JP4296619B2 - 自動変速制御装置及び記録媒体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動変速機(AT)、無段変速機(CVT)、自動マニュアルトランスミッション(自動MT)等の変速機構において、クラッチ等の摩擦要素に対する圧力制御により変速を行なう自動変速制御装置及び記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車に搭載される変速機構としては、例えばオートマチックトランスミッション(AT)と呼ばれる自動変速機が知られている。この自動変速機は、トルクコンバータと変速歯車機構とを組み合わせ、この変速歯車機構の動力伝達経路をクラッチやブレーキなどの複数の摩擦要素の選択的動作により切り替えて、所定の変速段に自動的に変速するように構成したものである。
【0003】
この種の自動変速機には、前記摩擦要素に対する作動圧の給排を制御する油圧制御手段が備えられ、特に変速動作中に、該油圧制御手段による作動圧の給排を精密に制御することにより、変速ショックの少ない良好な変速フィーリングを実現することが行われている。
【0004】
具体的には、その変速制御は、例えば図13のフローチャートに示す手順にて行われる。つまり、ステップ1000にて、アクセル開度を読み込み、ステップ1010にて、シフトセレクタレバー位置を読み込み、ステップ1020にて、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt及び車輪回転数Noを読み込む。
【0005】
次に、読み込んだデータを用いて、ステップ1030にて、変速線図を照合し、ステップ1040にて、その照合結果に基づいて変速か否かを判定する。ここで、変速実行の場合には、図14のタイミングチャートに示す様に、開放側のクラッチA油圧及び係合側のクラッチB油圧を調節して、フェーズ1(充填期間),フェーズ2(トルク相),フェーズ3(イナーシャ相)における変速制御を実行する。これにより、クラッチAとクラッチBとにおける掴み換えが行われて、変速が完了する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そして、上述した自動変速機の変速制御を行なう自動変速制御装置においては、通常、以下3点の要求がある。
(1)開発段階;制御値を決める適合工程(例えば図14のクラッチB油圧におけるB1,B2,B3の適合による設定工数)を減らしたい。
【0007】
(2)出荷段階;メカバラツキによる変速ショックバラツキを抑えたい。
(3)市場段階;メカ経年変化による変速ショック悪化を抑えたい。
従って、この対策として、例えば、変速に伴う車両前後加速度を検出し、その加速度波形を基に、制御値(圧力指令値)の補正を行なう方法が考えられている。尚、この前後加速度は、車輪速度からは算出できない短い時間に発生する加速度であり、短時間ではあるが、運転者にはその加速度の変化がショックとして感じられるものである。
【0008】
(1)具体的には、例えば特開平2−256959号には、いわゆるGセンサを用い、その出力に応じて制御値を補正する方法が記載されている。しかし、このGセンサとは、加速度の絶対的な大きさを測定するものではなく、加速度の相対的な変化(AC加速度成分)のみを検出するAC加速度センサであるので、十分な変速ショックの指標とはならないという問題があった。
【0009】
しかも、Gセンサを使用する場合には、Gセンサを取り付ける場所や向きによりセンサ出力が変動するので、車両との伝達特性を測る手間がかかるという問題もある。
(2)また、これは別に、例えば特開平3−265756号には、加速度の絶対的な値であるオフセット値(DC加速度成分)を含む加速度、即ち0Gからの加速度の大きさを含む加速度を直接的に検出できる加速度センサを使用して、制御値を補正する方法が記載されている。
【0010】
この種の加速度センサとしては、例えば本体を車体の一部に固定し、歪ゲージを接着した片持ち梁の先端に錘を取り付け、車両の前後方向の加速度に比例した力を受けて電気的出力が得られる構造のものが知られているが、この様な加速度センサは一般的に高価であり、また、この加速度センサは、温度でドリフトが生ずるという問題もあった。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、低コストで、車両の前後加速度を好適に推定できる自動変速制御装置及び記録媒体を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
(1)請求項1の発明では、車両変速時に、変速機構(例えば自動変速機)の摩擦要素(例えばクラッチ)を作動させる圧力印加装置(例えばコントロールバルブ)に対し、圧力指令値を与えて圧力制御を行なう自動変速制御装置において、車速センサ又は車輪速度センサからの出力に基づいて、車両の前後加速度の絶対的な大きさを示すDC加速度成分を検出するDC加速度検出手段と、車両の前後加速度の相対的な変化を示すAC加速度成分を検出するAC加速度検出手段と、前記DC加速度成分と前記AC加速度成分を合成し、前記車両の前後加速度を推定する前後加速度推定手段と、を備えるとともに、前記DC加速度成分として変速前の値を用い、前記AC加速度成分として変速中の値を用いることを特徴とする自動変速制御装置を要旨とする。
【0013】
本発明では、DC加速度検出手段により、例えばクランク軸の回転速度から車速を求める様な車速センサの車速を示すセンサ出力を微分して、車両の0Gからの前後加速度の絶対的な大きさ(オフセット値)であるDC加速度成分を求めることができる。また、車輪速度センサ(即ち車輪回転数センサ)の出力を用いる場合には、その車輪速度(車輪回転数)は、同様に(所定の係数を掛けることにより)車速を示す値であるので、車輪速度(詳しくは所定の係数をかけたもの)を微分することにより車両のDC加速度成分を求めることができる。
一方、AC加速度検出手段により、例えばGセンサの様な加速度の変化のみを検出するセンサ出力から、車両の前後加速度の相対的な変化を示すAC加速度成分を求めることができる。よって、前後加速度推定手段により、DC加速度成分とAC加速度成分を合成することにより、車両の前後加速度を推定することができる。
【0014】
つまり、変速ショックは、DC(直流)加速度成分とAC(交流)加速度成分の変化により生ずるので、その評価には両成分を考慮する必要である。従って、従来の様に、AC加速度成分のみを評価するだけでは不十分であり、本発明の様に、DC加速度成分とAC加速度成分を合成することにより、車両の前後加速度を精密に推定して、それによる変速ショックを正確に評価することができる。
【0015】
また、この様に変速ショックの評価を好適に行うことにより、本発明では、適合工数を低減でき、また、メカバラツキやメカ経年変化に起因する変速ショックを低減できるという利点がある。
れとは別に、DC加速度成分を直接に検出できるDC加速度センサを使用することも考えられるが、一般にDC加速度センサは高価であり、また、温度によりドリフトが生ずるという問題があるので、本発明の様に、DC加速度検出手段により、間接的にDC加速度成分を求めた方が、コスト及び温度による影響の低減の点で好ましい。
更に、本発明では、DC加速度成分として変速前の値を用いるので、正確なオフセット値が得られる。また、AC加速度成分として変速中の値を用いるので、前後加速度推定のを好適に行うことができる。
【0016】
尚、変速機構の摩擦要素としては、例えばATの場合のクラッチやブレーキ以外に、CVTの場合のプーリ、自動MTの場合のクラッチなどが挙げられる。
(2)請求項2の発明は、
前記推定した車両の前後加速度に基づいて、前記圧力印加装置の圧力指令値を変更することを特徴とする前記請求項1に記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0017】
本発明は、推定により得られた前後加速度を用いた制御を示している。ここでは、正確な前後加速度に基づいて、変速ショックを低減するように、圧力印加装置の圧力指令値を変更することにより、変速ショックの少ないスムーズな変速制御を実現することができる。
【0018】
尚、今回の変速の際に推定された前後加速度に基づいて圧力指令値を変更し、この変更された圧力指令値を次回の変速制御の際に用いることが考えられるが、演算速度が十分であれば、今回の変速制御の圧力指令値を速やかに変更して制御を行なってもよい。
【0019】
(3)請求項3の発明は、
前記推定した車両の前後加速度が、所定の許容範囲を逸脱した場合に、前記圧力印加装置の圧力指令値を変更することを特徴とする前記請求項2に記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0020】
本発明は、圧力指令値の変更方法を例示したものである。例えば前後加速度が基準値を下回って低下した場合や、基準値を上回った場合には、変速ショックが大きくなるとして、その場合には、圧力指令値を変速ショックが低減する様に設定するのである。
【0023】
)請求項の発明は、変速終了後に、前記DC加速度成分を算出し、前記車両の前後加速度成分とすることを特徴とする前記請求項1〜3のいずれかに記載の自動変速制御装置を要旨とする。
変速前のDC加速度成分と変速中のAC加速度成分を合成することにより、変速後の車両の前後加速度を推定することは可能であるが、精度が低下するため、変速終了後に算出したDC加速度成分を車両の前後加速度成分とするのである。
)請求項の発明は、前記変速機構の摩擦要素が自動変速機の一対のクラッチであり、この一対のクラッチの掴み換えにより変速を行なう場合に、前記推定した車両の前後加速度が所定の許容範囲を逸脱したときには、係合側のクラッチ圧又は開放側のクラッチ圧の圧力指令値を変更することを特徴とする前記請求項1〜に記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0024】
本発明は、変速機構の摩擦要素を例示したものであり、ここでは、自動変速機の一対のクラッチの掴み換えを行なう場合を示している。具体的には、推定した車両の前後加速度が所定の許容範囲を逸脱したときには、係合側のクラッチ圧又は開放側のクラッチ圧の圧力指令値を変更する。これにより、変速ショックを低減することができる。
【0025】
尚、一対のクラッチの掴み換えにより変速を行なう場合には、例えば開放側のクラッチ圧を徐々に低減するとともに、係合側のクラッチ圧を徐々に増加させることにより、クラッチの掴み換えを行なうが、このときに、推定した車両の前後加速度が所定の許容範囲を逸脱した場合には、例えば係合側のクラッチ圧の増加の程度を低減することにより、係合のスピードが緩やかになり変速ショックを低減することができる。また、開放側のクラッチ圧の場合は、クラッチ圧の低下の程度を高めることにより、開放のスピードが速くなり、変速ショックを低減することができる。
【0026】
)請求項の発明は、前記所定の許容範囲を逸脱が、トルク相における前記推定した前後加速度の過度の落ち込みであることを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置。制御装置を要旨とする。
【0027】
本発明では、トルク相において、前記推定した前後加速度の過度の落ち込みがある場合には、例えば2重係合や全く係合のないフリーの状態であると考えて、例えば係合側のクラッチ圧の増加の程度を緩める等の制御を行う。これにより、変速ショックを低減できる。
【0028】
)請求項の発明は、前記所定の許容範囲を逸脱が、イナーシャ相における前記推定した前後加速度の過度の飛び出しであることを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0029】
本発明では、イナーシャ相において、前記推定した前後加速度の過度の飛び出しがある場合には、例えば急係合の状態であると考えて、例えば係合側のクラッチ圧の増加の程度を緩める等の制御を行う。これにより、変速ショックを低減できる。
【0032】
)請求項の発明は、前記車速センサ又は車輪速度センサの出力からDC加速度成分を検出するDC加速度検出手段に代えて、エンジン出力トルクから前記DC加速度成分を検出する手段を用いることを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0033】
DC加速度成分を求める方法としては、上述した車速センサや車輪速度センサの出力を用いる方法以外に、エンジン出力トルクから求める方法がある。これは、車速とエンジン出力トルクとが、例えば図12に示す様に、ある決まった関係を保って変化するからである。
【0034】
)請求項の発明は、前記AC加速度検出手段は、Gセンサである加速度センサからの出力に基づいて、前記AC加速度成分を検出することを特徴とする前記請求項1〜のいずれかに記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0035】
本発明は、AC加速度成分を検出する際に用いるセンサを例示しており、ここでは、加速度の変化のみを検出するいわゆるGセンサを示している。
10)請求項10の発明は、前記加速度センサは、エアバッグシステムの加速度センサと共有することを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置を要旨とする。
【0036】
エアバッグシステムにおいては、例えば衝突時の加速度変化を検出してエアバッグを開かせるために、上述したGセンサが使用されている。従って、本発明の様に、AC加速度成分を検出するための加速度センサとして、このGセンサを用いれば、コストの低減を図ることができる。
【0037】
11)請求項11の発明は、前記請求項1〜10のいずれかに記載の自動変速制御装置による制御を実行させる手段を記録していることを特徴とする記録媒体を要旨とする。
例えば記録媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フロッピィディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記録媒体が挙げられる。
【0038】
つまり、上述した自動変速制御装置の制御を実行させることができる例えばプログラム等の手段を記録したものであれば、特に限定はない。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の自動変速制御装置の好適な実施の形態を、例(実施例)を挙げて詳細に説明する。
(実施例1)
a)まず、本実施例の自動変速制御装置の構成について説明する。
【0040】
図1に示す様に、自動車に搭載されて電子制御されるエンジン1は、自動変速機2とデファレンシャルギア3を介して駆動車輪4に接続されている。
前記エンジン1は、周知のCPU,ROM,RAM,I/O等を備えたマイクロコンピュータであるエンジン制御用の電子制御装置(エンジン制御用ECU)5を備えている。このエンジン制御用ECU5には、エンジン回転数(Ne)を検出するエンジン回転数センサ6、車速(自動変速機2の出力軸回転数)を検出する車速センサ7、エンジン1のスロットル開度を検出するスロットルセンサ8、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ19、駆動車輪4の車輪回転数(No)を検出する車輪回転数センサ20、及び吸入空気量を検出する吸入空気量センサ9の各信号が入力される。
【0041】
エンジン制御用ECU5は、これら入力情報を基に燃料噴射量を決定してエンジン1に指令を出し、また図示しないが点火信号をエンジン1に供給する。そして、この指令に応じて、図示しない燃料供給装置、点火装置が作動し、エンジン1の回転に合わせて燃料の供給と燃焼が行われ、エンジン1の駆動及びその制御が行われる。
【0042】
前記自動変速機2は、トルクコンバータ10及び変速歯車機構11を備えており、エンジン1から供給される動力は、エンジン出力軸1a(図2参照)やトルクコンバータ10を経て変速歯車機構11の入力軸12に伝達される。そして、入力軸12への変速機入力回転は、変速歯車機構11の選択変速段に応じ増減速されて出力軸13に至り、この出力軸13からデファレンシャルギア3を経て駆動車輪4に達して、自動車を走行させることができる。
【0043】
尚、前記自動変速機2は、図2に示す如く公知のものであるため、その詳細な説明は省略するが、変速歯車機構11は、入力軸12から出力軸13への動力伝達経路(変速段)を決定する各種のクラッチ(R/C,H/C,LO/C,OR/C,F/C,FO/C)やブレーキ(B/B,LR/B)などの各種摩擦要素を内蔵している。
【0044】
前記変速歯車機構11には、図1に示す様に、変速制御用ECU14からの指令に基づき駆動されるコントロールバルブ15が接続されており、コントロールバルブ15から適宜油圧が供給され、その油圧を各種摩擦要素に作動させることで変速を実現している。
【0045】
このコントロールバルブ15には、変速制御用ECU14の指令で変速段毎に油圧を供給する経路を切り換える2本の変速制御用ソレノイド15a,bと、油圧の大きさを制御するライン圧制御用ソレノイド16が配置されている。
前記変速制御用ECU14は、前記エンジン制御用ECU5と同様のマイクロコンピュータで構成されており、前記エンジン回転数センサ6、車速センサ7、スロットルセンサ8、アクセル開度センサ19、車輪回転数センサ20の各信号に加え、入力軸12の回転数(タービン回転数Nt)を計測する入力軸回転数センサ17、シフトセレクトレバー位置を検出するシフトポジションセンサ21、車両の前後加速度を検出するGセンサである加速度センサ22、自動変速機2の油温を検出する油温センサ23の各信号が入力される。尚、この加速度センサ22により、車両の前後加速度の相対変化であるAC加速度成分が得られる。
【0046】
更に、エンジン制御用ECU5と変速制御用ECU14は、通信ライン18で結ばれ、制御情報や指令を双方向に通信できるようになっている。この通信ライン18は、LAN(LocaI Area Network)の様な多重通信機構を用いても良いし、必要な通信毎に制御用コンピュータの入出力ポートを接続する配線でも良い。
【0047】
b)次に、本実施例において変速制御用ECU14が実行する制御内容について説明する。尚、以下に示す制御処理は、一定期間(例えば8〜25msec)毎に繰り返し実施される。
まず、変速制御用ECU14による変速制御について、図3及び図4のフローチャートと、図5〜図7の説明図に基づいて説明する。尚、図3は本実施例の制御のメインルーチン、図4は変速制御のフローチャート、図5は変速線図、図6は変速係合表の説明図、図7は変速油圧等のタイミングチャートを示している。
【0048】
・最初に、本実施例の制御のメインルーチンについて説明する。
図3に示す様に、変速制御用ECU14では、ステップ100にて、加速度センサ22の信号から、車両の前後加速度の相対的な変化であるAC加速度成分の読み込みを開始する。尚、AC加速度成分の読み込みは、一定時間(例えば10ms)毎に、常時読み込むものとする。
【0049】
続くステップ110では、アクセル開度センサ19の信号から、変速判断に必要なアクセル開度を読み込む。
続くステップ120では、入力軸回転数センサ17からの信号に基づいて、タービン回転数Ntを算出し、エンジン回転数センサ6からの信号に基づいてエンジン回転数Neを算出し、車輪回転数センサ20からの信号に基づいて車輪回転数Noを算出する。
【0050】
続くステップ130では、油温センサ23の信号から、自動変速機2の油温(ATF油温)を読み込む。
続くステップ140では、図5に示す様な変速線図を用い、アクセル開度と変速段の関係を照合する。
【0051】
変速線図としては、車速とアクセル開度をパラメータとしたマップを変速制御用コンピュータ14が予め記憶している。このマップは、図5に示す様に、変速段決定の際のチャタリング防止のため、第n速(n=1,2,3)から第n+1速への変速(アップシフト)と第m通(m=2,3,4)から第m−1速への変速(ダウンシフト)で、アップシフトの場合は実線で、ダウンシフトの場合は破線で示すように異なる判定線を用いるように構成されている。
【0052】
続くステップ150では、この変速線図の照合に基づいて、変速を実行すべきか否かを判定する。具体的には、例えば図5の変速線図を用いて、前回の演算における車速−アクセル開度の関係位置と今回の演算におけるその関係位置とを結んだ線が、実線または破線の変速線を横切った場合に変速有りと判定する。ここで肯定判断されるとステップ160に進み、一方否定判断されるとステップ110に戻る。
【0053】
ステップ160では、車輪回転数Noを微分して、変速制御前における車輪回転数NoのDC加速度成分dNoを算出する。この車輪回転数Noは、車輪径を加味することにより車速に換算できるので、車速を微分して得られるDC加速度成分と見なすことができる。また、このDC加速度成分dNoは、変速前の値であるので、前後加速度成分の0Gからのオフセット値、即ち絶対値であると考えられる。
【0054】
続くステップ170では、前記ステップ150で変速有りと判定されたので、変速線図から求められる新たな変速段に対応するように、変速制御用ソレノイド15a,bのON(オン)/OFF(オフ)状態を切り換え、それによりいわゆるクラッチtoクラッチの掴み換えの変速制御を行なう。
【0055】
例えば図6の変速係合表に示す様に、変速を行なう場合(例えば2→3変速のアップシフトの場合)には、係合されているクラッチAを開放し、開放されているクラッチBを係合させる。この係合表では、係合しているクラッチを○で示した。また、クラッチCはその他のクラッチである。
【0056】
・ここで、この変速制御(2段→3段の変速制御)について、図4のフローチャートに基づいて詳しく説明する。
図4のステップ300では、フェーズの値として、初期値の1を設定する。
続くステップ310では、フェーズの値を判定する。最初はフェーズの値が1であるので、即ち充填期間を示すフェーズであるので、ステップ320に進む。
【0057】
(1)フェーズ1(充填期間)
まず、ステップ320にて、図7に示す様に、開放すべき側(開放側)のクラッチA油圧を、初期値A100からA1の値に変更し、現在必要なクラッチ伝達トルクまで下げる。
【0058】
続くステップ330では、係合すべき側(係合側)のクラッチB油圧を、初期値B0からB1の値に変更し、クラッチ室の油充填を行なう。
続くステップ340では、クラッチBのクラッチが接触する時間(一定時間)まで、この油圧B1を維持する。
【0059】
続くステップ340では、一定時間が経過したので、フェーズの値に2をセットする。
これにより、ステップ310では、フェーズの値が2、即ちトルク相の期間であると判定されて、ステップ360に進む。
【0060】
(2)フェーズ2(トルク相の期間)
まず、ステップ360にて、図7に示す様に、開放側のクラッチA油圧をA2とする。即ち、クラッチA油圧を一定勾配で減少(スイープダウン)させる。続くステップ370では、係合側のクラッチB油圧をB2とする。即ち、クラッチB油圧を一定勾配で増加(スイープアップ)させる。
【0061】
つまり、このクラッチA油圧のスイートダウンとクラッチB油圧のスイートアップにより、フェーズ2にて、クラッチAで受け持っていた伝達トルクをクラッチBに受け渡すことができる。
続くステップ380では、タービン回転数Ntが、所定値Nt1を下回ったか否かを判定し、ここで、肯定判断されると、ステップ390にて、フェーズの値に3をセットしてステップ310に進み、一方否定判断されると、そのままステップ310に進む。
【0062】
これにより、ステップ310では、フェーズの値が3、即ちイナーシャ相の期間であると判定されて、ステップ400に進む。
(3)フェーズ3(トルク相の期間)
まず、ステップ400にて、図7に示す様に、開放側のクラッチA油圧をA0、即ち0とする。
【0063】
続くステップ410では、係合側のクラッチB油圧をB3とする。即ち、クラッチB油圧を一定勾配(但しB2の勾配>B3の勾配)で増加(スイープアップ)させる。
続くステップ420では、タービン回転数Ntが、所定値Nt2(<Nt1)を下回ったか否かを判定し、ここで、肯定判断されると、ステップ430にて、クラッチB油圧をB100の最大値にセットして、一旦本処理を終了する。 これにより、フェーズ1,2,3を経た2段→3段の変速制御が完了する。
【0064】
・図3に戻り、ステップ180では、変速終了後、所定時間(△t1)待機した後に、前記ステップ160と同様に、車輪回転数Noを微分して、変速制御後における車輪回転数NoのDC加速度成分dNo、即ち、当該車両におけるDC加速度成分を算出する。
【0065】
続くステップ190では、変速時の車両の前後加速度を推定する。具体的には、常時読み込んでいた(加速度センサ22からの)AC加速度成分と、(dNoから得られた)DC加速度成分を合成(加算)し、その値を車両の前後加速度の推定値とする。
【0066】
続くステップ190では、前記AC加速度成分とDC加速度成分との合成によって得られた前後加速度に基づいて、変速ショックの良否判定を行なう。
例えば図7のaに示す前後加速度のトルク相における落込み量が、許容範囲内(即ち基準値kaを下回る)か否かを判定する。また、bに示す前後加速度のイナーシャ相における飛び出し量が、許容範囲内(即ち基準値kbを上回る)か否かを判定する。
【0067】
そして、どちらか一方でも許容範囲から外れていた場合には、変速ショックが良ではない(変速ショック大)として、ステップ210に進み、一方、a,b両方とも前後加速度が許容範囲内である場合には、変速ショックが良(変速ショック小)として、前記ステップ110に進む。
【0068】
ステップ210では、変速ショックが悪いので、制御値(圧力指令値)を変更する処理を行なう。
具体的には、例えばaの落込み量が基準値kaを下回る場合(図7の(e)の実線参照)には、クラッチAとクラッチBとが2重係合気味と判断して、次回の変速制御において、図7の(d)のB2にて2点鎖線で示す様に、クラッチBにおける係合側油圧B2の油圧勾配を緩くするように、圧力指令値を変更する。
【0069】
また、例えばbの飛び出し量が基準値kbを上回る場合(図7の(e)の実線参照)には、イナーシャトルク増加分が大き過ぎると判断して、図7の(d)のB3にて2点鎖線で示す様に、クラッチBにおける係合側油圧B3の油圧勾配を緩くするように、圧力指令値を変更する。
【0070】
この様に、係合側油圧の圧力制御値を変更することにより、係合のスピードが緩やかになるので、変速ショックを低減することができる。尚、図7の(e)において実線のグラフは許容範囲を逸脱した前後加速度を示し、2点鎖線のグラフは、許容範囲内の前後加速度を示している。
【0071】
また、これとは別の方法として、例えばaの落込み量が基準値kaを下回る場合(図8の(e)の実線参照)には、クラッチAとクラッチBとが2重係合気味と判断して、次回の変速制御において、図8の(c)のA2にて2点鎖線で示す様に、クラッチAにおける開放側油圧A2の油圧勾配を急にするように、圧力指令値を変更してもよい。
【0072】
この様に、開放側油圧の圧力制御値を変更することにより、開放のスピードが速くなるので、変速ショックを低減することができる。
c)次に、上述した制御における動作について、図7及び図9に基づいて説明する。
【0073】
尚、図9は変速時の各加速度等のタイミングチャートを示しており、(b)が実際の前後加速度、(e)が(b)のAC加速度成分に(c)のDC加速度成分を加算して得られる推定前後加速度である。
図9に示す様に、変速開始指令が出力された時点t1では、加速度センサ22から得られるAC加速度成分は0Gである。一方、車輪回転数センサ20から得られる車輪回転数Noを微分したDC加速度成分として、あるオフセット値△F1が求められる。従って、その時点t1では、AC加速度成分とDC加速度成分の合計は、オフセット値△F1である。
【0074】
次に、変速が進行すると、時点t2前後にて、その変速による前後加速度の変化(トルク相における落込み)を加速度センサ22が捉えるので、AC加速度成分としては、−G1が得られる。このとき、車輪回転数センサ20では、この様な僅かな前後加速度の変化を捉えることができないので、DC加速度成分はオフセット値△F1のままである。従って、その時点t2では、AC加速度成分とDC加速度成分の合計は、図9(e)の推定車両前後加速度に示す様に、オフセット値(△F1)+AC加速度成分(−G1)の値となる。
【0075】
その後、変速が終了する時点t3までは、同様な演算により、AC加速度成分の変化に対応した推定車両前後加速度が得られる。
変速終了時点t3からは、DC加速度成分は、変速段等に対応してオフセット値△F2に変化する。変速後は、このDC加速度成分を用いて、推定車両前後加速度とする。
【0076】
この様に、本実施例では、車両前後加速度の相対変化であるAC加速度成分と、車両前後加速度の絶対的な大きさであるDC加速度成分とを加算して、車両前後加速度成分を算出しているので、より正確な車両の前後加速度を推定して求めることができる。
【0077】
よって、この推定した前後加速度に基づいて、例えばクラッチB油圧の油圧(制御値)を補正することにより、次回の同様な変速制御における変速ショックを低減することができる。
また、この様に変速ショックの評価を好適に行って、適切な変速制御を行うことにより、本実施例では、適合工数を低減でき、また、メカバラツキやメカ経年変化に起因する変速ショックを低減できるという効果を奏する。
【0078】
更に、本実施例では、DC加速度成分を検出するセンサとして、車輪回転数センサを利用できるので、高価なDC加速度センサを使用しなくとも済み、コストを低減することができ、温度によるドリフトの影響もないという利点がある。
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。
【0079】
尚、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略し、要部のみを示す。
本実施例では、図10に示す様に、AC加速度成分を検出するセンサとして、エアバッグシステムに使用されているGセンサ(加速度センサ)31を利用する。
【0080】
つまり、エアバッグシステムを制御するエアバッグECU32においては、衝突時の加速度変化を捉えて、エアバッグ33を膨らませる薬剤に点火するエアバッグ展開信号を出力するために、Gセンサ31が使用されている。よって、本実施例では、このGセンサ31の出力を、変速制御用ECU14に取り込んで用いる。
【0081】
これにより、別途Gセンサを取り付ける必要がないので、コストダウンに寄与するという利点がある。
(実施例3)
次に、実施例3について説明する。
【0082】
尚、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略し、要部のみを示す。
本実施例では、車輪回転数センサの出力を利用してDC加速度成分を求めるのではなく、エンジントルクを用いてDC加速度成分を求める。
図11に示す様に、エンジンの駆動力は、トルクコンバータを介して(ギア比を有する)変速歯車機構に伝達され、更に、(デフ比を有する)デファレンシャルギア、駆動軸を介して、タイヤに伝達される。従って、この構成から、下記の様にして、DC加速度成分を求めることができる。
【0083】
まず、図12に示す様に、エンジントルクは、図12(a),(b),(c)のマップを使用して求めることができる。
例えば図12(a)は、エンジントルクとアクセル開度とエンジン回転数との関係を示しているので、アクセル開度とエンジン回転数を検出すれば、エンジントルクを求めることができる。
【0084】
また、図12(b)は、トルクコンバータの特性、即ち、エンジントルクと(タービン回転数/エンジン回転数)との関係を示しているので、タービン回転数とエンジン回転数を検出すれば、エンジントルクを求めることができる。
更に、図12(c)は、エンジントルクと吸気管空気流量との関係を示しているので、エアフロメータや吸気圧センサから吸気管空気流量を検出することにより、エンジントルクを求めることができる。
【0085】
そして、エンジントルクを求めてから、下記式(1)による駆動軸トルクを算出することができる。
駆動軸トルク=エンジントルク×Tr(Nt/Ne)×ギア比×デフ比…(1)
但し、Tr;トルクコンバータ増幅比
Nt;タービン回転数
Ne;エンジン回転数
更に、この駆動軸トルクを用い、下記式(2)から車両前後加速度(DC加速度成分)を算出することができる。
【0086】
車両前後加速度=(駆動軸トルク÷タイヤ半径)÷車重量…(2)
尚、本発明は前記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
(1)前記実施例1〜3では、今回の変速制御の際に推定した前後加速度に基づいて、次回の変速制御におけるクラッチ油圧を調節したが、高い演算処理能力を有するコンピュータを使用する場合には、推定すると同時に、推定した今回の変速制御において、逐次クラッチ油圧を変更してもよい。この場合は、現在の変速制御における変速ショックを速やかに低減できるという利点がある。
【0087】
(2)前記実施例1〜3では、DC加速度成分を検出するセンサとして、車輪速度センサを使用したが、例えばクランク軸の回転速度から車速を求めるような車速センサを使用してもよい。
(3)前記実施例1〜3では、自動変速制御装置について述べたが、この装置による制御を実行させる手段を記録している記録媒体も、本発明の範囲であるある。
【0088】
例えば記録媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フロッピィディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記録媒体が挙げられる。
つまり、上述した自動変速制御装置の制御を実行させることができる例えばプログラム等の手段を記録したものであれば、特に限定はない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の制御装置を内蔵した自動変速機制御系の全体構成を示す概略構成図である。
【図2】 自動変速機の構成を示す概略構成図である。
【図3】 実施例1の制御処理を示すメインルーチンのフローチャートである。
【図4】 実施例1の変速制御の処理を示すフローチャートである。
【図5】 シフトアップ及びシフトダウンの変速線を示すグラフである。
【図6】 変速係合表を示す説明図である。
【図7】 変速制御におけるクラッチ圧等の変化を示すグラフである。
【図8】 別の変速制御におけるクラッチ圧等の変化を示すグラフである。
【図9】 変速制御における前後加速度等の変化を示すグラフである。
【図10】 実施例2の自動変速制御装置の構成を示す説明図である。
【図11】 エンジントルクの伝達経路を示す説明図である。
【図12】 エンジントルクを設定方法を示す説明図である。
【図13】 従来技術の制御を示すフローチャートである。
【図14】 従来技術の制御を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
1…エンジン 2…自動変速機
5…エンジン制御用コンピュータ 6…エンジン回転数センサ
7…車速センサ 8…スロットルセンサ
10…トルクコンバータ 11…変速歯車機構
12…入力軸 13…出力軸
14…変速制御用ECU 15…コントロールバルブ
17…入力軸回転数センサ 19…アクセル開度センサ
20…車輪回転数センサ 21…シフトポジションセンサ
22,31…加速度センサ

Claims (11)

  1. 車両変速時に、変速機構の摩擦要素を作動させる圧力印加装置に対し、圧力指令値を与えて圧力制御を行なう自動変速制御装置において、
    車速センサ又は車輪速度センサからの出力に基づいて、前記車両の前後加速度の絶対的な大きさを示すDC加速度成分を検出するDC加速度検出手段と、
    前記車両の前後加速度の相対的な変化を示すAC加速度成分を検出するAC加速度検出手段と、
    前記DC加速度成分と前記AC加速度成分を合成し、前記車両の前後加速度を推定する前後加速度推定手段と、
    を備えるとともに、
    前記DC加速度成分として変速前の値を用い、前記AC加速度成分として変速中の値を用いることを特徴とする自動変速制御装置。
  2. 前記推定した車両の前後加速度に基づいて、前記圧力印加装置の圧力指令値を変更することを特徴とする前記請求項1に記載の自動変速制御装置。
  3. 前記推定した車両の前後加速度が、所定の許容範囲を逸脱した場合に、前記圧力印加装置の圧力指令値を変更することを特徴とする前記請求項2に記載の自動変速制御装置。
  4. 変速終了後に、前記DC加速度成分を算出し、前記車両の前後加速度成分とすることを特徴とする前記請求項1〜3のいずれかに記載の自動変速制御装置。
  5. 前記変速機構の摩擦要素が自動変速機の一対のクラッチであり、この一対のクラッチの掴み換えにより変速を行なう場合に、前記推定した車両の前後加速度が所定の許容範囲を逸脱したときには、係合側のクラッチ圧又は開放側のクラッチ圧の圧力指令値を変更することを特徴とする前記請求項1〜に記載の自動変速制御装置。
  6. 前記所定の許容範囲を逸脱が、トルク相における前記推定した前後加速度の過度の落ち込みであることを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置
  7. 前記所定の許容範囲を逸脱が、イナーシャ相における前記推定した前後加速度の過度の飛び出しであることを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置。
  8. 前記車速センサ又は車輪速度センサの出力からDC加速度成分を検出するDC加速度検出手段に代えて、エンジン出力トルクから前記DC加速度成分を検出する手段を用いることを特徴とする前記請求項1〜7のいずれかに記載の自動変速制御装置。
  9. 前記AC加速度検出手段は、Gセンサである加速度センサからの出力に基づいて、前記AC加速度成分を検出することを特徴とする前記請求項1〜のいずれかに記載の自動変速制御装置。
  10. 前記加速度センサは、エアバッグシステムの加速度センサと共有することを特徴とする前記請求項に記載の自動変速制御装置。
  11. 前記請求項1〜10のいずれかに記載の自動変速制御装置による制御を実行させる手段を記録していることを特徴とする記録媒体。
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