JP4347492B2 - ハンダ付けフラックス、ハンダペースト、ハンダ付け方法、接合物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は保存安定性、リフロー特性に優れたハンダ付けフラックス及びハンダペースト、並びに、該ハンダペーストを用いたハンダ付け方法、及び接合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハンダ付けフラックス、ハンダペーストは、エレクトロニクス産業において電子部品を表面実装するために用いられる。ハンダペーストはその印刷適性、粘着性のため自動化に適しており、近年その使用量が増大している。
【0003】
エレクトロニクス産業においては、ハンダペーストはプリント基板上にスクリーン印刷またはディスペンサーにより塗布され、電子部品が載置され、ついでリフローして電子部品が固定化される。ここでリフローとは電子部品が載置された基板を予熱しその後ハンダペーストを融解温度以上に加熱し部品の接合を行う一連の操作を言う。
【0004】
一方、最近では電子製品の小型化のためファインピッチ化が要求され、ファインピッチの部品、例えば0.3mmピッチのQFP(Quad Flat Package)タイプLSIの使用や、さらにはCSP(Chip Size Package)などが多く用いられている。このため、ハンダ付けフラックス、ハンダペーストには、ファインピッチ対応の印刷性能が要求されている。このような産業界の要望に応えるため、ハンダ粒子の平均粒子径を下げることがなされているが、一方ハンダ粒子全体の比表面積が増大するため、ハンダ粒子とフラックスとの反応が促進され、ハンダペーストの保存安定性が一層悪化するという問題点があった。
【0005】
ハンダペーストの保存安定性低下の最大原因は、保存中にハンダ粉末がフラックスと優先的に反応し、ハンダ粉末の酸化が進行してフラックス中の活性剤が消費され、フラックスの活性度が低下すると同時に、反応生成物によりハンダペーストの粘度が増加してしまうためである。このため、ハンダペーストの使用において、適正な印刷特性が維持出来なくなる上に、リフロー時に溶解しなくなるという問題が生ずる。
【0006】
従来よりハンダペーストの保存安定性を向上させるために、ハンダ粒子の表面を保護し、粒子金属の反応性を下げる努力がなされてきた。
【0007】
例えば、ハンダ粉末をグリセリンで被覆する方法(特公平5−26598号公報)、ハンダ粉末をハンダペーストの溶剤に対し不溶性あるいは難溶性のコーティング剤によりコートする方法(特開平1−113197号公報)が開示されている。後者のコーティング剤の好適な例としてはシリコーンオイル、シリコーンベース高分子量化合物、フッ素化シリコーンオイル、フルオロシリコーン樹脂およびフッ素化炭化水素ベース高分子化合物などが挙げられている。
【0008】
またハンダ粉末を、常温ではフラックスと不相溶であるが、ハンダ付け温度で相溶するロジンを主体とする樹脂でコートする方法(特開平3−184698号公報、特開平4−251691号公報)が開示されている。
【0009】
前述の方法では、比較的多量のコーティング剤で被覆を行えばハンダ粉末の酸化を抑えるのに有効であるが、多量の被覆材料はハンダペーストのリフローに対しむしろ不都合であって、逆にハンダボールが多発するおそれがある。またこれらの被覆は物理的に行われているだけで、付着は非常に弱いと考えられ、ハンダペーストを製造する際の混練あるいは使用時の移送、印刷等の取扱ではがれてしまう恐れが強い。また、前述のロジンを主体とする樹脂のコーティング剤はそれ自身に反応性の有機酸を多く含み粉末を保護しているとは言い難い。
【0010】
その他、ハンダ付けフラックスの添加剤として、フェノール系、フォスファイト系または硫黄系の抗酸化剤を添加する方法(特公昭59−22632号公報、特開平3−124092号公報)、分子内に第三ブチル基のついたフェノ−ル骨格を一つまたはそれ以上含む酸化防止剤の一種またはそれ以上を1〜30重量%添加する方法(特開平5−185283号公報)、ビタミンA〜Y等を添加する方法(特開平11−267885号公報)、また特定の界面活性剤を用いること(特開平2−147194号公報)などが提案されているが、これらの添加によってもハンダペーストの保存安定性を高める効果は十分ではなく、またリフロー時におけるハンダ粉の酸化を防止する効果についてはほとんどない。
【0011】
また最近は環境問題から、鉛を含まないPbフリーハンダペーストやPbフリーハンダ用のフラックスが推奨されており、これに対応すべく開発が進められている。この中で特に有望なものとして注目されているSn−Zn系のハンダペーストは、通常のPbベースのハンダペーストより更に保存安定性が悪く、ハンダ粉末中の、Znの酸化の進行やZnとフラックスとの反応により、経時的に粘度が上昇する。特にZnが常温においてフラックス中の有機ハロゲン化合物の分解物である臭素等と反応し、ハンダペーストの保存安定性を悪化させている。
【0012】
また、リフロー時においてもZnの酸化が進行することにより、リフロー特性が低下し、ハンダボールの発生により接合物の信頼性が低下する。更に、フラックス中のハロゲン化合物と、ハンダ粉末中のZnが反応して微量の水素ガスを発生し、この発生した水素ガスが部品接合後もハンダフィレット内に内蔵されるため、信頼性に重大な影響をもたらすことも明かになっている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、保存安定性、リフロー特性に優れたハンダ付けフラックス、ハンダペーストを提供し、更にこのハンダペーストを用いることにより、信頼性の高いハンダ付け方法、及び接合物を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決するベく鋭意努力し検討した結果、従来より酸化防止剤として化粧品、医薬品等に用いられているトコフェロールとアスコルビン酸の化合物(特開昭59−219295号公報、特開昭62−187470号公報、特開昭63−139972号公報、特公平1−27044号公報、特開平5−331166号公報)をハンダ付けフラックスに添加したところ、常温でのハンダペーストの保存安定性が高められると共に、特にリフロー温度でのハンダ粉の酸化が防止され、飛躍的にリフロー特性が高められるという格別な効果が得られることを発見し本発明を完成させた。即ち、本発明は、
[1]フラックス中に、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とを少なくとも有する化合物を含むことを特徴とするハンダ付けフラックス、
[2]フラックス中に、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とを少なくとも有する化合物の塩を含むことを特徴とするハンダ付けフラックス、
[3]前記化合物が、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とが、リン酸にジエステル結合した化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のハンダ付けフラックス、
[4]前記化合物が、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とが、グリセリン成分にエーテル結合した化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のハンダ付けフラックス、
[5]前記化合物が、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とが、ジカルボン酸にジエステル結合した化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のハンダ付けフラックス、
[6][1]〜[5]の何れか1項に記載のハンダ付けフラックスとハンダ粉末とからなるハンダペースト、
[7]前記ハンダ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とする[6]に記載のハンダペースト、
[8][6]または[7]に記載のハンダペーストを、回路板上に塗布する工程と、該ハンダペーストをリフローする工程とを含むことを特徴とする回路板のハンダ付け方法、
[9][8]に記載の回路板のハンダ付け方法により製造した接合物に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
ハンダ付けフラックスは、ロジンまたは合成樹脂系の樹脂成分、活性剤として有機ハロゲン化合物、溶剤、チクソトロピック剤、酸化防止剤等を配合したものである。本発明では酸化防止剤(還元剤)として、1分子中にアスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造構造とを少なくとの有する化合物、またはその化合物の塩を添加することを特徴とする。
【0016】
1分子中にアスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造構造とを少なくとも有する化合物とは、化合物の安定性を考慮すると、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体の2位水酸基、3位水酸基または6位水酸基と、トコフェロールまたはその誘導体の6位水酸基とが反応した構造を持つものが好ましい。また、アスコルビン酸またはその誘導体とトコフェロールまたはその誘導体の結合様式としては、リン酸またはジカルボン酸のジエステル結合またはグリセリンのエーテル結合が含まれるようにするのが好ましい。
【0017】
このような結合様式の化合物が、ハンダペーストの保存安定性や、特にハンダ付けフラックスのリフロー特性を改善させる理由は、おそらく常温でのハンダペーストの保存時においては、これらの化合物は安定で、ハンダ粉に対し比較的低い還元作用を有するのに対し、高温に加熱されるリフロー時においては、本発明の化合物がフラックス中に含まれる有機ハロゲン化合物との相互作用により、ハンダ粉末に対する高い還元作用を示すからと考えられる。
【0018】
本発明の化合物に用いられるアスコルビン酸誘導体としては、例えば、アスコルビン酸−6−パルミテート、アスコルビン酸−6−ステアレート、アスコルビン酸−6−ミリスチレート、アスコルビン酸−5,6−O−イソプロピリデン、アスコルビン酸−5,6−O−ベンジリデン、アスコルビン酸−2−パルミテート、アスコルビン酸−2−ステアレート、アスコルビン酸−2−ミリスチレート、アスコルビン酸−2,6−ジパルミテート、アスコルビン酸−2,6−ジステアレート、アスコルビン酸−2,6−ジミリスチレート、ウリジン等が挙げられる。また、本発明の化合物に用いられるトコフェロール誘導体としては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、トコール、5,7−ジメチルトコール、5,7−ジエチルトコール、5,7−ジイソプロピルトコール、7−ターシャリーブチル−5−メチルトコール、8−ターシャリーブチル−5−メチルトコール、7−ターシャリーブチル−5−イソプロピルトコ−ル、5,7−ジエチル−8−メチルトコール、8−メチル−5,7−ジイソプロピルトコール等が挙げられる。
【0019】
本発明の、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とがリン酸とジエステル結合している化合物には、アスコルビン酸またはその誘導体の2位水酸基とトコフェロールまたはその誘導体の6位水酸基がジエステル結合しているものが好適であり、例えば、DL−α−トコフェロールリン酸ジエステル、DL−α−トコフェロール−ウリジンリン酸ジエステル等が挙げられる。これらの化合物の製造方法は、例えば、特開昭59−219295公報に開示されているが、トコフェロールまたはその誘導体にハロリン酸エステル化剤を反応させて得られる反応生成物に、5位及び6位の水酸基に保護基を有するアスコルビン酸またはその誘導体を反応させ、ついで上記の保護基を離脱させることにより得ることができる。
【0020】
また、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とが、リン酸とジエステル結合している化合物の塩は、上記のようにして得られた遊離酸を、アルカリ水酸化物で中和しアルカリ塩とすればよい。具体的には、有機アミン塩や無機塩等があり、目的に応じて塩の種類を選択すればよい。この中で、例えば、DL−α−トコフェロールリン酸ジエステルのナトリウム塩またはカリウム塩は水に溶けるので水溶性フラックスに、カルシウム塩は水に不溶なので非水溶性フラックスに適している。
【0021】
本発明の、アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とが、グリセリンとエーテル結合している化合物としては、例えばアスコルビン酸またはその誘導体の3位水酸基とトコフェロールまたはその誘導体の6位水酸基がグリセリンの両端とエーテル結合しているものが好適であり、例えば、3−O−(3’−DL−α−トコフェニルグリセリン)−L−アスコルビン酸、3−O−(3’−DL−α−トコフェニルグリセリン)−5,6−O−イソプロピリデン−L−アスコルビン酸等が挙げられる。これらの製造方法は、例えば、特開平5−331166公報に開示されているが、トコフェロールとエピハロヒドリンを反応させて得たトコフェロールグリシジルエーテルと、アスコルビン酸をアセトン中でアセチルクロライドと反応させて得た5,6−O−イソプロピリデン−L−アスコルビン酸を有機溶剤中、塩基性触媒存在下、50〜150℃で5〜150時間反応させることによって得られる。また必要に応じて、イソプロピリデン基等の保護基を離脱させることが好ましい。
【0022】
アスコルビン酸またはその誘導体の1価基の化学構造とトコフェロールまたはその誘導体の1価基の化学構造とが、ジカルボン酸とジエステル結合している化合物は、アスコルビン酸またはその誘導体の6位水酸基とトコフェロールまたはその誘導体の6位水酸基がカルボン酸によってジエステル結合しているものが好適である。ジカルボン酸をHOOC−Y−COOHとすると、Yは、−(CH2)L−基(但しLは2〜20の整数である)、−(CH2)M−X−(CH2)M基(但しMは1〜4の整数であり、Xは−S−、−O−、−NR−(但しRは低級アルキル基、脂肪族低級アルキル基、脂肪族低級アシル基もしくは芳香族アシル基である)である)、または−(CH(OCOCH3))N−基(但し、Nは2〜4の整数である)等が挙げられる。例えば、コハク酸、グルタル酸、チオグリコール酸、酒石酸等と、これらの無水物等が挙げられる。
【0023】
具体的には、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸−6−コハク酸ジエステル、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸−6−グルタル酸ジエステル、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸−6−チオジグリコール酸ジエステル、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸−6−ジアセチル−L−酒石酸ジエステル等が挙げられる。製造方法は、例えば、特開昭62−187470公報に開示されているが、トコフェロールと無水カルボン酸とをエステル化反応させて得た化合物と、アスコルビン酸を有機溶剤中、塩基性触媒、脱水剤存在下で縮合させることによって得られる。これらの化合物は、水にほとんど溶けないので非水溶性フラックスに適している。
【0024】
本発明の化合物の添加量は、フラックス全量に対し0.005質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。添加量が少なすぎると安定化効果が無く、20質量%以上添加しても高濃度添加に見合うだけの効果の向上が認められないので好ましくない。また、他の抗酸化剤、例えば、ハイドロキノン、カテコール、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−ターシャリーブチル−p−クレゾール、トリフェニルフォスファイト、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート等と併用してもよい。
【0025】
ハンダペーストに含まれる活性剤は、リフロー時にハンダ金属の表面酸化物を除去し良好な結合を得るために使われる。このような物質として有機ハロゲン化合物等が用いられる。
【0026】
有機ハロゲン化合物としては、例えばイソプロピルアミン臭化水素酸塩、ブチルアミン塩化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩等のハロゲン化水素酸アミン塩、1,3−ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩等が挙げられる。
【0027】
また、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、1,4−ジブロモ−2,3−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、1−ブロモ−3−メチル−1−ブテン、1,4−ジブロモブテン、1−ブロモ−1−プロペン、2,3−ジブロモプロペン、ブロモ酢酸エチル、α−ブロモカプリル酸エチル、α−ブロモプロピオン酸エチル、β−ブロモプロピオン酸エチル、α−ブロモ−酢酸エチル、2,3−ジブロモコハク酸、2−ブロモコハク酸、2,2−ジブロモアジピン酸、2,4−ジブロモアセトフェノン、1,1−ジブロモテトラクロロエタン、1,2−ジブロモ−1−フェニルエタン、1,2−ジブロモスチレン、4−ステアロイルオキシベンジルブロマイド、4−ステアリルオキシベンジルブロマイド、4−ステアリルベンジルブロマイド、4−ブロモメチルベンジルステアレート、4−ステアロイルアミノベンジルブロマイド、2,4−ビスブロモメチルべンジルステアレート、4−パルミトイルオキシベンジルブロマイド、4−ミリストイルオキシベンジルブロマイド、4−ラウロイルオキシべンジルブロマイド、4−ウンデカノイルオキシベンジルブロマイド、9,10,12,13,15,16−ヘキサブロモステアリン酸、9,10,12,13,15,16−へキサブロモステアリン酸メチルエステル、同エチルエステル、9,10,12,13−テトラブロモステアリン酸、同メチルエステル、同エチルエステル、9,10,12,13,15,16−へキサブロモステアリルアルコール、9,10,12,13−テトラブロモステアリルアルコール、1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカン等の臭化物が挙げられるが、これらの例示に限定されるものではない。また臭素の代わりに、塩素、ヨウ素を含む有機ハロゲン化合物を用いても良い。また上記の有機ハロゲン化合物は、1種またはそれ以上を添加してもよい。
【0028】
本発明における有機酸成分としては、従来周知のコハク酸、フタル酸、ステアリン酸、セバシン酸等が挙げられ、リフロー温度に達した時に有機酸を発生する化合物である有機酸誘導体は好適に用いられる。その例としては、各種脂肪族カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族スルホン酸エステル、芳香族スルホン酸エステル等が挙げられる。具体的な例としては、パラトルエンスルホン酸−n−プロピル、パラトルエンスルホン酸イソプロピル、パラトルエンスルホン酸イソブチル、パラトルエンスルホン酸−n−ブチル、ベンゼンスルホン酸−n−プロピル、ベンゼンスルホン酸イソプロピル、ベンゼンスルホン酸イソブチル、サリチル酸−n−プロピル、サリチル酸イソプロピル、サリチル酸イソブチル、サリチル酸−n−ブチル、4−ニトロ安息香酸イソプロピル、4−ニトロ安息香酸−t−ブチル、メタクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、マロン酸−t−ブチル、ブロモ酢酸−t−ブチルなどが挙げられる。添加量としてはフラックス全量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%の範囲を使用する。
【0029】
上記の分解性の有機酸エステルは、単独ではリフロー温度においても分解性が低いため、分解を促進するためには少量のエステル分解触媒の添加が有効である。エステル分解触媒としては、分解性の有機酸エステルがリフロー温度で分解して酸の発生を促進する作用を有する触媒であればよいが、その中で特に有機塩基のハロゲン化水素酸塩が有効である。
【0030】
本発明のハンダペーストに配合される樹脂成分としては、従来フラックスに配合される周知の樹脂を用いることができ、例えば、天然ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジンなど、合成樹脂としてはポリエステル、ポリウレタン、アクリル系樹脂その他が用いられる。
【0031】
溶剤としては、従来のフラックスやハンダペーストと同様にアルコール類、エーテル類、エステル類、又は芳香族系の溶剤が利用でき、例えばベンジルアルコール、ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジオクチルフタレート、キシレン等が一種または混合して用いられる。
【0032】
また印刷性を改善するために添加されるチクソトロピック剤としては、微細なシリカ粒子、カオリン粒子などの無機系のもの、または水添ヒマシ油、アマイド化合物などの有機系のものが使用される。
【0033】
本発明のハンダペーストに用いられるフラックスは、フラックス全量に対し、20〜60質量%の樹脂成分、0.04〜20質量%のチクソトロピック剤、0.01〜20質量%の有機酸成分、0.02〜20質量%の有機ハロゲン化合物、還元剤として本発明の化合物を0.005〜20質量%添加し、残部として溶剤その他を用いる。このフラックスを、ハンダペースト全量に対し14〜8質量%と、ハンダ粉末86〜92質量%とを混練して本発明のハンダペーストとする。混練はプラネタリーミキサー等公知の装置を用いて行われる。
【0034】
また、ハンダペーストのpHも所定の範囲4〜9、より好ましくは6〜8の範囲にあることが、ハンダ粉とフラックスとの反応を抑制する意味で好ましい。この場合、pH調整剤として、アルカノールアミン類、脂肪族第1〜第3アミン類、脂肪族不飽和アミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類などのアミン化合物を用いることが好ましい。
【0035】
これらアミン化合物の具体的な化合物としては、エタノールアミン、ブチルアミン、アミノプロパノール、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンラウレルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メトキシプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、エチルへキシルアミン、エトキシプロピルアミン、エチルへキシルオキシプロピルアミン、ビスプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミンなどを挙げることができる。
【0036】
アミン化合物の使用量は、ハンダペーストのフラックスの全量に対し、0.05〜20質量%とすることが好ましい。0.05質量%未満ではpH調整剤としての効果が十分でなく、20質量%を超えると一般にpHが9を超え、アルカリ側に移行しハンダペーストが吸湿しやすくなる。
【0037】
更に回路の銅を防錆するためフラックス中に、アゾール類、例えばベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、トリルトリアゾールなどを添加しても良い。防錆剤の添加量は、フラックス全量に対して0.05〜20質量%が好ましい。
【0038】
本発明のハンダペーストに使用するハンダ粉末の金属組成としては、例えばSn−Pb系、Sn−Pb−Ag系、Sn−Pb−Bi系、Sn−Pb−Bi−Ag系、Sn−Pb−Cd系が挙げられる。また最近のPb排除の観点からPbを含まないSn−In系、Sn−Bi系、In−Ag系、In−Bi系、Sn−Zn系、Sn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−Sb系、Sn−Au系、Sn−Bi−Ag−Cu系、Sn−Ge系、Sn−Bi−Cu系、Sn−Cu−Sb−Ag系、Sn−Ag−Zn系、Sn−Cu−Ag系、Sn−Bi−Sb系、Sn−Bi−Sb−Zn系、Sn−Bi−Cu−Zn系、Sn−Ag−Sb系、Sn−Ag−Sb−Zn系、Sn−Ag−Cu−Zn系、Sn−Zn−Bi系等が挙げられる。
【0039】
上記の具体例としては、Snが63質量%、Pbが37質量%の共晶ハンダ(以下63Sn/37Pbと表す。)を中心として、62Sn/36Pb/2Ag、62.6Sn/37Pb/0.4Ag、60Sn/40Pb、50Sn/50Pb、30Sn/70Pb、25Sn/75Pb、10Sn/88Pb/2Ag、46Sn/8Bi/46Pb、57Sn/3Bi/40Pb、42Sn/42Pb/14Bi/2Ag、45Sn/40Pb/15Bi、50Sn/32Pb/18Cd、48Sn/52In、43Sn/57Bi、97In/3Ag、58Sn/42In、95In/5Bi、60Sn/40Bi、91Sn/9Zn、96.5Sn/3.5Ag、99.3Sn/0.7Cu、95Sn/5Sb、20Sn/80Au、90Sn/10Ag、90Sn/7.5Bi/2Ag/0.5Cu、97Sn/3Cu、99Sn/1Ge、92Sn/7.5Bi/0.5Cu、97Sn/2Cu/0.8Sb/0.2Ag、95.5Sn/3.5Ag/1Zn、95.5Sn/4Cu/0.5Ag、52Sn/45Bi/3Sb、51Sn/45Bi/3Sb/1Zn、85Sn/10Bi/5Sb、84Sn/10Bi/5Sb/1Zn、88.2Sn/10Bi/0.8Cu/1Zn、89Sn/4Ag/7Sb、88Sn/4Ag/7Sb/1Zn、98Sn/1Ag/1Sb、97Sn/1Ag/1Sb/1Zn、91.2Sn/2Ag/0.8Cu/6Zn、89Sn/8Zn/3Bi、86Sn/8Zn/6Bi、89.1Sn/2Ag/0.9Cu/8Znなどが挙げられる。また本発明のハンダ粉末として、異なる組成のハンダ粉末を2種類以上混合したものでもよい。
【0040】
上記のハンダ粉末の中でもPbフリーハンダ、特に好ましくはSnおよびZn、又はSnおよびAg元素を含有するハンダから選ばれた合金組成を用いて本発明のハンダペーストを作製した場合、Sn−Pb系のハンダと同等レベルまでリフロー温度が下げられるため、実装部品の長寿命化がはかられ、また部品の多様化にも対応できる。
【0041】
なお、本発明のハンダ付けフラックスはフロー用の液状フラックスや、糸ハンダのヤニにも適用できる。液状フラックスで使用する場合は溶剤にイソプロピルアルコール等を使用して40〜70質量%程度に希釈すればよく、また糸ハンダ用ヤニに使用する場合、溶剤を使用せずに溶剤以外の材料をロジンの軟化点以上で調合し、常温で固化し糸ハンダとすればよい。
【0042】
本発明のフラックスおよびハンダペーストは、基板、例えば、プリント配線板と電子部品を接合して接合物を製造する際に好適に使用される。本発明のフラックス及びハンダペーストの使用方法、並びに電子部品接合物の製造方法では、例えば、ハンダ付けを所望する部分に、印刷法等でハンダペーストを塗布し、電子部品を載置し、その後加熱してハンダ粒子を溶融し凝固させることにより電子部品を基板に接合することができる。
【0043】
基板と電子部品の接合方法(実装方法)としては、例えば表面実装技術(SMT)があげられる。この実装方法は、まずハンダペーストを印刷法により基板、例えば配線板上の所望する箇所に塗布する。次いで、チップ部品やQFPなどの電子部品をハンダペースト上に載置し、リフロー熱源により一括してハンダ付けする。リフロー熱源には、熱風炉、赤外線炉、蒸気凝縮ハンダ付け装置、光ビームハンダ付け装置等を使用することができる。
【0044】
本発明のリフローのプロセスはハンダ合金組成で異なるが、91Sn/9Zn、89Sn/8Zn/3Bi、86Sn/8Zn/6BiなどのSn−Zn系の場合、プレヒートとリフローの2段工程で行うのが好ましく、それぞれの条件は、プレヒートが温度130〜180℃、好ましくは、130〜150℃、プレヒート時間が60〜120秒、好ましくは、60〜90秒、リフローは温度が210〜230℃、好ましくは、210〜220℃、リフロー時間が30〜60秒、好ましくは、30〜40秒である。なお他の合金系におけるリフロー温度は、用いる合金の融点に対し+20〜+50℃、好ましくは、合金の融点に対し+20〜+30℃とし、他のプレヒート温度、プレヒート時間、リフロー時間は上記と同様の範囲であればよい。
【0045】
本発明のハンダ付けフラックスを用いることにより、従来大気中でリフローが難しかった、PbフリーやZnを含むハンダ合金系でもハンダ付けを実施することが可能となり、また配線板などの基板へのハンダの濡れ性が向上し、ハンダボールの発生も少なくなり、リフロー特性の高い処理ができる。
【0046】
この後、基板を冷却し表面実装が完了する。この実装方法による電子部品接合物の製造方法においては、プリント配線板等の基板(被接合板)の両面に接合を行ってもよい。なお、本発明のハンダペーストを使用することができる電子部品としては、例えば、LSI、抵抗器、コンデンサ、トランス、インダクタンス、フィルタ、発振子・振動子等があげられるが、これに限定されるものではない。
【0047】
また本発明は、あらかじめ基板の所定の表面、例えばプリント基板の回路金属の、所定の表面にのみ化学反応により粘着性皮膜を形成し、これにハンダ粉末を付着させた後フラックスを塗布し、ハンダの溶融温度まで加熱してリフローさせ、ハンダバンプを形成した回路基板(特開平7−7244公報)上に、本発明のハンダペーストを用いてSMT(表面実装技術)で実装した場合、ハンダ中のボイドが減少する等の優れた接合物の信頼性が得られる。
【0048】
【実施例】
以下実施例をもって発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[試験法]
▲1▼ハンダペーストの保存安定性
ハンダペースト製造後、25℃で7日間保存する加速試験を行い、有機ハロゲン化合物の分解率と水素発生量を測定した。本加速試験の条件は大略5℃で3ヶ月間の冷蔵保管に相当する。
【0050】
有機ハロゲン化合物の分解率は、ペースト1gにクロロホルム5mlを加えて攪拌し、フラックス分を溶解した後、純水10mlを加えてハロゲンイオンを水に抽出し、イオンクロマトグラフで測定した。また水素発生量は、ハンダペースト50gを100mlの試験管に入れ、シリコンゴム製栓で密閉した状態で25℃で7日間保存した後、ゴム栓を通して気体を採取してガスクロマトグラフにより気体中の水素濃度を測定した。また、製造時および25℃7日後のハンダペーストの粘度を、マルコム社製PCU−205型スパイラル粘度計を用いて測定した。
【0051】
▲2▼ボイドの観察(リフロー特性)
60mm平方の銅板に厚さ150ミクロンのメタルマスクを用いて、直径6mm×6個のパターンを印刷後、大気雰囲気下でリフローし、次いでカッタでハンダと共に銅板を切断した後、該ハンダ部分を顕微鏡により観察し、ボイドの発生状況を観察した。6個のパターンについて大きさが10μm以上のボイドを計測し、1個のパターン当たりの平均個数が2個以上であった場合を不合格とした。
【0052】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
<フラックス及びハンダペーストの製造>樹脂成分として重合ロジン17.5質量%、不均化ロジン27.5質量%、チクソトロピック剤として水添ヒマシ油6質量%、活性剤としてシクロヘキシルアミン臭化水素酸塩0.1質量%と有機ハロゲン化合物としてヘキサブロモシクロドデカン3.0質量%、有機酸成分としてフタル酸0.05%を、また還元剤として、L−アスコルビン酸−DL−α−トコフェロールリン酸ジエステルカリウム塩(実施例1)、L−アスコルビン酸−6−ステアレート−DL−α−トコフェロールリン酸ジエステル(実施例2)、DL−α−トコフェロール−ウリジンリン酸ジエステル(実施例3)、3−O−(3'−DL−α−トコフェニルグリセリン)−5,6−O−イソプロピリデン−L−アスコルビン酸(実施例4)、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸−6−ジグリコール酸ジエステル(実施例5)を、比較例の還元剤としてブチル化ヒドロキシトルエン(比較例1)、ヒドロキノン(比較例2)を各1質量%を、更にpH調整剤としてイソプロピルアミン1質量%、防錆剤としてベンゾトリアゾールを1質量%加え、溶剤としてジエチレングリコール モノ−2−エチルヘキシルエ−テルを加えて100質量%とするフラックスを調製した。
【0053】
このフラックス10質量%に89Sn/8Zn/3BiのPbフリーハンダ粉末90質量%を添加し、プラネタリーミルで混練し3kgのハンダペーストを製造した。
【0054】
<電子部品接合物の製造>
実装方法としてSMTを用いた。実施例1〜5、比較例1〜2の組成のハンダペーストをそれぞれ1枚の回路板に印刷し、LSI、チップ抵抗、チップコンデンサーをハンダペースト上に載置した後、大気中でリフロー熱源により加熱してハンダ付けした。リフロー熱源には熱風炉を用いた。
【0055】
リフロー条件は、プレヒートが温度130℃、プレヒート時間が80秒、リフローはピーク温度が230℃、200℃以上のリフロー時間を50秒とした。
【0056】
作製したプリント配線板および用いたハンダペーストについて前述した測定方法により特性を比較した。測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
更に、同様に91Sn/9Zn、86Sn/8Zn/6Biおよび96.5Sn/3.5AgのPbフリーハンダ粉末を使用して同様の実験を行ったが、全く同様の結果が得られた。
【0058】
また実施例1〜5のリフロー後のハンダ合金組織と従来のSn−Pb系ハンダペーストのハンダ合金組織とを比較したところ、Sn−Pb系の場合、高温環境下での結晶の粗大化が著しいのに対し、本発明のSn−Zn系合金では粗大化の傾向が小さく、これによりハンダの機械的物性が向上しこれを用いた実装配線板の寿命特性の向上が確認された。
【0059】
【発明の効果】
本発明の化合物、または本発明の化合物の塩をフラックスに添加した、ハンダ付けフラックス、ハンダペーストを用いることにより、ハンダ合金の酸化が大幅に抑制され、極めて優れた保存安定性が得られた。特にリフロー温度でのハンダ粉の酸化が防止され、飛躍的にリフロー特性が高められた。
【0060】
また本発明は、従来より保存安定性、リフロー特性が悪いとされたPbフリーハンダペーストにおいても、保存安定性、リフロー特性を格段に向上させ、その有効性が確認できた。
【0061】
本発明の化合物、または本発明の化合物の塩は、特にリン酸ジエステル結合物、グリセリン成分のエーテル結合物、ジカルボン酸のジエステル結合物であるのが好ましく、これらを用いた場合、保存安定性、リフロー特性が更に高められた。
【0062】
また本発明のハンダ付けフラックスの開発により、実装配線板のファインピッチ化、部品の多様化に対応した信頼性の高い回路板のハンダ付け方法、ハンダ付けした接合物を提供することが可能となった。
Claims (5)
- L−アスコルビン酸−DL−α−トコフェロールリン酸ジエステルカリウム塩、L−アスコルビン酸−6−ステアレート−DL−α−トコフェロールリン酸ジエステル、DL−α−トコフェロール−ウリジンリン酸ジエステル、3−O−(3'−DL−α−トコフェニルグリセリン)−5,6−O−イソプロピリデン−L−アスコルビン酸、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸−6−ジグリコール酸ジエステル中の少なくとも一種を含むことを特徴とするハンダ付けフラックス。
- 請求項1に記載のハンダ付けフラックスとハンダ粉末とからなるハンダペースト。
- 前記ハンダ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とする請求項2に記載のハンダペースト。
- 請求項2または3に記載のハンダペーストを、回路板上に塗布する工程と、該ハンダペーストをリフローする工程とを含むことを特徴とする回路板のハンダ付け方法。
- 請求項4に記載の回路板のハンダ付け方法により製造した接合物。
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