車両の運動制御装置としては、例えば、下記の特許文献1に記載のように、車両の目標ヨーレイトを設定し、車両の実ヨーレイトとの比較結果に応じて制動力を制御し車両運動時の安定性を維持する車両運動制御装置が知られている。
そして、例えば下記の特許文献2には、「車両の姿勢制御が行われているときでもブレーキペダルを踏込み可能なようにしつつ、そのドライバ自身によるブレーキ操作によっても姿勢制御を行い得るようにすること」を目的とした車両の姿勢制御装置が提案されている。具体的には、「マスタシリンダに対し上記4つのブレーキシリンダの内の一対づつを個別に連通させる2系統のブレーキ配管と、この各系統のブレーキ配管と上記マスタシリンダとの間を開閉可能に遮断する一対のカットバルブと、上記2系統のブレーキ配管に対し個別にブレーキ圧を供給可能に配設された液圧源とを備え」、「上記姿勢制御手段として、上記一対のカットバルブを共に閉作動状態にして上記マスタシリンダと全ブレーキシリンダとを遮断状態にすることにより、各ブレーキシリンダに対し上記液圧源からブレーキ圧を個別に供給するよう制御する基本制御部と、ドライバによるブレーキ操作が上記ブレーキ操作検出手段により検出されたとき、上記一対のカットバルブの内の一方を開放状態に切り替えるよう制御する開作動制御部とを備える構成」が開示されている。
また、下記の特許文献3には、トラクションコントロール装置及び/又はビークルダイナミックコントロール装置を備えた車両ブレーキ装置が開示され、次のように説明されている。即ち、「ブレーキ圧形成のために各ブレーキ回路に付加ポンプを有しており、そして付加ポンプはマスタブレーキシリンダに直接的に接続されている。付加ポンプの吸込み側とマスタブレーキシリンダとの間には、絞りとして作用しひいてはブレーキ圧形成を遅らせる可能性のあるハイドロリック式の構成エレメントは配置されていない」とし、更に「本発明には、マスタブレーキシリンダの不操作時における迅速なブレーキ圧形成という利点がある」として、付加ポンプの吸込み側の改良とそれによる効果が説明されている。
更に、特許文献3には、差圧弁に関し、「切換え弁14は制御可能な差圧弁として形成されており、つまりホイールブレーキシリンダ側とマスタブレーキシリンダ側との間における圧力差は調節可能であり、この場合ホイールブレーキシリンダ側における圧力の方が高い。図示の実施例において切換え弁14は、差圧に対して正比例する電磁弁である」と記載され、「車輪のうちの1つにおいてロック傾向又はスリップが生じると、又は電子制御装置30がそのジャイロスコープ34を用いて車両の横滑りのおそれを認識すると、ポンプモータ26が投入接続される。車輪個々のブレーキ圧調整は自体公知の形式で戻しフィードポンプ24、ブレーキ圧形式弁18及びブレーキ圧降下弁20を用いて行われる」旨、記載されている。
一方、下記の特許文献4には、ブレーキバイワイヤシステムに供するリニア差圧弁が開示されている。このリニア差圧弁については、同特許文献3の図1に示され、「リニア差圧弁20、21は、弁体の連通位置ではリザーバ2と各ホイールシリンダ3、4との間のブレーキ液の流動をほぼ流動抵抗の無い状態で許容する。また差圧位置に弁体が存在する状態はソレノイドへ指令される通電電流値によって制御され、弁体の弁座からのリフト量が調整される。そして差圧位置では、このリフト量に応じて、管路52、53の完全遮断状態から絞り状態を調整できる。たとえば、リフト量が弁座からの中間位置程度であれば、管路の絞り状態であり、ホイールシリンダ3、4側からリザーバ2側へのブレーキ液の流動を制限することにより、ホイールシリンダ3、4側のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)をリザーバ2側との差圧をもって保持することができる」と説明されている。更に、下記の特許文献5には、ブレーキ液収容時に液圧ポンプの吸引側連通路の遮断機能を有するリザーバ(特許文献5の図6に200で示す)が開示されている。
また、下記の特許文献6においては、車両の運動制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合に、減速応答性を向上させるため、車輪制動力検出手段により車両の各車輪に作用する制動力を検出し、運動制御手段による制御中に運動制御手段の制御対象でない非制御車輪の制動力が制御対象である制御車輪の制動力を越えた時に、運動制御手段による制御車輪の制御を禁止するように構成された車両の運動制御装置が提案されている。そして、運動制御手段は、車両のヨーモーメントを安定方向に修正するため全車輪のうち第1の車輪に制動力を付与する回頭制御手段と、車両を減速させるために全車輪のうち第1の車輪を除く第2の車輪に制動力を付与する減速制御手段によって構成されている。
更に、上記の車輪制動力検出手段として、特許文献6には、車輪速度センサにより検出された各車輪の減速度を演算する車輪減速度演算手段が例示され、マスタシリンダ圧センサやホイールシリンダ圧センサ等の高価な圧力センサを使用する必要がないとしている。具体的には、ブレーキスイッチ(ストップスイッチ)のオン時間が所定時間以上で、非制御輪の加速度が所定値より小さく、且つ非制御輪の加速度が減速制御輪の加速度より小さいときには、減速制御が禁止されるように構成されている。
そして、下記の特許文献7には、急激な車両の挙動変化なく且つブレーキの引きずり感なく旋回制御を終了可能とすることを企図した車両の旋回制御装置が提案されている。同装置は、車両の運転状態及び車両の挙動の少なくとも一方に応じて車両の所定の車輪間に制動力差を発生させて車両のヨー運動を制御する制御手段を備えるとともに、所定の車輪の制動力が所定時間以上に亘り保持されたとき、或いは車輪の制動力が非制御の状態になってから所定時間以上経過したときにヨー運動の制御終了と判定する判定手段と、車両の挙動が安定しているときには所定時間を短縮設定する短縮手段とを備えている。
特許第3058172号公報
特開平10−211873号公報
特表2000−503279号公報
特開平11−301435号公報
特開平9−240455号公報
特開平10−24821号公報
特開平8−332932号公報
上記特許文献2及び3に記載の装置においては、何れも、車両運動時の安定性を維持する制御(以下、車両の安定化制御という)を行なう場合には、マスタシリンダとの連通を遮断した状態で、液圧ポンプの出力液圧を供給し、これをブレーキ圧形成弁(増圧弁)とブレーキ圧降下弁(減圧弁)を開閉制御することを前提としている。このため、特許文献2に記載のように、安定化制御中にブレーキ操作に応じて出力されたマスタシリンダ液圧を検出するマスタシリンダ液圧センサが必要となり、特許文献3に記載の装置においても、同様の液圧センサが必要となるものと推測される。
このようなマスタシリンダの液圧を検出する液圧センサは非常に高価であり、これに代えてブレーキペダルの操作に応じてオンオフするストップスイッチを利用できれば、これを用いることにより、あるいは、車両の安定化制御中にブレーキペダルが操作されたことを検出する必要がなければ、これを省略することにより大幅なコストダウンが可能となる。これに対し、例えば、特許文献4に記載のようなリニア差圧弁、あるいは従来周知のリニア電磁弁等を活用すると共に、車両の安定化制御における開閉弁等の制御形態を従前の制御形態とは異なるものとすることにより、マスタシリンダ液圧センサを設けることなく、円滑に車両の安定化制御を行なうことが可能となる。
上記安定化制御における開閉弁等の制御形態として、例えば、ホイールシリンダに連通する液圧系統を、夫々一対のホイールシリンダを含む液圧系統に二分し、各液圧系統の一対のホイールシリンダとマスタシリンダとの間に液圧調整装置を介装し、各液圧系統の一方のホイールシリンダを制御対象として車両の状態量に応じてブレーキ液圧を調整して、所謂対角制御を行うことにより、マスタシリンダ液圧センサを設けることなく、円滑に車両の安定化制御を行なうことができる。しかし、このような対角制御によって車両の安定化制御を行なっている場合において、ブレーキペダルが操作されて制御終了とされると、制御対象でない側のホイールシリンダに対し一挙にマスタシリンダ液圧が供給され、急激に大きな制動力が付与されることによって安定化制御が円滑に終了しなくなるおそれがある。
尚、前掲の特許文献6においては、マスタシリンダ圧センサやホイールシリンダ圧センサ等の高価な圧力センサを使用することなく、非制御車輪の制動力が制御対象である制御車輪の制動力を越えた時に、運動制御手段による制御車輪の制御を禁止する旨記載されているが、これは非制御車輪と制御車輪の制動力の比較結果に応じた減速制御であり、ブレーキペダル操作に応じたブレーキ液圧の増加を直接利用するものではない。
また、特許文献7には、所定の車輪の制動力が所定時間以上に亘り保持されたとき、或いは車輪の制動力が非制御の状態になってから所定時間以上経過したときにヨー運動の制御終了と判定し、車両の挙動が安定しているときには所定時間を短縮設定する装置が開示されているが、上述のような所謂対角制御において、ブレーキペダルが操作された状態で安定化制御を終了させたときに、非制御対象の車輪に対し急激に大きな制動力が付与されることを考慮したものではなく、また、これに対応し得るものでもない。
そこで、本発明は、マスタシリンダ液圧センサを必要とすることなく、簡単な構成で適切に車両の安定化制御を行うと共に、ブレーキペダルが操作された状態で安定化制御を終了させるときにも、非制御対象の車輪に対し適切に制動力を付与し円滑に制御を終了させ得る安価な運動制御装置を提供することを課題とする。
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、車両の各車輪に装着するホイールシリンダと、該ホイールシリンダに連通する液圧系統を、夫々一対のホイールシリンダを含む液圧系統に二分し、各液圧系統に対しブレーキペダルの操作に応じてブレーキ液圧を供給するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記各液圧系統の一対のホイールシリンダとの間に介装し、前記ホイールシリンダの各々に供給するブレーキ液圧を調整する液圧調整手段と、前記車両の状態量を検出する車両状態量検出手段と、該車両状態量検出手段の検出結果に基づき前記各液圧系統のうちの一方のホイールシリンダを制御対象として制御目標を設定する制御目標設定手段と、通常時は前記一方のホイールシリンダを含む液圧系統のうちの他方のホイールシリンダのブレーキ液圧を前記マスタシリンダの出力ブレーキ液圧より低圧の保持圧として保持すると共に、前記制御目標設定手段が設定した制御目標と前記車両状態量検出手段の検出状態量の比較結果に応じて前記液圧調整手段を制御して少なくとも前記一方のホイールシリンダのブレーキ液圧を前記マスタシリンダの出力ブレーキ液圧より高圧の値に調整し、前記ブレーキペダルを操作した状態で、前記一方のホイールシリンダのブレーキ液圧調整を終了するときには、前記他方のホイールシリンダのブレーキ液圧が、前記保持圧から前記制御目標と前記車両状態量検出手段の検出状態量の比較結果に応じて設定する緩やかな増圧勾配で増圧するように、前記液圧調整手段を制御する制御手段とを備えることとしたものである。尚、ブレーキペダルの操作状態は、ブレーキペダルの操作に応じてオンオフするストップスイッチ、あるいは非制御輪のスリップ状態によって検出することができる。
前記車両状態量検出手段は、請求項2に記載のように、前記車両の実ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段を備えたものとし、前記制御手段は、前記制御目標として目標ヨーレイトを設定する目標ヨーレイト設定手段と、該目標ヨーレイト設定手段が設定した目標ヨーレイトと前記ヨーレイト検出手段が検出した実ヨーレイトとの偏差を演算するヨーレイト偏差演算手段と、該ヨーレイト偏差演算手段が演算したヨーレイト偏差に応じて、前記他方のホイールシリンダのブレーキ液圧の増圧勾配を設定し、該増圧勾配に基づき前記液圧調整手段を制御するように構成することができる。
前記各液圧系統の液圧調整手段は夫々、請求項3に記載のように、前記マスタシリンダと前記各液圧系統の一対のホイールシリンダとの間に介装し、開位置にあるときには前記マスタシリンダのブレーキ液圧を前記ホイールシリンダの各々に供給する常開の開閉弁と、該常開の開閉弁と前記ホイールシリンダの各々との間に接続し、開位置にあるときには前記ホイールシリンダの各々を減圧する常閉の開閉弁と、前記マスタシリンダと前記各液圧系統の常開の開閉弁との間に介装し、前記マスタシリンダ側の液圧と前記常開の開閉弁側の液圧との差圧を所望の圧力に調整する比例差圧弁手段と、前記マスタシリンダとは独立し前記ブレーキペダルの操作とは無関係にブレーキ液圧を発生し、前記比例差圧弁手段と前記各液圧系統の常開の開閉弁との間にブレーキ液圧を供給する自動液圧発生装置とを備え、前記制御手段が、通常時は前記他方のホイールシリンダに接続された常開の開閉弁を閉位置とした状態で、前記制御目標と前記車両状態量検出手段の検出状態量の比較結果に応じて、前記自動液圧発生装置を駆動制御すると共に、前記一方のホイールシリンダに接続された常開の開閉弁を開位置とした状態で前記比例差圧弁手段を駆動制御し、前記ブレーキペダルを操作した状態で、前記一方のホイールシリンダのブレーキ液圧調整を終了するときには、前記他方のホイールシリンダのブレーキ液圧が、前記制御目標と前記車両状態量検出手段の検出状態量の比較結果に応じて設定する緩やかな増圧勾配で増圧するように、前記他方のホイールシリンダに接続された常開の開閉弁及び常閉の開閉弁をデューティ制御するように構成するとよい。
前記比例差圧弁手段は、請求項4に記載のように、前記マスタシリンダと前記各液圧系統の常開の開閉弁との間に介装し、前記制御手段によって、前記マスタシリンダ側の液圧と前記常開の開閉弁側の液圧との差圧を所望の圧力に調整する比例電磁弁と、該比例電磁弁に並列に配置し、所定の上限圧で前記常開の開閉弁側から前記マスタシリンダ側へのブレーキ液の流れを許容するリリーフ弁を備えたものとするとよい。あるいは、前記比例差圧弁手段は、請求項5に記載のように、前記マスタシリンダと前記各液圧系統の常開の開閉弁との間に介装し、前記制御手段によって連通位置と差圧位置を切り換え、差圧位置では前記マスタシリンダ側の液圧と前記常開の開閉弁側の液圧との差圧に応じて流路を制限し所望の圧力に調整する比例差圧弁を備えたものとしてもよい。
上記の車両の運動制御装置において、請求項6に記載のように、前記常閉の開閉弁に接続し、前記ホイールシリンダの減圧時のブレーキ液を貯留するリザーバを備えたものとし、前記自動液圧発生装置を、前記制御手段の出力に応じて前記リザーバ及び前記マスタシリンダの少なくとも一方のブレーキ液を吸入して昇圧しブレーキ液圧を出力する液圧ポンプを具備したものとすることができる。
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の車両の運動制御装置においては、車両状態量に基づき各液圧系統のうちの制御対象のホイールシリンダを制御対象として制御目標を設定し、通常時は一方のホイールシリンダを含む液圧系統のうちの他方のホイールシリンダのブレーキ液圧をマスタシリンダの出力ブレーキ液圧より低圧の保持圧として保持すると共に、制御目標と車両状態量検出手段の検出状態量の比較結果に応じて液圧調整手段を制御して少なくとも一方のホイールシリンダのブレーキ液圧をマスタシリンダの出力ブレーキ液圧より高圧の値に調整し、ブレーキペダルを操作した状態で、前記一方のホイールシリンダのブレーキ液圧調整を終了するときには、前記他方のホイールシリンダのブレーキ液圧が、前記保持圧から制御目標と検出状態量の比較結果に応じて設定する緩やかな増圧勾配で増圧するように、液圧調整手段を制御することとしているので、マスタシリンダの出力液圧を検出するセンサを必要とすることなく、簡単且つ安価な構成により、適切に車両の安定化制御を行うことができ、ブレーキペダルが操作された状態で安定化制御を終了させるときにも、非制御対象の車輪に対し急激に大きな制動力が付与されることはなく、円滑に通常のブレーキ操作状態に移行させることができる。
更に、前記車両状態量検出手段を請求項2に記載のように構成すれば、容易に前記液圧調整手段を駆動制御し、適切にブレーキ液圧を調整することができる。また、前記液圧調整手段は請求項3に記載のように簡単な構成とすることができ、安価な装置を提供することができる。
また、前記比例差圧弁手段を請求項4又は請求項5に記載のように構成すれば、容易且つ安価な装置を提供することができる。更に、前記自動液圧発生装置を、請求項6に記載のように構成すれば、容易且つ安価な装置を提供することができる。
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る車両の運動制御装置の構成を示すもので、ホイールシリンダに連通する液圧系統が二分された液圧系統のうちの一方の液圧系統(HC1)を示し、これと実質的に同一の他方の液圧系統(HC2)は省略している。図1において、ブレーキペダルBPの操作に応じて各液圧系統にブレーキ液圧を供給するマスタシリンダMCと、車輪RL及びFRに装着されたホイールシリンダWrl及びWfrの各々とマスタシリンダMCとの間に夫々、常開の電磁開閉弁(以下、常開弁という)NOrl及びNOfrが介装され、これらと後述する比例電磁弁SC1を介して、ホイールシリンダWrl及びWfrの各々にブレーキ液圧が供給されるように構成されている。
また、常開弁NOrl及びNOfrとホイールシリンダWrl及びWfrの各々との間が夫々、常閉の電磁開閉弁(以下、常閉弁という)NCrl及びNCfrを介してリザーバRS1に接続されている。而して、これらの常閉弁NCrl及びNCfrが開位置とされると、ホイールシリンダWrl及びWfrが夫々減圧される。そして、マスタシリンダMCと常開弁NOrl及びNOfrとの間に比例電磁弁SC1が介装されている。この比例電磁弁SC1とリリーフ弁RV1によって比例差圧弁手段PD1が構成されており、比例電磁弁SC1を駆動制御することによって、リリーフ弁RV1の設定上限圧の範囲内で、マスタシリンダMC側の液圧と常開弁NOrl及びNOfr側の液圧との差圧を所望の圧力に調整することができる。
更に、ブレーキペダルBPの操作とは無関係にブレーキ液圧を発生し、本発明の自動液圧発生装置として機能する液圧ポンプHP1が配設され、その出力液圧が比例電磁弁SC1と常開弁NOrl及びNOfrとの間に供給されるように構成されている。本実施形態では、液圧ポンプHP1の吸込側はリザーバRS1に接続されると共に、常閉の電磁開閉弁で構成された吸込弁SI1を介してマスタシリンダMCに接続されている。
本実施形態では、図1に示すように、車両状態量検出手段SDは、ヨーレイト検出手段YDによって車両の実ヨーレイトが検出され、その検出結果が制御手段MBに供給されるように構成されている。本実施形態の制御手段MBには、図1に破線で示すように制御目標として目標ヨーレイトを設定する目標ヨーレイト設定手段MYと、ここで設定された目標ヨーレイトとヨーレイト検出手段YDで検出された実ヨーレイトとの偏差を演算するヨーレイト偏差演算手段MDが構成されており、ヨーレイト偏差演算手段MDの演算結果に基づき、安定化制御の制御対象たるホイールシリンダWrlのブレーキ液圧が調整されるように構成されている。
而して、制御手段MBにより、車両状態量検出手段SDの検出結果に基づき、液圧ポンプHP1が駆動されると共に、ホイールシリンダWfrに接続された常開弁NOfrが閉位置とされる。この状態で、ヨーレイト偏差演算手段MDの演算結果に応じて比例電磁弁SC1が駆動制御されることによって、ホイールシリンダWrlのブレーキ液圧が調整され、車両の安定性が維持される。
そして、この安定化制御中にブレーキペダルBPが操作されストップスイッチBSがオンの状態で、ホイールシリンダWrlのブレーキ液圧調整が終了するときには、ホイールシリンダWfrのブレーキ液圧が、ヨーレイト偏差演算手段MDの演算結果に応じて設定する緩やかな増圧勾配で増圧するように、ホイールシリンダWfrに接続された常開弁NOfr及び常閉弁NCfrがデューティ制御される。これにより、非制御対象の車輪(例えばFR)に対し急激に大きな制動力が付与されることなく、円滑に通常のブレーキ操作状態に移行する。尚、これについては図7を参照して詳述する。
図2は、上記図1の構成を含む車両制御システムを一実施例として示すもので、そのブレーキ液圧系は例えば図3に示すように構成されている。図2において、エンジンEGはスロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを備えた内燃機関で、スロットル制御装置THにおいてはアクセルペダルAPの操作に応じてスロットル開度が制御される。また、図1の制御手段MBを構成する電子制御装置ECUの出力に応じて、スロットル制御装置THのスロットル開度が制御されると共に、燃料噴射装置FIが駆動され燃料噴射量が制御されるように構成されている。
図2において、車輪FLは運転席からみて前方左側の車輪を示し、以下車輪FRは前方右側、車輪RLは後方左側、車輪RRは後方右側の車輪を示しており、車輪FL,FR,RL,RRには夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されている。本実施例においては、エンジンEGは変速制御装置GS及びディファレンシャル装置DFを介して車両後方の車輪RL,RRに連結されており、電子制御装置ECUの出力に応じて変速制御装置GSを制御し、自動的にシフトダウンすることによってエンジンブレーキを付与し、車体速度を低下させることができる。尚、図2では所謂後輪駆動方式が構成されているが、本発明は前輪駆動方式あるいは四輪駆動方式の何れにも適用でき、後輪駆動方式に限るものではない。
車輪FL,FR,RL,RRには車輪速度センサWS1乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPがストロークしたときオンとなるストップスイッチBS、車両の操舵角を検出する操舵角センサSR、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG、及びスロットルセンサ(図示せず)等が電子制御装置ECUに接続されている。而して、電子制御装置ECUによってエンジンEG及び/又はブレーキ液圧制御装置BCが駆動されるように構成されている。尚、ブレーキ液圧制御装置BCの具体的な構成及び作用については図3を参照して後述する。
電子制御装置ECUはマイクロコンピュータCMPを有し、図2に示すように、入力ポートIPT、出力ポートOPT、プロセシングユニットCPU、メモリROM及びメモリRAM等がバスを介して相互に接続されている。上記車輪速度センサWS1乃至WS4、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG、操舵角センサSR、ストップスイッチBS等の出力信号は増幅回路(代表してAMPで表す)を介して夫々入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力ポートOPTからは駆動回路(代表してACTで表す)を介してスロットル制御装置TH及びブレーキ液圧制御装置BCに夫々制御信号が出力されるように構成されている。マイクロコンピュータCMPにおいては、メモリROMは図4等に示したフローチャートに対応したプログラムを記憶し、プロセッシングユニットCPUはイグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。而して、電子制御装置ECU内に図1の制御手段MBが構成されており、後述のように処理される。
次に、上記のブレーキ液圧制御装置BCを含むブレーキ液圧系について、図3を参照して説明する。本実施例においては、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍圧駆動され、低圧リザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。本実施例のマスタシリンダMCはタンデム型のマスタシリンダで、二つの圧力室が夫々第1及び第2の液圧系統HC1及びHC2に接続されている。即ち、第1の圧力室MCaは車輪FR,RL側の第1の液圧系統HC1に連通接続され、第2の圧力室MCbは車輪FL,RR側の第2の液圧系統HC2に連通接続される。尚、本実施例では所謂X配管が構成されているが、前後配管としてもよい。
本実施例の車輪FR,RL側の第1の液圧系統HC1においては、第1の圧力室MCaは主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続され、主液圧路MFには比例電磁弁SC1が介装されている。また、第1の圧力室MCaは補助液圧路MFcを介して後述する逆止弁CV5,CV6の間に接続され、補助液圧路MFcには吸込弁SI1が介装されている。
更に、比例電磁弁SC1に対して並列に、マスタシリンダMCから下流側(ホイールシリンダWfr,Wrl方向)へのブレーキ液の流れを制限し、下流側のブレーキ液圧がマスタシリンダMC側のブレーキ液圧に対し所定の差圧以上大となったときにマスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容するリリーフ弁RV1と、下流側(ホイールシリンダWfr,Wrl方向)へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁AV1が介装されている。リリーフ弁RV1は、液圧ポンプHP1から吐出される加圧ブレーキ液がマスタシリンダMCの出力液圧より所定の差圧以上大となったときに、マスタシリンダMCを介して低圧リザーバLRSにブレーキ液を還流するもので、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力以上に上昇しないように調圧される。本実施例においては、このリリーフ弁RV1と比例電磁弁SC1によって比例差圧弁手段PD1が構成されており、電子制御装置ECUによって比例電磁弁SC1が制御され、リリーフ弁RV1で設定される所定の上限圧の範囲内で、マスタシリンダMC側の液圧と常開弁NOfr及びNOrl側の液圧との差圧が無段階で所望の圧力に調整される。尚、逆止弁AV1の存在により、比例電磁弁SC1が閉位置であっても、ブレーキペダルBPが踏み込まれた場合にはホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液圧が増圧され得る。
分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開弁NOfr及びNOrlが介装されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が介装されている。逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容しホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを制限するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び第1の位置(図示の状態)の比例電磁弁SC1を介してホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいては低圧リザーバLRSに戻されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPが解放されたときに、ホイールシリンダWfr,Wrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、常閉弁NCfr及びNCrlが介装されており、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRS1に接続されている。
車輪FR,RL側の第1の液圧系統HC1においては、常開弁NOfr及びNOrlの上流側で分岐液圧路MFr,MFlに連通接続する液圧路MFpに、液圧ポンプHP1が介装され、その吸込側には逆止弁CV5,CV6を介してリザーバRS1が接続されている。また、液圧ポンプHP1の吐出側は、逆止弁CV7及びダンパDP1を介して夫々常開弁NOfr及びNOrlに接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に一つの電動モータMによって駆動され、吸込側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力するように構成されている。リザーバRS1は、マスタシリンダMCの低圧リザーバLRSとは別に設けられるもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、種々の制御に必要な容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
マスタシリンダMCは補助液圧路MFcを介して液圧ポンプHP1の吸込側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5はリザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向の流れを許容するものである。また、逆止弁CV6,CV7は液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。而して、吸込弁SI1は、図3に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側との連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側が連通するように切り換えられる。
車輪FL,RR側の第2の液圧系統HC2においても同様に、比例差圧弁PD2を構成するリザーバRS2及び比例電磁弁SC2をはじめ、ダンパDP2、吸込弁SI2、常開弁NOfl及びNOrr、常閉弁NCfl及びNCrr、逆止弁CV3,CV4,CV8乃至CV10、リリーフ弁RV2並びに逆止弁AV2が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1,HP2は連続して駆動される。上記比例電磁弁SC2、吸込弁SI2、常開弁NOfl及びNOrr、並びに常閉弁NCfl及びNCrrは前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、車両の安定化制御が行なわれる。
上記の構成になるブレーキ液圧系において、通常のブレーキ作動時においては、各電磁弁は図3に示す常態位置にあり、電動モータMは停止している。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれると、マスタシリンダMCの第1及び第2の圧力室MCa,MCbから、マスタシリンダ液圧が夫々車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の液圧系統に出力され、比例電磁弁SC1,SC2並びに常開弁NOfr,NOrl、NOfl,NOrrを介して、ホイールシリンダWfr,Wrl,Wfl,Wrrに供給される。
これに対し、アンチスキッド制御が開始し、例えば車輪RLに付与される制動力が制御される場合には、他方の車輪FR側の常開弁NOfrは閉位置とされて保持状態とされる。そして、減圧モードでは、常開弁NOrlが閉位置とされると共に、常閉弁NCrlが開位置とされる。これにより、ホイールシリンダWrlは常閉弁NCrlを介してリザーバRS1に連通し、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液がリザーバRS1内に流出し減圧される。
ホイールシリンダWrlがパルス増圧モードとなると、常閉弁NCrlが閉位置とされた後に常開弁NOrlが開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が開位置の比例電磁弁SC1及び常開弁NOrlを介してホイールシリンダWrlに供給される。そして、常開弁NOrlが駆動制御され、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液は増圧と保持が繰り返されてパルス的に増大し、緩やかに増圧される。ホイールシリンダWrlに対し急増圧モードが設定されたときには、常閉弁NCrlが閉位置とされた後、常開弁NOrlが開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が供給される。そして、ブレーキペダルBPが解放され、ホイールシリンダWrlの液圧よりマスタシリンダ液圧の方が小さくなると、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液が逆止弁CV2及び開位置の比例電磁弁SC1を介してマスタシリンダMC、ひいては低圧リザーバLRSに戻る。このようにして、車輪毎に独立した制動力制御が行なわれる。
一方、車両安定化制御においては、制御対象のホイールシリンダに対して上記のような常閉弁を開位置として減圧するような減圧制御が行われることはなく、常開弁は開位置で常閉弁は閉位置という通常時の状態で、比例電磁弁が車両状態に応じて駆動制御されることによって、制御対象のホイールシリンダ液圧が調整されるように構成されている。例えば、ホイールシリンダWrlが車両安定化制御の制御対象であるときには、同一の液圧系統で非制御対象となるホイールシリンダWfr側の常開弁NOfrが閉位置とされるが、常開弁NOrl及び常閉弁NCrlはそのまま(図3に示す常態位置)で、比例電磁弁SC1が車両状態に応じて駆動制御され、ホイールシリンダWrl内が所望の液圧に調整される。
上記のように構成された本実施例においては、電子制御装置ECUにより、図4に示すように車両安定化制御が行なわれる。イグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されると、先ず図4のステップ101にて初期化が行なわれ、各種の演算値がクリアされた後、ステップ102以降に進み、ステップ102乃至108の処理が所定の周期で繰り返される。ステップ102においては、車輪速度センサWS1乃至WS4、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG、操舵角センサSR、ストップスイッチBS等の検出信号で、車両状態量を表わす車輪速度Vw、ヨーレイトYa、横加速度Gy、操舵角As等が読み込まれ、適宜フィルタ処理され、順次メモリに格納される。
次に、ステップ103に進み、車輪速度センサWS1乃至WS4の出力信号に基づき、各車輪の車輪速度が演算され、これが微分されて車輪加速度が演算される。尚、本実施例においては、各車輪に関し、車両の重心位置での速度に換算された後、各車輪の基準速度が演算される。続いて、ステップ104にて推定車体速度Vが演算され、ステップ105にてスリップ率(あるいは車輪スリップ)が演算される。
更に、ステップ106に進み、上記の車両状態量に基づき、目標ヨーレイトが演算される。ここでは、オーバーステア抑制制御用の目標ヨーレイトYtoと、アンダーステア抑制制御用の目標ヨーレイトYtuが次のように設定される。先ず、目標ヨーレイトYtoは上記の横加速度Gy及び推定車体速度Vに基づき、Yto=Gy/Vに設定される。そして、目標ヨーレイトYtuは、上記の横加速度Gy、操舵角As及び推定車体速度V等に基づき次のように設定される。
Ytu=Gy/V+C[(V・As)/{N・L・(1+K・V2)}−Gy/V]
ここで、Nはステアリングギヤ比、Lはホイールベース、Kはスタビリティファクタ、Cは重み付け係数を表わす。
続いて、ステップ107において、ヨーレイトセンサYSによって検出された実ヨーレイトYaと目標ヨーレイトYtoとのヨーレイト偏差ΔYto(=Yto−Ya)、又は目標ヨーレイトYtuとのヨーレイト偏差ΔYtu(=Ytu−Ya)が演算され、これらに基づきステップ108にて車両安定化制御が行なわれる。即ち、過度のオーバーステア及び/又は過度のアンダーステアを抑制するための制御が行なわれるが、これについては図5を参照して後述する。尚、ヨーレイト偏差ΔYtoが負の値であるときにはオーバーステアと判定され、それ以外ではアンダーステアと判定される。
図5は、車両安定化制御の処理を示すもので、ステップ201において必要に応じ開始特定制御が行なわれた後、ステップ202にて、偏差ΔYtoの絶対値が所定の基準値Koと比較され、基準値Ko以上であると過度のオーバーステアと判定され、ステップ203に進みオーバーステア抑制制御が行なわれる。ステップ202にてヨーレイト偏差(以下、単に偏差という)ΔYtoの絶対値が所定の基準値Ko未満と判定されると、ステップ204に進み、偏差ΔYtuが所定の基準値Kuと比較され、基準値Ku以上であると過度のアンダーステアと判定され、ステップ205に進みアンダーステア抑制制御が行なわれる。本実施例では、一つの液圧系統の中で、車両の旋回方向を基準に、前方外側の車輪FR(又はFL)が非制御輪とされ、これに対し対角線上に位置する後方内側の車輪RL(又はRR)に対し制動力が付与され、所謂、対角制御が行なわれるように構成されている。即ち、前方外側の車輪FR(又はFL)のホイールシリンダ液圧は保持状態とされ、後方内側の車輪RL(又はRR)のホイールシリンダWrl(又はWrr)のホイールシリンダ液圧が制御される。これらの制御終了後、ステップ206にて終了特定制御が行なわれ、図4のメインルーチンに戻る。
本実施例においては、上記ステップ205にて行なわれる制御輪に対するアンダーステア抑制制御中に、非制御輪に対してもブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧)調整が行なわれるが(図7を参照して後述)、非制御輪のホイールシリンダについては、安定化制御中は保持状態としてもよい。
図6は、図5のステップ206で行われる終了特定制御、特にアンダーステア抑制制御における終了特定制御を示すもので、ステップ301乃至304にて終了特定制御中であるか否かが判定される。先ず、ステップ301にて終了特定制御中フラグの状態が判定され、終了特定制御中フラグがセット(1)されていない場合にはステップ302に進むが、セット(1)されておればステップ305にジャンプする。ステップ302においては、前回の演算周期における安定化制御中フラグの状態が判定され、前回に安定化制御中フラグがセット(1)されている場合にはステップ303に進むが、セットされていない(0)場合には図5のルーチンに戻る。ステップ303においては、今回の演算周期における安定化制御中フラグの状態が判定され、今回は安定化制御中フラグがセットされていない場合にはステップ304に進み、終了特定制御中フラグがセット(1)されるが、今回も安定化制御中フラグがセット(1)されている場合にはステップ308にジャンプする。而して、終了特定制御中であると判定された場合に、ステップ305以降に進む。
尚、安定化制御中フラグは前述の図5のステップ203及び205でセット又はクリアされ、ステップ303にて安定化制御中フラグがクリア(0)されていると判定されたときには、例えば車輪RLに対するアンダーステア抑制制御によってヨーレイトが回復し、目標ヨーレイトYtuとのヨーレイト偏差ΔYtuが所定値以下となっている。
ステップ305においてはストップスイッチBSの状態が判定され、ストップスイッチBSがオフ状態であれば、図5のルーチンに戻るが、オン状態であればステップ306に進み、非制御対象の車輪、即ちアンダーステア抑制制御では前方外側の車輪(例えばFR)に関し、ホイールシリンダ液圧制御に供するデューティ比が前述のヨーレイト偏差ΔYtuに応じて設定される。例えば、図6のステップ306内に示すように、デューティ比がヨーレイト偏差ΔYtuに反比例し、ヨーレイト偏差ΔYtuの増加に応じてデューティ比が減少するように設定される。これにより、ブレーキペダルBPが操作された状態で安定化制御が終了しても、非制御対象の車輪(FR)のホイールシリンダ液圧はヨーレイト偏差ΔYtuが大きい程、緩やかに増加するので、非制御対象の車輪(FR)に対し急激に大きな制動力が付与されることはなく、アンダーステア抑制制御は円滑に終了する。而して、ステップ307に進み、この状態で所定時間を経過したと判定されると、ステップ308にて終了特定制御中フラグがクリア(0)されて図5のルーチンに戻る。尚、この所定時間は、非制御対象の車輪のホイールシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧と略等しくなるのに十分な時間に設定される。
上記のアンダーステア抑制制御における終了特定制御を図7のタイムチャートを参照して説明すると、例えば図7の(A)に示すように実ヨーレイトYaが変化し、図7の(D)に示すように後方内側の車輪(例えば車輪RL)が制御対象の車輪とされ、ts時ではホイールシリンダWrlが制御液圧Pcで制御中の状態にある。また、ブレーキペダルBPが操作された状態(ストップスイッチBSはオン状態)にあり、図7の(B)に示すようにマスタシリンダ液圧Pmが出力されている(ブレーキペダルBPが保持されている状態)。従って、この状態ではホイールシリンダWrl内の制御液圧Pcは、ブレーキペダルBPが操作されていない状態での制御液圧に対しマスタシリンダ液圧Pmが加算されて嵩上げされた値となっている。一方、対角輪の前方外側の車輪FRは非制御輪であるが、ブレーキペダルBPが操作された状態では、例えばホイールシリンダWfrも液圧Pfで加圧制御されている状態を示している。尚、非制御対象の車輪FR側は、常開弁NOfrが閉位置とされてホイールシリンダWfrのホイールシリンダ液圧が保持状態とされたままで、ブレーキペダルBPが操作されても制動力が付与されないように構成してもよい。
上記の制御状態で図7のte時に至ると、図7の(D)に示すように車輪RLに対するアンダーステア抑制制御が終了し、ホイールシリンダWrlがマスタシリンダ液圧Pmまで減圧される。このとき、図7の(A)に示すように、車輪RLに対するアンダーステア抑制制御によって実ヨーレイトYaが回復し、目標ヨーレイトYtuに近接しているが、非制御輪のホイールシリンダWfrの液圧は、図7の(C)に破線で示すように、そのときのマスタシリンダ液圧Pmまで急激に上昇することになる。従って、そのままでは実ヨーレイトYaが図7の(A)に破線で示すように変化し、折角のアンダーステア抑制制御状態が損なわれるおそれがある。
これに対し、本実施例では、図7のte時には、図6のステップ303にて安定化制御中フラグがクリア(0)されていると判定され、ステップ304にて終了特定制御中フラグがセットされ、ステップ305にてストップスイッチBSがオン状態と判定されるので、非制御輪のホイールシリンダWfrの液圧は(図6のステップ306内のマップに従い)ヨーレイト偏差ΔYtuに応じたデューティ制御によって図7の(C)に実線で示すように、緩やかに増圧される。これにより、非制御対象の車輪(FR)に対し急激に大きな制動力が付与されることはなく、円滑に通常のブレーキ操作状態に移行し、非制御対象の車輪(FR)に対する制御も、図7のte時から所定時間を経過したtf時に終了する。
而して、安定化制御の終了時に、非制御対象の車輪(FR)に対しても円滑に液圧制御が行われ、適切な減速度が確保される。尚、図6及び図7においては対角制御によるアンダーステア抑制制御に関するものであるが、本実施例ひいては本発明はオーバーステア抑制制御においても適用可能であり、適切に車両安定化制御を行ない円滑に終了させることができる。