JP4334100B2 - 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、ブロムまたは燐酸エステルなどの難燃剤を使用せず、高湿度条件下に曝された場合でも加水分解し難い、耐加水分解性(耐湿性)の良好な難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は優れた機械的性質を有しており、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野をはじめ工業的に広く利用されている。一方、OA機器、家電製品などの用途を中心に、使用する合成樹脂材料の難燃化の要望が強く、これらの要望に応えるために多数の難燃剤が開発検討されている。従来、ポリカーボネート樹脂を難燃化するには、主にハロゲン化合物などが使用されていた。さらに、近年は、環境汚染の問題、成形機のシリンダー、スクリューおよび金型などの腐食の問題などから、ハロゲン系化合物、特にブロムを含む化合物の使用の減量を目的として、例えば、リン酸エステル系化合物またはフェノール系化合物を配合した組成物が提案されている。しかし、こうした難燃性ポリカーボネート樹脂組成物では、耐衝撃性や熱安定性が低下するという欠点があった。
【0003】
ポリカーボネート樹脂にブロムを含む化合物を使用しないで難燃化する技術として、ポリカーボネート樹脂に有機シロキサンとパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩を添加した組成物が提案されているが(特開平6-306265号公報)、この刊行物に記載の発明では透明性はある程度確保されるものの、燃焼性または流動性などについては十分とは言えない。
【0004】
また、特開平10-139964号公報には、芳香環を有する非シリコーン樹脂に、難燃剤として機能する重量平均分子量が1万〜27万の範囲のシリコーン樹脂を配合した難燃性樹脂組成物が記載されている。この刊行物に記載の難燃性樹脂組成物では、基体樹脂である芳香環を有する非シリコーン樹脂の難燃性は改良されるが、配合されるシリコーン樹脂の分子量が高いため、ポリカーボネート樹脂自体が本来持っている透明性を損なうという欠点がある。さらに、アルコキシ基を有するシリコーン樹脂のアルコキシ基の含有量が高いと、難燃性樹脂組成物またはこれから得られる成形品を高湿条件下に曝された場合には、容易に吸湿して透明性を大幅に損なう(耐湿性に劣る)という問題がある。
【0005】
ポリカーボネート樹脂を非ハロゲン系化合物によって難燃化する技術の中に、ジメチルシロキサンとポリカーボネートとを共重合させて、得られる共重合体を難燃化する手法が提案されているが、この共重合化により難燃性は大幅に改良されるものの、製造ラインの問題からコストアップは避けられない。さらにまた、特開平11-140294号公報には、フェニル基を含有するオルガノシロキサンを配合したポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。しかし、これらのオルガノシロキサンのみではUL−94に示される難燃性を達成することができず、実用化するには、いまだ十分とは言えない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、次のとおりである。
1.高湿条件下に曝された場合にも加水分解し難い、耐加水分解性(耐湿性)の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供すること。
2.衝撃強度、熱安定性などに優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供すること。
3.成形機のシリンダ、スクリューおよび金型などを腐食し難い難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供すること。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明では、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に、シリコーン樹脂(b)を0.2〜5重量部、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂(c)を0.01〜0.5重量部、衝撃改良剤(d)を0.5〜10重量部それぞれ配合されてなり、上記シリコーン樹脂(b)が、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数が2以上の脂肪族炭化水素基とからなり、置換基における芳香族炭化水素基の割合が40モル%以上のシリコーン樹脂であることを特徴とする、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂(a)とは、芳香族ヒドロキシ化合物、またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物とを、ホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、または、溶融法(エステル交換法)などの従来法によることができる。また、溶融法で製造され、末端基のOH基量を調整して製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0009】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−P−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAである。さらに、本発明の目的である難燃性を一層向上させる目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物に、スルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することができる。
【0010】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部に代えて、次に挙げる化合物を使用すればよい。化合物の具体例としては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、または3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどが挙げられる。これら化合物の使用量は、0.01〜10モル%の範囲であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0011】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよい。一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、m−およびp−メチルフェノール、m−およびp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、およびp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0012】
芳香族ポリカーボネート樹脂として好ましいのは、2,2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、または、2,2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。本発明の目的である難燃性を一層向上させる目的で、シロキサン構造を有するポリマー、またはオリゴマーを共重合させることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、原料の異なる2種以上の重合体および/または共重合体の混合物であってもよい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、16,000〜30,000の範囲のものが好適であり、中でも特に好ましいのは18,000〜23,000の範囲のものである。
【0014】
本発明におけるシリコーン樹脂(b)としては、ケイ素原子と結合する置換基が、芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなり、置換基における芳香族炭化水素基の割合が40モル%以上のシリコーン樹脂である。中でも好ましいのは、芳香族炭化水素基の割合が50モル%以上のシリコーン樹脂である。芳香族炭化水素基の割合が少ないと、最終的に得られる樹脂組成物の難燃性および耐水性などが低下し易い。芳香族炭化水素基には、エポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、ビニル基などが置換基として結合していてもよい。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられ、中でもフェニル基が好適である。
【0015】
炭素数2以上の脂肪族炭化水素基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの非置換アルキル基、置換基としてエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、ビニル基などが結合している置換アルキル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は炭素数2以上のもの、特に好ましくは炭素数2〜12のアルキル基である。
【0016】
本発明におけるシリコーン樹脂(b)は、主として2官能基(R1R2SiO)と3官能基(R3SiO1.5)からなるシリコーン樹脂であり、1官能基(R4R5R6SiO0.5)や4官能基(SiO2)を含むことができる。ここで、R1は炭素数2以上の脂肪族炭化水素基であり、R2は芳香族炭化水素基であり、R3〜R6は、それぞれ、芳香族炭化水素基または炭素数2以上の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は炭素数2以上のもの、特に好ましくは炭素数2〜12のものである。
【0017】
これらのシリコーン樹脂は、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、アルキルアリールジアコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、ジアルキルアリールアルコキシシラン、アルキルジアリールアルコキシシラン、テトラアルコキシシランなどを加水分解する方法などを挙げることができる。
【0018】
これらシリコーン樹脂の分子の構造(架橋度)および分子量などは、原料のモル比、加水分解速度などを変えることによって調整することができる。なお、製造条件によってはアルコキシ基が残存するが、アルコキシ基が残存したシリコーン樹脂をポリカーボネート樹脂に配合した場合には、最終的に得られる難燃性樹脂組成物の耐加水分解性が低下することがあるので、残存アルコキシ基は少ないこと、または全くないことが望ましい。シリコーン樹脂(b)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対して、0.2〜5重量部配合することができる。シリコーン樹脂の添加量が0.2重量部未満では最終的に得られる難燃性樹脂組成物の難燃性が十分ではなく、5重量部を越えると耐熱性が低下するので、いずれも好ましくない。
【0019】
本発明で使用されるフィブリル形成能を有するポリフルオロエチレン樹脂(c)は、最終的に得られる難燃性樹脂組成物中に容易に分散し、かつ、この難燃性樹脂組成物に含まれる樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものである。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂は、ASTM規格でタイプ3に分類される。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社より、テフロン6Jまたはテフロン30Jとして、またはダイキン化学工業社よりポリフロンとして市販されている。
【0020】
フィブリル形成能を有するポリフルオロエチレン樹脂(c)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、0.01〜5重量部の範囲で選ばれる。ポリフルオロエチレン樹脂(c)の配合量が0.01重量部未満であると、難燃性樹脂組成物の難燃性が不十分であり、5重量部を越えると、難燃性樹脂組成物から得られる成形品の外観が低下し易く、いずれも好ましくない。ポリフルオロエチレン樹脂(c)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、好ましくは0.02〜4重量部であり、特に好ましくは0.03〜3重量部である。
【0021】
本発明で使用される衝撃改良剤(d)は、最終的に得られる難燃性樹脂組成物の耐衝撃性を改良(向上)させるものであり、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体が好適である。アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体は、例えば、先の工程で得られた重合体の表面を、後の工程で得られる重合体によって順次被覆するような、連続した多段階シード重合法によって製造される重合体を意味する。基本的な重合体構造としては、ガラス転移温度の低い架橋成分である内核層と、組成物のマトリックスとの接着性を改善するアルキル(メタ)アクリレート系高分子化合物からなる最外郭層を有する多層構造重合体である。
【0022】
アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体としては、好ましくは、架橋されたゴム状重合体からなる内核層と、アルキル(メタ)アクリレート系重合体からなる最外郭層を有する多層構造重合体が挙げられる。さらに、例えば、最内核層を芳香族ビニル単量体からなる重合体で形成し、中間層をガラス転移温度の低いゴム状重合体で形成し、さらに最外郭層をアルキル(メタ)アクリレート系重合体からなる多層構造重合体が挙げられる。この多層構造重合体を使用すると、最終的に得られる樹脂組成物から得られる成形品の表面に表れるパール光沢を少なくするなど、外観不良を改良することができる。
【0023】
アルキル(メタ)アクリレート系重合体は、そのアルキル基の炭素数が1〜8の範囲で選ばれる。アルキル(メタ)アクリレート系重合体としては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシルなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート系重合体を製造する際に、エチレン性不飽和単量体などの架橋剤を用いてもよく、架橋剤としては、例えば、アルキレンジオール、ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリルなどが挙げられる。
【0024】
アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体としては、飽和または不飽和のゴム成分からなるコアと、アルキル(メタ)アクリレートからなるシェルとからなる多層構造重合体が挙げられる。飽和または不飽和のゴム成分としては、例えば、アルキルアクリレート、ブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体などのジエン系のゴムが挙げられる。
【0025】
アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体(d)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、0.5〜5重量部の範囲で選ばれる。配合量が0.5重量部未満であると衝撃強度が低下し易く、5重量部を越えると耐熱性が低下するばかりでなく難燃性も低下するので、いずれも好ましくない。アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に対し、好ましくは1〜3重量部であり、特に好ましいのは1〜2重量部である。
【0026】
本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの安定剤、顔料、染料、滑剤、その他難燃剤、離型剤、摺動性改良剤などの各種樹脂添加剤、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウムなどのウィスカーなどの強化材、または芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂を配合することができる。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、HIPS樹脂またはABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂の配合量は、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂の合計量の40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0028】
本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、非ハロゲンのポリカーボネート樹脂組成物であり、本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に配合される各成分は、それぞれ非ハロゲン系の化合物であることが、環境汚染、成形機や金型の腐食の観点から好ましい。
【0029】
本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、例えば、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂(a)、シリコーン樹脂(b)、または、さらにポリフルオロエチレン樹脂(c)、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体(d)などを一括溶融混練する方法、(2)芳香族ポリカーボネート樹脂(a)とシリコーン樹脂(b)、ポリフルオロエチレン樹脂(c)をそれぞれあらかじめ混練後、または、芳香族ポリカーボネート樹脂(a)とシリコーン樹脂(b)、ポリフルオロエチレン樹脂(c)とをあらかじめ混練後、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体(d)を配合し溶融混練する方法、などが挙げられる。
【0030】
本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、従来から知られている各種の成形方法、例えば、押出成形法、射出成形法、精密射出成形法、ガス射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、回転成形法などによって、容易に目的の製品・部品などの成形品を製造することができる。成形品は機械的強度、耐熱性、耐湿性、成形時の熱安定性などに優れているばかりでなく、成形品の表面外観、難燃性、燃焼時の非ドリップ性などの諸点に優れている。従って、本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、自動車分野、電気・電子分野、OA機器分野、家庭電器分野などの広い分野で、製品・部品製造用原料として使用することができる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。
【0032】
実施例および比較例においては次に記載の原材料を用いた。
(1)ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンS−3000、粘度平均分子量21,000、以下「PC−I」と称する)。
(2)ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンH−3000、粘度平均分子量18,000、以下「PC−II」と称する)。
【0033】
(3)シリコーン樹脂−I:ケイ素原子と結合する置換基が、フェニル基とプロピル基からなるオルガノシロキサンであって、置換基のアルキル基対フェニル基のモル比が30対70のもの(東レ・ダウコーニングシリコーン社製、SH6018)。
(4)シリコーン樹脂−II:ケイ素原子と結合する置換基が、フェニル基とプロピル基からなるオルガノシロキサンであって、置換基のアルキル基対フェニル基のモル比が67対33のもの(東芝シリコーン社製、XC99ー135664)。
(5)衝撃性改良剤−I:EXL2603(呉羽化学社製、ブタジエンコア/アクリレートシェル)。
【0034】
(6)衝撃性改良剤−II:E−901(三菱レイヨン社製、ブタジエンスチレンコア/アクリレートシェル)。
(7)ポリテトラフルオロエチレン:ポリフロンF−201L、ダイキン社製(以下、「PTFE」と称する)。
(8)スルホン酸金属塩:メガファックF114(大日本インキ化学製 パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩)。
【0035】
なお、試験片の物性評価は次に記載のように行った。
(i)燃焼性:1.6mm厚みのUL−94規格の試験片により垂直燃焼試験を行い、評価した。燃焼性は、「V−0」はV−0合格を、「V−1」はV−1合格を、「V−2」はV−2合格を意味する。
(ii)衝撃強度:3.2mmのアイゾット衝撃試験片を成形し、その後0.25Rのノッチを切削し評価を行った。PCT後とは、プレッシャークッカーによって120℃の温度で5時間試験を行った後の試験片についての測定値であり、この値が小さいほど、耐湿性に劣ることを意味する。単位は、J/mである。
【0036】
[実施例1]
芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−I)100重量部に、シリコーン樹脂−Iを0.51重量部、衝撃性改良剤−Iを2.1重量部、PTFEを0.31重量部を配合し、タンブラーによって20分混合後、30mmφの二軸押出機によって、シリンダー温度を270℃としてペレット化した。得られたペレットにつき、シリンダー温度を290℃とした射出成形機によって、厚さが1.6mmの燃焼試験片を成形し、この試験片について燃焼性を評価した。さらに、シリンダー温度を280℃とした射出成形機によって、アイゾット衝撃試験片を成形し、この試験片を0.25Rのノッチをノッチングマシンで切削し、アイゾット衝撃試験機によってアイゾット衝撃強度を測定した。さらに、アイゾット衝撃試験片をノッチ切削後に、プレッシャークッカーテスト(PCT)を120℃の温度で5時間行い、その後、アイゾット衝撃試験機によって衝撃強度を測定した。測定結果をアイゾットPCT後として、表−1に示す。
【0037】
[実施例2]
実施例1に記載の例において、芳香族ポリカーボネート樹脂を100重量部に対して、シリコーン樹脂−Iの配合量を2.1重量部に変更した外は、同例におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−1に示す。
【0038】
[実施例3]
実施例2に記載の例において、衝撃性改良剤の衝撃性改良剤−Iを衝撃性改良剤−IIに変更した外は、実施例1におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−1に示す。
【0039】
[実施例4]
実施例2に記載の例において、基体樹脂の芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−I)を(PC−II)に変更した外は、実施例1におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[比較例1]
実施例2に記載の例において、PTFEを添加しなかった外は、実施例1におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−2に示す。
【0042】
[比較例2]
実施例4に記載の例において、衝撃性改良剤−Iを添加しなかった外は、実施例1におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−2に示す。
【0043】
[比較例3]
実施例1に記載の例において、シリコーン樹脂のシリコーン樹脂−Iをシリコーン樹脂−IIに変更した外は、実施例1におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−2に示す。
【0044】
[比較例4]
実施例2に記載の例において、シリコーン樹脂−Iを0.1重量部のスルホン酸金属塩に変更した外は、実施例1におけると同様の手法でペレット化し、同様の方法で評価試験を行った。評価結果を表−2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表−1および表−2より、次のことが明らかである。
(1)実施例1では、PTFEを添加することで燃焼性のVー0を発揮し、衝撃性改良剤を配合することによって優れた耐衝撃性を発揮する。さらに、実施例2で、シリコーン樹脂の配合量を増加しても、燃焼性、耐衝撃性などの物性への影響はない。
(2)実施例3では、衝撃性改良剤をスチレン/ブタジエン系のゴム成分の衝撃性改質剤に変更しているが、良好な燃焼性と耐衝撃性を示す。実施例4では、ポリカーボネート樹脂を粘度平均分子量の小さいものに変更しているが、衝撃性改良剤を配合しているので、組成物は耐衝撃性と難燃性の双方に優れている。
【0047】
(3)これに対して、比較例1はPTFEが配合されていないために、燃焼性がV−2と難燃化レベルが低い。比較例2は流動性を改良する目的で粘度平均分子量の小さいものとしたが、衝撃性改良剤が配合されていないために、衝撃性が著しく低いばかりでなく燃焼性はV−1と難燃化レベルも低い。
(4)比較例3はシリコーン樹脂−IIを0.51重量部を配合されているので耐衝撃性は良好であるが、配合されているシリコーン樹脂のアルキル基の炭素数が1のものであるので、燃焼性がVー1と難燃化レベルは低く、V−0という高レベルの燃焼性を確保することができない。
(5)さらに、比較例4ではシリコーン樹脂を配合せず、難燃剤としてスルホン酸金属塩を配合したものは、PTFEを配合してもPCT後の衝撃強度の低下が著しく、耐湿性も劣る。
【0048】
【発明の効果】
本発明は、以上詳細に説明したとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、高湿条件下に曝された場合にも加水分解し難く、耐加水分解性(耐湿性)に優れている。
2.本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性、熱安定性、衝撃強度などにおいて優れており、電気電子機器や精密機械分野における大型成形品や薄肉成形品の成形材料として極めて有用である。
3.本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、シリコーン樹脂のアルキル基の炭素数が2以上のものを配合するので、アルキル基の炭素数が1のシリコーン樹脂を配合したものより、難燃性がすぐれている。
4.また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物はハロゲン系化合物が配合されていないので、成形機のスクリュー、シリンダーおよび金型などの腐食性の問題が大幅に改良される。
Claims (6)
- 芳香族ポリカーボネート樹脂(a)100重量部に、シリコーン樹脂(b)を0.2〜5重量部、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂(c)を0.01〜0.5重量部、衝撃改良剤(d)を0.5〜10重量部それぞれ配合されてなり、上記シリコーン樹脂(b)が、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数が2以上の脂肪族炭化水素基とからなり、置換基における芳香族炭化水素基の割合が40モル%以上のシリコーン樹脂であることを特徴とする、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 衝撃性改良剤(d)が、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む多層構造重合体である、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 衝撃性改良剤(d)が、ジエン系のゴム成分を含む多層構造重合体である、請求項2に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- ジエン系のゴムが、ポリブタジエンまたはスチレン/ブタジエン系ゴムである、請求項3に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- 芳香族ポリカーボネート樹脂(a)の粘度平均分子量が、16,000〜30,000である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
- シリコーン樹脂(b)の芳香族炭化水素基がフェニル基である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
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