JP4283489B2 - 精確なmodインレーを鋳造するための鋳造用穴開きリング - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳造用穴開きリングに関する。より具体的には、側壁の開放度を制御することで、鋳造物の収縮部位および膨張部位を制御することのできる精確なMODインレーを鋳造するための穴開きリングなどに関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科分野で用いられるインレーとは、歯に窩洞が形成された後、その穴にあう様に作られた固形の修復物である。虫歯がある程度進行した場合、歯、インレー修復などにより、咬合を回復し、更にウ窩の進行を防止する。インレー修復とは、歯の窩洞に良く適合するような形態に調節された固形の修復物を、窩洞内にセメントなどで合着する歯冠修復の一方法である。インレー修復では、虫歯部分を取り除いた後、虫歯の穴(ウ窩)およびそのまわりの窩洞に対する模型を形成し、その模型に合致するように鋳造した金属を、セメントなどを用いて歯に装着する。
【0003】
歯科鋳造によるインレー作製においては、鋳造収縮を埋没材の硬化膨張と熱膨張によって補正し、精確な修復物を作成する必要がある。歯の外側をクラウンで覆う場合には、クラウンをかぶせる部分(支台歯)よりもセメントの分(約20μm)クラウンを大きくし、歯を覆うことが要求される。また、修復物は、歯牙にセメントなどで合着するので、修復物を製造する際には、セメントなど接着物の厚さ(20μm以上)をも考慮しなければならない。したがって、歯の内側部分をつめる場合にはセメント層の厚さなどを考慮し、模型上の寸法よりも小さく製造することが要求される。
【0004】
インレーなど歯の治療・装飾用の鋳造物である歯科用鋳造物は、例えば、歯型を採取した後、歯型の模型を作成した鋳造により得られる。鋳造を行う際、埋没材を用いる。この埋没材は、硬化する際、または一定温度以上となった場合、膨張する性質がある。この埋没材の膨張を用い、模型上で鋳造収縮を補っている。
【0005】
インレーには、外側タイプと内側タイプの混合であるMODインレーもある。
【0006】
MODインレーとは、ウ蝕の始発部位となる隣接部(歯と歯の間)を修復する形態をいう。この修復物は、セメントなどで歯牙に合着(接着)させるので、セメント分の厚みを考慮しなければならない。したがって、咬合面のみの小さいウ蝕の治療には、セメント層(20μm以上)を考慮し、模型上より小さくインレーを作らなければ、患歯にインレーを接着できない。また、歯冠全体を覆うような場合は、逆に模型上よりインレーを大きく作らなければならない。すなわち、MODインレーでは、MOD(M:近心、O:咬合、D:遠心)方向には膨張させなければならず、またBOL(B:頬側、O:咬合、L:舌側)方向には、収縮させなければならない。すなわち、MODインレーにおいては、小さな鋳造体の1個内において膨張させるべき部位と収縮させるべき部位とが共存している。したがって、従来の鋳造方法では、全体的に膨張させるか、収縮させることはできても、特定の部位のみ膨張させ、また特定の部位のみ収縮させることが困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、MODインレーを製造する場合、同一の鋳造体において、頬舌方向に収縮させ、近遠方向には膨張させる必要がある。すなわち、同一の鋳造体のうち収縮させるべき部位と、膨張させるべき部位を制御する必要がある。
【0008】
本発明では、同一の鋳造体において収縮させるべき部位と、膨張させるべき部位とを制御することができる鋳造用リングを提供することを目的とする。
【0009】
特に、本発明では、(MOD)インレーの製造に用いられる鋳造用リングおよびMODインレーの製造システムおよび製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、穴をあけた鋳造用リングと、その鋳造用リングを取り巻いた吸水ポリマーを含む吸水シートとを用いて精密なインレーを製造することなどにより解決される。吸水ポリマーは、埋没材の混和泥の水分を吸収し、硬化膨張を増大させる。開口部の側壁の面積に占める割合(以下「開放度」ともいう。本明細書において、開放度が○度とは、開口部の側壁の面積に占める割合が、○/360を意味する。)を制御し、開放度を制御した鋳造用リングの穴を吸水シートで塞ぎ埋没させることにより、鋳造用リング内で埋没材が膨張する量と、膨張する範囲を制御することができる。本発明は、このようにして、精密なインレー、得に外側タイプと内側タイプの混合であるMODインレーを製造するものである。
【0011】
より具体的な、鋳造用穴開きリング(以下、「鋳造用リング」ともいう。)およびその用途などとしては、以下のものが挙げられる。
【0012】
(1)本発明の鋳造用穴開きリング1は、「開口部3を有する側壁2を有し、前記開口部の側壁の面積に占める割合(開放度)が、10%〜90%である鋳造用穴開きリング」である。MODインレーのように収縮させるべき部位や膨張させるべき部位を好ましい開放度および開口部の形状をもつ鋳造用穴開きリングを用い、さらに開口部からリングに充填された埋没材の水分を奪うことで制御することができるのである。
【0013】
(2)本発明の別の鋳造用穴開きリング1は、「更に、側壁に占める開口部の割合を調整する開口部調整手段を有し、製造すべきインレーの膨張または収縮させるべき範囲に応じて前記開口部調整手段によって開口部の割合を調整することができる、上記(1)に記載の鋳造用穴開きリング」である。このように開放度を制御することができれば、例えば、さまざまな、収縮膨張要求をもった鋳造物をひとつの鋳造用穴開きリングで製造することが可能となる。
【0014】
(3)(2)の具体的な例としては、「開口部を有する側壁を有する二重の回転可能な中空円柱からなり、前記二重の側壁が回転することにより、側壁に占める開口部の割合を制御でき、直径が、30mm〜150mmである鋳造用穴開きリング」が挙げられる。
【0015】
(4)また、本発明の別の鋳造用穴開きリングは、「インレーを充填すべき部位に対して、膨張すべき部位と、収縮すべき部位と、を制御した高精度歯科用MODインレーの製造に用いられる上記(1)〜上記(3)に記載の鋳造用穴開きリング」である。高精度歯科用MODインレーは、先に説明したとおり、インレー内に、歯の模型よりも膨張させるべき部位と、収縮させるべき部位とがある場合に、膨張および収縮部位を制御したMODインレーである。本発明の鋳造用穴開きリングは、得にこのような膨張部位と、収縮部位とを制御する必要があるインレーの製造に効果的に用いられる。
【0016】
(5)また、本発明の鋳造用穴開きリングは、「上記(1)〜上記(3)に記載の鋳造用穴開きリングであって、形状記憶合金、または形状記憶プラスチックの製造に用いられる鋳造用穴開きリング」として用いてもよい。本発明の鋳造用リングを用いた場合、埋没材は硬化膨張で異形性を示す。そればかりではなく、温度が下がる時にも異形性を示す。よって、膨張方向と、収縮方向に異なる形状記憶量を持たせることができるのである。
【0017】
(6)本願の別の発明は、「上記(1)〜上記(4)いずれかに記載の鋳造用穴開きリングと、当該鋳造用穴開きリングの側壁を取り巻く吸水シートとを含む歯科用インレー製造システム」である。吸水シートを用いることで、鋳造の際、埋没材から効果的に水分を奪うことができる。これによって、膨張させるべき部位と、収縮させるべき部位とを効果的に制御できる。
【0018】
(7)本願の別の発明は、「上記(6)に記載のインレー製造システムを用いた歯科用MODインレーの製造方法であって、インレーを充填すべき部位に対してインレーを膨張させるべき部位に対しては、前記インレー製造用穴開きリングの側壁の開口部を合わせ、またはインレーを充填すべき部位に対してインレーを収縮させるべき部位に対しては、前記インレー製造用穴開きリングの側壁の開口部ではない部分を合わせ、前記リング内に埋没材を入れ埋没材を固化させ、前記埋没材の膨張部位および収縮部位を制御し、前記膨張部位および収縮部位を制御した埋没材に溶融金属を流し込み、固化させる工程を含む、インレーを充填すべき部位に対して、膨張すべき部位と、収縮すべき部位と、を制御した歯科用MODインレーの製造方法。」である。その製造工程は、公知のインレー製造工程を適用することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
〔鋳造用穴開きリング〕
図1を参照して、鋳造用穴開きリングを説明する。図13は、従来の鋳造用リング5を示す。図1a、図1b、図1cに、それぞれ開放度80度、160度、240度の鋳造用穴開きリングを示す。従来の鋳造用リング1は、埋没材等をもれないようにするために用いられていた。本願の鋳造用穴開きリング1は、側壁2に、所定の大きさの開口部3を有する。本願の鋳造用穴開きリング1に直接埋没材を入れると、この開口部3から漏れてしまう。したがって、従来、鋳造用リング5(図13)の側壁2に開口部を設けるという発想が当業者に存在しなかった。しかしながら、本発明では、側壁2に開口部を設け、その開口部を覆うように後述の吸水シートを設け、埋没材などが鋳造用リングから漏れ出すことを防止する。そして、吸収シートは、開口部近辺の埋没材から水分を奪う。これにより、埋没材の収縮や膨張部位を制御するのである。前記開口部の側壁の面積に占める割合としては、10%〜90%が挙げられ、20%〜25%のものや、40%〜50%のもの、80%〜90%のものなど、目的に応じ様々な割合のものが挙げられる。
【0020】
なお、図示しないが、開口部を有する側壁を有する二重の回転可能な中空円柱からなり、前記二重の側壁が回転することにより、側壁に占める開口部の割合を制御できる鋳造用穴開きリングは、本発明の好ましい実施の態様である。
【0021】
鋳造用穴開きリングの直径としては、鋳造物の大きさにより最適なものを選ぶことができ、30mm〜150mmであることが好ましく、40mm〜100mmであれば、より好ましい。
【0022】
鋳造用穴開きリングの材質としては、鋳造用リングに用いられる公知の材質を用いることができる。鋳造用穴開きリングは、鋳造用リングに用いられる公知の製造方法により製造することができる。鋳造用穴開きリングは、公知の鋳造用リングの側壁を削ることにより製造しても良い。
【0023】
〔吸水シート〕
吸水シートは、鋳造用穴開きリングを取り巻き、開口部付近の埋没材から水分を吸収することで、埋没材の水分の分布領域に偏りを持たせることができる。本発明では、この水分の分布領域の偏りによって、埋没材の収縮部分および膨張部分を制御する。このようにして、収縮部分および膨張部分を制御したインレーを製造することができる。
【0024】
吸水シートとしては、(1)紙、(2)布、(3)不織布、(4)例えば特開昭59−130301号公報に記載の吸水性樹脂を用いた吸収物品として吸水紙に吸収性高分子を付着させた吸水シート、(5)例えば特開昭59−009619号公報に記載のように、2枚の薄葉吸水紙の間に吸水性高分子を配置した吸水シート、(6)例えば特開2001−158074号公報に記載の目付け5〜200g/m2の不織布又はフィルムよりなる基材上に、主成分がイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーである反応型ホットメルト接着剤が塗工され、その上にカルボキシル基を含む吸水性高分子が30〜400g/m2配置され、前記反応型ホットメルト接着剤によって固定保持されたことを特徴とする吸水シート、(7)例えば特開平7−323498号公報に記載の不織布で構成される吸水層の上面に、ポリエチレン等の合成樹脂で構成される波形(凹凸)形状の有孔性フィルムを重合して形成してなる吸水シート、(8)例えば特開2000−135753号公報に記載の吸水性に富むシート状の吸水材の上面に、大豆殻を主成分として成形した凹凸表面を有する不透明でシート状の発泡成形材を重合してなり、少なくとも前記発泡成形材に複数の透水孔を形成したことを特徴とする吸水シート、(9)例えば特開平6−153779号公報に記載の抗菌性および揮散性を有するイソチオシアン酸エステル類等の抗菌性成分のサイクロデキストリン包接物(以下、CD包接物と略すことがある。)が、シート材料内部に散在して含有、あるいはシート材料表面または層間にウレタン系樹脂バインダー等を塗膜層として設けられた吸水性シート、(10)例えば特開平11−89548号公報に記載の抗菌性及び揮発性を有する油状抗菌剤を包接したサイクロデキストリン包接物とカルシウム粒子とを天然樹脂バインダーをアルコール系溶剤に混合した混合液中に分散し、前記分散液を吸水性シート状部材に塗布したことを特徴とする抗菌性吸水シート、(11)ペット用などのポリマーを用いた吸水シートなど、水分を吸収することができ、かとう性のあるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の吸水シートを好適に用いることができる。
【0025】
〔本発明のインレーの製造方法〕
以下、本発明のインレー製造用穴開きリングを用いた歯科用MODインレーの製造方法を説明する。しかしながら、本発明は、歯科用MODインレーの製造に用いられるものに限定されない。なお、以下Sはステップ(工程)を表す。
【0026】
通常は、虫歯が診断され、虫歯部分が削り取られていることが前提条件である。むし歯を削り取った歯の凹みが窩洞と呼ばれる。本発明は、特に小さな鋳造体の1個内において膨張させるべき部位と収縮させるべき部位とが共存しているMODインレーの製造に好適に用いることができる。
【0027】
〔印象工程〕
印象工程では、石膏模型を作るための歯型を作成する。
削った虫歯部分(窩洞)およびその周囲に印象材をいれる(S1)。この際の印象材としては公知の印象材を用いることができる。
印象材を窩洞に充填したまま数分間放置する(S2)。
数分間放置しある程度印象材が固化した後に、印象材を歯から取り出す(S3)。
【0028】
〔石膏模型作製工程〕
石膏模型作製工程では、窩洞およびその周囲の石膏模型を制作する。
すなわち、固化させた印象材に石膏を流し、固化させることにより石膏模型を得る(S4)。その際、インレーの辺縁部を作りやすい様にするために、石膏模型の歯肉部分を削り取ってもよい。また、作成が終了した時に、石膏模型から原形をはずしやすくするために、石膏模型の窩洞内に分離剤としてセップを塗ってもよい。
【0029】
〔ワックスアップ〕
その後、インレーワックスを火にあびせて軟化させ、それを直接、石膏模型のうちインレーを形成する歯部分にに圧接し、ワックスが固着するまで圧入する(S5)。
ワックスが固着したら、咬合面の細かい部分を彫刻する(S6)。
【0030】
〔埋没工程〕
蝋型(ワックスパターン)が出来上がったら、その蝋型(ワックスパターン)に、直径1.0〜1.2mm程度の金属線を焼き付け、ワックスパターンを植立し、窩洞より取り出す(S7)。この金属線をスプルー線と言う。スプルー線は、鋳造時に溶けた金属が流れる道(湯道)となる。ワックスパターンを植立したスプルーをフォーマー(台)に立てる。台の形状としては、例えば、円錐上のものや、三角錐形状のものや、半球状のものが挙げられるが、半球状のものが好ましい。
【0031】
次に、鋳造用リングを蝋型の大きさなどに合わせて選択し、リング内の蝋型の位置を規定する(S8)。鋳造用リングには、注入する埋没材の擬固膨張や加熱膨張を制御できるように、好ましい開放率を持った鋳造用リングを選択する。開放率を調整できる鋳造用リングを用いる場合は、好ましい開放率なるよう調整する。一般に蝋型は、中央に位置させ、空気の脱出や金属が流れ込む時の圧力などの点を考えて、リングの底面と蝋型との距離を6mm程度にするのがよい。
【0032】
次に、鋳造用リングに防水シートを巻きつける(S9)。従来は、鋳造用リングにアスベストリボンを内張りしていたが、本発明では、防水シートを用いるためにアスベストリボンは、必ずしも用いる必要はない。従来用いられていたアスベストは、発ガン性物質として知られており、アスベストを使用しないことで、インレー製造者が安全に作業できることとなる。
【0033】
蝋型の埋没方法は、まず埋没材をエバンスなどで蝋型に塗り、気泡を作らないようにコーティングし、さらに一様の厚さに埋没材を塗布し、ただちにリングを装して残りの埋没材を空所に注入して完了する(S10)。
【0034】
鋳型を作るために埋没材をリング内に流し込むのである。埋没材は、熱膨張をするためにクリストバライト(融点241℃〜273℃)、や石英(融点573℃)で変態して大きくなるシリカを混合して用いる。これらの粉末を結合させるために石膏を用いる。この石膏は、硬化する際に、膨張するが、その膨張率は石膏の含水率によって変化する。より具体的には、含水率が減少すると、石膏の膨張量は増大する。
【0035】
すなわち、吸水シートを用いて石膏から水分を奪うと、埋没材の硬化膨張が大きくなるのである。埋没材としては、石膏、石英、クリストバライトなどが挙げられるが、混水量が少なくてすみ、かつ固まるまで丈夫であるクリストバライトを使用することが好ましい。クリストバライトは、ケイ石粉末(SiO2)75%、半水石膏25%からなっている。ケイ石粉末は水と混和しても固まらない。そこで、結合材として石膏を加えている。
【0036】
一方、石膏だけでは火にかけたときに、熱膨張をおこすので、耐水性が強くしかも加熱膨張をするケイ石粉末が加えてある。クリストバライトを、所定の混水量で練和し、使用することが好ましい。この際、水分が多いと埋没材の膨張が少なく、水分が少ないと埋没材の膨張が大きいので、適切な水分量とすることが好ましい。混水比としては、標準混水比から±0.5の範囲が好ましく、±0.3であれば更に好ましく、±0.1であればより好ましい、具体的な混水比は、用いる埋没材にもよるが、一般に0.32〜0.38が挙げられる。
【0037】
埋没材は、水と十分に混練する必要があるが、混練時間としては13分以上が好ましい。本発明の鋳造用リングを用いると従来の鋳造用リングを用いた場合に比べ混練時間を短縮することができる。例えば、混練時間が13分から20分の埋没材を用いてもよい。
【0038】
埋没材が固まったら、リングを電気炉の中に入れ、リング全体が均等にかつ十分に熱せられるように、ゆっくりと加熱する(S11)。加熱が終了したら、鋳造を行う。
【0039】
〔鋳造工程〕
鋳造工程では、まず、るつぼ上で金属を溶かし、加熱したリングを炉から取り出して、リング受け皿上にのせ、るつぼをリングに押し付ける(S12)。
その後に、溶融金属を蝋型に流し込む(S13)。
鋳造したリングを室温にて放置する(S14)。
鋳造用リングが、十分にさめたら鋳造用リング内から鋳造物を取り出す(S15)。
蝋型から取り出した鋳造物に対し仕上げの研磨を行う。まず、スプルー線部分の金属を切除する(S16)。以上のようにして、歯科用インレーを得ることができる。
【0040】
点検、および研磨後、インレーと歯とをセメントなどで合着し完成させる。
【0041】
【実施例】
本発明を、実施例を用いて具体的に説明する。
【0042】
〔実施例1〕 吸水シートが埋没材の硬化膨張に及ぼす影響の検証試験
うす練り(混水比0.38)、標準(混水比0.35)、とかた練り(混水比0.32)の埋没材の練和泥に、吸水シートを上下、上、下と無しの各条件における90分後の硬化膨張を測定した。その結果を図5に示す。図5中、○(白丸:実施例1−1)は、吸水シートが鋳造用リングの上部および下部を取り巻いたのものを表し、▲(黒塗り三角:実施例1−2)は、吸水シートが鋳造用リングの下部を取り巻いたものを表し、△(中空き三角:実施例1−3)は、吸水シートが鋳造用リングの上部を取り巻いたものを表し、□(中空き四角:比較例1−1)は、吸水シートを用いなかったものを表す。
【0043】
図5から、かた練りした混和泥の上下に吸水シートをおいたものの膨張率が1.9%となり、うす練りの練和泥を用い、吸収シートを用いなかったものの約2倍の膨張率を示すことがわかる。また、図5から、吸水シートを用いたものの硬化膨張率が大きいことがわかる。さらに、吸水シートを用いる部位や、埋没材の混水比を制御することで、硬化膨張率を制御することができることがわかる。
【0044】
〔実施例2〕 吸水シートが電気炉投入時間に及ぼす影響の検証試験
標準混水比の練和泥(混水比0.35)を、(i)鉄製の鋳造用リング(比較例2−1)、(ii)紙製の鋳造用リング(比較例2−2)、および(iii)吸水シートを巻いた鋳造用リング(実施例2−1)に埋没した。練和開始10分から3分おきの22分まで埋没した鋳造用リングを700℃の電気炉に入れ、埋没材の崩壊やひび割れの状態を観察した。その結果を図6に示す。
【0045】
図6から、紙製や鉄製の鋳造用リングを用いて埋没したものは、練和開始後16分以内に700℃の電気炉に入れると、埋没材が崩壊したり、埋没材にひび割れが入ることがわかった。一方、吸水シートを巻いた鋳造用リングではひび割れが発生しないことがわかった。吸水シートを用いたものは従来の鉄製鋳造用リングなどに比べ、ひび割れを防止でき、また硬化時間が短くなることがわかる。吸水シートを用いたものでは、埋没材の練和開始後13分という早い時間のものから利用することができることがわかった。
【0046】
〔実施例3〕 穴明きリングと吸水シートがMODインレーの鋳造体における膨張率に及ぼす影響の検証試験
〔比較例3−1〕
図13に示される鉄製の鋳造用リングを用いてMODインレーを製造した。鋳造用リングの直径は40mm、高さは50mmであった。
【0047】
〔実施例3−1〕
図1aに示される鉄製の鋳造用リング(開放度80度)を用い、吸水シートとして、ペット用の吸水シート(NEWペットシート36(株式会社ボンビアルコン社製))を155mm×40mmに切断して用いた以外は、比較例3−1と同様にしてMODインレーを製造した。
【0048】
〔実施例3−2〕
図1bに示される鉄製の鋳造用リング(開放度160度)を用いた以外は実施例1と同様にしてMODインレーを製造した。
【0049】
〔実施例3−3〕
図1cに示される鉄製の鋳造用リング(開放度240度)を用いた以外は実施例1と同様にしてMODインレーを製造した。
【0050】
実施例3におけるMODインレー製造条件は以下のとおりである。埋没材として急速型クリストバライト埋没材であるノリタケFF(ノリタケ社製)を用いた。インレー用金属としてKメタル(Cu67重量%、Zn20重量%、Ag12重量%、Sn1重量%)を用いた。1/10テーパ付きクラウン金型を用いて、バイオレットのインレーワックスにてワックスパターンを製造した。コンピュータによりクラウンのワックスパターンと同じ寸法で頬舌部(各60度)の無い形態を作製した(図2)。図2は、MODインレーのワックスパターンを表す。図2aは下面図、図2bは正面図、図2cは側面図を表す。Dプロッター(MODELA PIX3 ローランド社製)により、ハードワックスからパターンを削りだした(図3)。図3は、ワックススパターンの図面に変わる写真である。このパターンをRTV系工業用シリコーンラバーで印象を取り、ワックスインジェクターによりMODインレーのワックスパターンを作製した。
【0051】
鋳造用リングの穴のあいた中心性をY軸、Y軸と直角となる線をX軸とし、ワックスパターンの頬舌方向と、X軸とを一致させるように植立した(図4)。図4中、1は、鋳造用穴開きリングを表し、4は吸水シートを表す。図4に示すように、頬と舌を結ぶ方向には、鋳造用リングの埋没材として、以下の混水比を有するものを用いた。(i)うす練り(混水比0.38)、(ii)標準(混水比0.35)、(iii)かた練り(混水比0.32)。
【0052】
以下の検証を行った。
1) クラウンのパターンによる鋳造体と金型の隙間
2) クラウンのパターンによる鋳造体の頬舌径
3) クラウンのパターンによる鋳造体の遠近心径
4) MODインレーのパターンによる鋳造体の頬舌径
5) MODインレーのパターンによる鋳造体の遠近心径
それらの結果を、図7〜図12に示す。
【0053】
図7、図8から、鋳造用リングの開放度と混水比とにより鋳造体の頬舌方向と近遠方向とで膨張率が異なることがわかる。
【0054】
MODインレーを鋳造する場合の、頬舌方向と、近遠方向における回帰式を求め図9、図10に示した。図11から、MODインレーにおいて、頬舌方向で、−1.47〜0.41%、近遠方向で−1.37〜+1.79%の範囲で膨張または収縮する鋳造体を製作することができることがわかる。
【0055】
図12から、クラウンのワックスパターンで作製した鋳造体は、MODインレーのワックスパターンで製造したものよりも近遠心的に収縮することがわかる。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、埋没材の膨張方向を制御することができ、同一の鋳造体において収縮させるべき部位と、膨張させるべき部位とを制御することができる鋳造用リングを提供できる。これにより、精度の高いMODインレーを製造できる。
【0057】
また、本発明によれば、早期の練和状態にある埋没材を用いるても適切なMODインレーを製造することができ、インレー製造の時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1a、図1b、図1cはそれぞれ開放度80度、160度、240度の鋳造用穴開きリングを表す。
【図2】 MODインレーのワックスパターンを表す。図2aは下面図、図2bは正面図、図2cは側面図を表す。
【図3】 ワックスパターンを表す図面に変わる写真である。
【図4】 ワックスパターンの植立状態を表す。
【図5】 混水比と吸水シートの硬化膨張に与える影響を表す。
【図6】 鋳造用リングの材質が電気炉投入時間に与える影響を表す。
【図7】 鋳造用リングの開放度が膨張率に与える影響を表す。
【図8】 混水比が膨張率に与える影響を表す。
【図9】 MODインレーによる頬舌方向の等膨張率曲線を表す。
【図10】 MODインレーによる近遠方向の等膨張率曲線を表す。
【図11】 MODインレーにおける鋳造体の寸法変化を表す。
【図12】 開放度240度の鋳造用リングを用いた鋳造体の膨張率を表す。
【図13】 従来の鋳造リングを表す。
【符号の説明】
1 鋳造用穴開きリング
2 側壁
3 開口部
4 吸水シート
5 鋳造用リング

Claims (6)

  1. 開口部を有する側壁を有し、前記開口部の側壁の面積に占める割合が、10%〜90%であり、
    更に、側壁に占める開口部の割合を調整する開口部調整手段を有し、製造すべきインレーの膨張または収縮させるべき範囲に応じて前記開口部調整手段によって開口部の割合を調整することができる、鋳造用穴開きリング。
  2. 開口部を有する側壁を有する二重の回転可能な中空円柱からなり、前記二重の側壁が回転することにより、側壁に占める開口部の割合を制御でき、直径が、30mm〜150mmである鋳造用穴開きリング。
  3. インレーを充填すべき部位に対して、膨張すべき部位と、収縮すべき部位と、を制御した歯科用MODインレーの製造に用いられる請求項1又は請求項2に記載の鋳造用穴開きリング。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鋳造用穴開きリングであって、形状記憶合金、または形状記憶プラスチックの製造に用いられる鋳造用穴開きリング。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の鋳造用穴開きリングと、当該鋳造用穴開きリングの側壁を取り巻く吸水シートと、を含む歯科用インレー製造システム。
  6. 請求項に記載のインレー製造システムを用いた歯科用MODインレーの製造方法であって、インレーを充填すべき部位に対してインレーを膨張させるべき部位に対しては、前記インレー製造用穴開きリングの側壁の開口部を合わせ、またはインレーを充填すべき部位に対してインレーを収縮させるべき部位に対しては、前記インレー製造用穴開きリングの側壁の開口部ではない部分を合わせ、前記リング内に埋没材を入れ埋没材を固化させ、前記埋没材の膨張部位および収縮部位を制御し、前記膨張部位および収縮部位を制御した埋没材に溶融金属を流し込み、固化させる工程を含む、インレーを充填すべき部位に対して、膨張すべき部位と、収縮すべき部位と、を制御した歯科用MODインレーの製造方法。
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