上述したサイクリック型のAD変換部分は、AD変換回路、DA変換回路、減算回路、および増幅回路を共有するため、回路の小面積化に資する。しかしながら、共有化に伴い各回路に高速化が要求される。特に増幅回路にはGB積(Gain Bandwidth product)の限界が存在し、高い増幅率と高速動作の両立は困難である。一方、個々の回路に高速動作を要求しない方法としては、従来型の複数ステージによるパイプライン型の構成があるが、回路面積を増大させる。即ち、従来の構成では、小型でかつ高速動作を両立させることが特に困難であった。特に高い増幅率を持つ増幅回路がその高速動作を阻害していた。
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、回路の小面積化とAD変換器の高速化の要請を両立する点にある。
本発明のある態様は、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は少なくとも2ステージ以上のステージからなるアナログデジタル変換器であって、あるステージは、自己のステージの入力アナログ信号から、自己のステージの変換デジタル値をアナログ値に変換した信号の減算、または他のステージの入力アナログ信号から、他のステージの変換デジタル値をアナログ値に変換した信号の減算を選択的に行う共用減算回路と、共用減算回路の出力を所定の増幅率で増幅する共用増幅回路と、を有する。
本態様によれば、あるステージの減算回路および増幅回路を他のステージと共用することにより、回路の小面積化を図ることができる。また、自己のステージの信号と他のステージの信号とを所定のタイミングで交互に切り替えて、減算回路に入力することにより、変換速度を損なわずに回路の小面積化を実現している。
本発明の別の態様もまた、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は、少なくとも2ステージ以上のステージからなるアナログデジタル変換器であって、第1ステージの入力アナログ信号を所定ビット数のデジタル値に変換する第1AD変換回路と、第1AD変換回路の出力をアナログ信号に変換する第1DA変換回路と、第1ステージより後段の第2ステージの入力アナログ信号を所定ビット数のデジタル値に変換する第2AD変換回路と、第2AD変換回路の出力をアナログ信号に変換する第2DA変換回路と、第1ステージの入力アナログ信号から第1DA変換回路の出力信号の減算、または第2ステージの入力アナログ信号から第2DA変換回路の出力信号の減算を、選択的に行う共用減算回路と、共用減算回路の出力を所定の増幅率で増幅する共用増幅回路と、第1ステージの入力アナログ信号および第1DA変換回路の出力信号の共用減算回路への入力をオンオフする第1ステージ用スイッチと、第2ステージの入力アナログ信号および第2DA変換回路の出力信号の前記共用減算回路への入力をオンオフする第2ステージ用スイッチと、を有する。
本態様によれば、第1ステージと第2ステージとで減算回路および増幅回路を共用することにより、回路の小面積化を図ることができる。また、第1ステージ用スイッチおよび第2ステージ用スイッチを所定のタイミングで、交互に切り替えて、減算回路に信号を入力することにより、変換速度を損なわずに回路の小面積化を実現している。
本発明の別の態様もまた、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は、少なくとも2ステージ以上のステージからなるアナログデジタル変換器であって、あるステージは、自己のステージの変換デジタル値、または他のステージの変換デジタル値を、選択的にアナログ信号に変換する共用DA変換回路と、自己のステージの入力アナログ信号から、該自己のステージの変換デジタル値を変換した共用DA変換回路の出力信号の減算、または他のステージの入力アナログ信号から、該他のステージの変換デジタル値を変換した共用DA変換回路の出力信号の減算を、選択的に行う共用減算回路と、共用減算回路の出力を所定の増幅率で増幅する共用増幅回路と、を有する。
本態様によれば、あるステージの減算回路、増幅回路およびDA変換回路を他のステージと共用することにより、回路の小面積化を図ることができる。また、自己のステージの信号と他のステージの信号とを所定のタイミングで交互に切り替えて、DA変換回路および減算回路に入力することにより、変換速度を損なわずに回路の小面積化を実現している。
本発明の別の態様もまた、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は、少なくとも2ステージ以上のステージからなるアナログデジタル変換器であって、第1ステージの入力アナログ信号を所定ビット数のデジタル値に変換する第1AD変換回路と、第1ステージより後段の第2ステージの入力アナログ信号を所定ビット数のデジタル値に変換する第2AD変換回路と、第1AD変換回路の出力または第2AD変換回路の出力を、選択的にアナログ信号に変換する共用DA変換回路と、第1ステージの入力アナログ信号から第1AD変換回路の出力を変換した共用DA変換回路の出力信号の減算、または第2ステージの入力アナログ信号から第2AD変換回路の出力を変換した共用DA変換回路の出力信号の減算を、選択的に行う共用減算回路と、共用減算回路の出力を所定の増幅率で増幅する共用増幅回路と、第1ステージの入力アナログ信号の共用減算回路への入力、および前記第1AD変換回路の出力の共用DA変換回路への入力をオンオフする第1ステージ用スイッチと、第2ステージの入力アナログ信号の共用減算回路への入力、および第2AD変換回路の出力の共用DA変換回路への入力をオンオフする第2ステージ用スイッチと、を有する。
本態様によれば、第1ステージと第2ステージとでDA変換回路、減算回路および増幅回路を共用することにより、回路の小面積化を図ることができる。また、第1ステージ用スイッチおよび第2ステージ用スイッチを所定のタイミングで、交互に切り替えて、DA変換回路および減算回路に信号を入力することにより、変換速度を損なわずに回路の小面積化を実現している。
共用減算回路および共用増幅回路は、一体型の減算増幅回路であってもよい。これによりさらなる回路の小面積化を図ることができる。
本発明の別の態様もまた、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は、少なくとも2ステージ以上のステージからなるアナログデジタル変換器であって、あるステージは、自己のステージの入力アナログ信号と、該自己のステージの変換デジタル値をアナログ値に変換した信号との差分信号、または他のステージの入力アナログ信号と、該他のステージの変換デジタル値をアナログ値に変換した信号との差分信号を選択的に、所定の増幅率で増幅する共用増幅回路と、を有する。
本態様によれば、あるステージの増幅回路を他のステージと共用することにより、回路の小面積化を図ることができる。また、自己のステージの信号と他のステージの信号とを所定のタイミングで交互に切り替えて、増幅回路に入力することにより、変換速度を損なわずに回路の小面積化を実現している。
本発明の別の態様もまた、アナログデジタル変換器である。このアナログデジタル変換器は、少なくとも2ステージ以上のステージからなるアナログデジタル変換器であって、第1ステージの入力アナログ信号を所定ビット数のデジタル値に変換する第1AD変換回路と、第1AD変換回路の出力をアナログ信号に変換する第1DA変換回路と、第1ステージの入力アナログ信号から第1DA変換回路の出力信号を減算する第1減算回路と、第1ステージより後段の第2ステージの入力アナログ信号を所定ビット数のデジタル値に変換する第2AD変換回路と、第2AD変換回路の出力をアナログ信号に変換する第2DA変換回路と、第2ステージの入力アナログ信号から第2DA変換回路の出力信号を減算する第2減算回路と、第1減算回路の出力信号または第2減算回路の出力信号を選択的に所定の増幅率で増幅する共用増幅回路と、第1減算回路の出力信号の共用増幅回路への入力をオンオフする第1ステージ用スイッチと、第2減算回路の出力信号の共用増幅回路への入力をオンオフする第2ステージ用スイッチと、を有する。
本態様によれば、第1ステージと第2ステージとで増幅回路を共用することにより、回路の小面積化を図ることができる。また、第1ステージ用スイッチおよび第2ステージ用スイッチを所定のタイミングで、交互に切り替えて、増幅回路に信号を入力することにより、変換速度を損なわずに回路の小面積化を実現している。
上述した態様に、共用増幅回路の増幅率を可変制御する増幅制御回路がさらに含まれるとよい。これによれば、共用増幅回路をあるステージで使用する場合の所望の増幅率と、他のステージで使用する場合の所望の増幅率とが異なる場合でも、増幅制御回路がその増幅率を可変することから、このような場合にも増幅回路を共有化することができ、回路の小面積化を図ることができる。
2以上のステージの内の任意のステージは、自己のステージの入力アナログ信号を所定の増幅率で増幅した信号と、該所定の増幅率と実質的に同一の増幅率で増幅された、自己のステージの変換デジタル値をアナログ値に変換した信号と、の減算を行うとよい。あるステージにおいて、AD変換している間に、自己のステージの入力信号を所定の増幅率で増幅するため、共用増幅回路の増幅率を小さくすることができ、AD変換器全体を高速化することができる。なお、「所定の増幅率」にはサンプルホールドを実現する1倍を含む。
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、サイクリック型のAD変換部分を含む複数ステージからなるパイプライン型のAD変換器の小面積化と高速化の要請を両立することができる。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態におけるサイクリック型のAD変換部分を含むパイプライン型のAD変換器の構成を示す。本実施形態は、全体で10ビット変換する例である。第1増幅回路11、第1AD変換回路12、第1DA変換回路13、減算回路14、および第2増幅回路15は、第1ステージを構成している。第3増幅回路17、第2AD変換回路18、および第2DA変換回路は、第2ステージを構成している。第2ステージは、第1ステージの減算回路14、および第2増幅回路15を利用する。
初期段階においては、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2がオン、第3スイッチSW3および第4スイッチSW4がオフの状態である。入力アナログ信号Vinは、第1増幅回路11および第1AD変換回路12に入力される。第1AD変換回路12は、入力されたアナログ信号を4ビットのデジタル値に変換して図示しないエンコーダに出力する。10ビット中の上位4ビット(D9〜D6)を出力する。第1DA変換回路13は、第1AD変換回路12から出力された4ビットのデジタル値をアナログ信号に変換する。当該アナログ信号を所定のタイミングで第2スイッチSW2を介して減算回路14に出力する。第1増幅回路11は、入力されたアナログ信号Vinをサンプリングして保持し、所定のタイミングで第1スイッチSW1を介して減算回路14に出力する。減算回路14は、第1増幅回路11の出力から、第1DA変換回路13の出力を減算する。これにより、上位4ビットの成分が取り除かれたアナログ信号が生成される。第2増幅回路15は、減算回路14の出力を2倍の増幅率で増幅する。増幅した出力を、第3増幅回路17および第2AD変換回路18へ出力する。減算回路14および第2増幅回路15の代わりに、それらの機能を一体化した減算増幅回路16を用いてもよい。
この段階において、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2がオフ、第3スイッチSW3および第4スイッチSW4がオンの状態に切り替わる。第2AD変換回路18は、入力されたアナログ信号を2ビットのデジタル値に変換して図示しないエンコーダに出力する。10ビット中の上位から5〜6ビット(D5〜D4)を出力する。冗長ビットの1ビットを加えて3ビットずつ変換してもよい。
第1AD変換回路12および第2AD変換回路18内には複数の電圧比較素子が設けられている。各電圧比較素子には、その変換回路のLSB(Least Significant Bit)に相当する電圧(以下、LSB電圧と呼ぶ)VA[V]毎のリファレンス電圧が供給されている。第2増幅回路15が設置されていない場合、第2AD変換回路18は、2ビット変換するので、第1AD変換回路12の1/4(2の2乗)のLSB電圧が設定されている必要がある。本実施形態においては第2増幅回路15が第1AD変換回路12の出力を2倍に増幅して第2AD変換回路18に出力するため、第2AD変換回路18のLSB電圧は、第1AD変換回路12の1/2に設定されている。
第2DA変換回路19は、第2AD変換回路18から出力された2ビットのデジタル値をアナログ信号に変換する。当該アナログ信号を第4スイッチSW4を介して減算回路14に出力する。第2DA変換回路19の出力は、2倍に増幅されている。
ここで、第2DA変換回路19の出力を2倍に増幅する手法について簡単に説明する。第2AD変換回路18および第2DA変換回路19には、高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBが供給されている。第2AD変換回路18は、高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBとを基に生成される基準電圧レンジを利用してリファレンス電圧を生成する。容量アレイ方式のDA変換を行う場合において、第2DA変換回路19は、図示しない複数設けられる各々の容量に高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBとを、第2AD変換回路18からの制御により選択的に供給することで、出力電圧を得ている。第2DA変換回路19の基準電圧レンジも、高電位側基準電圧VRTと低電位側基準電圧VRBとを基に生成される。このとき、第2AD変換回路18の基準電圧レンジと、第2DA変換回路19の基準電圧レンジとの比を1:2に設定すればよい。
第3増幅回路17は、入力されたアナログ信号を2倍に増幅して、第3スイッチSW3を介して減算回路14に出力する。減算回路14は、第3増幅回路17の出力から、第2DA変換回路19の出力を減算する。これにより、上位6ビットの成分が取り除かれたアナログ信号が生成される。第2増幅回路15は、減算回路14の出力を2倍の増幅率で増幅する。増幅した出力を、第3増幅回路17および第2AD変換回路18へ出力する。
第2AD変換回路18は、入力されたアナログ信号を再び2ビットのデジタル値に変換して図示しないエンコーダに出力する。10ビット中の上位から7〜8ビット(D3〜D2)を出力する。第2AD変換回路18は、2ビット変換するので、前回変換したときから入力アナログ信号が実質4(2の2乗)倍になっている必要がある。本実施形態においては、第3増幅回路17および第2増幅回路15でそれぞれ2倍増幅されることから、入力アナログ信号は、実質4倍になっている。以下、上位から7〜8ビット(D3〜D2)を変換する過程と同一の過程で、第2AD変換回路18は、上位から9〜10ビット(D1〜D0)を変換する。このように、第1ステージの第1AD変換回路12は、比較的高い精度を要する10ビットの上位1〜4ビットの値(D9〜D6)を変換し、第2ステージの第2AD変換回路18は、サイクリックすることにより3回に分けて、10ビット中の上位から5〜10ビットの値(D5〜D0)を変換する。
図2は、第1実施形態におけるAD変換器の動作過程を示すタイムチャートである。以下、図の上位から順に説明する。3つの信号波形は、第1クロック信号CLK1、第2クロック信号CLK2およびスイッチ信号CLKSWを示す。第1クロック信号CLK1は、第1増幅回路11、第1AD変換回路12および第1DA変換回路13の動作を制御する。第2クロック信号CLK2は、第2増幅回路15、第3増幅回路17、第2AD変換回路18および第2DA変換回路19の動作を制御する。スイッチ信号CLKSWは、同期して動作する第1スイッチSW1および第2スイッチSW2のオンオフ制御を行う。スイッチ信号CLKSWの反転信号は、同期して動作する第3スイッチSW3および第4スイッチSW4のオンオフ制御を行う。
第2クロック信号CLK2の周波数は、第1クロック信号CLK1の周波数の3倍である。第2クロック信号CLK2は、第1クロック信号CLK1を基本にPLL等を用いて逓倍して生成してもよい。第2クロック信号CLK2は、その立ち上がりが第1クロック信号CLK1の立ち上がりと同期した後、次の2回目の立ち下がりが第1クロック信号CLK1の次の立ち下がりと同期し、さらに次の2回目の立ち上がりが第1クロック信号CLK1の次の立ち上がりと同期する。第2クロック信号CLK2の周波数は第1クロック信号CLK1の周波数の3倍であるため、第2ステージによる変換処理速度も第1ステージによる変換処理速度の3倍である。しかしながら、より上位ビットでの変換処理における減算や増幅等のアナログ処理の精度は全体の変換精度に大きく影響するため、これを担当する第1ステージほど高い精度が要求される。したがって、本実施形態の構成において、第1ステージほどには処理精度が要求されない第2ステージは、第1ステージの処理速度より、その変換処理速度を速めることが可能である。
第1増幅回路11は、第1クロック信号CLK1の立ち上がりエッジで、入力アナログ信号Vinをサンプルし、Hiの期間ホールドする。第1クロック信号CLK1がLoのときにオートゼロ動作をする。第1AD変換回路12は、第1クロック信号CLK1がHiのときに変換動作をしてデジタル値D9〜D6を出力し、第1クロック信号CLK1がLoのときにオートゼロ動作をする。第1DA変換回路13は、第1クロック信号CLK1がLoのときに変換確定データを保持し、第1クロック信号CLK1がHiのときは不定状態となる。変換確定データの保持は、第1クロック信号CLK1のLo期間の前半一部の期間だけ、行ってもよい。
第1,2スイッチSW1,2は、スイッチ信号CLKSWがHiのときにオンされ、スイッチ信号CLKSWがLoのときにオフされる。第3,4スイッチSW3,4は、スイッチ信号CLKSWがLoのときにオンされ、スイッチ信号CLKSWがHiのときにオフされる。第2増幅回路15は、入力されたアナログ信号を第2クロック信号CLK2がLoのときに減算増幅し、第2クロック信号CLK2がHiのときにオートゼロ動作をする。第2増幅回路15は第1ステージの構成要素であり、本来第1クロック信号CLKにより制御されるものであるが、本実施形態においては第2ステージの変換動作に利用されるため、第2クロック信号CLK2により制御される。第3増幅回路17は、第2クロック信号CLK2がHiのときに第2増幅回路15の出力を増幅し、第2クロック信号CLK2がLoのときにオートゼロ動作をする。第2AD変換回路18がD1〜D0を変換している期間は、増幅を行わない。第2AD変換回路18は、第2クロック信号CLK2がHiのときに変換動作をし、第2クロック信号CLK2がLoのときにオートゼロ動作をする。第2DA変換回路19は、第2クロック信号CLK2がLoのときに変換確定データを保持し、第2クロック信号CLK2がHiのときは不定状態となる。第2AD変換回路18が出力D1〜D0を変換した後は、変換動作を行わない。第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路17、第1AD変換回路12および第2AD変換回路18のオートゼロ期間は、入力される信号をサンプル中の状態である。第1増幅回路11および第1AD変換回路12は、第1クロック信号CLK1の立ち上がりエッジで、入力されるアナログ信号をサンプルする。第2増幅回路15は、第2クロック信号CLK2の立ち下がりエッジで、入力される信号をサンプルする。第3増幅回路17および第2AD変換回路18は、第2クロック信号CLK2の立ち上がりエッジで、入力される信号をサンプルする。第3増幅回路17は、3回に1回、サンプルしない。
図のように、第2AD変換回路18がD3〜D2およびD1〜D0を変換処理する間、第1AD変換回路12は次に入力された入力アナログ信号Vinを同時に変換処理する。こうしたパイプライン処理により、AD変換器全体としては第1クロック信号CLK1を基準として1周期に1回、10ビットのデジタル値を出力することができる。
以上のように、本実施形態において、サイクリック型の第2ステージは、第1ステージの減算回路14および第2増幅回路15を利用してAD変換処理を行うことにより、これらの要素を設ける必要がなくなり、回路の小面積化を実現することができる。減算回路14および第2増幅回路15を第1ステージと第2ステージとで共有せず、第2ステージにもこれらを設けた場合と比較して、変換速度は同じである。したがって、変換速度を変えずに回路の小面積化を実現することができる。
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態におけるサイクリック型のAD変換部分を含むパイプライン型のAD変換器の構成を示す。本実施形態は、全体で10ビット変換する例である。第1増幅回路11、第1AD変換回路12、第1DA変換回路13、減算回路14、および第2増幅回路15は、第1ステージを構成している。第3増幅回路17、第2AD変換回路18、および第2DA変換回路は、第2ステージを構成している。第2ステージは、第1ステージの減算回路14、および第2増幅回路15を利用する。第2増幅回路15の増幅率は可変し、第1ステージの変換処理の際は精度を考慮して2倍に設定している。第2ステージの変換処理の際は3ビット変換なので、合計の増幅率が8倍になるように4倍に設定している。
初期段階においては、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2がオン、第3スイッチSW3および第4スイッチSW4がオフの状態である。第2増幅回路15の増幅率は、2倍である。入力アナログ信号Vinは、第1増幅回路11および第1AD変換回路12に入力される。第1AD変換回路12は、入力されたアナログ信号を4ビットのデジタル値に変換して図示しないエンコーダに出力する。10ビット中の上位4ビット(D9〜D6)を出力する。第1DA変換回路13は、第1AD変換回路12から出力された4ビットのデジタル値をアナログ信号に変換する。当該アナログ信号を所定のタイミングで第2スイッチSW2を介して減算回路14に出力する。第1増幅回路11は、入力されたアナログ信号Vinを2倍に増幅して、所定のタイミングで第1スイッチSW1を介して減算回路14に出力する。減算回路14は、第1増幅回路11の出力から、第1DA変換回路13の出力を減算する。これにより、上位4ビットの成分が取り除かれたアナログ信号が生成される。ここで、第1DA変換回路13の出力は2倍になっている。第2増幅回路15は、減算回路14の出力を2倍の増幅率で増幅し、第3増幅回路17および第2AD変換回路18へ出力する。増幅制御回路20は、第2増幅回路15の増幅率を制御する。初期段階においては2倍に設定する。減算回路14および第2増幅回路15の代わりに、それらの機能を一体化した減算増幅回路16を用いてもよい。
この段階において、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2がオフ、第3スイッチSW3および第4スイッチSW4がオンの状態に切り替わる。増幅制御回路20は、第2増幅回路15の増幅率を4倍に変更する。第2AD変換回路18は、入力されたアナログ信号を3ビットのデジタル値に変換して図示しないエンコーダに出力する。10ビット中の上位から5〜7ビット(D5〜D3)を出力する。冗長ビットの1ビットを加えて4ビットずつ変換してもよい。
第2AD変換回路18は、3ビット変換するので、増幅されなければ、第1AD変換回路12の1/8(2の3乗)のLSB電圧が設定されている必要がある。本実施形態においては第1増幅回路11の2倍と第2増幅回路15の2倍とで合計4倍に増幅されているため、第2AD変換回路18のLSB電圧は、第1AD変換回路12の1/2に設定されている。
第2DA変換回路19は、第2AD変換回路18から出力された3ビットのデジタル値をアナログ信号に変換する。当該アナログ信号を、第4スイッチSW4を介して減算回路14に出力する。第2DA変換回路19の出力は、2倍に増幅されている。
第3増幅回路17は、入力されたアナログ信号を2倍に増幅して、第3スイッチSW3を介して減算回路14に出力する。減算回路14は、第3増幅回路17の出力から、第2DA変換回路19の出力を減算する。これにより、上位7ビットの成分が取り除かれたアナログ信号が生成される。第2増幅回路15は、減算回路14の出力を4倍の増幅率で増幅する。増幅した出力を、第3増幅回路17および第2AD変換回路18へ出力する。
第2AD変換回路18は、入力されたアナログ信号を再び3ビットのデジタル値に変換して図示しないエンコーダに出力する。10ビット中の上位から8〜10ビット(D2〜D0)を出力する。第2AD変換回路18は、3ビット変換するので、前回変換したときから入力アナログ信号が実質8(2の3乗)倍になっている必要がある。本実施形態においては、第3増幅回路17で2倍、第2増幅回路15で4倍に増幅されることから、入力アナログ信号は、実質8倍になっている。このように、第1ステージの第1AD変換回路12は、比較的高い精度を要する10ビットの上位1〜4ビットの値(D9〜D6)を変換し、第2ステージの第2AD変換回路18は、サイクリックすることにより2回に分けて、10ビット中の上位から5〜10ビットの値(D5〜D0)を変換する。
図4は、増幅制御回路20および第2増幅回路15の詳細な構成を示す。第2増幅回路15は、完全差動方式の増幅回路であり、入力も出力も2つの端子電圧の差として与えられる。主にオペアンプ151、第1容量152a,bおよび第2容量153a,bを含む。第1容量152a,bは、オペアンプ151の入力側に位置し、その容量値は固定である。第2容量153a,bは、オペアンプ151の入出力間に位置し、その容量値が可変である。その容量値が可変することにより、帰還定数が可変する。第2容量153a,bの容量値は、増幅制御回路20が出力する増幅切替信号によって切り替えられる。第1容量152a,bの容量値をC1とし、第2容量153a,bの容量値をC2とすると、第2増幅回路15の増幅率はC1/C2となる。本実施形態では、第2増幅回路15の増幅率として2倍と4倍で切り替えるために、第2容量153a,bの容量値として2通りの値を設定できる構成とする。例えば、第2容量153a,bを、スイッチを介して並列接続した二つの同容量のコンデンサで構成するとよい。その場合、コンデンサの接続数をスイッチで切り替えるために、増幅切替信号がそのスイッチのオンオフを制御する。以上の説明では第2容量153a,bを可変にしたが、第1容量152a,bを可変にしてもよい。
図5は、第2実施形態におけるAD変換器の動作過程を示すタイムチャートである。以下、図の上位から順に説明する。3つの信号波形は、第1クロック信号CLK1、第2クロック信号CLK2およびスイッチ信号CLKSWを示す。第1クロック信号CLK1は、第1増幅回路11、第1AD変換回路12および第1DA変換回路13の動作を制御する。第2クロック信号CLK2は、第2増幅回路15、第3増幅回路17、第2AD変換回路18および第2DA変換回路19の動作を制御する。スイッチ信号CLKSWは、同期して動作する第1スイッチSW1および第2スイッチSW2のオンオフ制御を行う。スイッチ信号CLKSWの反転信号は、同期して動作する第3スイッチSW3および第4スイッチSW4のオンオフ制御を行う。
第2クロック信号CLK2の周波数は、第1クロック信号CLK1の周波数の2倍である。第2クロック信号CLK2の周波数は第1クロック信号CLK1の周波数の2倍であるため、第2ステージによる変換処理速度も第1ステージによる変換処理速度の2倍である。しかしながら、より上位ビットでの変換処理における減算や増幅等のアナログ処理の精度は全体の変換精度に大きく影響するため、これを担当する第1ステージほど高い精度が要求される。したがって、本実施形態の構成において、第1ステージほどには処理精度が要求されない第2ステージは、第1ステージの処理速度より、その変換処理速度を速めることが可能である。
第1増幅回路11は、第1クロック信号CLK1の立ち上がりエッジで、入力アナログ信号Vinをサンプルし、Hiの期間、増幅する。第1クロック信号CLK1がLoのときにオートゼロ動作をする。第1AD変換回路12は、第1クロック信号CLK1がHiのときに変換動作をしてデジタル値D9〜D6を出力し、第1クロック信号CLK1がLoのときにオートゼロ動作をする。第1DA変換回路13は、第1クロック信号CLK1がLoのときに変換確定データを保持し、第1クロック信号CLK1がHiのときは不定状態となる。変換確定データの保持は、第1クロック信号CLK1のLo期間の前半一部の期間だけ、行ってもよい。
第1,2スイッチSW1,2は、スイッチ信号CLKSWがHiのときにオンされ、スイッチ信号CLKSWがLoのときにオフされる。第3,4スイッチSW3,4は、スイッチ信号CLKSWがLoのときにオンされ、スイッチ信号CLKSWがHiのときにオフされる。第2増幅回路15は、入力されたアナログ信号を第2クロック信号CLK2がHiのときに減算増幅し、第2クロック信号CLK2がLoのときにオートゼロ動作をする。第2増幅回路15は第1ステージの構成要素であり、本来第1クロック信号CLKにより制御されるものであるが、本実施形態においては第2ステージの変換動作に利用されるため、第2クロック信号CLK2により制御される。第2増幅回路15の増幅率は、スイッチ信号CLKSWがHiのときに2倍になり、スイッチ信号CLKSWがLoのときに4倍になるように、増幅制御回路20により制御される。第3増幅回路17は、第2クロック信号CLK2がLoのときに第2増幅回路15の出力を増幅し、第2クロック信号CLK2がHiのときにオートゼロ動作をする。第2AD変換回路18がD2〜D0を変換している期間は、増幅を行わない。第2AD変換回路18は、第2クロック信号CLK2がLoのときに変換動作をし、第2クロック信号CLK2がHiのときにオートゼロ動作をする。第2DA変換回路19は、第2クロック信号CLK2がHiのときに変換確定データを保持し、第2クロック信号CLK2がLoのときは不定状態となる。第2AD変換回路18が出力D2〜D0を変換した後は、変換動作を行わない。第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路17、第1AD変換回路12および第2AD変換回路18のオートゼロ期間は、入力される信号をサンプル中の状態である。第1増幅回路11および第1AD変換回路12は、第1クロック信号CLK1の立ち上がりエッジで、入力される信号をサンプルする。第2増幅回路15は、第2クロック信号CLK2の立ち上がりエッジで、入力される信号をサンプルする。第3増幅回路17および第2AD変換回路18は、第2クロック信号CLK2の立ち下がりエッジで、入力される信号をサンプルする。第3増幅回路17は、1回おきにサンプルする。
図のように、第2AD変換回路18がD2〜D0を変換処理する間、第1AD変換回路12は次に入力された入力アナログ信号Vinを同時に変換処理する。こうしたパイプライン処理により、AD変換器全体としては第1クロック信号CLK1を基準として1周期に1回、10ビットのデジタル値を出力することができる。
以上のように、本実施形態において、サイクリック型の第2ステージは、第1ステージの減算回路14および第2増幅回路15を利用してAD変換処理を行うことにより、これらの要素を設ける必要がなくなり、回路の小面積化を実現することができる。また、第1ステージが第2増幅回路15を利用する場合の増幅率と、第2ステージが第2増幅回路15を利用する場合の増幅率とが異なる場合でも第2増幅回路を共用することができる。本実施形態においては、第1ステージが利用する場合の増幅率を小さくしたことにより、同一の増幅率の場合よりAD変換器全体で高速化することができる。これは、第1増幅回路11でも2倍に増幅していることにより、実現している。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能である。また、そうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を挙げる。
第1実施形態は、減算回路14と第2増幅回路15を共用する例を説明した。この点、第2増幅回路15のみを共用する構成も可能である。図6は、このような第1変形例におけるAD変換器の構成を示す。第3増幅回路17の出力から第2DA変換回路19の出力を減算する第2ステージ用の減算回路142を設ける。第1スイッチSW1を第1ステージ用の減算回路14と第2増幅回路15との間に設け、第3スイッチSW3を第2ステージ用の減算回路142と第2増幅回路15との間に設ける。第2スイッチSW2および第4スイッチSW4は、必要ない。動作タイミングは、第1実施形態において説明したものと同様である。
また、第1DA変換回路13および第2DA変換回路19をさらに共有する構成も可能である。図7は、このような第2変形例におけるAD変換器の構成を示す。図7において、第2ステージの第2DA変換回路19は、除去されている。第2スイッチSW2を第1AD変換回路12と第1DA変換回路13との間に設け、第4スイッチSW4を第2AD変換回路18と第1DA変換回路13との間に設ける。図2および図5に示したタイムチャートの第1DA変換回路13と第2DA変換回路19は、一体化し、第2クロック信号CLK2により制御される。これによれば、変換速度を保ちながら、さらなる回路面積の縮小を実現することができる。
各実施形態に記載したAD変換回路の変換ビット数とその配分、増幅回路の増幅率、容量値等のパラメータは一例に過ぎず、変形例においてはこれらのパラメータに他の数値を採用してもよい。
また、各実施形態に記載したAD変換器の動作タイミングは、タイムチャートの例に限るものではなく、その各構成要素の動作が保証される限度において任意に設定してよい。
11 第1増幅回路、 12 第1AD変換回路、 13 第1DA変換回路、 14 減算回路、 15 第2増幅回路、 16 減算増幅回路、 17 第3増幅回路、 18 第2AD変換回路、 19 第2DA変換回路、 20 増幅制御回路、 142 第2ステージの減算回路、 151 オペアンプ 152a,b 第1容量、 153a,b 第2容量、 SW1,SW2,SW3,SW4 スイッチ。