JP4294149B2 - アーク電流制御方法及び溶接装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、消耗電極ガスシールドアーク溶接において、溶接品質の向上を図ることができるアーク電流制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
消耗電極ガスシールドアーク溶接方法は、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム及びアルミニウム合金等の種々の金属材料を対象とする接合方法として、広く産業界で使用されている。
【0003】
消耗電極ガスシールドアーク溶接においては、溶接ワイヤ先端の溶滴、被溶接物上の溶融池、アークの陰極点等のアーク現象に起因する不規則な運動、溶接ワイヤの機械的な送給変動等の種々の外乱によって溶接品質に重大な影響を及ぼす要因となるアーク長が大きく変動する。アーク長が変動すると、溶接状態が不安定になり大粒のスパッタの大量発生、アンダーカット等のビード外観の不良、ブローホール等の溶接欠陥の発生等の溶接品質が不良となる。したがって、良好な溶接品質を得るためには、アーク長の変動を抑制することができるアーク電流制御が必要となる。以下に、従来技術におけるアーク電流制御方法について説明する。
【0004】
図1は、従来技術のアーク電流制御方法を示す電圧・電流波形図であり、同図(A)は溶接電源装置の出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示している。
【0005】
溶接装置は溶接電源装置、ワイヤ送給装置、溶接トーチ等から構成されている。通常、溶接電源装置のプラスの出力端子は溶接用ケーブルによって溶接トーチを装着したワイヤ送給装置と接続されており、マイナスの出力端子は溶接用ケーブルによって被溶接物と接続されている。溶接ワイヤはワイヤ送給装置から溶接トーチを通って送給されて被溶接物との間でアークが発生して溶接が行われる。このときに、溶接トーチから被溶接物の方向に溶接電流Iwが通電して、溶接トーチと被溶接物との間に溶接トーチ・被溶接物間電圧(以下、溶接電圧Vwという。)が印加され、出力端子間には出力端子電圧Vtが印加される。上記の溶接電圧Vw及び出力端子電圧Vtを総称して溶接電源装置の出力電圧Voと呼ぶ。
【0006】
同図は、消耗電極ガスシールドアーク溶接において平均溶接電流値が約200[A]未満の短絡移行領域での電圧・電流波形図であり、溶接ワイヤ先端の溶滴と被溶接物上の溶融池との間で短絡状態とアーク発生状態とを繰り返す短絡移行溶接の場合である。
【0007】
以下、同図を参照して従来技術のアーク電流制御方法を説明する。
▲1▼時刻t1乃至t2(短絡初期電流通電時間Tsi)
時刻t1において溶接ワイヤ先端に形成された溶滴と被溶接物上の溶融池とが短絡状態となったことを判別して、短絡状態を安定化するために数十[A]の小電流値である予め設定した短絡初期電流Isiを予め設定した短絡初期電流通電時間Tsiの間通電する。
【0008】
▲2▼時刻t2乃至t3
時刻t2において短絡初期電流通電時間Tsiが経過すると、溶融池への溶滴移行を促進して短絡状態を早期に解除するために300[A]乃至600[A]程度の大電流値である予め設定した短絡電流Isを短絡状態が解除されてアークが再発生するまで通電する。
【0009】
▲3▼時刻t3乃至t4
時刻t3においてアークが再発生したことを判別すると、次式で示すアーク電流制御を行い、その結果算出されたアーク電流値Iaを通電する。
Ia=Iai−G×(Vt−Vr) …(1)
ただし、Iaiはアーク基準電流値、Gは電圧誤差増幅率、Vtは出力端子電圧値及びVrは電圧設定値である。
【0010】
アーク長はアーク発生時の溶接電圧値Vwに比例する。溶接用ケーブルの長さが5[m]程度と短いときには、溶接用ケーブルのインピーダンス値は小さいために溶接電圧値Vwと出力端子電圧値Vtとは略等しくなる。したがって、アーク長を出力端子電圧値Vtで検出することができる。電圧設定値Vrは、適正なアーク長になるように予め設定する。また、アーク基準電流値Iaiは、ワイヤ送給速度に応じて適正値に予め設定する。
【0011】
(1)式におけるG×(Vt−Vr)は、アーク長の検出値に相当するVtとアーク長の設定値に相当するVrとの電圧誤差を増幅していることになる。この電圧誤差増幅値をアーク基準電流値Iaiから減算した値のアーク電流値Iaを通電する。
【0012】
ワイヤ溶融速度はアーク電流値Iaに比例する。アーク電流値Iaが小さくなるとワイヤ溶融速度は小さくなるがワイヤ送給速度は一定値であるので、それらの値の差によってアーク長は短くなる。逆にアーク電流値Iaが大きくなるとワイヤ溶融速度は大きくなるのでアーク長は長くなる。したがって、アーク長の検出値に相当する出力端子電圧Vtがアーク長の設定値に相当する電圧設定値Vrよりも大きいときは、(1)式から電圧誤差増幅値は正の値となるためにアーク電流値Iaはアーク基準電流値Iaiよりも小さくなる。その結果、ワイヤ溶融速度が小さくなるのでアーク長は短くなる。つまり、前述したように種々の外乱によってアーク長が長くなると、(1)式のアーク電流制御によってアーク長は短くなるように制御されて設定値に戻る。逆に、外乱によってアーク長が短くなると、(1)式のアーク電流制御によってアーク長は長くなるように制御されて設定値に戻る。
【0013】
この時刻t3乃至t4期間中にはアーク長の変動がなかったために、出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrと略等しい状態を維持しており、アーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiと略等しい状態を維持している。
【0014】
▲4▼時刻t4乃至t5
時刻t4において、種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると、出力端子電圧Vtは小さくなり電圧設定値Vrよりも小さくなる。これに応答して(1)式に示すアーク電流制御が行われる。この時点での電圧誤差増幅値G×(Vt−Vr)は負の値になるので算出されたアーク電流値Iaはアーク基準電流値Iaiよりも大きな値となり、アーク電流Iaは増加する。アーク電流Iaがアーク基準電流値Iaiよりも大きくなると、前述したようにワイヤ溶融速度が大きくなるのでアーク長は長くなり、出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrに近づく方向に大きくなる。
【0015】
その結果、出力端子電圧Vtと電圧設定値Vrとの電圧誤差が小さくなるので、(1)式における電圧誤差増幅値G×(Vt−Vr)の絶対値も小さくなり、アーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiに近づく方向に減少する。
【0016】
以上の動作が繰り返されて、時刻t5においてアーク長は設定値に戻り、出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrと略等しくなり、アーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiと略等しくなる。
【0017】
▲5▼時刻t5乃至t6
この期間中にはアーク長の変動がなかったために、出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrと略等しい状態を維持し、アーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiと略等しい状態を維持する。
▲6▼時刻t6乃至t8
時刻t6において溶滴と溶融池とが短絡状態となると、前述した▲1▼及び▲2▼と同一の動作を行う。
【0018】
▲7▼時刻t8乃至t9
時刻t8においてアークが再発生すると、前述した▲3▼と同一の動作を行う。
【0019】
▲8▼時刻t9乃至t10
時刻t9において、種々の外乱によってアーク長が変動して長くなると、出力端子電圧Vtは大きくなり電圧設定値Vrよりも大きくなる。これに応答して(1)式に示すアーク電流制御が行われる。この時点での電圧誤差増幅値G×(Vt−Vr)は正の値になるので算出されたアーク電流値Iaはアーク基準電流値Iaiよりも小さな値となり、アーク電流Iaは減少する。アーク電流Iaがアーク基準電流値Iaiよりも小さくなると、前述したようにワイヤ溶融速度が小さくなるのでアーク長は短くなり、出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrに近づく方向に小さくなる。
【0020】
その結果、出力端子電圧Vtと電圧設定値Vrとの電圧誤差が小さくなるので、(1)式における電圧誤差増幅値G×(Vt−Vr)の絶対値も小さくなり、アーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiに近づく方向に増加する。
【0021】
以上の動作が繰り返されて、時刻t10においてアーク長は設定値に戻り、出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrと略等しくなり、アーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiと略等しくなる。
【0022】
▲9▼時刻t10乃至t11
この期間中にはアーク長の変動がなかったために、前述した▲5▼と同一の動作を行う。
【0023】
上述したように、(1)式に示す従来技術のアーク電流制御方法は後述するように溶接用ケーブルが短い場合には、種々の外乱によるアーク長の変動を抑制することができるために、前述したように良好な溶接品質を得ることができる。
【0024】
図2は、図1で示した従来技術のアーク電流制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【0025】
同図において、商用電源ACは本装置の入力電源であり、通常は3相200/220Vが多く使用されている。
【0026】
出力制御回路PSは、商用電源ACを入力として出力制御を行い溶接アーク負荷に適した出力を供給する。一般的に出力制御方式としては、サイリスタ位相制御方式、トランジスタチョッパ制御方式、インバータ制御方式等がある。インバータ制御方式での出力制御回路PSには、商用電源ACを整流する1次側整流回路、整流されたリップルのある電圧を平滑する平滑回路、平滑された直流電圧を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接アーク負荷に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流回路及び整流されたリップルのある直流電圧を平滑するリアクトルを含んでいる。さらに、インバータ回路を構成するパワートランジスタのドライブ回路及び後述する誤差増幅信号Eaを入力としてインバータ回路のPWM制御を行うPWM制御回路も含んでいる。
【0027】
同図に示す6は溶接電源装置の出力端子であり、7は出力端子と溶接トーチ4及び被溶接物2とを接続する溶接用ケーブルである。8は溶接用ケーブル7による外部インダクタンスであり、その外部インダクタンス値はL0[μH]となる。
【0028】
溶接用ケーブルによるインピーダンスは抵抗値とインダクタンス値から成るが、溶接用ケーブルは充分に断面積の大きなケーブルを使用することが多いので抵抗値については略無視することができる。
【0029】
溶接ワイヤ1は、予め設定したワイヤ送給速度でワイヤ送給装置5によって溶接トーチ4を通って送給されると共に、溶接トーチ先端部に取り付けられたチップから給電されて、溶接電流Iwが通電して被溶接物2との間にアーク3が発生する。そのときに、溶接トーチ4と被溶接物2との間に溶接電圧Vwが印加されており、出力端子6及び7との間に出力端子電圧Vtが印加されている。
【0030】
溶接電圧検出回路VDは、出力端子電圧Vtを検出して出力端子電圧検出信号Vdを出力する。出力端子電圧A/D変換回路ADVは、上記の出力端子電圧検出信号Vdを入力としてA/D変換した出力端子電圧A/D変換信号Advを出力する。
【0031】
制御周期設定回路DTは、制御周期設定信号ΔTを出力する。割り込み発生回路ITは、上記の制御周期設定信号ΔTを入力として、制御周期ΔT毎にHレベルのトリガ信号である割り込み発生信号Itを出力する。
【0032】
短絡初期電流設定回路ISIは、予め設定又は送給速度に応じて設定される短絡初期電流設定信号Isiを出力する。短絡初期電流通電時間設定回路TSIは、予め設定又は送給速度に応じて設定される短絡初期電流通電時間設定信号Tsiを出力する。短絡電流設定回路ISは、予め設定又は送給速度に応じて設定される短絡電流設定信号Isを出力する。アーク基準電流値設定回路IAIは、予め設定又はワイヤ送給速度に応じて設定されるアーク基準電流値設定信号Iaiを出力する。
【0033】
電圧設定回路VRは、アーク長を適正値に設定するための電圧設定信号Vrを出力する。短絡判別閾値設定回路VTHは、上記の出力端子電圧Vtから短絡状態とアーク発生状態とを判別するための閾値の電圧値である短絡判別閾値設定信号Vthを出力する。
【0034】
溶接電流制御回路WCは、上記の出力端子電圧A/D変換信号Adv、制御周期設定信号ΔT、割り込み発生信号It、短絡初期電流設定信号Isi、短絡初期電流通電時間設定信号Tsi、短絡電流設定信号Is,アーク基準電流値設定信号Iai、電圧設定信号Vr及び短絡判別閾値設定信号Vthを入力として、それらの信号をソフトウェアで処理して電流設定信号Irを出力する。この従来技術のソフトウェア処理の詳細については図3で後述する。
【0035】
電流設定D/A変換回路DAIは、上記の電流設定信号Irを入力として、D/A変換した電流設定D/A変換信号Daiを出力する。溶接電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して溶接電流検出信号Idを出力する。誤差増幅回路EAは、上記の電流設定D/A変換信号Daiと溶接電流検出信号Idとの誤差を増幅して誤差増幅信号Eaを出力する。
【0036】
以上の回路ブロック構成によって、電流設定信号Irに対応する溶接電流Iwを通電することができるために、図1で示した短絡電流及びアーク電流の制御を行うことができる。
【0037】
図3は、上述した溶接電流制御回路WCのソフトウェア処理の内容を示すフローチャートである。
【0038】
ステップ1におい、短絡初期電流設定信号Isi、短絡初期電流通電時間設定信号Tsi、短絡電流設定信号Is、アーク基準電流値設定信号Iai、制御周期設定信号ΔT、電圧設定信号Vr及び短絡判別閾値設定信号Vthを読み込む。
【0039】
ステップ2において、時間カウンタ値nを0にリセットする。
【0040】
ステップ3において、制御周期ΔT毎に発生する割り込み発生信号ItがHレベルかを判定して、YESならばステップ4に進み、NOならばHレベルになるまで待機する。
【0041】
ステップ4において、出力端子電圧A/D変換信号Advを読み込む。
【0042】
ステップ5において、出力端子電圧A/D変換信号Advが短絡判別閾値設定信号Vth以下かを判定して、YESならばステップ6に進み、NOならばステップ10に進む。このステップ5では、短絡状態とアーク発生状態との判別を行い、短絡状態ならばステップ6に進み、アーク発生状態ならばステップ10に進む。
【0043】
ステップ6において、時間カウンタ値nに1を加算する。
【0044】
ステップ7において、時間カウンタ値nと制御周期設定信号ΔTとの乗算値が短絡初期電流通電時間設定信号Tsi以下かを判定して、YESならばステップ8に進み、NOならばステップ9に進む。n×ΔTの乗算値は短絡状態になってからの経過時間を表わしている。
【0045】
ステップ8において、短絡初期電流設定信号Isiを電流設定信号Irに代入する。
【0046】
ステップ9において、短絡電流設定信号Isを電流設定信号Irに代入する。
【0047】
ステップ10において、時間カウンタ値nを0にリセットする。
【0048】
ステップ11において、上記のアーク基準電流値設定信号Iai、出力端子電圧A/D変換信号Adv及び電圧設定信号Vr並びに予め設定した電圧誤差増幅率GからIai−G×(Adv−Vr)を計算して、電流設定信号Irに代入する。このステップ11では前述した(1)式で示すアーク電流制御を行っている。
【0049】
ステップ12において、電流設定信号Irを出力する。
【0050】
ステップ13において、溶接終了かを判定して、YESならば終了し、NOならばステップ3に戻る。
【0051】
上述した各ステップを実行することで、前述した図1の短絡電流及びアーク電流の制御を行うことができる。
【0052】
図4は、図2の従来技術のブロック図で示した各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は電流設定信号Irの時間変化を示しており、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図において点線で表わした等間隔の縦線は、制御周期ΔT毎に発生する割り込み発生信号のタイミングを示している。
【0053】
同図は従来技術のアーク電流制御方法を説明するため
に、図1で示したアーク長の変動が発生した時刻t4乃至t5期間中の上記の各信号のタイミングチャ−トを示している。また、同図は溶接用ケーブルの長さが約5[m]以下と短い場合であるので、図2に示した外部インダクタンス値L0は小さな値となり、出力端子電圧Vtと溶接電圧Vwとは略等しくなる。以下、図4を参照して動作を説明する。
【0054】
▲1▼時刻t4において種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると、溶接電圧Vwはアーク長に比例して小さくなり、出力端子電圧Vtも小さくなる。
【0055】
▲2▼時刻t41において割り込みが発生すると、その時点での出力端子電圧値Vt1が検出されてソフトウェア内部に読み込まれ、前述した(1)式によってIai-G×(Vt−Vr)が計算されて電流設定信号Ir1が算出される。このときVt1<VrであるのでIr1>Iaiとなり、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも増加する。溶接電流Iwがアーク基準電流値Iaiよりも大きくなると前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり溶接電圧Vw及び出力端子電圧Vtは徐々に大きくなる。
【0056】
▲3▼時刻t42において割り込みが発生すると、上記▲2▼と同様の処理により時刻t42時点での出力端子電圧値Vt2から電流設定信号Ir2が算出される。このときVt1<Vt2<Vrであるので電流設定信号Ir2はIr1>Ir2>Iaiとなる。しかし、時刻t42時点での溶接電流値Iw2はまだ電流設定信号Ir2に達していないので、溶接電流Iwは時刻t42以降も増加し続ける。溶接電流Iwがアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり溶接電圧Vw及び出力端子電圧Vtは徐々に大きくなる。
【0057】
▲4▼時刻t43において割り込みが発生すると、上記▲2▼と同様の処理により時刻t43時点での出力端子電圧値Vt3から電流設定信号Ir3が算出される。このときVt1<Vt2<Vt3<Vrであるので電流設定信号Ir3はIr1>Ir2>Ir3>Iaiとなる。時刻t43時点での溶接電流値Iw3は電流設定信号Ir3よりも大きくなっているので、溶接電流Iwは減少に転じる。しかし、まだ溶接電流Iwがアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vw及び出力端子電圧Vtも徐々に大きくなり続ける。
【0058】
▲5▼時刻t44乃至t5期間中は上記▲4▼と同様の動作となり、電流設定信号Irは徐々に小さくなり時刻t5においてアーク基準電流値Iaiと略等しくなる。また、溶接電流Iwも徐々に減少して時刻t5を経過した直後にアーク基準電流値Iaiと略等しくなる。さらに、溶接電圧Vw及び出力端子電圧Vtも徐々に大きくなり、時刻t5において電圧設定信号Vrと略等しくなる。その結果、時刻t4で変動したアーク長は時刻t5において予め設定した適正値に復帰することになる。
【0059】
上述した▲1▼乃至▲5▼の動作によって従来技術のアーク電流制御方法が行われ、その結果種々の外乱によるアーク長の変動を抑制することができる。
【0060】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術のアーク電流制御方法においては、溶接用ケーブルの長さが約5[m]以下と短い場合には上述したように、アーク長の変動を抑制することができ良好な溶接品質を得ることができる。しかし実際の溶接現場では、被溶接物が大型構造物であったり、溶接電源装置と被溶接物とが離れた場所にあったりすることが多い。このために、溶接用ケーブルの長さが10[m]以上になることは一般的であり、40[m]程度になることもある。
【0061】
このような場合には、溶接用ケーブルによる外部インダクタンス値が大きくなるために、出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwとは大きく異なった誤差を含んだ値になり、出力端子電圧Vtによってアーク長に比例する溶接電圧Vwを正確に誤差なく検出することができなくなる。したがって、誤差を含んだ出力端子電圧Vtによるアーク電流制御が行われることになり、アーク長の変動を抑制することができないためにスパッタの大量発生、ビード外観の不良、溶接欠陥の発生等の不良な溶接品質結果となる。
【0062】
また、出力端子電圧Vtを検出する代わりに、直接溶接電圧Vwを検出してアーク電流制御に使用することも考えられる。しかし、大型構造物の溶接において、溶接トーチと被溶接物との間の電圧である溶接電圧Vwを直接検出することは困難である。さらに、溶接電源装置と被溶接物とが離れた場所にある場合及び被溶接物が複数個ある場合において、溶接電圧Vwを直接検出するためには、追加の電圧検出線が必要になり手間がかかり使い勝手も悪くなる。また、電圧検出線が断線すると溶接電源装置に故障が発生する。
【0063】
図5は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における従来技術のアーク電流制御方法での電圧・電流波形図であり、同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図は、図1と同様に平均溶接電流値が約200[A]未満の短絡移行領域での電圧・電流波形図であり、各時刻も同一符号を付している。
【0064】
同図において溶接用ケーブルによる外部インダクタンス値はL0<L1[μH]である。以下、同図を参照して従来技術のアーク電流制御方法の問題点を説明する。ただし、同図において時刻t1乃至t4期間中の動作は図1と同じであるので説明を省略する。
【0065】
▲1▼時刻t4において、図1と同様に外乱によってアーク長が変動して短くなると、溶接電圧Vwはアーク長に比例して小さくなる。一方、出力端子電圧Vtは次式で表わされる。
Vt=Vw+L1×(dIa/dt) …(2)
この時点では、アーク電流Iaは略一定値で変化していないので、外部インダクタンス値L1が大きな値であってもL1×(dIa/dt)≒0となり、Vt≒Vwとなる。その結果、出力端子電圧Vtは小さくなり電圧設定値Vrよりも小さくなる。
【0066】
▲2▼出力端子電圧Vtが電圧設定値Vrよりも小さくなると、(1)式で示したアーク電流制御によってアーク電流Iaは増加してアーク基準電流値Iaiよりも大きくなる。アーク電流Iaが大きくなると、前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるのでアーク長は長くなり溶接電圧Vwも大きくなる。
【0067】
▲3▼この時点ではアーク電流Iaは増加しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)>0となり、出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも大きくなり電圧設定値Vrよりも大きくなる。
【0068】
▲4▼出力端子電圧Vtが電圧設定値Vrよりも大きくなると、(1)式で示したアーク電流制御によってアーク電流Iaは減少してアーク基準電流値Iaiに近づく。しかし、アーク電流Ia>Iaiであるので、前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きい状態が継続してアーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも大きくなり続ける。
【0069】
▲5▼さらに、この時点においてアーク電流Iaは減少しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)<0となり、出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも小さくなり電圧設定値Vrよりも小さくなる。
【0070】
▲6▼出力端子電圧Vtが電圧設定値Vrよりも小さくなると、(1)式で示したアーク電流制御によってアーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiよりもさらに増加する。アーク電流Ia>Iaiであるので、前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きい状態が継続してアーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも大きくなり続ける。
【0071】
▲7▼上記▲3▼乃至▲6▼の動作を短絡状態となる時刻t6まで繰り返し、その期間中アーク電流Ia及び出力端子電圧Vtは上下に激しく振動するハンチング波形となる。また、このハンチング期間中はアーク電流Iaは常にアーク基準電流値Iaiよりも大きい状態を維持するので、アーク長は適正値を超えて長くなり続け、その結果アーク状態は不安定になる。
【0072】
▲8▼時刻t6乃至t9期間中の動作は図1の同一符号を付した期間中と同じであるので説明を省略する。
【0073】
▲9▼時刻t9において、図1と同様に外乱によってアーク長が変動して長くなると、溶接電圧Vwはアーク長に比例して大きくなる。これ以降の動作は上記の▲1▼乃至▲7▼と略同一であるので説明を省略する。その結果、短絡状態となる時刻t11までアーク電流Ia及び出力端子電圧Vtは上下に激しく振動するハンチング波形となる。また、このハンチング期間中はアーク電流Iaは常にアーク基準電流値Iaiよりも大きい状態を維持するので、アーク長は適正値を超えても長くなり続け、アーク状態は不安定になる。
【0074】
上述したように、従来技術のアーク電流制御方法においては、溶接用ケーブルが約10[m]以上と長くなり外部インダクタンス値が大きくなると、種々の外乱によってアーク長が変動した場合アーク電流波形及び出力端子電圧波形が激しくハンチングして、アーク長を適正値に復帰させることができなくなる。その結果、前述したようにスパッタの大量発生、ビード外観の不良、溶接欠陥の発生等の不良な溶接品質結果となる。
【0075】
図6は、図5で示した時刻t4乃至t6期間中の図2で示したブロック図の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は電流設定信号Irの時間変化を示しており、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図において点線で表わした等間隔の縦線は、制御周期ΔT毎に発生する割り込み発生信号のタイミングを示している。
【0076】
▲1▼時刻t4において種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると、溶接電圧Vwはアーク長に比例して小さくなり、出力端子電圧Vtは(2)式で表わされる。この時点では、アーク電流Iaは略一定値で変化していないので、外部インダクタンス値L1が大きな値であってもL1×(dIa/dt)=0となり、Vt≒Vwとなる。その結果、出力端子電圧Vtは小さくなり電圧設定値Vrよりも小さくなる。
【0077】
▲2▼時刻t41において割り込みが発生すると、その時点での出力端子電圧値Vt1が検出されてソフトウェア内部に読み込まれ、前述した(1)式によってIai-G×(Vt−Vr)が計算されて電流設定信号Ir1が算出される。このときVt1<VrであるのでIr1>Iaiとなり、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも増加する。溶接電流Iwがアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり溶接電圧Vwは徐々に大きくなる。
【0078】
時刻t41乃至t42期間中では溶接電流Iwは増加しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)>0となり、(2)式で示す出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも大きくなり電圧設定値Vrよりも大きくなる。
【0079】
▲3▼時刻t42において割り込みが発生すると、上記▲2▼と同様の処理により時刻t42時点での出力端子電圧値Vt2から電流設定信号Ir2が算出される。このときVt2>Vrになっているので電流設定信号Ir2はIr2<Iaiとなり、溶接電流Iwは減少に転じる。しかし、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0080】
時刻t42乃至t43期間中では溶接電流Iwは減少しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)<0となり、(2)式で示す出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも小さく電圧設定値Vrよりも小さくなる。
【0081】
▲4▼時刻t43において割り込みが発生すると、上記▲2▼と同様の処理により時刻t43時点での出力端子電圧値Vt3から電流設定信号Ir3が算出される。このときVt3<Vrになっているので電流設定信号Ir3はIr3>Iaiとなり、溶接電流Iwは増加に転じる。溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0082】
時刻t43乃至t44期間中では溶接電流Iwは増加しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)>0となり、(2)式で示す出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも大きくなり電圧設定値Vrよりも大きくなる。
【0083】
▲5▼上記▲3▼及び▲4▼の動作を短絡状態となるまで繰り返し、その期間中アーク電流Ia及び出力端子電圧Vtは上下に激しく振動するハンチング波形となる。また、このハンチング期間中はアーク電流Iaは常にアーク基準電流値Iaiよりも大きい状態を維持するので、アーク長は適正値を超えても長くなり続け、その結果アーク状態は不安定になる。
【0084】
図7は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における従来技術のアーク電流制御方法での溶接ビード外観の一例を示す図である。
溶接条件としては、溶接ワイヤには直径1.2[mm]のYGW12を使用し、被溶接材2には板厚3.2[mm]の軟鋼を使用して、シールドガスには100[%]の炭酸ガスを使用して炭酸ガスアーク溶接を行い、平均溶接電流値が150[A]、平均溶接電圧が19[V]、溶接速度が60[cm/分]の場合である。
同図に示すように、大粒のスパッタ2bが大量に被溶接材2に付着しており、溶接ビード2aの幅も不揃いであり不良な溶接ビード外観となっている。
【0085】
上述したように、従来技術のアーク電流制御方法では、溶接用ケーブルの長さが約10[m]以上になりケーブルによる外部インダクタンス値が大きくなると、種々の外乱によるアーク長の変動を抑制することができなくなる。その結果、スパッタの大量発生、ビード外観の不良、溶接欠陥の発生等の不良な溶接品質結果となる。
【0086】
そこで、本発明の目的は、溶接用ケーブル等による外部インダクタンス値が大きくなっても、種々の外乱によるアーク長の変動を抑制してアーク長を常に適正値に維持することで良好な溶接品質を得ることができるアーク電流制御方法及び溶接装置を実現することである。
【0087】
【課題を解決するための手段】
【0088】
【課題を解決するための手段】
出願時の請求項1の発明は、図8及び図9に示すように、
アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値Voを検出してその検出値が予め設定した電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出してその算出値に相当するアーク電流値Iaの通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、
上記アーク電流値Iaを検出してその検出値に相当する電流設定信号Irを算出して予め設定した制御周期ΔTの間その算出値に相当するアーク電流値Iaを通電する第1のアーク電流制御を行い、
上記制御周期ΔT経過時点の上記出力電圧値Voを検出してその検出値が上記電圧設定値Vrと等しくなる新しい上記電流設定信号Irを算出して上記制御周期ΔTの間その算出値に相当するアーク電流値Iaを通電する第2のアーク電流制御を行い、
上記第1及び第2のアーク電流制御を交互に繰り返して行うアーク電流制御方法である。
【0089】
出願時の請求項2の発明は、図10及び図11に示すように、
アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値Voを検出してその検出値が予め設定した電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出してその算出値に相当するアーク電流値Iaの通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、
上記アーク電流値Iaを検出して上記電流設定信号Irと比較し、
上記比較した値が等しいときは上記出力電圧値Voを検出してその検出値が上記電圧設定値Vrと等しくなる新しい上記電流設定信号Irを算出してその算出値に相当するアーク電流値Iaを通電し、
上記比較した値が等しくないときは比較前の上記電流設定信号Irをそのまま維持し、その維持した値に相当するアーク電流値Iaを通電し、
上記制御を繰り返して行うアーク電流制御方法である。
【0090】
出願時の請求項3の発明は、図8乃至図11に示すように、
出願時請求項1又は出願時請求項2に記載する出力電圧値Voを検出してその検出値が電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出する演算が、
予め設定したアーク基準電流値Iai及び予め設定した電圧誤差増幅率Gによって電流設定信号Ir=アーク基準電流値Iai−電圧誤差増幅率G×(出力電圧値Vo−電圧設定値Vr)で表わされる演算である出願時請求項1又は出願時請求項2に記載するアーク電流制御方法である。
【0091】
出願時の請求項4の発明は、図12乃至図14に示すように、
アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値Voを検出してその検出値が予め設定した電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出してその算出値に相当するアーク電流値Iaの通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、
上記アーク電流値Iaを検出する検出回路と、
上記出力電圧値Voを検出する検出回路と、
上記電圧設定値Vrを設定する設定回路と、
上記アーク電流値Iaの検出値に相当する電流設定信号Irを算出して予め設定した制御周期ΔTの間その算出値を出力する過程と、上記制御周期ΔT経過時点の上記出力電圧値Voの検出値が上記電圧設定値Vrと等しくなる新しい上記電流設定信号Irを算出して上記制御周期ΔTの間出力する過程とを交互に繰り返して行うアーク電流制御回路AWCとから構成されて、
上記電流設定信号Irに相当するアーク電流値Iaを通電して溶接する溶接装置である。
【0092】
出願時の請求項5の発明は、図12、図13及び図15に示すように、
アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値Voを検出してその検出値が予め設定した電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出してその算出値に相当するアーク電流値Iaの通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、
上記アーク電流値Iaを検出する検出回路と、
上記出力電圧値Voを検出する検出回路と、
上記電圧設定値Vrを設定する設定回路と、
上記アーク電流値Iaの検出値と上記電流設定信号Irとを比較する過程と、上記比較した値が等しいときは上記出力電圧値Voの検出値が上記電圧設定値Vrと等しくなる新しい上記電流設定信号Irを算出して出力する過程と、上記比較した値が等しくないときは比較前の上記電流設定信号Irをそのまま出力する過程とを繰り返し行うアーク電流制御回路AWCとから構成されて、
上記電流設定信号Irに相当するアーク電流値Iaを通電して溶接する溶接装置である。
【0093】
出願時の請求項6の発明は、図12乃至図15に示すように、
出願時請求項4又は出願時請求項5に記載する出力電圧値Voの検出値が電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出する演算が、
予め設定したアーク基準電流値Iai及び予め設定した電圧誤差増幅率Gによって電流設定信号Ir=アーク基準電流値Iai−電圧誤差増幅率G×(出力電圧値Vo−電圧設定値Vr)で表わされる演算であるアーク電流制御回路AWCから構成される出願時請求項4又は出願時請求項5に記載する溶接装置である。
【0094】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態は、図8及び図9に示すように、
アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値Voを検出してその検出値が予め設定した電圧設定値Vrと等しくなる新しい電流設定信号Irを算出してその算出値に相当するアーク電流値Iaの通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、
上記アーク電流値Iaを検出してその検出値に相当する電流設定信号Irを算出して予め設定した制御周期ΔTの間その算出値に相当するアーク電流値Iaを通電する第1のアーク電流制御を行い、
上記制御周期ΔT経過時点の上記出力電圧値Voを検出してその検出値及び上記電圧設定値Vrを入力として、予め設定したアーク基準電流値Iai及び予め設定した電圧誤差増幅率Gによって電流設定信号Ir=アーク基準電流値Iai−電圧誤差増幅率G×(出力電圧Vo−電圧設定値Vr)と表わされる演算を行い新しい上記電流設定信号Irを算出して上記制御周期ΔTの間その算出値に相当するアーク電流値Iaを通電する第2のアーク電流制御を行い、
上記第1及び第2のアーク電流制御を交互に繰り返して行うアーク電流制御方法である。
【0095】
【実施例】
図8は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における本発明の実施例1によるアーク電流制御方法を示す電圧・電流波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図は、図5と同様に平均溶接電流値が約200[A]未満の短絡移行領域での電圧・電流波形図であり、各時刻も同一符号を付している。また、溶接用ケーブルによる外部インダクタンス値は図5と同一値L1の場合である。
【0096】
同図において、アーク発生中にアーク長の変動が発生した時刻t4乃至t5及び時刻t9乃至t10の期間以外は図5と同一の動作であるので説明を省略する。
【0097】
本発明の実施例1においては、アーク発生中に制御周期ΔT毎の制御タイミングに以下に示す▲1▼及び▲2▼の制御を交互に繰り返してアーク電流制御を行っている。
【0098】
▲1▼第n回目の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iwを検出して制御周期ΔTの間その電流値の通電を維持するように第1のアーク電流制御を行う。そのことで、電流変化は略零になり前述した(2)式においてL1×(dIa/dt)≒0となるのでVt≒Vwとなり、アーク長に比例した溶接電圧値Vwと出力端子電圧Vtとが略等しくなる。
【0099】
▲2▼次の第n+1回目の制御タイミングにおいて、その時点での出力端子電圧Vtを検出して前述した(1)式に代入して算出したアーク電流値Iaを制御周期ΔTの間通電する第2のアーク電流制御を行う。
【0100】
上記▲1▼の制御期間中はアーク長に比例した溶接電圧Vwを出力端子電圧Vtによって正確に誤差なく検出するための準備期間となり、▲2▼の制御期間中は出力端子電圧Vtの検出値によってアーク電流制御を行う期間となる。
【0101】
図8に示す時刻t4において、種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると上記▲1▼及び▲2▼の制御を繰り返すアーク電流制御が行われて、その結果時刻t5においてアーク長が適正値に復帰するために溶接電圧Vwも電圧設定値Vrに戻る。この期間中の詳細な動作については後述する。
【0102】
また、時刻t9乃至t10の動作についても同様に上記▲1▼及び▲2▼のアーク電流制御によってアーク長は適正値に復帰して溶接電圧Vwは電圧設定値Vrに戻る。
【0103】
図9は、図8で示した時刻t4乃至t5期間中の制御動作を説明するための電圧・電流タイミングチャ−トである。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は電流設定信号Irの時間変化を示しており、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図において点線で表わした等間隔の縦線は、制御周期ΔT毎の制御タイミングを示している。
【0104】
▲1▼時刻t4において種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると、溶接電圧Vwはアーク長に比例して小さくなり、出力端子電圧Vtは(2)式で表わされる。この時点では、溶接電流Iwは略一定値で変化していないので、外部インダクタンス値L1が大きな値であってもL1×(dIa/dt)≒0となり、Vt≒Vwとなる。その結果、出力端子電圧Vtは小さくなり電圧設定値Vrよりも小さくなる。
【0105】
▲2▼時刻t41の制御タイミングにおいて、その時点での出力端子電圧値Vt1を検出して前述した(1)式に代入し、溶接設定信号Ir=Iai-G×(Vt−Vr)を算出する。このときVt1<VrであるのでIr1>Iaiとなり、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも増加する。溶接電流Iwがアーク基準電流値Iaiよりも大きくなると前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり溶接電圧Vwは徐々に大きくなる。
【0106】
時刻t41乃至t42期間中では溶接電流Iwは増加しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)>0となり、(2)式で示す出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも大きくなり電圧設定値Vrよりも大きくなる。
【0107】
▲3▼時刻t42の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iw2を検出してその値をそのまま代入して電流設定信号Ir2=Iw2を設定することで、時刻t42乃至t43の間溶接電流値Iw2がそのまま通電される。そのことで、電流変化は略零になり前述した(2)式においてL1×(dIa/dt)≒0となるのでVt≒Vwとなり、アーク長に比例した溶接電圧値Vwと出力端子電圧Vtとが略等しくなる。
【0108】
▲4▼時刻t43の制御タイミングにおいて、上記▲2▼と同様の処理により時刻t43時点での出力端子電圧値Vt3から電流設定信号Ir3が算出される。このときVt1<Vt3<Vrになっているので電流設定信号Ir3はIr1>Ir3>Iaiとなる。時刻t43時点での溶接電流値Iw3は算出された電流設定値Ir3よりも小さいので、溶接電流Iwは増加する。その結果、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きい状態を維持するので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0109】
▲5▼時刻t44の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iw4を検出してその値をそのまま代入して電流設定信号Ir4=Iw4を設定することで、時刻t44乃至t45の間溶接電流値Iw4がそのまま通電される。そのことで、電流変化は略零になり前述した(2)式においてL1×(dIa/dt)≒0となるのでVt≒Vwとなり、アーク長に比例した溶接電圧値Vwと出力端子電圧Vtとが略等しくなる。
【0110】
▲6▼時刻t45の制御タイミングにおいて、上記▲2▼と同様の処理により時刻t45時点での出力端子電圧値Vt5から電流設定信号Ir5が算出される。このときVt1<Vt3<Vt5<Vrになっているので電流設定信号Ir5はIr1>Ir3>Ir5>Iaiとなる。時刻t45時点での溶接電流値Iw5は算出された電流設定値Ir5よりも大きいので、溶接電流Iwは減少に転じる。しかし、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きい状態を維持するので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0111】
▲7▼上記▲5▼及び▲6▼の動作を出力端子電圧Vtが電圧設定値Vrと略等しくなる時刻t5まで繰り返す。
【0112】
上述した本発明の実施例1によるアーク電流制御方法によって、外部インダクタンス値L1が大きい値のときでも種々の外乱によるアーク長の変動を抑制することができるので、スパッタ発生が少なくビード外観の良好な溶接欠陥もない良好な溶接品質を得ることができる。
【0113】
図10は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における本発明の実施例2によるアーク電流制御方法を示す電圧・電流波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図は、図5と同様に平均溶接電流値が約200[A]未満の短絡移行領域での電圧・電流波形図であり、各時刻も同一符号を付している。また、溶接用ケーブルによる外部インダクタンス値は図5と同一値L1の場合である。
【0114】
同図において、アーク発生中にアーク長の変動が発生した時刻t4乃至t5及び時刻t9乃至t10の期間以外は図5と同一の動作であるので説明を省略する。
【0115】
本発明の実施例2においては、アーク発生中に制御周期ΔT毎の制御タイミングに以下に示す制御を繰り返してアーク電流制御を行っている。
【0116】
第n回目の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iwを検出して電流設定信号Irと比較し、それらの値が略等しいときはその時点での出力端子電圧Vtを検出して前述した(1)式から算出したアーク電流値Iaを制御周期ΔTの間通電する。
一方、比較した値が等しくないときには、次の第n+1回目の制御タイミングまで現時点での電流設定信号Irをそのまま維持する。
【0117】
上記の御期によって、電流設定信号Irの設定値の変化に応答した溶接電流Iwの過渡的な変化が収束してIr≒Iwとなり溶接電流Iwの変化が略零となった時点で(1)式によるアーク電流制御を行っている。電流変化が略零であるので前述した(2)式においてL1×(dIa/dt)≒0となりVt≒Vwとなり、アーク長に比例した溶接電圧値Vwを外部インダクタンス値L1に影響されることなく出力端子電圧Vtで正確に誤差なく検出することができる。
【0118】
図10に示す時刻t4において、種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると上記の制御によってアーク電流制御が行われて、その結果時刻t5においてアーク長が適正値に復帰するので溶接電圧Vwも電圧設定値Vrに戻る。この期間中の詳細な動作については後述する。
【0119】
また、時刻t9乃至t10の動作についても同様に上記のアーク電流制御によってアーク長は適正値に復帰して溶接電圧Vwは電圧設定値Vrに戻る。
【0120】
図11は、図10で示した時刻t4乃至t5期間中の制御動作を説明するための電圧・電流タイミングチャートである。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は電流設定信号Irの時間変化を示しており、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示している。同図において点線で表わした等間隔の縦線は、制御周期ΔT毎の制御タイミングを示している。
【0121】
▲1▼時刻t4において種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると、溶接電圧Vwはアーク長に比例して小さくなり、出力端子電圧Vtは(2)式で表わされる。この時点では、溶接電流Iwは略一定値で変化していないので、外部インダクタンス値L1が大きな値であってもL1×(dIa/dt)≒0となり、Vt≒Vwとなる。その結果、出力端子電圧Vtは小さくなり電圧設定値Vrよりも小さくなる。
【0122】
▲2▼時刻t41の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iw1及び出力端子電圧値Vt1を検出して、上記接電流値Iw1と電流設定信号Ir0とが略等しいかを判定する。この時点ではIw1≒Ir0であるので判定はYESとなるので、上記の出力端子電圧Vt1から前述した(1)式によってIai-G×(Vt−Vr)が計算されて電流設定信号はIr1となる。このときVt1<VrであるのでIr1>Iaiとなり、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも増加する。溶接電流Iwがアーク基準電流値Iaiよりも増加すると前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり溶接電圧Vwも徐々に大きくなる。
【0123】
時刻t41乃至t42期間中では溶接電流Iwは増加しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)>0となり、(2)式で示す出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも大きくなり電圧設定値Vrよりも大きくなる。
【0124】
▲3▼時刻t42の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iw2及び出力端子電圧値Vt2を検出して、上記溶接電流値Iw2と電流設定信号Ir1とが略等しいかを判定する。この時点ではIw2<Ir1であるので判定はNOとなり電流設定信号Ir2=Ir1が算出されてそのままの値を維持する。その結果、溶接電流Iwは増加を続けた後に時刻t42乃至時刻t43の期間中にIw≒Ir2となり電流変化は略零となる。しかがって、前述した(2)式においてL1×(dIa/dt)≒0となるのでVt≒Vwとなり、アーク長に比例した溶接電圧値Vwと出力端子電圧Vtとが略等しくなる。時刻t42乃至t43の間、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0125】
▲4▼時刻t43の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iw3及び出力端子電圧値Vt3を検出して、上記溶接電流値Iw3と電流設定信号Ir2とが略等しいかを判定する。この時点ではIw3≒Ir2であるので判定はYESとなり上記の出力端子電圧Vt3から前述した(1)式によってIai-G×(Vt−Vr)が計算されて電流設定信号はIr3となる。このときVt1<Vt3<VrであるのでIr2>Ir3>Iaiとなり、溶接電流Iwは減少に転じる。しかし、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0126】
時刻t43乃至t44期間中では溶接電流Iwは減少しておりかつ外部インダクタンス値L1も大きな値であるのでL1×(dIa/dt)<0となり、(2)式で示す出力端子電圧Vtは溶接電圧Vwよりも小さくなる。
【0127】
▲5▼時刻t44の制御タイミングにおいて、その時点での溶接電流値Iw4及び出力端子電圧値Vt4を検出して、上記溶接電流値Iw4と電流設定信号Ir3とが略等しいかを判定する。この時点ではIw4>Ir3であり判定はNOであるので電流設定信号Ir4=Ir3となりそのままの値を維持する。その結果、溶接電流Iwは減少を続けた後に時刻t44乃至時刻t45の期間中にIa≒Ir4となるので電流変化は略零となる。したがって、前述した(2)式においてL1×(dIa/dt)≒0となるのでVt≒Vwとなり、アーク長に比例した溶接電圧値Vwと出力端子電圧Vtとが略等しくなる。時刻t44乃至t45の間、溶接電流Iwはアーク基準電流値Iaiよりも大きいので前述したようにワイヤ溶融速度がワイヤ送給速度よりも大きくなるために、アーク長は徐々に長くなり続け溶接電圧Vwも徐々に大きくなり続ける。
【0128】
▲6▼上記▲4▼及び▲5▼の動作を出力端子電圧Vtが電圧設定値Vrと略等しくなる時刻t5まで繰り返す。
【0129】
上述した本発明の実施例2によるアーク電流制御方法によって、外部インダクタンス値L1が大きい値のときでも種々の外乱によるアーク長の変動を抑制することができるので、スパッタ発生が少なくビード外観の良好な溶接欠陥もない良好な溶接品質を得ることができる。
さらに、実施例2では溶接電流値Iwと電流設定信号Irとが略等しくなった時点で即時に(1)式のアーク電流制御が行われるので、実施例1に比べて制御の過渡応答特性が良い。
【0130】
図12は、上述した本発明の実施例1及び2のアーク電流制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図において点線で示す溶接電流A/D変換回路ADI及びアーク電流制御回路AWC以外は、図2で示した従来技術のブロック図と同じ回路ブロックであるので同一符号を付した上で説明を省略する。
【0131】
同図に示す8は溶接用ケーブル7による外部インダクタンスであり、その外部インダクタンス値はL1となる。
【0132】
溶接電流A/D変換回路ADIは、溶接電流検出信号Idを入力としてA/D変換した溶接電流A/D変換信号Adiを出力する。
【0133】
アーク電流制御回路AWCは、出力端子電圧A/D変換信号Adv、制御周期設定信号ΔT、割り込み発生信号It、短絡初期電流設定信号Isi、短絡初期電流通電時間設定信号Tsi、短絡電流設定信号Is,アーク基準電流値設定信号Iai、電圧設定信号Vr、短絡判別閾値設定信号Vth及び溶接電流A/D変換信号Adiを入力として、それらの信号をソフトウェアで処理して電流設定信号Irを出力する。本発明のソフトウェア処理の詳細については図13乃至図15で後述する。
【0134】
以上の回路ブロック構成によって、電流設定信号Irに対応する溶接電流Iwを通電することができるために、実施例1及び2のアーク電流制御を行うことができる。
【0135】
図13は、上述したアーク電流制御回路AWCのソフトウェア処理の内容を示すフローチャートである。同図において図3で示した従来技術のフローチャートと同一の処理を行うステップには同一符号を付した上で説明を省略する。
【0136】
ステップ102において、時間カウンタ値n及び制御切換信号値mを0にリセットする。
ステップ104において、出力端子電圧A/D変換信号Adv及び溶接電流A/D変換信号Adiを読み込む。
ステップ106において、時間カウンタ値nに1を加算し、制御切換信号値mを0にリセットする。
ステップ111において、定義済のサブルーチンであるアーク電流制御処理を行い、電流設定信号Irを出力する。本発明の実施例1及び2におけるアーク電流制御処理の詳細については後述する。
【0137】
同図に示す各ステップを実行することで、本発明の実施例1及び2による短絡電流及びアーク電流の制御を行うことができる。
【0138】
図14は、本発明の実施例1における上記のアーク電流制御処理サブルーチンの内容を示すフローチャートである。
【0139】
ステップ201において、アーク電流制御処理のサブルーチンに入る。
ステップ202において、制御切換信号値mが0であるかを判定して、YESならばステップ203に進み、NOならばステップ205に進む。
【0140】
ステップ203において、溶接電流A/D変換信号Adiを電流設定信号Irに代入する。
ステップ204において、制御切換信号値mを0にリセットする。
【0141】
ステップ205において、アーク基準電流値設定信号Iai、出力端子電圧A/D変換信号Adv及び電圧設定信号Vr並びに予め設定した電圧誤差増幅率GからIai−G×(Adv−Vr)を計算して、電流設定信号Irに代入する。このステップ205で前述した(1)式で示すアーク電流制御を行っている。
【0142】
ステップ206において、制御切換信号値mに1を代入する。
ステップ207において、このサブルーチンを終了してメインルーチンである図13のステップ12に戻る。
【0143】
図15は、本発明の実施例2における上記のアーク電流制御処理サブルーチンの内容を示すフローチャートである。
【0144】
ステップ301において、アーク電流制御処理のサブルーチンに入る。
ステップ302において、制御切換信号値mが0であるかを判定して、YESならばステップ303に進み、NOならばステップ305に進む。
ステップ303において、アーク基準電流値Iaiを電流設定信号Irに代入する。このステップ303はアークが再発生する毎に1度だけ処理されて、アーク電流の初期値を設定している。
ステップ304において、制御切換信号値mに1を代入する。
【0145】
ステップ305において、溶接電流A/D変換信号Adiが電流設定信号Irと等しいかを判定して、YESならばステップ306に進み、NOならばステップ307に進む。
【0146】
ステップ306において、アーク基準電流値設定信号Iai、出力端子電圧A/D変換信号Adv及び電圧設定信号Vr並びに予め設定した電圧誤差増幅率GからIai−G×(Adv−Vr)を計算して、電流設定信号Irに代入する。このステップ306で前述した(1)式で示すアーク電流制御を行っている。
【0147】
ステップ307において、このサブルーチンを終了してメインルーチンである図13のステップ12に戻る。
【0148】
図16は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における本発明のアーク電流制御方法での溶接ビード外観の一例を示す図である。溶接条件は従来技術の場合の図7と同一である。
同図に示すように、小粒のスパッタ2bが被溶接材2に少し付着している程度であり、しかも溶接ビード2aの幅も均一であり良好な溶接ビード外観となっている。
【0149】
図17は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長くかつ平均溶接電流値が200[A]以上の場合における本発明によるアーク電流制御方法での電圧・電流波形を示す図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示しており、同図(B)は出力端子電圧Vtの時間変化を示しており、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示している。
【0150】
同図は、消耗電極ガスシールドアーク溶接において平均溶接電流値が約200[A]以上のグロビュール移行又はスプレー移行領域での電圧・電流波形図であり、溶接ワイヤ先端の溶滴と被溶接物上の溶融池との間で極短時間の短絡状態と長い継続時間のアーク発生状態とを繰り返すグロビュール移行溶接又はスプレー移行溶接の場合である。
【0151】
以下、同図を参照して動作を説明する。
▲1▼時刻t1乃至t2
時刻t1において溶接ワイヤ先端に形成された溶滴と被溶接物上の溶融池とが短絡状態となったことを判別して、短絡状態を安定化させるために数十[A]の小電流値である予め設定した短絡初期電流Isiを通電する。グロビュール移行溶接又はスプレー移行溶接での短絡状態継続時間は、通常予め設定した短絡初期電流通電時間Tsi未満となり、アークが再発生する。
【0152】
▲2▼時刻t2乃至t3
時刻t2においてアークが再発生したことを判別すると、前述した(1)式で示すアーク電流制御を行いアーク電流Iaを通電する。この期間中においては、種々の外乱によるアーク長の変動がなかったために、この期間中のアーク電流Iaはアーク基準電流値Iaiと略等しくなる。
【0153】
▲3▼時刻t3乃至t4
時刻t3において種々の外乱によってアーク長が変動して短くなると、溶接電圧Vwも小さくなる。本発明の実施例1又は2によるアーク電流制御方法は前述したように外部インダクタンス値が大きくてもアーク長に比例する溶接電圧Vwを出力端子電圧Vtによって正確に誤差なく検出することができるために、アーク長の変動を適正値に復帰させることができる。その結果、時刻t4において、アーク長は適正値に復帰し、溶接電圧Vw及び出力端子電圧Vtは電圧設定値Vrと略等しくなる。
【0154】
これ以降の期間の動作は上記と同じであるので説明を省略する。このように本発明のアーク電流制御方法は、平均溶接電流値が200[A]以上となるグロビュール移行溶接及びスプレー移行溶接においても、溶接用ケーブル等による外部インダクタンス値の大小に影響されずにアーク長の変動を抑制することができるために、良好な溶接品質を得ることができる。
【0155】
【本発明の効果】
本発明のアーク電流制御方法は、溶接用ケーブルの長さが10[m]以上と長くなった場合でもアーク長に比例する溶接電圧Vwを出力端子電圧Vtによって正確に誤差なく検出することができるので、種々の外乱によるアーク長の変動を抑制することができ、その結果スパッタ発生が少なくビード外観の良好な溶接欠陥もない良好な溶接品質を得ることができる。
【0156】
また、本発明のアーク電流制御方法は、短絡移行溶接、グロビュール移行溶接及びスプレー移行溶接においても上記の効果を有する。
【0157】
さらに、従来技術では溶接用ケーブルが長くなると溶接トーチと被溶接物間の電圧である溶接電圧Vwを直接検出する必要があるが、被溶接物が大型構造物の場合には直接検出することが困難であり、また被溶接物が複数個あり溶接箇所を移動しながら溶接する場合には使い勝手が悪くなっていた。
これに対して、本発明のアーク電流制御方法では、アーク長の検出を直接溶接電圧Vwではなく溶接電源装置の出力端子電圧Vtで行うことができるので、大型構造物の場合でも正確に検出することができ、また上記の移動を伴う溶接であっても使い勝手は悪くならない。
【0158】
出願時の請求項2又は請求項5の発明は、上記の効果に加えて溶接電流値Iwと電流設定信号Irとが略等しくなった時点で即時に(1)式のアーク電流制御が行われるので、制御の過渡応答特性が良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、従来技術のアーク電流制御方法を示す電圧・電流波形図である。
【図2】図2は、図1で示した従来技術のアーク電流制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【図3】図3は、従来技術の溶接電流制御回路WCのソフトウェア処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】図4は、図2の従来技術のブロック図で示した各信号のタイミングチャートである。
【図5】図5は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における従来技術のアーク電流制御方法での電圧・電流波形図である。
【図6】図6は、図5で示した時刻t4乃至t6期間中の図2で示したブロック図の各信号のタイミングチャートである。
【図7】図7は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における従来技術のアーク電流制御方法での溶接ビード外観の一例を示す図である。
【図8】図8は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における本発明の実施例1によるアーク電流制御方法を示す電圧・電流波形図である。
【図9】図9は、図8で示した時刻t4乃至t5期間中の制御動作を説明するための電圧・電流タイミングチャ−トである。
【図10】図10は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における本発明の実施例2によるアーク電流制御方法を示す電圧・電流波形図である。
【図11】図11は、図10で示した時刻t4乃至t5期間中の制御動作を説明するための電圧・電流タイミングチャートである。
【図12】図12は、本発明の実施例1及び2のアーク電流制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【図13】図13は、本発明のアーク電流制御回路AWCのソフトウェア処理の内容を示すフローチャートである。
【図14】図14は、本発明の実施例1におけるアーク電流制御処理サブルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図15】図15は、本発明の実施例2におけるアーク電流制御処理サブルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図16】図16は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長い場合における本発明のアーク電流制御方法での溶接ビード外観の一例を示す図である。
【図17】図17は、溶接用ケーブルの長さが約20[m]と長くかつ平均溶接電流値が200[A]以上の場合における本発明のによるアーク電流制御方法での電圧・電流波形を示す図である。
【符号の説明】
1…溶接ワイヤ
2…被溶接物/被溶接材
2a…溶接ビード
2b…スパッタ
3…アーク
4…溶接トーチ
5…ワイヤ送給装置
6…溶接電源装置の出力端子
7…溶接用ケーブル
8…溶接用ケーブルの外部インダクタンス
AC…商用電源
ADI…溶接電流A/D変換回路
Adi…溶接電流A/D変換信号
ADV…出力端子電圧A/D変換回路
Adv…出力端子電圧A/D変換信号
AWC…アーク電流制御回路
DAI…電流設定D/A変換回路
Dai…電流設定D/A変換信号
DT…制御周期設定回路
EA…誤差増幅回路
Ea…誤差増幅信号
G…電圧誤差増幅率
Ia…アーク電流
IAI…アーク基準電流値設定回路
Iai…アーク基準電流値(設定信号)
ID…溶接電流検出回路
Id…溶接電流検出信号
Ir…電流設定信号
IS…短絡電流設定回路
Is…短絡電流(設定信号)
ISI…短絡初期電流設定回路
Isi…短絡初期電流(設定信号)
IT…割り込み発生回路
It…割り込み発生信号
Iw…溶接電流
L0、l1…溶接用ケーブルの外部インダクタンス値
m…制御切換信号値
n…時間カウンタ値
PS…出力制御回路
TSI…短絡初期電流通電時間設定回路
Tsi…短絡初期電流通電時間(設定信号)
VD…出力端子電圧検出回路
Vd…出力端子電圧検出信号
VR…電圧設定回路
Vr…電圧設定値/設定信号
Vt…出力端子電圧
VTH…短絡判別閾値設定回路
Vth…短絡判別閾値設定信号
Vw…溶接トーチ・被溶接物間電圧(溶接電圧)
WC…溶接電流制御回路
ΔT…制御周期(設定信号)
Claims (6)
- アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値を検出してその検出値が予め設定した電圧設定値と等しくなる新しい電流設定信号を算出してその算出値に相当するアーク電流値の通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、前記アーク電流値を検出してその検出値に相当する電流設定信号を算出して予め設定した制御周期の間その算出値に相当するアーク電流値を通電する第1のアーク電流制御を行い、前記制御周期経過時点の前記出力電圧値を検出してその検出値が前記電圧設定値と等しくなる新しい前記電流設定信号を算出して前記制御周期の間その算出値に相当するアーク電流値を通電する第2のアーク電流制御を行い、前記第1及び第2のアーク電流制御を交互に繰り返して行うアーク電流制御方法。
- アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値を検出してその検出値が予め設定した電圧設定値と等しくなる新しい電流設定信号を算出してその算出値に相当するアーク電流値の通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、前記アーク電流値を検出して前記電流設定信号と比較し、前記比較した値が等しいときは前記出力電圧値を検出してその検出値が前記電圧設定値と等しくなる新しい前記電流設定信号を算出してその算出値に相当するアーク電流値を通電し、前記比較した値が等しくないときは比較前の前記電流設定信号をそのまま維持し、その維持した値に相当するアーク電流値を通電し、前記制御を繰り返して行うアーク電流制御方法。
- 出力電圧値を検出してその検出値が電圧設定値と等しくなる新しい電流設定信号を算出する演算が、予め設定したアーク基準電流値及び予め設定した電圧誤差増幅率によって電流設定信号=アーク基準電流値−電圧誤差増幅率×(出力電圧値−電圧設定値)で表わされる演算である請求項1又は請求項2に記載するアーク電流制御方法。
- アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値を検出してその検出値が予め設定した電圧設定値と等しくなる新しい電流設定信号を算出してその算出値に相当するアーク電流値の通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、前記アーク電流値を検出する検出回路と、前記出力電圧値を検出する検出回路と、前記電圧設定値を設定する設定回路と、前記アーク電流値の検出値に相当する電流設定信号を算出して予め設定した制御周期の間その算出値を出力する過程と、前記制御周期経過時点の前記出力電圧値の検出値が前記電圧設定値と等しくなる新しい前記電流設定信号を算出して前記制御周期の間出力する過程とを交互に繰り返して行うアーク電流制御回路とから構成されて、前記電流設定信号に相当するアーク電流値を通電して溶接する溶接装置。
- アーク発生期間中の溶接電源装置の出力電圧値を検出してその検出値が予め設定した電圧設定値と等しくなる新しい電流設定信号を算出してその算出値に相当するアーク電流値の通電を制御する消耗電極ガスシールドアーク溶接のアーク電流制御方法において、前記アーク電流値を検出する検出回路と、前記出力電圧値を検出する検出回路と、前記電圧設定値を設定する設定回路と、前記アーク電流値の検出値と前記電流設定信号とを比較する過程と、前記比較した値が等しいときは前記出力電圧値の検出値が前記電圧設定値と等しくなる新しい前記電流設定信号を算出して出力する過程と、前記比較した値が等しくないときは比較前の前記電流設定信号をそのまま出力する過程とを繰り返し行うアーク電流制御回路とから構成されて、前記電流設定信号に相当するアーク電流値を通電して溶接する溶接装置。
- 出力電圧値の検出値が電圧設定値と等しくなる新しい電流設定信号を算出する演算が、予め設定したアーク基準電流値及び予め設定した電圧誤差増幅率によって電流設定信号=アーク基準電流値−電圧誤差増幅率×(出力電圧値−電圧設定値)で表わされる演算であるアーク電流制御回路から構成される請求項4又は請求項5に記載する溶接装置。
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