JP4328433B2 - 塩化水素の回収方法 - Google Patents

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  • Separation, Recovery Or Treatment Of Waste Materials Containing Plastics (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、含塩素樹脂の熱分解工程より排出される排ガスより、精製された塩化水素を回収する新規な方法に関する。詳しくは、該排ガスより、水分その他の不純物を連続的に且つ効率よく除去して精製された塩化水素を回収する方法である。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル樹脂などの含塩素樹脂よりなる廃棄物は、燃焼時に発生することのあるダイオキシンの問題等により、燃焼して処分することが制限されつつある。また、一方では、限りある資源の保護のため、廃棄物の再利用についての社会的な動きが活発化している。
【0003】
このような背景にあって、含塩素樹脂を脱塩化水素処理して実質的に塩素を含有しない炭化物として回収し、ダイオキシン等の発生に対して問題のない燃料として再利用する試みが種々提案されている。
【0004】
例えば、塩化ビニル樹脂を非燃焼雰囲気下、一般に、窒素ガス雰囲気下に350℃程度に間接加熱して熱分解を行うことにより、脱塩化水素された炭化物を得、得られた炭化物をセメント製造用燃料、高炉用燃料等の燃料として再使用する方法が挙げられる。
【0005】
一方、上記熱分解においては、炭化物と共に塩化水素が生成する。該塩化水素は、熱分解を行う装置内の熱を同伴した排ガスとして排出され、その量は、塩化ビニル樹脂を例に挙げると、塩化ビニル樹脂1tにつき0.6tもの塩化水素を含むガス量となる。
従って、上記塩化水素を回収し、他の塩素化製品の製造工程に原料として再利用する技術の開発が望まれる。
【0006】
ところが、含塩素樹脂の熱分解によって生成する排ガスより精製された塩化水素を回収して各種工業製品の原料として使用可能なレベルまで精製する技術については殆ど検討が成されていないのが現状である。
【0007】
即ち、上記排ガスを塩化水素吸収塔に導き、水と接触せしめて塩酸水溶液として回収することは知られているが、塩化水素の回収時の問題或いは回収された塩酸水溶液の純度の向上については、課題すら開示が無く、ましてや、その課題の解決手段については、一切報告が成されていないのが現状である。
【0008】
本発明者らは、前記排ガス中から、精製された状態で塩化水素を回収する方法について種々の検討を重ねた結果、次のような問題を見い出した。
【0009】
即ち、前記熱分解工程より排出される排ガス中には、目的とする塩化水素の他に、ガスの冷却と同時に液体或いは固体となる高沸化合物を含有するため、これを直接、塩化水素の吸収塔に供給して塩酸水溶液を回収しようとした場合、塩化水素の吸収を阻害したり、吸収塔の内部で極めて短時間のうちに閉塞が生じる。
【0010】
また、含塩素樹脂の農業用フィルム等のフィルム用途においては、該フィルムに防曇性を付与するため、フッ素系界面活性剤よりなる防曇剤が添加されることが多く、更にはこうした透明性樹脂は、各種用途の含塩素樹脂、例えば、電線被覆材料や建材用の含塩素樹脂、の原料としてマテリアルリサイクルされることも多い。かかるフッ素系界面活性剤等のフッ素系有機化合物を含む含塩素樹脂を熱分解する場合には、該フッ素系化合物の一部が分解してフッ化水素や低沸フッ化有機物(以下、これらをフッ素系化合物と総称することもある。)を生じ、塩化水素ガス中に混入する。
【0011】
そして、前記したように熱分解工程より排出される排ガスを水に接触させて塩酸水溶液として回収しようとした場合、かかるフッ素系化合物がかなりの量で塩酸水溶液中に残存する。
【0012】
更に、該塩酸水溶液より、塩化水素を放散せしめ、ガス状で回収しようとした場合、上記高沸化合物中のフッ素化合物も同時に放散し、回収したガス状の塩化水素中の純度を低下させる原因となる。しかも、該フッ素系化合物は塩化水素と沸点が近いがために、精製による除去が極めて困難となる。
【0013】
上記のように多量のフッ素系化合物を含有する塩酸水溶液或いは塩化水素ガスは、これを再利用する工程において問題となる場合がある。例えば、塩化水素ガスをオキシクロリネーションによるエチレンジクロライド(EDC)の反応原料として利用した場合、含有されるフッ素系化合物により反応率が著しく低下するという現象を招く。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、含塩素樹脂の熱分解によって生成する排ガスより、フッ素系化合物の含有量が極めて低い、高度に精製された塩酸水溶液を得ることにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、該塩酸水溶液より高純度の塩化水素を得ることにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために研究を重ねた結果、
含塩素樹脂の熱分解によって生成する排ガスを冷却し、先ず、高沸化合物を除去した後、水或いは塩酸水溶液よりなる吸収液に吸収せしめることにより、かかる塩酸水溶液中のフッ素系化合物の含有量を著しく減少することができることを見い出した。
【0017】
また、該塩酸水溶液から放散させて得られる塩化水素は、極めて高純度であり、前記EDCの原料として十分使用可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、下記の工程よりなることを特徴とする塩化水素の回収方法である。
【0019】
a.フッ素系有機化合物を含有する含塩素樹脂を250〜450℃で熱分解して塩化水素を含むガス相と炭化物を主成分とする固体相とを得る熱分解工程
b.熱分解工程より得られるガス相を200℃以上に維持したまま、エチレンジクロライド、ジクロロメタン、クロロベンゼン、n−ヘキサン、及び塩素系有機溶剤の製造における精製工程より得られるヘビーエンドから選ばれる有機溶剤と接触せしめて高沸化合物を分離する高沸化合物除去工程
c.高沸化合物除去工程より得られるガス相を水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、含まれる塩化水素を塩酸水溶液として回収する塩化水素吸収工程
また、本発明によれば、上記方法に、
d.塩化水素吸収工程より得られる塩酸水溶液から塩化水素を放散せしめて塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程を付加した塩化水素の回収方法が提供される。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明において、上記含塩素樹脂としては、熱分解により脱塩化水素が可能な公知の樹脂が特に制限なく使用される。例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。そのうち、塩化ビニル樹脂が代表的である。
【0021】
本発明の回収方法の対象となる排ガスは、添加剤として、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタル酸エステル類等の高沸点化合物、フッ素系界面活性剤等の含フッ素有機化合物を配合された含塩素樹脂を、熱分解工程において熱分解処理することにより生成する、塩化水素ガスを含有する排ガスである。
【0022】
通常、これらの添加剤を含む含塩素樹脂は、廃棄物としての含塩素樹脂中に少なくとも一部存在する場合もあるが、本発明の方法は、このような含塩素樹脂についても好適に適用することができる。
【0023】
また、本発明において、熱分解工程は上記含塩素樹脂を非酸化条件下に加熱して脱塩化水素を行う工程であり、基本的には、従来から公知の含塩素樹脂の熱分解手段が特に制限なく採用される。
上記工程において使用される熱分解装置の代表的な態様を例示すれば、筒状体が回転しながら内容物を一方向に移動可能な実質的に密閉式のロータリーキルンタイプの間接加熱炉で、内容物の上流端に含塩素樹脂片の投入口を下流端に内容物の取出口を有し、下流端の他の位置に排ガスの取出口を有する構造のものが挙げられる。
【0024】
また、他の構造の熱分解装置として、含塩素樹脂の攪拌・移動を、攪拌翼や回転刃で行う装置、押出す機構を有した装置、等も使用することができる。
【0025】
熱分解工程における熱分解は、前記ロータリーキルンタイプの間接加熱炉を例にとって説明すれば、含塩素樹脂を投入口より供給し、キルン内部或いは外部より間接的に加熱を行い、内部の温度が250〜450℃になるように調整することによって一般に実施される。含塩素樹脂は、キルン内を移動する間に脱塩素され、炭化物を主成分とする固体相と塩化水素を含むガス相とに分離され、それぞれ取出口より取り出される。
【0026】
上記キルンの内部は、非酸化性雰囲気とするために、不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン等の公知の不活性ガスによって予め置換し、必要に応じて運転中も該不活性ガスをキャリアガスとして供給することが推奨される。上記不活性ガスとして、塩化水素ガスを使用することも可能である。
【0027】
上記排ガスは、含塩素樹脂の熱分解によって生成した塩化水素と共に、該含塩素樹脂に同伴して供給された水分、その他未分解の有機成分を含有し、更に、キャリアガスを供給した場合は該キャリアガスを含有し、通常、250〜450℃の熱ガスとして熱分解工程より排出される。
【0028】
上記排ガスには、含塩素樹脂の添加剤として、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタル酸エステル類等の高沸点有機物を数千ppm〜数十%もの濃度で含有する。
【0029】
一方、フッ化水素ガス等のフッ素系化合物は、使用する含塩素樹脂の種類によって異なるが、場合によっては、1000ppm以上にも達する場合がある。
【0030】
本発明においては、上記排ガスを水媒体と接触させて塩化水素を吸収せしめる前に、高沸化合物除去工程を設けることが極めて重要である。
【0031】
即ち、上記排ガスを、直接、水或いは塩酸水溶液と接触せしめて塩化水素を吸収しようとした場合、高沸点有機物が吸収塔の配管に付着するばかりでなく、ガス中に含有されるフッ化水素と共に、水系溶媒には殆ど溶解しない低沸フッ化有機物が吸収液に多量に溶け込み、得られる塩酸水溶液中のフッ素系化合物の濃度を上昇させるという常識では考えられないような現象が生ずる。
【0032】
本発明にあっては、熱分解工程より得られるガス相を冷却して高沸化合物を液体又は固体として該ガス相より分離する高沸化合物除去工程を設けることによって、上記問題を解決し、続く塩化水素吸収工程において、安定に且つフッ素系化合物の溶解量の減少した塩酸水溶液を得ることができる。
【0033】
上記のように、高沸化合物を冷却により除去した後、吸収液と接触せしめることにより、極めて高純度の塩酸水溶液が得られる機構は明らかでないが、本発明者らは次のように推定している。即ち、高沸化合物を除去した後、水或いは塩酸水溶液よりなる吸収液に吸収せしめることにより、前記した高沸化合物の懸濁物と共に塩酸水溶液に止まる低沸フッ化有機物を殆ど無くすることができ、吸収後の廃ガスとして塩酸水溶液と分離されやすくなる。その結果、フッ素系化合物が極めて微量に減少した塩酸水溶液が得られる。
【0034】
本発明において、上記高沸化合物除去工程は、排ガスを冷却して高沸化合物を液体又は固体として該ガス相より分離する機能を有する工程であれば特に制限されないが、排ガス中の高沸化合物を配管等への付着無く、且つ効率的に分離するためには、前記排ガスを、熱ガスの状態を維持したまま、塩化水素に対して実質的に不活性な有機溶剤と接触せしめる方法が好適である。
【0035】
上記排ガスを、熱ガスの状態を維持する操作は、前記高沸点有機化合物の沸点以上に維持されていれば良く、特に、200℃以上、更に好ましくは、250℃以上に維持することが好ましい。
【0036】
ここで、排ガスを上記温度に維持する方法は特に制限されない。例えば、排ガスの配管を保温する方法、排ガスの配管を加熱する方法等が一般的である。
【0037】
また、前記含水有機溶剤を構成する有機溶剤としては、塩化水素に対して実質的に不活性な有機溶剤が特に制限なく使用される。特に、好ましくは、排ガスとの接触後の温度を超える沸点を有する有機溶剤である。
【0038】
好適な有機溶剤を例示すれば、エチレンジクロライド(EDC)、ジクロロメタン、クロロベンゼン等の塩素系有機溶剤、n−ヘキサン等の非塩素系有機溶剤などが挙げられる。そのうち、塩素系有機溶剤が、塩化水素の汚染が少なく、また、塩化水素の溶解度も小さいため好適に使用される。特に、回収される塩化水素をEDCの製造に使用する場合は、生産されるEDCの一部を該有機溶剤として使用することができ、また、排ガスとの接触後の不純なEDCを該EDCの製造設備で精製して再利用することも可能であり、経済的に極めて有利に本発明を実施することが可能である。
【0039】
また、上記有機溶剤として、EDC、ジクロロメタン、クロロベンゼン等の塩素系有機溶剤の製造における精製工程より得られるヘビーエンドを使用することも可能である。かかるヘビーエンドを使用する態様においても上記と同様の効果が得られる他、排ガスと接触後のヘビーエンドは、上記精製工程に存在する除害設備、例えば、燃焼炉等に循環して処理することができるというメリットをも有する。
【0040】
上記のように、有機溶剤との接触により排ガスを冷却する方法によれば、排ガスの冷却と共に、配管を塞ぐ原因となる高沸点有機化合物を該有機溶剤中に溶解或いは懸濁せしめて除去することができる。
【0041】
また、上記方法において、有機溶剤中に飽和溶解度を超える量の水を少量存在させることにより、相分離した水の存在によって排ガス中に含有されるフッ化水素を塩化水素に対して優先的に且つ極めて効率よく吸収せしめることができ、続く塩化水素吸収工程において得られる塩酸水溶液中に混入するフッ化水素量を一層減少せしめることができ好ましい。
【0042】
本発明において、排ガスを冷却するために好適な、上記有機溶剤の温度は、該有機溶剤の沸点以下、好ましくは沸点より20℃以上低い温度、特に、−50℃〜50℃程度の低温であることが、低沸フッ化有機物の除去にも有利であるために好適である。
【0043】
また、前記排ガスと有機溶剤との接触方法は特に制限されず、公知の気液接触方法が採用される。例えば、(a)エジェクターを使用して排ガスと含水有機溶剤との気液混合流を強制的に形成せしめる方法、(b)排ガス流に含水有機溶剤を散布する方法、(c)含水有機溶剤よりなる液相に排ガスを直接吹き込む方法などが挙げられる。上記(b)の方法においては対向接触が好ましく、排ガスの上昇流に対して含水有機溶剤を上部から散布し、対向接触せしめる態様が推奨される。また、(c)の方法においては、充填塔や泡鐘塔等を使用する態様が効果的に接触を行うことができ好ましい。
【0044】
これらの接触方法のうち、最も効果的で且つ簡便な態様は、上記(a)のエジェクターを使用する方法である。
尚、上記有機溶剤との接触において、ガス相の回収は、使用した有機溶剤をガス相から効率的に除去する態様が好適に採用される。
【0045】
例えば、上記(a)の方法においては、接触後、気液混相流として得られるため、公知の気液分離装置を使用してガス相を回収することが好ましい。また、(b)、(c)の方法において、ガス相は一般に装置の塔頂より得られるため、特に気液分離装置は別途必要としないが、ガス相の装置出口にデミスターを取り付けたり、該装置出口付近で、冷却された含水有機溶剤と接触せしめることが好ましい。
【0046】
一方、本発明において、前記排ガスは高沸化合物除去工程を経て、塩化水素を主成分とするガス相として得られ、これに続く塩化水素吸収工程に供給される。
【0047】
塩化水素吸収工程は、高沸化合物除去工程より得られるガス相を水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、含まれる塩化水素を該吸収液に吸収させ、塩酸水溶液を得る工程である。
【0048】
高沸化合物除去工程より得られるガス相に含有される塩化水素は、上記塩化水素吸収工程で吸収液に吸収されて塩酸水溶液となり、一方、該ガス相に含まれる低沸フッ化有機物を始めとする低沸化合物は、該吸収液中に高沸化合物が残存しないことにより、該吸収液に殆ど吸収されることなく、ガス相として分離される。
【0049】
従って、上記塩化水素吸収工程では、フッ素系化合物を始め、他の不純物の含有量が著しく低減された、極めて高純度な塩酸水溶液が得られる。
【0050】
本発明において、吸収液としては、塩化水素を溶解可能な溶媒である、水又は塩酸水溶液が使用される。
【0051】
上記吸収液として塩酸水溶液を使用する場合、その吸収効率を考慮すれば、塩化水素の初期濃度が25重量%以下、好ましくは20重量%以下のものを使用することが好ましい。
【0052】
また、吸収工程における吸収条件は特に限定されず、公知の条件が制限なく採用される。例えば、吸収温度は20〜60℃が、圧力は大気圧近傍が一般的である。
【0053】
更に、吸収に使用する装置は、公知の吸収塔が特に制限なく使用される。一般には、充填塔や棚段塔形式の吸収部を持ち、冷却器を通して液相を循環させる多段の吸収塔や、濡れ壁形式の吸収塔等が挙げられる。
塩化水素吸収工程より取り出される塩酸水溶液の濃度は、可及的に高い方が好ましいが、吸収効率等を考慮すれば、10〜40重量%の塩化水素濃度で取り出すことが好ましい。
【0054】
また、塩化水素吸収工程で得られた塩酸水溶液は、低沸化合物を更に高精度で除去し、一層高純度の塩酸水溶液を得るため、不活性ガス、一般には空気を使用してエアレーションを行うことが好ましい。
【0055】
上記エアレーションの条件は、使用する装置の構造、塩酸水溶液の濃度等によって一概に限定することはできないが、一般には、温度20〜60℃、圧力50〜200Kパスカルゲージ下で、塩酸水溶液1m3/h当り、1〜200m3/hの不活性ガスを供給して行うことが好ましい。
【0056】
本発明によれば、上記のように、含塩素樹脂の熱分解によって得られるガス相より、高い純度の塩酸水溶液を得ることが可能であるが、該塩酸水溶液より塩化水素を放散せしめて、高純度の塩化水素をガス状で回収する方法をも提供する。
【0057】
即ち、本発明によれば、下記の工程よりなることを特徴とする塩化水素の回収方法、
a.含塩素樹脂を熱分解して塩化水素を含むガス相と炭化物を主成分とする固体相とを得る熱分解工程
b.熱分解工程より得られるガス相を冷却して高沸化合物を液体又は固体として分離する高沸化合物除去工程
c.高沸化合物除去工程より得られるガス相を水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、含まれる塩化水素を塩酸水溶液として回収する塩化水素吸収工程、及び
d.塩化水素吸収工程より得られる塩酸水溶液から塩化水素を放散せしめて塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程を有することを特徴とする塩化水素の回収方法が提供される。
【0058】
上記塩化水素ガス放散工程は、塩酸水溶液から塩化水素を放散し、これをガス状で回収する工程であり、公知の放散手段が特に制限なく採用される。例えば、底部にリボイラーを有した充填塔形式や棚段形式等の放散塔を使用して行うことができる。
【0059】
また、上記放散塔の気相部には、ガスに同伴される水分を可及的に低減するために、デミスターを設置することが好ましい。
【0060】
上記塩化水素ガス放散工程において、塩化水素ガスの放散は、温度90〜130℃、圧力50〜200Kパスカルゲージが好ましく、特に、大気圧下で行うことが好ましい。また、塩化水素ガスの用途において、その濃度が低くても良い場合は、かかる用途に悪影響を及ぼさないキャリアガスを供給して放散を行うことも可能である。
【0061】
また、塩化水素ガス放散工程において、塩化水素を放散後の塩酸水溶液は、その一部又は全部を塩化水素吸収工程に循環する循環工程を設け、これを吸収液として使用することが好ましい。
【0062】
この場合、塩化水素ガス放散工程より取り出される塩酸水溶液の濃度は、循環時の放散効率等を考慮すれば、塩化水素濃度15重量%以上が好ましく、特に、大気圧下における塩化水素と水の共沸組成(大気圧下では20重量%)となるように放散条件を調整することが好ましい。
【0063】
本発明の塩化水素の回収方法は、前記塩化水素吸収工程と塩化水素ガス放散工程とを組み合わせることにより、前記熱分解工程においてキャリアガスとして窒素等、塩化水素以外のガスを使用した場合でも、該キャリアガスは塩化水素吸収工程で実質的に除去可能であり、これを塩化水素ガス放散工程で放散せしめることにより、キャリヤーガス等を全く含まない塩化水素ガスを得ることができる。
【0064】
本発明において、塩化水素ガス放散工程の後には、塩化水素ガスを脱水する脱水工程を設けることが、水分含量を一層低減された塩化水素ガスを得るために好ましい。
【0065】
上記脱水工程には、ガスに対して適用される公知の脱水手段が特に制限なく採用される。例えば、該ガス相を冷却して脱水する深冷分離法、濃硫酸水溶液等の液状脱水剤、モレキュラーシーブ、塩化カルシウム等の固体状脱水剤などの脱水剤と接触せしめる方法等が挙げられる。
【0066】
脱水工程より取り出される塩化水素ガスの水分含有量は、30ppm以下、好ましくは、10ppm以下となるように実施することが好ましい。
【0067】
以下、本発明の方法を添付図面に従って具体的に説明するが、本発明はこれらの添付図面に限定されるものではない。
【0068】
図1〜3は、本発明の方法の代表的な態様を示すフローチャートである。図1は、熱分解工程、高沸化合物除去工程及び塩化水素吸収工程を含む方法であり、図2は、上記工程に塩化水素ガス放散工程を含み、図3は、更にエアレーションによる塩酸水溶液の精製処理及び脱水工程による塩化水素ガスの精製処理を含む態様を示す。
【0069】
即ち、図1において、前記含塩素樹脂は、ライン2より熱分解装置1に供給され、炭化物よりなる固体相と塩化水素を含有するガス相とを生成する。上記固体相は、ライン3より取り出され、ガス相は、ライン4より高沸化合物除去工程として設けられた冷却塔5に供給される。冷却塔5において、ガス相はライン6から供給される有機溶剤の散布により冷却されると共に、含有される高沸化合物が除去される。この場合、上記冷却時に少量の水を存在せしめることによってガス相に含有されるフッ化水素を効果的に除去することができる。
【0070】
次いで、ガス相は、ライン8を経て、塩化水素吸収工程としての吸収塔9に供給される。吸収塔9では、ライン10からの吸収液の散布により、塩化水素が吸収され、塔底部より塩酸水溶液がライン11より取り出される。また、吸収塔9からの排ガスは、ライン12より焼却炉や除害塔等の処理設備に送られて処理すればよい。
【0071】
図2は、上記図1の工程に対して、塩化水素ガス放散工程を付加した態様を示す。即ち、前記吸収塔9より得られる塩酸水溶液を放散塔13に供給し、ライン15より塩化水素をガス状で回収する。また、塩化水素を放散した液は、吸収液として、吸収塔9に循環使用される。
【0072】
図3は、上記図2の工程に対して、エアレーション及び乾燥による精製工程を付加した態様を示す。即ち、前記吸収塔9より得られる塩酸水溶液をエアレーション塔16に供給し、塔底から不活性ガスを供給して塩酸水溶液中の低沸化合物をパージし、精製する。
【0073】
また、エアレーション塔16からの排ガスは、ライン19より、焼却炉や除害塔等の処理設備において処理すれば良い。一方、塩酸水溶液を前記放散塔13において生成する塩化水素ガスは、ライン21より乾燥工程としての乾燥塔20に供給され、乾燥剤との接触により乾燥される。
【0074】
尚、上記態様において、吸収工程より取り出される塩酸水溶液から塩化水素を放散させることなく、そのまま取り出して他の用途に使用することも可能である。
【0075】
【発明の効果】
以上の説明より理解されるように、本発明によれば、前記フッ素系化合物を始めとする各種添加剤を添加された含塩素樹脂の熱分解工程より排出される排ガスより、高度に精製された塩化水素を、塩酸水溶液或いは塩化水素ガスとして、長期間安定して回収することが可能である。
【0076】
また、本発明の塩化水素ガス放散工程を付加した塩化水素の回収方法によれば、前記熱分解工程においてキャリアガスとして窒素等、塩化水素以外のガスを使用した場合でも、キャリヤーガス等を全く含まない塩化水素ガスを得ることができるという効果も有する。
【0077】
従って、本発明の工業的価値は極めて高いものである。
【0078】
【実施例】
以下、本発明を更に具体的に説明するため実施例を示すが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0079】
実施例1
図1に示す工程に従って含塩素樹脂の熱分解及び塩化水素の回収を行った。
【0080】
即ち、含塩素樹脂2として、平均粒径5mmに破砕された塩化ビニル樹脂片を、ロータリーキルン方式の熱分解装置を使用した熱分解装置1に供給し、窒素ガスを雰囲気下で、380℃に加熱し、熱分解を行った。
【0081】
尚、上記塩化ビニル樹脂は、樹脂100重量部に対して、可塑剤(DOP)を30重量部、防曇剤(パーフルオロアルキル含有オリゴマー)を0.1重量部、安定剤(スズ化合物)を2重量部含有するものであった。
【0082】
上記熱分解によって得られた炭化物をライン3より回収すると共に、ガスとして塩化水素を含有する排ガスをライン4より冷却塔5に供給した。
【0083】
尚、上記ライン4はその周囲を保温することにより、内部のガス温度を300℃以上に維持した
上記冷却塔5では、有機溶剤として、5重量%の水を含有するEDC(エチレンジクロライド)を冷却器にて40℃に調整したものをライン6より冷却液として散布した。
【0084】
次いで、冷却塔を通過した塩化水素ガスを、ライン8を経て吸収塔9に供給し、塔頂より20重量%の塩酸水溶液を散布し、塔底より塩化水素濃度が35重量%の塩酸水溶液をライン11より回収した。
【0085】
回収された塩酸水溶液中の不純物は、ガスクロマトグラフ、イオンクロマトグラフ等で分析した結果、フッ化有機物3ppm未満、フッ化水素0.1ppm、エチレン5ppm未満であった。
【0086】
回収された塩酸水溶液は、アルコールと塩酸水溶液とを反応させてイソプロピルクロライドや、1,4−ジクロロブタン等の塩素化アルカン類の製造原料として、問題なく使用することができた。
【0087】
実施例2
実施例1において、ライン11より得られた塩酸水溶液を、図2に示すように、放散塔13に供給して塩化水素を放散させた。上記放散塔13としては、充填材を充填した充填層を有するものを使用した。放散条件は、塔底温度108℃、大気圧下とした。塔底より得られる20%の塩酸水溶液を、ライン14を経て、吸収塔9に供給した。
【0088】
上記のようにして、放散塔13からのガスを、ライン22を通して−20℃に冷却したガスクーラー23に導き、ライン15より塩化水素ガスを回収した。
【0089】
回収された塩化水素中の不純物は、ガスクロマトグラフ、イオンクロマトグラフ等で分析した結果、水分20ppm、フッ化有機物4ppm、フッ化水素0.03ppm未満、エチレン6ppmであった。
【0090】
回収された塩化水素は、EDCの製造原料として、反応性に影響なく、問題なく使用することができた。
【0091】
実施例3
実施例1において、ライン11より得られた塩酸水溶液を、図3に示すように、エアレーション塔16に供給して塔底よりライン17から25℃の空気を供給してエアレーションを行った。
【0092】
次いで、エアレーション塔16の塔底から、ライン18から取り出される塩酸水溶液を放散塔13に供給し、実施例2と同様な条件で塩化水素を放散せしめた。
【0093】
この塩化水素ガスは、ライン21を経て乾燥塔20に供給して乾燥を行い、ライン15より塩化水素ガスとして回収した。
【0094】
尚、乾燥工程では、乾燥剤として耐酸性モレキュラーシーブを充填した脱水層を使用した。
【0095】
回収された塩化水素中の不純物は、ガスクロマトグラフ、イオンクロマトグラフ等で分析した結果、水分5ppm未満、フッ化有機物3ppm未満、フッ化水素0.03ppm未満、エチレン3ppm未満であった。
【0096】
回収された塩化水素は、EDCの製造原料として、反応性に影響なく、問題なく使用することができた。
【0097】
比較例1
実施例1において熱分解によって得られた炭化物をライン3より回収すると共に、ガスとして得られた塩化水素を含有する排ガスを、20重量%の塩酸水溶液と直接接触させることにより、塩化水素を吸収せしめた後、デカンテーションによって水相を分離し、約35重量%の塩酸水溶液を得た。
【0098】
得られた塩酸水溶液中の不純物は、ガスクロマトグラフ、イオンクロマトグラフ等で分析した結果、フッ化有機物105ppm、フッ化水素3ppm、エチレン140ppmであった。
【0099】
また、上記塩酸水溶液を使用して、実施例2と同様な方法及び条件により、塩化水素の放散及び乾燥を実施した。
【0100】
得られた塩化水素中の不純物は、ガスクロマトグラフ、イオンクロマトグラフ等で分析した結果、水分20ppm、フッ化有機物215ppm、フッ化水素0.03ppm未満、エチレン270ppmであった。
【0101】
回収された塩化水素を、EDCの製造原料として使用したところ、わずか50時間で原料反応率が10%以上も低下し、安定して製品を得ることは困難であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法の代表的な態様を示すフローチャート
【図2】本発明方法の他の代表的な態様を示すフローチャート
【図3】本発明方法の他の代表的な態様を示すフローチャート
【符号の説明】
1 熱分解装置
5 冷却塔
9 吸収塔
13 放散塔
16 エアレーション塔
20 脱水塔

Claims (3)

  1. 下記の工程よりなることを特徴とする塩化水素の回収方法。
    a.フッ素系有機化合物を含有する含塩素樹脂を250〜450℃で熱分解して塩化水素を含むガス相と炭化物を主成分とする固体相とを得る熱分解工程
    b.熱分解工程より得られるガス相を200℃以上に維持したまま、エチレンジクロライド、ジクロロメタン、クロロベンゼン、n−ヘキサン、及び塩素系有機溶剤の製造における精製工程より得られるヘビーエンドから選ばれる有機溶剤と接触せしめて高沸化合物を分離する高沸化合物除去工程
    c.高沸化合物除去工程より得られるガス相を水又は塩酸水溶液よりなる吸収液と接触せしめて、含まれる塩化水素を塩酸水溶液として回収する塩化水素吸収工程
  2. 更に、塩化水素吸収工程より得られる塩酸水溶液から塩化水素を放散せしめて塩化水素をガス状で回収する塩化水素ガス放散工程を有する、請求項1記載の塩化水素の回収方法。
  3. 更に、塩化水素ガス放散工程において濃度が低下した塩酸水溶液を前記塩化水素吸収工程に循環する吸収液循環工程を有する、請求項2記載の塩化水素の回収方法。
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