図1は、本発明の一実施例であるシステムの構成図を示す。本実施例のシステムは、車両に搭載され車両走行時における運転者の認知,判断,操作を支援するための運転支援装置10を備えている。運転支援装置10は、マイクロコンピュータ等により構成される電子制御ユニット(以下、単にECUと称す)12を備えており、ECU12により、車両の速度や加速度等の走行データ、車両周辺の停止線までの距離や障害物の有無等の環境データ、及び車両運転者のアクセルオフからブレーキオンまでの時間や目線の動き,覚醒度等の運転行動データに基づいて運転支援制御を行う。
すなわち、ECU12には、DVDやCD,ハードディスク等により構成される地図データベース14が接続されている。地図データベース14には、車両の走行する道路上の各地点の位置(緯度や経度等)の地図情報が格納されていると共に、車両が通過走行する際に一時停止すべき所定の交差点や踏切等の位置の情報も格納されている。この格納されている一時停止すべき位置は、道路上に描かれた一時停止線の位置であり、同一道路においても車両の進行方向ごとに異なっている。地図データベース14に格納されている情報は、ECU12の指令により読み出される。尚、地図データベース14は、車両に搭載されている必要はなく、車両と無線通信可能なセンタに搭載され、所定のタイミングでその格納する地図情報を車両に提供するものであってもよい。
ECU12には、また、GPS(Global Positioning System)衛星からの信号(GPSデータ)を受信するGPSレシーバ16、及び、車両のヨー,ロール,ピッチ等による進行方向に応じた信号(INS(Inertial Navigation Sensor)データ)を出力するジャイロセンサ18が接続されている。ECU12は、GPSレシーバ16に受信されたGPSデータに基づいて自車両の現在位置(具体的には、緯度,経度,高度)を測位し、ジャイロセンサ18の出力するINSデータに基づいて自車両の進行方向を検出すると共に、検出された現在位置データと進行方向データとを融合して自車両の正確な現在位置を検出する。この検出された車両の現在位置は、必要に応じて、車室内に設けられた表示モニタのナビゲーションモード時において、地図データベース14から読み出されたその周囲の道路地図が指定の縮尺に合わせて表示モニタに表示される際に、その画像上の道路地図に重畳して表示される。
ECU12には、また、車体前部のバンパ等に配設されたミリ波レーダ20が接続されている。ミリ波レーダ20は、車両前方の所定範囲へ向けてミリ波を搬送波とする電波を照射し、前方障害物に反射した反射波を受信する機能を有している。ミリ波レーダ20は、受信した反射波から前方障害物の有無、前方障害物との距離及び相対速度に応じた信号を生成し、ECU12に向けて出力する。ECU12は、ミリ波レーダ20の出力信号に基づいて、自車両の前方所定範囲に前方障害物が存在するか否かを判別すると共に、肯定判定がなされる場合にはその障害物との距離及び相対速度を検出する。
ECU12には、また、車速センサ22、ブレーキスイッチ24、及びアクセルスイッチ26が接続されている。車速センサ22は、車両の速度Vに応じた信号を出力する。また、ブレーキスイッチ24は、車両運転者の操作するブレーキペダル近傍に配設されており、常態でオフ状態を維持し、ブレーキペダルが運転者に操作された場合にオン状態となる。アクセルスイッチ26は、車両運転者の操作するアクセルペダル近傍に配設されており、常態でオフ状態を維持し、アクセルペダルが運転者に操作された場合にオン状態となる。ECU12は、車速センサ22の出力信号に基づいて車両速度Vを検出すると共に、ブレーキスイッチ24の状態に基づいてブレーキ操作の有無を判別し、また、アクセルスイッチ26の状態に基づいてアクセル操作の有無を判別する。
ECU12には、スロットルアクチュエータ30、ブレーキアクチュエータ32、及びトランスミッションソレノイド34が接続されている。ECU12は、後述する手法により演算された結果に基づいて車両の走行を制御すべく各アクチュエータ30〜34を駆動する。スロットルアクチュエータ30は、ECU12から供給される指令信号に従って、車両動力であるエンジンに空気を供給するためのスロットルバルブを開弁させ、車両を加速させる。ブレーキアクチュエータ32は、ECU12から供給される指令信号に従って車輪を制動させ、車両を減速させる。また、トランスミッションソレノイド34は、ECU12から供給される指令信号に従って、自動変速機の入力から出力へ伝達される変速比を切り換える。
ECU12には、更に、車室内に設けられたスピーカ36及びディスプレイ38が接続されている。ECU12は、後述する手法により演算された結果に基づいてスピーカ36及びディスプレイ38を駆動する。スピーカ36は、ECU12から供給される指令信号に従って、車両運転者に聴覚的に所定の情報を提供し或いは所定の注意を喚起する音声出力を行う。また、ディスプレイ38は、ECU12から供給される指令信号に従って、自車両の現在位置周辺の道路地図や車両乗員に指定された周辺の道路地図を表示すると共に、必要に応じて車両運転者に視覚的に情報提供や注意喚起のための表示を行う。
図2は、本実施例の運転支援装置10における動作の流れを表した図を示す。本実施例においては、まず、上記した車両の走行データ、環境データ、及び運転行動データがECU12に入力される。ECU12は、入力された各種データに基づいて、所定のタイミングで運転者の走行時における認知,判断,操作を支援するための運転支援の方策を決定し、そして、決定された運転支援の方策に従って適当に各アクチュエータ30〜34、スピーカ36、及びディスプレイ38を駆動する。
図3は、本実施例の運転支援装置10において運転支援の方策を決定するために予め定められたマップの一例を示す。尚、図3において、マップとして、車両運転者の感じている車両走行上の危険度合いを表す主観的なリスク(以下、運転者リスクと称す)を縦軸に、かかる運転者リスクとは異なる、車両の置かれている車両走行上の危険度合いを表す客観的なリスク(以下、環境リスクと称す)を横軸に、それぞれ示している。以下、このマップを支援方策マップと称す。上記した本実施例における運転支援の方策は、運転者リスクと環境リスクとの関係に基づいて図3に示す如き支援方策マップを参照して3つの支援方策のうちから一つ選び出される。
具体的には、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも低い(主観的な危険度合いが小さい)一方で環境リスクが第2の所定値Re0よりも高い(客観的な危険度合いが大きい)場合には、客観的には現状の車両走行状態では安全走行を維持することができなくなるにもかかわらず運転者がその影響を低く見積もっていると判定できるので、運転支援方策として車両の安全走行を確保するための安全支援が選択される。この安全支援では、運転者リスクの大きさと環境リスクの大きさとの関係に応じて、より詳細には、図3に示す如き運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルSに応じて、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の認知を支援するための情報提供、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の運転操作判断を支援するための注意喚起・警報、及び、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者による運転操作を支援するための介入制御が選択的に行われる。
上記した情報提供が行われれば、運転者は車両がこれから直面し得る状況を認知することができ、その認知を基に車両の置かれている状況を判断して安全走行のための適切な運転操作を見極め、その運転操作を実現することができる。また、注意喚起・警報が行われれば、運転者は車両の置かれている状況および必要な運転操作を判断することができ、その判断を基に安全走行のための適切な運転操作を実現することができる。更に、介入制御が行われれば、運転者の意思によらずに自動的に車両の走行が制御され、安全走行のための適切な運転が実現される。
このように、上記した安全支援によれば、現状の走行状態では今後の安全走行を維持することができなくなるにもかかわらず運転者がその影響を低く見積もっている際、そのレベルに応じて、車両の安全走行を確保すべく、情報提供、注意喚起・警報、又は介入制御を実行することができ、従って、車両に客観的に近づいている走行上の影響を運転者が低く見積もっている状況を反映した最適な運転支援を実現することが可能となる。
また、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも高く(主観的な危険度合いが大きく)かつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも高い場合には、客観的に車両が現状の走行状態では安全走行を維持することができずかつ運転者もその状況を感じていると判定できるので、運転支援方策として運転者に対して走行上の安心を与えるための安心支援が選択される。この安心支援では、図3に示す如き運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルHに応じて、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者による運転操作を支援するための介入制御が行われる。
介入制御が行われれば、運転者による運転操作が安全走行を確保するうえで適切なものでないときにも、自動的に車両の走行が制御され、安全走行のための適切な運転が実現される。また、運転者が車両に対する走行上の影響を主観的に感じていれば、その状況を認知させるための運転支援を行うことは不要である。このように、上記した安心支援によれば、車両に現状の走行状態では安全走行を維持することができない走行上支障をきたす状況が近づきかつその影響を運転者が現に感じている際に、運転者に走行上の安心を与えるべく、介入制御を実行することができ、従って、運転者に対する煩わしい現状認知のための情報提供を抑制しつつ、かかる状況を反映した最適な運転支援を実現することが可能となる。
更に、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも高い一方で環境リスクが第2の所定値Re0よりも低い(客観的な危険度合いが小さい)場合には、客観的には現状の車両走行状態で安全走行を維持できるにもかかわらず運転者が車両走行に対する影響を過度に高く見積もっていると判定でき、運転者が運転操作に負担を感じていると判定できるので、運転支援方策として運転者の運転操作負担を軽減するための負担軽減支援が選択される。この負担軽減支援では、図3に示す如き運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルLに応じて、車両のアクセルやブレーキ,操舵を自動的に行う操作代行制御を可能とする処理が行われる。
操作代行制御が可能とされれば、運転者が運転操作負担を感じているときに操作代行制御が実行されることによりその運転者の運転操作負担を軽減することができる。このように、上記した負担軽減支援によれば、車両に安全走行を維持できない状況は近づいていないにもかかわらず運転者が車両走行上の影響を過度に高く感じている際、運転者の運転操作負担を軽減すべく、運転操作の代行制御を可能とすることができ、従って、かかる状況を反映した最適な運転支援を実現することが可能となる。
尚、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも低くかつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも低い場合には、車両が運転者による認知,判断,操作に従って通常どおりに走行しても、何ら支障は生じないと判定できるので、上記した安全支援、安心支援、及び負担軽減支援による運転支援は行われない。
図4は、上記の機能を実現すべく、本実施例の運転支援装置10においてECU12が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図4に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動されるルーチンである。図4に示すルーチンが起動されると、まずステップ100の処理が実行される。
ステップ100では、検出される環境リスクが第2の所定値Re0よりも高いか否かが判別される。尚、第2の所定値Re0は、車両に安全走行を維持することができるか否かの境界に設定される環境リスクのしきい値である。その結果、Re>Re0が成立しないと判別された場合は、客観的に車両に安全走行を維持できない走行上の支障は生じていないと判断できるので、次にステップ102の処理が実行される。一方、Re>Re0が成立すると判別された場合は、客観的に車両に安全走行を維持できない走行上の支障が生じていると判断できるので、次にステップ108の処理が実行される。
ステップ102では、検出される運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも高いか否かが判別される。尚、第1の所定値Rs0は、運転者が主観的に車両の走行に影響する大きな因子を感じているか否かの境界に設定される運転者リスクのしきい値である。その結果、Rs>Rs0が成立しないと判別された場合は、客観的に車両の安全走行を維持することができかつ運転者も車両走行に対する影響を感じていないと判断できるので、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、Rs>Rs0が成立すると判別された場合は、客観的に車両に現状の走行状態で安全走行を維持できない走行上の支障が生じていないにもかかわらず運転者がその影響を過大に感じていると判断できるので、次にステップ104の処理が実行される。
ステップ104では、Re>Re0が成立せずかつRs>Rs0が成立する領域での運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルLがしきいベクトルL1よりも大きいか否かが判別される。尚、しきいベクトルL1は、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも高くかつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも低い領域において運転者が感じている危険度合いと客観的な危険度合いとが整合していると判断できる最大のベクトルであり、図3に示す如くベクトルLの方向に応じて異なる大きさに設定される。その結果、L>L1が成立しないと判別された場合は、運転者が主観的に感じている車両走行上の状況が客観的に把握される状況とあまり相違していないと判断できるので、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、L>L1が成立すると判別された場合は、運転者による主観的な状況が客観的な状況と大きく相違していると判断できるので、次にステップ106の処理が実行される。
ステップ106では、車両のアクセルやブレーキ,操舵を運転者の操作に代わって自動的に行う操作代行制御をセット可能とする処理が実行される。本ステップ106の処理が実行されると、以後、例えばスイッチ操作等による運転者の意思に従って操作代行制御が実行され、運転者の運転操作負担の軽減が図られる。本ステップ106の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
ステップ108では、検出される運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも低いか否かが判別される。その結果、Rs<Rs0が成立しないと判別された場合は、客観的に車両に走行上支障をきたす状況が形成されかつ運転者もその走行上の影響を感じていると判断できるので、次にステップ110の処理が実行される。一方、Rs<Rs0が成立すると判別された場合は、客観的に車両に現状の走行状態では安全走行を維持することができなくなるにもかかわらず運転者がその影響を感じていないと判断できるので、次にステップ114の処理が実行される。
ステップ110では、Re>Re0が成立しかつRs<Rs0が成立しない領域での運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルHがしきいベクトルH1よりも大きいか否かが判別される。尚、しきいベクトルH1は、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも高くかつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも高い領域において運転者が感じている危険度合いと客観的な危険度合いとが整合していると判断できる最大のベクトルであり、図3に示す如くベクトルHの方向に応じて異なる大きさに設定される。その結果、H>H1が成立しないと判別された場合は、車両に客観的に走行上支障をきたす状況が形成されかつ運転者も主観的にその走行上の影響を感じているが両者の差異があまり大きくないと判断できるので、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、H>H1が成立すると判別された場合は、車両の客観的な状況と運転者の感じている主観的な状況とに大きな乖離が生じていると判断できるので、次にステップ112の処理が実行される。
ステップ112では、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者による運転操作を支援するための介入制御が実行される。本ステップ112の処理が実行されると、以後、例えば車両が運転者の運転操作に関係なく或いは運転操作を補助して強制的に制動され或いは強制的に操舵されることにより、車両の安全走行が確保される。本ステップ112の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
ステップ114では、Re>Re0が成立しかつRs<Rs0が成立する領域での運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルSがしきいベクトルS1よりも大きいか否かが判別される。尚、しきいベクトルS1は、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも低くかつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも高い領域において車両の安全支援として介入制御を行うべきかの境界に設定された最大のベクトルであり、図3に示す如くベクトルSの方向に応じて異なる大きさに設定される(図3に実線で示すパターン)。その結果、S>S1が成立すると判別された場合は、介入制御を行うべきと判断できるので、次に上記ステップ112において介入制御が実行される。一方、S>S1が成立しないと判別された場合は、介入制御を行うことは不要であると判断できるので、次にステップ116の処理が実行される。
ステップ116では、運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルSがしきいベクトルS2よりも大きいか否かが判別される。尚、しきいベクトルS2は、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも低くかつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも高い領域において車両の安全支援として注意喚起・警報を行うべきかの境界に設定された最大のベクトルであり、上記したしきいベクトルS1よりも小さく、図3に示す如くベクトルSの方向に応じて異なる大きさに設定される(図3に二点鎖線で示すパターン)。その結果、S>S2が成立すると判別された場合は、注意喚起・警報を行うべきと判断できるので、次にステップ118の処理が実行される。一方、S>S2が成立しないと判別された場合は、注意喚起・警報を行うことは不要であると判断できるので、次にステップ120の処理が実行される。
ステップ118では、車両が現時点で置かれている客観的な状態に対する運転者の運転操作判断を支援するための注意喚起・警報が実行される。本ステップ118の処理が実行されると、以後、例えば車両の制動や操舵を促す音声案内や表示等が施されることにより、運転者による回避操作によって車両の安全走行が確保される。本ステップ118の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
ステップ120では、運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルSがしきいベクトルS3よりも大きいか否かが判別される。尚、しきいベクトルS3は、運転者リスクが第1の所定値Rs0よりも低くかつ環境リスクが第2の所定値Re0よりも高い領域において車両の安全支援として情報提供を行うべきかの境界に設定された最大のベクトルであり、上記したしきいベクトルS2よりも小さく、図3に示す如くベクトルSの方向に応じて異なる大きさに設定される(図3に一点鎖線で示すパターン)。その結果、S>S3が成立すると判別された場合は、情報提供を行うべきと判断できるので、次にステップ122の処理が実行される。一方、S>S3が成立しないと判別された場合は、車両の客観的な状況と運転者の感じている主観的な状況とに大きな乖離が生じていると判断できるので、今回のルーチンは終了される。
ステップ122では、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の認知を支援するための情報提供が実行される。本ステップ122の処理が実行されると、以後、例えば車両前方に交差点や踏切における一時停止線が存在すること或いは前方障害物が存在することを知らせる音声案内や表示が施されることにより、運転者による運転操作によって車両の安全走行が確保される。本ステップ122の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図4に示すルーチンによれば、車両運転者の感じている走行上の危険度合いを表す運転者リスクと車両が現に置かれている走行上の危険度合いを表す環境リスクとの関係に基づいて、かかる関係に対応した適切な運転支援方策を、車両の安全走行を確保するための安全支援、運転者に対する走行上の安心を与えるための安心支援、及び運転者の運転操作負担を軽減するための負担軽減支援の中から選択して決定することができる。従って、本実施例の運転支援装置10によれば、車両運転者への運転支援の方策の決定に際し車両運転者の感じている危険度合い及び車両の置かれている危険度合いの双方をリアルタイムに総合的に判断するので、車両運転者への最適な運転支援を実現することができる。
また、上記図4に示すルーチンによれば、運転支援方策として安全支援が行われる際には、更に、車両運転者の感じている走行上の危険度合いを表す運転者リスクと車両が現に置かれている走行上の危険度合いを表す環境リスクとの関係に基づいて、安全支援のレベルを、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の認知を支援するための情報提供、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の運転操作判断を支援するための注意喚起・警報、及び、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者による運転操作を支援するための介入制御の中から選択して決定することができる。従って、本実施例の運転支援装置10によれば、車両の安全走行を確保するうえで最適な安全支援のレベルを選び出して最適な安全支援を実現することができる。
以下、本実施例の運転支援装置10の動作の具体例を示す。
図5は、車両が一時停止線の存在する道路を走行する状況を模式的に表した図を示す。例えば、道路上の交差点や踏切等において車両の一時停止すべき一時停止線が設けられている場合には、車両はその道路を通過する際にその一時停止線で停止することが必要である。ここで、運転者が車両走行上のリスクを大きく感じているほど、アクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間が短くなり、徐行速度を含めた車両の速度が遅くなり、急ブレーキが行われ、運転者による安全確認が頻繁に行われる。また、交差点等を車両が通過するまでの時間が短くなるほど、客観的に車両の安全走行が確保され難くなる。
従って、一時停止線で車両が停止する場合、車両運転者の感じている走行上の危険度合いを表す運転者リスクとしては、例えば、運転者によるアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabや徐行速度Vmin,速度V,ブレーキ操作が開始されてからブレーキ操作による最大の車両減速度が発生するまでの時間RTgmax,安全確認回数(例えば、交差点等での運転者の左右方向への首振り回数)Nsf,6km/h以下の徐行速度が継続する持続時間(安全確認時間)Tsfが考えられ、また、車両の置かれている走行上の危険度合いを表す環境リスクとしては、例えば、車両から一時停止線までの距離Lやアクセルオフ又はブレーキオンから車両が一時停止線に到達するまでの時間TTC(=L/V),一時停止線で車両を停止させるために必要な減速度α(=V2/2L)が考えられる。
図6は、本実施例の運転支援装置10において車両が一時停止線を通過する際に用いられる運転支援の方策を決定するための一例のマップを示す。そこで、一時停止線通過時における運転支援の方策を決定するうえでは、図6(A)〜(F)に示す如き運転者リスクと環境リスクとの関係を表した支援方策マップが用いられる。
尚、図6(A)には運転者リスクとしてアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabを、環境リスクとしてアクセルオフから車両が一時停止線に到達するまでの時間TTCaをそれぞれ用いた場合を、図6(B)には運転者リスクとして徐行速度Vminを、環境リスクとして車両から一時停止線までの距離Lをそれぞれ用いた場合を、また、図6(C)には運転者リスクとして速度Vを、環境リスクとして一時停止線で車両を停止させるために必要な減速度αをそれぞれ用いた場合を、示している。また、図6(D)には運転者リスクとしてブレーキ開始から最大減速度が発生するまでの時間RTgmaxを、環境リスクとしてブレーキオンから車両が一時停止線に到達するまでの時間TTCbをそれぞれ用いた場合を、図6(E)には運転者リスクとして安全確認回数Nsfを、環境リスクとして車両から一時停止線までの距離Lをそれぞれ用いた場合を、また、図6(F)には運転者リスクとしてアクセルオンの有無を、環境リスクとして安全確認時間Tsfをそれぞれ用いた場合を、示している。更に、図6(A)〜(F)にはそれぞれ、車両の安全走行を確保するための安全支援を行うべき領域を黒塗りで示している。
以下、本実施例の運転支援装置10の動作を、一時停止線通過時における運転支援の方策を決定するうえで図6(A)に示す如き支援方策マップを用いた場合について説明する。
図7は、本実施例の運転支援装置10において車両が一時停止線を通過する際に運転支援の方策を決定すべく、ECU12が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。尚、図7に示すルーチンは、上記した図4に示すルーチンを一時停止線通過時に適用したルーチンである。また、図7において、上記図4に示すステップと同一の処理を実行するステップについては、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。すなわち、図7に示すルーチンが起動されると、まずステップ100aの処理が実行される。
ステップ100aでは、アクセルスイッチ26の状態からアクセル操作が解除されたと判定された時点で、GPSレシーバ16に基づくGPSデータやジャイロセンサ18の出力に基づく進行方向データから自車両の現在位置を測位し、その現在位置から車両の進行道路上最も近い一時停止線の位置情報を地図データベース14から読み出し、その現在位置から一時停止線までの距離Lと車速センサ22の出力信号に基づく速度Vとの関係から、環境リスクとしてのアクセルオフから車両が一時停止線に到達するまでの時間TTCaを算出する。そして、その算出された時間TTCaが第2の所定値Re0である所定時間TTCa0よりも短いか否かが判別される。尚、所定時間TTCa0は、車両に安全走行を維持することができるか否かの境界に設定される時間TTCaのしきい値であり、例えば2秒に設定される。その結果、TTCa<TTCa0が成立しないと判別された場合は、環境リスクが比較的低いので、次にステップ102aの処理が実行される。一方、TTCa<TTCa0が成立すると判別された場合は、環境リスクが比較的高いので、次にステップ108aの処理が実行される。
ステップ102aでは、アクセルスイッチ26の状態に基づいてアクセル操作が解除されたと判定されてからブレーキスイッチ24の状態に基づいてブレーキ操作が開始されたと判定されるまでの時間に従った、運転者リスクとして把握されるアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabが、第1の所定値Rs0である所定時間RTab0よりも短いか否かが判別される。尚、所定時間RTab0は、運転者が主観的に車両の走行に影響する大きな因子を感じているか否かの境界に設定される踏み替え時間RTabのしきい値であり、例えば1秒に設定される。
その結果、RTab<RTab0が成立しないと判別された場合は、車両に客観的な走行上の支障が生じておらずかつ運転者もその影響をあまり感じないほどに運転者リスクが比較的低いので、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、RTab<RTab0が成立すると判別された場合は、環境リスクが低いにもかかわらず運転者リスクが比較的高いので、次にステップ104において運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルLがしきいベクトルL1よりも大きいか否かが判別される。そして、L>L1が成立すると判別された場合は、次に、ステップ106aにおいて、一時停止線で車両を停止させるためのブレーキアクチュエータ32及びトランスミッションソレノイド34を用いた車両のブレーキを運転者の操作に代わって自動的に行う停止操作代行制御をセット可能とする処理が実行される。
ステップ108aでは、運転者リスクとしての上記した踏み替え時間RTabが所定時間RTab0よりも長いか否かが判別される。その結果、RTab>RTab0が成立しないと判別された場合は、運転者リスクが比較的低いので、次にステップ110において運転者リスクと環境リスクとにより表されるベクトルHがしきいベクトルH1よりも大きいか否かが判別される。そして、H>H1が成立すると判別された場合は、次に、ステップ112aにおいて、一時停止線で車両を強制的に停止させる運転操作を支援するための、ブレーキアクチュエータ32及びトランスミッションソレノイド34を用いた停止制御が実行される。一方、上記ステップ108aにおいてRTab>RTab0が成立すると判別された場合は、次にステップ114以降の処理が実行される。
そして、ステップ116においてベクトルSがしきいベクトルS2よりも大きいと判別された場合は、次にステップ118aにおいて、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の運転操作判断を支援するための、ブレーキアクチュエータ32及びトランスミッションソレノイド34を用いた車両の軽制動が実行される。尚、軽制動とは、車両を一時停止線で停止させるには至らない軽度のブレーキのことである。また、この際、軽制動に代わって或いは軽制動と共に、運転者の操作によって車両を一時停止線で停止させるべく車両に制動をかける必要があることをスピーカ36やディスプレイ38を用いて注意喚起又は警報することとしてもよい。
また、ステップ120においてベクトルSがしきいベクトルS3よりも大きいと判別された場合は、次にステップ122aにおいて、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の認知を支援するため、車両前方に車両を停止させるべき一時停止線が存在することをスピーカ36やディスプレイ38を用いて運転者に知らせる情報提供処理が実行される。
上記図7に示すルーチンによれば、車両が交差点や踏切等の手前に設けられた一時停止線を通過する際に、車両運転者の感じている走行上の危険度合いを表す運転者リスクとして把握されるアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間と、車両が現に置かれている走行上の危険度合いを表す環境リスクとして把握されるアクセルオフから車両がその際の速度Vで一時停止線に到達するまでの時間との関係に基づいて、かかる関係に対応した適切な運転支援方策を、一時停止線の存在の提供、軽制動、又は一時停止線での強制的な車両停止を実現する安全支援、運転者のブレーキ操作にかかわらず一時停止線での強制的な車両停止を実現する安心支援、及び一時停止線での車両停止を運転者の操作に代わって行う負担軽減支援の中から選択して決定することができる。
従って、本実施例の運転支援装置10によれば、車両が一時停止線を通過する状況での車両運転者への運転支援の方策の決定に際し、車両運転者の運転行動データから把握される車両運転者の感じている危険度合い、及び、車両の走行データ及び車両周囲の環境データから把握される車両の置かれている危険度合いの双方を、図6に示す如き支援方策マップを参照してリアルタイムに総合的に判断するので、一時停止線通過時に車両運転者への最適な運転支援を実現することができる。
また、図7に示すルーチンによれば、運転支援方策として安全支援が行われる際には、更に、上記した踏み替え時間とアクセルオフから車両が現速度Vで一時停止線に到達するまでの時間との関係に基づいて、安全支援のレベルを、一時停止線の存在を知らせる情報提供、運転者のブレーキ操作を促す軽制動、及び一時停止線での強制的な車両停止の中から選択して決定することができる。従って、本実施例の運転支援装置10によれば、一時停止線通過時に車両の安全走行を確保するうえで最適な安全支援のレベルを選び出して最適な安全支援を実現することができる。
次に、図8は、車両が先行車両に後続する状況を模式的に表した図を示す。例えば、自車両が自動車専用道路等において先行車両に後続する場合においても、運転者が車両走行上のリスクを大きく感じているほど、アクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間が短くなる。また、自車両が先行車両に追いつく時間が短くなるほど、客観的な車両の安全走行が確保され難くなる。従って、自車両が先行車両に後続する場合、車両運転者の感じている走行上の危険度合いを表す運転者リスクとしては、例えば運転者によるアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabが考えられ、また、車両の置かれている走行上の危険度を表す環境リスクとしては、例えばアクセルオフから自車両が先行車両に追いつくまでの時間TTCa(=Lf/Vf;Lfは車間距離であり、Vfは自車両と先行車両との相対速度である)が考えられる。
図9は、本実施例の運転支援装置10において車両が先行車両に後続する際に用いられる運転支援の方策を決定するための一例のマップを示す。そこで、先行車両への後続時における運転支援の方策を決定するうえでは、図9に示す如き運転者リスクとして把握されるアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabと、環境リスクとして把握されるアクセルオフから自車両が先行車両に追いつくまでの時間TTCaとの関係を表した支援方策マップが用いられる。すなわち、車両が先行車両に後続する際における運転支援の方策は、図9に示す如き運転者リスクと環境リスクとの関係を表した支援方策マップを参照して決定される。この運転支援の方策の決定に際しては、具体的には、上記した図7に示すルーチンとほぼ同様の処理が実行される。
尚、上記した踏み替え時間RTabは、アクセルスイッチ26の状態に基づいてアクセル操作が解除されたと判定されてから、ブレーキスイッチ24の状態に基づいてブレーキ操作が開始されたと判定された時点までの時間に従って算出され、また、アクセルオフから自車両が先行車両に追いつくまでの時間TTCaは、ミリ波レーダ20を用いて検出される先行車両までの距離と相対速度との関係から算出される。
かかる処理によれば、車両が先行車両に後続する際に、運転者リスクとして把握されるアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabと、環境リスクとして把握されるアクセルオフから自車両が先行車両に追いつくまでの時間TTCaとの関係に基づいて、かかる関係に対応した適切な運転支援方策を、安全支援、安心支援、及び負担軽減支援の中から選択して決定することができる。従って、本実施例の運転支援装置10によれば、車両が先行車両に後続する状況での車両運転者への運転支援の方策の決定に際し、車両運転者の運転行動データから把握される車両運転者の感じている危険度合い、及び、車両の走行データ及び車両周囲の環境データから把握される車両の置かれている危険度合いの双方を、図9に示す如き支援方策マップを参照してリアルタイムに総合的に判断するので、自車両が先行車両に後続する際に車両運転者への最適な運転支援を実現することができる。
また、上記した処理によれば、運転支援方策として安全支援が行われる際には、更に、上記した踏み替え時間RTabとアクセルオフから自車両が先行車両に追いつくまでの時間TTCaとの関係に基づいて、安全支援のレベルを、先行車両の存在の提供、軽制動、及び先行車両直前での強制的な車両停止の中から選択して決定することができる。従って、本実施例の運転支援装置10によれば、車両が先行車両に後続する際に車両の安全走行を確保するうえで最適な安全支援のレベルを選び出して最適な安全支援を実現することができる。
尚、上記の実施例においては、運転者リスクと環境リスクとの関係が特許請求の範囲に記載した「所定パラメータ」に、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の認知を支援するための情報提供を行うことが特許請求の範囲に記載した「認知支援」に、車両の現時点での客観的な状態に対する運転者の運転操作を支援するための注意喚起・警報を発することが特許請求の範囲に記載した「判断支援」に、運転者の運転操作に代わって車両の現時点での客観的な状態に対する運転操作を支援するための介入制御を行うことが特許請求の範囲に記載した「操作支援」に、それぞれ相当している。
また、上記の実施例においては、ECU12が、上記図4及び図7に示すルーチン中ステップ100、102、104、108、及び110並びにステップ100a、102a、108aの処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「支援方策決定ステップ」及び「支援方策決定手段」が、ステップ114、116、及び120の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「安全支援レベル決定ステップ」及び「安全支援レベル決定手段」が、それぞれ実現されている。
ところで、上記の実施例においては、車両が一時停止すべき一時停止位置をECU12が抽出するのに、地図データベース14から地図情報として格納された道路上に描かれた交差点や踏切における一時停止線の位置の情報を読み出すこととしているが、例えば車両前部バンパや車室内ルームミラーにカメラを配設し、その配設部位から車両前方へ広がる領域を撮影した車両前方周辺の画像情報を画像処理することにより、その画像に映し出されている「止まれ」の標識や標示,踏切自体及び道路上に描かれた一時停止線を認識し、その画面上での一時停止線の表示位置からその一時停止線の道路上での絶対位置を一時停止位置として抽出することとしてもよい。また、車両の一時停止すべき一時停止位置が存在することを示す例えば磁気マーカをその一時停止位置の手前所定距離の道路に埋め込み、そのマーカを車両が通過時に検知することにより車両に対する一時停止位置を抽出することとしてもよい。
また、上記の実施例においては、運転支援の方策を決定するうえで必要な運転者リスク及び環境リスクとして、図6及び図9に示す如くアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabや徐行速度,アクセルオフから車両が所定の位置に到達するまでの時間TTC,必要減速度α等を用いるが、本発明はこれに限定されるものではなく、運転者リスクとしては車両運転者の行動に現れる運転者が感じている走行上の危険度合いを表すものであればよく、また、環境リスクとしては車両の走行状態や周囲状況との関連で導き出される車両が置かれている走行上の危険度合いを表すものであればよい。
また、上記の実施例においては、車両の運転支援方策を決定するうえで必要な運転者リスクと環境リスクとの関係を表す支援方策マップにおけるしきい値Rs0,Re0を、車両運転者個々の特性に合わせて変更するものではないが、運転者個々の特性に合わせて変更することとしてもよい。この場合には、運転者個々の運転特性に合致した最適な運転支援を行うことが可能となる。
すなわち、図10は、本発明の変形例である運転支援装置10における動作の流れを表した図を示す。本変形例においても、ECU12は、車両運転者への運転支援エージェントとして、上記の如く入力された車両の走行データ、環境データ、及び運転行動データに基づいて、所定のタイミングで運転者の走行時における認知,判断,操作を支援するための運転支援方策を決定する。また、ECU12は、所定期間内における車両の走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向に基づいて、運転者個々の特性に適合した、上記の運転支援方策を決定するうえでの支援方策マップにおける判定しきい値Rs0,Re0を設定し、記憶する。尚、この判定しきい値の設定・記憶は、車両ごとに行うこととしてもよいが、1台の車両で車両運転者個々の識別情報に対応させて行うこととしてもよい。そして、ECU12は、以後、入力される各種データに基づいて運転支援方策を決定するに際し、この設定・記憶された判定しきい値Rs0,Re0を用いる。
図11は、本変形例において運転支援方策を決定するための判定しきい値Rs0,Re0を車両運転者個人の特性に応じたものに設定すべく、ECU12が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図11に示すルーチンは、その処理が終了するごとに繰り返し起動されるルーチンである。図11に示すルーチンが起動されると、まずステップ200の処理が実行される。
ステップ200では、車両のイグニションスイッチがオン状態にあるか否かが判別される。本ステップ200の処理は、肯定判定がなされるまで繰り返し実行される。その結果、肯定判定がなされた場合は、次にステップ202の処理が実行される。ステップ202では、イグニションスイッチのオン後に車両が走行したか否かが判別される。その結果、否定判定がなされた場合は、再びステップ200の処理が実行される。一方、肯定判定がなされた場合は、次にステップ204の処理が実行される。
ステップ204では、車両の走行データ、環境データ、及び運転行動データを記憶装置に順次蓄積して記憶させる処理が実行される。ステップ206では、車両のイグニションスイッチがオフ状態になったか否かが判別される。その結果、否定判定がなされた場合は、未だイグニションスイッチがオン状態に維持されていると判断でき、車両が走行中であると判断できるので、各種データの蓄積を行うべく上記ステップ204の処理が繰り返し実行される。一方、肯定判定がなされた場合は、次にステップ208の処理が実行される。
ステップ208では、車両のイグニションスイッチがオン状態になってからオフ状態になるまでの車両走行期間中に記憶装置に記憶されたすべての走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向に基づいて、車両運転者個々の特性に適合した、運転支援方策を決定するうえでの支援方策マップにおける判定しきい値Rs0,Re0を算出・設定する。
一般に、車両走行期間中に車両運転者が走行上のリスクを感じることは頻繁にはなく、また、運転者はそれぞれ同じ比率で走行上のリスクを感じると考えられると共に、同様に車両も走行上大きなリスクを伴った状態に置かれることは頻繁にはなく、また、それぞれ同じ比率で走行上大きなリスクを伴うものであると考えられる。従って、例えば、図12に示す如く、各データの分布から運転者リスクが小さくかつ環境リスクが小さいという傾向が生ずる場合には、その分布に対応して支援方策マップにおける運転者リスクの判定しきい値Rs0を比較的小さなRs01にかつ環境リスクの判定しきい値Re0を比較的小さなRe01にそれぞれ設定し(図12中に破線で囲まれる領域および破線で示される直線)、一方、各データの分布から運転者リスクが大きくかつ環境リスクが大きいという傾向が生ずる場合には、その分布に対応して支援方策マップにおける運転者リスクの判定しきい値Rs0を比較的大きなRs02にかつ環境リスクの判定しきい値Re0を比較的大きなRe02にそれぞれ設定する(図12中に一点鎖線で囲まれる領域および一点鎖線で示される直線)。
例えば、図6に示す如く、車両が一時停止線を通行する際に用いられる運転支援方策マップが、運転者リスクとしてアクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間RTabを、環境リスクとしてアクセルオフから車両が一時停止線に到達するまでの時間TTCaをそれぞれ用いている場合は、運転者リスクの判定しきい値である踏み替え時間RTab0と環境リスクの判定しきい値である到達予想時間TTCa0とが設定される。そして、本ステップ208の処理が実行されると、以後の車両走行時に、これらの判定しきい値Rs0(例えばRTab0),Re0(例えばTTCa0)からなる支援方策マップを用いて運転支援方策が決定される。本ステップ208の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図11に示すルーチンによれば、車両のイグニションオンからイグニションオフまでの車両走行中における走行データ、環境データ、及び運転行動データに基づいて、その車両を運転する運転者の特性に合わせた、車両の運転支援方策を決定するうえで必要な運転者リスクと環境リスクとの関係を表す支援方策マップにおけるしきい値Rs0,Re0を設定することができる。この場合、支援方策マップは、運転者の特性に応じて変更・補正されることとなり、車両の運転支援方策は、運転者の特性に合致した支援方策マップに従って決定されることとなる。従って、かかる構成によれば、車両運転者が若者と高齢者などの一般的に身体的能力の異なる者であるときにも、運転者全体での平均的なしきい値Rs0,Re0からなる支援方策マップを用いる場合に比べて、個人差の生じ得る運転者個々の特性に合致したその車両にとって最適な運転支援を実現することが可能となっている。
尚、かかる変形例においては、ECU12が上記図11に示すルーチン中ステップ208の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「しきい値設定ステップ」及び「しきい値設定手段」が実現されることとなる。
また、この変形例においては、車両運転者の特性に合致した支援方策マップを設定するうえで車両のイグニションオンからイグニションオフまでの車両走行中における走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向を用いることとしているが、車両の一回の走行に限らず、複数回の走行から把握される上記データの分布傾向を用いることとしてもよいし、また、車両走行ごとに分布傾向を更新して常に直近の一回以上の走行から把握される上記データの分布傾向を用いることとしてもよい。かかる構成によれば、車両運転者個々の加齢などに伴う特性の変化に対応して最適な運転支援を実現することが可能となる。
更に、この変形例は、まず、車両走行中における走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向から車両運転者の特性に合致した支援方策マップを設定し、その後、走行時にかかる支援方策マップを用いて運転支援を行うものであるが、予め平均的な支援方策マップを設定しておき、その後の車両走行中における走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向に基づいて支援方策マップを車両運転者の特性に合致したものに補正・変更するものであってもよい。
また、上記の実施例においては、運転支援方策としての車両の安全走行を確保するための安全支援のレベルを決定するうえで必要な運転者リスクと環境リスクとの関係についてのしきいベクトルS1,S2,S3を、車両運転者個々の特性に合わせて変更するものではないが、運転者個々の特性に合わせて変更することとしてもよい。この場合には、運転者個々の運転特性に合致した最適な安全支援を行うことが可能となる。
すなわち、本変形例においても、ECU12は、車両運転者への運転支援エージェントとして、上記の如く入力された車両の走行データ、環境データ、及び運転行動データに基づいて、所定のタイミングで安全走行を確保するための安全支援のレベルを決定する。また、ECU12は、所定期間(例えば、車両のイグニションオンからイグニションオフまでの車両走行中)内における車両の走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向に基づいて、運転者個々の特性に適合した、上記の安全支援のレベルを決定するうえでのしきいベクトルS1,S2,S3を設定し、記憶する。尚、このしきいベクトルの設定・記憶は、車両ごとに行うこととしてもよいが、1台の車両で車両運転者個々の識別情報に対応させて行うこととしてもよい。そして、ECU12は、以後、入力される各種データに基づいて安全支援のレベルを決定するに際し、この設定・記憶されたしきいベクトルS1,S2,S3を用いる。かかる構成によれば、車両の安全支援レベルは、車両運転者の特性に合致した運転者リスクと環境リスクとの関係についてのしきいベクトルS1,S2,S3に従って決定されることとなり、従って、車両運転者が若者と高齢者などの一般的に身体的能力の異なる者であるときにも、運転者全体での平均的なしきいベクトルを用いる場合に比べて、個人差の生じ得る運転者個々の特性に合致したその車両にとって最適な安全支援を実現することが可能となっている。
尚、かかる変形例においては、ECU12が、走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向に基づいて、車両運転者個々の特性に適合した、安全支援レベルを決定するうえでのしきいベクトルS1,S2,S3を算出・設定することにより特許請求の範囲に記載した「しきい値設定ステップ」及び「しきい値設定手段」が実現されることとなる。また、この変形例でも、予め平均的なしきいベクトルを設定しておき、その後の車両走行中における走行データ、環境データ、及び運転行動データの分布傾向に基づいてしきいベクトルを車両運転者の特性に合致したものに補正・変更するものであってもよい。
更に、上記の安全支援に関するしきいベクトルS1,S2,S3の変更は、運転支援方策としての運転者に対して走行上の安心を与えるための安心支援において介入制御を行うか否かを判別するうえで必要な運転者リスクと環境リスクとの関係についてのしきいベクトルH1、又は、運転者の運転操作負担を軽減するための負担軽減支援において操作代行制御を行うか否かを判別するうえで必要な運転者リスクと環境リスクとの関係についてのしきいベクトルL1を、車両運転者個々の特性に合わせて変更するものに適用することも可能である。かかる構成によれば、個人差の生じ得る運転者個々の特性に合致したその車両にとって最適な安心支援又は負担軽減支援を実現することが可能となる。
また、上記の実施例においては、運転支援の方策を決定するうえで必要な運転者リスクと環境リスクとの関係を表す支援方策マップを図3、図6、及び図9に示す如く二次元的なものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、パラメータを増やして三次元的なものとすることとしてもよい。
また、上記の実施例においては、運転支援装置10による運転支援動作として、車両が一時停止線を通過する場合と車両が先行車両に後続する場合とを説明したが、車両が優先道路を走行する際における交差点での自転車や歩行者,自動車等との出会い頭の衝突を回避するための運転支援動作等に適用することも可能である。かかる場合には、例えば、図13に示す如く、運転者リスクとして車両の速度Vを用い、また、環境リスクとして自車両から交差点までの距離Lを用いることとすればよい。
また、上記の実施例においては、アクセル操作からブレーキ操作への踏み替え時間等、車両運転者の運転行動として直接的に検出できるものを運転者リスクとして定めることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車両周囲の環境から車両運転者の運転行動として間接的に導かれるものを運転者リスクとして定めることとしてもよい。また、一時停止線までの距離L等、車両の置かれた状況を直接的に検出できるものを環境リスクとして定めることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車両周囲の環境のみから車両の置かれる状況を間接的に検出できるものを環境リスクとして定めることとしてもよい。
すなわち、図14は、本発明の変形例において運転者リスク及び環境リスクを算出する手法を説明するための図を示す。例えば図14に示す如く車両が交差点を通過する状況を考えると、車両運転者は、一般に、交差点の手前30m付近で交差点左右それぞれの状況を10m程度視認できれば、主観的にその交差点を見通しが良く車両を停止させなくても安全走行を確保できると感じてしまう傾向がある。また、2つの交差点間の距離が100m以上であると、車両運転者はその交差点間で車両速度を大きくする傾向にあり、主観的に車両走行上の危険度合いを低く感じてしまう傾向がある。一方、車両運転者は、交差点の停止線付近で交差点左右それぞれの状況を30m程度視認できれば、その交差点での安全確認を十分に行うことができるとすると、車両の置かれている状況は客観的にあまり大きな走行上の支障が生じないものであると判断することができる。
従って、地図データベース14等を用いた交差点付近での空き地や視覚障害物の存在から交差点の手前30m付近で交差点左右それぞれ10m程度の状況が視認可能であるか否かを、或いは、2つの交差点間の距離を運転者リスクとして定め、また、交差点の停止線付近で交差点左右それぞれ30m程度以上の状況が視認可能であるかを環境リスクとして定めることとすれば、車両運転者が感じている走行上の危険度合いと車両が置かれている走行上の危険度合いとの関係に基づいて、適切な運転支援方策を選択して決定することが可能となる。尚、かかる構成においては、車両運転者が感じる走行上の危険度合い及び車両が置かれる走行上の危険度合いを事前に判断することが可能となる。
更に、上記した交差点間距離等、車両周囲の環境から車両運転者の運転行動として間接的に導かれるものを運転者リスクとして定める代わりに、その大きさに応じて、図6や図9に示す予め運転者リスクとして定められたパラメータのしきい値Rs0を可変にすることとしてもよく、また、上記した視認可能状況等、車両周囲の環境から車両の置かれる状況を間接的に検出できるものを環境リスクとして定める代わりに、その大きさに応じて、図6や図9に示す予め環境リスクとして定められたパラメータのしきい値Re0を可変にすることとしてもよい。かかる構成によれば、例えば交差点における見通し等の車両周囲の環境により変化する運転者リスク及び環境リスクに対応して、更に最適な車両運転者への運転支援を実現することが可能となる。