JP4262541B2 - 潤滑油組成物 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油圧モータや油圧ポンプなどの軸受部に使われる潤滑油に関し、特に軸受の転走面に生じる白色組織変化を伴う早期剥離現象の抑制を図った潤滑油に関する。
【0002】
【従来の技術】
油圧モータや油圧ポンプ、アクスル遊星部には、一般的にギアオイルや油圧作動油で潤滑される軸受が使用されている。これらのオイルには、一般的には鉱油や水−グリコール系作動油が用いられている。
近年、ギアオイルや油圧作動油で潤滑される軸受の使用条件が高速・高荷重など過酷化するのに伴い、軸受の転走面に白色組織変化を伴った剥離が早期に発生し問題となっている。
このような早期に発生する白色組織変化を伴った特異な剥離は、通常の金属疲労により生じる転走面内部からの剥離と違い、転走面表面の比較的浅い部分から生じる破壊現象であり、水素を原因とする水素脆性であると考えられる。この剥離の原因となる水素は、潤滑油の分解により発生する。潤滑油からの水素の発生は、(1)熱やせん断による分解、(2)摩耗により生成される金属新生面を触媒とする分解反応、の2つの原因が考えられる。このように発生した水素は容易に軸受鋼内部に侵入し、水素脆性による剥離を生じさせる。水素発生に対して上記(1)(2)のどちらの影響が大きいかは軸受の使用条件によると考えられるが、(2)が主原因の場合、摩耗により生成される金属新生面の露呈時間を短くする、すなわち生成した金属新生面をすぐに不活性な状態にしてしまう酸化剤等の添加が、水素発生の抑制には効果的であることが知られている。
【0003】
従来このような知見に基づく水素脆性剥離の防止対策として、転走面に黒染め処理法を用いて酸化被膜を形成したもの(特許文献1参照)、グリース封入軸受において、転走面に摩耗によって生じる新生面に酸化被膜を形成するため、グリース中に不動態化剤を添加したもの(特許文献2参照)、または、軸受の軌道輪の材料自体にCrなどを含有させることにより、転走面において酸化被膜を形成し剥離を防止するもの(特許文献3参照)などがある。
【0004】
【特許文献1】
実開平6−43349号公報(段落[0008])
【特許文献2】
特開平3−210394号公報(2頁、右上欄、6〜15行目)
【特許文献3】
特許第3009254号公報(段落[0007])
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1では、低温加熱(130〜160℃)の苛性ソーダ水溶液中に軌道輪を浸漬して、軸受転走面に予め四三酸化鉄膜を形成する必要があり製造工程が複雑になるという問題がある。また、上記各従来技術において、転走面に形成された酸化被膜が、転動体との摩擦摩耗により剥がれてしまう場合があり、十分な対策であるとはいえないのが現状である。
一方、上記特許文献2および特許文献3のように、その軸受の軌道輪自体、または、封入するグリースに転走面の酸化を促す物質を含有させたものはあるが、軸受に用いる潤滑油に着目した上記剥離に対する対策については、有効な処方が明らかでなく、これまでほとんど行なわれてこなかった。
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、軸受において水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できる潤滑油組成物の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は軸受部に用いられる潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物がモリブデン酸のアルカリ金属塩該潤滑油組成物全体に対して 0.3 1.5 重量%含有することを特徴とする。
特に、上記アルカリ金属塩が、ナトリウム、カリウム、リチウムのいずれかの金属塩であることを特徴とする。
【0008】
本発明の軸受部に用いられる他の潤滑油組成物は、軸受部における摩擦摩耗面または摩耗により露出した鉄系金属新生面において酸化鉄とともにモリブデン化合物を含有する膜を形成できるモリブデン酸塩を含有することを特徴とする。
【0009】
軸受部に用いられる潤滑油組成物に、モリブデン酸塩を配合することにより、配合されたモリブデン酸塩が軸受の摩擦摩耗面または摩耗により露出した鉄系金属新生面で分解・反応し、軸受転走面に酸化鉄とともにモリブデン化合物を含有する膜を形成することが分かった。この生成された膜が、潤滑油の分解により発生した水素の軸受鋼内への進入を防止し、水素脆性による剥離が抑制される。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に使用できる潤滑油組成物のベース油としては、水系潤滑油、非水系潤滑油のいずれでもよく、潤滑油として汎用されているものであれば使用できる。具体的には、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、ポリブテン、ポリαオレフィン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂とポリオールとのエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン、フッ素化油等の非炭化水素系合成油、水−グリコール系作動油等の水系潤滑油を使用できる。
【0011】
特に低摩擦が求められる場合には、エステル油、シリコーン油などを用いることで好ましい結果が得られる。
また、モリブデン酸塩は水溶性であるため、均一に配合できる水系潤滑油に配合することで水素脆性による剥離を抑制する効果をより発揮することができる。また、非水系潤滑油を使用する場合では、モリブデン酸塩を予め微粉化する、または分散剤を配合するなどが好ましい。
【0012】
モリブデン酸塩は金属塩であることが好ましい。金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、バリウム等が例示できる。
軸受部における摩擦摩耗面または摩耗により露出した鉄系金属新生面において反応して、酸化鉄とともにモリブデン化合物を含有する膜を形成しやすい金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属であることから、本発明においては、モリブデン酸塩のアルカリ金属塩が好ましい。
【0013】
本発明の潤滑油組成物は、上記潤滑油にモリブデン酸塩を配合することで得られる。モリブデン酸塩の配合量は、潤滑油組成物全体に対して 0.01〜 10 重量%、好ましくは 0.05〜 3 重量%である。添加量が 0.01 重量%未満であると水素脆性剥離を抑制することができない。また、10 重量%をこえると、剥離抑制効果が頭打ちになりコストが高くなるとともに、潤滑不良が生じ表面起点型の疲労剥離が生じ易くなる。
【0014】
本発明の潤滑油組成物には、摩擦摩耗面に露出した鉄系金属新生面に形成されるモリブデン化合物を含有する膜の生成を害しない範囲で、必要に応じて酸化防止剤、防錆剤、油性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤などの公知の配合剤を配合できる。
特に水系潤滑油を用いる場合などは、軸受鋼の錆発生を防止するため、防錆剤を適量配合することが好ましい。防錆剤としては、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、アミン、アルケニルこはく酸またはその部分エステル等が挙げられる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物が用いられる転がり軸受の一例を図1に示す。図1はシェル型針状ころ軸受の一例を示す斜視図である。
針状ころ軸受1は、鋼板から精密深絞り加工等で作製された外輪2に、保持器4付針状ころ3が組み込まれている。針状ころ軸受1は、軸を直接軌道面にすることができ、潤滑油組成物により潤滑されることが多い。
【0016】
【実施例】
実施例1〜7、比較例1〜5
針状ころ軸受(内輪外径φ 24 mm 、外輪内径φ 32 mm 、幅 20 mm 、コロφ 4×16.8 mm × 14 本)を、表1の示す組成の潤滑油組成物にて潤滑させて、寿命試験を行なった。
寿命試験は、ラジアル荷重 6.76kN、回転数 3000rpm、500rpm、3000rpm、500rpmを順に繰り返す急加減速で、雰囲気温度100℃にて軸受を回転させ、転走面に剥離が発生する時間(剥離発生時間)を測定した。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
Figure 0004262541
【0018】
寿命試験後、各実施例における軸受の転走面には変色が見られたが、各比較例については試験後の転走面に変色が見られなかった。転走面の変色が水素脆性による特異な剥離の発生を抑制しているものと考え、変色部(生成膜)の分析を行なった。XPS(ESCA)により極表面の生成膜の組成分析を行なったところ、Fe、O、Cに加えてMoが検出された。検出されたMoについてさらに詳しく調べたところ、酸化モリブデンを含むモリブデン系複合被膜であった。
以上の分析結果からも明らかなように、摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面で分解・反応し、酸化鉄とともにモリブデン化合物を含有する膜を形成することにより、この膜が潤滑油による潤滑油の分解により発生した水素の鋼内への進入を防止し、剥離の発生を抑制する結果、剥離発生時間で評価された寿命特性が向上した。
【0019】
【発明の効果】
本発明は軸受部に用いられる潤滑油組成物がモリブデン酸塩を含有するので、軸受部における水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できる。特にモリブデン酸塩がモリブデン酸の金属塩、さらにはモリブデン酸のアルカリ金属塩であることにより水系潤滑油を用いた軸受部における水素脆性による転走面での剥離をより効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】針状ころ軸受の斜視図である。
【符号の説明】
1 針状ころ軸受
2 外輪
3 ころ
4 保持器

Claims (3)

  1. 軸受部に用いられる潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物はモリブデン酸のアルカリ金属塩該潤滑油組成物全体に対して 0.3 1.5 重量%含有することを特徴とする潤滑油組成物。
  2. 前記アルカリ金属塩が、ナトリウム、カリウム、リチウムのいずれかの金属塩であることを特徴とする請求項1記載の潤滑油組成物。
  3. 前記モリブデン酸のアルカリ金属塩は、前記軸受部における摩擦摩耗面または摩耗により露出した鉄系金属新生面において酸化鉄とともにモリブデン化合物を含有する膜を形成できる化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の潤滑油組成物。
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