本発明は、車両などの移動体の走行中における状態を監視し、衝撃によって機械的な部位に異常が発生した可能性がある場合に運転者に対して警告を表示する移動体異常検知装置およびその方法に関するものである。
従来、車両を自己診断して異常検知する技術として、種々のものが提案されている。たとえば、第1の従来技術では、メモリや携帯電話、バッテリなどの規定の診断項目について車両の動作中に常時監視し、異常が発生した場合にはその異常発生内容をLEDや警告音声などで運転者などの乗員に通知するとともに緊急通報センタにも通知し、緊急通報センタは、乗員の修理点検の利便性や迅速性を図るために、最寄りのメンテナンスディーラの位置情報を車両へと提供する緊急通報システムが開示されている。また、第2の従来技術では、車両の事故の発生などによって所定値以上の車体への衝撃が衝撃検知センサなどによって検出されると、車両の事故発生時における乗員を保護するように作動するエアバッグ装置やプリテンションベルト装置などの乗員保護装置の作動状態を検出し、その検出結果を、車両の現在位置とともに、予め登録された所定の通報先に通報する車両用自動通報制御装置が開示されている。
特開2002−288767号公報
特開2003−91791号公報
しかしながら、上記の第1の従来技術に記載の緊急通報システムでは、車両の電気系統の故障を監視するものであり、機械的な故障による異常を判断することができないという問題点があった。一方の上記の第2の従来技術に記載の車両用自動通報制御装置では、衝撃検知センサによって事故時などの車体への衝撃度を検出して、車両の機械的な故障による異常の判断を行うことが可能である。しかし、この第2の従来技術では、衝撃検知センサによって検出される衝撃の大きさが衝突事故のように、車両の乗員に怪我や障害などが発生するおそれのあるような比較的大きな衝撃の場合にしか動作しない。そのため、たとえば路上に存在するブロックなどの障害物に車両が乗り上げてしまったなどの軽い衝撃を受けた場合には、装置は動作せず、異常として検知されなという問題点があった。その結果、修理の必要な損傷が障害物の乗り上げなどによって車両の一部に発生したにもかかわらず、車両の運転者にはその損傷の度合がどの程度の修理を必要とするものかを認識することができないために、引き続き車両の運転を続行してしまうという問題点もあった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両などの移動体への衝撃度や移動体の車輪の回転数などを常時測定することによって、移動体の機械的な故障の発生の判定を行うことが可能な移動体異常検知装置およびその方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明によれば、移動体異常検知装置は、移動体の走行中に加わる加速度ベクトルを測定する加速度測定手段と、前記移動体の速度を測定する速度測定手段と、前記移動体に取り付けられる舵の回転角度である操舵角を測定する操舵角測定手段と、前記速度測定手段と前記操舵角測定手段によって測定される速度と操舵角を用いて前記移動体の理想的な加速度ベクトルを算出する理想ベクトル算出手段と、前記加速度測定手段によって測定された実際の加速度ベクトルと前記理想的な加速度ベクトルとの差を算出し、この差を所定期間積分した加速度ベクトル差積分値に基づいて前記移動体への衝撃の有無を判定し、衝撃がある場合にその衝撃箇所を特定する異常状態判定手段と、前記衝撃箇所を含む警告情報を出力する警告出力手段と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、速度測定手段と操舵角測定手段によって測定される移動体の速度と操舵角を用いて算出される移動体に加わる理想的な加速度ベクトルと、加速度測定手段によって測定される実際の加速度ベクトルとの差を用いて積分した加速度ベクトル差積分値を用いて、移動体に加わる異常な衝撃の有無が判定される。また、複数の箇所における加速度ベクトル差積分値を用いることによって、移動体に加わる異常な衝撃の箇所が特定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知装置では、前記加速度測定手段は、前記移動体の前後左右の角部付近に設けられ、前記理想ベクトル算出部は、前記速度と前記操舵角を用いて、前記加速度測定手段が設けられる位置における理想的な加速度ベクトルを算出することを特徴とする。
本発明によれば、移動体の前後左右の角部における加速度ベクトルが求められ、各部位での理想的な加速度ベクトルと測定された実際の加速度ベクトルとの差の積分値である加速度ベクトル差積分値の違いによって移動体に加わる異常な衝撃の位置がより詳細に特定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知装置では、地図と該地図上の走行路の状態に関する情報とを含む地図情報を有し、自移動体の地図上の位置を特定するナビゲーション手段をさらに備え、前記異常状態判定手段は、前記ナビゲーション手段によって特定された自移動体の位置における走行路の状態に応じて、加速度ベクトル差積分値を用いて前記移動体への衝撃の有無を判定することを特徴とする。
本発明によれば、ナビゲーション手段を利用して移動体の位置を常時特定し、移動体の走行路の状態、たとえば舗装道路か未舗装道路かなど、に基づいて移動体に加わる衝撃が判定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知装置では、前記異常状態判定手段は、前記加速度ベクトル差積分値の絶対値が所定の値以上であると判定された場合で、その判定時に前記ナビゲーション手段から取得した所定時間経過後の自移動体の予測位置と、前記判定時から前記所定時間経過後に前記ナビゲーション手段によって得られる実際の位置との差に基づいて前記移動体への衝撃の有無を判定することを特徴とする。
本発明によれば、移動体に衝撃が生じたと予想されるときに、ナビゲーション手段によって予測される所定時間後の位置と、所定時間後の実際の位置との位置ずれ量が、ナビゲーション手段による位置の予測時の誤差以上ある場合に、移動体に衝撃が生じたものと判定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知装置では、前記移動体の走行状態を測定する走行状態測定手段と、前記移動体の走行条件を制限する走行制限手段と、をさらに備え、前記異常状態判定手段は、前記移動体に衝撃があると判定した後に、測定された前記走行状態に基づいて前記移動体の走行の安全性を判定する機能をさらに有し、前記走行制限手段は、前記異常状態判定手段によって前記移動体の走行の安全性に問題があると判定された場合に、前記移動体の走行条件を制限することを特徴とする。
本発明によれば、異常状態判定手段によって移動体の走行の安全性に問題があると判定されると、すぐに走行制限手段によって異常と思われる箇所に関係する移動体の走行条件、たとえば最高速度の制限など、が設定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知装置では、前記移動体の走行状態を測定する走行状態測定手段と、前記移動体の走行状態によって走行条件の制限または解除を行う走行制限手段と、をさらに備え、前記異常状態判定手段は、前記走行制限手段による走行条件の制限後に測定された前記走行状態に基づいて前記移動体の走行の安全性を判定する機能をさらに有し、前記走行制御手段は、前記異常状態判定手段によって前記移動体に衝撃があると判定されると、前記移動体の走行条件を制限し、前記異常状態判定手段によって走行の安全性があると判定された場合に制限された前記走行条件を解除することを特徴とする。
本発明によれば、異常状態判定手段によって移動体に衝撃があったと判定されるとすぐに走行制限手段によって移動体への走行条件に制限が設定されるが、その後の異常状態判定手段によって、移動体の走行状態に基づいて設定された走行条件の続行か解除かが判定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知方法は、移動体に備えられる速度測定手段と操舵角測定手段によって測定される前記移動体の速度と操舵角を用いて前記移動体に加わる理想的な加速度ベクトルを算出する理想ベクトル算出工程と、移動体に備えられる加速度測定手段によって測定された実際の加速度ベクトルと前記理想的な加速度ベクトルとの差を所定期間積分した加速度ベクトル差積分値に基づいて前記移動体への衝撃の有無を判定し、前記移動体への衝撃がある場合にその衝撃箇所を特定する異常状態判定工程と、前記衝撃の発生と衝撃箇所を出力する警告出力工程と、を含むことを特徴とする。
本発明によれば、速度測定手段と操舵角測定手段によって測定される移動体の速度と操舵角を用いて算出される移動体に加わる理想的な加速度ベクトルと、加速度測定手段によって測定される実際の加速度ベクトルとの差を用いて積分した加速度ベクトル差積分値を用いて、移動体に加わる異常な衝撃の有無が判定される。また、複数の箇所における加速度ベクトル差積分値を用いることによって、移動体に加わる異常な衝撃の箇所が特定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知方法では、前記理想ベクトル算出工程では、前記加速度測定手段の前記移動体に備えられる位置に加わる理想的な加速度ベクトルを算出することを特徴とする。
本発明によれば、移動体の所定の部位、たとえば移動体の前後左右の角部、における実際の加速度ベクトルと理想的な加速度ベクトルとの差に基づいて、移動体に加わる異常な衝撃の位置がより詳細に特定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知方法では、地図と該地図上の走行路の状態に関する情報とを有し、自移動体の位置を特定するナビゲーション手段によって現在位置を特定する位置特定工程をさらに含み、前記異常状態判定工程は、前記加速度測定手段によって測定された実際の加速度ベクトルと前記理想的な加速度ベクトルとの差を所定期間積分した加速度ベクトル差積分値と、前記ナビゲーション手段によって特定された位置における走行路の状態と、に基づいて前記移動体への衝撃の有無を判定することを特徴とする。
本発明によれば、ナビゲーション手段を利用して移動体の位置を常時特定し、移動体の走行路の状態、たとえば舗装道路か未舗装道路かなど、に基づいて移動体に加わる衝撃が判定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知方法では、前記異常状態判定工程は、前記加速度ベクトル差積分値が所定値以上であると判定した場合に、該判定時点における所定時間経過後の予測位置と、前記判定時から所定時間経過後の実際の位置との差に基づいて前記移動体への衝撃の有無を判定することを特徴とする。
本発明によれば、移動体に衝撃が生じたと予想されるときに、ナビゲーション手段によって予測される所定時間後の位置と、所定時間後の実際の位置との位置ずれ量が、ナビゲーション手段による位置の予測時の誤差以上ある場合に、移動体に衝撃が生じたものと判定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知方法では、移動体の走行状態を測定する走行状態測定工程と、前記異常状態判定工程で前記移動体に衝撃が生じたと判定されると、さらに前記走行状態に基づいて前記移動体に走行条件の制限を設定するか否かを判定する走行制限判定工程と、前記移動体に走行条件の制限を設定すると判定された場合に、前記移動体の走行条件に制限を行う走行制限工程と、をさらに含むことを特徴とする。
本発明によれば、移動体の走行の安全性に問題があると判定されると、すぐに走行状態の測定によって異常と思われる箇所に関係する移動体の走行条件、たとえば最高速度など、に制限が設定される。
また、本発明によれば、移動体異常検知方法では、移動体の走行状態を測定する走行状態測定工程と、前記異常状態判定工程で前記移動体に衝撃が生じたと判定されると、前記移動体に走行条件の制限を設定する走行制限工程と、前記走行条件の制限の設定から所定期間経過後に、前記走行状態に基づいて前記走行条件の制限の継続または解除の判定を行う走行制限判定工程と、をさらに含むことを特徴とする。
本発明によれば、移動体に衝撃があったと判定されるとすぐに移動体への走行条件に制限が設定されるが、その後の移動体の走行状態の測定結果に基づいて設定された走行条件の続行か解除かが判定される。
本発明によれば、移動体に生じた事故に至るほどではない衝撃や運転者には感じないほどの衝撃を検知して、移動体の機械的な故障による異常を判断することができるという効果を有する。また、その衝撃箇所を特定して運転者に通知することができるので、運転者に感じないような衝撃が生じ、将来的に走行に異常をきたすような場合でも、運転者へ注意を促すことができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体の前後左右の角部付近における加速度ベクトル差積分値を用いて判定するようにしたので、衝撃の発生の有無や衝撃箇所の特定を一層詳細に判定することができるという効果を有する。
また、本発明によれば、ナビゲーション手段によって特定される位置での走行路の状態に基づいて、移動体に加わる衝撃を判定するようにしたので、走行路が悪路であるために測定される衝撃なのか、障害物によって測定される衝撃なのかを分離して判定することができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体に衝撃が生じたと予想されるときに、ナビゲーション手段によって予測される所定時間後の位置と、所定時間後の実際の位置との位置ずれ量が、ナビゲーション手段による位置の予測時の誤差以上ある場合に、移動体の走行系に衝撃による異常が生じて、移動体の走行に悪影響が出たものと判定することができ、移動体への衝撃を確実に検知することができる。
また、本発明によれば、走行状態測定手段によって移動体の走行条件に制限が設定されるので、衝撃を受けた箇所にかかる負荷を抑えて移動体を走行させることができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体に衝撃が生じた場合には、一様に移動体の走行条件に制限を加え、移動体の走行系への異常をきたすような可能性の衝撃が生じた場合に備えた走行条件で移動体を走行させることができるという効果を有する。また、その後の測定で、移動体の走行系への影響がない衝撃である場合には、設定された走行条件の制限を解除して、通常通りに走行させることが可能となる。
また、本発明によれば、移動体に生じた事故に至るほどではない衝撃や運転者には感じないほどの衝撃を検知して、移動体の機械的な故障による異常を判断することができるという効果を有する。また、その衝撃箇所を特定して運転者に通知することができるので、運転者に感じないような衝撃が生じ、将来的に走行に異常をきたすような場合でも、運転者へ注意を促すことができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体の複数の所定の部位における実際の加速度ベクトルと理想的な加速度ベクトルとを用いて判定することで、衝撃の発生の有無や衝撃箇所の特定を一層詳細に判定することができるという効果を有する。
また、本発明によれば、ナビゲーション手段によって特定される位置での走行路の状態に基づいて、移動体に加わる衝撃を判定するようにしたので、走行路が悪路であるために測定される衝撃なのか、障害物によって測定される衝撃なのかを分離して判定することができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体に衝撃が生じたと予想されるときに、ナビゲーション手段によって予測される所定時間後の位置と、所定時間後の実際の位置との位置ずれ量が、ナビゲーション手段による位置の予測時の誤差以上ある場合に、移動体の走行系に衝撃による異常が生じて、移動体の走行に悪影響が出たものと判定することができ、移動体への衝撃を確実に検知することができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体の走行条件に制限が設定されるので、衝撃を受けた箇所にかかる負荷を抑えて移動体を走行させることができるという効果を有する。
また、本発明によれば、移動体に衝撃が生じた場合には、一様に移動体の走行条件に制限を加え、移動体の走行系への異常をきたすような可能性の衝撃が生じた場合に備えることができるという効果を有する。また、その後の測定で、移動体の走行系への影響がない衝撃である場合には、設定された走行条件の制限を解除して、通常通りに走行することが可能となる。
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる移動体異常検知装置およびその方法の好適な実施例を詳細に説明する。本発明にかかる移動体異常検知装置およびその方法は、車両や飛行機などの移動体に適用することが可能であるが、以下の説明では移動体異常検知装置およびその方法を車両に適用する場合を例に挙げて説明する。なお、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明にかかる移動体異常検知装置の実施例1の構成を模式的に示すブロック図である。移動体異常検知装置1は、車両の走行状態を測定する走行状態測定部2と、走行状態測定部2によって測定された測定データなどの走行状態情報を格納する走行状態情報格納部3と、測定された測定データから車両の受ける理想的な加速度ベクトルを求める理想ベクトル算出部4と、理想的な加速度ベクトルと実際の加速度ベクトルとを比較して車両への異常な衝撃の発生の有無の判定と衝撃箇所の特定を行う異常状態判定部5と、異常状態判定部5による異常な衝撃箇所の特定を行う際の基準となる異常状態判定データを格納する異常状態判定データ格納部6と、異常状態判定部5によって判定された結果を車両の乗員に通知する警告出力部7と、これらの構成要素を制御する制御部8と、を備えて構成される。
走行状態測定部2は、車両の所定の部位に加わる加速度を測定する加速度測定部21と、車両の速度を測定する速度測定部22と、車両に設けられる舵の回転角度である操舵角を検出する操舵角測定部23と、を含んで構成される。図2は、走行状態測定部の車両への取り付け位置の一例を示す図である。この図2において、車両の進行方向をx方向、車両の走行面に対して垂直な方向(紙面に垂直な方向)をz方向、これらxおよびzの両方向に垂直な方向をy方向とする。
加速度測定部21は、たとえば車両100の四隅(図2に示されるように車両の前後左右に設けられる車輪101付近)に設けられ、各部分に加わる加速度(衝撃)を測定する。本実施例1では、x,y,z方向の加速度を測定する場合であるので、各方向の加速度を測定することができるように加速度測定部21が設けられる。加速度測定部21として、赤外線を利用した二組の投光素子と受光センサの間にスプリングで中立の位置に保持した重錘を配置し、加速度の大きさに応じて各受光センサで受光される受光量を電気的な信号として取り出し、2つの信号を差動増幅することによって、加速度の大きさと方向を検出することが可能な加速度センサなどを用いることができる。
速度測定部22は、車両の速度を測定するものであり、この速度測定部22として、たとえば、図2に示されるように車両100のいずれかの車輪101に設けられ、車輪101を強力な磁石で磁化させ、車輪101の回転による磁気の変化を電圧の変化として出力する信号を用いて車輪101の回転した数を計測し、さらに計測した回転数から速度を求める車輪速センサなどを用いることができる。また、操舵角測定部23は、図2に示されるように車両のステアリングの舵取り歯車機構に取り付けられ、その操舵角を測定して出力する操舵角センサなどを用いることができる。
走行状態情報格納部3は、加速度測定部21によって測定された車両の四隅の加速度、速度測定部22によって測定された車両の速度、操舵角測定部23によって測定された操舵角を含む測定データと、理想ベクトル算出部4によって車両の速度と操舵角から算出される車両の四隅の部分における理想的な加速度ベクトルと、を含む走行状態情報を格納する。
理想ベクトル算出部4は、速度測定部22によって測定された車両の速度と操舵角測定部23によって測定された操舵角に基づいて、加速度測定部21が設けられている部位における理想的な加速度ベクトルを算出する機能を有する。算出された理想的な加速度ベクトルは走行状態情報格納部3に格納される。理想的な加速度ベクトルは、車両の速度と操舵角の組合せに対して四隅の車輪のそれぞれに生じる加速度ベクトルを予め求めたテーブルを作成し、このテーブルを用いて、測定された車両の速度と操舵角から理想的な加速度ベクトルを求めることができる。
異常状態判定部5は、車両の四隅における、加速度測定部21によって測定された実際の加速度ベクトルと、理想ベクトル算出部4によって算出された理想的な加速度ベクトルとを用いて、車両への異常な衝撃の有無、車両に生じた衝撃箇所の特定や損傷の程度などを判定する。具体的には、実際の加速度と理想的な加速度との差である加速度ベクトル差を算出し、この差を所定期間内において積分した加速度ベクトル差積分値が、所定の値を超えた場合に車両に異常な衝撃が加わったと判定する。また、加速度ベクトル差積分値の算出は、車両の四隅ごとに行われるので、それぞれの車両部位における加速度ベクトル差積分値の値(または相対値)によって、異常な衝撃が生じた概略の位置を特定することができる。この異常な衝撃が生じた概略の位置の特定は、異常状態判定データ格納部6に格納されている異常状態判定データに基づいて行われる。
異常状態判定データ格納部6は、車両の四隅のそれぞれの車両部位で算出された加速度ベクトル差積分値の相違によって、異常な衝撃が生じた位置の概略を特定する基準となる異常状態判定データを格納する。図3は、異常状態判定データの一例を示す図である。この図3では、車両の四隅におけるxyz方向(図2参照)での加速度ベクトル差積分値の相対的な値によって衝撃の発生箇所を特定する場合を示している。ここでは、車両の各部位の各方向で算出された加速度ベクトル差積分値のうち最も大きな絶対値を有するものを100とした場合の相対値を用いている。なお、ここでの正負は加速度ベクトルの向きを表しており、図2に示したxyzの方向と一致している。たとえば、行301では、右前のx方向の加速度ベクトル差積分値の相対値が−100であり、その他の部位および方向の加速度ベクトル差積分値の相対値が30〜−30である場合には、車両の右前方部の前面部分に衝撃が発生したと特定することができる。なお、この図3に示される異常状態判定データの例は、説明用に簡略化したものである。
警告出力部7は、異常状態判定部5によって判定された衝撃の発生やその箇所などの判定結果を含む警告情報を、車両の運転者や乗員に対して通知するために、視覚的または聴覚的な情報として出力する。警告出力部7として、たとえば、異常状態判定部5によって特定された異常な衝撃箇所を表示させることが可能な機能を有する車両に備えられるナビゲーション装置や、異常な衝撃箇所を音声で知らせるスピーカ、異常な衝撃箇所をダイオードなどの発光素子を発光させることによって知らせる専用の警告表示装置などを例示することができる。また、警告情報として、異常な衝撃箇所のほかに、運転者に対して車両をチェックするように促す情報や、車両チェックを行うために車両の販売会社や修理会社への入庫を促す情報、その販売会社や修理会社の位置を示す情報などを含ませるようにしてもよい。
つぎに、この移動体異常検知装置1の動作処理について説明する。図4は、移動体異常検知装置の動作処理の手順を示すフローチャートである。車両が始動され、移動体異常検知装置1が起動されると、車両に取り付けられた加速度測定部21、速度測定部22および操舵角測定部23によってそれぞれ加速度、車両の速度(以下、車速という)および操舵角の測定が開始され(ステップS11)、これらの測定データは走行状態情報格納部3に格納される。理想ベクトル算出部4は、走行状態情報格納部3に時間の経過とともに格納される車速と操舵角を用いて車両の受ける理想的な加速度ベクトルを算出する(ステップS12)。ここでは、加速度測定部21が取り付けられている位置である車両の四隅での理想的な加速度ベクトルが求められる。算出された理想的な加速度ベクトルは走行状態情報格納部3に格納される。
異常状態判定部5は、ステップS11で加速度測定部21によって測定された実際の加速度と、ステップS12で算出された理想的な加速度ベクトルとの差である加速度ベクトル差を算出する(ステップS13)。つぎに、異常状態判定部5は、算出に使用された測定データの測定時点から所定の期間さかのぼった範囲で算出された加速度ベクトル差を積分した加速度ベクトル差積分値を算出する(ステップS14)。その後、異常状態判定部5は、算出した加速度ベクトル差積分値を用いて異常な衝撃が車両に生じたか否かを判定する(ステップS15)。すなわち、加速度ベクトル差積分値を、異常な衝撃が車両に生じたか否かを判定するための異常判定値と比較する。加速度ベクトル差積分値が異常判定値以上の場合(ステップS15でYesの場合)には、異常状態判定部5は、車両に異常な衝撃が生じたと判定し(ステップS16)、測定された車両部位における加速度ベクトル差積分値の分布を、異常状態判定データ格納部6に格納された異常状態判定データと照合して、衝撃が生じた異常箇所を特定する(ステップS17)。
つぎに、警告出力部7は、ステップS17で特定された異常箇所を含む警告情報を表示データや音声データなどの形で出力して(ステップS18)、車両の運転者に通知し、処理を終了する。一方、ステップS15で加速度ベクトル差積分値が異常判定値より小さい場合(ステップS15でNoの場合)には、異常状態判定部5は、車両に異常な衝撃が生じていないと判定し(ステップS19)、車両の停止による移動体異常検知装置1の終了指示や運転者による移動体異常検知装置1の終了指示の有無を確認する(ステップS20)。終了指示がない場合(ステップS20でNoの場合)には再びステップS11に戻り上述した処理が繰り返し実行される。また、終了指示がある場合(ステップS20でYesの場合)には、処理が終了する。
この実施例1によれば、移動体の所定の部位における、実際に測定される実際の加速度ベクトルと移動体の速度などから求められる理想的な加速度ベクトルとを比較することで、移動体への異常な衝撃の有無を判定することができる。また、移動体の部位の違いによる実際の加速度ベクトルと理想的な加速度ベクトルとの差の積分値の違いを利用して、移動体に生じた衝撃の箇所を特定することもできる。そして、移動体の乗員に対して、移動体に生じた衝撃やその箇所を通知することができる。さらに、加速度ベクトル差を積分した値で判定しているので、移動体の運転者には感じない微小な衝撃であっても、検出することができるという効果を有する。
図5は、本発明にかかる移動体異常検知装置の実施例2の構成を模式的に示すブロック図である。この移動体異常検知装置1aは、実施例1の図1の移動体異常検知装置1において、人工衛星からの電波を利用したGPS(Global Positioning System)により自車両の位置を特定し、その位置に基づいて走行路の形状や状態を認識するナビゲーション部9をさらに備えることを特徴とする。
ナビゲーション部9は、複数の衛星の位置データおよび時刻データを受信して自車両の位置を特定する位置検出部91と、走行路に関して舗装道路か未舗装道路かなどの道路の状態に関する道路状態情報を含む地図情報が格納される地図情報格納部92と、を含んで構成される。この道路状態情報として、たとえば、舗装道路と未舗装道路とでは車両の受ける振動が異なるので、道路状態によって段階的に設けた異常判定値と道路とを対応付けるようにしたものでもよいし、道路ごとに異常判定値を設定するようにしたものでもよい。なお、位置検出部91は、GPSを用いてある時刻における移動体の位置と地図上の位置とを一致させた後に、速度測定部22などの距離センサと、地磁気センサ、振動ジャイロ、光ファイバジャイロ、ガスレートセンサなどの方位センサを用いて、地図上の現在位置を求めるような構成でもよい。
異常状態判定部5は、ナビゲーション部9によって検出された現在位置の道路状態情報を参照して、異常状態の判定を行う機能を有する。具体的には、算出された加速度ベクトル差積分値を、ナビゲーション部9で検出された現在位置の道路状態情報によって得られる異常判定値と比較することによって、車両への異常な衝撃の有無を判定する。これによって、未舗装道路で受ける振動を車両への衝撃としてしまうような誤判定を避けることができる。なお、その他の図1と同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略している。また、この実施例2での移動体異常検知装置1aの動作処理も基本的に実施例1の図4と同様であるので、その説明を省略している。
この実施例2において、警告出力部7は、車両に異常な衝撃が生じたと判定された場合に、判定時の自車両の位置に近い販売会社や修理会社の位置をナビゲーション部9を利用して表示するようにしてもよい。
この実施例2によれば、移動体の走行する道の状態に応じて、移動体への異常な衝撃が生じたか否かを判定する際の異常判定値を変更するようにしたので、走行中の道の状態によって受ける加速度なのか、それとも障害物などによって引き起こされた加速度なのかを切り分けて判定することができる。
実施例2では、実施例1と同様の手順によって移動体への異常な衝撃の有無を判定する場合を示したが、この実施例3では、実施例2と同一の構成を有する移動体異常検知装置1aにおいて、移動体への異常な衝撃の有無の判定を行う異なる処理手順について説明する。
この実施例3の移動体異常検知装置1aでは、車両に異常な衝撃が生じた可能性がある場合に、所定時間経過後における通常の状態での車両の予測位置と、所定時間経過後の実際の車両の位置とを比較し、その位置の差に所定の値以上の開きが存在する場合に、異常な衝撃によって車両に何らかの不具合が発生したものと判定することを特徴とする。なお、この実施例3の移動体異常検知装置1aの構成は上述したように実施例2の図5と同一であるので、その説明を省略する。
図6は、移動体異常検知装置の実施例3の動作処理手順を示すフローチャートである。まず、実施の形態1の図4で説明したステップS11〜S15と同じ処理を行って、加速度ベクトル差積分値が異常を示すか否かを判定する(ステップS31〜S35)。すなわち、測定した車両の実際の加速度ベクトルと車両の速度と操舵角を用いて算出した理想的な加速度ベクトルとの差である加速度ベクトル差を所定期間積分した加速度ベクトル差積分値を算出し、この加速度ベクトル差積分値が、車両が異常な衝撃を受けた可能性の有無の基準となる第1の異常判定値以上か否かを判定する。この第1の異常判定値は、実施例1〜2における異常判定値と同じであってもよい。
加速度ベクトル差積分値が第1の異常判定値以上である場合(ステップS35でYesの場合)には、異常状態判定部5は、ナビゲーション部9によって得られる自車両の現在位置から所定時間経過後の予測位置を得る(ステップS36)。この予測位置は、ナビゲーション部9で車両の乗員によって設定された目的地に向かう道順における所定時間経過後の大体の位置を、たとえばVICS(Vehicle Information Communication System)情報などを用いて予測することで求められる。
つぎに、ステップS35による判定から所定時間経過したか否かが判定され(ステップS37)、所定時間経過するまで(ステップS37でNoの場合)待ち状態となる。所定時間が経過すると(ステップS37でYesの場合)、異常状態判定部5は位置検出部91から現在位置を取得し、現在位置とステップS36で得た予測位置との差である位置ずれ量を算出し(ステップS38)、位置ずれ量に基づいて車両に異常な衝撃が生じたか否かを判定する(ステップS39)。具体的には、位置ずれ量が、ステップS36での予測における誤差の最大値以上か否かを判定する。すなわち、ステップS36での予測における誤差の最大値を第2の異常判定値とすると、位置ずれ量が第2の異常判定値以上か否かを判定し、位置ずれ量が第2の異常判定値以上である場合(ステップS39でYesの場合)に、異常状態判定部5は、車両に異常な衝撃が生じたと判定する(ステップS40)。
その後、異常状態判定部5は、車両の部位の違いによる加速度ベクトル差積分値の違いに基づいて異常箇所の特定を行い(ステップS41)、警告出力部7を介して車両の運転者に対して警告情報を通知して(ステップS42)、処理が終了する。一方、ステップS35で加速度ベクトル差積分値が第1の異常判定値より小さい場合(ステップS35でNoの場合)またはステップS39で位置ずれ量が第2の異常判定値より小さい場合(ステップS39でNoの場合)には、異常状態判定部5は、車両に異常な衝撃が生じていないと判定し(ステップS43)、車両の停止による移動体異常検知装置1aの終了指示や運転者による移動体異常検知装置1aの終了指示の有無を確認し(ステップS44)、終了指示がない場合(ステップS44でNoの場合)には、再びステップS31に戻り上述した処理が繰り返し実行される。また、終了指示がある場合(ステップS44でYesの場合)には、処理が終了する。
この実施例3によれば、加速度ベクトル差積分値が第1の異常判定値以上であってもすぐには移動体に異常な衝撃が生じたと判定せずに、その後の所定時間内における移動体の移動状態(挙動)を見て、移動体に異常な衝撃が生じたか否かを判定するようにしたので、走行に関わる重大な衝撃が移動体に加わったことを確実に検知することができるという効果を有する。
この実施例4では、移動体に異常な衝撃が生じたと判定された後、その衝撃の発生箇所が移動体の走行系の可能性がある場合に、移動体に対して走行に関する制限を行う移動体異常検知装置について説明する。図7は、本発明にかかる移動体異常検知装置の実施例4の構成を模式的に示すブロック図である。この移動体異常検知装置1bは、実施例1の図1の移動体異常検知装置1において、車輪回転数測定部24と、走行制限部10と、をさらに備えることを特徴とする。
車輪回転数測定部24は、車両の各車輪に設けられ、各車輪の回転数(または各車輪の速度)を測定し、その測定結果を走行状態情報格納部3に格納する。この車輪回転数測定部24として、車輪速センサなどを用いることができる。なお、速度測定部22として車輪回転数測定部24を用いる場合には、これらを共用することが可能である。
異常状態判定データ格納部6bは、車両への異常な衝撃が生じた位置の概略を特定する基準となる異常状態判定データのほかに、車両の走行系の異常の有無を判定するための基準値をさらに格納している。たとえば、走行系の異常とそのときに生じる加速度、車輪の回転数、操舵角などの変化の傾向が、基準値として格納される。
異常状態判定部5bは、車両への異常な衝撃の有無と衝撃箇所の特定のほかに、走行状態測定部2によって測定される車両の挙動を監視して、車両の走行系に異常があるか否かを、異常状態判定データ格納部6bに格納された車両の走行系の異常の有無を判定するための基準値に基づいて判定する機能をさらに有する。具体的には、車両に異常な衝撃が生じたと判定された後の、加速度、車輪の回転数および操舵角の値などの車両の挙動が、走行系に異常がある場合の挙動と一致するか否かを異常状態判定データ格納部6に格納されている基準値と比較して、走行系の異常の有無を判定する。たとえば、一つの車輪の回転数が他の車輪の回転数と異なり、その車輪の部分に上下方向の加速度(振動)が常に観測されるような場合には、車輪がパンクしている可能性があるので、車速制限を行う必要があると判定する。
走行制限部10は、異常状態判定部5bによって車両の走行系に異常があると判定された場合に、その状態のまま走行を続けると危険であるので、車両の走行を制限する機能を有する。車両の走行の制限として、具体的には、車両の最高速度を制限したり、走行場所を制限したりする。たとえば、車両がエンジンを動力源とする場合には、走行制限部10は図示しないエンジン電子制御ユニットへと接続され、車両の速度を制限させるための車速制限信号を出力する。エンジン電子制御ユニットでは、車速制限信号を受信すると、インジェクタを介してエンジンに対して燃料カットを行ったり、スロットルアクチュエータを介してスロトッルバルブを最も閉じた位置にしてエンジンブレーキを作用させるようにしたりすることによって、車速が車速制限信号によって指定された速度を越えないように制御を行う。なお、図1と同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略している。
ここで、図8のフローチャートを参照して、図7に示した移動体異常検知装置の動作処理手順について説明する。まず、実施の形態1の図4で説明したステップS11〜S18と同じ処理を行って、加速度ベクトル差積分値が異常を示す場合に警告情報を出力する(ステップS51〜S58)。すなわち、測定した車両の実際の加速度ベクトルから、車両の速度と操舵角を用いて算出した理想的な加速度ベクトルとの差である加速度ベクトル差を所定期間積分した加速度ベクトル差積分値を算出し、この加速度ベクトル差積分値が異常判定値以上か否かを判定する。加速度ベクトル差積分値が異常判定値以上である場合には、異常状態判定部5bは車両に異常な衝撃が生じたと判定して、異常箇所の特定を行い、異常箇所を含む警告情報を警告出力部7に出力して、運転者に通知する。
つぎに、異常状態判定部5bは、加速度測定部21、速度測定部22、操舵角測定部23および車輪回転数測定部24による測定データを所定期間モニタし(ステップS59)、車両の走行系に異常があるか否かを判定する(ステップS60)。異常状態判定部5bによって、走行系に異常があると判定された場合(ステップS60でYesの場合)には、走行制限部10は、車両の走行条件、たとえば車両の最高速度、に制限を設定する(ステップS61)。車両の走行条件として、たとえば最高速度の制限が設定されると、走行制限部10はエンジン電子制御ユニットに制限された最高速度に関する情報を出力し、エンジン電子制御ユニットは最高速度を超えないようにエンジンを制御する。その後、処理が終了する。
一方、ステップS55で加速度ベクトル差積分値が異常判定値より小さい場合(ステップS55でNoの場合)には、異常状態判定部5bは、車両に異常な衝撃が生じていないと判定する(ステップS62)。その後、またはステップS60で走行系に異常がないと判定された場合(ステップS60でNoの場合)には、車両の停止による移動体異常検知装置1bの終了指示や運転者による移動体異常検知装置1bの終了指示の有無を確認し(ステップS63)、終了指示がない場合(ステップS63でNoの場合)には再びステップS51に戻り上述した処理が繰り返し実行される。また、終了指示がある場合(ステップS63でYesの場合)には、処理が終了する。
なお、上述したステップS61での走行制限部10による走行条件の制限を行う前に、警告出力部7に所定の時間が経過した後に走行制限が行われる旨を出力して、運転者に予め知らせるようにしてもよい。
この実施例4によれば、異常状態判定部5によって、移動体への衝撃が生じたと判定された後にさらに移動体の走行状態を監視するようにしたので、移動体への衝撃が走行系への影響を及ぼすものであるか否かを判定することができる。また、衝撃が走行系への影響を及ぼすものである場合には、移動体の走行条件に制限を加えるようにしたので、不必要な負荷が移動体の衝撃箇所に加わることを防ぐことができるという効果を有する。また、衝撃が移動体に与える影響が最初のうちはわずかなものであるが、放っておくと後々重大な症状となり走行不可能となるような場合でも、移動体の走行状態を監視することによって、事前に知ることができ、移動体の運転者や乗員に注意を促すことができるという効果も有する。
この実施例5では、実施例4の図7と同一の構成を有するが、図8とは異なる動作処理を行う移動体異常検知装置1bについて説明する。なお、移動体異常検知装置1bの構成は、実施例4の図7と同一であるので、図示および説明を省略する。
図9は、移動体異常検知装置の実施例5の動作処理手順を示すフローチャートである。まず、実施の形態1の図4で説明したステップS11〜S18と同じ処理を行って、加速度ベクトル差積分値が異常を示す場合に警告情報を出力する(ステップS71〜S78)。すなわち、測定した車両の実際の加速度ベクトルと車両の速度と操舵角を用いて算出した理想的な加速度ベクトルとの差である加速度ベクトル差を所定期間積分した加速度ベクトル差積分値を算出し、この加速度ベクトル差積分値が異常判定値以上か否かを判定する。加速度ベクトル差積分値が異常判定値以上である場合には、異常状態判定部5は車両に異常な衝撃が生じたと判定して、異常箇所の特定を行い、車両への衝撃の発生と異常箇所を含む警告情報を警告出力部7を介して運転者に対して出力する。
また、異常状態判定部5による警告情報の出力と同時に、走行制限部10は、最高速度の制限などの走行条件に制限を設定する(ステップS79)。車両の走行条件として、たとえば最高速度の制限が設定されると、走行制限部10は、エンジン電子制御ユニットに設定された最高速度に関する情報を出力し、エンジン電子制御ユニットは最高速度を超えないようにエンジンを制御する。つぎに、異常状態判定部5は、加速度測定部21、速度測定部22、操舵角測定部23および車輪回転数測定部24による測定データを所定期間モニタし(ステップS80)、車両の走行系に異常があるか否かを判定する(ステップS81)。走行系に異常がある場合(ステップS81でYesの場合)には、そのまま走行条件を解除せずに処理が終了する。一方、走行系に異常がない場合(ステップS81でNoの場合)には、異常状態判定部5は、車両の走行条件に設定された制限を解除する(ステップS83)。その後、車両の停止による移動体異常検知装置1bの終了指示や運転者による移動体異常検知装置1bの終了指示の有無を確認し(ステップS84)、終了指示がない場合(ステップS84でNoの場合)には再びステップS71に戻り上述した処理が繰り返し実行される。また、終了指示がある場合(ステップS84でYesの場合)には、処理が終了する。一方、ステップS75で加速度ベクトル差積分値が異常判定値より小さい場合(ステップS75でNoの場合)には、異常状態判定部5は、車両に異常な衝撃が生じていないと判定し(ステップS82)、ステップS84に移り上述した処理が実行される。
なお、上述したステップS79での走行制限部10による走行条件の制限を行う前に、警告出力部7に所定の時間が経過した後に走行制限が行われる旨を出力して、運転者に予め知らせるようにしてもよい。
この実施例5によれば、移動体に衝撃が生じた際に、衝撃の発生と衝撃箇所を通知するのと同時に移動体に対して走行制限を加え、走行制限を行った後の所定の時間内における移動体の走行状態を監視し、移動体に加わった衝撃が走行系に影響を与えるものでない場合には、走行制限を解除するようにしたので、移動体に生じた衝撃が、走行系に影響を与えるものか否かを十分に見極められるまでの間、移動体の衝撃箇所に不必要な負荷が加わることを防ぐことができるという効果を有する。
なお、上述した実施例1〜5では、走行状態測定部2として、加速度測定部21、速度測定部22、操舵角測定部23、車輪回転数測定部24を用いた場合を説明したが、この他に車両の下部にカメラやマイクを設けてもよい。走行状態測定部2としてカメラを設ける場合には、路面の状況や道路の形状を観察したり、車両に衝突した障害物などを特定したりすることが可能である。また、実施例2〜3のように、ナビゲーション部9が設けられている場合には、衝撃のあった場所と位置とを対応付けることによって、該位置における障害物を道路状態情報として地図情報格納部92に格納することができる。
また、走行状態測定部2としてマイクを設ける場合には、マイクを車両の複数の位置に取り付けることによって、障害物と接触したときの音の各マイクへの到達時間の違いによって、衝撃を受けた位置を特定することが可能である。さらに、加速度測定部21によって測定される加速度の大きさによって、車両の乗員の安全を確保するためのエアバッグなどの装置を動作させるようにすることも可能である。
さらにまた、上述した実施例1〜5では、車両の四隅での加速度ベクトルを用いて衝撃の発生の有無の判定と衝撃箇所の特定を行う例を示したが、これに限られるものではなく、任意の部位における加速度ベクトルを用いて衝撃の有無の判定と衝撃箇所の特定を行うことができる。
以上のように、本発明にかかる移動体異常検知装置は、車両などの移動体に生じた物理的な衝撃による運転への影響を運転者に把握させる場合に有用である。
移動体異常検知装置の実施例1の構成を模式的に示すブロック図である。
走行状態測定部の車両への取り付け位置の一例を示す図である。
異常状態判定データの一例を示す図である。
移動体異常検知装置の動作処理の手順を示すフローチャートである。
移動体異常検知装置の実施例2の構成を模式的に示すブロック図である。
移動体異常検知装置の実施例3の動作処理手順を示すフローチャートである。
移動体異常検知装置の実施例4の構成を模式的に示すブロック図である。
移動体異常検知装置の実施例4の動作処理手順を示すフローチャートである。
移動体異常検知装置の実施例5の動作処理手順を示すフローチャートである。
符号の説明
1,1a,1b 移動体異常検知装置
2,2b 走行状態測定部
3 走行状態情報格納部
4 理想ベクトル算出部
5,5b 異常状態判定部
6,6b 異常状態判定データ格納部
7 警告出力部
8 制御部
9 ナビゲーション部
10 走行制限部
21 加速度測定部
22 速度測定部
23 操舵角測定部
24 車輪回転数測定部
91 位置検出部
92 地図情報格納部