JP4303880B2 - パワーユニット支持装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はパワーユニットの前後に液封マウントを設けたパワーユニット支持装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
パワーユニットの前後等を複数の液封マウントで支持することは公知である。また、液封マウントの構造として、仕切壁で区画された主液室と副液室、これら両液室をエンジンのアイドル時に連通して液柱共振を発生するアイドルオリフィス通路、弾性変形により主液室の内圧を吸収する弾性可動膜であってその膜剛性を可変とする剛性可変膜、並びにアイドル時にアイドルオリフィス通路を開くアイドルオリフィス開閉手段及び剛性可変膜を自由状態又は変形規制状態にして膜剛性を変化させる膜剛性可変手段とを備えたものも公知である(一例として、特開平10−38017号がある)。
【0003】
なお、本願において、開閉式のアイドルオリフィス通路とアイドルオリフィス開閉手段を有する液封マウントをコントロールマウントといい、そのうちさらに剛性可変膜とその膜剛性可変手段をも有するものを特に複式コントロールマウントということにする。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例のように剛性可変膜とその膜剛性可変手段を備えると、アイドル時に剛性可変膜を弾性変形不能に固定することによりアイドルオリフィス通路へ送り込む液体流量を大量にして良好な液柱共振を発生させ、その後通常走行時におけるようなより高周波側の振動に対しては剛性可変膜を弾性変形自由にして主液室の内圧を吸収して低動バネ化することができる。
【0005】
しかしながら、本願発明者らは鋭意研究の結果、エンジン振動による車両の振動及び騒音低減に対する液封マウントの弾性制御は、単にアイドル時と一般走行時の切換えでは足りず、アイドル状態から発進時に移行して急激にエンジンの回転数が増大したとき、液封マウントの剛性が高くなってパワーユニットから車体への振動伝達が大きくなるため、かかる発進時における液封マウントの振動低減能力の増大もしくは低動バネ化を図り、パワーユニットから車体への振動伝達を阻止もしくは低減することが極めて重要であることを見出した。
【0006】
また、このような複式コントロールマウントは極めて高価になるため、パワーユニットの前後等を支持する一対の液封マウントを全て複式コントロールマウントにすることはコスト的に不利であり、できれば一方をより安価なコントロールマウントにしてコストダウンを図るとともにあたかも全てを複式コントロールマウントにしたかのような動特性を得るように制御できれば、防振性能並びにコスト面で有利になる。そこで本願発明はこのような要請の実現を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本願のパワーユニット支持装置に係る第1の発明は、振動発生側又は振動受け側のいずれか一方側へ取付けられる第1取付部材と、他方側へ取付けられる第2取付部材と、これらの間に介在される弾性本体部材とを備え、弾性本体部材を壁の一部とする主液室と、この主液室と仕切り部材で仕切られ、可撓膜部材で覆われる副液室と、これら両液室を連通するオリフィス通路とを備えた液封マウントを複数用いてパワーユニットを車体へ支持するとともに、クランク軸を挟んで互いに反対側となる位置へ配置された第1液封マウントと第2液封マウントを備えるパワーユニット支持装置において、
前記第1液封マウント及び第2液封マウントのいずれか一方を、エンジンのアイドル時に連通して液柱共振を発生するアイドルオリフィス通路、
発進時に前記アイドル時の液柱共振よりも高周波側で液柱共振を発生する発進時共振手段及び弾性変形により主液室の内圧を吸収する剛性可変膜、
並びにアイドル時にアイドルオリフィス通路を開くアイドルオリフィス開閉手段、
及び剛性可変膜を自由状態又は変形規制状態にして膜剛性を変化させる膜剛性可変手段とを備えた複式コントロールマウントとし、
前記第1液封マウント及び第2液封マウントのいずれか他方を、前記アイドルオリフィス通路及び前記アイドルオリフィス開閉手段とを備えたコントロールマウントにするとともに、
アイドル時に前記第1液封マウント及び第2液封マウント間で前記各アイドルオリフィス開閉手段をそれぞれの液柱共振を発生する周波数が一致するように前記各アイドルオリフィス開閉手段を制御するか、又は前記第1液封マウントのアイドルオリフィス開閉手段を開いた状態から閉じた状態にしたとき前記第2液封マウントの液柱共振が発生するように開閉タイミングをずらして前記各アイドルオリフィス開閉手段を制御するかのいずれかに制御し、
かつ、前記第1液封マウントの膜剛性可変手段を、アイドル時又は発進時のいずれかに前記剛性可変膜の膜剛性を上げるように制御することを特徴とする。
【0008】
第2の発明は上記第1の発明において、前記第2液封マウントは、前記主液室又は副液室へ連通して液体流動を許容する発進オリフィス通路とその一端を閉塞して液体流動により弾性変形する発進オリフィス用可動膜で構成された前記発進時共振手段を備えることを特徴とする
【0009】
【発明の効果】
第1の発明によれば、第1液封マウントを発進時共振手段を有する複式コントロールマウントとし、かつ第2液封マウントを膜剛性可変手段が省略されたコントロールマウントとし、これら第1液封マウントと第2液封マウントをそれぞれクランク軸を挟んで互いにパワーユニットの反対側に位置させ、各アイドルオリフィス開閉手段を相互に関連づけて制御するので、例えばアイドル時に第1液封マウントと第2液封マウントの各アイドルオリフィス開閉手段をそれぞれの液柱共振を発生する周波数が一致するように制御すれば、アイドル時における全体の動特性が低動バネとなり、第1液封マウントのアイドルオリフィス開閉手段を開いた状態から閉じた状態にしたとき前記第2液封マウントの液柱共振が発生するように異なるタイミングで制御すれば、全体の動特性は、第1液封マウントと第2液封マウントにおける反力ベクトルの位相差を変化させ、合成ベクトルを減少する振動位相制御により全体入力を低減する(以下、これを簡単にして全体入力低減という)。
【0010】
また、発進時には第1液封マウント側に発進時共振手段と膜剛性可変手段が設けられているので、アイドル時から発進時へ移行してエンジンの回転数が急激に上昇しても、アイドル時の液柱共振よりも高周波側で発進時共振手段による液柱共振を発生して低動バネとなり、発進時におけるより高周波側の振動を有効に吸収できる。
【0011】
そのうえ、膜剛性可変手段を制御して膜剛性を下げれば第1液封マウントが低動バネとなり、逆に膜剛性を上げればアイドルオリフィス通路における液柱共振の効果が増大するから位相変化が大きくなる。その結果、クランク軸の回転に伴って変化する前後の振動を効果的に吸収できるから、アイドル時と発進時においてそれぞれ動特性を低動バネ又は全体入力低減に設定できる。
【0012】
したがって、発進時におけるパワーユニットから車体への振動伝達を阻止もしくは低減することができるとともに、第1液封マウントと第2液封マウントを関連づけて制御することにより、パワーユニット支持装置全体として相乗効果のある全体入力低減や低動バネの動特性を得ることができ、全体の動特性を任意に変化させることができる。
【0013】
しかも、高価な複式コントロールマウントを、パワーユニットの前後等を支持する一対の液封マウントのうち一方側だけに用い、他方をより安価なコントロールマウントにできるので、コストダウンを図ることができる。そのうえ前後等を複式コントロールマウントにした場合とほぼ同等の防振性能を得ることができ、防振性能並びにコスト面で有利になる。
【0014】
第2の発明によれば、複式コントロールマウントではない側のコントロールマウントに発進時共振手段として発進オリフィス通路とその一端を閉塞する発進オリフィス用可動膜を設けたので、このコントロールマウント側でも発進時に発進オリフィス用可動膜の弾性変形により発進オリフィス通路内の液体が流動して所定の周波数で液柱共振を発生することができる。その結果、複式コントロールマウントの膜剛性可変手段を制御して、コントロールマウント側の発進時における動バネ特性に同期させることも位相差を形成するようにすることも確実かつ任意にできるようになる。その結果、あたかも全てを複式コントロールマウントにしたかのような動特性を得るように制御することができ、防振性能及びコスト面で有利になる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて実施例を説明する。図1はパワーユニットの支持構造を概略的に示すものであり、パワーユニット1はそのエンジン1aにおけるクランク軸1bの軸方向を車体の左右方向へ向けた横置きエンジン形式であり、クランク軸1bを挟んだ前後位置を第1液封マウント2及び第2液封マウント3で支持され、かつ左右を他のマウント4,5で支持されている。これらのマウントは車体6側へ取付けられている。本実施例においては第1液封マウント2をパワーユニットの前側に設け、第2液封マウント3を後側へ設けるものとして説明する。
【0016】
第1液封マウント2及び第2液封マウント3はいずれもコントロールマウントであり、第1液封マウント2及び第2液封マウント3の各制御部は電磁ソレノイド等の適宜切換部材7a,7b,8aにより大気開放又はエンジンの吸気負圧等の負圧源への接続のいずれかに切換制御される。なお、切換部材7a,7b,8aは便宜的に示したものであり、後述する同時切換関係にあるもの相互は共通化されるため、実際はこれよりも使用数が削減可能である。
【0017】
図2は本実施例における複式コントロールマウントの一例を示し、この複式コントロールマウント10はパワーユニット側へ取付けられる第1取付部材11と、車体側に取付けられる第2取付部材12の間をゴム等の弾性本体部13で連結し、この弾性本体部13を壁の一部とする主液室14を設けてある。主液室14は仕切り部材15に設けた減衰オリフィス16により副液室17と常時連通する。副液室17は仕切り部材15とダイヤフラム18の間に形成される。主液室14及び副液室17内には公知の非圧縮性液体が封入される。減衰オリフィス16は、一般走行時のような比較的低周波数域における振動により液柱共振を発生して振動を減衰させる。
【0018】
仕切り部材15にはアイドルオリフィス通路20が設けられ、その副液室17側の開口部をアイドル側開閉部材である開閉バルブ21によりダイヤフラム18の一部をアイドルオリフィス通路20の出口へ接離させることにより開閉される。開閉バルブ21は内側に密閉空間である制御室22を形成し、底部に形成された通路23を介して切換部材7aと接続し、負圧と大気へ接続切換して開閉バルブ21を図の上下方向へ移動させることによりアイドルオリフィス通路20の出口を開閉する。開閉バルブ21を開くとアイドルオリフィス通路20内で液体流動が生じて液柱共振する。この液柱共振は、減衰オリフィス16が対象とするよりも高周波側に発生するアイドル時におけるものであって、これによりアイドル時の入力振動を吸収する。
【0019】
さらに仕切り部材15には主液室14へ開放されたオリフィスホール24が形成され、その底部にゴム等の適宜弾性部材からなり、主液室14の内圧変動をその弾性変形で吸収する発進オリフィス用可動膜25が設けられている。この発進オリフィス用可動膜25は膜剛性を変化するものではなく、本願発明の発進オリフィス通路であるオリフィスホール24と共もに発進時共振手段を構成する。
【0020】
発進時共振手段は、アイドル時から発進時へ移行してエンジンの回転数が急激に上昇したとき、主液室14内の液体流動によってオリフィスホール24内の液体が液柱共振を発生して、アイドル時の液柱共振よりも高周波側で低動バネとなり、発進時におけるより高周波側の振動を吸収する。なお、この液柱共振における共振周波数は発進オリフィス用可動膜25の膜特性及びオリフィスホール24の開口面積並びに高さで決まる容積によって自由に設定できる。
【0021】
さらに、主液室14に臨む弾性本体部13の一部が主液室14の内圧変動に応じて弾性変形自在の剛性可変膜26をなし、この剛性可変膜26は、外方に設けられた制御室27を切換部材7bへ接続することにより、大気開放状態で自由に弾性変形でき、負圧状態では、制御室27内のストッパ28へ密着固定されることにより膜剛性を高くして弾性変形不能もしくは弾性変形しにくくなっている。すなわち、剛性可変膜26は膜剛性可変の部材であり、制御室27及びストッパ28が膜剛性可変手段となる。
【0022】
アイドル時以外で剛性可変膜26の膜剛性を下げて自由に弾性変形させれば、主液室14の内圧上昇を吸収することにより低動バネ化でき、逆にアイドル時において制御室27内を負圧にしてストッパ28へ密着固定することにより膜剛性を高くすれば、主液室14からアイドルオリフィス通路20内へ送り込む液体量を増大させて液柱共振のエネルギーを大きくすることができる。
【0023】
主液室14内には、第1の取付部材11と一体化された傘部材19が設けられ、オリフィスホール24内における液柱共振よりも高周波側の600Hz程度で液柱共振を発生する。なお、4気筒4サイクルエンジンの場合におけるアイドル時及び発進時における周波数は、二次振動を基準にしている。したがって、高次振動を考慮した場合には、エンジンの回転数で定義することが妥当であり、この場合には、アイドル時を500〜1000rpm、発進時を1000〜2000rpmとすることもできる。
【0024】
図3は複式コントロールマウントの別例であり、共通部は共通符号を付すにとどめ、相違点のみ説明する。この複式コントロールマウント30は、仕切り部材15に形成されたオリフィスホール24が主液室14と入り口32を介して連通し、出口25で副液室17と連通するとともに、この入り口32は側部可動膜33の弾性変形を利用して進退する開閉部材31で開閉される。この開閉部材31は本願発明の発進側開閉部材に相当する。
【0025】
側部可動膜33は図2における剛性可変膜26と同様であり、膜剛性を変化させて主液室14内の内圧を吸収する機能を有するとともに、開閉部材31を動作させるためのものでもあり、側部可動膜33を負圧で吸引するか大気開放させれば開閉部材31を開閉移動できる。この負圧又は大気開放への切り換えは、図2における制御室27等と同様構造の作動部34を介して行われ、作動部34を図1の切換部材7bと接続して負圧と大気へ接続切換することにより側部可動膜33の作動を制御する。
【0026】
但し、開閉部材31を直接ソレノイド等で移動させることもできる。開閉部材31を直接ソレノイド等で動作させる場合は、作動部34ソレノイドやモータ等の部材となり、切換部材7bは大気と負圧の間を切換るバルブではなくリレーなどの制御用部材になる。なお、制御室22側は図2と同様に切換部材7aと接続されて開閉バルブ21を作動制御するようになっている。
【0027】
このようにすると、開閉部材31の移動により入り口32を開いたときのみオリフィスホール24が主液室14と副液室17を連通し、内部でアイドルオリフィス通路20よりも高周波側の液柱共振を生じて低動バネになる。また、入り口32を閉じれば、オリフィス通路としての機能はなくなるから、アイドル時に入り口32を閉じかつアイドルオリフィス通路20を開けば、主液室14からアイドルオリフィス通路20へ流れ込む流量を増大させることができる。
【0028】
なお、図1における第1液封マウント2には、図2の複式コントロールマウント10又は図3の複式コントロールマウント30のいずれかを選択して用いることができる。
【0029】
図4はコントロールマウントの一例であり、このコントロールマウント40は図2の複式コントロールマウント10において、剛性可変膜26並びに制御室27及びストッパ28からなる膜剛性可変手段を省いたものに相当する。したがって、図2と共通機能部分については共通符号を用いかつ重複説明を省略する。
【0030】
図5はコントロールマウントの他の例であり、このコントロールマウント50は上記コントロールマウント40からさらに発進時共振手段であるオリフィスホール24と発進オリフィス用可動膜25を省いたものに相当し、仕切り部材15に減衰オリフィス通路16とアイドルオリフィス通路20が設けられているだけである。なお開閉バルブ21は同様に設けられている。また、その他の部分はほぼ同様構造であるから、図4と共通機能部分については共通符号を用いかつ重複説明を省略する。
【0031】
表1は前側の第1液封マウント2に図2の複式コントロールマウント10を用い、後側の第2液封マウント3に図4のコントロールマウント40又は図5のコントロールマウント50を用いた制御の組合せを一覧にしたものである。すなわち、図4のコントロールマウント40を組み合わせたケース1と2及び図5のコントロールマウント50を組み合わせたケース3と4につき、アイドル時の動特性、発進時の動特性並びにその後の一般走行時等における乗り心地に関する動特性をまとめたものである。
【0032】
すなわち、図4のコントロールマウント40を用いると、アイドル時には低動バネ化(ケース1)及び振動位相制御(ケース2)の双方が可能であり、発進時には低動バネ化のみが可能である。図5のコントロールマウント50を用いると、アイドル時における低動バネ化(ケース3)及び振動位相制御(ケース4)の双方が可能である。但し、発進時には液柱共振手段を有しないので低動バネ化及び振動位相制御のいずれも顕著な効果は生じない。また、各ケースとも減衰オリフィス通路16を有するため、これにより乗り心地を良好にするように振動を吸収できる。
【0033】
図6〜図10は制御方法を説明するグラフである。図6はケース1における前後の第1液封マウント2及び第2液封マウント3のアイドル時における制御例を示す動バネ曲線のグラフであり、横軸に周波数(Hz)、縦軸に動バネ係数(K)と位相をとり、上下2段に第1液封マウント2(前と表示)と第2液封マウント3(後と表示)を同じ周波数で表示してある。なお、以下の説明では第1液封マウント2に図2の複式コントロールマウント10を用い、第2液封マウント3に図4のコントロールマウント40を用いるものとする。
【0034】
この例で上段の第1液封マウント2は、アイドル時に開閉バルブ21を負圧により図2の下方へ移動させてアイドルオリフィス通路20を開くことにより、周波数f01で液柱共振し、動バネ係数は極小値(以下、これを動バネボトムという)となる。その後、開閉バルブ21を開いたままにすると反共振による動バネ係数の極大値(以下、これを動バネピークという)が生じるところ、開閉バルブ21をf02で開から閉へ切り換えると動バネピークをカットできる。
【0035】
このとき、剛性可変膜26はアイドル時に制御室27を負圧にしてストッパ28へ密着固定しておくとともに、発進時に周波数f22で制御室27を大気開放側へ切り換えて弾性変形自由にする。このため、周波数f22で動バネ定数が低くなり、さらにその後オリフィスホール24内における液柱共振により周波数f31で動バネボトムを形成する。なお、図中の破線は位相であり、周波数f01で180°、f02で0°近傍になる。
【0036】
一方、第2液封マウント3では、開閉バルブ21を第1液封マウント2側と同期させて開くことにより、周波数f01で液柱共振して動バネボトムを形成し、その後に開閉バルブ21をf12で開から閉へ切り換えることにより、アイドル域ではほぼ第1液封マウント2と同様に動バネ曲線を変化させ、位相も一致させるので、全体の動特性が低動バネとなる。発進時にはオリフィスホール24内における液柱共振により周波数f31で動バネボトムを形成する。したがって、発進域においても低動バネ化する。
【0037】
図7はケース1におけるバリエーションであり、図6がアイドル時の動特性重視であったものに対して発進域の動特性を重視した例であり。この例では第1液封マウント2及び第2液封マウント3の組合わせに変わりはなく、ただ周波数f22よりも高周波側となる周波数f32で第1液封マウント2における制御室27を大気開放側から負圧側に切り換えて剛性可変膜26を弾性変形自由状態から固定状態に変える点で相違する。
こうすると、第1液封マウント2のアイドル域における動バネ定数の下がりが少なくなり図6と比べて低動バネ化の程度は少なくなるが、発進域におけるオリフィスホール24の液柱共振が強くなって低動バネ化が大きくなる。したがって、発進域の低動バネ化を促進できる。なお、図7と図6を比較すれば明らかなように、膜剛性を図6のようにアイドル時で高くしておけば、アイドルオリフィス通路20へ流れ込む液体流量が増大するため、液柱共振が強くなり、位相も大きくなる。
【0038】
図8はケース2のアイドル域特性重視制御(図6)に対応し、上段の第1液封マウント2は図6と同様に制御する。これに対して下段の第2液封マウント3では、開閉バルブ21を第1液封マウント2側とずらせて開き、周波数f11で液柱共振して動バネボトムを形成し、その後に開閉バルブ21をf12で開から閉へ切り換える。このときf11における位相はピークをなし、第1液封マウント2との位相差は略150°近傍程度になる。
したがって、アイドル域において振動位相制御が行われ、全体入力を低減できる。
【0039】
なお、発進域においては図6の下段と同様になって全体は低動バネ化する。また、図7のように発進域特性重視の制御をするには、剛性可変膜26を図7の上段におけるように切り換えれば同様の特性が得られる(図9)。
【0040】
図10はケース3及び4に対応し、上段に第1液封マウント2を図6と同様にした制御を示し、中段には第2液封マウント3に図5のコントロールマウント40を用いてケース3に対応する制御を示し、下段はそのケース4に対応する制御を示す。
【0041】
まず、中段において、第2液封マウント3の開閉バルブ21を第1液封マウント2側と同期させて開くことにより、周波数f01で液柱共振して動バネボトムを形成し、その後に開閉バルブ21をf12で開から閉へ切り換えることにより、アイドル域ではほぼ第1液封マウント2と同様に動バネ曲線を変化させ、位相も一致させるので、全体の動特性が低動バネとなる。但し発進域においては動バネ定数を制御できない。
【0042】
また、下段のように、第2液封マウント3の開閉バルブ21を第1液封マウント2側とずらせて開き、周波数f11で液柱共振して動バネボトムを形成し、その後に開閉バルブ21をf13で開から閉へ切り換える。このときf11における位相は第1液封マウント2と大きくずれ、その位相差は略150°近傍程度になる。したがってアイドル時の振動位相制御が可能になる。
【0043】
次に、本実施例の作用を説明する。第1液封マウント2を発進時共振手段が設けられた複式コントロールマウントとし、第2液封マウント3をコントロールマウントにしたので、アイドル時から発進時へ移行してエンジンの振動数が急激に上昇しても、第1液封マウント2においてアイドル時の液柱共振よりも高周波側で発進時共振手段による液柱共振を発生して高減衰となり、発進時におけるより高周波側の振動を有効に吸収できる。
【0044】
このとき、第1液封マウント2を図2のように構成すれば、発進時共振手段をオリフィスホール24とその一端を閉塞して液体流動により弾性変形する発進オリフィス用可動膜25で構成したので、発進オリフィス用可動膜25の弾性変形によりオリフィスホール24内の液体が流動して所定の周波数で液柱共振を発生させることができ、発進時共振手段を簡単な構造にできる。また、剛性可変膜26を発進オリフィス用可動膜25とは別に設けたので、発進時共振手段と独立して制御可能になるため、剛性可変膜26に対する制御の自由度が大きくなり、制御が容易になる。
【0045】
一方、第1液封マウント2を図3のように構成すれば、開閉部材31により発進オリフィスの機能を停止又は発揮の切換を明確にできるため、アイドルオリフィス通路20と発進オリフィス通路であるオリフィスホール24の機能を明確に分離でき、かつ相互の影響を生じないようにできるため、設定が容易になる。
【0046】
また、第2液封マウント3を図4のように構成すると、制御が必要な可変部材を用いずに発進時共振手段を設けることができ、第2液封マウント3側の発進時における動特性を改善できる。しかも、この第1液封マウント2と第2液封マウント3をそれぞれクランク軸1bを挟んで互いにパワーユニットの反対側となる前後に位置させ、各開閉バルブ21を相互に関連づけて制御するので、アイドル時に第1液封マウント2と第2液封マウント3の各開閉バルブ21を同時に開閉制御すれば、アイドル時における全体の動特性が低動バネとなり、時間差をもって異なるタイミングで時間差制御すれば、振動位相制御により全体の動特性は全体入力低減になる。
【0047】
さらに、第1液封マウント2の剛性可変膜26を制御することにより、発進時において低動バネ化することができる。したがって、発進時におけるパワーユニット1から車体への振動伝達を阻止もしくは低減することができるとともに、第1液封マウント2と第2液封マウント3を関連づけて制御することにより、パワーユニット支持装置全体として相乗効果のある全体入力低減や低動バネの動特性を得ることができ、全体の動特性を任意に変化させることができる。
【0048】
しかも、高価な複式コントロールマウントを、パワーユニットの前後等を支持する一対の液封マウントのうち一方側だけの第1液封マウント2に用い、他方の第2液封マウント3をより安価なコントロールマウントにできるので、コストダウンを図ることができる。
【0049】
そのうえ、コントロールマウントを図4のように構成することによって位相差による全体入力低減化並びに低動バネ化のいずれも確実にできる。また、第2液封マウント3を図5のコントロールマウント50とすれば、最も安価なコントロールマウントを使用することになり、大幅なコストダウンが可能になる。
【0050】
なお、第1液封マウント2と第2液封マウント3の各アイドルオリフィス開閉手段における切換部材7aと8aと第1液封マウント2の膜剛性可変手段における切換部材7bのいずれかを組合せて同時切換する場合には組み合わせる切換部材を共通にでき、これにより、切換部材の使用個数を削減できるので、部品点数の削減により構造が簡素化し、かつコストダウンが可能になる。さらに、上記実施例は横置きエンジンに関するものであるが、縦置きにした場合にはクランク軸の左右へ第1液封マウント2と第2液封マウント3を配置すればよい。
また、図5のコントロールマウント50は、減衰オリフィス通路16とアイドルオリフィス通路20を備えたものであり、このような液封マウントは発進オリフィス通路を欠くため発進域の特性が改善されないものであった(表1のケース3、4参照)。しかしながら、アイドルオリフィス通路20をチューニングして発進オリフィス通路として機能するよう設定すれば、コントロールマウント50は、全く構造的に同じであっても特性的には減衰オリフィス通路16と発進オリフィス通路(20)を備えたものになる。
図10において、このようにチューニングしたコントロールマウント50の開閉バルブ21を開閉するタイミングを発進域へずらし、例えば、周波数f22よりも高周波側で動バネボトムを発生するようにすれば、減衰オリフィス通路16による乗り心地向上機能を保ったまま発進域における振動位相制御が可能になる。
さらに、コントロールマウント50からなる第2液封マウント3における乗り心地向上機能を無視できる場合には、減衰オリフィス通路16をアイドルオリフィス通路又は発進オリフィス通路としてチューニングすれば、アイドル域及び発進域における動特性を向上できる。コントロールマウント40についても同様のことが可能である。
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】 パワーユニットの支持構造を概略的に示す図
【図2】 複式コントロールマウントの全断面図
【図3】 別の複式コントロールマウントの全断面図
【図4】 コントロールマウントの全断面図
【図5】 別のコントロールマウントの全断面図
【図6】 ケース1の制御例を示す動特性のグラフ
【図7】 同様の制御例を示す動特性のグラフ
【図8】 ケース2の制御例を示す動特性のグラフ
【図9】 同様の制御例を示す動特性のグラフ
【図10】 ケース3及び4の制御例を示す動特性のグラフ
【符号の説明】
1:パワーユニット、2:第1液封マウント、3:第2液封マウント、6:車体、7a:切換部材、7b:切換部材、8a:切換部材、8b:切換部材、10:複式コントロールマウント、15:仕切り部材、20:アイドルオリフィス通路、21:開閉バルブ、24:オリフィスホール、25:発進時オリフィス弾性可動膜、26:剛性可変膜、30:複式コントロールマウント、40:コントロールマウント、50:コントロールマウント
Claims (2)
- 振動発生側又は振動受け側のいずれか一方側へ取付けられる第1取付部材と、他方側へ取付けられる第2取付部材と、これらの間に介在される弾性本体部材とを備え、弾性本体部材を壁の一部とする主液室と、この主液室と仕切り部材で仕切られ、可撓膜部材で覆われる副液室と、これら両液室を連通するオリフィス通路とを備えた液封マウントを複数用いてパワーユニットを車体へ支持するとともに、クランク軸を挟んで互いに反対側となる位置へ配置された第1液封マウントと第2液封マウントを備えるパワーユニット支持装置において、
前記第1液封マウントを、常時連通している減衰オリフィス通路、
エンジンのアイドル時に連通して液柱共振を発生するアイドルオリフィス通路、
発進時に前記アイドル時の液柱共振よりも高周波側で液柱共振を発生する発進時共振手段及び弾性変形により主液室の内圧を吸収する剛性可変膜、
並びにアイドル時にアイドルオリフィス通路を開くアイドルオリフィス開閉手段、
及び前記剛性可変膜を自由状態又は変形規制状態にして膜剛性を変化させる膜剛性可変手段とを備えた複式コントロールマウントとし、
前記第2液封マウントを、前記アイドルオリフィス通路及びアイドルオリフィス開閉手段を備えたコントロールマウントにするとともに、
アイドル時に前記第1液封マウント及び第2液封マウント間でそれぞれの液柱共振を発生する周波数が一致するように前記各アイドルオリフィス開閉手段を制御するか、又は前記第1液封マウントのアイドルオリフィス開閉手段を開いた状態から閉じた状態にしたとき前記第2液封マウントの液柱共振が発生するように開閉タイミングをずらして前記各アイドルオリフィス開閉手段を制御するかのいずれかに制御し、
かつ、前記第1液封マウントの膜剛性可変手段を、アイドル時又は発進時のいずれかに前記剛性可変膜の膜剛性を上げるように制御することを特徴とするパワーユニット支持装置。 - 前記第2液封マウントは、前記主液室又は副液室へ連通して液体流動を許容する発進オリフィス通路とその一端を閉塞して液体流動により弾性変形する発進オリフィス用可動膜で構成された前記発進時共振手段を備えることを特徴とする請求項1に記載したパワーユニット支持装置。
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