JP4290802B2 - 溶融金属容器の保温装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融金属容器の保温装置に関し、特に連続鋳造設備においてタンディッシュに溶融金属を注入する取鍋の保温装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、連続鋳造設備においては溶融金属、たとえばステンレス溶鋼(以後、溶鋼と略称する)の連続鋳造が次のようにして行われている。溶融金属容器である取鍋に精錬した溶鋼を注入し、取鍋をクレーンで連続鋳造設備に搬入してタンディッシュの上方の載置台に載置し、取鍋の底部から溶鋼を出湯してタンディッシュに溶鋼を注入し、さらにタンディッシュ内の溶鋼を水冷鋳型内に注入して鋳片を連続的に鋳造する。
【0003】
このような連続鋳造中、取鍋内の溶鋼の出湯が終了すると、載置台上の取鍋はクレーンで搬出され、新たな取鍋が搬入されて載置台に載置され、タンディッシュに溶鋼を注入する。この取鍋交換中、タンディッシュへの溶鋼の注入は中断されるけれども、この間も水冷鋳型内への溶鋼の注入はタンディッシュ内に貯留されている溶鋼によって行われる。したがって、鋳片の鋳造は連続的に継続される。
【0004】
連続鋳造中、取鍋内の溶鋼温度は、耐火物による抜熱および溶鋼表面からの放熱によってしだいに低下する。取鍋内の溶鋼温度が低下すると、タンディッシュ内の溶鋼温度も低下し、鋳造温度が低下する。これによって、操業が不安定になるとともに、後述のように様々な異常が発生する。
【0005】
このようなタンディッシュおよび取鍋内の溶鋼温度の低下を抑制するために、従来から様々な方法が提案されている。タンディッシュ内の溶鋼温度の低下を抑制するための典型的な従来技術は、タンディッシュに加熱装置を設けてタンディッシュ内の溶鋼を加熱する方法である。このタンディッシュ加熱装置としては、誘導加熱装置およびプラズマ加熱装置などが実用化されている。これらはタンディッシュ内の溶鋼温度の低下抑制に効果的であるけれども、装置が高価であるという問題がある。
【0006】
取鍋内の溶鋼温度の低下を抑制するための典型的な従来技術は、取鍋に保温蓋をクレーンによって装着する方法である。この方法は、簡単で有効な方法であるけれども、取鍋搬送用クレーンとは別に保温蓋着脱用クレーンを必要とするという問題がある。これは、取鍋内の溶鋼の注入終了時に1台のクレーンで保温蓋の取外しと取鍋の搬送とを行うと、取鍋交換時間が長くなり、タンディッシュ内の溶鋼温度の低下を招いて鋳造温度が低下するからである。また、2台のクレーンを用いて保温蓋の取外しと取鍋の搬送とを別々に行う場合においても、次のような問題がある。通常、取鍋搬送用クレーンは取鍋交換時間を短縮するために取鍋内溶鋼の注入終了前から取鍋にフックを係合して待機する。したがって、保温蓋着脱用クレーンはそれよりもさらに前に保温蓋を取鍋から取外す必要がある。この結果、溶鋼の残存量が少なく溶鋼温度の低下が大きい取鍋内溶鋼の注入末期において、保温蓋が取外された状態になり取鍋の保温ができなくなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、出湯中における溶融金属の温度低下を全期間にわたって抑制することのできる溶融金属容器の保温装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、溶融金属を貯留した状態でクレーンのフックに係合されて吊り上げられ、前記クレーンによって載置台に載置され、溶融金属を底部から出湯する溶融金属容器の保温装置において、
溶融金属容器の上部開口に着脱自在に設けられ、溶融金属の出湯中に上部開口を気密に塞ぐことが可能な保温蓋と、
載置台上に設けられ、保温蓋を溶融金属容器の上部開口直上の装着位置と予め定める上部開口から離隔した格納位置との間にわたって往復変位させる移動手段と、
移動手段に設けられ、装着位置で保温蓋を昇降変位させて溶融金属容器の上部開口上に載置する昇降手段とを含み、
前記移動手段は、ほぼ鉛直な第1軸線を有し、載置台上に角変位自在に立設される第1旋回支柱と、
第1旋回支柱に設けられ、ほぼ水平方向に延びる第1旋回アームと、
第1旋回支柱および第1旋回アームを第1軸線まわりに角変位駆動する第1駆動手段と、
ほぼ鉛直な第2軸線を有し、第1旋回アーム上に角変位自在に立設される第2旋回支柱と、
第2旋回支柱に設けられ、ほぼ水平方向に延びる第2旋回アームと、
第2旋回支柱および第2旋回アームを第2軸線まわりに角変位駆動する第2駆動手段とを含み、
溶融金属容器に前記クレーンのフックを係合した状態で、保温蓋を前記装着位置と前記格納位置との間にわたって往復変位させ
前記昇降手段は、第2旋回アームに設けられることを特徴とする溶融金属容器の保温装置である。
【0009】
本発明に従えば、移動手段は載置台上に設けられ、溶融金属容器にクレーンのフックを係合した状態で、保温蓋を装着位置と格納位置との間にわたって往復変位させることが可能であり、移動手段に設けられる昇降手段は保温蓋を装着位置で昇降変位させることができる。これによって、溶融金属容器を載置台上に載置して溶融金属を出湯するとき、保温蓋を装着位置である溶融金属容器の上部開口上に移動させて載置することができるので、溶融金属の出湯中に溶融金属容器の上部開口を気密に塞ぐことができる。したがって、溶融金属容器内の溶融金属の温度低下を抑制することができる。また保温蓋をクレーンを用いないで格納位置に移動させることができるので、保温蓋搬送用クレーンと溶融金属容器搬送用クレーンとを別々に設けなくてもよい。
【0013】
また、第1駆動手段は第1旋回支柱および第1旋回アームを第1旋回支柱のほぼ鉛直な第1軸線まわりに角変位させることが可能であり、第2駆動手段は第2旋回支柱および第2旋回アームを第2旋回支柱のほぼ鉛直な第2軸線まわりに角変位させることが可能であり、第2旋回アームに設けられる昇降手段は保温蓋を昇降変位させることが可能である。これによって、昇降手段で保温蓋を上昇させた後、第1および第2駆動手段で第1および第2旋回アームをそれぞれ独立に角変位させて、保温蓋を第1および第2軸線まわりにそれぞれ旋回させることができるので、保温蓋の移動軌跡を希望する方向に設定することができる。したがって、溶融金属容器にクレーンのフックが係合されていても保温蓋をフックに衝突させることなく移動させることができ、保温蓋を溶融金属の注入終了まで溶融金属容器の上部開口に装着しておくことができる。この結果、溶融金属の注入終了まで溶融金属の温度低下を抑制することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の実施の一形態である保温装置の構成を簡略化して示す正面図であり、図2は図1の平面図であり、図3は図1の側面図であり、図4は図1に示す保温装置を備える連続鋳造設備の構成を簡略化して示す正面図であり、図5は図4の平面図であり、図6は図4の側面図である。
【0015】
連続鋳造設備1には、タンディッシュ3および水冷鋳型4が備えられている。タンディッシュ3の上方には載置台6が設けられており、載置台6には保温装置7が設けられている。載置台6は、固定フレーム9と昇降フレーム10とを備える。
【0016】
固定フレーム9は、大略的にC字状の形状を有する鋼製フレームであり、一対の第1平行ビーム11,12と、第1連結ビーム13とを含む。一対の第1平行ビーム11,12は、相互に平行に延び、その一端部側は第1連結ビーム13によって連結されている。固定フレーム9の四隅の下部には脚14がそれぞれ設けられており、各脚14は車輪15を介してレール16に乗載されている。レール16は第1平行ビーム11,12の長手方向に対して垂直な方向に敷設されている。
【0017】
昇降フレーム10は、大略的に固定フレーム9と同一のC字状の形状を有する構成フレームであり、一対の第2平行ビーム18,19と第2連結ビーム20とを含む。一対の第2平行ビーム18,19は相互に平行に延び、その一端部側は第2連結ビーム20によって連結されている。昇降フレーム10は,固定フレーム9の内側に配設されており、第1平行ビーム11,12および第2平行ビーム18,19は相互に平行である。昇降フレーム10は、4個のスクリュージャッキ23を介して固定フレーム9に昇降自在に載置されている。4個のスクリュージャッキ23は、昇降フレーム10の四隅に設けられおり、各スクリュージャッキ23は電動モータ24によって駆動軸25を介して駆動される。昇降フレーム10の第2平行ビーム18,19には、受座26,27がそれぞれ設けられている。受座26,27には、溶融金属容器である取鍋29が載置される。
【0018】
取鍋29は、上部に開口を有する有底円筒状容器であり、その内部には溶融金属、たとえばステンレス溶鋼(以後、溶鋼と呼ぶ)が貯留されている。溶鋼は、たとえば転炉等において精錬された後、取鍋29に注入される。取鍋29は、溶鋼を貯留した状態でクレーン30のフック32に係合されて吊上げられ、クレーン30によって連続鋳造設備1に搬入されて載置台6の受台26,27上に載置される。取鍋内の溶鋼は、取鍋29の底部に取付けられたノズル31を介して出湯され、タンディッシュ3内に注入される。タンディッシュ3内の溶鋼は浸漬ノズル33を介して水冷鋳型4内に注入され、冷却凝固されて偏平な鋳片34に鋳造される。鋳造された鋳片34は、ガイドロール35を介して湾曲しながら下方に導かれる。前記昇降フレーム10は、取鍋29の交換およびタンディッシュ3の交換時上方に持上げられ、鋳造中は予め定める位置に保持される。前記固定フレーム9は水冷鋳型4を交換するときのみ昇降フレーム10とともに走行して予め定める退避位置に移動し、それ以外のときにはタンディッシュ3の上方の固定位置に固定される。
【0019】
保温装置7は、保温蓋37と、移動手段である旋回装置38と、昇降手段である昇降装置39とを備える。保温蓋37は、取鍋29の上部開口に着脱自在に設けられ、溶鋼の出湯中に上部開口を気密に塞ぐことが可能である。旋回装置38は、第1旋回装置40と第2旋回装置41とから成り、図5に示すように保温蓋37を取鍋29の上部開口直上の装着位置43と、予め定める上部開口から離隔した格納位置44との間にわたって往復変位させる。このように、旋回装置38は保温蓋37をクレーンを用いないで移動させることができるので、保温蓋37を搬送するためのクレーンを取鍋29を搬送するためのクレーン30とは別に設けなくてもよい。
【0020】
第1旋回装置40は、第1旋回支柱46と、第1旋回アーム47と、第1駆動装置48とを備える。第1旋回支柱46は、ほぼ鉛直な第1軸線46aを有し、載置台6の昇降フレーム10上に第1固定支柱49を介して角変位自在に立設される。第1旋回支柱46の昇降フレーム10上の設置位置は、たとえば第2連結ビーム20と第2平行ビーム19とが連なるコーナ部である。第1旋回アーム47は、ほぼ水平方向に延びる鋼管製アームであり、第1旋回支柱46の上部に設けられる。第1駆動装置48は、第1固定支柱49に取付けられ、第1旋回支柱46および第1旋回アーム47を第1軸線46aまわりに角変位駆動する。第1固定支柱49は鋼管から成り、ほぼ鉛直な軸線を有する。第1旋回支柱46の上端面にはデッキ50が設けられており、デッキ50には第1安全柵51が設けられている。
【0021】
第2旋回装置41は、第2旋回支柱53と、第2旋回アーム54と、第2駆動装置55とを備える。第2旋回支柱53は、ほぼ鉛直な第2軸線53aを有し、第1旋回アーム47上に第2固定支柱56を介して角変位自在に立設される。第2旋回アーム54は、ほぼ水平方向に延びる軽量形鋼製アームであり、第2旋回支柱53の上端面に設けられる。第2駆動装置55は、第1旋回アーム47に取付けられ、第2旋回支柱53および第2旋回アーム54を第2軸線53aまわりに角変位駆動する。第2旋回アーム54上には、第2安全柵58が設けられている。
【0022】
昇降装置39は、第2旋回装置41の第2旋回アーム54上に設けられ、装着位置43で保温蓋37を昇降変位させて取鍋29の上部開口上に載置する。第1旋回支柱46、第1駆動装置48、第2旋回支柱53、第2駆動装置55および昇降装置39の構成については後述する。
【0023】
図7は保温蓋37の構成を簡略化して示す平面図であり、図8は図7の切断面線VIII−VIIIから見た断面図であり、図9は保温蓋37の内張り耐火物61の構成を簡略化して示す斜視図である。保温蓋37は、蓋本体60と内張り耐火物61と補強リブ62とを備える。蓋本体60は、下部に開口を有する略有底円筒状の鋼製偏平容器であり、その上面には等辺山形鋼から成る補強リブ62が格子状に設けられている。補強リブ62は蓋本体60の熱変形を防止する。蓋本体60の内面には、内張り耐火物61が取付けられている。内張り耐火物61は、複数の耐火物ブロック63から成り、各耐火物ブロック63は、柔軟性のある耐火物シートを屈曲させて重ね合わせた積層体である。各耐火物ブロック63は、ビーム64およびチャンネル65を介して蓋本体60に着脱可能に取付けられる。ビーム64は、耐火物ブロック63内に埋込まれる。保温蓋37は、内張り耐火物61を下側にして取鍋29の上部開口上に載置される。内張り耐火物61は柔軟性を有しているので、上部開口を気密に塞ぐことができる。
【0024】
図10は、図3に示す第1旋回支柱46および第1駆動装置48の構成を簡略化して示す側面図であり、図11は、図10の平面図である。第1旋回支柱46は、第1支柱本体67と第1旋回軸受68とを備える。第1支柱本体67は、大略的に円筒形の形状を有する鋼製筒体であり、前記第1固定支柱49の上方に配置される。第1支柱本体67の下端部には、旋回フランジ69が複数のリブ70を介して取付けられており、第1支柱本体67の上部には、前記第1旋回アーム47(図10には図示せず)が取付けられている。前記第1固定支柱49の上端部には、固定フランジ71が複数のリブ72を介して取付けられている。第1旋回軸受68は玉軸受であり、旋回フランジ69と固定フランジ71との間に設けられる。旋回フランジ69は、第1旋回軸受68の外輪73に複数の固定ボルト74によって連結され、固定フランジ71は第1旋回軸受68の内輪75に同様に連結される。前記外輪73の外周面には、複数の歯77が形成されている。第1支柱本体67、第1旋回軸受68および第1固定支柱49は同軸に設けられており、その軸線は第1旋回支柱46のほぼ鉛直な軸線46aと一致する。
【0025】
第1駆動装置48は、油圧モータ78と、歯車79とを備える。油圧モータ78は、ブラケット80を介して第1固定支柱49に取付けられており、そのモータ軸78aはほぼ鉛直な軸線を有する。油圧モータ78のモータ軸78aには、ディスクカップリング81を介して減速機83の入力軸83aが同軸に連結されている。減速機83は、固定フランジ71に取付けられており、減速機83の出力軸83bには歯車79が取付けられている。歯車79は、第1旋回軸受68の外輪73の歯77と噛み合う。
【0026】
油圧モータ78を駆動すると、モータ軸78aの回転運動は、前記歯車79および歯77を介して第1旋回軸受68の外輪73を角変位させ、さらに外輪73の角変位は旋回フランジ69を介して第1支柱本体67を角変位させる。したがって、第1駆動装置48は第1旋回支柱46および第1旋回アーム47を第1軸線46aまわりに角変位駆動する。
【0027】
図12は、図3に示す第2旋回支柱53および第2駆動装置55の構成を簡略化して示す側面図であり、図13は図12の平面図である。第2旋回支柱53および第2駆動装置55の構成は、第1旋回支柱46および第1駆動装置48の構成とそれぞれ類似しているので、対応する部分には同一の参照符を付し重複する説明を省略する。第2旋回支柱53は第2支柱本体85と第2旋回軸受86とを備える。第2支柱本体85は第2旋回軸受86、旋回フランジ69および固定フランジ71を介して第2固定支柱56の上方に配置される。第2支柱本体85の上端面には、前記第2旋回アーム54(図12には図示せず)が取付けられている。第2駆動装置55の油圧モータ78は、ブラケット80を介して第1旋回アーム47に取付けられている。第2駆動装置55は、第2旋回支柱53および第2旋回アーム54を第2軸線53aまわりに角変位駆動する。
【0028】
図14は、昇降装置39の構成を簡略化して示す正面図であり、図15は図14の平面図である。昇降装置39は、2台の油圧シリンダ87と4個のスプロケットホィール89と、4本のコンベアチェーン88とを備えており、1台の油圧シリンダ87と2個のスプロケットホィール89と2本のコンベアチェーン88とが一組として構成されている。各油圧シリンダ87は、ほぼ水平な軸線を有する複動油圧シリンダであり、第2旋回アーム54上に第2旋回アーム54の長手方向に沿って相互に平行に設けられる。各油圧シリンダ87には、ピストン軸91が備えられており、ピストン軸91は油圧シリンダ87の軸線に沿って伸縮変位可能である。
【0029】
各スプロケットホィール89は、第2旋回アーム54上に相互に間隔をあけて回転自在に設けられている。各スプロケットホィール89には、コンベアチェーン88がそれぞれ巻掛けられている。各コンベアチェーン88の一端部は、二股ロッド93およびターンバックル94を介してピストン軸91に連結されており、各コンベアチェーン88の他端部はシャックル95を介して保温蓋37の補強リブ62に連結されている。各コンベアチェーン88と保温蓋37との連結個所は4個所であり、各連結個所は保温蓋37の重心Oからの距離がほぼ等しくなるように設定されている。各コンベアチェーン88の他端部は保温蓋37の重量によって鉛直下方に垂下する。したがって、各コンベアチェーン88にはスプロケットホィール89を境として水平方向に延びる水平部分と鉛直下方に延びる鉛直部分とが形成される。
【0030】
油圧シリンダ87のピストン軸91を伸長させると各コンベアチェーン88の鉛直部分が長くなり、保温蓋37は下方に移動する。これに対して、油圧シリンダ87のピストン軸91を縮退させると各コンベアチェーン88の鉛直部分が短くなり、保温蓋37は上方に移動する。このように昇降装置39は、簡単な構成で迅速に保温蓋37を昇降させることができる。これによって、溶鋼の出湯中に取鍋29の上部開口を気密に塞ぐことができるので、溶鋼表面からの放熱を低減することができ、取鍋29内の溶鋼の温度低下を抑制することができる。したがって、取鍋29からタンディッシュ3内に溶鋼が連続的に注入されるタンディッシュ3のいわゆる定常期間中にタンディッシュ3内の溶鋼温度の低下を後述のように抑制することができる。
【0031】
図16は、取鍋29にクレーンのフック32を係合した状態で保温蓋37を装着位置43から格納位置44まで移動させるときの第1段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図であり、図17は第2段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図であり、図18は第3段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図であり、図19は、第4段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図である。図16〜図19を参照して旋回装置38の旋回動作を説明する。
【0032】
装着位置43において、保温蓋37、第1旋回アーム47および第2旋回アーム54は、図16(1)に示すように配置される。すなわち、第1および第2旋回アーム47,54は一直線上に配置され、その直線上に保温蓋37の重心位置である中心点Oが存在する。
【0033】
ここで、装着位置43における保温蓋37の中心点Oを通る前記昇降フレーム10の第2平行ビーム18,19に平行な仮想線をX軸とし、前記中心点Oを通るX軸に垂直な仮想線をY軸とし、第1旋回アーム47とX軸との成す角度を第1角度とし、第1旋回アーム47と第2旋回アーム54との成す角度を第2角度とすると、時々刻々変化する保温蓋37の中心点O(以後、中心点Oと略称することがある)の位置は第1角度と第2角度とによって表すことができる。したがって、図16〜図19では図中に第1角度と第2角度とを記載することによって中心点Oの位置を表している。たとえば、装着位置における中心点Oの位置は図16(1)から第1角度:33.5°、第2角度:0°であることが判る。また前記格納位置44における中心点Oの位置は、たとえば第1角度:125.5°、第2角度:0°である。装着位置43および格納位置44における中心点Oの第1および第2角度は予め定められる。さらに以後、第1および第2旋回アーム47,54の角変位量を表すとき、反時計まわりの角変位量をプラスで表示し、時計まわりの角変位量をマイナスで表示する。
【0034】
旋回動作の第1段階では、第1および第2旋回アーム47,54を相互に逆方向に予め定める単位時間当たりの角変位量(以後、角変位速度とよぶ)でそれぞれ角変位させる動作が行われる。第1および第2旋回アーム47,54は、第1および第2駆動装置48,55をそれぞれ駆動することによって角変位される。第1および第2旋回アーム47,54の角変位速度は、1.3秒当たりそれぞれ5°,−7.2°である。したがって、第1旋回アーム47は反時計まわりに角変位し、第2旋回アーム54は時計まわりに角変位する。第1段階における保温蓋37の中心点Oの移動軌跡は、図16(2)〜(4)に示すようにほぼX軸に沿って第2連結ビーム20に向かって移動する。各図中の実線の円は角変位後の保温蓋37を示しており、仮想線の円は角変位前の装着位置の保温蓋37を示している。このような表示方法は以後同一である。
【0035】
第1段階は、図16(4)に示すように第2旋回アーム54の角変位量が予め定める限界値−64.8°に達するまで続けられる。この間における中心点Oの移動軌跡はほぼ直線P1で表される。第1段階終了時における中心点Oの位置は、図16(4)から第1角度:80.5°、第2角度64.8°であることが判る。これは第1旋回アーム47が装着位置43から+45°角変位したことを示しており、第2旋回アーム54が第1旋回アーム47に対して−64.8°角変位したことを示している。第2旋回アーム54の角変位量が限界値に達すると、第2旋回アーム54の角変位は休止され、その角度のまま保持される。図16(4)における保温蓋37の中心点OのX軸方向に沿った移動量は、クレーンのフック32のX軸方向における先端部と装着位置43における中心点Oとの距離にほぼ等しい。
【0036】
旋回動作の第2段階では、第2旋回アーム54の角変位を休止したまま、第1旋回アーム47の角変位を第1段階と同一の角変位速度で継続させる動作が行われる。第2段階における保温蓋37の中心点Oの移動軌跡は、図17(1),(2)に示すように第1旋回支柱46の軸線46aを中心とする円の円弧P2で表される。図17(2)において、保温蓋37は第1および第2旋回アーム47,54を同時に反時計まわりに角変位してもクレーンのフック32と衝突しない位置、すなわち第2段階終了位置に到達する。第2段階終了時における中心点Oの位置は、図17(2)から第1角度:100.5°、第2角度:64.8°であることが判る。
【0037】
このように、第1段階において保温蓋37の中心点OをほぼX軸に沿ってクレーンのフック32から離間するように移動させた後、第2段階において保温蓋37を第1旋回支柱46の軸線46aまわりに角変位させているので、保温蓋37をフック32に衝突させることなく移動させることができる。
【0038】
旋回動作の第3段階では、休止中の第2旋回アーム54を第1段階とは逆方向に角変位させる動作が付加される。これによって、第3段階では第2旋回アーム54が第1旋回アーム47とともに反時計まわりに角変位される。第1および第2旋回アーム47,54の角変位速度は第1段階と同一である。第3段階における保温蓋37の中心点Oの移動軌跡は、図18(1)〜(3)に示すように前記円弧P2の延長部分から少しずれて延びる曲線P3で表される。曲線P3は、前記円弧P2の延長部分を挟んでX軸とは反対側に存在する。第3段階における保温蓋37の角変位速度は、第1および第2旋回アーム47,54を同方向に角変位しているので、第1およ第2段階よりも高速で行われる。
【0039】
第3段階は図18(3)に示すように第1角度が予め定める上限値である125.5°に到達し、第1旋回アーム47の角変位が停止されるまで続けられる。前述のように装着位置43における第1旋回アーム47とX軸との成す角度は35.5°であるので、第1旋回アーム47の角変位量の限界値は+90°である。保温蓋37は、第3段階の途中で図18(2)に示すように取鍋29よりも外方に外れた位置に到達する。このため、保温蓋37が図18(2)に示す位置に到達した時点で取鍋吊上げ可能を表す表示が図示しない表示手段によって表示される。
【0040】
旋回動作の第4段階では、第1旋回アーム47の角変位を停止したまま、第2旋回アーム54の角変位を第3段階と同一の角変位速度で反時計まわりに継続させる動作が行われる。第4段階における保温蓋37の中心点Oの移動軌跡は、図19に示すように第2旋回支柱53の軸線53aを中心とする円の円弧P4で表される。第4旋回アーム54と第1旋回アーム47との成す角度が零になると保温蓋37は前記格納位置44に到達し、旋回装置38の一連の旋回動作が終了する。
【0041】
このように、旋回装置38には第1旋回アーム47と第2旋回アーム54とが備えられおり、第1および第2旋回アーム47,54をそれぞれ独立に角変位させることができるので、保温蓋37の移動軌跡を希望する方向に設定することができる。これによって、取鍋29の交換を迅速に行うために溶鋼の注入終了前から取鍋29にクレーン30のフック32を係合している場合でも、保温蓋37をフック32と衝突させることなく、装着位置43から格納位置44まで確実に移動させることができる。したがって、従来のように取鍋29にフック32を係合する前に保温蓋37を取鍋29から取外す必要がなくなり、溶鋼の注入終了まで保温蓋37を取鍋29に装着しておくことが可能となる。この結果、取鍋29内の溶鋼温度の低下を注入終了まで抑制することが可能となり、後述のようにタンディッシュ3内の溶鋼温度の低下を、前記定常期間中に抑制することができるばかりでなく、タンディッシュ3内への溶鋼の注入が中断される取鍋交換中においても抑制することができる。
【0042】
図20は、連続鋳造時におけるステンレス鋼SUS304の鋳造温度の低下速度と取鍋29の保温蓋37の有無との関係を示すグラフである。図20を参照して、取鍋29の保温蓋37の保温効果について説明する。図20(1)において保温蓋ありとは、溶鋼の注入終了まで保温蓋37が取鍋29に装着されていることを意味する。
【0043】
図20(1),(2)から、連続鋳造の鋳造温度の低下速度はタンディッシュの定常期間中および取鍋交換中のいずれにおいても、保温蓋ありの場合の方が保温蓋なしの場合よりも低くなること、換言すれば鋳造温度の低下が抑制されることが判る。
【0044】
このように、取鍋29に保温蓋37を装着することによって、取鍋内の溶鋼温度を効果的に保温することが可能となり、連続鋳造時におけるタンディッシュ3内の溶鋼温度の低下および鋳造温度の低下をタンディッシュ3の定常期間中および取鍋交換中のいずれにおいても抑制することができる。
【0045】
表1は、鋳造温度の低下に起因する異常発生量を保温蓋ありの場合と保温蓋なしの場合とについてそれぞれ示す比較表である。表1中の屑発生チャージ数とは、鋳造温度が予め定める下限温度を下まわり、鋳造することができなくなって溶鋼が屑になったチャージ数であり、鋳造温度低下発生チャージ数とは取鍋交換時、タンディッシュ内の溶鋼量を確保して溶鋼温度の低下を抑制するために、新たな高温の溶鋼が注入されるまで鋳造速度を基準速度よりも低下させたチャージ数であり、無手入指定鋳片の手入実施本数とは本来、疵取り工程を省略すべき鋳片に、低温鋳造起因の表面疵を除去するための表面研削を実施した鋳片本数である。
【0046】
表1から、保温蓋ありの場合は保温蓋なしの場合に比べて、鋳造温度の低下に起因する異常発生量がいずれも減少していることが分かる。したがって、取鍋29に保温蓋37を装着することによって連続鋳造工程における能率および歩留りを向上することができ、かつ疵取り工程の負荷を軽減することができる。
【0047】
【表1】
Figure 0004290802
【0049】
【発明の効果】
以上のように請求項1記載の本発明によれば、溶融金属容器を載置台上に載置して溶融金属を出湯するとき、保温蓋を装着位置である溶融金属容器の上部開口上に移動させて載置することができるので、溶融金属の出湯中に溶融金属容器の上部開口を気密に塞ぐことができる。したがって、溶融金属容器内の溶融金属の温度低下を抑制することができる。また保温蓋をクレーンを用いないで格納位置に移動させることができるので、保温蓋搬送用クレーンと溶融金属容器搬送用クレーンとを別々に設けなくてもよい。
【0051】
た本発明によれば、保温蓋を第1および第2軸線まわりにそれぞれ旋回させることができるので、保温蓋の移動軌跡を希望する方向に設定することができる。したがって、溶融金属容器にクレーンのフックが係合されていても保温蓋をフックに衝突させることなく移動させることができ、保温蓋を溶融金属の注入終了まで溶融金属容器の上部開口に装着しておくことができる。この結果、溶融金属の注入終了まで溶融金属の温度低下を抑制することでき、鋳造温度の低下を抑制することができる。また鋳造温度の低下に起因するトラブルを回避して異常発生量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態である保温装置の構成を簡略化して示す正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の側面図である。
【図4】図1に示す保温装置を備える連続鋳造設備の構成を簡略化して示す正面図である。
【図5】図4の平面図である。
【図6】図4の側面図である。
【図7】保温蓋37の構成を簡略化して示す正面図である。
【図8】図7の切断面線VIII−VIIIから見た断面図である。
【図9】保温蓋37の内張り耐火物61の構成を簡略化して示す斜視図である。
【図10】図3に示す第1旋回支柱46および第1駆動装置48の構成を簡略化して示す側面図である。
【図11】図10の平面図である。
【図12】図3に示す第2旋回支柱53および第2駆動装置55の構成を簡略化して示す側面図である。
【図13】図12の平面図である。
【図14】昇降装置39の構成を簡略化して示す正面図である。
【図15】図14の平面図である。
【図16】 取鍋29にクレーンのフック32を係合した状態で保温蓋37を装着位置43から格納位置44まで移動させるときの第1段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図である。
【図17】第2段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図である。
【図18】 第3段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図である。
【図19】第4段階における保温蓋37の移動軌跡を示す平面図である。
【図20】連続鋳造時におけるステンレス鋼SUS304の鋳造温度の低下速度と取鍋29の保温蓋37の有無との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 連続鋳造設備
3 タンディッシュ
4 水冷鋳型
6 載置台
7 保温装置
10 昇降フレーム
29 取鍋
37 保温蓋
38 旋回装置
39 昇降装置
40 第1旋回装置
41 第2旋回装置
46 第1旋回支柱
47 第1旋回アーム
48 第1駆動装置
53 第2旋回支柱
54 第2旋回アーム
55 第2駆動装置

Claims (1)

  1. 溶融金属を貯留した状態でクレーンのフックに係合されて吊り上げられ、前記クレーンによって載置台に載置され、溶融金属を底部から出湯する溶融金属容器の保温装置において、
    溶融金属容器の上部開口に着脱自在に設けられ、溶融金属の出湯中に上部開口を気密に塞ぐことが可能な保温蓋と、
    載置台上に設けられ、保温蓋を溶融金属容器の上部開口直上の装着位置と予め定める上部開口から離隔した格納位置との間にわたって往復変位させる移動手段と、
    移動手段に設けられ、装着位置で保温蓋を昇降変位させて溶融金属容器の上部開口上に載置する昇降手段とを含み、
    前記移動手段は、ほぼ鉛直な第1軸線を有し、載置台上に角変位自在に立設される第1旋回支柱と、
    第1旋回支柱に設けられ、ほぼ水平方向に延びる第1旋回アームと、
    第1旋回支柱および第1旋回アームを第1軸線まわりに角変位駆動する第1駆動手段と、
    ほぼ鉛直な第2軸線を有し、第1旋回アーム上に角変位自在に立設される第2旋回支柱と、
    第2旋回支柱に設けられ、ほぼ水平方向に延びる第2旋回アームと、
    第2旋回支柱および第2旋回アームを第2軸線まわりに角変位駆動する第2駆動手段とを含み、
    溶融金属容器に前記クレーンのフックを係合した状態で、保温蓋を前記装着位置と前記格納位置との間にわたって往復変位させ
    前記昇降手段は、第2旋回アームに設けられることを特徴とする溶融金属容器の保温装置。
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