JP4275960B2 - グルクロン酸転移酵素活性を有する融合タンパク質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵素活性を有する融合タンパク質に関し、より詳細にはコンドロイチン骨格中に存在する非還元末端のN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移する酵素活性を有する融合タンパク質に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンドロイチン硫酸及びコンドロイチンはD-グルクロン酸(以下単に「グルクロン酸」又は「GlcA」とも記載する)残基とN-アセチルガラクトサミン(以下単に「N-アセチルガラクトサミン」又は「GalNAc」とも記載する)残基の二糖の繰り返し構造(すなわち、-[GlcAβ(1,3)-GalNAcβ(1,4)-]n:nは2以上の整数を示す)を基本骨格とするグリコサミノグリカンの一種である。
【0003】
近年、グリコサミノグリカン、特にコンドロイチンやコンドロイチン硫酸は従来、動物の臓器等から抽出・精製されていたが、原料の不足から、コンドロイチンやコンドロイチン硫酸に共通する前記二糖の繰り返し構造からなる基本骨格(コンドロイチン骨格とも称される)を人工的に合成する手法が模索されている。特に、ヒト由来の酵素であれば、人工的に合成したコンドロイチン又はコンドロイチン硫酸に当該酵素が混入していても、抗原抗体反応などの生体防御機構が強く作用することもないが、現時点においてこのような基本骨格を合成するための酵素、その中でも特にヒト由来であってグルクロン酸転移酵素活性を有していて、N-アセチルガラクトサミン転移酵素活性は有していない酵素は未だに発見されていない。
【非特許文献】
J. Biol. Chem.,277(2002), pp.38179-38188
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
コンドロイチン骨格の合成に関わるヒト由来の酵素のうち、グルクロン酸転移酵素活性を有しているが、N-アセチルガラクトサミン転移酵素活性を実質的に有しない酵素の大量合成のためにその酵素をコードする遺伝子が必要とされており、また遺伝子治療の可能性を模索するためにもそのような遺伝子が必要とされていたにも関わらず、そのような酵素の遺伝子は得られていなかった。
【0005】
従って、本発明の目的はコンドロイチン骨格の合成に関与する酵素のうち、N-アセチルガラクトサミン転移酵素活性を実質的に有さず、グルクロン酸転移酵素活性を有する酵素(以下「GlcAT」とも略記する)と識別ペプチドとの融合タンパク質及びその遺伝子工学的な製造法並びにコンドロイチン骨格を有する糖鎖の製造方法を提供することに存する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ヒトのGlcATのcDNAを見つけだし、ヒトのGlcATの大量合成を可能として、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドと、識別ペプチドとが融合してなり、グルクロン酸供与体からコンドロイチン骨格中に存在する非還元末端のN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移する酵素活性を有することを特徴とする融合タンパク質。
(2) グルクロン酸供与体から、非還元末端がN-アセチルガラクトサミン残基であり、コンドロイチン骨格を有する7糖からなるオリゴ糖の該N-アセチルガラクトサミンに対してグルクロン酸残基を転移するが、N-アセチルガラクトサミン供与体から、非還元末端がグルクロン酸残基であり、コンドロイチン骨格を有する6糖からなるオリゴ糖の該グルクロン酸に対しては実質的にN-アセチルガラクトサミン残基を転移する活性を有しないことを特徴とする(1)記載の融合タンパク質。
(3) 識別ペプチドがシグナルペプチド、プロテインキナーゼA、プロテインA、グルタチオンS転移酵素、Hisタグ、mycタグ、FLAGタンパク質、T7タグ、Sタグ、HSVタグ、pelB、HAタグ、Trxタグ、CBPタグ、CBDタグ、CBRタグ、β-lac/blu、β-gal、luc、HP-Thio、HSP、Lnγ、Fn、GFP、YFP、CFP、BFP、DsRed、DsRed2、MBP、LacZ、IgG、アビジン、及びプロテインGからなる群から選択されるいずれか一のペプチドであることを特徴とする(1)又は(2)記載の融合タンパク質。
(4) (1)〜(3)いずれか記載の融合タンパク質をコードするDNA。
(5) (4)記載のDNAを含むベクター。
(6) (5)記載のベクターが宿主細胞に導入されてなる形質転換体。
(7) (6)記載の形質転換体を生育させ、生育物から融合タンパク質を単離することを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載の融合タンパク質の製造方法。
(8) (1)〜(3)何れか記載の融合タンパク質を特異的に認識することを特徴とする抗体。
(9) 下記性質を有するグルクロン酸転移酵素。
(a)作用
グルクロン酸供与体から、受容体であるN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸残基を転移する。
(b)基質特異性
グルクロン酸供与体から、非還元末端がN-アセチルガラクトサミン残基であり、コンドロイチン骨格を有する7糖からなるオリゴ糖の該N-アセチルガラクトサミンに対してグルクロン酸残基を転移するが、N-アセチルガラクトサミン供与体から、非還元末端がグルクロン酸残基であり、コンドロイチン骨格を有する6糖からなるオリゴ糖の該グルクロン酸に対しては実質的にN-アセチルガラクトサミン残基を転移する活性を有しない。
(c)活性の阻害
エチレンジアミン四酢酸共存下では酵素活性を実質的に示さない。
(10) 配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする(9)記載のグルクロン酸転移酵素。
(11) 非還元末端にN-アセチルガラクトサミン残基を有するとともにコンドロイチン骨格を有する糖鎖に対し、(1)〜(3)いずれか記載の融合タンパク質或いは(9)又は(10)記載のグルクロン酸転移酵素を作用させ、グルクロン酸供与体から該糖鎖の非還元末端のN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移することを特徴とする、コンドロイチン骨格を有する糖鎖の製造方法。
(12) 配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むタンパク質を含有し、非還元末端にN-アセチルガラクトサミン残基を有するコンドロイチン骨格からなる糖鎖にグルクロン酸供与体からグルクロン酸を転移する活性を有する糖鎖合成剤。
(13) タンパク質が配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドと識別ペプチドとの融合タンパク質を含むことを特徴とする(12)記載の糖鎖合成剤。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、発明の実施の形態により本発明を詳説する。
(1)本発明酵素
本発明酵素は下記性質を有する。
(a)作用
グルクロン酸供与体から、受容体であるN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸残基を転移する。
(b)基質特異性
グルクロン酸供与体から、非還元末端がN-アセチルガラクトサミン残基であり、コンドロイチン骨格を有する7糖からなるオリゴ糖の該N-アセチルガラクトサミンに対してグルクロン酸残基を転移するが、N-アセチルガラクトサミン供与体から、非還元末端がグルクロン酸残基であり、コンドロイチン骨格を有する6糖からなるオリゴ糖の該グルクロン酸に対しては実質的にN-アセチルガラクトサミン残基を転移する活性を有しない。
(c)活性の阻害
二価金属陽イオン非存在下では酵素活性を実質的に示さない。
【0009】
本発明酵素におけるグルクロン酸供与体としては、グルクロン酸ヌクレオチドが例示され、例えばADP(アデノシン二リン酸)-GlcA、UDP(ウリジン二リン酸)-GlcA、CDP(シチジン二リン酸)-GlcA、GDP(グアノシン二リン酸)-GlcA等が例示されるが、その中でも生体内で一般的にグルクロン酸供与体として働くUDP-GlcAが最も好ましい。
【0010】
非還元末端がN-アセチルガラクトサミン残基であり、コンドロイチン骨格を有する7糖からなるオリゴ糖とは、例えば実施例に記載された様に睾丸ヒアルロニダーゼによりクジラ軟骨由来又はサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸を限定分解して精製したコンドロイチン硫酸6糖を基質とし、N-アセチルガラクトサミン供与体存在下において、大腸菌K4株由来のコンドロイチン合成酵素を作用させてN-アセチルガラクトサミンを非還元末端に転移して調製することができる。
【0011】
N-アセチルガラクトサミン供与体とは、N-アセチルガラクトサミンヌクレオチド例えばADP-GalNAc、UDP-GalNAc、CDP-GalNAc、GDP-GalNAc等が例示されるが、その中でも生体内で一般的にN-アセチルガラクトサミン供与体として働くUDP-GalNAcが最も好ましく例示される。
非還元末端がグルクロン酸残基であり、コンドロイチン骨格を有する6糖からなるオリゴ糖とは、実施例に記載された様に睾丸ヒアルロニダーゼによりクジラ軟骨由来又はサメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸を限定分解して精製することで得られるコンドロイチン硫酸6糖が例示される。
【0012】
グルクロン酸残基を転移する活性や、N-アセチルガラクトサミン残基を転移する活性は、例えば各供与体を放射能(好ましくは炭素同位体:14C、3H(トリチウム)等)や蛍光物質(基質に立体障害などを起こさないことから放射能が好ましい)でラベルし、この供与体を使用して酵素を反応させ、反応生成物を液体シンチレーションカウンター、又はオートラジオグラフィ等、ラベルした物質を検出するための方法で解析することで酵素活性を検出することが可能である。これらの活性の測定は、実施例1中<4>記載の方法に従って行うことができる。なお、「実質的に活性を有しない」とは、実施例1の<4>に記載された方法に従って測定しても、陰性対照と同程度の活性しか観察されないことを指して使用する。
【0013】
二価金属陽イオンによる酵素反応への影響は、例えば実施例記載の様に、反応系に二価金属陽イオン、好ましくはマンガンイオン(Mn2+)を共存させた際の酵素反応と、その反応系にさらにエチレンジアミン四酢酸(以下「EDTA」とも記載する)などの金属イオンに対するキレート剤を添加した反応系での酵素反応とを比較することで容易に対比することが可能である。
【0014】
配列番号4記載のアミノ酸配列が融合タンパク質とした際に同様の酵素活性を有することが後述の実施例から明かとなっているため、本発明酵素は配列番号4記載のアミノ酸配列を含むことが好ましく、配列番号4記載のアミノ酸配列にさらに10〜20の疎水性アミノ酸残基からなる膜貫通領域などを有していても良い。しかし、遺伝子工学的手法で本発明酵素を調製する際には、疎水性アミノ酸領域からなる膜貫通領域は、本発明酵素の精製・単離を煩雑な作業をするため、最も好ましい本発明酵素は、配列番号4記載のアミノ酸配列のみからなるポリペプチド或いはそれに糖鎖が結合した糖ポリペプチドである。
【0015】
(2)本発明物質
本発明物質は配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、識別ペプチドとが融合してなり、コンドロイチン骨格中に存在する非還元末端のN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸残基を転移する活性を有することを特徴とする融合タンパク質である。
【0016】
ここで、識別ペプチドとは、融合タンパク質を遺伝子組み換えによって調製する場合に、形質転換体の生育物から融合タンパク質の分泌、分離、精製、検出を容易とするために用いられるペプチドであり、例えばシグナルペプチド(多くのタンパク質のN末端に存在し、タンパク質の選別のために細胞内では機能している15〜30アミノ酸残基からなるペプチド:例えばOmpA、OmpT、Dsb等)、プロテインキナーゼA、プロテインA(黄色ブドウ球菌細胞壁の構成成分で分子量約42,000のタンパク質)、グルタチオンS転移酵素、Hisタグ(ヒスチジン残基を6〜10個並べて配した配列)、mycタグ(cMycタンパク質由来の13アミノ酸配列)、FLAGペプチド(8アミノ酸配列からなる分析用マーカー)、T7タグ(gene10タンパク質の最初の11アミノ酸配列)、Sタグ(膵臓RNaseA由来の15アミノ酸配列)、HSVタグ、pelB(大腸菌外膜タンパク質pelBの22アミノ酸配列)、HAタグ(ヘマグルチニン由来の10アミノ酸配列)、Trxタグ(チオレドキシン配列)、CBPタグ(カルモジュリン結合ペプチド)、CBDタグ(セルロース結合ドメイン)、CBRタグ(コラーゲン結合ドメイン)、β-lac/blu(βラクタマーゼ)、β-gal(βガラクトシダーゼ)、luc(ルシフェラーゼ)、HP-Thio(His-patchチオレドキシン)、HSP(熱ショックペプチド)、Lnγ(ラミニンγペプチド)、Fn(フィブロネクチン部分ペプチド)、GFP(緑色蛍光ペプチド)、YFP(黄色蛍光ペプチド)、CFP(シアン蛍光ペプチド)、BFP(青色蛍光ペプチド)、DsRed、DsRed2(赤色蛍光ペプチド)、MBP(マルトース結合ペプチド)、LacZ(ラクトースオペレーター)、IgG(免疫グロブリンG)、アビジン、プロテインGからなる群から選択されるいずれかのペプチドを指称し、何れの識別ペプチドであっても使用することが可能である。その中でも特にシグナルペプチド、プロテインキナーゼA、プロテインA、グルタチオンS転移酵素、Hisタグ、mycタグ、FLAGペプチド、T7タグ、Sタグ、HSVタグ、pelB又はHAタグが、遺伝子工学的手法による本発明物質の発現、精製がより容易となることから好ましい。
【0017】
本発明物質中での配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと識別ペプチドとの配置は、識別ペプチドが配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのC末端側に結合していても或いはN末端側に結合していてもよい。またこのような結合は、何ら生理活性を有しないアミノ酸配列(2〜10個程度のアミノ酸配列からなるペプチド)からなるスペーサーを介してなされていても、本発明物質がコンドロイチンの基本骨格中に存在するN-アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸残基を転移する活性(以下、「GlcAT活性」とも記載する)を有する限りにおいて制限はされない。
【0018】
ここで、GlcAT活性は、例えばKitagawa et al., J. Biol. Chem.,276(2001),38721-38726を改変した方法(後述の実施例に記載)を用いることにより検出することが可能である。かかる方法によって本発明物質のGlcAT活性を測定した際に得られるミカエリス定数(Km値)は、後述の実施例記載の「コンドロイチン硫酸由来の11糖(CS11)」に対しては100μmol/l以下であることが好ましく、特に90μmol/l以下であることが好ましく、特に80μmol/l以下であることが好ましい。また、更にグルクロン酸供与体の好ましい例であるUDP-GlcUAに対するKm値は、100μmol/l以下であることが好ましく、95μmol/lであることがより好ましく、90μmol/l以下であることが最も好ましい。このような極めて特異性の高いGlcAT活性は本発明物質が配列番号4記載のアミノ酸配列という特定のアミノ酸配列を融合タンパク質とした形態であることによる驚くべき効果の一つと考えられる。
【0019】
本発明物質が有する「N-アセチルガラクトサミン残基へのグルクロン酸残基の転移活性」におけるグルクロン酸の結合様式は、コンドロイチン骨格のN-アセチルガラクトサミン残基の3位ヒドロキシル基とグルクロン酸残基の1位ヒドロキシル基とのβ1-3グリコシド結合であることから、特に限定はされないが、β1-3グリコシド結合であることが好ましい。
【0020】
一般に、酵素タンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は複数(通常は2以上50以下)の構成アミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は転位しても酵素活性が維持されることが知られ、同一酵素のバリアントであるということができるが、本発明物質においても配列番号4記載のアミノ酸配列に1又は複数(2以上50以下)の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は転位等の部分的な変異が起こっていても融合タンパク質がGlcAT活性を保持している限りにおいて、本発明物質と実質的に同一の物質であるということができる(このような配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドに部分的な変異を有するポリペプチドを便宜的に「修飾ポリペプチド」と記載する)。このような修飾ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列と93%以上、好ましくは95%以上、さらに97%以上の相同性を有することを好ましい(すなわちアミノ酸の変異の数は最大50個、36個以下が好ましく、22個以下であることが最も好ましい)。アミノ酸配列の相同性は、FASTAのような周知のコンピュータソフトウェアを用いて容易に算出することができ、このようなソフトウェアはインターネットによっても利用に供されている。
【0021】
なお、上記融合タンパク質は、そのアミノ酸配列が上記した通りのものであり、上記した酵素活性を有するものであればタンパク質に糖鎖が結合していても良い。すなわち本発明物質の融合タンパク質には糖タンパク質の形態の融合タンパク質も包含する。
【0022】
このような本発明物質は、コンドロイチン骨格を有するグリコサミノグリカンを基質とし、グルクロン酸供与体存在下、非還元末端のガラクトサミン残基に対して、グルクロン酸残基を転移する後述の「本発明糖鎖合成剤」の有効成分として使用することが可能である。
【0023】
また、更に本発明物質は後述の実施例に記載の方法に従って、その酵素活性を容易に測定できるため、例えばかかる酵素活性の測定系に、被験物質を添加し、被験物質が「本発明物質が有する酵素活性」を制御(促進又は抑制)するか否かを測定・判定し、酵素活性を制御する働きを有する被験物質を選択する方法、すなわち「グルクロン酸転移酵素活性を制御する物質をスクリーニングする方法」に本発明物質を使用することが可能である。
【0024】
(3)本発明物質の調製法
本発明物質は、配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列をコードするDNAと識別ペプチドをコードするDNAとを同一読み出し領域に配置してなり、且つ配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドと識別ペプチドとが発現しうるようなプロモーター領域を有するベクターでトランスフェクトした適当な宿主細胞を生育させることで、GlcAT遺伝子を発現させ生育物中に蓄積させて調製を行うことが可能である。なお、ここで宿主細胞は上記遺伝子が発現しうるものであれば原核細胞(例えば大腸菌、枯草菌等)であると真核細胞(例えば酵母、哺乳動物由来の細胞又は昆虫由来の細胞等)であると限定はされない。特に配列番号4記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドは本来真核細胞中で発現しているポリペプチドであることから、真核細胞が宿主細胞として好ましく、特にほ乳類由来の細胞が好ましい。
【0025】
ここで、宿主細胞の生育とは、宿主細胞を培養することの他、宿主細胞を生体などに投与し、その生体内で宿主細胞を生育させることも含む。また、生育物とは、培養された宿主細胞、培養上清の他、宿主細胞を生体内で生育させた場合には、その生体の排泄物、分泌物なども含む。
【0026】
本発明者らは実施例記載の方法により、GenBank受け入れ番号AB037823のcDNA(配列番号1記載の塩基配列からなる)が、ヒトのGlcATをコードするDNAであることを明らかとしたため、当該cDNAを基に本発明物質を調製することが可能である。上記cDNAは、pBluescriptII SK(+)プラスミドに挿入された形態でかずさDNA研究所(千葉県木更津市かずさ鎌足)に保管され、分譲を受けることができる。
【0027】
本発明物質の識別ペプチドとして例えばFLAGペプチドを使用し、宿主細胞として哺乳動物由来の細胞を使用する場合には、例えばpFLAG-CMV-3ベクター(シグマ社製)などを発現ベクターとして使用することができる。
【0028】
pBluescriptII SK(+)プラスミドに挿入されている上記cDNAをpFLAG-CMV-3ベクターに挿入するためには、pBluescriptII SK(+)プラスミドベクターから例えばNarI及びBamHIなどの適当な制限酵素を用いてcDNAを切り出して、cDNAの粘着末端を平滑化してcDNA断片を得(配列番号3記載の塩基配列からなる)、pFLAG-CMV-3ベクターに挿入するために例えばHindIIIの様な適当な制限末端を連結させて、適当な制限酵素で処理したpFLAG-CMV-3ベクターに挿入することが可能である。
【0029】
このようにして調製したpFLAG-CMV-3ベクター(pFLAGGlcAT)を、例えばpFLAG-CMV-3ベクターの宿主細胞として機能するCOS-1細胞やCOS-7細胞にエレクトロポレーション法などの常法を用いて導入して形質転換体を得ることができる。
【0030】
形質転換体はその基となった宿主細胞が生育するのに適した条件下で生育させて、その生育物から本発明物質を調製することができる。例えばCOS-7細胞を宿主細胞として選択した場合には、in vitroで形質転換体を培養し、その培養物(培養後の形質転換体及び培養上清)から本発明物質を単離して精製することが可能である。上記pFLAG-CMV-3ベクターを用いた場合には本発明物質はFLAGペプチドを含むことになるので、本発明物質は例えば抗FLAG抗体や後述の本発明抗体を用いて、例えばアフィニティー精製などの方法で本発明物質を単離、精製することが可能である。単離、精製の方法は、本発明物質における識別ペプチドによって適宜、適当な方法を常套的に選択することが可能である。
【0031】
また、識別ペプチドは例えばコラゲナーゼなどによって特異的に認識されるアミノ酸配列(例えば特開平11−137256号公報の配列番号3記載のアミノ酸配列等)を使用することにより、配列番号4記載のアミノ酸配列又は配列番号4記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列を含む(1)で記載した本発明酵素を得ることができる。
【0032】
(4)本発明抗体
本発明抗体は、本発明物質に特異的に結合することを特徴とする抗体である。
本発明抗体は、抗体の抗原結合部位を介して、本発明物質に特異的に結合する。したがって、本発明抗体を製造は、本発明物質を「免疫原」として使用し、公知の方法を用いることが可能である。より具体的には、本発明物質を用いて、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、サルなどの動物を免疫し、これらの動物の血清を採取して抗血清(ポリクローナル抗体)を得るが、これらの動物から抗体産生細胞(脾臓細胞など)を採取し、これと骨髄腫細胞株(ミエローマ細胞)などの持続的な増殖能を有する細胞とを融合させ、融合細胞(ハイブリドーマ)を得て、これらを培養するか又は動物の腹腔内で増殖させることによりモノクローナル抗体を効率よく製造することができる。かかるハイブリドーマは、当業者であれば本明細書を基に容易に調製することが可能である。
【0033】
本発明抗体は、本発明物質又はその一部を抗原決定基又はエピトープ(これらを総合して「エピトープ等」とも記載する)とし、本発明物質を特異的に認識して結合する能力を有する。したがって本発明抗体は、in vitro又はin vivoのいずれかにおいて、前記エピトープ等を含む本発明物質の断片又は本発明物質の検出を行なうアッセイで使用することが可能である。また、本発明抗体は、免疫アフィニティークロマトグラフィーによって、エピトープ等を含む本発明物質の断片又は本発明物質を精製する際にも使用することが可能である。
【0034】
上述のエピトープ等は、直鎖でも高次構造的(conformational)(断続的)でもどちらでもよい。なお、エピトープ等は、当該技術分野に知られる常法によって同定することができる。したがって、本発明の1つの側面は、本発明のグルクロン酸転移酵素のタンパク質と識別ペプチドとの融合タンパク質の抗原性エピトープに関する。このようなエピトープは、以下により詳細に記載されるように、抗体、特にモノクローナル抗体を作成するのに有用である。さらに、本発明物質に含まれるエピトープの部分は本発明抗体に特異的に結合するので、本発明抗体の生体中又は試料中における存在量を測定するためのアッセイにおいて使用することが可能である。
【0035】
本発明抗体は、本発明物質若しくはその一部、又は上述のエピトープの部分を用いて調製することができる。本発明抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであっても良く、何れも慣用的技術によって調製することが可能である。例えば、Kennetら(監修), Monoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Plenum Press, New York, 1980を参照すると当業者であれば容易に本発明抗体を調製することができる。しかし、用途の多様性からモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0036】
モノクローナル抗体である本発明抗体は、キメラ抗体(ネズミモノクローナル抗体のヒト化型抗体や、サルモノクローナル抗体のヒト化型抗体などが例示される)が含まれる。このようなヒト化抗体を既知の技術によって調製すると、抗体をヒトに投与した際に、免疫原性が少ないという利点が存在する。
慣用的技術によって産生可能な、抗体の抗原結合断片も、本発明に含まれる。このような断片の例は、特に限定されるわけではないが、例えばFabおよびF(ab')2断片が含まれる。また遺伝子工学技術によって産生される抗体断片および誘導体も例示される。
【0037】
(5)本発明糖鎖合成剤
本発明糖鎖合成剤は、配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むタンパク質を含有し、非還元末端にN-アセチルガラクトサミン残基を有するコンドロイチン骨格からなる糖鎖にグルクロン酸供与体からグルクロン酸を転移する活性を有する。
【0038】
本発明糖鎖合成剤に含有されるタンパク質は、配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと識別ペプチドとの融合タンパク質であることが好ましく、前記本発明物質によってなることが最も好ましい。
【0039】
本発明糖鎖合成剤は、コンドロイチン骨格の非還元末端に存在するN-アセチルガラクトサミン残基に対してグルクロン酸を転移する試薬として使用することが可能である。また、本発明糖鎖合成剤を構成する目的酵素活性を有する部分である配列番号4記載のアミノ酸配列がヒト由来のアミノ酸配列であるため、本発明糖鎖合成剤をヒトに投与したとしても抗原性が低いことが期待され、また培養軟骨などを本発明糖鎖合成剤で修飾した後に生体に対して移植したとしても、本発明糖鎖合成剤に起因する抗原抗体反応や炎症は惹起されないことが期待される。
【0040】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
<1>ヒトGlcATを発現させるためのベクターの調製
GenBank受け入れ番号AB037823のcDNA(配列番号1記載の塩基配列からなる)を含むpBluescriptII SK(+)プラスミド(かずさDNA研究所:KIAA1402)を常法に従って制限酵素NarI及びBamHIにより消化した。この消化産物をアガロースゲル電気泳動に供し、5.4kbpのバンドをGel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて回収した。回収した消化産物をTaKaRa Blunting Kit(宝酒造株式会社製)を用いて平滑化した後、HindIIIリンカー(宝酒造株式会社製)を結合させ、セルフライゲーションさせた。
【0041】
このようにして調製したDNA断片を、制限酵素HindIIIおよびNotIによって消化し、消化産物をアガロースゲル電気泳動に供し、2.3kbpの断片を回収した。
このDNA断片を、常法に従って制限酵素HindIIIおよびNotIで消化したpFLAG-CMV-3に連結させた。得られたプラスミドの塩基配列を、常法に従ってシークエンスし、配列番号3記載の塩基配列からなるGlcATcDNAをFLAGタンパク質との融合タンパク質として発現するように構築されたベクターをpFLAGGlcATとした。
【0042】
<2>組換体の調製
組換体を調製するための宿主細胞としては、サル腎臓由来の培養細胞COS-7細胞(ダルベッコの調整最小培地:以下「DMEM」とも記載する)を使用した。上記で調製したpFLAGGlcAT(2μg)をTransFast(商標名:プロメガ社製)を用いて、添付されたプロトコールに従ってCOS-7細胞(サル腎臓由来の培養細胞)に導入し、一過性発現細胞を常法に従って回収するととも(transient:K2)、600μg/mlの濃度の抗生物質G418を培地に添加することにより、薬剤耐性スクリーニングを行って安定株を回収した(stable:K2-2〜K2-21)。
【0043】
得られた各クローンの培養物を、細胞と培養上清に遠心分離を用いて分離し、細胞溶解液及び培養上清から、抗FLAG抗体アフィニティゲル(M2アフィニティゲル:シグマ社製)を用いて融合タンパク質を回収し、抗FLAG抗体(M2:シグマ社製)を一次抗体、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(ザイメッド社製)を用いてウエスタンブロッティング法(Towbin et al., PNAS U.S.A., (1979),76:4350-4354)を行った(図1)。
その結果、K2-5の細胞株が培地中に特に高濃度でFLAGタンパク質とGlcATとの融合タンパク質を発現することが明らかとなった。
【0044】
<3>FLAGタンパク質とGlcATとの融合タンパク質の精製
上記で得られたK2-5株を150mm培養皿を用いて、20mlのDMEM(10%牛胎児血清、100U/mlペニシリンGカリウム、100μg/mlストレプトマイシン硫酸塩、600μg/ml G418を含む)で培養し、コンフルエントになった後、培地を交換してさらに3日間培養して得られた培養上清を回収した。
【0045】
この培養上清に1mol/l Tris-HCl、 pH7.4、グリセロールをそれぞれ終濃度50mmol/l、20%になるように加え、使用するまで-80℃で保存した。保存した培地を融解後、Anti-FLAG M2-Agarose Affinity Gel (SIGMA社)を加え、4℃、一晩、転倒混和した。反応後、ゲルをトリス緩衝生理的食塩水(以下「TBS」とも記載する)/0.05% Tween20(商標名:ICN社製)で、3回、つづいてTBSで1回洗浄した後、27Gの注射針をつけたシリンジを用い余分な洗浄液を除き、融合タンパク質を精製した。
【0046】
<4>精製した融合タンパク質の活性測定
(1)N-アセチルガラクトサミン転移酵素(GalNAcT)活性の測定
10mmol/lのMnCl2、171μmol/lのアデノシン三リン酸(ATP)ナトリウム塩を含む50mmol/lのMES緩衝液(pH6.5)に、培養上清10ml相当の上記<3>で得られた融合タンパク質を添加し、N-アセチルガラクトサミン残基供与体としてトリチウムラベルしたUDP(ウリジン二リン酸)-GalNAc(9×105cpm:NEN社製)、ガラクトサミン残基受容体としてコンドロイチン(0.28μg:生化学工業株式会社製)を添加して、全量を100μlとなるように蒸留水で調整した。この反応液を37℃で3時間反応させた。その後、100℃で5分加熱することで酵素を失活させて反応を停止した。反応液をポアサイズ0.22μmのマイクロフィルター(ミリポア社製)で濾過した後、流速0.5ml/分の0.2mol/lのNaClを移動相とするSuperdex peptideカラム(30×10mm:ファルマシア社製)に通筒して0.5ml毎の画分として溶出液を回収した。そして各画分の放射能をシンチレーションカウンターにより計数した(図2)。尚、陽性対照としては、大腸菌K4株由来のコンドロイチン合成酵素標品(J. Biol. Chem., 277(2002), 21567-21575:生化学工業株式会社二宮氏より恵与)3μUを使用した。その結果、陽性対象はコンドロイチンに対してN-アセチルガラクトサミン残基を転移しているのに対し、本発明の融合タンパク質は、コンドロイチンに対してはN-アセチルガラクトサミン残基を転移しないことが明かとなった。
【0047】
さらに、睾丸ヒアルロニダーゼにより限定分解して精製したコンドロイチン硫酸6糖(1nmol:生化学工業株式会社多和田氏より恵与)を受容体として同様の測定を行った(図3)。その結果、このようなオリゴ糖に対しても本発明の融合タンパク質は、N-アセチルガラクトサミン残基を転移しないことが明らかとなった。
【0048】
(2)グルクロン酸転移酵素(GlcAT)活性の測定
10mmol/lのMnCl2を含む50mmol/lの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)に、培養上清10ml相当の上記<3>で得られた融合タンパク質を添加し、グルクロン酸残基供与体として14CでラベルしたUDP-GlcA(9×105cpm:ICN社製)、グルクロン酸残基受容体としてコンドロイチン(0.28μg:生化学工業株式会社製)を添加して、全量を100μlとなるように蒸留水で調整した。この反応液を37℃で3時間反応させた。その後、100℃で5分加熱することで酵素を失活させて反応を停止した。反応液をポアサイズ0.22μmのマイクロフィルター(ミリポア社製)で濾過した後、流速0.5ml/分の0.2mol/lのNaClを移動相とするSuperdex peptideカラム(30×10mm:ファルマシア社製)に通筒して0.5ml毎の画分として溶出液を回収した。そして各画分の放射能をシンチレーションカウンターにより計数した(図4)。尚、陽性対象としては、大腸菌K4株由来のコンドロイチン合成酵素標品(J. Biol. Chem., 277(2002), 21567-21575:生化学工業株式会社二宮氏より恵与)3μUを使用した。その結果、陽性対象においてはコンドロイチンに対してグルクロン酸残基の転移活性が観察されたのに対し、本発明の融合タンパク質は、コンドロイチンに対してはグルクロン酸残基を転移しないことが明かとなった。
【0049】
さらに、睾丸ヒアルロニダーゼにより限定分解して精製したコンドロイチン硫酸6糖(1nmol:生化学工業株式会社多和田氏より恵与)に、その非還元末端に大腸菌K4株由来のコンドロイチン合成酵素(J. Biol. Chem., 277(2002), 21567-21575:生化学工業株式会社二宮氏より恵与)によりN-アセチルガラクトサミンを転移して調製したコンドロイチン硫酸7糖を受容体として同様の測定を行った(図5)。その結果、このようなオリゴ糖に対して、本発明の融合タンパク質はグルクロン酸残基を転移してコンドロイチン硫酸8糖が得られることが明かとなった。
【0050】
なお、上記受容体としてのコンドロイチン硫酸7糖は、20mmol/lのMnCl2、0.1mol/lの(NH4)2SO4、1mol/lのエチレングリコールを含む50mmol/lのTris-HCl緩衝液(pH7.2)に大腸菌K4株由来のコンドロイチン合成酵素12μUを用い、N-アセチルガラクトサミン受容体として睾丸ヒアルロニダーゼにより限定分解して精製したコンドロイチン硫酸6糖(50μg:生化学工業株式会社多和田氏より恵与)を使用して調製した。この反応においてN-アセチルガラクトサミン供与体としては1.5mmol/lのUDP-GalNAc(シグマ社製)を加えて、全量を蒸留水により500μlに調整した。この反応液を30℃で1時間反応させ、その後100℃で5分間加熱して酵素を失活させることで反応を停止した。この反応液を流速2ml/分の0.2mol/l NH4HCO3を移動相とするSuperdex 30カラム(60×16mm:ファルマシア社製)で精製し、溶出液を215nmでモニターしながら2ml毎に分画した。そしてコンドロイチン硫酸7糖相当画分をプールし、凍結乾燥後、50μlの蒸留水に溶解して調製した。
【0051】
さらに、本発明の融合タンパク質を10mmol/lのEDTA存在下で、Mn2+をキレートして上記7糖へのGlcAT活性の測定を行ったところ、活性が完全に失われることが明らかとなった(図6)。このことは、少なくとも本発明の融合タンパク質は二価陽イオンを反応に必要としていることを示している。
【0052】
(3)本発明の融合タンパク質の反応生成物の解析
(2)で、コンドロイチン硫酸7糖に本発明の融合タンパク質を反応させて得たコンドロイチン硫酸8糖の構造を解析するために、生成した前記8糖をコンドロイチナーゼABCで消化して、どの様な消化産物が得られるかを解析した。
【0053】
すなわち、上記8糖の放射能が観察された23〜27番目の画分を回収し凍結乾燥した後、流速1ml/分の0.2mol/l NH4HCO3を移動相として用いた脱塩カラム(Fast Desalting Column:ファルマシア社製)により脱塩し、さらに溶出液を二分して凍結乾燥した。一方(対照群)を30mmol/lの酢酸ナトリウムを含む0.1mol/lのTris-HCl緩衝液(pH8.0)200μlに溶解し、他方(試験群)は100mUのコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社製)、30mmol/lの酢酸ナトリウムを含む0.1mol/lのTris-HCl緩衝液(pH8.0)200μlに溶解した。各々を37℃で30分間反応させ、その後100℃で5分間加熱してコンドロイチナーゼABCを失活させて酵素反応を停止した。この反応液をポアサイズ0.22μmのマイクロフィルター(ミリポア社製)で濾過した後、流速0.5ml/分の0.2mol/l NaClを移動相とするSuperdex peptideカラム(30×10mm:ファルマシア社製)により溶出し、溶出液を0.5ml毎に分画した。そして各画分の放射能をシンチレーションカウンターにより計数した(図7)。
【0054】
その結果、対照群はコンドロイチナーゼABCで消化しない元の状態と同じパターンで溶出されるが、試験群ではΔdi-0S(不飽和ウロン酸−N-アセチルガラクトサミンからなる硫酸基を有しない二糖)とほぼ同じ位置にピークがシフトした。このことから本発明の融合タンパク質は、コンドロイチン骨格の非還元末端のN-アセチルガラクトサミン残基に対してβ1,3結合でグルクロン酸残基を転移することが明かとなった。
【0055】
(4)基質の鎖長による酵素反応の変化
サメ由来コンドロイチン硫酸(コンドロイチン硫酸C:生化学工業株式会社製)及びコンドロイチン(上記サメ由来コンドロイチン硫酸を化学的に脱硫酸化したもの:生化学工業株式会社製)とを使用してJ. Biochem. , 111(1992), pp.91-98に記載された方法に従ってこれらを分解、精製し、それぞれ5糖、7糖、9糖、11糖、及び13糖からなるオリゴ糖を調製した(コンドロイチン硫酸由来のこれらオリゴ糖はそれぞれCS5、CS7、CS9、CS11、及びCS13と表記し、同様にコンドロイチン由来のこれらオリゴ糖はそれぞれCH5、CH7、CH9、CH11、及びCH13と表記する)。
【0056】
これらをグルクロン酸残基受容体として用いて、(2)と同様の方法でそれぞれのオリゴ糖の「グルクロン酸残基受容体としての働き」を測定した(表1)。その結果、特に9糖以上のオリゴ糖がグルクロン酸残基受容体として好ましいことが明らかとなった。
【0057】
【表1】
【0058】
上記(2)の条件下で、上記CS11の濃度を変化させた場合と、UDP-GlcUAの濃度を変化させた場合のGlcAT活性の変化を測定した(CS11の濃度を変化させた場合:図8、UDP-GlcUAの濃度を変化させた場合:図9)。その結果、何れも濃度を上げていくと反応速度が飽和する傾向を示すことが明かとなった。これらを使用してCS11とUDP-GlcUAに対するミカエリス定数(Km)値を算出したところ、CS11のKm値は65.3μmol/l、UDP-GlcUAのKm値は82.4μmol/lであった。この値を見る限りにおいて、本発明物質の基質への親和性は極めて高いことが明かである。
【0059】
<5>ヒト健常組織及び株化細胞におけるGlcATの発現の定量
ヒト正常組織及び株化細胞のcDNAを用いて、定量的ポリメラーゼチェイン反応(PCR)によりGlcAT遺伝子の発現量を定量した。cDNAとしてはMarathon Ready cDNA(クロンテック社製)を使用した。GlcATの定量的PCRにはプライマーとしてK2-Fw(配列番号5記載)及びK2-Rv(配列番号6記載)を使用し、プローブとしてはアプライドバイオシステムズ社のマイナーグルーブバインダーを結合したK2-MGB(配列番号7記載)を使用した。酵素及び反応液としてUniversal PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社製)を使用し、ABI PRISM 770 Sequence Detection System(アプライドバイオシステムズ社製)により反応液量25μlで定量を行った。定量の標準遺伝子としてはグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子を使用し、既知濃度の鋳型DNAにより定量の検量線を作成し該遺伝子の発現量の標準化を行った。反応温度は50℃2分、95℃10分のあと、95℃15秒・60℃1分を50サイクル行った(図10)。その結果、GlcATは、ほぼ全ての健常組織、株化細胞で発現が観察されたものの、胎盤、小腸、膵臓および脾臓、特に胎盤において大量に発現していることが明かとなった。
【0060】
【発明の効果】
本発明により、コンドロイチン骨格の合成に関与する酵素のうち、N-アセチルガラクトサミン転移酵素活性を実質的に有さず、グルクロン酸転移酵素活性を有する酵素を遺伝子工学的に得る際に有用である融合タンパク質及びその製造が提供される。
【0061】
【配列表】
【0062】
【図面の簡単な説明】
【図1】 各形質転換体の培養物をウエスタンブロッティング法により解析した写真である。矢印は本発明物質のバンドを示す。図中「Transient」は一時的導入株、「Stable」は安定導入株、「Mock」は陰性対照、「K2」〜「2-21」は本発明物質をコードする遺伝子を導入した株を示す。また「Medium」は培養上清を示し、「Cell layer」は細胞溶解液を示す。
【図2】 コンドロイチンに対するN-アセチルガラクトサミン転移活性を示す図である。縦軸はN-アセチルガラクトサミン転移酵素活性を試験チューブあたりの放射能により示し、横軸は画分番号を示す。白丸は本発明物質を、黒丸は陽性対照を示す。
【図3】 コンドロイチン硫酸6糖に対するN-アセチルガラクトサミン転移酵素活性を示す図である。縦軸はN-アセチルガラクトサミン転移酵素活性を試験チューブあたりの放射能により示し、横軸は画分番号を示す。白丸は本発明物質を、黒丸は陽性対照を示す。
【図4】 コンドロイチンに対するグルクロン酸転移活性を示す図である。縦軸はグルクロン酸転移酵素活性を試験チューブあたりの放射能により示し、横軸は画分番号を示す。白丸は本発明物質を、黒丸は陽性対照を示す。
【図5】 コンドロイチン硫酸7糖に対するグルクロン酸転移活性を示す図である。縦軸はグルクロン酸転移酵素活性を試験チューブあたりの放射能により示し、横軸は画分番号を示す。白丸は本発明物質を、黒丸は陽性対照を示す。
【図6】 エチレンジアミン四酢酸によるグルクロン酸転移活性の阻害を示す図である。縦軸はグルクロン酸転移酵素活性を試験チューブあたりの放射能により示し、横軸は画分番号を示す。白丸はエチレンジアミン四酢酸非存在下での本発明物質を、黒丸はエチレンジアミン四酢酸存在下での本発明物質を、白い四角は陰性対照を示す。
【図7】 コンドロイチン硫酸7糖にグルクロン酸が転移されて生じたコンドロイチン硫酸8糖とその酵素分解による影響を示す図である。縦軸は試験チューブあたりの14Cによる放射能により示し、横軸は画分番号を示す。白丸は本発明物質によって調製したコンドロイチン硫酸8糖を、黒丸は前記コンドロイチン硫酸8糖をコンドロイチナーゼABCで消化した産物を示す。
【図8】 コンドロイチン硫酸11糖の濃度を変化させた場合に現れるグルクロン酸転移活性への影響を示す図である。縦軸はグルクロン酸転移酵素活性を示し、横軸はコンドロイチン硫酸11糖の濃度を示す。
【図9】 UDP-GlcUAの濃度を変化させた場合に現れるグルクロン酸転移活性への影響を示す図である。縦軸はグルクロン酸転移酵素活性を示し、横軸はUDP-GlcUAの濃度を示す。
【図10】 ヒト健常組織及び株化細胞における本発明酵素の発現を定量的PCR反応で測定した図である。縦軸はグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素の発現量(対照)に対するグルクロン酸転移酵素遺伝子発現量の割合を示し、横軸は被験ヒト正常組織名及び被験株化細胞名を示す。
Claims (3)
- 非還元末端にN−アセチルガラクトサミン残基を有するとともにコンドロイチン骨格を有する糖鎖に対し、下記(1)〜(3)のいずれかの融合タンパク質或いは下記(A)に記載のグルクロン酸転移酵素を作用させ、グルクロン酸供与体から該糖鎖の非還元末端のN−アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移することを特徴とする、コンドロイチン骨格を有する糖鎖の製造方法;
(1)配列番号4に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドと、識別ペプチドとが融合してなり、グルクロン酸供与体からコンドロイチン骨格中に存在する非還元末端のN−アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移する酵素活性を有することを特徴とする、融合タンパク質。
(2)グルクロン酸供与体から、非還元末端がN−アセチルガラクトサミン残基であり、コンドロイチン骨格を有する7糖からなるオリゴ糖の該N−アセチルガラクトサミンに対してグルクロン酸残基を転移するが、N−アセチルガラクトサミン供与体から、非還元末端がグルクロン酸残基であり、コンドロイチン骨格を有する6糖からなるオリゴ糖の該グルクロン酸に対しては実質的にN−アセチルガラクトサミン残基を転移する活性を有しないことを特徴とする、前記(1)に記載の融合タンパク質。
(3)識別ペプチドがシグナルペプチド、プロテインキナーゼA、プロテインA、グルタチオンS転移酵素、Hisタグ、mycタグ、FLAGタンパク質、T7タグ、Sタグ、HSVタグ、pelB、HAタグ、Trxタグ、CBPタグ、CBDタグ、CBRタグ、β−lac/blu、β−gal、luc、HP-Thio、HSP、Lnγ、Fn、GFP、YFP、CFP、BFP、DsRed、DsRed2、MBP、LacZ、IgG、アビジン、及びプロテインGからなる群から選択されるいずれか一のペプチドであることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の融合タンパク質。
(A)配列番号4に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする、下記性質を有するグルクロン酸転移酵素;
(a)作用
グルクロン酸供与体から、受容体であるN−アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移する、
(b)基質特異性
グルクロン酸供与体から、非還元末端がN−アセチルガラクトサミン残基であり、コンドロイチン骨格を有する7糖からなるオリゴ糖の該N−アセチルガラクトサミンに対してグルクロン酸残基を転移するが、N−アセチルガラクトサミン供与体から、非還元末端がグルクロン酸残基であり、コンドロイチン骨格を有する6糖からなるオリゴ糖の該グルクロン酸に対しては実質的にN−アセチルガラクトサミン残基を転移する活性を有しない、
(c)活性の阻害
エチレンジアミン四酢酸共存下では酵素活性を実質的に示さない。 - 配列番号4に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むタンパク質であって、かつグルクロン酸供与体からコンドロイチン骨格中に存在する非還元末端のN−アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移する酵素活性を有するものを含有し、非還元末端にN−アセチルガラクトサミン残基を有するコンドロイチン骨格からなる糖鎖にグルクロン酸供与体からグルクロン酸を転移する活性を有する糖鎖合成剤。
- タンパク質が、配列番号4に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列に1以上の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドと識別ペプチドとが融合してなり、かつグルクロン酸供与体からコンドロイチン骨格中に存在する非還元末端のN−アセチルガラクトサミン残基にグルクロン酸を転移する酵素活性を有する融合タンパク質を含むことを特徴とする、請求項2に記載の糖鎖合成剤。
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