JP4273453B2 - 厚鋼板の圧延方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、厚鋼板の圧延方法に関し、特に、所望の寸法(厚み、長さ)を有すると共に平坦度の良好な厚鋼板を得るための圧延方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、厚鋼板を圧延する際には、鋼板製品の規格、寸法、納期等を考慮し、同時に圧延可能な製品を複数選出して、圧延後に必要な鋼板寸法から素材(スラブ)寸法を求めている。そして、所望の鋼板寸法を得るべく、後述するように圧延における所謂パススケジュールを定め、当該パススケジュールに従って熱間圧延を実施し、圧延後の鋼板を冷却した後、必要な製品寸法に切断することがなされている。
【0003】
このため、予定通りの製品を得るためには、圧延後の鋼板厚みだけではなく、鋼板長さを確保することが必要である。つまり、鋼板長さが不足すると、予定通りの製品を採取することができないため、再圧延が必要となってしまう。一方、圧延後の鋼板形状(平坦度)が悪いと、後工程での矯正が必要となったり、矯正処置を施しても形状が改善されない場合にはスクラップにせざるを得ないなど、生産性の悪化や歩留まり低下を招くため、その改善策が所望されている。
【0004】
ここで、鋼板長さを確保するための従来技術として、最終圧延パスで所望の鋼板長さが得られるように、レーザドップラー方式の速度計を用いて最終圧延パスの1パス前(最終圧延パスの1パス前の圧延完了後)に鋼板長さを測定し、当該測定結果に基づき最終圧延パスの狙い板厚を修正する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1に開示された従来技術は、所望の鋼板長さを確保できるように、圧延前に設定した圧延パススケジュールの最終圧延パスでの狙い板厚を修正し、当該修正した狙い板厚が得られるように、最終圧延パスでのロール間隙(圧下位置)を調整して圧延する技術である。
【0006】
一方、前述のように、厚鋼板を圧延する際には、一般に、素材の圧延を開始する前に、所望の鋼板寸法を得るべく圧延パススケジュール計算(圧延パス毎の板厚圧下目標値などを定める)を施し、当該計算した圧延パススケジュールに従って圧延を実施している。斯かる圧延パススケジュールを計算する方法としては、圧延後の板厚(板クラウン含む)のみならず、平坦度(形状)の良好な圧延後鋼板を得るためのドラフトスケジュール(圧延パススケジュール)計算方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。斯かる非特許文献1に開示された方法では、圧延前後の板クラウン比率が一定となるように圧延パススケジュールが計算される。当該圧延パススケジュールにより、初期の最終圧延パス狙い板厚を得る圧延を実施すれば、所望する鋼板の平坦度及び板クラウンが得られる。
【0007】
前述のように、圧延後の鋼板の平坦度が悪いと、後工程での矯正が必要となったり、また、鋼板の板クラウンが大き過ぎる(又は小さ過ぎる)と、製品の板厚公差を外れて格落ちとなってしまうなど、生産性の悪化や歩留まり低下を招くため、鋼板長さを確保するのみならず、良好な平坦度や板クラウンを有する鋼板に圧延する必要がある。
【0008】
しかしながら、鋼板長さを確保するべく、最終圧延パスでの狙い板厚を修正する上記特許文献1に開示された方法では、所望の鋼板長さが確保され、予定通りの製品寸法(長さ)に切断することは可能であるものの、鋼板の平坦度や板クラウンの変化を考慮していないため、生産性の悪化や歩留まり低下を抑制できないとう問題がある。特に、製品厚が20mm以下程度の厚鋼板では、一般的に平坦度が悪化し易いため、最終圧延パス狙い板厚修正により、最終圧延パスの圧延荷重が当初の圧延パススケジュールから変化すると、平坦度が悪化してしまう。また、狙い板厚の修正によって平坦度が大幅に悪化すると、所謂絞り込み等の発生により圧延が不可能となるため、予定通りの狙い板厚修正を行なうことができず、鋼板長さを確保できなくなるという問題もある。
【0009】
【特許文献1】
特公平5−85247号公報
【非特許文献1】
「厚板圧延における数式モデル」,塑性と加工,日本塑性加工学会,1975年,vol.16,no.168,p.10−17
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するべくなされたものであり、所望の鋼板長さを確保すると共に、平坦度の良好な厚鋼板を得るための圧延方法を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、(1)少なくとも最終圧延パスの2パス前の圧延完了後に鋼板長さを実測し、当該実測値に基づいて最終パス狙い板厚を設定すれば、長さ不足による格落ちを低減できること、(2)前記実測値に基づき最終パス狙い板厚を設定すると共に、残りの圧延パスの圧延前後の板クラウン比率が同一又はその差が所定の範囲内に収まるように圧延パススケジュールを修正すれば、鋼板の平坦度の悪化を十分抑制できることを見出した。本発明は、斯かる発明者らが見出した知見に基づき完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、請求項1に記載の如く、予め計算された圧延パススケジュールに基づき厚鋼板を圧延する方法において、最終圧延パスのm(m≧2)パス前の圧延完了後に鋼板長さを測定するステップと、前記鋼板長さの測定値に基づいて、最終圧延パスの狙い板厚を設定すると共に、残りの圧延パスの圧延前後の板クラウン比率が同一又はその差が予め定めた所定の範囲内に収まるように、最終圧延パス以外の残りの圧延パスの狙い板厚を修正して圧延パススケジュールを再計算するステップと、前記再計算された圧延パススケジュールに基づいて圧延するステップとを含むことを特徴とする厚鋼板の圧延方法を提供するものである。
【0013】
請求項1に係る発明によれば、所望の鋼板長さを確保すると共に、平坦度の良好な厚鋼板を得ることが可能である。
【0014】
より具体的には、請求項2に記載の如く、前記圧延パススケジュールを再計算するステップにおいて、少なくとも最終圧延パスの圧延前後の板クラウン比率の差Δγが、−0.0002hm≦Δγ≦0.0002hm(hmは圧延前後の平均板厚(mm))を満足するように圧延パススケジュールを再計算すれば、平坦度を±1%以内に抑制することが可能である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧延方法を可逆式圧延機に適用した場合の装置構成を概略的に示す図である。図1に示すように、可逆式圧延機1は、厚鋼板Sを圧延するために上下にそれぞれ配設されたワークロール11及びバックアップロール12と、ワークロール11の圧下位置を調整するための圧下位置制御装置13と、ワークロール11による圧延荷重を計測するための圧延荷重検出器14と、圧延パススケジュールを計算(再計算を含む)し、圧下位置制御装置13に対して圧延パススケジュールに従ったワークロール11の圧下位置を指示するための演算装置15とを備えている。
【0017】
また、可逆式圧延機1の近傍には、本実施形態に係る圧延方法を実施するために供される厚鋼板Sを測長するための鋼板長さ検出器2が配設されている。鋼板長さ検出器2による測定結果は、演算装置15に送信され、後述するように、最終圧延パスの狙い板厚を設定したり、残りの圧延パスの圧延パススケジュールを再計算するために利用される。なお、鋼板長さ検出器2としては、例えば、レーザドップラー方式速度計の他、CCDカメラやPLG(パルスジェネレータ)を用いた測長計など、厚鋼板Sの長さを測定できる限りにおいて種々の構成を採用可能である。また、本実施形態に係る演算装置15は、圧下位置制御装置13から入力された圧下位置実績値と、圧延荷重検出器14から入力された圧延荷重とに基づき推定板厚(所謂ゲージ厚)を計算するように構成されており、後述するように、前記計算された板厚を最終圧延パスの狙い板厚の設定の際に利用している。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、γ線厚み計等の板厚を実測する計測器を別途配設し、当該計測器の出力値を利用する構成とすることも可能である。
【0018】
次に、以上に説明した装置構成に対して適用される本実施形態に係る圧延方法についてより具体的に説明する。
【0019】
<最終圧延パス狙い板厚の設定>
まず最初に、所望の鋼板長さを有する厚鋼板Sを得るための最終圧延パス狙い板厚の設定について説明する。
【0020】
まず、圧延開始前に予め演算装置15において、素材寸法から圧延後に必要な鋼板寸法(板厚hn aim、鋼板長さLn aim)を得るための圧延パススケジュールを計算し設定する。なお、計算方法としては、例えば、前述した非特許文献1に記載されているような公知の方法を利用可能であるため、その詳細な説明は省略する。
【0021】
次に、前記設定した圧延パススケジュール(圧延パス回数n)に従って圧延を開始し、最終圧延パスのm(m≧2)パス前の圧延完了後に、鋼板長さ検出器2によって鋼板長さLmを測定する。また、演算装置15により、最終圧延パスのmパス前の圧延完了後の板厚(ゲージ厚)hmを計算する。
【0022】
予め設定した圧延パススケジュールによって圧延した場合、最終圧延パスでの圧延後の鋼板長さLnestは、前記測定した鋼板長さLm及び板厚hmと体積一定則とに基づき、下記(1)式によって推定できる。
Ln est=Lm・hm/hn aim ・・・(1)
【0023】
ここで、上記(1)式で推定される鋼板長さLn estが鋼板長さLn aimに満たない等の場合には、最終圧延パスでの圧延後の鋼板長さLn aimを達成可能な最終圧延パス狙い板厚hnを下記(2)式によって計算する。
hn=hm・Lm/Ln aim ・・・(2)
【0024】
以上のようにして最終圧延パス狙い板厚hnは設定される。
【0025】
<圧延パススケジュールの再計算>
次に、上記のようにして設定された最終圧延パス狙い板厚hnに基づき、圧延パススケジュールを再計算する方法について説明する。
【0026】
一般に、圧延機で圧延した後の板クラウン(板厚の中央部と板縁部との差)Coは、圧延サイズ、圧延荷重、ワークロールのクラウン、圧延前の板クラウンCI等によって決まる。
【0027】
また、鋼板の平坦度λ(波高さδとピッチlとを用いた急峻度λ=δ/l)は、下記(3)式によって定義される圧延前後の板クラウン比率変化Δγを用いて、下記(4)式によって与えられる。
Δγ=Co/h−CI/H ・・・(3)
λ=αcλ・Δγ1/2 (Δγ≧0の場合)
λ=−αcλ・(−Δγ)1/2 (Δγ<0の場合) ・・・(4)
ここで、(3)式のHは入側板厚を、hは出側板厚をそれぞれ示す。また、(4)式のαcλは板クラウン比率変化Δγを平坦度λに変換するための係数であり、圧延サイズ等の条件によって決まる定数である。
【0028】
前述のようにして設定した最終圧延パス(以下、適宜第nパスとする)での狙い板厚hnが、当初の圧延パススケジュールに基づく狙い板厚hn aimに対してΔhn(>0)だけ薄く修正したものであるとすれば、第nパスでの圧延荷重Pnが増加し、これにより、第nパス出側での板クラウンCo,nがΔCo,n(>0)だけ大きくなる。一方、第nパス入側での板クラウン比率CI,n/Hnは不変であるため、狙い板厚修正前の(当初の圧延パススケジュールに基づく狙い板厚hn aimでの)板クラウン比率変化Δγnに対して、狙い板厚修正後(狙い板厚hnの設定後)の板クラウン比率変化Δγn,1は、下記(5)式に示すように大きくなってしまう。
Δγn,1−Δγn
=(Co,n+ΔCo,n)/hn−Co,n/(hn+Δhn)>0 ・・・(5)
【0029】
逆に、狙い板厚hnが、当初の圧延パススケジュールに基づく狙い板厚hn aimに対してΔhnだけ厚く修正したものであるとすれば、第nパス出側での板クラウンCo,nがΔCo,nだけ小さくなるため、板クラウン比率変化Δγn,1は、下記(6)式に示すように小さくなる。
Δγn,1−Δγn
=(Co,n−ΔCo,n)/hn−Co,n/(hn−Δhn)<0 ・・・(6)
【0030】
以上のように、最終圧延パスでの狙い板厚のみを修正すると、修正前後で板クラウン比率変化に変動が生じるため、その結果平坦度は悪化する(狙い平坦度に対してバラツキが生じる)ことになる。
【0031】
斯かる平坦度の悪化を抑制するためには、狙い板厚hnに修正すると共に、修正前後で板クラウン比率変化をほぼ一定に保つ必要がある。このためには、狙い板厚を修正すると共に、最終圧延パス入側での板厚Hn(第n−1パス出側での板厚hn-1に相当する)をも修正するように、圧延パススケジュールの再計算を行えば良い。
【0032】
特に、本実施形態では、少なくとも最終圧延パスの圧延前後の板クラウン比率変化Δγn,1が、下記(7)式を満足するように圧延パススケジュールを再計算し、これにより平坦度を±1%以内に抑制することを可能としている。
−0.0002hm≦Δγn,1≦0.0002hm ・・・(7)
なお、上記(7)式において、hmは、圧延前後の平均板厚(=(入側板厚+出側板厚)/2(mm))である。
【0033】
例えば、狙い板厚hnが当初の狙い板厚に対してΔhnだけ薄く修正したものである場合、(7)式を満足するように、Δγn,1≒Δγn(≒0)とするためには、下記(8)式を満たすように、入側板厚をHn−ΔHnに変更すれば良い。
(Co,n+ΔCo,n−ΔCo,n,H)/hn−Co,n/(hn+Δhn)
≒(CI,n+ΔCI,n)/(Hn−ΔHn)−CI,n/Hn ・・・(8)
【0034】
ここで、ΔCo,n,Hは、第n−1パスの圧延条件において、出側板厚hn-1をHn−ΔHnに変更することにより、第nパスでの圧延荷重Pnが減少し、これにより、第nパス出側での板クラウンが小さくなる量を意味しており、下記(9)式で表すことができる。
ΔCo,n,H=βCO,H,n・ΔHn ・・・(9)
ここで、βCO,H,nは、第nパス入側での板厚Hnを変更したときの出側板クラウンへの影響を表す係数であり、圧延条件に応じて決まる定数である。
【0035】
また、上記(8)式におけるΔCI,nは、第n−1パスの圧延条件において、出側板厚hn-1(=Hn)をHn−ΔHnに変更することにより、第n−1パスでの圧延荷重が増加し、これにより、第nパス入側での板クラウンCI,nが大きくなる量を意味しており、下記(10)式で表すことができる。
ΔCI,n=βCO,H,n-1・ΔHn ・・・(10)
ここで、βCO,H,n-1は、第n−1パス出側での板厚hn-1を変更したときの第n−1パス出側での板クラウンへの影響を表す係数であり、圧延条件に応じて決まる定数である。
【0036】
上記(9)式及び(10)式を(8)式に代入すれば、第nパスでの狙い板厚をΔhnだけ変更した場合における(8)式を満足するΔHnを算出することが可能である。
【0037】
ここで、鋼板の平坦度には許容範囲があるため、板クラウン比率変化を完全に一定に保つ(すなわち、Δγn,1=Δγn)必要はなく、ほぼ一定(すなわち、Δγn,1≒Δγn)に保てれば、前述したような後工程での矯正等が必要とならない。従って、(8)式〜(10)式を満足するΔHnをそのまま変更する必要はなく、板クラウン比率変化の平坦度に対する影響((4)式のαcλの大きさ)に応じて、κ・ΔHn(0<κ≦1の範囲内で(7)式を満足するように適宜決定する)だけ変更すればよい。
【0038】
このように、最終パスでの平坦度悪化を抑制するためには、最終圧延パスでの狙い板厚をhnに変更するだけでなく、上記(8)式〜(10)式によって算出されるκ・ΔHnだけ、最終圧延パスの1パス前の出側での狙い板厚hn-1(=Hn)を変更する必要がある。このため、従来技術のように、最終圧延パスの1パス前(最終圧延パスの1パス前の出側)で鋼板長さを測定する場合には、最終圧延パス入側での板厚Hnまで厚鋼板Sが既に圧延されているため、当該板厚Hnを変更することはできない。
【0039】
従って、所望の鋼板長さを確保すると共に、平坦度悪化を抑制するためには、少なくとも最終圧延パスの2パス前の圧延完了後に鋼板長さを測定し、当該測定値に基づいて、残りの圧延パスの狙い板厚を修正する必要がある。本実施形態に係る圧延方法によれば、前述のように、最終圧延パスのm(m≧2)パス前の圧延完了後に鋼板長さを測定し、当該鋼板長さの測定値に基づいて、最終圧延パスの狙い板厚hnを設定すると共に、残りの圧延パスの圧延パススケジュールを再計算するため、所望の鋼板長さを確保すると共に、平坦度の良好な厚鋼板Sを得ることが可能である。
【0040】
なお、最終圧延パスの3パス以上前の第kパス(k≦n−3)での圧延完了後に鋼板長さを測定し、第k+1パス以降の狙い板厚を修正するように構成すれば、最終圧延パスでの板クラウン比率変化だけではなく、第k+2パス以降の板クラウン比率変化も調整できるため、平坦度悪化をより一層抑制することができる点で好ましい。
【0041】
ただし、最終圧延パスの3パス以上前に鋼板長さを測定した場合、その後の圧延パスでの総圧下率が大きいため、鋼板長さの制御精度が悪化する恐れがある。このような長さ制御精度の悪化を回避するには、鋼板長さ検出器2によって次に測定が可能な圧延パス(本実施形態のように圧延機1の入側又は出側の一方に鋼板長さ検出器2を設置している場合には前回測定の2パス後の圧延パス。また、圧延機1の入側及び出側の両方に鋼板長さ検出器2を設置している場合には前回測定の1パス後の圧延パス。)において鋼板長さを再測定し、当該測定結果に基づいて最終圧延パスまでの狙い板厚を再修正することを繰り返せば良い。
【0042】
【実施例】
以下、実施例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0043】
<実施例1>
図1に示す可逆式圧延機に対して本発明に係る圧延方法を適用し、板厚100mm、板幅3000mm、板長さ4000mmの素材から、板厚10mm(許容下限9.85mm)、板幅3000mm、板長さ40000mmの厚鋼板が得られるように圧延した。
【0044】
圧延開始前に計算し設定された圧延パススケジュールは、全11パスであり、第9パスでの圧延完了後に、レーザドップラー方式速度計からなる鋼板長さ検出器で鋼板長さを測定し、当該測定結果に基づき、最終圧延パスでの狙い板厚(以下、適宜最終狙い板厚という)を修正した。
【0045】
圧延開始前に設定された圧延パススケジュールの第9パス以降のスケジュールを表1に示す。
【表1】
【0046】
第9パスでの圧延完了後に、鋼板長さ検出器で測定した鋼板長さは、30257mmであった。また、板厚(ゲージ厚)は、13.18mmであった。
【0047】
このまま、当初の圧延パススケジュールに従い、最終狙い板厚を10mmとして圧延すると、このときの板長さは39879mmとなり、鋼板長さが不足することになる。最終圧延パスでの鋼板長さ40000mmを得るために必要な最終狙い板厚は9.97mmであり、これは板厚許容下限値以上であるため、最終狙い板厚を9.97mmとして、残りの圧延パス(第10、11パス)の圧延パススケジュールを表2に示すように修正した。なお、表2に示す圧延パススケジュールは、最終圧延パス(第11パス)のΔγn,1=0、第11パス入側での板厚変更についてκ=0.9として再計算したものである。
【表2】
【0048】
表2には、本発明に係る方法と対比するべく、従来方法(最終圧延パスの1パス前に鋼板長さを測定し、当該測定結果に基づき最終圧延パスの狙い板厚を修正する方法)によって設定される圧延パススケジュールも併せて示している。表2に示すように、従来方法では、最終圧延パスの1パス前である第10パスの圧延完了後に鋼板長さを測定するため、最終狙い板厚のみしか変更できないのに対し、本発明に係る方法では最終狙い板厚のみならず、第10パスでの狙い板厚も変更可能である。
【0049】
図2は、表2に示す本発明に係る方法によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。また、図3は、表2に示す従来方法によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。なお、図2及び図3には、圧延開始前に設定された圧延パススケジュールによる出側板厚と圧延荷重との関係も図示している。
【0050】
平坦度が良好な厚鋼板を得るためには、最終圧延パスにおいて、圧延前後の板クラウン比率が同一又はその差が予め定めた所定の範囲内に収まるように、圧延パススケジュールを設定する必要がある。より具体的には、平坦度を±1%以内に抑制するには、少なくとも最終圧延パスの圧延前後の板クラウン比率の差Δγn,1が、−0.0002hm≦Δγn,1≦0.0002hm(hmは圧延前後の平均板厚(mm))を満足するように圧延パススケジュールを設定する必要がある。図2及び図3において、最終圧延パス(第11パス)を基準にしてハッチングした領域は、前記条件を満足するために、最終圧延パスの1パス前の圧延パス(第10パス)において満たすべき圧延条件(出側板厚と圧延荷重)の領域を示している(後述する図4〜図6についても同様)。図2に示すように、本発明に係る方法によって設定された第10パスの圧延条件は、前記領域内に入っており、平坦度の悪化を抑制することが期待できる一方、図3に示すように、従来方法によって設定された第10パスの圧延条件は、前記領域外となっており、平坦度が悪化すると考えられる。
【0051】
<実施例2>
図1に示す可逆式圧延機に対して本発明に係る圧延方法を適用し、板厚90mm、板幅2700mm、板長さ4445mmの素材から、板厚8mm(許容下限7.90mm)、板幅2700mm、板長さ50000mmの厚鋼板が得られるように圧延した。なお、圧延後の工程におけるライン長さ等の制約により、厚鋼板の長さは最大50050mmに制約される。
【0052】
圧延開始前に計算し設定された圧延パススケジュールは、全11パスであり、最終圧延パスの4パス前である第7パスと、最終圧延パスの2パス前である第9パスでの圧延完了後に、レーザドップラー方式速度計からなる鋼板長さ検出器で鋼板長さをそれぞれ測定し、当該測定結果に基づき、最終圧延パスでの狙い板厚をそれぞれの測定タイミングで修正した。
【0053】
圧延開始前に設定された圧延パススケジュールの第7パス以降のスケジュールを表3に示す。
【表3】
【0054】
まず、第7パスでの圧延完了後に、鋼板長さ検出器で測定した鋼板長さは、28956mm、板厚(ゲージ厚)は、13.69mmであった。
【0055】
このまま、当初の圧延パススケジュールに従い、最終狙い板厚を8mmとして圧延すると、このときの板長さは49551mmとなり、鋼板長さが不足することになる。最終圧延パスでの鋼板長さ50000mmを得るために必要な最終狙い板厚は7.93mmであり、これは板厚許容下限値以上であるため、最終狙い板厚を7.93mmとして、残りの圧延パス(第8〜11パス)の圧延パススケジュールを表4に示すように修正した。なお、表4に示す圧延パススケジュールは、第9パス、第10パス及び第11パスのΔγn,1=0、第9パス、第10パス及び第11パス入側での板厚変更についてκ=0.9として再計算したものである。図4は、表4に示す第7パスでの鋼板長さ測定値に基づいて設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。
【表4】
【0056】
次に、第9パスでの圧延完了後に、再度鋼板長さ検出器で鋼板長さを測定し、板厚(ゲージ厚)を算出した。鋼板長さは39637mm、板厚(ゲージ厚)は10.02mmであった。
【0057】
このまま、表4に示す圧延パススケジュールに従い、最終狙い板厚を7.93mmとして圧延すると、このときの板長さは50099mmとなり、鋼板長さは確保できるものの、上限値である50050mmを超えることになる。従って、上限値である最終圧延パスでの鋼板長さ50050mmを得るために必要な板厚7.94mmを最終狙い板厚として、残りの圧延パス(第10、11パス)の圧延パススケジュールを表5に示すように再度修正した。なお、表5に示す圧延パススケジュールは、第11パスのΔγn,1=0、第11パス入側での板厚変更についてκ=0.9として再計算したものである。また、表5には、前述した第7パスでの鋼板長さ測定値に基づいて設定された圧延パススケジュールも反映(第8パスの圧延スケジュールに反映)している。
【表5】
【0058】
また、表5には、本発明に係る方法と対比するべく、従来方法(最終圧延パスの1パス前に鋼板長さを測定し、当該測定結果に基づき最終圧延パスの狙い板厚を修正する方法)によって設定される圧延パススケジュールも併せて示している。表5に示すように、従来方法では、最終圧延パスの1パス前である第10パスの圧延完了後に鋼板長さを測定するため、最終狙い板厚のみしか変更できないのに対し、本発明に係る方法では最終狙い板厚のみならず、第8〜10パスでの狙い板厚も変更可能である。
【0059】
図5は、表5に示す本発明に係る方法によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。また、図6は、表2に示す従来方法によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。なお、図5及び図6には、圧延開始前に設定された圧延パススケジュールによる出側板厚と圧延荷重との関係も図示している。
【0060】
図5に示すように、本発明に係る方法によって設定された第10パスの圧延条件は、前述した−0.0002hm≦Δγn,1≦0.0002hmを満足する領域内に入っており、平坦度の悪化を抑制することが期待できる一方、図6に示すように、従来方法によって設定された第10パスの圧延条件は、前記領域外となっており、平坦度が悪化すると考えられる。
【0061】
<実施例3>
図1に示す可逆式圧延機に対して本発明に係る圧延方法を適用し、圧延終了後の鋼板長さと平坦度とを実測し評価した。また、比較対象として、従来方法(最終圧延パスの1パス前に鋼板長さを測定し、当該測定結果に基づき最終圧延パスの狙い板厚を修正する方法)を適用して圧延した後の、鋼板長さと平坦度とを実測し評価した。ここで、本発明に係る方法及び従来方法の評価N数は共に500であり、圧延仕上げ板厚5〜20mm、板幅2000〜4500mm、板長さ12000〜50000mmに亘る多種の寸法の厚鋼板を圧延して評価した。評価結果を表6に示す。なお、表6における鋼板長さ誤差は、鋼板長さ誤差=(実測した鋼板長さ−所望の鋼板長さ)/所望の鋼板長さで定義される。
【表6】
【0062】
表6に示すように、従来方法で圧延する場合に比べて、本発明に係る方法で圧延した場合には、厚鋼板の平坦度は良好(特に標準偏差が小さくなる)となることが分かった。また、従来方法で圧延する場合には、平坦度が悪化することに伴い、オペレータの手動介入(絞込み防止のためにワークロールの間隙を広げる)が生じ易くなる。つまり、オペレータは、最終圧延パスでの狙い板厚を達成させるよりも絞り込み防止を優先し、ワークロールの間隙を広げる操作を行う場合があり、これにより圧延後の鋼板長さが所望の鋼板長さよりも短くなってしまうケースが生じる。表6において、従来方法を適用した場合の鋼板長さ誤差の平均値が、本発明に係る方法を適用した場合の鋼板長さ誤差の平均値よりも小さくなっているのは、前記のようなオペレータの手動介入が反映されたものであると考えられる。鋼板長さ誤差の標準偏差も考慮し、本発明に係る方法と従来方法とを比較すれば、表6は、鋼板長さの不足が生じる(つまり、鋼板長さ誤差が負の値となる)頻度が、本発明を適用する場合には低減されることを示している。
【0063】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明に係る厚鋼板の圧延方法によれば、予め計算された圧延パススケジュールに基づき厚鋼板を圧延する方法において、最終圧延パスのm(m≧2)パス前の圧延完了後に鋼板長さを測定するステップと、前記鋼板長さの測定値に基づいて、最終圧延パスの狙い板厚を設定すると共に、残りの圧延パスの圧延前後の板クラウン比率が同一又はその差が予め定めた所定の範囲内に収まるように、最終圧延パス以外の残りの圧延パスの狙い板厚を修正して圧延パススケジュールを再計算するステップと、前記再計算された圧延パススケジュールに基づいて圧延するステップとを含むため、所望の鋼板長さを確保すると共に、平坦度の良好な厚鋼板を得ることが可能であり、生産性の悪化や歩留まり低下を抑制できるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の一実施形態に係る圧延方法を可逆式圧延機に適用した場合の装置構成を概略的に示す図である。
【図2】 図2は、本発明の実施例1によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。
【図3】 図3は、本発明の実施例1と対比される従来方法によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。
【図4】 図4は、本発明の実施例2において、最初の鋼板長さ測定値に基づいて設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。
【図5】 図5は、本発明の実施例2において、2回目の鋼板長さ測定値に基づいて設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。
【図6】 図6は、本発明の実施例2と対比される従来方法によって設定された出側板厚と圧延荷重との関係を示す。
【符号の説明】
1…可逆式圧延機 2…鋼板長さ検出器 15…演算装置 S…厚鋼板
Claims (2)
- 予め計算された圧延パススケジュールに基づき厚鋼板を圧延する方法において、
最終圧延パスのm(m≧2)パス前の圧延完了後に鋼板長さを測定するステップと、
前記鋼板長さの測定値に基づいて、最終圧延パスの狙い板厚を設定すると共に、残りの圧延パスの圧延前後の板クラウン比率が同一又はその差が予め定めた所定の範囲内に収まるように、最終圧延パス以外の残りの圧延パスの狙い板厚を修正して圧延パススケジュールを再計算するステップと、
前記再計算された圧延パススケジュールに基づいて圧延するステップとを含むことを特徴とする厚鋼板の圧延方法。 - 前記圧延パススケジュールを再計算するステップにおいて、少なくとも最終圧延パスの圧延前後の板クラウン比率の差Δγが以下の条件式を満足するように圧延パススケジュールを再計算することを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板の圧延方法。
−0.0002hm≦Δγ≦0.0002hm (hmは圧延前後の平均板厚(mm))
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