JP4306197B2 - 排気ガス浄化用触媒及び触媒劣化判定法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸素ストレージ能が低い排気ガス浄化用触媒であっても、その触媒機能の劣化を酸素ストレージ量から正確に判定することが容易な触媒、及びその判定法に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる成分を浄化する排気ガス浄化用触媒が種々提案されているが、なかでもプラチナ(Pt)−パラジウム(Pd)−ロジウム(Rh)等の貴金属を活性物質とし、さらに内燃機関内の酸素濃度の変動を緩和して、排気ガス中の有害成分を減少させるため、酸素濃度が高い雰囲気下では酸素を吸収し、酸素濃度が低い雰囲気下では酸素を放出する機能を有する金属酸化物を、排気ガス浄化用触媒の基材にコートすることが一般的である。このような、酸素の吸収・放出能力を酸素ストレージ能といい、吸収・放出する酸素の量を酸素ストレージ量という。
【0003】
酸素ストレージ能を有し、かつ排気ガス浄化用触媒に用いられる金属酸化物としては、例えば、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、特開平9−40425号公報に記載されているセリウム−ジルコニウム複合酸化物、特開平9−175823号公報に記載されているセリウム−ジルコニウム−希土類金属酸化物等が例示できる。
【0004】
一方、排気ガス浄化用触媒は、排気ガスを浄化するための使用に伴って経時的に劣化して、その触媒の酸素ストレージ能の低下とともに、排気ガス浄化能力が低下するため、排気ガス浄化能力が必要なレベル以下に低下した触媒、すなわち劣化した触媒は、交換等の処置が必要とされる。
【0005】
ここで、実際の排気ガス浄化能力が、必要レベルにあるか否かの判断基準となるものは、実際の自動車からの排気ガス中のいわゆる汚染物質の量であって、例えば米国FTPのNMHCエミッション値(以下、単に「エミッション値」という。)が判断基準となり、実際の自動車排気ガスのエミッション値が、一定値以下であることが必要とされる。しかしながら、全ての自動車について、このエミッション値を測定することは実際的ではない。
【0006】
そこで、上記エミッション値の測定に代え、自動車の排気ガス浄化用触媒の能力の低下の程度、すなわち触媒の劣化の程度を検出するための方法として、触媒の酸素ストレージ能の低下を測定する方法がある。具体的には、排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を測定し、その酸素ストレージ量が一定の値よりも低くなった触媒は劣化したものと判断する方法である。この方法は、従来、排気ガス浄化用触媒のうち、酸素ストレージ能がある程度高いものについては有効であり、使用に伴う排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量の低下の程度によって、触媒の排気ガス浄化能力の低下の程度を判定することが可能であった。具体的には、自動車に搭載された排気ガス浄化用触媒が使用されて劣化していく過程における、その触媒の酸素ストレージ量、及びその自動車のエミッション値の変化を追跡すると、この酸素ストレージ量とエミッション値の間に対応関係が成り立ち、酸素ストレージ量が多いほどエミッション値は低くなる。したがって、例えば、酸素ストレージ量を縦軸にとり、その酸素ストレージ量を有する触媒を搭載した自動車のエミッション値を横軸にとってグラフにすることにより、又はこれらの酸素ストレージ量及びエミッション値の間の関係を数式化すること等によって、特定の酸素ストレージ量を有する触媒を搭載した自動車のエミッション値を推算することができる。自動車からの排気ガス中に含まれる物質の量が、一定値以下であること、すなわち、このエミッション値は、定められた許容最大値以下であることが求められる。
【0007】
自動車の排気ガスのエミッション値が一定の許容最大値以下であることが要求される場合に、排気ガス浄化用触媒が有する酸素ストレージ量から推算されるエミッション値が、その要求される許容最大値以上になると推算されたときは、その排気ガス浄化用触媒は許容可能な限度をこえて劣化したものと判断できる。
【0008】
しかし、各種内燃機関、特に自動車エンジンにおいては、排気ガス中の汚染物質量を低減するため、排気ガス浄化用触媒及び空燃比制御等の改良が行われてきた。この改良に伴い、排気ガス浄化用触媒の耐久性向上、及び空燃比の厳密な制御等が行われるようになったため、従来使用されていた排気ガス浄化用触媒より酸素ストレージ能が低い排気ガス浄化用触媒であっても、排気ガス規制レベルをクリアすることが可能になっている。実際に、自動車の排気ガス浄化用触媒は、従来使用されていた触媒と比較して、酸素ストレージ能、すなわち酸素ストレージ量が今後低くなっていくことも予想される。したがって、排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を測定して、その触媒の劣化の程度を判定する従来の方法では、劣化していない触媒自体の酸素ストレージ量が元来低く、エミッション値の許容可能な最大値近傍で、そのエミッション値に対応する、触媒の酸素ストレージ量の値の変化が極めて小さいため、許容可能な限度を超えて劣化していない触媒と、限度を超えて劣化した触媒との間の酸素ストレージ量との差はごくわずかなものであり、酸素ストレージ量の測定が誤差を伴うことを考慮すると、触媒の酸素ストレージ量により触媒劣化の程度の判定を正確に行うことが非常に困難になっている。例えば、排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を測定することにより、許容可能な限度を超えて劣化していると判断された触媒であっても、その触媒が充分な排気ガス浄化能力を維持している場合、あるいは、触媒の酸素ストレージ量の測定から、触媒は許容可能な限度を超えて劣化していないと判定されても、その触媒の排気ガス浄化能力が許容可能な限度よりも低下している場合等がありうる。
【0009】
したがって、酸素ストレージ能が低い排気ガス浄化用触媒において、実際にその排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値を測定することなく、このエミッション値の悪化、すなわちエミッション値の増大を正確に推算することが可能な触媒を提供し、かつ、その触媒が許容可能な限度を超えて劣化しているか否かの判定方法を確立する必要があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、酸素ストレージ能が低い排気ガス浄化用触媒において、その排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値を常に一定値以下におさえるため、使用に伴う排気ガス浄化用触媒の劣化の程度を正確に判定することが容易な触媒、及びその触媒が許容可能な限度を超えて劣化しているか否かの判定方法を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、貴金属が担持され、かつ酸素ストレージ能を有する金属酸化物(A)(以下、単に「金属酸化物(A)」ともいう。)、及びその金属酸化物(A)よりも大きな酸素ストレージ能を有する金属酸化物(B)(以下、単に「金属酸化物(B)」ともいう。)を含む材料が、触媒基材の排気ガス流路表面にコートされていることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明の排気ガス浄化用触媒は、上記の排気ガス浄化用触媒において、米国FTPモードに準拠して測定された自動車排気ガスのエミッション値が、それぞれ0.015g/マイル、0.025g/マイルになる場合の、その自動車に搭載した排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量の差が、触媒当たり0.1g以上になるように、上記の金属酸化物(B)のコート量が調節されていることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明の排気ガス浄化用触媒は、上記の排気ガス浄化用触媒において、排気ガス流れ方向に向かって、排気ガス出口側に近い後半分の触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている前記金属酸化物(B)の量と比較して、排気ガス流れ方向に向かって、排気ガス入口側に近い前半分の触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている前記金属酸化物(B)の量が少ないことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の触媒劣化判定法は、上記排気ガス浄化用触媒において、上記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を測定し、その酸素ストレージ量の値から推算した米国FTPモードに準拠して測定される、排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値が、あらかじめ設定した許容可能な最大値を超える場合は、排気ガス浄化用触媒が許容限度を超えて劣化したと判定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の触媒劣化判定法は、上記排気ガス浄化用触媒において、米国FTPモードに準拠して測定した自動車排気ガスのエミッション値、及びその自動車に搭載した上記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を、排気ガス浄化用触媒の劣化の進行に伴って経時で測定することにより、上記エミッション値及び酸素ストレージ量の間の対応関係をあらかじめ明らかにすることによって、特定の酸素ストレージ量を有する上記排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値を推算できるようにし、エミッション値の許容可能な最大値を定め、エミッション値を前記許容可能な最大値以下にすることが可能な、上記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量の最小値を決定し、さらに、別の前記排気ガス浄化用触媒について測定した酸素ストレージ量の値が前記最小値を下回る場合は、上記別の排気ガス浄化用触媒は許容限度を超えて劣化していると判定することを含むことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、内燃機関からの排気ガスを浄化する触媒としての機能を発現するための、貴金属を担持し、かつ酸素ストレージ能を有する金属酸化物(A)、及びこの金属酸化物(A)よりも大きな酸素ストレージ量を有する金属酸化物(B)を触媒劣化検出用として含む材料を、排気ガス浄化用触媒を構成する触媒基材の排気ガス流路の表面にコートした排気ガス浄化用触媒が、その排気ガス浄化用触媒について測定された酸素ストレージ量の値から、その排気ガス浄化装置を搭載した自動車の排気ガスの米国FTPモードに準拠して測定されたエミッション値を推算することができ、そのエミッション値があらかじめ定めた許容可能な最大値を超えるか否かによって、触媒が許容限度を超えて劣化しているか否かの判定を容易かつ正確に行うことができることを見出し完成したものである。
【0017】
さらに、一般に、自動車排気ガスのエミッション値と、排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量との間には、触媒の種類ごとに決まった一対一の対応関係があることに基づき、本発明の排気ガス浄化用触媒において、米国FTPモードに準拠して測定された、この排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値が、それぞれ0.015g/マイル、0.025g/マイルになる場合に対応する、その自動車に搭載した排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量が、0.1g以上になるように、上記の金属酸化物(B)の量を調節して触媒基材にコートすることによって、上述した、触媒の酸素ストレージ量からのエミッション値の推算がきわめて容易になることを見出し完成したものである。
【0018】
さらに本発明の排気ガス浄化用触媒においては、排気ガス流れ方向に向かって、排気ガス出口側に近い後半分の触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている前記金属酸化物(B)の量と比較して、排気ガス流れ方向に向かって、排気ガス入口側に近い前半分の触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている金属酸化物(B)の量を少なくすることによって、排気ガス浄化触媒の排気ガス入口側の熱容量が低減するため、触媒が排気ガスによって暖まりやすくなって暖機性が向上し、かつ、この触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値が低くなり、優れた特性の排気ガス浄化用触媒になることを見出し完成したものである。
【0019】
本発明は、上記の通り、酸素ストレージ量に基づく劣化の判断が容易な排気ガス浄化用触媒、及びその排気ガス浄化用触媒の劣化判定法に関するものである。以下、本発明の排気ガス浄化用触媒と劣化判定法に分けて説明する。
【0020】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、少なくとも、貴金属が担持され、かつ酸素ストレージ能を有する金属酸化物(A)、及びこの金属酸化物(A)よりも大きな酸素ストレージ能を有する金属酸化物(B)が触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている。
【0021】
上記金属酸化物(A)は、酸素ストレージ能を有する金属酸化物に貴金属が担持されたものである。酸素ストレージ能とは、上述した通り、酸素を吸蔵・放出することができる能力をいう。この酸素ストレージ能を有する金属酸化物としては、CeO2、ZrO2、CeO2−ZrO2複合酸化物、CeO2−ZrO2−希土類複合酸化物等を用いることが好ましく、CeO2−ZrO2複合酸化物、及び/又はCeO2−ZrO2−希土類複合酸化物を用いることが特に好ましい。この酸素ストレージ能を有する金属酸化物の形状は、表面積が大きいことから粉末であることが好ましい。この酸素ストレージ能を有する金属酸化物に貴金属を担持する。担持する貴金属は、Pt、Pd、Rhから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。金属酸化物への貴金属の担持は、公知の方法を任意に使用することができるが、例えば、貴金属塩の水溶液を金属酸化物に吸水担持し、乾燥後、空気中、400〜600℃で焼成する方法が好ましい。上記酸素ストレージ能を有する金属酸化物への貴金属の担持量は、その金属酸化物の質量(g)に対して、0.00015〜0.25g/gであることが、耐熱性に優れ、コストアップを抑えることができる点から好ましい。このように、貴金属が担持され、かつ酸素ストレージ能を有する金属酸化物(A)は、排気ガス浄化能力を有するものである。
【0022】
上記金属酸化物(B)は、上記Pt、Pd、Rhから選ばれる1種以上の貴金属が担持されていても、貴金属が担持されていなくてもよく、又は、触媒基材にコートする金属酸化物(B)のうちの一部が、上記1種以上の貴金属が担持されているものでもよい。金属酸化物(B)は、金属酸化物(A)より大きな酸素ストレージ能を有する金属酸化物であり、具体的には、同一質量の金属酸化物(B)及び金属酸化物(A)のそれぞれの酸素ストレージ量を比較したときに、金属酸化物(B)の酸素ストレージ量が金属酸化物(A)の酸素ストレージ量より大きいことを要する。金属酸化物(B)としては、酸素ストレージ能が高いことから、CeO2−ZrO2複合酸化物、及び/又はCeO2−ZrO2−希土類複合酸化物を用いることが特に好ましい。金属酸化物の酸素ストレージ量は、公知の方法によって測定することができ、例えば、熱天秤(TG)等によって測定することができる。また、特開2000−191677号公報記載の方法により酸素ストレージ量を推定することもできる。
本発明における酸素ストレージ量は、熱天秤を使用して測定した値及び前記公報記載の方法による推定値のいずれを用いることもできる。
【0023】
上記金属酸化物(A)及び金属酸化物(B)は、触媒基材の排気ガス流路表面にコートする。排気ガス流路表面とは、排気ガス浄化用触媒の、排気ガスと接触する表面をいう。この触媒基材は、金属製、セラミックス製等のハニカム構造体等の、自動車排気ガス浄化用触媒の基材として用いられる構造体が好ましく、セラミックス製ハニカム構造体を用いることがさらに好ましく、高い耐熱性を有し、熱膨張係数が小さい等の点からコージェライト製ハニカム構造体を用いることが、特に好ましい。このようなセラミック製ハニカム構造体は、市販されており容易に入手可能である。このような触媒用構造体をモノリスともいう。
【0024】
この触媒基材に、上記金属酸化物(A)及び金属酸化物(B)をコートする方法は、任意に公知の方法の中から選択して使用することができるが、例えば、水、金属酸化物を含むスラリーを調製し、塗布、吹きつけ、浸漬等の方法を使用して、このスラリーを触媒基材にコートし、乾燥、焼成を行う方法が好ましい。焼成条件は、空気中、200〜700℃で行うことが好ましい。
【0025】
本発明においては、さらに、金属酸化物(A)及び金属酸化物(B)を触媒基材にコートする量、及び触媒基材上にコートする部位を制御することによって、特に好ましい排気ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0026】
すなわち、本発明の排気ガス浄化用触媒においては、触媒基材の排気ガス流路表面を、排気ガス流路方向に向かって、触媒の排気ガス入口側に近い前半分と、触媒の排気ガス出口側に近い後半分とに分け、この後半分にコートされる金属酸化物(B)の量よりも、前半分にコートされる金属酸化物(B)の量が少なくなるように金属酸化物(B)の触媒基材へのコート量を調節することが好ましい。排気ガス浄化用触媒は、高温の排気ガスによって暖まることにより排気ガス浄化能力が高まる。したがって、排気ガス浄化用触媒の排気ガス入口側に近い排気ガス流路表面に、より多くの金属酸化物(B)をコートすると、排気ガス浄化用触媒の排気ガス入口側の熱容量が大きくなるため、触媒入口側が排気ガスによって暖まりにくくなり、それにより、触媒が排気ガス浄化機能を充分に発現できるようになるのが遅くなるため、好ましくない。金属酸化物(B)は、触媒基材の上記排気ガス入口側に近い前半分にコートしなくてもよい。排気ガス浄化用触媒の排気ガス入口側にコートする金属酸化物(B)の量を少なくすることによって、上記の通り、排気ガスによって排気ガス浄化用触媒が暖まりやすいため、触媒全体の酸素ストレージ量が同一であっても、その触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値が小さくなるという効果がある。
【0027】
本発明の排気ガス浄化用触媒においては、上記金属酸化物(A)及び金属酸化物(B)の他に、本発明の効果が失われない範囲で任意に選択した材料を触媒基材にコートすることができる。そのような材料としては、例えば、本質的に酸素ストレージ能を有しない金属酸化物及び/又は貴金属が担持され、かつ本質的に酸素ストレージ能を有しない金属酸化物があげられ、具体的にはアルミナ(Al2O3)及び/又は貴金属が担持されたアルミナが例示できる。
【0028】
金属酸化物(A)及び金属酸化物(B)、あるいは金属酸化物(A)、金属酸化物(B)、及びその他の材料は、触媒基材に順次コートすることも、また、各金属酸化物等を混合してコートすることも、また、これらを併用してコートすることもできる。さらに、触媒基材に金属酸化物をコートした後、さらに貴金属等を触媒基材上の金属酸化物に担持することもできる。
【0029】
触媒基材にコートする、上記金属酸化物(A)及び金属酸化物(B)の量は、以下のように定めるのが好ましい。すなわち、金属酸化物(A)は、触媒基材にコートされた金属酸化物(B)及び所望により用いる他のコート材料と合わせ、排気ガス浄化用触媒に必要とされる排気ガス浄化能力を充分に確保可能な量をコートする。これに対して、排気ガス浄化のための使用に伴う排気ガス浄化用触媒の劣化により、米国FTPモードに準拠して測定された自動車排気ガスのエミッション値が、0.015g/マイルになったときの、排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量と、さらに上記触媒の劣化が進行し、上記エミッション値が、0.025g/マイルになったときの、上記触媒の酸素ストレージ量との差が、0.1g以上になるように、金属酸化物(B)の量を調節してコートすることが好ましい。実際には、触媒基材への金属酸化物(B)のコート量、コート部位を種々変更して排気ガス浄化触媒を作成し、排気ガスを通過させて、その触媒の耐久劣化試験を行い、その触媒の劣化に伴って変化する酸素ストレージ量、及びその触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値を測定することによって、上記条件を満たすための、触媒基材への金属酸化物(B)のコート量及びコート部位を定めることができる。具体的には、そのようにして定めた量及び部位に、金属酸化物(B)をコートした例を、実施例1及び実施例2に示す。
【0030】
上記エミッションの許容最大値の近傍領域において、触媒の酸素ストレージ量の変化が小さいと、この領域では、測定された触媒の酸素ストレージ量から、エミッション値を推算することが困難である。これに対して、上述した酸素ストレージ量とエミッション値の関係を満たす排気ガス浄化触媒は、エミッションの許容最大値の近傍領域において、触媒の酸素ストレージ量を測定することによって、エミッション値を充分正確に推算することができる程度に、エミッション値の変化に対応して、触媒の酸素ストレージ量の変化も大きいため、触媒が許容可能な限度を超えて劣化しているか否かを容易に判定することができる。
【0031】
次に、本発明の排気ガス浄化用触媒が許容可能な限度を超えて劣化しているか否かの判定のための、触媒劣化判定法について具体的に説明する。
【0032】
排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量と、その排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値には、きわめて明確な対応関係がある。すなわち、排気ガス浄化用触媒の劣化に伴って、その触媒の酸素ストレージ量は低下し、あわせて、エミッション値は増大し、これらの酸素ストレージ量とエミッション値の間には一対一の対応関係がある。さらに、別の排気ガス浄化用触媒であっても、触媒基材、触媒にコートされた金属酸化物等の組成及びコート量等が同一で、実質的に同じ触媒どうしは、触媒の酸素ストレージ量とエミッション値の対応関係は同一である。すなわち、1種類の排気ガス浄化用触媒について、1つの触媒の耐久劣化試験を行い、その触媒の劣化の進行にしたがって変化する、触媒の酸素ストレージ量及びその触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値を測定し、酸素ストレージ量とエミッション値との間の対応関係をあらかじめ得ておくことによって、実質的に同一種類の別の排気ガス浄化用触媒について測定した酸素ストレージ量から、その別の排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車のエミッション値を推算することができる。このエミッション値の推算は、たとえば、上記酸素ストレージ量及びエミッション値をグラフ化しておく方法又数式化しておく方法を用いて行うことができるが、これらに限定されない。なお、上記の、排気ガス浄化用触媒の耐久劣化試験を行うことによって、その触媒の酸素ストレージ量とエミッション値の対応関係を得ることができるほか、実際にその排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車を使用し、使用にともなって劣化する排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量と自動車のエミッション値との対応関係を得ておくこともできる。
【0033】
前述したように、自動車からの排気ガス中に含まれる物質の量が一定値以下であること、すなわち、エミッション値は、許容可能な最大値以下であることが求められる。したがって、上記触媒の酸素ストレージ量とエミッション値との間の対応関係にもとづき、エミッション値を許容可能な最大値以下にすることができる排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量の最小値を決定することができる。ここで、上記対応関係を求めた排気ガス浄化用触媒と実質的に同一な別の排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を測定し、その別の触媒が、上記決定した酸素ストレージ量の最小値以下である場合は、その別の排気ガス浄化用触媒は、許容可能な限度を超えて劣化したものと判断できる。
【0034】
劣化したものと判定された触媒は、新しい排気ガス浄化用触媒と交換する等の措置をとることができる。
【0035】
以下実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
【0036】
【実施例】
以下の実験で用いた、CeO2−ZrO2複合酸化物は、Ce:Zrが、55:45のモル比を有する複合酸化物である。なお本発明では、排気ガス浄化用触媒基材として、セラミック製モノリスを用いたが、これは、コージェライト製のハニカム構造体である。
【0037】
[実施例1]
γ−Al2O3及びCeO2−ZrO2複合酸化物(質量で、γ−Al2O3:CeO2−ZrO2=100:80)の混合物の粉末180g当たり、Pt及びRhが各々1.5g及び0.5gの割合で担持されて得られた粉体、並びに、CeO2−ZrO2複合酸化物の粉末50g当たり、Ptが1.0gの割合で担持されて得られた粉体を、それぞれ質量比180:50で含むスラリーを調製した。このスラリーを、壁厚50μm、セル数900cpsi(セル/平方インチ)、容量1.1Lのセラミックス製モノリスに、容量1リットル当たり固形分で233gコートし、乾燥後、500℃で焼成した。さらに、焼成後のセラミックス製モノリスの排気ガス入口側の前端部20mmに、セラミックス製モノリスの容量1リットル当たり10gの割合でPtを担持し、モノリス触媒を調製した。
【0038】
[実施例2]
CeO2−ZrO2複合酸化物の粉末50g当たり、Ptが1.0gの割合で担持されて得られた粉体を含むスラリーを、壁厚50μm、セル数900cpsi(セル/平方インチ)、容量1.1Lのセラミックス製モノリスの、排気ガス出口側にあたる、後側2/3のみに、セラミックス製モノリスの容量1リットル当たり、固形分で51gコートし、乾燥後、500℃で焼成した。さらに、この焼成後のセラミックス製モノリス全体に、γ−Al2O3及びCeO2−ZrO2複合酸化物(質量で、γ−Al2O3:CeO2−ZrO2=100:80)の混合物の粉末180g当たり、Pt及びRhが各々1.5g及び0.5gの割合で担持されて得られた粉体を含むスラリーを、セラミックス製モノリスの容量1リットル当たり、固形分で182gコートし、乾燥後、焼成した。さらに、焼成後のセラミックス製モノリスの排気ガス入口側の前端部20mmに、モノリスの容量1リットル当たり、10gのPtを担持し、モノリス触媒を調製した。
【0039】
[比較例]
γ−Al2O3及びCeO2−ZrO2複合酸化物(質量で、γ−Al2O3:CeO2−ZrO2=100:80)の混合物の粉末180g当たり、Pt及びRhが各々2.5g及び0.5gの割合で担持されて得られた粉体を含むスラリーを調製した。このスラリーを、壁厚50μm、セル数900cpsi(セル/平方インチ)、容量1.1Lのセラミックス製モノリスに、モノリスの容量1リットル当たり、固形分で183gコートし、乾燥後、500℃で焼成した。さらに、焼成後のセラミックス製モノリスの排気ガス入口側の前端部20mmに、モノリス容量1リットル当たり、10gのPtを担持して、モノリス触媒を調製した。
【0040】
[参考例]
γ−Al2O3及びCeO2−ZrO2複合酸化物(質量で、γ−Al2O3:CeO2−ZrO2=110:80)の混合物の粉末190g当たり、Pt及びRhが各々1.5g及び0.5gの割合で担持されて得られた粉体を含むスラリーを調製し、壁厚50μm、セル数600cpsi、容量1.3Lのセラミックス製モノリスに、モノリスの容量1リットル当たり、固形分で192gコートし、乾燥後、焼成して、床下モノリス触媒を調製した。なお、この床下モノリス触媒は、実施例及び比較例で調製したモノリス触媒と組み合わせて用いるため、3つ調製した。
【0041】
[貴金属を担持した金属酸化物の酸素ストレージ量の測定]
実施例1で用いたγ−Al2O3及びCeO2−ZrO2複合酸化物の混合物の粉末180g当たり、Pt及びRhが各々1.5g及び0.5gの割合で担持されて得られた粉体の酸素ストレージ量を熱天秤(TGA)を使用して測定したところ、このPt及びRhを担持した酸化物の混合物182g当たりの酸素ストレージ量は、0.7gであった。
また、実施例1で用いたCeO2−ZrO2複合酸化物の粉末50g当たり、Ptが1.0gの割合で担持されて得られた粉体の酸素ストレージ量を測定したところ、このPtを担持した複合酸化物51g当たりの酸素ストレージ量は、0.9gであった。
【0042】
[評価方法]
実施例1、2、及び比較例で調製したモノリス触媒を、自動車エンジンの排気ガス出口から、約20cm排気ガス進行方向下流であって、自動車のスタートアップ触媒に相当する位置に搭載し、さらに、スタートアップ触媒から排気ガス進行方向下流約1mの位置に、参考例で製造した床下モノリス触媒を搭載した。エンジンからの排気ガスは、配管を通って、モノリス触媒を通過し、さらに配管を通じて床下モノリス触媒を通過する。モノリス触媒へ入る排気ガス温度は800℃、床下モノリス触媒へ入る排気ガス温度は700℃とし、ストイキフィードバック(理論空燃比フィードバック)及びフューエルカット(燃料遮断)を各5秒毎に繰り返し、触媒の耐久試験を行った。
耐久試験後に、モノリス触媒の酸素ストレージ量(g)を測定した。酸素ストレージ量は、特開2000−191677号公報記載の方法によって推定量を得た。
【0043】
さらに、排気量2.2Lの試験車両のスタートアップ触媒に相当する位置に耐久試験後のモノリス触媒を搭載し、試験車両の床下触媒の位置に耐久試験後の床下モノリス触媒を搭載して、米国のFTPモードでエミッション評価を行い、エミッション値を測定した。モノリス触媒の酸素ストレージ量及び試験車両のエミッション値の関係を、図1に示す。
上記の耐久試験、及び試験車両を用いた上記エミッション評価は、エミッション値が上昇し、約0.03g/マイルになるまで、継続して行った。
【0044】
[評価結果]
図1に示すように、比較例のモノリス触媒を用いた場合は、エミッション値が0.015〜0.03g/マイルの範囲では、酸素ストレージ量が0.1g前後であり、その変化がきわめて小さく、酸素ストレージ量から、エミッション値を正確に推算することが困難である(図1中のA部)。これに対して、実施例1及び実施例2のモノリス触媒を用いた場合は、エミッション値が0.015〜0.03g/マイルの範囲内においても、エミッション値及び酸素ストレージ量の間に良好な直線性を有し、酸素ストレージ量から、エミッション値を高い確度で推算することができる。
【0045】
【発明の効果】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、貴金属が担持され、かつ酸素ストレージ能を有する金属酸化物(A)、及び金属酸化物(A)よりも酸素ストレージ能が高い金属酸化物(B)を含む材料を触媒基材にコートし、さらに触媒基材上で金属酸化物(B)をコートする部位、及び金属酸化物(B)のコート量を最適なものにすることによって、その触媒について測定した酸素ストレージ量の値から、米国FTPモードに準拠して測定される、その触媒を搭載した自動車からの排気ガスのエミッション値を、許容可能なエミッション値の最大値近傍で正確に推算することが可能である。また、触媒の排気ガス入口側の前半分にコートされている金属酸化物(B)の量を、排気ガス出口側の後半分にコートされている量より少なくすることによって、触媒の暖機性が向上され、エミッション値の低い排気ガス浄化用触媒となる。
【0046】
さらに、触媒が許容限度を超えて劣化しているか否かを判定したい場合、その触媒の酸素ストレージ量を測定し、その測定した酸素ストレージ量から、その触媒を自動車に搭載した場合に、その自動車からの排気ガスが、許容可能なエミッション値の最大値を超えるか否かの判定を、本発明の触媒劣化判定方法にしたがって容易に行うことができる。測定した酸素ストレージ量の値から、その許容可能なエミッション値の最大値を超えると判定された触媒は、交換等の措置をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量、及び、米国FTPモードに準拠して測定された、その触媒を搭載した自動車の排気ガスのエミッション値の関係を示したグラフである。
Claims (4)
- 貴金属が担持され、かつ酸素ストレージ能を有する金属酸化物(A)、及び前記金属酸化物(A)よりも大きな酸素ストレージ能を有する金属酸化物(B)を含む材料が、触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている排気ガス浄化用触媒であって、
米国FTPモードに準拠して測定された自動車排気ガスのエミッション値が、それぞれ0.015g/マイル、0.025g/マイルになる場合の、前記自動車に搭載した前記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量の差が、触媒当たり0.1g以上になるように、前記金属酸化物(B)のコート量が調節されていることを特徴とする、排気ガス浄化用触媒。 - 排気ガス流れ方向に向かって、排気ガス出口側に近い後半分の触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている前記金属酸化物(B)の量と比較して、排気ガス流れ方向に向かって、排気ガス入口側に近い前半分の触媒基材の排気ガス流路表面にコートされている前記金属酸化物(B)の量が少ないことを特徴とする、請求項1に記載の前記排気ガス浄化用触媒。
- 請求項1又は2のいずれか1項に記載の前記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を測定し、前記酸素ストレージ量の値から推算した米国FTPモードに準拠して測定される、前記排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車排気ガスのエミッション値が、あらかじめ設定した許容可能なエミッション値を超える場合は、前記排気ガス浄化用触媒が許容可能な限度を超えて劣化したと判定することを特徴とする、触媒劣化判定法。
- 米国FTPモードに準拠して測定された自動車排気ガスのエミッション値、及び前記自動車に搭載した、請求項1又は2のいずれか1項に記載の前記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量を、排気ガス浄化用触媒の劣化の進行に伴って経時で測定することによって、前記エミッション値及び前記酸素ストレージ量の間の対応関係をあらかじめ明らかにすることによって、特定の酸素ストレージ量を有する前記排気ガス浄化用触媒を搭載した自動車の前記エミッション値を推算できるようにし、
前記エミッション値の許容可能な最大値を定め、
前記エミッション値を前記許容可能な最大値以下にすることが可能な、前記排気ガス浄化用触媒の酸素ストレージ量の最小値を決定し、
別の前記排気ガス浄化用触媒について測定した酸素ストレージ量の値が前記最小値を下回る場合は、前記別の排気ガス浄化用触媒は許容可能な限度を超えて劣化していると判定する
ことを含むことを特徴とする、排気ガス浄化用触媒の劣化判定法。
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