JP4337279B2 - 高分子固体電解質用組成物およびその用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電池等の電気化学デバイスに好適に用いうる高分子固体電解質用組成物に関し、特にリチウム二次電池用材料として好適な高分子固体電解質用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電池用電解質は、イオン伝導性の点から液状あるいはゲル状のものが用いられているが、液漏れによる機器の損傷の恐れがあることから強度の高い外装を使用しなければならず、電池の小型軽量化に限界があることなどの問題点が指摘されている。
【0003】
これに対し高分子固体電解質が検討されている。高分子固体電解質は加工性、柔軟性に優れることから電池形状の自由度が高く、さらには電解液を含まないことから安全性の面でもその開発が期待されている。
【0004】
例えば、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体に特定のアルカリ金属塩を含有させてイオン伝導性固体電解質に応用する試みは既に提案されているが(特開昭61−83249号公報、特開昭63−136407号公報、特開平2−24975号公報等)、イオン伝導性、機械的特性ともにより優れたものが求められている。さらに、高分子固体電解質が電池等に使用される場合、その製造工程においてフィルム状で取り扱われるため、フィルム成形性に優れた材料であることも必要とされており、また電池出力を向上するためにはフィルムを出来るだけ薄膜化することが求められている。
【0005】
フィルムの薄膜化のためには固体電解質に十分な機械的強度を持たせることが必要である。一般的に固体電解質としては架橋可能な反応性官能基を有したポリエーテル系重合体を用いて成形したフィルムを架橋して使用されているが、この重合体を製造する際に、架橋可能なモノマーを含んでいるため重合時に架橋物を生成しやすい。このような架橋物を多く含む共重合体を用いると、フィルム中の架橋点密度が不均一になるため機械的強度が不足してフィルムの厚さを薄くできない。またフィルム表面の平滑性が損なわれるため繰り返し充放電によってデンドライトを生じる恐れがある。さらにはフィルムの部位によりイオン伝導度が偏りを生じるという問題もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フィルム成形時の加工性が良好で、フィルムの強度と表面平滑性に優れる高分子固体電解質用組成物を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、高いイオン伝導度を有する高分子固体電解質を提供することにある。
また、本発明の第3の目的は、繰り返し充放電特性の良好な電池を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討の結果、トルエン不溶分の少ないポリエーテル系重合体を用いると、キャスト法あるいは押し出し法により容易に表面平滑性に優れたフィルムが得られ、イオン伝導性が高く、かつ高温下でも塑性変形や流動性のない固体電解質が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、トルエン不溶分が5重量%以下のポリエーテル系重合体と、該重合体に可溶の電解質塩化合物とを含有することを特徴とする高分子固体電解質用組成物が提供される。上記ポリエーテル系重合体は、ムーニー粘度が3〜150であることが好ましい。また、上記ポリエーテル系重合体は、エチレンオキシド単位70〜99モル%およびこれと共重合可能なオキシラン化合物由来の単位1〜30モル%からなり、かつ架橋性官能基を有するオキシラン化合物単位が全単量体単位に対し15モル%以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、上記組成物を架橋してなる高分子固体電解質が提供される。さらに本発明によれば、該電解質を有してなる電池が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の高分子固体電解質用組成物は、トルエン不溶分が5重量%以下のポリエーテル系重合体と、該重合体に可溶の電解質塩化合物とを含有する。本発明においてトルエン不溶分とは、重合体をトルエン溶液としたときの不溶分の重量の、元の重合体の重量に対する割合である。
すなわち、ポリエーテル系重合体0.2gと100mlのトルエンを混合し、40℃で3時間振とうして可溶分を完全に溶解した後、150メッシュの金網で濾過し、金網上の残渣を乾燥して得られた不溶分の重量の、元の重合体の重量に対する割合としてトルエン不溶分が算出される。
【0010】
本発明で用いるポリエーテル系重合体はトルエン不溶分が5%以下であり、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。トルエン不溶分が多いと機械的強度が不均一となるためにキャスト法あるいは押し出し法等でフィルム化する際フィルムの厚さを薄くできない。また成形したフィルムを架橋する場合にフィルム中の架橋点密度が不均一になり、フィルムの部位によりイオン伝導度が偏りを生じ、繰り返し充放電によってデンドライトを生じる恐れがある。また、フィルム表面平滑性が損なわれるため電極との密着性が劣り、電池性能が低下する。
【0011】
トルエン不溶分の少ないポリエーテル系重合体を得る方法は特に限定されない。一旦ポリエーテル系重合体をトルエン等の溶媒に溶解した後、不溶分を濾過して除去してもよいし、特定の重合法でトルエン不溶分を減少させてもよい。
【0012】
本発明のポリエーテル系重合体のムーニー粘度は、通常3〜150、好ましくは3〜130、より好ましくは3〜70である。ムーニー粘度がこの範囲であると、フィルム成形加工時の流動性および形状保持性、架橋して得られた固体電解質フィルムの柔軟性、機械的強度に優れる。
【0013】
本発明で用いるポリエーテル系重合体はオキシラン化合物の開環重合体である。重合体中のオキシラン化合物単位の種類は限定されないが、エチレンオキシド単位70〜99モル%およびこれと共重合可能なオキシラン単量体由来の単位30〜1モル%を含有し、かつ架橋性官能基を有するオキシラン単量体単位含有量が15モル%以下のものが好ましい。
【0014】
ポリエーテル系重合体中のエチレンオキシド単位量は、より好ましくは75〜97モル%、特に好ましくは80〜95モル%である。エチレンオキシド単位量がこの範囲であると、電解質塩化合物の溶解性が良好で、かつ重合体が結晶化しにくいので、イオン伝導性が良好である。
【0015】
ポリエーテル系重合体中のエチレンオキシド単位以外のオキシラン単量体単位量は、通常1〜30モル%、好ましくは2〜20モル%、より好ましくは3〜15モル%である。
【0016】
ポリエーテル系重合体中のエチレンオキシドと共重合可能な他のオキシラン単量体由来の単位は、その内の少なくとも一部として、架橋性官能基を有するオキシラン単量体単位を含有することが好ましい。本発明において、架橋性官能基を有するオキシラン単量体(以下、架橋性オキシラン単量体という)とは、これを共重合したポリエーテル系重合体において、加熱や活性放射線照射などにより架橋構造を形成し得る官能基を有するオキシラン単量体である。架橋性オキシラン単量体単位量は、通常0〜15モル%、好ましくは1〜13モル%、より好ましくは2〜11モル%である。ポリエーテル系重合体に架橋性オキシラン単量体単位を含有させると、電解質用組成物の架橋が容易になり、強度の高い電解質フィルムを容易に得ることができる。
【0017】
架橋性オキシラン単量体としては、ハロゲン置換オキシラン単量体や、エチレン性不飽和エポキシドなどが挙げられる。ハロゲン置換オキシラン単量体としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンや、p−クロロスチレンオキシド、ジブロモフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。
また、エチレン性不飽和エポキシドとしては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどのエチレン性不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどエチレン性不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。
架橋性オキシラン単量体は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でもハロゲン置換オキシラン単量体やエチレン性不飽和グリシジルエーテルが好ましく、アリルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリンが特に好ましい。
【0018】
エチレンオキシドと共重合可能なオキシラン単量体として、非架橋性のオキシラン単量体を用いてもよい。具体的には、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−イソブタン、2,3−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサン、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロドデカンなどのアルキレンオキシド;シクロヘキセンオキシドなどの環式脂肪酸エポキシド;メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル;スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテルなどの非エチレン性不飽和エポキシドなどが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。中でも、重合反応性の高いプロピレンオキシド、1,2エポキシブタンが好ましい。
【0019】
また、ブタジエンジオキシド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジオキシドなどのジエポキシ化合物などを共重合させてもよい。これらの化合物を用いることにより、重合体に分岐構造を導入できる。
【0020】
本発明のポリエーテル系重合体は、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、所定のオキシラン化合物を開環重合することにより得ることができる。重合触媒としては、例えば、有機アルミニウムに水とアセチルアセトンを反応させた触媒(特公昭35−15797号公報)、トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒(特公昭46−27534号公報)、トリイソブチルアルミニウムにジアザビアシクロウンデセンの有機酸塩とリン酸を反応させた触媒(特公昭56−51171号公報)、アルミニウムアルコキサイドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる触媒(特公昭43−2945号公報)、有機亜鉛化合物と多価アルコールからなる触媒(特公昭45−7751号公報)、ジアルキル亜鉛と水からなる触媒(特公昭36−3394号公報)などが挙げられる。中でも、トリイソブチルアルミニウムにジアザビアシクロウンデセンの有機酸塩とリン酸を反応させた触媒を用いるとトルエン不溶分の生成が少ないので好ましい。
【0021】
重合溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの鎖状飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;などが用いられる。
重合方法としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロペンタンなどの溶媒を用いて、溶媒スラリー重合することが好ましい。溶媒スラリー重合においては、溶媒に不溶な重合体を与える単量体と溶媒に可溶な重合体を与える単量体とで予め触媒を処理しておくことが、重合反応系の安定性の観点から好ましい。触媒の処理は、触媒成分と少量の各単量体とを混合し、0〜100℃、好ましくは30〜50℃の温度で10〜30分熟成させればよい。このようにして熟成した触媒の使用によって重合缶への重合体の付着を防止することができる。
【0022】
重合反応は、0〜100℃、好ましくは30〜70℃で、回分式、半回分式、連続式などの任意の方法で行うことができる。
【0023】
本発明の組成物は、ポリエーテル系重合体に可溶な電解質塩化合物を含有する。電解質塩化合物としては、本発明のポリエーテル系共重合体又は該共重合体の架橋体に可溶のものであれば特に限定されない。例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、トリフルオロスルホンイミドイオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6 −、PF6 −、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8−テトラシアノ−p−キノジメタンイオンから選ばれた陰イオンと、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、CaおよびBaから選ばれた金属の陽イオンとからなる塩が挙げられる。これらアルカリ金属塩は2種以上併用してもよい。ポリエーテル系重合体に対する電解質塩化合物の使用量は、(電解質塩のモル数)/(共重合体中のエーテル酸素の総モル数)が通常0.001〜5、好ましくは0.005〜3、より好ましくは0.01〜1である。電解質塩化合物の使用量が多すぎると加工性、成形性および得られた固体電解質フィルムの機械的強度が低下したり、イオン伝導性が低下する場合がある。
【0024】
本発明の高分子固体電解質は、上記の本発明の組成物を架橋してなるものである。電解質はフィルム状で好ましく用いられ、前記組成物に必要に応じて架橋剤等を配合してフィルム成形した後に架橋を施して使用される。架橋方法としては特に限定されず、例えば、ラジカル開始剤、硫黄、メルカプトトリアジン類、チオウレア類など架橋剤を配合して加熱により架橋する方法や、活性放射線によって架橋する方法が挙げられる。中でも、有機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル開始剤を用いて架橋する方法や、紫外線、可視光線、電子線等の活性放射線によって架橋する方法が好ましい。
【0025】
有機過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン等のジアルキルパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル類などの通常架橋用途に使用されているものが挙げられる。
【0026】
アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチル-バレロニトリル等のアゾニトリル化合物;
2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾアミド化合物;
2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩等のアゾアミジン化合物などの通常架橋用途に使用されているものが挙げられる。
【0027】
ポリエーテル系重合体100重量部あたりの架橋剤の配合量は、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜7重量部、より好ましくは0.3〜5重量部である。
【0028】
本発明においては必要により、架橋剤と共に架橋助剤を使用することができる。架橋助剤としては特に限定されない。
【0029】
有機過酸化物架橋剤やアゾ化合物架橋剤と組み合わせて用いる架橋助剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛などの金属炭酸塩;ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩などが挙げられる。また、有機過酸化物を使用した場合には、分子内に少なくとも2つの架橋性の不飽和結合を有する化合物を使用できる。その具体例としては、エチレンジメタクリレート、ジアリルフタレート、N,N−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、液状ビニルポリブタジエンなどが挙げられる。これら架橋助剤を2種類以上組み合わせて使用することもできる。ポリエーテル系重合体100重量部あたりの架橋助剤の使用量の上限は、好ましくは20重量部、より好ましくは15重量部、特に好ましくは10重量部である。架橋助剤が多すぎると、架橋時に架橋速度が早くなりすぎたり、架橋物の表面ヘのブルームが生じたり、架橋物が硬くなりすぎたりする場合がある。
【0030】
紫外線、電子線などの活性放射線による架橋を行う場合は、必要に応じて光架橋剤を添加してもよい。光架橋剤としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、トリメチルシリルベンゾフェノン、ベンゾイン、4−メトキシベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテルアントラキノン等が挙げられる。
【0031】
イオン伝導性を向上させる目的で、本発明の高分子固体電解質に有機溶媒や可塑剤を添加してもよい。有機溶媒としては、非プロトン性のエステル類やエーテル類が好ましい。また可塑剤としては、分子量5000以下のポリアルキレングリコールの誘導体が好ましい。これらの具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0032】
本発明の高分子固体電解質の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記各成分を、ロール混合、バンバリー混合、スクリュー混合、溶液混合などの適宜の混合方法により配合した後に、薄膜成形して架橋することによって得られる。配合順序は、特に限定されないが、熱で分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応したり、分解しやすい成分(例えば架橋剤、架橋促進剤など)を短時間に混合することが好ましい。有機溶媒や可塑剤を添加する場合は成形架橋した後に長時間かけて含浸させてもよいし、混練時に同時に添加してもよい。
【0033】
本発明の高分子固体電解質の成形方法は、特に限定されないが、押出成形が適している。成形方法、架橋方法、架橋物の形状などに応じて、成形と架橋を同時に行ってもよいし、成形後に架橋してもよい。
【0034】
本発明の電池は、上記の高分子固体電解質を有してなるものである。電池の種類は特に限定されないが、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属系電池、亜鉛−塩化銀、マグネシウム−塩化銀、マグネシウム−塩化銅等のハロゲン塩電池、ニッケル−水素電池等のプロトン伝導型電池等が挙げられる。中でもリチウム電池が、高電圧、高エネルギーでリチウムイオンの伝導度が固体電解質中で高いので好ましい。
【0035】
リチウム電池は、本発明の高分子固体電解質を含有するセパレータに、正極と負極を備えてなることが好ましい。セパレータは、高分子固体電解質を単独でフィルム状にして正極と負極の間に配置するか、正極または負極に、高分子固体電解質用組成物の溶液を塗布した後に架橋して複合化することもできる。更に、他のセパレータ材としてポリプロピレン不織布やポリオレフィン微孔膜のようにな多孔性体を併用してもよい。
正極材料としては、リチウムの吸蔵,放出が可能な遷移金属化合物を用いることができ、例えば、マンガン、コバルト、ニッケル、バナジウム、ニオブの少なくとも1種を含む遷移金属酸化物等を使用することができる。また負極材料としては、金属リチウムやリチウムの吸蔵、放出が可能な合金、酸化物及びカーボン材料を使用することができる。
【0036】
【実施例】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。使用した溶媒、単量体などは、全て脱気脱水処理を行ったものを用いた。比較例及び実施例におけるすべての操作は不活性ガス中、無水の条件で行った。なお、実施例および比較例中の部および%は、断りのない限り重量基準である。
【0037】
(1)ムーニー粘度(ML1+4、100℃) : JIS K6300に準じて測定した。
(2)トルエン不溶分 : ポリエーテル系重合体0.2gと100mlのトルエンを100ml三角フラスコに入れ、40℃で3時間振とうして溶解分を完全に溶解し、150メッシュの金網で濾過してトルエン可溶分を除去した後、金網上の残渣を乾燥して重量を算出した。この乾燥した残渣の元の重合体の重量に対する割合をトルエン不溶分とした。
(3)加工性(ガーベダイ押出試験) : ATSM D−2230−77に準じて、ガーベダイを用いて、ポリエーテル系重合体を押出し、ダイスウェル(%)を求めた。
(4)イオン伝導度 : イオン伝導度の測定は30℃、1mmHg以下で72時間真空乾燥したフィルムを白金電極ではさみ、電圧0.5V、周波数範囲5Hz〜13MHzの交流法を用い、複素インピーダンス法により算出した。
【0038】
参考例1(重合体Aの製造)
攪拌機付きオートクレーブを乾燥して窒素置換し、トリイソブチルアルミニウム158.7部、トルエン1170部、及びジエチルエーテル296.4部を仕込んだ。内温を30℃に設定し、攪拌しながらリン酸23.5部を10分間かけて一定速度で添加した。これにトリエチルアミン12.1部を添加し、60℃で2時間熟成反応し、触媒溶液を得た。
【0039】
攪拌機付きオートクレーブを乾燥して窒素置換し、n−ヘキサン2100部と上記触媒溶液73.1部を仕込んだ。内温を30℃に設定して、攪拌しながら、エチレンオキシドを4部加えて反応させ、次いで、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの等重量混合単量体を8.5部加えて反応させ、シードを形成した。
【0040】
内温を60℃に設定して、シードを形成した重合反応液に、エチレンオキシド340部(90モル%)、プロピレンオキシド14.9部(3モル%)、アリルグリシジルエーテル68.4部(7モル%)、n−ヘキサン300部からなる混合溶液を5時間かけて連続的に等速度で添加した。添加終了後、2時間反応を行った。重合反応率は98%であった。得られたスラリーに、老化防止剤として4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の5%のトルエン溶液42.4部を添加攪拌し、40℃で真空乾燥して、粉体状の重合体を得た。
【0041】
このようにして得られたポリエーテル系重合体Aの組成(各単量体単位の含有量)は、エチレンオキシド(EO)単位89.5モル%、プロピレンオキシド(PO)単位3.7モル%、アリルグリシジルエーテル(AGE)単位6.8モル%であった。また、この重合体のムーニー粘度は130、トルエン不溶分は13%、ダイスウェルは65%であった。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
参考例2(重合体Bの製造)
密栓した耐圧ガラスボトルを窒素置換して、トルエン180部およびトリイソブチルアルミニウム60部を仕込んだ。ガラスボトルを氷水に浸漬して冷却後、ジエチルエーテル224.2部を添加し攪拌した。次に、氷水で冷却しながら、リン酸8.89部を添加し、さらに攪拌した。この時、トリイソブチルアルミニウムとリン酸の反応により、ボトル内圧が上昇するので適時脱圧を実施した。次に1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7のギ酸塩8.98部を添加した。得られた反応混合物は60℃の温水浴内で1時間熟成反応して触媒溶液を得た。こうして得られた触媒溶液を用いた他は、参考例1と同様にして粉体状の重合体を得た。このようにして得られたポリエーテル系重合体Bの組成、物性を表1に示す。
【0044】
参考例3(重合体Cの製造)
リン酸の量を13.5部とした他は、参考例2と同様にして触媒溶液を得た。攪拌機付きオートクレーブを乾燥して窒素置換し、n−ヘキサン2100部と上記触媒溶液73.1部を仕込んだ。内温を30℃に設定して、攪拌しながら、エチレンオキシド4部とプロピレンオキシド6部の単量体混合物を加えて反応させ、シードを形成した。
【0045】
内温を60℃に設定して、シードを形成した重合反応液に、エチレンオキシド250部(89.5モル%)、プロピレンオキシド30部(7モル%)、アリルグリシジルエーテル20部(3.5モル%)、n−ヘキサン300部からなる混合溶液を5時間かけて連続的に等速度で添加した。添加終了後、2時間反応を行った。重合反応率は96%であった。得られたスラリーに、老化防止剤として4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の5%のトルエン溶液42.4部を添加攪拌し、40℃で真空乾燥して、粉体状の重合体を得た。このようにして得られたポリエーテル系重合体Cの組成、物性を表1に示す。
【0046】
参考例4(重合体Dの製造)
参考例1で得られた重合体Aをトルエンに溶解し濃度3%のトルエン溶液とした。この溶液を80メッシュ金網で濾過してトルエン不溶分を除いた後、ろ液を40℃で1昼夜真空乾燥することにより直接乾燥し、トルエンを除去した。このようにして得られたポリエーテル系重合体Dの組成、物性を表1に示す。
【0047】
参考例5(重合体Eの製造)
攪拌機付きオートクレーブを乾燥して窒素置換し、トリイソブチルアルミニウム158.7部、トルエン1170部、及びジエチルエーテル296.4部を仕込んだ。内温を30℃に設定し、攪拌しながらリン酸31部を10分間かけて一定速度で添加した。これにトリエチルアミン12.1部を添加し、60℃で2時間熟成反応し、触媒溶液を得た。こうして得られた触媒溶液を用いるほかは参考例1と同様にして粉体状の重合体を得た。このようにして得られたポリエーテル系重合体Eの組成、物性を表1に示す。
【0048】
比較例1
参考例1で得られた重合体A3000部にビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウムを電解質塩のモル数/重合体Aの酸素原子のモル数の比が0.05となるように添加し、光架橋剤ベンジルジメチルケタールを3部加えてよく混合して高分子固体電解質用組成物を得た。この組成物を二軸押し出し機に供給し、スクリュー温度80℃、回転数150rpm、ダイ温度155℃で押し出した。押し出されたフィルムをポリプロピレン(PP)フィルムに連続的に張り付け、UV照射によって架橋した。PPフィルム上の高分子固体電解質薄膜を剥離したところ、厚みが40μmでフィルム表面は平滑ではなかった。得られたフィルムの強度物性とイオン伝導度を表1に示した。フィルムの機械的強度及びイオン伝導度は十分ではなかった。
【0049】
実施例1
重合体Aに代えて参考例2で得られた重合体Bを用いたほかは、比較例1と同様にして高分子固体電解質用組成物を得、この組成物を用いて高分子固体電解質薄膜を得た。この薄膜は厚みが30μmでフィルム表面は平滑で良好であった。得られたフィルムの強度物性とイオン伝導度を表1に示した。フィルムの機械的強度は強く、かつイオン伝導度も高い結果が得られた。
【0050】
実施例2
重合体Aに代えて参考例3で得られた重合体Cを用い、ベンジルジメチルケタールの添加量を5部としたほかは、比較例1と同様にして固体電解質薄膜を得た。この薄膜は厚みが32μmでフィルム表面は平滑で良好であった。得られたフィルムの強度物性とイオン伝導度を表1に示した。フィルムの機械的強度は強く、かつイオン伝導度も高い結果が得られた。
【0051】
実施例3
重合体Aに代えて参考例4で得られた重合体Dを用いたほかは、比較例1と同様にして固体電解質薄膜を得た。この薄膜は厚みが30μmでフィルム表面は平滑で良好であった。得られたフィルムの強度物性とイオン伝導度を表1に示した。イオン伝導度は高いが、フィルムの機械的強度が低い結果となった。
【0052】
比較例2
重合体Aに代えて参考例5で得られた重合体Eを用いたほかは、比較例1と同様にして固体電解質薄膜を得た。この薄膜は厚みが40μmでフィルム表面は平滑ではなかった。得られたフィルムの強度物性とイオン伝導度を表1に示した。フィルムの機械的強度及びイオン伝導度は十分ではなかった。
【0053】
実施例4
参考例2で得られた重合体B4g、コバルト酸リチウム粉末5g、グラファイト4g、ジクミルパーオキサイド0.01g及びアセトニトリル30mlを混合してペーストとし、これをアルミ箔上に塗布して乾燥した。これを150℃で2時間加熱することにより、架橋した正極フィルムを作成した。実施例2で得られた固体電解質フィルムを正極フィルムとリチウム金属箔で挟み込んで張り合わせることで電池を組み立てた。20mm×20mmの大きさで電池の充放電特性を調べた。4.2Vまで0.2mAで充電し、2.7Vまで0.2mAで放電する、定電流充放電試験を行った。3サイクル目の放電容量を100%とすると、10サイクル目では97%、50サイクル目では91%の放電容量であった。
【0054】
表1から明らかなように、トルエン不溶分の多いポリエーテル系重合体を含有する高分子固体電解質用組成物を使用した比較例1および2は、組成物の押出加工性が悪く、平滑な表面肌が得られず、該組成物を架橋して得られた高分子固体電解質の機械的強度も低い。
【0055】
それに対し、実施例1〜3の高分子固体電解質用組成物は、押出加工性が良好であり、特にスウェルと表面肌の平滑性に優れる。また該組成物を架橋して得られた高分子固体電解質のフィルムは十分な強度と柔軟性、イオン伝導性を有している。
【0056】
【発明の効果】
本発明の高分子固体電解質用組成物は、押出成形加工性が良好であり、容易に薄膜の電解質を形成することができる。特にスウェルが小さく、フィルムの表面肌の平滑性に優れるため、電極との密着性も良好である。また該組成物を架橋して得られる高分子固体電解質のフィルムは柔軟性と機械的強度に優れており、高いイオン伝導性を示す。従って、固体電池、コンデンサーなどの電解質として好適に使用できる。
Claims (5)
- トルエン不溶分が5重量%以下のポリエーテル系重合体と、該重合体に可溶の電解質塩化合物とを含有することを特徴とする高分子固体電解質用組成物。
- ポリエーテル系重合体のムーニー粘度が3〜150である請求項1記載の組成物。
- ポリエーテル系重合体が、エチレンオキシド単位70〜99モル%およびこれと共重合可能なオキシラン単量体由来の単位30〜1モル%からなり、かつ架橋性官能基を有するオキシラン単量体単位が全単量体単位に対し15モル%以下である請求項1または2記載の組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を架橋してなる高分子固体電解質。
- 請求項4記載の高分子固体電解質を有してなる電池。
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