JP4324893B2 - 衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、変性ポリエステル系繊維の組織内に抗菌性化合物を固定化することにより、該繊維に衛生性を付与する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
靴下、肌着、スポーツ衣料、寝具等の繊維製品は、使用者の皮膚からの分泌物、汗、皮膚の剥離物等が付着し易く、これらが栄養源となって細菌、ダニ等の微生物が繁殖する良好な培地となり得る。その結果、これらの繊維製品は、微生物からの生産物によって不快感を発生し得、場合によっては皮膚病および他の種々の疾病の感染原因ともなり得る。
【0003】
また、蒲団、敷物、カーテン、壁布地等の繊維製品は、保管の際や湿度の高い場所で使用する場合等に、カビが発生し得る。その結果、繊維製品の劣化および汚染が起こり得、繊維製品の品位が低下し得る。
【0004】
繊維製品を細菌およびダニ等の微生物、ならびにカビから保護して衛生的に保ち、また品位を良好に維持する目的で繊維製品に抗菌性化合物を固着させる試みがなされ、今までに幾つかの方法が実施されている。
【0005】
最も一般的には、抗菌性化合物を含む液に繊維製品を浸漬する方法、または抗菌性化合物を含む液を繊維製品に噴霧する方法が知られている。
【0006】
更に抗菌性化合物の固着を強力にする方法として、例えば、抗菌性第4級アンモニウム塩の分子の一部を有機シリコン化合物を介して繊維分子の一部に結合する方法、あるいは有機塩素化合物等の抗菌性化合物を、展開性のよい合成樹脂を被覆した繊維表面に接着して固定化する方法、あるいは無機金属(銀系など)を繊維中に練込む方法、あるいは繊維物質の組成中に有機金属化合物を結合させて抗菌性を付与する方法などが知られている。
【0007】
しかし、これらの対象として従来用いられてきた繊維は、専ら木綿、毛、絹、アセテート、アクリル系、ポリアミド系、塩化ビニール系、ポリウレタン系等の繊維であった。
【0008】
これらの繊維は、原則として、繊維を構成する分子中に、抗菌性化合物分子と化学的または物理的に結合し得る官能基を有する繊維、または改質によりこのような官能基を導入した繊維、あるいは接着剤との親和性に優れた表面物性を有する繊維である。
【0009】
また、繊維製品に抗菌性を付与する別の方法として、一般に繊維との親和性が高いカチオン活性剤系抗菌性化合物を繊維に付着させることも行われている。しかしこのような方法で得られた繊維は、耐久性に問題がある上に、塵挨を吸着して汚れ現象が目立つという欠点がある。
【0010】
衛生性に優れた変性ポリエステル繊維を製造するための試みが、これまでに多くなされてきた。しかし、変性ポリエステル系繊維は、接着剤との親和性が悪いため接着剤併用による抗菌性化合物固定が不十分であるという問題を有する。
【0011】
従って、繊維仕上げ行程の処理条件に耐え、繊維本来の風合を損なわず、また十分な耐光性および耐洗濯性を備え、かつ長期間抗菌活性を持続し得るような変性ポリエステル系繊維の衛生加工方法は、これまで知られていなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、繊維仕上げ行程の処理条件に耐え、繊維本来の風合を損なわず、また十分な耐光性と耐洗濯性を備え、かつ長期間効力を持続し得るような変性ポリエステル系繊維製品の製造方法およびこのような方法により得られる変性ポリエステル系繊維製品を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、変性ポリエステル系繊維製品に良好な衛生性を付与する方法として、変性ポリエステル系繊維を形成する鎖状高分子の集合体の間隙に抗菌性化合物を侵入させて固定化させることを試みた。その結果、耐光性、耐洗濯性に優れ、長期間抗菌効果を持続させる本発明の衛生加工法に到達した。
【0014】
すなわち本発明の要旨は、変性ポリエステル系繊維製品を、抗菌性化合物を含む水溶液中で100〜150℃下、液熱加熱処理するか、または該繊維製品に抗菌性化合物を付着後に130〜220℃下で乾熱もしくは蒸熱加熱することで抗菌性化合物を繊維製品に固着することを特徴とする衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品およびその製造方法に関する。
【0015】
本発明は、変性ポリエステル系繊維製品を、抗菌性化合物を含む溶液中で、100℃〜150℃にて加熱処理する衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法であって、該変性ポリエステル系繊維製品が、下記式(1)で表されるリン含有化合物を共重合させた変性ポリエステル系繊維を含み、該抗菌性化合物が、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)であることを特徴とする、衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法に関する。
【化3】
(式中、R 1 は1価のエステル形成性官能基であり、R 2 、R 3 は同じかまたは異なる基であって、それぞれ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10の炭化水素基、またはR 1 から選択され、Aは2価もしくは3価の有機残基を表わし、n 1 は1または2であり、そしてn 2 、n 3 、はそれぞれ0〜4の整数を表わす。)
【0016】
本発明はまた、変性ポリエステル系繊維製品に、抗菌性化合物を含む溶液を付着させ、次いで130℃〜220℃の範囲の温度にて乾熱加熱または蒸熱加熱する衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法であって、該変性ポリエステル系繊維製品が、下記式(1)で表されるリン含有化合物を共重合させた変性ポリエステル系繊維を含み、該抗菌性化合物が、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)であることを特徴とする、衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法に関する。
【化4】
(式中、R 1 は1価のエステル形成性官能基であり、R 2 、R 3 は同じかまたは異なる基であって、それぞれ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10の炭化水素基、またはR 1 から選択され、Aは2価もしくは3価の有機残基を表わし、n 1 は1または2であり、そしてn 2 、n 3 、はそれぞれ0〜4の整数を表わす。)
【0017】
1つの実施態様では、上記の製造方法において、上記溶液が、界面活性剤、溶剤、水、および抗菌性化合物を含有する。
【0018】
本発明はまた、上記のいずれかの方法により製造される、衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品に関する。
【0021】
1つの実施態様では、上記変性ポリエステル系繊維製品が、イソフタル酸を共重合させた変性ポリエステル系繊維を含む。
【0022】
1つの実施態様では、上記変性ポリエステル系繊維製品が、ポリエチレングリコールを練込むかまたは共重合させた変性ポリエステル系繊維を含む。
【0023】
1つの実施態様では、上記抗菌性化合物が、塩素を含有しない有機系化合物である。
【0024】
本発明はまた、抗菌性化合物を含有する変性ポリエステル系繊維製品であって、1.8以上の殺菌活性値を有し、かつカビ抵抗値が3である、製品に関する。
【0025】
本発明はまた、抗菌性化合物を含有する変性ポリエステル系繊維製品であって、該製品に含まれる変性ポリエステル系繊維中に固定化された該抗菌性化合物の量が、該変性ポリエステル系繊維の全重量に対して、0.5重量%〜0.95重量%である、製品に関する。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明の方法により処理され得る変性ポリエステル系繊維製品には、原綿、糸、紐、織編物、不織布、その他の加工品等の全ての変性ポリエステル系繊維製品が包含される。
【0028】
本発明の方法により処理され得る変性ポリエステル系繊維製品としては、以下の式(I)または式(II)で表されるリン系難燃モノマーを練込むかまたは共重合させた変性ポリエステル系繊維を含む、難燃性ポリエステル繊維:
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
(式中、R1は1価のエステル形成性官能基であり、R2、R3は同じかまたは異なる基であって、それぞれ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10の炭化水素基、またはR1から選択され、Aは2価もしくは3価の有機残基を表わし、n1は1または2であり、そしてn2、n3、はそれぞれ0〜4の整数を表わす)
、カチオン可染モノマーを共重合させたカチオン可染ポリエステル繊維、イソフタル酸を共重合させた高収縮ポリエステル繊維、ポリエチレングリコールを練込むかまたは共重合させた常圧可染ポリエステル繊維、あるいはその他の変性ポリエステル系繊維を含む、変性ポリエステル繊維製品が挙げられる。
【0032】
本発明における用語「衛生性に優れる」とは、生活環境において微生物の発生を防止することにより、生活環境を衛生的に保つ性質(例えば、抗菌性、防臭性、防カビ性など)に優れていることを意味する。より詳細には、本発明において「衛生性に優れる」とは、殺菌活性値が1.8以上、最も好適には2以上であり、かつ、カビ抵抗値が3であることを示す。
【0033】
本発明において用いられ得る抗菌性化合物としては、親水性の強いもの、着色性のあるもの、臭気または刺激の強いもの、昇華性の強いもの、日光に照射されると変質するもの、毒性が強いもの等を除いてほとんどの抗菌性化合物が適用できる。このような有機系化合物は、染色不良、退色促進、染料滲出、移染、黄変、異臭等による繊維製品の品位低下を起こさない。このような好ましい抗菌性化合物の例としては、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)、イルガサンDP−300、3−メチル−4−イソプロピルフェノール(3M4P)、チモール、p−オキシ安息香酸アルキルエステル(ここで、アルキルは、直鎖または分枝鎖を有するC1〜C5アルキル(例えば、メチル、エチル、n−およびiso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、ter−ブチル、またはペンチル等である)、グリセリンモノ脂肪酸エステル(ここで、脂肪酸は、直鎖または分枝鎖を有するC7〜C11脂肪族カルボン酸(例えば、カプリル酸(CH3(CH2)6COOH)、カプリン酸(CH3(CH2)8COOH)、ラウリン酸(CH3(CH2)10COOH)等)である)、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール(MBC)、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール、4’−n−ドデシルベンゼンスルホン酸塩(MBC−S)、10,10’−オキシビスフェノキシアルシン、8−オキシキノリン銅、キャプタン、ダイホルタンなど、ならびにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0034】
好ましくは、抗菌性化合物は、塩素を含まない有機系化合物である。このような塩素を含まない有機系化合物の例には、上記抗菌性化合物のうち、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、チモール、p−オキシ安息香酸アルキルエステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール(MBC)、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール、4’−n−ドデシルベンゼンスルホン酸塩(MBC−S)、10,10’−オキシビスフェノキシアルシン、8−オキシキノリン銅など、ならびにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
上記の抗菌性化合物の中でも、ZPTは、特に好ましい。ZPTは、その加工性、耐久性、安全性等の特性に優れているからである。
【0036】
本発明の方法において使用される、抗菌性化合物含有溶液は、抗菌性化合物、溶剤、界面活性剤、水および必要に応じて乳化安定剤等を調合して均一液状とする通常の乳剤の調製法に準じて製造した原液を、さらに水で希釈することにより調製される。
【0037】
また、溶解度が低く適切な溶剤がない抗菌性化合物を用いる場合は、分散剤(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物と水とを抗菌性化合物に加えてスラリー状としボールミル、ホモミキサー、コロイドミル等で十分に微粒化してフロアブル剤とし、これを水で希釈して用いるか、あるいはこのフロアブル剤を噴霧乾燥して粉剤としたものを水で希釈して用いる。
【0038】
抗菌性化合物含有原液、フロアブル剤および粉剤はさらに水で希釈して使用されるので、これらに含有される抗菌性化合物の濃度は、できるだけ高濃度であることが好ましい。抗菌性化合物含有原液、フロアブル剤および粉剤中の抗菌性化合物濃度は、処方上の難易によって5重量%〜80重量%、好適には、10重量%〜70重量%、より好適には、10重量%〜60重量%の範囲内であり得る。
【0039】
本発明の方法は、大別して加圧法と常圧法とに分けられる。
【0040】
加圧法は、耐圧密閉容器中に抗菌性化合物を含む水溶液と被処理変性ポリエステル系繊維製品とを入れ処理する方法である。加圧法において、繊維製品は、抗菌性化合物含有水溶液中の抗菌性化合物の使用量0.05〜20.0%(繊維重量に対して)、好適には0.1%〜10%、最も好適には0.3%〜5%;繊維重量に対する水重量の比率(浴比)1:(1〜100)、好適には1:(1〜50)、最も好適には1:(1〜30);処理温度100〜150℃、好適には100℃〜130℃、最も好適には100℃〜120℃;処理時間90分〜5分(処理温度が高温になる程、処理時間は短くなる)、好適には60分〜10分、最も好適には40分〜20分の範囲から選択された好適な条件下で処理され得る。
【0041】
常圧法は、被処理繊維製品に抗菌性化合物含有水溶液を浸漬または塗布し、次いで抗菌性化合物の付着率を繊維重量に対して所定の割合に絞り、その後、所定の処理時間および処理温度で、乾熱もしくは蒸熱加温により浸透固着させる方法である。常圧法において、繊維製品は、抗菌性化合物含有水溶液中の抗菌性化合物濃度0.05g/l〜50.0g/l、好適には、0.05g/l〜30g/l、最も好適には、0.05g/l〜10g/l;抗菌性化合物の繊維製品への付着率40〜90%(繊維重量に対して)、好適には60%〜90%、最も好適には70%〜90%;処理温度130℃〜220℃、好適には150℃〜210℃、最も好適には160℃〜200℃;処理時間5分〜10秒(処理温度が高温になる程、処理時間は短くなる)好適には3分〜10秒、最も好適には2分〜10秒から選択された好適な条件下で処理され得る。なお、この方法では、常圧かつ高温で処理するので、処理温度において蒸気圧が低い抗菌性化合物(例えば、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT))を選ぶ必要がある。
【0042】
いずれの方法においても、抗菌性化合物は、抗菌性化合物の抗菌効力に応じて、変性ポリエステル系繊維製品中に含まれる繊維の重量に対して0.001%〜2.0%の範囲、好適には、0.01%〜1.0%の範囲、最も好適には、0.05%〜1.0%の範囲で繊維内に配合されることが必要である。実際に必要な抗菌性化合物の量は、処理方法、使用される抗菌性化合物に応じた有効率(抗菌性化合物含有水溶液中において、抗菌性化合物が繊維中に取り込まれる割合)を実験的に確認することにより決定される。
【0043】
本発明の方法において変性ポリエステル系繊維を用いる理由は、次の通りである。
【0044】
変性ポリエステル系繊維は、汎用ポリエステル繊維に比べて鎖状高分子の集合体の間隙を多く有する。そのために、変性ポリエステル系繊維では、抗菌性化合物の繊維中への固定化率が、汎用ポリエステル繊維のそれと比べて高くなる。
【0045】
本発明の方法では、変性ポリエステル系繊維の鎖状高分子の集合体の間隙に適切な抗菌性化合物を侵入させて固定化させている。従って、本発明の変性ポリエステル系繊維製品中に固定化された抗菌性化合物の抗菌活性は、長期間安定に持続する。さらに、本発明の変性ポリエステル系繊維製品は、抗菌性化合物が繊維製品中に固定化されているので、優れた耐洗濯性を示す。
【0046】
また、固定化された抗菌性化合物有効成分が極めて微量に抑制されているので、変性ポリエステル系繊維製品の安全性が高い。
【0047】
加えて、本発明の変性ポリエステル系繊維製品は、変性ポリエステル系繊維製品が本来有している、風合、撥水性、および塵挨吸着防止性、ならびにその他の特性(難燃性、カチオン可染性、高収縮性、分散常圧可染性等)を損なうことなく、優れた衛生性を示す。
【0048】
さらに、本発明の変性ポリエステル繊維製品は、その製造工程において、抗菌性化合物の使用量を極力削減し、廃水中に含まれて排出される抗菌性化合物を最小限に止めることが出来るという利点もまた有する。
【0049】
また、変性ポリエステル系繊維製品の製造工程は、通常、精練、染色、仕上げ工程中に、上記加圧法および常圧法における条件と同様の条件で処理する操作を有する。従って、本発明の方法は、従来の変性ポリエステル系繊維製品の製造工程中に適宜組み込むことが可能であるという利点を有する。例えば、上記繊維製品の染色工程と本発明の方法とを併用することにより、極めて簡便で経済的に本発明の変性ポリエステル系繊維製品を得ることができる。
【0050】
【実施例】
本発明を、以下の実施例により具体的に説明する。以下の実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明を限定することを意図していない。なお、実施例中「%」とあるのは、特に断りがない限り「重量%」を示す。
【0051】
(実施例1)抗菌性化合物を付与したポリエステル系布の作製
本実施例では、抗菌性化合物を含む処方物を、本発明および対照の処理温度および処理時間にて、2種類の処理方法(液熱処理および乾熱処理)を用いて、変性ポリエステル系布および汎用ポリエステル系布に付与した。
【0052】
(1−1.抗菌性化合物含有原液の処方)
2種類の抗菌性化合物含有原液を、以下の組成で処方した:
(処方物(1))
ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)20%、ジメチルスルホキサイド(DMSO)10%、イソプロパノール20%、ヒマシ油モノエタノールアミン30%、および水(残量)を混合して均一液とした(以下、処方物(1)とする)。
(処方物(2))
イルガサンDP−300 20%、DMSO 20%、イソプロパノール20%、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム30%、および水10%を混合し均一液とした(以下、処方物(2)とする)。
【0053】
(1−2.供試布)
以下の2種類の布を、上記処方物で処理した:
(変性ポリエステル系布)
変性ポリエステル系布として、難燃性ポリエステル布(式(I)のリン含有化合物を5モル%共重合した変性ポリエステルの150デニール、48フィラメント難燃ポリエステル編地)を用いた(以下、供試布(1)とする)。
(汎用ポリエステル系布)
汎用ポリエステル系布として、(150デニール、48フィラメント難燃ポリエステル編地)(以下、供試布(2)とする)。
【0054】
(1−3.処理条件)
以下の2種類の処理方法を用いて、上記処方物を上記布に付与した:
(液熱処理)
高圧染色試験機の浴中で、所定量の抗菌性化合物を、抗菌性化合物原液と水との比が1:50になるように水で希釈した。この希釈溶液に、スミカロンネイビーブルーS−GLex.cc.染料(商品名、住友化学社製)2%o.w.f.を添加した。(以下、使用した抗菌性化合物原液の繊維重量に対する重量%を、%o.w.f.と表す。)この混合溶液中で、供試布(1)および(2)を、所定の温度および時間で処理した。次いで、この供試布(1)および(2)を還元洗浄[処理条件;ハイドロサルファイト2g/l、ソーダ灰1g/l70℃、10分間]し、そして風乾した。
(乾熱処理)
抗菌性化合物原液を水で8.3g/lに希釈した希釈溶液に、供試布(1)および(2)を浸した。次いで、供試布(1)および(2)への液の付着率を繊維重量に対して60%に絞った。所定の温度および時間で供試布(1)および(2)を加熱処理した。次いで、この供試布(1)および(2)を還元洗浄[処理条件;ハイドロサルファイト2g/l、ソーダ灰1g/l70℃、10分間]し、そして風乾した。
【0055】
(1−4.吸着量分析)
上記の各方法で処理した供試布1gを、ジクロロメタン50mlに浸漬した。これに超音波振動を与えながら20分間抽出した後、ジクロロメタン層を採った(この作業を2回繰り返した)。採取したジクロロメタン層を合わせ、この層からジクロロメタンを留去した。残留物にエタノールを添加して20mlとした。この溶液を、ガスクロマトグラフ法により定量した。
【0056】
【表1】
【0057】
本発明の処理温度および処理時間(液熱法:130℃、45分;乾熱法:160℃、1分)で行った試験1〜8では、処理された供試布(1)および(2)のいずれにも抗菌性化合物の吸着が観察された。一方、対照の処理温度および処理時間(液熱法:80℃、120分;乾熱法:90℃、10分)で行った試験9〜16では、処理された供試布(1)および(2)のいずれにおいても、抗菌性化合物の吸着は観察されなかった。
【0058】
また、試験1〜8では、供試布(1)における抗菌性化合物吸着量は、供試布(2)における抗菌性化合物吸着量の約2倍であることがわかった。
【0059】
(実施例2)耐洗濯性の評価
(2−1.洗濯)
実施例1の試験1〜16において処理された供試布(1)および供試布(2)をそれぞれ洗濯した。
(一般用途洗濯)
各供試布を、JAFET標準洗剤を使用して、JIS L0217103号(制菌加工繊維製品一般用途の洗濯方法)により10回洗濯した。洗濯した供試布を以下の抗菌能力試験に供して、その抗菌活性を、洗濯していない供試布の抗菌活性と比較した。
(特定用途洗濯)
各供試布を、JAFET標準配合洗剤を使用して、厚生省令第13号に準拠の方法(制菌加工繊維製品特定用途の洗濯方法)により50回洗濯し、これを以下の抗菌能力試験に供した。
【0060】
(2−2.抗菌能力試験)
黄色ブドウ球菌(ATCC6538P)、肺炎桿菌(ATCC4352)、MRSA(IID1677)を用いて、上記2−1.で洗濯した供試布の抗菌能力を試験した。抗菌能力試験は、JIS L1902−1998の方法に準じて実施した。ここで、抗菌性化合物の抗菌能力は、下記式を用いて算出された殺菌活性値により評価した。殺菌活性値の高いものほど抗菌性に優れている。
【0061】
殺菌活性値=logA−logC
(但し、試験成立条件(logB−logA)>1.5を満たす)
ここで、
A;未加工標準布の接種直後に回収した菌数の平均値
B;未加工標準布の18時間培養直後に回収した菌数の平均値
C;加工布の18時間培養直後に回収した菌数の平均値
をそれぞれ表す。
【0062】
以下の表2〜4に、各細菌を用いた場合について、洗濯前および洗濯後の各供試布における抗菌活性値を列挙する。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
本発明の方法(試験1〜8)により処理された供試布は、洗濯前において、いずれも明らかな抗菌活性を示した。一般用途洗濯(10回)および特定用途洗濯(50回)に供した後、変性ポリエステル系繊維(試験1、3、5および7)では、抗菌活性が良好に維持されたのに対し、汎用ポリエステル繊維(試験2、4、6および8)では抗菌活性は著しく低下した。特に試験1および5で得られた変性ポリエステル系繊維では、特定用途洗濯(50回)に供した後も抗菌活性値は全く変化しなかった。
【0067】
一方、対照の方法(試験9〜16)により処理された供試布はいずれも、抗菌活性を全く示さなかった。
【0068】
(実施例3)防カビ性の評価
実施例1の試験1〜16において処理された供試布(1)および供試布(2)をそれぞれカビ抵抗性試験に供した。
【0069】
(3−1.カビ抵抗性試験)
アスペルギルス ニゲル(A.niger)ATCC6275、ペニシリウムシトリヌム(P.citrinum)ATCC9849、ケトミウム クロボサム(C.globosum)ATCC6205 およびミロテシウム ベルカリア(M.verrucaria)USDA1334.2を用いて、JIS Z 2911−1976(繊維製品のカビ抵抗性試験方法−湿式法)試験を実施した。各供試布のカビ抵抗性値を、以下の表5に列挙する。
【0070】
【表5】
(注)カビ抵抗性値
[3] 試験片上に菌糸の発育が認められない。
[2] 試験片上に菌糸の発育面積が1/3以下。
[1] 試験片上に菌糸の発育面積が1/3以上。
本発明の方法(試験1〜8)により処理された供試布は、いずれも良好なカビ抵抗性値を示した。
【0071】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、風合、撥水性、および塵挨吸着防止性、ならびにその他の特性を損なうことなく優れた抗菌活性および防カビ性を示す、変性ポリエステル系繊維製品が提供される。本発明の変性ポリエステル系繊維製品は、複数回にわたって洗濯しても、その抗菌活性が良好に維持される。本発明により得られる変性ポリエステル系繊維製品は、家庭用はもちろん、医療機関並びにそれに準ずる施設用として、衣料品(白衣、寝巻など)、寝装品(敷布、布団側地など)、インテリア製品(カーテン、カーペットなど)、雑貨品(マット、カバーなど)など広範囲な用途に使用することができる。
Claims (6)
- 変性ポリエステル系繊維製品を、抗菌性化合物を含む溶液中で、100℃〜150℃にて加熱処理する衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法であって、
該変性ポリエステル系繊維製品が、下記式(1)で表されるリン含有化合物を共重合させた変性ポリエステル系繊維を含み、
該抗菌性化合物が、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)であることを特徴とする、衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
- 変性ポリエステル系繊維製品に、抗菌性化合物を含む溶液を付着させ、次いで130℃〜220℃の範囲の温度にて乾熱加熱または蒸熱加熱する衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法であって、
該変性ポリエステル系繊維製品が、下記式(1)で表されるリン含有化合物を共重合させた変性ポリエステル系繊維を含み、
該抗菌性化合物が、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛(ZPT)であることを特徴とする、衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
- 前記溶液が、界面活性剤、溶剤、水、および抗菌性化合物を含有する、請求項1または2に記載の方法。
- 耐圧密閉容器中に、抗菌性化合物を含む水溶液と前記変性ポリエステル系繊維製品を入れることを特徴とする、請求項1に記載の衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
- 前記変性ポリエステル系繊維製品に、抗菌性化合物含有水溶液を浸漬または塗布し、次いで抗菌性化合物の付着率を繊維重量に対して40〜90%の割合いに絞り、変性ポリエステル系繊維製品に、抗菌性化合物を含む溶液を付着させることを特徴とする、請求項2に記載の衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造される衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品であって、
該製品に含まれる変性ポリエステル系繊維中に固定された該抗菌性化合物の量が、該変性ポリエステル系繊維の全重量に対して、0.5重量%〜0.95重量%であることを特徴とする衛生性に優れる変性ポリエステル系繊維製品。
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