JP4347305B2 - 誘導加熱式調理器の製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、電磁誘導加熱によって調理を行う誘導加熱式調理器の調理容器に関するものであって、更に詳しくは、非調理面である外面に気孔を有する塗膜を備えて断熱性を付与された調理容器に関する。
従来の電磁誘導加熱式調理器の調理容器には、母材となる非磁性金属のアルミニウム材などの外側に磁性金属であるフェライト系ステンレス鋼板等を合わせたクラッド板をプレス加工等によって、例えば鍋状に賦型した後、調理に供する内面に非着性に優れたフッ素樹脂などを塗装したものが用いられてきた。
誘導加熱式調理器は、誘導加熱が行える素材から成るクラッド材を用いたクラッド鍋が容器カバーに挿入され、容器カバーの外側に加熱コイルが密接して設けられ、加熱コイルに高周波電流が供給されてクラッド鍋が誘導加熱される。
誘導加熱式調理器に使用されるクラッド材は、磁性金属であるフェライト系ステンレス鋼板等の熱伝導率が低いうえに1mm前後の厚さしかないため、調理の適正温度を得るために行う誘導電流量の変化を受けた発熱量を迅速に反映できずに生じる温度変化と加熱ムラが生じる。
そこで、誘導加熱式調理器の調理容器には、底部の発熱を容器全体に伝達して均一加熱できるように、非磁性金属のアルミニウムを主体とした高熱伝導素材をクラッド材と併用している。従って、加熱を終了して高周波電流を停止後、高温状態の調理容器が冷めやすいという課題がある。
簡単な構造にて、容器の外面の断熱性能を高め、加熱ムラの少ない調理と、保温性能の高い保温を行うために、容器の外側に複数の微細な閉塞空間からなる断熱層を形成した誘導加熱式調理器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開平10−211091号公報
電磁誘導加熱が可能で熱伝導率の高いカーボン凝結体を素材に用いた調理容器によって、温度ムラの抑制と温度変化を緩慢にすること、遠赤外線が発生し易いことが調理に好適であるとされている。
高い保温性能の調理容器を得るため、カーボン凝結体を素材に用いた調理容器の外側に微細な閉塞空間からなる断熱層を形成した場合、カーボン凝結体が調理容器の調理具材の密着と浸透の防止を目的とした内面に施した塗膜とで密封され、カーボン凝結体が備える多くの気孔内にある空気や外部から侵入した水分が調理時の加熱によって膨張や気化して塗膜内圧が上昇して塗膜の剥離を来し易い状況を生むという課題がある。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、カーボン凝結体を発熱体とする調理容器の外面に断熱層を形成しても、調理容器内面に施した塗膜の内圧が上昇して塗膜の剥離を起こす恐れの少ない誘導加熱式調理器及び誘導加熱式調理器の製造方法を提供することを目的とする。
この発明に係る誘導加熱式調理器は、加熱コイルにより誘導加熱される調理容器を有する誘導加熱式調理器において、調理容器は、発熱体となるカーボン凝結体で構成され、カーボン凝結体の外面に、カーボン凝結体に連通し、外表面に開口する連続した気孔を含む塗膜を形成したことを特徴とする。
この発明に係る誘導加熱式調理器は、上記構成により、調理容器の放熱部分である外面に保温性を付与するとともに、カーボン凝結体が備える空隙内にある気体を、塗膜に含まれる連続した気孔により排出して塗膜内圧の上昇を抑制し、塗膜が剥離しにくい調理容器を得ることができる。
実施の形態1.
図1乃至図6は実施の形態1を示す図で、図1は釜状加工物の製造工程図、図2は釜状加工物の外面塗装工程図、図3はシリコーン樹脂含浸状態の概念図((a)は塗装面近傍におけるシリコーン樹脂含浸状態の概念図、(b)は粒子間の補強状態の概念図)、図4は釜状加工物の内面塗装工程図、図5はシリコーン樹脂に分散させたポリプロピレン発泡体を収縮させて形成した気孔の概念図、図6は中空粒子を混合した塗料を外面に塗装した内釜(本実施の形態;(A))と、中空粒子を充填しないシリコーン樹脂を外面に塗装した内釜(比較例;(B))の保温性能を比較した図である。
誘導加熱式調理器が備える加熱コイルに流れる電流により発生する磁界による誘導電流を受けて発熱するとともに、優れた熱伝導率に基づく均一加熱を達成して炊飯性能が向上できるカーボン凝結体を用いた炊飯器(誘導加熱式調理器の一例)の内釜(調理容器の一例)の製造方法を、以下に詳述する。
まず、カーボン凝結体の製造工程について、図1により説明する。コークス粉粒物を主体とする原料に、300℃に加熱して溶融状態にある石油タールピッチを加えて混練した後加圧してブロック状に成形し前駆体を形成する(S10)。前駆体を1000℃の無酸素状態で焼結(S20)、さらに3000℃の無酸素状態で加熱処理(S30)をすることにより、カーボンが99.9%以上の純度で密度が約1.7g/cmのカーボン凝結体が得られる。このカーボン凝結体は、旋盤を用いて切削加工を行い、肉厚が5mmの釜状に加工し、釜状加工物が完成する(S40)。この際、切削屑が気孔内に残留して後述する液状樹脂の含浸を阻害しないように、切削時に切削屑を吸引するなどして排除することが肝要である。
次に、図2により釜状加工物の外面塗装の工程を説明する。本実施の形態は、この釜状加工物の外面塗装に特徴がある。用いる塗料は、20容積%のシンナーを溶媒としたシリコーン樹脂(調理温度以上の耐熱性を有する樹脂の一例)に、直径が0.02〜0.1mmで、発泡倍率が20〜30倍のポリプロピレン発泡体微粒子(熱可塑性樹脂の発泡体微粒子の一例)を50容積%含有させて、均一分散させたものである。ローラなどを用いて塗布後、硬化させることによって外面の塗膜を形成する。
しかし、カーボンが凝結して形成した釜状加工物は多孔質であり、多くの空隙を粒子間に含有した状態にある。つまり、カーボン粒子同士が接して結合する部分が少ないために粒子の欠落が容易に生じるので、単に塗膜面を塗布したのみでは、塗膜面がカーボン粒子の最表面部分の直下から凝集破壊を来して、容易に剥離する。さらに、カーボン自体も樹脂との接着性に劣ることから、釜状加工物の表面にある気孔が小さい場合には界面剥離を来す、という課題がある。
このため、上述したシリコーン樹脂と同様の組成であって、シンナーを用いて粘度が300cPになるように希釈したものをプライマーとして、釜状加工物の外面にスプレーにより塗布する(S50)。その後、未硬化を維持した状態を確保するため、150℃の低温で10分間の乾燥を行う(S60)。
S50とS60の工程によって、図3に示すように、釜状加工物の外表面近傍の基材であるカーボン凝結体1に塗料のシリコーン樹脂2が含浸してカーボン粒子1a間の結合を補強するとともに、凝結したカーボン粒子1aが形成する空隙1bにシリコーン樹脂2を侵入させて見掛けの接着性を向上させることができる。
さらに、釜状加工物の外面塗装を行う塗料である、シリコーン樹脂2に発泡倍率が20〜30倍で直径が0.02〜0.1mmのポリプロピレン発泡体微粒子を50容積%含有させて均一分散させた塗料を、ローラなどを用いて塗布する(S70)。プライマーとして、予めシリコーン樹脂2が塗布されているので、カーボン凝結体1が備える空隙1bにシリコーン樹脂2のみが含浸して、空隙1bの径より大きなポリプロピレン発泡体微粒子が最表面に形成した塗膜に過度に含有する状態にはならない。しかも、予め、カーボン凝結体1に含浸したシリコーン樹脂2が未硬化の状態であることから、その上層に塗装したシリコーン樹脂2と相溶して、強固な接着力を呈することが出来る。
次に、例えば、略150℃で15分間の乾燥を行う(S80)。ポリプロピレンの融点は165〜176℃であり、この融点より低い温度で乾燥を行うものである。その後、略280℃で20分間の硬化を行うことによって塗膜を形成する(S90)。S90の硬化処理において、塗膜に充填したポリプロピレン発泡体が溶融して収縮して無発泡の状態になる。このとき、ポリプロピレン発泡体は1/20以下の大きさにまでなるので、形成された外面塗膜のシリコーン樹脂塗装面内に空隙が形成される(詳細は後述する)。
なお、シリコーン樹脂2に溶剤を混入したのみの樹脂液を塗装する場合、塗膜厚が過大になると、溶剤の気散が円滑に行われずに塗膜内部に滞留して塗膜に膨れを生じることがある。そのため、塗膜の厚さは、最大でも50μmである。
これに対し、ポリプロピレン発泡体微粒子を混入して、図2の塗装工程によって得られた塗膜は厚塗りが可能となり、厚さを300μm程度にまで確保することが出来る。
次に、釜状加工物の内面塗装について、図4を用いて説明する。
まず、PES(ポリエーテルスルフォン)の水分散溶液に、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))微粉末の10容積%を分散させて200cP(センチポアズ)の低粘度である液状樹脂をプライマーとして、釜状加工物の調理面に相当する内面からカーボン凝結体の釜状加工物への含浸が十分に行われるように、スプレーを用いて複数回に分けて、表面に薄く残留する程度まで吹き付ける(S100)。
その後、釜状加工物の内面に吹き付けた液状樹脂を、200℃で20分間の加熱処理によって乾燥状態を確保する(S110)。液状樹脂が乾燥した表面にFEPと相溶するPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)微粉末を均一に付着させる(S120)。その後、370〜400℃の炉中に30分間の加熱によって溶融させて平滑なPFAの薄膜をカーボン凝結体の釜状加工物の内面塗膜を形成する(S130)。
図4の工程によって釜状加工物の内面に形成したフッ素系樹脂(FEP、PFA)の塗装は、ピンホールなどの気孔を含まない塗膜を形成するので、液状の具材を投入して調理に供したとしても漏洩することが無く、過度な加熱に伴う焦げ付きが生じたとしても固着する恐れが少ないという特徴を有するので、調理容器として用いる上で都合がよい。
反面、上述の塗装を施した炊飯調理に供する釜状加工物は、加熱時に生じるカーボン凝結体内部に存在する空隙にある空気の膨張や、表面の損傷などによる欠陥部分から侵入した水分などの気化によって、内圧が上昇することがある。外面の塗装までもが通気を遮断して密閉された状態にあれば、内外面の塗膜には外向きの応力が発生するので、カーボン凝結体との密着に劣る部位では剥離を来す応力が発生することとなる。
図5により、本実施の形態による釜状加工物の外面塗装が、加熱時に生じるカーボン凝結体内部に存在する空隙にある空気の膨張や、表面の損傷などによる欠陥部分から侵入した水分などの気化による内圧上昇を抑制する連続した気孔の形成メカニズムを説明する。溶剤を含んだ熱硬化性の液状樹脂であるシリコーン樹脂2を塗装した後の乾燥時に、ポリプロピレン発泡体微粒子が消滅して微細な気孔Cが形成され、カーボン凝結体1の外面にはシリコーン樹脂多孔体3(塗膜の一例)が形成される。
厚さ方向では充填されていたポリプロピレン発泡体粒子が消滅して生じた微細な気孔Cが容易に収縮変形を来し、溶媒気散に伴って発生する収縮応力が気孔Cで吸収される。
反面、面方向には気孔C同士が相互に拘束しあって収縮し難い態様を成すため、引張応力が作用してポリプロピレン発泡体粒子が接触または過度に近接していた気孔C間に貫通孔Aがあく。又、シリコーン樹脂2の薄膜部分において、未熟な硬化状態下で厚さ方向に発生する微細なクラックBが気孔C間を連通化する。これにより、カーボン凝結体に連通し、外表面に開口する連続した気孔Cが塗膜に形成される。
なお、ここでは塗料としてシリコーン樹脂を用いたが、調理器具が受ける最高温度以上の耐熱性を備える樹脂であれば、これに限られたものではなく、例えば、エポキシ樹脂やポリエステル系樹脂などの熱硬化性樹脂の他、調理容器の内面に塗装などの処理を施さない場合や、塗装に要する温度が融点以下の乾燥処理などの温度条件の場合であれば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの耐熱性を有する熱可塑性樹脂を用いてもよい。
また、ここで用いたポリプロピレン発泡体微粒子を他の熱可塑性樹脂に代えても良く、また、ポリプロピレン発泡体微粒子に変えて中空体微粒子であっても良く、さらに、塗装方法としてスプレーや浸漬による方法に代えるなど、その態様を種々変形して用いても良い。
次に、カーボン凝結体のブロックを切削によって釜状成形体に加工し、内面にフッ素系樹脂を塗装した炊飯器の内釜において、内釜の外面に中空体微粒子を混合した塗料を最表面に塗装した場合(本実施の形態;(A))と、内釜の外面に中空体を充填しないシリコーン樹脂を塗装した内釜を用いた場合(比較例;(B))とについて、以下に示す方法で、それらの保温性能を比較した。
つまり、炊飯器に1.0L(リットル)の水を満たして25℃に調整した上記(A)、(B)の各内釜(内容積が1.4L)を挿入後、誘導加熱を行う。このとき、予め炊飯器に設定されている炊飯に適した高周波電源の入力量を変化させる機能を付与せずに、600Wの一定入力を付与し続けて、100℃に到達した時点で入力を解除するようにした。保温性能は、(1)25℃から100℃に到達するまでの昇温時間、(2)沸騰水が100℃から40℃にまで低下するまでの降温時間、として評価した。
その結果を、図6に示す。多くの気孔を含むシリコーン樹脂を塗装した内釜を用いた本実施の形態(A)の場合、投入した水の沸騰に要する昇温時間の短縮と、40℃に達するまでの降温時間の延長とを確認し、保温に優れる効果があることを立証できた。
また、これとは別に、真空中に本実施の形態による上記製造方法によって得た内釜(内外面塗装された釜状加工物)を水中に放置し、カーボン凝結体の内部に50gを含水させた状態を形成したものを用いて、上述した加熱試験を行ったところ、内面および外面の塗膜が剥離を来すこともなく、さらに炊飯器内部の容器カバーに多くの水滴が付着していたことを確認した。
つまり、多孔質のカーボン凝結体から成る内釜を加熱した際に、内部にある空気などのガスの膨張や侵入した水の蒸発などに伴う内圧上昇を外面の塗装が備える微細で連続した空洞を通じて排出して抑制する機能を有し、本質的に樹脂との接着が困難なカーボン粉粒から成る凝結体に対して強固な接合力を有していることが確認できた。
以上の説明では、誘導加熱式加熱調理器として炊飯器を例として示したが、この他に、魚焼器などのグリル式調理器や、トースターのようなカーボン材の遠赤外線発生に優れる特性を応用した各種調理器への応用も有効である。
実施の形態1を示す図で、釜状加工物の製造工程図である。 実施の形態1を示す図で、釜状加工物の外面塗装工程図である。 実施の形態1を示す図で、シリコーン樹脂含浸状態の概念図((a)は塗装面近傍におけるシリコーン樹脂含浸状態の概念図、(b)は粒子間の補強状態の概念図)である。 実施の形態1を示す図で、釜状加工物の内面塗装工程図である。 実施の形態1を示す図で、シリコーン樹脂に分散させたポリプロピレン発泡体を収縮させて形成した気孔の概念図である。 実施の形態1を示す図で、中空粒子を混合した塗料を外面に塗装した内釜(本実施の形態;(A))と、中空粒子を充填しないシリコーン樹脂を外面に塗装した内釜(比較例;(B))の保温性能を比較した図である。
符号の説明
1 カーボン凝結体、1a カーボン粒子、1b 空隙、2 シリコーン樹脂、3 シリコーン樹脂多孔体。

Claims (3)

  1. 加熱コイルにより誘導加熱される調理容器を有する誘導加熱式調理器の製造方法において、
    カーボン凝結体を発熱体とする前記調理容器の外面に、熱処理の段階で収縮する熱可塑性樹脂の発泡体微粒子又は中空体微粒子を含む調理温度以上の耐熱性を有する樹脂を溶剤に分散させて希釈した液状樹脂を塗布した後に乾燥し、
    さらに、前記発泡体微粒子又は中空体微粒子を成す熱可塑性樹脂の融点以上で熱処理を行うことによって、前記カーボン凝結体に連通し、外表面に開口する連続した気孔を含む塗膜を前記調理容器の外面に形成することを特徴とする誘導加熱式調理器の製造方法。
  2. 前記液状樹脂の乾燥は、前記発泡体微粒子又は中空体微粒子を成す熱可塑性樹脂の融点以下の温度で行うことを特徴とする請求項記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
  3. カーボン凝結体を発熱体とする前記調理容器の外面に、熱処理の段階で収縮する熱可塑性樹脂の発泡体微粒子又は中空体微粒子を含む調理温度以上の耐熱性を有する樹脂を溶剤に分散させて希釈した液状樹脂を塗布する前に、溶剤に希釈したシリコーン樹脂をプライマーとして塗布した後低温で乾燥することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
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