JP4263391B2 - 抗cx3cr1抗体、抗フラクタルカイン抗体及びフラクタルカインの利用 - Google Patents

抗cx3cr1抗体、抗フラクタルカイン抗体及びフラクタルカインの利用 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、CX3CR1に対する抗体、フラクタルカインに対する抗体及びフラクタルカインの用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
キラーリンパ球は、生体内に進入した病原体や異常な癌細胞などの排除に中心的な役割を果たしている。その一方で、過剰な細胞障害反応は、時として正常な組織を破壊し、腎炎、リウマチ、糖尿病、心筋炎などの自己免疫疾患の発症に深く関与する。キラーリンパ球はNK細胞、CD8T細胞、CD4T細胞、γδT細胞、NKT細胞などに分類されるが、これらは共通に、標的細胞にアポトーシスを誘導する機構を備えている。最も良く知られている機構は、キラーリンパ球の細胞障害性分泌顆粒から放出される小孔形成蛋白質パーフォリンとセリンプロテアーゼグランザイムBを介する機構である。パーフォリンは標的細胞に小孔を形成させ、グランザイムBはその小孔から標的細胞内に動員され、標的細胞にアポトーシスを誘導する。また、TNFファミリーに属する、FasLやTARILは、キラーリンパ球の細胞表面に発現、又は分泌され、標的細胞上の受容体に結合して、アポトーシスを誘導する。キラーリンパ球の細胞障害機構や活性化機構については、詳細な検討がなされているが、これら細胞の生体内での移動を制御する因子についてはほとんど知られていない。
【0003】
リンパ球の血流から炎症組織への浸潤は、細胞接着分子と細胞遊走因子の関与する多段階反応が必要とされている。典型的な浸潤機構においては、最初の反応は、リンパ球の内皮細胞への接触と内皮細胞上でのローリングであり、これらは主にセレクチンと呼ばれる接着分子群により行われている。リンパ球はローリングを行うことによって、局所的に産生され、血管内皮細胞上に提示された細胞遊走因子を感知できるようになる。細胞遊走因子は、主にG蛋白質共役型7回膜貫通受容体を介したシグナル伝達によりインテグリンと呼ばれる接着分子群を活性化して、リンパ球と内皮細胞の強固な接着を誘導する。そして、最終的に、リンパ球は内皮細胞間隙を通過して組織内に浸潤する。
【0004】
ケモカインは生体内での主たる細胞遊走因子であり、細胞運動の亢進や細胞接着分子の活性化を介して、リンパ球の組織浸潤を制御している。ケモカインは、その最初の2つのシステイン残基の配列により、CC、CXC、C、CXXXCの4つのサブファミリーに分類される。CC、CXC、Cケモカインのメンバーは、約70アミノ酸からなる分泌蛋白質であり、それ自身には接着分子としての活性はないが、細胞接着を誘導することができる。分泌されたケモカインは、標的細胞表面上の7回膜貫通型受容体に結合して、三量体G蛋白質を介してインテグリンを活性化し、細胞の接着や遊走を誘導する。ケモカインの細胞種特異的な活性は、その特異的受容体がある特定の細胞サブセットに存在するかどうかで、主に規定されている。したがって、ある特定のケモカイン受容体のリンパ球での発現状態を、細胞サブセットごとに詳細に検討することで、これら受容体に結合するケモカインの細胞種特異性を明らかにすることが可能である。
【0005】
最近になって、従来の細胞遊走機構に加えて、新規の簡潔なリンパ球浸潤機構が同定された。この機構は活性化された内皮細胞上に発現するフラクタルカインと、血流中の単球、NK細胞、そしてT細胞の一部に発現する7回膜貫通型受容体CX3CR1により媒介される。フラクタルカインはCXXXCケモカインの唯一のメンバーであり、その構造と機能において、他のケモカインには見られない際だった特徴を有している。フラクタルカインは、ケモカインドメイン、ムチンドメイン、細胞膜貫通領域、細胞質内領域を有する膜結合型として細胞表面上に発現する。膜結合型フラクタルカインはCX3CR1と結合することで、生理的血流速存在下においても、セレクチンやインテグリンの介在なしに、単独で強固な接着を媒介することが可能である。すなわち、セレクチンやインテグリンを介する多段階の細胞浸潤機構と同様な機能を、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は一段階の反応で媒介する。さらに、膜結合型フラクタルカインからシェディングによって分泌される分泌型フラクタルカインは、CX3CR1に結合して、従来のケモカインと同様に、インテグリンの活性化や細胞遊走を誘導する。
【0006】
また、フラクタルカインは、血管内皮細胞を炎症性サイトカインのTNFやIL-1で処理すると発現が誘導され、CX3CR1は単球や、NK細胞のほとんどと、T細胞の一部に発現しているが、好中球には発現していない。したがって、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は、損傷を受けた組織の内皮細胞上、又は組織内に、ある種の免疫細胞を動員するための、きわめて効率の良い機構であると考えられる。しかし、該細胞浸潤系により遊走する細胞の種類、及び該細胞浸潤系の炎症反応における働きは解析されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、CX3CR1に対する抗体、フラクタルカインに対する抗体及びフラクタルカインの用途を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系により遊走する細胞を同定すると共に、該細胞浸潤系の炎症反応における重要性を明らかにした。
【0009】
すなわち、CX3CR1を発現するリンパ球の特徴をCX3CR1に対する抗体を用いて詳細に解析した結果、CX3CR1が細胞内にパーフォリンやグランザイムBを含有するキラーリンパ球に選択的に発現することを明らかにした。また、CD8陽性T細胞においては、細胞障害活性はCX3CR1陽性細胞画分に選択的に認められた。
【0010】
そして、分泌型フラクタルカインはパーフォリンやグランザイムBを含有するキラーリンパ球に選択的に細胞遊走を誘導し、この細胞遊走は抗フラクタルカイン抗体で抑制されることを明らかにした。さらに、膜結合型フラクタルカインは他のケモカイン、MIP-1 betaによって誘導されるキラーリンパ球の遊走を増強し、この増強は抗フラクタルカイン抗体で抑制されることを明らかにした。
【0011】
以上の結果より、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系は、キラーリンパ球を標的組織へと導くきわめて重要なケモカイン・接着分子であることが示された。この系を制御することにより、自己免疫組織からのキラーリンパ球の排除や、癌組織へのキラーリンパ球の動員などが可能になると考えられる。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0012】
すなわち本発明は、以下のものを提供する。
(1)CX3CR1に対する抗体をリンパ球に結合させ、抗体の結合を指標にしてFACS又はMACSでリンパ球を分離することを含む、キラーリンパ球を分離又は除去する方法。
【0013】
(2)(1)の方法に用いる、CX3CR1に対する抗体を構成成分として含む、キラーリンパ球の分離又は除去用試薬。
【0014】
(3)CX3CR1に対する抗体を用いてリンパ球を標識し、標識に基づいてキラーリンパ球をFACSにより同定することを含む、キラーリンパ球を同定する方法。
【0015】
(4)(3)の方法に用いる、CX3CR1に対する抗体を構成成分として含む、キラーリンパ球の同定用試薬。
【0016】
(5)CX3CR1に対する抗体を用いてリンパ球を免疫組織染色することを含む、キラーリンパ球を同定する方法。
【0017】
(6)(5)の方法に用いる、CX3CR1に対する抗体を構成成分として含む、キラーリンパ球の同定用試薬。
【0018】
(7)CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を抑制することによってキラーリンパ球の遊走を阻害する、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体を有効成分として含む自己免疫疾患治療剤。
【0019】
(8)前記抗体がフラクタルカインと結合するものである(7)に記載の自己免疫疾患治療剤。
【0020】
(9)CX3CR1に対する抗体と、その抗体に結合した細胞毒性物質とを含むイムノトキシン。
【0021】
(10)フラクタルカインをコードする遺伝子を有効成分として含む、癌の遺伝子治療剤。
【0022】
ここでCX3CR1及びフラクタルカインとは、それぞれケモカイン受容体及びケモカインである。またキラーリンパ球とは、細胞障害活性を有するリンパ球である。
【0023】
【発明の実施の形態】
<1>CX3CR1又はフラクタルカインに対する抗体の用途
CX3CR1又はフラクタルカインに対する抗体は、以下のようにして作製することができる。
【0024】
哺乳動物(例えばマウス、ハムスター又はウサギ)は、該哺乳動物において免疫応答を引き起こす免疫原の形態のCX3CR1又はフラクタルカイン又は蛋白質断片(例えばペプチド断片)で免疫することができる。
【0025】
CX3CR1又はフラクタルカインの遺伝子(例えば、GenBank NM_001337又はNM_002996参照)を組み込んだ発現ベクターを宿主細胞、例えば細菌、哺乳類細胞株又は昆虫細胞株中で発現させ、培養液又は菌体・細胞から標準的な方法に従ってCX3CR1又はフラクタルカインを精製することができる。また、例えばGST等との融合蛋白質として発現させ、GSTとの融合蛋白質の場合はグルタチオンカラムにより精製しても構わない。CX3CR1又はフラクタルカインのペプチドはCX3CR1又はフラクタルカインのアミノ酸配列に基づき、公知の方法(例えば、F-moc又はT-boc化学合成)により合成することができ、合成されたペプチドは適当な担体、例えばKLHと結合させることで免疫原性を高めることも許される。
【0026】
精製されたCX3CR1又はフラクタルカイン又はペプチド断片をアジュバントと共に免疫後、抗血清を得ることができ、所望なら抗血清からポリクローナル抗体を単離することができる。また、モノクローナル抗体を産生するには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫動物より回収し、標準的な細胞融合法によりミエローマ細胞と融合させて細胞を不死化し、ハイブリドーマ細胞を得る。かかる技術は当該技術分野では確立された方法であり、適当なマニュアル(Harlow et al, Antibodies: A Laboratory Mannual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory)に準じて行うことができる。更に、モノクローナル抗体はヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 72, 1983)、EBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., Monoclonal Antibody in Cancer Therapy, 1985, Allen R. Bliss, Inc., pages 77-96)、Combinatorial抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science, 246: 1275, 1989)等他の方法により作製しても良い。
【0027】
また別法として、CX3CR1を発現させた昆虫細胞をそのまま哺乳類動物に免疫して、該哺乳動物のリンパ球よりハイブリドーマを作製し、産生される抗体のスクリーニングを、CX3CR1を発現させた哺乳類細胞(昆虫細胞との交叉免疫性が低く、昆虫細胞由来の蛋白質に対する抗体が結合しない細胞)で行う方法も許される。
【0028】
本発明者らは、CX3CR1が、パーフォリン・グランザイムBを持った細胞障害活性を有するリンパ球に特異的に見出され、更にリンパ球をCX3CR1陽性細胞と陰性細胞に分画すると、細胞障害活性はCX3CR1陽性細胞にのみ認められることから、CX3CR1はキラーリンパ球の新たなマーカーとして用いることができることを見出した。すなわち、CX3CR1はキラーリンパ球に特異的に発現するので、CX3CR1に対する抗体(抗CX3CR1抗体)は以下の用途に使用できる。
【0029】
FACS又はMACSを用いたリンパ球の分離において、CX3CR1に対する抗体をキラーリンパ球に結合させ、キラーリンパ球を分離又は除去する。
【0030】
FACSを用いたリンパ球の解析において、CX3CR1に対する抗体を用いてキラーリンパ球を標識し、キラーリンパ球を同定する。
【0031】
抗体を用いた組織染色において、CX3CR1に対する抗体を用いてキラーリンパ球を染色し、キラーリンパ球を同定する。
【0032】
抗CX3CR1抗体は、必要に応じて、上記の用途に適合した担体(水、緩衝液など)と組み合わせることにより、上記の用途に使用するための試薬とすることができる。
【0033】
従って、本発明は、以下のものを提供する。
CX3CR1に対する抗体をリンパ球に結合させ、抗体の結合を指標にしてFACS又はMACSでリンパ球を分離することを含む、キラーリンパ球を分離又は除去する方法、及び、この方法に用いる、CX3CR1に対する抗体を構成成分として含む、キラーリンパ球の分離又は除去用試薬。
【0034】
CX3CR1に対する抗体を用いてリンパ球を標識し、標識に基づいてキラーリンパ球をFACSにより同定することを含む、キラーリンパ球を同定する方法、及び、この方法に用いる、CX3CR1に対する抗体を構成成分として含む、キラーリンパ球の同定用試薬。
【0035】
CX3CR1に対する抗体を用いてリンパ球を免疫組織染色することを含む、キラーリンパ球を同定する方法、及び、この方法に用いる、CX3CR1に対する抗体を構成成分として含む、キラーリンパ球の同定用試薬。
【0036】
具体的には、リンパ球の浸潤が見られる組織切片を、抗CX3CR1抗体を用いて蛍光抗体法により、又は酵素抗体法により染色すれば、浸潤しているリンパ球がキラー活性を持ったリンパ球か否かを同定できる。
【0037】
また抗CX3CR1抗体を用いてFACS解析を行えば、当該細胞集団にどの位の割合でキラー活性を持ったリンパ球が含まれるかを容易に測定できる。
【0038】
抗CX3CR1抗体は、FACS又はMACSにより、キラーリンパ球を分画するために、更に有効である。CX3CR1は細胞表面に存在し、インタクト(intact)な細胞にも抗CX3CR1抗体が結合するため、キラーリンパ球をその活性を保ったままで分画することが可能である。
【0039】
抗CX3CR1抗体は、CX3CR1は細胞表面に存在し、インタクトな細胞にも抗CX3CR1抗体が結合するため、適当な支持体に抗体を固相化したカラムなどに末梢血をパーヒュージョンさせれば、ex vivoでのキラーリンパ球の除去が可能である。また、CX3CR1抗体や分泌型フラクタルカインと毒素を結合させたイムノトキシンを作製したり、抗CX3CR1抗体を結合後に補体が結合し活性化できるようにすれば、in vivoでのキラーリンパ球の除去が可能である。
【0040】
CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体は、必ずしもCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害しない。実際に、本発明者が取得したCX3CR1に対するモノクローナル抗体2A9-1と1F2-2は、該相互作用を阻害しなかった。
【0041】
本発明者らは、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体の中から、更にCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害する抗体を選択して、該抗体を用いれば、自己免疫疾患等で細胞障害活性を担うキラーリンパ球の浸潤を効果的に抑制できることを見出した。従って、本発明は、このような抗体の用途を提供するものである。すなわち、本発明は、CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を抑制することによってキラーリンパ球の遊走を阻害する、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体を有効成分として含む自己免疫疾患治療剤を提供する。この治療剤は、CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を抑制することによってキラーリンパ球の遊走を阻害する、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体を治療的に有効な量で投与することを含む自己免疫疾患の治療方法において使用できる。
【0042】
上記治療剤においては、前記抗体は、フラクタルカインと結合するものであることが好ましい。
【0043】
CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害する抗体は、フラクタルカイン又は膜結合型フラクタルカインを発現する細胞に対し、CX3CR1陽性細胞が遊走するか否かによりスクリーニングできる。以下にCX3CR1陽性細胞が遊走するか否かによりスクリーニングする具体的な方法について記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
フラクタルカインに対する遊走は、例えばトランスウェルカルチャーインサート(コースター社製)を用いて、測定することができる。
【0045】
トランスウェルカルチャーインサートに、フラクタルカインを発現していない細胞例えばECV304細胞を培養し、カルチャーインサート上面に単層の細胞層を形成させる。フラクタルカインを、適当な濃度好ましくは10 nMの濃度になるように、遊走溶液(例えばRPMI-1640: M199 = 1 : 1, 0.5% BSA, 20 mM HEPES, pH7.4)で希釈し、24穴のウェルプレートに加える。ECV304細胞を培養したトランスウェルカルチャーインサートを24穴のトランスウェルに取りつけ、遊走溶液に懸濁した適当な個数、好ましくは106個の末梢血単核球細胞をトランスウェルカルチャーインサートに加える。適当な条件好ましくは37℃で4時間培養した後、ECV304細胞を通過して、ウェルプレートに遊走してきた細胞を回収し、細胞表面マーカーや細胞内抗原により同定する。好ましくは蛍光標識した該細胞表面マーカーや細胞内抗原に対する抗体で蛍光染色した後、FACScaliburを用いて定量する。
【0046】
遊走溶液中に、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体を加え、キラーリンパ球、好ましくはパーフォリン及びグランザイムB又はCX3CR1を発現する細胞、更に好ましくはCX3CR1を発現する細胞の遊走が抑制されれば、該抗体はCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害すると検定される。
【0047】
また、ECV304細胞に膜結合型フラクタルカインを発現させ、MIP-1βなどの他のケモカインに遊走して来る末梢血単核球細胞を測定することによっても、抗体がCX3CR1とフラクタルカインの相互作用を阻害するか否かを検定可能である。
【0048】
本発明の治療剤をヒトに適用する場合には、以下の態様が好ましい。
【0049】
ヒト以外の動物、例えばマウスを免疫動物として作製されたマウスモノクローナル抗体は、ヒトに投与した場合異種蛋白質として認識されて、モノクローナル抗体に対する免疫応答を生じさせてしまうことが多い。この問題点を回避する一つの方法はキメラ抗体、すなわち抗原結合領域がマウスモノクローナル抗体由来、それ以外の領域がヒト抗体由来の抗体である。本発明における抗体はキメラ抗体も含むものである。キメラ抗体としては、抗原結合領域としてマウスモノクローナル抗体の可変領域全体を使ったキメラ抗体(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851, 1985、Takeda et al., Nature, 314: 452, 1985)、また抗原結合領域としてヒト由来のフレームワーク領域とマウスモノクローナル抗体由来の超可変領域を組み合わせて使ったキメラ抗体(Teng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 7308-12, 1983、 Kozbar et al., Immunol. Today, 4: 7279, 1983)が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
また本明細書における抗体は、CX3CR1又はフラクタルカインと特異的に結合する抗体のフラグメント、例えばFab又は(Fab')2フラグメントをも包含するものである。
【0051】
本発明の治療剤は、キラーリンパ球による過剰な細胞障害反応の起こっている疾患、例えば腎炎、リウマチ、糖尿病、心筋炎などの自己免疫疾患の患者に対して投与できる。
【0052】
本発明の治療剤の投与は、注射(皮下、静脈内など)などの常法により行うことができる。
【0053】
治療剤の形態は、投与方法により適宜選択され、医薬的に許容可能な担体と組み合わせた医薬組成物であってもよく、例えば、注射用途に適した医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液および滅菌注射溶液又は分散液を即座に調製するための滅菌粉末が挙げられる。注射用途に適した医薬組成物はいずれの場合においても滅菌されていなければならず、容易な注射器操作が可能な程度に流体でなければならない。該組成物は製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌や真菌などの混入微生物の作用から保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適当な混合物を含む溶媒であるか又は分散媒体であってよい。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用からの保護は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどにより行うことができる。多くの場合等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどが組成物中に含まれているのが好ましいであろう。注射用組成物の持続吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどを組成物中に配合することにより行うことができる。
【0054】
注射用溶液の調製は、必要なら上記成分の1又はその組合せとともに所要量のCX3CR1又はフラクタルカインに対する抗体を適当な溶媒中に配合し、ついで滅菌濾過することにより行うことができる。一般に分散液の調製は、基本的な分散媒体と上記から選ばれた必要な他の成分を含む滅菌媒体中に活性化合物を配合することにより行う。滅菌注射溶液調製のための滅菌粉末の場合は、好ましい調製法は真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより活性成分と前もって滅菌濾過した所望の追加成分との粉末が得られる。
【0055】
治療剤の投与量は、キラーリンパ球による過剰な細胞障害反応を予防するのに十分な量であり、患者の年齢、性差、薬剤に関する感受性、投与方法、疾患の履歴などにより変化し得る。
【0056】
上述のように、フラクタルカイン-CX3CR1細胞浸潤系を制御することにより、自己免疫組織からのキラーリンパ球の排除や、癌組織へのキラーリンパ球の動員などが可能になると考えられる。従って、CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を抑制できれば、CX3CR1又はフラクタルカインと結合する抗体以外の手段を自己免疫疾患に治療に用いることができる。
【0057】
さらに、本発明は、CX3CR1に対する抗体と、その抗体に結合した細胞毒性物質とを含むイムノトキシンを提供する。
【0058】
毒性物質としては、サポリン、リシン、Pseudomonas外毒素、ジフテリア毒素、化学療法剤などが挙げられる。抗体と毒性物質の結合は、従来のイムノトキシンの作製に用いられる方法によって行うことができる。本発明のイムノトキシンは、CX3CR1発現細胞特異的に増殖抑制を示す。
【0059】
<2>フラクタルカインの用途
フラクタルカインは、単独でキラーリンパ球を遊走させることから、例えばウイルスベクター等により、キラーリンパ球の標的細胞好ましくは癌細胞にフラクタルカイン遺伝子を導入することにより、キラーリンパ球を効率的に標的細胞に遊走させることができる。この結果、標的細胞を障害させることができる。
【0060】
従って、本発明は、フラクタルカインをコードする遺伝子を有効成分として含む、癌の遺伝子治療剤を提供する。
【0061】
フラクタルカインをコードする遺伝子は、GenBank NM_002996などに登録されている公知の塩基配列に基づいて、PCR法などの周知の方法により得ることができる。遺伝子の導入は、遺伝子として、フラクタルカインをコードする遺伝子を用いることの他は、通常の遺伝子治療に関して用いられる方法に従って行うことができる。具体的には、キラーリンパ球を遊走させるのに十分なフラクタルカインが発現するように、癌細胞にフラクタルカインをコードする遺伝子を導入することが挙げられる。
【0062】
【実施例】
以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
【0063】
【実施例1】
CX3CR1を発現する細胞の同定
末梢血中のCX3CR1発現リンパ球サブセットを同定するために、抗ヒトCX3CR1抗体を作製した。ヒトCX3CR1発現細胞(後記実施例9で作製した細胞)をWKY/Ncrjラットに免疫して、モノクローナル抗体を得た。代表的な2種類2A9-1及び1F2-2について調べたところ、いずれもCX3CR1発現細胞に反応したが、他のケモカイン受容体発現細胞(CCR1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, XCR1)には反応しなかった。
【0064】
末梢血を、正常人静脈からEDTA採血によって採取し、ACK溶液(NH4Cl 8.26 g, KHCO3 1.0 g, EDTA-4Na 0.037 g/1L)と5分間混合することで赤血球を溶解した。1,200 rpmで室温において5分間遠心して、白血球を沈殿させ、FACS溶液(1%ウシ胎児血清、2% ヒトAB型血清、0.02% NaN3入りPBS)に懸濁した。白血球懸濁液に抗ヒトCX3CR1モノクローナル抗体を加えて、氷上で30分間反応させた。FACS溶液で2回洗浄した後、FITC標識抗ラットIgG (H+L)抗体(セダレーン社製)を加えて、氷上で30分間反応させた。FACS溶液で2回洗浄した後、1%ラット血清入りFACS溶液を加えて、氷上で30分間反応させることで、未反応のFITC標識抗ラットIgG (H+L)抗体をブロッキングした後、さまざまな細胞表面マーカーに対する直接標識抗体を組み合わせて加え、氷上で30分間反応させた。FACS溶液で2回洗浄した後、FACScalibur (ベクトンディッキンソン社製)を用いて測定した。
【0065】
1).CX3CR1のリンパ球での発現
CX3CR1は単球のほとんど全てと、リンパ球の一部に発現しているが顆粒球にはほとんど発現していないことが明らかとなった。さらに、リンパ球サブセットに対する細胞表面マーカーとの多重染色の結果、CX3CR1はCD16陽性NK細胞の大部分、CD3陽性T細胞の一部に発現しているが、CD19陽性B細胞には発現していないことが明らかとなった(図1, a)。2つのモノクローナル抗体2A9-1及び1F2-2において、同様の結果が得られたことから、以下の解析には2A9-1を用いた。
【0066】
2).CX3CR1のT細胞における発現
CD3陽性T細胞をさらに詳細に調べたところ、CX3CR1の発現は、T細胞受容体αβ陽性CD8陽性T細胞とT細胞受容体(TCR)γδ陽性T細胞の一部、T細胞受容体αβ陽性CD4陽性T細胞のごく一部に認められた(図1, b)。
【0067】
さらに、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞を、CD27とCD45RAをマーカーとして用いて、いわゆるナイーブT細胞とメモリー/エフェクターT細胞に分類して、CX3CR1の発現を解析した。
【0068】
CX3CR1の発現はCD4陽性T細胞では、CD45RA陰性CD27陰性のメモリー/エフェクターT細胞の一部、CD45RA陰性CD27陽性のメモリー/エフェクターT細胞のごく一部に認められたが、CD45RA陽性CD27陽性のナイーブT細胞には認められなかった。
【0069】
CD8陽性T細胞においては、CX3CR1の発現は、CD45RA陽性CD27陰性のエフェクターT細胞の大多数、CD45RA陰性CD27陰性およびCD45RA陰性CD27陽性のメモリー/エフェクターT細胞の一部に認められたが、CD45RA陽性CD27陽性のナイーブT細胞には認められなかった(図1, c)。
【0070】
【実施例2】
CX3CR1発現細胞とキラーリンパ球の相関
1).CX3CR1発現とキラー細胞表面マーカーとの相関
リンパ球におけるCX3CR1陽性細胞の発現サブセット及び存在比率は、NK細胞、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、TCRγδ陽性T細胞におけるキラーリンパ球の発現サブセット及び存在比率と良く相関していたので、次に機能的および活性化細胞表面マーカーとCX3CR1発現の関係を検討した(図2)。その結果、NK細胞、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、TCRγδ陽性T細胞のいずれのサブセットにおいても、CX3CR1発現細胞の大多数は、キラー細胞表面マーカーであるCD57とCD11bが陽性、補助刺激分子であるCD27とCD28が陰性、アポトーシス刺激誘導受容体であるFas (CD95)が弱陽性、活性化マーカーであるCD25が陰性、セレクチンの一種であるCD62Lが陰性若しくは弱陽性、インテグリンの一種であるCD11aが強陽性であった。
【0071】
これらの細胞表面マーカー発現様式は、報告されている、細胞障害活性を有するCD8陽性エフェクターキラーT細胞の表現様式と酷似していた。また、同様の表現様式は、強い細胞障害活性を有するNK細胞においても認められることから、CX3CR1を発現するサブセットは、CD4陽性T細胞やTCRγδ陽性T細胞においても細胞障害活性を有すると推察される。したがって、NK細胞、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、TCRγδ陽性T細胞は異なる細胞活性化機構を有するにも関わらず、CX3CR1の発現は、共通した機能を有するサブセット、すなわち細胞障害活性を有するエフェクターキラーリンパ球に特徴的であると考えられた。
【0072】
2).CX3CR1発現とパーフォリン及びグランザイムBの発現の相関
キラーリンパ球は特徴的な細胞内顆粒を含有しており、これら顆粒中に細胞障害誘導分子であるパーフォリン及びグランザイムBを貯蔵している。T細胞受容体やNK細胞受容体からの活性化シグナルによって、これら分子が顆粒から標的細胞に向けて放出されて、最終的には標的細胞を破壊する。そこで、CX3CR1が潜在的に細胞障害活性を有するリンパ集団に選択的に発現しているか否かを解析するために、CX3CR1発現と細胞内パーフォリンとグランザイムBの発現の相関を解析した。
【0073】
末梢血は、正常人静脈からEDTA採血によって採取し、上記のようにCX3CR1と細胞表面マーカーの染色を行った。その後、細胞を50μlのFACS溶液に懸濁し、100μlのIntraPrep試薬1(コールター社製)を加えて、室温で15分間放置して細胞を固定した。PBSで1回洗浄した後、細胞を100μlのIntraPrep試薬2(コールター社製)に懸濁して、室温で5分間放置して細胞膜の透過性を誘導した。その後、PE標識抗パーフォリン抗体(ファーミンジェン社製)又はPE標識抗グランザイム抗体(CLB社製又はカルタグ社製)を加えて室温で30分間反応させた。PBSで1回洗浄した後、細胞を0.5%ホルマリン入りPBSに懸濁して、FACScalibur (ベクトンディッキンソン社製)を用いて測定した。
【0074】
その結果、T細胞サブセット(CD4陽性、CD8陽性、又はTCRγδ陽性)およびNK細胞のいずれにおいても、パーフォリンの強発現細胞とグランザイムB発現細胞は、CX3CR1発現細胞に限局して認められた(図3)。したがって、CX3CR1は大多数の末梢血キラーリンパ球に選択的に発現することがさらに強く示された。
【0075】
【実施例3】
CX3CR1発現とキラー活性の相関
CX3CR1の発現と細胞障害活性の相関を解析した。NK細胞の大多数はCX3CR1を発現し細胞障害活性を有することが明白であるので、T細胞について解析を行った。T細胞においては、CD4陽性T細胞、TCRγδ陽性T細胞のCX3CR1陽性細胞数が少数であり、実験が困難であることから、CD8陽性T細胞を代表として用いて実験を行った。CD8陽性T細胞はMACSを用いた2回の陽性選択を用いて精製した。
【0076】
まず、正常人静脈からEDTA採血によって末梢血を採取し、1 mM EDTA/PBSで2倍に希釈した。15 mlの遠心管に3 mlのFicol-Paqueを加え、その上に希釈した末梢血10 mlを重層した。1,550 rpmで室温において25分間遠心して、単核球画分を分離した後、単核球を分取して1 mM EDTA/PBSで2回洗浄した。PBSで1回洗浄した後、4x107個の単核球を70μlのMACS溶液(1% ウシ胎児血清(FCS)、5 mM EDTA入りPBS)に懸濁し、FcR ブロッキング溶液(ミルテニー社製)を20μl加え、Fc受容体をブロッキングした。
【0077】
次いで、CD8マイクロビーズ(ミルテニー社製)を10μl加え、4℃で20分間転倒混和した。細胞をMACS溶液で洗浄した後、107個の単核球あたり400μlのMACS溶液に懸濁し、Midi MACS磁石(ミルテニー社製)に装着したLSカラム(ミルテニー社製)に添加した。カラムをMACS溶液で洗浄した後、カラムを磁石から取り外して、MACS溶液を用いてCD8陽性画分を溶出した。さらに、CD8陽性画分を新しいLSカラムに添加して同様の操作を行い、2回精製のCD8陽性画分を得た。得られた細胞はFACSにより解析を行ったところ、97%以上がCD3陽性CD8陽性CD16陰性のCD8陽性T細胞であった。
【0078】
次に、セルソーターを用いてCD8陽性T細胞をCX3CR1陽性および陰性画分に分離精製した。まず、精製したCD8陽性T細胞をFACS溶液に懸濁した後、抗ヒトCX3CR1モノクローナル抗体を加えて、氷上で30分間反応させた。染色溶液で2回洗浄した後、FITC標識抗ラットIgG (H+L)抗体(セダレーン社製)を加えて、氷上で30分間反応させた。染色溶液で2回洗浄した後、FACS Vantage (ベクトンディキンソン社製)を用いて、CX3CR1陽性および陰性画分を分取した。それぞれの純度は95%以上であった。細胞障害T細胞(CTL)活性はCD8陽性T細胞(CX3CR1陽性とCX3CR1陰性の分離前)、CX3CR1陽性CD8陽性T細胞、CX3CR1陰性CD8陽性T細胞について測定した。
【0079】
CTL活性の測定にはCD3抗体依存性ユーロピウム放出実験を用いた。2x106個のFc受容体を発現するマスト細胞腫P815を1 mlのラベリング溶液(880μlのHEPES溶液(50 mM HEPES, 93 mM NaCl, 5 mM KCl, 2 mM MgCl2, pH 7.4)、140μlのデキストラン硫酸保存溶液(0.5%デキストラン硫酸 (MW 500,000)入りHEPES溶液)、80μlのユーロピウム保存溶液(1.52 ml ユーロピウム原子吸光標準溶液(アルドリッチ社製)、0.5 ml 100 mM ジエチレン-トリアミン-ペンタ酢酸(DTPA)溶液、7.98 ml HEPES溶液の混合溶液)の混合溶液)に懸濁し、37℃で20分間放置した。標識細胞はリペアリング溶液(2 mM CaCl2, 10 mM グルコース入りHEPES溶液)で2回洗浄した後、RPMI-1640/10% FCSで3回洗浄した。
【0080】
その後、5000個の標識細胞を、様々な標的細胞:効果細胞の比率(ET比)になるように混合し、CD3抗体(クローンUCHT-1、ジェンザイム社製)存在下で培養した。実験は1測定点につき3重で行った。37℃で3時間培養した後、60μlの培養上清を回収し、140μlのエンハンス溶液(ワラックベルトード社製)を加え、室温で5分間混合した。時間分解蛍光の測定はARVO-1240sx(ワラックベルトード社製)を用いて行った。特異的細胞障害活性は次の計算式により算出した:特異的標的細胞破壊のパーセント=100 × [(実験によるユーロピウム放出 − 自発的ユーロピウム放出) / (最大ユーロピウム放出 − 自発的ユーロピウム放出)]。
【0081】
その結果、CX3CR1陽性CD8陽性T細胞は高い細胞障害活性を示し、その活性は分離前のCD8陽性T細胞に比較して明らかに強かった(図4)。CX3CR1陰性CD8陽性T細胞は、ほとんど標的細胞を破壊する活性を示さなかった。なお、これらの障害活性はCD3依存性であること、セルソーティングに用いた抗CX3CR1抗体の細胞への結合は細胞障害活性に影響を及ぼさないことは確認している。したがって、CX3CR1は細胞障害性リンパ細胞に選択的に発現していることが明らかとなった。
【0082】
【実施例4】
CX3CR1発現とキラーリンパ球の遊走活性
CX3CR1が細胞障害性リンパ細胞に選択的に発現していることは、CX3CR1がこれら細胞の細胞遊走に関与していることを強く示唆する。そこで、CX3CR1のリガンドであるフラクタルカインに反応して遊走するリンパ球サブセットを解析した。遊走活性は、末梢血単核球がECV304細胞を経由して遊走する活性を指標にして測定した。
【0083】
2x105個のECV304細胞を孔径5μmのトランスウェルカルチャーインサート(コースター社製)に加え、M199/10% FCS培養液で2、3日間培養して、カルチャーインサート上面に単層のECV304細胞層を形成させた。フラクタルカインは10 nMの濃度になるように、遊走溶液(RPMI-1640 : M199 = 1 : 1, 0.5% BSA, 20 mM HEPES, pH7.4)で希釈し、24穴のウェルプレートに1穴あたり600μl加えた。ECV304細胞を培養したトランスウェルカルチャーインサートを24穴のトランスウェルに取りつけ、遊走溶液100μlに懸濁した106個の末梢血単核球細胞をトランスウェルカルチャーインサートに加えた。37℃で4時間培養した後、ECV304細胞を通過して、ウェルプレートに遊走してきた細胞を回収し、細胞表面マーカーや細胞内抗原で蛍光染色した後、FACScaliburを用いて定量した。
【0084】
その結果、CD8陽性T細胞とCD4陽性T細胞のいずれにおいても、遊走前の集団に比べ、フラクタルカインに対して遊走した細胞集団は、パーフォリンとグランザイムBの陽性細胞の比率が顕著に増加していた(図5, a)。遊走効率を各サブセットに対して計算したところ、CD8陽性T細胞とCD4陽性T細胞のいずれにおいても、フラクタルカインはパーフォリン陽性細胞とグランザイムB陽性細胞に対して特異的に細胞遊走を誘導していることが明らかとなった(図5, b)。
【0085】
さらに、フラクタルカインによって誘導されるNK細胞、グランザイムB陽性CD8陽性T細胞、及び、グランザイムB陽性CD4陽性T細胞の細胞遊走は、フラクタルカインに対する中和抗体(3A5-2および3H7-6)によって抑制された(図5, c)。中和抗体は、最終抗体濃度50μl/mlになるように、遊走溶液で希釈して、遊走反応開始の10分前にECV304細胞層に添加した。
【0086】
したがって、フラクタルカイン-CX3CR1の相互作用を阻害することにより、キラーリンパ球の細胞遊走を抑制し得ることが明らかとなった。
【0087】
なお、上記のフラクタルカインに対する中和抗体は以下の様に調製した。抗原は、ヒトフラクタルカインをC末端にHisタグを付加した融合蛋白としてバキュロウイルスを用いて昆虫細胞に発現させ、培養上清からキレートカラムにより精製したものを用いた(Imai, T. et al., Cell 91: 521-530 (1997))。抗原はTiterMaxアジュバンドと混合した後、BALB/cマウスに免疫し、以降抗原のみで追加免疫を行った。血清中の抗体価はELISAを用いて測定した。抗体価が上昇したマウスからリンパ球を分離し、リンパ球:P3ミエローマ細胞の比率が5:1になるように混合し、PEG(ベーリンガー社製)を用いて細胞融合を行った。ハイブリドーマは、RPMI-1640/10% FCS/HAT/10% Origen HCF (ISGN社製)を用いて、96-wellプレートで1週間培養した。そして、培養上清を用いて、ELISAを実施し、陽性ウェルを同定した。抗ヒトフラクタルカイン抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈を2回行い、クローニングを行った。モノクロ-ナル抗体は、不完全フロイントアジュバントを投与したBALB/cマウスにハイブリドーマを接種して作製した腹水から、Proein Aカラムを用いて精製した。中和活性は、CX3CR1発現細胞のヒトフラクタルカインに対する遊走を抑制することを指標にして測定し、中和抗体(3A5-2および3H7-6)を得た。
【0088】
【実施例5】
CX3CR1以外のケモカイン授与体の発現とキラーリンパ球の相関 CX3CR1の発現がキラーリンパ球特異的であることは、他のケモカイン受容体には見られないCX3CR1に特徴的なことであるか否かを解析した。
【0089】
末梢血を、CX3CR1と他のケモカイン受容体に対する抗体で2重染色して、CX3CR1と他のケモカイン受容体との発現の相関関係を調べた(図6)。
【0090】
その結果、NK細胞においてはCX3CR1の発現が大多数で認められるにも関わらず、CCR2, CCR5, CXCR3の発現は大多数で認められなかった。TCRγδ陽性T細胞においては、CX3CR1は一部の細胞のみで認められたが、CCR5, CXCR3は大多数で発現しており、CCR2は大多数で発現していなかった。CD8陽性T細胞とCD4陽性T細胞では、CCR5陽性細胞の一部でCX3CR1の発現が認められ、CCR5陰性細胞でのCX3CR1の発現はごく一部であり、また、CX3CR1陽性細胞は大多数がCCR2とCXCR3を発現していなかった。したがって、CX3CR1の発現は他のケモカイン受容体と異なる特徴を有し、CX3CR1の発現のみがキラーリンパ球特異的であると明らかとなった。
【0091】
【実施例6】
膜結合型フラクタルカインの、MIP-1α、MIP-1β及びMCP-1に対する遊走に与える効果
膜結合型フラクタルカインとCX3CR1の細胞接着はリンパ球の捕獲、強固な接着、活性化を誘導することが知られている。そこで、細胞膜上に発現するフラクタルカインの、MIP-1α、MIP-1β及びMCP-1に対する遊走に与える効果を検討した。実験には、ECV304細胞とフラクタルカイン発現ECV304細胞(Imai, T. et al., Cell 91: 521-530 (1997))を用いて、実施例4と同様の方法により、末梢血単核球の遊走に与える影響を観察した。
【0092】
その結果、膜結合型フラクタルカイン(フラクタルカイン発現ECV304細胞)を用いた場合は、CD8陽性T細胞のMIP-1βに対する遊走が増強されたが、MIP-1αやMCP-1に対する遊走には影響は認められなかった(図7, a)。
【0093】
そこで、CD8陽性T細胞を、グランザイムB陽性細胞と陰性細胞に分類して、遊走実験を行った(図7, b)。MIP-1βについては、ECV304細胞を用いた場合は、グランザイムB陰性細胞の遊走を優位に増強したが、膜結合型フラクタルカインを用いた場合はグランザイムB陽性細胞の遊走のみが強く増強され、グランザイムB陰性細胞の遊走の増強はほとんど認められなかった。これに対しMCP-1は、ECV304細胞及びフラクタルカイン発現ECV304細胞のいずれを用いた場合でも、特異的にグランザイムB陰性細胞を遊走し、グランザイムB陽性細胞の遊走はほとんど認められず、また、膜結合型フラクタルカインによる遊走の増強は、認められなかった。
【0094】
またMIP-1αについては、一部のドナーにおいて、グランザイムB陽性細胞の遊走が選択的にわずかに増強される傾向が認められるにすぎなかった。
【0095】
さらに、膜結合型フラクタルカインによる、グランザイムB陽性細胞のMIP-1βに対する遊走の増強効果は、フラクタルカインに対する中和抗体(3A5-2および3H7-6)処理によって抑制された。中和抗体は、最終抗体濃度50μl/mlになるように、遊走溶液で希釈して、遊走反応開始の10分前にECV304細胞層に添加した。
【0096】
以上の結果より、膜結合型フラクタルカインは、MIP-1βによる細胞遊走に対して、CX3CR1を発現するキラーリンパ球細胞に特異的に細胞遊走を増強することが明らかとなった。また、この細胞遊走増強作用は、CX3CR1と共発現する割合が高いCCR5を受容体とするMIP-1βを遊走因子として用いた場合には認められるが、CX3CR1と共発現をほとんどしないCCR2を受容体とするMCP-1では認められなかった。
【0097】
したがって、ECV304細胞膜上のフラクタルカインは、CX3CR1を介した接着又は活性化を介して、他のケモカインによる細胞遊走を増強していることが示唆された。さらに、フラクタルカイン-CX3CR1の相互作用を阻害することにより、他のケモカインMIP-1β、により誘導されるキラーリンパ球の細胞遊走を抑制し得ることが明らかとなった。
【0098】
【実施例7】
ConA肝炎モデルにおける抗フラクタルカイン抗体の効果
ConA肝炎は自己免疫性の肝障害モデルとされており、NKやNKT細胞など細胞障害活性を持つリンパ球の関与が報告されている。そこで、このモデルにおける抗フラクタルカイン抗体の効果を調べた。
【0099】
抗フラクタルカイン抗体は以下の様に調製した。抗原には、R&D社製のマウスフラクタルカインを用いた。抗原はTiterMaxアジュバンドと混合した後、アルメニアハムスターに免疫し、以降抗原のみで追加免疫を行った。血清中の抗体価はELISAを用いて測定した。抗体価が上昇したアルメニアハムスターからリンパ球を分離し、リンパ球:P3ミエローマ細胞の比率が5:1になるように混合し、PEG(ベーリンガー社製)を用いて細胞融合を行った。ハイブリドーマは、RPMI-1640/10% FCS/HAT/10% Origen HCF (ISGN社製)を用いて、96-wellプレートで1週間培養した。そして、培養上清を用いて、ELISAを実施し、陽性ウェルを同定した。抗マウスフラクタルカイン抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈を2回行い、クローニングを行った。モノクロ-ナル抗体は、不完全フロイントアジュバントを投与したSCIDマウスにハイブリドーマを接種して作製した腹水から、Protein Aカラムを用いて精製した。中和活性は、CX3CR1発現細胞のマウスフラクタルカインに対する遊走を抑制することを指標にして測定し、中和抗体(5H8-4)を得た。
【0100】
1群5匹のC57B/6マウスに、PBS(リン酸バッファー)、500μgのコントロール抗体(ハムスターIgG)、250μg又は500μgの抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)(抗体はPBS溶液)を静脈内投与し、直後にコンカナバリンA(ConA)を12 mg/kgで静脈内投与した。その12時間後に腹部大静脈より、ヘパリン下で採血し、血漿中のALP、GOT及びGPTをオリンパスAU600を用いて測定した。
【0101】
また1群4匹のC57B/6マウスに、上記と同様に、PBS、コントロール抗体、500μgの抗フラクタルカイン抗体を投与し、ConAを投与して、2時間後のTNF及びIFNγの血漿中濃度をELISAキット(バイオソース)を用いて測定した。
【0102】
結果を図8及び図9に示す。図8及び図9に示した通り、ConAの投与により上昇したALP、GOT及びGPTが、抗フラクタルカイン抗体の投与により減少し、同時にTNF及びIFNγの血中濃度も抑制された。
【0103】
以上の結果からフラクタルカイン−CX3CR1経路がConA肝炎において重要な働きをしていることが判った。またこの抑制メカニズムとしてTNF、IFNγといったサイトカインの産生抑制作用が示唆された。フラクタルカイン−CX3CR1経路を抑制することが自己免疫性の肝炎(自己免疫疾患)に有用であることが示唆された。
【0104】
【実施例8】
実験的自己免疫性脳脊髄膜炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)に対する抗フラクタルカイン抗体の効果
EAEはミエリン構成タンパクを免疫することにより惹起される脱髄性の脳脊髄膜炎であり、多発性硬化症(MS)のモデルとされている。症状としては、四肢の麻痺が出現し病変部にはリンパ球の浸潤がみられる。CX3CR1はグリア細胞上に発現しており、フラクタルカインによる刺激が、MCP-1やMIP-1などのケモカイン産生に重要な働きをしていると考えられる。そこで、抗フラクタルカイン抗体のEAEモデルにおける効果を検討した。
【0105】
100μgのMOGペプチド(Myeline Oligodendrocyte Glycoprotein、MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGKの配列(配列番号1)から成るペプチドを東レリサーチセンターに委託合成した)をアジュバントと一緒に1群4匹のC57B/6マウスに免疫し、百日咳毒30 ngを免疫当日及びその2日後にマウスに静脈内投与した。抗フラクタルカイン抗体(5H8-4)は、免疫後5日目から週2回500μgづつマウスに腹腔内投与した。マウスは以下の様にスコア化して評価した。
【0106】
0:非発症、1:シッポの弛緩、2:後肢の弱い麻痺、3:後肢完全麻痺、4:前肢麻痺又は正向反射の消失、5:死亡。
【0107】
結果を図10に示す。図10に示すように、抗フラクタルカイン抗体はEAEモデルで症状を軽減させ、フラクタルカイン−CX3CR1経路を遮断することが多発性硬化症の治療に有用であることが示唆された。
【0108】
【実施例9】
サポリン(saporin)標識した抗CX3CR1抗体のCX3CR1発現細胞に対する細胞障害性
CX3CR1を発現したキラー細胞を選択的に障害するモデル系として、CX3CR1遺伝子を導入してCX3CR1を発現させた細胞に対する、サポリン標識2A9-1抗体の細胞傷害性を調べた。
【0109】
1.ヒトCX3CR1受容体とEGFPの融合蛋白質を発現するマウス細胞の作製
ヒトCX3CR1 cDNA (Imai, T. et al., Cell, 91: 521-530 (1997))から、PCR法を用いて蛋白質コード領域の全長から終止コドンを取り除いた遺伝子断片を増幅した。得られた遺伝子断片を制限酵素SalIとXbaIで消化し、EGFP融合蛋白質発現用ベクターpEGFP-N1 (Clontech社製)のEGFPの上流のSalI/XbaIサイトに挿入し、CX3CR1-EGFPの融合蛋白質をコードする遺伝子断片を作製した。作製した遺伝子断片をSalIとNotIで消化して切り出して、哺乳細胞用発現レトロウイルスベクター(pMX)のSalI/NotIサイトに挿入し、哺乳細胞用発現ベクター(pMX V28-EGFP)を構築した。このベクターをパッケージング細胞(BOSC23)へリポフェクション法で導入し、組換えレトロウイルスを培養上清中に産生させた。この組換えレトロウイルスをPolybrene存在下にマウスpre-B細胞株(L1.2)に感染させた。CX3CR1-EGFP発現細胞はFACS Caliber (Becton Dickinson社製)を用いて分別分収した。その結果、90%程度の細胞がCX3CR1-EGFPを発現しているL1.2細胞集団が得られた。
【0110】
2.サポリン標識抗CX3CR1抗体によるCX3CR1発現細胞特異的増殖抑制
2A9-1抗体のサポリン標識をAdvanced Targeting Systems社に委託して、サポリン標識2A9-1抗体を得た。また、コントロールのサポリンは、Advanced Targeting Systems社から購入した。96ウェルプレート1ウェルあたり、親株のL1.2又はCX3CR1-EGFP発現L1.2細胞を103個、サポリン又はサポリン標識2A9-1抗体を10-8から10-14 Mになるように希釈して、200μlのRPMI-1640/10% FCSの培養液を用いて、CO2インキュベーターで2日間培養を行った。その後、細胞を懸濁して、20μlの細胞懸濁液中に含まれるLDH活性を測定して、生細胞数の指標とした。その結果、サポリン標識2A9-1抗体は、CX3CR1発現細胞特異的に増殖抑制を示した(図11)。なお、Graphpad Prismソフトウェアで算出したIC50は、サポリン標識2A9-1抗体のCX3CR1発現細胞に対する値は15 pM、サポリン標識2A9-1抗体の親株のL1.2細胞に対する値は12 nM、サポリンのCX3CR1発現細胞に対する値は73 nMであり、CX3CR1発現細胞に対する特異性は少なくとも1000倍以上あることが明らかとなった。したがって、サポリンなどの毒素を標識した抗CX3CR1抗体は、イムノトキシンとして有効であることが示された。
【0111】
【発明の効果】
抗CX3CR1抗体により、キラーリンパ球の同定・除去・分離が容易になる。また、CX3CR1とフラクタルカインの相互作用を抑制することにより、キラーリンパ球の遊走を抑制し細胞障害活性を抑制する抗体医薬の提供が可能となる。
【0112】
【配列表】
Figure 0004263391

【図面の簡単な説明】
【図1】 CX3CR1の発現しているリンパ球サブセットを示す。
【図2】 CX3CR1発現細胞とキラーリンパ球細胞表面抗原との相関を示す。
【図3】 CX3CR1発現とパーフォリン・グランザイムB発現の相関を示す。
【図4】 CX3CR1発現とキラー活性の相関を示す。
【図5】 CX3CR1発現とキラーリンパ球の遊走活性を示す。
【図6】 CX3CR1以外のケモカイン受容体の発現とCX3CR1 発現の相関を示す。
【図7】 膜結合型フラクタルカインのMIP-1α、MIP-1β及びMCP-1に対するキラーリンパ球の遊走に与える効果を示す。
【図8】 抗フラクタルカイン(FKN)モノクローナル抗体の、マウスにおけるConA肝炎(ConA-induced hepatitis)に対する効果を示す。
【図9】 ConA注入後2時間のサイトカイン上昇に対する抗フラクタルカイン(FKN)抗体の効果を示す。
【図10】 抗フラクタルカイン(FKN)抗体の、実験的自己免疫性脳脊髄膜炎に対する効果を示す。
【図11】 サポリン標識した抗CX3CR1抗体のCX3CR1発現細胞に対する細胞障害性を示す。

Claims (3)

  1. CX3CR1に対する抗体をリンパ球に結合させ、抗体の結合を指標にしてFACS又はMACSでキラーT細胞を分離することを含む、キラーT細胞を分離又は除去する方法。
  2. CX3CR1に対する抗体を用いてリンパ球を標識し、標識に基づいてキラーT細胞をFACSにより同定することを含む、キラーT細胞を同定する方法。
  3. CX3CR1に対する抗体を用いてリンパ球を免疫組織染色することを含む、キラーT細胞を同定する方法。
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