JP4344273B2 - 海苔の雑藻駆除及び病害防除のための海苔処理方法 - Google Patents
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Description
これらの雑藻、病害の駆除、防除方法として、潮の干満周期を利用して海苔網を空中へ一定時間吊り上げて乾燥を行い、雑藻類及び病原菌と海苔の乾燥に対する抵抗性の差を利用して、雑藻駆除、病害防除が行われている。
しかしながら、種々の雑藻、病害の中には、これら酸処理剤に対する抵抗性が強く、なかなか駆除できないものもある。例えば、付着ケイ藻のタベラリア等の駆除は困難で、現在これらの駆除のためには、濃度が高くて強い酸を用いたり、多量の食塩を併用したりしているが、効果的な駆除ができていないのが現状である。
環境負荷軽減をめざした新しい方向として、海水の電気分解、超音波、磁力線等を利用する方法(例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9、及び特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13参照)も種々検討されているが、まだ完成された実用技術とはなっていないものである。また、電気分解液による処理では、いずれも天然海水のみを電気分解して次亜塩素酸を発生させ、その殺菌力を利用するものであり、ケイ藻類及び細菌類の駆除には有効であるが、赤腐れ病、壺状菌病等真菌による病害には効果が低く、雑藻着生と真菌による病害が併発した場合、その駆除は困難となると考えられる。
このため業界では、海洋環境への負荷が出来るだけ少なく、かつ各種病害、雑藻類を効率よく駆除出来る技術の早急な開発が切望されている。
(1) 養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽を2分割し、前部処理槽を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部処理槽を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とする海苔処理方法。
(2) 前部処理槽には、少なくとも有機酸を含有した海水を電気分解で調製した電気分解液を連続的に供給し、後部の処理槽には、酸処理液を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で処理する上記(1)に記載の海苔処理方法。
(3) 電気分解液のpHが1〜6の範囲であり、かつ、酸化還元電位(標準水素電極基準)が1000mv以上で、0.1ppm以上の有効塩素の発生が認められる、上記(2)に記載の海苔処理方法。
(4) 前部処理槽及び後部処理槽には、それぞれ別個の処理液貯槽を設けて両槽の処理液が混ざらないようにして処理液をポンプで循環させながら処理を行う上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の海苔処理方法。
(5) 前部処理槽の処理に使用する電気分解液の性状は、酸化還元電位及びpHで管理し、後部処理槽の処理液性状はpHで管理する上記(2)〜(4)の何れか一つに記載の海苔処理方法。
ここで、上記「雑藻類の駆除」とは、海苔に着生または混生するケイ藻類等の雑藻類を選択的に殺藻除去することを意味する。また、「病原細菌類の駆除」とは、スミノリ症の原因となる針状細菌をはじめとして、緑斑病、擬似しろぐされ病等の原因となる細菌類の殺菌除去することを意味する。更に、「病害の防除もしくは予防」とは、海苔病害の治療または海苔が病害に冒されるのを予防することを意味する。また、「海苔の活性化」とは、海苔の生長促進、海苔の色、艶などの品質を向上させることを意味する。
また、本発明において、浸漬(液浸)処理とは、海苔の生育着生している海苔網をローラー等を用いて処理槽内へ手繰りこみ一定時間浸漬、または処理液中を通過させることをいう。また、散布処理とは、推進装置を備えた海苔処理船(潜り船ともいう)、または箱舟で海苔網の下を潜って海苔網を空中に持ち上げ、シャワーまたは散液ノズル等を用いて海苔網の下または上から処理液を散布することをいう。
本発明の海苔処理方法は、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽を2分割し、前部処理槽を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部処理槽を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とするものであり、具体的には、前部処理槽で、少なくとも有機酸を含有した海水を電気分解で調製した連続的に供給される電気分解液(電解液)をもって浸漬法又は散布法により処理した後、引き続き後部処理槽で従来から使用される酸処理剤を用いて連続的に海苔網を浸漬法又は散布法により処理するものである。
用いることができる有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、ピルビン酸、酪酸、乳酸、蓚酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、オキザロ酢酸、リンゴ酸、α−ケトグルタール酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、シスアコニット酸及びグリコール酸からなる群より選ばれる少なくとも1種(1種又は2種以上の混合物、以下同様)が挙げられ、好ましくは、電気分解液の殺藻、殺菌効果に関与する酸化還元電位、有効塩素濃度に代表される電気分解液性状が安定し、有効性の高い電気分解液が製造できる点から、酸解離指数(pKa)が4よりも大きな有機酸であるコハク酸、酢酸、プロピオン酸などを用いることが望ましい。
また、上記海苔処理剤(原液)のpHは、2〜5の範囲に調整されているものが好ましい。このpHの調整は、用いる有機酸種、使用量などにより調整され、上記有機酸等の酸の濃度は通常、海水溶液全量に対して、0.01〜0.5重量%程度である。
このpHが2未満であると、電解液中に分子状塩素(Cl2)の含有比率が高くなり、塩素ガス発生の危険性が高くなり、一方、pHが5を越えると、殺藻殺菌効果の低下が見られ、好ましくない。
本発明の効果が更に有効に作用するためには、得られる電気分解液は、pHが酸性であればよいが、pH1〜6であることが好ましく、更に好ましくは、pH2〜5となるものが望ましい。また、酸化還元電位(ORP)は、標準水素電極基準で1000mv以上の酸化状態で、0.1ppm以上の有効塩素(ACC)の発生がある性状を示すものであればよいが、好ましくは、酸化還元電位(ORP)は1150mv以上であることが望ましく、更に好ましくは、1150〜1300mvとすることが望ましく、有効塩素濃度(ACC)は1ppm〜10ppmとすることが更に望ましい。
なお、無機酸のみを含有した海水を電気分解した電気分解液の場合は、海苔に対する薬害が出やすくなり、ケイ藻類に対する選択殺藻効果が劣ることとなり、また、酸を使用しない海水のみを電気分解した電気分解液の場合は、ケイ藻類等の雑藻類に対する駆除効果が著しく弱く、目的の効果を発揮することができないこととなる。
この第1段階での海苔処理では、電気分解液と海苔が接触する時間、つまり、処理時間は、調製された電解液の性状及び、対象とする雑藻、病原菌により異なるが、1秒〜4分の間であることが好ましく、更に好ましくは、5秒〜30秒であることが望ましい。
上記海苔処理が終了後、引き続き、後部処理槽で従来から使用される酸処理剤を用いて連続的に海苔網を浸漬法又は散布法により処理するものである。
上記前部処理槽、後部処理槽で処理した後、海苔網は直ちに海水中に戻し通常の養殖が継続される。
また、図1中における、14は電解液貯槽、15は酸処理剤貯槽、16は電気分解槽、17は電解用酸原液貯層、18は酸処理剤原液貯槽、19はpH制御器、20はORP制御機、21は電解液補給配管、22は電解液回収配管、23は酸処理剤補給配管、24は酸処理剤回収配管、25は海苔網である。
本発明では、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を短時間で連続的に行うために、これら二つの処理剤の性能、特性を最大限に利用した海苔処理方法である。すなわち、図1に示したシステムの構造の処理船は、約10m/分の速度で前方へ移動するため、前部処理槽12で処理された海苔網25は、数秒から十数秒後には後部処理槽13に入る、従って、処理時間が数秒でも効果がある電解液処理を第1段階で行う。一方、後部処理槽13で処理された海苔網25は、処理後数十秒から1分間空中に保持された後海中に入るため、既存の酸処理剤でも十分に駆除効果の期待できる処理時間が確保される。
本発明において、海苔処理の実施においては、処理船の進行速度を落とし、前部処理槽12での処理を10秒以上、後部処理槽13での処理を1分以上かけて適宜処理を行うことも可能である。
なお、電解液の少しくらいのpH値変動は、殺藻効果、殺菌効果に影響を与えないが、pHに影響を与える有機酸等の濃度は電解液の酸化還元電位に大きな影響を与え、ひいては殺藻効果、殺菌効果に影響するため、運転中は常時pHを調整することが望ましい。
本発明では、前部処理槽12には、上述の条件で調製した電気分解液を連続的に供給し、後部処理槽13には、酸処理剤を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で海苔処理することができることとなる。
また、図1に示すように、前部処理槽12及び後部処理槽13には、それぞれ別個の処理液貯槽14,15を設けて両槽の処理液が混ざらないようにして処理液をポンプで各補給配管、回収配管で循環させながら海苔処理を行うことができるものとなる。
上記装置を使用して、下記に示す有機酸含有海水溶液に対する通電処理を行い、通電処理開始後15分間経過した電解液により前部処理槽で処理を行った。また、使用した電解液については、その使用時(通電開始15分経過)に酸化還元電位(ORP)、pH及び有効塩素発生の有無を測定した。
ORP及びpHの測定は、東興化学社製パーソナルpH/ORPメータで測定、有効塩素(ACC)は関東化学(株)製「残留塩素測定用ラピッドDPD試薬」で検出した。
コハク酸0.05%と、酢酸0.05%を含有する海水溶液(pH3.43、以下同様)に対して直流電流を通電する無隔膜式の電気分解を行い、生成された電解液を用いて付着ケイ藻であるタベラリアに対する殺藻効果、赤腐れ病防除効果、及び海苔葉体細胞に対する傷害性を試験した。
電解液は図3に示す総容量5リットルの実験装置で調整した。
電解電極は、陽極4aにカーボン、陰極4bに鉄を使用し、電解電力は6V×0.4A=2.4Wで、通電時間15分後に通電をストップし試験に供した。通電15分後の電解液の性状は、酸化還元電位(ORP):1174mv、pH:3.51、有効塩素濃度(ACC):7ppmであった。
試験には海苔葉体にタベラリアの着生と赤腐れ病の感染病斑が認められるものを使用した。電解液の調製及び海苔葉体処理の温度は12℃で行った。
これらの結果を下記表1に示す。
市販の酸処理剤「ノリアクト−200」(第一製網社製、以下同様)を海水で100倍に希釈した溶液を用いて、試験例6で使用したものと同じにタベラリアの着生と赤腐れ病の感染が認められる海苔葉体の処理を行い、タベラリアの殺藻効果及び赤腐れ病の防除効果を評価した。なお、ノリアクト−200は、乳酸及び酢酸等の有機酸40%、塩化鉄5%からなる組成である。
処理条件は、上記試験例6と同様12℃で実施した。処理液は、pH2.08であった。この結果を下記表2に示す。
上記試験例1及び2で使用したものと同様にタベラリアの着生と、赤腐れ病が同時感染している海苔葉体に対し、上記試験例1で示した電解液製造実験装置(図3)を用いて、試験例1と同様のコハク酸0.05%と酢酸0.05%を含有する海水溶液で調製した電解液で5秒間の浸漬処理をした後、引き続き試験例2に示した市販の既存酸処理剤「ノリアクト−200」による浸漬処理を行った。
電解液、酸処理剤による処理温度条件は、いずれも12℃で実施した。酸処理剤「ノリアクト−200」は100倍希釈で使用した。
これらの結果を下記表3に示す。
また、海苔葉体細胞に対する傷害発現は、ノリアクト−200単独処理を行った試験例7と同様で4分以上であった。更に、電解液中には7ppmの有効塩素が含まれていたが、電解液処理後、引き続き処理が行われた酸処理槽では残留塩素の検出は全く認められなかった。電解液で処理された海苔葉体には、電解液の一部が葉体付着液として後部酸処理槽に持ち込まれたはずであるが、持ち込まれた残留塩素は酸処理槽の有機酸により還元中和されたものと考えられる。
プロピオン酸0.1%を含有する海水溶液(pH3.85、以下同様)に対して直流電流を通電する無隔膜式の電気分解を行い、生成された電解液を用いて付着ケイ藻であるタベラリアに対する殺藻効果、赤腐れ病防除効果、及び海苔葉体細胞に対する傷害性を上記試験例7と同様にして試験した。
電解液は図3に示す総容量5リットルの実験装置で調整した。
電解電極は、陽極4aにカーボン、陰極4bに鉄を使用し、電解電力は6V×0.4A=2.4Wで、通電時間15分後に通電をストップし試験に供した。通電15分後の電解液の性状は、酸化還元電位(ORP):1160mv、pH:3.85、有効塩素濃度(ACC):5ppmであった。
試験には海苔葉体にタベラリアの着生と赤腐れ病の感染病斑が認められるものを使用した。電解液の調製及び海苔葉体処理の温度は12℃で行った。
これらの結果を下記表4に示す。
市販酸処理剤「ノリアクト500」(第一製網社製)を海水で150倍に希釈した溶液を用いて、試験例9で使用したものと同じにタベラリアの着生と赤腐れ病の感染が認められる海苔葉体の処理を行い、タベラリアの殺藻効果及び赤腐れ病の防除効果を評価した。なお、ノリアクト500は、乳酸及びプロピオン酸等の有機酸45%、塩化鉄5%からなる組成である。
処理条件は、上記試験9と同様12℃で実施した。処理液は、pH2.1であった。この結果を下記表5に示す。
上記試験例4及び5で使用したものと同様にタベラリアの着生と、赤腐れ病が同時感染している海苔葉体に対し、上記試験例4で示した電解液製造実験装置(図1)を用いて、試験例9と同様のプロピオン酸0.1%を含有する海水溶液で調製した電解液で5秒間の浸漬処理をした後、引き続き試験例5に示した市販既存酸処理剤「ノリアクト500」による浸漬処理を行った。
電解液、酸処理剤による処理温度条件は、いずれも12℃で実施した。酸処理剤「ノリアクト500」は150倍希釈で使用した。
これらの結果を下記表6に示す。
また、海苔葉体細胞に対する傷害発現は、ノリアクト500単独処理を行った試験例1と同様で4分以上であった。更に、電解液中には5ppmの有効塩素が含まれていたが、電解液処理後、引き続き処理が行われた酸処理槽では残留塩素の検出は全く認められなかった。電解液で処理された海苔葉体には、電解液の一部が葉体付着液として後部酸処理槽に持ち込まれたはずであるが、持ち込まれた残留塩素は酸処理槽の有機酸により還元中和されたものと考えられる。
これらの試験例1〜6の結果を総合すると、本発明では、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリアが効果的に駆除でき、かつ、細菌性疾病及び赤腐れ病等の真菌性病害を1回の処理で短時間に、効率的に、かつ、連続的に防除でき、健全な養殖海苔を育成できる海苔処理方法となることが判った。
11 処理槽
12 前部処理槽
13 後部処理槽
Claims (5)
- 養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽を2分割し、前部処理槽を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部処理槽を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とする海苔処理方法。
- 前部処理槽には、少なくとも有機酸を含有した海水を電気分解で調製した電気分解液を連続的に供給し、後部の処理槽には、酸処理剤を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で処理する請求項1に記載の海苔処理方法。
- 電気分解液のpHが1〜6の範囲であり、かつ、酸化還元電位(標準水素電極基準)が1000mv以上で、0.1ppm以上の有効塩素の発生が認められる、請求項2に記載の海苔処理方法。
- 前部処理槽及び後部処理槽には、それぞれ別個の処理液貯槽を設けて両槽の処理液が混ざらないようにして処理液をポンプで循環させながら処理を行う請求項1〜3の何れか一つに記載の海苔処理方法。
- 前部処理槽の処理に使用する電気分解液の性状は、酸化還元電位及びpHで管理し、後部処理槽の処理液性状はpHで管理する請求項2〜4の何れか一つに記載の海苔処理方法。
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