以下、実施形態を用いて図面も参照しつつ、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(回折格子構造を形成する基材)
まず凸状の曲面形状を有し、該面が樹脂層で被覆されている原型(本発明において、樹脂層を含めてこれを基材と言う。)に円描画を行うことで、ブレーズド回折格子構造を同心円状に形成する場合を例に採り説明する。なお基材はこれに限らず、例えば、凹状の曲面形状や平面を有するものであっても良く、又、前記回折構造はバイナリーパターンであっても良い。
図1に、描画パターンの1例並びにその細部の描画形状を示す。同図に示すように、曲面形状を成す基材2の一面には、ブレーズド回折格子構造が形成され、その一部であるE部分を拡大すれば、複数のブレーズ3が同心円状に形成されている。ブレーズ3は、傾斜部3b及び側壁部3aを形成し、側壁部3aは周方向に沿って平面状に複数段形成されている。
より詳細には、図2に示すように、基材2には、ベースとなる原型の曲面部2aに対し、回折格子が各ピッチL1毎に形成され、この回折格子の少なくとも1ピッチL1に、当該ピッチの区切り目位置にて前記曲面部2aより立ち上がる側壁部3aと、隣接する各側壁部3a間に形成された傾斜部3bと、側壁部3aと傾斜部3bとの境界領域に形成された溝部3cとを有する。
傾斜部3bは、一端が一方の側壁部3aの基端に接し、他端が他方の側壁部3aの先端に接する傾斜面を構成している。尚、この複数のブレーズ3からなる回折格子構造は、曲面部2aを被覆し、塗布で形成された樹脂層に後述する電子ビーム描画装置を用いて描画し、現像処理することで形成され、且つ、ブレーズ3の側壁部3a及び溝部3cは、本発明に係る円描画(詳細については、後述する)により、これを上面(図におけるL2方向)から見た場合に、より理想的な円形に近い円パターンを構成する。
(電子ビーム描画装置の構成)
図3に、本発明に係る電子ビーム描画装置の全体構成を示す。
電子ビーム描画装置1は、電子ビームを生成して基材2に対してビーム照射を行う電子ビーム生成手段である電子銃12と、この電子銃12からの電子ビームを通過させるスリット14と、スリット14を通過する電子ビームの基材2に対する焦点位置を制御するための電子レンズ16と、電子ビームが出射される経路上に配設されたアパーチャー18と、電子ビームを偏向させることでターゲットである基材2上の走査位置等を制御する偏向器20と、偏向を補正する補正用コイル22とを含み構成される。これらの各部は、鏡筒10内に配設されて電子ビーム出射時には真空状態に維持される。尚、電子銃12は、本発明の「電子ビーム照射手段」に対応している。また、偏向器20は、本発明の「電子ビーム偏向手段」に対応している。
さらに、電子ビーム描画装置1は、描画対象となる基材2を載置するための載置台であるXYZステージ30と、このXYZステージ30上の載置位置に基材2を搬送するための搬送手段であるローダ40と、XYZステージ30上の基材2の表面の基準点を測定するための測定手段である測定装置80と、XYZステージ30を駆動するための駆動手段であるステージ駆動手段50と、ローダを駆動するためのローダ駆動装置60と、鏡筒10内及びXYZステージ30を含む筐体11内を真空となるように排気を行う真空排気装置70と、これらの制御を司る制御手段である制御回路100とを有する。尚、XYZステージ30は、本発明の「載置台」に対応している。また、測定装置80は、本発明の「測定手段」に対応している。
尚、電子レンズ16は、高さ方向に沿って複数箇所に離間して設置される各コイル17a、17b、17cの各々の電流値によって電子的なレンズが複数生成されるもので、各々制御され、電子ビームの焦点位置が制御される。
測定装置80は、基材2に対してレーザーを照射する第1のレーザー測長器82と、第1のレーザー測長器82にて発光されたレーザー光(第1の照射光)の基材2での反射光を受光する第1の受光部84と、前記第1のレーザー測長器82とは異なる照射角度から照射を行う第2のレーザー測長器86と、前記第2のレーザー測長器86にて発光されたレーザー光(第2の照射光)の基材2での反射光を受光する第2の受光部88と、を含み構成されている。尚、第1のレーザー測長器82と第1の受光部84とで「第1の光学系」を構成し、第2のレーザー測長器86と第2の受光部88とで「第2の光学系」を構成している。
ステージ駆動手段50は、XYZステージ30をX方向に駆動するX方向駆動機構52と、XYZステージ30をY方向に駆動するY方向駆動機構54と、XYZステージ30をZ方向に駆動するZ方向駆動機構56と、XYZステージ30を図示θ方向に駆動するθ方向駆動機構58とを含み構成されている。尚、他の方向に回転させる駆動機構を設けて、ステージをピッチングやヨーイング可能に構成してもよい。これにより、XYZステージ30を3次元的に動作させたり、アライメントを行うことが可能になる。
制御回路100は、電子銃12に電源を供給するための電子銃電源部102と、この電子銃電源部102での電流、電圧などを調整制御する電子銃制御部104と、電子レンズ16(複数の電子的なレンズ各々)を動作させるためのレンズ電源部106と、このレンズ電源部106での各電子レンズに対応する各電流を調整制御するレンズ制御部108とを含み構成される。
さらに、制御回路100は、補正用コイル22を制御するためのコイル制御部110と、偏向器20にて成形方向の偏向を行う成形偏向部112aと、偏向器20にて副走査方向の偏向を行うための副偏向部112bと、偏向器20にて主走査方向の偏向を行うための主偏向部112cと、成形偏向部112aを制御するためにデジタル信号をアナログ信号に変換制御する高速D/A変換器114aと、副偏向部112bを制御するためにデジタル信号をアナログ信号に変換制御する高速D/A変換器114bと、主偏向部112cを制御するためにデジタル信号をアナログ信号に変換制御する高精度D/A変換器114cとを有する。
さらに、制御回路100は、偏向器20における位置誤差を補正するための位置誤差補正信号などを各高速D/A変換器114a、114b、及び高精度D/A変換器114cに対して供給して位置誤差補正を促す、或いは、コイル制御部110に対して当該信号を供給することで補正用コイル22にて位置誤差補正を行う位置誤差補正回路116と、これら位置誤差補正回路116並びに各高速D/A変換器114a、114b及び高精度D/A変換器114cを制御して電子ビームの電界を制御する電界制御手段である電界制御回路118と、描画パターンなどを前記基材2に対して生成するためのパターン発生回路120とを含み構成される。
さらに、制御回路100は、第1のレーザー測長器82を上下左右に移動させることによるレーザー照射位置の移動及びレーザー照射角の角度等の駆動制御を行う第1のレーザー駆動制御回路130と、第2のレーザー測長器86を上下左右に移動させることによるレーザー照射位置の移動及びレーザー照射角の角度等の駆動制御を行う第2のレ−ザー駆動制御回路132と、第1のレーザー測長器82でのレーザー照射光の出力(レーザーの光強度)を調整制御するための第1のレーザー出力制御回路134と、第2のレーザー測長器86でのレーザー照射光の出力を調整制御するための第2のレーザー出力制御回路136と、第1の受光部84での受光結果に基づき、測定結果を算出するための第1の測定算出部140と、第2の受光部88での受光結果に基づき、測定結果を算出するための第2の測定算出部142とを有する。
さらに、制御回路100は、ステージ駆動手段50を制御するためのステージ制御回路150と、ローダ駆動装置60を制御するローダ制御回路152と、上述の第1、第2のレーザー駆動回路130、132,第1、第2のレーザー出力制御回路134、136,第1、第2の測定算出部140、142,ステージ制御回路150,ローダ制御回路152を制御する機構制御回路154と、真空排気装置70の真空排気を制御する真空排気制御回路156と、測定情報を入力するための測定情報入力部158と、入力された各種情報や他の複数の情報を記憶するための記憶手段であるメモリ160と、各種制御を行うための制御プログラムを記憶したプログラムメモリ162と、後述する制御系300(詳細は後述する)と、これらの各部の制御を司る、例えばCPUなどにて形成された制御部170とを含み構成される。
また、本実施形態の電子ビーム描画装置1では、測定情報入力部158などを含む、所謂「操作系」乃至は「操作手段」においては、アナログスキャン方式/デジタルスキャン方式の選択、基本的な形状の描画パターンの複数からの選択等、各種コマンド操作が可能となっている。
上述の電子ビーム描画装置1においては、ローダ40によって搬送された基材2がXYZステージ30上に載置されると、真空排気装置70によって鏡筒10及び筐体11内の空気やダストなどを排気した後、電子銃12から電子ビームが照射される。
電子銃12から照射された電子ビームは、電子レンズ16を介して偏向器20により偏向され、偏向された電子ビームB(以下、この電子レンズ16を通過後の偏向制御された電子ビームに関してのみ「電子ビームB」と符号を付与することがある)が、XYZステージ30上の基材2の表面、例えば曲面部(曲面)2a上の描画位置に対して照射されることで描画が行われる。
この際に、測定装置80によって、基材2上の描画位置(描画位置のうち少なくとも高さ位置)、若しくは後述するような基準点の位置が測定され、制御回路100は、当該測定結果に基づき、電子レンズ16のコイル17a、17b、17cに流れる各電流値等を調整制御して、電子ビームBの焦点深度、即ち焦点位置を制御し、当該焦点位置が前記描画位置となるように移動制御する。
或いは、前記測定結果に基づき、制御回路100は、ステージ駆動手段50を制御することにより、前記電子ビームBの焦点位置が前記描画位置となるようにXYZステージ30を移動させる。なお電子ビームの制御、XYZステージ30の制御の何れか一方の制御によっても、双方を利用してもよい。
〈測定装置80〉
測定装置80は図4に示すように、第1のレーザー測長器82、第1の受光部84、第2のレーザー測長器86、第2の受光部88などを有する。
第1のレーザー測長器82と第1の受光部84からなる第1の光学系は、XYZステージ30をステージ駆動手段50によって移動させつつ、これに載置される基材2に対して、順次、第1のレーザー測長器82により電子ビームと交差する方向から第1の光ビームS1を照射し、基材2を透過する第1の光ビームS1を第1の受光部84によって受光することで、第1の光強度分布を検出するものである。第1の光強度分布は図4に示すように、基材2の曲面部2aを透過した光ビームS1の基材2の平坦部2bでの反射光に基づくものなので、曲面部2a上の(高さ)位置を測定することができない。
そこで、本例においては、さらに第2の光学系を設け、XYZステージ30をステージ駆動手段50によって移動させつつ、これに載置される基材2に対して、順次、第2のレーザー測長器86によって、電子ビームとほぼ直交する方向から第2の光ビームS2を照射し、基材2を透過する第2の光ビームS2を第2の受光部88に含まれるピンホール89を介して受光することによって、第2の光強度分布を検出する。
この場合、図4に示すように、第2の光ビームS2が曲面部2aを横切って通過することとなるので、前記第2の強度分布に基づいて曲面部2a上の(高さ)位置を測定算出することができる。
具体的には、曲面部2a上のある位置(XYステージ上の座標で(x’,y)とする)を第2の光ビームS2がX軸に平行に透過すると、この位置において、光ビームS2が曲面を透過することによる反射や屈折による散乱が生じ、この散乱光分の光強度が弱まることとなる。従って第2の受光部88にて検出された光ビーム2の光強度に基づき、以下に説明するように電子ビームの焦点位置(x、y)の深度を曲面部2a上の位置(x’、y)の高さと対応させて算出することができる。
即ち、第2の受光部88の検出した光強度に対応する信号出力(Opとする)と基材の高さとの相関関係を求めると、図5に示す様な特性図が得られるので、制御回路100のメモリ160等に、この特性、即ち相関関係を示した相関テーブルを予め格納しておくことにより、第2の受光部88での信号出力Opに基づき、電子ビームの焦点位置の基材内の高さ位置を算出することができる。これにより、描画位置と、電子ビームの焦点位置との調整を行い描画を行うこととなる。
〈描画位置算出方法の概要〉
次に、電子ビーム描画装置1を用いる場合の描画位置算出方法の概要について説明する。
先ず、本実施形態の基材2は、図6(A)、(B)に示すように、例えば光レンズ等の光学素子形状で、断面略平板状の平坦部2bと、この平坦部2bより突出形成された曲面をなす曲面部2aと、を含んで構成されている。この曲面部2aの曲面は、球面に限らず、非球面などの他、あらゆる高さ方向に変化を有する自由曲面であってよい。
まず、XYZステージ30上に載置する前に、予め基材2上の複数の、例えば3個の基準点P00、P01、P02を決定してこの位置を測定しておく(第1の測定)。これによって、例えば、基準点P00とP01によりX軸、基準点P00とP02によりY軸が定義され、3次元座標系における第1の基準座標系が算出される。ここで、第1の基準座標系における高さ位置をHo(x、y)(第1の高さ位置)とする。これによって、基材2の厚み分布の算出を行うことができる。
一方、基材2をXYZステージ30上に載置した後も、同様の処理を行う。即ち、図6(A)に示すように、基材2上の複数の、例えば3個の基準点P10、P11、P12を決定してこの位置を測定しておく(第2の測定)。これによって、例えば、基準点P10とP11によりX軸、基準点P10とP12によりY軸が定義され、3次元座標系における第2の基準座標系が算出される。
さらに、これらの基準点P00、P01、P02、P10、P11、P12により第1の基準座標系を第2の基準座標系に変換するための座標変換行列などを算出して、この座標変換行列を利用して、第2の基準座標系における前記Ho(x、y)に対応する高さ位置Hp(x、y)(第2の高さ位置)を算出して、この位置を最適フォーカス位置、即ち描画位置として電子ビームの焦点位置が合わされるべき位置とすることとなる。これにより、上述の基材2の厚み分布の補正を行うことができる。
尚、上述の第2の測定は、電子ビーム描画装置1の測定手段である測定装置80を用いて測定することができる。また第1の測定は、予め別の場所において他の測定装置を用いて測定しおく。他の測定装置としては、上述の測定装置80と全く同様の構成の測定装置200(図示せず)を採用することができる。
この場合、測定装置200での測定結果は、例えば、図3に示す測定情報入力部158にて入力されたり、制御回路100と接続される不図示のネットワークを介してデータ転送されることで、メモリ160などに格納されることとなる。
上記のようにして、描画位置が算出されて、電子ビームの焦点位置が制御されて描画が行われることとなる。
具体的には、図6(C)に示すように、まず描画の単位空間を3次元基準座標系で設定し、電子ビームの焦点深度FZの位置を、前記単位空間である1フィールド(m=1)内の描画位置に調整制御する。(この制御は、上述したように、電子レンズ16による電流値の調整もしくはXYZステージ30の駆動制御の何れか一方又は双方によって行われる。)尚、本例においては、1フィールドの高さ分を焦点深度FZより長くなるように、フィールドを設定してあるがこれに限定されるものではない。
ここで、焦点深度FZとは、図7に示すように、電子レンズ16を介して照射される電子ビームBにおいて、ビームウエスト(ビーム径の最も細い所)BWが有効な範囲の高さを示す。尚、本実施形態においては、電子レンズ16の幅D、電子レンズ16よりビームウエストBWまでの深さfとすると、D/fは、0.01程度であり、例えば50nm程度の解像度を有し、焦点深度は例えば数十μm程度である。
そして、図6(C)に示すように、例えば1フィールド内をY方向にシフトしつつ順次X方向に走査することにより、1フィールド内の描画が行われることとなる。さらに、1フィールド内において、描画されていない領域があれば、当該領域についても、上述の焦点位置の制御を行いつつZ方向に移動し、同様の走査による描画処理を行うこととなる。
次に、1フィールド内の描画が行われた後、他のフィールド、例えばm=2のフィールド、m=3のフィールドにおいても、上述と同様に、測定や描画位置の算出を行いつつ描画処理がリアルタイムで行われることとなる。
このようにして、描画されるべき描画領域について全ての描画が終了すると、基材2の表面における描画処理が終了することとなる。
但し、本発明に係る円描画では、フィールドの区切り位置は、円パターンを近似する多角形の各々の頂点を通る位置に設定する。具体的には、制御部170がメモリ160に格納される多角形の各々の頂点位置座標に関する情報に基づいて、プログラムメモリ162に格納される所定のプログラムに従って、各フィールドの区切り位置を前記多角形の各々の頂点を通る位置に設定する。尚、この処理の流れについては、後述する〈制御系の具体的構成〉のところで説明する。
また本発明に係る円描画では、描画時における電子ビームのドーズ量は、描画に必要な所定ドーズ量の所定数分の1の値に設定され、且つ、前記多角形は、前記所定数回だけ円周方向に所定の角度毎にずらされつつ、前記所定回分繰り返し重ねて描画されることとなる。具体的には、制御部170がメモリ160に格納される本来のドーズ量に関する情報、及び、予め設定される前記所定数に関する情報に基づいて、プログラムメモリ162に格納された所定のプログラムに従って、描画時におけるドーズ量、即ち、本来のドーズ量の所定数分の1の値を算出して、さらに、次回の描画処理に関する演算処理、具体的には、多角形の各頂点位置座標の変換処理を行った上で、前記所定数分の1の値のドーズ量にて2度目の描画処理を開始する。この際、多角形の各頂点位置は円周方向に所定の角度だけ移動され、その座標に基づいて、2回目の描画が行われる。以降、所定回数だけこれらの処理が繰り返し行われる。尚、此処に言う所定回数は、予め、所定の値がメモリ160に記憶され、或いは、図10に示す設定手段181により任意の値が入力され、その値がメモリ160に記憶されることで、描画の際に制御部170により呼び出され用いられることとなる。そして、全ての描画ラインにつき以上に説明した処理が行われると、次のフィールドに移動して、さらに描画されるべきフィールドについて全ての描画が終了すると、基材2に対する描画処理が終了することとなる。
図8に本発明の描画をモデル的に説明する図を示す。
図8(a)の波線は円パターンの一部の円弧で、実線はこの円パターンを近似する多角形の一部である。この多角形を3回円周方向にずらすと図8(b)の如くなる。この場合は描画に必要なドーズ量の1/3のドーズ量に設定する。
図9は各フィールドの区切り位置を多角形の各々の頂点を通る位置に設定することを説明する図である。即ち図9(a)に示すフィールド間のつなぎ部分を、図9(b)に示す如く多角形の頂点の位置に設定することにより、つなぎの部分が目立たなくなる。
尚、この処理の流れについては、後述する〈制御系の具体的構成〉のところで説明する。
尚、以上に説明した各種演算処理、測定処理、制御処理などの処理を行うための処理プログラムは、プログラムメモリ162に予め制御プログラムとして格納されるものとする。
〈制御系の具体的構成〉
図10に、本発明に係る電子ビーム描画装置の制御系の機能ブロック図を示す。
電子ビーム描画装置1のメモリ160は、形状記憶テーブル161を有し、この形状記憶テーブル161には、例えば、基材2の曲面部2aにブレーズ3の傾斜部3b及び側壁部3aを所望の通りに各ピッチL毎に形成する際の描画位置に対応するドーズ分布を予め定義したドーズ分布情報161aと、前記各ピッチL毎に形成されるブレーズ3からなる円パターンを多角形にて近似して線描画する場合に必要とされる、前記多角形の各頂点の座標位置に関する情報を予め定義した多角形頂点位置情報161bと、同じく、前記ドーズ分布情報161aにより導かれる本来のドーズ量を所定数分の1の値に設定するための前記所定数が定義されるドーズ補正値情報161cと、同じく、当該装置の電子ビームの最小走査距離単位に関する情報を予め定義した最小走査距離単位情報161d等が格納されている。
また、プログラムメモリ162には、前述の描画処理を行う処理プログラム163aや、円パターンを多角形にて近似して線描画する場合に、前記最小走査距離単位情報161dに定義される当該装置の電子ビームの最小走査距離単位に関する情報を基に前記多角形の角数を算出するための多角形角数演算プログラム163bや、前記ドーズ分布情報161aに定義されるドーズ分布情報及びドーズ補正値情報161cを基に、前記多角形を描画する際のドーズ量(本来のドーズ量を所定数分の1にした値)を算出するためのドーズ量演算プログラム163cや、前記多角形の各頂点の描画毎の座標位置を算出するための多角形頂点位置演算プログラム163dや、前記フィールドの区切りを前記多角形の各頂点を通る位置に設定するためのフィールド区切り位置設定プログラム163eなどが格納されている。
尚、メモリ160は、本発明に係る「格納手段」に対応し、プログラムメモリ162と制御部170とで、本発明に係る「制御手段」を構成する。
以上のような構成において、制御部170は、円パターンを多角形にて近似して線描画する場合に、まず、メモリ160に格納される最小走査距離単位情報161dを基に、多角形角数演算プログラム163bに従って前記多角形の角数を算出して、次に、メモリ160に格納されるドーズ分布情報161a及びドーズ補正値情報161cを基に、ドーズ量演算プログラム163cに従って前記多角形を描画する際のドーズ量を算出して、同時に、メモリ160に格納される多角形頂点位置情報161bを基に、多角形頂点位置演算プログラム163dに従って前記多角形を円周方向に所定角度毎にずらす処理を行いつつ、前記ドーズ量にて前記多角形を重ねて所定数回描画する。但し、制御部170は、前記多角形を描画する際のフィールド間の区切りを、フィールド区切り位置設定プログラム163eに従って、随時、前記多角形の各頂点を通る位置に設定するものとする。このような制御の下で、前記ブレーズ3の傾斜部3b、側壁部3a及び溝部3cからなる円パターンは描画される。
さらに、制御部170には、前記所定数を設定するための設定手段181や、そのための設定画面等を表示するための表示手段182等も接続される。
尚、制御部170及びドーズ量演算プログラム163cにより、本発明に係る「ドーズ量設定手段」を構成する。また、制御部170及び多角形演算プログラム163bにより、本発明に係る「角数設定手段」を構成する。また、制御部170及びフィールド区切り位置設定プログラム163eにより、本発明に係る「フィールド位置設定手段」を構成する。さらに、設定手段181により、本発明に係る「所定数設定手段」を構成する。
(本発明に係る円描画制御の具体的構成)
ここで、円パターンを正多角形にて近似して、各描画ラインを直線的に描画する各種処理を行うための制御系の具体的構成について、図11を参照しつつ説明する。
本発明に係る電子ビーム描画装置の制御系300は、図11に示す様に、例えば円描画時に正多角形(不定多角形を含む)に近似するのに必要な(円の半径に応じた)種々のデータ(例えば、ある一つの半径kmmの円について、その多角形による分割数n、各辺・各点の位置の座標情報並びにクロック数の倍数値、さらにはZ方向の位置などの各円に応じた情報等)、さらには円描画に限らず種々の曲線を描画する際に直線近似するのに必要な種々のデータ、各種描画パターン(矩形、三角形、多角形、縦線、横線、斜線、円板、円周、三角周、円弧、扇形、楕円等)に関するデータを記憶する描画パターン記憶手段である描画パターンデータメモリ301を含んで構成される。
また、制御系300は、前記描画パターンデータメモリ301の描画パターンデータに基づいて、描画条件の演算を行う描画条件演算手段310と、前記描画条件演算手段310から(2n+1)ライン((n=0、1、2・・)である場合は(2n+1)であるが、(n=1、2、・・)である場合は(2n−1)としてもよい)即ち奇数ラインの描画条件を演算する(2n+1)ライン描画条件演算手段311と、(2n+1)ライン描画条件演算手段311に基づいて1ラインの時定数を設定する時定数設定回路312と、(2n+1)ライン描画条件演算手段311に基づいて1ラインの始点並びに終点に関する電子銃電源部102での電圧を設定する始点/終点電圧設定回路313と、(2n+1)ライン描画条件演算手段311に基づいてラインのカウンタ数を設定するカウンタ数設定回路314と、(2n+1)ライン描画条件演算手段311に基づいてイネーブル信号を生成するイネーブル信号生成回路315と、奇数ラインの偏向信号を出力するための偏向信号出力回路320と、を含んで構成されている。尚、此処に言うラインとは、多角形を構成する各辺のことを指している。
さらに、制御系300は、前記描画条件演算手段310から(2n)ライン即ち偶数ラインの描画条件を演算する(2n)ライン描画条件演算手段331と、(2n)ライン描画条件演算手段331に基づいて1ラインの時定数を設定する時定数設定回路332と、(2n)ライン描画条件演算手段331に基づいて1ラインの始点並びに終点に関する電子銃電源部102での電圧を設定する始点/終点電圧設定回路333と、(2n)ライン描画条件演算手段331に基づいて、ラインのカウンタ数を設定するカウンタ数設定回路334と、(2n)ライン描画条件演算手段331に基づいてイネーブル信号を生成するイネーブル信号生成回路335と、偶数ラインの偏向信号を出力するための偏向信号出力回路340と、(2n)ライン描画条件演算手段310に基づいて、次の等高線に移動するときなどにブランキングを行うブランキングアンプ350と、描画条件演算手段310での描画条件と、奇数ラインの偏向信号出力回路320並びに偶数ラインの偏向信号出力回路340からの情報とに基づいて、奇数ラインの処理と偶数ラインの処理とを切り換える切換回路360と、を含んで構成されている。
奇数ラインの偏向信号出力回路320は、走査クロックCL1と、カウンタ数設定回路314からの奇数ラインカウント信号CL6と、イネーブル信号発生回路315のイネーブル信号とに基づいてカウント処理を行う計数手段であるカウンタ回路321と、カウンタ回路321からのカウントタイミングと、始点/終点電圧設定回路313での奇数ライン描画条件信号CL3とに基づいて、D/A変換を行うDA変換回路322と、このDA変換回路322にて変換されたアナログ信号を平滑化する処理(偏向信号の高周波成分を除去する等の処理)を行う平滑化回路323と、を含んで構成される。
偶数ラインの偏向信号出力回路340は、走査クロックCL1と、カウンタ数設定回路334からの偶数ラインカウント信号CL7と、イネーブル信号発生回路335のイネーブル信号とに基づいてカウント処理を行う計数手段であるカウンタ回路341と、カウンタ回路341からのカウントタイミングと、始点/終点電圧設定回路333での偶数ライン描画条件信号CL5とに基づいて、D/A変換を行うDA変換回路342と、このDA変換回路342にて変換されたアナログ信号を平滑化する処理を行う平滑化回路343とを含んで構成される。
尚、これらの制御系300を構成する各部は、何れも図3に示す制御部170にて制御可能な構成としている。また、これら制御系300は、X偏向用の制御系とY偏向用の制御系を各々形成する構成としてもよい。
尚、本実施形態の描画パターンデータメモリ310と描画条件演算手段311などを含む制御系300で、「演算手段」を構成できる。この「演算手段」は、走査される走査ライン上に、各偏向部(成形偏向部112a、副偏向部112b、主偏向部112c)につながる各DA変換器(高速D/A変換器114a〜114c)のクロック数により規定される最小時間分解能の整数倍の時間に対応する距離(本発明の「電子ビームの最小移動距離単位」)に相当する少なくとも2点の各位置を演算する機能を有する。この場合、制御部170は、前記演算手段にて演算された各位置間を前記電子ビームによりほぼ直線的に走査するように制御することとなる。また、同様にして、本発明の他の態様の「演算手段」では、略円状に走査される走査ライン上に、DA変換器(高速D/A変換器114a〜114c)のクロック数により規定される最小時間分解能の整数倍の時間に対応する距離を一辺とする多角形の各頂点位置を算出する機能を有する。また、制御手段は、演算手段にて演算された各位置間を前記電子ビームによりほぼ直線的に走査するのは同様である。
上記のような構成を有する制御系300は、概略次のように作用する。すなわち、描画条件演算手段310が描画パターンデータメモリ301から直線近似による走査(描画)に必要な情報を取得すると、所定の描画条件の演算処理を行い、例えば一つの円に対して正多角形の各辺に近似された場合の各辺のうち最初の辺、奇数番目のラインに関する情報は、(2n+1)ライン描画条件演算手段311へ、次の辺、偶数番目のラインに関する情報は、(2n)ライン描画条件演算手段331へ各々伝達される。
これにより、例えば、(2n+1)ライン描画条件演算手段311は、奇数ラインに関する描画条件を生成し、走査クロックCL1と生成された奇数ライン描画条件生成信号CL2とに基づいて、偏向信号出力回路320から奇数ライン偏向信号CL9を出力する。
一方、例えば、(2n)ライン描画条件演算手段331は、偶数ラインに関する描画条件を生成し、走査クロックCL1と生成された偶数ライン描画条件生成信号CL4とに基づいて、偏向信号出力回路340から偶数ライン偏向信号CL10を出力する。
これら奇数ライン偏向信号CL9と偶数ライン偏向信号CL10は、描画条件演算手段310のもとに切換回路360によって、その出力が交互に切り換わる。したがって、ある一の円について、正多角形に近似され、各辺が算出されると、ある一つの辺、奇数番目の辺が描画されると、次の辺、偶数番目の辺が描画され、さらに次ぎの辺、奇数番目の辺が描画される、という具合に交互に各辺が直線的に描画(走査)されることとなる。
そして、ある円パターンについて1回目の描画が終了すると、以降、円周方向にずらしつつ所定数回に達するまで上述の描画処理が繰り返される。そして、所定数回にわたる描画が終了すると、描画条件演算手段310は、その旨をブランキングアンプ350に伝達し、次の円パターンを描画するように促す処理を行う。
(処理手順)
次に、電子ビーム描画装置を用いて非球面の光レンズの形成型を作製する基材に、複数のブレーズを同心円状に形成して回折構造とする場合の処理手順の1例について図12〜14に示すフローで説明する。
先ず、母型材(原型)にSPDT(Single Point Diamond Turning:超精密加工機によるダイアモンド切削)により非球面の加工を行う際に、同心円マークを同時に加工する(ステップ、以下「S」101)。この際、光学顕微鏡で、例えば±1μ以内の検出精度の形状が形成されることが好ましい。
次に、FIB(Focused Ion Beam)にて例えば3箇所にアライメントマークを付ける(S102)。ここに、十字形状のアライメントマークは、電子ビーム描画装置内で±20nm以内の検出精度を有することが好ましい。
さらに、前記アライメントマークの、同心円マークとの相対位置を光学顕微鏡にて観察測定し、非球面構造の中心に対する位置を測定し、データベース(DB)(ないしはメモリ(以下、同))へ記録しておく(S103)。なお、この測定精度は、±1μ以内であることが好ましく、中心基準とした3つのアライメントマークの位置、x1y1、x2y2、x3y3をデータベース(DB)へ登録する。
また、原型にレジストを塗布しベーキングして樹脂で被覆し形成した基材の各部の高さとアライメントマークの位置(Xn、Yn、Zn)を測定しておく(S104)。ここで、中心基準で補正した基材:位置テーブルTbl1(OX、OY、OZ)、アライメントマーク:OA(Xn、Yn、Zn)(いずれも3*3行列)を、データベース(DB)へ登録する。
次に、焦点位置の高さ検出のために、第2の光学系の測定ビームの位置をあわせるとともに、電子線のビームをフォーカスしておく等、その他各種準備処理を行う(S105)。
この際、ステージ上に取り付けたEB(電子ビーム)フォーカス用針状(50nmレベル)較正器に第2の光学系の測定ビームを投射すると共に、電子ビーム描画装置のSEM(Scanning Electron Microscope)モードで観察し、フォーカスを合わせる。
次いで、基材を電子ビーム描画装置内へセットし、アライメントマークを読み取り(XXn、YYn、ZZn)、座標変換行列Maを算出して、電子ビーム描画装置内の基材の各部位置を求める(S106)。この際に、電子ビーム描画装置内においては、S106に示されるような各値をデータベース(DB)に登録することとなる。
さらに、基材の形状と後述する「円パターンを多角形にて近似して線描画する際の多角形の角数」から、最適なフィールド位置を決定する(S107)。尚、フィールドは同心円の扇型に配分するものとする。また、フィールド同士は、若干重なりを持たせるものとする。さらに、中央で第一輪帯にかからない部分はフィールドを配分しないものとする。
ここで上述のS107の処理、具体的には、“ラジアル方向のフィールド位置決定”と“そのフィールドで描画される円弧の最適な多角形角数算出”に関する処理について、図15に示すフローチャートに基づいて、図16を参照しつつ説明する。
以下、各パラメータを次のように定義する。
最大描画半径:Rmax
フィールドサイズ:L×L
1ドットサイズ:ΔL×ΔL
ここで、最大描画半径:Rmaxとは、図16(A)に示すように、基材2の全描画領域における最大半径のことを指す。
まず、単位描画ラジアル距離ΔRを下式より算出する(S301)。この単位描画ラジアル距離ΔRというのは、図16(B)に示すように、各フィールドにおけるラジアル方向(x軸方向)に関する描画距離のことである。また、予め設定される、ラジアル方向における単位描画ラジアル距離ΔRのフィールドサイズLに対する比をNとすると
ΔR=L×N
(但し、Nは初期設定された係数:N<1)
となる。
次に、第nRフィールド(ラジアル方向フィールドNonR)での最外周多角形の外接円半径Rout(nR)を下式により算出する(S302)。この外接円半径Rout(nR)というのは、図16(B)に示すように、ラジアル方向(x軸方向)における第nR番目のフィールドの描画領域における最大外接円半径のことである。
Rout(nR)=nR×ΔR
(但し、nR=1、2、3、・・・、int(Rmax/ΔR)+1、ここで
int(x)は、(x)の算出結果の整数部)
次に、この第nRフィールド(ラジアル方向フィールドNonR)で描画する各円パターン(輪帯)の多角形の角数Ntの条件を下式により算出する(S303)。
Nt>π/Acos(1−ΔL/Rout(nR))=Nf…(1)
ここで、上記(1)式について説明する。
本発明においては、各多角形パターンを繰り返し重ねて描画する際に、各パターンの描画ラインが隣り合うパターン間において重なり合うことにより、延べドーズ量(実際に与えられるドーズ量)にバラツキが生じて、さらに、近接効果による影響等により、結果として所望の形状が得られないという問題を回避するために、各パターンの描画ラインが隣り合うパターン間において重なり合うことのないように、多角形の角数は、内接円と外接円の差が電子ビームの最小移動距離単位よりも小さくなるように決定され、これにより内側(あるいは外側)の多角形を回転させても隣り合う多角形とは重ならない。即ち、図17に示すように、各多角形(角数Nt)に外接する円の半径をRn+1、内接する円の半径をRnとした場合
、これらの差が電子ビームの最小移動距離単位よりも小さくなれば良い。
まず、多角形(角数Nt)に外接する円の半径Rn+1と内接する円の半径Rnとの差を式に表すと、以下のようになる。
Rn+1−Rn<Rn+1(1−cos(π/Nt))…(2)
ここで、Rn+1−Rnは電子ビームの最小移動距離単位、即ち、電子ビームの1ドットサイズΔL未満、Rn+1はRout(nR)と各々置換することができることから、(2)式は以下のように表すことができる。
ΔL<Rout(nR)(1−cos(π/Nt))…(3)
さらに、上記(3)式を変形することで、
1−cos(π/Nt)>ΔL/Rout(nR)
cos(π/Nt)<1−ΔL/Rout(nR)
π/Nt<cos-1(1−ΔL/Rout(nR))
Nt/π>1/cos-1(1−ΔL/Rout(nR))
Nt>π/cos-1(1−ΔL/Rout(nR))=Nf…(1)
よって、(1)式が導き出される。
ところで、上記角数Nfは、各円パターン(輪帯)に近似する多角形の角数の最低条件を満たすものであり、理想的には、より多角数の多角形にて円パターンを近似することが好ましい。よって、1フィールド内で取り得る最大の角数をNt=k×Nf(但し、Ntは整数)と定義し、このNtを算出する。まず、このkを下式により算出する(S304)。
h=L×Mとすると、
hf=2×Rout(nR)×sin{(2π/Nt)/2}<L×M…(4)
上記(4)式を変形して、
hf=2×Rout(nR)×sin{(2π/Nf×(1/k)/2}<L×M…(5)
ここで、Mは初期化された係数:M<1である。
また、hfは多角形の角数をNfとした場合の多角形の一辺の長さに相当し、図16(B)、(C)から明らかなようにL×M=h≧hfの関係にある。
Nt>Nfであることから、図16(C)、(D)にも示すようにht<hfとなり、上記(5)式を満たせば、多角形の角数をNtとした場合であっても、両端の辺が隣接フィールドに掛かることが無く、辺描画領域は1フィールド内に必ず収まることとなる。
この様に、条件(1)式を満たし、且つ、k×Nfが最大の整数となるようにkの値が選択されることで、多角形の角数Ntが決定される(S305)。
図13に戻って、算出された多角形の角数Ntから、各フィールドのつなぎ部分を、多角形の各頂点を通る位置に設定する。そして、各フィールドについて、隣のフィールドのつなぎアドレスの計算を行う(S108)。この計算は、基材2の曲面部2aが平面であるものとして計算を行う。尚、多角形を構成する線分は、各々、同一フィールド内に納められる。
次に、対象とするフィールドについて焦点深度領域を区分する。同一ラインは同じ区分に入るように同一焦点深度領域を区分し、フィールドの中央は、焦点深度区分の高さ中心とする(S109)。ここに、高さ50μ以内は、同一焦点深度範囲として、1〜数箇所程度に分割する。
次いで、対象とするフィールドについて、同一焦点深度領域内での(x、y)アドレスの変換マトリクス(Xc、Yc)によりビーム偏向量を算出する(S110)。このXc、Ycは各々図示の式(16)の通りとなる。ここに、Wdはワークディスタンス、dは該当焦点深度区分の中央からZ方向偏差を示す。
さらに、対象とするフィールドについて、となりのフィールドとのつなぎアドレスを換算する(S111)。ここで、S108にて算出したつなぎ位置をS110の式(16)を用いて換算する。
そして、対象とするフィールドについて、中心にXYZステージを移動し、高さをEB(電子ビーム)のフォーカス位置に設定する(S112)。つまり、XYZステージにてフィールド中心にセットする。また、測定装置80の信号を検出しながら、XYZステージを移動し、高さ位置を読み取る。
また、対象とするフィールドについて、一番外側(m番目)の同一焦点深度領域の高さ中心に電子ビーム(EB)のフォーカス位置に合わせる(S113)。
次に、対象とする同一焦点深度領域について、一番外側(n番目)のラインのドーズ量及び多角形の始点、終点の座標を計算する。尚、スタート(始点)、エンド(終点)は、隣のフィールドとのつなぎ点とする(S114)。この際、始点、終点は整数にする。また一般にドーズ量は、ラジアル位置(入射角度)で決まった最大ドーズ量と格子の位置で決められた係数に最大ドーズ量を掛け合わせたもので表され(これを描画に必要なドーズ量とする)、ここでのドーズ量は前記必要ドーズ量の所定数分の1の値とされる。
そして、そのフィールド内に存在する多角形の一部である線分の始点から終点まで本来の所定数分の1の値のドーズ量にて描画を行う(S115)。
尚、これ以降に関しては、後述するように、多角形を前記所定数回だけ円周方向にずらしつつ、その都度、異なる位置に重ねて描画する処理を行う。即ち、上述のように最初の多角形を描画するべく、そのフィールド内に存在する前記多角形の一部を描画した後、前記多角形の位置を円周方向に所定の角度だけずらした上で、2回目の描画、即ち、1回目に描画した前記多角形の一部の描画を行い、これを所定数回に達するまで繰り返し行う。即ち、所定数回だけS107からS115を繰り返し実施する(S116)。
ここで、S116における“多角形を円周方向にずらしつつ、所定数回だけ重ねて描画する処理の流れ”について、図18を参照しつつ説明する。尚、以下に説明する処理は、制御部170がメモリ160の形状記憶テーブル161のドーズ分布情報161a、多角形頂点位置情報161b、ドーズ補正値情報161c等に基づいて、プログラムメモリ162の処理プログラム163a、ドーズ量演算プログラム163c及び多角形頂点位置演算プログラム163d等に従って行うものである。
予め、設定手段181を用いて描画ライン分割数Nbを入力する(S401)。尚、この描画ライン分割数Nbとしては任意の値が入力され、その情報はメモリ160のドーズ補正値情報161cに格納される。この描画ライン分割数Nbは、本発明の「所定数」に対応するものである。即ち、多角形を描画する際に、本来のドーズ量を何分の1の値にするのか、また、前記多角形を何回ずらして重ねて描画するのかを定義する数となっている。
多角形の描画回数を表す数値をnbとし、多角形の描画を開始する際には、まずnb=1が入力される(S402)。
次に、例えば図19に示す様な、描画Line_n(但し、nは任意の自然数)における多角形の各頂点位置座標データを取り込む(S403)。但し、最初は、描画Line_1における多角形の各頂点位置座標データ((x1、y1)〜(xk、yk))を取り込む。尚、この多角形の各頂点位置座標データは、メモリ160の多角形頂点位置情報161bに格納されている。
次に、Line_nで必要なドーズ量をDnとして、Dn/Nb≧ドーズ量最小単位であるか否かを判断し(S404)、Dn/Nb≧ドーズ量最小単位であった場合(S404、Yes)には、頂点位置を結ぶラインをドーズ量Dn/Nbで描画する(S405)。(但し、Dn/Nbがドーズ最小単位で割り切れない場合は、Dn/Nb+(余り×Nb)で描画する。)
次に、2回目の描画に移行するべく、描画回数を表すnbをnb=nb+1と置換する(S406)。
ここで、前記描画Line_nの多角形の各頂点位置座標を下式で変換する(S407)。
(但し、(Xk、Yk)は、k回目の描画時における多角形の各頂点位置座標であり、θは(2π/Nt)/Nbである。)
そして、変換後の頂点を結ぶラインをドーズ量Dn/Nbで描画し(S408)、描画回数nbが描画ライン分割数Nbに到達したか否かを判断し(S409)、nb<Nbであった場合(S409、No)には、次の描画を行うべくS406へ移行する。
そして、描画回数nbが描画ライン分割数Nbに到達した場合(S409、Yes)には、次の描画ラインLine_n+1の描画へ移行する。
なお前述したS404において、Dn/Nb<ドーズ量最小単位であった場合(S404、No)には、描画ライン分割数Nbを1とし、頂点位置を結ぶラインをドーズ量Dnで描画し(S410)、次の描画ラインLine_n+1の描画へ移行する。
以降、全ての描画ラインに対する描画が終了するまで、上記S402からS410の処理が繰り返される。
図14に戻って、このようにして1つの描画ラインに対する描画処理が終了した後、次の描画ラインに対する準備を行い、再度、S107からS116を実施する。これを規定回数(そのフィールド内に存在する描画ラインの数)だけ繰り返す(S117)。そして、全ての描画ラインに対して描画処理を施した際に、XYステージの移動を行って、次のフィールドの描画を行う準備を行う(S118)。この際、フィールド番号、時間、温度などデータベース(DB)への登録を行う。そして、前記S107からS118を規定回数(母型に設定されたフィールドの数)実施することで、全てのフィールドに対する描画が終了する(S119)。
以上に説明した様な実施の形態によれば、電子ビーム描画装置を用いて、基材にブレーズド、或いは、バイナリーパターンの回折格子構造を同心円状に描画する場合、回折格子構造の円パターンを多角形にて近似し、そのドーズ量を本来必要とされるドーズ量の所定数分の1の値に設定し、且つ、前記多角形を前記所定数回だけ円周方向にずらしつつ、その都度、重ねて描画していくことで、近接効果等の影響により、結果的に、現像処理後にはより円形に近い理想的な円パターンの回折格子構造の形成を得ることができ、さらに、フィールド間の区切りを前記多角形の各頂点を通過する位置に設定することで、フィールド間の繋ぎ部分を目立たなくすることができる。
(金型の作製方法)
次に、本発明に係る金型の作製方法について、図20及び図21に基づいて説明する。尚、本発明に係る金型は、例えば、光レンズ等の光学素子を射出成形によって製造するためのものである。
先ず、機械加工により例えば光レンズの光学面形状を形成した原型500を作製する(図20(A))。
次いで、スピンコート等により例えば熱硬化性樹脂等のレジストREを原型500の表面に塗布し、プリベークなどを行って樹脂層で被覆する(図20(B))。
そして原型500を被覆する樹脂層に、本発明に係る電子ビーム描画装置を用いて例えばバイナリーパターンのブレーズド回折格子構造を描画する(図20(C))。
樹脂(レジスト)層の現像処理(電子ビームの照射部と非照射部とで現像液に対する溶解度が異なることを利用して照射部を除去、又は電子ビーム照射による凝集破壊で接着性が弱まっている部分を吸引や剥離層を用いて除去)を行うことで、図20(D)に示す様な、回折格子構造を得る(現像工程)。
次いで、SEM観察や膜厚測定器などにより、回折格子構造を評価し、ドライエッチング等のエッチング処理で回折格子構造を整える。
この回折格子構造502のD部を拡大すると(図20(E))、基材の曲面部上には、傾斜部502b及び側壁部502aからなる複数のブレーズにて回折格子構造が形成されており、且つ、側壁部502aは、これを上方(図の矢印方向)から見た場合により理想的な円形となっている。また電子ビームにて描画した際のフィールド間の繋ぎ部分が目立つようなこともない。
さらに、回折格子構造を有する樹脂層で被覆された原型500に表面処理がなされ、次いで図21(A)に示すように、例えば金型電鋳前処理後、電鋳処理を行い、図19(B)に示すように、原型500と金型504とを剥離する処理を行う。そして、剥離した金型504に対して、表面処理を行う(金型表面処理工程)。
この金型504には、前記回折格子構造に対応するように、凹部505が形成され、これら凹部505は、前記傾斜部502b及び側壁部502aの形状と対応したものになっている。
当該金型504を用いて射出成形により成形品を作成すると(図19(C))、射出成型品510には複数のブレーズからなる回折格子構造511が形成され、C部を拡大して示すと、回折格子の1つのピッチが側壁部512a及び傾斜部512bからなるブレーズを構成し、且つ、側壁部502aは、これを上方(図の矢印方向)から見た場合により理想的な円形となっている。また電子ビームにて描画した際のフィールド間の繋ぎ部分が目立つようなこともない。
本実施形態によれば、光学素子(例えば光レンズ)を製造する場合に、まず、電子ビーム描画装置により基材に回折格子を円描画して、さらに、所定の表面処理等を行った後、ドライエッチングなどによりエッチング処理を施すことで母型を得て、この母型を基に電鋳処理を行うことで基材の表面上に形成された回折格子を金型に転写して、この金型を用いて光学素子を射出成形により製造することができるため、光学素子の製造にかかるコストダウンを図ることができる。