[第1実施形態]
以下、本発明を自動車用エンジンのアイドル制御装置に具体化した第1実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示されるエンジン1においては、吸気通路2を通じて燃焼室3内(筒内)に空気が吸入される。吸気通路2には、同通路2の空気流通面積を変更すべく開閉動作し、燃焼室3に吸入される空気の量(吸入空気量)を調節するスロットルバルブ12が設けられている。また、吸気通路2に対しスロットルバルブ12を迂回するように接続されたバイパス通路17には、アイドル運転時に同通路17の空気流通面積を変更すべく開閉動作し、アイドル運転時の吸入空気量の調節を行うアイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)18が設けられている。
エンジン1においては、吸入空気量に対応した量の燃料が燃料噴射弁4から噴射され、その燃料と空気とからなる混合気に対し燃焼室3内での点火プラグ5による点火が行われる。このときの点火プラグ5の点火時期の調節はイグナイタ5aによって行われる。そして、燃焼室3内での点火プラグ5の点火により混合気が燃焼すると、そのときの燃焼エネルギによりエンジン1が駆動され、エンジン出力軸であるクランクシャフト6が回転するようになる。また、燃焼後の混合気は、燃焼室3から排気として排気通路7に送り出される。
エンジン1のクランクシャフト6には各種の外部機器8、例えばエアコンディショナ用のコンプレッサ、変速機用のオイルポンプ、車搭機器やバッテリへの給電用のオルタネータ、及びパワーステアリング用のオイルポンプ等が接続されている。そして、クランクシャフト6の回転を通じて上記各種の外部機器8が駆動されるようになる。
エンジン1の各種制御、及び外部機器8の駆動制御は、電子制御装置9によって実施される。電子制御装置9は、エンジン1及び外部機器8の制御にかかる各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えて構成されている。
電子制御装置9の入力ポートには、以下に示す各種センサが接続されている。
・自動車の運転者によって踏み込み操作されるアクセルペダル10の踏み込み量(アクセル踏込量)を検出するアクセルポジションセンサ11。
・スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)を検出するスロットルポジションセンサ13。
・吸気通路2を通じて燃焼室3に吸入される空気の量を検出するエアフローメータ14。
・クランクシャフト6の回転に対応する信号を出力し、エンジン回転速度の算出等に用いられるクランクポジションセンサ15。
・排気通路7を通過する排気中の酸素濃度に対応した信号を出力する酸素(O2 )センサ16。
電子制御装置9の出力ポートには、燃料噴射弁4、イグナイタ5a、外部機器8、スロットルバルブ12、及びISCV18の駆動回路が接続されている。
そして、電子制御装置9は、外部機器8の駆動状態を検知するとともに、上記各センサから入力した検出信号に基づき把握されるエンジン運転状態を検知し、外部機器8についての各種の駆動要求やエンジン運転状態に応じて、上記出力ポートに接続された各種駆動回路に指令信号を出力する。こうして燃料噴射弁4からの燃料噴射量の制御、点火プラグ5の点火時期の制御、外部機器8の駆動制御、スロットルバルブ12の開度制御、ISCV18の開度制御が電子制御装置9を通じて実施される。
エンジン1の燃料噴射量制御については、1サイクル中に吸気通路2から燃焼室3内に吸入される空気の量に対応した燃料を燃料噴射弁4から噴射させるよう、当該空気の量を表すパラメータである空気充填効率等に基づき燃料噴射弁4を駆動制御することによって実現される。例えば、エンジン1のアイドル運転時には、上記燃料噴射量制御を通じて混合気の空燃比が理論空燃比となるように燃料噴射弁4からの燃料噴射が行われる。更に、このときには、排気中の酸素濃度が混合気を理論空燃比で燃焼させたときの値となるよう燃料噴射量を増減補正し、混合気の空燃比を理論空燃比へと速やかに収束させることも行われる。
なお、上記燃料噴射量制御で用いられる空気充填効率とは、燃焼室3の最大容積に対する1サイクル中に吸気通路2から燃焼室3内に吸入される空気の体積の割合のことである。この空気充填効率は、エンジン1の吸入空気量、スロットル開度、及びアクセル踏込量など、1サイクル中に吸気通路2から燃焼室3内に吸入される空気の量に影響を及ぼすパラメータ、及び、エンジン回転速度に基づき算出される。
ISCV18の開度制御は、エンジン1のアイドル運転中にISCV18を駆動して空気充填効率を調整し、アイドル運転時のエンジン回転速度を調整するためのものである。こうしたISCV18の開度制御を通じて、アイドル運転時のエンジン回転速度を予め設定された目標アイドル回転速度に収束させるためのアイドル回転速度制御が実現される。なお、ISCV18の開度制御は、以下の式(1)から算出されるISCV開度指令値Ofin に基づきISCV18を駆動することによって行われる。
Ofin =Obase+Hfb …(1)
Ofin :ISCV開度指令値
Obase:基本開度
Hfb :フィードバック補正値
上記式(1)の基本開度Obaseは、アイドル運転時、エンジン回転速度NEを予め設定された目標アイドル回転速度NEi に保持するのに必要な理論上の空気充填効率KLに基づき算出され、その理論上の空気充填効率KLが大となるほど開き側の値になる。また、ここで用いられる理論上の空気充填効率KLは、目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移を規定したマップを参照して算出される。
従って、ISCV開度指令値Ofin を基本開度Obaseとすることで、理論上では実際の空気充填効率が理論上の空気充填効率KLとなって、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に保持されるはずである。しかし、ISCV開度指令値Ofin の変化に対する実際の空気充填効率の変化、及びエンジン回転速度NEの変化には応答遅れがあることから、ISCV開度指令値Ofin を基本開度Obaseとしても、その直後からエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi と一致しているとは限らない。このため、実際の空気充填効率が理論上の空気充填効率KLとなるようISCV開度指令値Ofin を基本開度Obaseとした上で、更にエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に収束させるべく、実際の空気充填効率を増減させるフィードバック制御が行われる。
式(1)のフィードバック補正値Hfbは、こうしたフィードバック制御に用いられるものである。即ち、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi 未満(「NE−NEi <0」)であるときには、フィードバック補正値Hfbが増量ゲインaずつ増加させられる。これにより、ISCV開度指令値Ofin がフィードバック補正値Hfbの分だけ開き側の値になって実際の空気充填効率が増加され、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に近づくよう上昇させられる。また、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi よりも大(「NE−NEi >0」)であるときには、フィードバック補正値Hfbが減量ゲインbずつ減少させられる。これにより、ISCV開度指令値Ofin がフィードバック補正値Hfbの分だけ閉じ側の値になって実際の空気充填効率が減少され、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に近づくよう低下させられる。
以上のようなISCV18の開度制御を通じての空気充填効率の調整により、アイドル運転時のエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に制御される。
なお、フィードバック補正値Hfbを用いたフィードバック制御によって空気充填効率を調整し、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に収束させる際の収束性は、空気充填効率を変更しようとしてから実際に変更完了するまでの応答性によって変わってくる。更に、こうした空気充填効率の応答性については、実際の空気充填効率が大となるほど高くなり、小となるほど低くなる等、そのときの実際の空気充填効率の大きさによって変わってくる。このため、上記フィードバック制御によるエンジン回転速度NEの目標アイドル回転速度NEi への収束性を常に高い状態に維持すべく、増量ゲインa及び減量ゲインbがそのときの実際の空気充填効率の大きさに応じて可変設定される。
具体的には、増量ゲインa及び減量ゲインbは、実際の空気充填効率の大きさが大となるほど小さい値とされ、当該空気充填効率の大きさが小となるほど大きい値とされる。これは、実際の空気充填効率の大きさが小となるほど、実際の空気充填効率の応答性が低くなって、フィードバック制御でのエンジン回転速度NEの目標アイドル回転速度NEi への収束性が低下する傾向があり、その収束性を高い状態に維持するには増量ゲインa及び減量ゲインbを大きくしなければならないためである。
また、上記のように増量ゲインa及び減量ゲインbを可変設定する上では、それらゲインa,bが実際の空気充填効率の大きさに対応した最適な値となるよう、上記マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移に合わせて適合を行う必要もある。これは、上記推移の傾きが大となるほどフィードバック制御時の空気充填効率の変化に対するエンジン回転速度NEの変化量が大となる傾向があり、同制御によりエンジン回転速度NEを速やかに目標アイドル回転速度NEi に収束させるのに上記推移の傾きを考慮する必要があるためである。
次に、理論上の空気充填効率KLの算出に用いられるマップについて説明する。
上記マップ上で規定された目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移は、例えば図2に実線L0で示されるようなものになる。こうした目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移は、以下のようにして求められる。即ち、目標アイドル回転速度NEi を変化させていったとき、エンジン回転速度NEを当該目標アイドル回転速度NEi に保持するのに必要なエンジン1の出力トルク(必要トルク)が図3に実線で示されるように推移したとする。このとき、上記必要トルクの推移が得られるように空気充填効率を推移させたとすると、当該空気充填効率の変化に対するエンジン1の発生トルクの推移は例えば図4に実線で示されるようなものになる。そして、図3での目標アイドル回転速度NEi の推移と図4での空気充填効率の推移とに基づき、図2における目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移が定められる。
ところで、上記理論上の空気充填効率KLの推移は、エンジン1によって駆動される外部機器8のそのときの駆動状態(駆動効率など)に応じて異なったものとなる。例えば、図2の実線L0を外部機器8の駆動効率を最低レベルとした状態での上記理論上の空気充填効率KLの推移であるとする。この状態にあって、エンジン1により駆動される外部機器8の駆動効率を高い状態へと変化させてゆくと、上記理論上の空気充填効率KLの推移は、図中実線L0から二点鎖線L1、L2というように傾きが大きくなるような推移へと変化してゆく。これは、外部機器8の駆動効率が高い状態へと変化するに従い、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するための必要トルクが大となり、その必要トルクに対応した発生トルクが得られるよう空気充填効率を大としなければならないためである。
こうした外部機器8の駆動効率の変化に伴う上記理論上の空気充填効率KLの推移の変化に関係なく、例えば図2に実線L0で示される推移を規定した一つのマップのみから理論上の空気充填効率KLを算出すると、次のような問題が生じる。即ち、外部機器8の駆動効率が最低レベルでない場合には、上記マップを参照して算出された理論上の空気充填効率KLがエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するための値として不適切なものとなる。その結果、上記理論上の空気充填効率KLから算出されるISCV開度指令値Ofin (正確には基本開度Obase)も、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持する開度としては不適切になり、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から離れることとなる。
この場合、上述したフィードバック補正値Hfbによるフィードバック制御を通じて、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に戻されるようにはなる。しかし、上記外部機器8の駆動状態の変化後において、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から大きく離れるような場合、上記フィードバック制御ではエンジン回転速度NEを速やかに目標アイドル回転速度NEi に戻すことができず、ラフアイドル等を招くことは避けられない。これは、そのときのアイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、上記マップ上に規定された理論上の空気充填効率KLの推移とずれており、当該マップに合わせて適合される増量ゲインa及び減量ゲインbが上記理論上の空気充填効率KLの推移と合ったものではないためである。
以上のことから、理論上の空気充填効率KLを算出するためのマップ、並びに、フィードバック制御に用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbを、以下のように用意しておくことが考えられる。即ち、上記マップとして、例えば図2に二点鎖線L1で示される推移を規定したマップや二点鎖線L2で示される推移を規定したマップなど、外部機器8の細かな駆動状態の違いに対応した数多くのマップを用意する。更に、増量ゲインa及び減量ゲインbについては、上記各マップ毎に適合されたものをマップの数に対応する分だけ用意する。この場合、外部機器8の駆動状態に対応したマップを上記各マップのうちから選択して理論上の空気充填効率KLの算出に用い、その選択されたマップに適合した増量ゲインa及び減量ゲインbを用いて上記フィードバック制御を行うことができる。これにより、当該フィードバック制御時に上述したラフアイドル等を招くといった不具合を回避することが可能になる。
具体例としては、目標アイドル回転速度NEi が例えば500rpmに設定されており、外部機器8の駆動効率が最低レベルの状態から、外部機器8の一つであるエアコンディショナ用のコンプレッサの駆動効率を最大とした場合をあげることができる。この場合、上記コンプレッサの駆動効率を最大とした時点で、理論上の空気充填効率KLを算出するためのマップが、図2の実線L0で示される推移を規定したマップから例えば二点鎖線L1で示される推移を規定したマップへと切り換えられる。その結果、目標アイドル回転速度NEi (この場合は500rpm)を保持するための値として算出される理論上の空気充填効率KLが、図中の「KL0」から「KL1」へと変化する。
このように算出される理論上の空気充填効率KLに基づき基本開度Obaseを算出することで、外部機器8の駆動効率が最低レベルから増大側に変化したとしても、ISCV18の開度はエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持する開度として適切なものとなる。また、仮にエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から離れたとしても、フィードバック補正値Hfbによるフィードバック制御を通じてISCV18の開度が補正され、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に収束するよう実際の空気充填効率が増減される。このときのフィードバック制御に用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbは、選択されているマップに適合されたものであるため、同マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移(図2の二点鎖線L1の推移)に合ったものとなる。従って、上記フィードバック制御により、エンジン回転速度NEを速やかに目標アイドル回転速度NEi に収束させることができ、上述したラフアイドル等を招くことはない。
ただし、理論上の空気充填効率KLを算出するために用意するマップの数が多くなるほど、それらマップの設定、並びに、増量ゲインa及び減量ゲインbのマップ毎の適合には手間と時間がかかるようになる。従って、理論上の空気充填効率KLのマップの数としては二、三個にとどめておくことが妥当であるが、その程度の数のマップを用意しただけでは外部機器8における種々の駆動状態の変化に対応することはできず、その変化後にはフィードバック制御に頼ってエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持することとなる。従って、この状態でのエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移は、選択されたマップ上で規定された理論上の空気充填効率KLの推移からずれた状態になる。その結果、上記フィードバック制御に用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbは、上記マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移に合っていないものとなり、上述したラフアイドル等を招くという問題を回避しきれなくなる。
そこで本実施形態では、理論上の空気充填効率KLを算出するためのマップとして図2に実線L0で示される推移を規定した基本マップを用意し、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が上記基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移と一致するよう点火時期を制御する。
この場合、外部機器8の駆動効率が最低レベルから変化したとしても、基本開度Obaseを上記基本マップから算出された理論上の空気充填効率KLを用いて算出すれば、ISCV18の開度はエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するのに適した値となる。また、仮にエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から離れたときには、フィードバック補正値Hfbによるフィードバック制御を通じてISCV18の開度が補正され、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に収束するよう実際の空気充填効率が増減される。
上記フィードバック制御に用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbについては、同制御によるエンジン回転速度NEの目標アイドル回転速度NEi への収束性を高い状態に維持すべく、その収束性に影響を及ぼすパラメータである実際の空気充填効率の大きさに応じて可変設定される。また、この増量ゲインa及び減量ゲインbは、上記基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移に合うよう予め適合される。従って、上述した点火時期制御によって上記実際の空気充填効率の推移を上記基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることで、上記外部機器8の駆動状態の変化後においても、フィードバック制御で用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移と合ったものになる。
以上のように、上記実際の空気充填効率の推移を上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させるための点火時期制御を行うことで、増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移に合ったものとすべく、KL算出用のマップを数多く用意するとともに上記ゲインa,bをマップの数に対応する分だけ用意する必要はなくなる。従って、それらマップの設定、及びゲインa,bの適合に手間と時間をかけることなく、上述したラフアイドル等を招くといった問題を回避し、安定したアイドル運転を実現することができる。
次に、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移を、上記基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移と一致させるための点火時期制御について説明する。
エンジン1の点火時期制御は、エンジン運転状態に基づき算出される点火時期指令値Afin に基づきイグナイタ5aを駆動することによって実現されている。そして、アイドル運転時の点火時期指令値Afin は、以下の式(2)を用いて算出される。
Afin =Abase+T …(2)
Afin :点火時期指令値
Abase:基本点火時期
T :進角量
上記式(2)の基本点火時期Abaseは、エンジン1の出力トルクを最大とすることの可能な点火時期(MBT)よりもある程度遅角側の値として、エンジン回転速度NE、及び実際の空気充填効率に基づき算出される。このように基本点火時期Abaseを算出するのは円滑なアイドル運転を行うことを考慮してのことである。仮に、アイドル運転時に点火時期をMBTにすると、1サイクル毎における混合気の燃焼変動の増大が避けられず、アイドル運転が円滑に行えなくなる。このため、アイドル運転時には基本点火時期AbaseをMBTよりもある程度遅角側の値とし、上述した燃焼変動の増大を抑制して円滑なアイドル運転を実現している。
上記式(2)の進角量Tは、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移と、上記基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移との差異に基づき、点火時期指令値Afin を基本点火時期Abaseよりも進角側の値にするためのものである。詳しくは、アイドル運転時のエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が例えば図5の二点鎖線L1で示される推移になったとすると、その推移の傾きαが基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移(図5の実線L0)の傾きβと比較され、それらの差S(=「α−β」)が大となるほど進角量Tが大とされる。この進角量Tが大になるほど、点火時期指令値Afin が基本点火時期Abaseよりも進角側の値になってMBTに近づくことから、空気充填効率一定の条件下でのエンジン1の発生トルクが向上する。
ここで、アイドル運転時に外部機器8の駆動効率が最低レベルの状態から、当該外部機器8の一つであるコンプレッサの駆動効率が最大に変更された場合を例として、上記点火時期制御の詳細について図3〜図5を併せ参照して説明する。
図3の実線は、アイドル運転時であって外部機器8の駆動効率が最低レベルの状態にあるときの目標アイドル回転速度NEi の変化に対する必要トルクの推移を示している。そして、今の目標アイドル回転速度NEi が例えば500rpmに設定されているとすると、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するための必要トルクは所定値Aということになる。このとき、目標アイドル回転速度NEi (500rpm)に基づき基本マップを参照して理論上の空気充填効率KLが算出され、更に当該理論上の空気充填効率KLに基づき基本開度Obaseが算出される。そして、ISCV開度指令値Ofin を用いたISCV18の開度制御を通じてエンジン1の空気充填効率が調整され、エンジン1の発生トルクがエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するのに必要な値である所定値Aとされる。なお、このときの実際の空気充填効率の変化に対する発生トルクの推移は、例えば図4に実線で示されるような推移となる。
このような状態にあって、エンジン1によって駆動される上記コンプレッサの駆動効率が最小から最大へと変化すると、それに対応して目標アイドル回転速度NEi を保持するための必要トルクの推移が、例えば図3の実線から二点鎖線へと当該推移の傾きが大となるように変化する。その結果、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi (500rpm)に保持するための必要トルクについても、所定値Aから所定値Bへと大きくなる。このとき、図4に示されるエンジン1の発生トルクが所定値Aのままだと、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi よりも低下してしまう。このため、フィードバック補正値Hfbを用いたフィードバック制御を通じてISCV開度指令値Ofin が大とされ、同ISCV開度指令値Ofin を用いたISCV18の開度制御により、空気充填効率がエンジン1の発生トルクを所定値Aとすることの可能な値(KL0)から所定値Bとする値(KL1)まで高められる。
上記のようなフィードバック制御によりエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持している状態にあっては、エンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が例えば図5に二点鎖線L1で示されるようなものになる。この二点鎖線L1で示される上記実際の空気充填効率の推移の傾きαは、基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移(実線L0)の傾きβよりも大きくなる。これは、エンジン1により駆動される上記コンプレッサの駆動効率が最小の状態から最大となった分だけ、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するための発生トルクを得るのに空気充填効率を多くする必要があるためである。
このように、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移(二点鎖線L1)が、基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移(実線L0)からずれた場合、それらの推移の傾きα,βの差S(=「α−β」)が算出される。そして、その差Sに対応した進角量Tだけ点火時期指令値Afin が進角させられ、この点火時期指令値Afin を用いた点火時期制御により、空気充填効率一定の条件下でのエンジン1の発生トルクが向上する。その結果、実際の空気充填効率の変化に対するエンジン1の発生トルクの推移が図4の実線から二点鎖線へと当該推移の傾きを大きくするように変化し、発生トルクを所定値Bにするのに必要な空気充填効率については「KL1」という値から「KL0」という値に戻る。そして、こうした点火時期の進角量T分の進角後にあっては、図5に示されるアイドル運転時における実際の空気充填効率の推移(二点鎖線L1)が、基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移(実線L0)と一致するようになる。
以上のように、点火時期を進角量T分だけ進角して実際の空気充填効率の推移と基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移とを一致させることで、上記外部機器8の駆動状態の変更後において、基本マップから算出される理論上の空気充填効率KLがエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するのに適した値になる。このため、上記理論上の空気充填効率KLに基づき算出される基本開度Obaseを用いてISCV18を開度制御することで、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持することが可能になる。また、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から離れたとしても、上記基本マップ上に合わせて適合された増量ゲインa及び減量ゲインbを用いた上記フィードバック制御により、エンジン回転速度NEを速やかに目標アイドル回転速度NEi に戻すことができる。
次に、点火時期指令値Afin の詳細な算出手順について、点火時期指令値算出ルーチンを示す図6のフローチャートを参照して説明する。この点火時期指令値算出ルーチンは、電子制御装置9を通じて、例えば所定クランク角毎の角度割り込みにて周期的に実行される。
同ルーチンにおいては、まずアクセル踏込量が「0」であること等に基づいてアイドル運転中であるか否かが判断される(S101)。ここで、否定判定であればアイドル運転時でない通常運転時における点火時期指令値Afin の算出が行われ(S111)、肯定判定であればアイドル運転時における点火時期指令値Afin を算出するための処理(S102〜S110)が実行される。
この一連の処理(S102〜S110)では、実際の空気充填効率及びエンジン回転速度NEに基づき基本点火時期AbaseがMBTよりある程度遅角側の値として算出される(S102)。続いて、エンジン回転速度NEが安定していること(S103:YES)、即ちエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に収束していることを条件に、そのときの実際の空気充填効率及びエンジン回転速度NEがデータとして電子制御装置9のRAMに記録される(S104)。そして、そのデータの数が現在のエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移を求めるのに十分な数になると(S105:YES)、その推移が求められて当該推移の傾きαが算出される(S106)。
その後、算出された傾きαと基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移の傾きβとの差S(=「α−β」)が所定値以上であるか否かが判断される(S107)。なお、ここで用いられる所定値としては、例えば「0」に設定したり、或いは「0」にごく近い値に設定したりすることが可能である。そして、ステップS107で肯定判定がなされると差Sに基づき進角量Tが算出される(S108)。こうして算出された進角量Tは、差Sが大となるほど大きい値、即ち点火時期を進角させる側の値をとるようになる。
続いて、ステップS110では、基本点火時期Abase及び進角量Tに基づき上記式(2)を用いて点火時期指令値Afin が算出される。そして、この点火時期指令値Afin に基づきイグナイタ5aが駆動され、エンジン1の点火時期が上記点火時期指令値Afin に対応した時期に制御される。この点火時期制御を通じて、エンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移と一致させられる。即ち、アイドル運転中での外部機器8の駆動状態の変化によって、上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と異なるものになっても、点火時期の進角量T分の進角側への制御を通じて、上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致するようになる。
なお、ステップS105とステップS107とのいずれか一方で否定判定がなされた場合、即ち上記実際の空気充填効率の推移の傾きαを求める上で実際の空気充填効率及びエンジン回転速度NEのデータ数が不足している場合や差Sが所定値未満である場合には、進角量Tが「0」とされる(S109)。このため、上述したような状況下では、進角量Tによる点火時期の進角側への制御が行われることはない。
次に、アイドル回転速度制御(ISCV18の開度制御)に用いられるISCV開度指令値Ofin の詳細な算出手順について、ISCV開度指令値算出ルーチンを示す図7のフローチャートを参照して説明する。このISCV開度指令値算出ルーチンは、電子制御装置9を通じて、例えば所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
同ルーチンにおいては、まずアイドル運転中であるか否かが判断される(S201)。ここで肯定判定であれば、基本開度Obaseを算出するための処理(ステップS202〜S204)、フィードバック補正値Hfbを増減させるための処理(S205〜S208)の処理、及び、それら基本開度Obase及びフィードバック補正値Hfbに基づき上記式(1)からISCV開度指令値Ofin を算出する処理(S209)が順次行われる。
ステップS202〜S204の基本開度Obaseを算出するための処理では、外部機器8の駆動状態等に応じて目標アイドル回転速度NEi の設定が行われ(S202)、その目標アイドル回転速度NEi に基づき基本マップを参照して理論上の空気充填効率KLが算出される(S203)。その後、当該理論上の空気充填効率KLに基づき基本開度Obaseが算出される(S204)。こうして算出された基本開度Obaseについては、理論上の空気充填効率KLを得ることの可能な開度となるよう、当該理論上の空気充填効率KLが大になるほど開き側の値となる。
ステップS205〜S208のフィードバック補正値Hfbを増減させるための処理については、例えばISCV18の開度を基本開度Obaseとしてもエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から離れているような場合に、そのエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi を収束させるためのものである。この一連の処理では、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi よりも低いとき(S205:YES)、フィードバック補正値Hfbを増量ゲインaずつ増加させる(S206)。これにより、ISCV開度指令値Ofin が開き側に補正され、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi へと上昇するよう空気充填効率が増加させられる。また、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi よりも高いときには(S207:YES)、フィードバック補正値Hfbを減量ゲインbずつ減少させる(S208)。これにより、ISCV開度指令値Ofin が閉じ側に補正され、エンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi へと低下するよう空気充填効率が減少させられる。
以上のようにフィードバック補正値Hfbを増減させることで、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に収束させるためのフィードバック制御が実現される。なお、同制御のフィードバックゲイン、即ち増量ゲインa及び減量ゲインbは実際の空気充填効率に基づき可変設定される。以下、こうした増量ゲインa及び減量ゲインbを可変設定する手順について、ゲイン設定ルーチンを示す図8のフローチャートを参照して説明する。このゲイン設定ルーチンは、電子制御装置9を通じて、例えば所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
同ルーチンにおいては、まずアイドル運転中であるか否かが判断される(S301)。そして、ここで肯定判定がなされると、実際の空気充填効率がどの領域にあるかに応じて、増量ゲインa及び減量ゲインbが可変設定されることとなる(S302)。ここで、実際の空気充填効率の大きさは、その空気充填効率を変更しようとしてから変更完了するまでの応答性に影響を及ぼす。例えば、空気充填効率の応答性は、その空気充填効率の大きさが大となるほど高くなり、小となるほど低くなるという傾向を示すようになる。また、空気充填効率の応答性は上記フィードバック制御によりエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に収束させる際の収束性にも影響を及ぼし、空気充填効率の応答性を高くしておくほどエンジン回転速度NEの目標アイドル回転速度NEi への収束性が高くなる。
従って、ステップS302では、実際の空気充填効率の応答性が低くなる状況ほど、即ち当該空気充填効率の大きさが小となるほど、増量ゲインa及び減量ゲインbが大きくされる。これにより、上記のような空気充填効率の応答性が低い状況であっても、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に近づけるためのISCV開度指令値Ofin の変化が大きな幅で行われ、エンジン回転速度NEの目標アイドル回転速度NEi への収束性を必要レベルに保持することができる。また、ステップS302では、実際の空気充填効率の応答性が高くなる状況ほど、即ち当該空気充填効率の大きさが大となるほど、増量ゲインa及び減量ゲインbが小さくされる。これにより、上記のような空気充填効率の応答性が高い状況のとき、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に近づけるためのISCV開度指令値Ofin の変化が必要以上に大きな幅で行われ、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に収束させる際にハンチングが生じるのを抑制することができる。
増量ゲインa及び減量ゲインbを上記のように可変設定する上では、実際の空気充填効率の大きさがいずれの大きさであっても増量ゲインa及び減量ゲインbが最適な値となるよう、それらゲインa,bを基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移に合わせて予め適合しておく必要がある。ただし、理論上の空気充填効率KLを算出するマップが複数ある場合には、エンジン回転速度NEの目標アイドル回転速度NEi への収束性を必要レベルに保つため、上記のような増量ゲインa及び減量ゲインbの適合を各マップ毎に行わなければならない。従って、増量ゲインa及び減量ゲインbの適合に多大な手間や時間がかかることも無視できない問題となる。
しかし、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移と一致するよう点火時期を制御することで、理論上の空気充填効率KLを算出するためのマップを上記基本マップのみとすることができる。そして、このように理論上の空気充填効率KLを算出するためのマップの数が多くなるのを抑制することができるため、そのマップ毎に行われる増量ゲインa及び減量ゲインbの適合に多大な手間や時間がかかることはない。
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)アイドル運転時、エンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移と一致するよう点火時期制御が行われる。このため、フィードバック制御に用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbを基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移に合わせて適合しておけば、それらゲインa,bが外部機器8の駆動状態の変化に関係なく上記実際の空気充填効率の推移に合ったものとなる。従って、上記駆動状態の変化後においてエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi から離れたとき、上記フィードバック制御によってエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に速やかに収束させることができるため、その収束性の悪化に伴うラフアイドル等の発生はない。
また、増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移に合ったものとすべく、理論上の空気充填効率KLを算出するためのマップを外部機器8の駆動状態の細かな違いに応じて数多く用意するとともに、増量ゲインa及び減量ゲインbを当該マップの数に対応する分だけ用意する必要はなくなる。従って、それらマップの設定、及びゲインa,bの適合に手間と時間をかけることなく、上述したラフアイドル等を招くといった問題を回避し、安定したアイドル運転を実現することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図9〜図12に基づき説明する。
この実施形態は、第1実施形態において、アイドル運転時の点火時期をMBTまで進角させても、アイドル運転時のエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移を、基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることができないという状況に対処するものである。
ここで、上記のような状況について、目標アイドル回転速度NEi が例えば500rpmに設定されており、外部機器8の駆動効率が最低レベルの状態から、外部機器8の一つであるエアコンディショナ用のコンプレッサの駆動効率を最大とした場合を例に、図9〜図11を参照して説明する。
図9は、アイドル運転時にエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持するための必要トルクの目標アイドル回転速度NEi の変化に対する推移を示すグラフである。こうした必要トルクの推移については、外部機器8の駆動効率が最低レベルの状態にあって上記コンプレッサの駆動効率が最大へと変化すると、図中の実線から二点鎖線へと変化する。その結果、このときの目標アイドル回転速度NEi である500rpmを維持するための必要トルクも所定値Aから所定値Bへと大きくなり、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に収束させるためのフィードバック制御が行われる。
上記フィードバック制御を通じてエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に収束した後には、エンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、図11に二点鎖線L1で示されるように、基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移(実線L0)に比べ傾きが大きくなる。第1実施形態では、上記実際の空気充填効率の推移(二点鎖線L1)が上記理論上の空気充填効率KLの推移(実線L0)と一致するよう、点火時期(点火時期指令値Afin )をMBTに向けて進角させるようにした。そして、上記のような点火時期制御により、空気充填効率の変化に対する発生トルクの推移を、図10に実線で示される状態から二点鎖線で示される状態まで変化させれば、図11における上記実際の空気充填効率の推移を上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることができる。
ところで、点火時期制御においては、通常は点火時期がMBTよりも進角しないよう、ガード値Limitによる当該点火時期の進角側についてのガードが行われる。従って、点火時期がMBTに達して進角側についてガードされたとき、空気充填効率の変化に対する発生トルクの推移が例えば図10に破線で示される状態にあり、二点鎖線で示される状態に達していないような場合には、図11における上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきらない。その結果、上記実際の空気充填効率の推移は、図中の二点鎖線L1と実線L0との間の破線L4の状態でとどまることになる。
この状態にあっては、エンジン1の発生トルクを図10の破線上で所定値Bとし、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持することが、フィードバック制御に頼って実現される。しかし、同制御の増量ゲインa及び減量ゲインbは、上記理論上の空気充填効率KLの推移(図11の実線L0)に合わせて適合されたものであり、上記実際の空気充填効率の推移(破線L4)に合ったものではないことから、第1実施形態にも記載したラフアイドル等の問題を招くおそれがある。
そこで本実施形態では、上記のような状況にあるときには、外部機器8(ここではコンプレッサ)の駆動効率を低下させることで、上記実際の空気充填効率の推移を上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させ、上述したラフアイドル等の問題を回避する。更に、上記のように駆動効率を低下させても外部機器8の仕事量が少なくならないよう、その駆動効率の低下に対応した分だけ目標アイドル回転速度NEi を大とする。
具体的には、上記実際の空気充填効率の推移(破線L4)の傾きαと、上記理論上の空気充填効率KLの推移(実線L0)の傾きβとの差S(=「α−β」)に基づき、コンプレッサの駆動効率の変更量ΔPを算出し、その変更量ΔP分だけコンプレッサの駆動効率を低下させる。これにより、目標アイドル回転速度NEi の変化に対する必要トルクの推移が、図9に二点鎖線で示される状態から破線で示される状態へと傾きが小さくなるように変化させられ、図10の破線で示される発生トルクの推移に合わせられる。その結果、エンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、基本マップ上での上記理論上の空気充填効率KLの推移(図11の実線L0)と一致するようになる。
上記のようにコンプレッサの駆動効率を変更量ΔPだけ低下させれば、エンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi (500rpm)に保持するための必要トルクが所定値Cとなり、そのときの発生トルクをフィードバック制御に頼らずに所定値Cとすることが可能になる。しかし、この場合にはコンプレッサの仕事量が上記変更量ΔP分だけ少なくなるため、その対処として目標アイドル回転速度NEi が上記変更量ΔPに対応した値として求められる変更量ΔNEだけ大とされる。そして、エンジン回転速度NEがフィードバック制御を通じて「500+ΔNE」rpmという目標アイドル回転速度NEi に収束することで、上述したコンプレッサの仕事量の低下が回避される。
なお、このときの必要トルク及び発生トルクはそれぞれ、図9及び図10に示される破線上の所定値Bという値で一致するようになる。従って、図10に示される発生トルクは、上記目標アイドル回転速度NEi の変更量ΔNE分の増大に伴い、所定値Cから所定値Bへと増加する。また、発生トルクを所定値Cから所定値Bへと増加させる上で、実際の空気充填効率は変化量ΔKL分だけ増加する。そして、上記目標アイドル回転速度NEi の変更量ΔNE分の増大に伴い、実際の空気充填効率が変化量ΔKL分だけ増加する際、その空気充填効率及びエンジン回転速度NEの推移は図11における実線L0に沿って行われることとなる。
次に、点火時期指令値Afin を進角側についてガードする手順、同ガード時に外部機器8の駆動効率を低下させる手順、及び、同駆動効率低下時に目標アイドル回転速度NEi を変更する手順について、点火時期ガード処理ルーチンを示す図12のフローチャートを参照して説明する。この点火時期ガード処理ルーチンは、電子制御装置9を通じて、例えば所定クランク角毎の角度割り込みにて周期的に実行される。
同ルーチンにおいては、まずアイドル運転中であるとき(S401:YES)、点火時期指令値Afin がMBTに対応した値であるガード値Limitよりも進角側の値であるか否かが判断される(S402)。ここで肯定判定であれば、ガード値Limitが新たな点火時期指令値Afin として設定され(S403)、これにより点火時期指令値Afin がMBTよりも進角しないようガードされる。
続いて、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が基本マップ上での理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきれていない旨の判断を一度でも行ったか否かが判断される。この判断については、後述するフラグFが「0(未判断)」であるか、或いは「1(判断済)」であるかに基づいて行われる。そして、フラグFが「0(未判断)」であって、上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきれていない旨判断されたことのない場合(S404:YES)、ステップS405〜S409の処理が実行される。
この一連の処理では、上記実際の空気充填効率の推移が点火時期の進角によっては上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきらないとき、その一致を図るべく外部機器8の駆動効率低減が行われるとともに、その際の外部機器8の仕事量の減少を抑制すべく目標アイドル回転速度NEi の増大が行われる。
詳しくは、まずステップS405での差Sが「0」であるか否かの判断に基づき、上記実際の空気充填効率の推移が点火時期の進角によって上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきれていないか否かが判断される。ここで肯定判定であれば、一致しきれていないということになり、上述したフラグFが「1(判断済)」に設定される(S406)。
続いて、外部機器8の駆動効率低下が可能な状況であるか否かが判断される(S407)。外部機器8は種々の要求等によって駆動効率の低下が不可能な場合があり、こうした場合以外のとき(S407:YES)のみ駆動効率の低下が行われる(S208)。即ち、上記差Sに基づき外部機器8の駆動効率を低下させる際の変更量ΔPが算出され、その変更量ΔP分だけ上記駆動効率が低下するよう外部機器8の駆動制御が行われる。なお、このときに算出される変更量ΔPについては、当該差Sが大となるほど大きい値となるよう、且つ上記駆動効率の低下によって差Sを「0」とすることが可能な値となるよう算出される。このため、上記駆動効率の低下により、上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させられるようになる。
続いて、上記のように外部機器8の駆動効率を低下させたとき、同外部機器8の仕事量が変化しないよう目標アイドル回転速度NEi の増大が行われる(S409)。即ち、外部機器の駆動効率低下に用いられる変更量ΔPに基づき、目標アイドル回転速度NEi を増大させるための変更量ΔNEが算出され、その変更量ΔNE分だけ当該目標アイドル回転速度NEi を増大させる。なお、このときに算出される変更量ΔNEについては、当該変更量ΔPが大となるほど大きい値となるよう、且つ変更量ΔNE分のエンジン回転速度NEの上昇によって外部機器8の仕事量を一定とすることの可能な値となるよう算出される。このため、目標アイドル回転速度NEi を変更量ΔNE分だけ増大させ、フィードバック制御を通じてエンジン回転速度NEを上記変更量ΔNEだけ上昇させることで、上述したように外部機器8の駆動効率を低下させたときに同外部機器8の仕事量が変化しないようにすることができる。
なお、ステップS406で「1(判断済)」に設定されたフラグFについては、ステップS401、ステップS402、及びステップS405のいずれかで否定判定がなされたとき、「0(未判断)」に設定されることとなる(S410)。即ち、アイドル運転中でないとき(S401:NO)、点火時期指令値Afin がガード値Limitまで進角していないとき(S402:NO)、或いは上記点火時期指令値Afin の進角によって差Sが「0」になったとき(S406:NO)、上記フラグFは「0」に設定される。
以上詳述した本実施形態によれば、第1実施形態によって得られる効果に加え、以下の効果が得られるようになる。
(2)ガードされるまで点火時期を進角させても、アイドル運転時におけるエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移が、基本マップ上での目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきならない場合がある。しかし、この場合には外部機器8の駆動効率が変更量ΔPだけ低下させられ、これにより上記実際の空気充填効率の推移と上記理論上の空気充填効率KLの推移との一致が図られる。従って、点火時期のガード時点では上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致していなかった上記実際の空気充填効率の推移を、上記駆動効率の低下によって当該理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることができる。
(3)上記のように外部機器8の駆動効率を変更する際の変更量ΔPについては、点火時期がガードされたときの上記実際の空気充填効率の推移についての傾きαと上記理論上の空気充填効率KLの推移についての傾きβとの差S(=「α−β」)に基づき、上記駆動効率の低下によって差Sを「0」とすることが可能な値となるよう算出される。従って、この変更量ΔP分だけ上記駆動効率を低下させることによって、上記実際の空気充填効率の推移を的確に上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることができる。
(4)上記のように外部機器8の駆動効率を低下させると、外部機器8の仕事量が減少するようになる。この外部機器8の仕事量は、上記駆動効率だけでなくエンジン回転速度NEによっても変わるものである。このため、上記駆動効率の低下時には目標アイドル回転速度NEi を変更量ΔNEだけ増大させ、フィードバック制御を通じてエンジン回転速度NEを高めることで、外部機器8の仕事量が変化しないようにすることができる。
(5)上記のように目標アイドル回転速度NEi を変更する際の変更量ΔNEについては、外部機器8の駆動効率を低下させるための変更量ΔPに基づき、変更量ΔNE分のエンジン回転速度NEの上昇によって外部機器8の仕事量を一定とすることの可能な値となるよう算出される。従って、外部機器8の駆動効率が低下させられたとき、エンジン回転速度NEを的確に外部機器8の仕事量を変化させないように高めることができる。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を図13に基づき説明する。
この実施形態は、第2実施形態において、外部機器8の駆動効率低下が不可であり、その駆動効率の低下によっては上記実際の空気充填効率の推移を上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることができないという状況に対処するものである。
具体的には、こうした状況下ではフィードバック制御に頼ってエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に保持されることになるが、同制御に用いられる増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移に合ったものとなるよう変更するという対処が行われる。これにより、フィードバック制御に頼ってエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEi に保持することになっても、増量ゲインa及び減量ゲインbが上記実際の空気充填効率の推移に合ったものになるため、同制御によるエンジン回転速度NEの速やかな目標アイドル回転速度NEi への収束が実現可能となる。
次に、上記のように増量ゲインa及び減量ゲインbを変更する際の詳細な手順について、ゲイン設定ルーチンを示す図13のフローチャートを参照して説明する。このゲイン設定ルーチンは、電子制御装置9を通じて、例えば所定時間毎の角度割り込みにて周期的に実行される。
同ルーチンにおいて、ステップS501,S502の処理では、第1実施形態のゲイン設定ルーチン(図8)でのステップS301,S302と同じく、実際の空気充填効率の大きさに応じた増量ゲインa及び減量ゲインbの設定が行われる。続いて、ステップS503では、第2実施形態の点火時期ガード時処理ルーチン(図12)を通じて設定されるフラグFが「1(判断済)」であるか否か、言い換えればガードされるまで点火時期を進角させても上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきれていない状況であるか否かが判断される。ここで肯定判定であれば、それらの推移が一致しきれていないことになり、ステップS504に進む。
ステップS504では、外部機器8の駆動効率低下が不可であるか否かが判断される。ここで不可である旨判断されると、そのときの上記実際の空気充填効率の推移についての傾きαと上記理論上の空気充填効率KLの推移についての傾きβとの差S(=「α−β」)に基づき、増量ゲインa及び減量ゲインbを変更するための変更量cが算出される(S505)。こうして算出された変更量cについては、上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移からどの程度離れているか、即ち両者の差異を表す差Sに応じて、増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移に合ったものへと変更可能な値とされる。そして、続くステップ505では、実際に変更量c分だけ増量ゲインa及び減量ゲインbが変更される。
本実施形態によれば、第2実施形態に記載した効果に加え、以下の効果が得られるようになる。
(6)外部機器8の駆動効率の低下が不可であり、その低下によって上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させることができない状況のもとでは、フィードバック制御に頼ってエンジン回転速度NEが目標アイドル回転速度NEi に収束させられる。しかし、このときには増量ゲインa及び減量ゲインbが変更量c分の変更により、上記実際の空気充填効率の推移に合ったものとなるため、上記フィードバック制御の実行時にエンジン回転速度NEを速やかに目標アイドル回転速度NEi に収束させることができる。
(7)上記変更量cについては、上記実際の空気充填効率の推移の傾きαと上記理論上の空気充填効率KLの推移の傾きβとの差Sに応じて算出されるため、増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移に合ったものに変更するための値として的確な値とすることができる。
なお、上記各実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・第1〜第3実施形態において、基本マップとして、外部機器8の駆動効率が最高レベルにあるときの目標アイドル回転速度NEi の変化に対する理論上の空気充填効率KLの推移を規定したものを用いる。更に、アイドル運転時における式(2)の基本点火時期AbaseをMBTと等しい時期として算出する。そして、外部機器8の駆動効率が最高レベルでないときには、点火時期を基本点火時期Abaseよりも遅角してエンジン1の発生トルクを低下させることで、アイドル運転時のエンジン回転速度NEの変化に対する実際の空気充填効率の推移を上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致させるようにしてもよい。なお、この場合の点火時期の遅角量については、上記一致が可能となるよう、差Sに基づき当該差Sが大となるほど点火時期を遅角させる側の値とすることが好ましい。
また、点火時期を変更可能な限界まで遅角させても、上記実際の空気充填効率の推移が上記理論上の空気充填効率KLの推移と一致しきらない場合には、外部機器8の駆動効率を差Sに対応する分だけ増大させて上記一致を実現することが考えられる。更に、このときには目標アイドル回転速度NEi を上記駆動効率の増大分だけ減少させてエンジン回転速度NEを低下させ、上記駆動効率の増大に伴う外部機器8の仕事量の変化を抑制することが好ましい。
・第2実施形態において、外部機器8の駆動効率の変更量ΔPを差Sに応じた可変値ではなく固定値としてもよい。この場合でも、上記駆動効率を変更量ΔP分低下させることで、上記実際の空気充填効率の推移を少なくとも上記理論上の空気充填効率KLの推移に近づけることはできる。なお、それらの推移が上記駆動効率の低下によっても一致しきらない場合には、第3実施形態のように増量ゲインa及び減量ゲインbを上記実際の空気充填効率の推移にあったものとなるよう変更することも可能である。
・第2実施形態において、外部機器8の駆動効率低下に伴う目標アイドル回転速度NEi の変更量ΔNEを上記駆動効率の変更量ΔPに応じた可変値ではなく固定値としてもよい。この場合でも、上記駆動効率の低下に伴う外部機器8の仕事量の減少を抑制することはできる。
・第2実施形態において、外部機器8の駆動効率の低下に伴う目標アイドル回転速度NEi の増大を必ずしも行う必要はない。
・第3実施形態において、増量ゲインa及び減量ゲインbの変更量cを予め定められた固定値としてもよい。この場合でも、当該変更量c分の増量ゲインa及び減量ゲインbの変更により、それらゲインa,bを少なくとも上記実際の空気充填効率の推移に合った値に近づけることはできる。
・上記各実施形態では、アイドル運転時の空気充填効率を調整するのにISCV18を用いたが、これに代えてスロットルバルブ12を用いてもよい。
・エンジンの吸気バルブのバルブ特性、例えばバルブタイミングや最大バルブリフト量といったバルブ特性を可変とする可変同弁機構を備えたエンジンに本発明を適用した場合、そのバルブ特性の変更を通じて空気充填効率の調整を行うこともできる。
・複数の吸気バルブのうち実際に駆動される吸気バルブの数を可変とすることの可能な可変バルブシステムを備えたエンジンに本発明を適用した場合、駆動される吸気バルブの数の変更を通じて空気充填効率の調整を行うこともできる。
・理論上の吸気通路の長さを可変とする可変吸気システムを備えたエンジンに本発明を適用した場合、その理論上の吸気通路の長さの変更を通じて空気充填効率の調整を行うこともできる。
・以上のような各種の空気充填効率の調整を複数組み合わせて行ってもよい。
1…エンジン、2…吸気通路、3…燃焼室、4…燃料噴射弁、5…点火プラグ、5a…イグナイタ、6…クランクシャフト、7…排気通路、8…外部機器、9…電子制御装置(充填効率算出手段、推移算出手段、制御手段、効率変更手段、回転速度変更手段、ゲイン変更手段)、10…アクセルペダル、11…アクセルポジションセンサ、12…スロットルバルブ、13…スロットルポジションセンサ、14…エアフローメータ、15…クランクポジションセンサ、16…酸素センサ、17…バイパス通路、18…アイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)。