JP4289716B2 - ガラス素子の成形方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、カメラやビデオカメラに用いられる光学レンズなどの、高精度な光学ガラス素子を、研磨加工により得る際に、これに先立って、成形ガラス素子を、軟化ガラスから、熱間で、プレス成形する、ガラス素子の成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、レンズなどの光学ガラス製品は、溶融固化されたガラスのブロックから最終形状に近い形状に切り出した素材を、また、溶融ガラスから直接に最終の形状に近い形状にプレス成形した素材を、研削・研磨を施すことにより、得ていた。また、近年、この研削・研磨によるガラス製品の加工方法に代わり、表面欠陥のない成形素材を加熱軟化させ、それを成形型を用いて、直接プレス成形する方法、所謂、リヒートプレスが注目されてきている。
【0003】
通常、この種の成形(リヒートプレス)には、胴型と、その胴型内で摺動する上下型部材よりなる成形型を用いて、加熱軟化状態にある成形素材をプレスし、前記型部材の成形面に対応した光学機能面を、前記成形素材に転写し、その後に冷却を行い、前記型部材から前記ガラス製品を取り出す方法が用いられている。例えば、特開昭61−136927号公報には、押圧成形する際、成形品の肉厚の変化速度が、所定の速度以下になる状態を経て、所望の肉厚にまでプレス成形する成形方法が開示されている。また、特公昭48−22977号や特開昭59−19554号の公報には、多孔質材で成形型を構成し、これにガスを供給して、例えば、超音波振動を用いて、型表面にガス膜を作り、その膜を介して、成形型の成形面と被成形素材である軟化ガラスを、非接触の状態でプレス成形する技術が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の研削・研磨による方法では、ガラスブロックを切り出した後に、これを所望の最終形状に近似の形状まで研削する工程や、プレス成形された素材の表層近くの数々の欠陥を除去するために、素材の表面外周を大きく除去加工する研削工程などが必要であり、その後に、更に精研削・研磨により、表面を磨き上げる工程が必要であった。
【0005】
この研削・研磨では、表面傷を除去するために、通常、最低でも0.5mm以上の深さまで研削する必要があり、更に、精研削で50μm、研磨で10μm程度の加工が必要である。そのために、完成品ができ上がるまでの工程数が多く、時間がかかると共に、切り出しや、所定形状への研削に際して、ガラススラッジが多量に発生し、その処理に、多大の労力が必要であるという問題があった。
【0006】
また、このリヒートプレスにおいて、一旦、表面欠陥のない成形素材を得た後に、再度、成形素材を、それに高荷重を掛けないと変形しない温度(これは、ガラス素材が109 dPa・s程度の粘性を示す温度)まで、加熱軟化させ、それを、同様の温度まで加熱した成形型を用いて、プレス成形するのが一般的であるが、この表面欠陥の無い成形素材を得るために、前述の研削研磨工程を必要としたり、プレス成形時において、加熱された成形型と成形素材とが、直接に接触するために、ガラスの変形温度としては、低温であるにも拘わらず、成形素材と型との間に融着が発生したり、成形素材であるガラスと成形型の接触によるガラスと成形型の型材の反応や、型の表面の磨耗などによる型の劣化が発生するという問題がある。
【0007】
このように、光学ガラス素子を成形する際の、成形温度や、被成形ガラス材料および成形型材などの制約が大きく、成形可能な条件の有効範囲が狭くて、コスト的にも安価なものが得難い現状では、非球面レンズの作成などの特殊な用途に利用される場合に留まっている。まして、105 dPa・s以下の低粘性を示すような、高温の溶融ガラスから、直接に、通常、安価で多用される球面レンズのような、精密なガラス素子(製品)を成形しようとすると、これらの問題が顕著化し、実質上、このような光学素子の製造を阻害する。
【0008】
前述の特開昭61−136927号公報には、リヒートプレスにおける、成形品の肉厚を正確に制御するための方法として、光学素子を押圧成形する際、成形品の肉厚の変化速度を、所定の速度以下にした状態で、成形型や成形装置で規制される、所望の肉厚の成形光学素子を得る工程が開示されている。ここでは、成形の進展につれて、軟化ガラス塊と成形型の成形面との接触面積が増大するが、これにつれて、変形抵抗が増大し、成形速度が遅くなってくるような、比較的硬い素材のプレス成形の肉厚制御には、有効な手段であろう。しかし、ここでは、基本的に、増加する変形抵抗に打ち勝ち、最終的に所定の肉厚が得られるように、可成り高いプレス圧力を設定して、成形を行うことになる。
【0009】
また、溶融ガラスから成形する通常の粘度の低いガラスのプレス成形においては、軟化ガラス塊に対する変形抵抗は、前述の場合に比べて遙に小さく、成形速度も殆ど変化せず、型内に投入された軟化ガラス塊は、その熱を成形型に奪われてしまうので、ガラスが固化する前に、成形型内の隅々までガラスを充填させる必要から、可成り高い圧力で、成形型または成形装置で規制される、肉厚まで、一気にプレス成形を行うのが、通常である。また、その際に、高温のガラスが成形型と接触するために、前述のような、融着、接触面の荒れなどが発生し、でき上がった成形品の表面に対して、光学的な精度を要求することができず、また、冷却中に、成形品の内部の温度分布に差が生じ、冷却中の熱収縮が均等に起こらなくなり、その収縮が、温度の比較的高い部分に集中するため、冷却後に、その部分が窪んだ状態に変形してしまう、所謂、ヒケと呼ばれる現象が生じ、本来の目的とする形状と、大きくかけ離れてしまうという問題があった。
【0010】
そこで、前述の融着や接触面の荒れを避けるために、前述の特公昭48−22977号や特開昭59−19554号の公報には、型表面からガスを噴出させ、成形型と成形素材であるガラスとの間にガス膜を作り、成形型とガラスとを接触させないで、成形する技術が開示されている。このように、ガラスと成形型とを非接触の状態で成形することは、プレス成形では、理想的であり、融着防止や成形品の表面状態に対して、優れた効果はあるが、ここでは、単純に荷重を掛けてプレスを行うと、ガス膜が部分的に薄くなり、強いては、成形型とガラスとが、直接、接触したり、また、ガス圧が高すぎて、成形型とガラスとの間に、均一なガス膜ができず、成形されたガラスに、部分的な接触痕や、ガス溜りができてしまうので、理想とする成形品の転写形状を得ることが、殆ど不可能であった。また、成形後の冷却途中においても、軟化状態にある、温度の高い成形素材を、成形し、冷却するだけであると、同様に、ヒケが発生し、本来の目的とする形状と大きくかけ離れてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に基づいてなされたもので、その第1の目的とするところは、溶融軟化状態にある溶融ガラスなどの、粘性の低い軟化ガラス塊から、直接に高精度な形状および面精度を有する光学素子を安価に、安定的に得ることができる、ガラス素子の成形方法を提供するにある。
【0012】
また、本発明の第2の発明の目的は、スラッジを多量に発生させる研削加工を省き、僅かな研磨加工のみで、あるいは、それも省いて、ガラス素材の表面の加工除去量を、従来に比較して、ほぼゼロとすることができる、高精度な形成および面精度を有するガラス素子を、溶融軟化状態にある溶融ガラスから直接に得られる、ガラス素子の成形方法を提供するにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では、上下一対の型部材よりなる成形型を多孔質材で構成し、該成形型の成形面よりガスを噴出して、軟化ガラス塊を、前記成形面より噴出するガスにより非接触状態もしくはそれに近い状態で保持しながら、プレス成形するガラス素子の成形方法において、前記軟化ガラス塊は10 5 dPa・s以下の粘度で、自重と表面張力により自然に切断され、プレス成形の際の、型部材によるプレス速度を、5mm/秒以下の一定速度とし、前記軟化ガラス塊の中心厚が所定の値になるまでプレスすることを特徴とする。
【0014】
このような構成においては、成形型と軟化ガラス塊との間に介在するガス膜を破らず、かつ、ガス膜の厚さが不均一にならぬように、成形型のプレス速度を制御するので、成形型の成形面の形状に、より近い形状にガラス素材を成形することが可能となる。これは、速い速度で成形すると、ガス膜が、その気体であるという物性から、その粘度がガラスの粘度に比較して桁違いに低く、ガス膜が簡単にガラスに負けてしまい、型の成形面とガラスとが部分的に完全に接触してしまうことになるからである。その結果として、融着が発生したり、成形されたガラス素子に部分的な接触痕などが発生し、所望の成形面に対応した転写ができなくなる。
【0015】
また、逆に、成形面とガラスとが接触しないように、噴出するガスの量を増加し過ぎると、今度は、ガラスが、ガスの勢いにまけ、成形品の表面に、ガスが吹き付けられた、所謂、ガス溜りを生じ、前述と同様に、所望の転写形状を得ることができなくなる。この様な事態を防ぎ、成形型の成形面の形状を、精度よく転写させるには、微量のガスで、極薄い膜を作り、それが破られないように、溶融ガラスを成形型の成形面に接近した時から徐々にプレス成形し、固化させながら成形面に倣わせて行くのがよい。
【0016】
そこで、この際に、通常のプレス成形のように、プレスの圧力を制御すると、溶融ガラスの粘度が低いために、ガラスからの反力が受けられず、成形速度は、ほとんど無制限となり、一定の安定した速度を得ることができなくなる。そこで、本発明のように、プレスの成形速度の制御が必要となり、その時の速度は、例えば、光学レンズなどの、小さな物では5mm/秒以下、好ましくは、1mm/秒以下であるのがよい。ここでは、ガラスに対して、圧力がほとんど加わらないため、プレス圧は、成形型を閉じる力さえあれば、良いこととなる。
【0017】
更に、ガラスを徐々に固化させるには、ガスの温度を制御し、急激に固まったり、また、逆に何時までも流動性を保ったままにならないように、噴出するガスの温度を制御しておくのが良い。なお、その温度は、ガラス転移点よりもあまり高いと、ガラスが適当に固化せず、成形途中で、部分的に成形型の成形面に接触してしまい、低すぎると、成形型の形状に倣う前に、固化してしまい、所望の形状を得ることができなくなる。そこで、その温度は、具体的には、成形されるガラスの粘度で1010dPa・sから1014dPa・sに相当する温度の範囲内で選定するのが適当である。
【0018】
また、噴出するガスの量も多すぎると、ガラス素子にガス溜りの跡を残し、少なすぎると、成形面とガラスとが強く接触してしまうために、成形される素子の大きさや、成形型の多孔質の状態にも左右されるが、光学レンズなどの小物においては、概ね1cm2当たり、毎分0.05〜1リッターの範囲で、設定するのが良い。
【0019】
このようにすることで、ガス膜を安定させ、型なりの形状を、非接触状態もしくはそれに近い状態で転写させることができ、安価に、安定的に、形状精度の非常に良いガラス素子を得ることが可能となる。
【0020】
また、本発明では、プレス速度を制御して、軟化ガラス塊を、ほぼ所要形状に成形した状態で、成形型が閉じられた後に、前記成形面より噴出するガスにより前記成形型内に成形ガラス素子を所定時間保持し、その後に冷却をすることを特徴とする。
【0021】
これは、ガラス素子の内部と外部との温度差のみならず、ガラス素子全体の温度分布、密度分布を均一にするのを目的としているのであって、この時までの工程で、ガラスの内部に生じた温度差に起因する熱膨張収縮量の違いによる密度差を、温度保持を行うことでなくし、温度分布及び密度分布の無い状態のガラス素子を得、その後に冷却を行っても、部分的なヒケの発生を防止することを目的とする。
【0022】
この時のガラスの温度分布の誤差範囲は、ガラスの大きさに関係なく、できるだけ、なくすことが必要で、実際の成形においては、5℃以内に抑えることが好ましい。この温度分布の範囲が広すぎると、前述の密度分布の解消が十分に行われず、更に、温度分布が大きいまま、冷却されると、ヒケの発生量が大きくなり、最終的に精度の良いガラス製品が得られなくなる。
【0023】
そのためにも、この誤差範囲は、ガラス素材の形状精度、つまり、所望の形状との誤差が、数十μm、ないしは、ニュートンリングレベルの精度が要求される場合に、上記の誤差範囲が限界となり、この範囲が狭いほど、得られる製品の精度が向上する。
【0024】
また、この時の温度保持は、どのような方法で行ってもよいが、噴出するガスにより制御するのが、最も合理的であり、この保持温度は、前述の成形中のガスの温度と同じ温度範囲である、成形されるガラスの粘度で1010dPa・sから1014pPa・sに相当する温度の誤差範囲内で選定するのが適当である。またこの温度の保持時間は長いほど良く、数μm程度の形状誤差が許されるならば、10秒程度、更に、サブμm以上の形状精度が要求されるのであれば、少なくとも1分程度が必要であり、保持温度を高めにし、時間を長くすれば、より精度の良いガラス素子を得ることが可能となる。
【0025】
なお、以上で述べたように、本発明の方法によれば、非常に精度の良いガラス素子が得られるため、光学レンズなどでも、プラスチックで代用できるような、高精度を要求されないものであれば、そのままの状態で使用することができ、更に、次加工を必要とするような高精度のものでも、ガラスを大きく削る研削などの加工の必要がなく、表面を磨く程度の研磨加工だけで、目的を十分に達成することが可能である。この研磨加工では、直径:20mm、厚さ:3mm程度のレンズ形状のガラス製品であれば、加工代は、10μm以下で十分であり、研磨時間も、数十秒もあれば十分である。逆に言えば、本発明の方法によれば、できあがったガラス製品の形状が、所望とする設計値に対して10μm以上の誤差を生じることはない。
【0026】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明で用いられる成形装置の概略図である。ここで、符号1は下型ユニット、2は上型ユニットであり、ユニット1、2は、それぞれ、下面成形型11と、上面成形型21と、それらを保持する下型ホルダー12と、上型ホルダー22とで構成されている。
【0027】
なお、ホルダー12、22には、流体を成形型11、21に対してバランスよく供給分配するために、圧力室12a、22aが設けられており、更に、ヒーター13、23と測温手段(図示せず)が埋め込まれていて、成形型11、12の各成形面11a、11bから噴出する流体の温度を、最終的に微調整することができるようになっている。なお、成形面11a,21aは、それぞれ、成形されるガラス製品(光学ガラス素子)の光学機能面の形状を決定する精度の高い形状になっている。
【0028】
また、ユニット1は、固定軸6を介して、架台7に固定されており、ユニット2は、上下駆動装置4の可動軸3に取付けられており、更に、上下駆動装置4は水平駆動装置5に載置されている。上下駆動装置4を用いて、矢印Aのように、ユニット1を上下方向に、任意の速度で、任意の位置まで、自由に移動できるようになっており、更に、水平駆動装置5を、矢印Bのように、動かすことで、ユニット1をガラス供給ノズル101およびユニット2の直下に移動できるようになっている。
【0029】
更に、ホルダー12、22には、図示のように、N2 ガス供給用の接続パイプ14、24が接続されており、それらは、更に流量圧力調整器とガス加熱装置と(何れも図示せず)につながれており、成形面11a、21aより噴出するN2 ガスの温度、圧力、流量を、任意に制御できる構成となっている。
【0030】
図2ないし図4は、溶融軟化状態の溶融ガラスを、供給ノズルより、成形型に供給し、更に、供給された溶融ガラスを、供給ノズルより切断分離するときの工程の説明図である。図2において、符号101は、溶融軟化状態の溶融ガラス102の供給ノズルであり、図3において、符号103aは、成形型11の成形面11aの上に供給された切断前の溶融(軟化)ガラス塊を示し、また、符号103bは、切断のための溶融ガラス102と切断前の溶融ガラス塊103aとの間に作られるくびれを表す。なお、図4に示す溶融ガラス塊104は成形面11a上に得られる。
【0031】
次に、上記の成形装置を使用して、ガラス製品を成形する工程を、具体的に説明する。なお、ここで成形されるガラス素子は、ビデオカメラに用いられる光学有効面(光学機能面)の曲率がR:30mmとR:20mmであり、中心肉厚が2mmである、直径:φ15mmの凸メニスカスの、球面レンズ用の研磨素材であるガラス素子である。また、ガラス材料には、その温度が1200℃の時に、101.6 dPa・s、890℃の時に、102.9 dPa・s、720℃の時に、105 dPa・s、6、10℃の時に、107.55dpa・s、498℃の時に、1013dPa・s、468℃の時に、1015dPa・sとなる、それぞれの粘度を示すような、粘性特性を持つ光学ガラスを用いた。
【0032】
なお、成形型11の成形面11aと成形型21の成形面21aとは、成形後の室温での研磨素材の形状が上記のレンズ形状に、ほぼ匹敵する形状に加工し、その表面は、多孔質の穴部のくぼみを除いた面をRmax:0.5ミクロン以下となるように加工した。また、成形型11、21の材料として、気孔率が30%であり、最大穴径が10ミクロンである多孔質カーボンを用い、噴出ガスには11,21の酸化を防ぐために窒素ガスを用いた。
【0033】
次いで、このように、加工準備した成形型11、21を、図1に示す成形装置に取付け、図2〜図4に示すような方法で、溶融ガラス塊を得た。ここで、この行程を、図1〜図4を用いて、より具体的に説明する。まず、ガラス溶融炉(図示せず)で、上述の硝材を溶融し、脱泡、均質化工程を経て、軟化状態の均質な溶融ガラス102を準備し、更に、それを供給ノズル101へ導く。供給ノズル101を1200℃の温度に設定し、溶融ガラス102を流出させると共に、水平駆動装置5を動かし、ユニット1を供給ノズル101の直下に持って行き、更に、上下駆動装置4を動作して、ユニット1を上方に動かす。
【0034】
そして、図2に示すように、成形面11a上に所定の容量の溶融ガラスを受けた後、図3に示すように、上下駆動装置4を稼動させることで、ユニット11を矢印Lのように下方へ少し下げ、溶融ガラス102と、切断前の、ユニット1側の溶融ガラス塊103aとの間に、クビレ103bを発生させ、クビレ103bが自重と表面張力により切断に至るまで待機し、図4に示すように、軟化状態の溶融ガラス塊104を得た。
【0035】
このように、溶融ガラス102の切断工程において、ユニット1を一旦停止させることにより、クビレ103bの部分が冷やされることが少なくなり、自重と表面張力により、自然に切断することが可能となるために、切断部にガラス素材が糸状に固化して残ったり、通常、ガラスの切断に用いられる切断刃による破断痕が残らないなど、溶融ガラス塊104の表面に、有害な欠陥が生じることがなくなる。
【0036】
また、この時の噴出N2 ガスの温度は、ガラスを成形面11aに受ける時、ガラスの転移点(ガラス粘度で1013dPa・s)の温度にほぼ等しい500℃になるように、N2 ガスの温度を調整し、更に、その流量も溶融ガラス102を成形面11aに受ける直前までは、1cm2 当り、毎分:1.2リッター、その後は、毎分:0.2リッターとなるように制御した。このようにすることで溶融ガラス102が成形面11aに達する前に、溶融ガラス102の先端が、多少とも固化し、流動性が少なくなり、噴出するN2 ガスの流量も増える。このために、溶融ガラス102の先端が、全く、成形面11aに接触することなく、また、前記の切断方法を用いることも併せて、表面には全く欠陥がない溶融ガラス塊104が得られた。
【0037】
次に、水平駆動装置5を動かすことにより、ユニット1をユニット2の直下に移動し、溶融ガラス塊104を、ユニット1およびユニット2を用いて、成形する工程を、図5〜6を用いて、具体的に説明する。図5は、溶融ガラス104をユニット1、2で、成形する直前の状態を示しており、この時のガラスの粘度は、成形型11で受けている溶融ガラスの下面近傍の粘度が105-6.5 dPa・s、その他の部分が103-5 dPa・sとした。次に、ユニット1、2より噴出するN2 ガスの温度及び流量は、前述のままで、成形された研磨素材であるガラス素子105の中心厚が2mmとなるまで、上下駆動装置4の上昇速度=プレス速度を毎秒2mmに設定し、一定速度で成形した。その後、成形型を閉じた、図6の状態で、500℃のN2 ガスを30秒間、流し続け、ガラス素子105の温度が、冷却開始直前において、500℃±3℃となり、これまでの熱履歴による歪、密度分布も完全に解消された状態となった。その後、ユニット1、2を開き、更に放冷状態で冷却を行い、ガラス素子105を取出した。
【0038】
ガラス素子105が完全に室温の状態になった所で、その精度を測定したが、成形面11a,21aに相当するガラス素子105の光学機能面は、共に、成形型の多孔質の粗さを、全面に薄く、転写しており、Rmax.:3μmの粗さを有していたが、型に融着した後や、ガス溜りなどの跡が、一切、観察されず、型なりの形状をきちんと転写していた。
【0039】
その後、ガラス素子105の両面を、5μm程、研磨加工した所、表面の粗さは、完全に取れて、通常の研削・研磨加工で得られるレンズと全く同等のレンズを、効率よく、得ることができた。
【0040】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。ここでは、第1の実施の形態と同じ、装置と材料とを用いて、片面がR:20mm、もう一方の面がR:30mm、レンズの中心肉厚が2.3mm、直径がφ10mmである、ファインダー用の両凸のガラス球面レンズであるガラス素子の成形を行った。
【0041】
第1の実施の形態と同様に、成形型11の成形面11aと、成形型21の成形面21aとは、それぞれ、R:20mm、R:30mmの球面状であって、出張りのない、平滑な状態に仕上げてある。また、成形型11、21の材料として、気孔率が15%であり、最大穴径が5ミクロンである多孔質カーボンを用い、噴出ガスには、第1の実施の形態と同様に、N2 ガスを用いた。
【0042】
このように加工準備した成形型11、21を、図1に示す成形装置に取り付け、第1の実施の形態と全く同様にして溶融ガラス104を得た。次に、成形型1を成形型2の直下に移動し、成形面11a、21aから噴出するN2 ガスの流量を1cm2 当り、毎分0.08リッター、及び、0.06リッター、温度を成形されるガラスの粘度で、1010dPa・sに相当する温度である548℃となるように設定し、毎秒:0.8mmのプレス速度で、ガラス素子105の中心肉厚が2.3mmとなるまで成形型1、2を閉じた。
【0043】
次いで、噴出N2 ガスの温度を、成形されるガラスの粘度で1010.3dPa・sに相当する温度である540℃で、30秒間、1014dPa・sに相当する温度である480℃で40秒間、保持し、ガラス素子105が480℃±2℃となるようにした。
【0044】
更に、第1の実施の形態と同様に、成形型を開き、N2 ガスの温度を、徐々に減じ、冷却を行った。冷却の開始後、ガラス素子の表面近傍の温度が、約300℃となった時に、ユニット1より取り出し、第1の実施の形態と同様に、精度を測定したが、小径で、肉厚の薄いレンズを、ゆっくりと、微少なガス量で成形したため、その両面共に、アス・クセが、それぞれ、ニュートンリング5.0本および3.0本内に収まり、レンズの要求精度も、比較的緩いため、第1の実施の形態で行った様な、両面の研磨の後、加工なしで、そのまま、レンズとして使用することが可能であった。
【0045】
(第3の実施の形態)
次に、第1の実施の形態で用いた成形装置と材料を用いて、直径がφ25mm、曲率がR:35mm、R:50mm、中心部の肉厚が5.0mmである両凸レンズの研磨素材であるガラス素子を成形した。
【0046】
ここでも、第1の実施の形態と同様に、成形型11の成形面11aおよび成形型21の成形面21aは、上述のレンズ形状と一致するような形状に加工し、それぞれの成形面の表面状態も、第1の実施の形態と同様に、平滑な鏡面状態に仕上げて、最終的な形状とした。また、成形型11、21の材料として、気孔率が20%で、最大穴径が10ミクロンの多孔質カーボンを用い、噴出ガスには、第1の実施の形態と同様に、N2 ガスを用いた。そして、このように加工準備した成形型11、21を、図1に示す成形装置に取り付け、第1の実施の形態と全く同様にして溶融ガラス104を得た。
【0047】
次に、ユニット1をユニット2の直下に移動し、成形面11a、21aから噴出するN2 ガスの流量を、1cm2 当り、毎分0.5リッター、および、0.4リッターとし、温度を、ガラスの粘度で1013.5dPa・sに相当する490℃程度となるように設定し、ガラス素子105の中心肉厚が5.02mmとなるまで、毎秒4.5mmの速度で、ユニット1、2を閉じた。
【0048】
そして、噴出N2 ガスの温度および流量は、そのままで、60秒間保持し、ガラス素子105が、490℃±4℃の温度分布となった所で、ユニット1、2を開き、ユニット1から噴出するガスの温度を、徐々に300℃迄に下げ、ガラス素子105が、ほぼ、その温度になった所でユニット1から取出し、第1の実施の形態と同様の測定を行った。
【0049】
その結果は、第1の実施の実施の形態と同様に、成形面11a、21aに相当するガラス素子105の被成形面(光学機能面)は、共に、成形型の多孔質の粗さを全面に薄く、転写しており、Rmax.3μm程度の粗さを有しており、更に、全面に亘たり、僅かなうねりが認められたが、成形型に融着した跡や、ガス溜りなどの跡が、一切、観察されず、ほぼ、型なりの形状を転写していた。その後、ガラス素子105の両面を、10μm、研磨加工したところ、表面のうねり及び粗さは、完全に取れ、通常の研削研磨加工で得られるレンズと全く同等のレンズを得ることができた。
【0050】
(第4の実施の形態)
最後に、第1の実施の形態と同じ装置と材料を用いて、片面がR:35mm、もう一方の面がR:60mm、レンズの中心肉厚が1.8mm、直径がφ18mmである、コンパクトカメラ用の凸メニスカスの球面メンズの成形を行った。
【0051】
ここでも、第1の実施の形態と同様に、成形型11の成形面11aおよび成形型21の成形面21aの加工を行った。また、成形型11、21の材料として、気孔率が15%であり、最大穴径が6ミクロンである多孔質カーボンを用い、噴出ガスには、第1の実施の形態と同様に、N2 ガスを用いた。
【0052】
次いで、このように加工準備した成形型11、21を、図1に示す成形装置に取り付け、第1の実施の形態と全く同様にして、溶融ガラス104を得た。
【0053】
次に、ユニット1をユニット2の直下に移動し、成形面11a、21aから噴出するN2 ガスの流量を、1cm2 当り、それぞれ、毎分0.06リッター、および0.05リッターとし、温度を、ガラスの粘度で1011dPa・sに相当する525℃に、また、プレス速度を0.5mm/秒となるように設定し、ガラス素子105の中心肉厚が1.8mmとなるまでユニット1、2を閉じた。
【0054】
そして、噴出N2 ガスの温度は、そのままで、40秒間保持し、その後、10秒掛けて、ガスの温度を500℃迄に落とし、更に、その温度で、20秒間保持した後、ユニット1、2を開いた。そして、ユニット1から噴出するガスの温度を徐々に下げ、ガラス素子105が450℃になったところで取出し、前述の実施の形態と同様に、精度を測定したが、第1、第3の実施の形態に比べ、ゆっくりとプレスし、更に、保持も比較的高温で長く行ったので、表面に光沢を有し、更に、形状も、アスがニュートンリング5本、クセが同1.5本位内に収まり、その後の表面加工を必要としない、精度の非常に良いガラス素子を得ることができた。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、溶融ガラスなどの、10 5 dPa・s以下の粘度の低い軟化ガラスを、自重と表面張力により自然に切断し、多孔質の成形型を用いて、非接触またはそれに近い状態で、プレス速度を、5mm/秒以下の一定速度とし、前記軟化ガラス塊の中心厚が所定の値になるまでプレス成形させ、溶融ガラスから直接に、非常に精度の良いガラス素子を得ることができ、更に、高精度なガラス製品を得ようとする場合にも、研削加工を用いることなく、研磨加工のみで済むことから、研削屑の廃棄物を極端に削減することが可能となり、光学レンズなどのガラス製品(光学素子)を、大量で安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いられる成形装置の概略図である。
【図2】本発明で用いられる溶融ガラス塊の切断方法の説明図である。
【図3】本発明で用いられる溶融ガラス塊の切断方法の説明図である。
【図4】本発明で用いられる溶融ガラス塊の切断方法の説明図である。
【図5】本発明のガラス素子の成形方法の説明図である。
【図6】本発明のガラス素子の成形方法の説明図である。
【符号の説明】
1 下型ユニット
2 上型ユニット
3 可動軸
4 上下駆動装置
5 水平駆動装置
6 固定軸
7 架台
11 下面成形型
12 下型ホルダー
21 上面成形型
22 上型ホルダー
101 溶融ガラス供給ノズル
102 溶融ガラス
104 溶融ガラス塊
105 ガラス素子
Claims (4)
- 上下一対の型部材よりなる成形型を多孔質材で構成し、該成形型の成形面よりガスを噴出して、軟化ガラス塊を、前記成形面より噴出するガスにより非接触状態もしくはそれに近い状態で保持しながら、プレス成形するガラス素子の成形方法において、前記軟化ガラス塊は10 5 dPa・s以下の粘度で、自重と表面張力により自然に切断され、プレス成形の際の、型部材によるプレス速度を、5mm/秒以下の一定速度とし、前記軟化ガラス塊の中心厚が所定の値になるまでプレスすることを特徴とするガラス素子の成形方法。
- 前記成形面より噴出するガスの温度は、前記軟化ガラス塊の粘度で、1010dPa・sから1014dPa・sに相当する温度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のガラス素子の成形方法。
- 前記成形面より噴出するガスの量は、1cm2当たり毎分0.05〜1リッターの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のガラス素子の成形方法。
- プレス速度を制御して、軟化ガラス塊を、ほぼ所要形状に成形した状態で、成形型が閉じられた後に、前記成形面より噴出するガスにより前記成形型内に成形ガラス素子を所定時間保持し、その後に冷却をすることを特徴とする請求項1に記載のガラス素子の成形方法。
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