JP4322403B2 - 減衰装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、振動が伝達される2つの構造体の間に配設されて、振動源たる一方の構造体から他方の構造体へ伝達される振動エネルギを減衰させるための減衰装置に係り、特に、一方の構造体から伝達された振動を回転運動のエネルギに変換し、この回転運動のエネルギを熱エネルギに変換して消費させるように構成した減衰装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の減衰装置としては、特開平10−184757号公報に開示されたものが知られている。この減衰装置は建築構造物の柱間に筋交いとして設けられ、或いは免震構造物とその基礎との間に設けられ、両者間に伝達される振動の減衰を行うものであり、図4ら示すように、一方の構造物L1に結合されるロッド100と、このロッド100を覆うようにして設けられると共に他方の構造物L2に結合されたハウジング101とを具備している。上記ロッド100には螺旋状のねじ溝102が形成されており、このねじ溝102にはハウジング101に対して回転自在に支承されたナット103が螺合している。また、このナット103の外周面には円筒状の回転体104が直接固定されており、この回転体104の外周面はハウジング101の内周面と対向して粘性流体105の作用室を形成している。
【0003】
従って、このような構造の減衰装置では、構造物L1,L2間の振動によってロッド100がナット103に対して進退すると、かかるナット103がハウジング101に対して回転を生じ、ナット103に固定された回転体104もハウジング101に対して回転を生じる。回転体104とハウジング101との隙間は粘性流体105の作用室となっていることから、回転体104が回転を生じると、作用室内の粘性流体105に対して回転体104の回転角速度に応じた剪断摩擦力が作用し、かかる粘性流体105が発熱する。つまり、この減衰装置では構造物L1,L2間の振動エネルギが回転エネルギに変換され、更にその回転エネルギが熱エネルギに変換され、その結果として構造物間で伝達される振動の減衰が効果的に行われるようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、この種の減衰装置が発揮する減衰力は粘性流体に接している回転体の表面積に比例しているが、前述した従来の減衰装置ではこの回転体がナットの外周面に対して直接固定されていることから、かかる回転体の直径をナットの外径に比較して大きく設定することができず、減衰力の向上を図ろうとする場合は、回転体の軸方向長さを長く設定しなければならなかった。このため、ロッドの全長やストローク量とは無関係に減衰装置の全長が長くなってしまい、振動が伝達される構造物間の距離が短い場合には適用することが困難になるといった問題点があった。
【0005】
また、この減衰装置には構造物の振動が軸力として作用するので、減衰装置の全長が長い場合には、その分だけロッドやハウジングの曲げ剛性を高めなければならず、減衰装置の大型化や重量化が懸念される。
【0006】
更に、前述した従来の減衰装置ではロッドに螺合したナットと回転体とを直接結合して回転体を構成し、この回転体の両端をボールベアリングによってハウジングに対し支承していた。このため、構造物の振動が軸力としてロッドに作用すると、この軸力がロッドに螺合するナットに作用し、更にはナットに直接結合された回転体に対しても作用してしまう。減衰装置が発揮する減衰力は作用室の厚さ、すなわち回転体とハウジングとの隙間の大きさに反比例し、かかる隙間を小さくするほど大きな減衰力が発揮されるが、この隙間を余りに小さく設定してしまうと、上記軸力によって回転体が変形してしまった場合に、回転体とハウジングとが干渉してしまい、減衰装置そのものが使用不能に陥る危険性がある。このため、前述の減衰装置では粘性流体が封入される作用室の厚さを薄くすることができず、回転体の軸方向長さを大きくして減衰力の向上を図る必要があった。つまり、この点においても減衰装置が大型化する傾向にあった。
【0007】
一方、回転体の変形を防止するためには該回転体の肉厚を大きく設定すれば良いのだが、ナットの外周側に固定された回転体が重量化すると、この回転体の回転によって発生する慣性力が大きくなってしまう。構造物が振動するとロッドは小刻みな進退を繰り返すことから、回転体の慣性力が大きくなると、かかるロッドの運動方向が変化する際にナットに対して過大な負荷が作用し、ナットが早期に消耗してしまうといった問題点が新たに発生する。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、発揮し得る減衰力を犠牲にすることなく全長の短縮化を図り、装置全体の小型化及び軽量化を図ることが可能であり、振動が伝達される構造物間の距離が短い場合であっても適用することが可能な減衰装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、粘性流体の作用室の厚さを薄くして減衰力の向上を図ることが可能であると共に、構造物の振動に対して円滑に追従することができ、かかる振動を回転体の回転運動に変換するナットの負担が少ない減衰装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の減衰装置は、第1の構造体と第2の構造体との間に配置され、これら構造体の間における相対運動を減衰させるための減衰装置であって、上記第1の構造体に結合された円筒状のハウジングと、一端が上記第2の構造体に結合されて軸方向に進退すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成され、上記ハウジングの中空部内を貫通するロッドと、このロッドのねじ溝に螺合すると共に上記ハウジングに対して回転自在に支承されたナットと、このナットの外径よりも大きい内径を有して円筒状に形成され、上記ナット及びロッドを中空部内に収容すると共に上記ハウジングの内周面と所定の隙間を介して対向して減衰力の作用室を形成する回転体と、上記ナットの回転を回転体に伝達するジョイント部と、上記作用室に封入された粘性流体とから構成されることを特徴とするものである。
【0011】
このような技術的手段によれば、第1の構造体と第2の構造体との間に相対運動が生じ、かかる第2の構造体に結合されたロッドが軸方向に進退すると、このロッドのねじ溝に螺合したナットが回転体と共に回転を生じ、減衰力の作用室を形成している回転体とハウジングとの間に相対的な回転運動が発生する。その結果、作用室に封入された粘性流体が剪断摩擦によって発熱し、回転体の回転運動のエネルギ、すなわち第1の構造体と第2の構造体との相対運動のエネルギが熱エネルギとなって消費され、かかる相対運動が減衰される。
【0012】
このとき、本発明の減衰装置では、回転体がナットの外径よりも大きい内径を有して円筒状に形成されており、この回転体によって形成される減衰力の作用室がロッド及びナットの周囲を取り囲む円筒状に形成されているので、かかる作用室はロッド及びナットとその軸方向において重なり合っており、上記ロッドの全長及びそのストローク量以上の無駄な軸方向長さを必要とせず、減衰装置全体の軸方向長さを短く設定することが可能となる。また、かかる回転体はナットの外周面に直接固定されるのでははなく、ジョイント部を介してナットと結合されていることから、この回転体の内径をナットの外径に比して十分に大きく設定することが可能であり、回転体の軸方向の長さを短くしつつ、粘性流体と接する回転体の表面積を大きく設定することができる。つまり、発揮し得る減衰力を低下させることなく、減衰装置の軸方向全長を短く設定することができるものである。
【0013】
本発明において、上記回転体及びナットはこれらをジョイント部で結合して回転体を構成し、かかる回転体をハウジングに対して回転自在に支承することも可能であるが、上記ナットに対してはロッドから軸力が作用し、この軸力が回転体に対して作用すると、前述の如く減衰装置の機能を阻害する種々の問題が発生する。従って、かかる観点からすれば、上記ナットは回転体とは別個にその回転を支承するのが好ましく、具体的にはナットとハウジングとの間にスラスト軸受を介装し、ナットに作用した軸力が回転体に対して及ぶのを防止するのが好ましい。このような対策を行えば、回転体がロッドの軸力によって変形する心配がないので、かかる回転体とハウジングとの隙間、すなわち作用室の厚さを薄く設定することができ、その分だけ減衰力を向上させることができるものである。また、回転体自体を薄く形成してその軽量化を図ることも可能となるので、ナットの回転に対して作用する慣性力が軽減され、ロッドの進退に伴ってナットの回転方向が逆転する場合でも、かかるナットの負担を軽減し、ナットの長寿命化を図ることが可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づいて本発明の減衰装置を詳細に説明する。
図1は本発明を適用した減衰装置の実施例を示すものである。この減衰装置は、例えば建築物等において、基礎とこの基礎上に設けられた構造物との間に設けられ、地震によって基礎から構造物へ伝達される振動を減衰させる目的で使用される。同図において、符号1は円筒状に形成されたハウジング、符号2はこのハウジング1の中空部内を貫通するロッドであり、これらハウジング1及びロッド2のいずれか一方を第1の構造体F1へ、他方を第2の構造体F2へ結合することにより、これら構造体F1,F2の間で伝達される振動の減衰を行うようになっている。
【0015】
上記ロッド2の一端にはフランジ状の連結部20が形成されており、この連結部を構造体F2へボルト等の固定手段を用いて結合することにより、構造体F1,F2が振動した際に、ロッド2が軸方向へ進退するように構成されている。また、このロッド2の外周面には連結部と反対側の端部から螺旋状のねじ溝21が形成されており、後述するナット3のボールがこのねじ溝21を転走するように構成されている。
【0016】
このロッド2のねじ溝21には多数のボールを介してナット3が螺合しており、ロッド2と共にボールねじを構成している。このナット3は上記ハウジング1に対して回転自在に支承されており、構造体F1,F2の振動に伴って上記ロッド2が進退すると、かかる進退に応じてナット3が正逆の両方向へ回転を生じるようになっている。
【0017】
一方、上記ハウジング1は、円筒状に形成された外側スリーブ10と、この外側スリーブ10の中空部内に配置されると共に上記ボールねじを被覆する内側スリーブ11と、これら内側スリーブ11の軸方向の一端と外側スリーブ10の軸方向の一端とを結合する第1エンドキャップ12と、上記外側スリーブ10の他端に固定された第2エンドキャップ13とから構成されている。また、上記内側スリーブ11は、中空部内に上記ナット3を収容しているナット被覆スリーブ14と、上記ロッド2を被覆すると共に上記ナット被覆スリーブ14を第1エンドキャップ12に結合しているロッド被覆スリーブ15とから構成されている。上記ナット被覆スリーブ14はナット3の外径よりも僅かに大きな内径を有しており、前述の如くロッド2がハウジング1に対して進退すると、ナット3がナット被覆スリーブ14の中空部内で回転するように構成されている。
【0018】
かかるナット3の軸方向の両端にはラジアル軸受30及びスラスト軸受31が夫々配置されており、これらの軸受30,31を介してナット3は内側スリーブ11に対して回転自在に支承されている。従って、ロッド2が軸方向へ進退し、かかるロッド2に螺合しているナット3に対して軸力が作用した場合でも、ナット3は両端に配置された一対のスラスト動圧軸受31によって軸方向への移動を規制されているので、内側スリーブ11に堅固に保持された状態で滑らかに回転する。
【0019】
また、上記ハウジング1の外側スリーブ10と内側スリーブ11との間には空間が形成されており、この空間は円筒状に形成された回転体4の収容室となっている。この回転体4は外側スリーブ10と略同じ軸方向長さを有し、ラジアル軸受41を介して外側スリーブ10及び内側スリーブ11に対して回転自在に支承されている。回転体4の外周面はハウジング1の外側スリーブ10の内周面と所定の隙間を介して対向しており、かかる隙間には粘性流体が封入されている。すなわち、上記回転体4はハウジング1の外側スリーブ10と相まって減衰力の作用室40を構成している。尚、図2中の符号42、43は粘性流体が作用室40内から漏れ出すのを防止するためのOリング及びシールである。
【0020】
ハウジング1に対して回転自在に支承された回転体4はジョイント部5を介して上記ナット3と連結されている。このジョイント部5はロッド2の先端が貫通するリング状に形成されると共に、ハウジング1を構成する第2エンドキャップ13の中空部内に位置しており、ナット3の一端と回転体4の一端とに結合されている。従って、ロッド2の進退に伴ってナット3が回転を生じると、ジョイント部5によって該ナット3と結合された回転体4も回転する。
【0021】
そして、このように構成された本実施例の減衰装置Aは、例えば図3に示されるようらに、基礎F1とこの基礎上に免震パッド6を介して支持された防震構造物F2との間に設けられ、上記基礎F1から防震構造物F2に対して振動が伝達された場合に、これらの間で引張り力又は圧縮力が作用するように配置される。基礎F1から防震構造物F2への振動の伝達によってロッド2が軸方向に進退すると、このロッド2に螺合するナット3が正逆両方向へ繰り返し回転し、このナット3と結合された回転体4も該ナット3と共に回転する。その結果、固定された外側スリーブ10の内周面と回転する回転体4の外周面との間に速度差が生じるので、これら両者によって形成された作用室40内の粘性流体に対して剪断摩擦力が作用し、粘性流体が発熱する。つまり、ロッド2に加えられた振動のエネルギがナット3によって回転運動のエネルギに変換され、更に作用室40内で粘性流体の熱エネルギとして消費されたのであり、これによって基礎F1から防震構造物F2への振動の伝達が減衰される。
【0022】
このとき、上記減衰装置では、回転体4がナット3の外径よりも大きな内径を有して円筒状に形成されており、この回転体4の中空部内にナット3及びロッド2が収容された構造となっている。このため、粘性流体が封入された作用室40はナット3及びロッド2とその軸方向において重なりあっており、装置全体の全長を[ロッド2の全長+ロッド2のストローク量]程度に短く設定することができるものである。また、ナット3の外側には該ナット3を回転自在に支承するための内側スリーブ11が存在し、更に内側スリーブ11と回転体4との間には両者が非接触となるよにう空間が形成されていることから、かかる回転体4の外径はナット3の外径に比して十分に大きく形成されている。このため、回転体4の軸方向の長さを抑えつつ、かかる回転体4が粘性流体と接する面積を広く設定することができ、装置の全長を短く抑えても、十分な減衰力を発揮することができるものである。
【0023】
更に、上記ナット3はラジアル軸受30及びスラスト軸受31によってハウジング1の内側スリーブ11に対して回転自在に支承されており、ロッド2からナット3に対して作用した軸方向の力、すなわち軸力が回転体4に対して伝達されない構造となっている。このため、回転体4そのものはスラスト軸受を用いることなく、ラジアル軸受41のみでハウジング1に対して支承することができ、しかも軸力に対する強度アップを図らずとも該回転体4の変形を生じることはない。従って、作用室40の厚さ、すなわち外側スリーブ10と回転体4との隙間を薄く設定しても、これら両者が干渉してしまう懸念はなく、かかる隙間を薄くすることにより、減衰力の向上を図ることが可能となる。また、回転体4自体を薄肉化してその軽量化を図ることもできるので、ナット3の回転に対して作用する慣性力を低減させることができ、ロッド2の小刻みな振動によってナット3の回転方向が繰り返し変化する場合であっても、ナット3の負担を軽減化して装置寿命を延ばすことができるものである。
【0024】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の減衰装置によれば、回転体がナットの外径よりも大きい内径を有して円筒状に形成され、ナットの外周面に直接結合されることなく、ジョイント部を介してナットと結合されており、この回転体によって形成される減衰力の作用室がロッド及びナットの周囲を取り囲む円筒状に形成されてロッド及びナットとその軸方向において重なり合っているので、上記ロッドの全長及びそのストローク量以上の無駄な軸方向長さを必要とせず、減衰装置全体の軸方向長さを短く設定できる他、回転体の軸方向の長さを短くしつつ、粘性流体と接する回転体の表面積を大きく設定することができ、発揮し得る減衰力を低下させることなく全長の短縮化を図り、装置全体の小型化及び軽量化を図ることが可能となる。
【0025】
また、本発明の減衰装置によれば、ナットとハウジングとの間にスラスト軸受を介装し、ナットに作用した軸力が回転体に対して及ぶのを防止することにより、粘性流体が封入された作用室の厚さを薄く設定して減衰力の向上を図ることが可能となる他、回転体自体を軽量化してナットの回転に対して作用する慣性力の軽減化を図り、ロッドの進退に伴って正逆転を繰り返すナットの負担を軽減し、ナットの長寿命化を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の減衰装置の実施例を示す断面図である。
【図2】 図1のA部拡大図である。
【図3】 実施例に係る減衰装置の使用状態の一例を示す図である。
【図4】 従来の減衰装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
1…ハウジング、2…ロッド、3…ナット、4…回転体、5…ジョイント部、21…ねじ溝、31…スラスト軸受、40…作用室、F1,F2…構造体
Claims (2)
- 第1の構造体と第2の構造体との間に配置され、これら構造体の間における相対運動を減衰させるための減衰装置であって、
上記第1の構造体に結合された円筒状のハウジングと、
一端が上記第2の構造体に結合されて軸方向に進退すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成され、上記ハウジングの中空部内を貫通するロッドと、
このロッドのねじ溝に螺合すると共に上記ハウジングに対して回転自在に支承されたナットと、
このナットの外径よりも大きい内径を有して円筒状に形成され、上記ナット及びロッドを中空部内に収容すると共に上記ハウジングの内周面と所定の隙間を介して対向して減衰力の作用室を形成する回転体と、
上記ナットの回転を回転体に伝達するジョイント部と、
上記作用室に封入された粘性流体と、
から構成されることを特徴とする減衰装置。 - 上記ナットとハウジングとの間にはスラスト軸受を介装し、かかるナットをハウジングに対して軸方向へ移動不能に支承したことを特徴とする請求項1記載の減衰装置。
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