JP4301434B2 - 研磨砥粒及び研磨具 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
この発明は、シリコン、ガラス等の硬脆材料や、鉄鋼、アルミニウム等の金属材料を仕上げ加工するための砥粒及び研磨具に関するものであり、殊に研磨加工の高品位化、高能率化を図るとともに、耐用寿命が長い砥粒及び研磨フィルムを提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
シリコンウェーハやガラスディスクをはじめ、各種硬脆材料や金属材料からなる部品の最終仕上げには、研磨剤スラリーを用いた研磨加工が用いられてきた。この加工法では微細な砥粒を使用しやすいため優れた仕上げ面粗さを容易に得ることができ、また大量の研磨剤スラリーを使用することで安定した加工特性を維持することができるので、多くの加工現場で慣用されている。
しかし、研磨加工においては大量の研磨剤スラリーを要するとともに、大量の廃液を排出するので、環境への負荷が極めて高く、また加工能率を格別に向上させることはできない。そのために、研磨加工能率に優れ、優れた仕上げ面粗さが得られる固定砥粒加工工具の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
砥粒加工において良好な加工面粗さを得るには、通常、微細な砥粒を使用するのが有利であり、固定砥粒加工工具においても同様である。しかし、鏡面のような優れた加工面を得るために、固定砥粒加工工具において粒径数μm以下の砥粒を使用すると、加工時に砥粒結合材と工作物との接触が生じやすく、その結果、加工抵抗の急増、砥粒の脱落等が生じ、最悪の場合には加工不可の状態に陥ってしまう。また切りくずなどによる目詰まりは、加工能率を低下させてしまうばかりでなく、反った研磨加工面にスクラッチ、傷等を与えてしまうという問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するものとして、微細な粒子を用いて造粒し、凝集した状態の粉末を砥粒として使用する固定砥粒加工工具があり、特開2000−190228号公報、特開2000−237962号公報、特願2001−221811号明細書に記載されたものは、凝集砥粒を基材上にバインダ樹脂で固定化して研磨具を構成したものである。これらの固定砥粒加工工具においては、微細な一次粒子の作用により優れた加工面粗さが得られ、同時に凝集した砥粒による高い加工能率が実現される。さらに、特願2001−221811号明細書に、一次粒子同士の結合力(凝集力)と加工能率との関係が記載され、また、加工面品位を損なうことなく、加工能率を向上させるには一次粒子同士の結合力を適正化するのが有効であることが記載されている。
【0005】
しかし、特願2001−221811号明細書に記載されているように、加工面品位を損なうことなしに、加工能率を向上させるには限界がある。なぜならば、一次粒子同士の結合力(凝集力)があまり弱すぎると、凝集砥粒(二次粒子)自身が破壊され、加工能率が極めて低く、加工物の前加工面を完全に除去することができない。その反面、一次粒子同士の結合力(凝集力)が高くなればなるほど、その凝集砥粒本来の特徴がなくなり、上記の通常の大粒径単粒子砥粒に近づき、加工能率は向上されるものの、スクラッチなどが発生しやすくなり、加工面品位が大きく劣化してしまう。
【0006】
また、特開2000−190228号公報、特開2000−237962、特願2001−221811号明細書に記載されたものは、いずれもその砥粒が単一成分のものであって、砥粒材質の如何とその加工特性との関連についての配慮はなされていない。
様々に試行を重ね分析を行った結果、加工対象物にもよるが、一次粒子の材質が非常に重要なファクターとして関係することが判明し、さらに、二次粒子が単成分の金属酸化物一次粒子によるものでなく、加工物に対して、それぞれ機械的除去作用を生じる第1の金属酸化物粒子とケミカル作用を生じる第2の金属酸化物粒子を有する2種類以上の微細な金属酸化物粒子を混合して複合粒子を形成したものの方が高加工面品位を損なうことなしに、加工能率を更に向上させるのに、極めて効果的であることが判明した。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−190228号公報
【特許文献2】
特開2000−237962号公報
【特許文献3】
特願2001−221811号明細書
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の課題は、機械的除去作用を生じる第1の金属酸化物粒子とケミカル作用を生じる第2の金属酸化物粒子を有する2種類以上の微細な金属酸化物粒子を混合して複合粒子を形成した砥粒の研磨特性に着目して、ナノメータオーダの優れた加工面品位を損なうことなく、従来よりさらに高研磨能率を実現できる砥粒を提供することであり、また安価でかつ簡単に製造できる砥粒及び研磨具を提供することである。
【0009】
【課題解決のために講じた手段】
【解決手段】
(請求項1に対応)
上記課題を解決するために講じた手段は、多数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子が、一次粒子同士の結合点にネックが形成される温度で加熱処理して得た砥粒であり、多数の一次粒子が部分的に、かつ、その間に空隙が形成された状態で結合している粒状の多孔質体からなる砥粒であることを前提として、上記一次粒子は加工物に対して、それぞれ機械的除去作用を生じる第1の金属酸化物粒子である酸化ジルコニウムと、ケミカル作用を生じる第2の金属酸化物粒子である酸化セリウム、又はシリカを同時に用いた複合粒子であり、上記複合粒子の第2の金属酸化物粒子は、第1の金属酸化物粒子に結合点のネックを除き固溶しておらず、該複合粒子の圧縮破壊強度が20MPa乃至300MPaであることである。
【0010】
【作用】
上記多数の一次微細研磨材粒子が部分的に、かつ、その間に空隙が形成された多孔質体であるから、微細な一次粒子の作用により優れた加工面粗さが得られ、同時に結合された多孔質体による高い加工能率が実現される。また、切りくずは超微細研磨材粒子とともに加工面から離脱しやすく、目詰まりなどによる加工ダメージを生じる可能性が著しく低減される。さらに、上記一次粒子は加工物に対して、それぞれ機械的除去作用を生じる第1の金属酸化物粒子である酸化ジルコニウムと、ケミカル作用を生じる第2の金属酸化物粒子である酸化セリウム、又はシリカを用いることによって、上記第2の金属酸化物粒子は加工物表面と化学作用を起し、柔らかい化学反応層、あるいは水和層を生じさせ、上記機械的除去作用を生じる第1の金属酸化物粒子により、メカニカル的(機械的)に除去することができる。また、二つの機能を持つ金属酸化物粒子を複合することによって、加工中に常に加工点において、二つの機能を持つ金属酸化物粒子を供給することができ、同時にこの二つの機能を果たすことができるから、加工物表面を均一に加工することができる。この手法は、上記従来技術では困難な加工能率の向上に、極めて有効である。つまり、従来技術と同様に高加工面品位を損なうことなしに、加工能率を顕著に向上させることができる。
【0011】
加工物にもよるが、金属酸化物は古くから砥粒として用いられている。例えば、Al2O3、CeO2、ZrO2、SiO2、Fe2O2、TiO2、Cr2O3などがある。ガラスや石英やSiの酸化膜などのガラス質のワークに対して、酸化セリウムはもっとも化学的な作用が高いと知られている。ここで、酸化ジルコニウムを機械的除去作用を生じる第1金属酸化物粒子として、酸化セリウムをケミカル作用を生じる第2の金属酸化物粒子として混合することで、ガラス質のワーク加工において、確実に高加工面品位を極めて高い研磨能率で得ることができる。同様に、Siに対して、ケミカル作用が知られているSiO2をZrO2粒子と混合し、確実に高加工面品位を高い研磨能率で得ることができる。
【0012】
そして、高加工面品位を損なうことなく、さらに加工能率を向上させるためには、加工物に応じて、ケミカル作用と機械的除去作用はそれぞれの金属酸化物粒子で選択的に担うことがより効果的である。しかし、両粒子が多孔質体に単独で存在するのではなく、固溶してしまうと、各金属酸化物粒子はそれぞれ本来の役割を果たすことができなくなる。
また、複合粒子の圧縮破壊強度が20MPa以上300MPa以下であることから、高加工面品位と高加工能率を両立して実現できる。圧縮破壊強度が20MPaよりも小さい場合は、複合粒子自身が加工中につぶされて、ワークの前加工面を完全に除去することができない。一方、圧縮破壊強度が300MPaよりも大きい場合、今度は機械的な除去作用が強すぎて、加工による新たなスクラッチなどのダメージをもたらしてしまう。
【0013】
【実施態様1】
(請求項2に対応)
実施態様1は、解決手段について、その複合粒子の上記一次粒子同士がバインダを介することなく互いに結合されていることである。
【作用】
一次粒子同士を結合するためのバインダを含まないことから、加工時におけるバインダと加工物表面との接触による研磨抵抗の増加、あるいは切りくずがバインダに付着することによる加工面品位の劣化を回避することができる。また、バインダを含まないため、一次粒子同士の結合力がより調整しやすく、研磨中に確実に砥粒の磨耗を起こし、加工点に確実に新しい切刃を供給することで、より確実に高加工面品位を高加工能率で達成できる。
【0014】
【実施態様2】
(請求項3に対応)
実施態様2は、解決手段、又は上記実施態様1について、その一次粒子の平均粒径が5μm以下であることである。
【作用】
一次粒子の平均粒径が5μm以下であることから、より高加工面品位を得ることができる。5μmよりも大きい粒子を用いると、加工面に加工による新たにスクラッチなどの加工ダメージをもたらす恐れがある。
【0015】
(削 除)
【0016】
【実施態様3】
(請求項4に対応)
実施態様3は、上記解決手段、実施態様1又は実施態様2について、その圧縮破壊強度が20MPa乃至160MPaであることである。
【作用】
圧縮破壊強度が20MPa乃至160MPaであることから、より確実に高加工面品位と高加工能率を両立して実現できる。
【0017】
【実施態様4】
(請求項5に対応)
実施態様4は、解決手段、又は上記実施態様1乃至実施態様3のいずれかの砥粒を研磨面に有する研磨具である。
【作用】
砥粒を研磨面に有する研磨具を用いて加工することで、高能率で、かつ、高品位な加工面を得ることが可能となり、研磨具も長寿命となる。また、固定砥粒研磨具によってスラリーが不要となり、環境負荷が大幅に低減される。
【0018】
【実施態様5】
(請求項6に対応)
実施態様5は、上記実施態様4について、その砥粒の含有率が10体積%乃至90体積%であることである。
【作用】
複合粒子の含有率が10体積%以上90体積%以下であることにより、高能率で、かつ、高品位な加工面を得ることが特に効果的に達成される。前記複合粒子の添加率が10体積%未満であると添加の効果がなく、90体積%をこえると研磨具の結合剤量が少なすぎて、砥粒保持強度が著しく低下し、工具として用いることができない。
【0019】
【実施態様6】
(請求項7に対応)
実施態様6は、上記実施態様4又は実施態様5について、砥粒を基材フィルムに固定したものであって、砥粒を基材フィルムに固定するためのバインダ層の厚さが該砥粒の最大直径よりも小さいことである。
【作用】
上記砥粒を基材フィルムに固定するためのバインダ層の厚さが該砥粒の最大直径よりも小さいことで、砥粒の突き出し量が保証され、バインダが加工面と接触しにくくなり、加工面品位の低下を防止することが可能となる。
【0020】
【実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
砥粒としては、加工対象物にもよるが、一般には硬質無機材料であって、平均粒径が5μm以下の一次粒子の微細粉末が凝集して、平均粒径10〜300μm程度、さらに好ましくは平均粒径40〜100μm程度の二次粒子を備えたものが適する。通常の砥粒に供する金属酸化物材料は、シリカ、セリア、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等である。凝集体はゾルゲル法、スプレードライヤー等の手段でつくることができる。
【0021】
【実施例1】
次いで、本発明の実施例を説明する。
まずは、50〜90nmからなる超微細金属酸化物粒子ZrO2とCeO2粉末(CeO2は10mol%の比率で)を混合し、有機結合剤、例えば樹脂などを用いず、水で泥しょう化し、スプレードライヤーで噴霧させて、所望のサイズを有する、例えば上記一次粒子11,12の平均粒径で50μmのZrO2をベースとしたZrO2−CeO2の複合二次粒子(顆粒)1を得る(一般的に、1μm〜300μmまでのサイズが得られる(粒度分布がシャープでないときに、分級プロセスを加える))(図1を参照)。平均粒径は堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて、乾式で測定を行った。上記平均粒径の値は頻度積算50%のところの粒径を用いた(通常、メジアン径とも言う)。しかし、通常スプレードライヤーでバインダなしで作製した顆粒の一次粒子同士の結合力は弱すぎる場合もある。従って、必要に応じて、ZrO2−CeO2複合粒子を電気炉の中に入れ、焼成を行った。
【0022】
一次粒子が加熱処理により成長するが、当該一次粒子がその構成物質の物質移動により成長するのみならず、粒子同士の結合箇所は、粒子の構成物質の物質移動により太くなり、不連続点のないなだらかな曲面となり、1葉双曲面状(鼓状)にくびれた、いわゆる「ネック」状となる(図8参照)。この加熱処理時の物質移動による一次粒子の成長及び「ネック」形成については、株式会社産業技術センター発行「セラミック材料技術集成」(昭和54年4月10日初版第1刷発行)の「2.3 物質移動の機構と焼結のモデル」に詳細に記載されている。この焼成工程においては、加熱温度および保持時間の度合いが一番重要な要素である。
【0023】
図9には焼成温度と一次粒子同士の結合力との関係の模式図を示している。焼成温度が高いほど、一次粒子同士の焼結が進み、それらの間の空隙がなくなり、多孔質体構造が失われて、完全な焼結体となるので、結合力が増大していく。また、一次粒子は2種類以上であるため、さらに状態図に従って加熱工程を設定して、CeO2がZrO2に固溶しないように工夫するのがもっとも重要である。焼成で得た複合二次粒子の結合力を評価するために、1個1個の粒子をピックアップし、圧縮破壊試験を行った。この圧縮破壊強度試験は、平松、岡、木山による報告(日本鉱業会誌、81、1024(1965))に基づく島津製作所(株)製微小圧縮試験機MCTM500PCを用いて行った。試験条件として、試験荷重を10〜1000mN、負荷速度は0.446mN/secとし、平面圧子を用いて、被測定複合二次粒子に対して圧縮を行い、複合二次粒子が圧縮破壊されたときの強度を測定する。
【0024】
さらに、焼成を行った後X線を用いて測定したところ、機械的除去作用が強いZrO2粒子11とケミカル作用が強いCeO212が単体で存在し、お互いに固溶していないことが確認された。
【0025】
次に、このようにして得た圧縮破壊強度が67MPaで、平均粒径が50μmの本発明による複合二次粒子1(図1)を、粒子の体積比が35体積%になるように、液状のウレタン樹脂と混合し、さらに有機溶媒を加え、溶液粘度を調整した後、撹拌機を用いて10分程度混合撹拌して混合物を作製した。撹拌は、室温で、回転数は砥粒を破壊しない程度として50rpmで行った。
この混合物を基材(厚さ約75μmのPETフィルム)22上にワイヤバーコータを用いて塗布し、その後、60℃に保った恒温槽内で1時間乾燥させ、研磨具である研磨フィルムAを得た(図2)。得られた塗布層(砥粒を有する部分)2の最大厚さは粒度分布を持つ本発明に係る砥粒(複合二次粒子1)の最大径にほぼ等しい厚さになる(上記のように溶媒を併用することによりバインダ層21の厚さを薄くすることが容易となる)。このように作製した研磨フィルムAを図3に示す加工装置のラップ定盤32に取り付け、最大高さ粗さRyが2μmとなるように調整した光学ガラスディスク(硼珪酸クラウンガラス(BK7相当品))31を研磨加工(加工条件:定盤回転数120rpm、加工圧力50kPa)した。その結果、1分間でスクラッチのない、最大高さ粗さRyが30nm以下の鏡面を得ることができた。
【0026】
ワークの表面写真および粗さチャートを図4(研磨加工前)、図5(研磨加工後)に示す。また、引き続きBK7を10枚研磨加工しても、加工能率や加工面粗さの大きな低下は認められなかった。
このように高能率で高加工面品位を得られたのは、複合二次粒子を構成するZrO2とCeO2によるそれぞれの寄与によるものと考えられる。CeO2は遊離砥粒としてもっとも使用されている砥粒種である。CeO2はガラスよりも硬さが遥かに低く、また、ガラスとの化学作用がもっとも大きいとことが知られている。本発明の複合粒子は、CeO2粒子がZrO2に固溶することなく、独立して存在するので、研磨加工中にBK7ガラスの表面に化学反応層を形成させ、そして、その化学反応層は複合粒子の中に存在するZrO2の微細粒子あるいは複合粒子自身により機械的に除去されるから、極めて高い加工能率で高加工面粗さを得ることができたものと考えられる。
【0027】
【比較例1及び比較例2】
上記実施例1と同じ方法で複合粒子を作製したが、圧縮破壊強度をそれぞれ16.2MPa(比較例1)と310.2MPa(比較例2)にした。そして、それぞれ研磨フィルムBとCを作製した。実施例1と同じように、ラップ定盤32に取り付け、最大高さ粗さRyが2μmとなるように調整した光学ガラスディスク(硼珪酸クラウンガラス(BK7相当品))31を1分間加工した(加工条件:定盤回転数120rpm、加工圧力50kPa)。研磨フィルムBの場合は、加工面粗さは多少改善された(0.23μmRy)が、しかし、鏡面には至らなかった。他方、研磨フィルムCの場合は、加工によって新たにスクラッチが発生し、加工面粗さが劣化してしまった(2.5μmRy)。この結果から、圧縮破壊強度が低すぎると複合粒子自身がつぶされてワークへの切込みが弱くなり物理的(機械的)な除去作用が失われ、前加工面を完全に除去することができなかったものと推測され、一方、圧縮破壊強度が高すぎると、ワーク表面の切込みが強すぎることになり、加工により新たなスクラッチをもたらすものと推測される。
従って、適切な一次粒子同士の結合力を有する二次粒子からなる砥粒だけが、高加工面品位(鏡面)を高能率で達成できるものと考えられる。そして、焼成条件を調整し、それぞれ圧縮破壊強度の異なるZrO2−CeO2複合粒子を作製し、研磨フィルムにしBK7ガラスに加工を適用したところ、図6に示す結果となった。
【0028】
複合粒子の圧縮破壊強度が20MPa以上300MPa以下であることから、高加工面品位と高加工能率を両立して実現できる。圧縮破壊強度が20MPaよりも小さい場合は、複合粒子自身が加工中につぶされて、ワークの前加工面を完全に除去することができない。一方、圧縮破壊強度が300MPaよりも大きい場合、今度機械的な除去作用が強すぎて、加工による新たなスクラッチなどのダメージをもたらしてしまう。
【0029】
【比較例3】
前記実施例1と同様な成分構成を用いたが、CeO2をZrO2に完全固溶化させた複合粒子βを作製した。また、上記実施例1と同じように圧縮破壊強度を測ったところ、96.5MPaである。そして、実施例1と同じようにそれを用いて同じ構成で研磨フィルムDを作製した。そして図3の加工装置を用いて同じようBK7ワークに対して、適用した結果、鏡面が得られなかった。そして、さらに加工時間を10分に延ばしても同じ結果であった。図7にBK7の前加工面と10分加工後の表面写真を示している。この結果から、ケミカル作用の強いCeO2が機械的除去作用の強いZrO2に完全に固溶してしまうと、CeO2本来のケミカル作用が失われて、加工中にBK7ガラスの表面と反応せず、柔らかい反応層が生じなくなり、あるいは少なくなり、複合粒子の働きがなくなり、全体的に研磨能率が下がったため、BK7ワークの前加工面を完全に除去することができなかったことが理解される。
以上の比較から、複合二次粒子を構成する第1相(ZrO2)と第2相(CeO2)がお互いに固溶することなく、単独に存在することによってのみ、両成分それぞれの役割を果たすことができ、高加工面品位を極めて高い加工能率で達成できることが明らかである。
【0030】
【比較例4及び比較例5】
ZrO2単成分(圧縮破壊強度は64MPa)による研磨フィルムEを上記実施例1と同じ方法で作製した(比較例4)。上記実施例1と同じ条件で、最大高さ粗さRyが2μmとなるように調整した光学ガラスディスク(硼珪酸クラウンガラス(BK7相当品))31を研磨加工(加工条件:定盤回転数120rpm、加工圧力50kPa)した。その結果、2分間でスクラッチのない、最大高さ粗さRyが30nm以下の鏡面を得ることができた。しかし、加工能率の点において、実施例1に比して劣る。換言すれば、複合粒子を用いた実施例1の場合はケミカル作用と機械的除去作用を併用することで、加工面品位を損なうことなしに、研磨能率が高く、比較例4の場合は加工能率は実施例1のほぼ1/2である。
【0031】
また、この研磨フィルムEを用いて、上記実施例1の加工方法で、加工中に、5wt%CeO2のスラリーを研磨フィルムの上に流しながら加工を行った(比較例5)。その結果、実施例1とほぼ同じ研磨能率が得られたが、しかし、加工面にスクラッチの発生が確認された。
複合粒子の砥粒の場合、加工点に同時に、確実に二つの機能を持つ金属酸化物粒子が同時に供給されるから、ケミカル作用による反応層が瞬時に程度よく機械的除去作用を生じる金属酸化物粒子に除去されるが、しかし、比較例5のように遊離砥粒を添加した場合、砥粒とワークとの加工点にケミカル作用を生じる金属酸化物粒子が均等に供給されるわけではなく、また、遊離砥粒が供給された場合は、ワーク全面に柔らかい反応層が生じ、機械的除去作用を生じる金属酸化物粒子により、スクラッチをより容易にもたらす可能性が高くなるものと考えられる。そして、上記従来技術の項で述べたように、加工後の洗浄工程に多くの時間が要した。つまり、複合粒子の形態ではなく、機械的除去作用を生じる金属酸化物粒子を固定砥粒工具にし、ケミカル作用を生じる金属酸化物粒子を遊離砥粒として添加することは、結局のところ、従来の遊離砥粒と同じ構成となり、固定砥粒のメリットが得られなくなるのである。
【0032】
【実施例2】
まずは、50〜90nmからなる超微細粒子ZrO2と70〜90nmからなるSiO2超微細粒子(SiO2は40mol%の比率で)を混合し、有機結合剤、例えば樹脂などを用いず、水で泥しょう化し、スプレードライヤーで噴霧させて、所望のサイズを有する、例えば平均粒径で30μmのZrO2をベースとしたZrO2−SiO2複合二次粒子(顆粒)を得る。上記実施例1と同じように、平均粒径は堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920)を用いて、乾式で測定した(なお、平均粒径の値は、いわゆるメジアン径、すなわち頻度積算50%のところの粒径を用いた)。
そして、同じように、ZrO2−SiO2複合二次粒子を電気炉の中に入れ、焼成を行った。この焼成工程においては、同じく加熱温度および保持時間が一番肝心であるので、基本的に状態図に従って加熱工程を設定しているが、第2相であるSiO2が第1層であるZrO2に固溶しないように工夫するのがもっとも重要である。焼成した複合二次粒子をX線で測定したところ両者の生成物であるZrSiO4は存在せず、SiO2が単体で存在し、ZrO2に固溶していないことを確認した。そして、上記実施例1と同じように、焼成した複合二次粒子の圧縮破壊強度を測定した。
【0033】
このようにして得られた圧縮破壊強度が112.5MPaの、平均粒径30μmの本発明に係る複合二次粒子βをその体積比が40体積%となるように液状のウレタン樹脂と混合し、さらに有機溶媒を加え、溶液粘度を調整した後、撹拌機を用いて10分程度混合撹拌して混合物を作製した。撹拌は、室温で、回転速度については砥粒を破壊しない程度の50rpmで行った。そして、以下は上記実施例1と同じように、この混合物を基材上(厚さ約75μmのPETフィルム)にワイヤバーコータを用いて塗布し、その後、60℃に保った恒温槽内で1時間乾燥させ、研磨具である研磨フィルムFを得た。得られた塗布層(砥粒を有する部分)の最大厚さは粒度分布を持つ本発明に係る砥粒の最大径にほぼ等しい厚さになる(上記のように溶媒を併用することによりバインダ層の厚さを薄くすることが容易となる)。
【0034】
そして研磨フィルムFを図3に示す加工装置のラップ定盤に取り付け、#2000相当の砥石で研削加工した直径50mmのシリコンウェーハを研磨加工した結果、5分間の加工時間で加工マーク(スクラッチ)のない、加工面粗さ20nmRy以下の鏡面が得られた。また、引き続きシリコンウェーハを10枚研磨加工しても、加工能率や加工面粗さの低下は認められなかった。
なお、本発明は一次粒子である砥粒の種類、造粒凝集方法、添加物の種類、研磨具結合材の種類、加工工具の形状、加工対象物において、上記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
【発明の効果】
この発明の効果は、各請求項に係る発明毎に整理すれば、次のとおりである。
1.請求項1に係る発明の効果
複合二次粒子が、多数の一次粒子が部分的に結合していてその間に空隙が形成されている粒状の多孔質体であって、上記一次粒子は少なくとも2種類の金属酸化物粒子を用いた複合二次粒子であるので、これを用いて研磨加工する時に、上記一次粒子がそれぞれの成分の機能、すなわち、一方がケミカル作用の機能を奏する酸化セリウム、又はシリカであり、他方が機械的除去作用の機能を奏する酸化ジルコニウムであり、これらの機能の複合作用によって高い能率で優れた加工面品位が得られる。
【0036】
上記ケミカル作用を生じる金属酸化物粒子は、他方の機械的除去作用を生じる金属酸化物粒子に結合点のネックを除き固溶しておらず、それぞれの物性を保持しているので、確実に各金属酸化物粒子のそれぞれの機能を奏することができる。例えば、ガラス加工において、ZrO2−CeO2複合粒子の場合、CeO2粒子は主にガラスとの化学反応層を形成させ、ZrO2は機械的な除去作用を起こすという機能である。シリコンウェーハの加工においては、ZrO2−SiO2複合二次粒子の場合、SiO2粒子は化学作用、ZrO2粒子は機械的除去作用を奏することになる。
因みに、ケミカル作用を生じる金属酸化物が機械的除去作用を生じる金属酸化物に固溶していると、各金属酸化物粒子本来の物性が保持されないので、それぞれの物性による機能を奏することができない。
また、複合二次粒子の圧縮破壊強度が20MPa以上で300MPa以下であることから、高加工面品位と高加工能率をともに実現できる。圧縮破壊強度が20MPaよりも小さい場合は、複合二次粒子が加工中につぶされて、ワークの前加工面を完全に除去することができない。一方、圧縮破壊強度が300MPaよりも大きい場合、今度は機械的な除去作用が強すぎて、加工による新たなスクラッチなどのダメージをもたらしてしまう。
【0037】
2.請求項2に係る発明の効果
一次粒子同士を結合するためのバインダを含まないことから、加工時におけるバインダと加工物表面との接触による研磨抵抗の増加、あるいは切りくずがバインダに付着することによる加工面品位の劣化を回避することができる。また、バインダを含まないため、一次粒子同士の結合力がより調整しやすく、研磨中に確実に磨耗を起こし、加工点に確実に新しい切刃を供給することで、高加工面品位の向上と高加工能率の向上が確実に実現される。
【0038】
3.請求項3に係る発明の効果
一次粒子の平均粒径が5μm以下であることから、より高加工面品位を得ることができる。5μmよりも大きい粒子を用いると、加工面に加工による新たにスクラッチ等の加工ダメージをもたらす恐れがある。
【0039】
(削 除)
【0040】
4.請求項4に係る発明の効果
複合二次粒子の圧縮破壊強度が20MPa以上で160MPa以下であることから、より確実に高加工面品位と高加工能率をともに実現できる。
【0041】
5.請求項5に係る発明の効果
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の砥粒を研磨面に有する研磨具を用いて加工することで、高能率で、かつ、高品位な加工面を得ることが可能となり、研磨具も長寿命となる。また、固定砥粒研磨具によってスラリーが不要となり、環境負荷が大幅に低減となる。
【0042】
6.請求項6に係る発明の効果
複合二次粒子の含有率が10体積%乃至90体積%であることによって、高能率化し、かつ加工面の高品位化が図られ、実用的な研磨工具を実現することができる。すなわち、上記複合二次粒子の添加率が10体積%未満であると複合二次粒子の添加効果がほとんどなく、90体積%を超えると研磨具の結合剤量が少なすぎて砥粒保持強度が著しく低下し、その結果、研磨機能が著しく低下し、工具としての実用に耐えられない。
【0043】
7.請求項7に係る発明の効果
上記研磨具が研磨フィルムであって、前記砥粒を基材フィルムに固定するためのバインダ層の厚さが該砥粒の最大直径よりも小さいことで、バインダが加工面と直接接触することを回避し、バインダ層が直接接触することによる加工面品位の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、複合二次粒子の断面構造を模式的に示す断面図である。
【図2】は、複合二次砥粒をフィルム基材に固定した研磨フィルムの断面構造を模式的に示す実施例の断面図である。
【図3】は、研磨装置を模式的に示す断面図である。
【図4】(a)は、研磨加工試験片の加工前の表面形状を示す写真であり、(b)はその表面粗さ測定結果を示す図である。
【図5】(a)は、研磨加工試験片の加工後の表面形状を示す写真であり、(b)はその表面粗さ測定結果を示す図である。
【図6】は、複合二次粒子の破壊圧縮強度と被加工面の表面粗さとの関係を示すグラフである。
【図7】は、ケミカル作用の強いCeO2が機械的除去作用の強いZrO2に固溶した砥粒による加工結果であり、(a)は、研磨加工試験片の加工前の表面形状を示す写真であり、(b)は10分加工後の写真である。
【図8】は、一次粒子が加熱処理により成長する様子を示す模式図であり、(a)は加熱処理前の模様、(b)は加熱処理後の模様である。
【図9】は、加熱処理の焼成温度と砥粒の一次粒子同士の結合力との関係を概略的に示すグラフである。
【符号の説明】
1:複合二次砥粒
2:塗布層(砥粒を有する部分)
11,12:一次粒子
21:バインダ層
22:基材
31:光学ガラスディスク
32:ラップ定盤
Claims (7)
- 多数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子が、一次粒子同士の結合点にネックが形成される温度で加熱処理して得た砥粒であり、その多数の一次粒子が部分的に、かつ、その間に空隙が形成されている状態で結合している粒状の多孔質体からなる砥粒であって、
上記一次粒子は加工物に対して、それぞれ機械的除去作用を生じる第1の金属酸化物粒子である酸化ジルコニウムと、ケミカル作用を生じる第2の金属酸化物粒子である酸化セリウム、又はシリカを同時に用いた複合粒子であり、
上記複合粒子の第2の金属酸化物粒子は、第1の金属酸化物粒子に結合点のネックを除き固溶しておらず、該複合粒子の圧縮破壊強度が20MPa乃至300MPaであることを特徴とする砥粒。 - 上記複合粒子の上記一次粒子同士がバインダを介することなく互いに結合されていることを特徴とする請求項1の砥粒。
- 上記一次粒子の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2の砥粒。
- 上記圧縮破壊強度が20MPa乃至160MPaであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかの砥粒。
- 上記請求項1乃至請求項4のいずれかの砥粒を研磨面に有することを特徴とする研磨具。
- 上記砥粒の含有率が10体積%乃至90体積%であることを特徴とする請求項5の研磨具。
- 上記砥粒を基材フィルムに固定したものであって、砥粒を基材フィルムに固定するためのバインダ層の厚さが該砥粒の最大直径よりも小さいことを特徴とする請求項5又は請求項6の研磨具。
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