JP2019039470A - 転がり軸受 - Google Patents
転がり軸受 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2019039470A JP2019039470A JP2017160455A JP2017160455A JP2019039470A JP 2019039470 A JP2019039470 A JP 2019039470A JP 2017160455 A JP2017160455 A JP 2017160455A JP 2017160455 A JP2017160455 A JP 2017160455A JP 2019039470 A JP2019039470 A JP 2019039470A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- bearing
- rolling
- steel
- oil
- rolling bearing
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Classifications
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C10—PETROLEUM, GAS OR COKE INDUSTRIES; TECHNICAL GASES CONTAINING CARBON MONOXIDE; FUELS; LUBRICANTS; PEAT
- C10M—LUBRICATING COMPOSITIONS; USE OF CHEMICAL SUBSTANCES EITHER ALONE OR AS LUBRICATING INGREDIENTS IN A LUBRICATING COMPOSITION
- C10M133/00—Lubricating compositions characterised by the additive being an organic non-macromolecular compound containing nitrogen
- C10M133/02—Lubricating compositions characterised by the additive being an organic non-macromolecular compound containing nitrogen having a carbon chain of less than 30 atoms
- C10M133/04—Amines, e.g. polyalkylene polyamines; Quaternary amines
- C10M133/06—Amines, e.g. polyalkylene polyamines; Quaternary amines having amino groups bound to acyclic or cycloaliphatic carbon atoms
- C10M133/08—Amines, e.g. polyalkylene polyamines; Quaternary amines having amino groups bound to acyclic or cycloaliphatic carbon atoms containing hydroxy groups
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C22—METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
- C22C—ALLOYS
- C22C38/00—Ferrous alloys, e.g. steel alloys
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C23—COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; CHEMICAL SURFACE TREATMENT; DIFFUSION TREATMENT OF METALLIC MATERIAL; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL; INHIBITING CORROSION OF METALLIC MATERIAL OR INCRUSTATION IN GENERAL
- C23C—COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
- C23C8/00—Solid state diffusion of only non-metal elements into metallic material surfaces; Chemical surface treatment of metallic material by reaction of the surface with a reactive gas, leaving reaction products of surface material in the coating, e.g. conversion coatings, passivation of metals
- C23C8/06—Solid state diffusion of only non-metal elements into metallic material surfaces; Chemical surface treatment of metallic material by reaction of the surface with a reactive gas, leaving reaction products of surface material in the coating, e.g. conversion coatings, passivation of metals using gases
- C23C8/08—Solid state diffusion of only non-metal elements into metallic material surfaces; Chemical surface treatment of metallic material by reaction of the surface with a reactive gas, leaving reaction products of surface material in the coating, e.g. conversion coatings, passivation of metals using gases only one element being applied
- C23C8/24—Nitriding
- C23C8/26—Nitriding of ferrous surfaces
-
- F—MECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
- F16—ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
- F16C—SHAFTS; FLEXIBLE SHAFTS; ELEMENTS OR CRANKSHAFT MECHANISMS; ROTARY BODIES OTHER THAN GEARING ELEMENTS; BEARINGS
- F16C19/00—Bearings with rolling contact, for exclusively rotary movement
- F16C19/02—Bearings with rolling contact, for exclusively rotary movement with bearing balls essentially of the same size in one or more circular rows
- F16C19/04—Bearings with rolling contact, for exclusively rotary movement with bearing balls essentially of the same size in one or more circular rows for radial load mainly
- F16C19/06—Bearings with rolling contact, for exclusively rotary movement with bearing balls essentially of the same size in one or more circular rows for radial load mainly with a single row or balls
-
- F—MECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
- F16—ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
- F16C—SHAFTS; FLEXIBLE SHAFTS; ELEMENTS OR CRANKSHAFT MECHANISMS; ROTARY BODIES OTHER THAN GEARING ELEMENTS; BEARINGS
- F16C33/00—Parts of bearings; Special methods for making bearings or parts thereof
- F16C33/30—Parts of ball or roller bearings
- F16C33/58—Raceways; Race rings
- F16C33/62—Selection of substances
-
- F—MECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
- F16—ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
- F16C—SHAFTS; FLEXIBLE SHAFTS; ELEMENTS OR CRANKSHAFT MECHANISMS; ROTARY BODIES OTHER THAN GEARING ELEMENTS; BEARINGS
- F16C33/00—Parts of bearings; Special methods for making bearings or parts thereof
- F16C33/30—Parts of ball or roller bearings
- F16C33/66—Special parts or details in view of lubrication
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C22—METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
- C22C—ALLOYS
- C22C38/00—Ferrous alloys, e.g. steel alloys
- C22C38/18—Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing chromium
- C22C38/22—Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing chromium with molybdenum or tungsten
Abstract
【課題】転がり軸受の使用条件下において、水素脆性による早期剥離を効果的に防止でき、長時間使用可能な転がり軸受を提供する。【解決手段】転がり軸受1は、内輪2と、外輪3と、該内輪2および外輪3の間に介在する複数の玉4と、複数の玉4の周囲に封入された潤滑剤組成物7とを有し、潤滑剤組成物7が、基油と、アルカノールアミンとを含む潤滑油またはグリースであり、アルカノールアミンが、潤滑油の場合には、潤滑油全体に対して0.1〜10質量%含まれ、グリースの場合には、基油と増ちょう剤との合計量100重量部に対して0.1〜10重量部含まれ、内輪2、外輪3、および玉4から選ばれる少なくともいずれか1つの軸受部材が鋼材からなり、該鋼材の水素拡散係数が2.6×10-11m2/s未満である。【選択図】図1
Description
本発明は、転がり軸受に関し、特に、自動車電装・補機や、産業機器などのモータにおいて高温高速回転で使用される転がり軸受などに関する。
転がり軸受は、水が潤滑剤等に混入する条件下、すべりを伴う条件下、通電が起きる条件下などで使用されると、水あるいは潤滑剤が分解して水素が発生し、その水素が鋼中に侵入することで、水素脆性を起因とする早期剥離が起きることがある。水素は鋼の疲労強度を著しく低下させるため、接触要素間が油膜で分断される弾性流体潤滑と考えられる条件でも、交番せん断応力が最大になる表層に亀裂が発生、伝播して早期剥離に至る。
転がり軸受の耐水素脆性を向上させる従来技術として、鋼材にCrを多く添加することで鋼表面に不動態膜を形成し、鋼中への水素の侵入を抑制するものがある(特許文献1)。また、潤滑剤の観点から、潤滑剤(グリース組成物)に不動態化剤やビスマスジチオカーバメートなどを配合することで、耐水素脆性の向上を図る方法が知られている。
しかしながら、特許文献1の鋼材では、Crを多く添加することで炭化物が粗大化し、それが応力集中源となって早期剥離が起きることがある。また、今後、コンパクト化や省エネ化などに対応するため、転がり軸受の使用条件はますます厳しくなる傾向にあり、転動体と軌道輪との間における面圧の上昇や急加減速によるすべりの増大は、該部分における油膜切れ(潤滑不良)を起こしやすくする。この場合、軸受摺動面において油膜厚さが薄くなるほど、上記早期剥離が起こりやすくなる。そのため、過酷化された使用条件下では、不動態化剤やビスマスジチオカーバメートを添加するといった潤滑剤の改良のみでは、早期剥離を防ぐ対策として不十分になってきていると考えられる。
本発明は、転がり軸受の使用条件下において、水素脆性による早期剥離を効果的に防止でき、長時間使用可能な転がり軸受の提供を目的とする。
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、上記複数の転動体の周囲に封入された潤滑剤組成物とを有する転がり軸受であって、上記潤滑剤組成物が、基油と、アルカノールアミンとを含む潤滑油またはグリースであり、上記アルカノールアミンが、上記潤滑油の場合には、上記潤滑油全体に対して0.1〜10質量%含まれ、上記グリースの場合には、上記基油と増ちょう剤との合計量100重量部に対して0.1〜10重量部含まれており、上記内輪、上記外輪、および上記転動体から選ばれる少なくともいずれか1つの軸受部材が鋼材からなり、該鋼材の水素拡散係数が2.6×10-11m2/s未満であることを特徴とする。
上記軸受部材は、その表層に窒素が含まれており、該表面窒素濃度が0.05〜0.6質量%であることを特徴とする。また、上記鋼材が軸受鋼であり、該鋼材の残留オーステナイト量が10〜40体積%であることを特徴とする。
上記軸受部材の硬度が58〜64HRCであることを特徴とする。また、上記アルカノールアミンが、ジエタノールアミンであることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、その転動体の周囲に封入された潤滑剤組成物とを有し、この潤滑剤組成物が基油とアルカノールアミンとを含む所定の組成物であり、さらに、内輪、外輪、および転動体から選ばれる少なくともいずれか1つの軸受部材が鋼材からなり、該鋼材の水素拡散係数が2.6×10-11m2/s未満であるので、過酷な使用条件下で油膜が薄くなる場合であっても、水素の発生と鋼材内部での水素の拡散を抑制し、水素脆性を起因とする早期剥離を防止することができる。
転がり軸受の耐水素脆性を向上させるため、内輪、外輪、転動体を含む軸受部材を構成する鋼材、および軸受部材同士の接触面を潤滑する潤滑剤組成物について鋭意検討を行った。軸受部材にすべりなどで摩耗が生じれば、新生面が形成され、混入した水や潤滑剤が分解し、水素が発生する。発生した水素の一部は、鋼材中に侵入し、時間とともに鋼材内部に拡散していき、交番せん断応力が大きくなる深さに達すると、周囲の鋼材強度を低下させる。これにより、亀裂が生じ、この亀裂が伝播して早期剥離に至る。
そこで、本発明者らは、水素が鋼材中を移動する時間を遅延させるべく、鋼材の水素拡散係数に着目した。その結果、水素拡散係数が小さい(2.6×10-11m2/s未満)鋼材を用いることで、早期剥離が発生するまでの時間が延長することを見出した。さらに、潤滑剤組成物として、基油にアルカノールアミンを必須添加剤として配合したものを用いることで、水素脆性による接触面での剥離を一層効果的に防止できることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、その転動体の周囲に封入された潤滑剤組成物とを有する。本発明の転がり軸受について図1に基づいて説明する。図1は、深溝玉軸受の断面図である。転がり軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に転動体である玉4が複数配置される。この玉4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも玉4の周囲に潤滑剤組成物7が封入される。潤滑剤組成物7は転動体4との転走面に介在して潤滑される。
転がり軸受1において、内輪2、外輪3、および玉4はいずれも鋼材からなっている。さらに、内輪2、外輪3、および玉4から選ばれる少なくとも1つの軸受部品に用いる鋼材の水素拡散係数は2.6×10-11m2/s未満である。該水素拡散係数は、好ましくは2.1×10-11m2/s未満であり、より好ましく1.9×10-11m2/s未満であり、さらに好ましくは1.6×10-11m2/s未満であり、特に好ましくは1.4×10-11m2/s未満である。つまり、鋼材内部への水素の拡散の観点から、水素拡散係数はより小さいほうが好ましい。
上記鋼材は、水素拡散係数が2.6×10-11m2/s未満となる鋼材であれば、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料を用いることができる。例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、高速度鋼(M50など)、冷間圧延鋼などを用いることができる。なお、各軸受部材に用いる鋼材は、互いに異なる材料であってもよい。
本発明において、鋼材で構成される軸受部材の表層に窒化処理を施すことが好ましい。軸受鋼においては表層を窒化処理することで、該鋼材の水素拡散係数を小さくすることができる。なお、内・外輪(軌道輪)については、該軌道輪の転走面に窒化処理を施す。窒化処理は、例えば、850℃の温度でRXガスにアンモニアガスを添加した雰囲気中で行われる。軸受接触面に窒化処理を施して焼入することで、軸受部材が塑性変形しにくくなり、耐水素脆性が向上する。軸受鋼において、軸受部材の表面窒素濃度は、0.05〜0.6質量%であることが好ましく、0.2〜0.6質量%であることがより好ましく、0.4〜0.6質量%であることがさらに好ましい。0.05質量%未満では、水素拡散係数の低下が不十分であり、窒化による寿命向上の効果は得られない場合がある。一方、表面窒素濃度が0.6質量%をこえると、Cr炭窒化物が多く生成されるため、焼入性に寄与するCr量が欠乏し、十分な焼入性が確保できないおそれがある。
上記軸受部材は、窒化処理を施して焼入し、その後焼戻する。焼戻条件は、特に限定されず公知の条件を採用できるが、軸受鋼(SUJ2、SUJ3など)においては鋼材の残留オーステナイト量が、10〜40体積%となるような条件で焼戻することが好ましく、20〜40体積%となるような条件で焼戻することがより好ましい。例えば、焼戻温度は150〜200℃で行われる。オーステナイトは、マルテンサイトよりも水素拡散係数が小さいため、残留オーステナイト量を多くすることで、軸受部材の水素拡散係数が低下し、ひいては早期剥離を抑制することができる。一方、残留オーステナイト量が40体積%をこえると、寸法安定性が悪化する場合がある。
鋼材からなる軸受部材の硬度は、ロックウェル硬さで58〜64が好ましく、60.5〜64がより好ましい。上記数値範囲とすることで、適度な靭性を保ちつつ、高い接触応力による変形を防ぐことができる。ロックウェル硬さは、Cスケール硬さ(HRC)(JIS Z 2245)である。
以上を考慮して、本発明の転がり軸受としては、例えば、内輪および外輪が、水素拡散係数2.6×10-11m2/s未満の軸受鋼からなっており、その内輪および外輪の転走面の表面窒素濃度が0.2〜0.6質量%で、該軸受鋼の残留オーステナイト量が20〜40体積%で、さらに、内輪および外輪の硬度が、60.5〜64HRCであることが特に好ましい。なお、転動体である玉も、上記内輪および外輪と同様に構成されることが一層好ましい。上記では、水素拡散係数に着目して、鋼材に侵入した水素の拡散を抑制したが、その前段階となる鋼材中への水素の侵入を制限することで、早期剥離がより一層抑制されることが分かった。
以下には、潤滑剤組成物について説明する。
転がり軸受において、鋼材からなる転動体と軌道輪などの鉄系金属同士が、潤滑油またはグリースに接触しながら転がり接触・摺動する場合、鉄系金属同士の接触面において、油膜が殆ど無くなり、部分的に鉄系金属同士の表面が直接触れ合っているような状態である境界潤滑条件となる場合がある。本発明の潤滑剤組成物は、アルカノールアミンを必須成分として含むので、摺動面における過酷条件下(境界潤滑条件)で油膜が薄くなる場合であっても、接触部における摩擦摩耗面または摩耗により露出した鉄系金属新生面において、アルカノールアミンが吸着等することで、新生面と潤滑油またはグリースとの直接接触を防止できる。これにより、潤滑油またはグリースの分解による水素の発生を抑制でき、鋼材中への水素の侵入を制限することで、上述した水素の拡散抑制作用との相乗効果によって、転がり軸受の寿命を一層延長することができる。
本発明の転がり軸受に用いる潤滑剤組成物の態様には、(1)所定の基油とアルカノールアミンとを必須構成とする潤滑油と、(2)所定の基油と増ちょう剤とアルカノールアミンとを必須構成とするグリースとの2種類がある。
本発明で用いるアルカノールアミンとしては、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、およびモノ−n−プロパノールアミンなどの一級アルカノールアミン、N−アルキルモノエタノールアミン、およびN−アルキルモノプロパノールアミンなどの二級アルカノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン、トリ(n−プロパノール)アミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジアルキルエタノールアミン、およびN−アルキル(又はアルケニル)ジエタノールアミンなどの三級アルカノールアミンが挙げられる。また、アルカノール基の数により、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミンに分類されるが、本発明では複数のヒドロキシル基(アルカノール基)とアミノ基のキレート作用により、鉄イオンを挟み込み、鉄系金属新生面の露出を防止しやすいことから、ジアルカノールアミンまたはトリアルカノールアミンを用いることが好ましい。
上記の中でも、基油との相溶性と早期剥離の防止能力に優れ、入手性にも優れることから、下記式(1)のN−アルキル(又はアルケニル)ジエタノールアミンを用いることが好ましい。
式中のRは、炭素原子数1〜20の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を示す。また、炭素原子数は1〜12が好ましく、1〜8がより好ましい。具体的な化合物としては、例えば、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−ペンチルジエタノールアミン、N−ヘキシルジエタノールアミン、N−ヘプチルジエタノールアミン、N−オクチルジエタノールアミン、N−ノニルジエタノールアミン、N−デシルジエタノールアミン、N−ウンデシルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、N−トリデシルジエタノールアミン、N−ミリスチルジエタノールアミン、N−ペンタデシルジエタノールアミン、N−パルミチルジエタノールアミン、N−ヘプタデシルジエタノールアミン、N−オレイルジエタノールアミン、N−ステアリルジエタノールアミン、N−イソステアリルジエタノールアミン、N−ノナデシルジエタノールアミン、N−エイコシルジエタノールアミンなどが挙げられる。
アルカノールアミンは、1種単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、アルカノールアミンは、室温および使用温度で液状またはペースト状のものが好ましい。また、溶剤、鉱物油等に分散された状態であってもよい。このようなアルカノールアミンを用いることで、過酷条件下で摺動部の油膜が薄くなる場合でも該摺動部に入り込みやすい。アルカノールアミンの動粘度としては、40℃において10〜100mm2/sが好ましく、40℃において40〜70mm2/sがより好ましい。
アルカノールアミン(三級ジエタノールアミン)の市販品としては、例えば、ADEKA社製のアデカキクルーブFM−812、アデカキクルーブFM−832などが挙げられる。
上記潤滑剤組成物を潤滑油として使用する場合、アルカノールアミンの配合割合は、潤滑剤組成物全体に対して0.1〜10質量%とする。この範囲内であると、水素脆性による特異な剥離を防止できる。10質量%をこえると、鉄との反応性が高くなりすぎて腐食摩耗が生じる等の理由で剥離発生寿命の延長が図れない。好ましくは0.3〜10質量%であり、より好ましくは0.3〜5質量%であり、さらに好ましくは2〜5質量%である。
上記潤滑剤組成物をグリースとして使用する場合、アルカノールアミンの配合割合は、基油と増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.1〜10重量部とする。この範囲内であると、水素脆性による特異な剥離を防止できる。10重量部をこえると、鉄との反応性が高くなりすぎて腐食摩耗が生じる等の理由で剥離発生寿命の延長が図れない。好ましくは0.3〜10重量部であり、より好ましくは0.3〜5重量部であり、さらに好ましくは2〜5重量部である。
上記潤滑剤組成物を潤滑油として使用する場合、該潤滑剤組成物の基油として、鉱油、高度精製鉱油、および水溶性潤滑油から選ばれる少なくとも1つの油を用いる。鉱油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油などが挙げられる。水溶性潤滑油としては、水−グリコール系作動油などが挙げられる。高度精製鉱油は、例えば、減圧蒸留の残油から得られるスラッグワックスを接触水素化熱分解し、合成することにより得られる。高度精製油は、硫黄含有率が0.1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%未満である。また、フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油が挙げられる。
上記潤滑剤組成物をグリースとして使用する場合、該潤滑剤組成物の基油として、アルキルジフェニルエーテル油、PAOおよびエステル油から選ばれる少なくとも1つの油を用いる。これらは耐熱性と潤滑性に優れる。PAO(合成炭化水素油)は、通常、α−オレフィンまたは異性化されたα−オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α−オレフィンの具体例としては、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラドコセンなどが挙げられ、通常はこれらの混合物が使用される。エステル油としては、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油などが挙げられる。なお、これらの基油は単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
基油の動粘度(混合油の場合は、混合油の動粘度)としては、40℃において10〜200mm2/sが好ましい。より好ましくは10〜100mm2/sであり、さらに好ましくは30〜100mm2/sである。
上記潤滑剤組成物をグリースとして使用する場合、さらに増ちょう剤を配合する。増ちょう剤としては、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱耐久性に優れ、摺動部への介入性と付着性にも優れたウレア化合物の使用が好ましい。
ウレア化合物は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られる。ポリイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。また、モノアミン成分は、脂肪族モノアミン、脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンを用いることができる。脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環式モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。芳香族モノアミンとしては、アニリン、p−トルイジンなどが挙げられる。
これらのウレア化合物の中でも、耐熱耐久性に特に優れることから、ポリイソシアネート成分として芳香族ジイソシアネートを用いたジウレア化合物、例えば、モノアミン成分として芳香族モノアミンを用いた芳香族ジウレア化合物、脂肪族モノアミンを用いた脂肪族ジウレア化合物、脂環式モノアミンを用いた脂環式ジウレア化合物の使用が好ましい。
基油にウレア化合物などの増ちょう剤を配合してベースグリースが得られる。ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。ベースグリース中に占める増ちょう剤の配合割合は、1〜40質量%、好ましくは3〜25質量%である。増ちょう剤の含有量が1質量%未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40質量%をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
グリースの作製方法としては、まず、基油にアルカノールアミンを配合し、この基油を用いて増ちょう剤を作製する方法、グリースを調整した後にこれに分散液を加える方法のいずれであってもよい。アルカノールアミンがアミノ基を含むので、ウレア化合物を増ちょう剤とする場合は、基油中で上記ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させてベースグリースを作製した後に、アルカノールアミンを添加することが好ましい方法である。
上記グリースの場合、その混和ちょう度(JIS K 2220)は、200〜350の範囲にあることが好ましい。ちょう度が200未満である場合は、油分離が小さく潤滑不良となるおそれがある。一方、ちょう度が350をこえる場合は、グリースが軟質で軸受外に流出しやすくなり好ましくない。
本発明の転がり軸受に用いる潤滑剤組成物中において、アルカノールアミンは、酸との塩のように反応生成物の形ではなく、そのままの状態で存在している。よって、他の添加剤として、脂肪酸などのアルカノールアミンと塩を形成するような添加剤は含まないようにする。上記潤滑剤組成物は、このような本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、多価アルコールエステルなどの防錆剤、エステル、アルコールなどの油性剤、他の摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独で、または2種類以上組み合せて添加できる。また、本発明では、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物を配合しない構成とする場合でも、水素脆性による転走面等での剥離を防止できる。
上記グリースの場合、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤およびジチオリン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1つの酸化防止剤を含むことが好ましい。この中でも、ジチオリン酸亜鉛は必須とし、これにフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤の一方を併用することが好ましい。特に、ジチオリン酸亜鉛とアミン系酸化防止剤とを併用することが好ましい。また、これら酸化防止剤の配合割合は、基油と増ちょう剤の合計量100重量部に対して合計で0.5〜5重量部であることが好ましい。
ジチオリン酸亜鉛(ジンクジチオフォスフェート;以下、「ZnDTP」という)としては、下記式で示されるジアルキルジチオジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
式中のR1は、炭素原子数1〜24の一級または二級のアルキル基、または、炭素原子数6〜30のアリール基を示す。R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第二級ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、4−メチルペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基、ヘキサデシルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ベンジル基などが挙げられる。なお、これらの各R1は同一であっても、異なっていてもよい。
これらの中でも、安定性に優れ、水素脆性による転走面での剥離防止にも寄与することからR1が一級のアルキル基であることが好ましい。また、R1がアルキル基である場合において、炭素原子数が多いほど、耐熱性に優れ、また、基油に溶けやすい。一方、炭素原子数が少ないほど、耐摩耗性等に優れ、基油には溶けにくいものとなる。ZnDTPの好ましい市販品としては、例えば、ADEKA社製:アデカキクルーブZ112などが挙げられる。
また、上記潤滑剤組成物には、無機酸のアルカリ金属塩、および無機酸のアルカリ土類金属塩を含まないことが好ましい。さらに、上記潤滑剤組成物には、基油に溶解しない固体粉末を含有しないことが好ましい。
図1では転がり軸受として玉軸受について例示したが、本発明の転がり軸受は、上記以外の円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等でも使用できる。
本発明の転がり軸受は、上述の鋼材からなる軸受部材を有し、かつ、上述の潤滑剤組成物を封入しているので、軸受部材の接触面での水素脆性による特異的な剥離を防止でき、高温高速下などの過酷な条件下でも軸受寿命が長寿命となる。このため、自動車電装・補機や、産業機器などのモータに用いる高温高速回転で使用される軸受として好適に使用できる。
例えば、オルタネータ、コンプレッサ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装・補機等の転がり軸受、換気扇用モータ、燃料電池用ブロアモータ、クリーナモータ、ファンモータ、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業機械用モータ、自動車のスタータモータ、電動パワーステアリングモータ、ステアリング調整用チルトモータ、ブロワーモータ、ワイパーモータ、パワーウィンドウモータなどの電装機器用モータ、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータなどの転がり軸受として好適に使用できる。
1.水素拡散係数測定試験
表1に示す鋼種、熱処理によって各鋼材からなる試験片を作製した。参考例1、2、4の熱処理は、850℃のRXガス雰囲気中にアンモニアガスを添加して浸炭窒化処理を施して焼入した後、180℃で120minの焼戻を施した。比較例1、参考例3、5の浸炭窒化処理なしの熱処理は、850℃のRXガス雰囲気中で加熱してずぶ油焼入を施した後、180℃で120minの焼戻を施した。表1には、各鋼材の表面窒素濃度および残留オーステナイト量を併記した。
表1に示す鋼種、熱処理によって各鋼材からなる試験片を作製した。参考例1、2、4の熱処理は、850℃のRXガス雰囲気中にアンモニアガスを添加して浸炭窒化処理を施して焼入した後、180℃で120minの焼戻を施した。比較例1、参考例3、5の浸炭窒化処理なしの熱処理は、850℃のRXガス雰囲気中で加熱してずぶ油焼入を施した後、180℃で120minの焼戻を施した。表1には、各鋼材の表面窒素濃度および残留オーステナイト量を併記した。
(1)試験条件
図2に、鋼材の水素拡散係数を測定する装置の概略図を示す。試験片によって分断された2つの槽(アノード槽とカソード槽)を準備し、アノード槽には1mol/L水酸化ナトリウム水溶液、カソード槽には水素チャージ液として0.05mol/L硫酸にチオ尿素を混ぜたものを入れた。その後、カソード槽に電圧をかけて、試験片に水素をチャージした。カソード側でチャージされた水素は、アノード側に拡散していき、アノード槽に到達すると、水素がイオン化し、アノード槽にイオン化電流が流れる。試験では、各試験片においてイオン化電流が発生するまでの時間tbを測定し、下記式(1)から水素拡散係数Dを求めた。式(1)中のLは、試験片の厚さである。
D=L2/15.3tb・・・(1)
図2に、鋼材の水素拡散係数を測定する装置の概略図を示す。試験片によって分断された2つの槽(アノード槽とカソード槽)を準備し、アノード槽には1mol/L水酸化ナトリウム水溶液、カソード槽には水素チャージ液として0.05mol/L硫酸にチオ尿素を混ぜたものを入れた。その後、カソード槽に電圧をかけて、試験片に水素をチャージした。カソード側でチャージされた水素は、アノード側に拡散していき、アノード槽に到達すると、水素がイオン化し、アノード槽にイオン化電流が流れる。試験では、各試験片においてイオン化電流が発生するまでの時間tbを測定し、下記式(1)から水素拡散係数Dを求めた。式(1)中のLは、試験片の厚さである。
D=L2/15.3tb・・・(1)
(2)試験結果
水素拡散係数の結果を、表1および図3に示した。比較例1のSUJ2をずぶ焼入した鋼材の水素拡散係数は、2.63×10-11m2/sであったのに対し、参考例1〜5の鋼材の水素拡散係数はいずれも比較例1の値よりも小さかった。軸受鋼であるSUJ2およびSUJ3では、いずれも浸炭窒化処理を施した鋼材の方が、水素拡散係数が小さくなった。SUJ2では、表面窒素濃度が高いほど、水素拡散係数は小さくなった。また、SUJ2とSUJ3のずぶ焼入を比較すると残留オーステナイト量が大きいほど、水素拡散係数は小さくなった。このように軸受鋼であるSUJ2およびSUJ3では、残留オーステナイト量や表面窒素濃度を大きくすることで、水素拡散係数が小さくなることが分かった。一方、高速度鋼であるM50は、浸炭窒化処理を施しておらず、また、残留オーステナイト量が少なかったが、水素拡散係数は極めて小さかった。
2.水混入潤滑下での転動疲労試験1
(1)試験条件
上記参考例1〜5および比較例1の鋼材を用いて、スラスト軸受51106の内輪および外輪を作製した。評価対象である内輪および外輪よりも先に玉が剥離することを避けるため、SUS440C製の鋼球を用いた。潤滑剤組成物としては、グリコール系潤滑油に純水を混合したものを用いた。得られた転がり軸受に対し、アキシアル荷重Fa=4.9kNを作用させ、0〜2500min-1で内輪を急加減速させた。図4に運転パターンを示す。この荷重条件での弾性ヘルツ接触計算での内外輪と鋼球間の最大接触面圧は2.3GPaである。
(1)試験条件
上記参考例1〜5および比較例1の鋼材を用いて、スラスト軸受51106の内輪および外輪を作製した。評価対象である内輪および外輪よりも先に玉が剥離することを避けるため、SUS440C製の鋼球を用いた。潤滑剤組成物としては、グリコール系潤滑油に純水を混合したものを用いた。得られた転がり軸受に対し、アキシアル荷重Fa=4.9kNを作用させ、0〜2500min-1で内輪を急加減速させた。図4に運転パターンを示す。この荷重条件での弾性ヘルツ接触計算での内外輪と鋼球間の最大接触面圧は2.3GPaである。
(2)試験結果
表1に、参考例1〜5および比較例1の剥離寿命として2母数ワイブル分布に当てはめて求めたL10、L50、及びワイブルスロープ(形状母数)eを示す。比較例1の10%寿命(L10)は、44.3時間であったのに対し、参考例1〜5は比較例1よりもすべて長寿命であった。SUJ2、SUJ3ともに、浸炭窒化処理を施した軸受の方が剥離寿命が長く、さらにSUJ2では表面窒素濃度が高いほど長寿命であった。SUJ2とSUJ3のずぶ焼入を比較すると、残留オーステナイト量が多いSUJ3(参考例3)の方が長寿命であった。また、M50(参考例5)は他の参考例に比べて、水素拡散係数も小さく、かつ、剥離寿命が長寿命であった。
表1に、参考例1〜5および比較例1の剥離寿命として2母数ワイブル分布に当てはめて求めたL10、L50、及びワイブルスロープ(形状母数)eを示す。比較例1の10%寿命(L10)は、44.3時間であったのに対し、参考例1〜5は比較例1よりもすべて長寿命であった。SUJ2、SUJ3ともに、浸炭窒化処理を施した軸受の方が剥離寿命が長く、さらにSUJ2では表面窒素濃度が高いほど長寿命であった。SUJ2とSUJ3のずぶ焼入を比較すると、残留オーステナイト量が多いSUJ3(参考例3)の方が長寿命であった。また、M50(参考例5)は他の参考例に比べて、水素拡散係数も小さく、かつ、剥離寿命が長寿命であった。
続いて、図5に、水素拡散係数と転動疲労試験における寿命(L10)との関係を示す。なお、図5には、参考例1〜4および比較例1の結果についてプロットした。図5に示すように、水素拡散係数と寿命には直線相関があり、水素拡散係数が小さいほど寿命が長くなる結果となった。このことから、水素拡散係数を比較例1(2.63×10-11m2/s)よりも小さくすることで、水素脆性に起因する早期剥離を抑制できるといえる。
3.急加減速試験
参考潤滑剤1〜7、比較潤滑剤1〜6
表2に示した基油の半量に、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)を表2に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表2のとおりである。MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100〜120℃で30分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させベースグリースを得た。これに各添加剤を表2に示す配合割合で加えてさらに十分撹拌した。その後、三本ロールで均質化し、供試グリースを得た。なお、表2下記の1)〜9)は、表3においても同じである。
参考潤滑剤1〜7、比較潤滑剤1〜6
表2に示した基油の半量に、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)を表2に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表2のとおりである。MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100〜120℃で30分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させベースグリースを得た。これに各添加剤を表2に示す配合割合で加えてさらに十分撹拌した。その後、三本ロールで均質化し、供試グリースを得た。なお、表2下記の1)〜9)は、表3においても同じである。
得られたグリースを転がり軸受に封入して急加減速試験を行なった。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表2に示す。
電装補機の一例であるオルタネータを模擬し、回転軸を支持する内輪回転の転がり軸受(内輪・外輪・鋼球は軸受鋼SUJ2)に上記グリースを封入し、急加減速試験を行なった。急加減速試験条件は、120℃の雰囲気下、回転軸先端に取り付けたプーリに対する負荷荷重を1960N、回転速度は0rpm〜18000rpmで運転条件を設定し、さらに、試験軸受(6203)内に0.5Aの電流が流れる状態で試験を実施した。そして、軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が設定値以上になって停止する時間(剥離発生寿命時間、h)を計測した。
表2に示すように、アルカノールアミン(ジエタノールアミン)を配合した各参考潤滑剤は、各比較潤滑剤と対比して剥離発生寿命時間が大幅に延長できた。これは、転走面で生じる水素脆性による特異的な剥離を効果的に防止できたためであると考える。一方、比較潤滑剤3に示すように、ジオールでは剥離発生寿命時間の延長効果が得られなかった。
参考潤滑剤8〜11、比較潤滑剤7〜9
針状ころ軸受(内輪外径φ24mm、外輪内径φ32mm、幅20mm、コロφ4×16.8mm×14本)を、表3に示す組成の潤滑油にて潤滑させて、寿命試験を行なった。寿命試験は、ラジアル荷重6.76kN、回転数3000rpm、500rpm、3000rpm、500rpmを順に繰り返す急加減速で、雰囲気温度100℃にて軸受を回転させ、転走面に剥離が発生する時間(剥離発生寿命時間、h)を測定した。結果を表3に示す。
針状ころ軸受(内輪外径φ24mm、外輪内径φ32mm、幅20mm、コロφ4×16.8mm×14本)を、表3に示す組成の潤滑油にて潤滑させて、寿命試験を行なった。寿命試験は、ラジアル荷重6.76kN、回転数3000rpm、500rpm、3000rpm、500rpmを順に繰り返す急加減速で、雰囲気温度100℃にて軸受を回転させ、転走面に剥離が発生する時間(剥離発生寿命時間、h)を測定した。結果を表3に示す。
表3に示すように、アルカノールアミン(ジエタノールアミン)を配合した各参考潤滑剤は、水グリコール系作動油のみを用いた比較潤滑剤7と比較して、剥離発生寿命時間を大幅に延長できた。また、鉱油および水からなる潤滑油にアルカノールアミン(ジエタノールアミン)を配合した参考潤滑剤11は、これを配合しない同潤滑油である比較潤滑剤9と比較して、剥離発生寿命時間を大幅に延長できた。
4. 水混入潤滑下での転動疲労試験2
転動疲労試験1では、アルカノールアミンが添加されていない潤滑剤組成物を用いて鋼材ごとの試験を実施したが、転動疲労試験2では、アルカノールアミンの添加と鋼材を組み合わせた試験を実施した。ここでは、転動疲労試験1の比較例1および参考例1の鋼材を用いて、スラスト軸受51106の内輪および外輪を作製した。転動疲労試験1の潤滑剤組成物にアルカノールアミン(ジエタノールアミン)を添加した以外は、転動疲労試験1と同様に試験を実施した。結果を表4に示す。なお、表4における比較例1および比較例3のデータはそれぞれ、表1の比較例1および参考例1のデータに相当する。
転動疲労試験1では、アルカノールアミンが添加されていない潤滑剤組成物を用いて鋼材ごとの試験を実施したが、転動疲労試験2では、アルカノールアミンの添加と鋼材を組み合わせた試験を実施した。ここでは、転動疲労試験1の比較例1および参考例1の鋼材を用いて、スラスト軸受51106の内輪および外輪を作製した。転動疲労試験1の潤滑剤組成物にアルカノールアミン(ジエタノールアミン)を添加した以外は、転動疲労試験1と同様に試験を実施した。結果を表4に示す。なお、表4における比較例1および比較例3のデータはそれぞれ、表1の比較例1および参考例1のデータに相当する。
表4に、実施例1および比較例1〜3の剥離寿命として2母数ワイブル分布に当てはめて求めたL10、L50、及びワイブルスロープ(形状母数)eを示す。比較例2ではアルカノールアミンを添加することで、比較例1に比べて、L10を55.6時間延長させることができた。また、比較例3では水素拡散係数を小さくすることで、比較例1に比べて、L10を35.4時間延長させることができた。これに対して、実施例1ではアルカノールアミンを添加し、かつ、水素拡散係数を小さくすることで、比較例1に比べてL10を170.7時間延長させることができ、比較例2や比較例3と比べても寿命延長効果が顕著であった。つまり、水素拡散係数が2.6×10-11m2/s未満の鋼材と、アルカノールアミンが添加された潤滑剤組成物を組み合わせることで、水素脆性に起因する早期剥離を一層抑制することができる。
本発明の転がり軸受は、軸受部材に所定の鋼材を用い、かつ、所定の潤滑剤組成物が封入されているので、水素脆性による接触面での早期剥離を効果的に防止でき、長寿命である。そのため、転がり軸受として広く使用でき、特に過酷な使用条件で使用される転がり軸受に適している。
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 玉
5 保持器
6 シール部材
7 潤滑剤組成物
8a、8b 開口部
2 内輪
3 外輪
4 玉
5 保持器
6 シール部材
7 潤滑剤組成物
8a、8b 開口部
Claims (5)
- 内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、前記複数の転動体の周囲に封入された潤滑剤組成物とを有する転がり軸受であって、
前記潤滑剤組成物が、基油と、アルカノールアミンとを含む潤滑油またはグリースであり、
前記アルカノールアミンが、前記潤滑油の場合には、前記潤滑油全体に対して0.1〜10質量%含まれ、前記グリースの場合には、前記基油と増ちょう剤との合計量100重量部に対して0.1〜10重量部含まれ、
前記内輪、前記外輪、および前記転動体から選ばれる少なくともいずれか1つの軸受部材が鋼材からなり、該鋼材の水素拡散係数が2.6×10-11m2/s未満であることを特徴とする転がり軸受。 - 前記軸受部材は、その表層に窒素が含まれており、該表面窒素濃度が0.05〜0.6質量%であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
- 前記鋼材が軸受鋼であり、該鋼材の残留オーステナイト量が10〜40体積%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
- 前記軸受部材の硬度が58〜64HRCであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の転がり軸受。
- 前記アルカノールアミンが、ジエタノールアミンであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受。
Priority Applications (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017160455A JP2019039470A (ja) | 2017-08-23 | 2017-08-23 | 転がり軸受 |
PCT/JP2018/031105 WO2019039535A1 (ja) | 2017-08-23 | 2018-08-23 | 転がり軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017160455A JP2019039470A (ja) | 2017-08-23 | 2017-08-23 | 転がり軸受 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2019039470A true JP2019039470A (ja) | 2019-03-14 |
Family
ID=65439560
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2017160455A Pending JP2019039470A (ja) | 2017-08-23 | 2017-08-23 | 転がり軸受 |
Country Status (2)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2019039470A (ja) |
WO (1) | WO2019039535A1 (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2022210531A1 (ja) * | 2021-03-30 | 2022-10-06 | Ntn株式会社 | 密封型転がり軸受 |
Family Cites Families (6)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4423754B2 (ja) * | 2000-06-22 | 2010-03-03 | 日本精工株式会社 | 転動軸の製造方法 |
JP4502171B2 (ja) * | 2001-11-27 | 2010-07-14 | 日本パーカライジング株式会社 | 回転部材 |
JP2011168648A (ja) * | 2010-02-16 | 2011-09-01 | Showa Shell Sekiyu Kk | 潤滑油組成物 |
JP5996864B2 (ja) * | 2011-12-08 | 2016-09-21 | Ntn株式会社 | 軸受部品、転がり軸受およびこれらの製造方法 |
JP6219084B2 (ja) * | 2013-07-19 | 2017-10-25 | Ntn株式会社 | 転がり軸受 |
JP6401063B2 (ja) * | 2015-01-16 | 2018-10-03 | Ntn株式会社 | モータ用グリース封入軸受 |
-
2017
- 2017-08-23 JP JP2017160455A patent/JP2019039470A/ja active Pending
-
2018
- 2018-08-23 WO PCT/JP2018/031105 patent/WO2019039535A1/ja active Application Filing
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2022210531A1 (ja) * | 2021-03-30 | 2022-10-06 | Ntn株式会社 | 密封型転がり軸受 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
WO2019039535A1 (ja) | 2019-02-28 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
CN107922868B (zh) | 润滑脂组合物及封入润滑脂滚动轴承 | |
WO2015008856A1 (ja) | 転がり軸受 | |
WO2016114380A1 (ja) | 転がり軸受 | |
JP5007029B2 (ja) | グリース組成物および該グリース封入転がり軸受 | |
JP4434685B2 (ja) | グリース組成物および該グリース封入軸受 | |
JP2008069882A (ja) | グリース封入密封型転がり軸受 | |
JP2019039470A (ja) | 転がり軸受 | |
WO2021153258A1 (ja) | グリース組成物およびグリース封入軸受 | |
JP2008008419A (ja) | 自動車電装・補機用転がり軸受 | |
JP6219084B2 (ja) | 転がり軸受 | |
JP6193619B2 (ja) | 転がり軸受 | |
JP4989083B2 (ja) | グリース組成物および該グリース封入軸受 | |
JP4838549B2 (ja) | グリース組成物および該グリース封入転がり軸受 | |
JP2008138705A (ja) | グリース封入転がり軸受 | |
JP2008075811A (ja) | グリース封入転がり軸受 | |
JP2008075816A (ja) | グリース封入転がり軸受 | |
WO2023048119A1 (ja) | グリース組成物およびグリース封入軸受 | |
JP2006242331A (ja) | ロボット用転がり軸受 | |
JP6461520B2 (ja) | 工作機械用転がり軸受 | |
JP5288725B2 (ja) | グリース組成物および該グリース封入軸受 | |
JP2008266424A (ja) | グリース組成物およびグリース封入軸受 | |
JP6309767B2 (ja) | 自動車電装・補機用転がり軸受 | |
JP2008133911A (ja) | グリース封入転がり軸受 | |
JP2007254521A (ja) | グリース組成物および該グリース封入軸受 | |
JP2007217521A (ja) | グリース組成物および該グリース封入軸受 |