JP4286065B2 - ベーンポンプ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベーンポンプに関し、特に自動車用の無段変速装置であるCVT等において使用されるベーンポンプの改良技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベーンポンプにおけるロータは、その両側面が一対のサイドプレートにより挟まれ覆われる構造とされており、該一対のサイドプレートの内、一方のサイドプレートのみにベーンガイドが設けられており、他方のサイドプレートにはベーンガイドが設けられていない。このためベーンガイドが設けられていないサイドプレート側においては、ロータの側面とサイドプレートはベーンガイドを介在することなく対面している。一方、ベーンガイドが設けられたサイドプレート側においては、ロータの側面に該ベーンガイドのための環状溝が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
実願昭57−159587号(実開昭59−64485号)のマイクロフイルム(第5頁−第7頁、第3図−第5図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述の特許文献1に記載のベーンポンプは、図10ないし図12に図示されるように、内燃機関の駆動部に連結される駆動軸05に固着されたロータ020と、該ロータ020の外周部においてその半径方向で進退自在で、かつ該ロータ020の外周部外側に配設されるカムリング010の内周カム面012aに沿って摺接動するベーン021と、該ロータ020とカムリング010の両側面を挟むように配設された一対のサイドプレート(カバープレート、サイドプレート)030,040を備えている。
【0005】
前記一対のサイドプレート030,040の内、一方のサイドプレート(カバープレート)030には、ベーン021をガイドするためのベーンガイド032が設けられており、該ベーンガイド032は、前記一方のサイドプレート030の表面から突出しており、その外形形状は前記カムリング010の内周カム面012aに相似した形状を備えている。一方、他方のサイドプレート(サイドプレート)040にはこのようなベーンガイドは設けられていない。
【0006】
そして、前記ベーンガイド032が設けられた一方のサイドプレート(カバープレート)030に対面するロータ020の一方側面にはベーンガイド032収装のための環状溝023が形成されており、前記ベーンガイドが設けられていない他方のサイドプレート(サイドプレート)040に対面するロータ020の他方側面には前記のような環状溝は形成されず、該他方側面はその意味では前記サイドプレート040にその広い面積の対面域において対面している。
【0007】
ところで、上述のようにロータの両側面の内、前記一方側面はベーンガイドが設けられたサイドプレートに対面するが、他方側面は、前記ベーンガイドが設けられていないサイドプレートに対面する。したがって、該ロータのベーンガイドが設けられていないサイドプレートに対面する前記他方側面は、ベーンガイドや該ベーンガイドのための環状溝を介在することなくサイドプレートに対面し、このためポンプの運転状況よってはサイドプレートがロータ側面に直接強く接触することが考えられ、また、その対面面域が大きいので、ときには油膜が切れてその摺動接触による摩擦熱の発生で焼付きを起すことがある。
【0008】
そこで、上記のような不具合を解消するために、ロータの両側面にベーンガイドが設けられたサイドプレートを対面配設させることが提案されるが、ロータの両側面にベーンガイドが設けられたサイドプレートを配設することは、ポンプユニットの大型化を招くことになる。
【0009】
また、ベーンガイド収装のための環状溝をロータの両側面に形成しなければならず、このような環状溝の形成は、ロータ構造における溝の形成部を増加せしめることになり、溝形成部の増加は直接ロータ構造を弱体化させロータ自体の強度を低下させることになる。そして、適正なロータの強度を保持するためには、該ロータそのものの厚みを増す必要がありその分ロータが大型化して、強いてはポンプの大型化を招くことになる。
【0010】
上述したような状況の中で、ロータの両側面にベーンガイドが設けられたサイドプレートを配設することなく、ロータの一方側面のみにベーンガイドが介在されて、これにより、ベーンガイド収装のための環状溝がロータの一方側面のみに設けられるロータ構造が前提とされて、該ロータの前記ベーンガイドが設けられていないサイドプレートに対面する他方側面における該側面と前記サイドプレート間の摺動接触による焼付き防止が効果的に達成されるベーンポンプの改良構造の開発が求められている。
【0011】
【課題を解決するための手段および効果】
本発明は、前記課題を解決するためのベーンポンプの改良構造に関し、特にベーンガイドが設けられていないサイドプレートに対面するロータ側面における、該サイドプレートとの摺動接触による焼付き防止のための改良構造に関し、内周面にカム面を有するカムリングと、駆動軸に挿入固着されると共に、前記カム面に摺動接触する複数のベーンが装着されて前記カムリングの内側に配置されるロータと、前記駆動軸が挿入されると共に、前記カムリングとロータの両側面側に配置されて前記カムリングとロータの両側面を挟持する一対のサイドプレートとを備えたベーンポンプにおいて、前記一対のサイドプレートの内、一方のサイドプレートの前記ロータ側面に対面する面には該プレート面から突出するベーンガイドが設けられ、他方のサイドプレートの前記ロータ側面に対面する面にはポンプの背圧油を供給する溝孔が設けられ、前記ロータの前記一対のサイドプレートに挟持される両側面の内、前記一方のサイドプレートに対面する側面には前記ベーンガイドが収装される環状溝が形成され、また他方のサイドプレートに対面する側面には前記溝孔に連通する前記ベーン装着のためのベーン溝の下側部開口と油溜め用凹部が形成され、前記ポンプの背圧油を供給する溝孔がサイドプレートの中心点に対して点対称の位置に形成された一対の円弧状の溝孔であり、該溝孔は前記サイドプレートの表裏を貫通する貫通溝孔部と該貫通溝孔部の面取部により形成された拡孔部とからなり、貫通溝孔部と拡孔部はいずれもロータの前記ベーン溝下側部開口と前記油溜め用凹部に連通し、前記ロータの油溜め用凹部は、該ロータの径方向外方部に位置する幅広部と該径方向内方部に位置する幅狭部とを備えた形状に形成されており、該幅狭部は前記溝孔の貫通溝孔部と拡孔部に連通していることを特徴とする。
【0012】
請求項1に係る発明は、前記ベーンポンプにおいて、前記一対のサイドプレートの内、一方のサイドプレートの前記ロータ側面に対面する面には該プレート面から突出するベーンガイドが設けられ、他方のサイドプレートの前記ロータ側面に対面する面にはポンプの背圧油を供給する溝孔が設けられ、前記ロータの前記一対のサイドプレートに挟持される両側面の内、前記一方のサイドプレートに対面する側面には前記ベーンガイドが収装される環状溝が形成され、また他方のサイドプレートに対面する側面には前記溝孔に連通する前記ベーン装着のためのベーン溝の下側部開口と油溜め用の凹部が形成されているから、
ロータの一方の側面においては、ベーンガイドの介在とそのための環状溝の存在による対面面域の減少により、前記一方のサイドカバーとの接触の緩和が図られ、また、ロータの他方の側面においては、溝孔を介してポンプの背圧油が油溜め用の凹部内に供給され、該凹部内に満たされた油はロータ側面と前記他方のサイドプレートの両者間の隙間に効果的に導入供給されて該隙間に連続した油膜を形成し、ロータの円滑な回転が促され摺動接触による摩擦熱の発生が抑えられ、焼付きによるポンプの損傷が確実に防止され、ポンプの稼動効率が向上される。
さらに、ロータの両側面にベーンガイドが設けられたサイドプレートが配置されることがないから、ポンプユニットの大型化が避けられ、また、ロータの両側面にベーンガイド用の溝を設ける必要がないので、該ロータの強度が何ら損なわれることなく保持されて、ポンプ運転の安全性が確保される。
【0013】
請求項1に記載の発明において、前記ポンプの背圧油を供給する溝孔がサイドプレートの中心点に対して点対称の位置に形成された一対の円弧状の溝孔であり、該溝孔は前記サイドプレートの表裏を貫通する貫通溝孔部と該貫通溝孔部の面取部により形成された拡孔部とからなり、貫通溝孔部と拡孔部はいずれもロータの前記ベーン溝下側部開口と前記油溜め用凹部に連通しているから、円弧状溝孔と拡孔部からベーン溝下側部開口と油溜め用凹部への効率の良い背圧油の供給がなされ、ベーン溝下側部開口に供給される背圧油によりベーンはその下方から外方に向けて押し上げられ、その上部がカムリング内周面のカム面に確実に当接せしめられる。また、油溜め用凹部に供給される背圧油は該溝孔の貫通溝孔部と拡孔部から供給されるので、ロータ側面とサイドプレートの対面する隙間に油が効率良く供給されその潤滑効果が向上されて該隙間における焼付きの発生は略完全に防止される。
【0014】
請求項1に記載の発明において、前記ロータの油溜め用凹部は、該ロータの径方向外方部に位置する幅広部と該径方向内方部に位置する幅狭部とを備えた形状に形成されており、該幅狭部は前記溝孔の貫通溝孔部と拡孔部に連通しているから、油溜め用凹部の径方向における形状効果と、前記拡孔部を介した油溜め用凹部幅狭部への確実な油の供給が相俟って、ロータとサイドプレートの径方向における油の供給が確実かつ均等化され、両者の隙間にその全域に亘る均一な油膜が形成され、その潤滑効果が向上する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を図1ないし図9に基づいて以下に説明する。
先ず、図1,図2を参照して、本実施形態におけるベーンポンプPの構造概要について説明する。
【0016】
ベーンポンプPは、ポンプユニットUと、第1ハウジング部としてのボディ1および第2ハウジング部としてのカバー2から構成されるハウジングHと、ボディ1およびカバー2により挟持されて、複数のボルトBによりボディ1およびカバー2と共に一体に結合されるシールプレート3とを備える。カバー2には、シールプレート3との合わせ面2aで開口する凹部2bが形成され、該凹部2bがシールプレート3により覆われることで、ポンプユニットUが収容される収容室4が形成される。
【0017】
図示されない内燃機関の動力により回転駆動されるベーンポンプPの駆動軸5は、前記内燃機関のクランク軸の動力が伝達される動力伝達部材の取付部5aが設けられる基端部側で、ボディ1に固定された滑り軸受6、および、その先端部側で、収容室4を形成する底壁2cに固定された滑り軸受7を介して、ハウジングHに回転可能に支持される。
【0018】
ポンプユニットUは、円柱面からなる外周面11と楕円に近似した形状の内周面12とを有する環状のカムリング10と、カムリング10の内側に配置されたロータ20と、ロータ20の周方向に等間隔に径方向を指向して設けられた複数のベーン溝22内に、それぞれ径方向に摺動自在に嵌挿された複数のベーン21と、カムリング10およびロータ20のボディ1側の側面を覆う第1のサイドプレート30と、カムリング10およびロータ20のカバー2側の側面を覆う第2のサイドプレート40を備えている。
【0019】
そして、カムリング10に直径方向に対向して設けられた一対の貫通孔13を回転軸線方向A1に貫通すると共に、第1のサイドプレート30に設けられた一対の圧入孔31および第2サイドプレート40に設けられた一対の嵌入溝41にそれぞれ圧入もしくは嵌入されて、ロータ20がカムリング10の内部に配置され、カムリング10が第1および第2のサイドプレート30,40により挟持された状態で、カムリング10および両サイドプレート30,40の周方向の位置を整合させる一対の位置決めピン8とを備える。
【0020】
また、カムリング10、ロータ20、ベーン21および両サイドプレート30,40が両位置決めピン8により一体化されて構成されたポンプユニットUは、ボディ1に保持された状態の駆動軸5に挿入され、両位置決めピン8,8の第1サイドプレート30からの突出部8a,8aが、シールプレート3の一対の圧入孔3aおよびボディ1の一対の圧入孔1aにそれぞれ圧入されることで、ボディ1に固定される。その後、第2のサイドプレート40とカバー2とがOリング9により油密となるように、カバー2がボディ1に被せられて、ボルトBにより締結される。
【0021】
ロータ20の中心部には、周壁面にスプライン20aが形成された取付孔20bが形成され、該取付孔20bに挿入される駆動軸5の外周面に設けられたスプライン5bがスプライン20aに嵌合されて、駆動軸5とロータ20とが一体回転可能に結合固着される。
【0022】
また、各ベーン21の先端は、カムリング10の内周面12に形成されたカム面12aに摺動接触し、カム面12aとロータ20の外周面との間であって、第1および第2のサイドプレート30,40に挟まれた空間が、複数のベーン21により仕切られることで、ロータ20の回転に応じて容積が変化する可変容積室からなる複数のポンプ室50(図1参照)が形成される。
【0023】
なお、各ポンプ室50から吐出された作動油の一部は、後述する第2のサイドプレート40に形成された円弧状の溝孔42を通して(図5参照)各ベーン溝22の側部開口22aを経て該溝22底部の該溝がやや拡大されたベーン溝22底部背圧室22cに供給される(図6参照)。そのため、ベーンポンプPの作動中は、この背圧油により各ベーン21はベーン溝22内で径方向に指向して外方へ押し出されて、各ベーン21の先端がカムリング10の内周面12に形成されたカム面12aに押し付けられる。
【0024】
カムリング10には、その直径方向で対向する位置であって、かつ周方向の所定範囲に、ポンプ室50に連通する一対の第1,第2の吸入ポートと一対の第1,第2の吐出ポートが形成されている。しかしながら、これらの吸入ポートと吐出ポートについては明確な図示はなされておらず、僅かにその一部である吐出ポート14が図1において図示されるに過ぎない。
【0025】
そして、吸入ポートから吸入された作動油はロータ20の外周面において進退動する複数のベーン21と両サイドプレート30,40により仕切られた可変容積室であるポンプ室50において加圧されて、明確には図示されない前記吐出ポート14等を通して吐出され(図1参照)、図示されない所定の油路、制御弁等を経て、無段変速装置であるCVTにおける変速制御のために供給され、その一部が既述のように後述する第2のサイドプレート40の円弧状溝孔42を通してベーン溝22低部の背圧室22cに供給され、また、ロータの側面20Bの後述する油溜め用凹部24にも供給される(図6参照)。
【0026】
本実施形態におけるベーンポンプの構造の概要は上述のようなものである。
ところで、ロータ20は、既述のように、また、図2に図示されるようにカムリング10と共に、その両側面20A,20Bが一対の第1,第2のサイドプレート30,40により覆われており、該ロータ20は、これらサイドプレート30,40に挟まれた状態において、より具体的には、その両側面20A,20Bが、両サイドプレート30,40によりきわめて僅かな隙間をもって覆われてポンプ作動のための駆動回転がなされる。
【0027】
ロータ20を挟むように覆う一対のサイドプレート30,40の内、第1のサイドプレート30は、図3(a)(b)に図示されるように、所定厚さの板状体であり、その板状表面のロータ側面20Aに対向しない面は格別の構造的特徴を持つものではないが、そのロータ20の側面20Aに対面する面には、ロータ20の回転によるベーン21の昇降進退作動のガイドとなるベーンガイド32が設けられている。なお、33は作動油の連通口であり、31は位置決めピン8の圧入孔である。
【0028】
ベーンガイド32は、図3(a)(b)および図4の(a)(b)に図示されるように、上述のカムリング10内周面12のカム面12aと相似した楕円状の外形輪郭の外周部32aと、真円状の内周部32bを備えたリング形状に形成されており、したがって、該リングの形状は、全体として楕円状の長辺方向32cにおいて該リング幅が幅広で、該長辺方向に直交する短辺方向32dにおいて該リング幅が幅狭とされた変形リングである。
【0029】
そして、ベーンガイド32を形成するリングは、所定の均一な厚みで、その表面32eは平坦であり、例えば、鋼板等の金属板をプレス機械加工で打ち抜き、適宜熱処理等の処理が施されて形成され、その硬度はHRC47〜53程度とされ、さらにそのカムリング10のカム面12aと相似である外周部32aは、すなわち、ベーン21の下部21aとの摺動接触部はバレル仕上げ等がなされて滑らかにされている。
【0030】
そして、ベーンガイド32は、図3(a)(b)に図示されるように、その楕円状のリング中心O2が前記第1のサイドプレート30の中心01と一致するようにして、しかもカムリング内周面12のカム面12aとの位置関係が考慮されてその同調が図られ、該プレート30の前記表面からそのリングの厚み方向が突出する状態において、該プレート30の表面に形成された該リングと同形の溝部30aにその厚み方向の一部が嵌合されて固定ピン32fによるカシメ等の固定手段により固定されることで該プレート30に取付けられ、該ピン32fによるその取付けのための固定は、楕円状リングの長辺方向32cにおける該リングの中心を挟んだ2個所の幅広の対称位置32g,32gにおいてなされる。
【0031】
第1のサイドプレート30に取付けられたベーンガイド32は、ポンプユニットU組立後に、該ベーンガイド32におけるそのリング厚み方向で突出したリング部が後述するロータ20の側面20Aの環状溝23内に遊嵌せしめられ(図6参照)、これにより、図7に図示されるように前記ベーンガイド32は、その外周部32aが環状溝23内においてロータ20の回転時に該ロータ20の外周面32aにおいて進退動するベーン21の下部21aに摺動接触して、該ベーン21のロータ20における昇降進退作動を円滑になすべく作用をなしている(図1も参照)。
【0032】
第2のサイドプレート40は、図5(a)(b)に図示されるように、所定厚さの板状体であり、その板状表面には、該プレート40の表裏両面を貫通して、該プレート40の中心O3を挟んで点対称な同一円周上の位置、すなわち、後述するロータの側面20Bに形成されたベーン溝22の側部の下側部開口22bと油溜め用凹部の下部に開口連通する対応位置(図6参照)に一対の円弧状をなした所定長さの溝孔42が形成されており、該溝孔42は、それぞれの円周方向における前記所定の長さが設定されている。なお、41は位置決めピン8の嵌入溝である。
【0033】
各円弧状溝孔42の長さは、実質的に該溝孔42によるその円弧状の開口が、ロータ20におけるベーン溝22の下側部開口22bの2つもしくは3つおよび後述する潤滑のための油溜め用凹部24の幅狭部24bの2つもしくは3つに同時に開口連通される長さとされ(図8の点線部参照)、また、該溝孔42の幅は比較的狭く、しかも該溝孔42は、前記プレート40を貫通する貫通溝孔部42aと、該貫通溝孔部42aの内側円弧部が面取り状に拡孔された拡孔部42bとからなっている(図9参照)。
【0034】
そして、各円弧状溝孔42の貫通溝孔部42aと該貫通溝孔部42aの面取部である拡孔部42bは、図8,9に図示されるようにロータ20における前記ベーン溝22の側部開口22aの下側部開口22bを介して該ベーン溝22の低部背圧室22cに連通すると共に、ロータ20における油溜め用凹部24の幅狭部24bに同時に連通して、該凹部24への油の供給が確実になされるようにされている。
【0035】
各円弧状溝孔42は、前記構造により、既述のようにポンプ作動中においては、ロータ20の2つもしくは3つのベーン溝22の下側部開口部22bを介して2つもしくは3つのベーン溝22底部の背圧室22cに同時にポンプ室50から吐出される背圧油の一部を導入することができ、該背圧油の前記ベーン溝22低部の背圧室22cへの導入により2つもしくは3つのベーン21を同時に下から押し上げ、それらベーン21の上部をカムリング10内周面12のカム面12aに常時押し付ける作用が与えられる。
【0036】
また、円弧状溝孔42から導入された前記背圧油の一部は、該溝孔42と該溝孔の面取部である拡孔部42bを介してロータ20の側面20Bに形成された2つもしくは3つの油溜め用凹部24にも同時に供給され、これら油溜め用凹部24に供給された油はロータ20の側面20Bと第2のサイドプレート40との摺動接触による摩擦防止に寄与するものである。
【0037】
第1,第2のサイドプレート30,40により挟まれ覆われるロータ20は、図6の(a)(b)(c)に図示され、またその構造の一部については既述されたように、円筒の中央部に駆動軸5(図2参照)への取付けに供される取付孔20bが備えられてリング状の円筒形状とされ、その円筒外周面の周方向に等間隔で径方向に指向して該リング状円筒の径方向における肉厚の略中央部に達する深さで、かつ該リング状円筒の両側面間を切抜ける複数のベーン21に供されるための溝22が設けられている。
【0038】
そして、該リング状円筒形状をなすロータ20は、その第1のサイドプレート30が対面する一方の側面20Aに、該側面20Aの半径方向肉厚における略中央部を周回する環状の溝23を備えており、該環状溝23は、該側面20Aにおける所定幅の同一半径上を周回する溝23として形成されている。
【0039】
したがって、環状溝23は所定幅の円形の溝であり、該溝23は、第1のサイドプレート30の表面において該表面から突出して設けられたカムリング内周部12のカム面12aと相似の楕円状である前記ベーンガイド32の収装のために供される溝23であり、このため、円形の環状溝23は、楕円状のベーンガイド32との相対回転が考慮されてその収装のための所定幅を有し、また前記ベーンガイド32の突出量が考慮されて所定の深さを有するものとして形成されている。
【0040】
ところで、環状溝23は、ロータ20の側面20Aの半径方向肉厚における略中央部において所定幅で該側面20Aに沿って周回するように形成された溝であるから、この溝23の形成部は前記ベーン21のために供されるベーン溝22の側部下半部(ベーン溝22の下側部開口22bが相当する)とその側面20Aにおいて競合する関係にある。したがって、そのために該環状溝23はベーン溝22の下半部を実質的に削落して形成される。
【0041】
そして、環状溝23は、その底部23aに、ロータ20の前記ベーン溝22の前記削落された側部開口22aにおける略中央部近傍位置から低部位置に亘る開口となる下側部開口22bを実質的に共有する状態において備え、これにより、ポンプユニットU組立後に前記環状溝23内に収装される第1のサイドプレート30のベーンガイド32外周部32aが前記ベーン溝22内のベーン21の下部21aに直接当接するようになされている(図7参照)。この構造は、ロータ20の回転時におけるベーン21の昇降進退作動を安定させ、かつ円滑なものとする。
【0042】
ロータ20の第2のサイドプレート40が対面する他方の側面20Bには、図6の(b)(c)に図示されるように、複数の比較的浅い凹部24が形成されており、該凹部24は、潤滑のための油溜めとして供されるものであり、その形状はロータ20の半径方向外方に指向してその上部が幅広部24aで、その下部が幅狭部24bとされ、あたかも達磨に類似する形状をなし、該ロータ20の側面20Bに放射方向等間隔で、丁度ベーン溝22と交互に配設される関係をもって形成されている。
【0043】
そして、ポンプユニットU組立後に、図8に図示されるように、この達磨に類似する型をした2つもしくは3つの凹部24の幅狭部24bに同時に上述した第2サイドプレート40の前記各円弧状溝孔42の貫通溝孔部42aと浅い下部拡孔部42bが対向し互いに連通するようになされており、したがって、既述のように、該円弧状溝孔42を通して導入されたポンプ室50からの背圧油の一部はその貫通溝孔部42aと拡孔部42bを介して前記2つもしくは3つの凹部24に同時に流入し、これら凹部24が油で満たされることにより、該油はロータ20の側面20Bと第2のサイドプレート40との僅かな隙間に安定して供給されて該隙間に潤滑のための連続した油膜を形成する。
【0044】
前記ロータ20、第1,第2のサイドプレート30,40はそれぞれ上述の構造を備えるものであり、既述のようにカムリング10の内側にベーン21が装着されたロータ20が収容されて、第1,第2のサイドプレート30,40によりカムリング10の両側面を挟持することにより、ロータ20がその両側面20A,20Bを該サイドプレート30,40により覆われ、これらサイドプレート30,40がロータの両側面20A,20Bにそれぞれ対面配設されて一体化され既述のポンプユニットUが構成される。
【0045】
そして、ポンプユニットU組立後のロータ側面20Aにおける前記第1のサイドプレート30の対面配設により、ロータ20の第1のサイドプレート30に対面する側面20Aにおいては、図7に図示されるように、第1のサイドプレート30の楕円状の外周部32aを備えるリング形状のベーンガイド32の該プレート表面から突出する部分がロータ20の環状溝23内に収装される。
【0046】
ベーンガイド32は、その収装状態においてその外周部32aがベーン21の下部21aをその下側から当接支持する。したがって、ロータ20の回転時に、ベーン21はその下部21aがベーンガイド32外周部32aの楕円状の形状に沿ってカムリング内周面12のカム面12aとの同調関係をもって摺接ガイドされ、該ベーン21はベーン溝22に沿って昇降進退作動される。
【0047】
また、ポンプユニットU組立後のロータ側面20Bにおける前記第2のサイドプレート40の対面配設により、ロータ20の第2のサイドプレート40に対面する側面20Bにおいては、図8,9に図示されるように、第2のサイドプレート40の一対の円弧状溝孔42が、その点対称の位置においてそれぞれロータの側面20Bに開口するベーン溝22の2つもしくは3つの下側部開口22bを介して該溝22の2つもしくは3つの底部背圧室22cに同時に連通すると共に、該ロータ側面20Bに形成された2つもしくは3つの油溜め用凹部24に同時に連通される。
【0048】
したがって、ベーンポンプPの作動におけるポンプ室50(図1参照)からの吐出油の一部が前記一対の円弧状溝孔42を通して複数の点対称位置のベーン溝22の前記底部背圧室22cと油溜め用凹部24に同時にバランス良く導入供給される。また該供給と同時に、前記円弧状溝孔42にその面取部として形成された拡孔部42bが複数の点対称位置の前記油溜め用凹部24の幅狭部24bに同時に連通し、該拡孔部42bからも該凹部24への油の供給が前記供給と同時になされる(図9参照)。
【0049】
そして、前記ベーン溝22の前記底部背圧室22cへの油の供給により、既述のようにベーン21の下部21aが押し上げられ該ベーン21の上部はカムリング10内周面12のカム面12aに当接せしめられ、また、前記油溜め凹部24への油の供給により、既述のようにロータ側面20Bと第2のサイドプレート40間の隙間に効率良く確実に潤滑のための油が供給される。
【0050】
本発明の図1ないし図9に図示された実施形態は上記構成であるから、第1のサイドプレート30と第2のサイドプレート40に挟まれ覆われるロータ20は、その一方の側面20Aが、ベーンガイド32を備えた前記第1のサイドプレート30により、またその他方の側面20Bが、該側面20Bに形成された油溜め用凹部24にポンプ吐出油の一部背圧油を供給できる円弧状溝孔42を備えた前記第2のサイドプレート40により、それぞれ挟まれ覆われるから、該ロータ20と前記両サイドプレート30,40との摺動接触による焼付きの発生が効果的に防止される。
【0051】
第2のサイドプレート40と対面するロータの側面20Bに複数の油溜め用凹部24を形成したので、該油溜め用凹部24内に滞留保持される油により前記ロータ20とサイドプレート40との間の僅かな隙間に連続した強固な油膜が形成されるので、ロータ20とサイドプレート40との円滑な相対回転が促され、ロータ20とサイドプレート40が焼付くことがなく、該焼付きによるポンプPの損傷が効果的に防止され、ポンプPの安全かつ円滑な作動が確保されてその稼動効率が向上される。
【0052】
ロータ側面20Bに形成された油溜め用凹部24への油の供給は、第2のサイドプレート40における一対の点対称位置に形成された円弧状溝孔42の貫通溝孔部42aとその面取部である拡孔部42bとによりなされ、しかも該油の供給は点対称位置となる複数の油止め用凹部24に同時にバランス良く供給されるので、該油溜め用凹部24への油の供給は確実になされ、ロータ側面20Bと第2のサイドプレート40間の僅かな隙間の全域に亘り均一に油が効率良く供給され、その潤滑効率が高められる。
【0053】
ロータ側面20Bに形成された油溜め用凹部24はロータ20における径方向外方に指向して幅広となる形状であるから、その形状的特徴と、前記円弧状溝孔42の拡孔部42bによる油溜め用凹部24径方向内方における幅狭部24bへの確実な油の供給とが相俟って、ロータ20の該側面20Bと第2のサイドプレート40間の僅かな隙間に均一にしかも確実に油を供給することができる。
【0054】
ロータ20の側面20Bに油溜め用凹部24が形成されるので、該油溜め用凹部24が形成されるロータ側面20Bに対面するサイドプレート40はベーンガイド32がなくとも、該ロータ側面20Bとの上述した焼付きの防止が図られるから、ポンプユニットUの大型化を防ぐことができる。また、ロータ20の両側面20A、20Bにベーンガイドのための環状溝23を形成する必要がなく、ロータ20の強度を何ら損なうことなく、ロータ20と両サイドプレート30,40との焼付きを略完全に解消することができる。
【0055】
ロータ20の外周部において進退作動するベーン21が、その下部21aを前記第1のサイドプレート30に設けられたベーンガイド32の外周部32aにより摺接ガイドされ、該ベーン21は安定した状態を保持して昇降進退作動する。
【0056】
また、ベーンガイド32によるベーン21の昇降進退作動における摺接ガイドは、ロータ側面20Aのベーンガイド32のために供される環状溝23による実質的な対面面域の減少と相俟って、前記第1のサイドプレート30とロータ20の側面20A間における対面による摺動接触を緩和し和らげる作用をもたらし、該プレート30とロータ20の側面20A間の摩擦による焼付きの発生を略完全に解消させる。
【0057】
本発明の実施形態に換えて他の実施形態が考えられる。
【0058】
本発明の実施形態においては、第2のサイドプレート40に形成された円弧状溝孔42が点対称である位置に形成された一対のものとされているが、これに限定されるものではなく、たとえば、該プレート40における同一円周上で等間隔で延在して適宜形成される複数の溝孔であっても良い。また、その溝孔の長さや幅についても適宜選択されるものである。
【0059】
本発明の実施形態においては、ロータ側面20Bに形成された油溜め用の凹部24は略達磨に類似した形状をなしているが、該凹部24の形状については本発明の趣旨を逸脱することのない範囲において適宜選択採用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のベーンポンプの外観を示し、その一部が破断されて示された図である。
【図2】本発明のベーンポンプの主要構造部を示す図であり、第1図におけるA-A断面図である。
【図3】本発明ベーンポンプの一方のサイドプレートを示す図であり(a)は、該プレートのロータの一方側面に対面する側の表面構造を示す図であり、(b)は、(a)におけるB-B断面図である。
【図4】本発明のベーンガイドの構造を示す図であり、(a)は、平面図であり、(b)は(a)のC-C断面図である。
【図5】本発明ベーンポンプの他方のサイドプレートを示す図であり、(a)は、該プレートのロータの他方側面に対面する側の表面構造を示す図であり、(b)は、(a)におけるD-D断面図である。
【図6】本発明ベーンポンプのロータの構造を示す図であり、(a)は、(b)における矢印イ方向から視た図であり、(b)は、(a)におけるE-E断面図であり、(c)は、(b)における矢印ロ方向から視た図である。
【図7】本発明におけるロータの1側側面と一方のサイドプレートとの対面関係を示す説明用の図である。
【図8】本発明におけるロータの他側側面と他方のサイドプレートとの対面関係を示す説明用の図である。
【図9】本発明におけるロータの他側側面と他方のサイドプレートとの対面関係を示す説明用の図であり、図8におけるF-F断面である。
【図10】従来のベーンポンプの主要構造部を示す断面図である。
【図11】従来のベーンポンプの主要構造部を示す図であり、図7における0A-0A断面図である。
【図12】従来のベーンポンプにおける主要構造部の分解斜視図である。
【符号の説明】
1・・・ボディ、2・・・カバー、3・・・シールプレート、4・・・収容室、5・・・駆動軸、6,7・・・滑り軸受、8・・・位置決めピン、9・・・Oリング、10・・・カムリング、11・・・カムリング外周面、12・・・カムリング内周面、12a・・・カム面、13・・・貫通孔、14・・・吐出ポート、20・・・ロータ、20a・・・スプライン、20b・・・取付孔、20A,20B・・・ロータの側面、21・・・ベーン、21a・・・ベーン下部、22・・・ベーン溝、22a・・・ベーン溝側部開口、22b・・・下側部開口、22c・・・ベーン溝底部の背圧室、23・・・環状溝、23a・・・低部、24・・・油溜め用凹部、24a・・・幅広部、24b・・・幅狭部、30・・・第1のサイドプレート、30a・・・溝状部、31・・・圧入孔、32・・・ベーンガイド、32a・・・外周部、32b・・・内周部、32c・・・長辺方向、32d・・・短辺方向、32e・・・表面露出部、32f・・・固定ピン、32g・・・幅広の対称位置、40・・・第2のサイドプレート、41・・・嵌入溝、42・・・円弧状溝孔、42a・・・貫通溝孔部、42b・・・拡孔部、50・・・・ポンプ室、P・・・ベーンポンプ、U・・・ポンプユニット、H・・・ハウジング、A1・・・回転軸線方向。
Claims (1)
- 内周面にカム面を有するカムリングと、駆動軸に挿入固着されると共に、前記カム面に摺動接触する複数のベーンが装着されて前記カムリングの内側に配置されるロータと、前記駆動軸が挿入されると共に、前記カムリングとロータの両側面側に配置されて前記カムリングとロータの両側面を挟持する一対のサイドプレートとを備えたベーンポンプにおいて、
前記一対のサイドプレートの内、一方のサイドプレートの前記ロータ側面に対面する面には該プレート面から突出するベーンガイドが設けられ、他方のサイドプレートの前記ロータ側面に対面する面にはポンプの背圧油を供給する溝孔が設けられ、
前記ロータの前記一対のサイドプレートに挟持される両側面の内、前記一方のサイドプレートに対面する側面には前記ベーンガイドが収装される環状溝が形成され、また他方のサイドプレートに対面する側面には前記溝孔に連通する前記ベーン装着のためのベーン溝の下側部開口と油溜め用凹部が形成され、
前記ポンプの背圧油を供給する溝孔がサイドプレートの中心点に対して点対称の位置に形成された一対の円弧状の溝孔であり、該溝孔は前記サイドプレートの表裏を貫通する貫通溝孔部と該貫通溝孔部の面取部により形成された拡孔部とからなり、貫通溝孔部と拡孔部はいずれもロータの前記ベーン溝下側部開口と前記油溜め用凹部に連通し、
前記ロータの油溜め用凹部は、該ロータの径方向外方部に位置する幅広部と該径方向内方部に位置する幅狭部とを備えた形状に形成されており、該幅狭部は前記溝孔の貫通溝孔部と拡孔部に連通していることを特徴とするベーンポンプ。
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