JP4311344B2 - A/d変換装置 - Google Patents

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本発明は、入力電圧とランプ波形電圧とを比較することによりA/D変換を実行するA/D変換装置に関する。
パルス位相差符号化回路を用いたA/D変換回路が提案されている(特許文献1参照)。このA/D変換回路は、アナログ信号をデジタル信号に変換する要部がデジタル回路のみから構成されているので、高温でも安定して動作し、半導体製造プロセスの微細化により小型化が図れるという優れた特徴を有している。パルス位相差符号化回路は、A/D変換回路の他にもフィルタ機能を有する信号レベル検出装置などに用いられている(特許文献2参照)。さらに、本願出願人は、パルス位相差符号化回路とデジタルフィルタとを組み合わせ、パルス位相差符号化回路を連続的に動作させて高速、高分解能にA/D変換を行うA/D変換回路を出願した(特願2004−034909)。
これらのA/D変換回路は、A/D変換の対象電圧(以下、入力電圧と称す)をパルス周回回路の電源電圧として用いる構成に特徴を有している。そして、その電源電圧(入力電圧)に応じてパルス周回回路を構成するゲートの遅延時間が変化する特性を利用してA/D変換値を得るようになっている。しかし、ゲートの遅延時間は、電源電圧に対して固有の2次関数特性を有しているため、より直線性の高いA/D変換特性を得るためには補正回路が必要となる。
そこで、本願出願人は、ランプ波形電圧を第1、第2の基準電圧および入力電圧と比較して電圧−時間変換を行い、得られた時間をパルス位相差符号化回路を用いて符号データに変換し、その符号データを用いてA/D変換を行うA/D変換回路を出願した(特願2004−053803)。この構成における非直線性誤差はランプ波形電圧の直線性で定まるため、直線性に優れたA/D変換回路を容易に得ることができる。
特開平5−259907号公報 特開2002−217758号公報
この直線性に優れたA/D変換回路を用いて複数チャンネルをA/D変換するには、マルチプレクサ等のセレクタを設けて各チャンネルを高速に切り換え、各チャンネルの入力電圧を順次A/D変換する構成が考えられる。しかし、この構成では、チャンネル数が増加すると各チャンネルごとの変換レートが低下するため高速化が図れないという問題がある。一方、A/D変換回路をチャンネル数分だけ独立に設けると、回路規模が増大するとともに、消費電流やノイズ(A/D変換回路が車両に搭載される場合にはラジオノイズ)が増大してしまう。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、回路規模の増大を抑えつつ複数チャンネルの入力信号を高速にA/D変換でき、さらに直線性に優れたA/D変換装置を提供することにある。
請求項1に記載した手段によれば、各チャンネルごとにランプ波形発生回路と電圧−時間変換回路が設けられており、電圧−時間変換回路は、各チャンネルに適した一定の傾きで増加または減少するランプ波形電圧と共通に設定された各基準電圧とが一致する時点および各チャンネルのランプ波形電圧と入力電圧とが一致する時点でそれぞれパルス信号を出力する。
これに対し、パルス信号が周回するように複数のゲートがリング状に連結されたパルス周回回路と、このパルス周回回路におけるパルス信号の周回回数をカウントするカウンタは、全チャンネルについて共通に(通常は1つ)設けられている。このパルス周回回路とカウンタは、少なくとも1つのチャンネルがA/D変換している限り動作し続ける。
さらに、各チャンネルごとに保持回路、周回位置検出回路、データ合成回路および演算回路を備えている。保持回路は、当該チャンネルの電圧−時間変換回路からパルス信号が出力された時の上記カウンタのカウント値を保持し、周回位置検出回路は、当該チャンネルの電圧−時間変換回路からパルス信号が出力された時の上記パルス周回回路内におけるパルス信号の周回位置に応じたデータを出力する。これらのカウント値と周回位置データは、データ合成回路で合成されて符号データとされる。演算回路は、各基準電圧に対して得られた符号データと各基準電圧に対して予め決められたA/D変換値と入力電圧に対して得られた符号データとに基づいて入力電圧の正規化演算を行いA/D変換値を得る。
本手段によれば、複数チャンネルの入力電圧を同時にA/D変換することができるので、マルチプレクサにより入力電圧を順次切り換える構成と比べて高速にA/D変換することができる。そして、基準電圧生成回路、パルス周回回路およびカウンタを全てのチャンネルで共通化したので、単純にチャンネル数分だけの回路構成を備えるものに比べて回路規模を縮小でき、IC化する際のチップ面積を低減することができる。特にパルス周回回路は、一種の発振回路であるため他の回路に比べて消費電流およびノイズの発生量が多く、本手段を採用することにより消費電流およびノイズの大幅な低減効果が得られる。さらに、本手段によれば、ランプ波形電圧の直線性と同等の優れた直線性を持つ高精度のA/D変換値を得ることができる。
請求項2に記載した手段によれば、各チャンネルごとにランプ波形電圧の傾きを変えることができるので、各チャンネルに適したサンプリング時間すなわち分解能を設定することができる。
請求項3に記載した手段によれば、ランプ波形電圧は、一定の周期で第1の基準電圧から一定の傾きで増加または減少を開始する。電圧−時間変換回路は、ランプ波形電圧が増加または減少を開始する時すなわち第1の基準電圧において第1のパルス信号を出力し、その後入力電圧と一致する時点、第2の基準電圧と一致する時点でそれぞれ第2、第3のパルス信号を出力する。この構成によれば、ランプ波形電圧と第1の基準電圧との一致を検出する比較回路を省略することができる。
請求項4に記載した手段によれば、データ合成回路から出力される符号データを、時間積分的な演算処理が行われるデジタルフィルタによりフィルタリングするので、高い分解能でA/D変換された変換値と等価な変換値を生成することができる。従って、サンプリング時間を短く設定してA/D変換をより高速化したとしても、高い分解能を持つA/D変換値を得ることができる。
請求項5に記載した手段によれば、A/D変換装置の外部からの入力電圧は、入力処理回路によりその電圧範囲が狭められて電圧−時間変換回路に与えられる。一般に、外部からの入力電圧の電圧範囲と、電圧−時間変換回路が変換可能な電圧範囲とは同じであることが多い(例えば0Vから5Vの電圧範囲)。入力処理回路を設けると、電圧−時間変換回路において基準電圧を変換可能とするために外部からの入力電圧の電圧範囲を制限する必要がなく、外部から入力される全電圧範囲についてA/D変換値を得ることができる。
請求項6に記載した手段によれば、入力処理回路はサンプル・ホールド回路を備えているので、入力電圧の変動が比較的大きい場合であっても、高精度のA/D変換値が得られる。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図1ないし図6を参照しながら説明する。
図1は、複数チャンネルA/D変換器の全体構成を示すブロック図である。このA/D変換器1(A/D変換装置に相当)は、例えば自動車に搭載される電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)で用いられる制御用ICに内蔵されており、筒内圧センサをはじめとする各種センサ等からのN個の入力電圧Vin(0)〜Vin(N)を同時にA/D変換するようになっている。制御用ICはCMOSプロセスにより製造されており、当該制御用ICにはCPUやメモリなどのデジタル回路、種々のアナログ回路、電源回路なども搭載されている。なお、図1には第1チャンネルと第Nチャンネルの構成のみを示し、第2チャンネルから第N−1チャンネルの構成は省略している。
A/D変換器1は、各チャンネルごとに同一の構成を持つ入力処理回路2、ランプ波形発生回路3、電圧−時間変換回路4および演算回路5を備えている。また、全体で1つのパルス位相差符号化回路6と制御回路7を備えている。このうちパルス位相差符号化回路6は、全てのチャンネルに共通にリングディレイライン8(パルス周回回路に相当)とカウンタ9を備えており、各チャンネルごとに同一の構成を持つDフリップフロップ10(保持回路に相当)、パルスセレクタ11(周回位置検出回路に相当)およびエンコーダ12(周回位置検出回路に相当)を備えている。後述するように、Dフリップフロップ10から出力されるカウント値とエンコーダ12から出力されるデジタルデータとは、それぞれ上位ビット、下位ビットとして配線上で合成されるので、図1においてデータ合成回路は明示されていない。これらの回路は、電源線13、14(図2〜図5参照)から電源電圧VDD(本実施形態では5V)の供給を受けて動作するようになっている。
なお、以下の説明において、第nチャンネル(n=1、2、…、N)に係る回路を明示的に示す必要がある場合には、符号の後に(n)を付して示す。また、構成や作用が各チャンネルについて共通する場合には、第nチャンネルに係る回路を示す符号の後の(n)を省略する。
以下、各回路の構成について詳細に説明する。
図2は、入力処理回路2の回路構成を示している。入力処理回路2は、制御回路7から出力される信号startに従って入力電圧Vinをサンプル・ホールドするサンプル・ホールド回路15と、ホールドされた入力電圧Vin(0V〜5V)をより狭い電圧範囲(1.25V〜3.75V)に変換する電圧変換回路16とから構成されている。信号startは、各A/D変換の開始を指令する変換制御信号で、その周期は、適切な分解能が得られるように各チャンネルごとに制御回路7により設定される。
サンプル・ホールド回路15は、ホールド用のコンデンサC1、オペアンプ17およびアナログスイッチ18〜20を主体に構成されている。入力電圧Vinは、アナログスイッチ18とコンデンサC1とを介してオペアンプ17の反転入力端子に入力されており、コンデンサC1の両端子とオペアンプ17の出力端子との間にはそれぞれアナログスイッチ19、20が接続されている。電源線13と14との間には抵抗R1とR2が直列に接続されており、その分圧点(電圧Vf)はオペアンプ17の非反転入力端子に接続されている。アナログスイッチ18〜20の制御端子には、図に示すようにバッファ21およびインバータ22を介して信号startが与えられている。
電圧変換回路16において、電源線13と14との間には抵抗R3とR4とが直列に接続されており、抵抗R3とR4との共通接続点と上記オペアンプ17の出力端子との間には抵抗R5が接続されている。上記共通接続点の電圧は、電圧−時間変換回路4の入力電圧Vin1となる。抵抗R3〜R5の抵抗値(符号と同じくR3〜R5で表す)は、例えば次の(1)式の関係を有している。
R3=R4=2・R5 …(1)
図3は、ランプ波形発生回路3の回路構成を示している。ランプ波形発生回路3は、制御回路7から与えられる選択信号SEL0〜SELMにより選択された一定の傾きで増加するランプ波形電圧VLを生成するものである。すなわち、電源線13と14との間には、トランジスタQ1と抵抗R6とトランジスタQ2の直列回路、トランジスタQ3[0]とコンデンサC2[0]の直列回路、…、トランジスタQ3[M]とコンデンサC2[M]の直列回路がそれぞれ接続されている。
トランジスタQ1とトランジスタQ3[0]〜Q3[M]は、それぞれカレントミラー回路を構成しており、トランジスタQ2のゲートには制御回路7からイネーブル信号PAが与えられるようになっている。コンデンサC2[0]〜C2[M]には、それぞれ電荷放電用のトランジスタQ3[0]〜Q3[M]が並列に接続されている。なお、ここで用いる[m]の表記は、ランプ波形発生回路3においてランプ波形電圧VL[0]〜VL[M]の生成回路を区別するために用いるもので、上述したチャンネルを示す(n)とは異なる。
コンデンサC2[0]〜C2[M]は、それぞれランプ波形電圧VL[0]〜VL[M]の傾きに応じた静電容量を有しており、その端子間にはそれぞれランプ波形電圧VL[0]〜VL[M]が生成されるようになっている。選択回路23は、コンデンサC2[0]〜C2[M]の各高電位側端子と出力ノードnode1との間にそれぞれ接続されたアナログスイッチ23[0]〜23[M]から構成されており、ランプ波形電圧VL[0]〜VL[M]のうちから1つを選択して、それを出力ノードnode1からランプ波形電圧VLとして出力するようになっている。
上記ランプ波形電圧VLの選択は、各チャンネルごとに制御回路7から与えられる選択信号SEL0〜SELMにより行われ、コンデンサC2[0]〜C2[M]の電荷の放電は、各チャンネルごとに制御回路7から与えられる信号startにより一斉に行われるようになっている。ランプ波形電圧VL[0]を例に説明すると、選択信号SEL0とインバータ24を介した信号startとがNANDゲート25[0]の入力端子に入力され、そのNANDゲート25[0]の出力端子はトランジスタQ4[0]のゲートに接続されている。また、選択信号SEL0は、インバータ26[0]、27[0]を介してアナログスイッチ23[0]の制御端子に与えられている。他のランプ波形電圧VL(2)〜VL[M]に係る回路も同様の構成を備えている。
図4は、電圧−時間変換回路4の回路構成を示している。この電圧−時間変換回路4は、入力処理回路2から入力した入力電圧Vin1、ランプ波形発生回路3から入力したランプ波形電圧VLおよび制御回路7から入力した信号startと信号PAに基づいて、信号PB1(パルス信号に相当)と信号PB2を生成し出力するようになっている。
この電圧−時間変換回路4は、3つのDフリップフロップ28〜30を備えている。これらDフリップフロップ28〜30のデータ入力端子Dは全て電源線13に接続されており、各リセット入力端子/RにはそれぞれANDゲート31〜33からリセット信号が与えられるようになっている。Dフリップフロップ28のクロック入力端子CKにはインバータ34を介して信号startが入力されており、ANDゲート31〜33の入力端子には信号PAが入力されている。
Dフリップフロップ28は、信号startのダウンエッジすなわちランプ波形電圧VLの発生時に幅狭のパルス信号P1を出力するもので、このパルス信号P1はそのままパルス信号PB2として出力される。Dフリップフロップ29は、入力電圧Vin1とランプ波形電圧VLとが一致した時に幅狭のパルス信号P2を出力するもので、Dフリップフロップ30は、電源電圧VDDとランプ波形電圧VLとが一致した時に幅狭のパルス信号P3を出力するものである。パルス信号P1、P2、P3はORゲート35に入力されて信号PB1が生成される。
上述した幅狭のパルス信号P1を生成するため、Dフリップフロップ28の出力端子Qは、奇数個のインバータが直列接続されてなる遅延回路36を介してANDゲート31の入力端子に接続されている。同様に、幅狭のパルス信号P2、P3を生成するDフリップフロップ29、30もそれぞれ遅延回路37、38を備えている。コンパレータ39は、入力電圧Vin1とランプ波形電圧VLとを比較するもので、その出力端子はDフリップフロップ29のクロック入力端子CKに接続されている。また、コンパレータ40は、電源電圧VDDとランプ波形電圧VLとを比較するもので、その出力端子はDフリップフロップ30のクロック入力端子CKに接続されている。
図5は、パルス位相差符号化回路6の回路構成を示している。共通に1つ設けられたリングディレイライン8は、偶数(例えば16)段のゲート8a(その内1つはANDゲート8b)をリング状に接続して構成され、制御回路7からイネーブル信号PAが出力されている期間、発振動作(パルス信号の周回動作)を行うようになっている。ゲート8a、8bには、電源線13、14から一定の電源電圧VDD(5V)が与えられている。
共通に1つ設けられたカウンタ9は、リングディレイライン8内でリング状に伝送されるパルス信号の周回数をカウントする10ビットカウンタである。各チャンネルごとに設けられたDフリップフロップ10は、信号PB1のアップエッジに同期してカウンタ9のカウント値を保持するようになっている。パルスセレクタ11は、信号PB1にアップエッジが生じた時のリングディレイライン8内の周回パルス信号の位置を示す信号を出力するようになっている。また、エンコーダ12は、このパルスセレクタ11からの出力信号に対応した4ビットのデジタルデータを発生するようになっている。これらDフリップフロップ10からのデジタルデータ(カウント値)とエンコーダ12からのデジタルデータはデータ合成されて、デジタルデータDO0の上位10ビット、下位4ビットとなる。
図1に示す演算回路5は、ランプ波形電圧VLが0V(第1の基準電圧に相当)から増加を開始した時に生じる信号PB1に対するデジタルデータDOa、ランプ波形電圧VLが入力電圧Vin1に一致した時に生じる信号PB1に対するデジタルデータDOb、およびランプ波形電圧VLが電源電圧VDD(第2の基準電圧に相当)に一致した時に生じる信号PB1に対するデジタルデータDOcに基づいて、次の(2)式に従って正規化したA/D変換コードADを得る回路である。
AD=(2m−1)・(DOb−DOa)/(DOc−DOa) …(2)
演算回路5は、この(2)式の演算をハードウェアで行う。Dフリップフロップ41、42、43は、パルス位相差符号化回路6から出力されるデジタルデータTDOを順にシフトして保持するように構成されている。これらDフリップフロップ41、42、43のクロック端子にはインバータ44を介して信号PB1が与えられており、信号PB1のダウンエッジに同期してデータを保持するようになっている。
減算回路45は、Dフリップフロップ42に保持されたデータからDフリップフロップ43に保持されたデータを減算し、減算回路46は、Dフリップフロップ41に保持されたデータからDフリップフロップ43に保持されたデータを減算するようになっている。これら減算回路45、46の減算結果データは、それぞれ信号PB1のアップエッジに同期してDフリップフロップ47、48に保持される。正規化回路49は、Dフリップフロップ47、48に保持されたデータの除算演算((2)式参照)を行い、A/D変換コードADを求めるようになっている。Dフリップフロップ50は、信号startに同期してA/D変換コードADを保持し出力するようになっている。
なお、電源回路51は、電源線13、14に対し電源電圧VDD(5V)を供給するもので、本発明でいう基準電圧生成回路としても機能する。
次に、本実施形態の作用について図6も参照しながら説明する。
図6は、入力電圧Vinおよび各信号の波形並びに各データの値を示している。何れのチャンネルも同様の動作となるため、信号名に続くチャンネルを示す表記(n)は省略している。図6は、上から順に(a)入力電圧Vin、(b)イネーブル信号PA、(c)ランプ波形電圧VL、(d)信号start、(e)信号PB1、(f)パルス信号P1、(g)パルス信号P2(=信号PB2)、(h)パルス信号P3、(i)信号PB2、(j)Dフリップフロップ10とエンコーダ12の合成した出力データDO0、(k)Dフリップフロップ41の出力データ、(l)Dフリップフロップ42の出力データ、(m)Dフリップフロップ43の出力データ、(n)減算回路45の出力データ、(o)減算回路46の出力データ、(p)Dフリップフロップ47の出力データ、(q)Dフリップフロップ48の出力データ、(r)正規化回路49の出力データ、(s)A/D変換コードADを示している。
制御回路7は、イネーブル信号PAをHレベルとしてA/D変換を開始する(時刻t1)。何れかのチャンネルでA/D変換を実行している期間、制御回路7は信号PAをHレベルに維持する。信号PAがHレベルになると、リングディレイライン8が発振動作を開始する。
信号startがHレベルにある時(時刻t2〜t3)、サンプル・ホールド回路15のアナログスイッチ18、20はオン、アナログスイッチ19はオフとなり、コンデンサC1は入力電圧Vinにより充電される(サンプリング状態)。その後、信号startがHレベルからLレベルになると(時刻t3)、サンプル・ホールド回路15のアナログスイッチ18、20がオフ、アナログスイッチ19がオンとなり、入力電圧Vinがホールドされる(ホールド状態)。ホールドされた入力電圧Vin1は、電圧変換回路16を通して電圧−時間変換回路4に与えられる。
ランプ波形発生回路3では、イネーブル信号PAがHレベルになると(時刻t1)、トランジスタQ2がオンとなり、電源線13の電圧VDD、トランジスタQ1のゲート・ソース間電圧VGS(Q1)および抵抗R6の抵抗値により定まる定電流がトランジスタQ1およびQ3[0]〜Q3[N]にそれぞれ流れる。信号startがLレベルからHレベルになると(時刻t2)、トランジスタQ4[0]〜Q4[N]が全てオンとなり、コンデンサC2[0]〜C2[N]の充電電荷が放電される。
その後、信号startがHレベルからLレベルになると(時刻t3)、選択信号SEL0〜SELMにより選択されたトランジスタQ4[m]のみがオフとなり、そのトランジスタQ4[m]に並列接続されたコンデンサC2[m]は上記定電流で充電され、ランプ波形電圧VL[m]は一定の傾きで基準電圧0Vからリニアに増加する。選択回路23は、選択信号SEL0〜SELMにより選択されたランプ波形電圧VL[m]のみを通過させ、それをランプ波形電圧VLとして電圧−時間変換回路4に出力する。なお、ランプ波形電圧VLの傾きは、パルス位相差符号化回路6のカウンタ9のビット数により制限を受ける。
また、信号startがHレベルからLレベルになると、信号P1、信号PB1、信号PB2が一時的にHレベルになる。このパルス信号PB1のアップエッジを受けて、パルス位相差符号化回路6はデジタルデータTDO(=D0)を出力する。このデジタルデータD0は、信号PAの立ち上がりから最初に出力されるパルス信号PB1の立ち上がりまでの時間を符号化したデータである。また、シフトレジスタを構成するDフリップフロップ41、42、43は、信号PB1のダウンエッジ(時刻t4)に同期して、それぞれ前段のデータを取り込む。
その後、ランプ波形電圧VLが入力電圧Vin1に等しくなると(時刻t5)、コンパレータ39の出力信号がLレベルからHレベルに変化し、信号P2と信号PB1が一時的にHレベルになる。この信号PB1のアップエッジに同期して、パルス位相差符号化回路6はデジタルデータTDO(=D1)を出力する。このデジタルデータD1は、信号PAの立ち上がりから2番目に出力されるパルス信号PB1の立ち上がりまでの時間を符号化したデータである。そして、信号PB1のダウンエッジ(時刻t6)に同期して、Dフリップフロップ41、42はそれぞれデジタルデータD1、D0を取り込む。これに応じて、減算回路45、46は、それぞれD0−初期データ(例えば0)、D1−初期データ(例えば0)を演算して出力する。
その後さらに、ランプ波形電圧VLが電源電圧VDDに等しくなると(時刻t7)、コンパレータ40の出力信号がLレベルからHレベルに変化し、信号P3と信号PB1が一時的にHレベルになる。この信号PB1のアップエッジに同期して、パルス位相差符号化回路6はデジタルデータTDO(=D2)を出力する。このデジタルデータD2は、信号PAの立ち上がりから3番目に出力されるパルス信号PB1の立ち上がりまでの時間を符号化したデータである。ランプ波形電圧VLは、電源電圧VDDが上限電圧となる。
なお、ランプ波形発生回路3とコンパレータ40は電源電圧VDDの下で動作するため、基準電圧として電源電圧VDDをそのまま用いると動作上必要な電圧(例えばトランジスタQ3やコンパレータ40の内部トランジスタのドレイン・ソース間電圧)を確保できない場合が生じ得る。その場合には、電源電圧VDDよりも若干低い電圧を基準電圧として用いればよい。本実施形態では電圧変換回路16を備えているので、基準電圧を下げても入力電圧Vinの範囲が制限される不具合は生じない。
信号PB1のダウンエッジ(時刻t8)に同期して、Dフリップフロップ41、42、43はそれぞれデジタルデータD2、D1、D0を取り込む。これに応じて、減算回路45、46は、それぞれD1−D0、D2−D0を演算して出力する。制御回路7は、この信号PB1のダウンエッジと同時または遅れて信号startをHレベルにし(時刻t8)、次のA/D変換に備えて入力信号Vinをサンプリングするとともにランプ波形発生回路3を初期化する。
信号startがHレベルからLレベルになると(時刻t9)、信号P1、信号PB1、信号PB2が一時的にHレベルになる。このパルス信号PB2のアップエッジを受けて、Dフリップフロップ47、48は、それぞれ減算回路45、46の出力データD1−D0、D2−D0を取り込む。正規化回路49は、上述した(2)式に従って次の(3)式の演算を行いA/D変換コードを出力する。
A/D変換コード=(2m−1)・(D1−D0)/(D2−D0) …(3)
この正規化回路49により演算されたA/D変換コードは、次に出力される信号startのアップエッジ(時刻t14)によりDフリップフロップ50に取り込まれ、最終的なA/D変換コードADとして出力される。以降も同様となり、信号PAがアクティブであって且つ制御回路7から信号startが出力される限り、A/D変換器1は、当該チャンネルの信号startのアップエッジごとにA/D変換コードADを順次出力し続ける。
ここまで1つのチャンネルについて説明したが、各チャンネルの信号startの周期は、選択信号SEL0〜SELMに基づくランプ波形電圧VLの傾きに合わせて、分解能やA/D変換速度の点からそのチャンネルの入力信号Vinに対し適切となるように設定されており、一般には、図6に示したタイミングは各チャンネルごとに独立に進行する。なお、全チャンネルのA/D変換動作を停止させたい場合にはイネーブル信号PAをLレベルにすればよく、特定のチャンネルのA/D変換動作を停止させたい場合には当該チャンネルの信号startを一定レベルとすればよい。
以上説明したように、本実施形態のA/D変換器1は、複数のチャンネルを同時にA/D変換するので、マルチプレクサによりチャンネルを順次切り換える構成と比べて高速にA/D変換することができる。ここで用いたA/D変換方式は、ランプ波形電圧VLの発生時点、ランプ波形電圧VLと入力電圧Vin1とが一致する時点、およびランプ波形電圧VLと電源電圧VDDとが一致する時点でパルス信号PB1を発生させ、信号PAの立ち上がりから上記各時点までの時間を符号化した後、正規化してA/D変換コードADを求める方式である。この際に用いられるパルス位相差符号化回路6は、一定の電源電圧VDDの下で動作するので、符号化回路固有の非直線性誤差を生ずることはない。従って、ランプ波形電圧VLの直線性と同等の優れた直線性を持つ高精度のA/D変換コードADを得ることができる。
本実施形態では、グランド電圧0Vと電源電圧VDDとを基準電圧とし、ランプ波形電圧VLと基準電圧0Vとの一致を、コンパレータを用いることなく、ランプ波形電圧VLの立ち上がり開始時点として検出しているので、電圧−時間変換回路4においてコンパレータの数を減らすことができる。
多チャンネル同時A/D変換が可能なA/D変換器1は、入力処理回路2、ランプ波形発生回路3、電圧−時間変換回路4、演算回路5、Dフリップフロップ10、パルスセレクタ11およびエンコーダ12については各チャンネルごとに必要であるが、リングディレイライン8とカウンタ9については全てのチャンネルに共通に1つだけ備えていればよい。そのため、単純にチャンネル数分だけの回路構成を備えるものに比べて回路規模を縮小でき、IC化する際のチップ面積を低減することができる。特にリングディレイライン8は、発振回路であるため他の回路に比べて消費電流およびノイズの発生量が多い。従って、本実施形態によれば消費電流およびノイズ(ラジオノイズを含む)の大幅な低減効果が得られる。
ランプ波形発生回路3は、ランプ波形電圧VLの傾きを選択信号SEL0〜SELMに応じてプログラマブルに変えることができるので、各チャンネルに適した分解能およびA/D変換速度を設定することができる。
外部からの入力電圧Vinは、電圧変換回路16によりその電圧範囲が狭められて電圧−時間変換回路4に与えられるので、0V付近の入力電圧Vinまたは5V(VDD)付近の入力電圧Vinについても高精度なA/D変換コードADを得ることができる。また、サンプル・ホールド回路15を備えているので、入力電圧Vinの変動が大きい場合でも高精度のA/D変換コードADが得られる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態のA/D変換器は、第1の実施形態で説明したA/D変換器1の各チャンネルの出力端に、それぞれ図7に示すデジタルフィルタ52を付加した構成を備えている。デジタルフィルタ52には、クロック信号として信号startが与えられている。
デジタルフィルタ52は、A/D変換器で取り扱う信号の帯域を通過帯域とするローパスフィルタの特性を示ものであれば特に形式は問わない。従って、図7(a)に示すn次の移動平均フィルタ52aや、図7(b)に示すn次のFIR(Finite Impulse Response)フィルタ52b,図7(c)に示す4次のIIR(infinite Impulse Response)フィルタ(2次のIIRフィルタを従属接続したもの)52c等何れでもよいが、本実施形態では、後述する理由によりIIRフィルタ52cを採用している。
信号PAがアクティブである限り、信号startに同期してDフリップフロップ50からA/D変換コードADが順次出力される。例えば、信号startの周期(サンプリング時間)が1μsであるとすると、連続した10回の1μsサンプリングのデータ(A/D変換結果)を加算した値は、10μsサンプリングデータに等しくなり、連続した2回の10μsサンプリングデータを加算した値は、20μsサンプリングデータに等しくなる。このように、出力されるA/D変換コードADは連続性を持つことになる。
本実施形態のA/D変換器では、データの連続性により、1μsサンプリングデータを10回加算すると10μsサンプリングデータに等しくなる。すなわち、1μsサンプリングデータは、16ビットの分解能でA/D変換されたデータの一部を構成していることになる。換言すれば、16ビットの分解能でA/D変換されたデータの情報を含んでいる。従って、1μsサンプリングデータADを、信号startに同期してデジタルフィルタ52において連続的にフィルタ演算を行えば、そのフィルタ演算における信号の積算効果によって高分解能のA/D変換コードを生成することが可能となる。
ここで、1μsのサンプリング時間で16ビット以上の分解能のデータを得るためには、少なくとも10μs以上の積算効果を与える必要がある。従って、図7(a)に示す移動平均フィルタ52aや、図7(b)に示すFIRフィルタ52bを用いる場合には、フィルタの次数を10次以上とする。また、図7(c)に示すIIRフィルタ52cを用いる場合は、過去に入力されて処理したデータの影響が残り続けるため、例えば2次のような低い次数でも十分な積算効果を得ることが可能となる。
以上説明したように、A/D変換中は一定周期で繰り返しA/D変換を行い、そのA/D変換コードADを時間積分的な演算処理が行われるデジタルフィルタ52に通して最終的なA/D変換コードを得ているので、高い分解能でA/D変換されたデータと等価なデータを生成することができる。つまり、高いサンプリングレートに設定してA/D変換を高速化したとしても、A/D変換器1から出力されるA/D変換コードADよりも高い分解能を持つA/D変換コードが得られる。従って、車両のノック制御やトルク制御において、筒内圧センサなどから出力される1mV以下の微小な電圧信号を高分解能で且つ高速にA/D変換することができる。
デジタルフィルタ52には、IIRフィルタ52cを用いた。このIIRフィルタ52cは出力データを入力側にフィードバックさせる構成なので過去のデータの影響がより長く残り続ける性質を備えており、データの積算効果がより高い。従って、比較的低次の構成であっても十分な積算効果を得ることができ、A/D変換器1の回路規模を小さくすることができる。
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に示す各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように変形または拡張が可能である。
ランプ波形電圧VLは、電源電圧VDDなどの基準電圧から一定の傾きで減少する電圧であってもよい。
サンプル・ホールド回路15および電圧変換回路16は、必要に応じて設ければよい。
各部のビット構成やサンプリング時間などは、個別の設計に応じて適宜変更して実施すればよい。
基準電圧は0VとVDDの組み合わせに限られない。本実施形態では、入力処理回路2を備えているので、例えば1.25Vと3.75Vの基準電圧を用いることも好ましい実施態様となる。
演算回路5はハードウェアにより構成したが、マイコンにおいてソフトウェア処理により正規化演算してもよい。
リングディレイライン8は、偶数段のゲート8aをリング状に接続して構成したが、奇数段(例えば31個)の反転ゲートをリング状に接続して構成してもよい。この場合にはデータ合成回路を設け、Dフリップフロップ10からのデジタルデータ(カウント値)が上位ビット、エンコーダ12からのデジタルデータが下位ビットとなるように両デジタルデータを合成する。ただし、リングディレイラインが有する反転ゲートの数は32個ではなく31個であるため、両デジタルデータを連結したデータは、カウント値が1進むごとにリングディレイラインの分解能(反転ゲートの遅延時間)tdだけの誤差が生じることになる。そこで、両デジタルデータを連結したデータに対し、Dフリップフロップ10の出力データをLSB詰めで桁合わせして減算を行うようにする。
本発明の第1の実施形態に係るA/D変換器の全体構成を示すブロック図 入力処理回路の回路構成を示す図 ランプ波形発生回路の回路構成を示す図 電圧−時間変換回路の回路構成を示す図 パルス位相差符号化回路の回路構成を示す図 入力電圧Vinおよび各信号の波形並びに各データの値を示す図 本発明の第2の実施形態で用いるデジタルフィルタの具体構成例を示す図
符号の説明
1はA/D変換器(A/D変換装置)、2は入力処理回路、3はランプ波形発生回路、4は電圧−時間変換回路、5は演算回路、8はリングディレイライン(パルス周回回路)、8a、8bはゲート、9はカウンタ、10はDフリップフロップ(保持回路)、11はパルスセレクタ(周回位置検出回路)、12はエンコーダ(周回位置検出回路)、15はサンプル・ホールド回路、51は電源回路(基準電圧生成回路)、52はデジタルフィルタである。

Claims (6)

  1. 複数チャンネルの入力電圧を同時にA/D変換するA/D変換装置において、
    複数の基準電圧を生成する基準電圧生成回路と、
    パルス信号が周回するように複数のゲートがリング状に連結されたパルス周回回路と、
    前記パルス周回回路におけるパルス信号の周回回数をカウントするカウンタとを全チャンネルについて共通に備え、これらを連続的に動作させ、さらに、
    一定の傾きで増加または減少するランプ波形電圧を発生するランプ波形発生回路と、
    前記ランプ波形電圧と前記各基準電圧とが一致する時点および前記ランプ波形電圧と変換対象である入力電圧とが一致する時点でそれぞれパルス信号を出力する電圧−時間変換回路と、
    前記パルス信号が出力された時の前記カウンタのカウント値を保持する保持回路と、
    前記パルス信号が出力された時の前記パルス周回回路内におけるパルス信号の周回位置を検出し、その周回位置に応じたデータを出力する周回位置検出回路と、
    前記保持回路から出力されるカウント値と前記周回位置検出回路から出力される周回位置データとを合成して符号データを出力するデータ合成回路と、
    前記各基準電圧に対して得られた符号データと前記各基準電圧に対して予め決められたA/D変換値と前記入力電圧に対して得られた符号データとに基づいて前記入力電圧のA/D変換値を演算する演算回路とを各チャンネルごとに個別に備えていることを特徴とするA/D変換装置。
  2. 前記各チャンネルのランプ波形発生回路は、それぞれ前記ランプ波形電圧の傾きを変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載のA/D変換装置。
  3. 前記各チャンネルのランプ波形発生回路は、それぞれ一定の周期を有する変換制御信号に同期して第1の基準電圧から一定の傾きで増加または減少するランプ波形電圧を生成するように構成され、
    前記各チャンネルの電圧−時間変換回路は、それぞれ前記変換制御信号に同期して第1のパルス信号を出力し、前記ランプ波形電圧と入力電圧とが一致する時点で第2のパルス信号を出力し、前記ランプ波形電圧と第2の基準電圧とが一致する時点で第3のパルス信号を出力するように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載のA/D変換装置。
  4. 前記データ合成回路から出力される符号データをフィルタリングするデジタルフィルタを各チャンネルごとに備えたことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のA/D変換装置。
  5. 前記各チャンネルの電圧−時間変換回路の前に、それぞれ当該電圧−時間変換回路への入力電圧の電圧範囲が外部から与えられる入力電圧の電圧範囲に対し狭まるように電圧変換を行う入力処理回路を設けたことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のA/D変換装置。
  6. 前記各チャンネルの入力変換回路は、それぞれサンプル・ホールド回路を備えていることを特徴とする請求項5記載のA/D変換装置。

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