JP4261222B2 - 薬剤放出ステント - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、体腔内に埋没可能で狭窄部の治療に使用されるステントの改良に関し、特に生物学的活性物質を含んだ高分子材料で被覆されて、抗血栓性や血管内膜増殖抑制等の表面を提供し、再狭窄を予防するステントに関する。
【0002】
【従来技術及び発明が解決しようとする課題】
ステントとは、血管や他の生体内の管腔が狭窄や閉塞した場合、当該狭窄部等を拡張し必要な管腔領域を確保するため、当該部位に留置する管状の医療用具である。ステントは、直径が小さいまま体内に挿入し、狭窄部等で拡張させて直径を大きくし当該管腔を拡張・保持するのに使用される。
【0003】
例えば、近年、狭窄した血管の再建を目的として、経皮的冠状動脈血管形成術(以下PTCA:Percutaneous Transluminal Coronary Angioplastyと称する。)により、PTCAバルーンカテーテルによる拡張、及びステントの留置による治療が行われている。当該ステントは、カテーテルに装着したバルーンに空気を送って膨張・拡張して形成された血管内に留置することにより、その再狭窄を防止・抑制させることを企図しているものである。
このように、ステントの留置は、バルーン拡張のみによる血管形成に対し、再狭窄を抑制させる期待のもとに行われているものであったが、実際には、初期の予想ほど再狭窄率の低下を得られていないのが現状である。
これは、ステントの拡張、留置時に、当該ステント自身が引き起こす血管障害のため、血栓の生成や平滑筋の増殖を誘導することが原因の一つであると考えられる。
【0004】
そのため、従来から、カテーテル等においては、これら抗凝血剤等の薬剤を、カテーテルチューブを構成する高分子中に含有若しくは結合させ、局所的にこれら薬剤を徐放させる試みが行われてきた。しかしながら、ステントの場合は、その基材が通常金属であるために、カテーテルで主に行われていたように直接基材へ結合、含浸する等の技術を適用するのは困難である。従って、ステントについては、当該薬剤を高分子と共に有機溶媒に溶解混合し、塗布する方法のみが、実際上、適用可能な方法であるが、有機溶媒に不溶な薬剤には適応不可であった。
【0005】
喘息、ガン、心臓病などの様々な疾患は、異なる症状を示すにも拘わらず、1種類または数種類の蛋白質が、過剰発現あるいは過少発現したことが原因の多くを占めることが示唆されている。また、蛋白質の発現には様々な転写活性化因子および転写抑制因子等の転写調節因子が関与している。転写調節因子の1つとして知られているNF−κBは、p65とp50のヘテロダイマーからなっている。通常は、細胞質内に阻害因子IκBが結合した形で存在し、核移行が阻止されている。ところが、何らかの原因でサイトカインや、虚血、再潅流といった刺激が加わるとIκBがリン酸化され、分解されることにより、NF−κBは活性化されて核内に移行する。NF−κBは染色体のNF−κB結合部位に結合することにより、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NF−κBにより制御される遺伝子には、例えば、IL−1、IL−6などのサイトカイン類や、VCAM−1やICAM−1などの接着因子がある。
【0006】
これらのサイトカイン類や接着因子の生産の活性化が、PTCA後の再狭窄を引き起こす一つの原因であることが見いだされたことから、鋭意研究の結果、NF−κBの核酸結合部位に対するデコイ、つまりNF−κBが結合する核酸部位と特異的に拮抗する化合物(NF−κBデコイ)を、留置したステントより徐々に放出することによりNF−κBにより活性化される遺伝子の発現を抑制することで、ステント留置後の再狭窄予防に非常に有効であることを見いだした。
しかしながら、NF−κBデコイは水溶性であるため、従来からの有機溶媒によるステントへの被覆は、非常に困難なものであった。
【0007】
また特許文献1には生理活性薬剤としてのNF−κBデコイについて、さらに特許文献2、3には薬剤を含有するコーティングステントが開示されている。特許文献1にはステントへの応用は開示されておらず、特許文献2、3には生理活性薬剤としてNF−κBデコイを用いた記載は無く、当該発明は、薬剤保持層のステントからの剥がれ及び長期にわたる薬剤の徐放が困難である事が指摘され、これらの具体的解決法についての開示がなされていない。
【0008】
【特許文献1】
特願平8-533947号公報(特許請求の範囲1〜22項)
【特許文献2】
特開平2001-293094号公報(特許請求の範囲1〜3項)
【特許文献3】
WO 02/13883 A2号公報(特許請求の範囲1〜7項、10〜34項)
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、薬剤の徐放により再狭窄を抑制するステントにおいて、改良された高分子被覆層(薬剤保持層)を改良することにより、水溶性薬剤の高分子材料中への保持量と徐放性を向上させ、剥離等を伴うことなく、より長期間、当該ステントを体内で安定的に使用しうるようにする技術を提供することである。
NF−κBの核酸結合部位に対するデコイ、つまりNF−κBが結合する核酸部位と特異的に拮抗する化合物(NF−κBデコイ)を、留置したステントより徐々に放出することによりNF−κBにより活性化される遺伝子の発現を抑制することで、ステント留置後の再狭窄予防に非常に有効であること推定される。
本発明に従えば、以下の発明が提供される。
[1]本発明は、ステント基材(11)の表面に、プライマー層(P)/薬剤保持層(M)/被覆層(12)の順に被覆し、
前記ステント基材(11)は、金属製の略管状体であり、
前記プライマー層(P)は、ステント基材(11)と薬剤保持層(M)を構成する吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高い:
加水分解性基と有機官能基を有するシランカップリング剤、または当該シランカップリング剤と同様の機能を有するカップリング剤であり、
前記薬剤保持層(M)は、生理活性薬剤として、NF−κBのデコイを含み当該生理活性薬剤を生体内で徐放し、少なくとも自重の100%以上の水を吸収し、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖等のポリエーテル鎖を構造中に有するポリウレタン系エラストマーからなる吸水性高分子材料であり、
前記被覆層(12)は、前記NF−κBのデコイを含有せず、前記薬剤保持層(M)に被覆可能で、耐加水分解性の高いポリカーボネート系ポリウレタンからなる高分子材料である、薬剤放出ステント(1)を提供する。
[2]本発明は、前記シランカップリング剤は、エポキシ系、アミノ系、メルカプト系の中から選ばれるいずれかのシランカップリング剤であり、
当該シランカップリング剤と同様の機能を有するカップリング剤は、有機チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、クロム系カップリング剤、有機リン酸系カップリング剤の中から選ばれるいずれかのカップリング剤である[1]に記載の薬剤放出ステント(1)を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の薬剤放出ステント1は、ステント基材11の表面に、生理活性薬剤であるNF−κBのデコイ(以下「NF−κBデコイ」という)を含有する高分子材料からなる薬剤保持層Mで被覆している。
さらにステント基材11表面をプライマー処理した後、当該プライマー層Pを、前記薬剤保持層Mで被覆している。
さらに前記薬剤保持層Mを、NF−κBデコイを含有しない高分子材料からなる被覆層12で被覆している。
以上のように、本発明の薬剤放出ステント1(以下、ステント1)は、ステント基材11の表面にプライマー層P/薬剤保持層M/被覆層12の順に被覆している。ステント基材11の「表面」とは、図2に例示するようにステント基材11の「外面」及び「内面」の双方を含む意味である。
前記薬剤保持層Mは、生理活性薬剤NF−κBデコイを含み当該NF−κBデコイを生体内で徐放し、少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料からなる。
前記プライマー層Pはステント基材11と薬剤保持層Mを構成する吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高い材料からなる。
前記被覆層12は前記薬剤保持層Mを被覆可能な高分子材料からなる。
本発明は、ステント基材11上に薬剤保持層Mを形成するにあたり、まずステント基材11及び薬剤保持層Mを形成する前記吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高いプライマーにより、前記ステント基材11表面を処理してプライマー層Pを形成する。
次に吸水性高分子材料を溶解した溶液を調整し、これを前記プライマー層Pを形成したステント基材表面11に塗布または浸漬して溶媒を揮発させることにより、薬剤保持層Mを形成することができる。
また当該薬剤保持層M中に、水溶性の薬剤を導入するには、所望のNF−κBデコイの水溶液中に前記薬剤保持層Mを形成したステント基材11を任意の時間浸漬後、乾燥することにより導入することができる。さらに当該薬剤保持層Mを、高分子材料からなる被覆層12で被覆する。このようにしてステント基材11には三層の被覆層(プライマー層P/薬剤保持層M/被覆層12)が形成される。ステント1自体は、ステント基材11も含めて四層構造となる。
【0011】
図1は、本発明のステント1の一例を示す概略図、図2は図1の一部拡大断面図で、ステント1がステント基材11も含めて、ステント基材11、プライマー層P、薬剤保持層M、被覆層12の4層構造よりが形成されている例である。
ステントの基材11を構成する材質は、それ自身公知のものでよく、特に限定するものではないが、例えばSUS316L等のステンレス鋼、Ti−Ni合金、Cu−Al−Mn合金等の形状記憶合金、チタン、チタン合金、タンタル、タンタル合金、プラチナ、プラチナ合金、タングステン、タングステン合金等からなる金属パイプや平板をレーザー加工することにより表面に所定のパターンを形成した略管状体、又はこれら金属のワイヤーにより形成した編目状の略管状体等が使用される。なお、略管状体の形状については、目的の物性が得られるものであれば、特に限定されるものではない。
【0012】
また本発明で使用される薬剤保持層Mは、少なくともNF−κBデコイを含み、当該NF−κBデコイを生体内で徐放しうる少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料又は生体吸収性材料より形成される。
本発明では、前記吸水性高分子材料として、例えば公知のデンプン・ポリアクリロニトリル加水分解物、デンプン・ポリアクリル酸塩架橋物、架橋カルボキシメチルセルロース、酢酸ビニル・アクリル酸メチル共重合体ケン化物、ポリアクリル酸ナトリウム架橋物、架橋ポリビニルアルコール、ポリアクリクアミド系の材料であって、これらの中で自重の100%以上の吸水性を有する材料を使用することができるが、本発明で使用する好適な吸水性高分子材料としては、有機溶媒に可溶でステントに被覆できること、少なくともステントの拡張に応じて剥離等することなく、追従できるコンプライアンスのある吸水性高分子材料好ましく、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖等のポリエーテル鎖を構造中に有するポリウレタン系エラストマー及びこれらを基にしたゲルないしゲル状の吸水性高分子材料が好ましい。
生体吸収性高分子としては、ポリ乳酸、ポリ乳酸系共重合体、ポリグリコール酸、ポリグリコール酸系共重合体等の高分子が挙げられる。
【0013】
なお本発明で使用可能な吸水性高分子材料は、前記に列挙したものに限定されるものではなく、水、血液、生理食塩水に溶解せず、かつNF−κBデコイを効率よく含有させるために、自重の100%以上(自重と同量以上)の水を含有することが可能で、有効量のNF−κBデコイを、生体内において前記被覆層12を通して表面より徐々に溶出(徐放)することが可能であり、前記特性を有するものであれば何でも使用することができる。
生体吸収性高分子についても同様で前記に列挙したものに限定されるものではない。
【0014】
また前記被覆層12の材料として、ステントとして薬剤保持層MからのNF−κBデコイの放出を妨げず、被覆層12の種類(材料)及び厚み等を制御することで一定期間以上の徐放性を維持しやすいという理由で、ポリエーテル系、ポリカーボネート系のポリウレタン、ポリエステル及びポリエーテルポリアミド等が好ましい。より具体的には、血管内に留置される血管内ステントは、カテーテルなどの一時的な処置または留置を行う医療用具とは異なり、半永久的に体内に留置(インプラント)するものであるため、耐加水分解性が高いポリカーボネート系のポリウレタンが、本発明の血管内ステントの被覆層12の材料として最も好ましい。
【0015】
後述するように、薬剤保持層Mを構成する吸水性高分子材料をステントの基材11に塗布して乾燥するが、本発明では、前記ステント基材11と、当該ステント基材11に被覆される吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高いプライマーで、あらかじめ前処理してステント基材11にプライマー層Pを形成しておくことが重要である。
すなわち、ステント基材11の構成材料(金属)と吸水性高分子材料との両方に対して親和性を有するプライマーにより、まず当該ステント基材11の表面を処理してプライマー層Pを形成し、その後に吸水性高分子材料で塗布し、薬剤保持層Mを形成した後、当該ステント基材11をNF−κBデコイの水溶液中に所定の時間浸漬後、乾燥することによりNF−κBデコイを薬剤保持層M中に導入し、さらに高分子材料よりなる被覆層12を形成するものである。
【0016】
本発明ではかかるプライマーとして、種々のものが使用可能であるが、もっとも好ましくは、加水分解性基と有機官能基を有するシランカップリング剤である。
シランカップリング剤の、当該加水分解基(例えばアルコキシ基)はシラノール基を生成して金属性のステント基材と共有結合等により結合され、一方当該有機官能基(例えエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、メタクリロキシ等)は、NF−κBデコイを含む吸水性高分子材料と化学結合により結合することにより、当該吸水性高分子材料とステント基材11は、シランカップリング剤を介して、これを使用しない場合に比較して、ずっと密接に固着されるのである。ここで特に好ましくは、有機官能基としてエポキシ基を有するエポキシ系のシランカップリング剤であるが、これと同様の性能を有するアミノ系、メルカプト系のシランカップリング剤も好適に使用することができる。
その他、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系のペーストレジン適宜使用できる。
【0017】
当該シランカップリング剤は、使用する吸水性高分子材料の樹脂の種類により、これに対応する有機官能基を有する適当なものを選択すればよく、例えば以下のものが好適に使用可能である。すなわち、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が好適に使用される。
【0018】
また、プライマーとしては、上記シランカップリング剤の他に、これと同様な機能を有する、テトラブトキシチタネート、テトラステアリルチタネート、テトライソプロポキシチタネート、イソプロポキシチタニウムステアレート、チタニウムラクテートのごとき有機チタン系カップリング剤;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートのごときアルミニウム系カップリング剤:クロム系カップリング剤;有機リン酸系カップリング剤も適宜使用可能である。
【0019】
前記ステント基材11の構成材料(金属)と吸水性高分子材料との両方に対して親和性を有するシランカップリング剤等のプライマーは、通常、水、適当な有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し、これを処理溶液として、基材表面に塗布・乾燥することにより、前処理が行われる。有機溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール又は当該アルコールと水との混合溶媒や、ベンゼン、トルエン、キシレン等が好ましく用いられる。当該処理溶液中のプライマー濃度としては、比較的希薄溶液が用いられ、0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%である。
【0020】
本発明においては、ステント基材11に対し、吸水性高分子材料の被覆前に、このようなプライマー処理を実施(プライマー層Pの形成)することにより、吸水性高分子材料の被覆の安定性が飛躍的に高められ、得られたステントは、これを体内に留置し、例えば血管内に埋殖した際に、内膜が形成されるに充分な期間、例えば少なくとも1ヶ月間程度体内に留置した場合においても、水(生理食塩液、リン酸緩衝液)環境下では、剥がれなど全く伴うことなく安定的に被覆層(薬剤保持層M、被覆層12)を維持することができるという顕著な作用効果を奏することができる。この点、ステント基材を構成する金属に、直接的に吸水性高分子材料を塗布した場合には、条件によっては、水環境下において数日〜数週間で被覆層(薬剤保持層M)の剥がれが発生することがありうるため、上記ごとき長期間は、ステントを体内に留置することは到底困難であることと著しい対照をなしているといえる。
【0021】
本発明においては、以上のようにステント基材11にプライマー層Pを形成し、当該ステント基材11に少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料を被覆して、当該ステント基材11に薬剤保持層Mを形成した後、当該ステント基材11をNF−κBデコイの水溶液中に所定の時間浸漬後、乾燥することによりNF−κBデコイを薬剤保持層M中に導入することができる。さらに当該ステント基材11の薬剤保持層Mを高分子材料により被覆して被覆層12を形成することによりステント基材11も含めて4層構造のステント1とすることができる。
従って、当該薬剤保持層MにNF−κBデコイを、当該高分子材料に結合していない、すなわち物理的に混合・分散されている状態でNF−κBデコイを含むようなステント1とすることができる。このように、ステント基材11に形成される薬剤保持層M及び被覆層12の厚さは、含有させるべきNF−κBデコイの濃度、所望の溶出量や溶出量の経時変化等に応じて任意に採用できるものであるが、通常、0.1〜200μm、好ましくは0.1〜50μmである。
【0022】
ここで本発明において定義されるNF−κBのデコイ(NF−κBデコイ)とは、染色体上に存在するNF−κBの核酸結合部位と特異的に拮抗する化合物であれば何でもよく、例えば核酸およびその類似体が含まれる。ヒト由来、動物由来、合成にかかわらず現在入手できるものであれば何でも使用することができる。
好ましいNF−κBデコイの例としては、核酸配列GGGATTTCCC(配列表の配列番号1の5’末端から8から17番目の配列)またはその相補体を含むオリゴヌクレオチド、またはその変異体、またはこれらを分子内に含む化合物があげられる。オリゴヌクレオチドはDNAでもRNAでもよく、またそのオリゴヌクレオチド内に核酸修飾体および/または擬核酸を含むものであってもよい。
【0023】
また、これらのオリゴヌクレオチド、またはその変異体、またはこれらを分子内に含む化合物は1本鎖でも2本鎖であってもよく、線状であっても環状であってもよい。変異体とは上記配列の一部が、変異、置換、挿入、欠失しているもので、NF−κBが結合する核酸結合部位と特異的に拮抗する核酸を示す。さらに好ましいNF−κBのデコイしては、上記核酸配列を1つまたは数個含む2本鎖オリゴヌクレオチドまたはその変異体があげられる。本発明で用いられるオリゴヌクレオチドは、リン酸ジエステル結合部の酸素原子をイオウ原子で置換したチオリン酸ジエステル結合をもつオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、または、リン酸ジエステル結合を電荷をもたないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチド等の生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチド等が含まれる。
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明のステントの実施の形態を説明する。
図1は、すでに説明したように、本発明のステントの一例を示す概略図であるが、ステント1は、例えば図2の断面図に示すようにステンレス鋼製のステント基材11から構成され、その外周面にはプライマー層P、薬剤保持層M、被覆層12が順次被覆されている。このステント1の場合、ステント基材11を構成する金属と薬剤保持層Mを構成する吸水性高分子材料との両方に対して親和性を有するプライマーにより、まず当該ステント基材11の表面を処理しプライマー層Pを形成後、その後に吸水性高分子材料で塗布して薬剤保持層Mを形成して、NF−κBデコイを当該薬剤保持層4に導入後、当該薬剤保持層4を高分子材料で被覆することにより被覆層12を形成し、ステント基材11を含めて4層構造としたステント1の一例である。
【0025】
かかる被覆層12、薬剤保持層Mの形成方法は、すでに述べたとおり、被覆用溶液をスプレーによる塗布やディッピング等の既知の方法による塗布により被覆層(被覆層12、薬剤保持層M)の形成が可能である。ここで、スプレーやディッピングの回数は一回でも良いが、被覆層12、薬剤保持層Mを形成する高分子材料の濃度等によって被覆層(被覆層12、薬剤保持層M)の厚さを調整するためは、複数回に分けて塗布する方法が通常用いられる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明がこれらの実施例により限定的に解釈されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕
(1)エポキシ系シランカップリング剤(KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン):信越化学工業社製)1.0gをMeOH/水(50/50)100mlに溶解し、1質量%溶液を調整した。
(2)吸水性高分子であるTecophilic HP-93A-100(ポリエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲1▼とする)及びCarbothane PC-3585A(ポリカーボーネートタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲2▼とする)2.0gを、テトラヒドロフラン(THF)100mlに溶解し、その2質量%溶液(溶液▲1▼、▲2▼)を調整した。
【0028】
(3)まず(1)の溶液を、図1に示すパターンを形成した管状のステント1(ステント基材11)に塗布し、メタノール/水を揮発させシランカップリング剤による前処理を行い、プライマー層Pを形成した。次に溶液▲1▼を塗布乾燥して、薬剤保持層Mを被覆した後、当該ステント1を10%NF−κBデコイ[核酸配列GGGATTTCCC(配列表の配列番号1の5‘末端から8から17番目の配列)]水溶液に1時間浸漬した後、真空乾燥を行いNF−κBデコイを導入した。その後、溶液▲2▼を塗布し被覆層12を形成しステントのサンプルとした。なお、膜厚は約20μm、NF−κBデコイの導入量は約200μgであった。
【0029】
(4)このステントのサンプルを拡張後、リン酸緩衝液700μLが入った試験管に入れ、37℃にて60回/分の速度にて、振盪させながら経時的にサンプリングし、高速液体クロマトグラフィ(UV検出器,OD260nm)のでNF−κBデコイの徐放を測定した。測定結果を図3に示す。
【0030】
この結果、当該塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)は、リン酸緩衝液環境下で4週間にわたりNF−κBデコイの徐放を確認できた。
【0031】
以上、実施例の結果から、本発明のステントにおいては、塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)は、NF−κBデコイを含有せしめた吸水性高分子材料を被覆したステント1からのNF−κBデコイのリリース挙動については、約4週間にわたっても、当該薬剤保持層M及び被覆層12は、ステント基材11から剥がれることがなく、当該生理活性薬剤の放出が可能であることが確認された。
【0032】
実施例において提示した、プライマー剤、薬剤保持層及び被覆層並びにステント1に用いた特定の材料及びステントのデサイン等は、一例として提示したものであり、特にこれに限定されるものではない。
【0033】
【発明の作用効果】
本発明によれば、吸水性高分子からなる薬剤保持層Mを形成し、これにNF−κBデコイを含有、保持させ、最表面を生体内で安定性の高い高分子材料で被覆層12を形成することにより、長期にわたり安定したNF−κBデコイの徐放性と体内での安定性をもつステントを提供することができる。
また本発明のステントによれば、NF−κBデコイの徐放量および速度は、薬剤の含有量、薬剤保持層M及び被覆層12の厚さを適宜変更することでコントロールすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のステントの概略図
【図2】図1のステントの一部拡大断面図
【図3】NF−κBデコイ溶出量測定結果
【符号の説明】
1 ステント
11 基材(ステント基材)
12 被覆層
M 薬剤保持層
P プライマー層
Claims (2)
- ステント基材(11)の表面に、プライマー層(P)/薬剤保持層(M)/被覆層(12)の順に被覆し、
前記ステント基材(11)は、金属製の略管状体であり、
前記プライマー層(P)は、ステント基材(11)と薬剤保持層(M)を構成する吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高い:
加水分解性基と有機官能基を有するシランカップリング剤、または当該シランカップリング剤と同様の機能を有するカップリング剤であり、
前記薬剤保持層(M)は、生理活性薬剤として、NF−κBのデコイを含み当該生理活性薬剤を生体内で徐放し、少なくとも自重の100%以上の水を吸収し、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖等のポリエーテル鎖を構造中に有するポリウレタン系エラストマーからなる吸水性高分子材料であり、
前記被覆層(12)は、前記NF−κBのデコイを含有せず、前記薬剤保持層(M)に被覆可能で、耐加水分解性の高いポリカーボネート系ポリウレタンからなる高分子材料である、ことを特徴とする薬剤放出ステント(1)。 - 前記シランカップリング剤は、エポキシ系、アミノ系、メルカプト系の中から選ばれるいずれかのシランカップリング剤であり、
当該シランカップリング剤と同様の機能を有するカップリング剤は、有機チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、クロム系カップリング剤、有機リン酸系カップリング剤の中から選ばれるいずれかのカップリング剤である請求項1に記載の薬剤放出ステント(1)。
Priority Applications (1)
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