本発明の実施の形態では、記憶素子として磁気抵抗効果素子であるMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子を用い、スピン偏極したスピン偏極電子をMTJ素子の膜面垂直方向に流して磁化反転を行う電流直接駆動型(以下、スピン注入型と称す)の書き込み(記録)方法を採用する。
さらに、本発明の実施の形態では、次のような読み出し(再生)方法を採用する。まず、MTJ素子の膜面垂直方向に電子流を流す(図1のST1)。そして、この電子流を流す間のMTJ素子の抵抗変化を出力信号で検出し、この出力信号の初期にパルス信号が発生するか否かを判断する(図1のST2)。その結果、パルス信号が発生しない場合は、MTJ素子のデータは第1のデータ(“0”又は“1”)であると判定する(図1のST3)。一方、パルス信号が発生した場合は、MTJ素子のデータは第2のデータ(“1”又は“0”)であると判定する(図1のST4)。ここで、パルス信号が発生した場合は、データが書き換えられているので、いわゆる破壊読出しとなっている。このため、データをもとに戻す必要がある場合には、ステップ1(ST1)と逆向きの電子流をMTJ素子の膜面垂直方向に流し、再書き込みを行うとよい(図1のST5)。但し、必ずしも再書き込みを行う必要はない。
上記のような本発明の実施の形態を、以下に図面を参照して具体的に説明する。この説明に際し、全図にわたり、共通する部分には共通する参照符号を付す。
[1]第1の実施形態
第1の実施形態は、シングルジャンクション構造のMTJ素子を用いた場合における電流駆動型のデータ読み出し及び書き込み方法について説明する。
[1−1]シングルジャンクション構造
図2は、本発明の第1の実施形態に係るシングルジャンクション構造のMTJ素子の断面図を示す。以下に、シングルジャンクション構造のMTJ素子について説明する。
図2に示すように、第1の実施形態では、シングルジャンクション構造のMTJ素子10を用いる。すなわち、このMTJ素子10は、磁化方向が固定された固定層(ピン層)11と、磁化方向が反転する記録層(フリー層)13と、これら固定層11及び記録層13の間に設けられた非磁性絶縁層12と、固定層11の磁化方向を固定する反強磁性層16とで構成される。
尚、ここでは、記録層13の磁化方向が固定層11の磁化方向と平行(同じ向き)の場合は、MTJ素子10に“0”データが記録された低抵抗の状態であると規定し、記録層13の磁化方向が固定層11の磁化方向と反平行(反対向き)の場合は、MTJ素子10に“1”データが記録された高抵抗の状態であると規定する。但し、平行の状態を“1”、反平行の状態を“0”と規定することも勿論可能である。
[1−2]読み出し方法
図3は、本発明の第1の実施形態に係る読み出し方法のフローチャートを示す。図4は、本発明の第1の実施形態に係る読み出し方法を説明するための図を示す。以下に、第1の実施形態に係る電流駆動型の読み出し方法について説明する。尚、ここでは、固定層11から記録層13へ電子が流れる場合の電流極性をプラスと定義し、これとは逆に定義したならば、電流極性の符号は全て逆転する。
まず、図4の(a)及び(b)に示すように、MTJ素子10の膜面垂直方向に固定層11から記録層13へ電子流+Iwを流す(ST1)。
そして、電子流+Iwを流している間のMTJ素子10の抵抗変化を出力電圧で検出し、この出力電圧の初期にパルス信号Pが発生しているか否かを判断する(ST2)。
その結果、出力電圧の初期に電圧が増大するパルス信号Pが発生しない場合、すなわち電子流+IwによってMTJ素子10の抵抗値に変化がない場合は、MTJ素子10のデータは例えば“0”であると判定する(ST3)。
一方、出力電圧の初期に電圧が増大するパルス信号Pが発生した場合、すなわちMTJ素子10が高抵抗状態から低抵抗状態に変化した場合は、MTJ素子10のデータは例えば“1”であると判定する(ST4)。
さらに、出力電圧の初期にパルス信号Pが現れた場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“1”の場合にのみ、記録層13から固定層11へ電子流−Iwを流してもよい(ST5)。この電子流−Iwの大きさの絶対値は、上記ステップ1(ST1)時の電子流+Iwの大きさの絶対値と同じである。尚、パルス信号Pが現れない場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“0”の場合には、電子流−Iwを流さなくてもよい。
このような読み出し方法において、上記ステップ1から4(ST1から4)までを第1ステップとし、上記ステップ5(ST5)を第2ステップとした場合、第1及び第2ステップからなる2ステップ読み出しでは、電子流及び出力電圧は次のような波形となる。
図4の(c)に示すように、MTJ素子10のデータが“0”であると判定した場合(ST3)、第1ステップにおいて、出力電圧の初期にパルス信号Pは現れないので、出力電圧の波形は時間に対して台形となり、電子流と出力電圧の波形図は近似する。この場合、第2ステップでは、再書き込みは必要でないので、電子流は再度流さない。
一方、図4の(d)に示すように、MTJ素子10のデータが“1”であると判定した場合(ST4)、第1ステップにおいて、出力電圧の波形図の初期には、MTJ素子10の高抵抗状態から低抵抗状態の変化に伴う出力電圧の変化、すなわちピーク状のパルス信号Pが現れる。そして、このパルス信号Pの有無を第1ステップで検出することで、MTJ素子10に記録されたデータを読み出す。この場合、第2ステップにおいて、第1ステップと符号が異なりかつ絶対値の大きさが同じ電子流、すなわち電子流−IwをMTJ素子10に流す。
ここで、電子流+Iw,−Iwの大きさの絶対値は、臨界電流Icの絶対値よりも大きな電流になるようにする。この臨界電流Icは、スピン注入型の磁化反転において、直流電流をMTJ素子へ流した時に、記録層の磁化が固定層の磁化に対して反平行磁化配置から平行磁化配置へ反転するときの反転電流を示す。厳密に言えば、一般に反転電流はガウス分布的なバラツキを有するので、ここでは、95%以上の確率で反転する時の電流を臨界電流Icと定義する。
尚、データ読み出し時に固定層11から記録層13へ電子流+Iwを流した場合、MTJ素子10に記録されたデータの違いによってパルス信号Pの発生の有無が決まるのは、次のようなスピン注入磁化反転の原理を利用しているからである。
MTJ素子10に記録されているデータが“0”の場合、ここでは、固定層11及び記録層13の磁化は平行磁化配置である(図4の(a)参照)。この平行磁化配置のとき、固定層11から記録層13へ電子を流しても、記録層13の磁化は反転しない。これは、スピン注入磁化反転技術を用いて平行磁化配置を反平行磁化配置にするには、記録層13から固定層11に向けて電子を流す必要があるからである。従って、“0”データが記録されている平行磁化配置の場合は、固定層11から記録層13へ電子を流してもMTJ素子10の磁化配置が変化しないため、出力電圧の変化、すなわちパルス信号Pは発生しない。
一方、MTJ素子10に記録されているデータが“1”の場合、ここでは、固定層11及び記録層13の磁化は反平行磁化配置である(図4の(b)参照)。スピン注入磁化反転技術を用いて反平行磁化配置を平行磁化配置にする場合には、固定層11から記録層13に向けて電子を流す。従って、本実施形態のように、反平行磁化配置のMTJ素子10に対して、固定層11から記録層13に向けて電子を流すと、スピン偏極電子が記録層13の磁化に作用し平行磁化配置に変化する。つまり、図4の(d)の第1ステップに示すように、反平行磁化配置(高抵抗状態)から平行磁化配置(低抵抗状態)に変化する。このMTJ素子10の抵抗変化を出力電圧で検出することで、“1”データが記録されている場合はパルス信号Pを検出できる。
[1−3]読み出し時の電子流
データ読み出し時、MTJ素子10の膜面垂直方向に固定層11から記録層13へ電子流を流す際、この電子流を流す時間をD(nsec)とし、電子流の大きさをIwとした場合、以下の式(1)及び(2)の関係を満たすことが望ましい。
1/D<0.6×(Iw/Ic)−0.6…(1)
D>0…(2)
ここで、Icは、上記臨界電流を示す。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る読み出し動作領域を示す図である。この図において、横軸はIw/Icを示し、縦軸は1/Dを示し、直線Lは1/D=0.6×(Iw/Ic)−0.6の関係式を示す。
図5の斜線部分は、上記式(1)及び(2)の関係を満たす本実施形態に係る読み出し動作領域である。この斜線部分から外れると、MTJ素子10に流す電子流に対してパルス信号Pを検出するための時間が短すぎて、MTJ素子10に記録された状態の判別が困難となる。従って、この斜線部分内となるように、電子流を流す時間Dと電子流の大きさIwとを調整することで、MTJ素子10の記録状態の読み出しが可能となる。
[1−4]MTJ素子の抵抗変化
図6は、本発明の第1の実施形態に係るMTJ素子の抵抗の時間変化の一例を詳細図として示す。ここでは、臨界電流Icの6倍の大きさの電子流+Iwを用いている。この図6に示すような波形は、例えば50GHzのオッシロスコープ等を用いて観察することができる。
図6に示すように、MTJ素子10が高抵抗状態から低抵抗状態へ変化するまでの変化時間Tは、約1nsである。この変化時間Tは、電子流+Iwの大きさにより決定されるものであり、例えば、電子流+Iwが臨界電流Icの1.5倍の場合、変化時間Tは約10nsとなる。つまり、電子流+Iwの大きさを臨界電流Icよりも大きくするほど、変化時間Tは短くなる。
尚、変化時間Tが短すぎると高抵抗部分(パルス信号P)の検出が難しくなるのと同時に消費エネルギーも大きくなる。一方、変化時間Tが長すぎると、再生時間が長くなる。よって、要求仕様に合わせて、材料設計及び電子流+Iwの設定を行なうとよい。
[1−5]電子流の方向
第1の実施形態に係る読み出し方法では、第1ステップにおいて電子流+Iwを固定層11から記録層13へ流す場合を説明したが、ここでは、この場合とは逆に、第1ステップにおいて記録層13から固定層11に電子流を流す場合を説明し、両者の比較を行う。
図7は、本発明の第1の実施形態に係る第1ステップの読み出し動作であって、電子流を固定層から記録層へ流す場合の説明図を示す。図8は、本発明の第1の実施形態に係る第1ステップの他の読み出し動作であって、電子流を記録層から固定層へ流す場合の説明図を示す。
図7に示すように、第1ステップにおいて電子流+Iwを固定層11から記録層13へ流す場合、上述するように、“0”データを読み出した際には出力電圧にパルス信号Pは発生しないが、“1”データを読み出した際に出力電圧にパルス信号Pが発生する。つまり、この場合、出力電圧の大きさは大から小へ変化する。このため、MTJ素子10の抵抗変化を検出し易い。
これに対して、図8に示すように、第1ステップにおいて電子流−Iwを記録層13から固定層11へ流す場合、“1”データを読み出した際には電子流−Iwの変化に応じて台形の出力電圧の波形が観察できるが、“0”データを読み出した際には出力電圧の波形が欠けた状態となる。この“0”データ読み出し時、MTJ素子10は、低抵抗状態から高抵抗状態へと変化する。しかし、この抵抗変化は、出力電圧の立ち上がりの変化と区別し難いため、出力電圧波形の欠けた状態を認識することは一般的に難しい。
以上のことから、第1の実施形態に係る読み出し方法では、第1ステップにおいて電子流+Iwを固定層11から記録層13へ流す方法を採用している。但し、図8の(c)に示すような出力電圧波形の欠けた状態を認識することが可能であれば、第1ステップにおいて記録層13から固定層11に電子流+Iwを流す読み出し方法を採用することも可能である。
[1−6]書き込み方法
図9は、本発明の第1の実施形態に係る書き込み方法を説明するための図を示す。以下に、第1の実施形態に係る書き込み方法について説明する。
まず、MTJ素子10に“0”データを書き込む場合について説明する。図9の(a)及び(c)に示すように、“0”データを書き込む場合は、反平行磁化配置から平行磁化配置へ記録層13の磁化を反転させるために、固定層11から記録層13に向けて電子流+Iwを流す。換言すると、記録層13から固定層11に電流を流す。
この場合、紙面の右向きに磁化が固定された固定層11から電子を流すことで、この磁化の方向と同じ向きのスピン偏極電子が多く発生する。その結果、このスピン偏極電子が記録層13の磁化に作用し、記録層13の磁化は紙面の右向きに反転される。このようにして、反平行磁化配置から平行磁化配置へ変化させることで、“0”データ書き込みが行われる。
次に、MTJ素子10に“1”データを書き込む場合について説明する。図9の(b)及び(d)に示すように、“1”データを書き込む場合は、平行磁化配置から反平行磁化配置へ記録層13の磁化を反転させるために、記録層13から固定層11に向けて電子流−Iwを流す。換言すると、固定層11から記録層13に電流を流す。
この場合、記録層13及び固定層11の磁化はともに紙面の右向きであり、この向きのスピン偏極電子は記録層13及び固定層11を通過する。一方、記録層13及び固定層11の磁化と反対向きのスピン偏極電子は、固定層11と非磁性絶縁層12の界面で反射され、再度記録層13に戻ってくる。そして、この再度戻ってきたスピン偏極電子が記録層13の磁化に作用する。このようにして、平行磁化配置から反平行磁化配置へ変化させることで、“1”データ書き込みが行われる。
上記のような書き込み動作において、書き込み時の電子流+Iw,−Iwの絶対値の大きさは、読み出し時の電子流+Iw,−Iwの大きさの絶対値と等しく、臨界電流Icの絶対値よりも大きな電流になるようにする。
上記第1の実施形態によれば、スピン注入型による磁化反転において、臨界電流Icよりも絶対値が大きな電流(+Iw,−Iw)の2準位のみを用いて読み出し及び書き込みを行う。このため、従来のように読み出し電流Irと書き込み電流Iwとの間でマージンを確保する必要がないので、このマージン確保の問題を回避でき、記録再生において高信頼性を得ることができる。また、読み出し電流及び書き込み電流用の駆動回路は2準位の設定でよいため、周辺回路の縮小化とともに低消費電力化を図ることができる。
[2]第2の実施形態
第1の実施形態では、シングルジャンクション構造のMTJ素子を用いたのに対し、第2の実施形態は、ダブルジャンクション構造のMTJ素子を用いる。また、第2の実施形態は、上記第1の実施形態と同様、電流駆動型の読み出し方法を採用する。
[2−1]ダブルジャンクション構造
図10は、本発明の第2の実施形態に係るダブルジャンクション構造のMTJ素子の断面図を示す。以下に、ダブルジャンクション構造のMTJ素子について説明する。
図10に示すように、第2の実施形態では、ダブルジャンクション構造のMTJ素子10を用いる。すなわち、このMTJ素子10は、磁化方向が固定された第1及び第2の固定層11,15と、磁化方向が反転する記録層13と、第1の固定層11及び記録層13の間に設けられた非磁性絶縁層12と、第2の固定層15及び記録層13の間に設けられた非磁性金属層14と、第1及び第2の固定層11,15の磁化方向を固定する反強磁性層16,17とで構成される。
ここで、第2の固定層15と記録層13との間の中間層は、非磁性絶縁層でもよいが、上記の構成のように非磁性金属層14が望ましい。これは、MTJ素子10の記録層13を共有したまま再生機能を担う領域Aとスピン注入を担う領域Bとを分離でき、双方の材料特性の干渉が少なくなることにより、材料選択のマージンを大きくできるからである。
尚、ここでは、記録層13の磁化方向が第1の固定層11の磁化方向と平行の場合(平行磁化配置)は、MTJ素子10に“0”データが記録された低抵抗の状態であると規定し、記録層13の磁化方向が第1の固定層11の磁化方向と反平行の場合(反平行磁化配置)は、MTJ素子10に“1”データが記録された高抵抗の状態であると規定する。但し、平行の状態を“1”、反平行の状態を“0”と規定することも勿論可能である。
図11(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係るダブルジャンクション構造のMTJ素子において、2つの固定層の磁化を反平行にする理由を説明するための図を示す。
ダブルジャンクション構造のMTJ素子10において、第1の固定層11の磁化方向と第2の固定層15の磁化方向とは反平行となるように固着することが望ましい。これは、次の理由からである。
図11(a)に示すように、電子eを紙面の上から下へ流した場合、記録層13の上面には第2の固定層15のスピン偏極電子e1が作用し、記録層13の下面には第1の固定層11から反射された第1の固定層15の磁化と反対向きのスピン偏極電子e2が作用する。このため、記録層13には、同じ方向のトルクが2重にかかる。
一方、図11(b)に示すように、電子eを紙面の下から上へ流した場合、記録層13の下面には第1の固定層11のスピン偏極電子e1が作用し、記録層13の上面には第2の固定層15から反射された第2の固定層15の磁化と反対向きのスピン偏極電子e2が作用する。このため、記録層13には、同じ方向のトルクが2重にかかる。
このように、ダブルジャンクション構造のMTJ素子において、第1及び第2の固定層11,15の磁化方向を反平行にすれば、平行磁化配置を反平行磁化配置にする場合も反平行磁化配置を平行磁化配置にする場合も、記録層13にトルクが2重にかかるので、書き込み電流の低減を図ることができるからである。
[2−2]読み出し方法
図12は、本発明の第2の実施形態に係る読み出し方法のフローチャートを示す。図13は、本発明の第2の実施形態に係る読み出し方法を説明するための図を示す。以下に、第2の実施形態に係る電流駆動型の読み出し方法について説明する。
まず、図13の(a)及び(b)に示すように、MTJ素子10の膜面垂直方向に第1の固定層11から記録層13へ電子流+Iwを流す(ST1)。この際、電子流+Iwの大きさの絶対値は、スピン注入型の磁化反転における臨界電流Icの絶対値よりも大きくなるようにする。
そして、電子流+Iwを流している間のMTJ素子10の抵抗変化を出力電圧で検出し、この出力電圧の初期にパルス信号Pが発生しているか否かを判断する(ST2)。
その結果、出力電圧の初期に電圧が増大するパルス信号Pが発生しない場合、すなわち電子流+IwによってMTJ素子10の抵抗値に変化がない場合は、MTJ素子10のデータは例えば“0”であると判定する(ST3)。
一方、出力電圧の初期に電圧が増大するパルス信号Pが発生した場合、すなわちMTJ素子10が高抵抗状態から低抵抗状態に変化した場合は、MTJ素子10のデータは例えば“1”であると判定する(ST4)。
さらに、出力電圧の初期にパルス信号Pが現れた場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“1”の場合にのみ、記録層13から第1の固定層11へ電子流−Iwを流してもよい(ST5)。この電子流−Iwの大きさの絶対値は、上記ステップ1(ST1)時の電子流+Iwの大きさの絶対値と同じである。尚、パルス信号Pが現れない場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“0”の場合には電子流−Iwを流さなくてもよい。
このような読み出し方法において、上記ステップ1から4(ST1から4)までを第1ステップとし、上記ステップ5(ST5)を第2ステップとした場合、第1及び第2ステップからなる2ステップ読み出しでは、電子流及び出力電圧は次のような波形となる。
図13の(c)に示すように、MTJ素子10のデータが“0”であると判定した場合(ST3)、第1ステップにおいて、出力電圧の初期にパルス信号Pは現れないので、出力電圧の波形は時間に対して台形となり、電子流と出力電圧の波形図は近似する。この場合、第2ステップでは、再書き込みは必要でないので、電子流は再度流さない。
一方、図13の(d)に示すように、MTJ素子10のデータが“1”であると判定した場合(ST4)、第1ステップにおいて、出力電圧の波形図の初期には、MTJ素子10の高抵抗状態から低抵抗状態の変化に伴う出力電圧の変化、すなわちピーク状のパルス信号Pが現れる。そして、このパルス信号Pの有無を第1ステップで検出することで、MTJ素子10に記録されたデータを読み出す。この場合、第2ステップにおいて、第1ステップと符号が異なりかつ絶対値の大きさが同じ電子流、すなわち電子流−IwをMTJ素子10に流す。
[2−3]書き込み方法
図14は、本発明の第2の実施形態に係る書き込み方法を説明するための図を示す。以下に、第2の実施形態に係る書き込み方法について説明する。
まず、MTJ素子10に“0”データを書き込む場合について説明する。図14の(a)及び(c)に示すように、“0”データを書き込む場合は、反平行磁化配置から平行磁化配置へ記録層13の磁化を反転させるために、第1の固定層11から第2の固定層15に向けて電子流+Iwを流す。換言すると、第2の固定層15から第1の固定層11に電流を流す。これにより、スピン偏極電子を記録層13の磁化に作用させ、反平行磁化配置から平行磁化配置へ変化させることで、“0”データ書き込みが行われる。
次に、MTJ素子10に“1”データを書き込む場合について説明する。図14の(b)及び(d)に示すように、“1”データを書き込む場合は、平行磁化配置から反平行磁化配置へ記録層13の磁化を反転させるために、第2の固定層15から第1の固定層11に向けて電子流−Iwを流す。換言すると、第1の固定層11から第2の固定層15に電流を流す。これにより、スピン偏極電子を記録層13の磁化に作用させ、平行磁化配置から反平行磁化配置へ変化させることで、“1”データ書き込みが行われる。
上記第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、固定層11,15が反平行磁化配置のダブルジャンクション構造であるため、書き込み及び読み出し電流の低減を図ることができる。
[3]第3の実施形態
上記第1及び第2の実施形態では、電流駆動型の読み出し方法について説明したが、第3及び第4の実施形態では、電圧駆動型の読み出し方法について説明する。両者の違いの概要は、次の通りである。電流駆動型の読み出し方法は、固定層11から記録層13へ電子流を流し、出力電圧を検出することでパルス信号Pの有無を調べた。これに対し、電圧駆動型の読み出し方法は、記録層13から固定層11へ電子流を流し、出力電流を検出することでパルス信号Pの有無を調べる。ここで、電流駆動型の場合、MTJ素子10が高抵抗状態から低抵抗状態に変化することでパルス信号Pが発生するのに対し、電圧駆動型の場合、MTJ素子が低抵抗状態から高抵抗状態に変化することでパルス信号Pが発生する。尚、第3の実施形態では、シングルジャンクション構造のMTJ素子10を用いる。
[3−1]読み出し方法
図15は、本発明の第3の実施形態に係る読み出し方法のフローチャートを示す。図16は、本発明の第3の実施形態に係る読み出し方法を説明するための図を示す。以下に、第3の実施形態に係る電圧駆動型の読み出し方法について説明する。
まず、図16の(a)及び(b)に示すように、記録層13の電位が固定層11の電位に対して低くなるようにMTJ素子10に電圧−Vwを印加し、MTJ素子10の膜面垂直方向に記録層13から固定層11へ電子流−Iを流す(ST1)。この際、電子流−Iの大きさの絶対値は、スピン注入型の磁化反転における臨界電流Icの絶対値よりも大きくなるようにする。
そして、電圧−Vwを印加している間のMTJ素子10の抵抗変化を出力電子流で検出し、この出力電子流の初期にパルス信号Pが発生しているか否かを判断する(ST2)。ここで、出力電子流の検出方法としては、流れる電流を積分して電圧変換する等、種々の方法で行われる。
その結果、出力電子流の初期に電子流が増大するパルス信号Pが発生しない場合、すなわち電子流−IによってMTJ素子10の抵抗値に変化がない場合は、MTJ素子10のデータは例えば“1”であると判定する(ST3)。
一方、出力電子流の初期に電子流が増大するパルス信号Pが発生した場合、すなわちMTJ素子10が低抵抗状態から高抵抗状態に変化した場合は、MTJ素子10のデータは例えば“0”であると判定する(ST4)。
さらに、出力電子流の初期にパルス信号Pが現れた場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“0”の場合にのみ、記録層13の電位が固定層11の電位に対して高くなるようにMTJ素子10に電圧+Vwを印加し、固定層11から記録層13へ電子流+Iを流してもよい(ST5)。この電圧+Vwの大きさの絶対値は、上記ステップ1(ST1)時の電圧−Vwの大きさの絶対値と同じである。尚、パルス信号Pが現れない場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“1”の場合には電圧+Vwを印加しなくてもよい。
このような読み出し方法において、上記ステップ1から4(ST1から4)までを第1ステップとし、上記ステップ5(ST5)を第2ステップとした場合、第1及び第2ステップからなる2ステップ読み出しでは、電子流及び出力電子流は次のような波形となる。
図16の(c)に示すように、MTJ素子10のデータが“0”であると判定した場合(ST4)、第1ステップにおいて、出力電子流の波形図の初期には、MTJ素子10の低抵抗状態から高抵抗状態の変化に伴う出力電子流の変化、すなわちピーク状のパルス信号Pが現れる。そして、このパルス信号Pの有無を第1ステップで検出することで、MTJ素子10に記録されたデータを読み出す。この場合、第2ステップにおいて、第1ステップと符号が異なりかつ絶対値の大きさが同じ電圧、すなわち電圧+VwをMTJ素子10に印加する。
一方、図16の(d)に示すように、MTJ素子10のデータが“1”であると判定した場合(ST3)、第1ステップにおいて、出力電子流の初期にパルス信号Pは現れないので、出力電子流の波形は時間に対して台形となり、電子流と出力電子流の波形図は近似する。この場合、第2ステップでは、再書き込みは必要でないので、電子流は再度流さない。
[3−2]書き込み方法
第3の実施形態に係る書き込み方法は、上記第1の実施形態の書き込み方法とほぼ同様である。すなわち、“0”書き込みの場合は、固着層11から記録層13に向けて電子流+Iが流れるように、MTJ素子10に電圧+Vwを印加する。これにより、反平行磁化配置から平行磁化配置へ変化させることで、“0”データを書き込む。一方、“1”書き込みの場合は、記録層13から固定層11へ電子流−Iが流れるように、MTJ素子10に電圧−Vwを印加する。これにより、平行磁化配置から反平行磁化配置へ変化させることで、“1”データを書き込む。
上記第3の実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、電流駆動型の第1の実施形態と比べて、電圧駆動型の第3の実施形態は、抵抗変化に伴う絶縁破壊が少なくなるという利点がある。
[4]第4の実施形態
第3の実施形態では、シングルジャンクション構造のMTJ素子を用いたのに対し、第4の実施形態は、ダブルジャンクション構造のMTJ素子を用いる。また、第4の実施形態は、上記第3の実施形態と同様、電圧駆動型の読み出し方法を採用する。
図17は、本発明の第4の実施形態に係る読み出し方法のフローチャートを示す。図18は、本発明の第4の実施形態に係る読み出し方法を説明するための図を示す。以下に、第4の実施形態に係る電圧駆動型の読み出し方法について説明する。
まず、図18の(a)及び(b)に示すように、第2の固定層15の電位が第1の固定層11の電位に対して低くなるようにMTJ素子10に電圧−Vwを印加し、MTJ素子10の膜面垂直方向に記録層13から第1の固定層11へ電子流−Iを流す(ST1)。この際、電子流−Iの大きさの絶対値は、スピン注入型の磁化反転における臨界電流Icの絶対値よりも大きくなるようにする。
そして、電圧−Vwを印加している間のMTJ素子10の抵抗変化を出力電子流で検出し、この出力電子流の初期にパルス信号Pが発生しているか否かを判断する(ST2)。ここで、出力電子流の検出方法としては、流れる電流を積分して電圧変換する等、種々の方法で行われる。
その結果、出力電子流の初期に電子流が増大するパルス信号Pが発生しない場合、すなわち電子流−IによってMTJ素子10の抵抗値に変化がない場合は、MTJ素子10のデータは例えば“1”であると判定する(ST3)。
一方、出力電子流の初期に電子流が増大するパルス信号Pが発生した場合、すなわちMTJ素子10が低抵抗状態から高抵抗状態に変化した場合は、MTJ素子10のデータは例えば“0”であると判定する(ST4)。
さらに、出力電子流の初期にパルス信号Pが現れた場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“0”の場合にのみ、第2の固定層15の電位が固定層11の電位に対して高くなるようにMTJ素子10に電圧+Vwを印加し、固定層11から記録層13へ電子流+Iを流してもよい(ST5)。この電圧+Vwの大きさの絶対値は、上記ステップ1(ST1)時の電圧−Vwの大きさの絶対値と同じである。尚、パルス信号Pが現れない場合、すなわち、MTJ素子10のデータが“1”の場合には電圧+Vwを印加しなくてもよい。
このような読み出し方法において、上記ステップ1から4(ST1から4)までを第1ステップとし、上記ステップ5(ST5)を第2ステップとした場合、第1及び第2ステップからなる2ステップ読み出しでは、電子流及び出力電子流は次のような波形となる。
図18の(c)に示すように、MTJ素子10のデータが“0”であると判定した場合(ST4)、第1ステップにおいて、出力電子流の波形図の初期には、MTJ素子10の低抵抗状態から高抵抗状態の変化に伴う出力電子流の変化、すなわちピーク状のパルス信号Pが現れる。そして、このパルス信号Pの有無を第1ステップで検出することで、MTJ素子10に記録されたデータを読み出す。この場合、第2ステップにおいて、第1ステップと符号が異なりかつ絶対値の大きさが同じ電圧、すなわち電圧+VwをMTJ素子10に印加する。
一方、図18の(d)に示すように、MTJ素子10のデータが“1”であると判定した場合(ST3)、第1ステップにおいて、出力電子流の初期にパルス信号Pは現れないので、出力電子流の波形は時間に対して台形となり、電子流と出力電子流の波形図は近似する。この場合、第2ステップでは、再書き込みは必要でないので、電子流は再度流されない。
[4−2]書き込み方法
第4の実施形態に係る書き込み方法は、上記第2の実施形態の書き込み方法とほぼ同様である。すなわち、“0”書き込みの場合は、第1の固着層11から第2の固定層15に向けて電子流+Iが流れるように、MTJ素子10に電圧+Vwを印加する。これにより、第1の固定層11の磁化と記録層13の磁化とを反平行磁化配置から平行磁化配置へ変化させることで、“0”データを書き込む。一方、“1”書き込みの場合は、第2の固定層15から第1の固定層11へ電子流−Iが流れるように、MTJ素子10に電圧−Vwを印加する。これにより、第1の固定層11の磁化と記録層13の磁化とを平行磁化配置から反平行磁化配置へ変化させることで、“1”データを書き込む。
上記第4の実施形態によれば、上記第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、電流駆動型の第2の実施形態と比べて、電圧駆動型の第4の実施形態は、抵抗変化に伴う絶縁破壊が少なくなるという利点がある。
[5]第5の実施形態
第5の実施形態では、各実施形態で用いるMTJ素子10について説明する。
[5−1]固定層、記録層
MTJ素子10の固定層11,15及び記録層13は、強磁性材料で形成される。この強磁性材料としては、以下の中から用途に応じた磁気特性を有するものを適宜選択して用いればよい。
例えば、「鉄(Fe)単体」、「コバルト(Co)単体」、「ニッケル(Ni)単体」、「鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む合金」、「パーマロイと呼ばれるNiFe系合金」、「CoNbZr系合金、FeTaC系合金、CoTaZr系合金、FeAlSi系合金、FeB系合金、CoFeB系合金等の軟磁性材料」、「ホイスラー合金、磁性半導体、CrO2、Fe3O4、La1―XSrXMnO3等のハーフメタル磁性体酸化物(又はハーフメタル磁性体窒化物)」、「GdCo、GdFeCo、TbFeCo等の希土類−3d遷移金属非晶質合金」のいずれかを用いることができる。
ここで、「磁性半導体」としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)の少なくともいずれかの磁性元素と、化合物半導体又は酸化物半導体とからなるものを用いることができる。この磁性半導体は、具体的には、例えば、(Ga、Cr)N、(Ga、Mn)N、MnAs、CrAs、(Ga、Cr)As、ZnO:Fe、(Mg、Fe)O等をあげることができる。
また、固定層11,15及び記録層13に用いる材料としては、連続的な磁性体でもよく、又は、非磁性マトリクス中に磁性体からなる微粒子が析出あるいは形成されてなる複合体構造を用いることもできる。このような複合体構造としては、例えば、「グラニュラー磁性体」等と称されるものをあげることができる。
また、固定層11,15及び記録層13が複数の磁性層からなる多層構造である場合、次のような材料を用いることができる。例えば、固定層11,15及び記録層13の材料として、[(Co又はCoFe合金)/(NiFe、NiFeCoからなるパーマロイ合金、又はNi)]からなる2層構造、[(Co又はCoFe合金)/(NiFe、NiFeCoからなるパーマロイ合金、又はNi)/(Co又はCoFe合金)]からなる3層構造の積層体を用いることもできる。これらの多層構造からなる磁性層の場合、外側のCo又はCoFe合金の厚さは、0.2nmから1nmの範囲であることが好ましい。この構造によれば、より小さな電流で磁化反転を得ることができる。
また、図10のダブルジャンクション構造では、固定層11,15が2層ある。これら固定層11,15の磁化方向を互いに反平行にするには、固定層11,15のうち一方の固定層を反強磁性結合構造とするのが望ましい。すなわち、固定層11,15のうち一方の固定層(特に固定層15)を第1の磁性層/非磁性層/第2の磁性層で形成し、第1及び第2の磁性層の磁化が反平行となるように磁気結合させるとよい。尚、シングルジャンクション構造における固定層11を反強磁性結合構造とすることも可能である。このような反強磁性結合させた多層膜を用いると、各層からの漏れ磁界が小さくなり、MTJ素子10の磁気特性が安定する。さらに、ダブルジャンクション構造の一方の固着層を、反強磁性結合した第1の磁性層/非磁性層/第2の磁性層/非磁性層/第3の磁性層で形成してもよい。このような構造とすることで、臨界反転電流を低減することができる。
また、磁性層/非磁性層/磁性層からなる反強磁性結合構造において、非磁性層の材料としては、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)等の非磁性金属層及び反強磁性体を用いることが望ましい。非磁性層の膜厚は、0.2nm〜3nmであることが反強磁性結合を得るために望ましい。
また、固定層11,15及び記録層13は、強磁性結合構造であってもよい。すなわち、固定層11,15及び記録層13を第1の磁性層/非磁性層/第2の磁性層で形成し、第1及び第2の磁性層の磁化が平行となるように磁気結合させてもよい。
[5−2]反強磁性層
反強磁性層16,17は、固定層11,15に直接接して設けることで、固定層11,15に一方向異方性を付与し、固定層11,15の磁化を固着するためのものである。この反強磁性層16,17の材料としては、鉄マンガン(FeMn)、白金マンガン(PtMn)、パラジウム・マンガン(PdMn)、パラジウム白金マンガン(PdPtMn)等を用いることが望ましい。
[5−3]非磁性絶縁層
非磁性絶縁層12の材料としては、アルミナ(Al2O3−X)又は酸化マグネシウム(MgO1−X)、SiO2、Si−O−N、Ta−O、Al−Zr−O等の、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、及び鉄(Fe)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む酸化物又は窒化物、フッ化物からなる絶縁体、GaAlAs等のギャップが大きな半導体を挙げることができる。また、前記絶縁体にピンホールが形成され、そこに磁性層が進入したナノコンタクトMR材料や、Cuが侵入したCCP(Current-Perpendicular-to-Plane)−CCP−MR(Magneto Resistance effect)材料を用いることもできる。その絶縁層の厚さは、例えば0.2nm乃至2nmとすることが、信号再生上は望ましい。ナノコンタクトMR及びCCP−CPP−MRの場合は、非磁性絶縁層12の厚さは、例えば0.4nm乃至40nmの範囲内であることが望ましい。
[5−4]非磁性金属層
非磁性金属層14の材料としては、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、又はこれらのいずれか一種以上を含む合金等をあげることができる。この非磁性金属層14の厚さは、1nm乃至60nmであることが好ましい。
[5−5]形状
図19は、本発明の第5の実施形態に係るMTJ素子の模式的な平面図を示す。図20は、本発明の第5の実施形態に係るMTJ素子の模式的な断面図示す。
MTJ素子10(主に記録層13)の平面形状は、例えば、縦横比が1:1から1:5の範囲にあるような正方形又は長方形(図19(a)、図19(b))、横長(縦長)6角形(図19(c))、楕円形(図19(d))、菱型(図19(e))、平行四辺形(図19(f))とすることが望ましい。さらに、円(図19(g))や十字型(図19(h))でもよい。また、その記録層13の平面形状における寸法は、長手方向(磁化容易軸方向)の一辺が5nm乃至500nm程度の範囲内とすることが望ましい。
また、各実施形態に係るMTJ素子10の断面形状は、各層の膜面方向の寸法(磁化容易軸方向又は磁化困難軸方向の寸法)が全て同じであるが、これに限定されず、配線の接続のため又は磁化方向の制御のために各層の寸法が互いに異なるようにしてもよい。例えば、MTJ素子10の断面形状は、図20(a)に示すように、上層に向かって横方向のサイズが連続的に小さくなっている台形であってもよいし、図20(b)に示すように、横方向サイズが層ごとに非連続な形状(例えば凸形状)であってもよい。このような場合でも、各実施形態の効果に支障はない。
[6]第6の実施形態
第6の実施形態では、本発明の各実施形態に係る読み出し及び書き込み方法を採用するMRAM(Magnetic Random Access Memory)について説明する。
[6−1]選択トランジスタ型
ここでは、セル毎にMTJ素子とトランジスタとが設けられた、いわゆる選択トランジスタ型構造のMRAMについて説明する。
図21は、本発明の第6の実施形態に係るMRAMの選択トランジスタ型のメモリセルアレイの等価回路を表す模式図である。図22は、図21における1セル分のメモリセルの断面構造を表す模式図である。
図21に示すように、メモリセルアレイMCAには、複数のビット線BLn(n=1,2,…)及びワード線WLnがマトリクス状に配置され、ビット線BLn及びワード線WLnの交点付近にMTJ素子10がそれぞれ配置されている。このMTJ素子10には選択スイッチとしてのトランジスタ(例えばMOSFET(Metal-Semiconductor-Oxide Field Effect Transistor))TRがそれぞれ接続され、このトランジスタTRのゲート電極はワード線WLにつながる。従って、選択トランジスタ型の各メモリセルMCは、ビット線BLと、ワード線WLと、MTJ素子10と、トランジスタTRとを含んで構成されている。
具体的には、図22に示すように、MTJ素子10の一端は、ビット線BLに電気的に接続され、MTJ素子10の他端は、配線23a及びコンタクト22aを介して、トランジスタTRの電流経路の一端に電気的に接続されている。トランジスタTRの電流経路の他端は、コンタクト22bを介して配線23bに接続されている。この配線23bは、例えば、電源端子や接地端子に接続されている。
また、ここでは、MTJ素子10において、反強磁性層16にはPtMn層を用い、固定層11にはPtMn層を付与することで交換バイアスをつけたCo50Fe50層を用い、非磁性絶縁層12にはMgOを用い、記録層13にはCo50Fe50層を用いる。また、トランジスタTR側に固定層11が来るように配置する。よって、図22のMTJ素子10において、電子流+Iwが紙面の下から上へ流れる場合がプラスの極性と定義する。
図23(a)及び(b)は、本発明の第6の実施形態に係るMRAMの選択トランジスタ型の読み出し方法を説明するための波形図を示す。以下に、選択トランジスタ型セルの読み出し方法について説明する。
まず、任意のセルにおけるMTJ素子10の選択を行う。これは、このMTJ素子10に接続されたビット線BLと、このMTJ素子10に接続されたトランジスタTRのゲート電極(ワード線WL)とを選択することで行われる。そして、ゲート電極を選択することにより、ビット線BLからMTJ素子10を経由して配線23bまで、電流パスが形成される。そこで、固定層11から記録層13へ電子流+Iwを流し、MTJ素子10の抵抗変化を出力電圧で検出する。その結果、出力電圧の初期にパルス信号Pが発生していない場合は、MTJ素子10のデータは“0”であると判定し、出力電圧の初期にパルス信号Pが発生している場合は、MTJ素子10のデータは“1”であると判定する。さらに、パルス信号Pが発生している場合は、第2ステップとして、再度、トランジスタTRをオンにし、記録層13から固定層11へ電子流−Iwを流す。
図24(a)及び(b)は、本発明の第6の実施形態に係るMRAMの選択トランジスタ型の書き込み方法を説明するための波形図を示す。以下に、選択トランジスタ型セルの書き込み方法について説明する。
まず、任意のセルにおけるMTJ素子10の選択を行う。これは、このMTJ素子10に接続されたビット線BLと、このMTJ素子10に接続されたトランジスタTRのゲート電極(ワード線WL)とを選択することで行われる。ゲート電極を選択することにより、ビット線BLからMTJ素子10を経由して配線23bまで、電流パスが形成される。そこで、記録データに応じて電子流+Iw又は−IwをMTJ素子10に流し、スピン注入書き込みを行う。ここでは、+Iwを流すと“0”が書き込まれ、−Iwを流すと“1”が書き込まれると規定するが、“0”と“1”の割り当ては逆にしても勿論よい。
尚、MTJ素子10の構造は、シングルジャンクション構造に限定されず、ダブルジャンクション構造でも勿論よい。ダブルジャンクション構造のMTJ素子10の具体的な構造としては、例えば、PtMn(反強磁性層16)/CoFe(第1の固定層11)/MgO1−X(非磁性絶縁層12)/CoFe(記録層13)/Cu(非磁性金属層14)/[CoFe/Ru/CoFe](第2の固定層15)/PtMn(反強磁性層17)や、PtMn(反強磁性層16)/CoFe(第1の固定層11)/Al―O(非磁性絶縁層12)/CoFe(記録層13)/Cu(非磁性金属層14)/[CoFe/Ru/CoFe](第2の固定層15)/PtMn(反強磁性層17)等があげられる。さらに、第1の固定層11として、例えば、CoFe/Ru/CoFe/Ru/CoFe等があげられる。
[6−2]クロスポイント型
ここでは、セル毎に選択スイッチが設けられない、いわゆるクロスポイント型構造のMRAMについて説明する。
図25は、本発明の第6の実施形態に係るMRAMのクロスポイント型のメモリセルアレイを表す斜視図である。
図25に示すように、メモリセルアレイMCAには、複数のビット線BL及びワード線WLがマトリクス状に配置され、ビット線BL及びワード線WLの交点付近にMTJ素子10がそれぞれ配置されている。このMTJ素子10の一端は、ビット線BLに電気的に接続され、MTJ素子10の他端は、ワード線WLに電気的に接続されている。
このようなクロスポイント型のMRAMにおいて、読み出し動作は、次のように行われる。まず、任意のセルにおけるMTJ素子10の選択を行う。これは、このMTJ素子10に接続されたビット線BLと、このMTJ素子10に接続されたワード線WLとを選択することで行われる。そして、ビット線BLからMTJ素子10を経由してワード線WLまで、電流パスが形成される。そこで、固定層11から記録層13へ電子流+Iwを流し、MTJ素子10の抵抗変化を出力電圧で検出する。その結果、出力電圧の初期にパルス信号Pが発生していない場合は、MTJ素子10のデータは“0”であると判定し、出力電圧の初期にパルス信号Pが発生している場合は、MTJ素子10のデータは“1”であると判定する。さらに、パルス信号Pが発生している場合は、第2ステップとして、再度、記録層13から固定層11へ電子流−Iwを流す。
一方、書き込み動作は、次のように行われる。まず、任意のセルにおけるMTJ素子10の選択を行う。これは、このMTJ素子10に接続されたビット線BL及びワード線WLを選択することで行われる。そして、ビット線BLからMTJ素子10を経由してワード線WLまで、電流パスが形成される。そこで、記録データに応じて電子流+Iw又は−IwをMTJ素子10に流し、スピン注入書き込みを行う。ここでは、+Iwを流すと“0”が書き込まれ、−Iwを流すと“1”が書き込まれると規定するが、“0”と“1”の割り当ては逆にしても勿論よい。
尚、電子流+Iw,−Iwの大きさは、臨界電流Icの3倍未満にすると、非選択セルの磁化を反転させることなく動作させることができる。
[7]第7の実施形態
第7の実施形態では、本発明の各実施形態に係る読み出し及び書き込み方法を採用する、いわゆるパターンド(patterned)媒体にプローブでアクセスするプローブストレージ型の磁気記録装置について説明する。
図26は、本発明の第7の実施形態に係るプローブストレージ型の磁気記録装置を表す模式図である。
図26に示すように、パターンド媒体(記録媒体)120は、導電性基板110の上において、複数個のMTJ素子10を高抵抗の絶縁体100の面内にマトリクス状に配列した構造を有する。この媒体120の表面上には、任意のMTJ素子10を選択するための導電性のプローブ200が設けられている。このプローブ200には、プローブ200と媒体120の表面との相対的位置関係を制御するための位置駆動装置210が接続され、さらに、MTJ素子10にプローブ200から電流又は電圧を印加するための電源220が接続されている。また、電源220及び基板110には、MTJ素子10の内部磁化状態を電気抵抗の変化として検出するための検出回路230が接続されている。
尚、図26に示す位置駆動装置210は、プローブ200の位置を変化させるためにプローブ200に接続されているが、これに限定されない。この位置駆動装置210は媒体120とプローブ200との相対位置を制御できればよいので、例えば、媒体120の位置を変化させるために媒体120側に位置駆動装置210を接続してもよい。
また、図26に示すMTJ素子10は、導電性基板110において下側電極のみを共有しているが、これに限定されない。例えば、各MTJ素子10において、反強磁性層16を共有したり固定層11を共有したりする等、その一部の層を共有する構造としてもよい。このような構造にすれば、さらにプロセスの簡易化及び特性の均質化を図ることができる。
このような第7の実施形態では、書き込み及び読み出しは、プローブ200と基板110との間にMTJ素子10を介して電流を流すことによって行われる。ここで、MTJ素子10の選択は、プローブ200と媒体120との相対的位置関係を変えることで行われる。プローブ200は、MTJ素子10に対して電気的に接続されていればよく、接触していても、非接触していてもよい。非接触の場合には、MTJ素子10とプローブ200との間に流れるトンネル電流又は電界放射による電流を用いて書き込み及び読み出しを行うことができる。
MTJ素子10への書き込みは、MTJ素子10にアクセスしたプローブ200からMTJ素子10へ流れる電子流、又はMTJ素子10からプローブ200へ流れる電子流により行われる。ここで、符号は、MTJ素子10の固定層11から記録層13へ電子が流れる場合をプラスとし、信号“0”の書き込みには+Iwを印加し、信号“1”の書き込みには−Iwを印加する。但し、電子流+Iw,−Iwは、臨界電流Icよりも絶対値が大きいこととする。そして、電子の流れ、すなわち電流の極性を反転させることで、“0”又は“1”の書き込みを適宜行うことができる。
一方、読み出しは、書き込みと同じく、MTJ素子10にアクセスしたプローブ200からMTJ素子10へ流れる電子流、又はMTJ素子10からプローブ200へ流れる電子流により行われる。そして、読み出しは2ステップからなる。ます、第1ステップでは電子流+Iwを流し、“0”、“1”を判断する。そして、初期に抵抗のピークが発生する信号“1”の場合には、第2ステップで電子流−Iwを流す。
図27は、プローブをマルチ化した場合のメモリセルアレイを表す模式図である。図27では、MTJ素子10を基板上に並べ、32×32のマトリックスメモリセルMMCが形成されている。このマトリックスメモリセルMMCをさらに32×32個並べ、合計で1M(メガ)ビットの記録再生媒体が形成されている。そして、この記録再生媒体に対して、32個×32個からなるプローブ200で書き込み及び読み出しが実施される。すなわち、1セットのマトリックスメモリセルMMCに対し、1個のプローブ200が対応している。
具体的には、プローブ200を選択するためのビット線BLとワード線WLとがマトリックス状に配置され、ビット線BLとワード線WLとの交点付近にプローブ200が配置されている。そして、プローブ200の一端は選択トランジスタの電流経路の一端に接続され、トランジスタの電流経路の他端はワード線WLに接続され、トランジスタのゲートはビット線BLに接続される。プローブ200の選択は、ビット線BLとワード線WLとを選択し、これらの対応するトランジスタをオンにすることで行う。
プロービングは、図26に関して前述した如くである。それぞれのプローブ200に対するマトリックスメモリセルMMC内のMTJ素子10の選択は、媒体に設けられたXY駆動機構により行うことができる。但し、位置関係が相対的に変化するならば、プローブ200に設けられた駆動機構でMTJ素子10の選択を行ってもよい。また、プローブ自身がマルチ化されているため、このプローブ200をいわゆるワード線WLとビット線BLにつなぎ、ワード線WLとビット線BLを選択することでプローブ200の選択を可能としている。
図27におけるMTJ素子10の書き込み及び読み出しは、図26の場合と同様で、MTJ素子10にアクセスしたプローブ200から注入される電子流により行われる。書き込みは、プローブ200からMTJ素子10へ又はMTJ素子10からプローブ200へ電子流+Iw,−Iwを流すことで、“0”、“1”の書き込みが行われる。一方、読み出しは、MTJ素子10に電子流+Iwを流すことで、MTJ素子10の抵抗の初期変化を検出し、“0”、“1”を判定する。その後、第2ステップとして“1”の場合に電子流−Iwを流す。
尚、本発明の各実施形態において、読み出し時にステップ1,2で用いる電流及び書き込み時に用いる電流+Iw及び−Iwは、その値の絶対値が等しいとしているが、実際の素子状況等により若干のずれは許容される。そのような場合も、第3の供給電源は不要となり、本発明の各実施形態における効果は得られる。また、図において、入力信号及び出力信号の立ち上がり及び立ち下がりは、便宜上直線近似されているが、厳密には若干の曲線状の立ち上がり及び立ち下がりとなる。そのような場合も、本発明の各実施形態における効果は得られる。さらに、図におけるMTJ素子10の上下を逆転させても、効果は同じである。
その他、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
10…MTJ素子、11,15…固定層、12…非磁性絶縁層、13…記録層、14…非磁性金属層、16,17…反強磁性層、21…基板、22a,22b…コンタクト、23a,23b…配線、100…絶縁体、110…導電性基板、120…パターンド媒体、200…プローブ、210…位置駆動装置、220…電源、230…検出回路、BL…ビット線、WL…ワード線、TR…トランジスタ、D…ダイオード、MC…メモリセル、MCA…メモリセルアレイ、MMC…マトリックスメモリセル。