JP4267145B2 - 立毛繊維シート及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は天然皮革の風合い性能を有する耐摩耗性の良好な人工皮革用として使用できる立毛繊維シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
天然スエードの感触を有するシート状物を得るためには、極細デニールの繊維を用いることが必須とされており、このような極細繊維を使用することによって、初めて天然皮革に類似した独特のぬめり感とライティングエフェクトを有するシートを得ることが可能になる。しかしながら、極細繊維だけでは、天然皮革の有する優れた物理的性能、及びシートとしての充実感はえられず、実用面においても耐摩耗性の劣るものしかできなかった。従っていわゆる人工皮革においては、多量のポリウレタンを使用して天然皮革のそれに近づけるという方法を採用している。しかしながら、いかにうまくポリウレタンを含浸しても、言い換えれば、見かけは天然皮革に近いものが得られたとしても、その性能は天然皮革とははるかに違うものである。
ところで、特開昭55−12869号公報には、潜在収縮性繊維の織物または編物からなる基布上に、潜在収縮性を有する単繊維繊度0.5デニール(以後dと略す。)以下の極細繊維からなるウェブ状物を積層して、該ウェブ状物面に高圧液体流を噴射することにより、基布と極細繊維ウェブ状物とを一体化し、しかる後収縮処理することを特徴とするスエード調シート状物の製法が記載されている。
しかしこのものは、該極細繊維はそれを特定な形状の極細繊維を用いるものでも、また積層する他方の基布として極細繊維の端をより強固に把持できる特定の紡績糸からなる織編み物を用いるものでもなく、それらの採用によって、極細繊維からなる立毛の抜けを改善すると共に、スエード調の光沢感を改善し、さらには収縮性織編物を用いる際のシートの引裂き強度の低下を改善する等のことについては、開示するものではない。
また特開昭57−82583号公報には、0.5d以下の極細繊維が織物の少なくとも片面全体を覆って織物と三次元交絡して表面に毛羽を形成し、交絡組織間に弾性重合体を充填したシート状物の、該織物を構成する繊維が単糸繊度4d以下で、100〜1500T/mの撚りが施こされたマルチフィラメントからなり、シート状物の1kg/cmの荷重下での伸度が経方向3〜20%、緯方向5〜40%であることを特徴とするスエード調人工皮革が記載されている。
しかしこのものも、上記従来技術と同じように、極細繊維からなる立毛の抜けの改善、スエード調光沢感の改善、さらには収縮性織編物を用いる際のシートの引裂き強度低下の改善等については、開示するものではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の問題点を解決することであり、すなわち、極細異型断面繊維と高収縮紡績糸織編物の強固な絡合及び保持性により、天然皮革の風合い性能を有する耐摩耗性、引裂き強度の良好な人工皮革用として使用できる立毛繊維シートを得ることであり、また該極細異型断面繊維使用によりスエード調光沢感をより天然皮革のそれに近づけた立毛繊維シートを得ることである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、極細繊維を含むシート状構造体と、熱収縮性の紡績糸よりなる織編物とが、前者のシート状構造体が少なくとも片表面に存在するよう積層され、絡合処理により実質的に交絡一体化されてなるシートであって、該一体化された極細繊維は、その単繊維繊度が0.5d以下、偏平度が4以上の偏平極細繊維が主体繊維であって、該表面での摩耗測定時の繊維脱落量が20mg以下であることを特徴とする立毛繊維シートであり、また該立毛繊維シートの引裂き強度が1.5kg以上である立毛繊維シートである。そしてそれを構成するシート状構造体が、その繊維長が1〜20mmの偏平極細繊維を主体繊維として含むステープル原綿の湿式法抄紙ウェブからなるか、または、繊維長が20〜100mmの偏平極細繊維を主体繊維として含むステープル原綿の乾式法ウェブからなる立毛繊維シートであり、また、該立毛センイシートの光散乱測定時の反射光量の最大値(α)と測定角度0〜90°での反射光量の平均値(β)との関係として(α)/(β)値が4以上である立毛繊維シートである。さらにまた、単繊維繊度が0.5d以下で、偏平度が4以上の偏平極細繊維を主体繊維として含むステープル原綿の湿式法抄紙ウェブからなるシート状構造体と、90℃の熱水中で10〜30%の収縮率を有する繊維から構成された撚数900T/m以下の紡績糸よりなる織編物とを重ね合せ、該積層シートに絡合処理を行ない両者の実質的な交絡一体化を行ない、その後該シートに熱処理を行ない単位面積当たり10%以上収縮させることを特徴とする立毛繊維シートの製造方法であり、さらに分割後の単繊維繊度が0.5d以下となり、偏平度が4以上となる分割性多層積層型複合繊維を主体繊維として含むステープル原綿の乾式法ウェブからなるシート状構造体と、90℃の熱水中で10〜30%の収縮率を有する繊維から構成された撚数900T/m以下の紡績糸よりなる織編物とを重ね合せ、該積層シートに絡合処理を行ない両者の実質的な交絡一体化と、前記分割性多層積層型複合繊維の分割化を行ない、その後該シートに熱処理を行ない単位面積当たり10%以上収縮させることを特徴とする立毛繊維シートの製造方法である。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明で使用される極細繊維は、その単繊維繊度が0.5d以下であり、その横断面での長径/短径の比である偏平度が4以上のものであることが必要である。このような偏平極細繊維は、相溶性ないの2種類以上のポリマー成分を、繊維の横断面で見て多層積層状態となるように紡糸口金孔に導き紡糸することによって得られる多層積層型複合繊維を、繊維の状態で、または該繊維を不織布等に形成後に、高圧流体流等による剪断力を与えることによってその積層界面で分割して得ることができる。そのような相溶性のない2種類以上のポリマーとは、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、セルロース、アセテート、ポリウレタン等繊維化可能なポリマーから適宜選択される。
【0006】
断面が多層積層型複合繊維の形状は、例えば縦割り多層交互貼合わせ型の形状である。分割後単繊維断面の形状は、長径方向に概ね平滑な面を有し、本発明の目的を達成するためには長径と最短径の比、すなわち偏平度が4以上である必要があり、5以上であることが好ましい。なぜなら、該偏平度が大きいほど、織編物の織編み目に入った極細繊維が熱収縮によって締付けられた時の変形が大きくなり、結果的に該極細繊維が抜けにくくなる。逆に、偏平度が4未満の場合、極細繊維の変形が起こりにくくなり充分な耐摩耗性を得ることができない。
【0007】
その繊度は特に限定されるものではないが、0.5d以下であることが好ましい。なぜなら分割後0.5dを越えると、天然皮革様の柔軟な風合いが得ることができない。
【0008】
上記偏平極細繊維を形成させる縦割り多層交互貼合せ型複合繊維の分割層数は特に限定されるものではないが、例えば複合成分が2種類の円形の多層交互貼合せ型複合繊維である場合、7層以上、A繊維成分が4層以上、B繊維成分が3層以上であることが好ましい。例えば同一繊度の多層交互貼合わせ型複合繊維にあってもこの層数が7未満の時は、分割後の単繊維の偏平度が分割総数7以上の時に比べ小さいため高偏平断面繊維となりにくく、充分な耐摩耗性が得られない。
【0009】
偏平度が4以上の極細繊維を用いることによって、より優れたスエード調光沢感〔(α)/(β)≧4〕が付与できる関係について、ここで述べておく。
本発明における光沢感を達成するためには、偏平度が4以上である必要があり、5以上であることが好ましい。なぜなら、該偏平度が大きいほど平滑面の存在する割合が多く、かつその面での外光反射が起こり易くなり角度依存性のある光沢感が得られるのである。これに対して、偏平度が4未満の場合、該断面の総数も少なくなり、かつその面による反射光量が少なくなり目的の光沢感が得られない。
【0010】
本発明で使用される前記の多層積層型複合繊維の繊維長は特に限定されるものではないが、その長さにより適宜好適な処理方法を選択するのがよい。後述するが例えば繊維長2mm以上20mm以下の場合は、湿式法によりシート化することが好ましく、20mm以上100mm以下の場合、乾式法であるカード法等による乾式ウェブを形成する方法が好ましい。
【0011】
湿式不織布を製造するに当たっては、通常の湿式抄紙法に準じて行えばよい。湿式抄造に当たっては、例えば前述の多層積層型複合繊維を含有するスラリーを公知の手段により叩解処理して、該多層積層型複合繊維をその極細繊維群に分割し、抄造を行うが、該スラリーにおける繊維分濃度を約1〜10重量%程度にし、さらにチェストにて0.5〜5重量%となるように希釈し、抄紙機により抄き上げる。用いられる抄き網は円網や短網などでよく、乾燥機はヤンキータイプのものが好ましいが、多筒タイプやスルードライヤータイプでもよく、乾燥温度は通常の抄紙工程の乾燥温度90〜130℃で行えばよい。
繊維長が2mm未満となると、抄紙後での水流処理による繊維の絡まりが弱く使用できない、また20mmを越えると湿式抄造時の分散性が悪く抄紙原紙作製が困難となり使用できない。
【0012】
前述のように多層積層型複合繊維の長さが1〜20mmである場合、湿式法によりシート化するが、この場合はまず上記の繊維の分割処理を行わなくてはならない。分割処理の手法としては、上記の如く通常の抄紙用原料繊維の叩解法をそのまま用いればよく、これによって極細繊維からなる抄紙紙料とすることができる。この極細繊維のスラリーを繊維分濃度約1〜10重量%程度に調整しておく。
【0013】
湿式法での配合は、前記極細繊維を含む主体繊維(A)とバインダー繊維(B)とからなるが、その重量比(A)/(B)は98/2〜70/30がよく、好ましくは95/5〜90/10である。該主体繊維(A)は、該極細繊維を少なくとも含み、その1種類から成っても、また他の繊維との2種以上の繊維から成っても何ら問題ないが、該主体繊維の重量比が70%未満となると、湿式水絡時の繊維絡合性が低下し、逆に該主体繊維の重量比が98%を越えると、湿式シートとしての引張り強力が低下し、工程中でシート切れを起こしてしまうことがあり好ましくない。
【0014】
極細繊維以外に用いる他の繊維としては、丸断面繊維、分割性繊維、異型断面繊維等が挙げられるが、その目的によって種々選択されればよく、これ等例示に限定されるものではない。
この湿式法で用いられるバインダー繊維としては、製紙に用いられているポリビニルアルコール系バインダー繊維やポリエステル系バインダー繊維等が使用できるがこれ等に限定されない。
【0015】
次に、本発明の立毛繊維シートを乾式法を介して製造する場合につき例示する。前記したように繊維長が20〜100mmである場合、乾式法であるカード法等で乾式ウェブを形成すればよい。カード法とは、例えば前記の多層積層断面繊維を繊維長50mm前後に切断してパラレルカード、ランダムカード機等により該単繊維を配向させ、また必要に応じクロスラッパーを用いて積層し、乾式ウェブを作製する。
引き続き該ウェブと例えば平織の細布からなる基布等とを積層後、ニードルパンチ絡合、流体絡合等の絡合方法でシート化することができる。
【0016】
この場合、繊維長として好ましくは30〜60mmである。繊維長が20mm未満であると通常のカードにかかりにくく、この不織布を分割、交絡方法で処理を行い目的の立毛繊維シートにしようとしても困難である。また、繊維長が100mmを越える場合、乾式ウェブを形成することが困難であり、目的の立毛繊維シートに成りにくい。
【0017】
ここで立毛繊維シートに絡合する基布を用いなければ、該立毛繊維シート単独での強度及び摩耗性が弱く、また該立毛繊維シートとして十分な毛羽密度を出すための収縮量を得ることが出来ない。
【0018】
本発明で立毛繊維シートの基布として使用する織編物を構成する繊維は、90℃の熱水中で10〜30%の収縮率を有する必要がある。このような温水収縮率を有する繊維であれば繊維は変形されていてもいなくても構わないが、90℃の温水中で前述の収縮率を繊維に付与するためには、好ましくはポリエステル繊維であって、例えばイソフタル酸等の非晶性の置換基を導入したものや、変性されていなくてもポリエステルの溶融粘度や紡糸、延伸、熱処理条件を調整して繊維の結晶性を制御したものが用いられる。ポリエステル繊維は、多くの繊維の中で、もっとも所望する収縮率の繊維が得られやすく、しかも、収縮率が安定している点で最も好ましい。織編物を構成する繊維の収縮率は10%〜30%であることが必要で、好ましくは15〜30%の範囲である。繊維での収縮率が10%未満の場合には、紡績後織編物などの布帛とした場合に布帛での収縮率が不足してしまう。また30%を超える場合には、収縮による繊維径の肥大化で布帛が硬化したり構成樹脂の脆化により布帛の物性が低下してしまい物性面で使用できなくなってしまう。
【0019】
織編物を構成する繊維に用いられるポリマーとしては、前記したように、熱による収縮性の制御のし易さ、染色時の発色性、耐堅牢性のよさ、かつ汎用的で安価である等の点よりポリエステル、すなわちポリエチレンテレフタレートが望ましい。もちろんポリエステル以外の、例えばナイロン系繊維、ビニロン系繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維なども用いることができる。
【0020】
織編物を構成する繊維の太さは、単繊維繊度0.1〜2.5dが好ましい。単繊維の太さがこの範囲であれば紡績後の糸強力や布帛とした後の熱収縮加工後においても繊度が大きすぎてシートが硬くなりすぎたりせず良好なものとすることができる。
【0021】
本発明に使用される織編物では、布帛を紡績糸で構成させることが重要である。紡績糸としては、紡績時の撚数が900T/mを超えない範囲で紡績が可能である撚数が必要である。900T/mを超える場合には、高収縮性を付与しているために収縮後の撚数が非常に大きくなってしまうことの他に、収縮による紡績糸構成繊維の脆化も起こり易く、布帛とした後にウェッブとの積層品とした収縮シートの見かけ繊維密度、引張り強力等は向上するが、引き裂き強力の弱い硬化したシートとなってしまいかえって好ましくない。さらに、紡績糸でありかつ撚数が900T/m以下であることは、糸損傷、繊維ウェッブとの絡合の両面で本発明にとって非常に重要である。
また糸の撚数が高すぎると紡績糸表面の毛羽数の減少や糸が締まりすぎて単繊維間に緩みがなくなることが繊維と布帛の絡合性を低下させ、特に抄紙ウェッブとの積層時は繊維抜けが多くなる。しかし、撚数が900T/m以下であればウェッブと紡績糸特有の毛羽との絡合が有効に働き、また糸繊維間の緩み部も適度に存在し、この部分への絡合もなされ、ウェッブ繊維と布帛間の絡合が有効になる現象がみられる。特に抄紙ウェッブの場合は、この効果により、フィラメント布帛である場合の欠点であったウェッブ繊維の脱落を解消することができる。これらの点から紡績糸の使用、900T/m以下の撚数とすることは本発明にとって非常に重要な事項である。また紡績糸の場合には、収縮性の異なる繊維種での混綿条件によっても糸の熱収縮性が調整可能でこの意味でも紡績糸の使用は有用である。
【0022】
次に絡合処理については、一般的に不織布を製造する際に使用する方法で実施することが可能であり、例えば流体ジェットによる交絡一体化、ニードルパンチ法等が挙げられるがこれらに限定されるものではなく好適な方法を適宜選定すればよい。しかしその内でも、特に水流噴射による絡合を行なうことが好ましい。この水流絡合処理は、湿式抄造紙又は乾式ウェブと潜在収縮性のある編織物を積層し、高圧水流絡合装置により10kg/cm2以上の高圧水流を該積層シートに当てることにより十分な絡合を行うものである。水流絡合の水圧が10kg/cm2未満の場合には、基布との絡合が不十分なため得られる立毛繊維シートの立毛繊維密度が低くなる、また耐摩耗性が弱くなるといった欠点が見られる。
【0023】
水流を噴出するノズルについては、穴径が0.15〜0.7mmのものが好ましく、特に0.15〜0.1mmのものがより好ましい。
【0024】
処理後の乾燥は多筒タイプ、スルードライヤータイプが好ましいが、ヤンキータイプでもよい。乾燥温度は80℃以上、130℃以下が好ましい。湿式の場合は、抄造後に乾燥工程の不必要な抄造−水流絡合の一貫設備が可能であり、繊維同志の接着が殆どないため水流による繊維の絡みが十分に発揮されるので、本発明品の製造工程としては適している。これに対してニードルパンチ法では、交絡は十分であるが、織編物がニードルにより傷ついてしまい必要な引張り強力が得られない場合がある。しかしこの点は改善できることであり、本発明においては、この手段を排除するものではない。
【0025】
このようにして得られる本発明の立毛繊維シートの目付は、100〜300g/m2程度が好ましく、ソフト感のあるシート状構造物が得られる。
【0026】
多層積層型複合繊維を分割し、上述の方法等で絡合し得られた該立毛繊維シートを、その後加熱収縮処理し、単位面積当たり10%以上収縮させることにより、該絡合がより強固になり、毛羽密度の向上によって充実感が増し、耐摩耗性を向上させ、インテリア・衣料等に使用できる表面光沢感のある立毛繊維シートを得ることができる。具体的な収縮処理法としては、60〜100℃の熱水水槽中に浸漬して、シート面積が単位面積当たり10%以上収縮させる。好ましくは20%以上50%以下収縮させるとよい。熱水中での収縮が単位面積当たり10%未満の場合、シート中の基布間に立毛繊維が充分保持されず表面の耐摩耗性が弱い繊維シートとなり、また表面起毛の充実感も得られない。逆に収縮量が50%を越える場合、毛羽密度が過剰となり該立毛繊維シートが歪んで一様感のある製品とはならないことがある。
【0027】
本発明の立毛繊維シートの引裂き強度は、1.5kg以上である必要があり、1.8kg以上であることが好ましい。該繊維シートとしての引き裂き強度が1.5kg未満の場合には、目標とする耐摩耗性を得る前に後加工を行う際に該織編物が裂けたりして実用に耐えられないことがある。
【0028】
後加工処理としては、表面品位を向上させるため立毛繊維シート表面の起毛処理や皮革化処理を行なう。これらの処理方法としては、スエードライクの立毛および表面仕上げに通常行われているサンディング処理、また、立毛繊維シートの裏面のナイロンまたはウレタンコーティッドファブリック等による皮膜処理を挙げることができる。例えばサンディング処理の条件としては分割後に偏平繊維の光沢性に影響する平滑面を傷つけないため、例えばバフマシンに180番より細かい目の紙ヤスリをセットして行うのが好ましく、水流絡合処理後ならばどの工程で行ってもよい。
【0029】
次に、上述したように立毛繊維シートは収縮処理により充実感が向上するため、天然スエード様の性能を有し、そのままでも実用に供し得るが、該シートに腰をもたせることが、より天然皮革に近づけるために有効であり、例えばポリウレタンなどの弾性重合体を片面に含浸したり、塗装したりして皮膜処理することができる。また該弾性重合体を芯材として両面を立毛繊維としたリバーシブルな衣料用に好適な立毛繊維シートとすることも出来る。ここで用いる弾性重合体の重量は、従来の人工皮革の様に多量に用いるとかえってシート性状がそこなわれるので好ましくない。シート重量に対し5〜50重量%が望ましく、より好ましくは5〜30重量%の範囲である。
【0030】
本発明の立毛繊維シートは勿論一般的な人工皮革に施される後加工処理を実施することができる。例えば染色することができ、毛足をそろえるためにシェア加工したり、あるいはモミ加工したりすることもできる。さらにその他の種々の望ましい工程を付加することも可能である。
【0031】
【実施例】
以下本発明を具体的に実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例中に示す各測定値、評価方法は、以下の通りである。
【0032】
(耐摩耗性試験の測定方法)
本発明の耐摩耗性試験の測定方法としては、JIS-L1096に記載のマーチンデール摩耗試験機を用い、立毛繊維シートの立毛部が上になるように標準摩耗布を取り付ける側に試作試料を取付け、試料ホルダー側に標準摩耗布を取付ける。2000回転後に試料の繊維脱落量(mg)を測定し耐摩耗性の評価とする。
【0033】
(引裂き性の評価方法)
本発明の引裂き性の評価方法としては、JIS-L1096(シングルタング法)に記載のように、立毛繊維シートの任意の部分から5×25cmの試験片をたて方向及びよこ方向にそれぞれ3枚採取し、短辺の中央に辺と垂直に10cmの切れ目を入れた後、幅5cm以上のクランプを持つ引張り試験機を用いて試験片のつかみ間距離を10cmとし、各舌片を上下のクランプと直角に挟む。引っ張り速度は10cm/min又は15cm/minとし、たて方向及びよこ方向に引き裂くときの最大荷重を測り、それぞれの平均値で評価する。
【0034】
(表面光沢度の測定方法)
本発明の表面光沢度の測定方法としては、光散乱測定装置((株)オプテック社製)を用い、立毛繊維シートの立毛部を例えば衣料用ブラシで該立毛繊維を一定方向に揃えた立毛表面を光散乱測定装置の受光面にセットし、シートに対し30°の入射角度の方向から平行光を入射させ、シート表面から各角度方向へ反射される反射光の光量分布を旋回走査される受光器により測定して(移動ピッチ角度0.4°)、当該光量分布における反射光量〔mV〕の測定値に基づいて以下のように該立毛繊維シート表面の光沢度を評価する。
【0035】
該評価方法としては、本発明に記載のように反射光量の最大値(α)を0〜90°の範囲において旋回走査された光量の平均値(β)で除した(α)/(β)値によって表し、該繊維シートの表面状態を評価する。すなわち、反射光量の最大値を、測定値全体の光量平均値で正規化しているから、該立毛繊維シートの色、材料等によって全体の反射光量が変動しても、これに無関係に表面の光学的状態を定量評価することができる。
図1に本発明の表面光沢度測定方法の全体構成を示す。
【0036】
(収縮率)
本発明でいう、繊維の90℃温水中での収縮率は、繊維に1/500g/dの荷重をかけた状態で測定した長さとフリーな状態で90℃の温水中に5分間浸漬し風乾した後に再度1/500g/dの荷重下で測定した長さとの差より求められる。
【0037】
実施例1
溶融粘度〔η〕=0.62のポリエチレンテレフタレート60部、6−ナイロン40部を縦割り11層交互貼合わせ型口金部で規定して溶融紡糸し、延伸、熱固定して、ポリエチレンテレフタレートが6分割〔極細繊維の平均繊度(計算値)0.16d〕、6-ナイロンが5分割〔極細繊維の平均繊度(計算値)0.13d〕の交互に配列した層状断面構造で繊度1.6dの極細繊維発生型繊維を得た。この繊維を3mmに切断して水分散し、湿式法で前述したミキサーで10分間叩解し、叩解液を光学顕微鏡で観察したところ、大部分の繊維が層間剥離し、上記ポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維と6-ナイロンからなる極細繊維に分割していた。またこの叩解液の分散性は良好で、分割繊維同士が絡まりあったファイバーボールは全く見られなかった。
【0038】
上記のようにして得た主体繊維の水分散液と、水溶性バインダー繊維としてポリビニルアルコール系繊維を重量比95/5となる様に水中に分散させ、1%濃度のスラリー溶液とした。さらにチェストにて0.5重量%となる様に希釈し、抄紙機により抄き上げ、抄き上げられた湿紙を真空脱水により余剰の水分を除去し、ヤンキータイプの乾燥機に移し110℃で乾燥を行い、目付40g/m2の湿式不織布を得た。
このシートの中間層に、90℃の熱水での収縮率が15%である原綿より作成した、撚数800T/mの紡績糸よりなる平織の織物が来るように積層させ、ノズル径0.10mm、ノズル間ピッチ1mm、列数1列のノズルから20kg/cm2、30kg/cm2の水圧の柱状流を噴射させて繊維を織物と交絡させた。ノズルと抄造シートの間隔は30mmで、抄造シートの下にはステンレス製の80メッシュの金網を支持部材とし、金網を通して吸引脱水した。同様の処理を柱状流を噴射したシート面の反対面にも施した。
このようにして得られた交絡シートを90℃の温水中に浸漬してタテ方向23%、ヨコ方向22%の収縮処理を行い、100℃で乾燥した。表面を起毛させるため、コンパクトバフマシン(紙ヤスリ400番使用)により立毛繊維表面をサンディング処理して起毛化を行い、液流染色機により染色した。次いで、このシートの裏面にポリウレタンエマルジョン液を、ポリウレタンがシートに対して約5%になるよう固着させ、その反対面である立毛繊維表面を整毛処理を行い、スエード調の光沢感に優れた立毛シートを得た。その物性を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例2
実施例1の織物の撚数を400T/mに変えること以外は、実施例1と同様にして処理を行ったところ耐摩耗性の良好な立毛繊維シートが得られた。その物性を表1に示す。
【0041】
実施例3
実施例1の繊維を繊維長51mmに切断して乾式法であるカード、クロスラッパーを用いてウェブを作製し、引き続き該ウェブと平織の細布からなる基布を積層後、水流により水圧40kg/cm2で絡合処理を行った。その後は、実施例1と同様に処理を行ったところ耐摩耗性の良好な立毛繊維シートが得られた。その物性を表1に示す。
【0042】
比較例1
実施例1の多層積層断面繊維を、海島断面構造の海成分除去後に繊度0.1d(最短径5μm)となる島成分をポリエチレンテレフタレートに置き換え、収縮処理後に海成分の除去工程を入れること以外は、実施例2と同様にして立毛繊維シートを得た。引裂きは充分なものの、丸断面繊維のため織編物の目に入った繊維に引っ掛かりがなく簡単に抜けてしまい、毛羽抜けの多い耐摩耗性の劣るシートとなった。その物性を表1に示す。
【0043】
比較例2
実施例1の多層積層断面繊維を、5層交互貼合わせ型口金により溶融紡糸法で得た繊度0.18d、偏平度2.5の多層積層断面繊維に替えること以外は、実施例1と同様にして立毛繊維シートを得た。得られたシートは毛羽抜けが多く耐摩耗性が悪くなることが認められた。その物性を表1に示す。
【0044】
比較例3
実施例1の織編物の撚数を1500T/mに変えること以外は、実施例1と同様にして処理を行ったところ、引裂き強度が弱く、耐摩耗性も劣る立毛繊維シートとなった。その物性を表1に示す。
【0045】
比較例4
実施例1と同様に湿式シートを作製し、非収縮の原綿により作成した織物(熱水処理による収縮率5%)を使用すること以外は、実施例1と同様にして立毛繊維シートを得たが、得られたシートは毛羽抜けが多く耐摩耗性が悪くなることが認められた。その物性を表1に示す。
【0046】
比較例5
実施例1の織編物をフィラメント繊維により作成した織物に変えること以外は、実施例1と同様にして処理を行ったところ、引裂き強度は良好であるが、耐摩耗性に劣る立毛繊維シートとなった。その物性を表1に示す。
【0047】
【発明の効果】
本発明の立毛繊維シートは偏平形状の断面を有する繊維と高収縮紡績糸織編物の強固な絡合及び保持性により強度物性に優れ、耐摩耗性の良好な立毛繊維シートとなる。このような特徴から耐摩耗性の要求されるインテリア及び衣料などに好適に使用される布製品皮革代替品に極めて適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用する分割性の多層積層型複合繊維の構成断面図
【図2】本発明で使用する光沢度の測定概略図
Claims (6)
- 極細繊維を含むシート状構造体と、熱収縮性の紡績糸よりなる織編物とが、前者のシート状構造体が少なくとも片表面に存在するよう積層され、絡合処理により実質的に交絡一体化されてなるシートであって、該一体化された極細繊維は、その単繊維繊度が0.5デニール以下、偏平度が4以上の偏平極細繊維が主体繊維であって、該表面での摩耗試験において繊維脱落量が20mg以下であることを特徴とする立毛繊維シート。
- 引裂き強力が1.5kg以上であることを特徴とする請求項1に記載の立毛繊維シート。
- シート状構造体が、1〜20mmの偏平極細繊維を含む湿式抄紙した紙状物であることを特徴とする請求項1または2に記載の立毛繊維シート。
- シート状構造体が、20〜100mmの分割性多層積層型複合繊維を含む乾式法で作成したシート状物であることを特徴とする請求項1または2に記載の立毛繊維シート。
- 光散乱測定時の反射光量の最大値(α)と測定角度0〜90°での反射光量の平均値(β)との関係として(α)/(β)値が4以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の立毛繊維シート。
- 単繊維繊度が0.5デニール以下で、偏平度が4以上の偏平極細繊維を主体繊維として含むステープル原綿の湿式法抄紙ウェブからなるシート状構造体(A)か、または分割後の単繊維繊度が0.5デニール以下となり、偏平度が4以上となる分割性多層積層型複合繊維を主体繊維として含むステープル原綿の乾式法ウェブからなるシート状構造体(B)のいずれかと、90℃の熱水中で10〜30%の収縮率を有する繊維から構成された撚数900T/m以下の紡績糸よりなる織編物とを重ね合せ、該積層シートに絡合処理を行ない両者の実質的な交絡一体化と、前記分割性多層積層型複合繊維の分割化を行ない、その後該シートに熱処理を行ない単位面積当たり10%以上収縮させることを特徴とする立毛繊維シートの製造方法。
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