JP4318448B2 - 液体吐出方法及び液体吐出装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体流路内の液体を液体吐出孔から液滴群として吐出する液体吐出方法及び液体吐出装置に関し、詳しくは、上記液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量をパルス信号の広い周波数帯域に対して安定化することができる液体吐出方法及び液体吐出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、液体流路内の液体を液体吐出孔から液滴群として吐出する液体吐出装置の一例として、インクジェット方式の記録装置が知られている。インクジェット方式の記録装置、例えばインクジェットプリンタは、記録速度が高速で、ランニングコストが低く、プリント画像のカラー化が容易である等の点から広く普及されており、従来から高解像度かつ高画質なプリント画像を形成するための技術が開発されている。
【0003】
例えば、プリントヘッドを記録媒体の全幅方向に往復移動しながら該プリントヘッドに形成された吐出部(ノズル)からインクを吐出してプリント画像を形成するシリアル型のプリントヘッドの場合には、いわゆるマルチパス方式が用いられている。このマルチパス方式とは、プリントヘッドを往復移動しながらインクを吐出してプリント画像を形成するときに、このプリント画像を構成する一つのラインに対して複数個の吐出部からインクを吐出する方式である。これにより、プリントヘッドの各吐出部から吐出されたインクの吐出量のばらつきを見え難くすることができる。
【0004】
これに対し、多数個のヘッドチップが記録媒体の全幅に対応して配列されたライン型のプリントヘッドの場合には、このプリントヘッドに対して記録媒体をその長さ方向にのみ移動させてプリント画像を形成するようになっているため、前記マルチパス方式を適用することができず、いわゆるPNM(Pulse Number Modulation)方式が用いられている。PNM方式とは、各吐出部から吐出されるインク液滴の数を増減することによりプリント画像を構成するドット(画素)の径の大きさを可変して階調を表現する方式である。このようなPNM方式を用いて高画質なプリント画像を形成するためには、各吐出部から吐出される各インク液滴の吐出量を安定化することが重要な課題となっており、それに関連する技術として、インクを連続吐出したときの各インク液滴量を一定にするものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特許第3157945号明細書 (第3頁、第5,8図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1に記載された技術は、1画素当りに複数の独立したインク液滴をインク液滴群として同一の吐出部から連続吐出するためのパルス信号のパルス間隔は、このパルス間隔を長くしていった場合に一滴当たりの吐出量が増大していく周波数帯域内において、前記インク液滴群の各インク液滴の量が単一のインク液滴を吐出したときのインク液滴の量と等しくなるパルス間隔としたものである。これにより、連続吐出されたインク液滴群の一滴当たりの吐出量が同一となるパルス間隔を駆動周波数に対するインク吐出量特性のグラフから選定し、この選定されたパルス間隔を利用して各インク液滴の量を一定にすることができるが、このパルス間隔は一意的に決められるものであった。したがって、任意にパルス間隔を設定することができず、上述したライン型のプリントヘッドに適用した場合には、吐出部の個数を増加するに伴って各吐出部に設けられた発熱素子に印加される電力が集中することがあった。この場合には、各発熱素子に電力を供給する電源の電圧が変動し、結果として画質の高いプリント画像を形成することができないことがあった。
【0007】
また、特許文献1に記載された技術においては、各吐出部から吐出されるインク液滴群の各インク液滴の量が同一となるパルス間隔を前記インク吐出量特性のグラフから選定した場合においても、プリントヘッドの製造工程における個々の製品のばらつきや、あるいは使用時における温度変化などの影響により各インク液滴量が変動し易く、各吐出部から吐出されるインク液滴群の各インク液滴の吐出量を安定化することが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、液体流路内の液体を吐出する液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を、パルス信号の広い周波数帯域に対して安定化することができる液体吐出方法及び液体吐出装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明による液体吐出方法は、吐出対象物の全幅に対応してライン型に配列された液体吐出孔に対応して形成された液体流路内に液体を補充し、この液体流路内の液体に負圧を与えて該液体が液体吐出孔から自然漏出することを防止しておき、上記液体流路内に設けられた吐出エネルギー発生手段に連続的なパルス信号を供給して該液体流路内の液体を加熱して気泡を発生することで該液体を押し出すと共に、上記パルス信号の生成回数により液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変して液体吐出孔から連続的な液滴群として吐出する液体吐出方法であって、上記吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うものである。
【0010】
このような方法により、上記吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うことで、上記連続的に吐出された液滴群の各液滴の吐出量を安定化することができる。
【0011】
また、本発明による液体吐出装置は、吐出対象物の全幅に対応してライン型に配列された液体吐出孔が形成されたノズル部材と、上記液体吐出孔に対応して形成された液体流路を構成する部材と、上記液体流路内に設けられ、該液体流路内の液体を加熱して気泡を発生することで該液体を押し出し液体吐出孔から液滴群として吐出させるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生手段と、この吐出エネルギー発生手段に供給するための連続的なパルス信号を生成し該パルス信号の生成回数により液体吐出孔から吐出される液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変するパルス信号生成手段と、上記液体流路内の液体に負圧を与えて該液体が液体吐出孔から自然漏出することを防止する負圧発生手段と、を備えた液体吐出装置であって、上記吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うようにしたものである。
【0012】
このような構成により、上記吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、上記連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うようにしたことで、上記連続的に吐出された液滴群の各液滴の吐出量を安定化することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明による液体吐出方法の実施の形態を示す概要図である。この液体吐出方法は、液体流路内の液体を液体吐出孔から連続的な液滴群として吐出するもので、図1において、後述するノズル部材19にはインクを吐出するノズル20が形成され、該ノズル20に対応して形成されたインク流路21内には発熱素子18が設けられている。このような状態で、上記発熱素子18に連続的なパルス信号を供給してインク流路21内のインクを加熱して気泡を発生することで該インクを押し出すと共に、上記パルス信号の生成回数によりインク液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変してノズル20から連続的なインク液滴群30,30,…として吐出する。
【0014】
ここで、本発明による液体吐出方法おいては、発熱素子18に供給する連続的なパルス信号を、各発熱素子18に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各発熱素子18の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号によりノズル20から記録紙P上の一つの着弾点に向けて連続的に吐出されるインク液滴群30,30,…の各液滴の吐出量を、該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するものとし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定してインクの吐出を行う。
【0015】
すなわち、上記流路21内へのインクの補充は、上記パルス信号の所定の周波数帯域においてノズル20から吐出されたインク液滴30の吐出量と同量の液体を補充するものとする。また、上記インク流路21内の液体に与える負圧は、上記パルス信号の所定の周波数帯域においてノズル20内の液体の表面(メニスカス)が液体流路側に引き戻されない大きさとする。これを実現するための具体的構成は、後に詳細に説明する。
【0016】
図2は本発明による液体吐出方法の実施に直接使用する装置としてのインクジェットプリンタの具体的な実施形態を示す一部破断斜視図である。このインクジェットプリンタは、液体のインクを粒子化して吐出部からインク液滴として吐出し、このインク液滴を記録紙(記録媒体)P上に付着させてプリント画像を形成するもので、筐体1内に、ペーパトレイ2と、給紙手段3と、紙送り手段4と、電気回路部5と、プリントヘッド6とを備えて成る。
【0017】
この筐体1は、インクジェットプリンタの構成部品を収容している箱状体で、例えば直方体の形状を有し、一端面に後述するペーパトレイ2を装着するためのトレイ出入口1aが設けられ、他端面には印刷された記録紙P′を排出するための排紙口1bが設けられている。この筐体1の内部にはペーパトレイ2が収納されている。このペーパトレイ2は、例えばA4サイズの記録紙Pを複数枚重ねて収容可能とされたもので、その先頭部側が記録紙Pを上方に持ち上げるようになっている。そして、このペーパトレイ2は、筐体1の一端面に設けられたトレイ出入口1aから該筐体1内に装着できるようになっている。
【0018】
また、筐体1内に収納されたペーパトレイ2の先頭部側の上方には給紙手段3が設けられている。この給紙手段3は、ペーパトレイ2に収容された記録紙Pを後述する紙送り手段4に供給するもので、給紙ローラ7と、給紙モータ8とを備えて成る。この給紙ローラ7は、例えば略半円筒形状に形成されており、ペーパトレイ2に収容された記録紙Pのうち一番上に重ねられた記録紙Pのみを紙送り手段4の方向に供給するようになっている。また、給紙モータ8は、図示省略のギアにより給紙ローラ7を回転させるもので、例えば給紙ローラ7の上方に配設されている。
【0019】
また、この給紙手段3が記録紙Pを供給する方向にて後述するプリントヘッド6の下方には、紙送り手段4が設けられている。この紙送り手段4は、給紙手段3から供給された記録紙Pを筐体2の他端面に設けられた排紙口1b側に向けて搬送するもので、第1の紙送りローラ9と、紙送りガイド10と、第2の紙送りローラ11とを備えて成る。第1の紙送りローラ9は、給紙手段3から供給された記録紙Pを後述する紙送りガイド10側に搬送するもので、互いに接触した上下一対のローラ部材の間に記録紙Pを挟んで回転するようになっている。また、紙送りガイド10は、第1の紙送りローラ9から搬送された記録紙Pを後述する第2の紙送りローラ11側に案内するもので、平板状に形成され、後述するプリントヘッド6の下方にて所定の間隔をあけて配設されている。さらに、第2の紙送りローラ11は、紙送りガイド10により案内された記録紙Pを筐体2の他端面に設けられた排紙口1b側に搬送するもので、互いに接触した上下一対のローラ部材の間に記録紙Pを挟んで回転するようになっている。
【0020】
さらに、前記ペーパトレイ2の上方には電気回路部5が配設されている。この電気回路部5は、前記給紙手段3及び紙送り手段4の動作を制御すると共に、後述するプリントヘッド6に配列された吐出部(図示せず)からインクを吐出するためのパルス信号を生成するパルス信号生成手段を構成するもので、例えば、連続的なパルス信号を生成するための電源、CPUなどの演算装置、又は各種補正データなどを格納するメモリなどを備えている。
【0021】
そして、前記紙送り手段4の上方にはプリントヘッド6が設けられている。このプリントヘッド6は、液体のインクを微細に粒子化して吐出し、記録紙P上にインクの液滴を吹付けてプリント画像を形成するもので、インク液滴数によりプリント画像を構成するドット(画素)の径の大きさを可変して階調を表現するPNM方式の変調機能を有し、例えばイエローY,マゼンタM,シアンC,ブラックKの4色のインクを収容するようになっており、このYMCKの4色のインクを吐出するラインヘッド(図3参照)を各色毎に備えている。なお、以下の説明において、プリントヘッド6は、インクを吐出する吐出部(図示せず)を有するヘッドチップが記録紙Pの全幅に対応して配列されたライン型のものとして説明する。
【0022】
図3は、図2に示すプリントヘッド6に備えられた1色分のラインヘッド12の構造を示す説明図である。このラインヘッド12は、各色のインクを微細に粒子化して吐出させるもので、インク液滴を吐出する吐出部(ノズル)が下方を向くようにして配設されており、図3(a)に示すように、図2に示す記録紙Pの全幅に対応した長さを有する外筐13に覆われ、例えばその下部に電気配線14が設けられている。この電気配線14は、図2に示す電気回路部5に接続され、この電気回路部5で生成される連続的なパルス信号を入力し、後述するヘッドチップ17に該パルス信号を供給するようになっている。また、図3(b)に示すように、ラインヘッド12の底面には、ライン状のヘッドフレーム15が設けられており、このヘッドフレーム15の長手方向に延びて形成されたスリット状のインク供給孔16の左右両側に複数個のヘッドチップ17,17,…が左右交互に配設されている。この各ヘッドチップ17の底面には、後述するノズル20からインクを吐出させるためのエネルギーを発生する発熱素子18が多数個配列されている。
【0023】
また、ラインヘッド12の底面にて左右交互に配列されたヘッドチップ17,17,…の底面にはシート状のノズル部材19が設けられている。このノズル部材19は、液体のインクを吐出するノズル20が形成されるもので、例えばニッケルの電鋳により形成され、インクによる腐食を防止するためにパラジウム又は金などで耐蝕めっきが施されている。このノズル部材19には、その長手方向に沿って多数個のノズル20が形成されている。このノズル20は、液体のインクを吐出する液体吐出孔となるもので、ラインヘッド12の底面にて左右交互に配列された各ヘッドチップ17に設けられた多数個の発熱素子18と一対一で対応する位置に形成されている。ここで、ノズル20は、図2に示す記録紙P′上に形成されるプリント画像の印画解像度が例えば600dpiとなるように配列されているとする。
【0024】
このようなラインヘッド12の断面構造について、図4〜図6を参照して説明する。図4は図3(b)のA−A線断面図であり、図5は図3(b)のB−B線断面図である。図4又は図5に示すように、シート状のノズル部材19に形成されたノズル20(図3(b)参照)に対応する位置にはインク流路21が形成されている。このインク流路21は、ヘッドチップ17とノズル部材19との間に形成されたインク液室22にインク供給孔16(図3(b)参照)内のインクを供給するもので、後述するバリア層26によって構成されている。また、図4に示すように、外筐13(図3(a)参照)とインクが収容された袋部材24との間には、ばね部材23が設けられている。このばね部材23は、インク流路21内に補充されたインクに負圧を与えて該インクがノズル20から自然漏出することを防止する負圧発生手段となるもので、袋部材24を外側に広げるようになっている。このばね部材23は、袋部材24を外側に広げる力の強弱によってインク流路21内のインクに与える負圧を自由に設定できるようになっている。
【0025】
なお、図4又は図5において、符号25は、袋部材24の中に収容されたインクに混入したごみやインク成分の凝集物を濾過するフィルタで、インク供給孔16を覆うように貼り付けられている。このフィルタ25により、インクに混入したごみ等がインク供給孔16側に落ちないようになり、ノズル20の目詰まりを防止することができる。
【0026】
図6は、図4に示すラインヘッド12の要部拡大図である。左右のヘッドチップ17の底面には、上述したように、発熱素子18(図3(b)参照)が形成されている。この発熱素子18は、インク流路21内に補充されたインクをノズル20からインク液滴群として吐出させるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生手段となるもので、シリコンから成るヘッドチップ17の底面側に半導体プロセスを施して形成されており、インク流路21内にてノズル20に対向する位置に配置されるように設けられている。
【0027】
また、ヘッドチップ17とノズル部材19との間には、所定の厚みHを有するバリア層26が設けられている。このバリア層26は、上記ノズル20に対応して形成されたインク流路21を構成する部材となるもので、図7に示すように、ドライフィルムレジスト等の露光硬化性の樹脂により櫛型に形成され、その櫛歯26a,26a,…の間に発熱素子18が配置されるようになっている。そして、このバリア層26の厚みHがインク流路21の高さH(図6参照)となる。そして、上述したように、ノズル部材19に形成されたノズル20が600dpiとなるように配列される場合には、櫛型に形成されたバリア層26の櫛歯26a,26a,…は、約42.3μmの間隔で形成される。なお、図7に示すように、櫛型に形成されたバリア層26の櫛歯26aの先端部側がインク流路21内にインクを補充する開口部となる。
【0028】
そして、図6に示すように、電気回路部5(図2参照)でパルス信号を生成することにより、ヘッドチップ17の底面に形成された発熱素子18が発熱し、インク流路21内に補充されたインクが加熱されて気泡を発生することで該気泡と同等の体積のインクが押し出され、ノズル20からインク液滴30が吐出される。そして、矢印Jに示すように、インク供給孔16からインク流路21内にインクが補充されて発熱素子18は冷却され、気泡は冷却により消失する。
【0029】
また、電気回路部5(図2参照)で連続的なパルス信号を生成し、これを発熱素子18(図6参照)に供給することにより、図1(a)に示すように、インク流路21内のインクがノズル20から記録紙P上の一つのドットDに向けて連続したインク液滴群30,30,…として吐出される。この記録紙P上に吐出されたインク液滴群30,30,…は、図1(b)に示すように、矢印Sの方向に拡がって一つのドットDを形成する。このとき、パルス信号の生成回数を増減してノズル20から吐出されるインク液滴30の数を増減することによって、記録紙P上に付着したドットDの径の大きさを可変し、階調を表現することができる。
【0030】
ここで、本発明による液体吐出装置おいては、図1に示すように、発熱素子18に供給する連続的なパルス信号を、各発熱素子18に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各発熱素子18の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号によりノズル20から記録紙P上の一つの着弾点に向けて連続的に吐出されるインク液滴群30,30,…の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定してインクの吐出を行うようにした。
【0031】
具体的には、図6に示すインク流路21は、該インク流路21内にインクを補充する側の開口部を、上記パルス信号の所定の周波数帯域においてノズル20から吐出されたインク液滴群30,30,…の吐出量と同量のインクを補充可能な高さに形成する。例えば、インク流路21の高さ、すなわち上記バリア層26の高さHを11μmに形成する。
【0032】
ここで、上記インク流路21の高さHを11μmに形成した理由について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、図6に示すインク流路21の高さHが11μmに形成された場合において、パルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。また、図9は、インク流路21の高さHが7μmに形成された場合において、パルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。図8及び図9において、図4に示すばね部材23の負圧が−150mmH2Oのときのインク吐出量特性を丸印(○)で示し、ばね部材23の負圧が−60mmH2Oのときのインク吐出量特性を四角印(□)で示し、ばね部材23の負圧が−30mmH2Oのときのインク吐出量特性を三角印(△)で示す。
【0033】
図8に示すように、インク流路21(図6参照)の高さHを11μmに形成した場合には、パルス信号の駆動周波数が約1KHz〜10KHzの広い周波数帯域に対し、ノズル20から吐出されるインク液滴の吐出量を一定又はそれに近似することができる。これに対し、図9に示すように、インク流路21の高さHを7μmに形成した場合には、パルス信号の駆動周波数が例えば5KHzよりも高周波になるにしたがって、インク吐出量が減少する傾向にある。これは、図6に示すインク流路21の高さHが7μmと低い場合には、パルス信号の駆動周波数が高周波のときにおいて、ノズル20から吐出されたインク液滴の吐出量と同量の液体がインク流路21内に再び補充され難くなるためである。この場合には、インク流路21内に再び補充されるインクの量が少なくなるため、パルス信号の駆動周波数が5KHzよりも低周波のときと比べてインク吐出量が減少する。したがって、上記インク流路21の高さHを高く、例えば11μmに形成するのが望ましい。
【0034】
また、図4に示すばね部材23は、インク流路21内のインクに与える負圧を、上記パルス信号の所定の周波数帯域においてノズル20内のインクの表面がインク流路21側に引き戻されない大きさに設定されている。例えば、ばね部材23の負圧を−30mmH2Oに設定する。
【0035】
ここで、上記ばね部材23の負圧を−30mmH2Oに設定した理由について、図10及び図11を参照して説明する。図10は、図4に示すばね部材23の負圧を−30mmH2Oに設定した場合において、パルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。また、図11は、ばね部材23の負圧を−150mmH2Oに設定した場合において、パルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。図10及び図11において、図6に示すインク流路21の高さHを7μmに形成したときのインク吐出量特性を三角印(△)で示し、インク流路21の高さHを11μmに形成したときのインク吐出量特性を四角印(□)で示す。
【0036】
図10に示すように、ばね部材23(図4参照)の負圧を−30mmH2Oに設定し、またインク流路21の高さHを11μmに形成した場合には、パルス信号の駆動周波数が約1KHz〜10KHzの広い周波数帯域に対し、ノズル20から吐出されるインク液滴の吐出量を一定又はそれに近似することができる。これに対し、図11に示すように、ばね部材23(図4参照)の負圧を−150mmH2Oに設定した場合には、インク流路21の高さHを7μm、あるいは11μmのいずれの高さに形成した場合にも、パルス信号の駆動周波数が例えば5KHzよりも低周波になるにしたがって、インク吐出量が減少する傾向にある。これは、図4に示すばね部材23の負圧が−150mmH2Oと高い場合には、パルス信号の駆動周波数が低周波のときにおいて、ノズル20内のインクの表面がインク流路21側に引き戻され易くなるためである。この場合には、インク流路21内に再び補充されるインクの量が少なくなるため、パルス信号の駆動周波数が5KHzよりも高周波のときと比べてインク吐出量が減少する。したがって、ばね部材23の負圧を低く、例えば−30mmH2Oに設定するのが望ましい。
【0037】
なお、以上の説明において、インク流路21の高さHを11μmに形成し、またばね部材23の負圧は−30mmH2Oに設定されたものとして説明したが、本発明はこれに限られず、インク流路21の高さHは、上記パルス信号の所定の周波数帯域(高周波側)においてノズル20から吐出されたインク液滴群30,30,…の吐出量と同量のインクを補充可能にできる高さであればよい。具体的には、図7に示すインク流路21の幅となる櫛型のバリア層26に形成された櫛歯26aの間隔との関係、すなわち流路抵抗によって決定される。したがって、印画解像度を上げるために、バリア層26の櫛歯26aの間隔がさらに狭く形成された場合には、流路抵抗が増加しないような流路形状にする必要がある。一つの方法として、インク流路21の高さHを高くすればよい。また、ばね部材23の負圧は−30mmH2Oに限られず、上記パルス信号の所定の周波数帯域(低周波側)においてノズル20内のインクの表面(メニスカス)がインク流路21側に引き戻されない大きさに設定されていればよい。
【0038】
次に、このように構成された液体吐出装置としてのインクジェットプリンタの動作について説明する。まず、図2において、ペーパトレイ2に収容された記録紙Pが給紙手段3により紙送り手段4の方向に供給され、プリントヘッド6の下方を通過する。このとき、プリントヘッド6がYMCKの4色のインクを吐出部(図3(b)参照)からインク液滴として吐出し、記録紙P上にプリント画像を形成する。この印刷された記録紙P′は筐体2の他端面に設けられた排紙口1bから排出される。
【0039】
ここで、上記プリントヘッド6の動作について説明する。まず、図6に示すように、ノズル20に対応して形成されたインク流路21内にインクが補充され、連続的なパルス信号を電気回路部5(図2参照)で生成して上記インク流路21内に設けられた発熱素子18に供給し、該発熱素子18を繰り返し発熱させる。これにより、図1に示すように、上記インク流路21内のインクがノズル20からインク液滴群30,30,…として吐出される。
【0040】
上述したように、上記インク流路21の高さHは例えば11μmに形成されている。これにより、インク流路21には、矢印Jに示すように、連続的なパルス信号の所定の周波数帯域(高周波側)において上記ノズル20から吐出されたインク液滴の吐出量と同量の液体が再び補充される。また、上記ばね部材23の負圧は例えば−30mmH2Oに設定されている。これにより、ばね部材23がインク流路21内のインクに与える負圧によって、連続的なパルス信号の所定の周波数帯域(低周波側)において上記ノズル20内の液体の表面がインク流路21側に引き戻されないようにすることができる。
【0041】
したがって、上記連続的なパルス信号によりノズル20から一つのドットDに向けて連続的に吐出されるインク液滴群30,30,…の各インク液滴の吐出量を、パルス信号の広い周波数帯域に対して一定又はそれに近似するように定量化することができる。具体的には、図8の三角印(△)に示すように、パルス信号の所定の周波数帯域(例えば、約1KHz〜10KHz)に対して、各インク液滴30の吐出量を一定又はそれに近似するように(例えば、5〜4.8ピコリットル)、安定化することができる。そして、その広い周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を可変して液体の吐出を行うことができる。このことから、連続的なパルス信号の駆動周波数を任意に設定することができ、ノズル20に設けられた発熱素子18(図3(b)参照)に供給するためのパルス信号を異なる駆動周波数で分散して、プリント画像を形成することができる。この場合には、各発熱素子18に電力を供給する電源の電圧が変動せず、各ノズル20から吐出されるインク液滴の吐出量を安定化することができ、良好な階調記録を行って高画質なプリント画像を形成することができる。
【0042】
また、連続的なパルス信号の駆動周波数を任意に設定することができるため、プリントヘッドの製造工程における個々の製品のばらつきや、あるいは使用時における温度変化などの影響を受けず、各ノズル20から吐出されるインク液滴の吐出量を安定化することができ、良好な階調記録を行って高画質なプリント画像を形成することができる。
【0043】
なお、以上の説明においては、インクジェットプリンタに適用された例について述べたが、本発明はこれに限らず、液体流路内の液体を液体吐出孔から液滴群として吐出するものであればどのようなものでもよい。例えば、記録方式がインクジェット方式のファクシミリ装置や複写機等の画像形成装置についても適用可能である。また、生体試料を検出するためのDNA含有溶液を吐出するための装置に適用することも可能である。
【0045】
さらにまた、ばね部材23がインク流路21内のインクに負圧を与える負圧発生手段となるものとして説明したが、本発明はこれに限られず、液体流路内の液体が液体吐出孔から自然漏出することを防止するものであればどのようなものでもよく、例えばインクを収容する袋部材24やインク供給孔16の配置位置によるものでもよい。そして、発熱素子18がインク液滴を吐出部から吐出させる吐出エネルギー発生手段となるものとして説明したが、本発明はこれに限られず、吐出エネルギー発生手段は、液体流路内の液体を例えば電気機械変換式などで微細に粒子化して吐出するものでもよい。
【0046】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されたので、請求項1に係る液体吐出方法によれば、吐出対象物の全幅に対応してライン型に配列された液体吐出孔に対応して形成された液体流路内に液体を補充し、上記液体流路内に設けられた吐出エネルギー発生手段に連続的なパルス信号を供給して該液体流路内の液体を加熱して気泡を発生することで該液体を押し出すと共に、上記パルス信号の生成回数により液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変して液体吐出孔から連続的な液滴群として吐出するものにおいて、吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うことで、上記連続的に吐出された液滴群の各液滴の吐出量を安定化することができる。この場合には、各吐出エネルギー発生手段に電力を供給する電源の電圧が変動せず、各液体吐出孔から吐出される液滴の吐出量を安定化して、例えば記録紙に良好な階調記録を行って高画質なプリント画像を形成することができる。また、プリントヘッドの製造工程における個々の製品のばらつきや、あるいは使用時における温度変化などの影響を受けず、連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を定量化することができ、良好な階調記録を行って高画質なプリント画像を形成することができる。
【0050】
また、請求項2に係る液体吐出装置によれば、吐出対象物の全幅に対応してライン型に配列された液体吐出孔に対応して形成された液体流路内に液体を補充し、上記液体流路内に設けられた吐出エネルギー発生手段に連続的なパルス信号を供給して該液体流路内の液体を加熱して気泡を発生することで該液体を押し出すと共に、上記パルス信号の生成回数により液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変して液体吐出孔から連続的な液滴群として吐出するものにおいて、吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うようにしたことで、上記連続的に吐出された液滴群の各液滴の吐出量を安定化することができる。この場合には、各吐出エネルギー発生手段に電力を供給する電源の電圧が変動せず、各液体吐出孔から吐出される液滴の吐出量を安定化して、例えば記録紙に良好な階調記録を行って高画質なプリント画像を形成することができる。また、プリントヘッドの製造工程における個々の製品のばらつきや、あるいは使用時における温度変化などの影響を受けず、連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を定量化することができ、良好な階調記録を行って高画質なプリント画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による液体吐出方法の実施の形態を示す概要図で、インク流路内のインクを吐出部からインク液滴群として吐出する状態を示す。
【図2】 本発明による液体吐出方法の実施に直接使用する装置としてのインクジェットプリンタの具体的な実施形態を示す一部破断斜視図である。
【図3】 図2に示すプリントヘッドに備えられた1色分のラインヘッドの構造を示す説明図で、(a)が平面図、(b)が底面図である。
【図4】 図3(b)のA−A線断面図である。
【図5】 図3(b)のB−B線断面図である。
【図6】 図4に示すラインヘッドの要部拡大図である。
【図7】 図6に示す吐出部に対応して形成されたインク流路の構造を示す分解斜視図である。
【図8】 図6に示すインク流路の高さを11μmに形成したときにおけるパルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。
【図9】 図6に示すインク流路の高さを7μmに形成したときにおけるパルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。
【図10】 図4に示すばね部材の負圧を−30mmH2Oに設定したときにおけるパルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。
【図11】 図4に示すばね部材の負圧を−150mmH2Oに設定したときにおけるパルス信号の駆動周波数とインク吐出量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…筐体
2…ペーパトレイ
3…給紙手段
4…紙送り手段
5…電気回路部
6…プリントヘッド
12…ラインヘッド
13…外筐
14…電気配線
15…ヘッドフレーム
16…インク供給孔
17…ヘッドチップ
18…発熱素子
19…ノズル部材
20…ノズル
21…インク流路
22…インク液室
23…ばね部材
24…袋部材
26…バリア層
30…インク液滴
Claims (2)
- 吐出対象物の全幅に対応してライン型に配列された液体吐出孔に対応して形成された液体流路内に液体を補充し、
この液体流路内の液体に負圧を与えて該液体が液体吐出孔から自然漏出することを防止しておき、
上記液体流路内に設けられた吐出エネルギー発生手段に連続的なパルス信号を供給して該液体流路内の液体を加熱して気泡を発生することで該液体を押し出すと共に、上記パルス信号の生成回数により液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変して液体吐出孔から連続的な液滴群として吐出する液体吐出方法であって、
上記吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うことを特徴とする液体吐出方法。 - 吐出対象物の全幅に対応してライン型に配列された液体吐出孔が形成されたノズル部材と、
上記液体吐出孔に対応して形成された液体流路を構成する部材と、
上記液体流路内に設けられ、該液体流路内の液体を加熱して気泡を発生することで該液体を押し出し液体吐出孔から液滴群として吐出させるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生手段と、
この吐出エネルギー発生手段に供給するための連続的なパルス信号を生成し該パルス信号の生成回数により液体吐出孔から吐出される液滴の数を増減することでドット径の大きさを可変するパルス信号生成手段と、
上記液体流路内の液体に負圧を与えて該液体が液体吐出孔から自然漏出することを防止する負圧発生手段と、
を備えた液体吐出装置であって、
上記吐出エネルギー発生手段に供給する連続的なパルス信号を、各吐出エネルギー発生手段に対応させて異なる駆動周波数で分散すると共に、該各吐出エネルギー発生手段の製品ばらつき又は使用時の温度変化に応じて設定し、この連続的なパルス信号により液体吐出孔から一つの着弾点に向けて連続的に吐出される液滴群の各液滴の吐出量を該パルス信号の1KHz〜10KHzの帯域に対して一定又はそれに近似するようにし、その周波数帯域内でパルス信号の駆動周波数を任意に設定して液体の吐出を行うようにしたことを特徴とする液体吐出装置。
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