子(装填または融合された提示のペプチド をもつ)のT細胞受容体の活性を調節する能力(T細胞応答の不活性化を含めて)は、インヴィトロまたはインヴィヴォの分析により容易に測定することができる。典型的には、検定用のT細胞は、T細胞ハイブリドーマ等の形質転換されたT細胞系か、または哺乳類から、たとえばヒトから、またはマウス等の齧歯類から単離されるT細胞によって提供される。他の適当なT細胞は:1)市販の、または既知の方法により調製可能なT細胞ハイブリドーマ、2)ヘルパーT細胞、および3)細胞傷害性T細胞、好ましくは細胞傷害性CD4+細胞、を含む。T細胞は哺乳類から既知の方法により単離されることが可能である。たとえば、R. Shimonokevitz等、J. Exp. Med., 158 : 303 (1983)および以下の実施例参照。適当なインヴィトロの検定法は、公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に開示されている。特に、公表された当該PCT出願は、空かまたは装填されたペプチド結合部位を含むsc−MHCクラスII分子、ならびに組換えにより融合された提示のペプチド を含んでいる分子の検定法および使用法を開示している。下文から理解されるように、公表された当該PCT出願に開示された当該検定法および使用法は、本発明の当該MHC複合体を用いた用途に容易に適用されることが可能である。本発明のポリスペシフィックなMHC複合体の関連用途は先に開示されており、本発明の範囲内にある。
【0171】
次は、融合されたペプチドを含んでいる本発明のMHC複合体がT細胞の活性を調節することができるかどうかを測定するための代表的な検定法である。当該検定法が、本文に開示された装填されたMHC複合体等の種々のMHC複合体に適することが理解されよう。当該検定法は一般的に以下のように、以下の1から4の連続した工程により行なわれる。T細胞は、検定されることが可能であってしかもT細胞の活性化または活性化の後のT細胞活性の調節を示すことが可能なマーカーを適切に発現する。したがって、たとえば、以下の実施例2および9に開示されるように、活性化に対しインターロイキン-2(IL-2)を発現するマウスT細胞ハイブリドーマDO11.10を用いることが可能である。IL-2濃度は、特定の提示のペプチド がT細胞ハイブリドーマの活性を調節すことができるかどうかを決定するべく測定されることが可能である。かかる適当な検定法は、以下の工程:
1. 当該ペプチド/MHC複合体に特異的なT細胞受容体を運んでいるT細胞を、興味のT細胞ハイブリドーマから、または哺乳類から単離することにより取得する。
2.当該T細胞を、増殖を可能にする条件下に培養する。
3.増殖しているT細胞を、選択されたMHC融合複合体と接触させる。
4.当該T細胞を、抗原提示細胞と接触させて活性化に必要なシグナルを供
給させ、さらにマーカーについて検定する、たとえば、IL-2の産生が測 定される、
によって行なわれる。IL-2産生の増加、たとえば、24時間後の100%またはそれより多いIL-2産生の増加、さらに典型的には24時間後の1000%またはそれより多いIL-2産生の増加は、当該MHC融合複合体がT細胞の活性を調節し、かつ免疫応答を抑制することができることを示している。以下の実施例9はかかる分析法のよい例である。この検定法は、膜貫通部分を含まない可溶性の「切り縮められた」MHC複合体の活性を分析するべく、適切に用いられる。さらに、この分析法は、T細胞受容体アンタゴニストまたは部分アゴニストとして機能する、共有結合により連結されたMHC複合体融合複合体の同定に、適切に用いられる。当該検定法はまた、本発明の装填されたMHC複合体の用途に都合よく適合される。
【0172】
この分析に用いたT細胞は、増殖に適した条件下にインキュベートされる。たとえば、DO11.10T細胞ハイブリドーマは、約37℃および5%CO2において、完全な培養液(10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミン酸、および5x10ー5Mの2-メルカプトエタノールを添加したRPMI1640)中で適切にインキュベートされる。MHC融合複合体の連続希釈物がT細胞の培養液に添加されてよい。T細胞に添加される当該MHC融合複合体の適切な濃度は、典型的には10ー12Mから10ー6Mの範囲内となる。T細胞の活性化シグナルは、適当な抗原ペプチドを装填されている抗原提示細胞によって供給される。T細胞の応答の阻害をMHC融合複合体を用いて検出するためには、最大値をわずかに下回るT細胞の活性化をもたらす抗原量ならびにAPC数の使用が好ましいこと信じられている。当該MHC融合複合体との接触に続くIL-2産生の減少は、当該融合複合体がT細胞の活性を調節し、免疫応答を抑制することができることを示している。
【0173】
別法として、IL-2等の発現されたタンパク質の測定よりもむしろ、T細胞の活性化の調節を、この技術に認められている放射標識技術により測定されるような、抗原依存性のT細胞増殖の変化により適切に測定してもよい。たとえば、標識された(たとえば、トリチウム化された)ヌクレオチドを分析用の培地に導入してもよい。かかるタグされたヌクレオチドのDNAへの導入は、T細胞増殖の尺度として役立つ。この分析法は、増殖に抗原提示を必要としないT細胞、たとえばT細胞ハイブリドーマには適さない。それは、哺乳類から単離された未形質転換T細胞についての、当該MHC融合複合体によるT細胞活性化の調節の測定に適している。当該MHC融合複合体との接触に続くT細胞増殖レベルの低下は、当該融合複合体がT細胞の活性を調節し、免疫応答を抑制することができることを示している。インビトロのT細胞増殖分析法は、インヴィヴォでのT細胞クローンの増殖における抗原特異的な変化に対するMHC融合複合体の影響の測定用に好ましい。
【0174】
このような生体外での分析法は、ランダムライブラリーから、あるいは他のオリゴヌクレオチドからのDNAにコードされた、T細胞受容体の活性を調節(T細胞の発生の活性化また阻害を含む)することができるペプチドを、選択および同定するべく用いることができる。明確には、ランダムペプチドのライブラリーかまたは選択されたペプチドをコード化しているDNA配列は、前文に定義したような、MHC複合体分子をコード化しているDNA配列と、任意にリンカー配列をコードしているDNA配列とを含む発現ベクターシステムの、提示のペプチド の位置にクローン化されることが可能である。適切には、ゲノムDNAライブラリーの適当なcDNAの制限フラグメント(Sambrook等、前出参照)が、当該発現ベクターに挿入された配列の供給源として用いられるか、あるいは別法として、既知の配列の合成オリゴヌクレオチド等の選択されたオリゴヌクレオチドが挿入配列として用いられる。前文に示した哺乳類細胞その他等の適当な宿主を、当該遺伝子融合物、たとえば、提示のペプチド をコードしている配列に連結された当該MHCをコードしている配列を含んでいるベクターを用いて形質転換する。形質転換物を適当な条件下に培養し、当該細胞を選択されたT細胞と接触させることにより、興味のMHC複合体の発現に関して細胞をスクリーンする。前文に述べた分析法、たとえばIL-2産生またはT細胞増殖の測定を用いて、当該MHC複合体との接触がT細胞の活性化を調節したかどうかを測定する。たとえば、APCに刺激されたT細胞のIL-2産生における増加は、当該T細胞の活性を調節するMHC融合複合体を同定する。別法として、当該インヴィトロの検定法を用いて、T細胞の応答を亢進する提示のペプチド を含んだ、前文に記した多価のMHC複合体を同定してもよい。
【0175】
生体内の分析法もまた、MHC複合体の、T細胞の発生を阻害または不活性化する能力を含め、T細胞の活性を調節する能力を測定するべく適切に用いてもよい。たとえば、MHC融合複合体は、その免疫グロブリンクラスのスイッチング(すなわちIgMからIgGへ)を阻害する能力について分析されてもよい(たとえば、P. Linsely等、Science, 257 : 792 - 795 (1992)参照)。かかる分析法は、以下の実施例13に明確に述べられている。
【0176】
当該MHC融合分子を含めた本発明のMHC複合体を用いた診断法もまた、生体内でにおける画像診断法およびHLA型判定を含めて提供される(たとえば、A. K. Abbas, Celluar and Molecular Immunology、第328頁(W. B. ソーンダーズ(Saunders)社、1991)参照)。たとえば、生体内での画像用の適用には、放射標識(たとえば、125I、32P、99TC)または他の検出可能なタグを有するMHC融合分子が哺乳類に投与され、披検者は既知の方法により、当該MHC分子の結合について画像走査されることが可能である。哺乳類についてのかかる分析は、たとえば本文に開示したような望ましくない免疫応答を含め、数多くの疾患の診断ならびに治療における手助けとなるはずである。
【0177】
空のペプチド結合ドメインを含んでいる本発明のMHC複合体、たとえば、本文に開示した空のsc−MHCクラスII分子は、当該MHC分子のペプチド結合の溝または裂け目に非共有結合により結合する提示のペプチド をスクリーンするべく用いることができる。かかるスクリーンは,たとえば、IAd,DRI、IE、DP、およびDQなどのMHCクラスII分子と特に結合することができる提示のペプチド の同定に有用である。代表的な例としては、sc-IAd/ブランク分子が検出可能なタグ(たとえば、125I、ビオチン、または他の本文に開示されたタンパク質タグ)を用いて修飾され、ランダムペプチドライブラリーをスクリーンするべく用いられることが可能である。タンパク質をタグするため、およびライブラリーをスクリーニングするための方法は周知である(たとえば、本文に参考文献として取り入れられているSambrook等、前出、およびAusubel等、前出、John Wiley & Sons、ニューヨーク、1989参照)。いくつかのランダムペプチドライブラリーのどの一つでも、適切に用いることが可能である(たとえば、Scott等、Science, 249 : 386 (1990);J. Devlin等、 Science, 249 : 404 (1990);S. Cwirla等、PNAS(USA), 87 : 6378 (1990);J. Hammer等、J. Exp. Med., 176 : 1007 (1992);D. O’Sullivan等、J. Immunol., 147 : 2663 (1991)参照)。sc-IAd/ブランク分子に結合するペプチドを用いて、対応する装填分子を作ることができる。装填された分子は次に、本文に述べたいずれかのT細胞検定法において、当該同定されたペプチドがT細胞の活性を調節することができるかどうかを調べるべく検査されることが可能となる。
【0178】
本発明のMHC複合体の、免疫疾患の治療への潜在的な効用を評価するためにも、検定法が用いられてよい。たとえば、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)は、マウスにおける自己免疫疾患であり、多発性硬化症の承認されたモデルである。適当なマウスの系統はEAEを発症するべく処理されることが可能であり、次いでMHC融合複合体が投与され、当該動物について、EAEの発症がMHC融合複合体の投与後に阻害または予防されるかどうかを決定するべく評価される。かかる分析法は公表されたPCT出願番号WO96/04314およびWO97/28191に明確に述べられている。
【0179】
標的とされた疾患に対するワクチン接種を含め、本発明のMHC複合体の免疫応答を誘導する能力は、インヴィヴォの検定法において容易に測定されてもよい。
たとえば、融合された組換えペプチドを含んでいる本発明のMHC複合体、またはMHC融合複合体をコードしているDNAを、マウス等の哺乳類に投与することができ、初回の投与時およびその後定期的に(たとえば、当該融合複合体またはDNAの投与後、2、5、および8週後)、この哺乳類から血液試料を取得する。当該血液試料より血清を採取し、免疫化によって立ち上げられた抗体の存在について検定する。抗体濃度が決定されてよい。以下の実施例12および13は、かかる検定を明確に記述している。
【0180】
いくつかの場合には、本発明のMHC複合体をコードしているDNA構築物、特に、融合された提示のペプチド を含んでいるものを、当該複合体を患者の細胞内において発現させるべく、直接投与することが有用となる。一つの例としては、融合された提示のペプチド を含んでいるMHC複合体のコード領域を、CMVプロモーター等の適当なプロモーターおよび任意のエンハンサーの支配下に適切に運んでいるDNAが、患者の骨格筋に直接注射される。当該MHC融合分子が患者において免疫応答を誘導することとなる表示を確実にするため、好ましくは補助刺激因子をコードしているDNAベクターが、MHC-提示のペプチド 融合物をコードしているDNAと共に患者に補助投与される。補助投与される好ましいDNAベクターは、たとえばCMVプロモーターの支配下にあるCD80またはCD86タンパク質をコードしている領域を含むもの、を含む。発現されたCD80およびCD86タンパク質は、当該免疫応答の開始を促進するべく補助刺激シグナルを供給することができる。
【0181】
哺乳類等の患者に免疫応答を誘導するためのかかるアプローチは、先のアプローチに有意な利益を提供する。外来性のタンパク質抗原の提示における最初の段階は、当該天然の抗原と抗原提示細胞(APC)との結合である。APCに結合した後、抗原は食作用、受容体仲介エンドサイトーシス、または飲作用のいずれかにより当該細胞内に侵入する。かかるインターナライズされた抗原は、細胞内のエンドソームと呼ばれる膜結合性小胞に局在するようになる。エンドソームの融合の後リソソームに局在する細胞プロテアーゼにより、小さいペプチドにプロセスされる。この小さいペプチドは、これらのリソソーム内でMHCクラスIIのαおよびβ鎖と共に会合するようになる。先に粗面小胞体内で合成されたこのようなMHCクラスII分子は、連続的にゴルジ体に、次いでリソソームの区画に郵送される。当該ペプチド-MHC複合体は、TおよびB細胞の活性化のため、APCの表面に提示される。したがって、抗原内のタンパク質分解プロセシング部位の近づきやすさ、結果として生じるペプチドのリソソームにおける安定性、および当該ペプチドのMHC分子に対する親和性は、特定のエピトープの免疫原性についての決定因子である。このような因子はアジュバントの投与によって変えられることはできない。しかしながら、当該MHC融合複合体(すなわち共有結合によりMHCが提示のペプチド に直接連結されている)の直接的な発現は、このようなやっかいな問題を回避するはずであり、MHC融合分子の上に運ばれたエピトープに対する免疫応答を誘導するはずである。
【0182】
しかしながら、MHC複合体をコードしているDNAを直接患者に投与するよりも、かかるDNAが導入されている宿主適合性の抗原提示細胞が患者に投与されてもよい。すなわち、本発明の一つまたはそれより多いMHC複合体をコードしているDNAが、宿主適合性抗原提示細胞内に導入されてよく、さらに、形質転換されたか、またはトランスフェクトされた抗原提示細胞が、適当なT細胞との最も効果的な相互作用が起こるであろう部位を標的として、標的とされた宿主に投与されることができる。患者への投与により、巧みに工作されたかかる細胞はそこで当該細胞の表面に、当該DNAによってコードされた当該MHC複合体をインヴィヴォにおいて発現することができる。巧みに工作されたかかる細胞は、本文に開示されたように、当該細胞の他の補助刺激シグナルの発現に依存して、免疫応答を誘導するべく、あるいは免疫応答を抑制するべく、患者に投与されることが可能である。すなわち、もし投与によって当該細胞が、有効量の補助刺激シグナルの不在下に、または有効量の寛容誘導シグナルの存在下にMHC複合体を供給することができるか、あるいはアンタゴニストまたは部分アゴニストと共に提示のペプチド を含むMHC複合体を供給することができれば、当該細胞は免疫応答を抑制するべく宿主に投与されることが可能である。たとえば、有効量の寛容誘導シグナルを、たとえば、T細胞上のCTLA-4またはFas等の、寛容誘導性受容体と相互作用する、細胞表面に発現された因子によって供給することができる。別法として、もし当該細胞が有効量の補助刺激シグナルの存在下にMHC複合体を供給することができるなら、たとえば、もしB7またはB7-2等のT細胞補助刺激因子が当該細胞表面に発現されるなら、本文に開示したように、当該細胞を宿主哺乳類に投与して、当該哺乳類に免疫応答を誘導することができる。前文に議論したように、MHC複合体の両鎖ならびに、もし用いるのであればT細胞補助刺激因子をコードする単一の発現物を構築し、当該ベクターを宿主適応性APCに導入し、当該細胞を投与用に調製することが好ましいかもしれない。
【0183】
当業者には理解されるように、「宿主適合性」抗原提示細胞という用語は、当該細胞が投与される患者または「宿主」のものと同じハプロタイプの抗原提示細胞を意味する。好ましくは当該形質転換された宿主適合性抗原提示細胞は、当該細胞がそこへ向けて投与され、かつその場所で当該MHC複合体を発現する、患者のリンパ節に移動することができる。
【0184】
本発明のMHC複合体ならびにかかる複合体をコード化するDNA構築物には、数多くの治療用の適用がある。たとえば、MHCクラスII融合複合体は、哺乳類の免疫応答を抑制するべく、たとえば多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、リウマチ性関節炎、その他等の自己免疫疾患に苦しむか、または感受性の、ヒトを含めた哺乳類を治療するべく投与されることが可能である。また、治療に適するものは、望ましくない免疫応答に苦しんでいるかまたは苦しみそうな患者であって、たとえば心臓、腎臓、皮膚、または他の臓器の移植等のいくつかのタイプの移植手術を受けている患者である。かかる状況においては、治療プロトコールは外科的処置に先だって適切に開始されてもよい。
【0185】
本発明にしたがって哺乳類の免疫応答を抑制するべく、多くの異なるアプローチが用いられることが可能である。
【0186】
明確には、前文に議論したように、公表された前記PCT出願において、もし抗原提示細胞から等の補助刺激シグナルもまた伝えられるのであれば、MHC分子はT細胞系のクローン増殖を特異的に誘導することが示されている。補助刺激シグナルの非存在下か、または、少なくともかかるT細胞補助刺激シグナルのT細胞増殖有効量の送達がない場合、当該T細胞はクローンの欠失という結果に終わるアネルギーまたはアポトーシスの状態となるべく誘導されることとなる。
【0187】
したがって、免疫応答の抑制のための一つの治療法は、補助刺激シグナルが実質的に存在しない状態で、MHC融合複合体等の本発明の一つまたはそれより多いMHCクラスII複合体の有効量を、それによって特異T細胞のアネルギーを誘導しかつ望ましくない免疫応答を効果的に抑制するための投与を用意する。たとえば、「切り縮められた」可溶性のMHC複合体が投与されることが可能である、すなわち、当該MHC複合体は膜貫通部分を含まない。この投与された可溶性のMHC融合複合体の提示のペプチド は、望ましくない免疫応答のT細胞に特異的であるべく選択されることが可能であり、これらのT細胞についてアネルギーの状態が誘導される。かかる提示のペプチド は容易に同定され、前文に定義されたインヴィトロのプロトコールにより選択されることが可能である。
【0188】
本発明のMHC複合体は、たとえば腹腔内または静脈内注射などの注射により、哺乳類に適切に投与されることが可能である。局所投与、たとえば点眼薬、および、鼻および肺吸入を介した投与も可能である。MHC複合体は、少なくとも治療用の適用に用いられる複合体は、哺乳類細胞において製造されてよく、使用に先立ち精製されるため、それは本質的にまたは完全に、細菌の(bacterial)または発熱因子を含まない。所与の治療用の適用に最適な用量は、常法により決定されてよい。
【0189】
本発明のMHC複合体は、融合された提示のペプチド を含んでいる複合体を含め、治療または当該融合複合体を含む薬剤組成物において、患者(特にヒトまたはウシなどの家畜のような哺乳類)に適切に投与されてよい。本発明のかかる薬剤組成物は、この技術において既知の方法にしたがって調製され使用される。たとえば、治療用に有効な量のMHC複合体を含んでいる製剤は、単位用量または複数用量の容器、たとえば、密封されたアンプルおよびバイアルに入れて供せられてもよく、また注射用には使用直前に無菌の液体担体、たとえば水を添加するだけでよい凍結乾燥された(lyophilized)状態で貯蔵されてもよい。リポソーム製剤もまた多くの適用に好ましいかもしれない。非経口投与用の他の組成物もまた適しており、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および当該製剤を意図された受容者の血液と等張にする溶質、を含んでよい水溶性または非水溶性の無菌注射薬;および懸濁化剤および糊料を含んでよい水溶性または非水溶性の無菌懸濁液を含む。
【0190】
免疫応答の抑制のためのもう一つの治療法は、T細胞上のTCR受容体CD4を効果的に補充できない、修飾されたクラスIIβ2ドメインを含む本発明のMHC複合体の投与を用意する。T細胞受容体を当該ペプチド-MHC複合体でふさぎながら、一方でCD4との会合を阻止することは、部分アゴニストなT細胞のシグナリングおよびT細胞アネルギーを生じる結果となる(Madrenas等、J. Exper. Med., 185 : 219 - 229 (1997))。当該MHC融合複合体は、前文に述べたように提示のペプチド を装填されてよく、あるいは共有結合により連結されてもよい。当該MHC融合複合体は、膜貫通部分のすべてまたは一部を欠く切り縮められた形状でもよく、前文に述べたように可溶性タンパク質として投与される。別法として、当該MHC融合複合体は、完全長でよく、すなわち膜貫通タンパク質を含むことなる。このような複合体を用いた治療は、修飾されたクラスIIβ2ドメインを含む本発明の完全長のMHC融合複合体をコード化しているDNAベクターを含む、有効量のDNA配列の、哺乳類への投与を含むことになる。別法として治療は、修飾されたクラスIIβ2ドメインを含む本発明の完全長のMHC融合複合体を、その表面上に発現している有効量の細胞の、哺乳類への投与を含むこととなる。
【0191】
免疫応答の抑制のためのもう一つの治療法は、MHC複合体と、T細胞上の寛容誘導受容体と相互作用する一つまたはそれより多い付加的な結合活性とを含む、本発明のポリスペシフィックなMHC複合体の投与を用意する。たとえば、この付加的な結合活性は、CTLA-4またはFas等の、T細胞表面タンパク質と特異的に相互作用する、単鎖抗体またはFasL等の、タンパク質またはペプチドによって定義されてよい。CTLA-4およびFasが携わることで、T細胞機能のダウンレギュレーションかまたはT細胞アポトーシスを生じる結果となる。前述のように、当該MHC複合体は提示のペプチド を装填されるか、または提示のペプチド に共有結合により連結されてよい。当該ポリスペシフィックなMHC複合体は、膜貫通部分を欠く形に切り縮められてよく、前文に記述したように可溶性タンパク質として投与される。
【0192】
免疫応答の抑制のためのさらにもう一つの治療法は、T細胞受容体アンタゴニストまたは部分アゴニストである共有結合により連結された提示のペプチド を含む、本発明のMHC複合体の投与を用意する(Sette等、Annu. Rev. Immunol., 12 : 413 - 431 (1994)参照)。当該MHC融合複合体は、切り縮められた形でよく、前文に述べたように可溶性タンパク質として投与さる。別法として、当該MHC融合複合体は完全長でよく、すなわち膜貫通部分を含むこととなる。このような複合体を用いた治療は、本発明の完全長のMHC融合複合体と、TCRアンタゴニストまたは部分アゴニストである提示のペプチド とをコード化しているDNAベクターを含む、有効量のDNA配列の哺乳類への投与を含むこととなる。かかるMHC融合複合体の適切な調製法ならびにその免疫抑制療法のための使用法については、たとえば、上記の議論および以下の実施例3、11〜13を参照のこと。
TCRアンタゴニストまたは部分アゴニストである提示のペプチド は、前文に定義したインヴィトロのプロトコールにより容易に同定および選択されることが可能である。T細胞受容体アンタゴニストまたは部分アゴニストである提示のペプチド を含むMHC融合複合体は、アレルギーおよび、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、およびリウマチ性関節炎等の自己免疫疾患の治療用には特に好ましい。
【0193】
さらに、前文ならびに前記PCT出願番号WO96/04314に議論したように、本発明のMHC複合体をコードしているDNAがそれに導入された、宿主適合性抗原提示細胞が、免疫応答を抑制するべく、患者に投与されてよい。投与により当該細胞は、有効量の補助刺激シグナルの非存在下に、当該MHC複合体を発現し、すなわちT細胞アネルギーが誘導され、および/または投与された細胞が、アンタゴニストまたは部分アゴニスト活性をもつ連結された提示のペプチド を含むMHC融合複合体を発現するようにする。
【0194】
本発明の異なる免疫抑制療法もまた、組み合わせて、ならびに抗炎症剤薬等の既知の免疫抑制剤と共に、T細胞を介する疾患のさらに有効な治療を提供するべく用いられてもよい。たとえば、自己免疫疾患およびアレルギーの治療用の、コルチコステロイドおよび非ステロイド性薬等の、抗炎症剤と組み合わせて使用されることが可能な免疫抑制MHC融合複合体である。
【0195】
本発明はまた、感染症または、癌、特に黒色腫癌、またはマラリア等の他の疾患のような標的とされた疾患に対し、ワクチン接種することを含めた、ヒト等の哺乳類において免疫応答を引き出すための方法を提供する。
【0196】
このような方法は、膜貫通部分を含む本発明のMHC複合体をコードしているDNAベクターを含む、有効量のDNA配列を哺乳類に投与すること、および/または膜貫通部分を含むかかるMHC融合複合体の投与、および/またはかかるMHC複合体をコードするかかるDNAを含む宿主適合性抗原提示細胞の投与、を含む。MHC複合体の発現ベクターの調製は、前文および以下の実施例1ないし3に記述されている。プラスミドDNAの投与法、投与された患者の細胞による当該DNAの取り込み、およびタンパク質の発現が報告されている(J. Ulmer等、Science, 259 : 1745 - 1749 (1993)参照)。
【0197】
一つの例示的な方法においては、MHC複合体をコードするDNAは、CD80またはCD86をコードしているDNA等の、細胞補助刺激因子をコードしているDNA配列と共に哺乳類に投与される。CD80遺伝子とその発現は、D. Harlan等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91 : 3137 - 3141 (1994)に述べられている。患者の細胞による当該DNAの取り込みにより、T細胞補助刺激因子が発現されることとなり、当該補助刺激の供給が可能となり、それにより免疫応答の開始を補助する。CD80またはCD86遺伝子を含んでいる発現ベクターの構築に関する開示については、公開された該PCT出願ならびに該米国係属出願を参照のこと。
【0198】
MHC複合体をコードしているDNAを、前文に議論したようなヒト等の哺乳類に投与することは、患者において免疫応答を引き起こすための一つの方法ではあるが、MHC複合体はまた他の経路により適切に投与されてもよい。したがって、前文に議論したように、MHC複合体をコードしているDNAが導入された宿主適合性抗原提示細胞が、免疫応答を誘導するべく投与されてもよい。投与により細胞は、CD80またはCD86遺伝子等の有効量のT細胞補助刺激シグナルの存在下にMHC複合体を発現し、および/または投与された細胞は、たとえば以下の実施例に詳しく述べられた手順によるT細胞の増殖によって示されるような免疫応答を引き起こすことの可能な、完全長のMHC複合体を発現する。
【0199】
別法として、免疫応答を引き起こすことの可能な本発明の適当なMHC複合体、たとえばT細胞の増殖を刺激または誘導することのできる共有結合により連結された抗原提示のペプチド を含むMHC複合体を、直接患者に投与してもよい。典型的には、当該MHC複合体は組換えにより融合された提示のペプチド を含むこととなるが、いくつかの所望の適用には空または装填された複合体が用いられてもよい。
【0200】
免疫応答を引き起こすためのもう一つの治療法は、MHC複合体と、T細胞上の補助刺激受容体と相互作用する一つまたはそれより多い付加的な結合活性とを含む本発明のポリスペシフィックなMHC複合体を投与するようにする。たとえば付加的な結合活性は、CD28等のT細胞表面タンパク質と特異的に相互作用する単鎖抗体、CD80またはCD86等のタンパク質またはペプチドによって定義されてもよい。CD28によって提供される補助刺激シグナルは、それらがT細胞の増殖と、サイトカイン産生および細胞崩壊等のエフェクター細胞の機能とを増加させるという理由から、TcRの仕事の成果を決定する。当該MHC複合体は前文に述べたように、提示のペプチド を装填されるか、または共有結合によって提示のペプチド に連結されてもよい。当該ポリスペシフィックなMHC複合体は前文に述べたように、膜貫通部分を欠く形状に切り縮められ、可溶性タンパク質として投与されてよい。
【0201】
標的とされた疾患に対し患者にワクチン接種することを含め、免疫応答を誘導するための本発明の方法を、免疫応答を誘導するための既知の方法と組み合わせて用いてもよい。たとえば、本発明のsc−MHCクラスII複合体、またはかかるMHC複合体をコードしているDNA構築物は、ワクチン組成物の投与と共同または組み合わせ、かかるワクチンの所望の効果を高めるかまたは引き伸ばすべく、患者に投与されてよい。
【0202】
さらに、本発明のMHC複合体、かかる複合体をコード化するDNAベクター、およびかかるDNAベクターを含む宿主適合性抗原提示細胞を、種々の他の経路により、各々適切に患者に投与してもよい。たとえば、免疫応答を誘導するためには、抗原性のMHC融合複合体をコード化するDNAベクターを、単独かまたは補助刺激因子をコードしているDNAと共に、当業者に周知の手順により患者へ皮内投与することが好ましいかもしれない。かかる投与は皮内の抗原提示細胞(たとえば樹状細胞)の形質転換およびT細胞の増殖を生じる結果となることが可能である。MHC融合複合体およびかかる融合複合体をコード化しているDNAベクターもまた、他の経路により、たとえば経口または経皮的に患者に投与されてもよい。
【0203】
ヒトの疾患を治療することに加えて、融合された提示のペプチド を含んでいるような本発明のMHC複合体、およびかかる複合体をコード化するDNA構築物は、たとえばウシ、ヒツジ、その他の家畜、およびイヌおよびネコ等のペットの病気の治療に有意な効用をもつであろう。
【0204】
本文において開示されたMHC複合体か、またはかかる複合体をコードしているDNA構築物は、単独で患者に投与されてよいが、それらはまた各々が製剤組成物の一部として用いられてもよい。薬剤組成物は一般に、一つまたはそれより多い本発明のMHC複合体か、またはかかるかかる複合体をコードしているDNA構築物を、一つまたはそれより多い許容される担体と共に含む。当該担体は、当該製剤の他の成分と適合性があり、かつその受容者に有害でないという意味で「許容」されなければならない。たとえば、注射用製剤等の非経口投与には、水を用いた無菌の溶液または懸濁液か、あるいは他の製薬上許容される溶液が調製されてもよい。かかる薬剤組成物は、この技術に周知の方法により適当に調製される。
【0205】
所与の治療に用いられる所与のMHC複合体またはそれをコードしているDNA構築物の実際上の好ましい量は、使用される個々の活性化合物または複数の化合物、個々の製剤された組成物、適用の様式、個々の投与部位、患者の体重、全身の健康状態、性別等、治療される個々の適応症その他、および主治医または獣医を含めた当業者に認められるような他の因子、によって変わるであろう。所与の投与プロトコールの最適投与量は、たとえば前述のガイドラインならびに本文に開示した分析に関して行なわれる通常の用量決定試験を用い、当業者により容易に決定されることが可能である。
【0206】
先に述べたように、本発明の空のMHC複合体、たとえば空のsc−MHCクラスII複合体は、本発明の装填されたsc−MHC複合体を形成するべく、適当な提示のペプチド と結合されることが可能である。MHCペプチド融合複合体の投与が必要とされるいくつかの場合においては、前文に述べたように、かかる装填された複合体を適切に用ることが可能であることが理解されよう。MHCペプチド融合複合体をコード化しているDNA構築物が用いられる例では、もし当該空のMHC分子のペプチド結合の溝または裂け目に対する、適当な提示のペプチド の非共有結合による結合に適した条件が供給されるのであれば、適当な空の単鎖MHC複合体をコード化している一つまたはそれより多いDNA構築物が用いられてよい。空の単鎖MHC分子に対する適当な提示のペプチド の結合のための条件の実例は、下文にさらに完全に議論されている。本発明の装填されたMHC複合体、たとえば装填されたMHCクラスIIペプチド融合複合体は、前文に述べたようなヒト、家畜、およびペットの治療に効用を有する。
【0207】
本発明のMHC複合体を用いて、公表されたPCT出願番号WO96/04314に述べられた方法により、トランスジェニックマウスを構築することができることが理解されよう。かかるマウスの系統は、たとえばT細胞等の特異的な免疫細胞の活性が調節されることが可能なモデルシステム等として有用である。
【0208】
「特異的な結合」または類似した用語により、ウェスタン法、ELISA、RIA、ゲル移動度シフト分析法、エンザイムイムノアッセイ、競合検定、飽和検定、またはこの技術において周知の他の適当なタンパク質結合検定法により測定されるような、別の分子と結合して特異的な結合対を形成するが、他の分子を認識ならびに結合することができない、本文に開示された分子が意味される。全般的にAusubel等、前出、Sambrook等、前出、およびタンパク質間の特異結合を検出するための適当な通常の方法については、HarlowおよびLane, Antibodies : A Laboratory Manual, CSH出版、ニューヨーク(1988)参照。
【0209】
「プロモーター」によって、遺伝子の転写開始に先立ち、転写酵素複合体が結合するDNAセグメントが意味される。トランスジェニックマウスの構築用には、好ましいプロモーターは、Ohashi等によって、Cell 65, 305 - 317(1991) に述べられたIAdプロモーターおよびラットインスリンプロモーターを含む。
【0210】
本文に述べたすべての書類は、ことごとく参考文献として本文に取り入れられている。
【実施例】
【0211】
以下の実施例は、本発明の説明のためのものであり、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0212】
実施例1 一つのTMドメインをもつ単鎖クラスIIMHC分子(sc-IAd/OVA)の構築ならびに細胞表面での発現
本文に述べた方法にしたがい、sc-IAd/OVA融合分子(図1およびSEQ ID NO:24および25参照)が以下の方法により作成された:
【0213】
A20-1.11細胞から単離された全RNAからのIAdαおよびβ鎖遺伝子フラグメントを増幅するべく、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RTP-CR)を行なった(K. Kim等、J. Immunol, 122 : 546 (1979))。クローニングを容易にするため、PCRにより適当な制限酵素部位を当該遺伝子フラグメントの各々の末端に導入した。10アミノ酸のペプチドリンカーをコード化しているDNAを、β1-β2遺伝子フラグメントの5´末端にし、さらに当該βシグナル配列の´末端にコザックコンセンサス配列を、PCRにより導入した。24アミノ酸のリンカーおよびOVA抗原ペプチドは、アニールされたオリゴヌクレオチドから生成された。pBlueScript-IIベクター(ストラタジーン(Stratagene))における当該PCRフラグメントと二本鎖オリゴヌクレオチドとの集合は、sc-IAd融合遺伝子(図1およびSEQ ID NO:24参照)を生成した。哺乳類の発現用には、sc/IAd-OVA遺伝子(α鎖TMおよび細胞質領域を含んでいる)を、pEE13CMVプロモーター(セル・テック(Cell Tech))の下流にサブクローニングすることによりpSCT1ベクターを生成した。pEE13ベクターはまた選択可能なグルタミン酸シンターゼ遺伝子を運んでいる。
【0214】
sc-IAd/OVA融合分子を、細胞表面での発現について以下の方法により検査した:sc-IAd/OVA融合遺伝子を運んでいる発現ベクターでトランスフェクトされたプラズマ細胞腫NS-O細胞を選択し、クラスII分子の表面での発現をフローサイトメトリーにより調べた。sc-IAd/OVA融合遺伝子を運んでいる直鎖化されたpSCT1DNAを用いた電気穿孔により、NS-O細胞をトランスフェクトした。この細胞を、グルタミンのない培地における生育により選択した。トランスフェクタント(transfectant)(すなわちT12細胞)は14ないし21日後に明らかになり、クラスIIMHC分子の表面での発現について分析された。この細胞をFITCをコンジュゲートした抗IAdmAb(AMS-32.1ファルミンゲン(PharMingen))を用いて染色し、フローサイトメトリーにより蛍光を調べた。アイソタイプの一致するFITCを接合された抗IAκmAb(10-3.6;ファルミンゲン)をネガティブコントロールとして用いた。
【0215】
図2Aは、細胞表面における機能性の単鎖融合分子の発現を示している。安定したトランスフェクタントを、抗IAdmAbおよび抗IAκmAbを用いたサイトメトリーにより分析した。T12トランスフェクタントについて示された結果は、他の3つの別々のトランスフェクタントについて見られたものと同様であった(m.f.i.は平均蛍光強度である)。この結果は、sc-IAd/OVA発現ベクターを用いてトランスフェクトされた細胞の表面における、sc-IAd/OVAの発現の増加を証明している。インタクトなβTMドメインは、クラスII分子の細胞表面の発現には必要とされない;当該βとα鎖を連結しているたわみ性のあるリンカーは、βTMドメインの機能を代わることができる。最後に、この結果はまたは、当該提示のペプチド を単鎖MHCクラスII分子に共有結合により連結することが、当該MHC分子の安定な集合および表面発現を促進することを証明している。当該提示のペプチド を当該βに連結することもまた、単鎖MHC融合分子の安定な集合ならびに細胞表面での発現を可能にするであろう。
【0216】
実施例2 細胞表面sc-IAd/OVA融合複合体はインビトロのT細胞応答を誘導する
OVAペプチドがsc-IAd融合複合体に正しく折りたたまれるかどうかを調べるため、sc-IAd/OVAでトランスフェクトした細胞について、T細胞を刺激する能力を調べた。T細胞受容体(TcR)を発現するマウスT細胞ハイブリドーマ(DO11.10)を使用した。このTCRは、IAdという状況にあるOVA323-339ペプチドを認識する。これらの細胞のTCRがAPC(ここではsc-IAd/OVAトランスフェクタント)と相互作用すると、DO11.10細胞はインターロイキン2(IL-2)を分泌する。DO11.10細胞(2x105/ウェル)を、NS-0細胞のT12トランスフェクタント(2x105/ウェル)の存在下に24時間培養し、培地に放出されたIL-2を、IL-2特異ELISA(ファルミンゲン)により測定した。マウスIAdをつけているB細胞リンパ腫、A20-1.11細胞(1x105/ウェル)を、抗原提示についてのポジティブコントロールとし、20mMOVA323-339を用いてパルスした(K. Kim等、J. Immunol, 122 : 549 (1979))。T12細胞のみの培地にはIL-2は検出されなかった。図2Bに示したように、NS-0細胞(トランスフェクトされていない)はDO11.10細胞を刺激できなかったが、sc-IAd/OVA融合遺伝子を用いてトランスフェクトされた細胞は、DO11.10細胞からのIL-2分泌が強く刺激された。結果は他の二つのsc-IAd/OVAトランスフェクタントのものとと同様であった。IL-2分泌の程度は、OVAペプチドを用いてパルスされた、IAdをつけているAPCに関して見られるものに匹敵していた。この結果は、OVAペプチドがsc-IAd融合複合体の中に、正しく折りたたまれていること、およびIAdという状況にあるOVAペプチドがDO11.10細胞の表面上のTcRによって認識されることを証明する。
【0217】
実施例3 単鎖クラスIIおよび単鎖クラスII-IgG CL鎖融合遺伝子の構築
二つの異なるIAd制限ペプチドが用いられた:ニワトリオボアルブミンからのOVA323-339(ISQAVHAAHAEINEAGR(SEQ ID NO:26)(Buus, S.等、Science 235 : 1353 (1987))、およびHSV-1糖タンパク質DからのgD246-261(APYSTLLPPELSETP(SEQ ID NO:27)(Grammer, S. F.等、J. Immunol. 145 : 249 (1990))。これらのペプチドをコード化しているオリゴヌクレオチドを、sc-IAd遺伝子のシグナルペプチド配列とペプチドリンカーとの間に挿入した(図1、図3及び図4参照)。結果として構築された融合遺伝子は、ペプチドを運んでいないsc-IAd融合タンパク質(sc-IAd/ブランク)、OVA323-339ペプチド(sc-IAd/OVA)、またはgD246-261ペプチド(sc-IAd/gG)をコード化する。
【0218】
この実施例に述べたベクターの生成についての詳細な仕組は図3ないし図4に示されている。sc-クラスII遺伝子の構築において用いられるプライマーの一覧表は、表1に示されている。A20-1.11細胞から単離された全RNAからIAdαおよびβ鎖遺伝子フラグメントを増幅するべく、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行なった。以下のオリゴヌクレオチド対を最初のPCR増幅に用いた:IAdリーダー遺伝子フラグメント-OPR132,(SEQ ID NO:2)OPR133(SEQ ID NO:3);IAdβ1-β2遺伝子フラグメント-OPR102(SEQ ID NO:4),OPR104(SEQ ID NO:5);およびIAdα1-α2-OPR100(SEQ ID NO:6),OPR101(SEQ ID NO:7)。フラグメントのクローニングを容易にするため、後続のPCR増幅において、当該遺伝子フラグメントの末端に制限部位が導入された。10アミノ酸のペプチドリンカーをコード化している配列をβ1-β2遺伝子フラグメントの5´末端に導入し、コザックコンセンサス配列(SEQ ID NO:1)をβシグナル配列の5´末端にPCRにより導入した。当該24アミノ酸リンカーおよび抗原ペプチドをコード化している領域は、アニールされたオリゴヌクレオチドから生成された。当該PCRフラグメントと二本鎖オリゴヌクレオチドとのpBlueSCriptIIにおける集合により、図3および図4に表されたsc-IAd融合遺伝子を生じた。
【0219】
可溶性の発現のためには、当該sc-クラスII融合遺伝子は、適切な分泌およびプロセッシングのためのシグナルペプチド、抗原性または自己反応性ペプチドの挿入領域、ペプチドリンカー配列、クラスIIβ1-β2ドメイン、単鎖ペプチドリンカー配列、およびクラスIIα1-α2ドメインをコード化する。精製を容易にするため、および当該sc-クラスII分子に、連結タンパク質および/またはエフェクター分子との結合能力を提供するため、当該クラスIIα1-α2ドメインの後に付加的な配列が挿入されることが可能である。このような配列は6個のヒスチジン残基(6Xhisまたは6H)、抗体タグ配列(EEタグ)、またはIgG CL鎖ドメインを含む。
【0220】
たとえば、sc-IAd-IgG鎖 Cκ融合構築物の生成は、以下のように行なわれた:OVA−IAdβ1-β2−scリンカー−IAdα1-α2鋳型(実施例1参照)を、オリゴヌクレオチドプライマーIADF100(SEQ ID NO:8)、IADB100(SEQ ID NO:9)を用いてPCR増幅した。これらの反応はOVA配列の5´末端にEcoRV部位を付加し、κエクソン/イントロン配列およびBstBI部位をα2配列の3´末端に付加する。当該sc-IAd/OVAのPCR産物をpGEM-Tベクターにクローン化し、配列を確認した。次いで当該融合遺伝子を、CMVプロモーター、マウスIgGκリーダーペプチド、当該クローニング領域、マウスκイントロン、およびマウスκ定常ドメインエクソン配列、を運んでいる哺乳類の発現ベクターpSUN6(下文に述べた)にサブクローン化した。結果として得られるベクターをplADKと呼ぶ。
【0221】
1. 多発性硬化症に関係する遺伝子のクラスIIMHC分子への挿入
多発性硬化症に関係するHLA-DR2(1501)遺伝子が、sc-IAd遺伝子のものと同様の単鎖型に連結された(図17参照)。sc-DR2遺伝子産物を、多発性硬化症に関係するペプチド、たとえばMBP(83-102)Y83:Y-D-E-N-P-V-V-H-F-F-K-N-I-V-T-P-R-T-P-P(SEQ ID NO:28)(Arimilli S.等、(1995), J. Biol. Chem. 270 : 971)と複合体形成することができる(共有結合によるかまたは非共有結合により)。DRA1*0101α1α2遺伝子フラグメント(アミノ酸1ないし192をコード化している)がまず、先に述べられたように単離された(公表されたPCT出願WO96/04314参照)。この遺伝子フラグメントを、5´末端にHind IIIおよびXho I部位を、また3´末端にBamH I部位を付加するプライマー(OPR158,DR1A-B)を用いたPCRにより再増幅させた。HLA-DR2α1α2遺伝子フラグメントは、配列の確認のため、クローニング部位(Hind III、BamH I、およびEcoRI部位)を運んでいるシャトルベクターpJRS161.1に(Hind III、BamH Iを用いて)サブクローン化した。HLA-DR2α1α2遺伝子フラグメントは、クローニング領域(Nco I、Nhe I、およびSpe I部位)、14アミノ酸のリンカー配列(T-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-S-SSEQ ID NO:29)、および第二のクローニング領域(Xho I、BamHI、およびEcoRI部位)をベクター細菌シャトルベクターSBIAにサブクローン化した。EE抗原タグを(E-E-E-E-Y-M-P-M-E-P-G-停止(SEQ ID NO:30))コード化しているアニールされたオリゴヌクレオチド(OPR203000(SEQ ID NO:12))、OPR203001(SEQ ID NO:13)を、第2のクローニング領域のBamHIとEcoRI部位の間にサブクローン化した。結果として得られたベクターをSBDE1と呼ぶ。 HLA-DR2α1-α2遺伝子フラグメントもまた、クローニング領域(Nco I、Nhe I、およびSpe I部位)、24アミノ酸の単鎖リンカー配列(T-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-S-S(SEQ ID NO:31))、および第2のクローニング領域(Xho I、BamHI、およびEcoRI部位)へ、細菌シャトルベクターSIAにサブクローン化した(Xho IおよびEcoRIを用いて)。EE抗原タグをコード化しているアニールされたオリゴヌクレオチド(OPR203000、OPR203001)を、第2のクローニング領域のBamHIとEcoRI部位の間にサブクローン化した。結果として得られたベクターをSDE3と呼ぶ。HLA-DR2(1501)遺伝子配列に関する開示についてはKabat, E. A.前出参照)。
【0222】
HLA-DRB1*1501遺伝子用には、ヒトリンパ球細胞系DO208915(ASHI Repository Accession No. 9008)から全RNAを単離した。DRB1*1501β1-β2遺伝子フラグメント(アミノ酸1〜188)のcDNA生成およびPCR増幅を、オリゴヌクレオチドプライマー(DR2B-F(SEQ ID NO:14)、DR2B-B2(SEQ ID NO:15))を用いて行なった。これらのプライマーは、Nhe I部位と8アミノ酸のリンカー配列とをβ1配列の5´末端に、またSpeIおよびEcoRI部位をβ2配列の3´末端に付加できるようにする。このDRB1*1501 PCR産物を、AflII、NheI、およびEcoRI制限部位を運んでいるベクターにクローン化した(NheI/EcoRI)。MBP(84〜102)(D-E-N-P-V-V-H-F-F-K-N-I-V-T-P-R-T-P-P(SEQ ID NO:32))をコード化しているアニールされたオリゴヌクレオチド(MBPF、MBPR)を、DRB1*1501ベクターのAflIIとNheI部位の間にサブクローン化した。24アミノ酸の単鎖リンカー配列(T-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-G-G-G-G-S-S-S SEQ ID NO:31)を、DRB1*1501ベクターのSpeIとEcoRI部位の間に挿入した。最後に、前述のDRA1*0101α1α2遺伝子フラグメント(アミノ酸1ないし192をコード化している)を、sc-リンカー配列の後に挿入した。完成されたベクターはMBP-DRB1*1501β1-β2-sc-リンカー-DRA1*0101α1α2遺伝子フラグメントを運んでおり、さらなる操作のための鋳型として役立てられた。
【0223】
1. MHCクラスIIβ2ドメインの欠失は可溶性発現を亢進する
亢進された可溶性の発現を検査するため、β2ドメインに欠失をもつ単鎖DR2構築物が生成された(図17B参照)。一つの例においては、完全なβ2ドメインは、鋳型MBP-DRB1*1501β1-β2を、適当なオリゴヌクレオチドプライマー(細菌性発現には-MB201806(SEQ ID NO:16)とMB175959(SEQ ID NO:17)、バキュロウイルス性発現には-MB201807(SEQ ID NO:18)およびMB175959(SEQ ID NO:17))を用いてPCR増幅することにより欠失させた。このような反応はMBP配列を次のように変えた:Y-D-E-N-P-V-V-H-F-F-K-N-I-V-T-P-R-T-P-P(SEQ ID NO:28)。PCRの細菌性の発現物は、1997年5月7日に出願され、その開示が参考文献に取り入れられている米国同時係属出願第08/813,781号に開示されたpKC62に由来する細菌発現ベクター8BIAにクローン化された。このベクターは、クローン化された遺伝子フラグメントの誘導可能な可溶性の発現のためのphoAプロモーターおよびpelBリーダー配列を運ぶ。このPCR産物をpGEM-Tベクターにクローン化し、配列を確認した。細菌性発現には、MBP-DRB1*1501β1フラグメント(NcoI-SpeI)をSBDE1ベクターにサブクローン化し、結果としてSBDE2発現ベクターを生じた。バキュロウイルス性の発現用には、pGEM-T中のMBP-DRB1*1501β1フラグメントを、ポリヘドリン(polyhedrin)プロモーターの支配下にメリチンシグナルペプチドをコード化するべく修飾された、pBlueBac4.5(インヴィトロジェン)のバージョンにクローン化した(Nsi I-Nco I)。SBDE1の14アミノ酸リンカー-DR2α1-α2-EEタグ融合遺伝子フラグメント(Spe I-EcoRI)を、MBP-DRB1*1501α1フラグメントの位置のpGEM-Tベクターにサブクローン化した。単鎖DR2Δβ2/MBPフラグメントは、ポリヘドリンプロモーターの支配下にメリチンシグナルペプチドをコード化するべく修飾された pBlueBac4.5(インヴィトロジェン)のバージョンにクローン化された(NsiI/EcoRI)。結果として得られたベクターをpMB959と呼ぶ。
【0224】
前文に述べたpKC62ベクター(pSUN19)は、ブタペスト条約に従い、メリーランド州、ロックビル、12301パークマン(Parkman)ドライブのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されている。このDNAベクターは1997年2月26日に寄託され、受託番号第97896号を与えられた当該pKC62ベクターは、phoAプロモーター、修飾されたpelB配列、遺伝子10リボソーム結合部位、およびバクテリオファージ遺伝子VIIIプロモーターを含む。当該DNAベクターは、常法にしたがって、大腸菌または他の適当な宿主細胞において容易に伝播されることが可能である。β2ドメインをさらに修飾するため、pCI-neo/DR2鋳型を、適当なオリゴヌクレオチドプライマー(MB201807(SEQ ID NO:18)とMB201810(SEQ ID NO:21)、およびアミノ酸117のCysコドンをSerコドンに突然変異させるためのMB201809(SEQ ID NO:20)とMB201808(SEQ ID NO:19)を用いてPCR増幅し、続いてMB201807(SEQ ID NO:18)とMB201808(SEQ ID NO:19)を用いた重複PCRを行なった。このような反応はMBP分子を次のように変えた;Y-D-E-N-P-V-V-H-F-F-K-N-I-V-T-P-R-T-P-P(SEQ ID NO:28)。このPCR産物をpGEM−Tベクターにクローン化し、配列を確認した。バキュロウイルス性発現用には、pGEM-T中のMBP-DRB1*1501β1-modβ2フラグメントを、ポリヘドリンプロモーターの支配下にメリチンシグナルペプチドをコード化するべく修飾されたpBlueBac4.5(インヴィトロジェン)のバージョンにクローン化した(NsiI-NcoI)。SBDE3の24アミノ酸リンカー-DR2α1-α2-EEタグ融合遺伝子フラグメント(SpeI-EcoRI)を、MBP-DRB1*1501β1-modβ2modβ2フラグメントを運んでいるpGEM-Tベクターにサブクローン化した。単鎖DR2Δβ2/MBPフラグメントを、ポリヘドリンプロモーターの支配下にメリチンシグナルペプチドをコード化するべく修飾された、pBlueBac4.5(インヴィトロジェン)のバージョンにクローン化した(NsiI/EcoRI)。結果として得られたベクターをpMB808と呼ぶ。
【0225】
sc-DR2-IgG Cκ融合構築物の生成用には、鋳型MBP-DR*1501β1-β2-sc-リンカー-DRA1*0101α1α2を、オリゴヌクレオチドプライマー、OPR215(SEQ ID NO:22)、OPR216(SEQ ID NO:23)を用いてPCR増幅した。これらの反応はMBP配列の5´末端にAge I部位を付加し、MBP配列をY-D-E-N-P-V-V-H-F-F-K-N-I-V-T-P-R-T-P-P(SEQ ID NO:28)に変え、さらにα2配列の3´末端にκエクソン/イントロン配列およびCla I部位を付加する。sc-DR2/MBPのPCR産物をpGEM-Tベクターにサブクローン化し、配列を確認した。次いで融合された遺伝子を、CMVプロモーター、マウスIgGκリーダーペプチド、クローニング領域、マウスκイントロン、およびヒトκ定常ドメインエクソン配列の位置の哺乳類発現ベクターpKC180(下記)にサブクローン化した。結果として得られたベクターをpDRHKと呼ぶ。
【0226】
哺乳類Ig-Cκ発現ベクター、pSUN6およびpKCM180を、以下のように生成した:このベクターのバックボーンは、クローン化された遺伝子の発現を駆動するCMVプロモーターを運ぶプラスミドpCDNA3(インビトロジェン)である。このプラスミドはHindIII/XhoI切断され、「L鎖ポリリンカー」DNAフラグメントが挿入され、pCDNA:LCPL出発ベクターが作成された。このリンカーは、後続のクローニングの工程を容易にするべく、制限部位HindIII、KpnI、ClaI、PmlI、EcoRV、AgeI、XmaI、BamHI、およびXhoIを含んでいた。L鎖リーダー、抗CKMBκL鎖ゲノムフラグメント、および3´UTRを含んでいるSmaI/BclI DNAフラグメントを、pCDNA/LCPLのEcoRV/BamHI部位にクローン化した。このフラグメントにおけるマウスイントロン、エクソン、および3´UTRは、Near等(1990)によりMol. Immunol. 27 : 901に述べられたpneo/20-10VLから由来した。次いで後続の突然変異誘発が行なわれ、適切な制限酵素部位が除去および導入され、pSUN6ベクターが作成された。このベクターは、CMVプロモーターと、後続のL鎖リーダー配列、および抗CKMMBκL鎖ゲノム配列であって、その可変ドメイン遺伝子がEcoRV/BstBIフラグメントとして、またマウスκ定常ドメイン遺伝子配列がEcoNI/XhoIとして存在している、ゲノム配列を運んでいる。
【0227】
ヒトCκ発現ベクターを作成するためには、pSUN6のマウスκ定常ドメイン配列(EcoNI/XhoI)が、ヒトκ定常ドメインを運んでいる適切なPCR増幅フラグメントを用いて置換された。結果として得られたベクター、pKCM180は、CMVプロモーターに続くL鎖リーダー配列、抗CKMBκL可変ドメインエクソン、マウスイントロン、およびヒトκL鎖エクソン配列を運ぶ。
【0228】
前文に述べたpDRHKおよびpIAdkベクターは、ブタペスト条約にしたがい、前記の住所のATCCに寄託された。当該DNAベクターは1997年9月17日に寄託され、受託番号209274(pDRHK)および209275(pIAdk)を与えられた。当該DNAベクターは、常法に従い、種々の適当な哺乳類の宿主細胞において容易に伝播されることが可能である。
【0229】
実施例4 細菌細胞における可溶性のsc−MHCクラスII分子の発現
大腸菌MM294株(Sambrook等、前出)を、標準的な分子クローニングの方法論により、3DE3プラスミド(たとえばsc-DR2Δβ2/MBP、実施例3参照)を用いて形質転換した。このベクターはアンピシリンに対する耐性を与える遺伝子を運ぶ。形質転換されたMM294細胞を、高リン酸塩培地(合成培地において10mMKH2PO4、50μg/mlアンピシリン、0.4%グルコース、0.15%カザミノ酸、0.0002%チアミン、4mMトリシン、10mM FeSO4、9.7mM NH4Cl4、0.29mM K2SO4、0.07mM CaCl2、0.53mM MgCl2、50mM NaCl、40mM MOPS、pH74)中で、30℃にて一晩増殖させた。sc-DR2遺伝子産物の発現を誘導するため、この細胞を低リン酸塩培地(合成培地において0.1mM KH2PO4)に、30℃にて8時間にわたり移行した。細胞を収穫し、PBS+1%トリトンX−100に再懸濁した。超音波処理により細胞壁を破壊し、遠心分離した後、可溶性の物質を集めた。発現されたDR2分子は、捕捉mAbとしてのMAS-96p(0.1μg/ウェル)(ハーラン・シーラ・ラブ(Harlan Sera-lab))、およびプローブmAbとしてのHRPコンジュゲートL243(0.1μl/ml)(ATCC HB-55)を用いた構造特異・DR特異サンドウィッチELISAにより検出された。抗体の結合はアビジンペルオキシダーゼ(0.25μg/ウェル)との、および後続のABTS基質(カーケガード・アンド・ペリー(Kirkegaard and Perry))とのインキュベートにより検出した。精製されたネイティブなDR2をポジティブな標準とした。かかる検定の結果を次の表1(英文は表2)に示す。
【0230】
【表1】
【0231】
これらの結果は、β2ドメインを欠くsc-DR2分子が、ネイティブなHLA-DR構造の正しい折りたたみに特異的な抗体によって認識される形状に発現されていることを示している。このことは、クラスII分子のβ2ドメインがα2ドメインと相互作用することが知られており、また当該複合体の正しい折りたたみに重要な役割を果たすと考えられているため、意外な結果であった(Brown, J. H.等、1993. Nature 364 : 33参照)。さらに、ドメインの除去は当該sc-クラスII分子の細菌細胞における可溶性の発現を増進するらしい。このことは、完全長のβ2ドメインを運んでいるsc-DR2構築物は、大腸菌においては不溶性の形状で発現されるため、予期されなかった。
【0232】
1. 大腸菌におけるMHC複合体の大量産生
可溶性のsc-クラスII分子の大量の産生が、大腸菌の発現システムを用いて行なわれた。たとえば、80Lの合成増殖培地を含んでいる発酵槽の各々に、sc-DR2融合遺伝子を運んでいる形質転換されたMM294を植え付けることができる。この細胞は標準的な細菌発酵技術にしたがって維持されてよい。一度増殖培地からリン酸塩が欠失されると、sc-DR2遺伝子産物の発現が誘導されることとなる。この細胞を適切な時間に、連続フロー遠心分離法またはミリポア・ペリコン・タンジェンシャル・フロー・マイクロポーラス・フィルトレーション・ユニット(MilloporePellicon tangential flow micrporous filtration unit)(微孔性ろ過装置)により集めることができる。当該細胞をゴーリン・プレス(Gaulin press)を用いて破壊し、当該sc−MHCクラスII分子を運んでいる可溶性の物質は遠心分離に続いて取得することができる。各発酵物から約0.01ないし0.1グラムの量の可溶性MHCクラスII分子が産生されることとなる。
【0233】
実施例5 昆虫細胞における可溶性sc−MHCクラスII分子の発現
可溶性のsc-IAdおよびsc-DR2分子を、SF9昆虫細胞から、バキュロウイルスの発現系を(インヴィトロジェン)を用いることにより取得した。ペプチドがない(sc-IAd/ブランク)か、OVA323〜339ペプチドをもつ(sc-IAd/OVA)か、またはgD246〜261ペプチド(sc-IAd/gD)をもつ可溶性のsc-IAd構築物を、pBluebacIIIのバキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流に、製造業者の指示(インヴィトロジェン)にしたがって各々サブクローン化した。sc-DR2構築物、pMB959,およびpMB808は、前文に述べたように調製された。当該融合遺伝子は、直鎖化されたwt AcMN-PV(野性型)を用いたSF9昆虫細胞のリポソームを介するコトランスフェクションに続き、別々にバキュロウイルスに組換えられた。限界希釈法によるクローニングの後、精製された組換えウイルスのストックが調製された。
【0234】
さらに具体的には、可溶性のsc-IAd融合遺伝子産物の産生は、10%ウシ胎児血清を添加したHinkのTMN-FH昆虫培地においてSF9細胞(1x106細胞/ml)を感染することにより達成される。多重感染度(MOI)は約10であった。5日後、培養上清を集め、次いでアフィニティーによる精製に先立ち、1Mトリスを用いてpHを8.0に合わせた。発現されたsc-IAd分子は、捕捉mAbとしてのM5/114(Bhattacharya, A., M. E. Dorf, T. A. Springer. 1981. J. Immunol. 127 : 2488)、およびプローブmAbとしてのビオチン・コンジュゲートAMB-32.1(Wall, K. A., M. I. Lorbver, M. R. Loken, S. McClatcheyおよびF. W. Fitch. (1983) J. Immunol. 131 : 1056)(0.1μg/ml)(ファルミンゲン))を用いた高感度のIAd特異サンドウィッチELISAにより検出された。抗体の結合は、アビジンペルオキシダーゼ(0.25μg/ウェル)との、およびそれに続くABTS基質(カーケガード・アンド・ペリー)とのインキュベートにより検出された。
【0235】
もう一つの例においては、β2ドメインに修飾をもつ可溶性sc-DR融合遺伝子産物の産生が検査された。SF9細胞の感染は、前文に述べたように行なわれた。発現されたsc-DR2分子は、捕捉mAbとしてのMAS-96p(0.1μg/ウェル)(ハーラン・シーラ・ラブ)およびプローブmAbとしてのHRPコンジュゲートL243(0.1μl/ml)(ATCC HB-55)を用いた構造特異DR特異サンドウィッチELISAにより検出された。抗体の結合はアビジンペルオキシダーゼ(0.25μg/ウェル)との、および後続のABTS基質(カーケガード・アンド・ペリー)とのインキュベートにより検出した。精製されたネイティブなDR2をポジティブな標準とした。かかる検定の結果を次の表2(英文は表3)3に示す。
【0236】
【表2】
【0237】
先に議論したように、これらの結果は、クラスII分子のβ2ドメインが当該複合体の正しい折りたたみに重要な役割を果たすと考えられているため、意外な結果であった(Brown, J. H.等、1993. Nature 364 : 33参照)。このドメインを欠くか、またはこのドメインに修飾のあるsc-DR2分子は、ネイティブなHLA-DR構造の正しい折りたたみに特異的な抗体によって認識される。さらに、このドメインの除去または修飾は、当該sc-クラスII分子の昆虫細胞における可溶性の発現を増進するらしい。このことは、完全長のβ2ドメインを運んでいるsc-DR2構築物がこの系においてほとんど発現されないため、予想されなかった。
【0238】
1. 昆虫細胞におけるMHC複合体の大量産生
可溶性のsc-クラスII分子の大量の産生を行なうことができる。たとえば、20Lの増殖培地を含んでいる3つのスピナーフラスコに、約2x1010個のSF9昆虫細胞を植え付けることができる。この細胞は、標準的な細胞培養技術にしたがって維持され、50%酸素:50%窒素を用いて連続的に散布されてよい。各々のスピナーフラスコには、組換えられたバキュロウイルスのストックの一つが植え込まれてよく、当該SF9培養液は、適切な時間にミリポア・ペリコン・タンジェンシャル・フロー・マイクロポーラス・フィルトレーション・ユニットにより集められる。
【0239】
実施例6 哺乳類細胞における可溶性sc-IAd分子の発現
哺乳類細胞系のトランスフェクションおよび選択は以下のように行なわれた:1x107個のNSO細胞を氷冷したPBSにて2回洗浄し、760μlのPBSに再懸濁し、40μg(1μg/ml)のSalIで直鎖化されたプラスミドSCD1 DNA(すなわち可溶性の形状のsc-IAd/OVA分子用)と混合した。氷上で5分後、ジーンパルサー(バイオラッド)を用いて250ボルト、960μFdを加えるべく細胞を電気穿孔した。パルスされた細胞は氷上に2ないし5分間静置され、30mlの非選択培地(IMDM、10%FBS、2mMグルタミン、5000単位/mlペニシリン、5000μg/mlストレプトマイシン)に加えられた。細胞は96穴平底組織培養プレートに播種され、24時間後に150μlの選択培地(IMDM、透析された10%FBS、2mMグルタミン、5000単位/mlペニシリン、5000μg/mlストレプトマイシン、1xヌクレオシド、1xグルタミン酸塩+アスパラギン)が、各ウェルに添加された。プレートには1週間ごとに、100μl/ウェルの使用済み培地を取り除き、100μl/ウェルの新鮮な選択培地を添加することによって選択培地が与えられ、細胞が培地に残ったすべてのグルタミンを徐々に欠失されていくようにした。SCE1プラスミド上に運ばれたグルタミンシンテターゼ遺伝子は、トランスフェクトされた細胞のグルタミンのない培地中での選択的増殖を可能にする。当該プラスミドを用いてトランスフェクトされた細胞のコロニーは、14ないし21日後に明らかになった。
【0240】
SCE1ベクターを運んでいるトランスフェクタント(すなわち可溶性の形状のsc-IAd/OVA分子)は増殖され、前文に述べたIAd特異ELISA検定法により、MHC分子の発現および分泌についてスクリーンされた。SCE1ベクターの構築は、公表されたPCT出願WO96/04314に記述されている。SCE1でトランスフェクトされた二つの細胞系からの培養上清についての、かかる検定の結果が次の表3(英文は表4)に示されている。これらの結果は、トランスフェクトされた細胞がsc-IAd/OVA分子を発現および分泌することを示している。
【0241】
【表3】
【0242】
1. IgG Cκフラグメントの融合は可溶性発現を促進する
sc-クラスII分子の発現レベルを増進することができるかどうかを調べるため、sc-IAd/OVA分子とIgG Cκフラグメントとの遺伝子融合物が作成された(実施例3参照)。この構築物を以下のように哺乳類細胞系にトランスフェクトした:1x107個のNSO細胞を氷冷したPBSで2回洗浄し、790mlの冷やしたPBSに再懸濁し、10μg(μlμg/μl)のPvuIで直鎖化されたプラスミドpIADK DNAと混合した。氷上で10分間インキュベートした後、ジーンパルサー(バイオラッド)を用いて250ボルト、960μFdでの1パルスを加えるべく細胞を電気穿孔した。パルスされた細胞は氷上に10分間静置され、10mlのIMDM培地(IMDM、10%FBS、2mMグルタミン、5000単位/mlペニシリン、5000(μg/mlストレプトマイシン)に加えられた。細胞はT25組織培養フラスコ内で、37℃、5%CO2下にインキュベートされ、24時間後、20μlのネオマイシン選択培地(IMDM、1.5mg/mlG418)が添加された。細胞は次に96穴平底組織培養プレートに、200μl/ウェルにて移され、37℃、5%CO2下にインキュベートされ、3ないし7日ごとにネオマイシン選択培地が与えられた。pIADKベクターは、安定にトランスフェクトされた細胞の選択的増殖を可能にするネオマイシン抵抗性遺伝子を運ぶ。当該ベクターを用いてトランスフェクトされた細胞のコロニーは、14ないし21日後に明らかになった。pIADKベクターを運んでいるトランスフェクタントは増殖され、前文に述べたIAd特異ELISA検定法により、可溶性のsc-クラスII-Cκ分子の発現についてスクリーンされた。昆虫細胞によって産生された精製されたsc-IAd/OVAを標準試料とした。pIADKでトランスフェクトされた4つの細胞系からの培養上清についての、かかる検定の結果が次の表4(英文は表5)に示されている。
【0243】
【表4】
【0244】
この結果は、可溶性のsc-IAd-Cκ融合分子が二つの構造特異抗体によって認識される形状に産生されたことを示している。これらの結果に基づき、NSOE2トランスフェクタントは増殖され、スピナーフラスコにて2リットルのネオマイシン選択培地中で生育された。
【0245】
sc-IAd-Cκ融合分子は、以下の実施例7に述べたように精製された。
【0246】
さらに、可溶性のsc-クラスII-Cκ融合分子の産生を哺乳類細胞において調べた。CHO細胞はpDRHK発現ベクターによりトランスフェクトされ、ネオマイシン選択培地(前文参照)における増殖に関して選択された。安定なトランスフェクタントを、可溶性のsc-DR2/MBP-Cκ分子の産生について、二つの異なるELISA方式を用いてスクリーンした。第一の方式では、抗ヒトκ抗体が捕捉Abとして、またHRPをコンジュゲートしたL243(ATCC HB-55)がプローブmAbとして使用された。L243mAbはHLA-DR分子上の構造エピトープに特異的である。したがって、この検定方式は正しく折りたたまれたDR2-Cκ融合物を検出する。第二の方式では、抗HLA-DRL227mAb(ATCC HB-96)が捕捉Abとして、またHRPをコンジュゲートしたL243(ATCC HB-55)がプローブmAbとして使用された。
L227およびL243mAbは、HLA-DR分子上の直鎖および立体構造エピトープに各々特異的である。この検定方式は、当該分子の正しく折りたたまれたDR2部分を検出する。抗体結合は、アビジンペルオキシダーゼ、および後続のABTS基質(カーケガード・アンド・ペリー)とのインキュベートにより検出された。これらの検定の結果を次の表5(英文は表6)に示す。
【0247】
【表5】
【0248】
この結果は、可溶性sc-DR2/MBP-Cκ融合分子がトランスフェクトした細胞により産生され、かつ培地に放出されたことを示している。この可溶性sc-DR2/MBP-Cκ分子は、立体構造的に正しい形状に折りたたまれている。
【0249】
1. 哺乳類細胞におけるMHC複合体の大量の発現
本文に述べたNSOおよびCHO細胞の発現系を用いて、大量のsc−MHCクラスII分子(空かまたは共有結合によりペプチドを連結されている)を産生することができる。たとえば、sc-DR2/MBP-Cκ分子を発現しているトランスフェクトされたCHO細胞は選択され、三つの別々の中空糸バイオリアクターにおいて集密まで増殖されることが可能である。標準的なバイオリアクター技術にしたがって、約1x109個のCHO細胞を、中空糸バイオリアクターカートリッジ(ユニシン(unisyn))の毛細管外の空間(EC)に植え込むことができる。トランスフェクトされたCHO細胞の増殖の間、酸素を増やし加えられた新鮮な培地が、中空繊維を通し連続的に循環される。次いで、可溶性のsc−MHCクラスII分子がECチャンバーから(毎日)30ないし120日にわたって採取される。各バイオリアクターは約0.1ないし1グラム量の各可溶性MHCクラスII分子を産生することが期待される。
【0250】
実施例7 可溶性sc−MHCクラスIおよびクラスII分子の精製
上記実施例5からの昆虫細胞培養上清を、プロテインAセファロースカラムにに通した。未結合物質を次にMK-D6mAb(Kappler, J. W., B. Skidmore, J. White, P. Marrack. 1981. J. Exp. Med. 153 : 1198参照)プロテインAセファロースカラムにかけた。このカラムを、20mMトリス-HCl、pH8.0および1MNaCl、20mMトリス-HCl、pH8.0で洗浄した。sc-IAd融合タンパク質は、50mMグリシン- HCl、pH11.0で溶出され、直ちにpH8.0に中和された。当該融合タンパク質を濃縮し、セントリコン(Centricon)30を用いて緩衝液を20mMトリス-HCl、pH8.0に変えた。これらの方法は、sc-クラスII遺伝子を運んでいる哺乳類細胞により産生される培養上清からの、大量の可溶性sc-クラスII分子の精製に、容易に適用することができる。典型的には、この精製手順は、昆虫細胞の培地1リットル当り、200ないし1000μgのsc-IAd/ペプチド分子を産生する。
【0251】
標品の純度は、アフィニティーカラムからの溶出物のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって評価した。当該ゲルは約50kDaの主要なバンドを示した(図18A、レーン1、2および3)。予想されたようにこのバンドはグリコシル化されており、連結されたペプチドのため質量にわずかな差異を示した。ウェスタン法は、sc-IAd/OVAタンパク質試料中のOVA323〜339ペプチドの存在を確証した(図18A、レーン5)。他のタンパク質検出検定においては、精製され固定化されたsc-IAd/OVAおよびsc-IAd/ブランクタンパク質が、IAd(たとえば、MK-D6、M5/114、AMS-32.1、39-10-8、または34-5-3)と特異的に結合するモノクローナル抗体によって別々に結合される。MHC分子を特異的に結合することができる他のモノクローナル抗体は、たとえば前文に提供した住所のATCCおよびリンスコッツ・ディレクトリー等のいくつかの供給源から市販されている。
【0252】
もう一つの例においては、MK-D6 mAbを用いたアフィニティークロマトグラフ法が、哺乳類の組織培養液からのsc-IAd/OVA-Cκ融合分子を精製するべく用いられた(実施例6参照)。
【0253】
MHCクラスII分子のイムノアフィニティーによる精製法は、先に述べられている(Gorga, J. C., V. Horejsi, D. R. Johnson, R. Raghupathy、およびJ. L. Strominger.(1987)J. Biol. Chem. 262 : 16087)。これらの方法は一般に、本発明の可溶性sc-クラスIまたはクラスIIタンパク質の精製に用いる個とが可能である。たとえば、HLA-DRまたはHLA-DQドメインを運んでいるsc−MHCクラスII融合タンパク質に関しては、モノクローナル抗体L243およびG2a.5(各々DRおよびDQに免疫特異性であり、ATCCより市販sれている)を用いて、これらのドメインを含むsc−MHCクラスII分子を免疫精製することができる。一つの例においては、これらの方法は昆虫細胞において産生されたsc-DR2Δβ2/MBP分子を精製するべく用いられた(実施例5参照)。かかる精製の結果は第5B図に示されている。
【0254】
先に述べたように、可溶性sc-クラスII分子はタグを含むべく設計されることが可能である。かかる「タグされた」分子は常法により便利に精製されることが可能である。たとえば、6xHisタグを含んでいる分子は、Ni-IDAセファロース・ファスト・フロー(Fast Flow)カラム上で、先に述べた方法にしたがってアフィニティーにより精製されることが可能である。簡単に言えば、当該カラムをPBS、0.5MNaCl、0.2%(v/v)ツイーン20、pH8.0を用いて平衡化する。多数回洗浄した後、sc−MHCクラスIIタンパク質を、緩衝液A(20mMNa2HPO4、pH7.0、0.2MNaCl)と緩衝液B(20mMNa2HPO4、pH3.0、0.2MNaCl)とを異なる割合で混合することによってもたらされるpHの段階的な減少を用いて溶出することができる。もう一つの例では、EEタグを含んでいる可溶性のsc−MHCクラスII分子は、抗EEタグmAb-タンパク質Aセファロースカラムを用いた通常のイムノアフィニティークロマトグラフィーにより精製されることが可能である。当該sc-クラスII/IgG融合分子は、タンパク質Aセファロースカラムを用いた通常のイムノアフィニティークロマトグラフィーにより精製されてもよい。Ausubel等、前出;およびSambrook等、前出参照。
【0255】
当業者には上述のsc−MHCクラスIIの精製の仕組が、本発明の他のMHC分子の大量の調製および精製に容易に適用されることが理解されよう。
【0256】
実施例8 sc−MHCクラスII/ペプチド複合体の形成
実施例7で産生されたsc-IAd/ブランク融合分子がペプチドを有効に結合できるかどうかを調べるため、当該sc-IAd/ブランク分子が固定化され、次いでクエン酸緩衝液、pH5.0中の50倍モル過剰のOVA323〜339と共に、37℃にて20時間インキュベートされた。これらの複合体をPBSで2回洗浄し、それらについて本文に開示されたT細胞応答を刺激する能力を検査した。MHCクラスII分子へのペプチドの装填法は報告されている(たとえば、Stern, L. J.等、前出参照)。このような方法は、実質的にいかなる提示のペプチド のMHCクラスII複合体への装填にも適用されることが可能である。一般にこれらの方法は、精製されたクラスII分子と、20ないし50倍モル過剰のペプチドとの、37℃における20〜60時間インキュベーションを含む。これらの反応の最適pHは個々のMHCクラスII分子と用いたペプチドとに依存して変わるが、一般的には提示のペプチド の装填のための最適pHは、約4.5から7の間となろう(Sett, A. S.等、(1992)J. Immunol. 148 : 844)。当該MHCクラスII/ペプチド複合体は、HPLCゲルろ過、膜ろ過、免疫吸着法、またはスピン限外ろ過法により、遊離のペプチドから分離されることが可能である。
【0257】
発明者等は、実施例7において産生された固定されたsc-IAd/ブランク分子が、有意にペプチドと結合できることを発見した。図19C参照。
【0258】
実施例9 可溶性sc−MHCクラスII/ペプチド複合体の機能性
上記の実施例5、5、および6において産生された可溶性のsc-IAdクラスII分子について、T細胞ハイブリドーマ細胞系からのIL-2放出を刺激するそれらの能力を、本文に述べた方法にしたがって調べた。可溶性のsc-IAd/OVAおよびsc-IAd/gD分子(PBS、pH7.0)を用いて96穴イムロン(Immulon)IIプレート(ダイナテック(Dynatech))のウェルを一晩コートした。次いでT細胞ハイブリドーマDO11.10細胞系をsc-IAd/OVAでコートされたウェルに、またGD12ハイブリドーマ細胞系をsc-IAd/gDでコートされたウェルに加えた(1x105細胞/ウェル)。DO11.10細胞のTcRがIAd/OVA複合体と相互作用すると、当該細胞はインターロイキン-2(IL-2)およびIL-4を分泌する。図19Aに示したように、固定化されたIAd/OVAは、DO11.10細胞による線量依存性のIL-2の放出を誘導した。これらの結果は、実施例5において産生されたsc-IAd/ペプチド融合分子のDO11.10細胞のTcRによる認識を立証する。予期されたように、DO11.10細胞はsc-IAd/ブランクに対しては応答しなかった。同様の結果がIL-4についても見られた。
【0259】
抗原特異性のさらなる証拠がGD12T細胞ハイブリドーマを用いて得られた。図20Bに見られるように、GD12細胞は固定化されたsc-IAd/gDによく応答したが、sc-IAd/OVA分子には刺激されず、それに対しDO11.10細胞は逆の応答特性を示した。
【0260】
先の研究は、昆虫細胞において産生されたクラスIIヘテロ二量体分子が、外来性の添加されたペプチドと結合することができることを示した(Stern, L. J.およびD. C. Wiley(1992)Cell 68 : 465, Scheirle, A.,B.等、(1992)J. Immunol., 149 : 1994, Kozono, H.、前出)。しかしながら、IAdαおよびβ鎖は解離し、ペプチドを提示することができないことも発見された(Kozono, H.、前出)。実施例5において産生されたsc-IAdMHCクラスII分子が安定性であり適当な提示のペプチド を装填することができるかどうかを調べるため、精製されたsc-IAd/ブランク分子を、OVA323〜339ペプチドと共に、本文に述べられた方法にしたがってインキュベートした(たとえば、実施例8参照)。未結合のペプチドを除去するべく洗浄した後、固定化された複合体がDO11.10細胞を活性化することが見い出された(図19C)。これらの結果は共に、この単鎖方式がIAd分子を、精製と、外来性に添加されたかまたは共有結合により結合されたペプチドの装填とを可能にするべく、安定化することを示している。
【0261】
もう一つの例においては、DO11.10細胞のサイトカイン放出検定を用いて、実施例6において産生されたsc-IAd-Cκ融合分子の機能性を調べた。簡単に言えば、精製されたsc-IAd-Cκ融合タンパク質(1.1μg/ウェル)を96穴プレートにコートした。昆虫に由来するsc-IAd分子(1.1μg/ウェル)をコントロールとした。別法として、ポリクローナル抗マウスκ抗体(200ng/ウェル)がまずプレートにコートされ、融合タンパク質(1.1μg/ウェル)が添加され、抗κ抗体により捕捉された。プレートをPBSで2回洗浄し、1x105個のDO11.10T細胞(200μl)を添加した。37℃にて24時間後、培養上清を集め、DO11.10T細胞によって培養液中に放出されたIL-2の量をELISA(ファルミンゲン)により測定した。IL-2の放出は、DO11.10T細胞受容体とIAd/OVA複合体との機能性の相互作用に続くT細胞活性化レベルの尺度である。IL-2 ELISAの結果を次の表6(英文は表7)に示す。
【0262】
【表6】
【0263】
この結果は、sc-IAd/OVA-κが、固定化されるかまたは抗κ抗体に捕捉される場合、機能的に活性があることを示している。このような結果は、発明者らが、sc-IAdとIgG CH2−CH3ドメインとの類似した融合物が結果的にIAd特異ELISA検定またはT細胞刺激検定によって認識されない分子となることを発見しているため、予期されなかった。
【0264】
実施例10 可溶性sc-IAd/ペプチド融合複合体はアポトーシスを誘導する
DO11.10細胞を用いて可溶性のsc-IAd/ペプチド融合複合体分子がT細胞のアポトーシスを誘導する能力を調べた。前文に述べた可溶性のsc-IAd/OVA分子と共に一晩インキュベートした後、DO11.10細胞は、核の凝縮、アポトーシス小体の出現、およびDNAのオリゴヌクレオソームバンドへの分解を含む細胞形態の著しい変化を示した(図21、レーン4)。これらの変化はアポトーシスの特徴である(P. Walker 等、Bio Techniques, 15 : 1032 (1993))。同様な効果が、抗TCRおよび抗CD3mAbと共にインキュベートされた細胞において見られたが、一方固定化されたsc-IAd/ブランクと共にインキュベートされた細胞では細胞の形態変化またはDNA分解は見られなかった(図21のレーン3と5を比較)。
【0265】
図21は、以下のように説明される:DO11.10細胞は、未処理のウェルか、または100ng/ウェルの抗TcRmAb(H57-597ファルミンゲン)かまたは250ng/ウェルのsc-IAd分子でコートされたウェルにおいてインキュベートされた。24時間後、細胞(1.2x106個/試料)を採取し、トリトンX-100可溶性/DNAを単離した(P. Walker等、Bio Techniques, 15 : 1032 (1993))。試料を2%アガロースゲル電気泳動により分析し、染色体DNAのラダリングを検出するべく、臭化エチジウムを用いて染色した。レーン2は未処理のDO11.10細胞からのものである。レーン1および6はDNAの分子量マーカーを示している。
【0266】
実施例11 可溶性のsc-IAdMHC融合分子を含んでいるベクターの接種は生体内でのT細胞の増殖を抑制する
少なくとも二つのシグナルが、細胞の活性化、たとえばT細胞の増殖等においては必要である。TcRとMHCクラスII/ペプチド融合複合体を介してT細胞に伝えられたただ一つのシグナルでは、そのT細胞を殺すかまたはアネルギーにすることとなる。添加された補助刺激シグナルがない場合、可溶性sc-IAd/OVA融合分子は、抗原特異T細胞を生体内において選択的に殺すことがわかっている。このような結果は、単鎖MHC分子、特に単鎖MHCクラスII分子が生体内における免疫系機能の抑制に好都合であることを示している。この結果はまた、単鎖MHC分子が細胞において補助刺激シグナルと共に同時発現されるか、または別法として、適当な補助刺激シグナルがすでにその細存在している細胞において単鎖MHC分子が発現される場合、当該免疫系機能が誘導されることが可能であることを示している。
【0267】
T細胞のクローン増殖を生体内において抑制するため、発明者らは常法によりsc-IAd/OVA融合遺伝子を運ぶべく修飾されることの可能な、哺乳類の発現ベクターpEE13を用いた。sc-IAd/OVA遺伝子の転写は、この発現ベクターのCMVプロモーターによって駆動された。BALB/cマウスの後肢に、100μgのプラスミドDNA(1mg/ml、PBS中)を筋肉内(IM)に注射した。注射はさらに二回、14および28日後に繰り返した。対照群は、ゼロ週に生理食塩水を、さらに2および4週にsc-IAd/ブランクをコード化している100μgのプラスミドをIM注射した。
【0268】
次に両群は、OVA323〜339ペプチド(100μg/マウス、完全フロイントH3Raアジュバント中)を、最後のDNA接種の23および30日後に尾基部の皮下に注射された。1週間後、マウスを殺し、鼠径および大動脈周囲リンパ節を集めた。リンパ節細胞の懸濁液が調製され、ナイロンウールおよびセファデックスG-10カラム上でのインキュベションにより抗原提示細胞が枯渇され、さらに結果として得られた精製されたT細胞集団は、OVA323〜339ペプチドを用いてパルスされたAPCと共にインキュベートされた。BALB/cマウスからの脾性B細胞をAPCとして役立てた。これらの細胞はマイトマイシンC(50ないし100μg/ml、4x106脾性細胞/mlの懸濁液中)によりB細胞の増殖を阻害するべく固定され、多数回洗浄され、OVA323〜339ペプチド(0ないし50μg/ウェル)と共に、精製されたT細胞(2x105細胞/ウェル)に添加された。この細胞を96穴丸底マイクロタイターウェル中で、37℃、5%CO2下に4日間増殖させた。この時点で、培養の終結に先立ち、ウェルをMTS(40μl/ウェル)(プロメガ)を用いて4ないし6時間パルスした。MTSの取り込みは490の吸光度の測定によって決定され、T細胞増殖の尺度とされる。
【0269】
図22および図23は、これらの注入されたかまたは対照の細胞を用いたT細胞増殖検定の結果を示す。図22においては、T細胞はsc-IAd/ブランクプラスミド(および生理食塩水)のIM注射を受けているマウスから単離された。第図23においては、マウスはsc-IAd/OVAプラスミドのIM注射を受けている。マウスはOVAペプチドを用いて2回誘発され、1週間後にリンパ節からT細胞が単離された。OVA特異T細胞の増殖検定は前文に述べたように行なわれた。sc-IAd/OVAプラスミドを注射されたマウスから単離されたT細胞は、sc-IAd/ブランクプラスミドを注射された対照群から単離されたものと比較して、OVA特異増殖に有意な減少を示した。これらの結果は、可溶性のsc-IAd/OVA分子が、抗原特異T細胞のクローン拡張をインヴィヴォにおいて抑制することを示している。可溶性の単鎖MHC分子(たとえば可溶性sc−MHCクラスIIペプチド融合複合体、または可溶性の装填されたsc−MHCクラスII複合体)またはこれらの分子をコードしているDNA発現ベクターは、望ましくない抗原特異T細胞の存在または増殖を含む、哺乳類特にヒトにおける免疫異常症を緩和するであろう。たとえば、可溶性の単鎖MHC分子(たとえば可溶性sc−MHCクラスIIペプチド融合複合体)またはこれらの分子をコードしているDNA発現ベクターは、製薬上許容される担体物質、たとえば生理食塩水と混合され、たとえばヒト等の、抗原特異T細胞の望ましくない存在または増殖を含む免疫疾患に苦しんでいるかまたは苦しむことになる哺乳類に投与されることが可能である。他の製薬上許容される担体が周知である(たとえば、Remington's Pharmaceutical Science,マック・パブ(Mack Pub.)社、ペンシルベニア州、イーストン、1980、参照)。一つの特別の投与方式は筋肉内であるが、他の方式も用いられてよく(たとえば、経口、鼻、静脈内、非経口、または経皮的)、これらの方式は、治療されている状況とその動物の全身状態とに依存するであろうし、また当業者には明らかであろう。可溶性の単鎖MHC融合分子の用量も、免疫疾患の種類および激しさ等の要素に依存して変わることとなるが、一般には抗原特異T細胞等の免疫細胞の生体内における増殖の抑制に十分な用量となるであろう。典型的な用量範囲は、体重1kg当り、可溶性MHCクラスII分子1ngないし10mgの範囲となるであろう。治療は必要とされるように、たとえば毎日繰り返されてもよい。同様の適当な用量が、本文に開示されたポリスペシフィックなMHC複合体(装填されたか、または組換えにより融合された提示のペプチド をもつ)の投与にも用いられてよい。
【0270】
本発明のすべての、またはほとんどMHC分子をつけている細胞を、T細胞の抑制または誘導に十分な用量において哺乳類に投与することができることが理解されよう。T細胞の活性は本文に述べた検定法により検出されることが可能である。
【0271】
他の可溶性の装填された単鎖MHC分子を、抗原特異T細胞の望ましくない存在または増殖をインヴィヴォにおいて治療するべく使用することができる。たとえば、約6ないし30アミノ酸(6と30を含めて)の提示のペプチド は、適当な可溶性の空の単鎖MHC分子と共に、少なくとも等しいモル比において、対応する装填された分子を形成するべく混合されてよい。当該装填された分子は、次いで製薬上許容される担体と混合され、前文に述べた免疫系の異常症を治療するべく、ヒト等の哺乳類に投与されてよい。
【0272】
実施例12 ペプチドを連結した単鎖MHC分子を発現しているベクターを用いたDNA接種による免疫抑制法
DNA接種法(特に筋肉内または皮内)の効果を検査するためのモデル系の一つの例は以下の通りである。3群のBALB/cマウスの両後肢に、100μgの:(1)SCE1、(b)SCT1、または(c)生理食塩水を筋肉内(IM)注射する。注射は0、2、および4週目に行なわれる。初回のDNA注射の4および5週後に、OVAペプチド323〜339(100μg/マウス、完全フロイントH37Raアジュバント中)を、尾基部に皮下注射する。2週間後(8週目)、各マウスから尾部出血により血液を集め、約14,000Gにて3ないし5分間の遠心分離の後、血清を取得する。OVA特異IgGおよびIgM抗体の力価を上記のように測定する。OVA特異IgGの度合は、当該ペプチドを用いた免疫化に続いてマウスに生じる、TH細胞に指示される免疫グロブリンクラスのスイッチングの指標である。したがって、ペプチドを連結された単鎖MHC発現ベクターを用いたDNA接種は、IgM抗体レベルには影響せずに、ペプチド特異IgG抗体のレベルの減少を引き起こしてよい。
【0273】
別の検定法は、OVA特異TH細胞のクローン拡張または増殖を測定することである。簡単に言えば、OVAによる免疫化の7日後に、鼠径および大動脈周囲リンパ節から細胞懸濁液が調製されることとなる。この懸濁液は、ナイロンウールおよびセファデックスG-10カラム上でのインキュベションにより抗原提示細胞が枯渇され、結果として得られた精製されたT細胞集団は、OVA323〜339ペプチドを用いてパルスされたAPCと共にインキュベートされる。脾性B細胞をAPCとする。これらの細胞はマイトマイシンC(0ないし100μg/ml、4x106脾性細胞/mlの懸濁液中)によりB細胞の増殖を阻害するべく固定され、多数回洗浄され、種々の濃度のOVA323〜339ペプチドと共に、精製されたT細胞に添加される。OVA特異T細胞の増殖検定は前文に述べたように行なわれる。ペプチド反応性のT細胞増殖の度合は、当該ペプチドを用いた免疫化に続いてマウスに生じる、TH細胞応答(すなわちクローン拡張)の指標である。したがって、ペプチドを連結された単鎖MHC発現ベクターを用いたDNA接種は、ペプチド特異TH細胞の増殖レベルに減少を引き起こしてもよい。
【0274】
実施例13 可溶性のペプチド連結単鎖MHCクラスII分子を用いた免疫抑制
上記の実施例4、5、および6にしたがって産生される可溶性のペプチド連結sc-クラスII分子は、TH細胞のアネルギー状態の誘導に好都合である。このことを検査するため、当該分子の、TH細胞依存性の免疫グロブリンクラススイッチング(すなわちIgMからIgGへ)に対する、またペプチド特異T細胞系のクローン拡張に対する影響を、以下の方法により調べることができる。
a) IgGクラススイッチング
IgMからIgGへのクラススイッチングを調べるため、二つの検査群を以下のように組立てた:
i) 10匹のBALB/cマウスの尾基部に、完全フロイントアジュバントH37Ra中の100pgのOVA323〜339を注射し、7日後に再び追加免疫してOVA323〜339ペプチドに対する免疫応答を誘導する。OVAを用いた各々の免疫化の前日および当日に、PBS中の10ないし100マイクログラムの可溶性sc-IAd/OVAを5匹のマウスにIV注射する。この可溶性の融合タンパク質は、OVA323〜339特異TH細胞の上に表示されたT細胞受容体TCRに結合することができる。補助刺激シグナルがないため、これらのTH細胞はアネルギーの状態に誘導される。免疫グロブリンクラスのスイッチングはTH細胞依存性の過程であるため、sc-IAd/OVAで処理されたマウスにおいては抗OVA121〜339IgG抗体の誘導が劇的に減少することが予期される。残りの5匹は対照とされPBSを受けることになる。。これらのマウスは、妨げられないTH細胞のため、抗OVA121〜339IgG抗体の蓄積が期待される。
【0275】
二回目の免疫化の10日後、各マウスから尾部出血により血液を集める。血液を約14,000Gにて3ないし5分間遠心し、血清を集める。検定は、トリス-HClコーティング緩衝液、pH8.5を用いて1〜50マイクログラム/mlにOVAをコートした96穴マイクロタイタープレート(Maxisorp F8; ナンク社(Nunc, Inc.))において行なわれる。このプレートを感圧フィルム(ファルコン、ベクトン・ディキンソン、カリフォルニア州、オックスフォード)で覆い、4℃にて一晩インキュベートした。次いでプレートをウォッシュ(Wash)溶液(イミダゾール/NaCl、0.4%ツイーン20)を用いて洗浄し、100マイクロリットル/ウェルの3%BSA溶液を添加することによりブロックした。室温にて30分間プレート回転装置上でインキュベートした後、ウォッシュ溶液を用いてプレートを5回洗浄する。次いでマウス血清を、サンプル/コンジュゲート希釈剤(2%ゼラチン+0.1%ツイーン20、TBS中)にて1:500に希釈し、さらに、二重(duplicate)にしてプレート上に連続的に希釈する。各々のコーティングタンパク質について二枚の同等なプレートが用意されるすなわち一枚はIgM力価の測定用であり、他はIgG用である。室温にて30分間のインキュベションの後、ウォッシュ溶液を用いてプレートを5回洗浄する。ヤギ抗マウスIGM-HRPおよびヤギ抗マウスIgG-HRPコンジュゲート(ベーリンガー・マンハイム、インディアナ州、インディアナポリス;サンプル/コンジュゲート希釈剤にて1:100希釈)を、適当なプレートに添加する。室温にて30分間のインキュベションの後、ウォッシュ溶液を用いてプレートを5回洗浄し、100マイクロリットル/ウェルのABTS発生基質(カーケガード・アンド・ペリー・ラボラトリーズ社、メリーランド州、ガイザースバーグ)と共に室温にて10分間インキュベートする。この反応を、100マイクロリットル/ウェルのクエンチ(Quench)緩衝液(カーケガード・アンド・ペリー・ラボラトリーズ社、メリーランド州、ガイザースバーグ)を用いて停止し、405nmにおける吸光度を、自動化されたマイクロタイタープレートELISAリーダー(Ceres UV900HI、バイオテック、バーモント州、ウィヌースキ(Winooski))を用いて読み取る。力価は、吸光度の読み対試料の希釈の対数をプロットすることにより測定する。次いで、IgM対IgGの力価が比較される。
【0276】
実施例4、5、および6において産生された可溶性のペプチド連結単鎖MHCクラスII分子は、対応するペプチド反応性TH細胞に誘導されるアネルギーにより、ペプチドに特異的な様式で、IgGクラスのスイッチングを阻害することが期待される。
b) ペプチド特異T細胞系のインヴィヴォにおけるクローン拡張
実施例10ないし11において産生された可溶性のペプチド連結単鎖クラスII分子の、ペプチド特異T細胞系のクローン拡張に対する影響を、以下のように調べることが可能である。処置群(群当たりマウス4匹)は、前文に述べたものと同等である。免疫化のプロトコールは、以下の通りである:PBS中の10ないし100マイクログラムの可溶性sc-IAd/OVA融合タンパク質をマウスにIV注射し、24時間後に完全フロイントアジュバントH37Ra中の50マイクログラムのOVA323〜339を皮下注射する。この二つの注射を、6および7日後に繰り返す。第二セットの注射完了の7日後に、マウスを犠牲にする。鼠径および大動脈周囲リンパ節を取り、単一細胞の懸濁液とする。この懸濁液は、ナイロンウールおよびセファデックスG-10カラム上でのインキュベションにより抗原提示細胞が枯渇され、結果として得られる精製されたT細胞集団を、OVA323〜339ペプチドを用いてパルスされたAPCと共にインキュベートする。脾性B細胞をAPCとする。これらの細胞はマイトマイシンC(50ないし100μg/ml、4x106脾性細胞/mlの懸濁液中)によりB細胞の増殖を阻害するべく固定され、多数回洗浄され、種々の濃度のOVA323〜339ペプチドと共に、精製されたT細胞に添加される。増殖検定は、96穴丸底マイクロタイターウェル中で、37℃、5%CO2下に3ないし5日間行なう。培養終結の18時間前に、1マイクロキュリーの3H-チミジンを用いてウェルをパルスし、スカトロン(Skatron)細胞回収装置を用いて収穫する。DNAへの3H-チミジンの取り込みは、T細胞の増殖の尺度として、LKB液体シンチレーションカウンターを用いて測定されることとなる。ペプチド反応性のT細胞増殖の度合は、免疫化に続いてマウスに生じるTH細胞の応答(すなわちクローン拡張)の指標である。
【0277】
実施例4、5、および6において産生された可溶性の単鎖MHCクラスII分子の同時注射(OVAによる免疫化と結び付けられた)は、OVA反応性のT細胞系のクローン拡張および後続のインヴィトロにおける増殖を制限することが期待される。
【0278】
実施例14 ポリスペシフィックなMHCクラスII複合体の調製
前文に述べたように、本発明の完全に可溶性かつ機能性のMHC複合体は、ポリスペシフィックな複合体を含む。以下は、sc−MHCクラスII分子とリガンド結合分子とを含んでいるポリスペシフィックなMHC分子の代表的な作成法である。
【0279】
1.二重特異性複合体
A.免疫グロブリン連結分子
図24は、二つのsc−MHCクラスIIペプチド融合分子か、または一つのsc−MHCクラスIIペプチド融合分子と一つの単鎖抗体とを含む、二重特異性複合体の例を各々示している。
【0280】
二つのsc−MHCクラスIIペプチド複合体を含んでいる二重特異性複合体(図24A)は、本文に開示された方法にしたがって作成されることが可能である。たとえば、一つのアプローチにおいては、共有結合により順に連結されたsc−MHC分子(たとえばsc-クラスII分子)、連結分子(たとえば、Ig-CL鎖)、および任意のエフェクター分子を含んでいる第一の融合分子が構築される。この融合分子は、共有結合により順に連結されたsc−MHCクラスIIペプチド融合分子、連結分子(たとえばIg-CL鎖)、および任意のエフェクター分子を含んでいる第二の融合分子に結合されることが可能である。始めの方で特に言及したように、sc−MHCクラスII分子は、もし所望であれば可溶性の発現を改良するため、完全なβ2鎖の欠失等の、β2鎖クラスII鎖の修飾を含むことができる。第一および第二の融合分子は一つのDNA配列、好ましくは両方の分子をコード化している一つのベクターによりコード化されることが可能である。別法として、第一および第二の融合分子は別々のDNA配列によってコード化されることができ、好ましくは二つのDNAベクターに含まれており、この場合には各DNA配列は融合分子のうちの一つをコード化する。いずれの場合にも、第一および第二の融合分子は離散性の鎖であり、インヴィトロにおいて、または適切な哺乳類細胞において、二重特異性複合体を形成するべく結合されることが可能である。もし所望であれば、当該二重特異性複合体は、前文に述べた単離および精製法にしたがって、実質的に純粋な形状に精製されることが可能である。
【0281】
一つのsc−MHCクラスIIペプチド融合分子と一つの単鎖抗体とを含んでいる、図24Bに描かれた二重特異性複合体は、第二の融合分子が共有結合により順に連結されたsc-Fv抗体、連結分子(たとえば、IgGCH1分子)、および任意のエフェクター分子を含むようになることを除き、全体的に前文に述べた方法にしたがって作成されることが可能である。
【0282】
B.他の連結分子
前文に述べたように、種々のポリペプチドが特異的な結合対を形成することが示されている。たとえば、高次コイル(たとえば、ロイシンジッパー)、ヘリッックス・ターン・ヘリックスポリペプチドモチーフ、および関連する構造は、単鎖抗体のFvフラグメント、T細胞受容体分子のαおよびβ鎖、およびMHCクラスII分子のαおよびβ鎖の二量体化およびオリゴマー化を促進することが示されている。たとえば、Pack等、Biotechnology, 11 : 1271 (1993);Pack等、J. Mol. Biol., 246 : 28 (1995);Chaing等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 : 11408 (1994);Scott等、J. Exp. Med., 183 : 2087 (1996)参照。
【0283】
高次コイルおよびヘリッックス・ターン・ヘリックス構造についての周知の作成ならびに使用法にしたがって、かかる高次コイルまたはヘリッックス・ターン・ヘリックス連結分子を含んでいる二重特異性複合体を構築することは、本発明の一つの目的である。この二重特異性複合体は、以下の段階を含むいくつかの分子によって作成されることが可能である。まず、一対のオリゴヌクレオチドDNAプライマーが標準的な合成法により作成され、その中で各プライマーは以下の高次コイル配列をコード化する:
1. NH2-SSADLVPRGSTTAPSAQLEKELQALEK
ENAQLEWELQALEKELAQ-COOH(SEQ ID N
O:33)
2. NH2-SSADLVPRGSTTAPRAQLKKKLQALKK
KNAQLKWKLQALKKLAQ-COOH(SEQ ID N
O:34)
Scott等、J. Exp. Med., 183 : 2087 (1996)参照。
【0284】
別法として、もし一対のコード化された配列が、たとえばPack等、前出、Chaing等、前出、およびScott等、前出、により報告された検査によって測定されるような、特異的な結合対を形成することができるなら、各DNAオリゴヌクレオチドプライマーは、SEQ ID NO:33およびSEQ ID NO:34の高次コイルの適当な部分をコード化することが可能である。
【0285】
次に、当該高次コイル連結分子、またはその適当なフラグメントを含んでいる二重特異性MHC複合体を構築するため、一つまたはそれより多い興味のsc−MHC分子、たとえば、sc−MHCクラスII分子をコード化しているDNAセグメントの3´末端に、当該DNAオリゴヌクレオチドプライマーの一つを共有結合により連結する。このように作成されたDNA構築物は次いで、任意にこのプライマーの3´末端において、所望の任意のエフェクター分子をコード化しているDNA配列の5´末端に連結される。この第二のDNAオリゴヌクレオチドプライマーは、たとえば、興味の単鎖抗体をコード化しているDNAセグメント等の、所望のリガンド結合分子をコード化しているDNAセグメントの3´末端に、共有結合により連結される。このように作成されたDNA構築物は、さらに所望の任意のエフェクター分子をコード化しているDNAセグメントの5´末端に融合されることが可能である。具体的な例として、当該DNAセグメントは、順に共有結合により連結された:sc−MHCクラスII分子/高次コイル配列;sc−MHCクラスII分子/高次コイル配列/エフェクター分子;単鎖抗体/高次コイル配列;単鎖抗体/高次コイル配列/エフェクター分子、を含むことができる。
【0286】
選択されたDNAセグメントのペアは、典型的には二量体化が可能なタンパク質をコード化することのできるものであろう。一般的には、この選択されたDNAセグメントのペアは、所望の細胞型での発現用の、一対の適当なベクターに導入されることとなる。別法として、当該DNAセグメントは、所望の単一のDNAベクターに挿入されてもよい。本発明の二重特異性複合体を、別の戦略によって産生することができる。一つのアプローチにおいては、当該複合体鎖のうちの一つをコード化している各々のベクターが細胞に導入され、その細胞が、コード化されたタンパク質を産生する条件下に培養される。各々の細胞培養物よりタンパク質を別々に単離し、二重特異性MHC複合体の形成を最大化するべく、温度、塩、タンパク質、およびイオン濃度等の調節された条件の下に、インヴィトロにおいて結合される。別法として、両ベクターが同一の適当な細胞に導入されてもよく、その細胞が、所望の二重特異性MHC複合体の発現および集合に都合のよい条件下に培養される。もし所望であれば、この細胞から当該二重特異性MHC複合体を、本文に述べた方法にしたがって、実質的に純粋な形状に単離することができる。適当な細胞およびベクターの例は、前文に議論されている。
【0287】
本発明を、その好ましい態様を参照して述べてきた。しかしながら、当業者には、この開示を検討するにあたり、この発明の精神ならびに範囲内において修正ならびに改良がおこなわれてよいことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は単鎖IAd/OVA323-229MHC融合分子(すなわちsc-IAd/OVA)(SEQ ID NO:24)をコード化している遺伝子の概略説明図である。IAdβ2鎖は、IAd/OVA単鎖遺伝子(SEQ ID NO:24)のヌクレオチド452ないし734によってコード化されている。IAdβ2鎖はアミノ酸150ないし243(SEQ ID NO:25)にわたる。コザックのコンセンサス配列が示されている。矢印はシグナルペプチドの切断部位を示す。IAdβ1-β2およびIAdαドメイン内の「//」は、明快さのために省略されたアミノ酸およびヌクレオチド配列を表している。OVA323-339ペプチド(SEQ ID NO:26)(断続線)は、sc-IAd/ブランクMHC分子では欠けている。
【図2】 図2のAおよびBは、sc-IAd/OVA分子についての細胞表面の発現(A)およびT細胞誘導活性(B)を例示しているグラフであり、
【図3】 図3は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図4】 図4は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図5】 図5は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図6】 図6は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図7】 図7は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図8】 図8は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図9】 図9は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図10】 図10は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図11】 図11は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図12】 図12は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図13】 図13は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図14】 図14は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図15】 図15は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図16】 図16は、DNAベクターSDE3、pMB959、pMB808、pIADK、およびpDRHKの合成の概要を描いている。
【図17】 図17のAおよびBは、(A)IAdおよび(B)DR-2鎖を含んでいるsc−MHCクラスII融合ペプチド融合物を描いている。使用した略語は以下の通りである:SP、シグナルペプ配列;PEP、融合された抗原ペプチド配列;L1、10アミノ酸リンカー;L2、アミノ酸リンカー;EE、抗体タグ;IgG-GL、免疫グロブリンL鎖定常領域、αTM Cr、細胞質膜貫通ドメイン。空の分子に相当するものは、配列「PEP」が省略されること以外は同じ図によって表されることとなる。装填された分子は、sc−MHCクラスII結合の溝と非共有結合により結合された「PEP」配列をもつこととなる。
【図18】 図18のAおよびBは、可溶性の単鎖MHC複合体クラスII/ペプチドタンパク質の発現を示しているポリアクリルアミドゲルまたはイムノブロットである。Aは、12%SDS-PAGEで分析され、クーマシーブルーで染色されたsc-IAd試料(レーン1ないし3)を示す。分子量の標準品の移動が示されている。sc-クラスIIタンパク質(レーン4ないし6)はまたナイロン膜に移され、OVA323-339ペプチドに特異的なマウス抗血清を用いてプローブされた。Bは10%SDS-PAGEで分析されたscDRΔβ2試料の抗DRの親和性による精製のプロフィールを示している。親和性により精製されたタンパク質は、レーン3ないし5(還元条件)、およびレーン7ないし9(非還元条件)に示されており、
【図19】 図19のAおよびCは、T細胞の応答を特異的に活性化する単鎖クラスII/ペプチドタンパク質を例示している図である。Aは、IAdに結合されたOVA323-339に特異的なDO11.10T細胞ハイブリドーマが、Il-2を産生するべく刺激されたことを示す。Cは、OVAペプチドを加えた固定されたIAd/ブランクタンパク質またはsc-IAd/OVA融合タンパク質(しかしブランク融合タンパク質ではない)が、DO11.10細胞からのIL-2の放出を刺激したことを示している。
【図20】 図20のB−1およびB−2は、T細胞の応答を特異的に活性化する単鎖クラスII/ペプチドタンパク質を例示している図である。二つの異なるハイブリドーマ、GD12(gD246-261およびIAdに特異的)またはDO11.10が、提示のペプチド に特異な様式で刺激されてIl-2を産生したことを示す。
【図21】 図21は、抗T細胞受容体抗体(抗TcRmAb)またはsc-IAd/OVAがT細胞のアポトーシスを誘導することができることを示している。レーン3および4におけるヌクレオチドリーダーは、アポトーシスを暗示している。
【図22】 図22は、インヴィヴォでのSC-IAd/OVAの発現がT細胞クローンの増殖を抑制することを証明している図である。
【図23】 図23は、インヴィヴォでのSC-IAd/OVAの発現がT細胞クローンの増殖を抑制することを証明している図である。
【図24】 図24のAおよびBは、ポリスペシフィックなsc-クラスII/ペプチドIgG-CL二量体(A)およびsc-クラスII/ペプチドIgG-CL:単鎖抗体分子(B)の概略説明図である。
【図25】 図25は、以下の実施例に用いたオリゴヌクレオチドを示す。
【図26】 図26は、以下の実施例に用いたポリペプチド配列を示す。
【配列表】
Claims (16)
- ペプチド結合の溝と、少なくとも50アミノ酸の欠失を含んでいるクラスIIβ2鎖とからなる空のsc−MHCクラスII分子。
- 免疫グロブリンL鎖定常領域、またはその80から130までの間のアミノ酸の長さのフラグメントをさらに含んでいる請求項1に記載の空のsc−MHCクラスII分子。
- 請求項1または2に記載の空のsc−MHCクラスII分子を、提示のペプチドと、前記提示のペプチドと前記空のMHC分子との間に複合体が形成される条件下に接触させることにより産生される、装填されたsc−MHC分子。
- 組換えにより融合された提示のペプチドと、少なくとも50アミノ酸の欠失を含んでいるクラスIIβ2鎖とを含んでいるsc−MHCクラスII融合タンパク質。
- 免疫グロブリンL鎖定常領域、またはその80から130までの間のアミノ酸の長さのフラグメントをさらに含んでいる請求項4に記載のsc−MHCクラスII融合タンパク質。
- ペプチド結合の溝を含んでいる空のsc−MHCクラスII分子であって、前記分子が共有結合により順に連結された:
a)MHCクラスIIβ1鎖か、またはその提示のペプチド 結合部分と、
b)少なくとも50アミノ酸の欠失をふくんでいるクラスIIβ2鎖と、
c)ペプチドリンカー配列、および
d)MHCクラスIIα1α2鎖か、またはその提示のペプチド 結合部分、
を含むことを特徴とする分子。 - 前記クラスIIβ2鎖アミノ酸欠失が前記クラスIIβ2全鎖であることを特徴とする、請求項6に記載の空のsc−MHCクラスII分子。
- 前記MHCクラスIIα1α2鎖か、またはその提示のペプチド 結合部分に共有結合により連結された、免疫グロブリンL鎖定常領域またはその80から130までの間のアミノ酸の長さのフラグメントをさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の空のsc−MHCクラスII分子。
- ペプチド結合の溝を含んでいるsc−MHCクラスII融合分子であって、前記sc−MHCクラスII融合分子が共有結合により順に連結された:
a)提示のペプチド と、
b)MHCクラスIIβ1鎖か、またはその提示のペプチド 結合部分と、
c)少なくとも50アミノ酸の欠失を含んでいるクラスIIβ2鎖と、
d)ペプチドリンカー配列;および
e)MHCクラスIIα1α2鎖か、またはその提示のペプチド 結合部分、
を含むことを特徴とする分子。 - 前記クラスIIβ2鎖アミノ酸欠失が前記クラスIIβ2全鎖であることを特徴とする、請求項9に記載のsc−MHCクラスII分子。
- 前記MHCクラスIIα1α2鎖か、またはその提示のペプチド 結合部分に共有結合により連結された、免疫グロブリンL鎖定常領域またはその80から130までの間のアミノ酸の長さのフラグメントをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載のsc−MHCクラスII融合分子。
- 請求項1または4に記載のsc−MHCクラスII分子をコード化しているDNAセグメント。
- 請求項12に記載のDNAセグメントを含んでいるDNAベクター。
- β2クラスII鎖が少なくとも50アミノ酸の欠失を含んでいるsc−MHCクラスII分子の製造法であって、
a)DNAベクターを含んでいる細胞を提供することであって、前記DNAベクターが、β2クラスII欠失を含んでいるsc−MHCクラスII分子をコード化しているDNA配列を含み、
b)前記細胞を、前記sc−MHCクラスII分子の発現が可能な条件下にある培地において培養すること;および
c)前記細胞または培地から、前記sc−MHCクラスII分子を精製すること、
を含む方法。 - 前記β2クラスII鎖欠失を含んでいる前記sc−MHCクラスII分子が、請求項1または4のいずれかにおいて列挙された前記sc−MHCクラスII分子であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
- 請求項3、4または10のいずれかに記載のsc−MHC複合体を含んでなる薬剤組成物。
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