以下、本発明の実施形態に係る車両の操舵装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両の操舵装置を概略的に示している。
この転舵装置は、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を転舵するために、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は、操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下端は電動モータおよび減速機構からなる反力アクチュエータ13に接続されている。反力アクチュエータ13は、運転者の操舵ハンドル11の回動操作に対して反力を付与する。
また、この操舵装置は、電動モータおよび減速機構からなる転舵アクチュエータ21を備えている。この転舵アクチュエータ21による転舵力は、転舵出力軸22、ピニオンギア23およびラックバー24を介して左右前輪FW1,FW2に伝達される。この構成により、転舵アクチュエータ21からの回転力は転舵出力軸22を介してピニオンギア23に伝達され、ピニオンギア23の回転によりラックバー24が軸線方向に変位して、このラックバー24の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2は左右に転舵される。
次に、これらの反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21の回転を制御する電気制御装置について説明する。電気制御装置は、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ33、横加速度センサ34およびヨーレートセンサ35を備えている。
操舵角センサ31は、操舵入力軸12に組み付けられて、操舵ハンドル11の中立位置からの回転角を検出して操舵角θとして出力する。転舵角センサ32は、転舵出力軸22に組み付けられて、転舵出力軸22の中立位置からの回転角を検出して実転舵角δ(左右前輪FW1,FW2の転舵角に対応)として出力する。なお、操舵角θおよび実転舵角δは、中立位置を「0」とし、左方向の回転角を正の値で表すとともに、右方向の回転角を負の値でそれぞれ表す。車速センサ33は、車速Vを検出して出力する。横加速度センサ34は、車両の実横加速度Gを検出して出力する。ヨーレートセンサ35は、車両の実ヨーレートγを検出して出力する。なお、実横加速度Gおよび実ヨーレートγも、左方向の加速度を正で表し、右方向の加速度を負で表す。
これらのセンサ31〜35は、電子制御ユニット36に接続されている。電子制御ユニット36は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、プログラムの実行により反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21の作動をそれぞれ制御する。電子制御ユニット36の出力側には、反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21を駆動するための駆動回路37,38がそれぞれ接続されている。駆動回路37,38内には、反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21内の電動モータに流れる駆動電流を検出するための電流検出器37a,38aが設けられている。電流検出器37a,38aによって検出された駆動電流は、両電動モータの駆動を制御するために、電子制御ユニット36にフィードバックされている。
次に、上記のように構成した実施形態の動作について、電子制御ユニット36内にてコンピュータプログラム処理により実現される機能を表す図2の機能ブロック図を用いて説明する。電子制御ユニット36は、操舵ハンドル11への反力付与を制御するための反力制御部40と、操舵ハンドル11の回動操作に基づいて運転者の知覚特性に対応した左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δdを決定するための感覚適合制御部50と、目標転舵角δdに基づいて左右前輪FW1,FW2を転舵制御するための転舵制御部60とからなる。
運転者によって操舵ハンドル11が回動操作されると、操舵角センサ31によって操舵ハンドル11の回転角である操舵角θが検出されて、同検出された操舵角θを反力制御部40および感覚適合制御部50にそれぞれ出力する。反力制御部40においては、運転者によって操舵ハンドル11が回動操作されると、前記検出操舵角θの絶対値が大きくなる回動操作(以下、この回動操作を切込み操作という)がされている場合には目標反力トルクThfを計算し、前記検出操舵角θの絶対値が小さくなる回動操作(以下、この回動操作を戻し操作という)がされている場合には目標反力トルクThrを計算する。なお、以下の説明においては、これらの目標反力トルクThf ,Thrをまとめて単に目標反力トルクThともいう。
ここで、切込み操作と戻し操作の検出について説明しておく。今、操舵ハンドル11が右方向へ回動されている場合を考えると、操舵角センサ31から出力された検出操舵角θは負の値となっている。この状態において、操舵ハンドル11が回動されたときに、検出操舵角θの時間微分値dθ/dt(以下、この微分値を操舵角速度dθ/dtという)が負の値であれば運転者によって切込み操作がされていると検出し、操舵角速度dθ/dtが正の値であれば運転者によって戻し操作がされていると検出する。一方、操舵ハンドル11が左方向へ回動されている場合を考えると、操舵角センサ31から出力された検出操舵角θは正の値となっている。この状態において、操舵ハンドル11が回動されたときに、操舵角速度dθ/dtが正の値であれば運転者によって切込み操作がされていると検出し、操舵角速度dθ/dtが負の値であれば運転者によって戻し操作がされていると検出する。
また、切込み操作と戻し操作の検出に際しては、後に詳述するように、検出した切込み操作または戻し操作に応じて反力付与制御処理や目標転舵角決定処理などの計算処理を切り替えて実行するために、切込み操作と戻し操作間に不感帯が設けられる。すなわち、運転者によって切込み操作または戻し操作がされると同時にこれらの操作を検出するようにすると、例えば、運転者が微調整のために操舵ハンドル11を左右方向へ回動した場合であっても、その都度計算処理が切り替わることになる。このように、計算処理が頻繁に切り替わることにより、例えば、運転者が操舵ハンドル11を介して知覚する反力が大きく変動するなどの問題を生じる。これに対して、切込み操作と戻し操作の検出に関して不感帯を設けることによって、運転者の微調整などに起因して切込み操作または戻し操作が頻繁に検出されることを防止することができ、上記問題は解決される。ここで、不感帯としては、例えば、切込み操作および戻し操作を検出するまでの検出時間を採用することができ、この検出時間は切込み操作の検出時間に対して戻し時間の検出時間を長く設定するとよい。これにより、特に、戻し操作に伴って、後述する反力トルクTzrの計算頻度を低下させ、操舵ハンドル11を介して、運転者が覚える違和感を低減することができる。
次に、静的なばね成分項としての反力トルクTzf,Tzrを計算する変位−トルク変換部41について説明する。まず、切込み操作されたときに計算される反力トルクTzfから具体的に説明する。変位−トルク変換部41は、操舵ハンドル11の検出操舵角θの絶対値が正の所定値Tg未満であれば下記式1に従って操舵角θの一次関数である反力トルクTzfを計算し、検出操舵角θの絶対値が正の所定値Tg以上であれば下記式2に従って操舵角θの指数関数である反力トルクTzfを計算する。ここで、下記式1の一次関数と下記式2の指数関数とは操舵角θzにて連続的に接続されるものであり、例えば、下記式2の指数関数における操舵角θzでの原点「0」と通る接線を下記式1の一次関数として採用することができる。なお、下記式1に関しては、一次関数に限定されるものではなく、操舵角θが「0」のときに反力トルクTzfが「0」となり、かつ、下記式2の指数関数と連続的に接続される関数であれば、種々の関数を採用することができる。
Tzf=a1・θ (|θ|<θz) …式1
Tzf=To・exp(K1・θ) (θz≦|θ|) …式2
一方、戻し操作された場合には、変位−トルク変換部41は、操舵ハンドル11の検出操舵角θの絶対値が正の所定値Tg未満であれば下記式3に従って操舵角θの一次関数である反力トルクTzrを計算し、検出操舵角θの絶対値が正の所定値Tg以上であれば下記式4に従って操舵角θの指数関数である反力トルクTzrを計算する。この戻し操作における下記式3の一次関数と下記式4の指数関数も、上述した切込み操作の前記式1,2と同様に、操舵角θzにて連続的に接続されるものであり、例えば、下記式4の指数関数における操舵角θzでの原点「0」を通る接線を下記式3の一次関数として採用することができる。なお、この場合も、下記式3に関しては、一次関数に限定されるものではなく、操舵角θが「0」のときに反力トルクTzrが「0」となり、かつ、下記式4の指数関数と連続的に接続される関数であれば、種々の関数を採用することができる。
Tzr=a2・θ−Mh1 (|θ|<θz) …式3
Tzr=To・exp(K1・θ)−Mh1 (θz≦|θ|) …式4
ここで、前記式1中のa1および前記式3中のa2は上述した一次関数の傾きを表す定数である。また、前記式2,4中のTo,K1はともに定数であり、特に定数Toは運転者が知覚し得る最小操舵トルクである。なお、定数K1に関しては後述する感覚適合制御部50の説明時に詳しく説明する。また、前記式1〜4中の操舵角θは、前記検出操舵角θの絶対値を表しているものとし、検出操舵角θが正であれば定数a1,a2および定数Toを負の値とするとともに、検出操舵角θが負であれば定数a1,a2および定数Toを前記負の定数a1,a2および定数Toと同じ絶対値を有する正の値とする。
さらに、前記式3,4中のMh1は、運転者による操舵ハンドル11の回動操作が切込み操作から戻し操作に変わった際に、計算される反力トルクTzfと反力トルクTzrとを連続的に繋げるためすなわち切込み操作と戻し操作間でヒステリシス特性を構成するためのヒステリシス項である。このヒステリシス項Mh1は、ある操舵角θが検出された時点における切込み操作時の反力トルクTzfと戻し操作時の反力トルクTzrとの比率に基づいて決定され、下記式5のように表される。
Mh1=np・(Kp・Tzf) …式5
ただし、前記式5中のKpは後述する反力トルクTzfに対する最小変化感度(ウェーバー比)であり、npは最小変化感度に対する所定の係数である。
このように、ヒステリシス項Mh1が計算されることにより、切込み操作から戻し操作に変わった時点における操舵角θが維持されるため、切込み操作における操舵ハンドル11の回動量と戻し操作における操舵ハンドル11の回動量を略同一とすることができ、特に、戻し操作時の操舵ハンドル11の収束性を良好に確保することができる。なお、本実施形態においては、ヒステリシス項Mh1を前記式5のように操舵角θを含まずに導出するように実施したが、これに代えてまたは加えて、例えば、操舵角θを含んで同操舵角θに依存するように導出することも可能である。
さらに、検出操舵角θが操舵角θz未満のときに、前記式1および前記式3に従って反力トルクTzfおよび反力トルクTzrが計算されることにより、操舵ハンドル11が中立位置を跨いで回動操作される場合であっても、前記式1および前記式3は、原点「0」を通る関数であるため、反力トルクTzfと反力トルクTzrが連続的に変化する。具体的に説明すると、今、例えば、運転者が操舵ハンドル11を右方向へ操舵角θz以上に切込み操作し、その後、左方向(すなわち中立位置方向)へ戻し操作した場合を考える。このとき、操舵ハンドル11の左方向への戻し操作に伴って検出操舵角θの絶対値が減少し、操舵角θz未満では、変位−トルク変換部41は前記式3に従って反力トルクTzrを計算する。そして、検出操舵角θの絶対値が「0」となるすなわち操舵ハンドル11が中立位置まで回動されると、変位−トルク変換部41は反力トルクTzrを「0」と計算する。
この中立位置を越えてさらに操舵ハンドル11が左方向へ回動されると左方向への切込み操作となるので、変位−トルク変換部41は前記式1に従って「0」から一次関数的に変化する反力トルクTzfを計算する。このとき、戻し操作の反力トルクTzrを計算する前記式3と切込み操作の反力トルクTzfを計算する前記式1とはともに原点「0」を通る関数であるため、戻し操作(または切込み操作)から切込み操作(または戻し操作)に変わる場合において、計算される反力トルクTzrと反力トルクTzfが連続的に変化する。したがって、操舵ハンドル11が中立位置を跨って回動操作される場合、言い換えると、検出操舵角θの正負が逆転する場合においても、極めてスムーズに反力トルクTzf,Tzrを操舵ハンドル11に付与することができて、運転者は違和感を覚えることがない。なお、反力トルクTzfまたは反力トルクTzrの計算においては、前記式1〜式5の演算に代えて、操舵角θに対する反力トルクTzf,Tzrを記憶した図3に示すような特性の変換テーブルを用いて計算するようにしてもよい。また、以下の説明においては、反力トルクTzfおよび反力トルクTzrをまとめて反力トルクTzともいう。
ところで、変位−トルク変換部41が前記式1〜5に従って計算する反力トルクTz(反力トルクTzf,Tzr)は、静的なばね特性として計算される。このため、操舵ハンドル11が一定の操舵角速度dθ/dtで回動操作された場合には、運転者は操舵角θの変化に対し、前記式1〜5で表される一次関数または指数関数に従った反力トルクTzを知覚する。
しかしながら、一般的に、運転者が操舵ハンドル11を回動操作する場合には、操舵角速度dθ/dtは不均一となる。すなわち、運転者は、大きな操舵角速度dθ/dtで操舵ハンドル11の回動操作を開始し、小さな操舵角速度dθ/dtで操舵ハンドル11の回動操作を終了する。このとき、操舵角センサ31は、所定の短い時間間隔で操舵角θを検出して出力している。このため、一連の操舵ハンドル11の回動操作において、操舵角速度dθ/dtが変化する場合には、検出操舵角θを用いて計算される反力トルクTzが時系列的に離散した(不連続な)値となる。言い換えれば、一連の操舵ハンドル11の回動操作において操舵角速度dθ/dtが変化する場合には、計算される反力トルクTzは、操舵角速度dθ/dtに対してそのばね特性が動的に変化するようになる。これを、図4を用いて具体的に説明する。
図4は、制御時間tに対する反力トルクTzのばね特性の動的な変化を概略的に示している。図4に示すように、参考として破線で示す反力トルクTzの静的なばね特性に対して、操舵角速度dθ/dtが大きい場合には、微少な制御時間dtあたりの反力トルクTzの変化量ΔTzの変化勾配値ΔTz/dtが大きくなり、時定数は小さくなる。一方、操舵角速度dθ/dtが小さい場合には、変化勾配値ΔTz/dtが小さくなり、時定数は大きくなる。このように、反力トルクTzの変化勾配値ΔTz/dtは、操舵角速度dθ/dtの大きさに応じて異なる。これにより、操舵ハンドル11の回動操作において反力トルクTzのばね特性が動的に変化し、運転者は感覚的な違和感を覚える。そして、この違和感は、反力トルクTzが指数関数的に計算される場合すなわち操舵角θが所定の操舵角θz以上に回動されている場合において、操舵角θが大きくなるに伴って顕著になる。
この動的なばね特性の変化に起因する違和感を解消するために、操舵角速度−勾配制限値変換部42は、反力トルクTzの変化勾配値ΔTz/dtに対する制限値(ΔTz/dt)_lim(以下、この制限値を変化勾配制限値(ΔTz/dt) _limという)を設定する。以下、この変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limの設定について詳細に説明する。
変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limは、設定されるに当たり、次の要件を満たす必要がある。すなわち、今、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴って反力トルクTzの動的にばね特性が変化した場合において、この動的なばね特性の変化に伴う違和感を覚えない限界の変化勾配を(ΔTz/dt)_maxとする。このとき、設定される変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limは、前記限界値(ΔTz/dt)_max未満の値であることが必要である。さらに、変化勾配値ΔTz/dtが操舵角速度dθ/dtに依存して変化することから、変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limも操舵角速度dθ/dtに依存して変化する必要がある。これらの要件を概略的に図示すれば、図5に示すようになる。
すなわち、図5において、限界値(ΔTz/dt)_maxを傾きとする斜線で示した領域と、限界値(ΔTz/dt)_maxよりも小さな変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limを傾きとする梨地で示した領域とを設定する。このような各領域を設定することにより、これらいずれかの領域内に反力トルクTzの変化勾配値ΔTz/dtが存在すれば、運転者は反力トルクTzの動的なばね特性の変化に伴う違和感を覚えることがない。また、変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limを傾きとする梨地で示した領域を、操舵角速度dθ/dtが大きい場合と小さい場合とに分けて設定する。このとき、操舵角速度dθ/dtが大きい場合の変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limは、操舵角速度dθ/dtが小さい場合の変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limに比して大きな値(すなわち大きな傾き)として設定される。そして、操舵角速度dθ/dtに応じて設定された梨地の領域内に反力トルクTzの変化勾配値ΔTz/dtが存在していれば、反力トルクTzのばね特性が動的に変化しても、運転者は、操舵ハンドル11を介して、スムーズに変化する反力を知覚することができる。また、図5に示すように、変化勾配ΔTz/dtが前記梨地の領域外に存在する場合には、これらの値は変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limによって制限されて、変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limと同一の値とされる。
以上のことに基づき、操舵角速度−勾配制限値変換部42は、操舵ハンドル11が切込み操作されている場合には下記式6に従って操舵角速度dθ/dtに比例する変化勾配制限値(ΔTz/dt)_lim(以下、この切込み操作時の制限値を上昇勾配制限値Mtupという)を計算して設定する。操舵ハンドル11が戻し操作されている場合には下記式7に従って操舵角速度dθ/dtに比例する変化勾配制限値(ΔTz/dt)_lim(以下、この戻し操作時の制限値を下降勾配制限値Mtdnという)を計算して設定する。
Mtup=b1・(dθ/dt) …式6
Mtdn=b2・(dθ/dt) …式7
ただし、前記式6,7中のb1,b2は比例関数(一次関数)の傾きを表す正の定数である。また、上述したように、変化勾配制限値(ΔTz/dt)_limすなわち上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnは、前記限界値(ΔTz/dt)_maxよりも小さい値として計算される必要があるため、例えば、正負の限界値(ΔTz/dt)_maxを上下限値とする。なお、上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnの計算においては、前記式6の演算に代えて、操舵角速度dθ/dtに対する上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnを記憶した図6に示すような特性の変換テーブルを用いて計算するようにしてもよい。
上述したように、変位−トルク変換部41によって計算された反力トルクTzf,Tzrすなわち反力トルクTzと操舵角速度−勾配制限値変換部42によって計算された上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnは、勾配制限フィルタ部43に供給される。勾配制限フィルタ部43は、供給された反力トルクTzを上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnを用いてフィルタ処理して、反力トルクTzpoを計算する。以下、勾配制限フィルタ部43の計算について詳細に説明する。
勾配制限フィルタ部43は、下記式8の関係式に従い、変位−トルク変換部41から供給された反力トルクTzの値、前回計算した反力トルクTzpo(n-1)に上昇勾配制限値Mtupを加算した値および前回計算した反力トルクTzpo(n-1)から下降勾配制限値Mtdnを減算した値を比較して、これら各値のうちの中間値を選択する。そして、選択した中間値を今回の反力トルクTzpoとして決定する。
Tzpo=MED(Tzpo(n-1)+Mtup,Tz,Tzpo(n-1)−Mtdn) …式8
ただし、前記関係式8中のMEDは、Tzpo(n-1)+Mtup,TzおよびTzpo(n-1)−Mtdnの3つの値から中間値を選択する演算子である。
ここで、この勾配制限フィルタ部43の選択演算について、図7(a)を用いて詳細に説明する。図7(a)は、切込み操作時に勾配制限フィルタ部43が実行するフィルタ処理を時系列的に示したものであり、運転者が、制御時間T(t-5)において、大きな操舵角速度dθ/dtで操舵ハンドル11の切込み操作を開始した状態を示している。まず、制御時間T(t-5)においては、勾配制限フィルタ部43は、前記関係式8に従って、変位−トルク変換部41から供給された反力トルクTzfを反力トルクTzpoとして選択する。すなわち、この制御時間T(t-5)においては、勾配制限フィルタ部43の選択演算処理が初回であるため、前回計算した反力トルクTzpo(n-1)が存在しないため、反力トルクTzfが反力トルクTzpoとして選択される。
次に、制御時間T(t-4)においては、勾配制限フィルタ部43は、制御時間T(t-5)で選択した反力トルクTzpo(n-1)すなわち反力トルクTzf(以下、この反力トルクTzfを前回反力トルクTzfという)を用いて、前記関係式8の選択演算を実行する。具体的に説明すると、変位−トルク変換部41から供給される反力トルクTzfは、上述したように、操舵角速度dθ/dtが大きい状況では変化勾配値ΔTzf/dtが大きな値となる。このため、制御時間T(t-4)においては、反力トルクTzfは、図7(a)にて破線で示すように大きく増加して変化する。また、前回反力トルクTzfに上昇勾配制限値Mtupを加算した値(以下、上昇制限値という)は、破線で示される反力トルクTzfの変化勾配値ΔTzf/dtに比して小さな上昇勾配制限値Mtupが加算されて計算される。このため、上昇制限値は、図7(a)にて実線で示すように、破線で示される反力トルクTzfの値に比して小さく増加する値となる。また、前回反力トルクTzfから下降勾配制限値Mtdnを減算した値(以下、下降制限値という)は、図7(a)にて一点鎖線で示すように、実線で示される上昇制限値に比して小さな値となる。このため、勾配制限フィルタ部43は、前記関係式8に従って、制御時間T(t-4)における反力トルクTzpoとして中間値の上昇制限値を選択する。
同様にして、制御時間T(t-1)まで、勾配制限フィルタ部43は、前記関係式8に従って、中間値の上昇制限値を各制御時間における反力トルクTzpoとして選択する。そして、制御時間T(n)においては、操舵ハンドル11の回動操作が終了すなわち操舵角速度dθ/dtが「0」の状態となる。この状態においては、反力トルクTzf、上昇制限値および下降制限値がすべて制御時間T(n-1)で選択した反力トルクTzpo(n-1)、すなわち、変位−トルク変換部41が現在の操舵角θを用いて計算した反力トルクTzfに等しくなる。したがって、制御時間T(n)においては、勾配制限フィルタ部43は、反力トルクTzpoとして反力トルクTzfを選択する。
一方、操舵ハンドル11が戻し操作されている状態においても、勾配制限フィルタ部43は、上述した切込み操作時と同様に、前記関係式8に従って反力トルクTzpoを計算(選択)する。具体的に、図7(b)を用いて詳細に説明する。図7(b)は、戻し操作時に勾配制限フィルタ部43が実行するフィルタ処理を時系列的に示したものであり、運転者が、制御時間T(t-5)において、大きな操舵角速度dθ/dtで操舵ハンドル11の戻し操作を開始した状態を示している。この戻し操作においても、まず、制御時間T(t-5)において、勾配制限フィルタ部43は、前記関係式8に従って、変位−トルク変換部41から供給された反力トルクTzrを反力トルクTzpoとして選択する。すなわち、この制御時間T(t-5)においては、勾配制限フィルタ部43の選択演算処理が初回であるため、前回計算した反力トルクTzpo(n-1)が存在しないため、反力トルクTzrが反力トルクTzpoとして選択される。
次に、制御時間T(t-4)においては、勾配制限フィルタ部43は、制御時間T(t-5)で選択した反力トルクTzpo(n-1)すなわち反力トルクTzr(以下、この反力トルクTzrを前回反力トルクTzrという)を用いて、前記関係式8の選択演算を実行する。具体的に説明すると、変位−トルク変換部41から供給される反力トルクTzrも、上述したように、操舵角速度dθ/dtが大きい状況では変化勾配値ΔTzr/dtが大きな値となる。このため、制御時間T(t-4)においては、反力トルクTzrは、図7(b)にて破線で示すように大きく減少して変化する。また、下降制限値は、破線で示される反力トルクTzrの変化勾配値ΔTz/dtに比して小さな下降勾配制限値Mtdnが減算されて計算される。このため、下降制限値は、図7(b)にて実線で示すように、破線で示される反力トルクTzrの値に比して小さく減少する値となる。また、上昇制限値は、図7(b)にて一点鎖線で示すように、実線で示される下降制限値に比して大きな値となる。このため、勾配制限フィルタ部43は、前記関係式8に従って、制御時間T(t-4)における反力トルクTzpoとして中間値の下降制限値を選択する。
同様にして、制御時間T(t-1)まで、勾配制限フィルタ部43は、前記関係式8に従って、中間値の下降制限値を各制御時間における反力トルクTzpoとして選択する。そして、制御時間T(n)においては、操舵ハンドル11の回動操作が終了すなわち操舵角速度dθ/dtが「0」の状態となる。この状態においては、反力トルクTzr、上昇制限値および下降制限値がすべて制御時間T(n-1)で選択した反力トルクTzpo(n-1)、すなわち、変位−トルク変換部41が現在の操舵角θを用いて計算した反力トルクTzrに等しくなる。したがって、制御時間T(n)においては、勾配制限フィルタ部43は、反力トルクTzpoとして反力トルクTzrを選択する。
以上のように、勾配制限フィルタ部43が反力トルクTz、上昇制限値および下降制限値のうちの中間値を選択することによって、反力トルクTzpoが計算される。これにより、反力トルクTz(反力トルクTzf,Tzr)の動的なばね特性を、操舵ハンドル11の操舵角速度dθ/dtの変化に対して、スムーズに変化させることができる。したがって、運転者は、反力トルクTz(反力トルクTzf,Tzr)の動的なばね特性の変化に起因する違和感すなわち操舵ハンドル11の回動操作に伴う反力の急変動を知覚しにくくなって、良好な操舵フィーリングを得ることができる。なお、上述した勾配制限フィルタ部43の選択演算においては、前記関係式8の演算に代えて、制御時間tに対する反力トルクTzpoを記憶した図8に示すような特性の変換テーブルを用いて計算するようにしてもよい。
上記のように計算された反力トルクTzpoは、トルク加算部44に供給される。トルク加算部44は、供給された反力トルクTzpoや以下に説明する操舵システムから入力される反力を合算して、運転者が操舵ハンドル11を介して知覚する目標反力トルクThを計算する。このため、トルク加算部44は、操舵角速度−摩擦トルク変換部45、操舵角速度−粘性トルク変換部46およびヨーレート−セルフアライメントトルク変換部47(以下、ヨーレート−SAT変換部47という)からそれぞれ計算されたトルクを入力する。なお、これら各変換部45,46,47が計算する各トルクの計算方法については、本発明と直接関係しないため、以下に簡単に説明しておく。
操舵角速度−摩擦トルク変換部45は、操舵ハンドル11と他部材(例えば、ステアリングコラムなど)との間の摩擦に起因する摩擦トルクMtdnwを計算する。この摩擦トルクMtdnwは、操舵角速度dθ/dtの大きさに依存するとともにヒステリシス特性を有して計算されるため、操舵角速度dθ/dtに対する摩擦トルクMtdnwを記憶した図9に示すような特性の変換テーブルを用いて計算される。操舵角速度−粘性トルク変換部46は、操舵ハンドル11の回動操作に伴い発生する粘性トルクMtdを計算する。この粘性トルクMtdは、操舵角速度dθ/dtに比例して計算されるため、操舵角速度dθ/dtに対する粘性トルクMtdを記憶した図10に示すような特性の変換テーブルを用いて計算される。また、ヨーレート−SAT変換部47は、左右前輪FW1,FW2と路面間の摩擦に起因して、操舵ハンドル11に入力されるセルフアライメントトルクMsatを計算する。このヨーレート−SAT変換部47は、ヨーレートセンサ35によって検出された実ヨーレートγを入力し、同検出された実ヨーレートγに対するセルフアライメントトルクMsatを記憶した図11に示すような特性の変換テーブルを用いて計算する。
このように計算された摩擦トルクMtdnw、粘性トルクMtdおよびセルフアライメントトルクMsatを入力すると、トルク加算部44は、供給された反力トルクTzpoに対して、入力した各トルクを合算する。これにより、トルク加算部44は、操舵ハンドル11に付与する反力として、切込み操作時には目標反力トルクThfを計算し、戻し操作時には目標反力トルクThrを計算する。そして、トルク加算部44は、計算した目標反力トルクTh(すなわち、目標反力トルクThf,Thr)を駆動制御部48に供給する。
駆動制御部48は、駆動回路37から反力アクチュエータ13内の電動モータに流れる駆動電流を入力し、同電動モータに目標反力トルクThに対応した駆動電流が流れるように駆動回路37をフィードバック制御する。この反力アクチュエータ13内の電動モータの駆動制御により、同電動モータは、操舵入力軸12を介して操舵ハンドル11に目標反力トルクThに対応した反力を付与する。
これにより、運転者は、操舵ハンドル11から前記計算された目標反力トルクThを感じながら、言い換えれば、これらの目標反力トルクThに等しい操舵トルクを操舵ハンドル11に加えながら、操舵ハンドル11を回動操作する。このとき、特に、検出操舵角θが所定の操舵角θz以上であれば、操舵角θと目標反力トルクThとの関係が上述したウェーバー・ヘフナーの法則に従うものであるので、運転者は、操舵ハンドル11から人間の知覚特性に合った感覚を受けながら、操舵ハンドル11を回動操作できる。
一方、感覚適合制御部50に入力された操舵角θは、運転者によって切込み操作されているときには、変位−トルク変換部51が前記式1,2と同様な下記式9,10に従って操舵トルクTdfを計算する。また、運転者によって戻し操作されているときには、変位−トルク変換部51が前記式3,4と同様な下記式11,12に従って操舵トルクTdrを計算する。これら操舵トルクTdf,Tdrの計算においても、式9,11に関しては、一次関数に限定されるものではなく、操舵角θが「0」のときに操舵トルクTdf,Tdrが「0」となり、かつ、式10,12の指数関数と連続的に接続される関数であれば、種々の関数を採用することができる。
Tdf=a1・θ (|θ|<θz) …式9
Tdf=To・exp(K1・θ) (θz≦|θ|) …式10
Tdr=a2・θ−Mh1 (|θ|<θz) …式11
Tdr=To・exp(K1・θ)−Mh1 (θz≦|θ|) …式12
この場合も、前記式9中のa1および前記式11中のa2は上述した一次関数の傾きを表す定数である。また、前記式10,12中のTo,K1は、前記式2,4と同様な定数である。また、前記式9〜12中の操舵角θは、前記検出操舵角θの絶対値を表しているものであるが、検出操舵角θが正であれば定数a1,a2および定数Toを正の値とするとともに、検出操舵角θが負であれば定数a1,a2および定数Toを前記正の定数a1,a2および定数Toと同じ絶対値を有する負の値とする。さらに、前記式11,12中のMh1は、前記式3,4と同様に、切込み操作と戻し操作間でヒステリシス特性を構成するためのヒステリシス項である。このヒステリシス項Mh1も、ある操舵角θが検出された時点における切込み操作時の操舵トルクTdfと戻し操作時の操舵トルクTdrとの比率に基づいて決定され、下記式13のように表される。
Mh1=np・(Kp・Tdf) …式13
ただし、前記式5と同様に、前記式13中のKpは操舵トルクTdfに対する最小変化感度(ウェーバー比)であり、npは最小変化感度に対する所定の係数である。
この操舵トルクTdf,Tdrの計算においても、上述した反力トルクTzf,Tzrの計算と同様に、前記式13に従ってヒステリシス項Mh1が計算されることにより、前記式9,10に従って計算された操舵トルクTdfと前記式11,12に従って計算された操舵トルクTdrとが連続的に繋がるため、切込み操作から戻し操作にスムーズに変えることができる。また、検出操舵角θが操舵角θz未満のときには、前記式9および前記式11に従って操舵トルクTdfおよび操舵トルクTdrが計算されるため、これら操舵トルクTdf,Tdrを「0」に収束させることができるとともに、中立位置を跨いで操舵ハンドル11が回動されても操舵トルクTdfと操舵トルクTdrを連続的(スムーズ)に変更することができる。なお、この場合も、前記式9〜12の演算に代えて、操舵角θに対する操舵トルクTdfおよび操舵トルクTdrを記憶した図3に示すような特性の変換テーブルを用いて、操舵トルクTdf,Tdrを計算するようにしてもよい。
このように計算された操舵トルクTdf,Tdrは、トルク−横加速度変換部52に供給される。なお、トルク−横加速度変換部52は、変位−トルク変換部51から供給される操舵トルクTdf,Tdrがいずれの場合であっても後述する計算を同様に実行するため、以下の説明においては操舵トルクTdf,Tdrをまとめて操舵トルクTdとして説明する。トルク−横加速度変換部52は、運転者が操舵ハンドル11の切込み操作により見込んでいる見込み横加速度Gdfを下記式14,15に従って計算し、戻し操作により見込んでいる見込み横加速度Gdrを下記式16,17に従って計算する。このとき、トルク−横加速度変換部52は、見込み横加速度Gdf,Gdrを、操舵トルクTdの絶対値が正の所定値Tg未満であれば下記式14,16に従って計算し、操舵トルクTdの絶対値が正の所定値Tg以上であれば下記式15,17に従って計算する。ここで、下記式14または式16は操舵トルクTdの一次関数式であって操舵トルクTdが「0」のときに見込み横加速度Gdf,Gdrが「0」となる関数である。また、下記式15,17は操舵トルクTdのべき乗関数であり、下記式14,16と所定値Tgにて連続的に接続するものである。
Gdf=c1・Td (|Td|<Tg) …式14
Gdf=C・TdK2 (Tg≦|Td|) …式15
Gdr=c2・Td−Mh2 (|Td|<Tg) …式16
Gdr=C・(Td−Mh2)K2 (Tg≦|Td|) …式17
ただし、前記式14中のc1および前記式16中のc2は一次関数の傾きを表す定数であり、前記式15,17中のC,K2は定数である。また、前記式14〜17中の操舵トルクTdは前記式9〜13を用いて計算した操舵トルクTd(すなわち操舵トルクTdf,Tdr)の絶対値を表しているものであり、前記計算した操舵トルクTdが正であれば定数c1,c2および定数Cを正の値とするとともに、前記計算した操舵トルクTdが負であれば定数c1,c2および定数Cを前記正の定数c1,c2および定数Cと同じ絶対値を表す負の値とする。
また、前記式16,17中のMh2は、運転者による操舵ハンドル11の回動操作が切込み操作から戻し操作に変わった際に、計算される見込み横加速度Gdfと見込み横加速度Gdrとを連続的に繋げるためすなわち切込み操作と戻し操作間でヒステリシス特性を構成するためのヒステリシス項である。このヒステリシス項Mh2は、ある操舵トルクTdが供給された時点における切込み操作時の見込み横加速度Gdfと戻し操作時の見込み横加速度Gdrとの比率に基づいて決定され、下記式18のように表される。
Mh2=nq・(Kq・Td) …式18
ただし、前記式18中のKqは後述する操舵トルクTdに対する最小変化感度(ウェーバー比)であり、nqは最小変化感度に対する所定の係数である。なお、本実施形態においては、ヒステリシス項Mh2を前記式18のように操舵角θを含ますに導出するように実施したが、これに代えてまたは加えて、例えば、操舵角θを含んで同操舵角θに依存するように導出することも可能である。
このように、ヒステリシス項Mh2が計算されることにより、前記式14または式15に従って計算された見込み横加速度Gdfと前記式16または式17に従って計算された見込み横加速度Gdrとが連続的に繋がるため、見込み横加速度Gdfから見込み横加速度Gdrへ、逆に、見込み横加速度Gdrから見込み横加速度Gdfへスムーズに切り替えることができる。また、前記式18に従ってヒステリシス項Mh2が計算されることにより、切込み操作と戻し操作間の変更時点における見込み横加速度Gdf,Gdrが維持される。このため、後述するように、見込み横加速度Gdf,Gdrに基づいて計算される補正目標転舵角δdaに転舵された左右前輪FW1,FW2は、例えば、道路から入力される外乱(セルフアライメントトルクなど)によって、その実転舵角δが変化することを防止することができ、運転者が見込んだ車両の挙動を維持することができる。
さらに、操舵トルクTdが所定値Tg未満のときに、前記式14および前記式16に従って見込み横加速度Gdfおよび見込み横加速度Gdrが計算されることにより、操舵ハンドル11が中立位置を跨いで回動操作される場合であっても、前記式14および前記式16は、原点「0」と通る関数であるため、見込み横加速度Gdfと見込み横加速度Gdrが非連続となることが防止される。
すなわち、運転者が見込み横加速度を、例えば、右方向から左方向へ変化する横加速度を見込んだとすれば、トルク−横加速度変換部52は、前記式16に従って一次関数的に「0」に収束する見込み横加速度Gdrを計算するとともに前記式14に従って「0」から一次関数的に増大する見込み横加速度Gdfを計算する。したがって、見込み横加速度Gdfと見込み横加速度Gdrは、「0」で連続となり、見込み横加速度の知覚方向が変化する場合、言い換えると、検出操舵角θが正負逆転する場合においても、極めてスムーズに見込み横加速度Gdf,Gdrを切り替えることができて、運転者は車両の挙動変化に関して違和感を覚えることがない。なお、この場合も、前記式14〜18の演算に代えて、操舵トルクTdに対する見込み横加速度Gdf,Gdrを記憶した図12に示すような特性の変換テーブルを用いて、見込み横加速度Gdf,Gdrを計算するようにしてもよい。
ここで、切込み操作時に適用される前記式15について説明しておく。なお、戻し操作時に適用される前記式17については、前記式15における操舵トルクTdが操舵トルク(Td−Mh)で表されること以外同様に構成されているため前記式15を詳細に説明することにより、その説明を省略する。前記式10を用いて操舵トルクTd(詳しくは操舵トルクTdf)を消去すると、下記式19に示すようになる。
Gdf=C・(To・exp(K1・θ))K2=C・ToK2・exp(K1・K2・θ)=Go・exp(K1・K2・θ) …式19
前記式19において、Goは定数C・ToK2であり、式19は、運転者による操舵ハンドル11の操舵角θに対して見込み横加速度Gdfが指数関数的に変化していることを示す。なお、前記式17も上記式15から式19への変形と同様に変形することにより、操舵角θに対して見込み横加速度Gdfが指数関数的に変化する。そして、この見込み横加速度Gdfは、車内の所定部位への運転者の体の一部の接触によって運転者が知覚し得る物理量であり、前述したウェーバー・ヘフナーの法則に従ったものである。したがって、操舵トルクTdfが所定値Tg以上のときに、運転者が、この見込み横加速度Gdfに等しい横加速度を知覚しながら操舵ハンドル11を回動操作することができれば、操舵ハンドル11の回動操作と車両の操舵との関係を人間の知覚特性に対応させることができる。
次に、上述したパラメータK1,K2,C(所定値K1,K2,C)の決め方について説明しておく。なお、このパラメータK1,K2,Cの決め方についての説明では、操舵トルクTdf,Tdrおよび見込み横加速度Gdf,Gdrを操舵トルクTおよび横加速度Gとして扱う。前述したウェーバー・ヘフナーの法則によれば、「人間の知覚できる最小の物理量変化ΔSとその時点での物理量Sとの比ΔS/Sは、物理量Sの値によらず一定となり、その比ΔS/Sをウェーバー比という」ことになっている。本発明者等は、操舵トルクおよび横加速度に関し、前記ウェーバー・ヘフナーの法則が成立することを確認するとともに、ウェーバー比を決定するために、次のような実験を、男女、年齢、車両の運転歴などの異なる種々の人間に対して行った。
操舵トルクに関しては、車両の操舵ハンドルにトルクセンサを組付け、操舵ハンドルに検査用のトルクを外部から付与するとともに同検査用トルクを種々の態様で変化させながら、この検査用トルクに抗して人間が操舵ハンドルに操作力を加えて同操舵ハンドルを回転させないように調整する人間の操舵トルク調整能力を計測した。すなわち、前記状況下で、ある時点での検出操舵トルクをTとし、同検出操舵トルクTからの変化を知覚し得る最小の操舵トルク変化量をΔTとしたときの比の値ΔT/Tすなわちウェーバー比を種々の人間に対して計測した。この実験の結果によれば、操舵ハンドルの操作方向、操舵ハンドルを把持する手の状態、検査用トルクの大きさおよび方向によらず、種々の人間に対してウェーバー比ΔT/Tはほぼ一定の値αとなった。
横加速度に関しては、運転席の側方に壁部材を設けて同壁部材に人間の肩の押圧力を検出する力センサを組付け、人間に操舵ハンドルを把持させるとともに壁部材の力センサに肩を接触させ、壁部材に検査用の力を人間に対して横方向に外部から付与するとともに同検査用の力を種々の態様で変化させながら、この検査用の力に抗して人間が壁部材を押して壁部材が移動しないように調整する、すなわち姿勢を維持する人間の横力調整能力を計測した。すなわち、前記状況下で、ある時点での外部からの横力に耐えて姿勢を維持する検出力をFとし、同検出力Fからの変化を知覚し得る最小の力変化量をΔFしたときの比の値ΔF/Fすなわちウェーバー比を種々の人間に対して計測した。この実験の結果によれば、壁部材に付与される基準力の大きさおよび方向によらず、種々の人間に対してウェーバー比ΔF/Fはほぼ一定の値βとなった。
一方、前記式10を微分するとともに、同微分した式において式10を考慮すると、下記式21が成立する。
ΔT=To・exp(K1・θ)・K1・(dθ/dt)=T・K1・(dθ/dt) …式21
この式21を変形するとともに、前記実験により求めた操舵トルクに関するウェーバー比ΔT/TをKtとすると、下記式22が成立する。
K1=ΔT/(T・(dθ/dt))=Kt/(dθ/dt) …式22
また、最大操舵トルクをTmaxとすれば、前記式10より下記式23が成立する。
Tmax=To・exp(K1・θmax) …式23
この式23を変形すれば、下記式24が成立する。
K1=log(Tmax/To)/θmax …式24
そして、前記式22および式24から下記式25が導かれる。
dθ/dt=Kt/K1=Kt・θmax/log(Tmax/To) …式25
この式25において、Ktは操舵トルクTのウェーバー比であり、θmaxは操舵角の最大値であり、Tmaxは操舵トルクの最大値であり、Toは人間が知覚し得る最小操舵トルクに対応するものであり、これらの値Kt,θmax,Tmax,Toはいずれも実験およびシステムによって決定される定数であるので、操舵角速度dθ/dtは前記式25を用いることによっても計算できる。そして、この操舵角速度dθ/dtとウェーバー比Ktを用いて、前記式22に基づいて所定値(係数)K1も計算できる。
また、前記式15を微分するとともに、同微分した式において式15を考慮すると、下記式26が成立する。
ΔG=C・K2・TK2-1・ΔT=G・K2・ΔT/T …式26
この式26を変形し、かつ前記実験により求めた操舵トルクに関するウェーバー比ΔT/TをKtとするとともに、横加速度に関するウェーバー比ΔF/FをKaとすると下記式27,28が成立する。
ΔG/G=K2・ΔT/T …式27
K2=Ka/Kt …式28
この式28において、Ktは操舵トルクに関するウェーバー比であるとともに、Kaは横加速度に関するウェーバー比であって、共に定数として与えられるものであるので、これらのウェーバー比Kt,Kaを用いて、前記式28に基づいて係数K2も計算できる。
また、横加速度の最大値をGmaxとし、操舵トルクの最大値をTmaxとすれば、前記式15から下記式29が導かれる。
C=Gmax/TmaxK2 …式29
そして、この式29においては、GmaxおよびTmaxは実験およびシステムによって決定される定数であり、かつK2は前記式28によって計算されるものであるので、定数(係数)Cも計算できる。
以上のように、操舵角θの最大値θmax、操舵トルクTの最大値Tmax、横加速度Gの最大値Gmax、最小操舵トルクTo,最小感知横加速度Go,操舵トルクTに関するウェーバー比Kt、および横加速度に関するウェーバー比Kaを、実験およびシステムによって決定すれば、前記パラメータK1、K2,Cを予め計算により決定しておくことができる。したがって、変位−トルク変換部41,51およびトルク−横加速度変換部52においては、前記式1〜18を用いて、運転者の知覚特性に合った反力トルクTzf,Tzr、操舵トルクTdf,Tdrおよび見込み横加速度Gdf,Gdrを計算できる。
ふたたび、図2の説明に戻ると、トルク−横加速度変換部52にて計算された見込み横加速度Gdf,Gdrは、転舵角変換部53に供給される。なお、転舵角変換部53は、トルク−横加速度変換部52から供給される見込み横加速度Gdf,Gdrがいずれの場合であっても後述する計算を同様に実行するため、以下の説明においては見込み横加速度Gdf,Gdrをまとめて見込み横加速度Gdとして説明する。転舵角変換部53は、見込み横加速度Gdを発生するのに必要な左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δdを計算するものであり、図13に示すように車速Vに応じて変化して見込み横加速度Gdに対する目標転舵角δdの変化特性を表すテーブルを有する。このテーブルは、車速Vを変化させながら車両を走行させて、左右前輪FW1,FW2の転舵角δと横加速度Gとを予め実測して収集したデータの集合である。そして、転舵角変換部53は、このテーブルを参照して、前記入力した見込み横加速度Gdと車速センサ33から入力した検出車速Vとに対応した目標転舵角δdを計算する。また、前記テーブルに記憶されている横加速度G(見込み横加速度Gd)と目標転舵角δdはいずれも正であるが、転舵角変換部53から供給される見込み横加速度Gdが負であれば、出力される目標転舵角δdも負となる。
なお、目標転舵角δdは下記式30に示すように車速Vと横加速度Gの関数であるので、前記テーブルを参照することに代えて、下記式30の演算の実行によっても計算することができる。
δd=L・(1+A・V2)・Gd/V2 …式30
ただし、前記式30中のLはホイールベースを示す予め決められた所定値であり、Aは車両の運動性能を示す予め決められた所定値である。
この計算された目標転舵角δdは、転舵制御部60の転舵角補正部61に供給される。転舵角補正部61は、トルク−横加速度変換部52から見込み横加速度Gdを入力するとともに、横加速度センサ34によって検出された実横加速度Gをも入力しており、下記式31の演算を実行して入力した目標転舵角δdを補正し、補正目標転舵角δdaを計算する。
δda=δd+K3・(Gd−G) …式31
ただし、係数K3は予め決められた正の定数であり、実横加速度Gが見込み横加速度Gdに満たない場合には、補正目標転舵角δdaの絶対値が大きくなる側に補正される。また、実横加速度Gが見込み横加速度Gdを超える場合には、補正目標転舵角δdaの絶対値が小さくなる側に補正される。この補正により、見込み横加速度Gdに必要な左右前輪FW1,FW2の転舵角がより精度よく確保される。
この計算された補正目標転舵角δdaは、駆動制御部62に供給される。駆動制御部62は、転舵角センサ32によって検出された実転舵角δを入力し、左右前輪FW1,FW2が補正目標転舵角δdaに転舵されるように転舵アクチュエータ21内の電動モータの回転をフィードバック制御する。また、駆動制御部62は、駆動回路38から同電動モータに流れる駆動電流も入力し、転舵トルクに対応した大きさの駆動電流が同電動モータに適切に流れるように駆動回路38をフィードバック制御する。この転舵アクチュエータ21内の電動モータの駆動制御により、同電動モータの回転は、転舵出力軸22を介してピニオンギア23に伝達され、ピニオンギア23によりラックバー24を軸線方向に変位させる。そして、このラックバー24の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2は補正目標転舵角δdaに転舵される。
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、変位−トルク変換部41が、前記式1〜5に従って、静的なばね特性としての反力トルクTz(反力トルクTzf,Tzr)を計算する。また、操舵速度−勾配制限値変換部42が、前記式6,7に従って、操舵角速度dθ/dtに依存する反力トルク制限値としての上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnを計算する。そして、勾配制限フィルタ部43が、前記式8の関係式に従って、変位−トルク変換部41から供給された反力トルクTzの値、前回計算した反力トルクTzpo(n-1)に上昇勾配制限値Mtupを加算した値および前回計算した反力トルクTzpo(n-1)から下降勾配制限値Mtdnを減算した値を比較して、これら各値のうちの中間値を選択する。これにより、反力トルクTz(反力トルクTzf,Tzr)の動的なばね特性を、操舵ハンドル11の操舵角速度dθ/dtの変化に対して、連続的に(滑らかに)変化させることができる。したがって、運転者は、反力トルクTz(反力トルクTzf,Tzr)の動的なばね特性の変化に起因する違和感すなわち操舵ハンドル11の回動操作に伴う反力の急変動を知覚しにくくなって、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
また、感覚適合制御部50においては、トルク−横加速度変換部52が操舵トルクTd(操舵トルクTdf,Tdr)に対して、べき乗関数的(または指数関数的)に変化する見込み横加速度Gdを計算する。そして、転舵角変換部53が計算された見込み横加速度Gdで車両が運動するために必要な目標転舵角δdを計算し、転舵角補正部61が目標転舵角δdを補正して補正目標転舵角δdaを計算する。これにより、駆動制御部62は、左右前輪FW1,FW2の転舵角δが補正目標転舵角δdaとなるように、転舵アクチュエータ21を駆動制御する。したがって、左右前輪FW1,FW2の転舵によって車両が旋回すると、この旋回により、運転者には、前記ウェーバー・ヘフナーの法則による「与えられた刺激の物理量」として見込み横加速度Gdが与えられる。そして、操舵角θに対してべき乗関数的(または指数関数的)に変化するものであるので、運転者は、人間の知覚特性に合った運動状態量を知覚しながら、操舵ハンドル11を操作できる。その結果、運転者は、人間の知覚特性に合わせて操舵ハンドル11を操作できるので、車両の運転が簡単になる。
次に、操舵ハンドル11の操作入力値として操舵トルクTを採用した上記実施形態の第1変形例について説明する。この第1変形例においては、図1に破線で示すように、操舵入力軸12に組み付けられて操舵ハンドル11に入力された操舵トルクを検出するとともに同検出された操舵トルクを操舵トルクTとして出力する操舵トルクセンサ39を備えている。なお、運転者が操舵ハンドル11に対して入力する操舵トルクと操舵ハンドル11から知覚する反力トルクとはその絶対値が等しくなるため、以下の説明においては、操舵トルクセンサ39が出力する操舵トルクTを反力トルクとして扱う。また、他の構成については、上記実施形態と同じであるが、電子制御ユニット36にて実行されるコンピュータプログラムは上記実施形態の場合と若干異なる。
この第1変形例の場合には、前記コンピュータプログラムを表す図2の機能ブロック図において、変位−トルク変換部41は設けられていない。そして、操舵トルクセンサ39が、操舵ハンドル11の回動操作に応じて、操舵トルクTを静的なばね特性を有する反力トルクTzf,Tzrとして勾配制限フィルタ部43に出力する。ここで、この第1変形例において、操舵トルクセンサ39から出力される反力トルクTzf,Tzrも、上記実施形態と同様に、操舵ハンドル11の操舵角速度dθ/dtに応じて動的なばね特性を有するようになる。なお、この第1変形例に係る以下の説明においても、反力トルクTzf,Tzrをまとめて反力トルクTzとして説明する。
すなわち、操舵トルクセンサ39も、上記実施形態の操舵角センサ31と同様に、所定の短い時間間隔で操舵トルクTすなわち反力トルクTzを出力している。このため、一連の操舵ハンドル11の回動操作において、操舵角速度dθ/dtが変化する場合には、出力される反力トルクTzが時系列的に離散した(不連続な)値となる。言い換えれば、この第1変形例においても、一連の操舵ハンドル11の回動操作において操舵角速度dθ/dtが変化する場合には、出力される反力トルクTzは、操舵角速度dθ/dtに対して動的なばね特性を有するようになる。なお、この第1変形例における操舵角速度dθ/dtは、例えば、前記式25に従って計算されるとよい。
より具体的に示せば、操舵角速度dθ/dtが大きい場合には、微小な制御時間dtあたりの出力される反力トルクTzの変化量ΔTzの変化勾配値ΔTz/dtが大きくなる。一方、操舵角速度dθ/dtが小さい場合には、変化勾配値ΔTz/dtが小さくなる。このように、第1変形例においても、操舵トルクセンサ39から出力される操舵トルクTすなわち反力トルクTzの変化勾配値ΔTz/dtは、操舵角速度dθ/dtの大きさに応じて異なる。これにより、操舵ハンドル11の回動操作において反力トルクTzのばね特性が動的に変化し、運転者は、感覚的な違和感を覚える。
したがって、この第1変形例においても、操舵速度−勾配制限値変換部42が、上記した運転者の覚える違和感を解消するために、前記式6,7に従って、反力トルクTzの変化勾配値ΔTz/dtに対して上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnを計算して設定する。そして、勾配制限フィルタ部43は、操舵トルクセンサ39から出力された反力トルクTzに対して、操舵速度−勾配制限値変換部42によって計算された上昇勾配制限値Mtupおよび下降勾配制限値Mtdnを用いてフィルタ処理し、上記実施形態と同様に、反力トルクTzpoを計算する。
以上の説明からも理解できるように、この第1変形例においても、上記実施形態と同様な効果が期待できる。また、操舵トルクセンサ39から出力された操舵トルクTを反力トルクTzとして用いることにより、電子制御ユニット36の構成を簡略化することができる。
なお、上記第1変形例においては、上記実施形態による車両の操舵制御と切り替え可能にしてもよい。すなわち、操舵角センサ31と操舵トルクセンサ39の両方を備え、上記実施形態のように変位−トルク変換部41にて計算される反力トルクTzに対して勾配制限フィルタ部43がフィルタ処理する場合と、操舵トルクセンサ39によって出力された操舵トルクTすなわち反力トルクTzに対して勾配制限フィルタ部43がフィルタ処理する場合とを切り替えて利用可能とすることもできる。この場合、前記切り替えを、運転者の意思により、または車両の運動状態に応じて自動的に切り替えるようにするとよい。また、上記第1変形例においては、図2の機能ブロック図における変位−トルク変換部51が設けられておらず、トルク−横加速度変換部52が操舵トルクセンサ39から出力された操舵トルクTを用いて見込み横加速度Gdを計算するようになっている。
次に、運動状態量としてヨーレートを採用するようにした上記実施形態の第2変形例について説明する。この第2変形例においては、電子制御ユニット36にて実行されるコンピュータプログラムが図14の機能ブロック図により示されている。この場合、感覚適合制御部50において、変位−トルク変換部51は上記実施形態と同様に機能するが、上記実施形態のトルク−横加速度変換部52に代えてトルク−ヨーレート変換部54が設けられている。
このトルク−ヨーレート変換部54は、変位−トルク変換部51から計算された操舵トルクTdf,Tdrが供給される。なお、この第2変形例においても、トルク−ヨーレート変換部54は、変位−トルク変換部51から供給される操舵トルクTdf,Tdrがいずれの場合であっても後述する計算を同様に実行するため、以下の説明においては操舵トルクTdf,Tdrをまとめて操舵トルクTdとして説明する。そして、トルク−ヨーレート変換部54は運転者が操舵ハンドル11の切込み操作により見込んでいる見込みヨーレートγdfを下記式32,33に従って計算し、戻し操作により見込んでいる見込みヨーレートγdrを下記式34,35に従って計算する。ここで、下記式32または式34は上記実施形態と同じく操舵トルクTdの一次関数であって操舵トルクTdが「0」のときに見込みヨーレートγdf,γdrが「0」となる関数である。また、下記式33または式35は上記実施形態と同じく操舵トルクTdのべき乗関数であり、下記式32,34と所定値Tgにて連続的に接続するものである。
γdf=c1・Td (|Td|<Tg) …式32
γdf=C・TdK2 (Tg≦|Td|) …式33
γdr=c2・Td−Mh2 (|Td|<Tg) …式34
γdr=C・(Td−Mh2)K2 (Tg≦|Td|) …式35
ただし、前記式32中のc1および前記式34中のc2は一次関数の傾きを表す定数であり、前記式33,35中のC,K2は定数である。また、前記式32〜35中の操舵トルクTdは前記式9〜12を用いて計算した操舵トルクTd(すなわち操舵トルクTdf,Tdr)の絶対値を表しているものであり、前記計算した操舵トルクTdが負であれば定数c1,c2および定数Cを前記正の定数c1,c2および定数Cと同じ絶対値を有する負の値とする。
また、前記34,35中のMh2は、運転者による操舵ハンドル11の回動操作が切込み操作から戻し操作に変わった際に、計算される見込みヨーレートγdfと見込みヨーレートγdrとを連続的に繋げるため言い換えれば切込み操作と戻し操作間でヒステリシス特性を構成するためのヒステリシス項である。このヒステリシス項Mh2は、ある操舵トルクTdが供給された時点における切込み操作時の見込みヨーレートγdfと戻し操作時の見込みヨーレートγdrとの比率に基づいて決定され、下記式36のように表される。
Mh2=nq・(Kq・Td) …式36
ただし、前記式36中のKqは操舵トルクTdに対するウェーバー比であり、nqは最小変化感度に対する所定の係数である。なお、この第2変形例においても、ヒステリシス項Mh2を前記式36のように操舵角θを含まずに導出するように実施したが、これに代えてまたは加えて、例えば、操舵角θを含んで同操舵角θに依存するように導出することも可能である。
このように、ヒステリシス項Mh2が計算されることにより、前記式32または式33に従って計算された見込みヨーレートγdfと前記式34または式35に従って計算される見込みヨーレートγdrとが連続的に繋がるため、見込みヨーレートγdfから見込みヨーレートγdrへ、逆に、見込みヨーレートγdrから見込みヨーレートγdfへスムーズに切り替えることができる。また、前記式36に従ってヒステリシス項Mh2が計算されることにより、切込み操作と戻し操作間の変更時点における見込みヨーレートγdf,γdrが維持される。このため、後述するように、見込みヨーレートγdf,γdrに基づいて計算される補正目標転舵角δdaに転舵された左右前輪FW1,FW2は、例えば、道路から入力される外乱などによって、その実転舵角δが変化することを防止することができ、運転者が見込んだ車両の挙動を維持することができる。
さらに、操舵トルクTdが所定値Tg未満のときに、前記式32および前記式34に従って見込みヨーレートγdfおよび見込みヨーレートγdrが計算されることにより、操舵ハンドル11が中立位置を跨いで回動操作される場合であっても、前記式32および前記式34は、原点「0」と通る関数であるため、見込みヨーレートγdfと見込みヨーレートγdrが非連続となることが防止される。
すなわち、所定値Tg未満においては、前記式31および前記式33は、ともに原点「0」を通る関数である。このため、運転者が見込みヨーレートとして、例えば、右方向から左方向へ変化するヨーレートを見込んだとすれば、トルク−ヨーレート変換部54は、前記式34に従って一次関数的に「0」に収束する見込みヨーレートγdrを計算するとともに、前記式32に従って「0」から一次関数的に増大する見込みヨーレートγdfを計算する。したがって、見込みヨーレートγdfと見込みヨーレートγdrは、「0」で連続となり、見込みヨーレートの知覚方向が変化する場合、言い換えると、検出操舵角θが正負逆転する場合においても、極めてスムーズに見込みヨーレートγdf,γdrを切り替えることができて、運転者は違和感を覚えることがない。なお、この場合も、前記式32〜35の演算に代えて、操舵トルクTdに対する見込みヨーレートγdf,γdrを記憶した図15に示すような特性の変換テーブルを用いて、見込みヨーレートγdf,γdrを計算するようにしてもよい。
また、トルク−ヨーレート変換部54にて計算された見込みヨーレートγdf,γdrは、転舵角変換部55に供給される。なお、転舵角変換部55は、トルク−ヨーレート変換部54から供給される見込みヨーレートγdf,γdrがいずれの場合であっても後述する計算を同様に実行するため、以下の説明においては見込みヨーレートγdf,γdrをまとめて見込みヨーレートγdとして説明する。転舵角変換部55は、見込みヨーレートγdを発生するのに必要な左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δdを計算するものであり、図16に示すように車速Vに応じて変化して見込みヨーレートγdに対する目標転舵角δdの変化特性を表すテーブルを有する。このテーブルは、車速Vを変化させながら車両を走行させて、左右前輪FW1,FW2の転舵角δとヨーレートγとを予め実測して収集したデータの集合である。そして、転舵角変換部55は、このテーブルを参照して、前記入力した見込みヨーレートγdと車速センサ33から入力した検出車速Vに対応した目標転舵角δdを計算する。また、前記テーブルに記憶されているヨーレートγ(見込みヨーレートγd)と目標転舵角δdはいずれも正であるが、トルク−ヨーレート変換部54から供給される見込みヨーレートγdが負であれば、出力される目標転舵角δdも負となる。
なお、目標転舵角δdは下記式37に示すように車速Vとヨーレートγの関数であるので、前記テーブルを参照することに代えて、下記式37の演算の実行によっても計算することができる。
δd=L・(1+A・V2)・γd/V …式37
ただし、前記式37においても、Lはホイールベースを示す予め決められた所定値であり、Aは車両の運動性能を示す予め決められた所定値である。
そして、この計算された目標転舵角δdは、転舵制御部60の転舵角補正部63に供給される。転舵角補正部63は、トルク−ヨーレート変換部54から見込みヨーレートγdを入力するとともに、ヨーレートセンサ35によって検出された実ヨーレートγをも入力しており、下記式38の演算を実行して、入力した目標転舵角δdを補正して補正目標転舵角δdaを計算する。
δda=δd+K5・(γd−γ) …式38
ただし、係数K5は予め決められた正の定数であり、実ヨーレートγが見込みヨーレートγdに満たない場合には、補正目標転舵角δdaの絶対値が大きくなる側に補正される。また、実ヨーレートγが見込みヨーレートγdを超える場合には、補正目標転舵角δdaの絶対値が小さくなる側に補正される。この補正により、見込みヨーレートγdに必要な左右前輪FW1,FW2の転舵角δがより精度よく確保される。
また、電子制御ユニット36にて実行される他のプログラム処理については上記実施形態の場合と同じである。そして、図14の機能ブロック図において、上記実施形態の図2と同じ符号を付してその説明を省略する。
そして、上記説明した第2変形例においても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。また、この第2変形例においては、左右前輪FW1,FW2の転舵によって車両が旋回すると、この旋回により、運転者には、前記ウェーバー・ヘフナーの法則による「与えられた刺激の物理量」として見込みヨーレートγdが与えられる。そして、操舵角θに対してべき乗関数的(または指数関数的)に変化するものであるので、運転者は、人間の知覚特性に合った運動状態量を知覚しながら、操舵ハンドル11を操作できる。その結果、運転者は、人間の知覚特性に合わせて操舵ハンドル11を操作できるので、車両の運転が簡単になる。
次に、上記実施形態における運動状態量としての横加速度に代えて、旋回曲率を用いた上記実施形態の第3変形例について説明する。この第3変形例においても、車両の操舵装置が上記実施形態と同様に図1に示すように構成されている。ただし、電子制御ユニット36にて実行されるコンピュータプログラムが上記実施形態の場合とは若干異なる。
この第3変形例においては、電子制御ユニット36にて実行されるコンピュータプログラムが図17の機能ブロック図により示されている。この場合、感覚適合制御部50において変位−トルク変換部51は上記実施形態と同様に機能するが、上記実施形態のトルク−横加速度変換部52に代えてトルク−旋回曲率変換部56が設けられている。
このトルク−旋回曲率変換部56は、変位−トルク変換部51から計算された操舵トルクTdf,Tdrが供給される。なお、この第3変形例においても、トルク−旋回曲率変換部56は、変位−トルク変換部51から供給される操舵トルクTdf,Tdrがいずれの場合であっても後述する計算を同様に実行するため、以下の説明においては操舵トルクTdf,Tdrをまとめて操舵トルクTdとして説明する。そして、トルク−旋回曲率変換部56は、運転者が操舵ハンドル11の切込み操作により見込んでいる見込み旋回曲率ρdfを下記式39,40に従って計算し、戻し操作により見込んでいる見込み旋回曲率ρdrを下記式41,42に従って計算する。このとき、トルク−旋回曲率変換部56は、見込み旋回曲率ρdf,ρdrを、操舵トルクTdの絶対値が正の所定値Tg未満であれば下記式39,41に従って計算し、操舵トルクTdの絶対値が正の所定値Tg以上であれば下記式40,42に従って計算する。ここで、下記式39または式41は上記実施形態と同じく操舵トルクTdの一次関数式であって操舵トルクTdが「0」のときに見込み旋回曲率ρdf,ρdrが「0」となる関数である。また、下記式40,42は上記実施形態と同じく操舵トルクTdのべき乗関数であり、下記式39,41と所定値Tgにて連続的に接続するものである。
ρdf=c1・Td (|Td|<Tg) …式39
ρdf=C・TdK2 (Tg≦|Td|) …式40
ρdr=c2・Td−Mh2 (|Td|<Tg) …式41
ρdr=C・(Td−Mh2)K2 (Tg≦|Td|) …式42
ただし、前記式39中のc1および前記式41中のc2は一次関数の傾きを表す定数であり、前記式40,42中のC,K2は定数である。また、前記式39〜42中の操舵トルクTdは前記式9〜12を用いて計算した操舵トルクTd(すなわち操舵トルクTdf,Tdr)の絶対値を表しているものであり、前記計算した操舵トルクTdが正であれば定数c1,c2および定数Cを正の値とするとともに、前記計算した操舵トルクTdが負であれば定数c1,c2および定数Cを前記正の定数c1,c2および定数Cと同じ絶対値を有する負の値とする。
また、前記式41,42中のMh2は、運転者による操舵ハンドル11の回動操作が切込み操作から戻し操作に変わった際に、計算される見込み旋回曲率ρdfと見込み旋回曲率ρdrとを連続的に繋げるためすなわち切込み操作と戻し操作間でヒステリシス特性を構成するためのヒステリシス項である。このヒステリシス項Mh2は、ある操舵トルクTdが供給された時点における切込み操作時の見込み旋回曲率ρdfと戻し操作時の見込み旋回曲率ρdrとの比率に基づいて決定され、下記式43にように表される。
Mh2=nq・(Kq・Td) …式43
ただし、前記式43中のKqは操舵トルクTdに対するウェーバー比であり、nqは最小変化感度に対する所定の係数である。なお、この第3変形例においても、ヒステリシス項Mh2を前記式43のように操舵角θを含まずに導出するように実施したが、これに代えてまたは加えて、例えば、操舵角θを含んで同操舵角θに依存するように導出することも可能である。
このように、ヒステリシス項Mh2が計算されることにより、前記式39または式40に従って計算された見込み旋回曲率ρdfと前記式41または式42に従って計算された見込み旋回曲率ρdrとが連続的に繋がるため、見込み旋回曲率ρdfから見込み旋回曲率ρdrへ、逆に、見込み旋回曲率ρdrから見込み旋回曲率ρdfへスムーズに切り替えることができる。また、前記式43に従ってヒステリシス項Mh2が計算されることにより、切込み操作と戻し操作間の変更時点における見込み旋回曲率ρdf,ρdrが維持される。このため、後述するように、見込み旋回曲率ρdf,ρdrに基づいて計算される補正目標転舵角δdaに転舵された左右前輪FW1,FW2は、例えば、道路から入力される外乱などによって、その実転舵角δが変化することを防止することができ、運転者が見込んだ車両の挙動を維持することができる。
さらに、操舵トルクTdが所定値Tg未満のときに、前記式39および前記式41に従って見込み旋回曲率ρdfおよび見込み旋回曲率ρdrが計算されることにより、操舵ハンドル11が中立位置を跨いで回動操作される場合であっても、前記式39および前記式41は、原点「0」を通る関数であるため、見込み旋回曲率ρdfと見込み旋回曲率ρdrが非連続となることが防止される。
すなわち、所定値Tg未満においては、前記式39および式41は、ともに原点「0」を通る関数である。このため、運転者が見込み旋回曲率として、例えば、右旋回から左旋回へ変化する旋回曲率を見込んだとすれば、トルク−旋回曲率変換部56は、前記式41に従って一次関数的に「0」に収束する見込み旋回曲率ρdrを計算するとともに、前記式39に従って「0」から一次関数的に増大する見込み旋回曲率ρdfを計算する。したがって、見込み旋回曲率ρdfと見込み旋回曲率ρdrは、「0」で連続となり、見込み旋回曲率の知覚(視認)方向が変化する場合、言い換えると、検出操舵角θが正負逆転する場合においても、極めてスムーズに見込み旋回曲率ρdf,ρdrを切り替えることができて、運転者は違和感を覚えることがない。なお、この場合も、前記式39〜式43の演算に代えて、操舵トルクTdに対する見込み旋回曲率ρdf,ρdrを記憶した図18に示すような特性の変換テーブルを用いて、見込み旋回曲率ρdf,ρdrを計算するようにしてもよい。
また、トルク−旋回曲率変換部56にて計算された見込み旋回曲率ρdf,ρdrは、転舵角変換部57に供給される。なお、転舵角変換部57は、トルク−旋回曲率変換部56から供給される見込み旋回曲率ρdf,ρdrがいずれの場合であっても後述する計算を同様に実行するため、以下の説明においては見込み旋回曲率ρdf,ρdrをまとめて見込み旋回曲率ρdとして説明する。転舵角変換部57は、見込み旋回曲率ρdを発生するのに必要な左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δdを計算するものであり、図19に示すように車速Vに応じて変化して見込み旋回曲率ρdに対する目標転舵角δdの変化特性を表すテーブルを有する。このテーブルは、車速Vを変化させながら車両を走行させて、左右前輪FW1,FW2の転舵角δと旋回曲率ρとを予め実測して収集したデータの集合である。そして、転舵角変換部57は、このテーブルを参照して、前記入力した見込み旋回曲率ρdと車速センサ33から入力した検出車速Vとに対応した目標転舵角δdを計算する。また、前記テーブルに記憶されている旋回曲率ρ(見込み旋回曲率ρd)と目標転舵角δdはいずれも正であるが、トルク−旋回曲率変換部56から供給される見込み旋回曲率ρdが負であれば、出力される目標転舵角δdも負となる。
なお、この第3変形例においても、目標転舵角δdは下記式44に示すように車速Vと旋回曲率ρの関数であるので、前記テーブルを参照することに代えて、下記式44の演算の実行によっても計算することができる。
δd=L・(1+A・V2)・ρd …式44
ただし、前記式44においても、Lはホイールベースを示す予め決められた所定値であり、Aは車両の運動性能を示す予め決められた所定値である。
この計算された目標転舵角δdは、転舵制御部60の転舵角補正部64に供給される。転舵角補正部64は、トルク−旋回曲率変換部56から見込み旋回曲率ρdを入力するとともに、旋回曲率計算部65から実旋回曲率ρをも入力する。旋回曲率計算部65は、横加速度センサ34によって検出された横加速度G、または、ヨーレートセンサ35によって検出されたヨーレートγと、車速センサ33によって検出された車速Vとを用いて、下記式45の演算の実行により実旋回曲率ρを計算して転舵角補正部64に出力する。
ρ=G/V2またはρ=γ/V …式45
そして、転舵角補正部64は、下記式46の演算を実行して、入力した目標転舵角δdを補正して補正目標転舵角δdaを計算する。
δda=δd+K7・(ρd−ρ) …式46
ただし、係数K7は予め決められた正の定数であり、実旋回曲率ρが見込み旋回曲率ρdに満たない場合には、補正目標転舵角δdaの絶対値が大きくなる側に補正される。また、実旋回曲率ρが見込み旋回曲率ρdを超える場合には、補正目標転舵角δdaの絶対値が小さくなる側に補正される。この補正により、見込み旋回曲率ρdに必要な左右前輪FW1,FW2の転舵角δがより精度よく確保される。
また、電子制御ユニット36にて実行される他のプログラム処理については上記実施形態の場合と同じである。したがって、図17の機能ブロック図において、上記実施形態の図2と同一の符号を付してその説明を省略する。
そして、上記説明した第3変形例においても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。また、この第3変形例においては、左右前輪FW1,FW2の転舵によって車両が旋回すると、この旋回により、運転者には、前記ウェーバー・ヘフナーの法則による「与えられた刺激の物理量」として見込み旋回曲率ρdが与えられる。そして、操舵角θに対してべき乗関数的(または指数関数的)に変化するものであるので、運転者は、人間の知覚特性に合った運動状態量を知覚しながら、操舵ハンドル11を操作できる。その結果、運転者は、人間の知覚特性に合わせて操舵ハンドル11を操作できるので、車両の運転が簡単になる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態および第1ないし第3変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態およびその変形例においては、車両を操舵するために回動操作される操舵ハンドル11を用いるようにした。しかし、これに代えて、例えば、直線的に変位するジョイスティックタイプの操舵ハンドルを用いてもよいし、その他、運転者によって操作されるとともに車両に対する操舵を指示できるものであれば、いかなるものを用いてもよい。
また、上記実施形態およびその変形例においては、転舵アクチュエータ21を用いて転舵出力軸22を回転させることにより、左右前輪FW1,FW2を転舵するようにした。しかし、これに代えて、転舵アクチュエータ21を用いてラックバー24をリニアに変位させることにより、左右前輪FW1,FW2を転舵するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態およびその変形例においては、操舵ハンドル11と左右前輪FW1,FW2との機械的な連結を外したステアリングバイワイヤ方式の車両の操舵装置に本発明を適用して実施した。しかし、操舵ハンドルと転舵輪とが機械的に連結され、操舵ハンドルに反力を付与するその他の車両の操舵装置(例えば、電動パワーステアリング方式の車両の操舵装置など)に本発明に係る反力制御を適用して実施することも可能である。この場合においても、運転者による操舵ハンドルの操作状態(例えば、上記実施形態の操舵角速度dθ/dtに相当)が変化した場合であっても、運転者が操舵ハンドルを介して知覚する反力(あるいは、アシスト力)をスムーズに変化させることができる。
FW1,FW2…前輪、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…反力アクチュエータ、21…転舵アクチュエータ、22…転舵出力軸、31…操舵角センサ、32…転舵角センサ、33…車速センサ、34…横加速度センサ、35…ヨーレートセンサ、36…電子制御ユニット、39…操舵トルクセンサ、40…反力制御部、41…変位−トルク変換部、42…操舵速度−勾配制限値変換部、43…勾配制限フィルタ部、44…トルク加算部、50…感覚適合制御部、51…変位−トルク変換部、52…トルク−横加速度変換部、53,55,57…転舵角変換部、54…トルク−ヨーレート変換部、56…トルク−旋回曲率変換部、60…転舵制御部、61,63,64…転舵角補正部。