JP4282784B2 - 切羽養生方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はトンネル施工に際して適用される切羽崩落防止のための切羽養生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
既存の鉄道や道路の直下を横断するトンネルを施工するような場合に好適な工法として図7〜図9に示すものが実用化されている。これは、施工するべきトンネル1の輪郭位置に予め多数の小トンネル2を連続する状態で設けた後、それら多数の小トンネル2により囲まれた内側を掘削することでトンネル1を施工するようにしたものである。このような工法によれば、小トンネル2の連続により外形輪郭を先行施工することで、その内側を掘削する際における地盤の緩みを防止でき、地上における車両通行や既存構造物に対する悪影響を有効に防止し得るものである。この場合、それぞれの小トンネル2の施工は、図8および図9に示すように小断面(たとえば1000mm×800mm程度)の角形鋼管3を用い、これを地盤に圧入してはその先端の切羽4から土砂を取り除いて推進させるという推進工法により行なわれることが一般的である。
【0003】
ところで、既存の鉄道の直下にトンネルを施工するような場合には、その作業は鉄道車両の運行時を避けて行なう必要があり、そのため上記の推進工法により小トンネル2を施工する作業も鉄道車両の非運行時間帯である深夜から早朝の時間帯に制限されることが一般的である。そして、そのような条件により小トンネル2の施工を断続的に行なう場合においては、作業終了時に切羽4に対する崩落防止のための養生を行なうことが不可欠である。切羽4に対して何等の養生を行なわない場合には、昼間時における鉄道車両の通行によって切羽4が崩落する懸念があり、それによる地盤の緩みが懸念されるからである。
【0004】
このため従来一般には、図8および図9に示すように、作業終了時点で切羽4に土嚢5を積み上げるとともに、積み上げた土嚢5を支持するための支持板6を鋼管3の先端部に設置し、それら土嚢5および支持板6によって切羽4の崩落を防止するようにしている。支持板6としては9mm厚程度の鋼板を用いることとし、これを鋼管3内に強固に立て込むために、鋼管3内の両側壁にアングル材7を溶接等により固定し、それらアングル材7間に角パイプ材からなる横架材8を架け渡して支持板6を背面側から支持するようにしている。さらに、横架材8と支持板6との間にキャンバー(くさび)9を打ち込み、支持板6を土嚢5に対して緩みなく押し付けるようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような土嚢5による従来の切羽養生方法では、作業終了時および作業開始時にそれぞれ重量物である土嚢5を多数積み上げる作業とそれを撤去する作業が必要であり、しかもその作業は小断面の鋼管3内において不自然な姿勢で行なわねばならないからきわめて重労働かつ非能率的な作業であった。さらに、土嚢5を完全に隙間なく積み上げることは必ずしも容易ではないから、切羽4の軽微な崩落も完全には防止し得ない懸念もあり、したがって有効な改善策が必要であるとされていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、切羽養生をより簡単にかつ確実に行ない得る有効な方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、膨張することで切羽全体を支持可能な袋体を収縮させた状態で切羽に面する位置に配するとともに、前記袋体の上部背面側には後方に延出させたゴム板を取り付け、前記袋体が膨張した際にその膨張反力を受けるための支持板を設け、前記ゴム板を前記支持板上部に係止させることで前記袋体を前記支持板に保持させつつ前記袋体の後方位置においてトンネル先端部を塞ぐ状態で前記支持板を設置し、前記袋体内に流体を加圧注入して該袋体を前記支持板と切羽との間で膨張せしめることにより、該袋体により切羽を支持してその崩落を防止することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記流体として水を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、発泡材からなる充填材を切羽に面する位置に充填するとともに、膨張することで前記充填材を押圧する袋体を収縮させた状態でその後方位置に配し、かつ、該袋体が膨張した際にその膨張反力を受けるための支持板を該袋体の後方位置においてトンネル先端部を塞ぐ状態で設置し、前記袋体内に流体を加圧注入して該袋体を前記支持板と前記充填材との間で膨張せしめることにより、該袋体により前記充填材を介して切羽を支持してその崩落を防止することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記充填材として、切羽と前記袋体との間に密に積層される発泡スチロール板を用いることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項3の発明において、前記充填材として、多量の発泡スチロール粒を収納袋に収納したものを用いることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項3,4または5の発明において、前記流体として空気を用いることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を上述のトンネル施工法において鋼管3を推進させることにより小トンネル2を施工する場合に適用した実施形態を図面を参照して説明する。なお、従来のものと共通の構成要素には同一符号を付してある。
【0014】
まず図1〜図4を参照して第1実施形態を示す。これは、膨張収縮可能な袋体10を用い、その袋体10を切羽4に面して配してその内部に水を加圧注入することにより膨張させるとともに、その袋体10の膨張反力を支持板6により受けることにより、袋体10によって切羽4を支持してその崩落を防止するものである。
【0015】
上記の袋体10はたとえばナイロン材、塩化ビニル材、ゴム材、ゴム引き材等の柔軟性、水密性、および十分な強度を有する薄い膜材や布材、シート材が縫合あるいは接着されて形成されてなるもので、水が加圧注入されることで膨張するとともに、水が排出されることで小さく収縮し得るものである。本例における袋体10は図3に示すように膨張した状態において角形箱状をなすものとされているが、その形状および寸法は、施工するべき小トンネル2の断面形状や支持板6の設置位置等を考慮し、切羽4と鋼管3先端部ならびに支持板6により囲まれて形成される空間よりも大きく膨張し得るものとしておけば良い。
【0016】
上記の袋体10の背面(支持板6側の面)には給水管11および排水管12を接続するための2本の接続管13が設けられている。これら接続管13は図4に示すようにフランジ付き短管13aと締め込みフランジ13bによって袋体10を内外から挟み込むことで取り付けられている。これら接続管13の口径はたとえば15〜25φ程度とすれば良く、これらには給水管11あるいは排水管12としてのホースがバンド14により締め付けられることにより着脱自在に接続されるようになっている。
【0017】
また、袋体10の上部背面側には、この袋体10を支持板6により保持するために用いる厚さ2mm程度のゴム板15が後方側に延出する状態で取り付けられている。なお、袋体10を補強する目的でその各面、特に底面に同様のゴム板を適宜貼り付けても良い。
【0018】
トンネル施工を終了した時点において上記の袋体10を用いて切羽養生を行なうには、袋体10を収縮させた状態として切羽4に面する位置に配置し、その後方に従来と同様にして支持板6を建て込む。すなわち、図2に示すように、従来と同様に2枚の鋼板からなる支持板6を建て込むとともに、アングル材7によって両端部が支持されることで鋼管3内に架け渡される横架材8により背面側から支持し、それら支持板6により小トンネル2の先端部を塞ぐ状態で設置する。
【0019】
なお、支持板6を建て込む際には、袋体10の上部背面側に取り付けられているゴム板15を支持板6上部と鋼管3上面との間に挟み込むことにより、収縮している状態の袋体10を支持板6の内側に保持するようにする。
【0020】
また、支持板6には給水管11および排水管12を通すための開口部6aを切り欠いて(もしくは穴明けにより)設けておき、これら支持板6を建て込む際には予め袋体10に接続しておいた給水管11および排水管12をそれらの開口部6aを通すこととする。あるいは、支持板6を建て込む際に袋体10の背面側に突出している上記の接続管13を開口部6a内に位置せしめるようにし、支持板6を建て込んでからその接続管13に給水管11および排水管12を接続しても良い。そして、図1に示すように給水管11にバルブ16a,16bを介して水圧計17を取り付けるとともに、排水管12にはバルブ18を介して排水ポンプ19を接続する。
【0021】
次いで、給水管11を水道管あるいはより高圧が要求される場合には加圧給水ポンプに接続し、排水管12のバルブ18を閉じた状態で、給水管11を通して袋体10内に水を加圧注入し、袋体10を膨張させる。水圧計17を監視して所望の内圧に達したら給水を停止してバルブ16bを閉じ、その状態を保持する。これにより袋体10は切羽4および鋼管3と支持板6とにより囲まれる空間内全体にわたるように膨張し、その膨張反力は支持板6によって受けられ、これにより袋体10によって切羽4が支持されてその崩落が防止される。なお、袋体10の内圧は地盤の状況等を考慮して切羽崩落を有効に防止し得るように最適に設定すれば良い。
【0022】
トンネル施工を再開するに際して養生を解除するには、給水管11を解放し、排水管12のバルブ18を開き、排水ポンプ19により排水管12を通して袋体10内から水を排水して袋体10を収縮させるとともに、支持板6を解体して撤去し、袋体10を取り出せば良い。
【0023】
上記方法によれば、袋体10に水を加圧注入して膨張させるのみでその袋体10により切羽4を支持し得てその崩落防止養生を行なうことができ、従来の土嚢5を積み上げる場合に比較して格段に作業性を改善することができる。また、切羽4と鋼管3と支持板6とにより囲まれる空間の形態に倣って袋体10が自由に膨張するから、その空間全体が自ずと袋体10により完全に隙間なく塞がれることになり、軽微な崩落も生じる余地がない。同様の理由により、支持板6は袋体10によって自ずと横架材8に押圧されるから、従来において支持板6を土嚢5に対して押し付けるために必要であったキャンバー9は省略して良い。
【0024】
そして、上記方法においては、支持板6およびそれを設置するためのアングル材7や横架材8は従来のものをそのまま転用することができるし、給水管11や排水管12、水圧計17、排水ポンプ19(自然排水させることが可能であれば排水ポンプ19は省略可能である)等は汎用製品を使用可能であって何等特殊なものを必要とせず、袋体10自体も安価に製作可能であるから、従来の土嚢5を用いる場合に比較してコストが大きく増大することもない。
【0025】
なお、上記の袋体10を収縮させた状態においてその内部に空気が残っていると、袋体10内に水を完全注入することができず好ましくないから、袋体10を収縮させた状態においては可能な限り空気を抜いておく(理想的には真空状態としておく)ことが好ましい。あるいは、水を注入する際に袋体10内から空気を抜くための空気抜きを袋体10の最頂部となる位置に設けておくことも考えられる。その場合、上記の給水用および排水用の2本の接続管13の他に空気抜きを設けることでも良いが、袋体10の最頂部に空気抜きを設けるとともに最底部に給水口と排水口を兼ねる接続口を設けておき、その接続口に給水管11と排水管12を選択的に接続することも考えられる。そのようにすれば、袋体10を膨張させる際には接続口に給水管11を接続して空気抜きから空気を放出しながら水を注入し、収縮させる際には接続口に排水管12を接続して空気抜きから空気を流入させながら水を放出することができる。
【0026】
また、袋体10を膨張させるための加圧流体としては上記のように水を用いることが最も簡便かつ安価であるので最適であるが、場合によっては空気や圧油等の他の加圧流体を使用することを妨げるものではない。さらに、袋体10の膨張反力を受けるための支持板6やその設置形態も、膨張反力を確実に受けることができるものであれば上記構成に限定されることなく適宜の変更が可能であることは当然である。
【0027】
以上で本発明の第1実施形態を説明したが、次に図5を参照して第2実施形態を説明する。上記第1実施形態では膨張させた袋体10によって切羽4を直接的に支持するようにしたが、本第2実施形態では切羽4に面する位置に充填材20を充填するとともに、その充填材20と支持板6との間に袋体21を配し、その袋体21を膨張させることで充填材20を前方に押圧するとともにその膨張反力を支持板6により受けることで、充填材20を介して間接的に袋体21により切羽4を支持して崩落を防止するようにしたものである。この場合、充填材20としては従来の土嚢5に比較して格段に軽量で取り扱いが容易なものとして、十分に軽量でありながら優れた圧縮強度を有する発泡スチロール板を採用し、それを隙間なく積み重ねて用いるようにしている。また、上記第1実施形態では袋体10を膨張させるための加圧流体として水を採用したが、本第2実施形態では袋体21に空気を吹き込むことで膨張させるものとし、その袋体21として足踏み式の簡便なフットポンプ22により空気管23を通して空気を加圧注入することで膨張させるいわゆるエアジャッキを採用している。
【0028】
本第2実施形態においても、充填材20を介して間接的ではあるが袋体21によって切羽崩落を防止できる効果を奏することはもとより、充填材としてきわめて軽量な発泡材を用いているので、従来の土嚢5を積み上げる場合に比較して作業性を格段に改善することができる。また、袋体21を空気により膨張させる、つまり加圧流体として空気を利用することにより、汎用のエアジャッキを使用することも可能であることから第1実施形態に比較して構成および作業手順がより簡略化される利点がある。ただし、必要であれば高圧ブロワを用いて袋体21を膨張させるようにしたり、空気に代えて水や圧油その他の加圧流体を用いて袋体21を膨張させて良いことは当然である。
【0029】
さらに、図6は第3実施形態を示すものであり、これは第2実施形態における発泡スチロール板に代えて、小径の発泡スチロール粒24を多量に収納袋25に収納したもの(いわゆるビーズクッションのごとき形態のもの)を充填材26として採用したものである。この場合も第2実施形態と同様の効果が得られるとともに、この充填材26を切羽4に配する作業がより簡単になり、しかもその充填材26の形態は切羽4と鋼管3と袋体21とにより囲まれる空間の形態に自ずと倣うから隙間が生じる余地がない。
【0030】
以上、鋼管3を推進工法によって推進させることで小トンネル2を施工するに際して本発明を適用する場合の実施形態について説明したが、本発明はそのような小トンネル2の施工に際して適用されるのみならず、切羽崩落防止のための養生が必要である場合には規模や用途の如何に拘らずに広く適用できることはいうまでもない。
【0031】
【発明の効果】
以上で説明したように、請求項1の発明は、袋体の上部背面側に後方に延出させたゴム板を取り付け、そのゴム板を支持板上部に係止させることで袋体を支持板に保持させつつ支持板を袋体の後方位置においてトンネル先端部を塞ぐ状態で設置し、その状態で袋体を膨張させるとともにその膨張反力を支持板により受けることで袋体により切羽を支持してその崩落を防止するので、従来の土嚢を積み上げる場合に比較して格段に作業性を改善することができる。特に、請求項2の発明のように袋体を膨張させるための加圧流体として水を用いれば、何等格別かつ複雑な装置を必要としないし作業手順も簡便である。
【0032】
また、請求項3の発明は、発泡材からなる充填材を切羽に充填し、袋体を膨張させることで充填材を押圧するとともに袋体の膨張反力を支持板により受けるようにしたから、袋体により充填材を介して間接的に切羽を支持してその崩落を防止 できることはもとより、充填材として軽量で取り扱いが容易でありしかも十分な強度を有する発泡材を用いることにより、従来の土嚢を用いる場合に比較して格段に作業性を改善することができる。特に、請求項4の発明のように充填材として発泡スチロール板を用いればそれを単に積層するのみで良く、また請求項5の発明のように充填材として発泡スチロール粒を多量に収納袋に収納した形態のものを用いれば切羽への充填作業がより容易であるとともに隙間が生じる余地がなく、さらに請求項6の発明のように袋体を膨張させるための加圧流体として空気を用いればより簡便かつ安価にでき、汎用のエアジャッキも採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態である切羽養生方法を実施している状態を示す全体図である。
【図2】 同、要部斜視図である
【図3】 同方法において用いる袋体を示す図である。
【図4】 同袋体の要部断面図である。
【図5】 本発明の第2実施形態である切羽養生方法を実施している状態を示す全体図である。
【図6】 本発明の第3実施形態である切羽養生方法を実施している状態を示す全体図である。
【図7】 トンネル施工法の一例を示す図である。
【図8】 従来の切羽養生方法を実施している状態を示す全体図である。
【図9】 同、正面図である。
【符号の説明】
2 小トンネル(トンネル)
4 切羽
6 支持板
10 袋体
20 充填材(発泡スチロール板)
21 袋体
24 発泡スチロール粒
25 収納袋
26 充填材
Claims (6)
- トンネル施工における切羽崩落防止のための切羽養生方法であって、膨張することで切羽全体を支持可能な袋体を収縮させた状態で切羽に面する位置に配するとともに、前記袋体の上部背面側には後方に延出させたゴム板を取り付け、前記袋体が膨張した際にその膨張反力を受けるための支持板を設け、前記ゴム板を前記支持板上部に係止させることで前記袋体を前記支持板に保持させつつ前記袋体の後方位置においてトンネル先端部を塞ぐ状態で前記支持板を設置し、前記袋体内に流体を加圧注入して該袋体を前記支持板と切羽との間で膨張せしめることにより、該袋体により切羽を支持してその崩落を防止することを特徴とする切羽養生方法。
- 前記流体として水を用いることを特徴とする請求項1記載の切羽養生方法。
- トンネル施工における切羽崩落防止のための切羽養生方法であって、
発泡材からなる充填材を切羽に面する位置に充填するとともに、膨張することで前記充填材を押圧する袋体を収縮させた状態でその後方位置に配し、かつ、該袋体が膨張した際にその膨張反力を受けるための支持板を該袋体の後方位置においてトンネル先端部を塞ぐ状態で設置し、前記袋体内に流体を加圧注入して該袋体を前記支持板と前記充填材との間で膨張せしめることにより、該袋体により前記充填材を介して切羽を支持してその崩落を防止することを特徴とする切羽養生方法。 - 前記充填材として、切羽と前記袋体との間に密に積層される発泡スチロール板を用いることを特徴とする請求項3記載の切羽養生方法。
- 前記充填材として、多量の発泡スチロール粒を収納袋に収納したものを用いることを特徴とする請求項3記載の切羽養生方法。
- 前記流体として空気を用いることを特徴とする請求項3,4または5記載の切羽養生方法。
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