JP4273741B2 - 魚油臭のマスキング方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する魚油を利用するマーガリンやショートニング等の油脂製品の製造において、加熱しても魚油の異味異臭をマスキングする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
EPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸を含有する魚油は、酸化劣化により戻り臭と呼ばれる生臭い魚油臭を容易に生じるため、トコフェロール(ビタミンE)やアスコルビン酸パルミテート(ビタミンCパルミテート)等の抗酸化剤を魚油に添加して、酸化劣化や戻り臭の発生を抑制する必要がある。
【0003】
しかし、戻り臭の原因であるアルデヒド類やケトン類の臭気成分の中には、PPBレベルの非常に僅かな量でも臭覚として感じられる物質があり、抗酸化剤による酸化防止だけでは戻り臭の発生を完全に抑制することは困難である。そのため、魚油に香料や風味素材を添加して魚油の戻り臭をマスキングする多くの方法が考案されている。
【0004】
例えば、レモン油を添加する方法(特許文献1)、柑橘系香料とヨーグルト香料を添加する方法(特許文献2)、ショウガ香料を添加する方法(特許文献3、特許文献4)等の、香料の添加によって魚油の生臭い臭気を効果的にマスキングする方法が開示されている。
【0005】
これらの香料は、嗅覚としてトップに感知される魚油臭をマスキングする効果は高いが、口腔内で味覚としてベースに感知される魚油の生臭い風味をマスキングすることは困難である。特に魚油を100℃以上で加熱すると数分の短時間で魚油の嫌味が発生し、食用には望ましくない風味となる。
【0006】
一方、香料とは異なる魚油臭のマスキング方法として、発酵あるいは発酵成分による風味賦与の方法が考案されており、乳酸菌や酵母で発酵させた魚油を含有する発酵乳(特許文献5)や、特殊な培地でアスペルギルス属を培養した時に生成される組成物を添加する方法(特許文献6)が挙げられる。しかし、上記の方法では、水分含量が50重量%以上となる魚油を含有する水中油型乳化物の形態であるため、水分を含有しないショートニングを製造することは不可能である。また、水分を15%程度含有するマーガリンにするためには上記の水中油型乳化物に対して3倍の油脂を添加しなければならず、高度不飽和脂肪酸含量の低下が免れない。従って、高度不飽和脂肪酸を含有する精製魚油を主原料とするショートニングやマーガリン等の油脂製品を製造するには油性の風味素材であることが望ましい。
【0007】
例えば、ゴマ油や、ショウガ、ネギ、ニンニク、唐辛子、等の香味野菜を油中で加熱処理して製造される香味油を添加すれば、魚油の臭気と嫌味の両方をマスキングすることが可能であるが、その独特な風味のため必ずしもパン菓子製造用のショートニングやマーガリン等の加工油脂に適した風味ではない。
【0008】
パン菓子の製造に適した風味素材として乳の風味が挙げられる。しかし、バターフレーバーでは魚油の臭気をマスキング出来るが、口腔内で感じる嫌味をマスキングすることは困難である。あるいはバターや発酵バターを多量に使用すれば魚油の異味異臭をマスキングすることが可能であるが、コスト的に高価となり魚油の添加量も制限される。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−275728号公報
【0010】
【特許文献2】
特開平8−92587号公報
【0011】
【特許文献3】
特開平6−189717号公報
【0012】
【特許文献4】
特開2001−131575号公報
【0013】
【特許文献5】
特開平6−90662号公報
【0014】
【特許文献6】
特開平6−287590号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
パン菓子用途のマーガリン・ショートニングに適した、魚油の異味異臭をマスキングする風味油脂の開発と、高度不飽和脂肪酸を含有する魚油を主原料としたマーガリン・ショートニング等の油脂組成物の提供。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、バター等の乳脂肪の風味やコク味を強化した風味油脂が魚油のマスキングに有効であると考え鋭意研究した結果、(a)油脂、(b)脂質と蛋白質の複合体、(c)乳固形分及び(d)水を含有してなる混合物を80〜180℃で加熱処理した後、固化しない範囲で冷却してから分離手段を用いて処理液の不溶分を除去して得られる風味油脂が、魚油の異味異臭のマスキングに適していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明の第1は、(a)乳脂肪(a−1)を5重量%以上含む油脂100重量%に対し、(b)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(b−1)からなる脂質と蛋白質の複合体を0.05〜5.0重量%、(c)乳固形分1〜10重量%及び(d)水5〜30重量%を含有してなり、油脂を脂肪酸分解酵素で処理した後、乳酸発酵及び/又は酵母発酵してなる混合物を80〜180℃で加熱処理した後、固化しない範囲で冷却してから分離手段を用いて処理液の不溶分を除去して得られる風味油脂を添加してなる精製魚油に関する。好ましい実施態様としては、前記有機酸モノグリセリドがコハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド及び乳酸モノグリセリドからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記乳蛋白質がカゼインであり、前記有機酸モノグリセリドがコハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド及び乳酸モノグリセリドからなる群から選択される少なくとも1種である上記記載の精製魚油に関する。また、本発明の第2は、上記記載の精製魚油を含んでなる食品に関する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明において風味油脂とは、乳固形分中の油溶性風味成分を、油脂中に移行させてなる油脂のことである。本発明における風味油脂の製造で使用する(a)油脂としては、通常食用として用いられているものであれば植物油脂、動物油脂の何れでもよく、例えば牛脂、豚脂、大豆油、綿実油、米油、コーン油、ヤシ油、パーム油、カカオ脂等が挙げられ、又これらを硬化、分別、エステル交換したものでもよく、これらを単独或いは2種以上を混合して用いることが出来る。特に、本発明においては、風味の点から乳脂肪を油脂中に5重量%以上含有することが望ましい。(a−1)乳脂肪を5重量%以上含有する油脂とは、バター、発酵バター、及び、それらから水溶性分を分離除去した乳脂肪が代表例として挙げられる。また、大豆油、ナタネ油、パーム油、コーン油、綿実油、米油等の植物油脂や、牛脂、ラード等の動物油脂に、上記の乳脂肪が油脂中に5重量%以上となるように混合した油脂でもよい。油脂中の乳脂肪が5重量%未満では、魚油の異味異臭をマスキングする効果が充分得られない場合がある。
【0019】
本発明における風味油脂の製造で使用する(b)脂質と蛋白質の複合体は、天然由来のもの、合成物のいずれでも利用でき、天然由来の脂質と蛋白質の複合体としてはヒト、牛、馬、山羊などの広く哺乳動物の乳、血清やスケトウダラ、サケ、マス、コイなどの水産動物の卵や鶏、ウズラ、キジなどの鳥類の卵もしくは生体膜に含まれるものが挙げられる。合成物としては、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、糖脂質、リン脂質などの脂質と、水溶性蛋白質である乳蛋白質、植物性蛋白質、動物性蛋白質などの蛋白質との結合体が挙げられる。中でも合成物である脂質と蛋白質の複合体の方が加熱等による変性を受けにくいものが多いため好ましく、更に(b−1)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を用いることが望ましい。
【0020】
本発明で使用することが出来る有機酸モノグリセリドとしては、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、及び乳酸モノグリセリド等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いられる。また、これら有機酸モノグリセリドの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが立体構造的に有効に結合させることができるので好ましい。
【0021】
乳蛋白質としてはカゼインが好ましく、非ミセル状態の分子構造を持つカゼインを含有することが、有機酸モノグリセリドと最も結合し易く、複合体を形成し易いため、特に好ましい。これらの非ミセル状態のカゼインとしては、例えばナトリウムカゼイン、カリウムカゼインなどのカゼインアルカリや酸カゼイン等の他、生乳、還元全脂粉乳液、脱脂乳、還元脱粉液、バターミルク、還元バターミルクパウダー液等にリン酸塩等のカルシウム封鎖剤を添加したり、pHを4.4〜4.6に調整した沈殿物を回収して得られるもの等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いられる。カゼインがミセルの状態をとっているか否かを知る手段としては、カゼインがミセル状態である場合、それは約0.1〜0.5μmの直径を有するリン酸カルシウム−カゼインの複合体の蛋白質微粒子として存在することが知られている。そこで本発明者らは、カゼインのミセル状態の構造を簡易に定量化する手法として平均粒度分布により調べることに着目した。即ち、レーザー回折式平均粒度分布測定装置(LA−500P、堀場製作所製)により蛋白質の粒度分布を調べ、0.1〜0.5μmの直径を有する分布区分をカゼインのミセル状態とみなし、これより大きな粒度分布のものを非ミセル状態のカゼインと判断することにした。この方法によると、本発明においては非ミセル状態のカゼイン含量が乳蛋白質の内好ましくは15重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。
【0022】
これら有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体の製造方法は、まず、乳蛋白質を1〜50重量%濃度、好ましくは5〜25重量%濃度の水溶液を調整する。乳蛋白質の濃度が1重量%未満であると複合体の形成が少なく、濃度が50重量を超えても複合体の形成が増加せず効率が悪い。この際、乳蛋白質水溶液のpHを6〜7の範囲に調整することが有機酸モノグリセリドと有効に結合させる上で好ましい。次に、蛋白質水溶液を通常有機酸モノグリセリドの融点である50〜70℃よりもわずかに高い温度になるように加温し、蛋白質水溶液に蛋白質の1/100〜2/1(重量比)の有機酸モノグリセリドを添加する。蛋白質水溶液に有機酸モノグリセリドを混合溶解した後、超音波均質機、ホモジナイザー、ホモミキサー、マイコロイダー等の均質化手段により、有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を調整する。本発明で使用する有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体は、こうして得られた水溶液をそのままの形態で使用する場合は、保存上の点からUHT等の殺菌処理を施すことが好ましい。
【0023】
本発明の風味油脂の製造に使用する、(b−1)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体の使用量は、乳脂肪を含有する油脂100重量%に対して、0.05重量%以上、5.0重量%以下で、好ましくは、0.1重量%以上、2.0重量%以下の範囲で添加すればよい。添加量が、0.05重量%未満では魚油の異味異臭をマスキングする効果が充分得られない場合があり、5.0重量%を越えて添加しても魚油の異味異臭をマスキングする効果の更なる増強とはならず、コスト的に不利となる。
【0024】
本発明の風味油脂を製造する際に使用する(c)乳固形分としては、生乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清、生クリーム、チーズ類、ヨーグルト類、バター、バターミルク又はこれらを濃縮加工したものが挙げられ、これらを少なくとも1種又は2種以上を組み合わせて用いる。これら乳固形分の配合割合は、油脂100重量%に対して1重量%以上、10重量%以下で、好ましくは2重量%以上、5重量%以下の範囲である。配合割合が1重量%未満では魚油の異味異臭をマスキングする効果が充分得られない場合があり、10重量%を越えて添加しても魚油の異味異臭をマスキングする効果の更なる増強とはならず、コスト的に不利となる。
【0025】
本発明の風味油脂を製造する際に使用する(d)水の割合は、油脂100重量%に対して、5重量%以上、30重量%以下の範囲が好ましい。配合割合が5重量%未満では固形分の溶解性が悪くなる場合があり、30重量%を越えて添加すると味が弱くなる場合がある。
【0026】
本発明の風味油脂は、(a)油脂、(b)脂質と蛋白質の複合体、(c)乳固形分及び(d)水を含有してなる混合物を加熱処理することにより得られるが、加熱処理を行う前に脂肪酸分解酵素で(a)油脂を分解することが好ましい。こうすれば、脂肪酸分解酵素によって風味油脂に発酵臭が付与されるからである。
【0027】
本発明に使用できる脂肪酸分解酵素は、動物、植物、微生物から分離される酵素があり、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾープス(Rhizopus)属等の糸状菌、キャンディダ(Candida)属等の酵母、小山羊、小羊、小牛の口頭分泌腺から採取されるリパーゼ等が挙げられ、これらの内1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の脂肪酸分解酵素による(a)油脂の分解は、上記の混合物に対して脂肪酸分解酵素を0.01〜0.5重量%添加して行う。反応条件は、15〜70℃、好ましくは30〜50℃の温度で、0.5〜72時間の範囲で分解を行うことが出来る。脂肪酸分解酵素による(a)油脂の分解度は0.1〜5%が好ましく、更に好ましくは0.2〜3%の範囲である。0.1%未満では酵素分解による発酵臭が付与されず、5%を越えると分解によって生じる遊離脂肪酸が過剰となり石けん臭と呼ばれる油脂が劣化した臭気が生じる。分解度が5%を越えると異味が生じる場合があり好ましくない。尚、分解度とは[(酸価]/(けん化価))]×100によって求められる値を言う。
【0028】
また、本発明においては、脂肪酸分解酵素で(a)油脂を分解した後、加熱処理する前に、乳酸発酵及び/又は酵母発酵することがより好ましい。本発明に使用する乳酸菌は、乳製品の主要な風味および香気成分であるジアセチルおよび乳酸の生産能が高いものが好ましく、例えば、ストレプトコッカス・ジアセチラクチス、ストレプトコッカス・クレモリス、ロイコノストック・デキストラニクム、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・ヘルベティカスおよびラクトバチルス・ブレビス等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明の風味油脂の製造における乳酸発酵は、(a)油脂、(b)脂質と蛋白質の複合体、(c)乳固形分及び(d)水を含有してなる混合物に、脂肪酸分解酵素を添加して(a)油脂の分解を行った後、酵素を失活させ、そこにスターターとして調製した乳酸菌を混合物に対して好ましくは0.01〜1重量%添加して行う。酵素を失活させるためには、一般に酵素が失活するような条件である70℃以上の温度で5分以上保持すればよい。また本発明の乳酸菌の発酵は、一般に用いられている条件によって行うことができる。即ち発酵条件としては、好気条件下および嫌気条件下のいずれでもよいが、好気条件下での静置発酵が好ましい。混合物の初発pHは6〜8、特に7付近が望ましく、発酵温度は各乳酸菌株に適した20〜40℃で行うのが好ましい。さらには、乳酸発酵は酸度が0.05〜5.0%の範囲に達するまで、上記条件にて発酵することが好ましい。酸度が0.05%未満では魚油の異味異臭をマスキングする効果が充分得られない場合があり、また5.0%を越えると酸味、酸味臭が強くなり風味的に好ましくない。
【0030】
本発明に使用する酵母は、アルコール発酵乳に使用されるアルコール発酵性の酵母であるサッカロマイセス・シェルビシエ、キャンディダ・シュードトロピカリス、キャンディダ・ケフィアや、通常製パンに使用する酵母等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の風味油脂の製造における酵母発酵は、(a)油脂、(b)脂質と蛋白質の複合体、(c)乳固形分及び(d)水を含有してなる混合物に、脂肪酸分解酵素を添加して(a)油脂の分解を行ったもの或いは、混合物を脂肪酸分解酵素で分解後、酵素を失活させたところに乳酸菌を添加し乳酸発酵を行ったものに、スターターとして調製した酵母もしくは、製パンに使用する酵母の場合はこのものを水に懸濁したものを、混合物に対して好ましくは0.01〜2重量%添加して行う。0.01重量%未満では酵母発酵が十分に起こらず発酵臭が少ない。また2重量%を越える量を添加しても発酵臭は増強せず効率が悪い。なお、酵母の栄養源として砂糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖などの糖質を混合物に対して0.1〜10重量%添加することが望ましい。0.1重量%未満では発酵速度が遅く、10重量%を越えても発酵速度はそれ以上増加しない。発酵条件としては、好気条件下および嫌気条件下のいずれでもよいが、好気条件下での静置培養が好ましい。発酵温度は各酵母に適した20〜40℃で行うのが好ましい。さらには、酵母発酵はアルコール濃度が0.05〜3.0%の範囲に達するまで、上記条件にて発酵することが好ましい。酸度が0.05%未満では魚油の異味異臭をマスキングする効果が充分得られない場合があり、また3.0%を越えるとアルコール臭が強くなりすぎて風味的に好ましくない。
【0031】
本発明の風味油脂の製造方法としては、(a)油脂と(d)水に(b)脂質と蛋白質との複合体、(c)乳固形分を溶解したものの混合物を80〜180℃で数十秒〜数十分間加熱処理する。好ましくは80〜140℃、より好ましくは80〜120℃で加熱処理をする。80℃未満では効果が得難く、逆に180℃を越えると焦げ臭を感じるようになり好ましくない。なお、魚油の異味異臭をマスキングする効果を増強するために、以下のように加熱処理前に混合物を脂肪酸分解酵素で分解したり、さらには乳酸発酵及び/又は酵母発酵することもできる。酵素を失活させたところに乳酸菌を添加し乳酸発酵を行ったものに、スターターとして調製した酵母もしくは、製パンに使用する酵母の場合はこのものを水に懸濁したものを、混合物に対して好ましくは0.01〜2重量%添加して行う。0.01%未満では酵母発酵が十分に起こらず発酵臭が少ない。また2%を越える量を添加しても発酵臭は増強せず効率が悪い。なお、酵母の栄養源として砂糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖などの糖質を混合物に対して0.1〜10重量%添加することが望ましい。0.1%未満では発酵速度が遅く、10%を越えても発酵速度はそれ以上増しない。発酵条件としては、好気条件下および嫌気条件下のいずれでもよいが、好気条件下での静置培養が好ましい。発酵温度は各酵母に適した20〜40℃で行うのが好ましい。さらには、酵母発酵はアルコール濃度が0.05〜3.0%の範囲に達するまで、上記条件にて発酵することが好ましい。加熱装置は、攪拌羽根を有する加熱攪拌装置もしくは連続式の熱交換機を使用すればよい。加熱攪拌機としては、煮練機、ニーダー、クッキングミキサーなどが挙げられ、連続式の熱交換機としては、コンビネーター、コンサーム、間接式のUHT殺菌機などが挙げられる。特に、生産性の面からは連続式の熱交換機を使用することが好ましい。
【0032】
加熱処理終了後、この混合物を固化しない範囲で、好ましくは80℃未満まで冷却して、濾過、遠心分離、デカンテーション等の分離手段により混合物である処理液の不溶分を除去して風味油脂を得る。なお、本発明の風味油脂においては、風味油脂中の水分残存量を0.3〜3.0重量%に、さらに望ましくは0.5〜2.0重量%になるよう分離条件(遠心分離回転数3000rpm以上、東洋濾紙 No2以上)を調整することが魚油の異味異臭をマスキングする効果の点で好ましい。尚、水分残存量とは、105℃で3時間加熱による常圧直接乾燥法により得られる値を意味する。
【0033】
このようにして得られた風味油脂を、高度不飽和脂肪酸を含有する精製魚油に添加して、魚油臭のマスキングに用いる。風味油脂の添加量は、精製魚油に対して5重量%以上添加すれば魚油臭のマスキング効果を発揮する。添加量が5重量%未満であると、精製魚油を100℃以上に加熱した場合に魚油の異味異臭が発生する場合がある。
【0034】
本発明の精製魚油が適用できる食品としては、一般に食用油脂を用いる食品であれば特に限定はないが、例えばソーセージ、ハンバーグ、肉ダンゴ、スープ、乳製品、アイスクリーム、ソース、ルー、カレールー、グラタン、シチュー、パン、焼き菓子、ケーキ、スポンジ、クッキー、カスタード、ドーナッツ、マヨネーズ、ドレッシング、コロッケ、マーガリン、ショートニング、ホイップクリーム、濃縮乳、調味料などが挙げられる。
【0035】
【実施例】
次に、実施例および応用例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「部」、「%」は特に断りのない限り重量基準である。
【0036】
(製造例1)〔有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(MP−1)の調製〕
ナトリウムカゼイン(商品名:ハプロ、新日本製薬(株)製)7重量%を92重量%の水に分散、溶解させ65℃まで加熱後、コハク酸モノグリセリド(商品名:ポエムB−10、理研ビタミン(株)製)1重量%を添加し溶解後、超音波均質機(500W)にて均質化(5分)し、コハク酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体溶液を得た。得られた水溶液を0.1hPaで減圧脱水し、固形分中の水分を6.0重量%とした。この物を粉砕し、20メッシュ篩で、篩過して粉末状のコハク酸モノグリセリドと乳蛋白質の複合体(以下、MP−1と言う)を得た。
【0037】
(実施例1)
硬化コーン油(融点32℃)95部と、バターから分離した乳脂肪5部を混合し、乳脂肪を5重量%含む油脂を調整した。この乳脂肪を含む油脂に、全脂粉乳を3部、製造例1で調整した有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(MP−1)を0.5部、水を7部混合して95℃で60分間加熱処理した後、約60℃まで冷却し、遠心分離して風味油脂を得た(風味油脂中の水分が0.5重量%)。得られた風味油脂を精製マグロ油(DHA含量22%)に表1の割合(風味油脂:マグロ油=5%:95%)で添加した精製魚油を得た。この精製魚油100gを150℃で10分間加熱して、魚油臭のマスキング効果を官能により評価した。臭気とは、臭いを嗅いだ時の魚油特有の生臭い臭気を意味し、味とは、口腔に入れた時に舌や喉で感知する魚油の生臭い嫌な味を意味する。官能評価基準は、5点:魚油臭・魚油味が全く感じられず、極めて良好,4点:魚油臭・魚油味を殆ど感じない,3点:魚油臭・魚油味をやや感じる,2点:魚油臭・魚油味が少し強い,1点:魚油臭・魚油味がかなり強い、であり、それにしたがって10名のパネラーにより点数評価し、その平均値を採ったところ、下記の表1に示す通りであった。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例2)
実施例1において、精製マグロ油(DHA含量22%)に添加した風味油脂の量を表1の割合(風味油脂:マグロ油=10%:90%)にした以外は、同様の方法にて精製魚油を得、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例1において、油脂に乳脂肪を配合せずに硬化コーン油(融点32℃)を100部とした以外は同様の方法により、風味油脂を得(風味油脂中の水分が0.5重量%)、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0041】
(実施例4)
実施例1において、硬化コーン油(融点32℃)の代わりに綿実油を100部とし、且つ、油脂に乳脂肪を配合せず、全脂粉乳の代わりにホエーパウダーを3部とし、また製造例1で調整した有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(MP−1)の代わりに鶏卵黄由来の脂質と蛋白質の複合体(商品名:卵黄レシチンLPL−20、キューピー(株)製)を0.5部用いた以外は同様の方法により風味油脂を得(風味油脂中の水分が0.5重量%)、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0042】
(実施例5)
実施例1において、硬化コーン油(融点32℃)を70部、バターから分離した乳脂肪30部を混合し、乳脂肪を30重量%含む油脂を調整した以外は、同様の方法で風味油脂を得(風味油脂中の水分が0.5重量%)、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0043】
(実施例6)
実施例1において、硬化コーン油70部と乳脂肪30部とを混合した油脂を調整し、全脂粉乳を3部、製造例1で調整した有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(MP−1)を0.5部、水を7部混合して50℃に温調後、リパーゼ(商品名:リパーゼAY「アマノ」、天野製薬(株)製)0.05部を水1部に溶解して添加し、緩やかに攪拌しながら60分間保持した後、95℃で60分間加熱処理してリパーゼを失活させ、その後直ちに60℃まで冷却し、遠心分離して風味油脂を得た(風味油脂中の水分は0.5重量%、油脂の分解度は1.5%)以外は、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0044】
(実施例7)
実施例6において、リパーゼを失活させた後34℃まで冷却を行い、マザースターター(10%脱脂粉乳培地に乳酸菌として、ストレプトコッカス・ジアセチラクチスを0.7重量%、ストレプトコッカス・クレモリスを0.3%接種した後、34℃で24時間前培養したもの)を0.3重量%接種して、34℃での酸度が0.65%になるまで培養し、その後95℃で60分間加熱処理し、約60℃まで冷却してから、遠心分離して風味油脂を得た(風味油脂中の水分が0.5重量%)以外は、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0045】
(比較例1)
風味油脂を全く添加しない精製マグロ油である精製魚油を、実施例1と同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0046】
(比較例2)
実施例1において、有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(MP−1)を添加しなかった以外は同様の方法により風味油脂を得(風味油脂中の水分が0.5重量%)、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0047】
(比較例3)
実施例1において、硬化コーン油95部と乳脂肪を5部を混合した油脂に、全脂粉乳を3部、有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(MP−1)を0.5部、水を7部混合したものの加熱処理温度を70℃とした以外は、同様の方法により風味油脂を得(風味油脂中の水分が0.5重量%)、同様の方法にて精製魚油を得てから、同様の方法で官能評価を行い、表1の結果を得た。
【0048】
表1の比較例1に示す様に、マグロ油のみを150℃に加熱した場合、短時間の内に強い魚油臭と嫌味が発生し、食するには不快な風味となる。
【0049】
実施例1で作製された精製魚油は、150℃に加熱してもバター臭が感じられ、魚油臭はマスキングされていた。また口腔に入れても風味油脂の有する乳脂肪のコク味が強調されており、魚油の嫌味が少し感じられる程度に改良されていた。更に、実施例2で作製された精製魚油(風味油脂:マグロ油=10%:90%)は、魚油の嫌味は殆ど感じられず、乳脂肪の好ましい風味を有していた。
【0050】
また、実施例3において乳脂肪を使用せずに製造した風味油脂を添加した精製魚油は、魚油味をやや感じるものの問題ないレベルであった。更に、風味油脂を作製する際の(b)脂質と蛋白質の複合体が(b−1)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質の複合体でない実施例4の精製魚油は、食用油脂として問題ないレベルであるが、更に魚油臭・魚油味が感じられた。
【0051】
一方、比較例2の有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を使用せずに製造した風味油脂を添加した精製魚油では、魚油臭のマスキング効果は不十分であり、魚油味も強く感じられた。また、比較例3の加熱処理の温度を低くして製造した風味油脂を添加した精製魚油では、魚油臭のマスキング効果は改良されているものの、口腔に入れると明らかに魚油の嫌な味が感じられた。
【0052】
また、乳脂肪を増量した風味油脂を用いて製造した実施例5の精製魚油では、マグロ油に対して実施例1と同量の添加量でも魚油の嫌味がマスキングされており、風味油脂の製造において乳脂肪の使用量を増加することによりマスキング効果が改良された。また、リパーゼ処理を行って製造した実施例6における風味油脂は、マグロ油に対して5%の添加量で魚油の異味異臭ともにマスキングしており、実施例5における風味油脂よりも更に精製魚油のマスキング効果が高まっていた。リパーゼ処理に加えて発酵処理を行って製造した実施例7における風味油脂も、実施例6における風味油脂以上にマスキング効果が高まっており、発酵臭が強化されたより好ましい風味であった。
【0053】
【発明の効果】
(a)油脂、(b)脂質と蛋白質の複合体、(c)乳固形分及び(d)水を含有してなる混合物を、80〜180℃で加熱処理した後、固化しない範囲で冷却してから分離手段を用いて処理液の不溶分を除去して得られる風味油脂を、高度不飽和脂肪酸を含有する精製魚油に添加することで、乳脂肪の好ましい風味とコク味の賦与され、加熱しても魚油の異味異臭のマスキングが可能な、高度不飽和脂肪酸を含有する精製魚油を提供することが可能となる。
Claims (5)
- (a)乳脂肪(a−1)を5重量%以上含む油脂100重量%に対し、(b)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体(b−1)からなる脂質と蛋白質の複合体を0.05〜5.0重量%、(c)乳固形分1〜10重量%及び(d)水5〜30重量%を含有してなり、油脂を脂肪酸分解酵素で処理した後、乳酸発酵及び/又は酵母発酵してなる混合物を80〜180℃で加熱処理した後、固化しない範囲で冷却してから分離手段を用いて処理液の不溶分を除去して得られる風味油脂を添加してなる精製魚油。
- 前記有機酸モノグリセリドがコハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド及び乳酸モノグリセリドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の精製魚油。
- 前記乳蛋白質がカゼインである請求項1又は2何れかに記載の精製魚油。
- 前記乳固形分が、生乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清、生クリーム、チーズ類、ヨーグルト類、バター、バターミルク及びこれらを濃縮加工したものからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜3何れかに記載の精製魚油。
- 請求項1〜4何れかに記載の精製魚油を含んでなる食品。
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