JP4267842B2 - ポリマーセメントモルタルからなる構造体、及び同構造体の施工方法 - Google Patents

ポリマーセメントモルタルからなる構造体、及び同構造体の施工方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリマーセメントモルタルからなる構造体、及び同構造体の施工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、コンクリートからなる構造体としては、図3及び図4に示すような構造からなるものが一般的であった。
【0003】
すなわち、図3における構造体は既設コンクリート躯体100を新規の補強コンクリートで補強したものであり、その施工方法は、既設コンクリート躯体100の表面に、間隙t1(所謂かぶり)をあけて補強筋300を配設し、前記既設コンクリート躯体100の表側に所定の間隙tをあけて型枠200を配設し、次いで、前記型枠200内にコンクリート400を充填して硬化させて既設コンクリート躯体100と一体化させたものである。なお、前記補強筋300は、縦筋310と横筋320とから格子状に形成されている。
【0004】
また、図4における構造体は、新設時に係るものであり、補強筋300を配設した後、同補強筋300を囲うように型枠210を構築し、同型枠210内にコンクリート400を充填して硬化させることにより得ることができる。t1'は補強筋300と型枠210との間隙(所謂かぶり)である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記した従来の構造体は、いずれにしても、補強筋300の縦筋310及び横筋320の直径が約19〜22mmのものを使用することが一般的で、構造体の強度を十分なものとするためには、構造体の厚みtも25cm程度が必要となっていた。
【0006】
これは、コンクリートに含まれる骨材が比較的大であることに起因している。すなわち、かかる骨材が均一に行き渡るようにするためには、補強筋300を構成する縦筋310及び横筋320のピッチを大きくするとともに(骨材が補強筋300でつかえると、その下方に空洞部分が形成されやすくなる)、型枠200(210)の間隔を大きくしなければならず、また、縦筋310及び横筋320のピッチを大きくすると、強度面からして、補強筋300自体の直径も19〜22mm程度のものが必要となっていた。
【0007】
また、補強筋300が容易に錆びることのないように、中性化深度を考慮して、補強筋300と型枠200(210)との間隙t1(t1')、所謂かぶりを少なくとも30〜40mm以上(通常は100mm程度)必要としていた。
【0008】
これらのことから、構造体の全体厚みが250mm以上になり、一定のスペース内にかかる構造体を構築した場合、有効空間が狭くなってしまうという問題があった。
【0009】
また、図3に示したように、新旧のコンクリートを一体化させようとすると、旧コンクリートである既設コンクリート躯体100の表面を目荒らししたり、差し筋したり、あるいは接着力を増強するためのプライマー塗布などが必要になって工数が増加していた。
【0010】
本発明では、上記課題を解決することのできるポリマーセメントモルタルからなる構造体、及び同構造体の施工方法を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明では、既設コンクリート躯体の表面に、鋼からなる直径2.6〜6mmの縦筋と横筋とを小ピッチで格子状に組み合わせた小径の補強筋を取付け、同補強筋を被覆するように、ポリマーセメントモルタル層を形成し、同ポリマーセメントモルタル層と前記既設コンクリート躯体とを一体化させ、しかも、前記ポリマーセメントモルタル層を、吹き付け、刷け塗り、こて塗り、充填のうちからいずれかを選択するか、若しくは組合わせて形成することを特徴とするポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工方法とした。
【0012】
また、請求項2記載の本発明では、前記ポリマーセメントモルタルは、アクリル酸エステル共重合体を主成分とする複合ポリマーエマルジョンと、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄を主成分とした主材、又はセメント、砂を主成分としたモルタルとを混合したものであることとした。
【0019】
【発明の実施の形態】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルからなる構造体は、鋼からなる直径2.6〜6mm未満の縦筋と横筋とを小ピッチで格子状に組み合わせた小径の補強筋を、ポリマーセメントモルタルにより被覆したものである。
【0020】
すなわち、ポリマーセメントモルタルとすることで、砂利などの粗骨材が不要で目が細かくなり、補強筋をきわめて小径のものとしてピッチを細かくすることができ、従来と同等の強度を保持しながら、構造体の全体厚みを薄くすることができる。
【0021】
かかる構造体としては、壁、柱、梁、床など、様々なコンクリート構造体に適用が可能であり、しかも、新設するだけでなく、既設コンクリート躯体にポリマーセメントモルタルを一体化させて構築することもできる。
【0022】
すなわち、既設コンクリート躯体の表面に取付けられた、鋼からなる直径が2.6〜6mmの縦筋と横筋とを小ピッチで格子状に組み合わせた小径の補強筋を、ポリマーセメントモルタルにより被覆して前記既設コンクリート躯体と一体化させるものであり、既設コンクリートの補強構造体とすることができる。
【0023】
これらの構造体では、ポリマーセメントモルタルの厚さを40〜150mmとすることができる。これは、従来250mm程度の厚みが必要だったのに対してきわめて薄いものであり、一定のスペースに構造体を構築した場合、有効空間を大幅に拡大することができる。
【0025】
また、これら補強筋を配設する際は、スペーサなどを用いて仮固定し、アンカー若しくは接着剤を用いて固定する従来の工法が採用できる。
【0026】
さらに、上記ポリマーセメントモルタルは、アクリル酸エステル共重合体を主成分とする複合ポリマーエマルジョンと、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄を主成分とした主材、又はセメント、砂を主成分としたモルタルとを混合したものであることが好ましい。複合ポリマーエマルジョンと主材又はモルタルとの混合割合は1:3〜10とすることが望ましい。
【0027】
さらに望ましくは、架橋材としてZnOを使用し、また助材としてアミノ酸の一つで動物性蛋白質に多く含まれているグリシンを使用するとよい。
【0028】
かかるポリマーセメントモルタルであれば、極めて高い付着力、引張強度、曲げ強度、耐水性、耐疲労性を有し、かつ柔軟性を有するので十分な靭性を備えており、また、せん断強度も通常のコンクリートの1.5〜2倍程度あるので、薄くても十分な強度及び耐久性を有するものとなる。たとえば、補強筋に対するかぶり厚みを6〜8mm程度まで薄くすることが可能となる。したがって、構造体自体の重量も軽くなり、全体構造としての負担が少なくなる。
【0029】
また、特に既設コンクリートの補強構造体であった場合、新しいモルタルを旧いコンクリートと一体化するための差し筋も不要であり、さらに、既設コンクリート躯体が変位したりしてもその動きに追従するので、後に補強部分がひび割れしたり剥離したり、あるいは崩壊することを確実に防止することができる。
【0030】
さらに、かかるポリマーセメントモルタルは中性化深度が、通常のコンクリートに比べて1/5程度であり、なおかつ防錆機能を果たすことが確認されているので、内部の補強筋の錆びによる劣化を防止することができる。なお、防錆機能のメカニズムとしては、セメント成分の強アルカリ化環境下で補強筋などの表面に水化酸化鉄(II)である酸化皮膜、いわゆる不動酸化物の一種である黒サビを発生させ、補強筋の腐食を防止するものである。
【0031】
またさらに、上記のポリマーセメントモルタルは無害であり、なおかつ引火、爆発、中毒のおそれがなく、施工時の安全性及び施工後の使用時についても安全性を確保することができる。
【0033】
本実施形態に係る法は、既設コンクリートの補強の場合であって、既設コンクリート躯体の表面に、鋼からなる直径が2.6〜6mmの縦筋と横筋とを小ピッチで格子状に組み合わせた小径の補強筋を取付け、同補強筋を被覆するように、ポリマーセメントモルタル層を形成し、同ポリマーセメントモルタル層と前記既設コンクリート躯体とを一体化させている。
【0034】
この場合、既設躯体の表面を目荒らししたり、差し筋したり、あるいは接着力を増強するためのプライマー塗布などが不要となる。
【0035】
さらに、上記ポリマーセメントモルタル層を形成するには、吹き付け、刷け塗り、こて塗り、充填のうちからいずれかを選択するか、若しくは組合わせればよい。
【0036】
以上説明してきたように、本発明によれば、薄型であってなおかつ十分な強度を有する構造物を構築することができるので、同一スペースに構造物を構築する場合に有効利用空間を広くとることができる。
【0037】
【実施例】
以下、添付図に基づいて、本発明を具体的に説明する。
(実施例)
図1は実施例に係るポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工法の説明図であり、既設コンクリート躯体である壁体1にポリマーセメントモルタル2を一体化して新たな構造体を構築することができる。
【0038】
すなわち、既設コンクリート躯体である壁体1の表面に、小径の補強筋3を取付け、同補強筋3を被覆するように、ポリマーセメントモルタル2を塗りこんでポリマーセメントモルタル層を形成し、同ポリマーセメントモルタル層と前記壁体1とを一体化させるようにしている。
【0039】
なお、ポリマーセメントモルタル層を形成するには、ポリマーセメントモルタル2の吹き付け、刷け塗り、こて塗り、充填のうちからいずれかを選択するか、若しくは組合わせて行なう。本実施例では吹き付けにより、厚さを40〜150mmとしている。なお、ポリマーセメントモルタル2を充填する場合は型枠(図示せず)を用いるとよい。
【0040】
補強筋3に対するポリマーセメントモルタル2のかぶり厚さは6〜8mm程度でも構わないが、本実施例では50mmの厚さでポリマーセメントモルタル層を形成している。
【0041】
前記補強筋3は、壁体1の表面に直接取付けられており、壁体1への取付けは図示しないアンカーや接着剤を利用することができる。
【0042】
また、補強筋3は、直径2.6〜16mmの縦筋31と横筋32とを小ピッチで格子状に組み合わせて構成したものであり、本実施例では縦筋31に直径6mmの鉄筋を、横筋32に3.2mmの鉄筋を用いている。
【0043】
なお、補強筋3としては、鉄筋のほか、鋼、炭素繊維、ガラス繊維、若しくは芳香族ポリアミド樹脂などからなる合成繊維のうちから選択することができる。そして、その形状も棒状、網状、シート状、繊維状などにして使用することができる。
【0044】
また、ポリマーセメントモルタル2は、アクリル酸エステル共重合体を主成分とする複合ポリマーエマルジョンと、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄を主成分とした主材、又はセメント、砂を主成分としたモルタルとを、1:3〜10の割合で混合して生成したものとしている。本実施例では、さらに架橋材としてZnOを使用するとともに、助剤としてグリシンを使用して金属架橋を促すようにしている。
【0045】
かかるポリマーセメントモルタル2は、極めて高い付着力、引張強度、曲げ強度を有し、さらに、耐水性、耐疲労性を有するとともに、十分な靭性と柔軟性を有するので、壁体1が変位したりしてもその動きに追従するので、後に補強部分がひび割れしたり崩壊することを確実に防止することができる。また、強力な付着力を有することから、従来のような差し筋なども不要となる。
【0046】
さらに、かかるポリマーセメントモルタル2を用いることで、砂利などの粗骨材が不要なので前記したように補強筋3をきわめて小径のものとして、かつピッチを細かくすることができ、従来と同等の強度を保持しながら、構造体全体の厚みを薄くすることができる。
【0047】
ところで、上記ポリマーセメントモルタル2の強力な付着力は、下記のメカニズムから生じると考えられる。
【0048】
すなわち、無機物質は、一般に構成元素が規則的に配列した結晶構造をもっており、大きな機械的強度や高い融点を有する優れた性質を有する一方、表面の構造欠陥も大きく、脆性体としての特徴もある。
【0049】
このような表面は水を吸着して安定化しようとし、表面で解離した水のH+は表面の酸素と結合して水酸基OHを形成する。
【0050】
この水酸基は有機物との化学反応性があり、また、主材中の酸化珪素の表面は極性が大きく反応性に富んでいるので種々な有機反応が可能である。
【0051】
またセメント成分であるCaOは塩基性の強い酸化物で、Ca+2の成分を溶出し、水和を内部まで進行させる。
【0052】
無機素材を水などの溶液に接触させると、表面水酸基の解離、イオンの吸着、分子の双極子配向などにより界面に電位差を生じ、電気二重層を形成させる。無機素材表面の電化の性質は分散、吸着、電着による表面改質や素材間の吸着に大きな影響力をもつ。また、この電荷はアルカリ性環境下で負電荷を帯びる。さらに、アルカリ性で電解質が存在する条件下では吸着量が増大する。
【0053】
上記ポリマーセメントモルタル2は、無機質主剤が有するこのような性質を、多数の親水基をもち屈曲性を有する水溶性のアクリル酸エステルを主成分とする複合ポリマーエマルジョンと混和し、その相互作用により固体表面への吸着性能の大きい、耐水性、耐環境性に優れた接着層を形成することから、強力な付着力が生じるものと考えられている。
【0054】
しかも、上記したように、セメント成分の強アルカリ環境にあるので、補強筋3などで発生しやすい錆を、不動酸化物の一種でその主成分が水化酸化鉄(II)である酸化皮膜(黒錆)に変性させて腐食を防止することができる。したがって、補強効果をきわめて長期間維持することができる。
【0055】
また、本実施例で用いたポリマーセメントモルタル2は無害であり、なおかつ引火、爆発、中毒のおそれがなく、施工時の安全性及び施工後の使用時についても安全性を確保することができる。
【0056】
なお、構造体としては上記壁体1のみならず、柱、梁、床など、様々なコンクリート構造体に適用が可能である
(第2実施例)
図2に示したものは、参考例に係るポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工法の説明図であり、構造体を壁体1として、これを新設する場合を示している。
【0057】
すなわち、第1実施例同様に補強筋3を配設し、同補強筋3を囲うように型枠4を組んで、その中にポリマーセメントモルタル2を充填するものである。この場合でも、壁体1の厚みは50〜100mm程度でよく、かかる薄い構造体であっても十分な強度を得ることができる。
【0058】
このように、本発明に係るポリマーセメントモルタルからなる構造体は、厚みがきわめて薄いものとなすことができ、構造体自体の重量も軽くなり、全体構造としての負担が少なくなる。そして、一定のスペースに構造体を構築した場合、有効空間を大幅に拡大することができる。
【0059】
また、上記各実施例におけるポリマーセメントモルタル2は、中性化深度が通常のコンクリートに比べて1/5程度であり、なおかつ防錆機能を果たすことが確認されているので、内部の補強筋の錆びによる劣化を防止することができる。
【0060】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明は上記した形態で実施されるものであり、以下の効果を奏する。
【0061】
請求項1記載の本発明では、既設コンクリート躯体の表面に、鋼からなる直径2.6〜6mmの縦筋と横筋とを小ピッチで格子状に組み合わせた小径の補強筋を取付け、同補強筋を被覆するように、ポリマーセメントモルタル層を形成し、同ポリマーセメントモルタル層と前記既設コンクリート躯体とを一体化させ、しかも、前記ポリマーセメントモルタル層を、吹き付け、刷け塗り、こて塗り、充填のうちからいずれかを選択するか、若しくは組合わせて形成したため、既設躯体の表面を目荒らししたり、差し筋したり、あるいは接着力を増強するためのプライマー塗布などが不要となる。さらに、特別な工法を必要とすることなく、容易に薄くて強固な構造体を得ることができる。
【0062】
請求項2記載の本発明では、前記ポリマーセメントモルタルは、アクリル酸エステル共重合体を主成分とする複合ポリマーエマルジョンと、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄を主成分とした主材、又はセメント、砂を主成分としたモルタルとを混合したものであることとしたことにより、極めて高い付着力、引張強度、曲げ強度、耐水性、耐疲労性を有し、かつ柔軟性を有するので十分な靭性を備えており、また、せん断強度も通常のコンクリートの 1.5 〜2倍程度あるので、薄くても十分な強度及び耐久性を有するものとなる。しかも、かかるポリマーセメントモルタルは無害でなおかつ引火、爆発、中毒のおそれがなく、施工時の安全性及び施工後の使用時についても安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例に係るポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工法の説明図である。
【図2】第2実施例に係るポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工法の説明図である。
【図3】既設コンクリート躯体を新規の補強コンクリートで補強した場合の従来工法を示す説明図である。
【図4】新設のコンクリート構造体の従来工法を示す説明図である。
【符号の説明】
1 壁体(既設コンクリート躯体)
2 ポリマーセメントモルタル
3 補強筋
4 型枠

Claims (2)

  1. 既設コンクリート躯体の表面に、鋼からなる直径2.6〜6mmの縦筋と横筋とを小ピッチで格子状に組み合わせた小径の補強筋を取付け、同補強筋を被覆するように、ポリマーセメントモルタル層を形成し、同ポリマーセメントモルタル層と前記既設コンクリート躯体とを一体化させ、しかも、前記ポリマーセメントモルタル層を、吹き付け、刷け塗り、こて塗り、充填のうちからいずれかを選択するか、若しくは組合わせて形成することを特徴とするポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工方法
  2. 前記ポリマーセメントモルタルは、アクリル酸エステル共重合体を主成分とする複合ポリマーエマルジョンと、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄を主成分とした主材、又はセメント、砂を主成分としたモルタルとを混合したものであることを特徴とする請求項1記載のポリマーセメントモルタルからなる構造体の施工方法
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